JP2004005631A - 立体形状記述方法及びそれを用いたエンジニアリングシステム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】絶対座標系と浮動座標系を定義する機能、絶対座標系と浮動座標系の関係を記述する機能、3次元セル配列を定義する機能、浮動座標系と3次元セル配列を対応を記述する機能、3次元セル配列をソリッドモデルに変換する機能を持っている立体形状記述装置。
【選択図】 図5
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、立体形状記述方法及び立体形状記述装置及びそれを用いた立体形状設計支援システムに関し、特に自由形状の記述・操作・伝送に適する立体形状記述方法及び立体形状記述装置及びそれを用いた立体形状設計支援システムに関する。
【0002】
【背景技術】
立体的な形状を記述する立体形状データにはいろいろなものが知られているが、よく使われるのは「ソリッドモデル」と「サーフェスモデル」である。ソリッドモデルとは、立体と点が与えられた時、点が立体の内部・外部・表面のいずれにあるかを、一定の手順で判定することができるようなデータ構造を持つ立体形状データのことである。一方サーフェスモデルは、そのようなデータ構造を持っていない。3次元CADでは、立体の相互の干渉を短い時間で判定する必要があることから、一般的にはソリッドモデルが使われる。例えば、特開平8−335279号公報や特開平11−272733号公報には、ソリッドモデルの生成法に関する発明が開示されている。
【0003】
ソリッドモデルを実現するには、いくつかの方法が知られている。境界表現法(Boundary representations:B−reps)では、立体形状を構成する頂点・稜線・面・立体を代数的に定義するとともに、相互の位相関係(トポロジ)を定義することによって立体形状を記述する。集合演算法(Constructive solid geometry:CSG)では、基本的な立体形状であるプリミティブを組み合わせ、複雑な立体形状を記述する。3次元ビットマップでは、3次元空間に格子を定義し、これによって分割されるそれぞれの小領域(セル)が、立体の内部・外部・表面のいずれであるかを定義することによって立体形状を記述する。
【0004】
これらの記述方法にはそれぞれ長所と短所があり、特に3次元ビットマップはB−repsやCSGと異なる特徴を持つ。それぞれの短所は次のとおり。
【0005】
3次元ビットマップに対する、B−repsやCSGの長所:
a.一般にデータサイズが小さい。
b.形状処理を行う際の計算量が少ない。
c.フィーチャ(部分的な形状の意味)に関する情報を持つ。
d.幾何学的に厳密である。
【0006】
B−repsやCSGに対する、3次元ビットマップの長所:
e.形状が同じであればデータ内容も同じである。
f.微少な変形によってデータ構造が変わらない。
g.形状を複雑にしてもデータサイズが無限に大きくならない。
すなわちそれぞれの短所は次のとおり。
【0007】
3次元ビットマップに対する、B−repsやCSGの短所:
e.形状が同じであってもデータ内容が同じとは限らない。
f.微少な変形によってデータ構造が大きく変わることがある。
g.形状を複雑にするとデータサイズが無限に大きくなる。
【0008】
B−repsやCSGに対する、3次元ビットマップの短所:
a.一般にデータサイズが大きい。
b.形状処理を行う際の計算量が多い。
c.フィーチャ(部分的な形状の意味)に関する情報を持たない。
d.幾何学的に厳密ではなく、モデルによる解釈が必要である。
【0009】
ソリッドモデルの記述方法と、それぞれの特徴については「ComputerGraphics」(J.D.Foley,A.Dam,S.K.Feiner,J.F.Hughes/Addison−Wesley社)などの文献に詳しく記載されている。
【0010】
これまでの3次元CADでは、ソリッドモデルとしてB−repsやCSGが利用されていた。しかし最近では、コンピュータの処理能力が高まってきたこと、自由な加工ができるようになり、曲面を使った設計がしやすくなったこと、意匠デザインが重視されるようになったこと、自然物や既製品の形状を計測して立体形状データを作るリバースエンジニアリングが普及してきたことなどによって、3次元ビットマップの長所が見直されつつある。立体形状の設計に3次元ビットマップを利用すれば、複数の形状の比較や、微妙な変形の繰り返しによる形状の最適化や、3次元計測による実体物のデータ化などの作業を、特別なノウハウを必要とせずに行うことができる。
【0011】
3次元ビットマップは先に挙げたa〜dの短所を持っているが、このうちbとdは、コンピュータの処理能力の急速な向上によって解決されつつある。しかしaとcは、依然として解決されるべき課題として残されていた。
【0012】
データサイズを小さくする方法としては、データ圧縮技術の利用が考えられる。しかしLZH法などの複雑なデータ圧縮を行うと、使うたびに立体形状データの全体を伸長しなくてはならなくなり、ソリッドモデルとしての利用が難しくなる。そのためデータ圧縮の方法としては、8分木法など比較的単純で部分的に圧縮をしていくものを利用するしかなく、圧縮率を高めることが難しかった。
【0013】
またフィーチャに関する情報、たとえば幾何学的な特徴や、形状の意味、加工方法、精度に関する情報などを持たせる方法としては、B−repsやCSGで記述された立体形状データを添付する方法が使われることもあった。しかしこの方法では、データサイズが大きくなるばかりでなく、3次元ビットマップの持つe・f・gの長所が大きく失われた。
【0014】
上記従来技術では、3次元ビットマップの長所を残しながら、短所を解決することが充分にできなかった。
【0015】
【発明の開示】
本発明は、形状が同じであればデータ内容も同じ、微少な変形によってデータ構造が変わらない、形状を複雑にしてもデータサイズは無限に大きくならないといった3次元ビットマップの長所を残しながら、データサイズが小さく、さらにフィーチャに関する情報をデータに持たせることのできる立体形状記述方法と、それを利用するエンジニアリングシステムを提供することを目的とする。
【0016】
上記課題は、立体形状の記述に、絶対座標系と浮動座標系を定義する機能、絶対座標系と浮動座標系の関係を記述する機能、3次元セル配列を定義する機能、浮動座標系と3次元セル配列を対応を記述する機能、3次元セル配列をソリッドモデルに変換する機能を持たせることにより、解決することができる。
【0017】
本発明の特徴は、ビットマップを使用して3次元空間にあるソリッドモデルを記述する立体形状記述方法もしくは立体形状記述装置であり、格子の粗い座標系と、格子の細かい座標系とを使用し、前記格子の細かい座標系の占める領域が、前記格子の粗い座標系の占める領域の一部、または全部と重なるように定義されることにある。
【0018】
他の特徴は、3次元空間にあるソリッドモデルを記述する立体形状記述方法もしくは立体形状記述装置であり、前記3次元空間に対する固定座標系を定義し、単数または複数の浮動座標系を定義し、前記固定座標系に対する前記浮動座標系の相対的な位置関係を代数的に記述し、単数または複数の3次元セル配列を定義し、前記浮動座標系と前記3次元セル配列の対応を記述することにある。
【0019】
この発明によれば、3次元ビットマップの持つ長所を残しながら、データサイズを縮小し、またデータにフィーチャに関する情報を持たせることができる。
【0020】
他の特徴は、通信回線を使用して形状データを伝送し、前記形状データをもとに実際物を作製する立体物遠隔加工方法もしくは立体物遠隔加工装置であり、前記形状データが前記立体形状記述方法によって記述されることを特徴とする。
【0021】
この特徴によれば、複雑な3次元CADのデータを伝送する時間の短い立体物遠隔加工システムを提供することができる。
【0022】
他の特徴は、複数の立体形状データを比較する立体形状データ比較方法であり、少なくとも一つの前記立体形状データを、前記立体形状記述方法によって記述されたソリッドモデルに変換する、データ変換過程を含むことにある。
【0023】
この特徴によれば、複数の3次元CADのデータを少ない記憶容量で比較することができる。
【0024】
他の特徴は、複数の前記浮動座標系に対して順序を定義する、浮動座標系順序定義機能を持つ立体形状記述方法にある。
【0025】
この特徴によれば、複数の座標系が重なっており、同じ点に対するボクセルの値が異なる場合であっても、その点が立体の内部・外部のどちらであるかを判定することができる。
【0026】
他の特徴は、前記立体形状記述方法を用いたソリッドモデルの外観、あるいは断面を表示する機能を持つ立体形状表示方法であり、前記3次元セル配列に対し、前記ソリッドモデルの大域的な形状を表しているか、局所的な形状を表しているかを評価して優先度を求め、前記優先度の高い前記3次元セル配列を先に、前記優先度の低い前記3次元セル配列を後に表示することにある。
【0027】
他の特徴は、前記ソリッドモデルを通信回線を使って伝送する機能を持つ立体形状伝送方法であり、前記3次元セル配列に対し、前記ソリッドモデルの大域的な形状を表しているか、局所的な形状を表しているかを評価して優先度を求め、前記優先度の高い前記3次元セル配列を先に、前記優先度の低い前記3次元セル配列を後に伝送することにある。
【0028】
これらの方法によれば、立体の全体的な形状、または注目している部分の形状を、早く表示または伝送することができる。
【0029】
他の特徴は、前記立体形状記述方法によって記述されたソリッドモデルに立体形状データを変換する立体形状データ変換方法であり、前記立体形状データが記述している立体形状の表面粗さ、表面位置のばらつき、面要素の大きさ、あるいは表面の曲率半径に基づき、前記浮動座標系を定義することにある。
【0030】
この特徴によれば、3次元CADのデータを、本発明の立体形状記述方法で記述された立体形状データに、半自動的に変換することができる。
【0031】
他の特徴は、前記立体形状記述方法において、前記浮動座標系に対し、あるいは前記3次元セル配列に対応するボクセルに対し、素材の性質を示す属性を付加することのできる素材定義機能を持つことにある。
【0032】
この特徴によれば、着色されている立体や、各種の素材でできている立体を記述し、操作することができる。
【0033】
他の特徴は、前記立体形状記述方法において、前記浮動座標系に対し、あるいは前記3次元セル配列に対応するボクセルに対し、他の浮動座標系がより詳細な立体形状を記述しているかどうかを示す属性を付加することのできる、詳細化可能性定義機能を持つことにある。
【0034】
この特徴によれば、立体形状を限りなく高精度で記述することができ、また任意の精度で立体形状を比較することができる。
【0035】
他の特徴は、原形データをもとに実際物を作製する立体造形装置と、前記実際物を計測する立体計測装置を含む立体形状設計支援システムであり、前記原形データが前記立体形状記述装置によって記述され、前記立体計測装置によって得られる計測データをもとに、前記原形データを修正することにある。
【0036】
この特徴によれば、計測データを造形データにフィードバックすることで複合モデリングを実現することが可能な立体形状設計支援システムを提供することができる。
【0037】
他の特徴は、原形データをもとに実際物を作製する立体造形装置と、前記実際物を計測する立体計測装置を含む立体形状設計支援システムであり、前記原形データが前記立体形状記述装置によって記述され、前記立体計測装置が、前記原形データを参照して計測手順を決めることにある。
【0038】
他の特徴は、前記立体形状設計支援システムにおいて、前記立体計測装置が、前記原形データに含まれる、前記3次元セル配列に対応するボクセルの寸法に基づき、計測分解能を変化させることにある。
【0039】
これらの特徴によれば、計測が自動化されている高精度の立体形状設計支援システムを提供することができる。
【0040】
他の特徴は、前記ソリッドモデルを作成あるいは変更する機能を持つ立体形状編集装置であり、前記ソリッドモデルを表示する表示手段と、前記浮動座標系と前記ソリッドモデルを重ねて表示する機能を持つ立体形状編集装置にある。
【0041】
この特徴によれば、3次元CADのデータを、本発明の立体形状記述方法で記述された立体形状データに変換することが可能な立体形状編集装置を提供することができる。
【0042】
他の特徴は、前記ソリッドモデルを表示、または伝送する立体形編集方法であり、前記3次元セル配列に対する、前記優先度を決定する方法として、大域的な形状を表している前記3次元セル配列の前記優先度を高くする方法と、局所的な形状を表している前記3次元セル配列の前記優先度を高くする方法の、いずれかを選択することにある。
【0043】
この特徴によれば形状の大域的な操作と局所的な操作を、いずれも快適に行うことが可能な立体形状編集装置を提供することができる。
【0044】
他の特徴は、前記立体物遠隔加工システムにおいて、前記形状データが前記立体形状設計支援システムによって記述され、前記加工装置が、加工に使用する工具の加工分解能をもとに、詳細な立体形状を記述する他の浮動座標系を参照するかどうかを決定することにある。
【0045】
この特徴によれば、要求された精度を確保しつつ、加工に要する時間を省くことが可能な立体物遠隔加工システムを提供することができる。
【0046】
他の特徴は、前記立体形状設計支援システムにおいて、前記計測データの一部または全部を選択する機能と、選択された部分を前記原形データにコピーする機能を持つことにある。
【0047】
この特徴によれば、計測データを造形データとして利用し、完全なリバースエンジニアリングを実現する立体形状設計支援システムを提供することができる。
【0048】
他の特徴は、前記ソリッドモデルを記憶する媒体にある。
【0049】
この特徴によれば、本発明の立体形状記述方法によって記述された立体形状データを移動・流通させることができる。
【0050】
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の実施例として、いくつかのエンジニアリングシステムを挙げることができるが、その効果は本発明の立体形状記述方法に帰依するものである。そこでエンジニアリングシステムの説明に先立ち、本発明の立体形状記述方法について説明することにする。
【0051】
まず、本発明の立体形状記述方法と、従来の3次元ビットマップによって、同じ立体形状を記述した例を図1に示す。なお以下の説明では、わかりやすくするために立体形状を2次元で模式的に図示することがあるが、その場合でも実際の対象は3次元であるとして理解されたい。
【0052】
図1の(a)は、従来の3次元ビットマップで立体形状を記述したものである。この方法では、3次元空間を多数のボクセルに分割する格子を定義する。それぞれのボクセルは、その中心が立体形状の内部にあるか、あるいは外部にあるかを表す情報を持つ。ここでは容積の50%以上が立体形状の内部にあるボクセルを着色して示した。
【0053】
この方法では、記述されている立体形状の表面に「ジャギ」と呼ばれる段差が生じる。ジャギを軽減するには格子を細かくしなければならないが、そうするとボクセルの数が増え、データサイズが非常に大きくなってしまう。これが3次元ビットマップの本質的な短所である。
【0054】
これに対する図1の(b)は、本発明の立体形状記述方法で、同じ立体形状を記述したものである。この方法では複数の座標系を使用し、それぞれの座標系に格子を定義する。ここでは粗い格子を定義する直交座標系と、細かい格子を定義する極座標系を使用している。
【0055】
このように本発明の立体形状記述方法によれば、立体形状の表面で格子を細かくし、内部では格子を粗いままとすることで、データサイズをそれほど増やさずにジャギを軽減することができる。
【0056】
次に、図2に、本発明の立体形状記述方法によって記述された立体形状データDのデータ構造を示す。
【0057】
立体形状データDは、固定座標系DAと、浮動座標系リストDLと、セル演算指定子DCを一つずつ持っている。また立体形状データDは、浮動座標系DFをいくつでも持つことができるが、まったく持たなくてもよい。
【0058】
それぞれの座標系は、座標パラメータと3次元セル配列を一つずつ持つことができるが、持たなくてもよい。座標パラメータは、3次元空間を分割する格子を定義する3個の独立な変数である。3次元セル配列は、この格子によって3次元空間が分割されてできる小領域(セル)の配列である。固定座標系DAは、固定座標パラメータDA1と、固定3次元セル配列DA2を持つことができる。また浮動座標系DFは、浮動座標パラメータDF1と、浮動3次元セル配列DF2を持つことができる。それぞれのセルは、その中心が対象とする立体形状の内部であるか、外部であるかを示す情報を持つ。
【0059】
浮動座標系リストDLは、浮動座標系DFを管理するリストである。
【0060】
それぞれの座標系は、素材属性を一つ持つことができるが、持たなくてもよい。素材属性は3次元セル配列に含まれるそれぞれのセル、あるいは座標系によって記述される立体形状に対し、色・表面粗さ・光反射率・密度など、素材の性質を定義する属性である。
【0061】
浮動座標系DFは固定座標系DAと異なり、座標変換関数DF4と大域/局所序数DF5を持っている。座標変換関数DF4は、浮動座標パラメータDF1を固定座標パラメータDA1に変換する関数である。これは次のような形式で記述される。
【0062】
X=X(x,y,z)
Y=Y(x,y,z)
Z=Z(x,y,z)
(X,Y,Z)は固定座標パラメータDA1であり、(x,y,z)は浮動座標パラメータDF1である。
【0063】
座標パラメータ・3次元セル配列・座標変換関数を与えると、座標系に固有の立体形状が一意に決まる。図3に、これらの関係を例示する。ここでは浮動座標系DFの例として、一つの極座標系を採り上げる。原点からの距離をパラメータr、Y軸方向からの回転角をパラメータθとする。rとθはいずれも実数の値を取り、次のような変域を持つ。
【0064】
1≦r≦2
0≦θ≦2π
3次元セル配列はr・θを引数とする配列で、その要素は0と1のいずれかである。要素が0の場合、rとθによって決まるボクセルは立体形状の外部であり、要素が1の場合、そのボクセルは立体形状の内部である。ここで例示した3次元セル配列は、r方向に8要素、θ方向に60要素を含む。そのため左上の要素は、次のようなr・θの値に対応する。
【0065】
r=1+1/16=1.0625
θ=0+2π/120=π/60
このように3次元セル配列の要素を増やすことにより、格子を細かくすることができる。
【0066】
座標変換関数は、この浮動座標系DFに固有の座標パラメータであるrとθを、絶対的な座標パラメータ、すなわち固定座標パラメータDA1である、XとYに変換する関数である。これによって絶対的な位置を持つ点(X、Y)と、3次元セル配列の要素が対応付けられることになる。
【0067】
再び図2に戻り、説明を続ける。
【0068】
大域/局所序数DF5は、それぞれの浮動座標系DFが大域的なものであるか、局所的なものであるかを示す序数である。立体形状データDに含まれる座標系のうち、一般には固定座標系DAが最も大域的な座標系である。固定座標系DAの次に大域的な浮動座標系DFの大域/局所序数DF5は1であり、局所的な浮動座標系DFになるにしたがって大域/局所序数DF5は大きくなる。複数の浮動座標系DFの大域/局所序数DF5が同じであることもあり得る。
【0069】
ある点が立体の内部・外部のどちらであるかは、その点を含む座標系の3次元セル配列の値によって決まる。その点が複数の座標系に含まれている場合には、大域/局所序数DF5の大きい座標系の3次元セル配列の値が使われる。しかし複数の座標系の大域/局所序数DF5が同じ場合もある。セル演算指定子DCは、このような場合に複数の3次元セル配列の値をどのように処理するかを指定するものであり、次のような値を取る。
【0070】
OR演算 :複数の3次元セル配列の値のORとする。いずれかの座標系で立体の内部と見なされる点が、最終的に内部と見なされる。
【0071】
AND演算:複数の3次元セル配列の値のANDとする。すべての座標系で立体の内部と見なされる点が、最終的に内部と見なされる。
【0072】
MAJ演算:複数の3次元セル配列の値のうち、数の多い方とする。内部と見なす座標系と、外部と見なす座標系の数が等しい場合には、大域/局所序数DF5の小さい座標系を参照する。
【0073】
立体形状データDは、浮動座標系DFを限りなく多く持つことができるので、大域/局所序数DF5とセル演算指定子DCを使って浮動座標系DFを階層化し、限りなく細かい格子を定義することにより、ジャギの大きさを任意に与えられた有限のしきい値よりも小さくすることができる。
【0074】
図4、図5、図6に、本発明の立体形状データDの浮動座標系DFにおける、大域/局所序数DF5の違いに伴う、立体形状データDが記述する立体形状の変化を例示する。(a)は固定座標系DAを表し、また(B)と(C)は2種類の浮動座標系DFを表す。
【0075】
固定座標系DAの大域/局所序数DF5は0に固定されているが、浮動座標系DFの大域/局所序数DF5は自由に指定することができる。
【0076】
(D)と(E)と(F)は、これらの座標系をそれぞれ次の条件で組み合わせた場合の立体形状である。
【0077】
このようにどの座標系の3次元セル配列の値が使われるかにより、立体形状は変化する。ジャギを軽減することを考えると、格子の細かい座標系の大域/局所序数DF5を大きくするようにするべきである。
【0078】
以上が立体形状データDのデータ構造である。このようなデータ構造のため、立体形状データDは次のような性質を持つことができる。
1.座標系の定義が同じなら、複数の立体形状データDが記述している立体形状が同じであるかどうかを、任意の精度で判定することができる。
2.座標系の定義が同じなら、立体形状データDが記述している立体形状の任意の部分を、他の立体形状データDにコピーすることができる。
3.高い精度が要求されない場合、簡単な計算処理によってデータサイズを小さくすることができる。
4.データサイズを大きくすれば、精度を限りなく高めることができる。
5.立体形状データDが記述している立体形状を変形させる場合、変形量が小さいほど計算処理が少ない。
【0079】
以下に挙げるエンジニアリングシステムも、本発明の立体形状記述方法によって記述された立体形状データDの、このような性質を利用するものである。
【0080】
(第1の実施例)
本発明の第1の実施例である立体物遠隔加工システムSAの構成を図7に示す。立体物遠隔加工システムSAは、3次元CAD装置S1と3次元加工装置S2を備えている。3次元CAD装置S1と3次元加工装置S2は、通信回線S33を経由して相互に接続されている。
【0081】
3次元CAD装置S1は、形状処理装置S11と、データ記憶装置S12と、表示装置S13と、操作装置S14と、外部インタフェースS15を備えている。
【0082】
形状処理装置S11は、CPUやメモリ及びこのメモリに保持されたプログラムやデータ等を備えたパーソナルコンピュータやワークステーションである。形状処理装置S11は、操作装置S14からのコマンドD2を受け取って、データ記憶装置S12に記憶されている立体形状データDに対し、データの作成・変更・修正・比較、データ構造の変換、データの入出力などの処理を行う。
【0083】
データ記憶装置S12は、磁気ディスクや半導体メモリであり、本発明の立体形状記述方法によって記述された立体形状データDを記憶する。
【0084】
表示装置S13は、CRTディスプレイや液晶ディスプレイであり、立体形状データDやその他の設計情報を、表示画像D1としてオペレータに表示する。
【0085】
操作装置S14は、マウスやキーボードなどであり、オペレータによる操作を受け取って、形状処理装置S11にコマンドD2を送る。
【0086】
外部インタフェースS15は、LANボードやネットワークアダプタであり、立体物遠隔加工システムSAに接続されている他の装置からB−repsデータD3を受け取る。
【0087】
このような構成の立体物遠隔加工システムSAを利用し、B−repsデータD3をもとに製品MAを作り出す立体物遠隔加工工程PAを図8に示す。立体物遠隔加工工程PAは、B−repsデータ準備過程P1と、B−repsデータ変換過程P2と、データ伝送過程P3と、制御コード作成過程P4と、NC加工過程P5を含む。
【0088】
B−repsデータ準備過程P1は、従来の一般的な3次元CADのデータであるB−repsデータD3を準備する過程である。3次元CADを備えている他の装置を使ってB−repsデータD3を作成し、これを外部インタフェースS15を使って立体物遠隔加工システムSAに読み込む方法が現実的である。
【0089】
B−repsデータ変換過程P2は、B−repsデータD3が記述している立体形状を本発明の立体形状記述方法で記述し、B−repsデータD3を立体形状データDに変換する過程である。本発明の立体形状記述方法を利用すれば、非常に複雑な立体形状を記述する場合であってもデータサイズが変わらないので、B−repsデータD3が複雑な立体形状を記述している場合には、この変換によってデータサイズを小さくすることができる。
【0090】
データ伝送過程P3は、通信回線S33を利用し、立体形状データDを3次元CAD装置S1から3次元加工装置S2に伝送する過程である。
【0091】
制御コード作成過程P4は、立体形状データDをもとにNC工作機械S24の制御コードD4を作る過程である。制御コードD4としては、一般にGコードと呼ばれているものを利用することができる。
【0092】
NC加工過程P5は、制御コードD4によってNC工作機械S24を制御し、製品MAを工作する過程である。
【0093】
図9に、B−repsデータD3を立体形状データDに変換する、B−repsデータ変換過程P2を詳しく示す。B−repsデータ変換過程P2は、固定座標系決定過程P21と、浮動座標系作成過程P22と、浮動座標系配置過程P23と、3次元セル配列決定過程P24を含む。
【0094】
固定座標系決定過程P21は、固定座標系DAを決定する過程である。つまり原点と、基準となる座標軸を決め、固定座標パラメータDA1を決定する過程である。通常のB−repsデータD3は、原点と座標軸の定義を含んでいるので、これをそのまま利用してもよい。
【0095】
浮動座標系作成過程P22は、新しい浮動座標系DFを作成する過程である。操作装置S14にコマンドD2を入力することで、浮動座標パラメータDF1、浮動3次元セル配列DF2、座標変換関数DF4が決定されていない浮動座標系DFが作られる。このうち浮動3次元セル配列DF2と座標変換関数DF4は、浮動座標系配置過程P23と3次元セル配列決定過程P24で決定されるので、浮動座標系作成過程P22では浮動座標パラメータDF1の入力までを行う。
【0096】
浮動座標系配置過程P23は、浮動座標系DFの配置を決定する過程である。すなわち浮動座標系DFの座標変換関数DF4を決める過程である。図10に、浮動座標系DFを配置している時の、表示装置S13の画面の例を示す。画面には、B−repsデータD3とともに、浮動座標系DFの制御点が表示されている。作業者は配置したい座標系の制御点(原点や端点など)をマウスカーソルで指定したり、制御点の座標を入力したりして、浮動座標系DFを配置する。
【0097】
3次元セル配列決定過程P24は、浮動座標系DFの格子によって定義されるボクセルが、B−repsデータD3が記述している立体形状の内部であるか、外部であるかを判定し、浮動3次元セル配列DF2の要素に値を代入する過程である。これによって浮動座標系DFの浮動座標パラメータDF1と、浮動3次元セル配列DF2と、座標変換関数DF4がすべて決定される。つまり浮動座標系DFが、ある立体形状を記述したことになる。
【0098】
3次元CAD装置S1から比較的伝送速度の遅い通信回線S33で伝送されてくる立体形状データDを、3次元加工装置S2の表示装置S23で見る場合には、立体形状データDに含まれている座標系を調べ、大域/局所序数DF5の小さい座標系、すなわち大域的な座標系から先に表示する手法を利用するとよい。この方法によって作業者は、形状データDの全体を受信する前であっても、およその立体形状を把握することができる。
【0099】
図11に、大域的な座標系から先に表示する手法を利用して立体形状データDを見ている時の、表示装置S13の画面の例を示す。立体形状データDの多くの部分が受信されるにしたがい、より詳細な立体形状が表示されるようになる。
【0100】
立体形状データDをNC工作機械S24で切削加工するにも、立体形状データDのデータ構造は有利である。立体形状データDをNC工作機械S24を使って加工する手順を図12、図13に例示する。この図では素材の形状を太線で示しており、目的とする製品MAの形状を着色して示している。
【0101】
図12において、(a)は加工を行う前の素材である。これからまず、固定座標系DAによって立体形状が決まる部分、つまり浮動座標系DFが配置されていない部分のうちで、目的とする立体形状に含まれていない部分、つまり固定3次元セル配列DA2の要素の値が0であるボクセルに相当する部分を、エンドミルなどの工具を使って削る。この加工は、固定座標系DAの粗い格子と、座標変換関数DF4によって定義される浮動座標系DFの外形に沿って行われる。そのため径の大きい工具を使い、加工に要する時間を短縮することができる。これによって素材は(b)に示す形状に加工される。
【0102】
次に径の小さい工具に交換し、固定座標系DAの次に大域/局所序数DF5が小さい浮動座標系DFについて同様の加工を行う。これによって素材は図13の(c)に示す形状に加工される。
【0103】
この例では工具を1回交換しただけで目的とする製品MAが得られたが、もしさらに大域/局所序数DF5の大きい浮動座標系DFが配置されている場合には、さらに径の小さい工具に交換し、より細かい加工を行う。
【0104】
このように立体形状データDの加工では、固定座標系DAと浮動座標系DFの格子の細かさに応じた適切な径の工具を使い分けることができるので、高精度の加工を短い時間で行うことができる。
【0105】
(第2の実施例)
本発明の第2の実施例である立体形状設計支援システムSBの構成を図14に示す。立体形状設計支援システムSBは、3次元CAD装置1と、光造形装置S4と、X線CT装置S5を備えている。光造形装置S4とX線CT装置S5は、3次元CAD装置S1にそれぞれ接続されている。
【0106】
3次元CAD装置S1は、第1の実施例と同じものである。
【0107】
光造形装置S4は、3次元CAD装置S1から、本発明の立体形状記述方法で記述された造形データD4を受け取り、その立体形状を持つ実体物を樹脂などで作製する。光造形装置S4の動作原理である光造形技術については、「積層造形システム」(中川威雄・丸谷洋二/工業調査会)などの文献に詳しく記載されている。
【0108】
X線CT装置S5は、切断面を少しずつ変えながら実体物の断層像を撮影する。多数の断層像を立体的に組み合わせることで、実体物の立体形状が求められる。これを本発明の立体形状記述方法によって記述して計測データD6とし、3次元CAD装置S1に送り出す。X線CT装置S5の動作原理であるX線CT技術については、「非接触計測・認識技術データブック」(オプトロニクス社)などの文献に詳しく記載されている。
【0109】
図15に、本発明の第2の実施例になる立体形状設計工程のフローを示す。本実施例によれば、上記構成の立体形状設計支援システムSBを利用し、実際物である模型MBを活用することで、3次元CADだけでは設計しにくい立体形状、たとえば感性に基づく評価・最適化が必要な立体形状や、実験的な評価・最適化が必要な立体形状であっても迅速・的確に設計することができる。すなわち、
図15において、立体形状設計工程PBは、B−repsデータ準備過程P1と、B−repsデータ変換過程P2と、模型作製過程P6と、模型評価過程P7と、模型修正過程P8と、原形データ修正過程P9と、模型計測過程P10と、計測データ反映過程P11を含む。
【0110】
B−repsデータ準備過程P1は、第1の実施例と同じものである。
【0111】
B−repsデータ変換過程P2も、第1の実施例と同じものである。
【0112】
模型作製過程P6は、光造形装置S4を利用し、原形データD5によって記述されている立体形状を持つ模型MBを作製する過程である。エポキシ樹脂を使う高精度の光造形装置を利用すれば、模型MBを0.1mm以下の高い精度で作ることができる。
【0113】
模型評価過程P7は、評価者が模型MBを眺めたり、持ったり、着色したり、照明を当てたりすることによって視覚的・触覚的に形状を評価し、あるいは模型MBを使用する実験を行い、機械的な性能から模型MBの形状を評価する過程である。
【0114】
模型修正過程P8は、模型MBを加工することによって、その立体形状を修正する過程である。模型評価過程P7では、評価者が模型MBの形状を評価する。満足な評価結果が得られなかった場合、模型MBを削ったり、模型MBにパテを盛ったり、他の部品を接着したりして、模型MBの形状を修正する。この修正は実際物である模型MBに対して直接的に行われるので、立体形状データDを修正する方法に比べ、はるかに迅速・的確に行うことができる。
【0115】
模型修正過程P8で模型MBの形状を修正したら、模型評価過程P7に戻って再び評価を行う。この繰り返しによって模型MBの形状が最適化され、最終的に満足な評価結果を与える立体形状が得られる。
【0116】
原形データ修正過程P9は、形状処理装置S11にコマンドD2を送り、原形データD5が記述している立体形状を修正する過程である。
【0117】
図16に、原形データD5が記述している立体形状を修正し、目的の立体形状を作る原形データ修正過程P9を詳しく示す。原形データ修正過程P9は、3次元セル配列変更工程P91と、座標系変更工程P92を含む。
【0118】
模型計測過程P10は、X線CT装置S5を利用し、模型Mの形状を計測して計測データD6を作成する過程である。高エネルギのX線を使う産業用X線CT装置を使えば、模型Mの形状を0.1mmの精度で正確に計測することができる。
【0119】
計測データ反映過程P11は、原形データD5と計測データD6を対比させ、立体形状に対してなされた修正を原形データD5に反映させる過程である。最も簡単な反映の形態としては、計測データD6をそのまま新しい原形データD5とするやり方が考えられる。あるいは形状の一部だけを修正するような場合、原形データD5の一部を計測データD6に置き換えるやり方が考えられる。また原形データD5と計測データD6を比較し、その差異を表示するやり方も有用である。
【0120】
このように立体形状設計支援システムSBによれば、3次元CADを使用して仮想的に立体形状を設計する「CADモデリング」と、実際物をうまく活用して現実的に立体形状を設計する「実際物モデリング」を密接に結合することができ、両方の長所を生かした「複合モデリング」を実現することが可能となる。
【0121】
CADモデリングの長所:
a.モデリングの精度が高い
b.数値入力が可能
c.CAM化への対応が容易
d.複製・再利用が容易
e.やり直しが容易
f.伝送・共有が容易
g.保管のための空間が不要
h.工作技能・作業空間が不要
実際物モデリングの長所:
i.直感的なモデリングが可能
j.モデリングの手法が選べる
k.既存物の利用が簡単
l.情報量が多い
m.CADの専門知識が不要
n.視点の変更が迅速
o.触感の評価が容易
p.実際の使用が可能
q.VDT障害の心配がない
すなわち立体形状設計支援システムSBを利用することにより、対象物の性質に応じて、CADモデリングと実際物モデリングを適切に使い分けることができる。これにより、設計の能率と品質をともに向上させることができる。
【0122】
(第3の実施例)
次に本発明の第3の実施例として鉄道車両の形状の設計を採り上げ、これに本発明の立体形状設計支援システムSBを使用する効果を説明する。図17に、本発明の立体形状記述方法で記述された鉄道車両の原形データD5の形状を示す。この原形データD5は3次元CADを使用して作成されたものであり、単純な直方体を記述している。
【0123】
この鉄道車両の設計では、次の形状を決めなければならない。
【0124】
1.先頭部分(運転席などがある部分)の形状
2.後尾外周部分(客室などがある部分の外周)の形状
そこで原形データD5の立体形状に対し、いくつかの座標系を定義する。浮動座標系DFは、固定座標系DAよりも高い分解能を持つ格子で定義し、設計者のセンスに基づいて微妙な変形がなされる先頭部分と、断面の形状を正確に決める必要のある後尾外周部分に配置する。設計者は表示装置S13の画面を見ながら、それぞれの座標系の格子を手動で定義し、座標系を配置する。
【0125】
図18に、マウスを使用して浮動座標系DFを配置している時の、表示装置S13の画面の例を示す。画面には原形データD5が、ボリュームレンダリングによって表示されている。設計者はいくつかの新しい浮動座標系DFを作り、制御点(原点や端点など)をマウスカーソルで指定したり、制御点の座標を入力したりすることで、座標系を配置していく。
【0126】
3次元CAD装置S1には、座標系の定義を支援する機能が備えられている。一般に立体形状を細かく修正していくと、面要素は小さくなる。また複数の立体形状がある場合、頻繁に修正される部位では表面位置のばらつきが大きくなる。3次元CAD装置S1はこのことを利用し、細かく修正された部位や頻繁に修正される部位を自動的に見つけ出して、その近傍に分解能の高い格子を配置する。こうして自動的に配置された格子は、設計者が手動で配置し直すこともできる。
【0127】
これが済んだら設計者は3次元CAD装置S1にコマンドD2を送る。これにより、設計された立体形状から固定3次元セル配列DA2と浮動3次元セル配列DF2が自動的に作成され、本発明の立体形状記述方法で記述された原形データD5が得られる。この原形データD5は固定座標系DAの他に、先頭部分座標系DFaと後尾部分断面座標系DFbの、二つの浮動座標系DFを持っている。
【0128】
本発明の立体形状記述方法によって記述された原形データD5を修正するには、二つの方法がある。一つは3次元の描画を行い、3次元セル配列を直接変更していく方法であり、立体形状を直接的に修正することができる。
【0129】
図19に、この方法によって原形データD5を修正している時の、表示装置S13の画面の例を示す。この例には、仮想的な球形の描画ツールをマウスカーソルでドラッグすることで、立体形状を修正している様子が示されている。描画操作を行うと、まず先頭部分座標系DFaの3次元セル配列に対する変更がなされる。描画操作が終了すると、先頭部分座標系DFaよりも大域/局所序数DF5の小さい座標系に、自動的に変更が反映される。
【0130】
もう一つは、座標系の格子の定義や、座標系の配置を変えていく方法である。この方法では、平行移動、回転移動、対称移動、拡大・縮小、複製などの操作を正確に行うことができる。
【0131】
図20に、この方法によって原形データD5を修正している時の、表示装置S13の画面の例を示す。この例には、マウスカーソルで後尾部分断面座標系DFbをドラッグし、移動させることで立体形状を修正している様子が示されている。移動操作の場合にも、まず後尾部分座標系DFbに対する変更がなされ、その後に大域/局所序数DF5の小さい座標系に自動的に変更が反映される。
【0132】
局所的な修正を行う際には、第1の実施例と反対に、大域/局所序数DF5の大きい座標系、すなわち局所的な座標系から先に表示する手法を利用するとよい。この方法によれば、作業者が形状を修正するたびに原形データD5の全体が表示されることがなくなり、変更の結果がすみやかに画面に反映されるので、作業が非常に快適になる。
【0133】
原形データD5には素材属性を持たせることができる。設計者は3次元CAD装置S1を使い、固定座標系素材属性DA3・浮動座標系素材属性DF3を入力したり、操作したりすることができる。
【0134】
こうして作られた原形データD5を光造形装置S4に送ると、この立体形状を持つ模型MBが自動的に作られる。図21に、模型MBの形状を示す。模型MBをX線CT装置S5に取り付ける際の位置合わせを容易にするため、模型MBには脚部MB1を付加している。
【0135】
設計者は模型MBを使用して風洞実験を行い、空気力学的な特性を評価する。鉄道車両が高速で走行すると空気の渦が発生し、これが騒音の原因となる。また消費電力を抑えるには、空気抵抗を可能な限り小さくするべきである。この風洞実験によって空気の渦が発生することや、空気抵抗が大きすぎることがわかれば、部分的に模型MBを削ったり、パテを盛ったりして、模型MBの形状を修正することができる。風洞実験の経験が豊富な設計者にとって実際物の直接的な修正は、3次元CAD装置S1による原形データD5の修正よりも、むしろ迅速・的確に行うことができる作業である。
【0136】
空気力学的な特性の評価が済んだら、次に外見を評価する。模型MBに着色を施し、いろいろな方向から見て評価を行う。実際物である模型MBを利用すれば、表示装置S13の画面で原形データD5を見るだけで外見を評価する方法と比べ、より直感的で的確な評価を行うことができる。不満な点がある場合には、やはり模型MBを削ったり、パテを盛ったりして形状を整える。大きく形状が変わった場合には、空気力学的な特性の評価をもう一度やり直した方がよい。
【0137】
こうして模型MBの空気力学的な特性と外見の評価が済み、立体形状が充分に最適化されたところで、これをX線CT装置S5に取り付け、立体形状の計測を行う。その際に設計者は、3次元CAD装置S1にコマンドを送り、模型MBのもととなった原形データD5をX線CT装置S5に送る。原形データD5には、分解能の異なる複数の座標系が含まれているので、これに基づいてX線CT装置S5は、撮像するべき断面の間隔を的確に選択することができる。これにより、計測に要する時間が節約される。さらに原形データD5のデータ構造に基づいて得られた断層像を処理することにより、原形データD5と同じデータ構造を持つ計測データD6を得ることができる。原形データD5が素材属性を持つ場合には、それを計測データD6にコピーすることにより、設計者が計測データD6の素材属性を入力する手間を省くことができる。
【0138】
計測データD6は、新しい原形データD5として利用することができる。また両者を比較し、原形データD5の修正に役立ててもよい。
【0139】
鉄道車両の場合、先頭部分の後方の部分は断面が変わらない、いわゆる押し出し形状である。しかし模型MBを計測して得られた計測データD6では、先頭部分以外の部分を変形させなかったとしても、計測の誤差などにより、後方の部分が厳密な押し出し形状でなくなっている可能性がある。この部分を厳密な押し出し形状とするには、もとの原形データD5を部分的に使うか、計測データD6を修正して厳密な押し出し形状にするか、いずれかの処理をしなくてはならない。本発明の方法なら、後尾部分断面座標系DFbの格子が水平方向の軸を持つことを利用し、一つの断面を求めてからすべての断面にコピーすることによって、簡単に厳密な押し出し形状を作ることができる。
【0140】
また鉄道車両では、形状のほとんどの部分が左右対称である。しかし手作業で模型MBを変形させる方法では、厳密な対称性が保持されない可能性が大きい。厳密な対称性を確保するには、計測データD6が記述している立体形状を、その中心面で左右に分割し、両方の変形量を算出して平均を求めなければならない。本発明の方法なら、先頭部分座標系DFaと後尾部分断面座標系DFbをコピーしたものを作り、中心面で反転させて計測データD6に追加することによって、簡単に対称性を与えることができる。
【0141】
このように計測データD6に部分的に原形データD5をはめ込む、計測データD6の一部を複製して利用する、二つの計測データD6を比較する、二つの計測データD6の平均を求めるといった処理を行う場合には、本発明の立体形状記述方法を利用することで、操作が非常に簡単になる。
【0142】
鉄道車両の例は不適切であるが、NC切削機械を利用して製品を加工するにも、本発明の立体形状記述方法は有用である。小型の精巧なカッタで切削しなければならない部分は、浮動座標系によって定義されている部分に限られるので、それ以外の部分は大型のカッタで高速に切削することができる。すなわち切削加工に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0143】
立体形状設計支援システムSは、光造形装置S4とX線CT装置S5を備えているが、これらは必須の構成要素ではなく、類似する機能を持つ他の構成要素で置換することができる。たとえば光造形装置S4の代わりに、SLS造形装置・LOM造形装置・FDM造形装置などのラピッドプロトタイピング装置、3軸・5軸のNC加工装置を使用してもよい。これらの装置でワックスパターンを作り、消失模型鋳造を行ってもよい。
【0144】
造形物に着色を施すことのできるラピッドプロトタイピング装置を使用すれば、固定座標系素材属性DA3や浮動座標系素材属性DF3を利用し、自動的に着色された模型MBを作ることができる。また素材属性を利用すると、特定の素材の部分だけを模型MBにすることもできる。
【0145】
またX線CT装置S5の代わりに、光切断式計測装置や探針式計測装置を使用してもよい。あるいは複数の計測方法を組み合わせてもよい。写真式計測装置を使用すれば、着色された模型MBの色を固定座標系素材属性DA3・浮動座標系素材属性DF3に反映させることができる。
【0146】
以上述べたように、本発明によれば、形状が同じであればデータ内容も同じ、微少な変形によってデータ構造が変わらない、形状を複雑にしてもデータサイズは無限に大きくならないといった3次元ビットマップの長所を残しながら、データサイズが小さく、さらにフィーチャに関する情報をデータに持たせることのできる立体形状記述方法と、それを利用するエンジニアリングシステムを提供することができる。
【0147】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の立体形状記述方法と、従来の3次元ビットマップによる立体形状の記述例を示す図。
【図2】図2は、本発明の立体形状記述方法によって記述された立体形状データDのデータ構造を示す図。
【図3】図3は、本発明のデータ構造における、座標パラメータ・3次元セル配列・座標変換関数と、立体形状の関係を例示する図。
【図4】図4は、本発明の立体形状データDの浮動座標系DFにおける、大域/局所序数DF5の違いに伴う立体形状の変化を例示する図。
【図5】図5は、本発明の立体形状データDの浮動座標系DFにおける、大域/局所序数DF5の違いに伴う立体形状の変化を例示する図。
【図6】図6は、本発明の立体形状データDの浮動座標系DFにおける、大域/局所序数DF5の違いに伴う立体形状の変化を例示する図。
【図7】図7は、本発明の第1の実施例による立体物遠隔加工システムSAの構成を示す図。
【図8】図8は、第1の実施例における立体物遠隔加工工程PAを示す図。
【図9】図9は、第1の実施例におけるB−repsデータ変換過程P2を詳しく示す図。
【図10】図10は、第1の実施例において浮動座標系DFを配置している時の、画面の例を示す図。
【図11】図11は、立体形状データDを見ている時の、画面の例を示す図。
【図12】図12は、立体形状データDをNC工作機械S24で加工する手順を例示する図。
【図13】図13は、立体形状データDをNC工作機械S24で加工する手順を例示する図。
【図14】図14は、本発明の第2の実施例による立体形状設計支援システムSBの構成を示す図。
【図15】図15は、第2の実施例になる立体形状設計工程PBを示す図。
【図16】図16は、図15の原形データ修正過程P9を詳しく示す図。
【図17】図17は、本発明の第3の実施例になる立体形状記述方法で記述された鉄道車両の原形データD5の形状を示す図。
【図18】図18は、鉄道車両の設計において、浮動座標系DFを配置している時の、画面の例を示す図。
【図19】図19は、本発明の立体形状記述方法によって記述された原形データD5を修正するために、3次元の描画を行っている時の、画面の例を示す図。
【図20】図20は、本発明の立体形状記述方法によって記述された原形データD5を修正するために、座標系の格子の定義や座標系の配置を変えている時の、画面の例を示す図。
【図21】図21は、本発明の第3の実施例により作成された模型MBの形状を示す図。
Claims (2)
- 座標系によって定義される格子点の上に該格子点が形状の内・外のいずれであるかを規定するセルが配列されたビットマップを使用して、3次元空間にあるソリッドモデルを記述する立体形状記述方法を用いたエンジニアリングシステムであり、
1つの前記ソリッドモデルに複数の異なる座標系を定義する機能と、該複数の異なる座標系のうち、1つの座標系の占める領域がその他の座標系の占める領域の一部または全部と重なるように定義する機能と、該複数の異なる座標系を用いて立体形状データを記述して立体形状を表示する表示装置を有していることを特徴とするエンジニアリングシステム。 - 座標系によって定義される格子点の上に該格子点が形状の内・外のいずれであるかを規定するセルが配列されたビットマップを使用して、3次元空間にあるソリッドモデルを記述する、情報処理システムにおける立体形状記述方法であり、
1つの前記ソリッドモデルが複数の異なる座標系を有し、
前記複数の異なる座標系のうち、1つの座標系の占める領域が、その他の座標系の占める領域の一部、または全部と重なるように定義され、
該複数の異なる座標系を用いて記述された前記ソリッドモデルの形状データから立体形状を表示することを特徴とする立体形状記述方法。
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