JP2004010920A - 真空アーク蒸着装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】磁場発生コイルを傾ける回転機構等を設けることなく、磁気フィルタの磁場特性を調整して設定,制御し、均一な成膜特性の真空アーク蒸着を実現する。
【解決手段】磁気フィルタ18bを形成する各磁場発生コイル14a〜14c,14d′の少なくとも1個(コイル14d′)が、ダクト9の横断面に対して異なる傾きでダクト9を囲んだ複数個の電磁コイル21a〜21cからなり、磁気フィルタ18bの発生磁場の設定,制御に基づき、各電磁コイル21a〜21cを択一的に選択して通電する。
【選択図】 図1
【解決手段】磁気フィルタ18bを形成する各磁場発生コイル14a〜14c,14d′の少なくとも1個(コイル14d′)が、ダクト9の横断面に対して異なる傾きでダクト9を囲んだ複数個の電磁コイル21a〜21cからなり、磁気フィルタ18bの発生磁場の設定,制御に基づき、各電磁コイル21a〜21cを択一的に選択して通電する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車部品、機械部品、工具、金型等の基材の耐摩耗性を向上するための薄膜形成に用いる真空アーク蒸発装置に関し、詳しくは、その磁気フィルタの磁場の発生,制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、真空アーク蒸着は、陰極と陽極の間にアーク放電を生じさせ、陰極材料を蒸発させて基材に蒸着するという簡便な薄膜形成方法であり、生産性に優れるという特徴を持つ。
【0003】
しかし、陰極材料から(放電状態によっては陰極からも)、直径が数μmにもなる大きな固まりの粗大粒子(ドロップレット)が飛出し、このドロップレットが基材に付着して成膜特性が劣下することが知られている。
【0004】
このドロップレットによる成膜特性の劣下を防止するため、近年、電磁コイル等の磁石により磁場を発生し、この磁場によってドロップレットを除去してプラズマ流だけを磁場に沿って基材方向に輸送したり、前記磁場でプラズマを集束させて高密度化することによってドロップレットを溶解することが提案されている。
【0005】
そして、ドロップレットを除去してプラズマ流だけを基材方向に輸送する従来の真空アーク蒸着装置は、本出願人の既出願に係る特開平2001−59165号公報(C23C 14/32)等に記載されているように、ほぼ図8の平面図に示す構造に形成される。
【0006】
この図8の従来装置において、成膜室1を形成する金属製の接地された真空容器2は、図示省略した真空排気装置によって右側の排気口3から排気され、左側のガス導入口4から、場合によっては、アルゴンガス等の不活性ガスや反応性ガスが導入される。
【0007】
また、前記公報においては、成膜室1の円筒形のホルダに基材を複数個取付けた構造が示されているが、図8においては、説明を簡単にするため、成膜室1のほぼ中央に平板状の1個のホルダ5が、その表面を前方に向けて、かつ、回転自在に設けられ、このホルダ5の表面側に基材6が着脱自在に保持される。
【0008】
この基材6はホルダ5を介してバイアス電源7の陰極に接続され、基材6が真空容器2に対して代表的には−0.5kV〜−5.0kVに直流パルスバイアスされる。
【0009】
なお、図中の8はバイアス電源7の陰極を絶縁する真空容器2の後面板2′の絶縁体である。
【0010】
つぎに、真空容器2の前方にほぼ「ノ」の字状に湾曲した断面矩形の金属製のダクト9が設けられ、このダクト9は、前側一端の接地された端板9′の中央部に絶縁体10を介して蒸発源11が設けられ、この蒸発源11に陽極接地の数10V程度のアーク電源12の陰極が接続され、ダクト9が陽極、蒸発源11が陰極を形成する。
【0011】
なお、ダクト9を陽極に兼用する代わりに、ダクト9と別個に陽極電極が設けられることもある。
【0012】
また、蒸発源11は、図示省略した水冷機構、真空シール機構、トリガ機構等も備える。
【0013】
さらに、ダクト9の他端が真空容器2の前面板2″の中央部に取付けられ、ダクト9の他端の放出口13が成膜室1に連通し、このとき、放出口13の左右方向(水平方向)の放出面の中心がホルダ5、基材6の中心に重なる。
【0014】
つぎに、ダクト9の両端間の複数個所それぞれに、ダクト9を囲んだ磁場発生コイル14a〜14dが設けられる。
【0015】
このとき、ダクト9の一端側から順の#1,#2,#3の磁場発生コイル14a〜14cは、それぞれダクト9の横断面に平行に設けられる。
【0016】
また、放出口13に最も近い#4の終端磁石としての電磁コイル14dは、ダクト9の横断面に平行に設けられて放出口13の放出面に平行である。
【0017】
そして、各磁場発生コイル14a〜14dは電流源としてのコイル電源15の出力両端間に直列接続され、制御装置16のコイル電流の制御により、各コイル14a〜14dの通電が制御され、この制御に基づく各コイル14a〜14dの通電により、図中の実線矢印のループに示すダクト9に沿って湾曲した偏向磁場17aが形成され、この磁場17aが磁気フィルタ18aを形成する。
【0018】
そして、陽極であるダクト9と陰極である蒸発源11との間の真空アーク放電により、蒸発源11のTi,Cr,Mo,Ta,W,Al,Cuのような単体金属、TiAlのような合金或いはC等の導電体の陰極材料19が蒸発する。
【0019】
さらに、アーク放電によって生成された電子及び陰極材料19のイオンを含んだ破線矢印のプラズマ流20aが偏向磁場17aに沿ってダクト9の一端から他端の放出口13に輸送される。
【0020】
このとき、蒸発源11から飛出したドロップレットは、電気的に中性であるか、又は、プラズマ中で負に帯電したりするが、いずれにしても質量が非常に大きいため、偏向磁場17に関係なく直進し、ダクト9の内壁に衝突して除去される。
【0021】
そして、放出口13に到達した陰極材料19のイオンは、バイアス電源7による基材6の大きな負電位のバイアスに基づき、成膜室1に引出されて基材6の表面に飛着し、基材6の表面に陰極材料19の蒸着膜が成膜される。
【0022】
なお、陰極材料19のイオンの引出しに連動してガス導入口4から成膜室1内に反応性ガスを導入すると、このガスが陰極材料19のイオンと反応し、基材6の表面に、例えば炭化チタンや窒化チタン,アルミナ,二酸化チタン等の金属化合物薄膜が蒸着される。
また、反応性ガスを導入しない場合、カーボン膜等が蒸着される。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
前記図8の従来装置の真空アーク蒸着においては、各磁場発生コイル14a〜14dが、それぞれダクト9の横断面に平行に設けられ、磁気フィルタ18aの発生磁場特性が、それらの設置状態等で定まる所定特性に固定される。
【0024】
一方、一様な磁場中で電子が輸送される状態を考えると、よく知られるように、電荷qの電子はつぎの数1の式のローレンツ力Fを受ける。
【0025】
【数1】
F=q・(v×B),(v:電子の磁場に対し垂直な方向の速度、B:磁場、×:ベクトル積(外積)演算子、・:内積演算子)
【0026】
そして、このローレンツ力Fにより、電子が螺旋状に回転しながら偏向磁場17aの磁力線に沿って進み、陰極材料19のイオンは、この電子に引張られるようにダクト9内を進んで放出口13に輸送される。
【0027】
このとき、終端磁石の電磁コイル14dの付近では図9の(a),(b)の実線矢印の磁力線に示すように発散磁場になり、放出口13に到達した電子やイオンはこの発散磁場に沿って飛行する。
【0028】
なお、図9の(a),(b)は図8の4個の磁場発生コイル14a〜14dのうちの1つおきの#2,#4の2個のコイル14b,14dのみ通電した場合の磁力線を示す平面図,右側面図である。
【0029】
この磁力線に沿う電子の飛行軌跡は、電子に引っ張られて移動する陰極材料19のイオンの飛行軌跡に相当し、電子の飛行軌跡から陰極材料19のイオンの軌跡を把握できる。
【0030】
そして、図9の(a),(b)の磁力線に基づく電子の飛行軌跡は、図10の(a),(b)の平面図,右側面図の実線に示すようになる。
【0031】
すなわち、前記の発散磁場により、電子の基材到達位置は、湾曲の向きに応じて、基材6の中心から左右方向に偏向し、上下方向(垂直方向)に発散する。
【0032】
また、磁場17aのような真空湾曲磁場中の電子には、図11の平面図に示すように、いわゆる外向きの遠心力Fcfと内向きの磁場傾斜(勾配)∇Bが電子やイオンに作用し、つぎの数2のベクトル演算式に示すドリフトが生じる。
【0033】
【数2】
v(R)+v(∇B)=(m/q)・(Rc×B)/(Rc2・B2)・(v(‖)+v(⊥)2/2),(v(R):Fcfの速度ドリフト、v(∇B):(∇B)の速度ドリフト、m:質量、v(‖):ダクト9のB方向(延長方向)の速度,v(⊥):法線方向の速度、Rc:図12の×印の位置での曲率半径)
【0034】
なお、数2の式中の外積Rc×Bは、RcをBに重ねるように回転したときに右ねじが進む方向のベクトルである。
【0035】
そして、プラズマ20a中のイオンが電子に引張られて飛行する傾向にあることから、前記のドリフトの効果により、イオンの蒸着位置が所期位置から一層ずれる。
【0036】
なお、ダクト9及び電磁コイル14a〜14dが断面矩形の場合、矩形のコイル14a〜14dの磁場特性に基づき、中心部よりも外寄りになる程、磁場の傾斜∇Bが大きくなるため、斜め下方向のドリフト速度が大きくなって下方向の発散が大きくなる。
【0037】
そのため、磁気フィルタ18aによってドロップレットを除去する従来のこの種の真空アーク蒸着装置にあっては、基材6の所望位置に陰極材料19の薄膜を蒸着して所期の膜厚に成膜することが困難であり、均一な成膜特性等の所望の成膜特性を得るには十分とはいえない。
そして、蒸発源11の個数等によらず、同様の問題が生じる。
【0038】
そこで、磁場発生コイル14a〜14dの設置角度(傾き)を調整して、磁気フィルタ18aの発生磁場を設定,制御し、電子やイオンの軌道(プラズマ軌道)を修正して成膜特性を向上することが考えられるが、このとき、磁場発生コイル14a〜14dの設置角度(傾き)等を、実際にコイル14a〜14dを動かして調整しようとすると、コイル14a〜14dを動かす複雑かつ高価な3次元の回転機構が必要になり、磁気フィルタ18aの発生磁場特性を簡素かつ安価に調整して設定・制御することができない問題点がある。
【0039】
本発明は、この種の真空アーク蒸着装置の磁気フィルタの発生磁場特性を、実際に磁場発生コイルを動かすことなく、簡素かつ安価に調整して設定,制御できるようにし、成膜特性の向上等を図ることを課題とする。
【0040】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するために、本発明の真空アーク蒸着装置は、請求項1の場合、各磁場発生コイルの少なくとも1個が、ダクトの横断面に対して異なる傾きでダクトを囲んだ複数個の電磁コイルからなり、磁気フィルタの発生磁場の設定,制御に基づき、各電磁コイルを択一的に選択して通電する。
【0041】
したがって、磁気フィルタを形成する各磁場発生コイルのうちの1個又は複数個が、ダクトの横断面に対して異なる設置角度でダクトを囲んだ複数の電磁コイルからなり、これらの電磁コイルのいずれかを択一的に選択して通電することにより、各磁場発生コイルの磁場特性がそれぞれの通電電磁コイルの磁場特性になり、各磁場発生コイルを実際に動かして傾けたりすることなく、磁気フィルタの特性を調整して設定,制御することができる。
【0042】
そのため、磁場発生コイルを動かす複雑,高価な回転機構が不要であり、簡素かつ安価な構成で、磁気フィルタの発生磁場を調整して設定,制御し、基材に均一な蒸着薄膜を成膜するようにして成膜特性の向上を図ることができる。
【0043】
そして、ダクトを囲んだ複数個の電磁コイルが、ダクトの横断面に直交する2平面のいずれか一方の面内で異なる角度回転した状態に設けられることが実用的である。
【0044】
その際、ダクトを囲んだ各電磁コイルのコイルサイズは、異なっていてもよく、同一又はほぼ同一であってもよい。
【0045】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態につき、図1〜図7を参照して説明する。
(1形態)
まず、本発明の実施の1形態につき、図1〜図6を参照して説明する。
図1は図8に対応する真空アーク蒸着装置の平面図であり、図8と同一記号は同一もしくは相当するものを示す。
そして、図1においては、図8の終端磁石としての磁場発生コイル14dの位置に、3個の電磁コイル21a,21b,21cからなる磁場発生コイル14d′が設けられる。
【0046】
この磁場発生コイル14d′の電磁コイル21a〜21cは、例えば図2の斜視図に示すように、コイルサイズ(径)が異なる矩形枠状の1又は複数ターンのコイルからなり、図2では、電磁コイル21a,21b,21cの順にコイルサイズが大,中,小に異なり、コイル21aの内側にコイル21bが嵌り、コイル21bの内側にコイル21cが嵌る。
【0047】
また、図1の各1点鎖線イ,ロ,ハ,ニが磁場発生コイル14a〜14c,14d′の位置でのダクト9の横断面の方向であり、この方向をR軸方向とすると、各横断面に直交する2平面は、R軸を含む水平面と、上下方向のZ軸を含む垂直面である。
【0048】
そして、図2の左右方向の1点鎖線がR軸,上下方向の1点鎖線がZ軸であり、各電磁コイル21a〜21cは、Z軸を回転軸として水平面内で異なる角度回転した状態に設けられ、異なる傾きでダクト9を囲む。
【0049】
なお、図2においては、電磁コイル21bが横断面に平行(傾き0)に設けられ、電磁コイル21a,21cは、電磁コイル21bを水平面内でそれぞれの設定角度回転した状態に設けられている。
【0050】
そして、これらの電磁コイル21a〜21cは手作業又はシーケンス制御(移動切換え)により、予め又は成膜中に、択一的に選択されてコイル電源15の給電ループに接続され、選択的に通電される。
【0051】
この場合、磁場発生コイル14a〜14c,14d′の偏向磁場17bが形成する図1の磁気フィルタ18bは、磁場発生コイル14d′の電磁コイル21a〜21cの択一的な選択通電により、図8の従来装置の磁場発生コイル14dを回転機構によって実際に水平面内で回転して動かした場合と同様に、磁場特性が調整されて設定,制御される。
【0052】
そして、磁気フィルタ18bにより、図8のプラズマ電流20aに相当するプラズマ流20bが生成される。
【0053】
このとき、図3の(a),(b)の電子軌跡の平面図,右側面図に示すように、ダクト9を通って基材6の表面に到達する電子の軌跡は、電子の基材到達位置の中心がほぼ基材6表面の中心に一致するように補正される。
【0054】
なお、図3の(a),(b)は磁場発生コイル14d′の設置角度による効果を示すため、図11の(a),(b)と同様、実線の1つおきの2個の電磁コイル14b,14d′にのみ通電し、左右方向の磁場の発散を収束補正した場合の電子軌跡を示したものである。
【0055】
したがって、複雑かつ高価な回転機構等を設けることなく、簡素かつ安価な構成で容易に磁気フィルタ18bの特性を設定,制御して成膜特性の向上等を図ることができる。
【0056】
そして、図2のようにコイルサイズが異なる電磁コイル21a〜21cを組合せて形成した場合は、大きいコイルの内側に小さいコイルを嵌込んで容易に形成できる利点もある。
【0057】
ところで、電磁コイル21a〜21cは、コイルサイズが同一又はほぼ等しい複数個の電磁コイルによって形成してもよい。
【0058】
そして、電磁コイル14d′を同一コイルサイズの複数の電磁コイルによって形成する場合は、図4の斜視図に示すように、図2のコイルサイズが異なる電磁コイル21a〜21cの代わりに、同一コイルサイズの電磁コイル22a,22b,22cが用いられる。
【0059】
これらの電磁コイル22c〜22cは、上部及び下部の交差部分A,Bにおいて、コイル22cの上にコイル22bが位置し、コイル22bの上にコイル22aが位置し、下部交差部分Bにおいても、コイル21cの上にコイル21bが位置するように、コイル単位で交差するように組合わされる。
【0060】
また、磁場発生コイル14d′を、ほぼ同一コイルサイズの複数の電磁コイルによって形成する場合は、図5の斜視図に示すように、図2の電磁コイル21a〜21cの代わりに、一体形成の電磁コイル23a,23b,23cが用いられる。
【0061】
この場合、電磁コイル23a〜23cは、図5の一部分を拡大した図6に示すように、コイル23aの巻線ta,コイル23bの巻線tb,コイル23cの巻線tcを、1ターンずつ順に巻回することをくり返し、いわゆる編み込みにより一体に形成され、それらのコイルサイズがほぼ同一になる。
【0062】
そして、磁場発生コイル14d′が同一又はほぼ同一のコイルサイズの電磁コイル22a〜22c,23a〜23cで形成される場合、電磁コイル22a〜22c,23a〜23cによる発生磁場の差がなく、磁場特性の設定,制御が容易になる。
【0063】
つぎに、前記形態では、電子やイオンの主に左右方向の発散を抑えるように、磁場発生コイル14d′の各電磁コイル21a〜21c,22a〜22c,23a〜23cを、Z軸を回転軸として水平面内で異なる傾きに設けたが、電子やイオンの主に上下方向の発散を抑えるときは、磁場発生コイル14d′を、R軸を回転軸として垂直面内で異なる角度回転した状態に設けた複数個の電磁コイルにより形成すればよい。
【0064】
(他の形態)
つぎに、本発明の実施の他の形態につき、図7を参照して説明する。
図7は図1と同様の平面図であり、図1と同一符号は同一もしくは相当するものを示す。
そして、図7の場合は、図1の磁場発生コイル14d′に代えて電磁コイル24a〜24cからなる#4の磁場発生コイル14d″を設けるとともに、図1の磁場発生コイル14bに代えて電磁コイル25a〜25cからなる#2の磁場発生コイル14b′を設ける。
【0065】
このとき、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cは、電子やイオンの左右方向の発散を精度よく抑えるため、電磁コイル21a〜21c,22a〜22c,23a〜23cと同様、Z軸を回転軸として水平面内で異なる角度回転した状態に設けられてもよく、電子やイオンの上下方向の発散を精度よく抑えるため、R軸を回転軸として、垂直面内で異なる角度回転した状態に設けられてもよい。
【0066】
さらには、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cの一方を水平面内で傾けて設け、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cの他方を垂直面内で傾けて設け、電子やイオンの左右方向及び上下方向の両方の発散を抑えるようにしてもよい。
【0067】
なお、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cも、例えば、コイルサイズが異なる図2の構成又はコイルサイズが同一又はほぼ同一の図4,図5の構成であってよいのは勿論である。
【0068】
そして、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cそれぞれから択一的に選択された電磁コイルがコイル電源15の給電ループに接続されて偏向磁場17cの磁気フィルタ18cが形成され、図1のプラズマ流20bに相当するプラズマ流20cが生成され、極めて良好な成膜特性で基材6の表面に薄膜が形成される。
【0069】
ところで、ダクト,磁気フィルタ等の形状や構造及び磁場発生コイルの個数や設置個所等が前記両形態と異なっていてもよいのは勿論である。
【0070】
また、磁気フィルタを形成する磁場発生コイルの1又は複数個(全部を含む)を、電磁コイル21a〜21c,・・・,25a〜25cと同様の複数個の電磁コイルで形成してよいのは勿論であり、その際、それぞれの電磁コイルの個数は2個以上であればよく、傾ける方向が磁場発生コイルによって異なっていてもよい。
【0071】
さらに、磁場発生コイルの各電磁コイルの形状及び巻き方等も前記両形態のものに限られるものではない。
【0072】
つぎに、各磁場発生コイルのコイルサイズは同一でなくてもよく、例えば図1において、終端の#4の磁場発生コイル14d′の電磁コイル21a〜21cを他の磁場発生コイル14a〜14cより大きくし、磁場発生コイル14d′を他の磁場発生コイル14a〜14cより大径にして電子やイオンの発散の抑制効果を一層向上するようにしてもよい。
【0073】
そして、本発明は磁気フィルタを有する種々の真空アーク蒸着装置に適用することができる。
【0074】
【発明の効果】
本発明は、以下に記載する効果を奏する。
まず、請求項1の場合、磁気フィルタ18b,18cを形成する各磁場発生コイル14a,14b,14c,14d′,14a,14b′,14c,14d″の少なくとも1個を、ダクト9の横断面に対して異なる傾きでダクト9を囲んだ複数個の電磁コイル21a〜21c,…,25a〜25cにより形成し、磁気フィルタ9の発生磁場の設定,制御に基づき、電磁コイル21a〜21c,…,25a〜25cのうちの1個を択一的に選択して通電するようにしたため、磁場発生コイルを実際に動かすことなく、磁気フィルタ18b,18cの磁場特性を所望特性に調整することができ、磁場発生コイルを動かす複雑かつ高価な回転機構等を設けることなく、簡素かつ安価な構成で磁気フィルタ18b,18cの発生磁場を調整して設定,制御し、基材6に均一な蒸着薄膜とを成膜して、成膜特性を向上することができる。
【0075】
つぎに、請求項2の場合、ダクト9を囲んだ各電磁コイル21a〜21c,22a〜22c,23a〜23c,24a〜24c,25a〜25cがダクト9の横断面の直交する2平面のいずれか一方の面内で異なる角度回転した状態に設けられたため、実用的な構成で請求項1の真空アーク蒸着装置を実現することができる。
【0076】
そして、請求項1又は請求項2において、各電磁コイル21a〜21c,…,25a〜25cのコイルサイズが異なるときは、磁場発生コイル14b′,14d′,14d″を容易に形成することができ、コイルサイズが同一又はほぼ同一であれば、電磁コイル21a〜21cによる磁場の大きさ等の差がなく、磁場特性の設定,制御等が容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の1形態の真空アーク蒸着装置の平面図である。
【図2】図1の終端磁石としての磁場発生コイルの1例の斜視図である。
【図3】(a),(b)は図1の電子軌跡説明図の平面図,右側面図である。
【図4】図1の終端磁石としての磁場発生コイルの他の例の斜視図である。
【図5】図1の終端磁石としての磁場発生コイルのさらに他の例の斜視図である。
【図6】図5の各電磁コイルの巻き方の説明図である。
【図7】本発明の実施の他の形態の真空アーク蒸着装置の平面図である。
【図8】従来装置の平面図である。
【図9】(a),(b)は図8の従来装置の発散磁場説明図の平面図,右側面図である。
【図10】図8の従来装置の電子軌跡説明図の平面図,右側面図である。
【図11】図8の従来装置のドリフト説明図である。
【符号の説明】
1 成膜室
6 基材
9 ダクト
11 蒸発源
13 放出口
14a〜14d,14b′,14d′,14d″ 磁場発生コイル
17a〜17c 偏向磁場
18a〜18c 磁気フィルタ
19 陰極材料
20a〜20c プラズマ流
21a〜21c,22a〜22c,23a〜23c,24a〜24c,25a〜25c 電磁コイル
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車部品、機械部品、工具、金型等の基材の耐摩耗性を向上するための薄膜形成に用いる真空アーク蒸発装置に関し、詳しくは、その磁気フィルタの磁場の発生,制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、真空アーク蒸着は、陰極と陽極の間にアーク放電を生じさせ、陰極材料を蒸発させて基材に蒸着するという簡便な薄膜形成方法であり、生産性に優れるという特徴を持つ。
【0003】
しかし、陰極材料から(放電状態によっては陰極からも)、直径が数μmにもなる大きな固まりの粗大粒子(ドロップレット)が飛出し、このドロップレットが基材に付着して成膜特性が劣下することが知られている。
【0004】
このドロップレットによる成膜特性の劣下を防止するため、近年、電磁コイル等の磁石により磁場を発生し、この磁場によってドロップレットを除去してプラズマ流だけを磁場に沿って基材方向に輸送したり、前記磁場でプラズマを集束させて高密度化することによってドロップレットを溶解することが提案されている。
【0005】
そして、ドロップレットを除去してプラズマ流だけを基材方向に輸送する従来の真空アーク蒸着装置は、本出願人の既出願に係る特開平2001−59165号公報(C23C 14/32)等に記載されているように、ほぼ図8の平面図に示す構造に形成される。
【0006】
この図8の従来装置において、成膜室1を形成する金属製の接地された真空容器2は、図示省略した真空排気装置によって右側の排気口3から排気され、左側のガス導入口4から、場合によっては、アルゴンガス等の不活性ガスや反応性ガスが導入される。
【0007】
また、前記公報においては、成膜室1の円筒形のホルダに基材を複数個取付けた構造が示されているが、図8においては、説明を簡単にするため、成膜室1のほぼ中央に平板状の1個のホルダ5が、その表面を前方に向けて、かつ、回転自在に設けられ、このホルダ5の表面側に基材6が着脱自在に保持される。
【0008】
この基材6はホルダ5を介してバイアス電源7の陰極に接続され、基材6が真空容器2に対して代表的には−0.5kV〜−5.0kVに直流パルスバイアスされる。
【0009】
なお、図中の8はバイアス電源7の陰極を絶縁する真空容器2の後面板2′の絶縁体である。
【0010】
つぎに、真空容器2の前方にほぼ「ノ」の字状に湾曲した断面矩形の金属製のダクト9が設けられ、このダクト9は、前側一端の接地された端板9′の中央部に絶縁体10を介して蒸発源11が設けられ、この蒸発源11に陽極接地の数10V程度のアーク電源12の陰極が接続され、ダクト9が陽極、蒸発源11が陰極を形成する。
【0011】
なお、ダクト9を陽極に兼用する代わりに、ダクト9と別個に陽極電極が設けられることもある。
【0012】
また、蒸発源11は、図示省略した水冷機構、真空シール機構、トリガ機構等も備える。
【0013】
さらに、ダクト9の他端が真空容器2の前面板2″の中央部に取付けられ、ダクト9の他端の放出口13が成膜室1に連通し、このとき、放出口13の左右方向(水平方向)の放出面の中心がホルダ5、基材6の中心に重なる。
【0014】
つぎに、ダクト9の両端間の複数個所それぞれに、ダクト9を囲んだ磁場発生コイル14a〜14dが設けられる。
【0015】
このとき、ダクト9の一端側から順の#1,#2,#3の磁場発生コイル14a〜14cは、それぞれダクト9の横断面に平行に設けられる。
【0016】
また、放出口13に最も近い#4の終端磁石としての電磁コイル14dは、ダクト9の横断面に平行に設けられて放出口13の放出面に平行である。
【0017】
そして、各磁場発生コイル14a〜14dは電流源としてのコイル電源15の出力両端間に直列接続され、制御装置16のコイル電流の制御により、各コイル14a〜14dの通電が制御され、この制御に基づく各コイル14a〜14dの通電により、図中の実線矢印のループに示すダクト9に沿って湾曲した偏向磁場17aが形成され、この磁場17aが磁気フィルタ18aを形成する。
【0018】
そして、陽極であるダクト9と陰極である蒸発源11との間の真空アーク放電により、蒸発源11のTi,Cr,Mo,Ta,W,Al,Cuのような単体金属、TiAlのような合金或いはC等の導電体の陰極材料19が蒸発する。
【0019】
さらに、アーク放電によって生成された電子及び陰極材料19のイオンを含んだ破線矢印のプラズマ流20aが偏向磁場17aに沿ってダクト9の一端から他端の放出口13に輸送される。
【0020】
このとき、蒸発源11から飛出したドロップレットは、電気的に中性であるか、又は、プラズマ中で負に帯電したりするが、いずれにしても質量が非常に大きいため、偏向磁場17に関係なく直進し、ダクト9の内壁に衝突して除去される。
【0021】
そして、放出口13に到達した陰極材料19のイオンは、バイアス電源7による基材6の大きな負電位のバイアスに基づき、成膜室1に引出されて基材6の表面に飛着し、基材6の表面に陰極材料19の蒸着膜が成膜される。
【0022】
なお、陰極材料19のイオンの引出しに連動してガス導入口4から成膜室1内に反応性ガスを導入すると、このガスが陰極材料19のイオンと反応し、基材6の表面に、例えば炭化チタンや窒化チタン,アルミナ,二酸化チタン等の金属化合物薄膜が蒸着される。
また、反応性ガスを導入しない場合、カーボン膜等が蒸着される。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
前記図8の従来装置の真空アーク蒸着においては、各磁場発生コイル14a〜14dが、それぞれダクト9の横断面に平行に設けられ、磁気フィルタ18aの発生磁場特性が、それらの設置状態等で定まる所定特性に固定される。
【0024】
一方、一様な磁場中で電子が輸送される状態を考えると、よく知られるように、電荷qの電子はつぎの数1の式のローレンツ力Fを受ける。
【0025】
【数1】
F=q・(v×B),(v:電子の磁場に対し垂直な方向の速度、B:磁場、×:ベクトル積(外積)演算子、・:内積演算子)
【0026】
そして、このローレンツ力Fにより、電子が螺旋状に回転しながら偏向磁場17aの磁力線に沿って進み、陰極材料19のイオンは、この電子に引張られるようにダクト9内を進んで放出口13に輸送される。
【0027】
このとき、終端磁石の電磁コイル14dの付近では図9の(a),(b)の実線矢印の磁力線に示すように発散磁場になり、放出口13に到達した電子やイオンはこの発散磁場に沿って飛行する。
【0028】
なお、図9の(a),(b)は図8の4個の磁場発生コイル14a〜14dのうちの1つおきの#2,#4の2個のコイル14b,14dのみ通電した場合の磁力線を示す平面図,右側面図である。
【0029】
この磁力線に沿う電子の飛行軌跡は、電子に引っ張られて移動する陰極材料19のイオンの飛行軌跡に相当し、電子の飛行軌跡から陰極材料19のイオンの軌跡を把握できる。
【0030】
そして、図9の(a),(b)の磁力線に基づく電子の飛行軌跡は、図10の(a),(b)の平面図,右側面図の実線に示すようになる。
【0031】
すなわち、前記の発散磁場により、電子の基材到達位置は、湾曲の向きに応じて、基材6の中心から左右方向に偏向し、上下方向(垂直方向)に発散する。
【0032】
また、磁場17aのような真空湾曲磁場中の電子には、図11の平面図に示すように、いわゆる外向きの遠心力Fcfと内向きの磁場傾斜(勾配)∇Bが電子やイオンに作用し、つぎの数2のベクトル演算式に示すドリフトが生じる。
【0033】
【数2】
v(R)+v(∇B)=(m/q)・(Rc×B)/(Rc2・B2)・(v(‖)+v(⊥)2/2),(v(R):Fcfの速度ドリフト、v(∇B):(∇B)の速度ドリフト、m:質量、v(‖):ダクト9のB方向(延長方向)の速度,v(⊥):法線方向の速度、Rc:図12の×印の位置での曲率半径)
【0034】
なお、数2の式中の外積Rc×Bは、RcをBに重ねるように回転したときに右ねじが進む方向のベクトルである。
【0035】
そして、プラズマ20a中のイオンが電子に引張られて飛行する傾向にあることから、前記のドリフトの効果により、イオンの蒸着位置が所期位置から一層ずれる。
【0036】
なお、ダクト9及び電磁コイル14a〜14dが断面矩形の場合、矩形のコイル14a〜14dの磁場特性に基づき、中心部よりも外寄りになる程、磁場の傾斜∇Bが大きくなるため、斜め下方向のドリフト速度が大きくなって下方向の発散が大きくなる。
【0037】
そのため、磁気フィルタ18aによってドロップレットを除去する従来のこの種の真空アーク蒸着装置にあっては、基材6の所望位置に陰極材料19の薄膜を蒸着して所期の膜厚に成膜することが困難であり、均一な成膜特性等の所望の成膜特性を得るには十分とはいえない。
そして、蒸発源11の個数等によらず、同様の問題が生じる。
【0038】
そこで、磁場発生コイル14a〜14dの設置角度(傾き)を調整して、磁気フィルタ18aの発生磁場を設定,制御し、電子やイオンの軌道(プラズマ軌道)を修正して成膜特性を向上することが考えられるが、このとき、磁場発生コイル14a〜14dの設置角度(傾き)等を、実際にコイル14a〜14dを動かして調整しようとすると、コイル14a〜14dを動かす複雑かつ高価な3次元の回転機構が必要になり、磁気フィルタ18aの発生磁場特性を簡素かつ安価に調整して設定・制御することができない問題点がある。
【0039】
本発明は、この種の真空アーク蒸着装置の磁気フィルタの発生磁場特性を、実際に磁場発生コイルを動かすことなく、簡素かつ安価に調整して設定,制御できるようにし、成膜特性の向上等を図ることを課題とする。
【0040】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するために、本発明の真空アーク蒸着装置は、請求項1の場合、各磁場発生コイルの少なくとも1個が、ダクトの横断面に対して異なる傾きでダクトを囲んだ複数個の電磁コイルからなり、磁気フィルタの発生磁場の設定,制御に基づき、各電磁コイルを択一的に選択して通電する。
【0041】
したがって、磁気フィルタを形成する各磁場発生コイルのうちの1個又は複数個が、ダクトの横断面に対して異なる設置角度でダクトを囲んだ複数の電磁コイルからなり、これらの電磁コイルのいずれかを択一的に選択して通電することにより、各磁場発生コイルの磁場特性がそれぞれの通電電磁コイルの磁場特性になり、各磁場発生コイルを実際に動かして傾けたりすることなく、磁気フィルタの特性を調整して設定,制御することができる。
【0042】
そのため、磁場発生コイルを動かす複雑,高価な回転機構が不要であり、簡素かつ安価な構成で、磁気フィルタの発生磁場を調整して設定,制御し、基材に均一な蒸着薄膜を成膜するようにして成膜特性の向上を図ることができる。
【0043】
そして、ダクトを囲んだ複数個の電磁コイルが、ダクトの横断面に直交する2平面のいずれか一方の面内で異なる角度回転した状態に設けられることが実用的である。
【0044】
その際、ダクトを囲んだ各電磁コイルのコイルサイズは、異なっていてもよく、同一又はほぼ同一であってもよい。
【0045】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態につき、図1〜図7を参照して説明する。
(1形態)
まず、本発明の実施の1形態につき、図1〜図6を参照して説明する。
図1は図8に対応する真空アーク蒸着装置の平面図であり、図8と同一記号は同一もしくは相当するものを示す。
そして、図1においては、図8の終端磁石としての磁場発生コイル14dの位置に、3個の電磁コイル21a,21b,21cからなる磁場発生コイル14d′が設けられる。
【0046】
この磁場発生コイル14d′の電磁コイル21a〜21cは、例えば図2の斜視図に示すように、コイルサイズ(径)が異なる矩形枠状の1又は複数ターンのコイルからなり、図2では、電磁コイル21a,21b,21cの順にコイルサイズが大,中,小に異なり、コイル21aの内側にコイル21bが嵌り、コイル21bの内側にコイル21cが嵌る。
【0047】
また、図1の各1点鎖線イ,ロ,ハ,ニが磁場発生コイル14a〜14c,14d′の位置でのダクト9の横断面の方向であり、この方向をR軸方向とすると、各横断面に直交する2平面は、R軸を含む水平面と、上下方向のZ軸を含む垂直面である。
【0048】
そして、図2の左右方向の1点鎖線がR軸,上下方向の1点鎖線がZ軸であり、各電磁コイル21a〜21cは、Z軸を回転軸として水平面内で異なる角度回転した状態に設けられ、異なる傾きでダクト9を囲む。
【0049】
なお、図2においては、電磁コイル21bが横断面に平行(傾き0)に設けられ、電磁コイル21a,21cは、電磁コイル21bを水平面内でそれぞれの設定角度回転した状態に設けられている。
【0050】
そして、これらの電磁コイル21a〜21cは手作業又はシーケンス制御(移動切換え)により、予め又は成膜中に、択一的に選択されてコイル電源15の給電ループに接続され、選択的に通電される。
【0051】
この場合、磁場発生コイル14a〜14c,14d′の偏向磁場17bが形成する図1の磁気フィルタ18bは、磁場発生コイル14d′の電磁コイル21a〜21cの択一的な選択通電により、図8の従来装置の磁場発生コイル14dを回転機構によって実際に水平面内で回転して動かした場合と同様に、磁場特性が調整されて設定,制御される。
【0052】
そして、磁気フィルタ18bにより、図8のプラズマ電流20aに相当するプラズマ流20bが生成される。
【0053】
このとき、図3の(a),(b)の電子軌跡の平面図,右側面図に示すように、ダクト9を通って基材6の表面に到達する電子の軌跡は、電子の基材到達位置の中心がほぼ基材6表面の中心に一致するように補正される。
【0054】
なお、図3の(a),(b)は磁場発生コイル14d′の設置角度による効果を示すため、図11の(a),(b)と同様、実線の1つおきの2個の電磁コイル14b,14d′にのみ通電し、左右方向の磁場の発散を収束補正した場合の電子軌跡を示したものである。
【0055】
したがって、複雑かつ高価な回転機構等を設けることなく、簡素かつ安価な構成で容易に磁気フィルタ18bの特性を設定,制御して成膜特性の向上等を図ることができる。
【0056】
そして、図2のようにコイルサイズが異なる電磁コイル21a〜21cを組合せて形成した場合は、大きいコイルの内側に小さいコイルを嵌込んで容易に形成できる利点もある。
【0057】
ところで、電磁コイル21a〜21cは、コイルサイズが同一又はほぼ等しい複数個の電磁コイルによって形成してもよい。
【0058】
そして、電磁コイル14d′を同一コイルサイズの複数の電磁コイルによって形成する場合は、図4の斜視図に示すように、図2のコイルサイズが異なる電磁コイル21a〜21cの代わりに、同一コイルサイズの電磁コイル22a,22b,22cが用いられる。
【0059】
これらの電磁コイル22c〜22cは、上部及び下部の交差部分A,Bにおいて、コイル22cの上にコイル22bが位置し、コイル22bの上にコイル22aが位置し、下部交差部分Bにおいても、コイル21cの上にコイル21bが位置するように、コイル単位で交差するように組合わされる。
【0060】
また、磁場発生コイル14d′を、ほぼ同一コイルサイズの複数の電磁コイルによって形成する場合は、図5の斜視図に示すように、図2の電磁コイル21a〜21cの代わりに、一体形成の電磁コイル23a,23b,23cが用いられる。
【0061】
この場合、電磁コイル23a〜23cは、図5の一部分を拡大した図6に示すように、コイル23aの巻線ta,コイル23bの巻線tb,コイル23cの巻線tcを、1ターンずつ順に巻回することをくり返し、いわゆる編み込みにより一体に形成され、それらのコイルサイズがほぼ同一になる。
【0062】
そして、磁場発生コイル14d′が同一又はほぼ同一のコイルサイズの電磁コイル22a〜22c,23a〜23cで形成される場合、電磁コイル22a〜22c,23a〜23cによる発生磁場の差がなく、磁場特性の設定,制御が容易になる。
【0063】
つぎに、前記形態では、電子やイオンの主に左右方向の発散を抑えるように、磁場発生コイル14d′の各電磁コイル21a〜21c,22a〜22c,23a〜23cを、Z軸を回転軸として水平面内で異なる傾きに設けたが、電子やイオンの主に上下方向の発散を抑えるときは、磁場発生コイル14d′を、R軸を回転軸として垂直面内で異なる角度回転した状態に設けた複数個の電磁コイルにより形成すればよい。
【0064】
(他の形態)
つぎに、本発明の実施の他の形態につき、図7を参照して説明する。
図7は図1と同様の平面図であり、図1と同一符号は同一もしくは相当するものを示す。
そして、図7の場合は、図1の磁場発生コイル14d′に代えて電磁コイル24a〜24cからなる#4の磁場発生コイル14d″を設けるとともに、図1の磁場発生コイル14bに代えて電磁コイル25a〜25cからなる#2の磁場発生コイル14b′を設ける。
【0065】
このとき、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cは、電子やイオンの左右方向の発散を精度よく抑えるため、電磁コイル21a〜21c,22a〜22c,23a〜23cと同様、Z軸を回転軸として水平面内で異なる角度回転した状態に設けられてもよく、電子やイオンの上下方向の発散を精度よく抑えるため、R軸を回転軸として、垂直面内で異なる角度回転した状態に設けられてもよい。
【0066】
さらには、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cの一方を水平面内で傾けて設け、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cの他方を垂直面内で傾けて設け、電子やイオンの左右方向及び上下方向の両方の発散を抑えるようにしてもよい。
【0067】
なお、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cも、例えば、コイルサイズが異なる図2の構成又はコイルサイズが同一又はほぼ同一の図4,図5の構成であってよいのは勿論である。
【0068】
そして、電磁コイル24a〜24c,25a〜25cそれぞれから択一的に選択された電磁コイルがコイル電源15の給電ループに接続されて偏向磁場17cの磁気フィルタ18cが形成され、図1のプラズマ流20bに相当するプラズマ流20cが生成され、極めて良好な成膜特性で基材6の表面に薄膜が形成される。
【0069】
ところで、ダクト,磁気フィルタ等の形状や構造及び磁場発生コイルの個数や設置個所等が前記両形態と異なっていてもよいのは勿論である。
【0070】
また、磁気フィルタを形成する磁場発生コイルの1又は複数個(全部を含む)を、電磁コイル21a〜21c,・・・,25a〜25cと同様の複数個の電磁コイルで形成してよいのは勿論であり、その際、それぞれの電磁コイルの個数は2個以上であればよく、傾ける方向が磁場発生コイルによって異なっていてもよい。
【0071】
さらに、磁場発生コイルの各電磁コイルの形状及び巻き方等も前記両形態のものに限られるものではない。
【0072】
つぎに、各磁場発生コイルのコイルサイズは同一でなくてもよく、例えば図1において、終端の#4の磁場発生コイル14d′の電磁コイル21a〜21cを他の磁場発生コイル14a〜14cより大きくし、磁場発生コイル14d′を他の磁場発生コイル14a〜14cより大径にして電子やイオンの発散の抑制効果を一層向上するようにしてもよい。
【0073】
そして、本発明は磁気フィルタを有する種々の真空アーク蒸着装置に適用することができる。
【0074】
【発明の効果】
本発明は、以下に記載する効果を奏する。
まず、請求項1の場合、磁気フィルタ18b,18cを形成する各磁場発生コイル14a,14b,14c,14d′,14a,14b′,14c,14d″の少なくとも1個を、ダクト9の横断面に対して異なる傾きでダクト9を囲んだ複数個の電磁コイル21a〜21c,…,25a〜25cにより形成し、磁気フィルタ9の発生磁場の設定,制御に基づき、電磁コイル21a〜21c,…,25a〜25cのうちの1個を択一的に選択して通電するようにしたため、磁場発生コイルを実際に動かすことなく、磁気フィルタ18b,18cの磁場特性を所望特性に調整することができ、磁場発生コイルを動かす複雑かつ高価な回転機構等を設けることなく、簡素かつ安価な構成で磁気フィルタ18b,18cの発生磁場を調整して設定,制御し、基材6に均一な蒸着薄膜とを成膜して、成膜特性を向上することができる。
【0075】
つぎに、請求項2の場合、ダクト9を囲んだ各電磁コイル21a〜21c,22a〜22c,23a〜23c,24a〜24c,25a〜25cがダクト9の横断面の直交する2平面のいずれか一方の面内で異なる角度回転した状態に設けられたため、実用的な構成で請求項1の真空アーク蒸着装置を実現することができる。
【0076】
そして、請求項1又は請求項2において、各電磁コイル21a〜21c,…,25a〜25cのコイルサイズが異なるときは、磁場発生コイル14b′,14d′,14d″を容易に形成することができ、コイルサイズが同一又はほぼ同一であれば、電磁コイル21a〜21cによる磁場の大きさ等の差がなく、磁場特性の設定,制御等が容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の1形態の真空アーク蒸着装置の平面図である。
【図2】図1の終端磁石としての磁場発生コイルの1例の斜視図である。
【図3】(a),(b)は図1の電子軌跡説明図の平面図,右側面図である。
【図4】図1の終端磁石としての磁場発生コイルの他の例の斜視図である。
【図5】図1の終端磁石としての磁場発生コイルのさらに他の例の斜視図である。
【図6】図5の各電磁コイルの巻き方の説明図である。
【図7】本発明の実施の他の形態の真空アーク蒸着装置の平面図である。
【図8】従来装置の平面図である。
【図9】(a),(b)は図8の従来装置の発散磁場説明図の平面図,右側面図である。
【図10】図8の従来装置の電子軌跡説明図の平面図,右側面図である。
【図11】図8の従来装置のドリフト説明図である。
【符号の説明】
1 成膜室
6 基材
9 ダクト
11 蒸発源
13 放出口
14a〜14d,14b′,14d′,14d″ 磁場発生コイル
17a〜17c 偏向磁場
18a〜18c 磁気フィルタ
19 陰極材料
20a〜20c プラズマ流
21a〜21c,22a〜22c,23a〜23c,24a〜24c,25a〜25c 電磁コイル
Claims (4)
- 湾曲又は屈曲したダクトの一端に位置した蒸発源から、アーク放電により陰極材料を蒸発し、
前記ダクトの複数個所それぞれに前記ダクトを囲んだ磁場発生コイルを設けて磁気フィルタを形成し、
前記磁気フィルタにより前記ダクトの内部に偏向磁場を発生し、
前記偏向磁場に基づき、前記蒸発によって発生した粗大粒子を除去しつつ、前記陰極材料のイオンを含むプラズマ流を前記ダクトの一端から他端の放出口に輸送し、
前記プラズマ流の前記イオンを前記放出口から成膜室に引出して前記成膜室の基材に飛着し、
前記基材に前記陰極材料を蒸着する真空アーク蒸着装置において、
前記各磁場発生コイルの少なくとも1個が、前記ダクトの横断面に対して異なる傾きで前記ダクトを囲んだ複数個の電磁コイルからなり、
前記磁気フィルタの発生磁場の設定,制御に基づき、前記各電磁コイルを択一的に選択して通電するようにしたことを特徴とする真空アーク蒸着装置。 - ダクトを囲んだ複数個の電磁コイルが、前記ダクトの横断面に直交する2平面のいずれか一方の面内で異なる角度回転した状態に設けられたことを特徴とする請求項1記載の真空アーク蒸着装置。
- ダクトを囲んだ複数個の電磁コイルのコイルサイズが異なることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空アーク蒸着装置。
- ダクトを囲んだ複数個の電磁コイルのコイルサイズが同一又はほぼ同一であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空アーク蒸着装置。
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JP2002162727A Pending JP2004010920A (ja) | 2001-11-30 | 2002-06-04 | 真空アーク蒸着装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004010920A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2013218881A (ja) * | 2012-04-09 | 2013-10-24 | Chugai Ro Co Ltd | プラズマ発生装置並びに蒸着装置および蒸着方法 |
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2002
- 2002-06-04 JP JP2002162727A patent/JP2004010920A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2013218881A (ja) * | 2012-04-09 | 2013-10-24 | Chugai Ro Co Ltd | プラズマ発生装置並びに蒸着装置および蒸着方法 |
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