JP2004051814A - 熱可塑性エラストマー組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる熱可塑性エラストマー組成物の提供。
【解決手段】無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)と、側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマー(ii)と、金属元素を含む化合物(iii)とを含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【選択図】なし
【解決手段】無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)と、側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマー(ii)と、金属元素を含む化合物(iii)とを含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、温度変化により架橋形成および架橋解離を繰り返し再現しうる特性(以下、単に「リサイクル性」という場合がある)を有する熱可塑性エラストマー組成物に関する。特に、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境保護や省資源等の立場から、使用済み材料の再利用が望まれている。加硫ゴムは、高分子物質と加硫剤とが共有結合した安定な三次元網目構造を有し、非常に高い強度を示すが、強い共有結合による架橋のため再成形が難しい。一方、熱可塑性エラストマーは、物理的架橋を利用するものであり、予備成形等を含む煩雑な加硫・成形工程を必要とせずに、加熱溶融により容易に成形加工することができる。
このような熱可塑性エラストマーの典型例としては、樹脂成分とゴム成分とを含み、常温では微結晶樹脂成分が三次元網目構造の架橋点の役割を果たすハードセグメントとなり、ゴム成分(ソフトセグメント)の塑性変形を阻止し、昇温により樹脂成分の軟化または融解により塑性変形する熱可塑性エラストマーが知られている。しかし、このような熱可塑性エラストマーでは、樹脂成分を含んでいるためゴム弾性が低下しやすい。そのため、樹脂成分を含まずに熱可塑性を付与できる材料が求められている。
【0003】
かかる課題に対し、特開平8−239583号公報には、側鎖にカルボニル基含有基と含窒素複素環含有基とを含み、含窒素複素環含有基がその環構成窒素に対して2位で直接に、または有機基を介して主鎖と結合している有機重合体および特定の金属元素を含む化合物を含有する金属含有有機重合材料が記載されている。この金属含有有機重合材料は、変性を受けていないオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂の成形温度で十分に溶融流動性を示すことができ、低温では架橋形成により優れた破断強度等の機械的強度を有し、温度変化により架橋形成および架橋解離(軟化)を繰り返し再現できる。
このような特性を有する金属含有有機重合材料は、その産業上の利用価値、および環境保護上の価値が高く、架橋形成および架橋解離を繰り返しても物性変化のない、リサイクル性に優れた材料として期待されている。
【0004】
しかし、この金属含有有機重合材料は、物質特性において、加重した際の形状保持率、所定時間加重後に除重した際の圧縮永久歪が十分ではない場合がある。また、この金属含有有機重合材料は、主鎖に熱可塑性エラストマーを用いた場合、硬度が非常に低く、ゴム材としての使用等、弾性部材として使用するにはその特性に不十分な点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記問題を解決する技術として、本発明者らは、側鎖にカルボニル含有基と含窒素n員環含有基(n≧3)とを有し、前記含窒素n員環含有基がその3位〜n位で直接に、または有機基を介して主鎖と結合する熱可塑性エラストマーと、周期律表の第2A族、第3A族、第4A族、第5A族、第6A族、第7A族、第8族、第1B族、第2B族、第3B族、第4B族および第5B族から選択される少なくとも1つの金属の化合物とを含むことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物が、優れたリサイクル性を損なうことなく、弾性部材として使用するのに十分な硬度を有し、形状保持率が改善された、温度変化により硬化および流動化を繰り返し再現しうる熱可塑性エラストマー組成物を提案した(特願2001−122598号明細書)。
【0006】
しかし、この熱可塑性エラストマー組成物は、用いる金属(金属元素を含む化合物)によっては、該金属を混合して混練する時の操作性(加工性)に劣る場合がある。
さらに、近年の技術革新、材料等の最適化、製造工程の簡素化、短縮化等により、熱可塑性エラストマー組成物に要求される物性、特徴等が高度化する現状においては、熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪等の物性を保持したまま、加工性およびリサイクル性等のさらなる改善が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマーと、特定の金属元素を含む化合物とを含有する組成物に、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマーを混合させることにより、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れることを知見し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、上記知見を基になされたものであり、以下の(I)〜(VI)を提供する。
【0010】
(I)無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)と、
側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマー(ii)と、
金属元素を含む化合物(iii)と、を含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
(II)前記側鎖が、下記式(1)で表される構造を有する、(I)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【化3】
(式中、Aは含窒素複素環であり、Bは単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子;あるいはこれらを含んでもよい有機基である。)
【0012】
(III)前記側鎖が、α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(2)または(3)で表される側鎖を有する、(I)または(II)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【化4】
(式中、Aは含窒素複素環であり、BおよびDは単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子;あるいはこれらを含んでもよい有機基である。)
【0013】
(IV)前記金属元素を含む化合物(iii)の金属元素が、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlよりなる群から選択される1種以上の金属元素である、(I)〜(III)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
(V)前記含窒素複素環が、トリアゾール環、チアジアゾール環またはピリジン環である、(I)〜(IV)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
(VI)前記熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、カーボンおよび/またはシリカを1〜200質量部含有する、(I)〜(V)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物(以下、単に「本発明の組成物」という場合がある。)は、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を含有することを特徴とする。すなわち、本発明の組成物は、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)と、側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマー(ii)と、金属元素を含む化合物(iii)とを含有する熱可塑性エラストマー組成物である。
【0017】
熱可塑性エラストマー組成物中に金属元素を含む化合物(iii)を含有させることにより、該金属元素を含む化合物の金属元素と熱可塑性エラストマー(ii)に含有されるカルボニル基または含窒素複素環とのイオン結合および配位結合等が形成され架橋密度が向上する。また、カルボニル基と含窒素複素環との間の相互作用(水素結合)が、該イオン結合および配位結合により強められる。そのため、形状保持率(圧縮永久歪)および硬度等が改善されると考えられる。
ここで、上記金属元素を含む化合物の金属元素によっては、該金属元素とカルボニル基または含窒素複素環とにより形成される架橋が強固(永久架橋的)に結合する場合があり、また該架橋の密度が高くなりすぎる場合があり、組成物の加工性が劣ることもある。
【0018】
しかし、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を該組成物に含有させると、該組成物の加工性およびリサイクル性が特に改善される。
この改善効果の理由は現在のところ明らかではないが、その補足的な理由の1つとして、例えば、組成物中で形成される架橋を、エラストマー(i)および(ii)の分子間に分散させることができ、また、形成される架橋の密度を調整できること等が考えられる。
【0019】
本発明で用いる無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)は、天然高分子または合成高分子のエラストマー性ポリマーを無水マレイン酸で変性して得られる。
その側鎖には、無水マレイン酸残基および含窒素複素環以外の官能基を有していてもよいが、無水マレイン酸残基のみを有しているのが好ましい。
無水マレイン酸残基は該エラストマー性ポリマーの側鎖または末端に導入(変性)され、その主鎖に導入されることはない。また、無水マレイン酸残基は、環状酸無水物基であり、環状酸無水物基(部分)が開環することもない。
つまり、本発明の無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)は、例えば、後記する式(4)(式中、Eはエチレン残基またはプロピレン残基を表す。)のように、無水マレイン酸のエチレン性不飽和結合部分がエラストマー性ポリマーと反応して得られる、側鎖に環状酸無水物基を有し含窒素複素環を有しない熱可塑性エラストマーである。
【0020】
無水マレイン酸変性量は、形状保持率および圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる点で、エラストマー性ポリマーの主鎖部分100mol%に対して、好ましくは0.1〜50mol%であり、より好ましくは0.3〜30mol%であり、特に好ましくは0.5〜10mol%である。
【0021】
該エラストマー(i)の主鎖となるエラストマー性ポリマーは、特に限定されず、一般的に公知の天然高分子または合成高分子であればよいが、そのガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマー、つまりエラストマーであるのが好ましい。このようなエラストマー性ポリマーとして、具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等のジエン系ゴム;エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンゴム、ポリプロピレンゴム等のオレフィン系ゴム;エピクロロヒドリンゴム;多硫化ゴム;シリコーンゴム;ウレタンゴム等が挙げられる。
【0022】
また主鎖となるエラストマー性ポリマーは、樹脂成分を含むエラストマー性ポリマー(熱可塑性エラストマー)であってもよく、例えば、水添されていてもよいポリスチレン系エラストマー性ポリマー(SBS、SIS、SEBS)、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー性ポリマー、ポリウレタン系エラストマー性ポリマー、ポリエステル系エラストマー性ポリマー、ポリアミド系エラストマー性ポリマー等が挙げられる。
【0023】
上記エラストマー性ポリマーは、液状または固体状であってもよい。その分子量は特に限定されず、組成物の使用目的、組成物に要求される架橋密度等の物性に応じて適宜選択することができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱(脱架橋)した時の流動性を重視する場合は、上記エラストマー性ポリマーは液状であるのが好ましく、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムでは、重量平均分子量が1,000〜100,000であるのが好ましく、1,000〜50,000程度が特に好ましい。一方、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の強度を重視する場合は、上記エラストマー性ポリマーは固体ゴムであるのが好ましく、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムでは、重量平均分子量が100,000〜2,000,000であることが好ましく、500,000〜1,500,000が特に好ましい。
【0024】
本発明においては、上記エラストマー性ポリマーを2種以上混合して用いることができる。この場合の混合比は、組成物が用いられる用途、組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
【0025】
エラストマー性ポリマーは、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴム;エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)等のオレフィン系ゴムであるのが特に好ましい。これらのポリマーはガラス転移温度が25℃以下であるため加工性および取扱い性に優れる。またジエン系ゴムを用いると後述する無水マレイン酸での変性が容易であり、オレフィン系ゴムを用いると組成物が架橋した時の引張強度により優れる。
【0026】
本発明において、上記スチレン−ブタジエンゴム(SBR)の結合スチレン量、水添エラストマー性ポリマー等の水添率等は、特に限定されず、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率に調整できる。
熱可塑性エラストマーの主鎖にEPM、EPDM、EBMを用いる場合は、そのエチレン含量は、好ましくは15〜85mol%であり、より好ましくは、50〜70mol%である。この範囲であれば、組成物としたときの機械的強度、圧縮永久歪および加工性に優れる。
【0027】
また、上記無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の主鎖および後述する熱可塑性エラストマー(ii)の主鎖にエチレン−プロピレンゴムを用いる場合は、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の主鎖のエチレン含量は、後述する熱可塑性エラストマー(ii)の主鎖のエチレン含量より多いのが好ましい。結晶性(ハードセグメント含有率)が高い無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を混合することにより、組成物としたときの機械的強度に優れる。
【0028】
無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)は、通常選択される条件で、エラストマー性ポリマーを無水マレイン酸で変性して得られるし、市販品を使用してもよい。
市販品としては、例えば、LIR−403(クラレ社製)、LIR−410A(クラレ社試作品)等の無水マレイン酸変性イソプレンゴム、タフマーM(MA8510、三井化学社製)等の無水マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム、タフマーM(MH7020、三井化学社製)等の無水マレイン酸変性エチレン−ブテンゴム、アドマー(LF128等、三井化学社製)の無水マレイン酸変性ポリエチレン、アドマー(QB550等、三井化学社製)の無水マレイン酸変性ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0029】
本発明の組成物は、上記無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を1種以上含有する。2種以上含有する場合の混合比は、該組成物が用いられる用途、該組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
上記無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の含量は、後述する熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部であり、より好ましくは3〜40質量部であり、特に好ましくは5〜30質量部である。
この範囲であれば、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の添加により、組成物の加工性およびリサイクル性が改善される。
【0030】
本発明の組成物は、熱可塑性エラストマー(ii)を含有する。
熱可塑性エラストマー(ii)は、天然高分子または合成高分子のエラストマー性ポリマーの側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する。
ここで本発明において、「側鎖」とはエラストマー性ポリマーの側鎖および末端をいう。また「側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する」とは、エラストマー性ポリマーの主鎖を形成する原子(通常炭素)に、カルボニル含有基と含窒素複素環が化学的に安定な結合(共有結合)をしていることを意味する。
【0031】
該熱可塑性エラストマー(ii)の主鎖となるエラストマー性ポリマーは、特に限定されず、一般的に公知の天然高分子または合成高分子であり、そのガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマー、つまりエラストマーであるのが好ましい。具体的には、上記無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)で説明したものと基本的に同様である。
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマー(ii)は、エラストマー性ポリマーの側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する。
カルボニル含有基としては、カルボニル基を含むものであれば特に限定されず、例えば、アミド、エステル、イミド、カルボキシ基、カルボニル基等が挙げられる。このような基を導入しうる化合物としては特に限定されず、例えば、カルボン酸およびその誘導体等が挙げられる。
カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の炭化水素基を有する有機酸が挙げられ、該炭化水素基は、脂肪族、脂環族、芳香族等のいずれであってもよい。またカルボン酸誘導体としては、例えば、カルボン酸無水物、アミノ酸、チオカルボン酸(メルカプト基含有カルボン酸)、エステル、ケトン、アミド類、イミド類、ジカルボン酸およびそのモノエステル等が挙げられる。
【0033】
カルボン酸およびその誘導体等としては、具体的に、例えば、マロン酸、マレイン酸、スクシン酸、グルタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、p−フェニレンジ酢酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−アミノ安息香酸、メルカプト酢酸等のカルボン酸および置換基含有カルボン酸;無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物;マレイン酸エステル、マロン酸エステル、スクシン酸エステル、グルタル酸エステル、酢酸エチル等の脂肪族エステル;フタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テレフタル酸エステル、エチル−m−アミノベンゾエート、メチル−p−ヒドロキシベンゾエート等の芳香族エステル;キノン、アントラキノン、ナフトキノン等のケトン;グリシン、チロシン、ビシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、スレオニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、メチオニン、プロリン、N−(p−アミノベンゾイル)−β−アラニン等のアミノ酸;マレインアミド、マレインアミド酸(マレインモノアミド)、コハク酸モノアミド、5−ヒドロキシバレルアミド、N−アセチルエタノールアミン、N,N’−ヘキサメチレンビス(アセトアミド)、マロンアミド、シクロセリン、4−アセトアミドフェノール、p−アセトアミド安息香酸等のアミド類;マレインイミド、スクシンイミド等のイミド類が挙げられる。
これらの中でも、カルボニル基を導入しうる化合物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物が好ましく、特に無水マレイン酸が好ましい。
【0034】
熱可塑性エラストマー(ii)の側鎖に有する含窒素複素環は、直接または有機基を介して主鎖に導入される。
該含窒素複素環は、複素環内に窒素原子を含むものであれば複素環内に窒素原子以外のヘテロ原子、例えば、イオウ原子、酸素原子、リン原子等を有するものでも用いることができる。ここで複素環化合物を用いるのは複素環構造を有すると後述する架橋を形成する水素結合が強くなり組成物の引張強度が向上するためである。
また該複素環は置換基を有していてもよく、例えば、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、ヘキシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる基;シアノ基;アミノ基;芳香族炭化水素基;エステル基;エーテル基;アシル基;チオエーテル基等が挙げられ、これらを組合せて用いることもできる。
これらの置換基の置換位置は特に限定されず、また置換基数も限定されない。また、該複素環は、芳香族性を有していても、有していなくてもよいが、芳香族性を有していると架橋時の引張強度がより高まり組成物の強度がより向上するので好ましい。
【0035】
このような含窒素複素環としては、例えば、ピロロリン、ピロリドン、オキシインドール(2−オキシインドール)、インドキシル(3−オキシインドール)、ジオキシインドール、イサチン、インドリル、フタルイミジン、β−イソインジゴ、モノポルフィリン、ジポルフィリン、トリポルフィリン、アザポルフィリン、フタロシアニン、ヘモグロビン、ウロポルフィリン、クロロフィル、フィロエリトリン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、イミダゾロン、イミダゾリドン、ヒダントイン、ピラゾリン、ピラゾロン、ピラゾリドン、インダゾール、ピリドインドール、プリン、シンノリン、ピロール、ピロリン、インドール、インドリン、オキシルインドール、カルバゾール、フェノチアジン、インドレニン、イソインドール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、フェナントロリン、オキサジン、ベンゾオキサジン、フタラジン、プテリジン、ピラジン、フェナジン、テトラジン、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、アントラニル、ベンゾチアゾール、ベンゾフラザン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、アントラゾリン、ナフチリジン、チアジン、ピリダジン、ピリミジン、キナゾリン、キノキサリン、トリアジン、ヒスチジン、トリアゾリジン、メラミン、アデニン、グアニン、チミン、シトシン等が挙げられる。このような含窒素複素環のうち、特に含窒素5員環については、下記の化合物が好ましく例示される。これらは上記した種々の置換基を有していてもよいし、水素付加または脱離されたものであってもよい。
【0036】
【化5】
【0037】
また、含窒素6員環については、下記の化合物が好ましく例示される。これらについても上記した種々の置換基を有していてもよいし、水素付加または脱離されたものであってもよい。
【0038】
【化6】
【0039】
また、上記含窒素複素環とベンゼン環または含窒素複素環同士が縮合したものも用いることができ、例えば下記の縮合環が好ましく例示される。
【0040】
【化7】
【0041】
上記した含窒素複素環の中でも、トリアゾール環、ピリジン環またはチアジアゾール環であるのが、熱可塑性エラストマー組成物としたときの機械的強度および圧縮永久歪に優れ、特に加工性に優れるため好ましい。
【0042】
熱可塑性エラストマー(ii)は、上記含窒素複素環が直接または有機基を介して主鎖に導入されるが、好ましくは有機基を介して主鎖に導入される。
熱可塑性エラストマー(ii)は、カルボニル基および含窒素複素環が、互いに独立の側鎖として主鎖に導入されていてもよく、またカルボニル基と含窒素複素環とが互いに異なる基を介して1つの側鎖に結合し主鎖に導入されていてもよい。
カルボニル基および含窒素複素環が、下記式(1)で表される1つの側鎖として上記ポリマー主鎖に導入されるのが好ましい。
【0043】
【化8】
(式中、Aは含窒素複素環であり、Bは単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子;あるいはこれらを含んでもよい有機基である。)
【0044】
ここで、含窒素複素環Aは、具体的には上記した含窒素複素環である。
置換基Bは、単結合;酸素原子、窒素原子もしくはイオウ原子;あるいはこれらの原子を含んでもよい有機基であり、具体的には、例えば、単結合;酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR’(R’は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基);これらの原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレン基またはアラルキレン基;これらの原子を末端に有する、炭素数1〜20のアルキレンエーテル基(アルキレンオキシ基、例えば、−O−CH2 CH2 −基)、アルキレンアミノ基(例えば、−NH−CH2 CH2 −基等)またはアルキレンチオエーテル基(アルキレンチオ基、例えば、−S−CH2 CH2 −基);これらの原子を末端に有する、炭素数1〜20のアラルキレンエーテル基(アラルキレンオキシ基)、アラルキレンアミノ基またはアラルキレンチオエーテル基;等が挙げられる。
【0045】
ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、異性体を含む、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。
上記置換基Bの酸素原子、イオウ原子およびアミノ基、ならびに、酸素原子、窒素原子またはイオウ原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレンエーテルまたはアラルキレンエーテル基等の酸素原子、窒素原子およびイオウ原子は、隣接するカルボニル基と組み合わされ各々エステル基、アミド基、イミド基、チオエステル基等を形成するのが好ましい。
置換基Bは、上記した中でも酸素原子、イオウ原子またはアミノ基;これらを末端に有する、炭素数1〜20のアルキレンエーテル基、アルキレンアミノ基またはアルキレンチオエーテル基が好ましく、アミノ基(NH)、アルキレンアミノ基(−NH−CH2 −基、−NH−CH2 CH2 −基、−NH−CH2 CH2 CH2 −基)、アルキレンエーテル基(−O−CH2 −基、−O−CH2 CH2 −基、−O−CH2 CH2 CH2 −基)が特に好ましい。
【0046】
カルボニル基と含窒素複素環は、下記式(2)または(3)で表される1つの側鎖として、そのα位またはβ位で上記ポリマー主鎖に導入されるのがより好ましい。
【0047】
【化9】
(式中、Aは含窒素複素環であり、BおよびDは単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子;あるいはこれらを含んでもよい有機基である。)
【0048】
ここで、含窒素複素環Aは上記式(1)の含窒素複素環Aと基本的に同様であり、置換基BおよびDは上記式(1)の置換基Bと基本的に同様である。
ただし、式(3)における置換基Dは、上記式(1)の置換基Bで例示した中でも、単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレン基またはアラルキレン基であるのが好ましく、単結合が特に好ましい。すなわち、上記式(3)のイミド窒素と共に、酸素原子、窒素原子またはイオウ原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレンアミノ基またはアラルキレンアミノ基を形成するのが好ましく、上記式(3)のイミド窒素に含窒素複素環が直接結合する(単結合)のが特に好ましい。具体的には、置換基Dは、単結合;上記した酸素原子、イオウ原子またはアミノ基を末端に有する炭素数1〜20のアルキレンエーテルまたはアラルキレンエーテル基等;異性体を含む、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、フェニレン基、キシリレン基等が挙げられる。
炭素数1〜10のアルキル基は、上記式(1)で例示したものと基本的に同様である。
【0049】
熱可塑性エラストマーに含有される上記カルボニル含有基と上記含窒素複素環との割合は特に限定されないが、2:1(上記式(3)のイミド構造等の場合は1:1)であると相補的な相互作用を形成しやすくなり、また、容易に製造できるため好ましい。
【0050】
カルボニル含有基と含窒素複素環とを有する側鎖は、主鎖部分100mol%に対して、0.1〜50mol%の割合で導入(導入率)されていることが好ましく、1〜30mol%の割合で導入されていることがより好ましい。
0.1mol%未満では架橋時の強度が十分でない場合があり、50mol%を超えると架橋密度が高くなりゴム弾性が失われる場合がある。すなわち、上記した範囲内であれば、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)および熱可塑性エラストマー(ii)の側鎖同士の相互作用が、分子間または分子内で起こり、これらがバランスがよく形成されるため、組成物としたときに、架橋時の引張強度が非常に高く、かつリサイクル性に優れる。
【0051】
上記導入率は、カルボニル含有基と含窒素複素環が独立に導入されている場合には、上記カルボニル基含有基と上記含窒素複素環との割合に従って、両基を一組として考えればよく、何れかの基が過剰の場合は、多い方の基を基準として考えればよい。
この導入率は、例えば主鎖部分がエチレン−プロピレンゴムである場合には、エチレンおよびプロピレンモノマー単位100ユニット当り、側鎖部分の導入されたモノマーが、0.1〜50ユニット程度である。
【0052】
熱可塑性エラストマー(ii)は、そのガラス転移点が25℃以下であるのが好ましく、該エラストマー(ii)が2以上のガラス転移点を有する場合または2種以上のエラストマーを併用する場合はガラス転移点の少なくとも1つは25℃以下であるのが好ましい。ガラス転移点が25℃以下であれば、組成物を調整する時の混練がしやすくなり加工性に優れる。また組成物(組成物中の架橋)を熱解離させた時の取扱い性にも優れる。
熱可塑性エラストマー(ii)は、1種単独で、または2種以上を併用して用いることができる。この場合の混合比は、組成物が用いられる用途、組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
【0053】
熱可塑性エラストマー(ii)の製造方法は特に限定されず、通常の方法を選択することができる。
熱可塑性エラストマー(ii)のうちでも、カルボニル基含有基と含窒素複素環とを同一側鎖に有するものは、例えば、エラストマー性ポリマーのカルボニル含有基変性ポリマーを、含窒素複素環を導入しうる化合物と反応させることにより得られる。
具体的には、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムと、無水マレイン酸あるいはメルカプト酢酸を含むトルエン溶液とを、あるいは、EPM等のオレフィン系ゴム、例えば、プロピレン等のα−オレフィンと、メルカプト酢酸を含むトルエン溶液とを、室温または加熱下で窒素雰囲気下反応させ、カルボニル含有基で変性されたエラストマーを得、このエラストマーと含窒素複素環を導入しうる化合物とを反応させることにより得られる。
【0054】
ここで、含窒素複素環を導入しうる化合物とは、含窒素複素環そのものであってもよく、無水マレイン酸等のカルボニル含有基と反応する置換基(例えば、水酸基、チオール基、アミノ基等)を有する含窒素複素環であってもよい。また、含窒素複素環を導入しうる化合物は、カルボニル含有基変性エラストマーのカルボニル含有基の一部または全量と反応させればよい。一部とは、カルボニル含有基100mol%に対して好ましくは50mol%以上であり、より好ましくは、80mol%以上である。この範囲であれば、含窒素複素環を導入した効果が発現し、架橋時の引張強度がより高まる。引張強度、圧縮永久歪、加工性に優れる点で、カルボニル含有基の全量(100mol%)を該化合物と反応させるのが特に好ましい。
【0055】
上記カルボニル含有基で変性されたエラストマーは、市販品を使用することもでき、例えば、LIR−403(クラレ社製)、LIR−410A(クラレ社試作品)等の無水マレイン酸変性イソプレンゴム、LIR−410(クラレ社製)等の変性イソプレンゴム、クライナック110、221、231(ポリサー社製)等のカルボキシル変性ニトリルゴム、CPIB(日石化学社製)、HRPIB(日石化学ラボ試作品)等のカルボキシ変性ポリブテン、ニュクレル (三井デュポンポリケミカル社製) 、ユカロン(三菱化学社製)、タフマーM(MA8510、三井化学社製)等の無水マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム、タフマーM(MH7020、三井化学社製)等の無水マレイン酸変性エチレン−ブテンゴム、アドマー(LF128等、三井化学社製)の無水マレイン酸変性ポリエチレン、アドマー(QB550等、三井化学社製)の無水マレイン酸変性ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0056】
また、カルボニル含有基と含窒素複素環とを導入しうる化合物同士を反応させた後、エラストマー性ポリマーの側鎖に導入してもよい。
【0057】
カルボニル含有基と含窒素複素環とを、それぞれ独立して側鎖に有する熱可塑性エラストマーを合成する場合には、該エラストマー性ポリマーの主鎖を形成しうるモノマーと、カルボニル含有基を含むモノマーとを共重合させて、上記熱可塑性エラストマーを直接製造してもよく、あらかじめ重合等により主鎖(エラストマー性ポリマー)を形成し、次いで、上記カルボニル含有基でグラフト変性してもよい。
上記の各製造方法においては、熱可塑性エラストマーの側鎖の各基は、独立に結合しているか、または互いに結合したものであるかは、NMR、IRスペクトル等の通常用いられる分析手段により確認することができる。
【0058】
熱可塑性エラストマー(ii)は、上記の製造方法でも、まずカルボニル含有基を導入したカルボニル含有基変性エラストマー性ポリマーを合成し、次に、含窒素複素環を導入しうる化合物と反応させて含窒素複素環を導入する方法が好ましく、特に環状酸無水物を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと、含窒素複素環を導入しうる化合物とを、含窒素複素環を導入しうる化合物が環状酸無水物基と化学結合(例えば共有結合、イオン結合)しうる温度にて反応させることにより、カルボニル含有基と含窒素複素環とをエラストマー性ポリマーの主鎖に導入(環状酸無水物基は開環する)させるのが好ましい。該エラストマーの製造に関して、具体的な点については、特開2000−169527号公報に記載されている。
【0059】
本発明の含窒素複素環を便宜上「含窒素n員環化合物(n≧3)」とし、含窒素複素環の結合位置について説明する。
以下説明する結合位置(「1〜n位」)は、IUPAC命名法に基づくものである。例えば、非共有電子対を有する窒素原子を3個有する化合物の場合、IUPAC命名法に基づく順位によって結合位置を決定する。具体的には、上記例示した5員環、6員環および縮合環の含窒素複素環に結合位置を記した。
熱可塑性エラストマー(ii)では、直接または有機基を介して主鎖と結合する含窒素n員環化合物の結合位置は、特に限定されず、いずれの結合位置(1位〜n位)でもよい。好ましくは、その1位または3位〜n位である。
含窒素複素環内に含まれる窒素原子が1個(例えば、ピリジン環等)の場合は、分子内でキレートが形成されやすく組成物としたときの引張強度等の物性に劣るため、2位は好ましくない。
【0060】
含窒素n員環化合物がその1位または3位〜n位で主鎖と結合していると、同一側鎖にカルボニル基と含窒素複素環を有していても、含窒素複素環の窒素原子とカルボニル基との距離が離れているため、分子内でのキレートが形成されにくく、分子間キレートおよびイオン結合の形成による架橋強度(組成物としたときの引張強度)の向上が期待でき、また、架橋密度が向上する。含窒素複素環が5員環である場合には、3または4位が好ましく、3位が特に好ましい。
含窒素複素環の結合位置を選択することにより熱可塑性エラストマー(ii)は、エラストマー(ii)同士の分子間で、または無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)との間で、水素結合、イオン結合、配位結合等による架橋が形成されやすく、組成物としたときの圧縮永久歪を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる。
【0061】
本発明の組成物は、金属元素を含む化合物(iii)を含有する。
上記したように熱可塑性エラストマー(ii)に金属元素を含む化合物を加えると、該金属元素を含む化合物の金属元素と熱可塑性エラストマー(ii)に含有されるカルボニル基または含窒素複素環とのイオン結合および配位結合等が形成され架橋密度が向上する。また、カルボニル基と含窒素複素環との間の相互作用(水素結合)が、該イオン結合および配位結合により強められる。そのため、形状保持率(圧縮永久歪)および硬度等が改善される。
【0062】
金属元素を含む化合物(iii)は、金属元素を少なくとも1つ含む化合物であれば特に限定されないが、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlよりなる群から選択される1種以上の金属元素を含む金属元素を含む化合物であるのが好ましい。
該金属元素を含む化合物として、具体的には、例えば、これらの1種以上の金属元素を含むギ酸塩、酢酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、(メタ)アクリル酸塩等の不飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、塩化物、酸化物、水酸化物、ジケトンとの錯体等が挙げられる。
ここで、「ジケトンとの錯体」とは、例えば、1,3−ジケトン(例えば、アセチルアセトン)等が金属原子に配位した錯体をいう。
【0063】
本発明の組成物に金属元素を含む化合物(iii)を含有することにより、その形状保持率および圧縮永久歪がより改善されるが、その効果が特に大きい点で、金属元素はTi、Al、Znが好ましく、金属元素を含む化合物としてこれらの酢酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、酸化物、水酸化物、ジケトンとの錯体が好ましく、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、ジケトンとの錯体が特に好ましい。
【0064】
炭素数1〜12のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、1−メチル−2−ブタノール、t−ブタノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、フェノール、ナフトールが挙げられる。
炭素数1〜20の飽和脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
ジケトンとの錯体に用いられるジケトンとしては、例えば、1,3−ジケトン、1,4−ジケトン、1,5−ジケトンが挙げられ、より具体的には、アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等の1,3−ジケトン;アセトニルアセトン、フェナシルアセトン等の1,4−ジケトン;2,6−ヘプタンジオン等の1,5−ジケトンが挙げられる。
【0065】
本発明の組成物は、上記金属元素を含む化合物(iii)を1種以上を含有する。2種以上含有する場合の混合比は、組成物が用いられる用途、組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
上記金属元素を含む化合物の含量は、上記熱可塑性エラストマー(ii)に含有する含窒素複素環に対して、0.05〜1.5当量であり、好ましくは0.1〜1.0当量、特に好ましくは0.2〜1.0当量である。この範囲であれば、組成物の圧縮永久歪、硬度等の物性に優れる。
なお、金属元素を含む化合物(iii)は、その金属のとりうるすべての水酸化物、金属アルコキシド、または、カルボン酸塩等を用いることができる。例えば、水酸化物を例にとると、金属が鉄の場合は、Fe(OH)2 、Fe(OH)3 をそれぞれ単独で用いても、また混合して用いてもよい。
【0066】
本発明で用いる金属元素を含む化合物(iii)は、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlよりなる群から選択される1種以上の金属元素を含有するのが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲でこれら以外の金属元素を含有してもよい。
該金属元素を含む化合物(iii)中のこれら以外の金属元素の含有率は、特に限定されないが、例えば、該化合物(iii)中の全金属元素に対して1〜50mol%であるのが好ましい。
【0067】
本発明の組成物は、補強剤としてカーボンおよび/またはシリカを含有するのが好ましい。
カーボンは、特に限定されず、例えば、カーボンブラックが挙げられ、その含量(カーボン単独で用いる場合)は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、1〜200質量部であり、好ましくは20〜100質量部であり、より好ましくは30〜80質量部である。
カーボンは、カーボンブラックが好ましく、該カーボンブラックは、用途に応じて適宜選択される。一般に、カーボンブラックは粒子径に基づいて、ハードカーボンとソフトカーボンとに分類される。ソフトカーボンはゴムに対する補強性が低く、ハードカーボンはゴムに対する補強性が強い。本発明では、特に、補強性の強いハードカーボンを用いるのが好ましい。
【0068】
シリカは、特に限定されず、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、けいそう土が挙げられ、その含量(シリカ単独で用いる場合)は熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、1〜200質量部であり、好ましくは20〜100質量部であり、より好ましくは30〜80質量部である。このなかでも、沈降シリカが好ましい。
補強剤としてシリカを用いる場合には、シランカップリング剤を併用できる。シランカップリング剤としては、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(Si69)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(Si75)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0069】
カーボンおよびシリカを併用する場合の含量(カーボンおよびシリカの合計量)は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、1〜200質量部であり、好ましくは20〜100質量部であり、より好ましくは30〜80質量部である。
【0070】
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、本発明のエラストマー性ポリマー以外のポリマー、カーボンおよびシリカ以外の補強剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤、フィラー等の各種添加剤等を含有することができる。
【0071】
上記添加剤等は、一般に用いられるものを使用することができ、以下に具体的に、その一部を例示するが、これら例示したものに限られない。
本発明のエラストマー(i)および(ii)以外のポリマーとしては、上記の理由と同様にガラス転移温度が25℃以下のポリマーが好ましく、特に本発明の主鎖として用いるもののうちの何れかであるのが好ましい。より好ましくは、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)であり、特にIIR、EPM、EBMの不飽和結合を有さないポリマーまたは不飽和結合の少ないポリマー(例えば、EPDM)を用いるのが好ましい。該他のポリマーは1種または2種以上を含有させてもよい。該ポリマーの含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜100質量部が好ましく、1〜50質量部がより好ましい。
【0072】
カーボンおよびシリカ以外の補強剤としては、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー等が挙げられ、これらの含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、20〜100質量部が好ましく、30〜80質量部がより好ましい。
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系等の化合物が挙げられ、含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0073】
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられ、含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられ、含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0074】
可塑剤としては、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバチン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クエン酸等の誘導体をはじめ、ポリエステル、ポリエーテル、エポキシ系等が挙げられる。
揺変性付与剤としては、ベントン、無水ケイ酸、ケイ酸誘導体、尿素誘導体等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系等が挙げられる。
難燃剤としては、TCP等のリン系、塩素化パラフィン、パークロルペンタシクロデカン等のハロゲン系、酸化アンチモン等のアンチモン系、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0075】
溶剤としては、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系;テトラクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系;酢酸エチル等のエステル系等が挙げられる。
界面活性剤(レベリング剤)としては、ポリブチルアクリレート、ポリジメチルシロキサン、変性シリコーン化合物、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
脱水剤としては、ビニルシラン等が挙げられる。
【0076】
防錆剤としては、ジンクホスフェート、タンニン酸誘導体、リン酸エステル、塩基性スルホン酸塩、各種防錆顔料等が挙げられる。
接着付与剤としては、公知のシランカップリング剤、アルコキシシリル基を有するシラン化合物、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。より具体的には、例えば、トリメトキシビニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
帯電防止剤としては、一般的に、第4級アンモニウム塩、あるいはポリグリコールやエチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
可塑剤の含量は、上記熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。その他の添加剤の含量は、0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0077】
本発明の熱可塑性エラストマーは自己架橋できるものもあるが、本発明の目的を損わない範囲で加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤等を併用することもできる。
加硫剤としては、イオウ系、有機過酸化物系、金属酸化物系、フェノール樹脂、キノンジオキシム等の加硫剤が挙げられる。
イオウ系加硫剤としては、例えば、粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等が挙げられる。
有機過酸化物系の加硫剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が挙げられる。
その他として、酸化マグネシウム、リサージ、p−キノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、ポリ−p−ジニトロソベンゼン、メチレンジアニリン等が挙げられる。
【0078】
加硫助剤としては、アセチル酸、プロピオン酸、ブタン酸、ステアリン酸、アクリル酸、マレイン酸等の脂肪酸;アセチル酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ブタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、マレイン酸亜鉛等の脂肪酸亜鉛等が挙げられる。
加硫促進剤とては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)等のチウラム系;ヘキサメチレンテトラミン等のアルデヒド・アンモニア系;ジフェニルグアニジン等のグアニジン系;ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)等のチアゾール系;シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系;等が挙げられる。さらにアルキルフェノール樹脂やそのハロゲン化物等を用いることもできる。
加硫遅延剤としては、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸等の有機酸;N−ニトロソージフェニルアミン、N−ニトロソーフェニル−β−ナフチルアミン、N−ニトロソ−トリメチル−ジヒドロキノリンの重合体等のニトロソ化合物;トリクロルメラニン等のハロゲン化物;2−メルカプトベンツイミダゾール;サントガードPVI等が挙げられる。
これら加硫剤等の含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0079】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上記熱可塑性エラストマー、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー、金属元素を含む化合物および必要に応じて各種添加剤等を、ロール、ニーダ―、押出し機、万能攪拌機等により混合すればよい。
【0080】
本発明の組成物を架橋剤によって永久架橋させる場合の硬化条件は、配合する各種成分等に応じて適宜選択することができ、特に制限されない。例えば、150〜200℃の温度で、5〜30分で硬化させる硬化条件が好ましい。
【0081】
本発明の組成物は、約120〜180℃に加熱することにより三次元の架橋結合(架橋構造)が解離し、流動性が付与される。分子間または分子内で形成されている側鎖同士の相互作用が弱まるためであると考えられる。
【0082】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えばゴム弾性を活用して種々のゴム用途に使用することができる。またホットメルト接着剤として、またはこれに含ませる添加剤として使用すると、耐熱性およびリサイクル性を向上させることができるので好ましい。特に自動車周り等に好適に用いることができる。
【0083】
上記自動車周りとしては、具体的には、例えば、タイヤのトレッド、カーカス;外装のラジエータグリル、サイドモール、ガーニッシュ(ピラー、 リア、カウルトップ)、エアロパーツ(エアダム、スポイラー)、ホイールカバー、ウェザーストリップ、カウベルトグリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、換気口部品、防触対策部品(オーバーフェンダー、サイドシールパネル、モール(ウインドー、フード、ドアベルト))、マーク類;ドア、ライト、ワイパーのウェザーストリップ、グラスラン、グラスランチャンネル等の内装窓枠用部品;エアダクトホース、ラジエターホース、ブレーキホース;クランクシャフトシール、バルブステムシール、ヘッドカバーガスケット、A/Tオイルクーラーホース、ミッションオイルシール、P/Sホース、P/Sオイルシール等の潤滑油系部品;燃料ホース、エミッションコントロールホース、インレットフィラーホース、タイヤフラム類等の燃料系部品;エンジンマウント、インタンクポンプマウント等の防振用部品;CVJブーツ、ラック&ピニオンブーツ等のブーツ類;A/Cホース、A/Cシール等のエアコンデショニング用部品;タイミングベルト、補機用ベルト等のベルト部品;ウィンドシールドシーラー、ビニルプラスチゾルシーラー、嫌気性シーラー、ボディシーラー、スポットウェルドシーラー等のシーラー類;等が挙げられる。
【0084】
またゴムの改質剤として、例えば流れ防止剤として、室温でコールドフローを起こす樹脂あるいはゴムに含ませると、押出し時の流れやコールドフローを防止することができる。
さらに本発明のエラストマー組成物は、カーボンおよび/またはシリカ等を含むことにより、引張強度、引裂き強度、曲げ強度が向上し、特にタイヤ、ホース、ベルト、シート、防振ゴム、ローラー、ライニング、ゴム引布、シール材、手袋、防舷材等の用途に特に好適に用いることができる。
【0085】
本発明の組成物は、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を混合することにより、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性が改善された組成物である。
【0086】
【実施例】
次に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
<エラストマー(i)>
無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i−1)は、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(三井化学社製、タフマーM MA8510)を用いた。
無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i−2)は、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(DMS(株)製、試作品、エチレン含有量60mol%、無水マレイン酸変性率0.8mol%、重量平均分子量90,000)を用いた。
無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の構造を式(4)に示す。
【0088】
<エラストマー(ii)>
熱可塑性エラストマー(ii)は以下の方法により合成した。
無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(DMS(株)製、試作品、エチレン含有量60mol%、無水マレイン酸変性率0.8mol%、重量平均分子量90,000)100g(無水マレイン酸骨格22.4mmol)に、4H−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(日本カーバイド(株)製)1.88g(22.4mmol)を加え、ニーダーにて170℃で30分間加熱攪拌した。
反応物はNMR、IRにより、下記構造の熱可塑性エラストマー(ii−1)(式(5))であることを確認した。
【0089】
4H−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(日本カーバイド(株)製)0.94g(11.2mmol)を用いて、同様に合成し、熱可塑性エラストマー(ii−2)を得た。
【0090】
【化10】
(式中、Eはエチレン残基またはプロピレン残基を表す。また、lはエチレン含有量を表し、nは無水マレイン酸変性率を表す。)
【0091】
ステアリン酸亜鉛(ZnSt2 )、チタニウムテトラ−n−ブトキシド(Ti(OBu)4 )およびアルミニウムトリイソプロポキシド(Al(OPr)3 )は、関東化学(株)製試薬を用いた。
カーボンブラックは、東海カーボン社製、ダイアブラックGを用いた。
【0092】
<実施例1〜3および比較例1〜9>
第1表に示す質量比(金属元素を含む化合物は熱可塑性エラストマー(ii)に含まれるトリアゾール環に対する当量比)で、混合し、エラストマー組成物とした。
得られた各組成物の加工性およびリサイクル性を評価し、圧縮永久歪の測定および引張試験を行った。その結果を第1表に示す。
なお、第1表中の圧縮永久歪および引張試験において、空欄は該当する条件における測定ができなかったことを表す。また、比較例9の組成物は、サンプルが作製できず圧縮永久歪および引張試験の測定ができなかった。
【0093】
<加工性評価>
エラストマー組成物の調製(混練)時の状態により評価した。
均一に混練できたものを「○」、エラストマーが凝集した塊が確認できたものを「△」、該塊が多く混練できなかったものを「×」とした。
【0094】
<圧縮永久歪み(C−Set)>
上記各エラストマー組成物について、170℃にて10分間熱プレスし2mm厚さのシートを作製後、シートを重ね合わせて170℃で20分間熱プレスし、リュプケサンプルを作製した。
このリュプケサンプルを、専用治具で25%圧縮し、70℃で22時間放置した後の圧縮永久歪みをJIS K 6262に準じて測定した。
【0095】
<リサイクル性(繰り返し成形試験)>
上記各エラストマー組成物について、170℃にて10分間熱プレスし2mm厚さのシートを作製後、サンプルを細かく切断して再度プレス成形し、継ぎ目のない一体化したサンプルが作製できる回数で評価した。
10回以上作製できたものを「○」、2回以上10回未満作製できたものを「△」、1回のみ作製できたものまたは1回も作製できなかったものを「×」とした。
【0096】
<引張試験>
170℃にて10分間熱プレスし、2mm厚さのシートを作製した。シートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、JIS K 6251に準拠して、引張速度500mm/分にて引張試験を行った。50%モジュラス(M50)、100%モジュラス(M100 )、200%モジュラス(M200 )、300%モジュラス(M300 )、400%モジュラス(M400 )、破断強度(TB )および破断伸び(EB )を室温にて測定した。
【0097】
【表1】
【0098】
第1表に示すように、熱可塑性エラストマー(i)を含有しない組成物(比較例6〜9)は、リサイクル性および加工性に劣り、金属元素を含む化合物(iii)を含有しない組成物(比較例1〜5)は、圧縮永久歪に劣る。
対して、本発明の組成物(実施例1〜3)は、圧縮永久歪を損なわず、加工性およびリサイクル性が改善された。
【0099】
【発明の効果】
本発明により、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供できる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、温度変化により架橋形成および架橋解離を繰り返し再現しうる特性(以下、単に「リサイクル性」という場合がある)を有する熱可塑性エラストマー組成物に関する。特に、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境保護や省資源等の立場から、使用済み材料の再利用が望まれている。加硫ゴムは、高分子物質と加硫剤とが共有結合した安定な三次元網目構造を有し、非常に高い強度を示すが、強い共有結合による架橋のため再成形が難しい。一方、熱可塑性エラストマーは、物理的架橋を利用するものであり、予備成形等を含む煩雑な加硫・成形工程を必要とせずに、加熱溶融により容易に成形加工することができる。
このような熱可塑性エラストマーの典型例としては、樹脂成分とゴム成分とを含み、常温では微結晶樹脂成分が三次元網目構造の架橋点の役割を果たすハードセグメントとなり、ゴム成分(ソフトセグメント)の塑性変形を阻止し、昇温により樹脂成分の軟化または融解により塑性変形する熱可塑性エラストマーが知られている。しかし、このような熱可塑性エラストマーでは、樹脂成分を含んでいるためゴム弾性が低下しやすい。そのため、樹脂成分を含まずに熱可塑性を付与できる材料が求められている。
【0003】
かかる課題に対し、特開平8−239583号公報には、側鎖にカルボニル基含有基と含窒素複素環含有基とを含み、含窒素複素環含有基がその環構成窒素に対して2位で直接に、または有機基を介して主鎖と結合している有機重合体および特定の金属元素を含む化合物を含有する金属含有有機重合材料が記載されている。この金属含有有機重合材料は、変性を受けていないオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂の成形温度で十分に溶融流動性を示すことができ、低温では架橋形成により優れた破断強度等の機械的強度を有し、温度変化により架橋形成および架橋解離(軟化)を繰り返し再現できる。
このような特性を有する金属含有有機重合材料は、その産業上の利用価値、および環境保護上の価値が高く、架橋形成および架橋解離を繰り返しても物性変化のない、リサイクル性に優れた材料として期待されている。
【0004】
しかし、この金属含有有機重合材料は、物質特性において、加重した際の形状保持率、所定時間加重後に除重した際の圧縮永久歪が十分ではない場合がある。また、この金属含有有機重合材料は、主鎖に熱可塑性エラストマーを用いた場合、硬度が非常に低く、ゴム材としての使用等、弾性部材として使用するにはその特性に不十分な点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記問題を解決する技術として、本発明者らは、側鎖にカルボニル含有基と含窒素n員環含有基(n≧3)とを有し、前記含窒素n員環含有基がその3位〜n位で直接に、または有機基を介して主鎖と結合する熱可塑性エラストマーと、周期律表の第2A族、第3A族、第4A族、第5A族、第6A族、第7A族、第8族、第1B族、第2B族、第3B族、第4B族および第5B族から選択される少なくとも1つの金属の化合物とを含むことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物が、優れたリサイクル性を損なうことなく、弾性部材として使用するのに十分な硬度を有し、形状保持率が改善された、温度変化により硬化および流動化を繰り返し再現しうる熱可塑性エラストマー組成物を提案した(特願2001−122598号明細書)。
【0006】
しかし、この熱可塑性エラストマー組成物は、用いる金属(金属元素を含む化合物)によっては、該金属を混合して混練する時の操作性(加工性)に劣る場合がある。
さらに、近年の技術革新、材料等の最適化、製造工程の簡素化、短縮化等により、熱可塑性エラストマー組成物に要求される物性、特徴等が高度化する現状においては、熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪等の物性を保持したまま、加工性およびリサイクル性等のさらなる改善が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマーと、特定の金属元素を含む化合物とを含有する組成物に、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマーを混合させることにより、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れることを知見し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、上記知見を基になされたものであり、以下の(I)〜(VI)を提供する。
【0010】
(I)無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)と、
側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマー(ii)と、
金属元素を含む化合物(iii)と、を含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
(II)前記側鎖が、下記式(1)で表される構造を有する、(I)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【化3】
(式中、Aは含窒素複素環であり、Bは単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子;あるいはこれらを含んでもよい有機基である。)
【0012】
(III)前記側鎖が、α位またはβ位で主鎖に結合する下記式(2)または(3)で表される側鎖を有する、(I)または(II)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【化4】
(式中、Aは含窒素複素環であり、BおよびDは単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子;あるいはこれらを含んでもよい有機基である。)
【0013】
(IV)前記金属元素を含む化合物(iii)の金属元素が、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlよりなる群から選択される1種以上の金属元素である、(I)〜(III)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
(V)前記含窒素複素環が、トリアゾール環、チアジアゾール環またはピリジン環である、(I)〜(IV)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
(VI)前記熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、カーボンおよび/またはシリカを1〜200質量部含有する、(I)〜(V)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物(以下、単に「本発明の組成物」という場合がある。)は、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を含有することを特徴とする。すなわち、本発明の組成物は、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)と、側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマー(ii)と、金属元素を含む化合物(iii)とを含有する熱可塑性エラストマー組成物である。
【0017】
熱可塑性エラストマー組成物中に金属元素を含む化合物(iii)を含有させることにより、該金属元素を含む化合物の金属元素と熱可塑性エラストマー(ii)に含有されるカルボニル基または含窒素複素環とのイオン結合および配位結合等が形成され架橋密度が向上する。また、カルボニル基と含窒素複素環との間の相互作用(水素結合)が、該イオン結合および配位結合により強められる。そのため、形状保持率(圧縮永久歪)および硬度等が改善されると考えられる。
ここで、上記金属元素を含む化合物の金属元素によっては、該金属元素とカルボニル基または含窒素複素環とにより形成される架橋が強固(永久架橋的)に結合する場合があり、また該架橋の密度が高くなりすぎる場合があり、組成物の加工性が劣ることもある。
【0018】
しかし、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を該組成物に含有させると、該組成物の加工性およびリサイクル性が特に改善される。
この改善効果の理由は現在のところ明らかではないが、その補足的な理由の1つとして、例えば、組成物中で形成される架橋を、エラストマー(i)および(ii)の分子間に分散させることができ、また、形成される架橋の密度を調整できること等が考えられる。
【0019】
本発明で用いる無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)は、天然高分子または合成高分子のエラストマー性ポリマーを無水マレイン酸で変性して得られる。
その側鎖には、無水マレイン酸残基および含窒素複素環以外の官能基を有していてもよいが、無水マレイン酸残基のみを有しているのが好ましい。
無水マレイン酸残基は該エラストマー性ポリマーの側鎖または末端に導入(変性)され、その主鎖に導入されることはない。また、無水マレイン酸残基は、環状酸無水物基であり、環状酸無水物基(部分)が開環することもない。
つまり、本発明の無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)は、例えば、後記する式(4)(式中、Eはエチレン残基またはプロピレン残基を表す。)のように、無水マレイン酸のエチレン性不飽和結合部分がエラストマー性ポリマーと反応して得られる、側鎖に環状酸無水物基を有し含窒素複素環を有しない熱可塑性エラストマーである。
【0020】
無水マレイン酸変性量は、形状保持率および圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる点で、エラストマー性ポリマーの主鎖部分100mol%に対して、好ましくは0.1〜50mol%であり、より好ましくは0.3〜30mol%であり、特に好ましくは0.5〜10mol%である。
【0021】
該エラストマー(i)の主鎖となるエラストマー性ポリマーは、特に限定されず、一般的に公知の天然高分子または合成高分子であればよいが、そのガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマー、つまりエラストマーであるのが好ましい。このようなエラストマー性ポリマーとして、具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等のジエン系ゴム;エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンゴム、ポリプロピレンゴム等のオレフィン系ゴム;エピクロロヒドリンゴム;多硫化ゴム;シリコーンゴム;ウレタンゴム等が挙げられる。
【0022】
また主鎖となるエラストマー性ポリマーは、樹脂成分を含むエラストマー性ポリマー(熱可塑性エラストマー)であってもよく、例えば、水添されていてもよいポリスチレン系エラストマー性ポリマー(SBS、SIS、SEBS)、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー性ポリマー、ポリウレタン系エラストマー性ポリマー、ポリエステル系エラストマー性ポリマー、ポリアミド系エラストマー性ポリマー等が挙げられる。
【0023】
上記エラストマー性ポリマーは、液状または固体状であってもよい。その分子量は特に限定されず、組成物の使用目的、組成物に要求される架橋密度等の物性に応じて適宜選択することができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱(脱架橋)した時の流動性を重視する場合は、上記エラストマー性ポリマーは液状であるのが好ましく、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムでは、重量平均分子量が1,000〜100,000であるのが好ましく、1,000〜50,000程度が特に好ましい。一方、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の強度を重視する場合は、上記エラストマー性ポリマーは固体ゴムであるのが好ましく、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムでは、重量平均分子量が100,000〜2,000,000であることが好ましく、500,000〜1,500,000が特に好ましい。
【0024】
本発明においては、上記エラストマー性ポリマーを2種以上混合して用いることができる。この場合の混合比は、組成物が用いられる用途、組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
【0025】
エラストマー性ポリマーは、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴム;エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)等のオレフィン系ゴムであるのが特に好ましい。これらのポリマーはガラス転移温度が25℃以下であるため加工性および取扱い性に優れる。またジエン系ゴムを用いると後述する無水マレイン酸での変性が容易であり、オレフィン系ゴムを用いると組成物が架橋した時の引張強度により優れる。
【0026】
本発明において、上記スチレン−ブタジエンゴム(SBR)の結合スチレン量、水添エラストマー性ポリマー等の水添率等は、特に限定されず、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率に調整できる。
熱可塑性エラストマーの主鎖にEPM、EPDM、EBMを用いる場合は、そのエチレン含量は、好ましくは15〜85mol%であり、より好ましくは、50〜70mol%である。この範囲であれば、組成物としたときの機械的強度、圧縮永久歪および加工性に優れる。
【0027】
また、上記無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の主鎖および後述する熱可塑性エラストマー(ii)の主鎖にエチレン−プロピレンゴムを用いる場合は、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の主鎖のエチレン含量は、後述する熱可塑性エラストマー(ii)の主鎖のエチレン含量より多いのが好ましい。結晶性(ハードセグメント含有率)が高い無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を混合することにより、組成物としたときの機械的強度に優れる。
【0028】
無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)は、通常選択される条件で、エラストマー性ポリマーを無水マレイン酸で変性して得られるし、市販品を使用してもよい。
市販品としては、例えば、LIR−403(クラレ社製)、LIR−410A(クラレ社試作品)等の無水マレイン酸変性イソプレンゴム、タフマーM(MA8510、三井化学社製)等の無水マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム、タフマーM(MH7020、三井化学社製)等の無水マレイン酸変性エチレン−ブテンゴム、アドマー(LF128等、三井化学社製)の無水マレイン酸変性ポリエチレン、アドマー(QB550等、三井化学社製)の無水マレイン酸変性ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0029】
本発明の組成物は、上記無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を1種以上含有する。2種以上含有する場合の混合比は、該組成物が用いられる用途、該組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
上記無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の含量は、後述する熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部であり、より好ましくは3〜40質量部であり、特に好ましくは5〜30質量部である。
この範囲であれば、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の添加により、組成物の加工性およびリサイクル性が改善される。
【0030】
本発明の組成物は、熱可塑性エラストマー(ii)を含有する。
熱可塑性エラストマー(ii)は、天然高分子または合成高分子のエラストマー性ポリマーの側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する。
ここで本発明において、「側鎖」とはエラストマー性ポリマーの側鎖および末端をいう。また「側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する」とは、エラストマー性ポリマーの主鎖を形成する原子(通常炭素)に、カルボニル含有基と含窒素複素環が化学的に安定な結合(共有結合)をしていることを意味する。
【0031】
該熱可塑性エラストマー(ii)の主鎖となるエラストマー性ポリマーは、特に限定されず、一般的に公知の天然高分子または合成高分子であり、そのガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマー、つまりエラストマーであるのが好ましい。具体的には、上記無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)で説明したものと基本的に同様である。
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマー(ii)は、エラストマー性ポリマーの側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する。
カルボニル含有基としては、カルボニル基を含むものであれば特に限定されず、例えば、アミド、エステル、イミド、カルボキシ基、カルボニル基等が挙げられる。このような基を導入しうる化合物としては特に限定されず、例えば、カルボン酸およびその誘導体等が挙げられる。
カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の炭化水素基を有する有機酸が挙げられ、該炭化水素基は、脂肪族、脂環族、芳香族等のいずれであってもよい。またカルボン酸誘導体としては、例えば、カルボン酸無水物、アミノ酸、チオカルボン酸(メルカプト基含有カルボン酸)、エステル、ケトン、アミド類、イミド類、ジカルボン酸およびそのモノエステル等が挙げられる。
【0033】
カルボン酸およびその誘導体等としては、具体的に、例えば、マロン酸、マレイン酸、スクシン酸、グルタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、p−フェニレンジ酢酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−アミノ安息香酸、メルカプト酢酸等のカルボン酸および置換基含有カルボン酸;無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物;マレイン酸エステル、マロン酸エステル、スクシン酸エステル、グルタル酸エステル、酢酸エチル等の脂肪族エステル;フタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テレフタル酸エステル、エチル−m−アミノベンゾエート、メチル−p−ヒドロキシベンゾエート等の芳香族エステル;キノン、アントラキノン、ナフトキノン等のケトン;グリシン、チロシン、ビシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、スレオニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、メチオニン、プロリン、N−(p−アミノベンゾイル)−β−アラニン等のアミノ酸;マレインアミド、マレインアミド酸(マレインモノアミド)、コハク酸モノアミド、5−ヒドロキシバレルアミド、N−アセチルエタノールアミン、N,N’−ヘキサメチレンビス(アセトアミド)、マロンアミド、シクロセリン、4−アセトアミドフェノール、p−アセトアミド安息香酸等のアミド類;マレインイミド、スクシンイミド等のイミド類が挙げられる。
これらの中でも、カルボニル基を導入しうる化合物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物が好ましく、特に無水マレイン酸が好ましい。
【0034】
熱可塑性エラストマー(ii)の側鎖に有する含窒素複素環は、直接または有機基を介して主鎖に導入される。
該含窒素複素環は、複素環内に窒素原子を含むものであれば複素環内に窒素原子以外のヘテロ原子、例えば、イオウ原子、酸素原子、リン原子等を有するものでも用いることができる。ここで複素環化合物を用いるのは複素環構造を有すると後述する架橋を形成する水素結合が強くなり組成物の引張強度が向上するためである。
また該複素環は置換基を有していてもよく、例えば、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、ヘキシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる基;シアノ基;アミノ基;芳香族炭化水素基;エステル基;エーテル基;アシル基;チオエーテル基等が挙げられ、これらを組合せて用いることもできる。
これらの置換基の置換位置は特に限定されず、また置換基数も限定されない。また、該複素環は、芳香族性を有していても、有していなくてもよいが、芳香族性を有していると架橋時の引張強度がより高まり組成物の強度がより向上するので好ましい。
【0035】
このような含窒素複素環としては、例えば、ピロロリン、ピロリドン、オキシインドール(2−オキシインドール)、インドキシル(3−オキシインドール)、ジオキシインドール、イサチン、インドリル、フタルイミジン、β−イソインジゴ、モノポルフィリン、ジポルフィリン、トリポルフィリン、アザポルフィリン、フタロシアニン、ヘモグロビン、ウロポルフィリン、クロロフィル、フィロエリトリン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、イミダゾロン、イミダゾリドン、ヒダントイン、ピラゾリン、ピラゾロン、ピラゾリドン、インダゾール、ピリドインドール、プリン、シンノリン、ピロール、ピロリン、インドール、インドリン、オキシルインドール、カルバゾール、フェノチアジン、インドレニン、イソインドール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、フェナントロリン、オキサジン、ベンゾオキサジン、フタラジン、プテリジン、ピラジン、フェナジン、テトラジン、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、アントラニル、ベンゾチアゾール、ベンゾフラザン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、アントラゾリン、ナフチリジン、チアジン、ピリダジン、ピリミジン、キナゾリン、キノキサリン、トリアジン、ヒスチジン、トリアゾリジン、メラミン、アデニン、グアニン、チミン、シトシン等が挙げられる。このような含窒素複素環のうち、特に含窒素5員環については、下記の化合物が好ましく例示される。これらは上記した種々の置換基を有していてもよいし、水素付加または脱離されたものであってもよい。
【0036】
【化5】
【0037】
また、含窒素6員環については、下記の化合物が好ましく例示される。これらについても上記した種々の置換基を有していてもよいし、水素付加または脱離されたものであってもよい。
【0038】
【化6】
【0039】
また、上記含窒素複素環とベンゼン環または含窒素複素環同士が縮合したものも用いることができ、例えば下記の縮合環が好ましく例示される。
【0040】
【化7】
【0041】
上記した含窒素複素環の中でも、トリアゾール環、ピリジン環またはチアジアゾール環であるのが、熱可塑性エラストマー組成物としたときの機械的強度および圧縮永久歪に優れ、特に加工性に優れるため好ましい。
【0042】
熱可塑性エラストマー(ii)は、上記含窒素複素環が直接または有機基を介して主鎖に導入されるが、好ましくは有機基を介して主鎖に導入される。
熱可塑性エラストマー(ii)は、カルボニル基および含窒素複素環が、互いに独立の側鎖として主鎖に導入されていてもよく、またカルボニル基と含窒素複素環とが互いに異なる基を介して1つの側鎖に結合し主鎖に導入されていてもよい。
カルボニル基および含窒素複素環が、下記式(1)で表される1つの側鎖として上記ポリマー主鎖に導入されるのが好ましい。
【0043】
【化8】
(式中、Aは含窒素複素環であり、Bは単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子;あるいはこれらを含んでもよい有機基である。)
【0044】
ここで、含窒素複素環Aは、具体的には上記した含窒素複素環である。
置換基Bは、単結合;酸素原子、窒素原子もしくはイオウ原子;あるいはこれらの原子を含んでもよい有機基であり、具体的には、例えば、単結合;酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR’(R’は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基);これらの原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレン基またはアラルキレン基;これらの原子を末端に有する、炭素数1〜20のアルキレンエーテル基(アルキレンオキシ基、例えば、−O−CH2 CH2 −基)、アルキレンアミノ基(例えば、−NH−CH2 CH2 −基等)またはアルキレンチオエーテル基(アルキレンチオ基、例えば、−S−CH2 CH2 −基);これらの原子を末端に有する、炭素数1〜20のアラルキレンエーテル基(アラルキレンオキシ基)、アラルキレンアミノ基またはアラルキレンチオエーテル基;等が挙げられる。
【0045】
ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、異性体を含む、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。
上記置換基Bの酸素原子、イオウ原子およびアミノ基、ならびに、酸素原子、窒素原子またはイオウ原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレンエーテルまたはアラルキレンエーテル基等の酸素原子、窒素原子およびイオウ原子は、隣接するカルボニル基と組み合わされ各々エステル基、アミド基、イミド基、チオエステル基等を形成するのが好ましい。
置換基Bは、上記した中でも酸素原子、イオウ原子またはアミノ基;これらを末端に有する、炭素数1〜20のアルキレンエーテル基、アルキレンアミノ基またはアルキレンチオエーテル基が好ましく、アミノ基(NH)、アルキレンアミノ基(−NH−CH2 −基、−NH−CH2 CH2 −基、−NH−CH2 CH2 CH2 −基)、アルキレンエーテル基(−O−CH2 −基、−O−CH2 CH2 −基、−O−CH2 CH2 CH2 −基)が特に好ましい。
【0046】
カルボニル基と含窒素複素環は、下記式(2)または(3)で表される1つの側鎖として、そのα位またはβ位で上記ポリマー主鎖に導入されるのがより好ましい。
【0047】
【化9】
(式中、Aは含窒素複素環であり、BおよびDは単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子;あるいはこれらを含んでもよい有機基である。)
【0048】
ここで、含窒素複素環Aは上記式(1)の含窒素複素環Aと基本的に同様であり、置換基BおよびDは上記式(1)の置換基Bと基本的に同様である。
ただし、式(3)における置換基Dは、上記式(1)の置換基Bで例示した中でも、単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレン基またはアラルキレン基であるのが好ましく、単結合が特に好ましい。すなわち、上記式(3)のイミド窒素と共に、酸素原子、窒素原子またはイオウ原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレンアミノ基またはアラルキレンアミノ基を形成するのが好ましく、上記式(3)のイミド窒素に含窒素複素環が直接結合する(単結合)のが特に好ましい。具体的には、置換基Dは、単結合;上記した酸素原子、イオウ原子またはアミノ基を末端に有する炭素数1〜20のアルキレンエーテルまたはアラルキレンエーテル基等;異性体を含む、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、フェニレン基、キシリレン基等が挙げられる。
炭素数1〜10のアルキル基は、上記式(1)で例示したものと基本的に同様である。
【0049】
熱可塑性エラストマーに含有される上記カルボニル含有基と上記含窒素複素環との割合は特に限定されないが、2:1(上記式(3)のイミド構造等の場合は1:1)であると相補的な相互作用を形成しやすくなり、また、容易に製造できるため好ましい。
【0050】
カルボニル含有基と含窒素複素環とを有する側鎖は、主鎖部分100mol%に対して、0.1〜50mol%の割合で導入(導入率)されていることが好ましく、1〜30mol%の割合で導入されていることがより好ましい。
0.1mol%未満では架橋時の強度が十分でない場合があり、50mol%を超えると架橋密度が高くなりゴム弾性が失われる場合がある。すなわち、上記した範囲内であれば、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)および熱可塑性エラストマー(ii)の側鎖同士の相互作用が、分子間または分子内で起こり、これらがバランスがよく形成されるため、組成物としたときに、架橋時の引張強度が非常に高く、かつリサイクル性に優れる。
【0051】
上記導入率は、カルボニル含有基と含窒素複素環が独立に導入されている場合には、上記カルボニル基含有基と上記含窒素複素環との割合に従って、両基を一組として考えればよく、何れかの基が過剰の場合は、多い方の基を基準として考えればよい。
この導入率は、例えば主鎖部分がエチレン−プロピレンゴムである場合には、エチレンおよびプロピレンモノマー単位100ユニット当り、側鎖部分の導入されたモノマーが、0.1〜50ユニット程度である。
【0052】
熱可塑性エラストマー(ii)は、そのガラス転移点が25℃以下であるのが好ましく、該エラストマー(ii)が2以上のガラス転移点を有する場合または2種以上のエラストマーを併用する場合はガラス転移点の少なくとも1つは25℃以下であるのが好ましい。ガラス転移点が25℃以下であれば、組成物を調整する時の混練がしやすくなり加工性に優れる。また組成物(組成物中の架橋)を熱解離させた時の取扱い性にも優れる。
熱可塑性エラストマー(ii)は、1種単独で、または2種以上を併用して用いることができる。この場合の混合比は、組成物が用いられる用途、組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
【0053】
熱可塑性エラストマー(ii)の製造方法は特に限定されず、通常の方法を選択することができる。
熱可塑性エラストマー(ii)のうちでも、カルボニル基含有基と含窒素複素環とを同一側鎖に有するものは、例えば、エラストマー性ポリマーのカルボニル含有基変性ポリマーを、含窒素複素環を導入しうる化合物と反応させることにより得られる。
具体的には、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムと、無水マレイン酸あるいはメルカプト酢酸を含むトルエン溶液とを、あるいは、EPM等のオレフィン系ゴム、例えば、プロピレン等のα−オレフィンと、メルカプト酢酸を含むトルエン溶液とを、室温または加熱下で窒素雰囲気下反応させ、カルボニル含有基で変性されたエラストマーを得、このエラストマーと含窒素複素環を導入しうる化合物とを反応させることにより得られる。
【0054】
ここで、含窒素複素環を導入しうる化合物とは、含窒素複素環そのものであってもよく、無水マレイン酸等のカルボニル含有基と反応する置換基(例えば、水酸基、チオール基、アミノ基等)を有する含窒素複素環であってもよい。また、含窒素複素環を導入しうる化合物は、カルボニル含有基変性エラストマーのカルボニル含有基の一部または全量と反応させればよい。一部とは、カルボニル含有基100mol%に対して好ましくは50mol%以上であり、より好ましくは、80mol%以上である。この範囲であれば、含窒素複素環を導入した効果が発現し、架橋時の引張強度がより高まる。引張強度、圧縮永久歪、加工性に優れる点で、カルボニル含有基の全量(100mol%)を該化合物と反応させるのが特に好ましい。
【0055】
上記カルボニル含有基で変性されたエラストマーは、市販品を使用することもでき、例えば、LIR−403(クラレ社製)、LIR−410A(クラレ社試作品)等の無水マレイン酸変性イソプレンゴム、LIR−410(クラレ社製)等の変性イソプレンゴム、クライナック110、221、231(ポリサー社製)等のカルボキシル変性ニトリルゴム、CPIB(日石化学社製)、HRPIB(日石化学ラボ試作品)等のカルボキシ変性ポリブテン、ニュクレル (三井デュポンポリケミカル社製) 、ユカロン(三菱化学社製)、タフマーM(MA8510、三井化学社製)等の無水マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム、タフマーM(MH7020、三井化学社製)等の無水マレイン酸変性エチレン−ブテンゴム、アドマー(LF128等、三井化学社製)の無水マレイン酸変性ポリエチレン、アドマー(QB550等、三井化学社製)の無水マレイン酸変性ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0056】
また、カルボニル含有基と含窒素複素環とを導入しうる化合物同士を反応させた後、エラストマー性ポリマーの側鎖に導入してもよい。
【0057】
カルボニル含有基と含窒素複素環とを、それぞれ独立して側鎖に有する熱可塑性エラストマーを合成する場合には、該エラストマー性ポリマーの主鎖を形成しうるモノマーと、カルボニル含有基を含むモノマーとを共重合させて、上記熱可塑性エラストマーを直接製造してもよく、あらかじめ重合等により主鎖(エラストマー性ポリマー)を形成し、次いで、上記カルボニル含有基でグラフト変性してもよい。
上記の各製造方法においては、熱可塑性エラストマーの側鎖の各基は、独立に結合しているか、または互いに結合したものであるかは、NMR、IRスペクトル等の通常用いられる分析手段により確認することができる。
【0058】
熱可塑性エラストマー(ii)は、上記の製造方法でも、まずカルボニル含有基を導入したカルボニル含有基変性エラストマー性ポリマーを合成し、次に、含窒素複素環を導入しうる化合物と反応させて含窒素複素環を導入する方法が好ましく、特に環状酸無水物を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと、含窒素複素環を導入しうる化合物とを、含窒素複素環を導入しうる化合物が環状酸無水物基と化学結合(例えば共有結合、イオン結合)しうる温度にて反応させることにより、カルボニル含有基と含窒素複素環とをエラストマー性ポリマーの主鎖に導入(環状酸無水物基は開環する)させるのが好ましい。該エラストマーの製造に関して、具体的な点については、特開2000−169527号公報に記載されている。
【0059】
本発明の含窒素複素環を便宜上「含窒素n員環化合物(n≧3)」とし、含窒素複素環の結合位置について説明する。
以下説明する結合位置(「1〜n位」)は、IUPAC命名法に基づくものである。例えば、非共有電子対を有する窒素原子を3個有する化合物の場合、IUPAC命名法に基づく順位によって結合位置を決定する。具体的には、上記例示した5員環、6員環および縮合環の含窒素複素環に結合位置を記した。
熱可塑性エラストマー(ii)では、直接または有機基を介して主鎖と結合する含窒素n員環化合物の結合位置は、特に限定されず、いずれの結合位置(1位〜n位)でもよい。好ましくは、その1位または3位〜n位である。
含窒素複素環内に含まれる窒素原子が1個(例えば、ピリジン環等)の場合は、分子内でキレートが形成されやすく組成物としたときの引張強度等の物性に劣るため、2位は好ましくない。
【0060】
含窒素n員環化合物がその1位または3位〜n位で主鎖と結合していると、同一側鎖にカルボニル基と含窒素複素環を有していても、含窒素複素環の窒素原子とカルボニル基との距離が離れているため、分子内でのキレートが形成されにくく、分子間キレートおよびイオン結合の形成による架橋強度(組成物としたときの引張強度)の向上が期待でき、また、架橋密度が向上する。含窒素複素環が5員環である場合には、3または4位が好ましく、3位が特に好ましい。
含窒素複素環の結合位置を選択することにより熱可塑性エラストマー(ii)は、エラストマー(ii)同士の分子間で、または無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)との間で、水素結合、イオン結合、配位結合等による架橋が形成されやすく、組成物としたときの圧縮永久歪を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる。
【0061】
本発明の組成物は、金属元素を含む化合物(iii)を含有する。
上記したように熱可塑性エラストマー(ii)に金属元素を含む化合物を加えると、該金属元素を含む化合物の金属元素と熱可塑性エラストマー(ii)に含有されるカルボニル基または含窒素複素環とのイオン結合および配位結合等が形成され架橋密度が向上する。また、カルボニル基と含窒素複素環との間の相互作用(水素結合)が、該イオン結合および配位結合により強められる。そのため、形状保持率(圧縮永久歪)および硬度等が改善される。
【0062】
金属元素を含む化合物(iii)は、金属元素を少なくとも1つ含む化合物であれば特に限定されないが、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlよりなる群から選択される1種以上の金属元素を含む金属元素を含む化合物であるのが好ましい。
該金属元素を含む化合物として、具体的には、例えば、これらの1種以上の金属元素を含むギ酸塩、酢酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、(メタ)アクリル酸塩等の不飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、塩化物、酸化物、水酸化物、ジケトンとの錯体等が挙げられる。
ここで、「ジケトンとの錯体」とは、例えば、1,3−ジケトン(例えば、アセチルアセトン)等が金属原子に配位した錯体をいう。
【0063】
本発明の組成物に金属元素を含む化合物(iii)を含有することにより、その形状保持率および圧縮永久歪がより改善されるが、その効果が特に大きい点で、金属元素はTi、Al、Znが好ましく、金属元素を含む化合物としてこれらの酢酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、酸化物、水酸化物、ジケトンとの錯体が好ましく、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、ジケトンとの錯体が特に好ましい。
【0064】
炭素数1〜12のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、1−メチル−2−ブタノール、t−ブタノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、フェノール、ナフトールが挙げられる。
炭素数1〜20の飽和脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
ジケトンとの錯体に用いられるジケトンとしては、例えば、1,3−ジケトン、1,4−ジケトン、1,5−ジケトンが挙げられ、より具体的には、アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等の1,3−ジケトン;アセトニルアセトン、フェナシルアセトン等の1,4−ジケトン;2,6−ヘプタンジオン等の1,5−ジケトンが挙げられる。
【0065】
本発明の組成物は、上記金属元素を含む化合物(iii)を1種以上を含有する。2種以上含有する場合の混合比は、組成物が用いられる用途、組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
上記金属元素を含む化合物の含量は、上記熱可塑性エラストマー(ii)に含有する含窒素複素環に対して、0.05〜1.5当量であり、好ましくは0.1〜1.0当量、特に好ましくは0.2〜1.0当量である。この範囲であれば、組成物の圧縮永久歪、硬度等の物性に優れる。
なお、金属元素を含む化合物(iii)は、その金属のとりうるすべての水酸化物、金属アルコキシド、または、カルボン酸塩等を用いることができる。例えば、水酸化物を例にとると、金属が鉄の場合は、Fe(OH)2 、Fe(OH)3 をそれぞれ単独で用いても、また混合して用いてもよい。
【0066】
本発明で用いる金属元素を含む化合物(iii)は、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlよりなる群から選択される1種以上の金属元素を含有するのが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲でこれら以外の金属元素を含有してもよい。
該金属元素を含む化合物(iii)中のこれら以外の金属元素の含有率は、特に限定されないが、例えば、該化合物(iii)中の全金属元素に対して1〜50mol%であるのが好ましい。
【0067】
本発明の組成物は、補強剤としてカーボンおよび/またはシリカを含有するのが好ましい。
カーボンは、特に限定されず、例えば、カーボンブラックが挙げられ、その含量(カーボン単独で用いる場合)は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、1〜200質量部であり、好ましくは20〜100質量部であり、より好ましくは30〜80質量部である。
カーボンは、カーボンブラックが好ましく、該カーボンブラックは、用途に応じて適宜選択される。一般に、カーボンブラックは粒子径に基づいて、ハードカーボンとソフトカーボンとに分類される。ソフトカーボンはゴムに対する補強性が低く、ハードカーボンはゴムに対する補強性が強い。本発明では、特に、補強性の強いハードカーボンを用いるのが好ましい。
【0068】
シリカは、特に限定されず、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、けいそう土が挙げられ、その含量(シリカ単独で用いる場合)は熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、1〜200質量部であり、好ましくは20〜100質量部であり、より好ましくは30〜80質量部である。このなかでも、沈降シリカが好ましい。
補強剤としてシリカを用いる場合には、シランカップリング剤を併用できる。シランカップリング剤としては、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(Si69)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(Si75)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0069】
カーボンおよびシリカを併用する場合の含量(カーボンおよびシリカの合計量)は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、1〜200質量部であり、好ましくは20〜100質量部であり、より好ましくは30〜80質量部である。
【0070】
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、本発明のエラストマー性ポリマー以外のポリマー、カーボンおよびシリカ以外の補強剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤、フィラー等の各種添加剤等を含有することができる。
【0071】
上記添加剤等は、一般に用いられるものを使用することができ、以下に具体的に、その一部を例示するが、これら例示したものに限られない。
本発明のエラストマー(i)および(ii)以外のポリマーとしては、上記の理由と同様にガラス転移温度が25℃以下のポリマーが好ましく、特に本発明の主鎖として用いるもののうちの何れかであるのが好ましい。より好ましくは、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)であり、特にIIR、EPM、EBMの不飽和結合を有さないポリマーまたは不飽和結合の少ないポリマー(例えば、EPDM)を用いるのが好ましい。該他のポリマーは1種または2種以上を含有させてもよい。該ポリマーの含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜100質量部が好ましく、1〜50質量部がより好ましい。
【0072】
カーボンおよびシリカ以外の補強剤としては、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー等が挙げられ、これらの含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、20〜100質量部が好ましく、30〜80質量部がより好ましい。
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系等の化合物が挙げられ、含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0073】
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられ、含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられ、含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0074】
可塑剤としては、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバチン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クエン酸等の誘導体をはじめ、ポリエステル、ポリエーテル、エポキシ系等が挙げられる。
揺変性付与剤としては、ベントン、無水ケイ酸、ケイ酸誘導体、尿素誘導体等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系等が挙げられる。
難燃剤としては、TCP等のリン系、塩素化パラフィン、パークロルペンタシクロデカン等のハロゲン系、酸化アンチモン等のアンチモン系、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0075】
溶剤としては、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系;テトラクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系;酢酸エチル等のエステル系等が挙げられる。
界面活性剤(レベリング剤)としては、ポリブチルアクリレート、ポリジメチルシロキサン、変性シリコーン化合物、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
脱水剤としては、ビニルシラン等が挙げられる。
【0076】
防錆剤としては、ジンクホスフェート、タンニン酸誘導体、リン酸エステル、塩基性スルホン酸塩、各種防錆顔料等が挙げられる。
接着付与剤としては、公知のシランカップリング剤、アルコキシシリル基を有するシラン化合物、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。より具体的には、例えば、トリメトキシビニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
帯電防止剤としては、一般的に、第4級アンモニウム塩、あるいはポリグリコールやエチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
可塑剤の含量は、上記熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。その他の添加剤の含量は、0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0077】
本発明の熱可塑性エラストマーは自己架橋できるものもあるが、本発明の目的を損わない範囲で加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤等を併用することもできる。
加硫剤としては、イオウ系、有機過酸化物系、金属酸化物系、フェノール樹脂、キノンジオキシム等の加硫剤が挙げられる。
イオウ系加硫剤としては、例えば、粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等が挙げられる。
有機過酸化物系の加硫剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が挙げられる。
その他として、酸化マグネシウム、リサージ、p−キノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、ポリ−p−ジニトロソベンゼン、メチレンジアニリン等が挙げられる。
【0078】
加硫助剤としては、アセチル酸、プロピオン酸、ブタン酸、ステアリン酸、アクリル酸、マレイン酸等の脂肪酸;アセチル酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ブタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、マレイン酸亜鉛等の脂肪酸亜鉛等が挙げられる。
加硫促進剤とては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)等のチウラム系;ヘキサメチレンテトラミン等のアルデヒド・アンモニア系;ジフェニルグアニジン等のグアニジン系;ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)等のチアゾール系;シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系;等が挙げられる。さらにアルキルフェノール樹脂やそのハロゲン化物等を用いることもできる。
加硫遅延剤としては、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸等の有機酸;N−ニトロソージフェニルアミン、N−ニトロソーフェニル−β−ナフチルアミン、N−ニトロソ−トリメチル−ジヒドロキノリンの重合体等のニトロソ化合物;トリクロルメラニン等のハロゲン化物;2−メルカプトベンツイミダゾール;サントガードPVI等が挙げられる。
これら加硫剤等の含量は、熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0079】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上記熱可塑性エラストマー、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー、金属元素を含む化合物および必要に応じて各種添加剤等を、ロール、ニーダ―、押出し機、万能攪拌機等により混合すればよい。
【0080】
本発明の組成物を架橋剤によって永久架橋させる場合の硬化条件は、配合する各種成分等に応じて適宜選択することができ、特に制限されない。例えば、150〜200℃の温度で、5〜30分で硬化させる硬化条件が好ましい。
【0081】
本発明の組成物は、約120〜180℃に加熱することにより三次元の架橋結合(架橋構造)が解離し、流動性が付与される。分子間または分子内で形成されている側鎖同士の相互作用が弱まるためであると考えられる。
【0082】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えばゴム弾性を活用して種々のゴム用途に使用することができる。またホットメルト接着剤として、またはこれに含ませる添加剤として使用すると、耐熱性およびリサイクル性を向上させることができるので好ましい。特に自動車周り等に好適に用いることができる。
【0083】
上記自動車周りとしては、具体的には、例えば、タイヤのトレッド、カーカス;外装のラジエータグリル、サイドモール、ガーニッシュ(ピラー、 リア、カウルトップ)、エアロパーツ(エアダム、スポイラー)、ホイールカバー、ウェザーストリップ、カウベルトグリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、換気口部品、防触対策部品(オーバーフェンダー、サイドシールパネル、モール(ウインドー、フード、ドアベルト))、マーク類;ドア、ライト、ワイパーのウェザーストリップ、グラスラン、グラスランチャンネル等の内装窓枠用部品;エアダクトホース、ラジエターホース、ブレーキホース;クランクシャフトシール、バルブステムシール、ヘッドカバーガスケット、A/Tオイルクーラーホース、ミッションオイルシール、P/Sホース、P/Sオイルシール等の潤滑油系部品;燃料ホース、エミッションコントロールホース、インレットフィラーホース、タイヤフラム類等の燃料系部品;エンジンマウント、インタンクポンプマウント等の防振用部品;CVJブーツ、ラック&ピニオンブーツ等のブーツ類;A/Cホース、A/Cシール等のエアコンデショニング用部品;タイミングベルト、補機用ベルト等のベルト部品;ウィンドシールドシーラー、ビニルプラスチゾルシーラー、嫌気性シーラー、ボディシーラー、スポットウェルドシーラー等のシーラー類;等が挙げられる。
【0084】
またゴムの改質剤として、例えば流れ防止剤として、室温でコールドフローを起こす樹脂あるいはゴムに含ませると、押出し時の流れやコールドフローを防止することができる。
さらに本発明のエラストマー組成物は、カーボンおよび/またはシリカ等を含むことにより、引張強度、引裂き強度、曲げ強度が向上し、特にタイヤ、ホース、ベルト、シート、防振ゴム、ローラー、ライニング、ゴム引布、シール材、手袋、防舷材等の用途に特に好適に用いることができる。
【0085】
本発明の組成物は、無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)を混合することにより、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性が改善された組成物である。
【0086】
【実施例】
次に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
<エラストマー(i)>
無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i−1)は、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(三井化学社製、タフマーM MA8510)を用いた。
無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i−2)は、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(DMS(株)製、試作品、エチレン含有量60mol%、無水マレイン酸変性率0.8mol%、重量平均分子量90,000)を用いた。
無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)の構造を式(4)に示す。
【0088】
<エラストマー(ii)>
熱可塑性エラストマー(ii)は以下の方法により合成した。
無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(DMS(株)製、試作品、エチレン含有量60mol%、無水マレイン酸変性率0.8mol%、重量平均分子量90,000)100g(無水マレイン酸骨格22.4mmol)に、4H−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(日本カーバイド(株)製)1.88g(22.4mmol)を加え、ニーダーにて170℃で30分間加熱攪拌した。
反応物はNMR、IRにより、下記構造の熱可塑性エラストマー(ii−1)(式(5))であることを確認した。
【0089】
4H−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(日本カーバイド(株)製)0.94g(11.2mmol)を用いて、同様に合成し、熱可塑性エラストマー(ii−2)を得た。
【0090】
【化10】
(式中、Eはエチレン残基またはプロピレン残基を表す。また、lはエチレン含有量を表し、nは無水マレイン酸変性率を表す。)
【0091】
ステアリン酸亜鉛(ZnSt2 )、チタニウムテトラ−n−ブトキシド(Ti(OBu)4 )およびアルミニウムトリイソプロポキシド(Al(OPr)3 )は、関東化学(株)製試薬を用いた。
カーボンブラックは、東海カーボン社製、ダイアブラックGを用いた。
【0092】
<実施例1〜3および比較例1〜9>
第1表に示す質量比(金属元素を含む化合物は熱可塑性エラストマー(ii)に含まれるトリアゾール環に対する当量比)で、混合し、エラストマー組成物とした。
得られた各組成物の加工性およびリサイクル性を評価し、圧縮永久歪の測定および引張試験を行った。その結果を第1表に示す。
なお、第1表中の圧縮永久歪および引張試験において、空欄は該当する条件における測定ができなかったことを表す。また、比較例9の組成物は、サンプルが作製できず圧縮永久歪および引張試験の測定ができなかった。
【0093】
<加工性評価>
エラストマー組成物の調製(混練)時の状態により評価した。
均一に混練できたものを「○」、エラストマーが凝集した塊が確認できたものを「△」、該塊が多く混練できなかったものを「×」とした。
【0094】
<圧縮永久歪み(C−Set)>
上記各エラストマー組成物について、170℃にて10分間熱プレスし2mm厚さのシートを作製後、シートを重ね合わせて170℃で20分間熱プレスし、リュプケサンプルを作製した。
このリュプケサンプルを、専用治具で25%圧縮し、70℃で22時間放置した後の圧縮永久歪みをJIS K 6262に準じて測定した。
【0095】
<リサイクル性(繰り返し成形試験)>
上記各エラストマー組成物について、170℃にて10分間熱プレスし2mm厚さのシートを作製後、サンプルを細かく切断して再度プレス成形し、継ぎ目のない一体化したサンプルが作製できる回数で評価した。
10回以上作製できたものを「○」、2回以上10回未満作製できたものを「△」、1回のみ作製できたものまたは1回も作製できなかったものを「×」とした。
【0096】
<引張試験>
170℃にて10分間熱プレスし、2mm厚さのシートを作製した。シートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、JIS K 6251に準拠して、引張速度500mm/分にて引張試験を行った。50%モジュラス(M50)、100%モジュラス(M100 )、200%モジュラス(M200 )、300%モジュラス(M300 )、400%モジュラス(M400 )、破断強度(TB )および破断伸び(EB )を室温にて測定した。
【0097】
【表1】
【0098】
第1表に示すように、熱可塑性エラストマー(i)を含有しない組成物(比較例6〜9)は、リサイクル性および加工性に劣り、金属元素を含む化合物(iii)を含有しない組成物(比較例1〜5)は、圧縮永久歪に劣る。
対して、本発明の組成物(実施例1〜3)は、圧縮永久歪を損なわず、加工性およびリサイクル性が改善された。
【0099】
【発明の効果】
本発明により、圧縮永久歪等の物性を損なわず、加工性およびリサイクル性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供できる。
Claims (6)
- 無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマー(i)と、
側鎖にカルボニル含有基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマー(ii)と、
金属元素を含む化合物(iii)と、
を含有する熱可塑性エラストマー組成物。 - 前記金属元素を含む化合物(iii)の金属元素が、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlよりなる群から選択される1種以上の金属元素である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
- 前記含窒素複素環が、トリアゾール環、チアジアゾール環またはピリジン環である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
- 前記熱可塑性エラストマー(ii)100質量部に対して、カーボンおよび/またはシリカを1〜200質量部含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
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