JP2004019878A - 減速機およびこれを備える電動式動力舵取装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】電動モータの回転を舵取機構に伝えるための減速機に、ウォーム軸およびウォームホイールを用いる場合に、悪路走行時のタイヤからの反力がウォームホイールに与えられると、バックラッシに起因する騒音が車室内に伝搬し、問題となる。
【解決手段】ウォームホイール12の歯48を歯厚方向49に貫く貫通孔50を設ける。貫通孔50の両端51、52が歯48の噛み合い部分Bに開放する。
【効果】貫通孔50から噛み合い部分Bに適宜に潤滑剤が供給され、噛み合い部分Bに十分な量の潤滑剤を保持することができ、噛み合い部分Bの衝突により生ずる衝撃を確実に緩和して、振動や騒音を確実に低減することができる。
【選択図】 図3
【解決手段】ウォームホイール12の歯48を歯厚方向49に貫く貫通孔50を設ける。貫通孔50の両端51、52が歯48の噛み合い部分Bに開放する。
【効果】貫通孔50から噛み合い部分Bに適宜に潤滑剤が供給され、噛み合い部分Bに十分な量の潤滑剤を保持することができ、噛み合い部分Bの衝突により生ずる衝撃を確実に緩和して、振動や騒音を確実に低減することができる。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ウォームおよびウォームホイールを有する減速機、およびこれを備える電動式動力舵取装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用の電動式動力舵取装置(EPS)には減速機が用いられている。例えばコラム型EPSでは、モータの回転力をウォームに伝え、さらにウォームホイールに伝えることでモータの回転を減速してモータの出力を増幅し、ステアリング操作をトルクアシストするようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、減速機としてのウォームおよびウォームホイールの噛み合いには適度なバックラッシが必要であるが、例えば石畳等の悪路を走行した場合、タイヤからの反力が上記バックラッシに起因した歯打ち音として発生したり、軸受その他のクリアランスを有する部品がラトル音を発生する場合がある。これらの音が車室内に騒音として伝わると、運転者に不快感を与えることになる。
【0004】
ところで、潤滑性向上の目的で、歯の表面に微小な凹みを設けて潤滑剤溜まり部とする減速機が提案されている(例えば特開平8−226526号公報、実開平5−8111号公報参照)。
しかしながら、上記の公報の減速機では、上記の歯打ち音の低減が不十分である。
同様の問題は電動式動力舵取装置の減速機に限らず、ウォームおよびウォームホイールを有する一般の減速機においても存在する。
【0005】
そこで、本発明の課題は、騒音の少ない減速機およびこれを備える電動式動力舵取装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、ウォームおよびウォームホイールの少なくとも噛み合い領域に潤滑剤が充填され、ウォームおよびウォームホイールの少なくとも一方の歯を歯厚方向に貫く貫通孔を設け、この貫通孔の両端を歯の両側の噛み合い部分に開放したことを特徴とする減速機を提供するものである。
【0007】
本発明では、十分な量の潤滑剤を溜めておくことができる貫通孔から噛み合い部分に適宜に潤滑剤が供給されるので、噛み合い部分に十分な量の潤滑剤を保持できる。したがって、歯の噛み合い部分の衝突により生ずる衝撃を潤滑剤で確実に緩和して、振動や騒音を確実に低減することができる。
また、歯の進み遅れ振動に対して貫通孔内の潤滑剤が貫通孔の一端と他端との間を往復することで、上記振動を潤滑剤で効果的に減衰することも可能である。
【0008】
上記の潤滑剤としては、ちょう度1〜000のグリースを用いることが好ましい。というのは、グリースがちょう度1を超える硬さを持つ場合には、貫通孔の中へ入り難くなり、貫通孔に十分な量の潤滑剤を溜められないおそれがあるからである。
また、上記の潤滑剤として、粘度30〜800mm2/s(40℃)の潤滑油を用いることが好ましい。この範囲であれば、潤滑油が貫通孔内に保持されやすく、緩衝効果を期待できるからである。
【0009】
請求項2記載の発明は、ウォームおよびウォームホイールの少なくとも噛み合い領域に潤滑剤が充填され、ウォームホイールの歯の歯先面に歯厚方向に延びる溝を設け、溝の両端を歯の両側の噛み合い部分に開放したことを特徴とする減速機を提供するものである。
本発明では、十分な量の潤滑剤を溜めておくことができる上記の溝から噛み合い部分に適宜に潤滑剤が供給されるので、噛み合い部分に十分な量の潤滑剤を保持でき、その結果、歯の噛み合い部分の衝突により生じる衝撃を潤滑剤で確実に緩和して、振動や騒音を確実に低減することができる。
【0010】
溝の深さは少なくとも噛み合い部分に到達できる深さであればよいが、歯たけに等しい深さを持つようにしても良く、この場合、より多くの潤滑剤を溜めることができる。また、溝であれば、例えば、合成樹脂の射出成形により歯を形成する場合に、射出成形時に製造することも可能である。
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の減速機を備える電動式動力舵取装置を提供するものである。この場合、車室内での騒音をコスト安価に低減できる点で好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施の形態の電動式動力舵取装置の概略断面図である。図1を参照して、本電動式動力舵取装置(以下では単に動力舵取装置という)では、ステアリングホイール1を取り付けている入力軸としての第1の操舵軸2と、ラックアンドピニオン機構等の舵取機構(図示せず)に連結される出力軸としての第2の操舵軸3とがトーションバー4を介して同軸的に連結されている。
【0012】
第1および第2の操舵軸2、3を支持するハウジング5は、例えばアルミニウム合金からなり、車体(図示せず)に取り付けられている。ハウジング5は、互いに嵌め合わされるセンサハウジング6とギヤハウジング7により構成されている。具体的には、ギヤハウジング7は筒状をなし、その上端の環状縁部7aがセンサハウジング6の下端外周の環状段部6aに嵌め合わされている。ギヤハウジング7は減速機構としてのウォームギヤ機構8を収容し、センサハウジング6はトルクセンサ9および制御基板10等を収容している。ギヤハウジング7にウォームギヤ機構8を収容することで減速機70が構成されている。
【0013】
上記ウォームギヤ機構8は、図2に示すように、電動モータMの回転軸32に例えばスプライン33継手等の継手機構を介して連結されるウォーム軸11と、このウォーム軸11と噛み合い、且つ図1に示すように、第2の操舵軸3の軸方向中間部に一体回転可能で且つ軸方向移動を規制されたウォームホイール12とを備える。
図1および図2を参照して、ウォームホイール12は第2の操舵軸3に一体回転可能に結合される環状の芯金12aと、芯金12aの周囲を取り囲んで外周面部に歯を形成する合成樹脂部材12bとを備えている。芯金12aは例えば合成樹脂部材12bの樹脂形成時に金型内にインサートされるものである。
【0014】
ギヤハウジング7内において、ウォーム軸11およびウォームホイール12の噛み合い領域Aに潤滑剤が充填されている。すなわち、潤滑剤は噛み合い領域Aのみに充填しても良いし、噛み合い領域Aとウォーム軸11の周縁全体に充填しても良いし、ギヤハウジング7内全体に充填しても良い。
図1を参照して、第2の操舵軸3は、ウォームホイール12を軸方向の上下に挟んで配置される第1および第2の転がり軸受13、14により回転自在に支持されている。
【0015】
第1の転がり軸受け13の外輪15は、センサハウジング6の下端の筒状突起6b内に設けられた軸受保持孔16に嵌め入れられて保持されている。第1の転がり軸受13の外輪15の上端面は環状の段部17に当接しており、センサハウジング6に対する軸方向上方への移動が規制されている。一方、第1の転がり軸受13の内輪18は第2の操舵軸3に締まりばめにより嵌め合わされている。内輪18の下端面は、ウォームホイール12の芯金12aの上端面に当接している。
【0016】
また、第2の転がり軸受14の外輪19は、ギヤハウジング7の軸受保持孔20に嵌め入れられて保持されている。第2の転がり軸受14の外輪19の下端面は、環状の段部21に当接し、ギヤハウジング7に対する軸方向下方への移動が規制されている。第2の転がり軸受14の内輪22は、第2の操舵軸3に一体回転可能で且つ軸方向相対移動を規制されて取り付けられている。内輪22は第2の操舵軸3の段部23と、第2の操舵軸3のねじ部に締めこまれるナット24との間に挟持されている。
【0017】
トーションバー4は第1および第2の操舵軸2,3を貫通している。トーションバー4の上端4aは、連結ピン25により第1の操舵軸2と一体回転可能に連結され、トーションバー4の下端4bは、連結ピン26により第2の操舵軸3と一体回転可能に連結されている。第2の操舵軸3の下端は、図示しない中間軸を介してラックアンドピニオン機構等の舵取機構に連結されている。
上記の連結ピン25は、第1の操舵軸2と同軸に配置される第3の操舵軸27を、第1の操舵軸2と一体回転可能に連結している。第3の操舵軸27はステアリングコラムを構成するチューブ28内を貫通している。
【0018】
第1の操舵軸2の上部は、例えば針状ころ軸受からなる第3の転がり軸受29を介してセンサハウジング6に回転自在に支持されている。第1の操舵軸2の下部の縮径部30と第2の操舵軸3の上部の孔31とは、第1および第2の操舵軸2,3の相対回転を所定の範囲に規制するように、回転方向に所定の遊びを設けて嵌め合わされている。
次いで、図2を参照して、ウォーム軸11はギヤハウジング7により保持される第4および第5の転がり軸受34、35によりそれぞれ回転自在に支持されている。第4および第5の転がり軸受34、35は例えば玉軸受からなる。
【0019】
第4および第5の転がり軸受34、35の内輪36、37がウォーム軸11の対応するくびれ部に嵌合されている。また、第4および第5の転がり軸受34、35の外輪38、39は、ギヤハウジング7の軸受保持孔40、41にそれぞれ保持されている。
また、ウォーム軸11の一端部11aを支持する第4の転がり軸受34の外輪38は、ギヤハウジング7の段部42に当接し位置決めされている。一方、第4の転がり軸受34の内輪36は、ウォーム軸11の位置決め段部43に当接することにより、ウォーム軸11の他端部11b側への移動が規制されている。
【0020】
ウォーム軸11の他端部11b(継手側端部)の近傍を支持する第5の転がり軸受35の内輪37はウォーム軸11の位置決め段部44に当接することにより、ウォーム軸11の一端部11a側への移動が規制されている。
また、第5の転がり軸受35の外輪39は予圧調整用のねじ部材45により、第4の転がり軸受34側へ付勢されている。ねじ部材45は、ギヤハウジング7に形成されるねじ孔46にねじ込まれることにより、一対の転がり軸受34、35に予圧を付与すると共に、ウォーム軸11を軸方向に位置決めしている。47は予圧調整後のねじ部材45を止定するためにねじ部材45に係合されるロックナットである。
【0021】
図3は、ウォームホイール12の合成樹脂部材12bの外周に形成される歯48のうちの一つを拡大した模式図であり、図4は、ウォーム軸11およびウォームホイール12の噛み合いを示す模式的断面図である。
図3および図4を参照して、歯48には、歯48を歯厚方向49に貫く貫通孔50が、それぞれ一ないし複数設けられている(例えば図3では2箇所)。貫通孔50の一対の端部51、52が、歯48の噛み合い部分Bに開放するように配置されている。歯48の噛み合い部分Bは、ウォーム軸11の歯53と噛み合わせるための部分である。
【0022】
本実施形態によれば、貫通孔50は、歯48の歯厚方向49を貫いて形成されており、従来の、歯の表面に微小な凹みを設けた構成に比べて、格段に多くの量の潤滑剤を保持することができるようになっている。これにより、貫通孔50から噛み合い部分Bに適宜に潤滑剤が供給され、噛み合い部分Bに十分な量の潤滑剤を保持することができる。したがって、歯48の噛み合い部分Bの衝突により生ずる衝撃を確実に潤滑剤で緩和して、振動や騒音を確実に低減することができる。
【0023】
さらに、歯の進み遅れ振動が生じた場合には、貫通孔50内の潤滑剤が貫通孔50の一対の端部51、52間を往復することで、上記振動を潤滑剤で効果的に減衰することも可能である。
また、図3および図4に示した構成に代えて、図5および図6に示すように、ウォーム軸11の歯53を歯厚方向54に貫く貫通孔55が、それぞれ一ないし複数(例えば図5では3箇所)設けられる構成としてもよい。この場合も、貫通孔55の一対の端部56、57が、歯53の噛み合い部分Cに開放するように配置されている。歯53の噛み合い部分Cは、ウォームホイール12の歯48と噛み合わせるための部分である。
【0024】
以上に示した実施形態では、ウォーム軸11の歯53またはウォームホイール12の合成樹脂部材12bの歯48のいずれか一方のみに、貫通孔50、55が設けられているものとして説明したが、歯48および歯53の両方に貫通孔50、55を設ける構成であっても良い。また、貫通孔50、55の断面形状を円形として説明したが、これに限らず、楕円形や矩形のものであっても良い。
一方、図3および図4に示した構成に代えて、図7および図8に示すように、歯48の歯先面58に歯厚方向49に延びる溝59をそれぞれ一ないし複数(例えば図7では2箇所)設け、溝59の一対の端部60、61を歯48の両側の噛み合い部分Bに開放した構成であってもよい。この場合、貫通孔50を設けた場合よりもさらに多くの潤滑剤を溝59に溜めておくことができ、歯48の噛み合い部分Bの衝突により生じる衝撃を潤滑剤で確実に緩和して、振動や騒音をより確実に低減することができる。
【0025】
溝59の歯先面58からの深さは、少なくとも噛み合い部分Bに到達できる深さであればよいが、歯たけに等しい深さを持つようにしても良く、この場合、より多くの潤滑剤を溜めることができる。また、溝59であれば、例えば、合成樹脂の射出成形により歯48を形成する場合に、射出成形時に製造することも可能である。
上記の潤滑剤としては、ちょう度1〜000のグリースを用いることが好ましい。というのは、グリースがちょう度1を超える硬さを持つ場合には、グリースが貫通孔50、55、および、溝59の中へ入り難くなり、貫通孔50、55、および、溝59に十分な量のグリースを溜められないおそれがあるからである。
【0026】
また、上記の潤滑剤として潤滑油を用いる場合は、粘度が30〜800mm2/s(40℃)の潤滑油を用いることが好ましい。この範囲であれば、潤滑油が貫通孔50、55、および、溝59内に保持されやすいからである。
そして、本実施の形態の減速機70を備える電動式動力舵取装置であれば、ウォームギヤ機構8のバックラッシによる歯打ち振動等に起因する騒音を低減でき、したがって、車室内での騒音をコスト安価に低減することができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、本発明の減速機を電動式動力舵取装置以外の装置の一般の減速機にも適用することができる等、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態の電動式動力舵取装置の要部の断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるウォームホイールを拡大した模式図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるウォーム軸とウォームホイールの噛み合いを示す模式的断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態にかかるウォーム軸を拡大した模式図である。
【図6】本発明の別の実施形態にかかるウォーム軸とウォームホイールの噛み合いを示す模式的断面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施形態にかかるウォームホイールを拡大した模式図である。
【図8】本発明のさらに別の実施形態にかかるウォーム軸とウォームホイールの噛み合いを示す模式的断面図である。
【符号の説明】
11 ウォーム軸(ウォーム)
12 ウォームホイール
48 歯
49 歯厚方向
50 貫通孔
51 端部
52 端部
53 歯
54 歯厚方向
55 貫通孔
56 端部
57 端部
58 歯先面
59 溝
60 端部
61 端部
70 減速機
A 噛み合い領域
B 噛み合い部分
C 噛み合い部分
M 電動モータ
【発明の属する技術分野】
本発明は、ウォームおよびウォームホイールを有する減速機、およびこれを備える電動式動力舵取装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用の電動式動力舵取装置(EPS)には減速機が用いられている。例えばコラム型EPSでは、モータの回転力をウォームに伝え、さらにウォームホイールに伝えることでモータの回転を減速してモータの出力を増幅し、ステアリング操作をトルクアシストするようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、減速機としてのウォームおよびウォームホイールの噛み合いには適度なバックラッシが必要であるが、例えば石畳等の悪路を走行した場合、タイヤからの反力が上記バックラッシに起因した歯打ち音として発生したり、軸受その他のクリアランスを有する部品がラトル音を発生する場合がある。これらの音が車室内に騒音として伝わると、運転者に不快感を与えることになる。
【0004】
ところで、潤滑性向上の目的で、歯の表面に微小な凹みを設けて潤滑剤溜まり部とする減速機が提案されている(例えば特開平8−226526号公報、実開平5−8111号公報参照)。
しかしながら、上記の公報の減速機では、上記の歯打ち音の低減が不十分である。
同様の問題は電動式動力舵取装置の減速機に限らず、ウォームおよびウォームホイールを有する一般の減速機においても存在する。
【0005】
そこで、本発明の課題は、騒音の少ない減速機およびこれを備える電動式動力舵取装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、ウォームおよびウォームホイールの少なくとも噛み合い領域に潤滑剤が充填され、ウォームおよびウォームホイールの少なくとも一方の歯を歯厚方向に貫く貫通孔を設け、この貫通孔の両端を歯の両側の噛み合い部分に開放したことを特徴とする減速機を提供するものである。
【0007】
本発明では、十分な量の潤滑剤を溜めておくことができる貫通孔から噛み合い部分に適宜に潤滑剤が供給されるので、噛み合い部分に十分な量の潤滑剤を保持できる。したがって、歯の噛み合い部分の衝突により生ずる衝撃を潤滑剤で確実に緩和して、振動や騒音を確実に低減することができる。
また、歯の進み遅れ振動に対して貫通孔内の潤滑剤が貫通孔の一端と他端との間を往復することで、上記振動を潤滑剤で効果的に減衰することも可能である。
【0008】
上記の潤滑剤としては、ちょう度1〜000のグリースを用いることが好ましい。というのは、グリースがちょう度1を超える硬さを持つ場合には、貫通孔の中へ入り難くなり、貫通孔に十分な量の潤滑剤を溜められないおそれがあるからである。
また、上記の潤滑剤として、粘度30〜800mm2/s(40℃)の潤滑油を用いることが好ましい。この範囲であれば、潤滑油が貫通孔内に保持されやすく、緩衝効果を期待できるからである。
【0009】
請求項2記載の発明は、ウォームおよびウォームホイールの少なくとも噛み合い領域に潤滑剤が充填され、ウォームホイールの歯の歯先面に歯厚方向に延びる溝を設け、溝の両端を歯の両側の噛み合い部分に開放したことを特徴とする減速機を提供するものである。
本発明では、十分な量の潤滑剤を溜めておくことができる上記の溝から噛み合い部分に適宜に潤滑剤が供給されるので、噛み合い部分に十分な量の潤滑剤を保持でき、その結果、歯の噛み合い部分の衝突により生じる衝撃を潤滑剤で確実に緩和して、振動や騒音を確実に低減することができる。
【0010】
溝の深さは少なくとも噛み合い部分に到達できる深さであればよいが、歯たけに等しい深さを持つようにしても良く、この場合、より多くの潤滑剤を溜めることができる。また、溝であれば、例えば、合成樹脂の射出成形により歯を形成する場合に、射出成形時に製造することも可能である。
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の減速機を備える電動式動力舵取装置を提供するものである。この場合、車室内での騒音をコスト安価に低減できる点で好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施の形態の電動式動力舵取装置の概略断面図である。図1を参照して、本電動式動力舵取装置(以下では単に動力舵取装置という)では、ステアリングホイール1を取り付けている入力軸としての第1の操舵軸2と、ラックアンドピニオン機構等の舵取機構(図示せず)に連結される出力軸としての第2の操舵軸3とがトーションバー4を介して同軸的に連結されている。
【0012】
第1および第2の操舵軸2、3を支持するハウジング5は、例えばアルミニウム合金からなり、車体(図示せず)に取り付けられている。ハウジング5は、互いに嵌め合わされるセンサハウジング6とギヤハウジング7により構成されている。具体的には、ギヤハウジング7は筒状をなし、その上端の環状縁部7aがセンサハウジング6の下端外周の環状段部6aに嵌め合わされている。ギヤハウジング7は減速機構としてのウォームギヤ機構8を収容し、センサハウジング6はトルクセンサ9および制御基板10等を収容している。ギヤハウジング7にウォームギヤ機構8を収容することで減速機70が構成されている。
【0013】
上記ウォームギヤ機構8は、図2に示すように、電動モータMの回転軸32に例えばスプライン33継手等の継手機構を介して連結されるウォーム軸11と、このウォーム軸11と噛み合い、且つ図1に示すように、第2の操舵軸3の軸方向中間部に一体回転可能で且つ軸方向移動を規制されたウォームホイール12とを備える。
図1および図2を参照して、ウォームホイール12は第2の操舵軸3に一体回転可能に結合される環状の芯金12aと、芯金12aの周囲を取り囲んで外周面部に歯を形成する合成樹脂部材12bとを備えている。芯金12aは例えば合成樹脂部材12bの樹脂形成時に金型内にインサートされるものである。
【0014】
ギヤハウジング7内において、ウォーム軸11およびウォームホイール12の噛み合い領域Aに潤滑剤が充填されている。すなわち、潤滑剤は噛み合い領域Aのみに充填しても良いし、噛み合い領域Aとウォーム軸11の周縁全体に充填しても良いし、ギヤハウジング7内全体に充填しても良い。
図1を参照して、第2の操舵軸3は、ウォームホイール12を軸方向の上下に挟んで配置される第1および第2の転がり軸受13、14により回転自在に支持されている。
【0015】
第1の転がり軸受け13の外輪15は、センサハウジング6の下端の筒状突起6b内に設けられた軸受保持孔16に嵌め入れられて保持されている。第1の転がり軸受13の外輪15の上端面は環状の段部17に当接しており、センサハウジング6に対する軸方向上方への移動が規制されている。一方、第1の転がり軸受13の内輪18は第2の操舵軸3に締まりばめにより嵌め合わされている。内輪18の下端面は、ウォームホイール12の芯金12aの上端面に当接している。
【0016】
また、第2の転がり軸受14の外輪19は、ギヤハウジング7の軸受保持孔20に嵌め入れられて保持されている。第2の転がり軸受14の外輪19の下端面は、環状の段部21に当接し、ギヤハウジング7に対する軸方向下方への移動が規制されている。第2の転がり軸受14の内輪22は、第2の操舵軸3に一体回転可能で且つ軸方向相対移動を規制されて取り付けられている。内輪22は第2の操舵軸3の段部23と、第2の操舵軸3のねじ部に締めこまれるナット24との間に挟持されている。
【0017】
トーションバー4は第1および第2の操舵軸2,3を貫通している。トーションバー4の上端4aは、連結ピン25により第1の操舵軸2と一体回転可能に連結され、トーションバー4の下端4bは、連結ピン26により第2の操舵軸3と一体回転可能に連結されている。第2の操舵軸3の下端は、図示しない中間軸を介してラックアンドピニオン機構等の舵取機構に連結されている。
上記の連結ピン25は、第1の操舵軸2と同軸に配置される第3の操舵軸27を、第1の操舵軸2と一体回転可能に連結している。第3の操舵軸27はステアリングコラムを構成するチューブ28内を貫通している。
【0018】
第1の操舵軸2の上部は、例えば針状ころ軸受からなる第3の転がり軸受29を介してセンサハウジング6に回転自在に支持されている。第1の操舵軸2の下部の縮径部30と第2の操舵軸3の上部の孔31とは、第1および第2の操舵軸2,3の相対回転を所定の範囲に規制するように、回転方向に所定の遊びを設けて嵌め合わされている。
次いで、図2を参照して、ウォーム軸11はギヤハウジング7により保持される第4および第5の転がり軸受34、35によりそれぞれ回転自在に支持されている。第4および第5の転がり軸受34、35は例えば玉軸受からなる。
【0019】
第4および第5の転がり軸受34、35の内輪36、37がウォーム軸11の対応するくびれ部に嵌合されている。また、第4および第5の転がり軸受34、35の外輪38、39は、ギヤハウジング7の軸受保持孔40、41にそれぞれ保持されている。
また、ウォーム軸11の一端部11aを支持する第4の転がり軸受34の外輪38は、ギヤハウジング7の段部42に当接し位置決めされている。一方、第4の転がり軸受34の内輪36は、ウォーム軸11の位置決め段部43に当接することにより、ウォーム軸11の他端部11b側への移動が規制されている。
【0020】
ウォーム軸11の他端部11b(継手側端部)の近傍を支持する第5の転がり軸受35の内輪37はウォーム軸11の位置決め段部44に当接することにより、ウォーム軸11の一端部11a側への移動が規制されている。
また、第5の転がり軸受35の外輪39は予圧調整用のねじ部材45により、第4の転がり軸受34側へ付勢されている。ねじ部材45は、ギヤハウジング7に形成されるねじ孔46にねじ込まれることにより、一対の転がり軸受34、35に予圧を付与すると共に、ウォーム軸11を軸方向に位置決めしている。47は予圧調整後のねじ部材45を止定するためにねじ部材45に係合されるロックナットである。
【0021】
図3は、ウォームホイール12の合成樹脂部材12bの外周に形成される歯48のうちの一つを拡大した模式図であり、図4は、ウォーム軸11およびウォームホイール12の噛み合いを示す模式的断面図である。
図3および図4を参照して、歯48には、歯48を歯厚方向49に貫く貫通孔50が、それぞれ一ないし複数設けられている(例えば図3では2箇所)。貫通孔50の一対の端部51、52が、歯48の噛み合い部分Bに開放するように配置されている。歯48の噛み合い部分Bは、ウォーム軸11の歯53と噛み合わせるための部分である。
【0022】
本実施形態によれば、貫通孔50は、歯48の歯厚方向49を貫いて形成されており、従来の、歯の表面に微小な凹みを設けた構成に比べて、格段に多くの量の潤滑剤を保持することができるようになっている。これにより、貫通孔50から噛み合い部分Bに適宜に潤滑剤が供給され、噛み合い部分Bに十分な量の潤滑剤を保持することができる。したがって、歯48の噛み合い部分Bの衝突により生ずる衝撃を確実に潤滑剤で緩和して、振動や騒音を確実に低減することができる。
【0023】
さらに、歯の進み遅れ振動が生じた場合には、貫通孔50内の潤滑剤が貫通孔50の一対の端部51、52間を往復することで、上記振動を潤滑剤で効果的に減衰することも可能である。
また、図3および図4に示した構成に代えて、図5および図6に示すように、ウォーム軸11の歯53を歯厚方向54に貫く貫通孔55が、それぞれ一ないし複数(例えば図5では3箇所)設けられる構成としてもよい。この場合も、貫通孔55の一対の端部56、57が、歯53の噛み合い部分Cに開放するように配置されている。歯53の噛み合い部分Cは、ウォームホイール12の歯48と噛み合わせるための部分である。
【0024】
以上に示した実施形態では、ウォーム軸11の歯53またはウォームホイール12の合成樹脂部材12bの歯48のいずれか一方のみに、貫通孔50、55が設けられているものとして説明したが、歯48および歯53の両方に貫通孔50、55を設ける構成であっても良い。また、貫通孔50、55の断面形状を円形として説明したが、これに限らず、楕円形や矩形のものであっても良い。
一方、図3および図4に示した構成に代えて、図7および図8に示すように、歯48の歯先面58に歯厚方向49に延びる溝59をそれぞれ一ないし複数(例えば図7では2箇所)設け、溝59の一対の端部60、61を歯48の両側の噛み合い部分Bに開放した構成であってもよい。この場合、貫通孔50を設けた場合よりもさらに多くの潤滑剤を溝59に溜めておくことができ、歯48の噛み合い部分Bの衝突により生じる衝撃を潤滑剤で確実に緩和して、振動や騒音をより確実に低減することができる。
【0025】
溝59の歯先面58からの深さは、少なくとも噛み合い部分Bに到達できる深さであればよいが、歯たけに等しい深さを持つようにしても良く、この場合、より多くの潤滑剤を溜めることができる。また、溝59であれば、例えば、合成樹脂の射出成形により歯48を形成する場合に、射出成形時に製造することも可能である。
上記の潤滑剤としては、ちょう度1〜000のグリースを用いることが好ましい。というのは、グリースがちょう度1を超える硬さを持つ場合には、グリースが貫通孔50、55、および、溝59の中へ入り難くなり、貫通孔50、55、および、溝59に十分な量のグリースを溜められないおそれがあるからである。
【0026】
また、上記の潤滑剤として潤滑油を用いる場合は、粘度が30〜800mm2/s(40℃)の潤滑油を用いることが好ましい。この範囲であれば、潤滑油が貫通孔50、55、および、溝59内に保持されやすいからである。
そして、本実施の形態の減速機70を備える電動式動力舵取装置であれば、ウォームギヤ機構8のバックラッシによる歯打ち振動等に起因する騒音を低減でき、したがって、車室内での騒音をコスト安価に低減することができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、本発明の減速機を電動式動力舵取装置以外の装置の一般の減速機にも適用することができる等、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態の電動式動力舵取装置の要部の断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるウォームホイールを拡大した模式図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるウォーム軸とウォームホイールの噛み合いを示す模式的断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態にかかるウォーム軸を拡大した模式図である。
【図6】本発明の別の実施形態にかかるウォーム軸とウォームホイールの噛み合いを示す模式的断面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施形態にかかるウォームホイールを拡大した模式図である。
【図8】本発明のさらに別の実施形態にかかるウォーム軸とウォームホイールの噛み合いを示す模式的断面図である。
【符号の説明】
11 ウォーム軸(ウォーム)
12 ウォームホイール
48 歯
49 歯厚方向
50 貫通孔
51 端部
52 端部
53 歯
54 歯厚方向
55 貫通孔
56 端部
57 端部
58 歯先面
59 溝
60 端部
61 端部
70 減速機
A 噛み合い領域
B 噛み合い部分
C 噛み合い部分
M 電動モータ
Claims (3)
- ウォームおよびウォームホイールの少なくとも噛み合い領域に潤滑剤が充填され、ウォームおよびウォームホイールの少なくとも一方の歯を歯厚方向に貫く貫通孔を設け、この貫通孔の両端を歯の両側の噛み合い部分に開放したことを特徴とする減速機。
- ウォームおよびウォームホイールの少なくとも噛み合い領域に潤滑剤が充填され、ウォームホイールの歯の歯先面に歯厚方向に延びる溝を設け、溝の両端を歯の両側の噛み合い部分に開放したことを特徴とする減速機。
- 請求項1または2に記載の減速機を備える電動式動力舵取装置。
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2002
- 2002-06-19 JP JP2002178890A patent/JP2004019878A/ja active Pending
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