JP2004018993A - 高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】600℃以下の温度で安定して高強度を維持でき、かつ低コストで製造可能な低合金耐熱鋼の提供。
【解決手段】重量比にて、C:0.26〜0.40%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.80〜2.00%、P:0.020%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.10〜0.50%、Al:0.002〜0.060%、V:0.05〜0.50%、N:0.0080〜0.0200%を含有し、必要に応じS、Pb、Ca、Mg、Te、Biを添加して被削性を向上させ、残部Fe及び不純物元素からなる鋼からなり、主な組織はベイナイトであって、かつ面積率で30%以下(0%を含む)のフェライトパーライトを含む組織からなり、熱間加工のまま非調質で使用することを特徴とする高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼。
【選択図】 なし
【解決手段】重量比にて、C:0.26〜0.40%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.80〜2.00%、P:0.020%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.10〜0.50%、Al:0.002〜0.060%、V:0.05〜0.50%、N:0.0080〜0.0200%を含有し、必要に応じS、Pb、Ca、Mg、Te、Biを添加して被削性を向上させ、残部Fe及び不純物元素からなる鋼からなり、主な組織はベイナイトであって、かつ面積率で30%以下(0%を含む)のフェライトパーライトを含む組織からなり、熱間加工のまま非調質で使用することを特徴とする高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【技術分野】
本発明は、ボイラ、化学工業などの高温耐圧部品、吸気弁、ピストン等の自動車用エンジン部品等への使用に適した、高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
ボイラ、化学工業、原子力用、自動車エンジン部品等、使用中に高温に晒されながら使用される部品には、耐熱鋼が使用されている。耐熱鋼には、オ−ステナイト系ステンレス鋼、Crを10%程度含有する高Crフェライト鋼、Crを数%以下の少量含有する低合金鋼等があり、当然のことであるが、Cr含有率が高いほど耐熱性が向上するので、使用される部位の最高加熱温度に合せて適切な鋼種が選択され、使用されている。
【0003】
その中でも最高到達温度が300〜600℃程度となる部位には、極めて厳しい耐熱性は要求されないため、コスト面を考慮してCr含有率が低い低合金耐熱鋼が使用されている。これに該当する従来鋼としては、例えばボイラ・熱交換器用合金鋼鋼管であるSTBA24、STBA22や、ボイラ及び圧力容器用クロムモリブデン鋼板であるSCMV4等がある。
【0004】
しかしながら、低コスト化への強い要求から、低合金耐熱鋼の使用可能上限温度を高め、従来高Crフェライト鋼が使用されていた温度領域の一部に低合金耐熱鋼を適用可能にするための開発が強く求められている。また、耐熱性を劣化することなく靭性等の他の特性を改善する要求も同時に求められている。
【0005】
さらに、前記した用途での使用は、使用中に常に一定の温度に晒されるわけではなく、高温になったり低温になったりの温度環境の変化が非常に長時間繰返し継続することがほとんどであり、それに耐える必要がある。このような条件で使用される場合、長時間継続して熱負荷を受け続けることにより硬度低下が徐々に進行し、かつ硬度低下した部分の中で局所的に繰返し高圧が負荷される箇所が存在する場合には、徐々に摩耗が進行して、問題となる場合がある。
【0006】
このようなニーズに対応するため、特許出願もされており、例えば特開平9−184043号、特開2000−345281号等の特許が出願公開されている。このうち、前者は低コスト化のため多量の合金添加を行わずに高温強度の改善を図ることを目的としたものであり、後者は優れた高温強度を維持しつつ靭性を改善することを目的に提案されたものである。
【0007】
【解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の低合金耐熱鋼においては、次の問題がある。
即ち、従来提案されている鋼は、発明の名称には対象とする発明鋼の形状について記載されていないものが多いが、基本的に鋼管、鋼板等板材を対象として開発されたものがほとんどであり、板材は溶接が頻繁に行われることから溶接性の低下を考慮して、C含有率の上限が低目に抑えられている。本発明者等が詳細に調査した結果、V等の炭窒化物形成元素を添加して析出強化を図った場合には600℃以下の使用であれば比較的小さい硬度低下で抑えられることを知見したが、C含有率が低下すると炭窒化物が減少し、使用中の焼もどし効果による硬度低下量が大きくなることがわかった。これは、使用中に高圧が負荷された場合には摩耗しやすくなることを意味している。
【0008】
また、従来鋼は例えばSTBA鋼等は焼ならしと焼もどしが必須であり、特開2000−345281号は焼入焼もどしが必須である等、圧延後の熱処理が必須のものがほとんどであった。このような熱処理はコストの増加を招き、できるだけ合金元素を添加しない成分に調整したとしても低コスト化の効果はあまり大きなものではなかった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は熱間加工後熱処理しなくても、600℃以下での使用であれば十分に耐えられる高温強度を有しており、かつ比較的合金の添加量が少なく、低コスト化の目標を達成可能とすることのできる低合金耐熱鋼およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題の解決手段】
以上説明した課題を解決するために、本発明者等は圧延、鍛造等の熱間加工後に熱処理することなく、かつ300〜600℃の温度領域で添加元素が少ないにもかかわらず比較的高い高温強度を示す成分系について調査した結果、以下に示す成分範囲において、非調質で優れた高温強度を示すことを見出したものである。
【0011】
すなわち、本発明の第1発明(請求項1)は、重量比にて、C:0.26〜0.40%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.80〜2.00%、P:0.020%以下、S:0.035%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.10〜0.50%、Al:0.002〜0.060%、V:0.05〜0.50%、N:0.0080〜0.0200%を含有し、主な組織はベイナイトであって、かつ面積率で30%以下(0%を含む)のフェライトパーライトを含む組織からなり、熱間加工のまま非調質で使用することを特徴とする高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼である。
【0012】
本発明において注目すべきことは、上記特定組成の鋼を用いることにより、600℃以下の温度領域であれば少ない合金添加量で優れた高温特性を得ることができ、かつその高温特性を熱間加工(圧延、鍛造)のままの状態で得ることができるため、コスト面で従来よりも大幅に優れる鋼を提供可能とすることができることである。
【0013】
もともと非調質鋼はクランクシャフト、コンロッド等の熱間鍛造品について、省エネ化と製造コストの低減を両立させるために開発されたものである。しかしながら、従来の非調質鋼の発明において主な用途であったクランクシャフト、コンロッド等は今回の発明で対象としているような厳しい耐熱性は要求されることがなく、その開発段階において耐熱性についてはほとんど検討する必要がなかった。従って、今までに多数の非調質鋼が開発され特許出願されているが、高温特性を明確に示したものは皆無であり、その中のどの成分の鋼が耐熱性に優れているのかは、全く不明確であった。
【0014】
本発明者等は、低合金耐熱鋼のコスト低減のために、比較的少量の合金添加量で、従来の低合金耐熱鋼と同等かそれ以上の高温強度を有し、かつ非調質を可能とすることが、最もコスト低減に効果的であると考え、過去に開発済非調質鋼も含めて候補となる成分を考え、多数のテストを行った結果、本発明の完成に到ったものである。
【0015】
次に、請求項1からなる低合金非調質耐熱鋼の各化学成分範囲の限定理由を説明する。
【0016】
C:0.26〜0.40%
Cは、高温強度を確保し、かつ炭窒化物形成によって長時間高温で晒された場合の硬さ低下を小さく抑え、使用中に局所的に大きな圧力がかかる等の理由で部品の一部が摩耗していくことを防止する効果のある元素である。従って、最低でも0.26%以上の含有が必要である。しかしながら多量に含有させると、靭性が低下して衝撃的な負荷がかかった場合に局部割れが生じる可能性があるので、上限を0.40%とした。
【0017】
Si:0.05〜0.50%
Siは脱酸のために製鋼時に必要となる元素であり、製造のしやすさを考慮して、下限を0.05%とした。しかし、Siは本発明にとって製造時の脱酸以外に特に添加する意味がなく、多量に含有すると靭性が低下するので、上限を0.50%とした。
【0018】
Mn:0.80〜2.00%
本発明の特性は、主な組織をベイナイトとすることによって維持されている。Mnは、焼入性を向上させて組織の主体をベイナイトとするために必要不可欠な元素であり、そのために必要な最低限の量を添加する必要があるので、下限を0.80%とした。しかし、添加しすぎるとM−A(詳細は後述)が増加して降伏比が低下し、高温特性が劣化するので、上限を2.00%とした。
【0019】
P:0.020%以下
Pは製造時に少量の混入が避けられない不純物であるが、極力低減しようとすると使用するスクラップの選定や製鋼時の処理に負担がかかり、製造コストの増加につながることとなる。本発明においては、コストを重視するため、Pの含有率を特別な低減処理が必要のない範囲に設定するが、多量に含有すると靭性に悪影響を及ぼすため、上限を0.020%と規定した。
【0020】
Cr:0.30〜1.50%
Crは、Mnと同様に組織をベイナイト化するために必要な元素であり、かつCrは耐酸化性、高温強度等の高温特性を改善するために必要な元素でもある。従って、前記効果を得るために、添加量の下限を0.30%とした。しかし、多量に含有させすぎると耐酸化性は向上するが、コストが増加するとともに、M−A(詳細は後述)が増加して降伏比が低下し、高温特性が劣化するので、上限を1.50%とした。
【0021】
Mo:0.10〜0.50%
Moは、Mn、Crと同様に焼入性を向上させて組織をベイナイト主体とするために必要な元素であるとともに、高温での強度低下を小さく抑えるために必要な元素である。従って、0.10%以上の含有が必要である。しかし、Moは高価な元素であるため多量の添加はコスト高につながるとともに、Mn、Crと同様にM−Aを増加させて降伏比が低下し、高温での耐力が劣化するため、上限を0.50%とした。
【0022】
Al:0.002〜0.060%、
Alは、Siと同様に脱酸元素であるため、製鋼時に必要な元素である。従って、極端に少量になると製造が難しくなるため、下限を0.002%とした。しかし、本発明にとってAlは製鋼時の脱酸処理に必要な量が確保できていれば良く、特に他に添加する目的がなく、多量に含有すると被削性が低下して部品製造時の機械加工が難しくなるので、上限を0.060%とした。
【0023】
V:0.05〜0.50%
VはC、Nと結合して炭窒化物を形成し、析出強化により強度を向上させるため、熱処理せずに必要な強度を得るために不可欠な元素である。また、生成された炭窒化物は、焼もどし軟化抵抗の向上といわゆる二次硬化と呼ばれる効果によって高温での強度低下を防止する効果があり、本発明にとって最も重要な元素である。従って、前記効果を得るために最低でも0.05%以上の含有が必要である。しかし、多量に含有させても効果が飽和するとともに、コスト高となるため、上限を0.50%とした。
【0024】
N:0.0080〜0.0200%
Nは、熱間加工後の冷却段階において前記したVと結合して鋼中に炭窒化物を形成し、強度向上に寄与する元素である。そして、長時間高温に晒された場合における硬さ低下を小さく抑え、高温強度の長期間維持のために不可欠な元素である。Nは添加しなくても大気中から混入するし、不純物として存在するが、本発明では、前記した効果を確実に得る必要があるため、不純物量を超えて添加する必要があり、下限を0.0080%とした。しかし、多量に含有させても効果は飽和し、かつ製造も困難となるため、上限を0.0200%とした。
【0025】
次に、請求項1からなる発明鋼の組織の限定理由について説明する。
本発明のベイナイト型非調質鋼は、熱間加工後の冷却速度によって組織が変化し、速度の遅い領域ではフェライト+パーライト組織、中間の速度でフェライト+パーライト+ベイナイト又はフェライト+ベイナイトの混合組織となり、冷却速度が速くなるとフェライト+パーライトが消失してマルテンサイト組織が生じるようになる。従って、その中で高温特性に対して最適な組織状態を選択する必要がある。
【0026】
本発明者等が詳しく調査した結果、前記した本発明の成分範囲とした場合、熱間加工後に放冷すると、自動的にほとんどの場合が中間のフェライト+(パーライト)+ベイナイト組織となること、フェライト+パーライトの割合が多くなりすぎる(30%以上)と高温強度が低下すること、ベイナイト主体のフェライト+(パーライト)+ベイナイト組織となるよう冷却した場合、多少の熱間加工条件(加熱温度、冷却速度)が変化しても、安定してほぼ同じ機械的特性が得られること、マルテンサイトが生じると急激に靭性が低下し、使用が困難になること等が判明した。
【0027】
以上の理由より、本発明では、ベイナイト組織を主体としたフェライト+(パーライト)+ベイナイト組織とし、かつフェライト+パーライトの割合を面積率で30%以下(0%を含む)となるように規制したものである。フェライト+パーライトの下限を面積率で30%としたのは、前記した通りフェライト+パーライトの割合が増加すると、高温強度が低下するためである。
【0028】
次に、請求項2に示すように、請求項1の鋼に必要に応じ、さらにS:0.03〜0.3%(請求項1ではSは不純物として含有)、Pb:0.01〜0.50%、Ca:0.0005〜0.0100%、Mg:0.0005〜0.0100%、Te:0.0003〜0.05%、Bi:0.05〜0.50%の1種又は2種以上を追加で添加することにより、被削性を向上させることもできる。本発明鋼は目的形状に加工する際に鍛造等の熱間加工以外に機械加工も当然行われる。従って、これらの元素を添加して被削性を向上させ、加工性を改善させておくことができる。それぞれの元素の下限値は被削性改善効果を得るために最低限必要となる量から決定されたものであり、上限値は、多量に添加しても効果が飽和し、添加によるコスト増に見合う効果が得られなくなることから、その限界となる量を成分毎に実験により見出し定めたものである。
【0029】
次に、請求項3に示すように本発明鋼からなる耐熱部品を製造する場合には、熱間加工後の冷却速度を10〜300℃/minとすることが必要である。前記した通り、本発明鋼は、ベイナイト主体の組織とすることで、優れた特性を確保できることを特徴としている。しかしながら、その組織は熱間加工後の冷却速度によって変化し、冷却速度によっては最適な組織が得られない。そこで、請求項3では最適な冷却速度が得られる範囲を10〜300℃/minとその範囲を明確にしたものである。下限を10℃/minとしたのは、これより冷却速度が遅くなると必要とするベイナイト組織の比率を確保することが難しくなるためであり、上限を300℃/minとしたのは、これより冷却速度が速くなると、マルテンサイトの生成を防止できなくなり、靭性が低下するためである。
【0030】
なお、この冷却速度は特別な速度ではなく、例えば棒鋼で通常最も多く使用される寸法であるφ20〜100程度の寸法の場合、熱間圧延又は鍛造後普通に空冷すれば自動的に冷却速度が前記範囲内となり、適切な組織を得ることができる。従って、実際には極端にサイズが小さいか極端に大きい場合を除き、制御冷却しなくても製造することが可能である。
【0031】
次に、請求項4の発明は、請求項2の方法で製造された鋼をさらに300〜600℃の温度で焼もどすことを特徴とするものである。本発明は、圧延、鍛造等の熱間加工後請求項3で指定された範囲の速度で冷却することにより製造されるが、この段階ではM−A(島状マルテンサイト[M]+残留オ−ステナイト[A])と呼ばれる組織が少量残存している場合がある。このM−Aが存在すると降伏比が低下し高温での耐力も低下することになる。本発明は、成分限定理由の箇所で説明したように、できるだけM−Aが残らないように成分設計されており、ほとんどの場合は焼もどし処理せずに使用が可能であり、仮に少量残存していた場合でも高温に晒されるとM−Aはすぐに分解されて消失するため、ほとんど問題は起こらない。しかしながら、用途によっては、使用初期から確実に高い降伏比を確保しておきたい場合があるので、その場合に限り、請求項4に示すように焼もどし処理をすることとした。
また、本熱処理は鋼中の残留応力を除去し、使用中の変形を防止することを目的とする場合にも当然有効である。
【0032】
下限の温度を300℃としたのは、温度が低いとM−Aの分解に時間がかかり、熱処理時間が長くなって生産性が低下するためであり、上限を600℃としたのは、これ以上高い温度での加熱は急激に強度を低下させる恐れがあるためである。
【0033】
なお、本発明鋼は前記した通り、高温強度の向上を重視して、Cの含有率を高めに設定しているが、溶接が全くできないというわけではない。本発明鋼は比較的広い冷却速度で機械的性質が大きく変化しないという特徴を有しているため、熱影響部(HAZ)においての硬度が大きく増加する可能性は小さく、予熱を行う等、通常の溶接割れ対策を実施することにより、溶接をすることも十分に可能である。また、摩擦等を利用した圧接による接合をすることもでき、これにより耐熱性に優れた部品を製造することも可能である。
【0034】
【実施例】
次に、本発明の特徴を実施例により明らかにする。表1は、実施例に用いた供試材の化学成分を示すものである。
【0035】
【表1】
【0036】
表1において、1〜12鋼は本発明鋼であり、13〜21鋼は、一部の成分が範囲外であるか、冷却速度が本発明の範囲外である比較鋼であり、22鋼、23鋼は従来鋼であるSAE4140及びSCMV4に相当する鋼である。なお、SAE4140は低合金鋼の規格鋼の中で比較的高温強度が優れていると言われているので、比較として使用した。また、SCMV4は実際の形状は丸棒ではなく鋼板であるが、本発明では試験の都合上SCMV4の成分規格内の鋼を溶解して丸棒を作製し、評価したものである。
【0037】
供試材は、30kgVIM溶解炉で溶解した鋼塊を1250℃に加熱後、1200℃にてφ30の丸棒に鍛伸し、一部の供試材を除き自然空冷して準備した。その際の変態完了温度の目安である300℃までの平均冷却速度は約30℃/minであった。また、一部の供試材は意図的に冷却速度を変化させた。その場合の平均冷却速度も表1に示す。
【0038】
さらに、従来鋼であるSAE4140、SCMV4については、前記方法で製造した丸棒を用い、さらに規格で推奨されている熱処理を施した。具体的には、SAE4140については、855℃に加熱して油焼入後620℃で1時間保持後水冷という焼もどし処理を、SCMV4については、920℃に加熱後空冷という焼ならし後、670℃で2.3時間保持後空冷という焼もどし処理を施し、後述の試験を行った。
【0039】
以上説明した供試材を用いて、F+P面積率、高温引張試験、高温硬さ、M−A量、衝撃値について評価した。
鋼の組織は、前記した方法で準備した丸棒の一部を採取し、切断、研摩を行って、光学顕微鏡観察し、主な組織が何であるか、F+P面積率がどのようになっているかを詳細に調査したものである。
【0040】
高温引張試験は、JIS14号A試験片を作製し、室温、300、400、500、600℃での引張強度、0.2%耐力を測定することにより実施した。
【0041】
高温硬さは、600℃の温度で加熱保持し、加熱保持を継続した場合の硬さ変化を加熱直後(温度が600℃にて安定してから5分後)と保持時間100時間後のそれぞれについて、600℃に加熱された状態で測定し、本発明鋼が高温で長時間加熱保持された場合において硬さがどのように変化するかについて調査した。
また、室温硬さも同時に測定を行った。
【0042】
M−A量は、走査型電子顕微鏡により倍率5000倍で100視野を観察し、ポイントカウンティング法で測定した結果の平均値を求めることにより評価した。
なお、M−A量の測定は本発明鋼及び比較鋼のみについて行った。
衝撃値は、前記した丸棒からJIS3号Uノッチ衝撃試験片を作製し、室温(約20℃)にて実験した結果を示したものである。
以上説明した方法で測定した結果を表1、表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表1、表2から明らかなように、本発明で規定した条件の一部を満足していない比較鋼である13〜21鋼は、いずれかの評価項目が劣るものである。すなわち、14、16、20鋼のように、Mn又はCr含有率が低かったり、冷却速度が遅い場合には、F+Pの割合が増加して、強度が室温から高温までの全ての温度領域について劣るものであり、他の比較鋼も室温では比較的高い強度が確保できているが、温度が上昇した場合の低下割合が高く、600℃では室温強度に比較して低い強度しか確保できないものである。また、M−Aを多量に含む15、17、18鋼は降伏比が劣り、引張強度に対する耐力の割合が劣るものであり、冷却速度が速い比較鋼である21鋼は、衝撃値が大きく劣るものである。
【0045】
また、硬さについては、室温硬さについてはそれぞれの鋼の室温における引張り強さにほぼ該当する値が得られた点で本発明鋼と比較鋼の間に差異は認められなかったが、高温硬さについては、一部の比較鋼で加熱直後の高温硬さと100時間経過後の差において明確に差が認められた。すなわち、比較鋼のうちC又はV含有率が低い比較鋼である13、19鋼についてHvで20程度の低下が認められたのに対し、本発明鋼は7〜11の低下しか認められなかったことである。これは炭窒化物形成元素の存在が高温時の強度変化を小さく維持する効果を有していることを意味するものであり、繰返し高温の環境下で使用される場合に摩耗量等の差となって現れると予想される。
【0046】
また、従来鋼SAE4140である22鋼は、焼入焼もどし処理により強度を高めているため、当然の結果として室温では高い強度を有している。しかしながら、温度上昇とともに強度は大きく低下し、問題となる温度領域である500〜600℃の温度領域では高強度が確保できないものであり、SCMV4は、SAE4140に比べ温度上昇に伴う強度低下の割合は小さいが、室温、高温共に強度本発明鋼に比べ低く、高温での高強度を確保できないものである。
【0047】
それに対し、本発明鋼である1〜12鋼は熱間加工後において熱処理を行っていないにもかかわらず、特に500℃以上の低合金鋼にとってかなり厳しい温度領域において、強度低下が小さく高温特性が優れていることが明らかとなった。また、高温硬さ試験から明らかなように、高温で長時間加熱保持された場合でも、微細に析出した炭窒化物による析出硬化によって温度低下が小さく、長時間強度変化を小さく保つ機能が優れていることが確認できた。また、実験データは示していないが、600℃の加熱保持を長時間実施し重量変化を測定する方法で耐酸化性試験を実施したが、ほとんど重量変化がみられず、600℃以下の使用に何ら問題ないことが確認できた。
【0048】
次に、M−A量に関する別の実施例について説明する。
表2の結果より、本発明鋼は、熱間加工後自然空冷のままでもM−A量は非常に少なく、降伏比低下への影響も少ないことがわかった。しかし、成分によっては若干量残存する場合もあり、この残存したM−Aが実際の使用中に高温環境に晒されることによって、分解することによって組織変化し、その結果部品形状が微妙に変化する可能性がある。そこで、前記実施例で12%のM−Aの存在が確認できた2鋼について焼もどし処理を行った場合にM−A量がどう変化するかについて、加熱温度を300〜600℃で変化させて調査した。測定方法は前の実施例と同じである。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3から明らかなように、300〜600℃に加熱することによりあらかじめM−Aを分解させておくことができることがわかる。但し、温度が低い場合長時間の処理時間が必要となるので、400℃以上の温度で行うのが望ましい。
【0051】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の低合金非調質耐熱鋼は、少ない合金添加量かつ非調質で優れた高温強度を確保できるので、600℃以下の温度範囲での使用であれば、低コストで優れた強度を長時間維持できる材料を提供することが可能となる。
また、非調質で使用可能なため省エネの社会的要求への対応を耐熱鋼の分野でも対応可能とすることができ、産業上寄与するところは極めて大きい。
【技術分野】
本発明は、ボイラ、化学工業などの高温耐圧部品、吸気弁、ピストン等の自動車用エンジン部品等への使用に適した、高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
ボイラ、化学工業、原子力用、自動車エンジン部品等、使用中に高温に晒されながら使用される部品には、耐熱鋼が使用されている。耐熱鋼には、オ−ステナイト系ステンレス鋼、Crを10%程度含有する高Crフェライト鋼、Crを数%以下の少量含有する低合金鋼等があり、当然のことであるが、Cr含有率が高いほど耐熱性が向上するので、使用される部位の最高加熱温度に合せて適切な鋼種が選択され、使用されている。
【0003】
その中でも最高到達温度が300〜600℃程度となる部位には、極めて厳しい耐熱性は要求されないため、コスト面を考慮してCr含有率が低い低合金耐熱鋼が使用されている。これに該当する従来鋼としては、例えばボイラ・熱交換器用合金鋼鋼管であるSTBA24、STBA22や、ボイラ及び圧力容器用クロムモリブデン鋼板であるSCMV4等がある。
【0004】
しかしながら、低コスト化への強い要求から、低合金耐熱鋼の使用可能上限温度を高め、従来高Crフェライト鋼が使用されていた温度領域の一部に低合金耐熱鋼を適用可能にするための開発が強く求められている。また、耐熱性を劣化することなく靭性等の他の特性を改善する要求も同時に求められている。
【0005】
さらに、前記した用途での使用は、使用中に常に一定の温度に晒されるわけではなく、高温になったり低温になったりの温度環境の変化が非常に長時間繰返し継続することがほとんどであり、それに耐える必要がある。このような条件で使用される場合、長時間継続して熱負荷を受け続けることにより硬度低下が徐々に進行し、かつ硬度低下した部分の中で局所的に繰返し高圧が負荷される箇所が存在する場合には、徐々に摩耗が進行して、問題となる場合がある。
【0006】
このようなニーズに対応するため、特許出願もされており、例えば特開平9−184043号、特開2000−345281号等の特許が出願公開されている。このうち、前者は低コスト化のため多量の合金添加を行わずに高温強度の改善を図ることを目的としたものであり、後者は優れた高温強度を維持しつつ靭性を改善することを目的に提案されたものである。
【0007】
【解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の低合金耐熱鋼においては、次の問題がある。
即ち、従来提案されている鋼は、発明の名称には対象とする発明鋼の形状について記載されていないものが多いが、基本的に鋼管、鋼板等板材を対象として開発されたものがほとんどであり、板材は溶接が頻繁に行われることから溶接性の低下を考慮して、C含有率の上限が低目に抑えられている。本発明者等が詳細に調査した結果、V等の炭窒化物形成元素を添加して析出強化を図った場合には600℃以下の使用であれば比較的小さい硬度低下で抑えられることを知見したが、C含有率が低下すると炭窒化物が減少し、使用中の焼もどし効果による硬度低下量が大きくなることがわかった。これは、使用中に高圧が負荷された場合には摩耗しやすくなることを意味している。
【0008】
また、従来鋼は例えばSTBA鋼等は焼ならしと焼もどしが必須であり、特開2000−345281号は焼入焼もどしが必須である等、圧延後の熱処理が必須のものがほとんどであった。このような熱処理はコストの増加を招き、できるだけ合金元素を添加しない成分に調整したとしても低コスト化の効果はあまり大きなものではなかった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は熱間加工後熱処理しなくても、600℃以下での使用であれば十分に耐えられる高温強度を有しており、かつ比較的合金の添加量が少なく、低コスト化の目標を達成可能とすることのできる低合金耐熱鋼およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題の解決手段】
以上説明した課題を解決するために、本発明者等は圧延、鍛造等の熱間加工後に熱処理することなく、かつ300〜600℃の温度領域で添加元素が少ないにもかかわらず比較的高い高温強度を示す成分系について調査した結果、以下に示す成分範囲において、非調質で優れた高温強度を示すことを見出したものである。
【0011】
すなわち、本発明の第1発明(請求項1)は、重量比にて、C:0.26〜0.40%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.80〜2.00%、P:0.020%以下、S:0.035%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.10〜0.50%、Al:0.002〜0.060%、V:0.05〜0.50%、N:0.0080〜0.0200%を含有し、主な組織はベイナイトであって、かつ面積率で30%以下(0%を含む)のフェライトパーライトを含む組織からなり、熱間加工のまま非調質で使用することを特徴とする高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼である。
【0012】
本発明において注目すべきことは、上記特定組成の鋼を用いることにより、600℃以下の温度領域であれば少ない合金添加量で優れた高温特性を得ることができ、かつその高温特性を熱間加工(圧延、鍛造)のままの状態で得ることができるため、コスト面で従来よりも大幅に優れる鋼を提供可能とすることができることである。
【0013】
もともと非調質鋼はクランクシャフト、コンロッド等の熱間鍛造品について、省エネ化と製造コストの低減を両立させるために開発されたものである。しかしながら、従来の非調質鋼の発明において主な用途であったクランクシャフト、コンロッド等は今回の発明で対象としているような厳しい耐熱性は要求されることがなく、その開発段階において耐熱性についてはほとんど検討する必要がなかった。従って、今までに多数の非調質鋼が開発され特許出願されているが、高温特性を明確に示したものは皆無であり、その中のどの成分の鋼が耐熱性に優れているのかは、全く不明確であった。
【0014】
本発明者等は、低合金耐熱鋼のコスト低減のために、比較的少量の合金添加量で、従来の低合金耐熱鋼と同等かそれ以上の高温強度を有し、かつ非調質を可能とすることが、最もコスト低減に効果的であると考え、過去に開発済非調質鋼も含めて候補となる成分を考え、多数のテストを行った結果、本発明の完成に到ったものである。
【0015】
次に、請求項1からなる低合金非調質耐熱鋼の各化学成分範囲の限定理由を説明する。
【0016】
C:0.26〜0.40%
Cは、高温強度を確保し、かつ炭窒化物形成によって長時間高温で晒された場合の硬さ低下を小さく抑え、使用中に局所的に大きな圧力がかかる等の理由で部品の一部が摩耗していくことを防止する効果のある元素である。従って、最低でも0.26%以上の含有が必要である。しかしながら多量に含有させると、靭性が低下して衝撃的な負荷がかかった場合に局部割れが生じる可能性があるので、上限を0.40%とした。
【0017】
Si:0.05〜0.50%
Siは脱酸のために製鋼時に必要となる元素であり、製造のしやすさを考慮して、下限を0.05%とした。しかし、Siは本発明にとって製造時の脱酸以外に特に添加する意味がなく、多量に含有すると靭性が低下するので、上限を0.50%とした。
【0018】
Mn:0.80〜2.00%
本発明の特性は、主な組織をベイナイトとすることによって維持されている。Mnは、焼入性を向上させて組織の主体をベイナイトとするために必要不可欠な元素であり、そのために必要な最低限の量を添加する必要があるので、下限を0.80%とした。しかし、添加しすぎるとM−A(詳細は後述)が増加して降伏比が低下し、高温特性が劣化するので、上限を2.00%とした。
【0019】
P:0.020%以下
Pは製造時に少量の混入が避けられない不純物であるが、極力低減しようとすると使用するスクラップの選定や製鋼時の処理に負担がかかり、製造コストの増加につながることとなる。本発明においては、コストを重視するため、Pの含有率を特別な低減処理が必要のない範囲に設定するが、多量に含有すると靭性に悪影響を及ぼすため、上限を0.020%と規定した。
【0020】
Cr:0.30〜1.50%
Crは、Mnと同様に組織をベイナイト化するために必要な元素であり、かつCrは耐酸化性、高温強度等の高温特性を改善するために必要な元素でもある。従って、前記効果を得るために、添加量の下限を0.30%とした。しかし、多量に含有させすぎると耐酸化性は向上するが、コストが増加するとともに、M−A(詳細は後述)が増加して降伏比が低下し、高温特性が劣化するので、上限を1.50%とした。
【0021】
Mo:0.10〜0.50%
Moは、Mn、Crと同様に焼入性を向上させて組織をベイナイト主体とするために必要な元素であるとともに、高温での強度低下を小さく抑えるために必要な元素である。従って、0.10%以上の含有が必要である。しかし、Moは高価な元素であるため多量の添加はコスト高につながるとともに、Mn、Crと同様にM−Aを増加させて降伏比が低下し、高温での耐力が劣化するため、上限を0.50%とした。
【0022】
Al:0.002〜0.060%、
Alは、Siと同様に脱酸元素であるため、製鋼時に必要な元素である。従って、極端に少量になると製造が難しくなるため、下限を0.002%とした。しかし、本発明にとってAlは製鋼時の脱酸処理に必要な量が確保できていれば良く、特に他に添加する目的がなく、多量に含有すると被削性が低下して部品製造時の機械加工が難しくなるので、上限を0.060%とした。
【0023】
V:0.05〜0.50%
VはC、Nと結合して炭窒化物を形成し、析出強化により強度を向上させるため、熱処理せずに必要な強度を得るために不可欠な元素である。また、生成された炭窒化物は、焼もどし軟化抵抗の向上といわゆる二次硬化と呼ばれる効果によって高温での強度低下を防止する効果があり、本発明にとって最も重要な元素である。従って、前記効果を得るために最低でも0.05%以上の含有が必要である。しかし、多量に含有させても効果が飽和するとともに、コスト高となるため、上限を0.50%とした。
【0024】
N:0.0080〜0.0200%
Nは、熱間加工後の冷却段階において前記したVと結合して鋼中に炭窒化物を形成し、強度向上に寄与する元素である。そして、長時間高温に晒された場合における硬さ低下を小さく抑え、高温強度の長期間維持のために不可欠な元素である。Nは添加しなくても大気中から混入するし、不純物として存在するが、本発明では、前記した効果を確実に得る必要があるため、不純物量を超えて添加する必要があり、下限を0.0080%とした。しかし、多量に含有させても効果は飽和し、かつ製造も困難となるため、上限を0.0200%とした。
【0025】
次に、請求項1からなる発明鋼の組織の限定理由について説明する。
本発明のベイナイト型非調質鋼は、熱間加工後の冷却速度によって組織が変化し、速度の遅い領域ではフェライト+パーライト組織、中間の速度でフェライト+パーライト+ベイナイト又はフェライト+ベイナイトの混合組織となり、冷却速度が速くなるとフェライト+パーライトが消失してマルテンサイト組織が生じるようになる。従って、その中で高温特性に対して最適な組織状態を選択する必要がある。
【0026】
本発明者等が詳しく調査した結果、前記した本発明の成分範囲とした場合、熱間加工後に放冷すると、自動的にほとんどの場合が中間のフェライト+(パーライト)+ベイナイト組織となること、フェライト+パーライトの割合が多くなりすぎる(30%以上)と高温強度が低下すること、ベイナイト主体のフェライト+(パーライト)+ベイナイト組織となるよう冷却した場合、多少の熱間加工条件(加熱温度、冷却速度)が変化しても、安定してほぼ同じ機械的特性が得られること、マルテンサイトが生じると急激に靭性が低下し、使用が困難になること等が判明した。
【0027】
以上の理由より、本発明では、ベイナイト組織を主体としたフェライト+(パーライト)+ベイナイト組織とし、かつフェライト+パーライトの割合を面積率で30%以下(0%を含む)となるように規制したものである。フェライト+パーライトの下限を面積率で30%としたのは、前記した通りフェライト+パーライトの割合が増加すると、高温強度が低下するためである。
【0028】
次に、請求項2に示すように、請求項1の鋼に必要に応じ、さらにS:0.03〜0.3%(請求項1ではSは不純物として含有)、Pb:0.01〜0.50%、Ca:0.0005〜0.0100%、Mg:0.0005〜0.0100%、Te:0.0003〜0.05%、Bi:0.05〜0.50%の1種又は2種以上を追加で添加することにより、被削性を向上させることもできる。本発明鋼は目的形状に加工する際に鍛造等の熱間加工以外に機械加工も当然行われる。従って、これらの元素を添加して被削性を向上させ、加工性を改善させておくことができる。それぞれの元素の下限値は被削性改善効果を得るために最低限必要となる量から決定されたものであり、上限値は、多量に添加しても効果が飽和し、添加によるコスト増に見合う効果が得られなくなることから、その限界となる量を成分毎に実験により見出し定めたものである。
【0029】
次に、請求項3に示すように本発明鋼からなる耐熱部品を製造する場合には、熱間加工後の冷却速度を10〜300℃/minとすることが必要である。前記した通り、本発明鋼は、ベイナイト主体の組織とすることで、優れた特性を確保できることを特徴としている。しかしながら、その組織は熱間加工後の冷却速度によって変化し、冷却速度によっては最適な組織が得られない。そこで、請求項3では最適な冷却速度が得られる範囲を10〜300℃/minとその範囲を明確にしたものである。下限を10℃/minとしたのは、これより冷却速度が遅くなると必要とするベイナイト組織の比率を確保することが難しくなるためであり、上限を300℃/minとしたのは、これより冷却速度が速くなると、マルテンサイトの生成を防止できなくなり、靭性が低下するためである。
【0030】
なお、この冷却速度は特別な速度ではなく、例えば棒鋼で通常最も多く使用される寸法であるφ20〜100程度の寸法の場合、熱間圧延又は鍛造後普通に空冷すれば自動的に冷却速度が前記範囲内となり、適切な組織を得ることができる。従って、実際には極端にサイズが小さいか極端に大きい場合を除き、制御冷却しなくても製造することが可能である。
【0031】
次に、請求項4の発明は、請求項2の方法で製造された鋼をさらに300〜600℃の温度で焼もどすことを特徴とするものである。本発明は、圧延、鍛造等の熱間加工後請求項3で指定された範囲の速度で冷却することにより製造されるが、この段階ではM−A(島状マルテンサイト[M]+残留オ−ステナイト[A])と呼ばれる組織が少量残存している場合がある。このM−Aが存在すると降伏比が低下し高温での耐力も低下することになる。本発明は、成分限定理由の箇所で説明したように、できるだけM−Aが残らないように成分設計されており、ほとんどの場合は焼もどし処理せずに使用が可能であり、仮に少量残存していた場合でも高温に晒されるとM−Aはすぐに分解されて消失するため、ほとんど問題は起こらない。しかしながら、用途によっては、使用初期から確実に高い降伏比を確保しておきたい場合があるので、その場合に限り、請求項4に示すように焼もどし処理をすることとした。
また、本熱処理は鋼中の残留応力を除去し、使用中の変形を防止することを目的とする場合にも当然有効である。
【0032】
下限の温度を300℃としたのは、温度が低いとM−Aの分解に時間がかかり、熱処理時間が長くなって生産性が低下するためであり、上限を600℃としたのは、これ以上高い温度での加熱は急激に強度を低下させる恐れがあるためである。
【0033】
なお、本発明鋼は前記した通り、高温強度の向上を重視して、Cの含有率を高めに設定しているが、溶接が全くできないというわけではない。本発明鋼は比較的広い冷却速度で機械的性質が大きく変化しないという特徴を有しているため、熱影響部(HAZ)においての硬度が大きく増加する可能性は小さく、予熱を行う等、通常の溶接割れ対策を実施することにより、溶接をすることも十分に可能である。また、摩擦等を利用した圧接による接合をすることもでき、これにより耐熱性に優れた部品を製造することも可能である。
【0034】
【実施例】
次に、本発明の特徴を実施例により明らかにする。表1は、実施例に用いた供試材の化学成分を示すものである。
【0035】
【表1】
【0036】
表1において、1〜12鋼は本発明鋼であり、13〜21鋼は、一部の成分が範囲外であるか、冷却速度が本発明の範囲外である比較鋼であり、22鋼、23鋼は従来鋼であるSAE4140及びSCMV4に相当する鋼である。なお、SAE4140は低合金鋼の規格鋼の中で比較的高温強度が優れていると言われているので、比較として使用した。また、SCMV4は実際の形状は丸棒ではなく鋼板であるが、本発明では試験の都合上SCMV4の成分規格内の鋼を溶解して丸棒を作製し、評価したものである。
【0037】
供試材は、30kgVIM溶解炉で溶解した鋼塊を1250℃に加熱後、1200℃にてφ30の丸棒に鍛伸し、一部の供試材を除き自然空冷して準備した。その際の変態完了温度の目安である300℃までの平均冷却速度は約30℃/minであった。また、一部の供試材は意図的に冷却速度を変化させた。その場合の平均冷却速度も表1に示す。
【0038】
さらに、従来鋼であるSAE4140、SCMV4については、前記方法で製造した丸棒を用い、さらに規格で推奨されている熱処理を施した。具体的には、SAE4140については、855℃に加熱して油焼入後620℃で1時間保持後水冷という焼もどし処理を、SCMV4については、920℃に加熱後空冷という焼ならし後、670℃で2.3時間保持後空冷という焼もどし処理を施し、後述の試験を行った。
【0039】
以上説明した供試材を用いて、F+P面積率、高温引張試験、高温硬さ、M−A量、衝撃値について評価した。
鋼の組織は、前記した方法で準備した丸棒の一部を採取し、切断、研摩を行って、光学顕微鏡観察し、主な組織が何であるか、F+P面積率がどのようになっているかを詳細に調査したものである。
【0040】
高温引張試験は、JIS14号A試験片を作製し、室温、300、400、500、600℃での引張強度、0.2%耐力を測定することにより実施した。
【0041】
高温硬さは、600℃の温度で加熱保持し、加熱保持を継続した場合の硬さ変化を加熱直後(温度が600℃にて安定してから5分後)と保持時間100時間後のそれぞれについて、600℃に加熱された状態で測定し、本発明鋼が高温で長時間加熱保持された場合において硬さがどのように変化するかについて調査した。
また、室温硬さも同時に測定を行った。
【0042】
M−A量は、走査型電子顕微鏡により倍率5000倍で100視野を観察し、ポイントカウンティング法で測定した結果の平均値を求めることにより評価した。
なお、M−A量の測定は本発明鋼及び比較鋼のみについて行った。
衝撃値は、前記した丸棒からJIS3号Uノッチ衝撃試験片を作製し、室温(約20℃)にて実験した結果を示したものである。
以上説明した方法で測定した結果を表1、表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表1、表2から明らかなように、本発明で規定した条件の一部を満足していない比較鋼である13〜21鋼は、いずれかの評価項目が劣るものである。すなわち、14、16、20鋼のように、Mn又はCr含有率が低かったり、冷却速度が遅い場合には、F+Pの割合が増加して、強度が室温から高温までの全ての温度領域について劣るものであり、他の比較鋼も室温では比較的高い強度が確保できているが、温度が上昇した場合の低下割合が高く、600℃では室温強度に比較して低い強度しか確保できないものである。また、M−Aを多量に含む15、17、18鋼は降伏比が劣り、引張強度に対する耐力の割合が劣るものであり、冷却速度が速い比較鋼である21鋼は、衝撃値が大きく劣るものである。
【0045】
また、硬さについては、室温硬さについてはそれぞれの鋼の室温における引張り強さにほぼ該当する値が得られた点で本発明鋼と比較鋼の間に差異は認められなかったが、高温硬さについては、一部の比較鋼で加熱直後の高温硬さと100時間経過後の差において明確に差が認められた。すなわち、比較鋼のうちC又はV含有率が低い比較鋼である13、19鋼についてHvで20程度の低下が認められたのに対し、本発明鋼は7〜11の低下しか認められなかったことである。これは炭窒化物形成元素の存在が高温時の強度変化を小さく維持する効果を有していることを意味するものであり、繰返し高温の環境下で使用される場合に摩耗量等の差となって現れると予想される。
【0046】
また、従来鋼SAE4140である22鋼は、焼入焼もどし処理により強度を高めているため、当然の結果として室温では高い強度を有している。しかしながら、温度上昇とともに強度は大きく低下し、問題となる温度領域である500〜600℃の温度領域では高強度が確保できないものであり、SCMV4は、SAE4140に比べ温度上昇に伴う強度低下の割合は小さいが、室温、高温共に強度本発明鋼に比べ低く、高温での高強度を確保できないものである。
【0047】
それに対し、本発明鋼である1〜12鋼は熱間加工後において熱処理を行っていないにもかかわらず、特に500℃以上の低合金鋼にとってかなり厳しい温度領域において、強度低下が小さく高温特性が優れていることが明らかとなった。また、高温硬さ試験から明らかなように、高温で長時間加熱保持された場合でも、微細に析出した炭窒化物による析出硬化によって温度低下が小さく、長時間強度変化を小さく保つ機能が優れていることが確認できた。また、実験データは示していないが、600℃の加熱保持を長時間実施し重量変化を測定する方法で耐酸化性試験を実施したが、ほとんど重量変化がみられず、600℃以下の使用に何ら問題ないことが確認できた。
【0048】
次に、M−A量に関する別の実施例について説明する。
表2の結果より、本発明鋼は、熱間加工後自然空冷のままでもM−A量は非常に少なく、降伏比低下への影響も少ないことがわかった。しかし、成分によっては若干量残存する場合もあり、この残存したM−Aが実際の使用中に高温環境に晒されることによって、分解することによって組織変化し、その結果部品形状が微妙に変化する可能性がある。そこで、前記実施例で12%のM−Aの存在が確認できた2鋼について焼もどし処理を行った場合にM−A量がどう変化するかについて、加熱温度を300〜600℃で変化させて調査した。測定方法は前の実施例と同じである。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3から明らかなように、300〜600℃に加熱することによりあらかじめM−Aを分解させておくことができることがわかる。但し、温度が低い場合長時間の処理時間が必要となるので、400℃以上の温度で行うのが望ましい。
【0051】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の低合金非調質耐熱鋼は、少ない合金添加量かつ非調質で優れた高温強度を確保できるので、600℃以下の温度範囲での使用であれば、低コストで優れた強度を長時間維持できる材料を提供することが可能となる。
また、非調質で使用可能なため省エネの社会的要求への対応を耐熱鋼の分野でも対応可能とすることができ、産業上寄与するところは極めて大きい。
Claims (4)
- 重量比にて、C:0.26〜0.40%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.80〜2.00%、P:0.020%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.10〜0.50%、Al:0.002〜0.060%、V:0.05〜0.50%、N:0.0080〜0.0200%を含有し、残部がFe及び不純物元素からなり、主な組織はベイナイトであって、かつ面積率で30%以下(0%を含む)のフェライトパーライトを含む組織からなり、熱間加工のまま非調質で使用することを特徴とする高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼。
- 請求項1に記載の鋼に加えて、S:0.03〜0.3%、Pb:0.01〜0.50%、Ca:0.0005〜0.0100%、Mg:0.0005〜0.0100%、Te:0.0003〜0.05%、Bi:0.05〜0.50%の1種又は2種以上をさらに含有させたことを特徴とする高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼。
- 請求項1に記載の成分を含有する鋼の製造時の熱間加工後の冷却過程において、10〜300℃/minの速度で変態完了まで冷却することを特徴とする高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼の製造方法。
- 請求項2に記載の方法にて製造された鋼をさらに300〜600℃の温度で焼もどしすることを特徴とする高温環境下での強度変化の小さい低合金非調質耐熱鋼の製造方法。
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