JP2004045363A - 金属材料中の欠陥検査方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】金属材料において、フィッシュアイ破壊の起点となる欠陥を確実に特定し、その寸法を測定する。
【解決手段】疲労試験により金属製試験片にフィッシュアイ破壊を生じさせ、危険体積中に存在する最も疲労破壊の原因となった欠陥の種類を特定し、その寸法を測定する。
【選択図】     図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、金属材料中の欠陥検査方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、フィッシュアイ破壊の起点となる欠陥を確実に特定し、その寸法を測定することのできる金属材料中の欠陥検査方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高強度鋼では内部の非金属介在物や組織割れを起点として疲労破壊する。低・中強度鋼やチタン合金でも、高温若しくは低温環境において、高強度鋼と同様に、内部の介在物や組織割れを起点として疲労破壊する。これらの破壊はフィッシュアイ破壊と呼ばれ、特に機械構造物の疲労破壊の原因となっている。
【0003】
介在物検査は、ASTM法、JIS法に基づき、試料を鏡面仕上げした後、光学顕微鏡を用いて鏡面を観察し、像の基準面積の中で最大の介在物を探し出し、その介在物の種類の特定と寸法測定を行った後、極値統計解析を行い、その結果に基づいて実構造物中の最大介在物の寸法を見積もるというのが一般的である(たとえば、非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】
村上敬宜、外1名,「介在物寸法の統計的評価とそれに基づく高硬さ鋼の疲労限度の予測」,日本機械学会論文集,社団法人日本機械学会,平成元年2月,A編,第55−510号,p.213−221
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、以上の検鏡面検査による介在物検査には、疲労破壊を及ぼす介在物の特定に確実性が欠け、また、データの信頼性がさほど高くないという問題がある。これは、光学顕微鏡像の基準面積中に存在する無数の介在物の寸法を測定し、その中で最大の介在物の寸法のみを有効なデータとしていることに一因がある。また、介在物が複数種混在する場合、必ずしも最大寸法の介在物がフィッシュアイ破壊の起点になるとは限らず、しかも組織割れに対応することができないという事情にもよる。
【0006】
介在物検査には、前述の検鏡面検査という手法以外に、酸溶解して介在物を分離する手法、超音波探傷を利用する手法等もあるが、いずれの手法も、検鏡面検査と同様に、複数種の介在物が混在する場合の前記問題及び組織割れへの対応の問題は解消されない。
【0007】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、フィッシュアイ破壊の起点となる欠陥を確実に特定し、その寸法を測定することのできる金属材料中の欠陥検査方法を提供することを解決すべき課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上述の課題を解決するものとして、疲労試験により金属製試験片にフィッシュアイ破壊を生じさせ、危険体積中に存在する最も疲労破壊の原因となった欠陥の種類を特定し、その寸法を測定することを特徴とする金属材料中の欠陥検査方法(請求項1)を提供する。
【0009】
またこの出願の発明は、高速疲労試験機を使用すること(請求項2)、破面上の欠陥寸法と真の欠陥寸法が一致しない場合、マイクロミリング装置を使用して欠陥の周囲を掘削し、真の欠陥寸法を測定すること(請求項3)、破面上の欠陥寸法と真の欠陥寸法が一致しない場合、酸溶液により破面を腐食、溶解させ、フィッシュアイ破壊の起点となった介在物全体を破面上に出現させ、真の欠陥寸法を測定すること(請求項4)、フィッシュアイ破壊後、欠陥を横切るように、金属製試験片を軸に平行に切断し、欠陥付近を観察し、軸方向の欠陥の形状の特定と寸法の測定を行うこと(請求項5)、通常の状態でフィッシュアイ破壊しない場合、焼入れ後低温で焼戻しするか若しくは表面を硬化させ、フィッシュアイ破壊を誘起させること(請求項6)をそれぞれ一態様として提供する。
【0010】
以下、実施例を示しつつ、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法についてさらに詳しく説明する。
【0011】
【発明の実施の形態】
この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、疲労試験により金属製試験片にフィッシュアイ破壊を生じさせ、危険体積中に存在する最も疲労破壊の原因となった欠陥の種類を特定し、その寸法を測定する。フィッシュアイ破壊を実際に生じさせるため、金属製試験片には、その危険体積中に最も疲労破壊の原因となった欠陥が起点として出現する。最も疲労破壊の原因となった欠陥とは、ある程度大きな介在物が存在する場合はその中で最大の介在物であり、介在物が複数種存在する場合は必ずしも最大の介在物であるとは限らない。また、介在物が非常に小さいか、無害と考えられる場合、組織割れがそれに該当する。
【0012】
なお、危険体積とは、疲労試験を行った金属製試験片の中で最大応力が作用する部分の体積であり、砂時計型試験片の場合、最大応力の90〜95%が作用する領域とみなすことができる。
【0013】
したがって、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法は、従来の介在物検査における前述の問題をすべからく解消することができる。
【0014】
すなわち、フィッシュアイ破壊の原因となった欠陥を確実に特定することができ、しかもその欠陥はフィッシュアイ破壊を生じさせる際に自動的に出現するため、有効データのみを確実に測定することができる。
【0015】
また、これまでの検鏡面検査による欠陥検査では、仮に150mmの検査面を走査し、介在物検査を行うとすると、介在物の厚みはせいぜい介在物の平均寸法程度しかないため、検査に関わる基準体積はわずか1mmにしか過ぎないことになる。これに対し、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、たとえば直径6mmの砂時計型試験片を用いて軸荷重疲労試験を行うとすると、基準体積は、約230mmとなり、非常に大きくなる。このことは、実際に疲労試験を行う場合、試験片1本当たりの検査が、これまでの検鏡面検査の230視野分に匹敵することを意味する。このように、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、欠陥検査における基準体積は少なくとも25倍以上になり、データの信頼性が向上する。
【0016】
この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、疲労試験に高速疲労試験機を使用することができる。
【0017】
実際に金属製試験片にフィッシュアイ破壊を生じさせるためには、10〜10回程度疲労試験を行う必要がある。これを仮に100Hzの試験機を使用して行ったとすると、フィッシュアイ破壊までに2〜280時間かかることになる。これに対し、たとえば20kHzで運転可能な超音波疲労試験機を使用すると、1〜80分程度で完了可能である。高速疲労試験機を疲労試験に使用することは、コスト的に有利となる。
【0018】
また、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、破面上の欠陥寸法と真の欠陥寸法が一致しない場合、マイクロミリング装置を使用して欠陥の周囲を掘削し、真の欠陥寸法を測定することもできる。
【0019】
たとえばTiN介在物のように、介在物が割れたり、介在物の頂点から疲労き裂が発生したりすると、破面上の欠陥寸法(この場合には介在物寸法)と真の欠陥寸法が一致しない。そこで、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、一つに、FIB(Focused Ion Beam)等のマイクロミリング装置を使用し、欠陥の周囲を掘削することにより真の欠陥寸法を測定することができる。その一方で、マイクロミリング装置を使用する掘削は、装置が高価な上、手間と時間がかかることが懸念される。この問題を解消するために、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、酸溶液により破面を腐食、溶解させ、フィッシュアイ破壊の起点となった介在物全体を破面上に出現させ、真の欠陥寸法を測定することもできる。酸溶液を使用した腐食、溶解は、特別な装置が不要であり、しかも介在物全体を破面上に出現させることができるため、マイクロミリング装置を使用する掘削に比べ、真の欠陥寸法の測定が安価で手間がかからないという利点がある。また、後述する実施例に示すように、酸溶液による破面の腐食、溶解は、破面の中に埋まっている介在物全体を出現させることばかりでなく、それと同時に、介在物と母地組織との相関関係を調べるのに有効ともなる。
【0020】
さらに、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、フィッシュアイ破壊後、欠陥を横切るように、金属製試験片を軸に平行に切断し、欠陥付近を観察し、欠陥の種類の特定と寸法の測定を行うことができる。
【0021】
疲労試験による欠陥検査では試験片の軸に垂直な横断面上の欠陥寸法を測定することができるが、軸に平行な縦断面での欠陥の種類の特定及び寸法測定は難しい。そこで、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、後述する実施例に示すように、たとえば上下の破面等に現れた欠陥を横切るように、金属製試験片を軸に平行に切断し、欠陥付近を観察することにより軸方向の欠陥の形状の特定と寸法の測定を行う。これによりたとえば従来のASTM法に準じた検査と整合性をもたせることができる。
【0022】
さらにまた、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法では、通常の状態でフィッシュアイ破壊しない金属製試験片に対しては、焼入れ後低温で焼戻しするか若しくは表面を硬化させ、フィッシュアイ破壊を誘起させることができる。
【0023】
以下、この出願の発明の金属材料中の欠陥検査方法の実施例を示す。
【0024】
【実施例】
(実施例1)
【0025】
【表1】
Figure 2004045363
【0026】
供試材の化学成分は表1に示したとおりである。この供試材はSNCM439鋼の比較的古い材料であり、φ19mmの丸棒である。
【0027】
【表2】
Figure 2004045363
【0028】
表2に熱処理条件を示したが、焼準と焼入れを行った後、低温で焼戻しを行った。硬さがHV600程度となった。疲労試験は、超音波疲労試験機(20kHz)、高速油圧サーボ試験機(600Hz)及び電磁共振式試験機(100Hz)の3種類を使用して行った。疲労試験を10回繰り返すのに要した時間は、超音波疲労試験機で約10分、高速油圧サーボ試験機で約5時間、電磁共振式試験機で約1日であった。前記供試材から作製した試験片の形状は、図1(a)(b)(c)に示したとおりである。疲労試験を行う試験機に応じてチャック部の形状は変えたが、基準体積を揃えるために最小断面部の径がφ3mmの砂時計型に統一した。
【0029】
図2に疲労試験結果を示した。ほとんどの試験片はフィッシュアイ破壊した。
【0030】
【表3】
Figure 2004045363
【0031】
前記供試材は、表3に示した標準的な焼入れ、焼戻しを行うと、硬さはHV320程度となり、フィッシュアイ破壊は生じないが、前述の表2に示した条件で低温焼戻しを行い、HV600程度まで硬くすると、フィッシュアイ破壊が生ずるようになる。
【0032】
図3(a)(b)は、それぞれ、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して撮影した破面の代表的な写真である。
【0033】
フィッシュアイ破壊した破面を写真撮影することにより、介在物の寸法を測定することができ、欠陥の種類はEDAXで分析することにより特定することができる。実施例1における欠陥はAl介在物であった。
【0034】
また、図4に示したように、欠陥を横切るように試験片を軸に平行に切断することにより、試験片の縦断面上に現れる欠陥の形状の特定と寸法の測定が可能となる。その際に、従来のASTM法に準じた欠陥の分類も可能となる。
【0035】
図5は、試験片の縦断面に現れた欠陥を撮影した代表的な写真である。
【0036】
切断は、光学顕微鏡によりマイクロメーターオーダーでの位置決めが可能な精密切断機を使用して行った。切断後、鏡面研磨及びエッチングを行い、組織を出現させた。介在物は、圧延の際に変形しないものであり、ASTM法でD系に分類されるものであることが確認された。
【0037】
図6(a)(b)は、それぞれ、従来の検鏡面検査による介在物検査の結果と、フィッシュアイ破壊させて得た図2に示した疲労試験結果を極値統計処理した結果を示したグラフである。
【0038】
検鏡面検査による介在物検査は、150mmを基準面積とし、試験片の縦断面を20視野分行った。しかしながら、2視野については介在物を検出することができず、有効データは18点となった。基準面積からの基準体積への換算は、基準面積に介在物の平均寸法を乗することが一般的であり、その結果、基準体積は1.6mmとなった。
【0039】
疲労試験は、36本の試験片について行い、その内、表面破壊した4本を除く32点が有効データとなった。疲労試験における基準体積は最小断面部の応力の90%以上が作用した領域として換算し、その結果、40.2mmとなった。検鏡面検査による介在物検査と比較すると、基準体積は約25倍となっている。
【0040】
図6(a)(b)の比較から確認されるように、疲労試験による介在物検査の方が検鏡面検査による介在物検査よりも大きな介在物を検出している。これは、基準体積が大きいため、より大きな介在物の検出が可能であることを示唆している。
【0041】
また、疲労試験における基準体積である40.2mm中に存在する最大介在物寸法を、検鏡面検査による介在物検査結果から極値統計により見積もると17μmとなる。統計学的には、このようにして見積もった最大介在物寸法は、疲労試験による介在物検査で検出した介在物寸法の平均値と一致しなければならない。疲労試験による介在物検査で検出した介在物寸法の平均値は22μmであり、このことから、疲労試験による介在物検査も妥当な介在物検査であることが確認される。
【0042】
さらに、図6(b)において注目すべき点は、図中に矢印で示した82μmの介在物の検出である。この82μmの介在物は図中の直線から外れており、極値統計からは予測し得ない極端に大きな介在物であることが確認される。このように極端に大きな介在物からフィッシュアイ破壊が生ずることは、疲労試験による介在物検査ではまれに経験することである。疲労試験による欠陥検査は、そのように極端に大きな介在物をも検出することができるという点においても利点を有している。
【0043】
そして、20kHzの超音波試験機を使用し、800〜900MPa程度の応力振幅において疲労試験を実施することにより、10回程度であれば10分程度で完了し、また、試験片の交換作業は非常に簡単であり、短時間で交換可能でもあるため、金属材料中の欠陥検査は安価に行われると合理的に考えられる。超音波試験機の使用は、ギガサイクルの疲労特性のデータも取得可能であり、この点においても有効であると考えられる。
(実施例2)
【0044】
【表4】
Figure 2004045363
【0045】
供試材の化学成分は表4に示したとおりである。この供試材はSCM440鋼の比較的新しい材料であり、φ20mmの丸棒である。
【0046】
【表5】
Figure 2004045363
【0047】
表5に熱処理条件を示したが、焼準と焼入れを行った後、390℃で焼戻しを行った。硬さがHV450程度となった。疲労試験は、電磁共振式試験機(100Hz)を使用して行い、前記供試材から作製した試験片は、最小断面部の径がφ6mmの砂時計型とした。
【0048】
図7に疲労試験結果を示した。TiN介在物を起点としたフィッシュアイ破壊が生じた。一方、使用済試験片について検鏡面検査による介在物検査を行った。その結果を示したのが図8のグラフである。この図8によれば、検鏡面検査による介在物検査ではAl介在物が検出される。このことから、従来の検鏡面検査による介在物検査では、疲労破壊の原因となる欠陥を特定できないこともあるのに対し、疲労試験による介在物検査は、欠陥を確実に特定することができることが確認される。
【0049】
なお、検鏡面検査による介在物検査結果から極値統計により見積もった試験片1本当たりの最大介在物の寸法は12μmとなった。
【0050】
図9(a)(b)及び図10(a)(b)は、破面の代表的なSEM写真である。
【0051】
図9(a)(b)に示した破面は、試験片の上下の破面であるが、それぞれに7μm程度のTiN介在物が存在し、しかもこの介在物が割れて疲労き裂が発生したような様相が確認される。図10(a)(b)に示した破面には、一方(図10(b))にのみ2μm程度のTiN介在物が存在することが確認されるが、他方(図10(a))の破面には介在物が抜け落ちたような穴すら確認されない。
【0052】
そこで、TiN介在物が検出された方の破面(図10(b))の介在物周辺をFIBによりマイクロミリングした。その後の様相を示したのが図11の写真である。破面を掘削することにより7μm程度のTiN介在物が出現した。このことから、TiN介在物はその大半が破面の中に埋まっていて、その頂点から疲労き裂が発生するものと考えられる。
【0053】
実施例1及び実施例2で検出された破壊形態を整理して概略的に示したのが図12(a)(b)(c)である。
【0054】
図12(a)に示したように、Al介在物の場合、一方の破面のみに存在し、他方の破面には介在物が抜け落ちたような穴が存在する。すなわち、介在物と母地が剥離し、空孔の場合の応力集中点である赤道の位置から疲労破壊する。TiN介在物では、図12(b)に示したように、介在物と母地が剥離せず、介在物が割れて疲労破壊する場合と、図12(c)に示したように、介在物の頂点から疲労破壊する場合がある。介在物の頂点から疲労破壊するのは、母地より弾性定数の高い硬質の介在物の場合であり、介在物と母地が剥離せず、頂点に応力集中するからであると考えられる。
【0055】
以上の結果をまとめると、Al介在物のように母地から剥離する介在物は、介在物寸法の最大値が必ず破面上に現れるため、そのままの破面を観察することで寸法を測定することができる。一方、TiN介在物のように母地から剥離しない介在物は、その寸法の最大値が必ずしも破面上に現れるとは限らない。
【0056】
なお、介在物が母地から剥離するか否かはSEM観察による破面の様相から特定可能である。
【0057】
また、実施例2において、フィッシュアイ破壊の原因となる欠陥(介在物)の寸法が、従来の検鏡面検査による欠陥検査(Al介在物、12μm)と疲労破壊による欠陥検査(TiN介在物、7μm)とで一致していない。これは、寸法が最大の介在物が必ずしもフィッシュアイ破壊の原因とは限らないことを示唆している。このことから、疲労試験による欠陥検査は、検鏡面検査による欠陥検査ではその原因を特定できないような欠陥をも特定可能であることが確認される。
(実施例3)
実施例2で使用したものと同じものを供試材とした。熱処理条件は、次の表6に示したとおりとした。
【0058】
【表6】
Figure 2004045363
【0059】
実施例3では、焼入れを、ソルトバスを使用した通常の油焼入れと改良オースフォームによる焼入れの2つの方式で行った。一方、焼戻しは同一方式とし、電気炉を使用して200℃の空冷とした。焼戻し後の硬さは、表6に合わせて示したとおり、油焼入れ材も改良オースフォーム材も同程度であり、ビッカース硬さでHV550程度となった。この供試材から試験片を複数本作製し、電磁共振式試験機(100Hz)を使用して疲労試験を行った。試験片は、すべて最小断面部の径がφ3.5mmの砂時計型とした。この試験片では、最大応力の90%以上の高応力が作用する領域を検査体積としてとらえると、検査体積はV=40mmとなる。
【0060】
図13に疲労試験結果を示した。フィッシュアイ破壊した試験片に着目すると、焼入れ条件に関わらず、Al及びTiN介在物と組織割れの3種類が起点として出現している。このうち、Al介在物については、図12(a)に示した破壊形態をとることから、そのまま破面観察を行うことにより欠陥寸法を測定することができる。一方、TiN介在物は、図12(b)(c)に示した破壊形態をとるため、Al介在物と同様にして欠陥寸法を測定することはできない。また、組織割れに分類したフィッシュアイ破壊の起点は、EDAX分析の結果Feしか検出されなかったものであるが、この組織割れが、仮に図12(c)に示したような破壊形態をとるとすると、破面上に介在物が現れず、その結果、EDAX分析ではFeしか検出されないと考えられる。
【0061】
そこで、実施例3では、TiN介在物及び組織割れが起点であるフィッシュアイ破壊した破面を、酸溶液を用いて腐食、溶解させた。酸溶液には、10%ナイタル(硝酸アルコール溶液)とピクリン酸水溶液の2種類を使用した。10%ナイタルを用いた破面の腐食、溶解は、2分おきに観察し、最終的に6〜10分程度のエッチングとした。ピクリン酸水溶液を用いた破面の腐食、溶解は、途中の観察を行わずに約4時間程度のエッチングとした。
【0062】
図13に示した疲労試験結果では、TiN起点型フィッシュアイ破壊が計6本の試験片で生じ、組織割れ起点型フィッシュアイ破壊が計4本の試験片で生じていた。以上の酸溶液を用いた破面の腐食、溶解によりTiN介在物は破面上に出現した。その前後のTiN介在物の寸法を表7に示した。
【0063】
【表7】
Figure 2004045363
【0064】
腐食、溶解前の破面上には1μm程度の小さなTiN介在物も発見されていたが、エッチング後に破面上に出現し、疲労破壊の原因となったTiN介在物の寸法は小さいものでも5μm程度あった。
【0065】
また、組織割れと分類された破面のうちの1つからは、5μm程度のTiN介在物が破面上に出現した。
【0066】
図14(a)(b)は、それぞれ、表7に示したTiN−type−1(10%ナイタルを使用した腐食、溶解の代表例)の腐食、溶解前後の破面の様相を示したSEM写真である。腐食、溶解前にはTiN介在物の大部分が破面の中に埋まっていたが(図14(a))、腐食、溶解後にはその全体が破面上に出現している(図14(b))。
【0067】
図15(a)(b)、図16(a)(b)は、それぞれ、表7に示したピクリン酸水溶液を使用した代表例であるTiN−type−2、TiN−type−5の腐食、溶解前後の破面の様相を示したSEM写真である。図14(a)(b)と同様に、TiN介在物の全体が破面上に出現している(図15(b)及び図16(b))。また、図16(b)から確認されるように、TiN介在物は旧オーステナイト粒界の3重点に存在している。このことから、酸溶液による破面の腐食、溶解は、破面の中に埋まっている介在物全体を出現させることばかりでなく、それと同時に、介在物と母地組織との相関関係を調べるのに有効ともなると理解される。
【0068】
表7に示したTiN介在物の寸法を極値確率紙にプロットして作製したものが図17のグラフである。
【0069】
この図17に示したグラフから、破面上の介在物寸法と腐食、溶解により介在物全体を破面上に出現させて測定される真の介在物寸法を比較すると、単に寸法が異なるだけでなく、極値確率紙上での回帰直線の傾きが大きく異なることが確認される。これは、破面上の介在物寸法は一様に真の寸法より小さいのではなく、介在物全体が出現している場合もあればまったく出現していない場合もあり、その結果、介在物寸法の最大値と最小値の差が実際よりも大きくなることに起因している。この回帰直線の傾きの差は、介在物寸法の最大値の予測に大きな影響を与える。極値統計により介在物寸法を予測する際には、実施例1、2においても同様に行われたが、予測対象の危険体積Vと介在物検査時の検査体積Vに基づき、次式より再帰期間Tとこれに対応するy値を求める。
【0070】
T=(V+V)/V         (1)
y=−ln[−ln(T−1)/T]     (2)
このようにして求められるy値に対応する介在物の寸法を図17に示した極値確率紙から読み取り、危険体積V中に存在する最大の介在物寸法を予測する。なお、実際には、図17に示したように、最小2乗法により介在物の寸法√areaとy値の間の関係式を導き、計算する。
【0071】
以上の極値統計による介在物寸法の予測を、0.1kg、1kg、10kgの鋼塊について見積もった最大介在物寸法の結果を示したのが次の表8である。
【0072】
【表8】
Figure 2004045363
【0073】
表8から確認されるように、介在物寸法の予測値は、腐食、溶解の前後で大きく異なり、また、鋼の量が増加するにつれてその差は大きくなる。さらに、実際の寸法測定では、腐食、溶解前の方の寸法が小さいが、予測値では逆に大きくなっている。これは、図17に示したような回帰直線の傾きに起因している。
【0074】
なお、表8では、10kgの鋼についての腐食、溶解後の予測値が19μmと多少大きめとなっているが、これは、測定点が7点と少なかったことに由来するものと考えられ、測定点を20点程度に増やすことにより回帰直線の傾きが小さくなり、妥当な予測値が得られると予想される。
(実施例4)
【0075】
【表9】
Figure 2004045363
【0076】
供試材の化学成分は表9に示したとおりである。この供試材はSUPばね鋼の新しい材料であり、φ20mmの丸棒である。
【0077】
【表10】
Figure 2004045363
【0078】
表10に熱処理条件を示したが、焼準と焼入れを行った後、430℃で焼戻しを行った。硬さがHV520程度となった。疲労試験は、電磁共振式試験機(100Hz)を使用して行い、前記供試材から作製した試験片は、最小断面部の径がφ6mmの砂時計型とした。
【0079】
図18に疲労試験結果を示した。組織割れを起点としてフィッシュアイ破壊が生じた。組織割れとは、実施例3中に記載したように、起点付近をEDAX分析してもFeしか検出されないフィッシュアイ破壊の起点であり、不均一な組織によるものと考えられている。
【0080】
このように、疲労試験による欠陥検査では、従来の介在物検査では不可能な組織割れをも検出することができる。
【0081】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施形態及び実施例によって限定されるものではない。供試材の化学成分、熱処理、疲労試験の条件などの細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0082】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この出願の発明によって、フィッシュアイ破壊の起点となる欠陥を確実に特定し、その寸法を測定することのできる、新しい金属材料中の欠陥検査方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)(b)(c)は、それぞれ、実施例1で用いた金属製試験片を示した正面図である。
【図2】実施例1における疲労試験結果を示した図である。
【図3】(a)(b)は、それぞれ、実施例1において走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して撮影した破面の代表的な写真である。
【図4】試験片の縦断面上に現れる欠陥の種類の特定と寸法の測定の概要について示した斜視図である。
【図5】試験片の縦断面に現れた欠陥を撮影した代表的な写真である。
【図6】(a)(b)は、それぞれ、従来の検鏡面検査による介在物検査の結果と、フィッシュアイ破壊させて得た図2に示した疲労試験結果を極値統計処理した結果を示したグラフである。
【図7】実施例2における疲労試験結果を示した図である。
【図8】実施例2において、使用済試験片について検鏡面検査による介在物検査を行った結果を示したグラフである。
【図9】(a)(b)は、それぞれ、実施例2における破面の代表的なSEM写真である。
【図10】(a)(b)は、それぞれ、実施例2における破面の代表的なSEM写真である。
【図11】実施例2において、TiN介在物が検出された方の破面の介在物周辺をFIBによりマイクロミリングした後の様相を示した写真である。
【図12】(a)(b)(c)は、それぞれ、実施例1及び実施例2で検出された破壊形態を整理して概略的に示した模式図である。
【図13】実施例3における疲労試験結果を示した図である。
【図14】(a)(b)は、それぞれ、表7に示したTiN−type−1(10%ナイタルを使用した腐食、溶解の代表例)の腐食、溶解前後の破面の様相を示したSEM写真である。
【図15】(a)(b)は、それぞれ、表7に示したピクリン酸水溶液を使用した代表例であるTiN−type−2の腐食、溶解前後の破面の様相を示したSEM写真である。
【図16】(a)(b)は、それぞれ、表7に示したピクリン酸水溶液を使用した代表例であるTiN−type−5の腐食、溶解前後の破面の様相を示したSEM写真である。
【図17】表7に示したTiN介在物の寸法を極値確率紙にプロットして作製したグラフである。
【図18】実施例4における疲労試験結果を示した図である。

Claims (6)

  1. 疲労試験により金属製試験片にフィッシュアイ破壊を生じさせ、危険体積中に存在する最も疲労破壊の原因となった欠陥の種類を特定し、その寸法を測定することを特徴とする金属材料中の欠陥検査方法。
  2. 高速疲労試験機を使用する請求項1記載の金属材料中の欠陥検査方法。
  3. 破面上の欠陥寸法と真の欠陥寸法が一致しない場合、マイクロミリング装置を使用して欠陥の周囲を掘削し、真の欠陥寸法を測定する請求項1又は2記載の金属材料中の欠陥検査方法。
  4. 破面上の欠陥寸法と真の欠陥寸法が一致しない場合、酸溶液により破面を腐食、溶解させ、フィッシュアイ破壊の起点となった介在物全体を破面上に出現させ、真の欠陥寸法を測定する請求項1又は2記載の金属材料中の欠陥検査方法。
  5. フィッシュアイ破壊後、欠陥を横切るように、金属製試験片を軸に平行に切断し、欠陥付近を観察し、軸方向の欠陥の形状の特定と寸法の測定を行う請求項1、2、3又は4いずれかに記載の金属材料中の欠陥検査方法。
  6. 通常の状態でフィッシュアイ破壊しない場合、焼入れ後低温で焼戻しするか若しくは表面を硬化させ、フィッシュアイ破壊を誘起させる請求項1、2、3、4又は5いずれかに記載の金属材料中の欠陥検査方法。
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