JP2004049230A - 反応溶液調製方法及び反応容器 - Google Patents
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Abstract
【課題】複数の増幅反応を同時に行うための混合試薬溶液を、同一の操作を必要以上に繰り返すことなく簡便に調製する。
【解決手段】チップ10上の複数のチャンバ12のそれぞれに、被固定化試薬溶液セットの成分を、共有結合又は非共有結合により固定化する。次いで、試薬溶液セットのうち残りの反応試薬溶液セットを、未固定状態でチャンバ12に添加し、チャンバ12にカバー板14を載せて、個々のチャンバ12を独立に密封する。それから、被固定化試薬溶液セット成分の固定方法に対応した遊離条件に付して、被固定化試薬溶液セットの成分を遊離させて反応試薬溶液セットと混合し、最後に、ポリメラーゼ連鎖反応を実行する。
【選択図】 図2
【解決手段】チップ10上の複数のチャンバ12のそれぞれに、被固定化試薬溶液セットの成分を、共有結合又は非共有結合により固定化する。次いで、試薬溶液セットのうち残りの反応試薬溶液セットを、未固定状態でチャンバ12に添加し、チャンバ12にカバー板14を載せて、個々のチャンバ12を独立に密封する。それから、被固定化試薬溶液セット成分の固定方法に対応した遊離条件に付して、被固定化試薬溶液セットの成分を遊離させて反応試薬溶液セットと混合し、最後に、ポリメラーゼ連鎖反応を実行する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、反応溶液調製方法及び反応容器に関し、特に、基板上の複数の微小孔中での反応のための反応溶液を調製する溶液調製方法及び、複数の微小スケールの反応溶液の調製及び反応を行うための、試薬を含む反応容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
DNAマイクロアレイの技術開発により、生体中の微量な核酸試料から、多種類の同時検出・定量および/または多種類の核酸配列の変異解析、特に一塩基変異の同時解析が簡便に行うことができるようになった。
これらの解析を行うための前処理として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNAの増幅がほとんどの場合に必須となる。試料がRNAの場合でも、DNAに逆転写してからPCRを行うことが多い。
【0003】
核酸の定量やDNA変異解析用のPCRの場合、多種類の検出対象DNA断片を増幅するためには本来、使用するプライマーのペア毎に別々の反応容器で増幅を行う必要があり、ペアの種類が増えると非常に実験操作が煩雑になる。
また、複数のチャンバを有する基板上で同時に複数の核酸を増幅させることが行われているが、各チャンバの反応が混じり合わないように試薬溶液を投入しなければならず、同一操作の繰り返しが要求されている。
【0004】
上記操作を簡略化するために、複数種のプライマーペアを混合した状態で複合PCRを行うことがある。また、複数の反応ウェルにおいて反応溶液が混合しないように、特許文献1ではカバーガラスとマイクロウェル集積体との間に膜を配置させている。特許文献2では、反応チューブ中においてPCR試薬の寿命を延ばすと共に溶液の混合を対流混合により行うために蝋を配置させたPCR反応チューブを開示している。
【0005】
【特許文献1】
特許第3041423号公報
【特許文献2】
特許第3078907号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、複数種のプライマーペアを用いた混合PCRでは、増幅の競合により目的のDNA断片の収率が低下したり不安定になる。また目的以外のDNA断片の増幅を誘発する可能性が高くなる。このような事象は正確な定量及び変異解析には好ましくない。
また同一操作を繰り返すといった操作上の煩雑さは、PCRに限らず、特定反応のために試薬溶液を調製する場合も同様である。特に、複数の反応チャンバが連続しているプレートなどを使用して複数種の反応溶液を調製する際に、問題となる。
本発明は、複数の試薬溶液を混合して得られる反応溶液を複数調製する場合であっても、同一の操作を必要以上に繰り返すことなく簡便に調製することができる反応溶液調製方法及び反応容器を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の溶液調製方法は、基板上の複数の微小孔中での反応のための溶液調製方法において、前記反応溶液から選択された被固定試薬を、遊離状態に変更可能な方法によって前記複数微小孔の表面上に固定する工程と、前記反応溶液のうちの残りの試薬を、各微小孔に添加する工程と、各微小孔を密封する工程と、前記固定方法に応じた方法によって各微小孔表面に固定された被固定試薬を遊離して前記残りの試薬と混合する工程を含むことを特徴としている。
【0008】
この方法によれば、被固定試薬を予め微小孔に固定してから残りの試薬を添加し、その後、被固定試薬を遊離状態にしてから前記残りの試薬と混合するので、被固定試薬が遊離状態となる時期を調整することができる。これにより、該残りの試薬溶液を添加する際に、被固定試薬溶液の成分が固定された状態を維持することができる。また、他の微小孔中の試薬と混じり合わないように個々の微小孔のそれぞれに投入するといった手間を排除することができる。この結果、残りの試薬を2つ以上の微小孔に対して同時に添加することができ、煩雑な作業を簡略化することができる。
【0009】
また、前記残りの試薬が、各微小孔容量の合計に対し過剰量で且つ1回の操作で、前記基板に添加されることが好ましい。この場合には、より少ない操作回数で容易に反応溶液を調製することができる。
さらに、本発明の他の形態では、微小孔を密封した後に、さらに、過剰な前記残りの試薬を排出する工程を含むことを特徴としている。
本発明において、固定方法は、蝋の層による物理的な隔離によるものであってもよく、共有結合又は非共有結合によるものであってもよい。
また本発明の更に他の形態では、前記微小孔を画定する基板表面に密着補助材を直接的又は間接的に配置する工程を更に含み、前記密封工程における微小孔の密封性が、該密着補助材によって向上することを特徴としている。
ここで密着補助材を直接的又は間接的に配置するとは、基板表面に直接配置させるだけでなく、他の部材、例えば密封手段に配置させてから基板表面に配置させる場合を含むことを意味する。なお、密着補助材は、基板表面に配置されていればよく、微小孔が密封されれば基板表面の一部に配置されていても表面全面に配置されていてもよく、さらには基板及び/又は他の部材、例えば密封手段の全体として配置されていてもよい。
【0010】
本発明の反応容器は、複数の微小スケールの反応溶液の調製及び反応を行うための、試薬を含む反応容器であって、基板上の複数の微小孔を反応容器とし、反応溶液の被固定溶液を遊離状態に変更可能な方法によって前記複数微小孔の表面上に固定されていることを特徴としている。
また本発明の他の反応容器は、基板上に密着補助材が配置されていることを特徴としている。
【0011】
ここで、本発明では、前記反応がポリメラーゼ連鎖反応であることが好ましい。
また、前記微小孔が、0.1pL以上100μL以下の大きさであることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施形態を、添付図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応する部分を示すものとする。
【0013】
図1は、本実施の形態で使用される核酸増幅用のチップ10の一部が示されており、このチップ10上には、チャンバ12(本発明における反応器又は微小孔に相当)が複数設けられている。
【0014】
チップ10の材質はシリコン、ガラス、石英、またはポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン、ポリカーボネート及びポリイミド等のポリマー等、この分野で通常既知のもののいずれも用いることができる。PCR反応が加熱処理を必要とすることを考慮すれば、耐熱性であることが好ましい。ポリメラーゼ増幅反応の阻害を防止するために、必要に応じて既知の表面処理を行う。例えばシリコンでは表面を熱酸化しておき、PCR反応溶液中にBSA(ウシ血清アルブミン)を添加することで反応阻害を防止できる。チャンバ12は、公知の半導体微細加工技術等を応用して直接作製するか、鋳型を作製後に射出成型等で作製できる。チャンバ12の形状は、逆四角錐型、四角柱型、六角柱型、半球型等様々な形状から適宜選択することができる。チップ10に設けられるチャンバ12の数は、チップ10のサイズに応じて選択することができる。チップ10上のチャンバ12の数及び配置の密度は、この分野で通常行われているものをそのまま採用することができ、特に制限されない。このチャンバ12の壁面に、後述する被固定反応溶液の成分が固定される。
【0015】
チャンバ12の容量は0.1pL以上100μL以下の範囲であり、好ましくは10pL以上1μL以下、更に好ましくは100pL以上1μL以下である。0.1pL以上であれば、微小孔の大きさ制御、後述の被固定試薬溶液の分注位置決め、また増幅後におけるDNA断片の解析が容易となる。100μL以下であれば、所要の試料DNA量を適度な量に抑えると共に試薬溶液の混合状態を十分に保つことができ、PCR処理における熱効率を著しく下げることがない。ただし、他の手段を用いて又は用いずに、これらの影響が大きくならない場合には、チャンバ12の容量はこれらの範囲外でもよい。
【0016】
チップ10の上面には、密封手段としてのカバー板14(図2参照)が載置される。このカバー板14には、チップ10の上面に密着するものであって、後段の分析方法に応じた材質のものが選択される。例えば増幅DNAを蛍光試薬を用いて検出したい場合には、ガラス等の励起光及び蛍光透過性の材質のものが使用される。
【0017】
このカバー板14は、チップ10上のチャンバ12を一度にすべて覆うサイズであることが好ましい。このようなサイズであれば、チップ10に対してカバー板14を1枚用意すれば足りるが、チップ10上のチャンバ12の一部のみを使用する場合には、使用するチャンバ12の範囲に対応したサイズであってもよい。
【0018】
次に図2を参照しながら本発明の反応溶液調製方法に従った核酸増幅方法を説明する。
本核酸増幅方法では、核酸増幅のための1セットの試薬溶液を用いて、固定工程と、添加工程と、密封工程と、遊離工程と、増幅工程とを含む一連の工程によって、DNAが増幅される。
【0019】
ここで用いられる核酸増幅のための試薬溶液セットには、PCR及びその後の分析に必要なすべての試薬溶液が含まれ、例えば、1組のプローブ、鋳型となる目的DNA又はRNA、ポリメラーゼなどが該当する。試薬溶液セットは、被固定試薬溶液セットと反応試薬溶液セットとに選別される。ここで被固定試薬溶液セットとは、この試薬溶液セットの一部であり、各チャンバ12に先に添加されると共に、その成分が、後述する固定の工程でチャンバ12表面に固定化されるものを指す。なお、本発明では、「被固定試薬溶液セット」との用語には、2種以上の試薬溶液を含む場合のみならず、1種類のみの試薬溶液を被固定試薬溶液セットとする場合にも用いられる。反応試薬溶液セットとは、PCRとその後の分析に必要なすべての試薬溶液セットから被固定試薬溶液セットを除いた残りの試薬溶液を指す。
【0020】
被固定試薬溶液セットには、チャンバ12毎に異なる試薬を選択することができる。例えばチャンバ12毎に異なるDNA断片を増幅したい場合は、被固定試薬溶液セットに異なる種類のプライマーを含める。またDNA増幅後の分析に必要な試薬溶液、例えば蛍光標識DNAプローブについても、チャンバ12毎に異なるものを添加したい場合は被固定試薬溶液セットに含める。このようにチャンバ12毎に異なる種類の被固定試薬溶液セットを使用することは、1つのチップで複数種の核酸を増幅することができるので、好ましい。なお、各チャンバ12に共通して使用される試薬溶液も、被固定試薬溶液セットに含めてもよい。
【0021】
固定工程では、試薬溶液セットから選択された被固定試薬溶液セットが各チャンバ12に添加され、その成分がチャンバ12の表面に固定される。
被固定試薬溶液セットの添加は水溶液の状態で行う(図2上段)。このとき、操作の簡略化及び正確さを期するために溶液定量吐出装置を使用するのが望ましい。マイクロメートル単位オーダーの溶液吐出の位置決めや溶液のピコリットル単位オーダーの定量的吐出には、公知の装置・方法を使用することができる。被固定試薬溶液セットが、複数種の試薬溶液で構成される場合、各チャンバ12に別々に添加してもよいが、固定化の効率を一定にするために予め混合してから添加する方が望ましい。
【0022】
添加された試薬溶液は、次にチャンバ12内に固定される。ここでいう固定とは、チャンバ12に添加後、チャンバ12に反応試薬溶液を新たに添加しても、反応試薬溶液に被固定試薬溶液セットの成分が混入しない状態にすると共に、後述する特定の遊離条件にすることによって容易に固定状態が解除されるものをいう。特に、室温及び/又は暗所のような特定の状態に一時的又は持続的にすることによって、被固定試薬溶液セットの成分を遊離するものが好ましい。
【0023】
このような固定方法としては、共有結合によるもの、非共有結合によるものが挙げられる。共有結合様式には、アミド結合、エステル結合、イミン結合(アルデヒド基とアミノ基のカップリングにより生成)、アミン結合(エポキシ基とアミノ基のカップリング等により生成)、尿素結合(イソシアナート基とアミノ基のカップリングにより生成)、チオ尿素結合(イソチオシアナート基とアミノ基のカップリングにより生成)、チオエーテル結合(マレイミド派生物とチオール基のカップリング等により生成)、ジスルフィド結合、フォスフォロアミダイト結合(リン酸基とアミノ基のカップリングにより生成)が含まれる。
【0024】
共有結合による固定方法の場合、結合の種類や溶液の性質に応じた加熱により遊離させることができる。例えば特願平8−240996号公報によると、一般的なPCRに用いられるTris−HCl緩衝液を室温付近でpH8〜9に調製されたものの場合、室温付近ではアミド結合に影響がない一方で、加熱するに従いpHの減少が生じると、加熱自身の効果と併せてアミド結合が不安定化し、95℃10分間程度の加熱によって、アミド結合によって固定されていた被固定試薬溶液セットの成分を有意に遊離させることができる。
またイミド結合の場合には、アミド結合に比較して加熱で切れやすいので、初期の熱変性を5分程度に短縮することができる。
【0025】
また非共有結合様式には、抗原抗体結合、アビジン−ビオチン結合、PDBA(Phenyldiboronic Acid)−SHA(Salicylhydroxamic Acid)結合、またポリリジン、ポリエチレンイミン、ポリアルキルアミン等のポリ陽イオンと核酸等のポリ陰イオンによる静電結合や疎水結合が含まれる。非共有結合による固定方法の場合、結合の種類に応じた加熱、例えば抗原抗体結合の場合には95℃数分間の加熱によって速やかに結合が解離し、固定されていた試薬を遊離させることができる。
共有結合または非共有結合による被固定試薬の固定量の制御は、チャンバ12、被固定試薬、及びそれらの修飾方法によって経験的に定まる、最大固定化量(固定化の飽和量)を基準にすることが望ましい。必要な固定量が最大固定化量を下回る場合は、被固定試薬と競合して固定化される試薬を混合することによって固定化量を調節することができる。必要な固定量が最大固定化量を上回る場合は、被固定試薬の結合サイトを多く持つスペーサー(ポリマーやデンドリマー等)をチャンバ12表面に導入することで最大固定化量を増加させることができる。
【0026】
更に、これらの他に、被固定試薬溶液セット溶液の上に蝋等を上層することにより、物理的に隔離する方法を使用できる。このような物理的隔離による固定方法では、被固定試薬溶液を速やかに遊離することができ、また化学的結合では固定化しにくい被固定試薬溶液セットの成分、例えばマグネシウムなどに対しても容易に適用できる。蝋によって固定化した場合には、選択された蝋の種類に応じた溶融温度、例えば95℃1分間の加熱によって容易に固定状態を解除することができる。また、被固定試薬溶液セットの成分を定量的に遊離させることができるので、被固定試薬溶液セット成分の濃度及び量の厳密な制御も容易に行うことができる。このような蝋としては、アンプリワックス(AmpliWax、アプライドバイオシステムズ)の他、特願平3−504571に挙げられるような、パラプラスト(シャーウッドメディカル)、ウルトラフレックス(ペトロライトコーポレーション)といった市販製品を挙げることができる。
【0027】
なおこのような固定法において反応試薬の添加量を制御するためには、チャンバ12の大きさの制御に加えて、被固定試薬溶液セット及び蝋等の容量を制御する必要がある。特に被固定試薬溶液セットの蒸発による液量のばらつきを抑制するため、十分な湿度管理を行って蒸発を防止するか、逆に溶媒を完全に蒸発させ、その上から蝋等でコーティングすることが望ましい。
【0028】
更に別の固定方法としては、各チャンバ12上に複数種類の核酸を直接合成する方法も挙げることができる。このような方法には、Fodor, S.P.A et al. Science, 251, 767−773 (1991) 等の技術を利用することができる。この場合には、光化学的に除去できる保護基で修飾したアミノ基を持つリンカーを、アルデヒド基を介してイミン結合で微小孔表面に結合させておき、反応部位のみを照射できるようなマスク(フォトリソグラフィックマスク)をかけて光照射する。次いで、同保護基をもつヌクレオチド単量体との最初のカップリング反応を行う。このサイクルを繰り返すことで所望の核酸を各微小孔表面に合成することができる。微小孔に残りのPCR反応溶液を添加後、95℃10分間の加熱により、微小孔表面のイミン結合が切れ、合成核酸を遊離させることができる。
【0029】
上記の固定方法による被固定試薬溶液セットの固定はいずれも、公知の試薬溶液や方法を用いて容易に実施できる。また、上記の共有又は非共有結合を行う場合は、必要に応じてチャンバ12表面の処理や固定試薬溶液の添加を、被固定試薬溶液添加の前後に行う必要がある。なお、固定後、未固定の被固定試薬溶液セットを蒸留水等でリンスすることが好ましい。
【0030】
次の添加工程では、反応試薬溶液セットが、未固定状態で各チャンバ12に添加される(図2中段)。
反応試薬溶液セットの添加量は、チャンバ12の容量合計量よりも過剰な容量とすることが好ましい。これにより、反応試薬溶液セットをすべてのチャンバ12へ確実に添加することができると共に添加のための操作回数を減らすことができる。またチャンバ12に反応試薬溶液を完全に満たすので、チャンバ作製時にチャンバ12の大きさを個別に設定(チャンバ12の大きさは同一でも異なってもよい)して制御しておけば、反応試薬溶液の添加量を、それぞれのチャンバ12について制御できる。また液量を制御することで、後段で遊離させる被固定試薬の最終濃度もより正確に制御できる。これらのことにより、反応の再現性及び定量性を高めることができる。ここで各チャンバ12の容量合計量よりも過剰の容量とは、ほぼ等量から相当量過剰な量までを含み、チップ10に添加した場合に、すべてのチャンバ12が試薬溶液セットで満たされ且つ少量の反応試薬溶液セットがチップ10から溢れる程度であることが好ましい。
【0031】
またこの場合、複数のチャンバ12を有するチップ10に対して、1回の操作ですべてのチャンバ12へ反応試薬溶液セットが行き渡るように添加することが好ましい。過剰量の反応試薬溶液セットによって複数のチャンバ12の液が連続したとしても、各チャンバ12には被固体試薬溶液セットが固定化されているので、隣接する他のチャンバ12にこの成分が移動することがない。
【0032】
次の密封工程では、試料DNAを含んだ反応溶液サブセットが各チャンバ12に一様に行き渡った後に、カバー板がチャンバ12上に密着するよう載置され(図2下段)、各チャンバ12が独立に密封される。カバー板14が基板上に密着する際に、反応試薬溶液セットの余剰分がカバー板14とチップ10との密着部分の外へ追い出される場合には、追い出された過剰な反応試薬溶液セットを、必要に応じて除去することが好ましい。
また、各チャンバ12内に気泡を入れないように注意することが好ましい。気泡が入ると各チャンバ12への反応試薬溶液セットの添加量が変化し、また後段で遊離する被固定試薬の濃度が変わることにより、再現性や定量性が失われ得る。さらに気泡は、蛍光等の光学的な分析を行う場合に励起光や発光を散乱させ、分析に悪影響を及ぼす恐れがある。
カバー板14によるチャンバ12の密封は、カバー板14の自重や圧着、或いは加熱によるチップ10の上面との密着によって達成されることが好ましい。
【0033】
これにより、各チャンバ12内の試薬溶液セット(被固定化試薬溶液セット及び反応試薬溶液セット)はいずれも、カバー板14によって、隣接する他のチャンバ12から完全に独立となり、他のチャンバ12内の試料セットに混入することがなく、チャンバ12内で試薬溶液を混合することができる。
【0034】
カバー板14によるチャンバ12の密封が完了すると、遊離工程では、各チャンバ12に固定化した被固定試薬溶液セットに対して、遊離処理が行われる。
この遊離方法は、固定方法に対応した方法が選択され、特に、後段のPCR処理に大きな悪影響を与えないものであることが好ましい。このような遊離方法には、加熱及び/又は光照射等が挙げられるが、PCR増幅への影響を考慮して行うことが更に好ましい。例えば加熱では主に増幅酵素の失活を抑制するため100℃以下であることが好ましく、また60℃以上では20分以内とすることが特に好ましい。一方、光照射により遊離させる場合には、DNAや酵素が吸収を持つ280nmより長い波長の光照射を選択することが好ましい。
【0035】
被固定反応試薬セットの成分は、遊離されることによってチャンバ12内で、反応溶液セットの成分と混合する。なお、チップ10のサイズが、固定状態を解除して遊離状態にするだけではチャンバ12内での各試薬成分が充分に混合・均一化しないサイズである場合には、遊離工程中又はその後で、例えば振動手段による混合工程を設けてもよい。
【0036】
遊離工程によって、チャンバ12での個別のPCR反応溶液の調製が完了すると、増幅工程においてPCR処理が開始され、チャンバ12内で核酸が増幅する。PCRは、公知の熱サイクルによってDNA断片の複製を繰り返し行い、特定のDNA断片を増幅するものであるが、一連の処理には既知の如何なる工程も含まれる。
【0037】
また、本増幅工程では、多種類のDNA断片の同時増幅に加え、公知技術により多種類のDNAの同時定量及び/又は多種類のDNA配列の同時変異解析も含むことができる。例えば、蛍光プローブを利用した増幅量の多点同時計測は、特許3041423を参考に行うことができる。
【0038】
従って、本実施の形態によれば、被固定反応試薬セットの成分が、予めチャンバ12の表面に固定され、反応試薬溶液セットを添加し、チャンバ12を密封した後で遊離状態となるので、被固定試薬溶液セットの成分が反応試薬溶液セットの添加時に他のチャンバ12に混入することがなく、複数のチャンバ12に対して反応試薬溶液セットを1回の操作で同時に添加することができる。このため、連続して複数の試薬溶液セットを添加してPCR処理を行う場合でも、実験操作を簡略化することができる。
【0039】
また、多種類のPCR反応溶液を簡便に調製することが可能となり、PCRを用いた操作の効率が向上し、遺伝子工学に関わる研究及び遺伝子診断等において大きく貢献することができる。
【0040】
次に図3を参照して、本発明の他の実施形態を説明する。
図3には、本発明の他の実施形態に係るチップ20が示されている。このチップ20には複数のチャンバ12が配置されていると共に、チャンバ12を画定するチップ20の上面には密着補助材26が配置されている。この密着補助材26は、チップ20の上面とカバー板14との間の夾雑物シール性を高めて密着性を向上させる密着補助物質で構成されている。
ここで用いられる密着補助材26としては、チップ20の上面に水分等が存在していても、圧着等の操作によりチップ20の上面とカバー板14との間の密着性を向上させてチャンバ12の密封性を高めることができる物質のものであれば如何なるものでも使用することができる。このような密着補助物質としては、レイキュアー4200シリーズPF(十條ケミカル)のようなUVまたは電子ビーム硬化性樹脂、PDMSや接着性液状シリコーンゴムTSE3033(GE東芝シリコーン)のような熱硬化性樹脂、シリコーンシール材TSE392(GE東芝シリコーン)のような湿度硬化性樹脂などが挙げられる。
【0041】
密着補助材26の配置方法は、用いられる材料の性質に応じて適宜決定され、スプレーコーティングなどによってチップ20の上面に密着補助物質を塗布してもよく、リソグラフィなどによって配置しても良い。
例えば、UV硬化性シリコーン樹脂の場合には、チップ20の上面全面に塗布した後にフォトマスクを配置して選択的にUVを照射することによって、位置選択的に塗布することができる。また、チップ20の上面のみに密着補助材26を配置するように設計されたスクリーンを用いたスクリーン印刷であれば、広範な種類の密着補助物質を塗布することもできる。
【0042】
このチップ20を使用する場合には、チャンバ12への反応試薬溶液セットの滴下を行った後、カバー板14をチップ20の上面に載置する。
このとき、チップ20の上面には、密着補助材26が配置されているので、カバー板14をその上に載置して圧着・加熱などを行うと、カバー板14とチップ20の上面とが密着補助材26を介してより強固に密着する。これにより、チャンバ12をより確実に密封状態にして、次の遊離工程及び混合工程において、隣接するチャンバ12の溶液が混入することを一層確実に防止することができる。これにより、チップ20でのPCR反応をより一層精度良く確実に行うことができる。
【0043】
また、密着補助材26は、チップ20の上面に直接配置されていてもよく、チップ20に対して用いられるカバー板14のチップ20との対向面に配置されてからチップ20の上面に間接的に配置されてもよい。チップ20の上面とカバー板14との双方に配置された場合には両者の密着がより強固となり、チャンバ12の密封性をより一層高くすることができる。カバー板14に配置可能な密着補助材26としては、チップ20の上面に配置可能な密着補助材26と同様のものを使用できるが、後段のステップでカバー板を通して蛍光等を測定する場合は、測定に必要な光波長域に吸収を持たない又は吸収の小さい材質を使用する必要がある。特に、チップ20に密着補助材26として自己接着性樹脂を配置した場合には、同種の自己接着性樹脂をカバー板14に配置することが好ましい。
なおカバー板14に密着補助材26の配置は、全面に一様に配置すればよいので、スピンコートやスプレー塗り、刷毛塗り等、一般的な塗布方法を用いることができる。
これにより、チャンバ12内でのPCR反応をより一層精度良く確実に行うことができる。
【0044】
なお、チップ20及びカバー板14に密着補助材26を配置する代わりに、チップ20及び/又はカバー板14全体を密着補助物質で構成してもよい。これにより密着補助材26を配置させる工程を省略することができる。このとき、チップ20について予め鋳型を作製しておくことによって、生産性よくチップ20を作製することができる。
【0045】
本発明の実施の形態では、DNA試料からDNA断片を増幅する場合について説明したが、DNA試料からRNAへの転写や、RNA試料から相補DNAへの逆転写の場合でも、転写反応または逆転写反応の工程をDNA増幅反応の工程に類似した様態で組み込むことにより、定量及び/又は核酸配列の変異解析を行うことができる。
【0046】
本発明の実施の形態では、被固定試薬溶液セットの成分の固定処理と反応試薬溶液セットの添加処理とを一連の作業で行っているが、これに限定されない。
例えば、専用のチップ製造施設にて被固定試薬溶液セットを固定した固定化チップを生産し、このような固定化チップを入手した後であってPCR処理を行う際に反応試薬溶液セットの添加を行うこともできる。この場合には、固定化チップを大量に生産することができると共に、PCR実験実施者は反応試薬溶液セットの添加から行えばよいので、一層、実験操作を簡略化することができる。さらにこの場合には、PCR試験の実施者は溶液定量吐出装置のような高価な装置を自ら導入することなく、簡便かつハイスループットな実験を行うことができる。
【0047】
また、上記のような被固定試薬溶液セットを予め固定化した固定化チップとして生産する場合には、このような成分固定化チップと、処理に必要な反応試薬溶液セットとを含む反応キットとして提供することもできる。このようなキットにすることによって、より一層作業性よく、PCR処理を行うことができる。
【0048】
本発明の実施の形態では、複数のチャンバ12を有するチップ10を用いて行うPCR処理について説明したが、これに限定されない。
例えば、チューブ型の反応器を連結させて使用する場合でも、複数の試薬溶液セットを連続的に添加することによって特定の処理を行う反応系であれば、本発明を同様に適用することができる。
【0049】
また、本発明の反応溶液調製方法及び反応容器は、微小スケールかつ複数の反応容器内での同時反応を対象とするものであれば、PCR反応に制限されるものではなく、複数種の反応溶液を一度に調製する用途として、例えば、LCR(LigaseChain Reaction)、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)、Invader Assay(Lyamichev V., Brow M. A. et al.(1993)Science, vol. 5109, p778)等の生化学反応や各種化学反応の溶液調製についても本発明を同様に適用することができる。
なお、固相合成のように反応に直接関与する試薬(反応物及び触媒)の一部の遊離を行わずに表面に結合させたまま反応させることも可能であるが、全ての試薬が液相中に存在する方が一般に反応効率が高いので、ペプチド合成や核酸合成などの固相逐次反応や、酵素固定等による試薬(触媒)の繰り返し使用を目的とする場合除いて、被固定試薬を全て遊離してから反応を行うことが望ましい。
【0050】
【実施例】
[実施例1]
共有結合による固定方法
シリコンウェハーを基板とし、異方エッチングにより作製された容積100pLのチャンバ12を有するチップ10を使用して、既知であるプライマーセット1:5’−ACCTGCGTTGCGTAAATA−3’、5’−GGGCGGGAGAAGTTGATG−3’及びプライマーセット2:5’−CCAAAAGCCAGACAGAGT−3’、5’−GCACAGCACATCCCCAAAGAG−3’を用いて、それぞれEshcherichia coliのgadAB及びuidA領域のPCRによる増幅を、別個のチャンバで独立に行う。
【0051】
チャンバ12の表面のシリコンを、酸素雰囲気下900℃の加熱によって酸化し、γ−APTES(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)によりアミノ基を導入する。さらにグルタルアルデヒドによりイミン結合を介してアルデヒド基を導入後、アミノ基修飾のプライマー溶液を被固定試薬溶液サブセットとしてチャンバ12毎に滴下する。プライマーセット1及び2を別個のチャンバ12へ滴下する。チャンバ12表面のアルデヒド基とプライマーのアミノ基との間が縮合してイミン結合が形成され、各チャンバ12に滴下したプライマーが固定される。
リンス後、反応溶液サブセット、すなわち試料DNA、緩衝液、マグネシウム、BSA、増幅酵素(Clontech社製)、及び蛍光色素SYBR Green I(Molecular Probes 社製)の混合溶液をピペッティングでチップ10上に1回の操作によって一様に添加する。
【0052】
カバーガラスを載せ圧着して密封した後、95℃、10分間加熱する。これにより、イミン結合によってチャンバ12に固定されていた固定化プライマーが、チャンバ12から遊離して他の試薬成分と混合し、PCR反応溶液の調製が完了する。このとき、隣接する他のチャンバ12の試薬溶液が混入したチャンバ12は認められない。
その後、通常、この用途に使用される既知のポリメラーゼを使用してPCR処理を既知の条件にしたがって実施し、次いでPCR反応中に蛍光強度をモニタリングすることにより公知の方法で試料DNAの定量を行う。
【0053】
この一連の操作によって、チャンバ12内の試薬溶液が他のチャンバ12に混入することなく、かつ操作性よく、各チャンバ12内において適切にPCR処理を行うことができる。
共有結合で固定する方法は、結合様式によっては遊離に時間がかかり、被固定試薬がPCR反応中に徐々に溶液に放出されることになる(徐放性)。PCR反応の初期は溶液中にテンプレートDNAが少ないので、通常の反応条件では適切なプライミング対象を持たないプライマーが大量に存在し、これがプライマーダイマー等の副産物の発生を誘発する。プライマーを共有結合で固定する場合、徐放性により反応初期のプライマー濃度を抑えることができ、副産物生成を抑制できる。
【0054】
[実施例2]
非共有結合による固定方法
チャンバ12へのアミノ基導入までは実施例1と同様に行う。その後、抗ビオチン抗体をチャンバ12に一様に添加し、NHS(N−ヒドロキシコハク酸イミド)−EDC(塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)により抗体のカルボキシル基を活性化し、チャンバ12表面のアミノ基との脱水縮合により抗体をチャンバ12に固定化し、チャンバ12の表面処理を終了する。チャンバ12内をリンス後、作製されたビオチン化プライマーを、被固定試薬溶液セットとしてチャンバ12毎に滴下し、抗ビオチン化抗体と結合させる。これにより、ビオチン化プライマーがチャンバ12に固定される。
その後、加熱処理を95℃、1分間とした以外は実施例1と同様に行って、固定化プライマーを遊離させ、PCR処理を行う。
【0055】
実施例2では、実施例1と同様に、チャンバ12内の試薬溶液が他のチャンバ12に混入することなく、かつ操作性よく、各チャンバ12内において適切にPCR処理を行うことができる。
またこの方法では、抗体を用いているので、熱による抗原抗体結合の遊離が比較的速く、反応の迅速化や増幅酵素の失活抑制を図りつつ、適切にPCR処理を操作性よく行うことができる。
【0056】
[実施例3]
物理的隔離による固定方法
チャンバ12の容量を10μLとした以外は、実施例1と同様に加工したチャンバ12を使用する。
プライマー及び塩化マグネシウムを被固定試薬溶液セットとしてチャンバ12毎に滴下した後、加熱で溶融させた蝋をチャンバ12毎に滴下、徐冷して、被固定試薬溶液セットに上層した状態で蝋を凝固させる。その後、加熱処理を95℃、1分間とした以外は実施例1と同様に行って、固定化プライマーを遊離させ、PCR処理を行う。
【0057】
実施例3では、実施例1と同様に、チャンバ12内の試薬溶液が他のチャンバ12に混入することなく、各チャンバ12内において適切にPCR処理を操作性よく行うことができる。実施例1及び2では、被固定試薬及びチャンバ12の化学修飾(活性基導入、カップリング等)が必要であったが、実施例3では不要である。
【0058】
[実施例4]
実施例1と同様にシリコンウェハーを基板として異方エッチングを施して、容積100pLのチャンバ12を得る。次いで、UV硬化性シリコーン樹脂をチップ10の上面にスピンコートにより塗布してから、上面のみにUVが照射されるようにフォトマスクをチップ10上に配置して、UVを照射する。その後、未硬化部分を除去して、チャンバ12周囲にUV硬化性樹脂が選択的に配置されたチップ12を得る。
【0059】
それから実施例1と同様にしてアミノ基を導入し、25%グルタルアルデヒド水溶液中に40℃、12時間浸漬してアルデヒド基を導入し、アセトンでリンスする。次に、プライマー溶液を被固定試薬サブセットとしてチャンバ12毎に滴下する。これにより実施例1と同様にチャンバ12表面のアルデヒド基とプライマーのアミノ基との間をイミン結合によって固定する。
【0060】
すべての試薬セットのチャンバ12への添加が完了すると、カバー板14をチップ20上に載せる。このとき、チップ20の上面には密着補助材26としてのUV硬化性シリコーン樹脂が塗布されているので、カバー板14を載せて圧力をかけることによって、カバー板14とチップ20とがより強固に密着する。その後、実施例1と同様にしてPCR反応処理を行う。
【0061】
本実施例によれば、チップ20の上面に密着補助材26として接着性樹脂PDMSが配置されているので、チャンバ12の密封性がよく、隣接するチャンバ12の反応溶液が他のチャンバ12に移動して混じることがない。このため精度良く反応を行うことができる。
またアミド結合に比較して加熱で切れやすいイミン結合によってプライマーをチャンバ12の表面に固定しているので、初期の熱変性に必要な時間を短縮することができる。
【0062】
[実施例5]
ネガティブ型レジスト SU−8 50(Micro Chem社製)をシリコン基板に塗布して、フォトリソグラフィーによりチップ20の鋳型を作製する。この鋳型に、PDMS(ダウコーニング社製)を流し込み、80℃で1時間、硬化させることにより、500μm×500μm角、深さ100μm、0.025μLのチャンバ12を複数有する樹脂製のチップ20を作製する。
またスライドガラスにPDMS(ダウコーニング社製)を滴下してヘラで全面に延ばしてやや厚塗りし(1mm厚程度)、複写機用OHPシート(住友スリーエム)、押さえ用のスライドガラスを順に被せ、クランプを使用して挟み込んだ状態で80℃、1時間加熱して硬化させる。クランプ、押さえ用のスライドガラスを取り除き、OHPシートをから剥がすことにより、PDMSが片面に一様に配置されたカバー板14を作製する。
【0063】
このチップ20に対して、反応性イオンエッチング装置(SAMCO社製:RIE−10NR)を用いて酸素プラズマ処理(200W、O2、8.8Pa、4分間)し、続けて2%3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Avodado Chem.社)のアセトン溶液に30分間浸漬して、チャンバ12表面にアミノ基を導入する。
【0064】
被修飾のプライマー溶液を被固定試薬サブセットとしてチャンバ12毎に滴下する。チャンバ12内に滴下されたプライマーとチャンバ12表面のアミノ基との間で静電結合が生じ、チャンバ12の表面にプライマーが固定される。
リンス後、反応溶液サブセット(DNA、最終濃度1.0〜5.0mMのマグネシウム、及びPCR酵素ミックス(Roche Diagnostics社製、LightCycler FastStart DNA Master SYBR Green I)の混合溶液)を、ピペッティングでチップ20上に一様に添加する。
【0065】
反応溶液サブセットをチップ20上に添加した後、PDMSコーティング済の面をチップ20側に向けてカバー板14をチップ20上に載置し、ホフマン式ピンチコックで圧着・密封する。このとき、チップ20全体が自己接着性のあるPDMS樹脂で構成されているため、カバー板14のPDMSと強固に密着する。その後、95℃、10分間の加熱を行って固定化プライマーを遊離させPCR反応溶液の調製を完了し、実施例1と同様にしてPCR反応処理を行う。
【0066】
本実施例によれば、チップ20とカバー板14の接触面とが自己接着性の樹脂で構成されているので、チャンバ12の密封性を一層高くすることができ、他のチャンバ12の反応液の混入をより一層確実に防止することができる。
またチップ20自体を自己接着性の樹脂で構成しているので、チップ20表面に接着性樹脂を塗布する工程を省略することができる。
更に、鋳型を利用してチップ20を作製することができるので、一度鋳型を作製しておけば有用なチップ20を生産性良く作製することができる。
【0067】
【発明の効果】
本発明によれば、本発明は、複数の試薬溶液を混合して得られる反応溶液を複数調製する場合であっても、同一の操作を必要以上に繰り返すことなく簡便に調製することができる反応溶液調製方法及び反応容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態にかかるチップの部分斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる核酸増幅方法を説明する図である。
【図3】本発明の他の実施の形態にかかるチップの部分斜視図である。
【符号の説明】
10 チップ(基板)
12 チャンバ(反応器、微小孔)
14 カバー板
20 チップ(基板)
26 密着補助材
【発明の属する技術分野】
本発明は、反応溶液調製方法及び反応容器に関し、特に、基板上の複数の微小孔中での反応のための反応溶液を調製する溶液調製方法及び、複数の微小スケールの反応溶液の調製及び反応を行うための、試薬を含む反応容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
DNAマイクロアレイの技術開発により、生体中の微量な核酸試料から、多種類の同時検出・定量および/または多種類の核酸配列の変異解析、特に一塩基変異の同時解析が簡便に行うことができるようになった。
これらの解析を行うための前処理として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNAの増幅がほとんどの場合に必須となる。試料がRNAの場合でも、DNAに逆転写してからPCRを行うことが多い。
【0003】
核酸の定量やDNA変異解析用のPCRの場合、多種類の検出対象DNA断片を増幅するためには本来、使用するプライマーのペア毎に別々の反応容器で増幅を行う必要があり、ペアの種類が増えると非常に実験操作が煩雑になる。
また、複数のチャンバを有する基板上で同時に複数の核酸を増幅させることが行われているが、各チャンバの反応が混じり合わないように試薬溶液を投入しなければならず、同一操作の繰り返しが要求されている。
【0004】
上記操作を簡略化するために、複数種のプライマーペアを混合した状態で複合PCRを行うことがある。また、複数の反応ウェルにおいて反応溶液が混合しないように、特許文献1ではカバーガラスとマイクロウェル集積体との間に膜を配置させている。特許文献2では、反応チューブ中においてPCR試薬の寿命を延ばすと共に溶液の混合を対流混合により行うために蝋を配置させたPCR反応チューブを開示している。
【0005】
【特許文献1】
特許第3041423号公報
【特許文献2】
特許第3078907号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、複数種のプライマーペアを用いた混合PCRでは、増幅の競合により目的のDNA断片の収率が低下したり不安定になる。また目的以外のDNA断片の増幅を誘発する可能性が高くなる。このような事象は正確な定量及び変異解析には好ましくない。
また同一操作を繰り返すといった操作上の煩雑さは、PCRに限らず、特定反応のために試薬溶液を調製する場合も同様である。特に、複数の反応チャンバが連続しているプレートなどを使用して複数種の反応溶液を調製する際に、問題となる。
本発明は、複数の試薬溶液を混合して得られる反応溶液を複数調製する場合であっても、同一の操作を必要以上に繰り返すことなく簡便に調製することができる反応溶液調製方法及び反応容器を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の溶液調製方法は、基板上の複数の微小孔中での反応のための溶液調製方法において、前記反応溶液から選択された被固定試薬を、遊離状態に変更可能な方法によって前記複数微小孔の表面上に固定する工程と、前記反応溶液のうちの残りの試薬を、各微小孔に添加する工程と、各微小孔を密封する工程と、前記固定方法に応じた方法によって各微小孔表面に固定された被固定試薬を遊離して前記残りの試薬と混合する工程を含むことを特徴としている。
【0008】
この方法によれば、被固定試薬を予め微小孔に固定してから残りの試薬を添加し、その後、被固定試薬を遊離状態にしてから前記残りの試薬と混合するので、被固定試薬が遊離状態となる時期を調整することができる。これにより、該残りの試薬溶液を添加する際に、被固定試薬溶液の成分が固定された状態を維持することができる。また、他の微小孔中の試薬と混じり合わないように個々の微小孔のそれぞれに投入するといった手間を排除することができる。この結果、残りの試薬を2つ以上の微小孔に対して同時に添加することができ、煩雑な作業を簡略化することができる。
【0009】
また、前記残りの試薬が、各微小孔容量の合計に対し過剰量で且つ1回の操作で、前記基板に添加されることが好ましい。この場合には、より少ない操作回数で容易に反応溶液を調製することができる。
さらに、本発明の他の形態では、微小孔を密封した後に、さらに、過剰な前記残りの試薬を排出する工程を含むことを特徴としている。
本発明において、固定方法は、蝋の層による物理的な隔離によるものであってもよく、共有結合又は非共有結合によるものであってもよい。
また本発明の更に他の形態では、前記微小孔を画定する基板表面に密着補助材を直接的又は間接的に配置する工程を更に含み、前記密封工程における微小孔の密封性が、該密着補助材によって向上することを特徴としている。
ここで密着補助材を直接的又は間接的に配置するとは、基板表面に直接配置させるだけでなく、他の部材、例えば密封手段に配置させてから基板表面に配置させる場合を含むことを意味する。なお、密着補助材は、基板表面に配置されていればよく、微小孔が密封されれば基板表面の一部に配置されていても表面全面に配置されていてもよく、さらには基板及び/又は他の部材、例えば密封手段の全体として配置されていてもよい。
【0010】
本発明の反応容器は、複数の微小スケールの反応溶液の調製及び反応を行うための、試薬を含む反応容器であって、基板上の複数の微小孔を反応容器とし、反応溶液の被固定溶液を遊離状態に変更可能な方法によって前記複数微小孔の表面上に固定されていることを特徴としている。
また本発明の他の反応容器は、基板上に密着補助材が配置されていることを特徴としている。
【0011】
ここで、本発明では、前記反応がポリメラーゼ連鎖反応であることが好ましい。
また、前記微小孔が、0.1pL以上100μL以下の大きさであることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施形態を、添付図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応する部分を示すものとする。
【0013】
図1は、本実施の形態で使用される核酸増幅用のチップ10の一部が示されており、このチップ10上には、チャンバ12(本発明における反応器又は微小孔に相当)が複数設けられている。
【0014】
チップ10の材質はシリコン、ガラス、石英、またはポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン、ポリカーボネート及びポリイミド等のポリマー等、この分野で通常既知のもののいずれも用いることができる。PCR反応が加熱処理を必要とすることを考慮すれば、耐熱性であることが好ましい。ポリメラーゼ増幅反応の阻害を防止するために、必要に応じて既知の表面処理を行う。例えばシリコンでは表面を熱酸化しておき、PCR反応溶液中にBSA(ウシ血清アルブミン)を添加することで反応阻害を防止できる。チャンバ12は、公知の半導体微細加工技術等を応用して直接作製するか、鋳型を作製後に射出成型等で作製できる。チャンバ12の形状は、逆四角錐型、四角柱型、六角柱型、半球型等様々な形状から適宜選択することができる。チップ10に設けられるチャンバ12の数は、チップ10のサイズに応じて選択することができる。チップ10上のチャンバ12の数及び配置の密度は、この分野で通常行われているものをそのまま採用することができ、特に制限されない。このチャンバ12の壁面に、後述する被固定反応溶液の成分が固定される。
【0015】
チャンバ12の容量は0.1pL以上100μL以下の範囲であり、好ましくは10pL以上1μL以下、更に好ましくは100pL以上1μL以下である。0.1pL以上であれば、微小孔の大きさ制御、後述の被固定試薬溶液の分注位置決め、また増幅後におけるDNA断片の解析が容易となる。100μL以下であれば、所要の試料DNA量を適度な量に抑えると共に試薬溶液の混合状態を十分に保つことができ、PCR処理における熱効率を著しく下げることがない。ただし、他の手段を用いて又は用いずに、これらの影響が大きくならない場合には、チャンバ12の容量はこれらの範囲外でもよい。
【0016】
チップ10の上面には、密封手段としてのカバー板14(図2参照)が載置される。このカバー板14には、チップ10の上面に密着するものであって、後段の分析方法に応じた材質のものが選択される。例えば増幅DNAを蛍光試薬を用いて検出したい場合には、ガラス等の励起光及び蛍光透過性の材質のものが使用される。
【0017】
このカバー板14は、チップ10上のチャンバ12を一度にすべて覆うサイズであることが好ましい。このようなサイズであれば、チップ10に対してカバー板14を1枚用意すれば足りるが、チップ10上のチャンバ12の一部のみを使用する場合には、使用するチャンバ12の範囲に対応したサイズであってもよい。
【0018】
次に図2を参照しながら本発明の反応溶液調製方法に従った核酸増幅方法を説明する。
本核酸増幅方法では、核酸増幅のための1セットの試薬溶液を用いて、固定工程と、添加工程と、密封工程と、遊離工程と、増幅工程とを含む一連の工程によって、DNAが増幅される。
【0019】
ここで用いられる核酸増幅のための試薬溶液セットには、PCR及びその後の分析に必要なすべての試薬溶液が含まれ、例えば、1組のプローブ、鋳型となる目的DNA又はRNA、ポリメラーゼなどが該当する。試薬溶液セットは、被固定試薬溶液セットと反応試薬溶液セットとに選別される。ここで被固定試薬溶液セットとは、この試薬溶液セットの一部であり、各チャンバ12に先に添加されると共に、その成分が、後述する固定の工程でチャンバ12表面に固定化されるものを指す。なお、本発明では、「被固定試薬溶液セット」との用語には、2種以上の試薬溶液を含む場合のみならず、1種類のみの試薬溶液を被固定試薬溶液セットとする場合にも用いられる。反応試薬溶液セットとは、PCRとその後の分析に必要なすべての試薬溶液セットから被固定試薬溶液セットを除いた残りの試薬溶液を指す。
【0020】
被固定試薬溶液セットには、チャンバ12毎に異なる試薬を選択することができる。例えばチャンバ12毎に異なるDNA断片を増幅したい場合は、被固定試薬溶液セットに異なる種類のプライマーを含める。またDNA増幅後の分析に必要な試薬溶液、例えば蛍光標識DNAプローブについても、チャンバ12毎に異なるものを添加したい場合は被固定試薬溶液セットに含める。このようにチャンバ12毎に異なる種類の被固定試薬溶液セットを使用することは、1つのチップで複数種の核酸を増幅することができるので、好ましい。なお、各チャンバ12に共通して使用される試薬溶液も、被固定試薬溶液セットに含めてもよい。
【0021】
固定工程では、試薬溶液セットから選択された被固定試薬溶液セットが各チャンバ12に添加され、その成分がチャンバ12の表面に固定される。
被固定試薬溶液セットの添加は水溶液の状態で行う(図2上段)。このとき、操作の簡略化及び正確さを期するために溶液定量吐出装置を使用するのが望ましい。マイクロメートル単位オーダーの溶液吐出の位置決めや溶液のピコリットル単位オーダーの定量的吐出には、公知の装置・方法を使用することができる。被固定試薬溶液セットが、複数種の試薬溶液で構成される場合、各チャンバ12に別々に添加してもよいが、固定化の効率を一定にするために予め混合してから添加する方が望ましい。
【0022】
添加された試薬溶液は、次にチャンバ12内に固定される。ここでいう固定とは、チャンバ12に添加後、チャンバ12に反応試薬溶液を新たに添加しても、反応試薬溶液に被固定試薬溶液セットの成分が混入しない状態にすると共に、後述する特定の遊離条件にすることによって容易に固定状態が解除されるものをいう。特に、室温及び/又は暗所のような特定の状態に一時的又は持続的にすることによって、被固定試薬溶液セットの成分を遊離するものが好ましい。
【0023】
このような固定方法としては、共有結合によるもの、非共有結合によるものが挙げられる。共有結合様式には、アミド結合、エステル結合、イミン結合(アルデヒド基とアミノ基のカップリングにより生成)、アミン結合(エポキシ基とアミノ基のカップリング等により生成)、尿素結合(イソシアナート基とアミノ基のカップリングにより生成)、チオ尿素結合(イソチオシアナート基とアミノ基のカップリングにより生成)、チオエーテル結合(マレイミド派生物とチオール基のカップリング等により生成)、ジスルフィド結合、フォスフォロアミダイト結合(リン酸基とアミノ基のカップリングにより生成)が含まれる。
【0024】
共有結合による固定方法の場合、結合の種類や溶液の性質に応じた加熱により遊離させることができる。例えば特願平8−240996号公報によると、一般的なPCRに用いられるTris−HCl緩衝液を室温付近でpH8〜9に調製されたものの場合、室温付近ではアミド結合に影響がない一方で、加熱するに従いpHの減少が生じると、加熱自身の効果と併せてアミド結合が不安定化し、95℃10分間程度の加熱によって、アミド結合によって固定されていた被固定試薬溶液セットの成分を有意に遊離させることができる。
またイミド結合の場合には、アミド結合に比較して加熱で切れやすいので、初期の熱変性を5分程度に短縮することができる。
【0025】
また非共有結合様式には、抗原抗体結合、アビジン−ビオチン結合、PDBA(Phenyldiboronic Acid)−SHA(Salicylhydroxamic Acid)結合、またポリリジン、ポリエチレンイミン、ポリアルキルアミン等のポリ陽イオンと核酸等のポリ陰イオンによる静電結合や疎水結合が含まれる。非共有結合による固定方法の場合、結合の種類に応じた加熱、例えば抗原抗体結合の場合には95℃数分間の加熱によって速やかに結合が解離し、固定されていた試薬を遊離させることができる。
共有結合または非共有結合による被固定試薬の固定量の制御は、チャンバ12、被固定試薬、及びそれらの修飾方法によって経験的に定まる、最大固定化量(固定化の飽和量)を基準にすることが望ましい。必要な固定量が最大固定化量を下回る場合は、被固定試薬と競合して固定化される試薬を混合することによって固定化量を調節することができる。必要な固定量が最大固定化量を上回る場合は、被固定試薬の結合サイトを多く持つスペーサー(ポリマーやデンドリマー等)をチャンバ12表面に導入することで最大固定化量を増加させることができる。
【0026】
更に、これらの他に、被固定試薬溶液セット溶液の上に蝋等を上層することにより、物理的に隔離する方法を使用できる。このような物理的隔離による固定方法では、被固定試薬溶液を速やかに遊離することができ、また化学的結合では固定化しにくい被固定試薬溶液セットの成分、例えばマグネシウムなどに対しても容易に適用できる。蝋によって固定化した場合には、選択された蝋の種類に応じた溶融温度、例えば95℃1分間の加熱によって容易に固定状態を解除することができる。また、被固定試薬溶液セットの成分を定量的に遊離させることができるので、被固定試薬溶液セット成分の濃度及び量の厳密な制御も容易に行うことができる。このような蝋としては、アンプリワックス(AmpliWax、アプライドバイオシステムズ)の他、特願平3−504571に挙げられるような、パラプラスト(シャーウッドメディカル)、ウルトラフレックス(ペトロライトコーポレーション)といった市販製品を挙げることができる。
【0027】
なおこのような固定法において反応試薬の添加量を制御するためには、チャンバ12の大きさの制御に加えて、被固定試薬溶液セット及び蝋等の容量を制御する必要がある。特に被固定試薬溶液セットの蒸発による液量のばらつきを抑制するため、十分な湿度管理を行って蒸発を防止するか、逆に溶媒を完全に蒸発させ、その上から蝋等でコーティングすることが望ましい。
【0028】
更に別の固定方法としては、各チャンバ12上に複数種類の核酸を直接合成する方法も挙げることができる。このような方法には、Fodor, S.P.A et al. Science, 251, 767−773 (1991) 等の技術を利用することができる。この場合には、光化学的に除去できる保護基で修飾したアミノ基を持つリンカーを、アルデヒド基を介してイミン結合で微小孔表面に結合させておき、反応部位のみを照射できるようなマスク(フォトリソグラフィックマスク)をかけて光照射する。次いで、同保護基をもつヌクレオチド単量体との最初のカップリング反応を行う。このサイクルを繰り返すことで所望の核酸を各微小孔表面に合成することができる。微小孔に残りのPCR反応溶液を添加後、95℃10分間の加熱により、微小孔表面のイミン結合が切れ、合成核酸を遊離させることができる。
【0029】
上記の固定方法による被固定試薬溶液セットの固定はいずれも、公知の試薬溶液や方法を用いて容易に実施できる。また、上記の共有又は非共有結合を行う場合は、必要に応じてチャンバ12表面の処理や固定試薬溶液の添加を、被固定試薬溶液添加の前後に行う必要がある。なお、固定後、未固定の被固定試薬溶液セットを蒸留水等でリンスすることが好ましい。
【0030】
次の添加工程では、反応試薬溶液セットが、未固定状態で各チャンバ12に添加される(図2中段)。
反応試薬溶液セットの添加量は、チャンバ12の容量合計量よりも過剰な容量とすることが好ましい。これにより、反応試薬溶液セットをすべてのチャンバ12へ確実に添加することができると共に添加のための操作回数を減らすことができる。またチャンバ12に反応試薬溶液を完全に満たすので、チャンバ作製時にチャンバ12の大きさを個別に設定(チャンバ12の大きさは同一でも異なってもよい)して制御しておけば、反応試薬溶液の添加量を、それぞれのチャンバ12について制御できる。また液量を制御することで、後段で遊離させる被固定試薬の最終濃度もより正確に制御できる。これらのことにより、反応の再現性及び定量性を高めることができる。ここで各チャンバ12の容量合計量よりも過剰の容量とは、ほぼ等量から相当量過剰な量までを含み、チップ10に添加した場合に、すべてのチャンバ12が試薬溶液セットで満たされ且つ少量の反応試薬溶液セットがチップ10から溢れる程度であることが好ましい。
【0031】
またこの場合、複数のチャンバ12を有するチップ10に対して、1回の操作ですべてのチャンバ12へ反応試薬溶液セットが行き渡るように添加することが好ましい。過剰量の反応試薬溶液セットによって複数のチャンバ12の液が連続したとしても、各チャンバ12には被固体試薬溶液セットが固定化されているので、隣接する他のチャンバ12にこの成分が移動することがない。
【0032】
次の密封工程では、試料DNAを含んだ反応溶液サブセットが各チャンバ12に一様に行き渡った後に、カバー板がチャンバ12上に密着するよう載置され(図2下段)、各チャンバ12が独立に密封される。カバー板14が基板上に密着する際に、反応試薬溶液セットの余剰分がカバー板14とチップ10との密着部分の外へ追い出される場合には、追い出された過剰な反応試薬溶液セットを、必要に応じて除去することが好ましい。
また、各チャンバ12内に気泡を入れないように注意することが好ましい。気泡が入ると各チャンバ12への反応試薬溶液セットの添加量が変化し、また後段で遊離する被固定試薬の濃度が変わることにより、再現性や定量性が失われ得る。さらに気泡は、蛍光等の光学的な分析を行う場合に励起光や発光を散乱させ、分析に悪影響を及ぼす恐れがある。
カバー板14によるチャンバ12の密封は、カバー板14の自重や圧着、或いは加熱によるチップ10の上面との密着によって達成されることが好ましい。
【0033】
これにより、各チャンバ12内の試薬溶液セット(被固定化試薬溶液セット及び反応試薬溶液セット)はいずれも、カバー板14によって、隣接する他のチャンバ12から完全に独立となり、他のチャンバ12内の試料セットに混入することがなく、チャンバ12内で試薬溶液を混合することができる。
【0034】
カバー板14によるチャンバ12の密封が完了すると、遊離工程では、各チャンバ12に固定化した被固定試薬溶液セットに対して、遊離処理が行われる。
この遊離方法は、固定方法に対応した方法が選択され、特に、後段のPCR処理に大きな悪影響を与えないものであることが好ましい。このような遊離方法には、加熱及び/又は光照射等が挙げられるが、PCR増幅への影響を考慮して行うことが更に好ましい。例えば加熱では主に増幅酵素の失活を抑制するため100℃以下であることが好ましく、また60℃以上では20分以内とすることが特に好ましい。一方、光照射により遊離させる場合には、DNAや酵素が吸収を持つ280nmより長い波長の光照射を選択することが好ましい。
【0035】
被固定反応試薬セットの成分は、遊離されることによってチャンバ12内で、反応溶液セットの成分と混合する。なお、チップ10のサイズが、固定状態を解除して遊離状態にするだけではチャンバ12内での各試薬成分が充分に混合・均一化しないサイズである場合には、遊離工程中又はその後で、例えば振動手段による混合工程を設けてもよい。
【0036】
遊離工程によって、チャンバ12での個別のPCR反応溶液の調製が完了すると、増幅工程においてPCR処理が開始され、チャンバ12内で核酸が増幅する。PCRは、公知の熱サイクルによってDNA断片の複製を繰り返し行い、特定のDNA断片を増幅するものであるが、一連の処理には既知の如何なる工程も含まれる。
【0037】
また、本増幅工程では、多種類のDNA断片の同時増幅に加え、公知技術により多種類のDNAの同時定量及び/又は多種類のDNA配列の同時変異解析も含むことができる。例えば、蛍光プローブを利用した増幅量の多点同時計測は、特許3041423を参考に行うことができる。
【0038】
従って、本実施の形態によれば、被固定反応試薬セットの成分が、予めチャンバ12の表面に固定され、反応試薬溶液セットを添加し、チャンバ12を密封した後で遊離状態となるので、被固定試薬溶液セットの成分が反応試薬溶液セットの添加時に他のチャンバ12に混入することがなく、複数のチャンバ12に対して反応試薬溶液セットを1回の操作で同時に添加することができる。このため、連続して複数の試薬溶液セットを添加してPCR処理を行う場合でも、実験操作を簡略化することができる。
【0039】
また、多種類のPCR反応溶液を簡便に調製することが可能となり、PCRを用いた操作の効率が向上し、遺伝子工学に関わる研究及び遺伝子診断等において大きく貢献することができる。
【0040】
次に図3を参照して、本発明の他の実施形態を説明する。
図3には、本発明の他の実施形態に係るチップ20が示されている。このチップ20には複数のチャンバ12が配置されていると共に、チャンバ12を画定するチップ20の上面には密着補助材26が配置されている。この密着補助材26は、チップ20の上面とカバー板14との間の夾雑物シール性を高めて密着性を向上させる密着補助物質で構成されている。
ここで用いられる密着補助材26としては、チップ20の上面に水分等が存在していても、圧着等の操作によりチップ20の上面とカバー板14との間の密着性を向上させてチャンバ12の密封性を高めることができる物質のものであれば如何なるものでも使用することができる。このような密着補助物質としては、レイキュアー4200シリーズPF(十條ケミカル)のようなUVまたは電子ビーム硬化性樹脂、PDMSや接着性液状シリコーンゴムTSE3033(GE東芝シリコーン)のような熱硬化性樹脂、シリコーンシール材TSE392(GE東芝シリコーン)のような湿度硬化性樹脂などが挙げられる。
【0041】
密着補助材26の配置方法は、用いられる材料の性質に応じて適宜決定され、スプレーコーティングなどによってチップ20の上面に密着補助物質を塗布してもよく、リソグラフィなどによって配置しても良い。
例えば、UV硬化性シリコーン樹脂の場合には、チップ20の上面全面に塗布した後にフォトマスクを配置して選択的にUVを照射することによって、位置選択的に塗布することができる。また、チップ20の上面のみに密着補助材26を配置するように設計されたスクリーンを用いたスクリーン印刷であれば、広範な種類の密着補助物質を塗布することもできる。
【0042】
このチップ20を使用する場合には、チャンバ12への反応試薬溶液セットの滴下を行った後、カバー板14をチップ20の上面に載置する。
このとき、チップ20の上面には、密着補助材26が配置されているので、カバー板14をその上に載置して圧着・加熱などを行うと、カバー板14とチップ20の上面とが密着補助材26を介してより強固に密着する。これにより、チャンバ12をより確実に密封状態にして、次の遊離工程及び混合工程において、隣接するチャンバ12の溶液が混入することを一層確実に防止することができる。これにより、チップ20でのPCR反応をより一層精度良く確実に行うことができる。
【0043】
また、密着補助材26は、チップ20の上面に直接配置されていてもよく、チップ20に対して用いられるカバー板14のチップ20との対向面に配置されてからチップ20の上面に間接的に配置されてもよい。チップ20の上面とカバー板14との双方に配置された場合には両者の密着がより強固となり、チャンバ12の密封性をより一層高くすることができる。カバー板14に配置可能な密着補助材26としては、チップ20の上面に配置可能な密着補助材26と同様のものを使用できるが、後段のステップでカバー板を通して蛍光等を測定する場合は、測定に必要な光波長域に吸収を持たない又は吸収の小さい材質を使用する必要がある。特に、チップ20に密着補助材26として自己接着性樹脂を配置した場合には、同種の自己接着性樹脂をカバー板14に配置することが好ましい。
なおカバー板14に密着補助材26の配置は、全面に一様に配置すればよいので、スピンコートやスプレー塗り、刷毛塗り等、一般的な塗布方法を用いることができる。
これにより、チャンバ12内でのPCR反応をより一層精度良く確実に行うことができる。
【0044】
なお、チップ20及びカバー板14に密着補助材26を配置する代わりに、チップ20及び/又はカバー板14全体を密着補助物質で構成してもよい。これにより密着補助材26を配置させる工程を省略することができる。このとき、チップ20について予め鋳型を作製しておくことによって、生産性よくチップ20を作製することができる。
【0045】
本発明の実施の形態では、DNA試料からDNA断片を増幅する場合について説明したが、DNA試料からRNAへの転写や、RNA試料から相補DNAへの逆転写の場合でも、転写反応または逆転写反応の工程をDNA増幅反応の工程に類似した様態で組み込むことにより、定量及び/又は核酸配列の変異解析を行うことができる。
【0046】
本発明の実施の形態では、被固定試薬溶液セットの成分の固定処理と反応試薬溶液セットの添加処理とを一連の作業で行っているが、これに限定されない。
例えば、専用のチップ製造施設にて被固定試薬溶液セットを固定した固定化チップを生産し、このような固定化チップを入手した後であってPCR処理を行う際に反応試薬溶液セットの添加を行うこともできる。この場合には、固定化チップを大量に生産することができると共に、PCR実験実施者は反応試薬溶液セットの添加から行えばよいので、一層、実験操作を簡略化することができる。さらにこの場合には、PCR試験の実施者は溶液定量吐出装置のような高価な装置を自ら導入することなく、簡便かつハイスループットな実験を行うことができる。
【0047】
また、上記のような被固定試薬溶液セットを予め固定化した固定化チップとして生産する場合には、このような成分固定化チップと、処理に必要な反応試薬溶液セットとを含む反応キットとして提供することもできる。このようなキットにすることによって、より一層作業性よく、PCR処理を行うことができる。
【0048】
本発明の実施の形態では、複数のチャンバ12を有するチップ10を用いて行うPCR処理について説明したが、これに限定されない。
例えば、チューブ型の反応器を連結させて使用する場合でも、複数の試薬溶液セットを連続的に添加することによって特定の処理を行う反応系であれば、本発明を同様に適用することができる。
【0049】
また、本発明の反応溶液調製方法及び反応容器は、微小スケールかつ複数の反応容器内での同時反応を対象とするものであれば、PCR反応に制限されるものではなく、複数種の反応溶液を一度に調製する用途として、例えば、LCR(LigaseChain Reaction)、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)、Invader Assay(Lyamichev V., Brow M. A. et al.(1993)Science, vol. 5109, p778)等の生化学反応や各種化学反応の溶液調製についても本発明を同様に適用することができる。
なお、固相合成のように反応に直接関与する試薬(反応物及び触媒)の一部の遊離を行わずに表面に結合させたまま反応させることも可能であるが、全ての試薬が液相中に存在する方が一般に反応効率が高いので、ペプチド合成や核酸合成などの固相逐次反応や、酵素固定等による試薬(触媒)の繰り返し使用を目的とする場合除いて、被固定試薬を全て遊離してから反応を行うことが望ましい。
【0050】
【実施例】
[実施例1]
共有結合による固定方法
シリコンウェハーを基板とし、異方エッチングにより作製された容積100pLのチャンバ12を有するチップ10を使用して、既知であるプライマーセット1:5’−ACCTGCGTTGCGTAAATA−3’、5’−GGGCGGGAGAAGTTGATG−3’及びプライマーセット2:5’−CCAAAAGCCAGACAGAGT−3’、5’−GCACAGCACATCCCCAAAGAG−3’を用いて、それぞれEshcherichia coliのgadAB及びuidA領域のPCRによる増幅を、別個のチャンバで独立に行う。
【0051】
チャンバ12の表面のシリコンを、酸素雰囲気下900℃の加熱によって酸化し、γ−APTES(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)によりアミノ基を導入する。さらにグルタルアルデヒドによりイミン結合を介してアルデヒド基を導入後、アミノ基修飾のプライマー溶液を被固定試薬溶液サブセットとしてチャンバ12毎に滴下する。プライマーセット1及び2を別個のチャンバ12へ滴下する。チャンバ12表面のアルデヒド基とプライマーのアミノ基との間が縮合してイミン結合が形成され、各チャンバ12に滴下したプライマーが固定される。
リンス後、反応溶液サブセット、すなわち試料DNA、緩衝液、マグネシウム、BSA、増幅酵素(Clontech社製)、及び蛍光色素SYBR Green I(Molecular Probes 社製)の混合溶液をピペッティングでチップ10上に1回の操作によって一様に添加する。
【0052】
カバーガラスを載せ圧着して密封した後、95℃、10分間加熱する。これにより、イミン結合によってチャンバ12に固定されていた固定化プライマーが、チャンバ12から遊離して他の試薬成分と混合し、PCR反応溶液の調製が完了する。このとき、隣接する他のチャンバ12の試薬溶液が混入したチャンバ12は認められない。
その後、通常、この用途に使用される既知のポリメラーゼを使用してPCR処理を既知の条件にしたがって実施し、次いでPCR反応中に蛍光強度をモニタリングすることにより公知の方法で試料DNAの定量を行う。
【0053】
この一連の操作によって、チャンバ12内の試薬溶液が他のチャンバ12に混入することなく、かつ操作性よく、各チャンバ12内において適切にPCR処理を行うことができる。
共有結合で固定する方法は、結合様式によっては遊離に時間がかかり、被固定試薬がPCR反応中に徐々に溶液に放出されることになる(徐放性)。PCR反応の初期は溶液中にテンプレートDNAが少ないので、通常の反応条件では適切なプライミング対象を持たないプライマーが大量に存在し、これがプライマーダイマー等の副産物の発生を誘発する。プライマーを共有結合で固定する場合、徐放性により反応初期のプライマー濃度を抑えることができ、副産物生成を抑制できる。
【0054】
[実施例2]
非共有結合による固定方法
チャンバ12へのアミノ基導入までは実施例1と同様に行う。その後、抗ビオチン抗体をチャンバ12に一様に添加し、NHS(N−ヒドロキシコハク酸イミド)−EDC(塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)により抗体のカルボキシル基を活性化し、チャンバ12表面のアミノ基との脱水縮合により抗体をチャンバ12に固定化し、チャンバ12の表面処理を終了する。チャンバ12内をリンス後、作製されたビオチン化プライマーを、被固定試薬溶液セットとしてチャンバ12毎に滴下し、抗ビオチン化抗体と結合させる。これにより、ビオチン化プライマーがチャンバ12に固定される。
その後、加熱処理を95℃、1分間とした以外は実施例1と同様に行って、固定化プライマーを遊離させ、PCR処理を行う。
【0055】
実施例2では、実施例1と同様に、チャンバ12内の試薬溶液が他のチャンバ12に混入することなく、かつ操作性よく、各チャンバ12内において適切にPCR処理を行うことができる。
またこの方法では、抗体を用いているので、熱による抗原抗体結合の遊離が比較的速く、反応の迅速化や増幅酵素の失活抑制を図りつつ、適切にPCR処理を操作性よく行うことができる。
【0056】
[実施例3]
物理的隔離による固定方法
チャンバ12の容量を10μLとした以外は、実施例1と同様に加工したチャンバ12を使用する。
プライマー及び塩化マグネシウムを被固定試薬溶液セットとしてチャンバ12毎に滴下した後、加熱で溶融させた蝋をチャンバ12毎に滴下、徐冷して、被固定試薬溶液セットに上層した状態で蝋を凝固させる。その後、加熱処理を95℃、1分間とした以外は実施例1と同様に行って、固定化プライマーを遊離させ、PCR処理を行う。
【0057】
実施例3では、実施例1と同様に、チャンバ12内の試薬溶液が他のチャンバ12に混入することなく、各チャンバ12内において適切にPCR処理を操作性よく行うことができる。実施例1及び2では、被固定試薬及びチャンバ12の化学修飾(活性基導入、カップリング等)が必要であったが、実施例3では不要である。
【0058】
[実施例4]
実施例1と同様にシリコンウェハーを基板として異方エッチングを施して、容積100pLのチャンバ12を得る。次いで、UV硬化性シリコーン樹脂をチップ10の上面にスピンコートにより塗布してから、上面のみにUVが照射されるようにフォトマスクをチップ10上に配置して、UVを照射する。その後、未硬化部分を除去して、チャンバ12周囲にUV硬化性樹脂が選択的に配置されたチップ12を得る。
【0059】
それから実施例1と同様にしてアミノ基を導入し、25%グルタルアルデヒド水溶液中に40℃、12時間浸漬してアルデヒド基を導入し、アセトンでリンスする。次に、プライマー溶液を被固定試薬サブセットとしてチャンバ12毎に滴下する。これにより実施例1と同様にチャンバ12表面のアルデヒド基とプライマーのアミノ基との間をイミン結合によって固定する。
【0060】
すべての試薬セットのチャンバ12への添加が完了すると、カバー板14をチップ20上に載せる。このとき、チップ20の上面には密着補助材26としてのUV硬化性シリコーン樹脂が塗布されているので、カバー板14を載せて圧力をかけることによって、カバー板14とチップ20とがより強固に密着する。その後、実施例1と同様にしてPCR反応処理を行う。
【0061】
本実施例によれば、チップ20の上面に密着補助材26として接着性樹脂PDMSが配置されているので、チャンバ12の密封性がよく、隣接するチャンバ12の反応溶液が他のチャンバ12に移動して混じることがない。このため精度良く反応を行うことができる。
またアミド結合に比較して加熱で切れやすいイミン結合によってプライマーをチャンバ12の表面に固定しているので、初期の熱変性に必要な時間を短縮することができる。
【0062】
[実施例5]
ネガティブ型レジスト SU−8 50(Micro Chem社製)をシリコン基板に塗布して、フォトリソグラフィーによりチップ20の鋳型を作製する。この鋳型に、PDMS(ダウコーニング社製)を流し込み、80℃で1時間、硬化させることにより、500μm×500μm角、深さ100μm、0.025μLのチャンバ12を複数有する樹脂製のチップ20を作製する。
またスライドガラスにPDMS(ダウコーニング社製)を滴下してヘラで全面に延ばしてやや厚塗りし(1mm厚程度)、複写機用OHPシート(住友スリーエム)、押さえ用のスライドガラスを順に被せ、クランプを使用して挟み込んだ状態で80℃、1時間加熱して硬化させる。クランプ、押さえ用のスライドガラスを取り除き、OHPシートをから剥がすことにより、PDMSが片面に一様に配置されたカバー板14を作製する。
【0063】
このチップ20に対して、反応性イオンエッチング装置(SAMCO社製:RIE−10NR)を用いて酸素プラズマ処理(200W、O2、8.8Pa、4分間)し、続けて2%3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Avodado Chem.社)のアセトン溶液に30分間浸漬して、チャンバ12表面にアミノ基を導入する。
【0064】
被修飾のプライマー溶液を被固定試薬サブセットとしてチャンバ12毎に滴下する。チャンバ12内に滴下されたプライマーとチャンバ12表面のアミノ基との間で静電結合が生じ、チャンバ12の表面にプライマーが固定される。
リンス後、反応溶液サブセット(DNA、最終濃度1.0〜5.0mMのマグネシウム、及びPCR酵素ミックス(Roche Diagnostics社製、LightCycler FastStart DNA Master SYBR Green I)の混合溶液)を、ピペッティングでチップ20上に一様に添加する。
【0065】
反応溶液サブセットをチップ20上に添加した後、PDMSコーティング済の面をチップ20側に向けてカバー板14をチップ20上に載置し、ホフマン式ピンチコックで圧着・密封する。このとき、チップ20全体が自己接着性のあるPDMS樹脂で構成されているため、カバー板14のPDMSと強固に密着する。その後、95℃、10分間の加熱を行って固定化プライマーを遊離させPCR反応溶液の調製を完了し、実施例1と同様にしてPCR反応処理を行う。
【0066】
本実施例によれば、チップ20とカバー板14の接触面とが自己接着性の樹脂で構成されているので、チャンバ12の密封性を一層高くすることができ、他のチャンバ12の反応液の混入をより一層確実に防止することができる。
またチップ20自体を自己接着性の樹脂で構成しているので、チップ20表面に接着性樹脂を塗布する工程を省略することができる。
更に、鋳型を利用してチップ20を作製することができるので、一度鋳型を作製しておけば有用なチップ20を生産性良く作製することができる。
【0067】
【発明の効果】
本発明によれば、本発明は、複数の試薬溶液を混合して得られる反応溶液を複数調製する場合であっても、同一の操作を必要以上に繰り返すことなく簡便に調製することができる反応溶液調製方法及び反応容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態にかかるチップの部分斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる核酸増幅方法を説明する図である。
【図3】本発明の他の実施の形態にかかるチップの部分斜視図である。
【符号の説明】
10 チップ(基板)
12 チャンバ(反応器、微小孔)
14 カバー板
20 チップ(基板)
26 密着補助材
Claims (12)
- 基板上の複数の微小孔中での反応のための反応溶液を調製する溶液調製方法において、
前記反応溶液から選択された被固定試薬を、遊離状態に変更可能な方法によって前記複数の微小孔の表面上に固定する工程と、
前記反応溶液のうちの残りの試薬を、各微小孔に添加する工程と、
各微小孔を密封する工程と、
前記固定方法に応じた方法によって各微小孔表面に固定された被固定試薬を遊離して前記残りの試薬と混合する工程
を含むことを特徴とする、反応溶液調製方法。 - 前記残りの試薬が、各微小孔容量の合計に対し過剰量で且つ1回の操作で、前記基板に添加される請求項1記載の反応溶液調製方法。
- 微小孔を密封した後に、さらに、過剰な前記残りの試薬を除去する工程を含む請求項1又は2に記載の反応溶液調製方法。
- 前記固定方法が、蝋の層による物理的な隔離によるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の反応溶液調製方法。
- 前記固定方法が、共有結合又は非共有結合によるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の反応溶液調製方法。
- 前記反応がポリメラーゼ連鎖反応であることを特徴とする請求項4又は5に記載の反応溶液調製方法。
- 前記微小孔が、0.1pL以上100μL以下の大きさであることを特徴とする請求項6に記載の反応溶液調製方法。
- 前記微小孔を画定する基板表面に密着補助材を直接的に又は間接的に配置する工程を更に含み、前記密封工程における密着補助材微小孔の密封性が、該密着補助材によって向上することを特徴とする請求項1又は2に記載の反応溶液調製方法。
- 複数の微小スケールの反応溶液の調製及び反応を行うための、試薬を含む反応容器であって、
基板上の複数の微小孔を反応容器とし、遊離状態に変更可能な方法によって前記複数微小孔の表面上に反応溶液の被固定溶液が固定されていることを特徴とする反応容器。 - 前記反応がポリメラーゼ連鎖反応であることを特徴とする請求項9に記載の反応容器。
- 前記微小孔が、0.1pL以上100μL以下の大きさであることを特徴とする請求項9に記載の反応容器。
- 前記基板上に密着補助材が配置されていることを特徴とする請求項9記載の反応容器。
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-
2003
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