JP2004010966A - 硬質被膜製造方法 - Google Patents

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越智 文夫
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Abstract

【課題】環境に問題があるメッキ法を用いることなく、基材への密着力に優れ、且つ高硬度の被膜を基材表面に成膜する。
【解決手段】スパッタリング装置の炉1内にCrターゲット5とCターゲット6を取り付けるとともに、治具3に基材2を取り付け、治具3ごと基材2を回転させる。真空引き→余熱→基材2のエッチングを実施し、炉1内にAr等のキャリアガスを導入して、Cr、Cターゲット5、6からCr原子、C原子を飛ばし、基材2の表面にCr原子とC原子を同時に被着させ、Crの含有割合が95atom%ほどの被膜(炭素含有硬質Cr被膜4)を基材2の表面に成膜させる。この被膜は、基材2への密着力が非常に強く、且つCr単独の被膜硬度(600HV以下)に比べて高硬度(2000HV以上)であり、従来のメッキ法を用いなくても高品質な被膜を成膜できる。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、基材の表面に硬質で高密着力の被膜を成膜する硬質被膜製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼材等の金属部材(基材の一例)に耐摩耗性や耐焼き付き性を付与する方法として、各種の硬質被膜を基材の表面に成膜する技術がある。基材の表面に硬質被膜を成膜する従来の技術として、硬質クロムメッキ、Ni−Pメッキ等のメッキ法や、TiN、CrN、DLC、WC/C等のコーティング法が一般に用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、近年では、環境問題に対する関心が高まり、環境に有害な六価クロム等を含むメッキ液を使用するメッキ法は問題があることから、コーティング法への注目が高まっている。
一方、コーティング法は、膜種により、付与される特性が大きく変わるものであり、TiNやCrNは基材への密着力、耐摩耗性には優れるが、DLCやWC/Cに比較して摩耗係数が高い。しかし、DLCやWC/Cは摩耗係数、相手攻撃性が低いが、TiNやCrNに比較して基材への密着力が低い。このように、コーティング法による被膜は、短所長所を持つことが知られており、使用環境に合わせての最適な被膜選定が重要となっており、各種研究機関にて新たな硬質被膜の製造技術が研究されている。
【0004】
【発明の目的】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境に問題があるメッキ法を用いることなく、基材への密着力に優れ、且つ高硬度の被膜を基材表面に成膜できる硬質被膜製造方法の提供にある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
〔請求項1、2の手段〕
請求項1、2の発明は、物理蒸着法(PVD法)を用いて50atom%以上のクロム(Cr)に炭素(C)を含有させた被膜を基材の表面に成膜するものであり、この製造方法によって基材の表面に成膜された被膜は、基材に対して強固に密着するとともに、非常に高い硬度を得ることができる。
つまり、この請求項1、2の発明によって、環境に問題があるメッキ法を用いることなく、基材への密着力に優れ、且つ高硬度の被膜を基材表面に成膜できる。
【0006】
〔請求項3の手段〕
請求項3の手段を採用し、物理蒸着法によってターゲットの物質を基材の表面に成膜する工程中に、基材が回転するように設けることにより、基材表面に成膜される被膜中のクロムと炭素の混入ムラを抑えることができる。
【0007】
〔請求項4の手段〕
請求項4の手段を採用し、炭素含有硬質Cr被膜を基材の表面に直接成膜しても良い。
【0008】
〔請求項5の手段〕
請求項5の手段を採用し、基材の表面に1層あるいは複数層の中間層を成膜しておき、その表面に炭素含有硬質Cr被膜を成膜しても良い。つまり、炭素含有硬質Cr被膜と基材の表面の間に、1層あるいは複数層の中間層を介在させても良い。このように中間層を設けることで、基材に対する密着力の向上や、応力緩和等を図ることが可能になる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、実施例および変形例を用いて説明する。
〔実施例〕
この実施例では、既存のスパッタリング装置を用いて基材の表面に炭素含有硬質Cr被膜を成膜する製造方法を説明する。
【0010】
スパッタリング装置は、図1(a)の概略図に示されるものであり、真空引き可能な炉1の略中心部分に基材2が取付可能な治具3が配置されており、その治具3の周囲には2個以上のターゲット(後述する)が取付可能に設けられている。
また、スパッタリング装置は、図1(b)の概略図に示されるように、治具3に取り付けられる基材2にはバイアス電圧が印加可能に設けられており、炉1の内壁に取り付けられるターゲットにはスパッタ電圧が印加可能に設けられている。
【0011】
基材2の表面に炭素含有硬質Cr被膜4を成膜する工程を説明する。
(1)スパッタリング装置の炉1内に1個以上の固体のCrターゲット5と、固体のCターゲット6とを同時に取り付ける。
(2)中心の治具3に基材2を取り付け、治具3ごと0.1rpm以上の速度で回転させる。なお、基材2は以下の工程中に炉1内で溶けない固体(例えば200℃以上の融点を持つ固体)である。
(3)通常のPVD成膜工程である真空引き→余熱(例えば100℃)→基材2の表面エッチングを実施する。なお、エッチングに用いるガスは、通常のPVD成膜工程に用いるArガス等を用いる。
【0012】
(4)基材2の種類等によっては密着力向上や応力緩和を目的に、Cr,Ti,Al,Si,CrN,TiN,AlN等を用いた中間層7を基材2の表面に成膜しても良い。
なお、中間層7は、図2(a)に示されるように成膜しなくても良いし、図2(b)に示されるように中間層7を1層のみとしても良いし、図2(c)に示されるように中間層7を2層以上の複数層としても良い。
【0013】
(5)炉1内に通常のPVD成膜工程に用いるAr等のキャリアガスを導入し、炉1内の圧力を0.1〜100Paとする。代表的な例としては1Pa程度が望ましい。
(6)キャリアガス(図1中、Ar)を用いてターゲット原子(図1中、Cr原子、C原子)を炉1内に飛ばし、基材2の表面にCr原子とC原子を同時に被着させて基材2の表面に炭素含有硬質Cr被膜4を成膜させる。この成膜時には、基材2に1V以上の負のバイアス電圧を印加する(バイアス電圧≦−1V)。
また、基材2に成膜される炭素含有硬質Cr被膜4の組成は、キャリアガス成分を除いてCrの含有割合が50atom%以上のものであり、例えばCrが60〜99atom%、Cが40〜1atom%、より好ましい組成割合はCrが90〜99atom%、Cが10〜1atom%となるようにCrターゲット5およびCターゲット6のスパッタ電圧を制御するものである。
【0014】
以上の(1)〜(6)の工程、あるいは(4)の工程をとばした工程によって、膜のビッカース硬さ2000HV以上で、3μm以上の膜厚であってもロックウェルC硬さ試験機を用いた圧痕試験(荷重1470N)での剥離の発生が無く、さらにスクラッチ試験においても80N以上の密着力を示す結晶質の被膜(炭素含有硬質Cr被膜4)が基材2の表面に成膜される。
【0015】
次に、上記の如く高い硬度の被膜が得られる原理を考察する。
Crターゲット5のみを用いて成膜するCr被膜の場合は、Cr被膜の膜硬さは500〜600HVを示す。これに対し、組成割合が例えばCr95atom%、C5atom%ほどの被膜(炭素含有硬質Cr被膜4)の膜硬さは2000HV以上と飛躍的に膜硬さが向上する。
被膜の膜硬さが硬化する原理としては、バイアス電圧による膜密度の向上硬化も一因として考えられるが、最も大きな因子はCr結晶内へC原子が侵入することによる結晶歪現象が挙げられる。結晶性物質において歪現象が発生すると、硬化に繋がることは一般に知られている。
図3(a)、(b)に、CrだけのCr被膜、Crに少量のCを含有させた炭素含有硬質Cr被膜4のX線回析結果を示す。この2つのグラフから読み取れるように、Cr被膜{図3(a)参照}に対し、炭素含有硬質Cr被膜4{図3(b)参照}の半価幅は5倍程度に拡大している。これは、炭素含有硬質Cr被膜4内の結晶構造に著しい歪現象が発生していることを示すものであり、Cr結晶内にC原子を侵入させたことに起因していると考えられる。
【0016】
次に、基材2に成膜された被膜の密着力について述べる。
上記の製造方法で基材2の表面に成膜される炭素含有硬質Cr被膜4は、上述した高硬度以外に、基材2に対して高密着力であるという特徴を備える。
被膜の密着力は、一般にロックウェルC硬さ試験機を用いた圧痕試験およびスクラッチ試験によって測定される。
基材2としてSUJ2焼入れ焼き戻し材を用い、中間層7を成膜せずに、基材2の表面に炭素含有硬質Cr被膜4(Crが95atom%、Cが5atom%)を直接成膜したサンプルの密着力は、圧痕試験の場合、圧痕を与えるニードルへの荷重(圧痕荷重)が150kgfの場合でも剥離せず、スクラッチ試験でも摩擦力変化荷重80N以上を示すものであり、試験結果からも非常に高密着力を備えることが確認できる。
【0017】
〔実施例の効果〕
以上に示したように、上記製造方法を用いることにより、環境に問題があるメッキ法を用いることなく、基材2への密着力が非常に強く、且つ高硬度の被膜(炭素含有硬質Cr被膜4)を基材2の表面に成膜できる。
また、成膜中に基材2を回転させているため、Crターゲット5およびCターゲット6から飛び出したCr原子およびC原子がムラなく混ざり合った状態で基材2の表面に被着させることができ、炭素含有硬質Cr被膜4の硬度ムラや密着力のムラを無くすことができる。
【0018】
〔変形例〕
上記の実施例では、PVD法の一例としてスパッタリング法を用いて基材2の表面に炭素含有硬質Cr被膜4を成膜した例を示したが、イオンプレーティング法など他のPVD法を用いて基材2の表面に炭素含有硬質Cr被膜4を成膜しても良い。
上記の実施例では、基材2の表面に膜のビッカース硬さが2000HV以上の炭素含有硬質Cr被膜4を成膜した例を示したが、基材2に印加するバイアス電圧、炭素含有硬質Cr被膜4におけるCrとCの組成、中間層7の膜組成等を制御することにより600HV〜2000HVの範囲の被膜を成膜しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】スパッタリング装置の概略図である。
【図2】基材表面に成膜された被膜の要部断面図である。
【図3】Cr被膜および炭素含有硬質Cr被膜のX線回析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
2 基材
4 炭素含有硬質Cr被膜
5 Crターゲット
6 Cターゲット
7 中間層

Claims (5)

  1. 物理蒸着法によってクロムの含有割合が50atom%以上である炭素含有硬質Cr被膜を基材の表面に成膜することを特徴とする硬質被膜製造方法。
  2. 物理蒸着法によってターゲットの物質を基材の表面に成膜する硬質被膜製造方法であって、
    前記ターゲットとして、クロムとカーボンを同時に用いて、クロムの含有割合が50atom%以上である炭素含有硬質Cr被膜を基材の表面に成膜することを特徴とする硬質被膜製造方法。
  3. 請求項2に記載の硬質被膜製造方法において、
    物理蒸着法によってターゲットの物質を基材の表面に成膜する工程中は、前記基材が回転するように設けられたことを特徴とする硬質被膜製造方法。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の硬質被膜製造方法において、
    前記炭素含有硬質Cr被膜は、前記基材の表面に直接成膜されることを特徴とする硬質被膜製造方法。
  5. 請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の硬質被膜製造方法において、
    前記炭素含有硬質Cr被膜は、前記基材の表面との間に、1層あるいは複数層の中間層を介して成膜されることを特徴とする硬質被膜製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN102230160A (zh) * 2011-06-22 2011-11-02 西安理工大学 一种过压脉冲增强磁控溅射镀膜方法

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