JP2003329683A - 内分泌撹乱物質のスクリーニング方法とそのためのキット - Google Patents

内分泌撹乱物質のスクリーニング方法とそのためのキット

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 甲状腺系のように内分泌撹乱物質の受容
体への結合性が弱い系に対する内分泌撹乱物質をスクリ
ーニングする効率的な方法と、環境中に内分泌撹乱物質
が含まれているか否かを検査する精度高い方法を提供す
る。 【解決手段】 内分泌撹乱物質をスクリーニングする方
法であって、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共
存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレ
チン結合体の量と、甲状腺ホルモンとトランスサイレチ
ンと候補物質を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン
−トランスサイレチン結合体の量を比較し、共存させる
ことにより甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体
の生成量を変化させる候補物質を内分泌撹乱物質と判定
する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、内分泌撹
乱物質のスクリーニング方法に関するものである。さら
に詳しくは、この出願の発明は甲状腺ホルモンとトラン
スサイレチンの結合体の生成量を候補物質存在下および
非存在下で比較し、甲状腺ホルモン−トランスサイレチ
ン結合体の生成量を低下させる候補物質を内分泌撹乱物
質として判定することを特徴とする内分泌撹乱物質のス
クリーニング方法とそのためのキットに関するものであ
る。
【0002】
【従来技術とその課題】化学物質は、今や産業廃棄物や
工業排水、排気ガスに限らず、保存料等の食品添加物、
各種の医農薬品、洗剤等の香粧品、建築建材の防腐剤や
塗料等、あらゆる形態で我々の生活に浸透している。そ
のため、近年、大気や河川、あるいは各種製品中の化学
物質の生態系や人体への影響が社会的に注目されてい
る。
【0003】これらの化学物質の中でも、いわゆる「環
境ホルモン」として知られる物質については、内分泌を
撹乱する物質として、世界的に定義されている。例え
ば、世界保健機構・化学物質安全計画(International
Program for Chemical Safety,World Health Organizat
ion; IPCS, WHO)は、内分泌撹乱物質(内分泌障害性化
学物質(EDC):Endocrine Disrupting Chemicals)につ
いて、暫定的に「内分泌系の機能を変質させ、それによ
って無処置の個体やその子孫あるいは集団(もしくは一
部の亜集団)に有害な影響を引き起こす外因性の化学物
質またはその混合物」と定義している。また、日本にお
いても、内分泌撹乱作用を有することが疑われている約
70の化学物質が環境庁により公表されており、官公
庁、自治体、各業界等がこれらの化学物質の製造、使
用、排出について一定の規定を設けるなど、様々な対策
が進められている。同時に、内分泌撹乱物質の作用機構
についても多くの研究がなされている。
【0004】ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、レ
チノイド、ビタミンD等のホルモンやホルモン様分子は
疎水性が高いため、血液中や細胞内ではその大部分が血
清蛋白質に結合した状態で存在し、遊離の状態で存在す
る割合は極めて低いことが知られている。そして、血清
蛋白質との結合・解離平衡において生じたわずかな遊離
ホルモンが組織に運搬されることが知られている(Ekin
s R. et al. (1982) "Free Hormones in Blood" (Alber
tini, A. and Ekins, R.P. eds.), pp3-44, Elsevier B
iomedical Press, NY; Mendel, C.M. (1989) Endocrine
Rev. 10, 232-274)。また、細胞膜に存在するこれら
の結合蛋白質に対する受容体が、脂溶性シグナル分子の
細胞への取り込みを行うことも報告されている(Divin
o, C.M. and Schussler, G.C. (1989) Clin. Res. 37,
357A; Vieira, A.V. et al. (1995) J.Biol.Chem. 270,
2952-2956; Kuchler-Bopp, S. et al. (1998) Brain R
es.793, 219-230; Sivaprasadarao, A. and Findlay,
J.B.C. (1988) Biochem. J.255, 561-569; Bavik C.O.
et al., (1992) J.Biol.Chem. 267, 23035-23042)。
【0005】前記の内分泌撹乱物質の多くは、これらシ
グナル分子同様に疎水性の化合物であることから、内在
性シグナル分子と同様に作用し、その輸送系を撹乱する
ものと考えられる。実際に、ダイオキシン類やポリ塩化
ビフェニル(PCB)類の中には、血清中の甲状腺ホルモ
ン結合蛋白質であるトランスサイレチン(Transthyreti
n; TTR)と強く結合し、内在性のホルモンを追い出し、
ホルモンのクリアランスを増加させるものがあることが
報告されている(Brouwer and Van den Berg (1986) To
xicol. Appl. Pharmacol. 85, 301-312; Brouwer et a
l. (1998) Toxicol. Ind. Health 14, 59-84)ことから
も、体内に侵入したある種の内分泌撹乱物質は、血清蛋
白質によって組織に移行されると考えられている。さら
に、動物個体では、女性ホルモン作用を示す内分泌撹乱
物質の生物活性が、血清蛋白質に結合する強さに依存し
て変化することが知られていることから(Nagel, S.C.,
et al. (1997) Environ. Health Perspect. 105, 70-7
6)、内分泌撹乱物質が組織に取りこまれる過程には、
血清蛋白質が関与していると考えられている。
【0006】このような内分泌撹乱物質を分析する方法
としては、従来、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
や質量分析等の化学的手法が用いられてきた。しかし、
これらの方法は、サンプルの前処理に煩雑な操作を要す
ること、1検体あたりの分析に要する時間が長いこと、
1検体あたりの分析費用が高額であり多種のサンプルを
処理できないことなどの問題点を有していた。
【0007】そこで、近年では、生物材料を利用したア
ッセイ法の開発が検討されている。具体的に、in vitro
法としては、受容体を介した内分泌撹乱物質のシグナル
応答を試験するレポーター・アッセイ、受容体や血清蛋
白質に対する化学物質の結合を試験するホルモン結合実
験、脱ヨード酵素を用いてホルモンの活性化・不活性化
を試験する方法などが知られている。また、オタマジャ
クシの変態への影響を観察するオタマジャクシ変態アッ
セイ、甲状腺の組織変化、血液中の甲状腺ホルモン量の
変化をラジオイムノアッセイ(RIA)法により確認する
方法などのin vivo法も検討されている。
【0008】しかし、これら従来のアッセイ法は、主に
受容体を標的とすることが知られているステロイド系を
撹乱する物質に対しては適用できるが、甲状腺系を撹乱
する物質については受容体への結合性が弱い(主要な作
用点が受容体以外にある)ため、有効ではなかった。ま
た、試験に長時間を有する、測定精度が低い等の問題も
あった。
【0009】したがって、甲状腺系のように内分泌撹乱
物質の受容体への結合性が弱い系に対する内分泌撹乱物
質をスクリーニングする効率的な方法は知られていなか
ったのが実情である。
【0010】さらに、湖沼や河川等のように、内分泌撹
乱物質が含まれているか否かが不明な環境水や、このよ
うな環境水中に含まれる未知の物質が内分泌撹乱作用を
有するか否かを検査する簡便な方法は知られていなかっ
たのが実情である。
【0011】この出願の発明は、以上のとおりの問題点
を解決し、内分泌撹乱物質を効率的にスクリーニングす
るための方法と、環境中に内分泌撹乱物質が含まれてい
るか否かを検査する精度高い方法を提供することを課題
としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、以上
のとおりの課題を解決するものとして、まず、第1に
は、内分泌撹乱物質をスクリーニングする方法であっ
て、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共存させた
際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合
体の量と、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンと候補
物質を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トラン
スサイレチン結合体の量を比較し、共存させることによ
り甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量
を変化させる候補物質を内分泌撹乱物質と判定すること
を特徴とする内分泌撹乱物質のスクリーニング方法を提
供する。
【0013】この出願の発明は、第2には、試料中に内
分泌撹乱物質が存在するか否かを検査する方法であっ
て、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共存させた
際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合
体の量と、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンと試料
を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサ
イレチン結合体の量を比較し、試料の共存により甲状腺
ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量が変化す
る場合に、試料が内分泌撹乱物質を含有すると判定する
ことを特徴とする内分泌撹乱物質の検査方法を提供す
る。
【0014】そして、この出願の発明は、第3には、前
記のスクリーニング方法、または検査方法のためのキッ
トであって、少なくとも標識甲状腺ホルモンとトランス
サイレチンを含有することを特徴とする内分泌撹乱候補
物質のスクリーニングまたは検出用キットをも提供す
る。
【0015】
【発明の実施の形態】この出願の発明者は、ステロイド
系を撹乱する化学物質は主に受容体を標的とすることが
知られているが、甲状腺系を撹乱する化学物質は受容体
への結合が弱く、主要な作用点が受容体以外にあるこ
と、さらに、ある種のダイオキシン類やPCB類が血清蛋
白質、トランスサイレチン(TTR)を強く認識するとい
う事実に着目し、鋭意研究により本願発明のスクリーニ
ング方法および検査方法に至ったものである。
【0016】この出願の発明の内分泌撹乱物質のスクリ
ーニング方法は、次の3つのステップを有するものであ
るといえる。 (1)まず、甲状腺ホルモンとトランスサイレチン(TT
R)を共存させ、そのとき生成する甲状腺ホルモン−ト
ランスサイレチン結合体の量を測定する。 (2)次に、甲状腺ホルモンとトランスサイレチン(TT
R)と候補物質を共存させた際に生成する甲状腺ホルモ
ン−トランスサイレチン結合体の量を測定する。 (3)(1)と(2)で得られた甲状腺ホルモン−トラ
ンスサイレチン結合体の量を比較する。
【0017】そして、以上(1)〜(3)のステップに
おいて、共存させることにより甲状腺ホルモン−トラン
スサイレチン結合体の生成量が変化した候補物質が、内
分泌撹乱物質と判定される。
【0018】すなわち、この出願の発明の内分泌撹乱物
質のスクリーニング方法は、甲状腺ホルモンとトランス
サイレチンの結合反応において、候補物質が取りこまれ
た際に競合反応を起こし、甲状腺ホルモンとトランスサ
イレチンの結合・解離平衡に影響を及ぼすか否かを確認
するものであるといえる。
【0019】生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレ
チン結合体の量は、種々の化学的、生物学的、分光学的
方法により測定することができる。例えば、予め甲状腺
ホルモンを標識し、標識甲状腺ホルモンとトランスサイ
レチンを共存させれば、標識ホルモン−トランスサイレ
チン結合体が生成される。その後、標識甲状腺ホルモン
単体を分離・除去すれば、生成された甲状腺ホルモン−
トランスサイレチン結合体によるシグナル量が測定でき
る。同様に、標識甲状腺ホルモンとトランスサイレチン
と候補物質を共存させ、生成される標識甲状腺ホルモン
−トランスサイレチン結合体と標識甲状腺ホルモン単体
を分離・除去し、シグナル量を測定すれば、候補物質共
存時の標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体
量が測定できる。したがって、先に得られた候補物質非
存在下でのシグナル量と比較し、シグナル量に変化が見
られれば、候補物質は内分泌撹乱物質として作用するも
のであるといえる。
【0020】このような方法において、甲状腺ホルモン
の標識は、酵素、蛍光色素、放射性同位体等を用いて行
うことができる。酵素は、甲状腺ホルモンと結合させて
も安定であり、甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結
合体の生成に影響を及ぼさないものであればよく、とく
に限定されない。また、蛍光色素としては、フルオレセ
インイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダ
ミンイソチオシアネート(TRIC)等通常の蛍光法に用い
られる物質の他、緑色蛍光蛋白質等の蛍光蛋白質を使用
することもできる。さらに、放射性同位体を用いて甲状
腺ホルモンを標識する場合には、125Iや3H等、通常のラ
ジオイムノアッセイ(RIA)で用いられるものを適用で
きる。甲状腺ホルモンには、トリヨードチロニン(T3
とチロキシン(T4)があり、いずれも分子中にヨウ素を
含有することから、甲状腺ホルモンの標識は、放射性物
質、中でも125Iを用いて行うことが好ましい。
【0021】シグナルの検出には、公知の各種の手法が
適用できる。例えば、標識物質として酵素を用いる場合
には、酵素作用によって分解して発光する基質を加え、
基質の分解量を光学的に測定することにより結合体の生
成量を算出する方法が適用できる。また、蛍光色素を使
用する場合には、蛍光顕微鏡を組み合わせた測定装置に
よって蛍光量を測定することができる。さらに、放射性
同位体を用いる場合には、放射性同位体の発する放射線
量をシンチレーションカウンター等により測定すればよ
い。
【0022】以上のとおりの内分泌撹乱物質のスクリー
ニング方法は、前記のとおり、内分泌撹乱候補物質を甲
状腺ホルモンと競合させ、甲状腺ホルモンとトランスサ
イレチンの結合反応への影響を検出するものである。し
たがって、標識甲状腺ホルモンを用いて甲状腺ホルモン
−トランスサイレチン結合体の生成量を測定する場合に
は、前記のステップ(1)は、一定量の標識甲状腺ホル
モンと一定量のトランスサイレチンと一定量の非標識甲
状腺ホルモンの存在下で行い、ステップ(2)では、
(1)と等量の標識甲状腺ホルモンと等量のトランスサ
イレチンに対し、前記非標識甲状腺ホルモンと等量の候
補物質を添加して行うことが好ましい。これにより、系
内の物質濃度が一定に保たれるとともに、標識甲状腺ホ
ルモンとトランスサイレチンの結合性を非標識甲状腺ホ
ルモン存在下および候補物質存在下で比較するため、よ
り精度高いスクリーニングが可能となる。
【0023】さらに、この出願の発明の内分泌撹乱物質
のスクリーニング方法では、次の手順により候補物質の
トランスサイレチンに対する結合親和性を判定すること
も可能となる。 (a)まず、各濃度の非標識甲状腺ホルモンと一定量の
標識甲状腺ホルモンと、一定量のトランスサイレチンを
共存させ、生成する標識甲状腺ホルモン−トランスサイ
レチン結合体の量を測定し、非標識甲状腺ホルモン濃度
に対してプロットして検量線を得る。 (b)次に、任意の量の候補物質と前記一定量の標識甲
状腺ホルモンと、前記一定量のトランスサイレチンを共
存させ、生成する標識甲状腺ホルモン−トランスサイレ
チン結合体の量をこの検量線と比較する。
【0024】すなわち、このとき候補物質共存時に生成
される標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体
の量が検量線よりも上にあれば、該候補物質はトランス
サイレチンに対する結合親和性が甲状腺ホルモンよりも
高いものと判断できるのである。このような物質は、甲
状腺ホルモンとトランスサイレチンの結合を阻害する可
能性が高いことから、甲状腺系に大きな影響を与えるこ
とが示唆される。
【0025】さらに、同様の原理により、各濃度の化学
物質と一定量の標識甲状腺ホルモンと、一定量のトラン
スサイレチンを共存させ、生成する標識甲状腺ホルモン
−トランスサイレチン結合体の量を測定し、この量を化
学物質濃度に対してプロットした検量線を予め準備すれ
ば、任意の試料中に含まれる該化学物質量を定量するこ
とも可能となる。
【0026】この出願の発明では、さらに、前記のスク
リーニング方法において、候補物質の変わりに未知の試
料を用いれば、試料中に内分泌撹乱物質が存在するか否
かを検査することもできる。
【0027】すなわち、この出願の発明の内分泌撹乱物
質の検査方法では、甲状腺ホルモンとトランスサイレチ
ンを共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランス
サイレチン結合体の量と、甲状腺ホルモンとトランスサ
イレチンと試料を共存させた際に生成する甲状腺ホルモ
ン−トランスサイレチン結合体の量を比較し、試料の共
存により甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の
生成量が変化する場合に、試料が内分泌撹乱物質を含有
すると判定できるのである。一方、試料が共存しても甲
状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量が変
化しない場合には、該試料には内分泌撹乱物質は含まれ
ていないものと判定できる。
【0028】湖沼や河川には、付近の田畑やゴルフ場か
らの農薬や除草剤、あるいは工場からの排水が流入して
いる場合がある。したがって、試料として、これらの環
境水を使用すれば、水質汚染の度合いやそれによる生態
系への影響を検知することが可能となる。
【0029】このような内分泌撹乱物質の検査方法にお
いても、甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の
生成量は、前述の各手法を適用して測定できる。
【0030】以上のとおりのこの出願の発明の内分泌撹
乱物質のスクリーニング方法および検査方法では、各種
物質のヒトに対する影響を調査する観点から、使用する
甲状腺ホルモンは、主にヒトの甲状腺ホルモンとするこ
とが好ましい。ただし、甲状腺ホルモンは、後述の実施
例に示すとおり、アミノ酸誘導体であり、他のペプチド
ホルモンと異なりすべての動物種で同一の構造を持つ。
後述の実施例にも示すとおり、発明者の研究によれば、
化学物質の甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体
生成に対する影響は、生物種によって大きく異なること
が明らかになっているが、内分泌撹乱物質の生物種にお
ける作用の違いは、もっぱら結合性を有する蛋白質や細
胞の生物種による違いを反映すると考えられる。
【0031】また、甲状腺ホルモンには、チロキシン
(テトラヨードチロニン:T4)とトリヨードチロニン
(T3)があり、いずれも甲状腺ホルモンとしての生物活
性を有すると考えられている。トランスサイレチンは、
T4よりもT3を強く認識することから、この出願の発明の
内分泌撹乱物質のスクリーニング方法および検査方法で
は、T3を用いることが好ましい。
【0032】この出願の発明は、以上のとおりの方法に
より内分泌撹乱物質をスクリーニングするための、ある
いは試料中に内分泌撹乱物質が存在するか否かを検査す
るためのキットをも提供する。この出願の発明のスクリ
ーニング用あるいは検査用キットは、少なくとも標識甲
状腺ホルモンとトランスサイレチンを含有することを特
徴とするものである。
【0033】例えば、この出願の発明の内分泌撹乱物質
スクリーニング用キットまたは内分泌撹乱物質検査用キ
ットは、標識甲状腺ホルモンと非標識甲状腺ホルモンと
固定化されたトランスサイレチンと洗浄液を含有するも
のとすることができる。その場合、一定量の標識甲状腺
ホルモンと一定量の非標識甲状腺ホルモンを固定化トラ
ンスサイレチンに接触させた後、洗浄液で固相表面を洗
浄し、固相表面の標識シグナルを測定した後、非標識甲
状腺ホルモンの代わりに前記一定量の候補物質を用いて
同様の操作を行い、固相表面の標識シグナルを測定すれ
ばよい。このとき、固相表面の標識シグナル量が変化す
れば候補物質が標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチ
ン結合体の生成に影響を及ぼしたことが示され、候補物
質が内分泌撹乱物質として作用することが確認できる。
【0034】標識シグナル量が候補物質により減少した
場合には、候補物質は、甲状腺ホルモン−トランスサイ
レチン結合体の生成を阻害するものであることが示され
る。したがって、遊離甲状腺ホルモンが増大する方向に
作用し、細胞内に伝達される甲状腺ホルモン量が増大す
ることが予想される。一方、候補物質の共存により標識
シグナルが増大した場合には、候補物質は、甲状腺ホル
モン−トランスサイレチン結合体の生成における平衡を
崩し、遊離甲状腺ホルモン量が減少する方向に作用する
ものであることが示される。そのため、細胞内に伝達さ
れる甲状腺ホルモン量が減少することが予測できる。
【0035】このようなキットは、以上のとおりのもの
に限定されず、様々な態様を有するものであってよい。
例えばシグナルを発する標識物質は、前記のとおりに酵
素、蛍光色素、放射性同位体等から選択される。また、
トランスサイレチンの固定化方法はとくに限定されず、
ビーズ、ゲル、プレート等に一般的な化学的あるいは生
物学化学的手法により固定化されたものとすることがで
きる。さらに、このようなキットは、標識甲状腺ホルモ
ン、非標識甲状腺ホルモン、洗浄液の他にも、緩衝液、
酵素溶液、色素等、甲状腺ホルモン−トランスサイレチ
ン結合体に適した条件を調整したり、甲状腺ホルモン−
トランスサイレチン結合体の生成を確認したりするのに
適したものを有していてもよい。
【0036】以下、実施例を示してこの出願の発明につ
いてさらに詳細に説明する。もちろん、この出願の発明
は、以下の実施例に限定されるものではないことはいう
までもない。
【0037】
〔準備〕
(1)試薬等 [125I]トリヨードチロニン([125I]T3、122 MBq/μg)
は、NEN Life ScienceProducts社(Boston, MA)より購
入した。
【0038】非標識トリヨードチロニン(T3)、ビスフ
ェノールA(BPA)、ベンゾ[a]ピレン、1−アミノピレ
ン、ペンタクロロフェノール(PCP)はシグマ社より購
入した。p−t−オクチルフェノール、ディコホル、マ
ラチオン、ミレックスは和光純薬社より、p−ノニルフ
ェノール、フタル酸n−ブチルベンジルはナカライテス
クより、アセトクロール、イオキシニルは、林純薬よ
り、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、フタル酸ジ−n
−ブチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、2,4−
ジニトロフェノールは関東化学社より、そして、ジエチ
ルスチレベストロール(DES)は、東京化学工業社より
購入した。
【0039】甲状腺ホルモン([125I]T3、T3)はジメチ
ルスルホキシド(DMSO)に、内分泌撹乱物質として使用
した化学物質のうち、ピレン化合物とマイレックスはベ
ンゼンに、それ以外はエタノールに、それぞれ2.5〜10
mMの濃度で溶解し、-20℃で保存した。これらの溶液を
溶媒の最終濃度が1%(v/v)以下になるように希釈して
用いた。これらの最終溶媒濃度は、一連のホルモン結合
実験に影響を与えなかった。 (2)血清蛋白質およびトランスサイレチン(TTR)の
精製 ニワトリ血清は、静岡ブロイラーセンターより供与を受
けた。ウシガエル・オタマジャクシ血清は、静岡県およ
び埼玉県で採取した個体より採血した。ウズラ血清は静
岡県内の養鶏農家より供与を受けた。サクラマス(masu
salmon)血清は、北海道大学水産学部 原彰彦教授、山
内皓平教授より提供を受けた。ヒト血清は、実験目的・
内容を説明した上で、ボランティア(成人男性)より供
与を受けた。
【0040】血清蛋白質のなかで、甲状腺ホルモン結合
能を有する蛋白質は60 kDa画分を用いて行った。TTRの
精製は、ヒト・レチノール結合蛋白質を架橋させたセフ
ァロース4Bカラムを用いたアフィニティー・クロマトグ
ラフィーにより精製した(Larsson M. et al. (1985) G
en.Comp.Endocrinol. 58, 360-375)。これらの血清の
精製度はSDS-PAGEを行い、銀染色で確認した(Laemmli,
U.K. (1970) Nature227, 680-685)。蛋白質量はBradf
ord法(Bradford, M.M. (1976) Anal.Biochem. 72, 248
-254)で行った。
【0041】なお、甲状腺ホルモン結合蛋白質は、血漿
(血液から、赤血球、白血球、血小板等の血球を除いた
液状成分)にも、血清(血液を凝固させた後凝固塊を除
去して得られる上澄みで、アルブミン、グロビンなどの
蛋白質をはじめ、生体の機能維持に必要なさまざまな成
分を含む)にも含まれる。血清は血球の他にフィブリノ
ーゲン、第VIII因子、第V因子、プロトロンビン、第XI
II因子など一部の凝固因子が失われていることから、血
漿と区別し、ここでは甲状腺ホルモン結合蛋白質を血清
蛋白質と呼ぶことがある。 (3)環境水の採取・処理 環境水は、塩素化合物を含んでいるという報告がすでに
なされている富士市の用水路水(Fukazawa, H. et al
(2001) Chemosphere 44, 973-979)およびその下流域に
位置する田子の浦湾の水を採取した。この水は、以下の
2通りの処理を行った: (a)1500 x g, 30分の遠心によって懸濁物を除去した
後、直接アッセイに用いた。アッセイ溶液中での環境水
濃度は、x 0.8で測定した。
【0042】(b)500 mlの水をガラス・フィルター
(GF-100/GA-100、アドバンテック社)でろ過した後、
固相ディスク(C18-FF、3 M)に化学物質を吸着させ、4
mlのジクロロメタンで2回溶出を行った。この溶出液を
無水硫酸ナトリウムで脱水処理し、窒素ガス流中で乾燥
させた。これを0.5 mlのDMSOに溶解した。これをアッセ
イ溶液に250倍から16000倍希釈して用いた。 〔ホルモン結合実験〕 (1)スクリーニング対象物質 スクリーニング対象は、合成女性ホルモンであるDES、
合成洗剤、樹脂または樹脂材料であるp−t−オクチル
フェノール、p−ノニルフェノール、ビスフェノール
A、可塑剤として用いられるフタル酸類(フタル酸n−
ブチルベンジル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ
−2−エチルヘキシル)、非意図的生成物である2,4
−ジニトロフェノール、ベンゾ[a]ピレンとその類似物
質である1−アミノピレン、殺菌剤であるペンタクロロ
フェノール、除草剤である2,4−ジクロロフェノキシ
酢酸、イオキシニル、アセトクロール、殺虫剤であるデ
ィコホル(ケルセン)、マイレックス、マラチオンの17
種類の化学物質とした。 (2)血清サンプルの調整 まず、甲状腺ホルモン結合蛋白質に富む血清サンプルを
得るために、それぞれの生物から採取した血清をゲルク
ロマトグラフィー(セルロファインGCL100 sfカラム)
で分画した。高いT3結合活性は、これら4生物種でいず
れも60 kDa画分に得られた。
【0043】サクラマス血清は非特異的結合性が高い
が、この操作により測定感度を挙げることができた。 (3)結合試験 血清蛋白質または精製したTTRの甲状腺ホルモン結合試
験は、Yamauchiらの方法(Yamauchi, K. et al. (2000)
Gen.Comp.Endocrinol. 119, 329-339)に従って行っ
た。
【0044】血清蛋白質を250μlの0.1 nM [125I]T3
含む20 mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.5)、93 mM塩化ナト
リウム、1 mM塩化カルシウムで4℃、60分間インキュベ
ートした。競合阻害実験では、10-10〜10-5 Mの濃度範
囲の非標識ホルモンまたは化学物質存在下でインキュベ
ーションを行った。
【0045】蛋白質に結合した[125I]T3は、Dowex樹脂
法(Yamauchi K. et al (1994) Eur.J.Biochem. 225, 1
105-1112)で遊離[125I]T3と分離した。インキュベーシ
ョン後、各試験管に100μlの10 % (w/v)イオン交換樹脂
AG1-X8(バイオラッド社)水溶液を加えて攪拌し、遊離
[125I]T3を吸着させた。その後4℃、3000 rpm、5分間の
遠心分離によって樹脂を沈降させ、上清を蛋白質に結合
した[125I]T3画分として回収し、ガンマカウンター(Au
to Well Gamma System ARC-2000、アロカ社)で測定し
た。
【0046】なお、得られた値は、非特異的に結合した
[125I]T3も含むと考えられることから、非標識ホルモン
の代わりに5μM T3を共存させてインキュベーションを
行い、このとき得られた蛋白質に結合した[125I]T3画分
を非特異的に結合した[125I]T3として算出し、前記の値
から差し引いて特異的な[125I]T3量を得た。
【0047】リガンドの結合親和性はスキャッチャード
・プロット(Scatchard, G. (1949)Comp.Biochem.Physi
ol. 116B, 137-160)より算出した。 (4)結果 ヒト、ニワトリ、ウシガエル、サクラマス血清蛋白質の
甲状腺ホルモン結合能に及ぼす化学物質の影響を図1に
示した。
【0048】4種のXenoestrogen(DES、オクチルフェノ
ール、ノニルフェノール、ビスフェノールA)の中で
も、DESはニワトリ、ウシガエル、サクラマス血清蛋白
質のT3結合を最も強く阻害し、ビスフェノールAはヒト
血清蛋白質のT3結合を最も強く阻害することが示され
た。2種のピレン化合物では、1−アミノピレンは、ベ
ンゾ[a]ピレンよりも4生物種の甲状腺ホルモン結合蛋白
質のT3結合活性を阻害したが、その効果は弱いものであ
った。また、3種のフタル酸類では、いずれもT3結合活
性をほとんど阻害しなかった。
【0049】さらに、8種の農薬では、イオキシニルお
よびペンタクロロフェノールが、ニワトリ、ウシガエ
ル、サクラマス血清蛋白質のT3結合を最も強く阻害し
た。また、マイレックスは、ウシガエル甲状腺ホルモン
結合蛋白質に対してのみ、マラチオンは、ニワトリの甲
状腺ホルモン結合蛋白質に対してのみ結合阻害作用を示
した。しかし、8種の農薬は、いずれもヒト甲状腺ホル
モン結合蛋白質に対して、T 3結合阻害作用を示さなかっ
た。また、8μMディコホルは、他生物種の甲状腺ホルモ
ン結合蛋白質のT3結合活性に対してほとんど影響しない
ものの、ウシガエル甲状腺ホルモン結合蛋白質について
は、T3結合活性を約2倍まで増加させるという興味深い
結果が示された。 <実施例2> ニワトリおよびウシガエルにおけるT3-T
TR結合阻害試験 ニワトリ、ウシガエル血清蛋白質の甲状腺ホルモン結合
活性を阻害する化学物質、DES、イオキシニル、ペンタ
クロロフェノール、マラチオン、ディコホル、ビスフェ
ノールAについて、それぞれ10-10 M〜10-5 Mの濃度範
囲で精製ニワトリTTRおよびウシガエルTTRと[125I]T3
結合阻害試験を行った。
【0050】また、非標識のT3を用いて同様の試験を行
った。
【0051】図2に結果を示した。
【0052】最も強い阻害を示した物質はDESであっ
た。その[125I]T3を50%阻害する濃度(IC50)は、ニワ
トリTTRおよびウシガエルTTRにおいて、およそ0.4 nMと
0.3 nMであった。内在性ホルモンであるT3のIC50は、そ
れぞれ21 nM、0.5 nMであることからDESは内在性ホルモ
ンよりニワトリTTRに対して102倍、ウシガエルのTTRに
対して同程度の結合親和性を有することが示された。
【0053】ニワトリTTRにおいて、イオキシニル、ペ
ンタクロロフェノールのIC50は、それぞれ6 nM、15 nM
であり、その結合親和性はT3よりわずかに強かった。ま
た、マラチオン、ディコホル、ビスフェノールAのIC50
は、μMのオーダーであり、T 3より弱い結合親和性を示
した。
【0054】ウシガエルTTRにおいてペンタクロロフェ
ノール、イオキシニル、ビスフェノールA、マラチオン
のIC50は、それぞれ45 nM、100 nM、1.5 μM、2.7μMで
あり、その結合親和性は、いずれもT3より弱かった。
【0055】これらの結果から、DES、ペンタクロロフ
ェノール、イオキシニルが、ニワトリ、ウシガエルの2
生物種においてTTRによく認識されることが示された。
また、これらの化合物は、とくにニワトリにおいて内在
性ホルモンであるT3のTTRへの結合を強く阻害すること
が示された。
【0056】さらに、ディコホルは、ウシガエルTTRに
対するT3の結合を促進することが示された。このように
TTRとT3の結合を促進する作用を示す化学物質の存在
は、これまで知られておらず、この発明のスクリーニン
グ方法によりはじめて確認されたものである。これよ
り、内分泌撹乱物質が、TTRに結合し、本来結合すべきT
3との結合を阻害することにより内分泌を撹乱している
とは限らないことが示され、化学物質が血液中の遊離甲
状腺ホルモン濃度を上昇させるだけでなく、遊離甲状腺
ホルモン濃度を低下させる働きをも有することが示唆さ
れた。 <実施例3> 化学物質とTTRの結合様式 化学物質がTTRにどのように作用して甲状腺ホルモンの
結合に影響を与えるのかを明らかにするために、化学物
質の存在下または非存在下で各種濃度の非標識T3および
一定濃度の[125I]T3と精製ニワトリTTRおよびウシガエ
ルTTRをインキュベーションし、スキャッチャード・プ
ロット(Scatchard, G. (1949) Comp. Biochem. Physio
l. 116B, 137-160)により解析を行った。
【0057】図3にスキャッチャード・プロットを、表
1に結果を示した。
【0058】
【表1】
【0059】図3におけるの直線の傾きから、化学物質
存在下では、T3とTTRの解離定数(K d)が算出され、ニ
ワトリTTR(図3a)では28 nM、ウシガエルTTR(図3
b)では2.7 nMであり、従来の報告(Chang, L., et a
l. (1999) Eur. J. Biochem. 259, 534-542; Yamauchi,
K., et al. (2000) Gen. Comp. Endocrinol. 119, 329
-339)とほぼ一致することが確認された。また、グラフ
が直線であることから、TTR分子には単一クラスの結合
部位が存在することが示唆された。
【0060】一方、0.35 nM DES、4 nM イオキシニル、
および6 nMペンタクロロフェノール存在下では、いずれ
もT3に対するニワトリTTRの見かけのKdはそれぞれ62 n
M、53nM、49 nMと変化し、図の横軸切片から求められる
最大結合容量は変わらなかった(図3a)。同様の結果
はウシガエルTTRに対して100 nMペンタクロロフェノー
ル、40 nMディコホルを作用させた際にも認められた。
【0061】この結果から、化学物質がTTR分子の甲状
腺ホルモン結合部位に拮抗的に作用することが示唆され
た。
【0062】TTRに作用する化学物質の構造式を甲状腺
ホルモンの構造式と比較したところ、甲状腺ホルモン
は、フェニル基の水酸基の両側または一方がハロゲン化
(ヨウ素化)されているが、同様の構造はペンタクロロ
フェノール(塩素化)、イオキシニル(ヨウ素化)にお
いて確認された。しかし、DESやディコホルではそのよ
うな類似性は見られなかったことから、TTRに作用する
化学物資は、甲状腺ホルモンと類似の構造を有するもの
に限定されないことが示された。
【0063】
【化1】
【0064】<実施例4> 化学物質の構造と内分泌撹
乱作用 化学物質の構造が内分泌撹乱作用にどのように関連する
か、とくにフェニル基における水酸基の両側または一方
のハロゲン化がどのように影響するかについて調査し
た。
【0065】ビスフェノール塩素化体とノニルフェノー
ル塩素化体を用いて、精製ニワトリTTRおよびウシガエ
ルTTRへの[125I]T3の結合阻害試験を行った。ビスフェ
ノール塩素化体としては、1塩素化体から4塩素化体ま
で、ノニルフェノール塩素化体としては、1塩素化体か
ら2塩素化体までを検討した。
【0066】
【化2】
【0067】結果を図4に示した。
【0068】図4より、塩素化の程度が高い化合物ほ
ど、TTRと[125I]T3結合を強く阻害することが確認され
た。また、ビスフェノール塩素化体では、3,3'-ジ塩素
化体より3,5-ジ塩素化体の方がニワトリTTRと[125I]T3
結合を強く阻害することが示された。
【0069】これらの化合物が内在性ホルモンであるT3
とTTRの結合を阻害する能力は、ウシガエルTTRよりニワ
トリTTRに対して強かった。
【0070】したがって、フェニル基の水酸基の両側ま
たは一方のハロゲン化がTTRへの結合に大きく影響する
ことが示唆された。 <実施例5> 環境水中の内分泌撹乱物質の検査1 ビスフェノールの塩素化体を含む環境水を用いて、TTR
の[125I]T3結合に及ぼす影響を検討した。試料は、ジク
ロロメタン抽出し、その濃度によってTTR-T3結合がどの
程度阻害されるかを調べた。
【0071】結果を図5に示した。
【0072】環境水は、ウシガエル、ニワトリ、ウズラ
のいずれの精製TTRと[125I]T3の結合も阻害した。ま
た、環境水x 1でその程度が最も大きく、x 4では阻害の
程度も緩和された。以上より、この発明の方法により、
環境水中に含まれる内分泌撹乱物質の検査も可能である
ことが確認された。 <実施例6> 環境水中の内分泌撹乱物質の検査2 実施例5で用いた環境水とその下流域に相当する3箇所
の水を採取し、そのままの環境水と、実施例5同様に環
境水をジクロロメタンで抽出し、化学物質を濃縮した試
料について、TTRと[125I]T3の結合に及ぼす影響を調べ
た。
【0073】図6に結果を示した。
【0074】いずれの試料においても、汚染源から遠ざ
かるにつれ、TTRの[125I]T3結合に及ぼす影響は緩和さ
れた。また、環境水そのものよりも、ジクロロメタンに
よる抽出を行った試料の方がTTRの[125I]T3結合阻害作
用が大きかった。
【0075】これより、環境水に含まれる内分泌撹乱物
質が、そのままの濃度ではTTRの[12 5I]T3結合に影響を
与えにくい状態であることが確認された。
【0076】しかし、いずれの試料を用いた場合にも、
x 1の濃度で十分にTTRの[125I]T3結合に影響を及ぼす化
学物質が検出できた。
【0077】同様の試験を別の河川(静岡県清水市)か
ら採取した水を用いて行ったところ、x 1では、TTRの[
125I]T3結合阻害は認められなかった。したがって、こ
の発明の方法により、環境水中に内分泌撹乱物質が存在
するか否かを判定することも可能であることが確認でき
た。
【0078】
【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この出願の
発明により、内分泌撹乱物質を効率的にスクリーニング
するための方法と、環境中に内分泌撹乱物質が含まれて
いるか否かを検査する精度高い方法が提供される。この
内分泌撹乱物質のスクリーニング方法および検査方法で
は、数時間のアッセイで50〜100検体の測定が可能
であり、従来のHPLCや質量分析を用いる方法に比べ、安
価であり、試料の前処理等を必要とせず、簡便で有用性
が高い。
【0079】この出願の発明の内分泌撹乱物質のスクリ
ーニング方法は、内分泌系を撹乱することが想定される
化合物だけでなく、未知の化合物や、内分泌撹乱物質を
含有するかしないか不明な試料に対しても試験すること
が可能であり、環境の汚染状況やリスクアセスメントに
威力を発揮すると期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の実施例において、17種類の化
学物質がT3とTTRの結合反応に及ぼす影響を4種の生物に
ついて試験した結果を示すグラフである。
【図2】この出願の発明の実施例において、化学物質に
よるT3-TTR結合阻害試験におけるT3-TTR結合体生成量と
化学物質濃度の関係を示した図である。(a:ニワト
リ、b:ウシガエル)
【図3】この出願の発明の実施例において、化学物質存
在下におけるT3-TTR結合のScatchardプロットを示した
図である。(a:ニワトリ、b:ウシガエル)
【図4】この出願の発明の実施例において、塩素化フェ
ノールの濃度とT3-TTR結合体生成量の関係を示した図で
ある。(a:ニワトリ、b:ウシガエル)
【図5】この出願の発明の実施例において、環境水の濃
度とT3-TTR結合体生成度(コントロールに対する%)を
各生物毎に示した図である。
【図6】この出願の発明の実施例において、各領域から
採取した環境水を共存させた際のT3-TTR結合体生成度
(コントロールに対する%)を示した図である。(ウズ
ラ)

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 内分泌撹乱物質をスクリーニングする方
    法であって、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共
    存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレ
    チン結合体の量と、甲状腺ホルモンとトランスサイレチ
    ンと候補物質を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン
    −トランスサイレチン結合体の量を比較し、共存させる
    ことにより甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体
    の生成量を変化させる候補物質を内分泌撹乱物質と判定
    することを特徴とする内分泌撹乱物質のスクリーニング
    方法。
  2. 【請求項2】 試料中に内分泌撹乱物質が存在するか否
    かを検査する方法であって、甲状腺ホルモンとトランス
    サイレチンを共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−
    トランスサイレチン結合体の量と、甲状腺ホルモンとト
    ランスサイレチンと試料を共存させた際に生成する甲状
    腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を比較し、
    試料の共存により甲状腺ホルモン−トランスサイレチン
    結合体の生成量が変化する場合に、試料が内分泌撹乱物
    質を含有すると判定することを特徴とする内分泌撹乱物
    質の検査方法。
  3. 【請求項3】 請求項1または2の方法のためのキット
    であって、少なくとも標識甲状腺ホルモンとトランスサ
    イレチンを含有することを特徴とする内分泌撹乱候補物
    質のスクリーニングまたは検出用キット。
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WO2013184950A3 (en) * 2012-06-06 2014-02-27 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health & Human Services Kits for detecting and monitoring endocrine disrupting chemicals (edcs)
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