JP2004020516A - 電気物性の測定方法および顕微鏡装置 - Google Patents

電気物性の測定方法および顕微鏡装置 Download PDF

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坂口 浩司
Seiichiro Nakabayashi
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Abstract

【課題】分子レベルの空間分解能で局所的な光および電気特性を得ることを可能にし、試料表面の分子分布を光学特性の測定とは独立して観測することを可能にするための電気物性の測定方法および顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】導電性の基板1に配置した試料2に導電性の探針3を接触させる段階と、基板1に電圧を印加して基板1と探針3との間に電流を流す段階と、探針3が接触する試料2の局所部分にレーザ光4を照射して局所部分を励起させる段階と、基板1と探針3との間において、励起させることにより増加する電流を計測する段階とを含む電気物性の測定方法、および導電性の基板に配置した試料に接触可能な導電性の探針と、試料にレーザ光を照射して試料の局所部分を励起させるためのレーザ照射装置と、基板と探針との間に流れる電流を計測するための電流測定手段とを含む顕微鏡装置を用いる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気物性の測定方法および顕微鏡装置に関し、より詳細には、試料の局所部分に導電性の探針を接触させ、試料の局所部分にレーザ光を照射して励起させることにより発生する電流を計測することにより、分子1個または数個といった局所部分における電気物性を測定する方法、および計測した電流による電流分布を表示して試料の光および電気特性を観測することを可能とする顕微鏡装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体、有機、生体などの多くの材料でナノレベルの研究が行われていて、これに伴って高い空間分解能で微小材料を評価する方法が必要とされている。従来、これら微小材料を評価する手段として光学顕微鏡が用いられている。しかしながら、光学顕微鏡では、レンズの集光できる径が光の回折限界により半波長に制限されるため、ナノレベルの材料の観察ができないといった問題があった。そこで先端が鋭く尖ったプローブを試料表面の極めて近いところで、かつその表面に沿って走査する走査型プローブ顕微鏡が用いられている。走査型プローブ顕微鏡は、探針、探針の変位検出器、フィードバック制御装置、これらを制御するコンピュータ・システムなどから構成され、試料表面から離れると著しく減衰する物理量を測定することにより試料表面の特性を測定することができる装置である。これら物理量としては、走査型トンネル顕微鏡(STM)の場合においては探針と試料表面を流れるトンネル電流であり、原子間力顕微鏡(AFM)の場合においては探針を設けたカンチレバーのたわみ、または機械的共振周波数の変化から探針に作用する力や勾配であり、走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)の場合においてはエバネッセント光強度である。
【0003】
アルカンチオール中に共役系分子であるターチオフェンを孤立させた単一共役系分子構造の像を観察すると、アルカンチオールの結晶格子中に孤立したターチオフェンが輝点として観測されることが知られている。このように、分子スケールにおける局所的な光および電気物性の観測を可能にすることは、分子光素子の開発に有用である。ナノメートル領域の光物性を計測する装置として、上述した近接場光学顕微鏡が知られている。近接場光学顕微鏡は、先鋭化した光ファイバーから発するナノメートル点光源により試料表面を走査して光学的性質を検出する装置であり、近距離での距離依存性相互作用として非伝搬光であるエバネッセント光を用い、試料の光学特性を直接的に計測する優れた装置である。ここで、エバネッセント光とは、試料表面にのみ局在する非伝搬光であり、例えば、光学的に密な媒質から疎な媒質に向かう光がその境界面で全反射した場合に、境界近傍に局在し、境界面に平行に伝搬して境界面から離れるにつれて指数関数的に減衰する光である。エバネッセント光は、表面の形状、材料の光学特性に強く依存するため、エバネッセント光を測定することにより材料の局所的な光学特性を反映した情報を得ることができる。
【0004】
近接場光学顕微鏡は、エバネッセント光を伝搬光に変換する必要があるため、探針をエバネッセント光が存在する領域まで接近させて所要の空間分解能で試料の光学特性を得ることを可能とする装置である。しかしながら、近接場光学顕微鏡は、一般的な空間分解能が数十nmであるため、数nmまたは数Åレベルである分子レベルの空間分解能で光学特性を得ることができなかった。また、上述した走査型プローブ顕微鏡は、分子の定性的な電気特性を求めることはできるが、計測した電流には、分子と、探針との間にギャップが存在するため、分子のみを通して流れる電流および励起によって発生する電流を定量的に計測をすることができなかった。分子エレクトロニクスの分野においては、分子を使用したダイオード、トランジスタ、レーザなどの極限素子を実現するために、上述した分子レベルでの空間分解能に加え、時間分解能を付加することにより、分子1個または数個における電子の挙動や応答を理解することを可能とするシステムおよび方法が望まれている。さらに、上述した光および電気特性とともに試料表面についても独立して測定することができる顕微鏡装置が望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、上述した課題に鑑み、試料に導電性の探針を接触させて、レーザ光を照射して励起させ、励起により発生する電流を直接計測することにより分子1個または数個の光および電気特性を得ることを可能とする電気物性の測定方法を提供することができ、また、分子レベルの空間分解能で局所的な光および電気特性としてレーザ光による励起によって発生する電流を電流分布として観測することができ、試料表面の分子分布を独立して観測することを可能とし、さらにはナノスケール時間において観測することを可能とする顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、本発明の電気物性の測定方法および顕微鏡装置を提供することによって解決される。
【0007】
本発明の請求項1の発明によれば、導電性の基板に配置した試料に導電性の探針を接触させる段階と、前記基板に電圧を印加して前記基板と前記探針との間に電流を流す段階と、前記探針が接触する前記試料の局所部分にレーザ光を照射して該局所部分を励起させる段階と、前記基板と前記探針との間において、励起させることにより増加する電流を計測する段階とを含む電気物性の測定方法が提供される。
【0008】
本発明の請求項2の発明によれば、前記導電性の探針を上記試料に一定の力で間欠的に接触させて計測する電気物性の測定方法が提供される。
【0009】
本発明の請求項3の発明によれば、前記導電性の探針は、先端が0.1〜10nmである電気物性の測定方法が提供される。
【0010】
本発明の請求項4の発明によれば、前記レーザ光は、アルゴン・レーザ、ヘリウム−ネオン・レーザまたはチタン・サファイア・レーザから選択される電気物性の測定方法が提供される。
【0011】
本発明の請求項5の発明によれば、前記レーザ光は、前記試料の表面に対して全反射する角度で照射され、前記試料の表面に生じるエバネッセント光により前記局所部分が励起されることを特徴とする電気物性の測定方法が提供される。
【0012】
本発明の請求項6の発明によれば、前記レーザ光を2つのレーザ光に分岐させ、一方のレーザ光に対して他方のレーザ光を時間遅延させて照射する電気物性の測定方法が提供される。
【0013】
本発明の請求項7の発明によれば、前記遅延させる時間は、0〜300フェムト秒である電気物性の測定方法が提供される。
【0014】
本発明の請求項8の発明によれば、試料表面における分子分布および電流分布を観測するための装置であって、導電性の基板に配置した前記試料に接触可能な導電性の探針と、前記試料にレーザ光を照射して該試料の局所部分を励起させるためのレーザ照射装置と、前記基板と前記探針との間に流れる電流を計測するための電流測定手段と、前記探針の位置を測定するための位置測定装置とを含む分布測定装置と、
前記電流測定手段により計測した電流から前記電流分布を、前記位置測定装置により測定した前記探針の位置から前記分子分布を解析するためのプログラムが記録されたコンピュータ・システムと、
前記コンピュータ・システムにおいて解析した前記分子分布および前記電流分布を拡大して表示させる表示装置とを備えた顕微鏡装置が提供される。
【0015】
本発明の請求項9の発明によれば、前記導電性の探針を前記分子に一定の力で間欠的に接触させて計測する顕微鏡装置が提供される。
【0016】
本発明の請求項10の発明によれば、前記導電性の探針は、先端が0.1〜10nmである顕微鏡装置が提供される。
【0017】
本発明の請求項11の発明によれば、前記レーザ光は、アルゴン・レーザ、ヘリウム−ネオン・レーザまたはチタン・サファイア・レーザから選択される顕微鏡装置が提供される。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明するが、本発明は後述する実施の形態に限定されるわけではない。本発明の電気物性の測定方法について図1を用いて説明する。図1は、基板1上に配置した試料2の局所部分に探針3を接触させて、基板1に電圧を印加するとともに、基板1を通して試料2にレーザ光4を照射しているところを示した図である。以下、レーザ光を、図2に示す装置に使用する変位検波用レーザ光と区別するために励起用レーザ光として説明する。図1に示す実施の形態では、基板1は、導電性を有し、試料2中の1個または数個の分子を通して流れる電流を計測するため、例えば原子レベルで平坦な表面を有している。また、基板1は、導電性を有し、原子レベルで平坦な表面を有する金、銀、銅といった金属のほか、試料2を通して流れる電流を分子レベルで計測できる程度に平坦な表面を有するものとされている。さらに、基板1は、絶縁性の基板に金属といった導電性物質を蒸着といった方法によってメッキして導電性を有するものを用いることもできる。
【0019】
図1に示す試料2は、蒸着するなどして基板1に付着させることができる。本発明においては、基板1と試料2との電気的接合を良好にするために基板1上に例えば、共有結合、イオン結合または配位結合などの化学結合により結合されていることが好ましいが、物理吸着により結合されていても良い。試料2を基板1に結合させるためには、加熱するなど従来知られたいかなる方法でも用いることができる。本発明に用いることができる試料2としては、無機分子または有機分子などいかなる分子でも用いることができる。
【0020】
図1に示す探針3は、試料2における分子1個および数個と接触することができるように先端が鋭く尖った形状とされている。また、励起用レーザ光4は、基板1を通して探針3が接触する試料表面とは反対側の表面に向けて照射されている。基板1を通して試料2に照射する場合には、ITO(スズでドーピングした酸化インジウム)などの透明な金属を用いることができる。また、本発明においては、励起用レーザ光4を探針3が接触する試料表面に照射することもできる。
【0021】
図1に示す導電性の基板1は、電源5に接続され、探針3は、電流測定手段6に接続されている。図1に示す実施の形態では、探針3を試料2に接触させることで、電源5から試料2を通して電流が流れ、図1中Aで示される電流測定手段6により試料2に流れる電流が計測されるようになっている。また、図1に示す実施の形態では、探針3が接触する試料2の局所部分を励起するように、透明とされた基板1と接する面に向けて励起用レーザ光4が照射されている。この場合、電源5から供給した電流のみが試料2を通して流れる場合に比べて、電流測定手段6において多くの電流が検出される。励起用レーザ光4が照射された局所部分においては、励起用レーザ光4により試料表面に発生するエバネッセント光によって励起され、励起された電子がフォトキャリアとして電源5から供給される電流とともに探針3へ向けて流れるものと推定される。このフォトキャリアの流れを以下、光電流とする。エバネッセント光の強度は、表面の凹凸や試料の種類により異なり、これに伴って試料2の局所部分を流れる電流や励起される電子の数が異なるため、電流の計測により試料の光および電気特性の情報を得ることが可能となる。
【0022】
図1に示す実施の形態では、基板1に試料2を配置し、試料2に探針3を接触させて電源5から電流を供給することにより、試料2を通して探針3に向けて電流が流れる。流れた電流は、探針3を通して電流測定手段6により検出される。本発明においては、試料2を通して電流が流れる程度に薄く試料2を基板1に結合させることが好ましい。また、探針3を接触させた試料2の局所部分の反対側の試料表面に励起用レーザ光4を照射し、試料2の局所部分を励起させることができる。上記と同様に、電源5から電流を供給し、試料2を通して電流測定手段6により電流を検出する。ここで検出された電流と励起用レーザ光4を照射しない場合に計測される電流とにより、励起によって増加した電流である光電流を検出することができる。また、図1に示す基板1を2次元方向に移動させることによって基板1上の各局所部分における光電流を計測することができ、光電流像として表すことが可能となる。ここでは、励起用レーザ光4を照射しない場合に計測される電流の電流分布を表示させることも可能であり、以下この電流分布を暗電流像とする。本発明においては、計測する試料によっても異なるが、探針3を試料2に接触させる力として1nNで接触させることができる。この程度の力であれば、試料2となる分子を損傷することなく接触させることが可能となる。
【0023】
また、本発明においては、試料2の局所部分を通して流れる電流は、微小電流であるため、ピコアンペア域まで計測できる電流測定手段6を用いる必要がある。また、本発明に用いる電源5はバイアス電圧を供給でき、電圧を制御できるものであれば、いかなる電源装置でも用いることができる。その他、ピコアンペア域の微小電流を計測する場合には、照射する励起用レーザ光4をチョップすることによりパルス状のレーザ光4を照射させることができ、このパルス周期に同期して増幅させることができるロック・イン・アンプを用いて、増幅させた電流を計測することもできる。
【0024】
また、ナノスケール実時間における光電流は、励起用レーザ光4を2つに分岐し、1つを時間遅延させて照射し、計測される光電流を変化させることにより観測することができる。励起用レーザ光4を2つに分岐し、1つを時間遅延させて照射する手段としては、マイケルソンの干渉計を挙げることができる。また、遅延させる時間としては、波長400nmの励起用レーザ光4を用い、1つの励起用レーザ光4を基準とした場合、−300フェムト秒から300フェムト秒の間とすることができる。このように1つの励起用レーザ光4を時間遅延させ、その遅延時間を変化させることにより、実時間により計測される光電流が変化することを観測することができる。より具体的には、計測した光電流を電流分布である光電流像として表し、1つの励起用レーザ光4を時間遅延させていくことにより光電流像が変化するため、ナノスケール実時間における光電流を観測することが可能となる。
【0025】
図2には、本発明の顕微鏡装置の断面図を示す。図2に示す装置は、電流を計測する以外にも、試料表面の形状測定および計測した電流の電流分布を電流像として表示させることが可能な装置である。図2に示す装置は、容器7が容器7aと蓋7bの2つに分離できるように構成されており、容器7aには、基板1を挿入して設置するための試料入口8と、試料入口8を閉めるための蓋9と、図示しない電流測定手段と接続するための導線10bを通すノズル12と、容器7a内を窒素雰囲気とするため、矢線Bの方向から窒素ガスを供給するノズル11とが備えられている。また、蓋7bには、試料2を走査する探針3の位置を制御するために用いられる変位検波用のレーザ照射装置としてレーザ・ダイオード13と、変位検波用レーザ光の変位を電圧に変換するための変換装置として変換器14とが設けられている。ここで、上述した蓋7bの部分に収容されている装置が試料2の分子分布を測定するための位置測定装置とされる。レーザ・ダイオード13で発生させた破線に示す変位検波用レーザ光は、ビーム・セパレータ15で分波され、分波した一方の変位検波用レーザ光は、CCD16へ入射させるため、蓋7bの上部に形成された窓17を通して容器7の外部へと導出されている。
【0026】
図2に示す容器7は、容器7a内に封入した窒素ガスが漏れないように保つことができる構造とされている。また、容器7a内に封入する窒素ガスは、窒素ボンベなどを配管を使用して容器7aと連通させて供給される。この際、容器7a内を排気するために図示しない排気ポンプが用いられ、排気ポンプにより排気した後に窒素ガスが導入される。
【0027】
図2に示す容器7a内には、試料2を配置した基板1がピエゾ・アクチュエータ18を含んで構成された台19上のプリズム20上に配置されている。ピエゾ・アクチュエータ18には、矢線Cの方向より電圧が入力されて圧電効果により台19を移動可能に保持させて、容器7aの上部に固定した探針3との接触する力や接触する位置を変えることができるようになっている。
【0028】
また、図2に示す基板1は、電源5と導線10aにより接続されている。さらに、試料2と接触可能な探針3を先端に有するカンチレバー21が容器7aの上部に固定部材22によって配設され、カンチレバー21は、導線10bにより容器7aのノズル12を通して図示しない電流測定手段に接続されている。図2に示す台19および固定部材22には、電源5から基板1、探針3およびカンチレバー21を通して矢線Dに示す方向の図示しない電流測定手段へ流すために、絶縁性の材質から構成されている。
【0029】
図2に示す容器7の蓋7b内には、レーザ・ダイオード13で発生させた変位検波用レーザ光を集中させるためのレンズ23と、変位検波用レーザ光をカンチレバー21の先端部およびCCD16へと分波させるビーム・セパレータ15と、カンチレバー21の先端部において反射した変位検波用レーザ光を変位検知装置として用いる変位検波器24へ向けて反射させる反射板25と、反射板25で反射した変位検波用レーザ光の搬送波の変位を検出する変位検波器24とが設けられている。変位検波器24で検出した変位検波用レーザ光は、変位検波器24で検出した変位を変換器14により電圧に変換する。変換された電圧は、矢線Eに示す方向の図示しない増幅装置へと出力される。また、CCD16は、カンチレバー21の先端のX軸あるいはY軸方向の位置を目視できるように設けられている。
【0030】
図2に示す装置のフィードバック制御は、カンチレバー21に反射した変位検波用レーザ光の変位を変位検波器24で検知し、変位に応じて変換器14により電圧に変換される。基板1が位置移動したことによって変位検波用レーザ光の光路長が変化し、光路長の変化に応じた変位を変換器14により電圧へと変換し、ピエゾ・アクチュエータ18の駆動制御を行うことで、試料2と探針3とが接触する力が一定となるようにフィードバック制御が行われる。
【0031】
図2に示す装置は、容器7bの所定位置に配置される試料2に向けて励起用レーザ光4を照射するためにノズル26が設けられていて、図示しない励起用レーザ光照射装置からノズル26を通して試料2に照射される。例えば、基板1として透明な基板1に試料2が蒸着されていて、ノズル26から照射された励起用レーザ光4は、プリズム20を介し、透明な基板1を通して試料2に照射されている。また、照射された励起用レーザ光4は、プリズム20上に配置した試料表面において全反射する角度で入射される。この場合、試料表面に向けて指数関数的に減衰し、試料2からしみ出す状態のエバネッセント光が発生する。このエバネッセント光により励起され、励起された電子がフォトキャリアとなり、電源5から供給される電流とともに流れ、図示しない電流測定手段によってより多くの電流が検出される。また、励起用レーザ光4を照射しない場合の電流を計測することにより、励起によって発生した光電流を検出することができる。検出される光電流は、試料2の表面形状や種類によって異なるため、例えば各分子における光および電気特性をそれぞれ得ることが可能となる。これにより、分子を選定して電子デバイスなどの分子エレクトロニクスの技術に応用可能となる。本発明においては、励起用レーザ光4として、アルゴン・レーザ、ヘリウム−ネオン・レーザまたはチタン・サファイア・レーザなどを用いることができる。また、電流は、カンチレバー21を通して図示しない電流測定手段により計測することができ、その際にチョッパなどの一定間隔で断続することが可能な装置と、その一定間隔で断続する光電流信号を同期させ、増幅することができるロックインアンプを用いて増幅した電流を検出することができる。
【0032】
上述した装置を用いて光電流を計測する場合、まず、試料2を配置した基板1をピエゾ・アクチュエータ18を有する台19上のプリズム20の上に配置する。この基板1をバイアス電圧が流れる電源5と導線10aを介して接続する。探針3を試料2に接触させ、基板1にバイアス電圧が印加される。また、探針3が接触する試料2の局所部分に励起用レーザ光4を照射する。この場合、コンピュータ・システムにより試料2に探針3を接触する力または接触させた基板1を移動させる方向を制御する。電源5から供給され、基板1および試料2を通して流れる電流と、励起により発生する光電流とがカンチレバー21を通して流れることにより電流増幅器へ入力される。電流増幅器では、試料2を通して流れる電流がナノ域といったように微量であるため、基板1の移動に伴う電流をオペアンプといった増幅手段を用いて増幅している。また、励起用レーザ光4を停止し、試料2を通して流れる電流のみを計測することにより、励起によって発生する光電流を計測することができる。励起により発生する光電流は、コンピュータ・システムにおいて算出することができ、電流に対してX軸方向、Y軸方向の位置をマッピングすることにより、光電流像を画像化し、さらに表示装置により光電流像を拡大して表示させることができる。表示された光電流像は、分子1個または数個の分子における電子の挙動や応答を解析するために用いることができる。
【0033】
また、上述した増幅装置には、必要とされる増幅装置が設けられており、例えば、前置増幅器、絶対値増幅器、対数増幅器、参照信号発生器、積分増幅器および高速電圧増幅器などが設けられている。これら増幅装置により増幅された電圧信号は、探針3の試料2にかかる力が一定となるように、台19をZ軸方向へ移動させる電圧信号をピエゾ・アクチュエータ18に与える。さらに、増幅装置の信号は、コンピュータ・システムに入力されて、試料2に加えられている探針3の力と、表面状態とを解析することができるようになっている。また、コンピュータ・システムに、X軸またはY軸方向へ移動させるように入力することによって、コンピュータ・システムからの信号が増幅装置に入力され、増幅装置から電圧が出力されてピエゾ・アクチュエータ18により台19をX軸またはY軸方向へと移動させることができる。
【0034】
図2に示す励起用レーザ光4を照射するための装置としては、いかなる照射装置でも用いることができるが、例えば、フェムト秒レーザであるチタン・サファイア・レーザ発生装置を用いることができる。チタン・サファイア・レーザ発生装置は、アルゴン・イオン・レーザなどのレーザ光でレーザ光を励起するものであり、励起したレーザ光を照射することができる装置である。
【0035】
また、コンピュータ・システムには、得られた暗電流および光電流の大小で凹凸を解析して暗電流像および光電流像を表示させ、またフィードバック制御系から得た電圧信号により試料2の分布を解析して分子分布、ピンホールなどといった分子表面像を表示させることができる解析プログラムが記録されている。ここで、暗電流は、図2に示す電源5から供給された電流のみが試料を通して流れる場合の電流である。この解析プログラムには、計測した暗電流および光電流から電流分布を画像化した暗電流像および光電流像に変換させるための電流解析機能、電圧信号から分子分布を測定するための表面形状測定機能のほか、カラー等高線機能、三次元表示機能、拡大機能、フィルタリング機能および任意回転機能を有するプログラムが用いられている。
【0036】
また、コンピュータ・システムは、図1に示す電流測定手段6からの電流値あるいは電圧信号を記録し、上記プログラムを記録および再生して使用することができる。コンピュータ・システムは、1台で試料2の分布を解析し、解析した分子分布をモニターにおいて拡大して表示させることができるようになっている。したがって、本発明の顕微鏡装置は、上述したレーザ照射装置、位置測定装置、探針、電流測定手段、増幅装置などを含む分布測定装置と、コンピュータ・システムと、モニタなどの表示装置とから構成される装置である。
【0037】
図3は、本発明の顕微鏡装置に用いることができるカンチレバー21の先端に設けられた探針3を拡大した図である。図3(a)は、カンチレバー21を試料2の分子に接触させている図である。また、図3(b)は、探針3を拡大して示した図である。図3(a)に示すカンチレバー21は、シリコンといった絶縁性のカンチレバーの基体に金といった導電性の金属を表面全体にメッキすることによって電流が流れるようにされている。また、図3(b)に示す探針3の先端は、先が鋭く尖った形をしており、分子を1分子ずつ接触可能なように0.1〜10nmとされている。
【0038】
以下に、図2に示す本発明の顕微鏡装置と図3に示す探針とを用いた電気物性の測定方法により得られる光および電気特性について示す。図2に示す基板1には、ITOガラスを用い、試料2には、銅フタロシアニン(CuPc)を用いた。銅フタロシアニンをITOガラスに真空蒸着し、厚さ100nm〜10nmとした。
【0039】
基板1を図2に示すプリズム20上に配置し、電源5と基板1とを接続し、電源5からバイアス電圧を印加した。容器7a内は、窒素雰囲気とされ、探針3を試料2の局所部分に1nNの力で接触させた。ノズル26を通して励起用レーザ光4を試料2に照射し、試料2の局所部分を励起させて探針3と基板1との間に流れる電流を計測した。また、上述した変位検波器やレーザ・ダイオードなどを用いて試料2の二次元方向へ走査するとともに、所定の力で接触するように制御することにより試料2の全体において電流を計測した。計測した電流は、上述した増幅装置などより増幅され、コンピュータ・システムおよび表示装置により光電流像などとして表示することができる。
【0040】
図4は、上述したように銅フタロシアニン(CuPc)の局所部分に探針を接触させ、励起用レーザ光を照射して局所部分を励起させた場合の効果について示した図である。図4は、励起用レーザ光を照射して局所部分を励起させた場合の効果について示した図であり、励起用レーザ光の照射、停止を繰り返した場合に図1〜図3に示す探針3に流れる電流を示している。図4に示す横軸は、時間(秒)を示し、縦軸は、励起させることにより発生する光電流(pA)を示す。励起用レーザ光の照射によって励起され、励起されることにより発生する光電流が試料を通して流れる電流とともに流れる。図4は、図1および図2に示す電源5から供給され、試料2を通して流れる電流を0として示したものであり、励起用レーザ光を照射して励起することにより光電流が増加し、励起用レーザ光の照射を停止することにより光電流が減少している。本発明においては、励起されることにより発生する光電流は、励起波長が長いヘリウム−ネオン・レーザ(波長632.8nm)の方がアルゴン・レーザ(波長514.5nm)より大きく、励起波長に依存することを見出した。また、励起によって発生する光電流は、銅フタロシアニン蒸着膜の吸収スペクトルに対応することを見出した。
【0041】
図5は、電圧−電流特性を示した図であり、曲線Fは光電流を示し、曲線Gは暗電流を示す。図5に示す曲線Fのように励起により発生した光電流は、図2に示す基板1に印加する電圧の上昇に伴い、曲線Gと比較して整流特性を示し、ITOガラスと銅フタロシアニン界面においてショット・キー・バリアが存在するものと推定される。ITOガラスに蒸着した銅フタロシアニンを二次元に走査するとともに光電流を測定し、上述したコンピュータ・システムおよび表示装置を用いて光電導像に表すと、均一な像を表し、図2に示す装置により測定された試料2の表面像および暗電流像のように凹凸がなかった。これは、上述したようにショット・キー・バリアなどの電位障壁に関する情報を反映しているものと推定される。図2に示す装置を用い、光電流を計測するほか、光電流像、表面像および暗電流像を表示し、観察することで、より詳細な試料2の光および電気特性を測定することができる。
【0042】
図6は、図2に示す装置において試料2に照射するレーザ光4を2つに分け、1つを時間遅延させて照射し、ナノスケール実時間における電流を測定した結果を示した図である。レーザ光4を2つに分岐し、1つを時間遅延させる手段としては、上述したようにマイケルソンの干渉計を挙げることができる。また、遅延させる時間としては、1つのレーザ光4を基準とすると、−300フェムト秒から300フェムト秒の間とすることができる。図6(a)は、図1および図2に示す試料2に入射するレーザ光4における時間と強度とを示したものであり、横軸は、時間(フェムト秒)を示し、縦軸は、レーザ強度を示す。また、図6(b)は、時間と光電流とを示したものであり、横軸は、時間(フェムト秒)を示し、縦軸は、光電流(pA)を示す。試料2に入射するレーザ光4は、チタン・サファイア・レーザの2倍波(波長395nm)を用いた。図6(a)においては、入射するレーザ光4の時間幅が110フェムト秒であるのに対し、図6(b)に示す光電流波形は、65フェムト秒となっている。これにより、入射するレーザ光4により2光子励起されていることが見出され、これを図2に示す本発明の顕微鏡装置で表示することによりナノスケール実時間で観測することができることを見出すことができた。
【0043】
【発明の効果】
従って、本発明の電気物性の測定方法を提供することにより、試料に導電性の探針を接触させて、レーザ光を照射して励起させ、励起によって発生する電流を直接計測することにより分子1個または数個の光および電気特性を得ることが可能となる。
【0044】
また、本発明の顕微鏡装置を提供することにより、局所的な光および電気特性として、分子レベルの空間分解能でレーザ光による励起によって発生する電流を電流分布として観測することができ、試料表面の分子分布を独立して観測することを可能とし、さらにはナノスケール時間において観測することが可能となる。
【0045】
本発明の電気物性の測定方法および顕微鏡装置は、任意の点にチップをアドレスし、局所的な電気物性を測定することができるため、ダイオード、トランジスタ、レーザなどの極限素子として分子を用いる分子エレクトロニクスの分野への応用を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】基板上に配置した試料の局所部分に探針を接触させて、基板に電圧を印加するとともに、基板を通して試料にレーザ光を照射しているところを示した図。
【図2】本発明の顕微鏡装置の断面図。
【図3】本発明の顕微鏡装置に用いることができるカンチレバーの先端に設けられた探針を拡大した図。
【図4】銅フタロシアニン(CuPc)の局所部分に探針を接触させ、レーザ光を照射して局所部分を励起させた場合の効果について示した図。
【図5】銅フタロシアニン(CuPc)の局所部分に探針を接触させ、レーザ光を照射して局所部分を励起させた場合の電圧−電流特性について示した図。
【図6】図2に示す装置において試料に照射するレーザ光を2つに分け、1つを時間遅延させて照射し、ナノスケール実時間における電流を測定した結果を示した図。
【符号の説明】
1…基板
2…試料
3…探針
4…レーザ光
5…電源
6…電流測定手段
7、7a…容器
7b…蓋
8…試料入口
9…蓋
10a、10b…導線
11…ノズル
12…ノズル
13…レーザ・ダイオード
14…変換器
15…ビーム・セパレータ
16…CCD
17…窓
18…ピエゾ・アクチュエータ
19…台
20…プリズム
21…カンチレバー
22…固定部材
23…レンズ
24…変位検波器
25…反射板
26…ノズル
A…電流計
F、G…曲線

Claims (11)

  1. 導電性の基板に配置した試料に導電性の探針を接触させる段階と、前記基板に電圧を印加して前記基板と前記探針との間に電流を流す段階と、前記探針が接触する前記試料の局所部分にレーザ光を照射して該局所部分を励起させる段階と、前記基板と前記探針との間において、励起させることにより増加する電流を計測する段階とを含む、電気物性の測定方法。
  2. 前記導電性の探針を前記試料に一定の力で間欠的に接触させて計測する、請求項1に記載の電気物性の測定方法。
  3. 前記導電性の探針は、先端が0.1〜10nmである、請求項1または2に記載の電気物性の測定方法。
  4. 前記レーザ光は、アルゴン・レーザ、ヘリウム−ネオン・レーザまたはチタン・サファイア・レーザから選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気物性の測定方法。
  5. 前記レーザ光は、前記試料の表面に対して全反射する角度で照射され、前記試料の表面に生じるエバネッセント光により前記局所部分が励起されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気物性の測定方法。
  6. 前記レーザ光を2つのレーザ光に分岐させ、一方のレーザ光に対して他方のレーザ光を時間遅延させて照射する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気物性の測定方法。
  7. 前記遅延させる時間は、0〜300フェムト秒である、請求項6に記載の電気物性の測定方法。
  8. 試料表面における分子分布および電流分布を観測するための装置であって、導電性の基板に配置した前記試料に接触可能な導電性の探針と、前記試料にレーザ光を照射して該試料の局所部分を励起させるためのレーザ照射装置と、前記基板と前記探針との間に流れる電流を計測するための電流測定手段と、前記探針の位置を測定するための位置測定装置とを含む分布測定装置と、
    前記電流測定手段により計測した電流から前記電流分布を、前記位置測定装置により測定した前記探針の位置から前記分子分布を解析するためのプログラムが記録されたコンピュータ・システムと、
    前記コンピュータ・システムにおいて解析した前記分子分布および前記電流分布を拡大して表示させる表示装置とを備えた、顕微鏡装置。
  9. 前記導電性の探針を前記分子に一定の力で間欠的に接触させて計測する、請求項8に記載の顕微鏡装置。
  10. 前記導電性の探針は、先端が0.1〜10nmである、請求項8または9に記載の顕微鏡装置。
  11. 前記レーザ光は、アルゴン・レーザ、ヘリウム−ネオン・レーザまたはチタン・サファイア・レーザから選択される、請求項8〜10のいずれか1項に記載の顕微鏡装置。
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