JP2004017315A - インクジェットヘッド及びインクジェット画像形成装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】インクジェットヘッド52のインク室84を仕切る隔壁81bを構成する圧電材料として、温度変化に対する電気機械結合係数の変化率が負の特性を有するものを適用する。これにより、インク粘度の特性により変位するインク吐出速度と、圧電材料の電気機械結合係数の特性により変位するインク吐出速度とが互いに打ち消す方向となるようにし、インクの吐出速度を一定にする。
【選択図】 図4
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク滴の吐出により記録媒体(記録用紙)上に画像形成を行うインクジェットヘッド及びそのインクジェットヘッドを備えたインクジェット画像形成装置に係る。特に、本発明は、インク滴の吐出速度を安定化させることによりインク滴吐出性能の向上を図る対策に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、インクジェット方式の画像形成装置(以下、インクジェットプリンタと称す)では、給紙される記録用紙の表面にインク滴が吐出されて画像形成が行われる。つまり、形成しようとする画像に対して2以上の多値化を行い、その処理によって得られたドットのオン・オフの信号に基づいてインクジェットヘッドの各ノズルからのインク滴の吐出制御を行って記録用紙上に所定のドットを形成するようになっている。
【0003】
また、このインク滴を吐出するための機構としては種々の方式が提案されている。その一つとして、例えば特開昭63−247051号公報に開示されているように、圧電体を用いてインク滴の吐出圧を得る方式がある。具体的には、図13に示すように、セラミックス等の圧電材料より成るベースプレートaに複数の溝b,b,…を形成すると共に、各溝b,b,…を仕切っている隔壁c,c,…を、溝bの内部空間であるインク室dの深さ方向に分極し、この隔壁cの所定領域(例えば上側半分)に駆動電極eを形成する。また、この溝bの上部を閉塞するようにベースプレートa上にカバープレートfを取り付ける。尚、上記各溝b,b,…はダイヤモンドブレード等による切削加工により形成されている。また、駆動電極eはスパッタリング等によって形成されている。
【0004】
そして、画像信号に応じたパルス電圧を各駆動電極e,e,…に個別に印加することで、各駆動電極e,e,…間に電位差を与え、これによって上記分極方向に直交する電界を生じさせる。このときに生じる圧電剪断歪み効果により、各隔壁c,c,…が剪断変形する。この変形により、インク室d内に圧力波が発生し、その圧力によりインク滴の吐出動作が行われるようになっている。
【0005】
この各隔壁c,c,…の剪断変形動作としては、一般には、インク室dが拡張する方向に隔壁cが作動するよう所定の駆動電極eに吐出パルス電圧を与えた後に、インク室dが収縮する方向に隔壁cが作動するよう所定の駆動電極eに非吐出パルス電圧を与える。これにより、インク室d内のインクに圧力波動を作用させ、このインク室dから図示しないインクノズルを経てインク滴を吐出するようになっている。
【0006】
更に、この種のインクジェットプリンタにおいて、各ノズルから吐出されるインク滴の大きさを変えることなしに、記録用紙上の1ドットに対して打ち込むインク滴の数を可変にして濃度階調を行うマルチドロップ方式の画像形成動作も一般に知られている(例えば特開平11−170521号公報参照)。この方式においても、上述したような各駆動電極への印加電圧制御によってインク室からのインク滴の吐出制御を行うようになっている。
【0007】
次に、インク温度とインク滴の吐出速度との関係について説明する。図14は、インク温度(℃)に対するインク粘度η(cp)の変化状態を示している。この図14に示すように、インクノズルより吐出されるインクの粘度η(cp)は、インク温度(℃)によって大きく変化する。このため、高温時はインク粘度ηが低いことからインクノズルからのインク滴の吐出速度が高くなり、逆に、低温時はインク粘度ηが高いことからインクノズルからのインク滴の吐出速度が低くなる。このように、インク温度によってインク滴の吐出速度が大きく変化してしまい、それに伴うインク滴着弾位置のズレが生じて画質の劣化を招いてしまう可能性がある。特に、低温時において最悪の場合、インク粘度ηが著しく高くなって吐出不能になるなどインクジェットプリンタの吐出性能が大きく悪化してしまう可能性もある。
【0008】
この課題を解決するために、ヘッド温度(℃)、即ちインク温度(℃)の変化に対応してインクヘッドの圧電体(上記隔壁c)に電界を発生させるための印加電圧Vp(V)を変化させることで、インク吐出速度を制御し、インクジェットプリンタの吐出性能を良好に確保するという方法がある。つまり、図14に示すように、インク温度(℃)が低いほど印加電圧Vp(V)を大きく設定することにより、インク温度(℃)に拘わりなくインク滴の吐出速度を一定に維持して画質の劣化を回避するものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、インク滴の吐出速度を一定にするためにインクの温度変化に対応して印加電圧Vpを変化させるという上記方法では、インク滴吐出のための駆動回路に温度センサや電圧可変回路などを必要とする。その結果、インクジェットプリンタの駆動回路の負担が増加するという新たな課題が生じてしまう。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インク滴吐出のための駆動回路の負担を増加させることなしに、インク滴の吐出速度を安定化し、吐出性能の高いインクジェットヘッド及びインクジェット画像形成装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
−発明の概要−
上記の目的を達成するために、本発明は、インクジェットヘッドのインク室壁面を構成している圧電体として、電気エネルギを機械エネルギに変換する変化率をインクの吐出速度を一定とするように温度に応じて自己補正できる機能を備えたものとしている。
【0012】
−解決手段−
具体的には、インク室の少なくとも壁面を圧電体によって構成し、この圧電体に対して電気エネルギを付与することで圧電体を変形させ、これによってインク室内のインクを記録媒体に向けて吐出するインクジェットヘッドを前提とする。このインクジェットヘッドに対し、上記圧電体として、温度変化に対する電気機械結合係数の変化率が負の特性を有するものを適用している。ここで、電気機械結合係数とは、圧電体に付与された電気エネルギがどれだけ機械エネルギに変換されるかを示すものである。つまり、「電気機械結合係数の変化率が負の特性」ということは、圧電体に付与された電気エネルギを機械エネルギへ変換する効率が、温度が高いほど低下するといった特性であることを意味する。具体的に、この電気機械結合係数は、圧電体の結晶中に機械的な形で蓄積されたエネルギを上記電気エネルギで除算した値の平方根として表される。
【0013】
インクジェットヘッドより吐出されるインクの粘度は、インク温度が高くなるに従って低下する。すなわち負の温度特性を有している。よって、インク吐出速度を一定にするためには、インク温度が高くなるに従って、インクを吐出するために圧電体に蓄積される機械エネルギを小さくする必要がある。換言すれば、インク吐出速度を一定にするためには、圧電体の温度が高くなるに従って、上記機械エネルギを小さくする必要がある。
【0014】
電気機械結合係数が負の温度特性を有する圧電体を用いる本解決手段によれば、圧電体の温度が高くなるに従って、圧電体に付与された電気エネルギを機械エネルギへ変換する効率が低下する。これにより、圧電体自身によって、インク吐出速度が一定になるように変換効率を補正(自己補正)でき、この結果、インクジェットヘッドのインク吐出性能が向上する。
【0015】
すなわち、インク温度が比較的低いときは、インク粘度が高くなることから、インク粘度の特性によっては、インク吐出速度は低くなる方向へ変位する。しかし、本解決手段に係る圧電体の電気機械結合係数の特性からすれば、圧電体に付与された電気エネルギからインクを吐出するための機械エネルギに変換される効率が良くなることから、インク吐出速度は高くなる方向へ変位する。
【0016】
逆に、インク温度が比較的高いときは、インク粘度が低くなることから、インク粘度の特性によっては、インク吐出速度は高くなる方向へ変位する。しかし、本解決手段に係る圧電体の電気機械結合係数の特性からすれば、圧電体に付与された電気エネルギからインクを吐出するための機械エネルギに変換される効率が悪くなることから、インクの吐出速度は低くなる方向へ変位する。
【0017】
以上のように、インク粘度の特性により変位するインク吐出速度と、圧電体の電気機械結合係数の特性により変位するインク吐出速度とは、互いに打ち消す方向である。よって、圧電体に付与される電気エネルギが一定であっても、圧電体自身の変換効率の自己補正によって、インク吐出速度を一定にすることが可能となり、インクジェットヘッドのインク吐出性能を向上させることができる。
【0018】
また、マルチドロップ方式のインクジェットヘッドに適用した場合の解決手段として以下のものが掲げられる。つまり、インク室の少なくとも壁面を構成している圧電体に電気エネルギを付与してこの圧電体を変形させ、これによって連続吐出した複数のインク滴を合体させて記録媒体上のインク滴の1ドットを形成可能とするマルチドロップ方式のインクジェットヘッドを前提とする。このインクジェットヘッドに対し、上記圧電体として、温度変化に対する電気機械結合係数の変化率が負の特性を有するものを適用している。
【0019】
上記マルチドロップ方式のインクジェットヘッドは、1滴のインク滴を1ドットとして紙面上に形成するインクジェットヘッドに比べて、n倍のインク吐出動作を行う。よって、マルチドロップ方式のインクジェット記録装置においては、駆動によるインクの温度上昇が特に激しく、インクの吐出性能を維持するために、より大きな温度補正が要求される。
【0020】
さらに、合体した1ドットのインク滴を形成するための複数のインク滴は、それぞれ吐出速度が異なるので、吐出順位に応じて補正を行う必要がある。また、吐出順位に応じた補正を組み合わせることにより、要求される補正量は更に大きくなる。
【0021】
本解決手段の構成によれば、このようなマルチドロップ方式のインクジェットヘッドにおいて、圧電体の変換効率自己補正機能を用いることにより、各インク滴に適正な吐出速度を得ることができ、各ドットにより形成される画質を良好に得ることができる。
【0022】
上記の各解決手段に加えて、圧電体に付与する電気エネルギを制御可能に構成した場合には、圧電体自身の変換効率の自己補正だけではインクの吐出速度を適正にできない場合であっても、例えば圧電体に印加する電圧を制御するなどの電気的な補正を組み合わせることによって適切に補正され、インク吐出性能の向上を図ることができる。
【0023】
具体的には、インク温度が比較的低い場合には、圧電体に付与された電気エネルギからインクを吐出するための機械エネルギに変換される効率が良くなって、インク吐出速度が大きくなる方向へ変位するが、未だ十分なインク吐出速度が得られていない状況の場合には圧電体に印加する電圧を高く設定する制御を行う。逆に、インク温度が比較的高い場合には、圧電体に付与された電気エネルギからインクを吐出するための機械エネルギに変換される効率が悪くなって、インク吐出速度が小さくなる方向へ変位するが、未だインク吐出速度が高すぎる状況の場合には圧電体に印加する電圧を低く設定する制御を行う。
【0024】
また、この圧電体に印加する電圧の制御としては上記の場合に限らない。例えば、インク温度が比較的低い場合であるにも拘わらずインク吐出速度が高すぎるときに、圧電体に印加する電圧を低く設定する制御を行ったり、逆に、インク温度が比較的高い場合であるにも拘わらずインク吐出速度が低すぎるときに、圧電体に印加する電圧を高く設定する制御を行ってもよい。つまり、圧電体自身の変換効率の自己補正による補正量が大きすぎる場合に、それをうち消す方向に印加電圧を制御するようにしてもよい。
【0025】
また、本解決手段によれば、電気的な補正を単独で行う場合に比べて、圧電体の自己補正を組み合わせることにより、電気的な補正量を圧縮できる。これにより、駆動回路での消費電力を抑制でき、電源電圧を低くできるなど、駆動回路の負担の軽減を図ることができる。
【0026】
更に、他の解決手段として以下の構成が掲げられる。つまり、インク室の少なくとも壁面を構成している圧電体に電気エネルギを付与してこの圧電体を変形させ、これによってインク室内のインクを記録媒体に向けて吐出するインクジェットヘッドを前提とする。このインクジェットヘッドに対し、インクの温度がTa(℃),Tb(℃)の場合におけるインクの粘度をそれぞれηa、ηb、上記圧電体の静電容量をそれぞれCa,Cb、上記圧電体の電気機械結合係数をそれぞれKa,Kb、および、圧電体を変形させるために付与される印加電圧をそれぞれVa,Vbとした場合、
(Va/Vb)2=α2×(Cb×Kb2×ηa)/(Ca×Ka2×ηb)
ただし、0.93≦α≦1.14
を満足する印加電圧が設定されるよう構成している。
【0027】
上記の構成によれば、インクの吐出速度が8m/secの場合において、吐出偏差許容値を+4m/secから−2m/secに抑制できる。すなわち、600DPI(42μm)で着弾位置誤差を±1/2ドットピッチ(21μm)以下に抑制できる。
【0028】
また、上記各解決手段のうち何れか一つに記載のインクジェットヘッドを搭載し、このインクジェットヘッドのインク室内からインク滴を記録媒体に向けて吐出することにより、この記録媒体表面に画像形成を行うように構成されたインクジェット画像形成装置も本発明の技術的思想の範疇である。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本形態では、カラーインクジェットプリンタに本発明を適用した場合について説明する。
【0030】
図1は、本形態に係るカラーインクジェットプリンタ1の外観及び内部構成の一部を示す(ケーシングの上面を省略している)斜視図である。また、図2は、カラーインクジェットプリンタ1の内部構成を示す側面図である。
【0031】
これらの図に示すように、本形態に係るインクジェットプリンタ1は、給紙部2、分離部3、搬送部4、印刷部5及び排出部6を備えている。
【0032】
給紙部2は、略鉛直方向に延びる給紙トレイ21及び図示しないピックアップローラを備えており、印刷開始時に給紙トレイ21内の記録媒体としての記録用紙Pをピックアップローラによって取り出して分離部3に向けて搬送するようになっている。また、上記給紙トレイ21は、印刷を行わない際には、記録用紙Pの保管部として機能する。
【0033】
分離部3は、給紙部2から供給される記録用紙Pを、印刷部5に向けて一枚ずつ供給するためのものであり、給紙ローラ31及び分離器32を備えている。分離器32では、パッド部分(記録用紙Pとの接触部分)と記録用紙Pとの摩擦力が、記録用紙P,P同士の間の摩擦力より大きくなるように設定されている。また、給紙ローラ31では、この給紙ローラ31と記録用紙Pとの摩擦力が、分離器32のパッドと記録用紙Pとの摩擦力や、記録用紙P,P同士の間の摩擦力よりも大きくなるように設定されている。そのため、ピックアップローラによって複数枚の記録用紙P,P,…が取り出されて分離部3まで送られてきたとしても、給紙ローラ31によって、これら複数の記録用紙P,P,…を分離し、最も上側の一枚の記録用紙Pのみを搬送部4に送ることができるようになっている。
【0034】
搬送部4は、分離部3より一枚ずつ供給される記録用紙Pを、印刷部5に向けて搬送するためのものであり、ガイド板41及び搬送ローラ対42を備えている。搬送ローラ対42は、記録用紙Pをインクジェットヘッド52とプラテン53との間に送り込む際に、インクジェットヘッド52からのインク滴が記録用紙Pの適切な位置に吹き付けられるように、記録用紙Pの搬送を調整する。
【0035】
印刷部5は、搬送部4の搬送ローラ対42から供給される記録用紙Pへ印刷を行うためのものであり、図示しない複数のインクタンク、インクジェットヘッド52、これらインクタンク及びインクジェットヘッド52を搭載したキャリッジ51、このキャリッジ51を主走査方向に案内するためのガイドシャフト54、印刷時に記録用紙Pの支持台となる上記プラテン53を備えている。また、上記インクタンクは、Bk(ブラック),C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)の各インク毎に個別にキャリッジ51上に搭載されており、それぞれが独立して交換可能となっている。
【0036】
排出部6は、印刷が行われた記録用紙Pを回収する部分であり、記録用紙P上のインクを乾燥させるための図示しないインク乾燥部、排出ローラ対61及び排出トレイ62を備えている。
【0037】
上記の構成において、インクジェットプリンタ1は、次のような動作によって印刷を行う。先ず、図示しないコンピュータ等の外部端末から画像情報に基づく印刷要求がインクジェットプリンタ1に対してなされる。印刷要求を受信したインクジェットプリンタ1は、給紙トレイ21上の記録用紙Pを、ピックアップローラによって給紙部2より搬出する。次に、搬出された記録用紙Pは、給紙ローラ31によって分離部3を通過し、搬送部4へと送られる。搬送部4では、搬送ローラ対42によって、記録用紙Pをインクジェットヘッド52とプラテン53との間へと送る。そして、印刷部5では、インクジェットヘッド52のインクノズルよりプラテン53上の記録用紙Pへ、画像情報に対応してインク滴が吹き付けられる(この際のインク滴吐出動作については後述する)。この時、記録用紙Pはプラテン53上で一旦停止されている。インク滴を吹き付けつつ、キャリッジ51は、ガイドシャフト54に案内されて、主走査方向(図1におけるD2方向)に一ライン分走査される。それが終了すると、記録用紙Pは、プラテン53上で副走査方向(図1におけるD1方向)に一定の幅だけ移動する。印刷部5において、上記処理が画像情報に対応し継続して実施されることにより、記録用紙Pの全面に印刷がなされる。このようにして印刷が行われた記録用紙Pは、インク乾燥部を経て、排出ローラ対61によって排出トレイ62に排出される。これにより、記録用紙Pは印刷物としてユーザに提供されることになる。
【0038】
以上の各部の動作は制御部によって制御される。以下、この制御部について説明する。
【0039】
図3は、本インクジェットプリンタ1の制御部7の構成を示すブロック図である。この制御部7は、インタフェース部71、メモリー72、画像処理部73、および駆動系制御部74を備えている。
【0040】
インタフェース部71は、外部機器と、画像処理部73および駆動系制御部74との間での信号の送受信を行う回路である。
【0041】
メモリー72は、インタフェース部71からの画像情報を一時格納する記憶部である。
【0042】
画像処理部73は、インタフェース部71からの画像情報に基づいて画像処理を行う。また、画像処理部73は、インクジェットヘッド52の駆動を制御するヘッド駆動回路75に接続されている。
【0043】
駆動系制御部74は、キャリッジ51の駆動、および記録用紙Pの搬送を制御する。駆動系制御部74は、キャリッジモータの駆動を制御するキャリッジ駆動回路76および用紙搬送モータの駆動を制御する用紙搬送駆動回路77に接続されている。
【0044】
以上の回路構成により、本インクジェットプリンタ1は、インクジェットヘッド52、キャリッジ51、用紙搬送モータ等を駆動し、これによって上述した記録用紙Pに対する印刷動作を行うよう構成されている。
【0045】
次に、本実施形態に係るインクジェットヘッド52の構成およびインク吐出動作について説明する。図4はインクジェットヘッド52の底面図であって、後述するノズルプレート83を省略した図である。図5はインクジェットヘッド52の断面図である(実際の設置状態では図中左側が下方となる)。これら図に示すように、インクジェットヘッド52は、ベースプレート81、カバープレート82、ノズルプレート83を備えている。
【0046】
ベースプレート81は、圧電材料が断面櫛歯状に形成されて成っており、底壁81aと、この底壁81aの上面に配置された複数の隔壁81b,81b,…とを備えている。これら隔壁81b,81b,…同士は所定間隔を存して平行に配置されている。これにより、各隔壁81b,81b,…同士の間には後述するインク室84を構成するための複数の溝81c,81c,…が形成されている。また、上記ベースプレート81の隔壁81bは、その高さ方向(図4に矢印で示す方向)に分極されている。
【0047】
また、このベースプレート81を構成する圧電体(圧電材料)としては、図6に示すように、温度変化に対して、電気機械結合係数の変化率(K)が正の特性を有するもの(図中のN−21、N−10)と、負の特性を有するもの(図中のN−6、N−61)とがあるが、本実施形態に係るインクジェットプリンタ1においては、負の特性を有する圧電体が用いられている。この電気機械結合係数の変化率が負の特性を有する圧電体を用いたことによる作用効果については後述する。
【0048】
カバープレート82は、上記ベースプレート81の上部に一体的に組み付けられて、各溝81c,81c,…の上部を閉鎖している。これにより、ベースプレート81の底壁81a及び隔壁81bと、カバープレート82とによって囲まれた空間がインク室84として構成され、このインク室84が隔壁81bを挟んで水平方向に複数配置されている。また、各インク室84は共通インクパス87を介してインクタンクに接続されている。つまり、インクタンク内のインクがインク色毎に独立した共通インクパス87を経て各インク室84に供給されるようになっている。
【0049】
上記ベースプレート81には、駆動電極85が形成されている。この駆動電極85は、図4に示すように、ベースプレート81の各隔壁81bの側面のうち上側約半分に形成されている(図5において斜線を付した部分参照)。更に、これら駆動電極85は、同一のインク室84内に配設されているもの同士が導電性樹脂から成る接続電極86によって接続されている(図4において斜線を付した部分参照)。また、接続電極86には図示しない外部取り出し電極が接続されている。この外部取り出し電極にヘッド駆動回路75からのパルス電圧が印加されることにより、インク室84内で対面する両駆動電極85,85には同パルス電圧が印加される構成となっている。
【0050】
ノズルプレート83は、ベースプレート81及びカバープレート82の前面側(図5における左側)に取り付けられて、インク室84を閉鎖していると共に、各インク室84,84,…に対応してノズル83a,83a,…が形成されている。つまり、インク室84内にインク吐出用の圧力が発生した場合、このインク室84に臨むノズル83aから所定量のインク滴が吐出されるようになっている。
【0051】
具体的に、本形態に係るインクジェットヘッド52では、上記各インク室84は、長さ(アクティブレングス)が1.1mm、高さ寸法が300μm、幅寸法が84μmであり、隔壁81bの幅寸法が85μmであり、インク室84のピッチが150dpiとなっている。また、駆動電極85は隔壁81bの上端から150μmの位置まで斜め真空蒸着法により形成されたAl膜で成っている。この駆動電極85の形成動作としては、上記斜め真空蒸着によって隔壁81bの側面の略上側半分及び上面に亘って付着したAl膜のうち上面の膜を研磨により削除することで隔壁81bの各側面のAl膜を分離した後、インク室84内で対向するAl膜同士を接続電極86によって電気的に接続するようにしている。また、カバープレート82は隔壁81bの上面に接着剤によって接着されており、この接着層(図示省略)の厚さ寸法は1μm以下に設定されている。更に、ノズルプレート83に形成されたノズル83aの吐出側の径は17μmとなっている。このノズルプレート83は、ポリイミドフィルムに撥水膜を塗布した後、エキシマレーザによりスルーホールで成る複数のノズル83a,83a,…を形成することにより得られる。このノズル83a,83a,…のピッチは上記インク室84,84,…のピッチと同じく150dpiである。尚、上記各寸法及び製造方法はこれに限られるものではない。
【0052】
また、インクジェットヘッド52としては、上述した剪断歪方式に限られるものではなく、ユニモルフ方式、厚み方向歪方式、軸方向歪方式、積層圧電体方式等を採用することも可能である。特に、電気機械結合係数が大きく、且つ温度依存性の小さいものが好ましい。
【0053】
以下、インク滴吐出動作について説明する。本インクジェットヘッド1におけるインク滴吐出の基本動作としては、所定数おき(例えば2つおき)に配置された複数のインク室84,84,…同士を1つのインク室チャンネルとする複数のチャンネルを構成しておき、各チャンネルに対してインク滴の吐出制御を順次行うようにしている。具体的には、図9に示すように、2つおきに配置された複数のインク室同士を1つのチャンネルとして構成して、A,B,Cの3つのチャンネルによりインク滴の吐出制御を行う。この各チャンネルに対する制御動作を説明する前に、インク滴を吐出するための隔壁81bの変形動作について説明する。
【0054】
図7は、インク室NA,NB,NCを構成する隔壁81b,81bの変形動作を説明するための図であって、インク室NBからインクの吐出を行う場合を示している。図7(a)は全てのチャンネルに吐出パルス電圧を印加していない状態である。この状態を休止期間という。図7(b)はチャンネルNBを拡張させることにより、このチャンネルNBにインクが吸引されている状態を示す。図7(c)はチャンネルNBを収縮させることにより、このチャンネルNBのノズルからインクを吐出する状態を示す。
【0055】
また、図8(a)は、チャンネルNBのノズルからインクを吐出させるための駆動パルス電圧の波形を示している。図8(b)は、何れのチャンネルのノズルからもインクを吐出させないための駆動パルス電圧の波形を示している。ここで、図7(b)に示すチャンネルNBの拡張時、及び図7(c)に示すチャンネルNBの収縮時のパルス波形は図8(a)に示すものである。
【0056】
以下、各チャンネルに対する制御動作について説明する。図9において、個々のチャンネルは、第1,第2,第3の3つのインク室1A〜3Cから成っている。この図9では、Aチャンネルにおける第1インク室に符号1Aを、第2インク室に符号2Aを、第3インク室に符号3Aをそれぞれ付している。また、Bチャンネルにおける第1インク室に符号1Bを、第2インク室に符号2Bを、第3インク室に符号3Bをそれぞれ付している。Cチャンネルについても同様の符号を付している。
【0057】
今、インク滴の吐出制御対象チャンネルがBチャンネルであって、このBチャンネルの第2インク室2B及び第3インク室3Bからインク滴を吐出する場合を考える。この際、先ず、これら各インク室2B,3Bの両側に隣接するインク室2A,2C、3A,3Cの駆動電極e1,e1,…をローレベルとし、第2インク室2B及び第3インク室3Bの駆動電極e2,e2,…にハイレベルの電圧(図8における吐出パルス電圧)を印加する。これにより、この第2インク室2B及び第3インク室3Bの駆動電極e2,e2,…と、それぞれに隣り合う駆動電極e1,e1,…との間に電位差が生じ、その際に発生する電界の作用によって第2インク室2B及び第3インク室3Bを構成している各隔壁81b,81b,…は剪断変形してこれらインク室2B,3Bの内部を拡大させる(図9(b)参照)。その後、Bチャンネルの第2インク室2B及び第3インク室3Bの駆動電極e2,e2,…へのハイレベルの電圧印加を解除すると共に、これらインク室2B,3Bの両側に位置するインク室2A,2C、3A,3Cの駆動電極e1,e1,…にハイレベルの電圧(図8における共通パルス電圧)を印加する。これにより、インク室2B,3Bの駆動電極e2,e2,…と、それぞれに隣り合う駆動電極e1,e1,…との間に上記とは逆方向の電界が作用し、これによって第2インク室2B及び第3インク室3Bを構成している隔壁81b,81b,…は剪断変形して、これらインク室2B,3Bの内部を縮小させる(図9(c)参照)。これにより、インク室2B,3B内に所定の吐出圧力(波動)が発生し、ノズルからインク滴が吐出される。このように、吐出パルス電圧の印加解除と同時に共通パルス電圧を印加することで、インク室2B,3Bの拡大、縮小を連続して行わせてインク滴吐出動作が行われる。
【0058】
一方、上記インク滴吐出動作の場合、Bチャンネルの第1インク室1Bはインク滴を吐出しないため、この第1インク室1Bの駆動電極e3,e3へは、この第1インク室1Bの両側に位置するインク室1A,1Cの駆動電極e4,e4,…と同一の電圧が同タイミングで印加され(図8(b)に示す状態)、電極間に電位差を生じさせないことで上記剪断変形が起こらないようにしている。
【0059】
以上のようなBチャンネルに対するインク滴の吐出制御動作が行われた後、次に、Cチャンネルの各インク室1C,2C,3Cに対するインク滴の吐出制御動作が行われる。このようにして、駆動パルス電圧の制御をA,B,Cの各チャンネルに対して順に遷移させていくことにより、全てのインク室1A〜3Cを有効に利用しながら連続的なインク吐出動作が行われるようになっている。
【0060】
尚、駆動電極85に吐出パルス電圧を与えてインク室84が拡張する方向に隔壁81bを作動させた際、この吐出パルス電圧の印加維持時間(吐出パルスのパルス幅)は、インク室84内の圧力波がインク室84の長手方向を片道伝播する時間L/a(Lはインク室84の長さ寸法、aはインク中の音速)である場合に、最も有効に圧力変動を増大させることができ、吐出効率の向上を図ることができて、インク滴の吐出速度を高く得ることができる。本形態では、図10に示すように、各駆動パルス電圧の印加時間としては、インク滴吐出用の圧力波がインク室の後端部から先端のインク吐出部へ伝播する時間をALとしたとき、吐出パルス電圧の印加時間がAL、共通パルス電圧の印加時間が2AL、インク滴の吐出周期が3.5ALにそれぞれ設定されている。ここで、ALは通常は数μs程度である。また、各駆動パルス電圧の電圧値は互いに同一に設定されており、電源の共有化が図られている。
【0061】
以上の吐出動作を行うインクジェットプリンタ1において、インクジェットヘッド52のベースプレート81の構成材料として適用される圧電材料は、温度変化に対して、電気機械結合係数の変化率が負の特性を有するものが用いられている。ここで、電気機械結合係数とは、圧電体に付与された電気エネルギがどれだけ機械エネルギに変換されるかを示すものであり、圧電体の結晶中に機械的な形で蓄積されたエネルギを上記電気エネルギで除算した値の平方根として表される。
【0062】
インクジェットヘッド52より吐出されるインク粘度ηは、図14に示したように、インク温度が高くなるに従って低下するという負の温度特性を有している。よって、インク吐出速度を一定にするためには、インク温度が高くなるに従って、インクを吐出するために圧電体(以下、隔壁81bと呼ぶ)に蓄積される機械エネルギを小さくする必要がある。換言すれば、インク吐出速度を一定にするためには、隔壁81bの温度が高くなるに従って、上記機械エネルギを小さくする必要がある。
【0063】
本実施形態の如く、電気機械結合係数が負の温度特性を有する圧電材料より成るベースプレート81を用いれば、隔壁81bの温度が高くなるに従って、隔壁81bに付与された電気エネルギを機械エネルギへ変換する効率が低下する。これにより、隔壁81b自身によって、インクの吐出速度が一定になるように変換効率を補正(自己補正)でき、この結果、インクの吐出性能が向上する。
【0064】
すなわち、インク温度が比較的に低いときは、インク粘度が高くなることから、インク粘度の特性によっては、インク吐出速度は低くなる方向へ変位する。しかし、本実施形態では、隔壁81bを構成する圧電体の電気機械結合係数の特性からすれば、隔壁81bに付与された電気エネルギからインクを吐出するための機械エネルギに変換される効率が良くなることから、インクの吐出速度は高くなる方向へ変位する。
【0065】
逆に、インク温度が比較的に高いときは、インク粘度が低くなることから、インク粘度の特性によっては、インク吐出速度は高くなる方向へ変位する。しかし、本実施形態では、隔壁81bを構成する圧電体の電気機械結合係数の特性からすれば、隔壁81bに付与された電気エネルギからインクを吐出するための機械エネルギに変換される効率が悪くなることから、インクの吐出速度は低くなる方向へ変位する。
【0066】
以上のように、インク粘度の特性により変位するインク吐出速度と、隔壁81bを構成する圧電体の電気機械結合係数の特性により変位するインク吐出速度とは、互いに打ち消す方向である。よって、隔壁81bに付与される電気エネルギが一定であっても、隔壁81b自身の変換効率の自己補正によって、インク吐出速度を一定にすることが可能となり、インクジェットヘッド52のインク吐出性能を向上させることができる。
【0067】
なお、特開平9−48113号公報には、インクの温度変化による吐出性能の低下を防止するために、少なくとも20℃以下の温度域において、電気機械結合係数の温度変化に対する変化率が3000ppm/℃以下の特性を有する圧電体(電気機械エネルギ変換素子)を備えるインクジェット記録装置が開示されている。しかし、この公報に開示されている技術は、インクの吐出速度が比較的に一定となった圧電体を実験により指定したにすぎず、温度変化に対して電気機械結合係数の変化率が負の特性を有する圧電体を積極的に利用するものではない。
【0068】
これに対して、本実施形態のものでは、温度変化に対して電気機械結合係数の変化率が負の特性を有する圧電体をベースプレート81の構成材料として積極的に利用することによって、温度変化に拘わりなくインク吐出速度を確実に一定にすることが可能であり、確実にインクの吐出性能を向上できる。
【0069】
また、本インクジェットプリンタ1にあっては、隔壁81bに付与する電気エネルギも制御することが好ましい。これにより、隔壁81bの変換効率の自己補正だけではインク吐出速度を一定にできない場合であっても、例えば隔壁81bに設けられた駆動電極85への印加電圧を制御するなどの電気的な補正を組み合わせることによって、インク吐出速度を一定にするための補正が適切になされ、インク吐出性能が向上する。その結果、記録用紙P上のインク滴着弾位置を適切に得ることができ、高品質の画像を得ることができる。
【0070】
また、電気的な補正を単独で行う場合に比べて、隔壁81bの変換効率の自己補正を組み合わせることにより、電気的な補正量を圧縮できる。これにより、駆動回路での消費電力を抑制でき、電源電圧を低くできるなど、駆動回路の負担が低減される。
【0071】
(変形例1)
また、本発明の変形例の一つとしてマルチドロップ方式のインクジェットプリンタへの適用も可能である。つまり、圧電体で構成される隔壁81bの変形を複数回行うことで複数のインク滴を連続的に吐出し、それらのインク滴が合体したインク滴を1ドットとして記録用紙P上に形成するマルチドロップ方式のインクジェットプリンタに対して、上述したような電気機械結合係数が負の温度特性を有する圧電体から成る隔壁81bを備えさせることは、以下の理由から非常に有効である。
【0072】
すなわち、マルチドロップ方式のインクジェットプリンタは、1滴のインク滴を1ドットとして記録用紙P上に吐出するインクジェットプリンタに比べて、n倍のインクの吐出動作を行う。よって、マルチドロップ方式のインクジェットプリンタにおいては、駆動によるインクの温度上昇が特に激しく、インクの吐出性能を維持するために、より大きな温度補正が要求される。
【0073】
さらに、合体した1ドットのインク滴を形成するための複数のインク滴は、それぞれ吐出速度が異なるので、吐出順位に応じて補正を行う必要がある。また、吐出順位に応じた補正を組み合わせることにより、要求される補正量は更に大きくなる。
【0074】
電気機械結合係数が負の温度特性を有する圧電体を隔壁81bの構成材料として用いれば、このようなマルチドロップ方式のインクジェットプリンタにおいても、隔壁81b自身の変換効率自己補正を用いることにより、各インク滴に適正な吐出速度を得ることができ、各ドットにより形成される画質を良好に得ることができる。また、このマルチドロップ方式のインクジェットプリンタにおいて、隔壁81bに付与する電気エネルギを制御可能に構成した場合にも、電気的な補正量が圧縮されて、駆動回路の負担が軽減されることになる。
【0075】
(変形例2)
更に、他の変形例として以下の構成を採用することもできる。つまり、インクの温度がTa(℃),Tb(℃)の場合におけるインクの粘度をそれぞれηa,ηb、隔壁81b(圧電体)の静電容量をそれぞれCa,Cb、隔壁81bの電気機械結合係数をそれぞれKa,Kb、および、隔壁81bを変形させるために付与される印加電圧をそれぞれVa,Vbとした場合、
(Va/Vb)2=α2×(Cb×Kb2×ηa)/(Ca×Ka2×ηb)
ただし、0.93≦α≦1.14
を満足する印加電圧が設定される構成とするものである。
【0076】
これにより、インクの吐出速度が8m/secの場合において、吐出偏差許容値を+4m/secから−2m/secに抑制できる。すなわち、600DPI(42μm)で着弾位置誤差を±1/2ドットピッチ(21μm)以下に抑制できる。詳細を以下に説明する。
【0077】
隔壁81bに入力される電気エネルギをUi、この電気エネルギUiによって隔壁81bが変形する機械エネルギ(歪エネルギ)をUoとすると、電気機械結合係数Kは下式で表される。
【0078】
K=√{(機械エネルギUo)/(電気エネルギUi)} …(1)
ここで、機械エネルギUoは、隔壁81bの歪をeおよびその圧電材料のヤング率をYとすると、以下の(2)式で表され、
Uo=(1/2)×Y×e2 …(2)
電気エネルギUiは、圧電材料の誘電率をε、電界強度をEとすると、以下の(3)式で表される。
【0079】
Ui=(1/2)×ε×E2 …(3)
一方、隔壁81bに電圧を印加したときに、発生する歪みを示す圧電定数dは、以下の(4)式で表される。
【0080】
d=K×√(ε/Y) …(4)
また、圧電定数dは、電界強度Eに対する変位量eであるので、以下の(5)式で表すこともできる。
【0081】
d=e/E …(5)
ここで、(4)式を2乗し、その式に(1)〜(3)式を代入すると、
d2=[{(1/2)×Y×e2}/{(1/2)×ε×E2}]×(ε/Y)
d2=(e/E)2 …(6)
(5)式を2乗した式と、(6)式とは一致することから、(1)〜(5)式が正しいことが確認できた。
【0082】
よって、(1)〜(5)式を用いて、隔壁81bへの入力電気エネルギを圧電材料の静電容量をC、隔壁81bへの印加電圧をVで表し、入力に対する圧電材料の出力機械エネルギUoは、以下の(7)式で示すようになる。
【0083】
Uo=K2×(1/2)×C×V2 …(7)
一方、図14のインク温度とインク粘度ηとの関係、および、インク温度とインク滴の吐出速度を8m/secに一定にするために印加される電圧との関係を、それぞれ正規化したグラフを図11に示す。
【0084】
この図11において、粘度は、インク温度が20℃のときの粘度で正規化したものである。また、印加電圧については、インク温度が20℃のときの印加電圧の2乗値Vo2で各印加電圧の2乗値V2を正規化した値(V/Vo)2を示している。ここで、(V/Vo)2は、(7)式より、機械エネルギUoを正規化したものであると表現できる。
【0085】
図11より、インク温度−機械エネルギUoの関係と、インク温度−インク粘度の関係とは相関していることが分かる。
【0086】
ここで、インクの温度がTa(℃),Tb(℃)の場合におけるインク粘度をそれぞれηa,ηb、隔壁81bの静電容量をそれぞれCa,Cb、隔壁81bの電気機械結合係数をそれぞれKa,Kb、および、隔壁81bを変形させるために付与される印加電圧をそれぞれVa,Vbとすると、図11および(7)式より、以下の(8)式が求められる。
【0087】
(Va/Vb)2=α2×(Cb×Kb2×ηa)/(Ca×Ka2×ηb)
…(8)
すなわち、インクジェットプリンタ1において、インクの吐出速度を一定にするためには、(8)式を満足するように印加電圧を変化させればよい。
【0088】
ここで、(8)式の正規化許容値αは、以下の理由により、0.93≦α≦1.14の範囲である。
【0089】
紙面距離L=1mm、インクの吐出速度をVi=8m/sec、吐出サイクルを300DPI(Dots per inch)×6000pps(Plus Per Sec)、2パス印字の600DPI画像とすると、
1インチは25.4mmであり、ドットピッチXpは、
Xp=25.4mm÷600=42μm
キャリッジ速度Vcは、
Vc=(25.4mm÷300)×6000=508mm/sec
ドット位置精度は、
±(Xp/2)=21μm
である。また、吐出速度偏差の許容値ΔViは、以下の式で表すことができる。
【0090】
Vi=(Vi2×ΔX)/(L×Vc−Vi×ΔX) …(9)
よって、ΔViは、ΔXが±21μm、Vcが508mm/sec、Lが1mmであることより(9)式より
ΔVi=−2.0m/sec
ΔVi=+4.0m/sec …(10)
である。
【0091】
一方、図12は、それぞれのインクの吐出速度を得るために、隔壁81bに印加される印加電圧Vpを示している。同図より、印加電圧Vpとインク滴の吐出速度Viとは正比例の関係にあり、これはインクジェットヘッド52への入力電気エネルギは駆動電圧Vpの2乗の関数、またノズルの流路抵抗で消費されるエネルギはノズルでのインクの体積速度、即ち、インク滴の吐出速度の2乗の関数、またヘッドから外部に放出されるエネルギはインク滴の運動エネルギであり運動エネルギはインク滴の吐出速度Viの2乗の関数であり、伴に2乗の関数であることからも、印加電圧Vpとインク滴の吐出速度Viとは正比例の関係は納得できるものであり、下式で表すことができる。
【0092】
Vp=0.586×Vi+12.2
よって、正規化許容値αは、
0.93≦α≦1.14 …(11)
である。
【0093】
よって、上記入力電気エネルギ及び出力機械エネルギの関係よりインクジェットプリンタ1において、(8)式および(11)式を満足するように駆動電極85への印加電圧を設定することにより、インクの吐出速度が8m/secの場合において、吐出偏差許容値を+4m/secから−2m/secに抑制できる。すなわち、600DPI(42μm)で着弾位置誤差を±1/2ドットピッチ(21μm)以下に抑制できる。
【0094】
−その他の実施形態−
上述した実施形態では、カラーインクジェットプリンタ1に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はモノクロタイプのインクジェットプリンタに対しても適用可能である。
【0095】
また、ベースプレート81の構成材料である圧電材料としてはニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウム等も適用可能である。
【0096】
また、本発明は、キャリッジ51が主走査方向に走査しながら画像形成動作を行うシリアルタイプのインクジェットプリンタに限らず、走査動作を行わないラインタイプのインクジェットプリンタへの適用も可能である。
【0097】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、インクジェットヘッドのインク室壁面を構成している圧電体として、電気エネルギを機械エネルギに変換する変化率をインクの吐出速度を一定とするように温度に応じて自己補正できる機能を備えたものとしている。つまり、インク粘度の特性により変位するインク吐出速度と、圧電体の電気機械結合係数の特性により変位するインク吐出速度とが互いに打ち消す方向となるようにしている。このため、圧電体に付与される電気エネルギが一定であっても、圧電体自身の変換効率の自己補正によって、インク吐出速度を一定にすることが可能となり、インクジェットヘッドのインク吐出性能を向上させることができ、高品質の画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態に係るカラーインクジェットプリンタの外観及び内部構成の一部を示す斜視図である。
【図2】カラーインクジェットプリンタの内部構成を示す側面図である。
【図3】インクジェットプリンタの制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】インクジェットヘッドの底面図である。
【図5】インクジェットヘッドの断面図である。
【図6】電気機械結合係数の変化率が正の特性を有する圧電体及び負の特性を有する圧電体それぞれにおける温度と電気機械結合係数との関係を示す図である。
【図7】インク室を構成する隔壁の変形動作を説明するための図である。
【図8】各チャンネルに対する駆動パルス電圧及び電極間の電位差の変化を説明するための図である。
【図9】各インク室のインク滴吐出制御動作を説明するための図である。
【図10】吐出パルス電圧及び共通パルス電圧の印加タイミングを示す図である。
【図11】インク温度とインク粘度との関係およびインク温度とインク滴吐出速度を8m/secに一定にするために印加される電圧との関係をそれぞれ正規化した図である。
【図12】インク滴吐出速度と駆動印加電圧との関係を示す図である。
【図13】インクジェットヘッドをインク吐出方向から見た断面図である。
【図14】従来例において、インク温度に対するインク粘度及び必要印加電圧の関係を示す図である。
【符号の説明】
1 カラーインクジェットプリンタ(インクジェット画像形成装置)
52 インクジェットヘッド
81b 隔壁
84 インク室
P 記録用紙(記録媒体)
Claims (5)
- インク室の少なくとも壁面を構成している圧電体に電気エネルギを付与してこの圧電体を変形させ、これによってインク室内のインクを記録媒体に向けて吐出するインクジェットヘッドにおいて、
上記圧電体は、温度変化に対する電気機械結合係数の変化率が負の特性を有するものであることを特徴とするインクジェットヘッド。 - インク室の少なくとも壁面を構成している圧電体に電気エネルギを付与してこの圧電体を変形させ、これによって連続吐出した複数のインク滴を合体させて記録媒体上のインク滴の1ドットを形成可能とするマルチドロップ方式のインクジェットヘッドにおいて、
上記圧電体は、温度変化に対する電気機械結合係数の変化率が負の特性を有するものであることを特徴とするインクジェットヘッド。 - 請求項1または2記載のインクジェットヘッドにおいて、
圧電体に付与する電気エネルギを制御可能に構成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。 - インク室の少なくとも壁面を構成している圧電体に電気エネルギを付与してこの圧電体を変形させ、これによってインク室内のインクを記録媒体に向けて吐出するインクジェットヘッドにおいて、
インクの温度がTa(℃),Tb(℃)の場合におけるインクの粘度をそれぞれηa、ηb、上記圧電体の静電容量をそれぞれCa,Cb、上記圧電体の電気機械結合係数をそれぞれKa,Kb、および、圧電体を変形させるために付与される印加電圧をそれぞれVa,Vbとした場合、
(Va/Vb)2=α2×(Cb×Kb2×ηa)/(Ca×Ka2×ηb)
ただし、0.93≦α≦1.14
を満足する印加電圧が設定されるよう構成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。 - 上記請求項1〜4のうち何れか一つに記載のインクジェットヘッドを搭載し、このインクジェットヘッドのインク室内からインク滴を記録媒体に向けて吐出することにより、この記録媒体表面に画像形成を行うことを特徴とするインクジェット画像形成装置。
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2002
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