JP3768916B2 - 内分泌撹乱物質のスクリーニング方法とそのためのキット - Google Patents

内分泌撹乱物質のスクリーニング方法とそのためのキット Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、内分泌撹乱物質のスクリーニング方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は甲状腺ホルモンとトランスサイレチンの結合体の生成量を候補物質存在下および非存在下で比較し、甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量を低下させる候補物質を内分泌撹乱物質として判定することを特徴とする内分泌撹乱物質のスクリーニング方法とそのためのキットに関するものである。
【0002】
【従来技術とその課題】
化学物質は、今や産業廃棄物や工業排水、排気ガスに限らず、保存料等の食品添加物、各種の医農薬品、洗剤等の香粧品、建築建材の防腐剤や塗料等、あらゆる形態で我々の生活に浸透している。そのため、近年、大気や河川、あるいは各種製品中の化学物質の生態系や人体への影響が社会的に注目されている。
【0003】
これらの化学物質の中でも、いわゆる「環境ホルモン」として知られる物質については、内分泌を撹乱する物質として、世界的に定義されている。例えば、世界保健機構・化学物質安全計画(International Program for Chemical Safety, World Health Organization; IPCS, WHO)は、内分泌撹乱物質(内分泌障害性化学物質(EDC):Endocrine Disrupting Chemicals)について、暫定的に「内分泌系の機能を変質させ、それによって無処置の個体やその子孫あるいは集団(もしくは一部の亜集団)に有害な影響を引き起こす外因性の化学物質またはその混合物」と定義している。また、日本においても、内分泌撹乱作用を有することが疑われている約70の化学物質が環境庁により公表されており、官公庁、自治体、各業界等がこれらの化学物質の製造、使用、排出について一定の規定を設けるなど、様々な対策が進められている。同時に、内分泌撹乱物質の作用機構についても多くの研究がなされている。
【0004】
ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、レチノイド、ビタミンD等のホルモンやホルモン様分子は疎水性が高いため、血液中や細胞内ではその大部分が血清蛋白質に結合した状態で存在し、遊離の状態で存在する割合は極めて低いことが知られている。そして、血清蛋白質との結合・解離平衡において生じたわずかな遊離ホルモンが組織に運搬されることが知られている(Ekins R. et al. (1982) "Free Hormones in Blood" (Albertini, A. and Ekins, R.P. eds.), pp3-44, Elsevier Biomedical Press, NY; Mendel, C.M. (1989) Endocrine Rev. 10, 232-274)。また、細胞膜に存在するこれらの結合蛋白質に対する受容体が、脂溶性シグナル分子の細胞への取り込みを行うことも報告されている(Divino, C.M. and Schussler, G.C. (1989) Clin. Res. 37, 357A; Vieira, A.V. et al. (1995) J.Biol.Chem. 270, 2952-2956; Kuchler-Bopp, S. et al. (1998) Brain Res. 793, 219-230; Sivaprasadarao, A. and Findlay, J.B.C. (1988) Biochem. J. 255, 561-569; Bavik C.O. et al., (1992) J.Biol.Chem. 267, 23035-23042)。
【0005】
前記の内分泌撹乱物質の多くは、これらシグナル分子同様に疎水性の化合物であることから、内在性シグナル分子と同様に作用し、その輸送系を撹乱するものと考えられる。実際に、ダイオキシン類やポリ塩化ビフェニル(PCB)類の中には、血清中の甲状腺ホルモン結合蛋白質であるトランスサイレチン(Transthyretin; TTR)と強く結合し、内在性のホルモンを追い出し、ホルモンのクリアランスを増加させるものがあることが報告されている(Brouwer and Van den Berg (1986) Toxicol. Appl. Pharmacol. 85, 301-312; Brouwer et al. (1998) Toxicol. Ind. Health 14, 59-84)ことからも、体内に侵入したある種の内分泌撹乱物質は、血清蛋白質によって組織に移行されると考えられている。さらに、動物個体では、女性ホルモン作用を示す内分泌撹乱物質の生物活性が、血清蛋白質に結合する強さに依存して変化することが知られていることから(Nagel, S.C., et al. (1997) Environ. Health Perspect. 105, 70-76)、内分泌撹乱物質が組織に取りこまれる過程には、血清蛋白質が関与していると考えられている。
【0006】
このような内分泌撹乱物質を分析する方法としては、従来、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や質量分析等の化学的手法が用いられてきた。しかし、これらの方法は、サンプルの前処理に煩雑な操作を要すること、1検体あたりの分析に要する時間が長いこと、1検体あたりの分析費用が高額であり多種のサンプルを処理できないことなどの問題点を有していた。
【0007】
そこで、近年では、生物材料を利用したアッセイ法の開発が検討されている。具体的に、in vitro法としては、受容体を介した内分泌撹乱物質のシグナル応答を試験するレポーター・アッセイ、受容体や血清蛋白質に対する化学物質の結合を試験するホルモン結合実験、脱ヨード酵素を用いてホルモンの活性化・不活性化を試験する方法などが知られている。また、オタマジャクシの変態への影響を観察するオタマジャクシ変態アッセイ、甲状腺の組織変化、血液中の甲状腺ホルモン量の変化をラジオイムノアッセイ(RIA)法により確認する方法などのin vivo法も検討されている。
【0008】
しかし、これら従来のアッセイ法は、主に受容体を標的とすることが知られているステロイド系を撹乱する物質に対しては適用できるが、甲状腺系を撹乱する物質については受容体への結合性が弱い(主要な作用点が受容体以外にある)ため、有効ではなかった。また、試験に長時間を有する、測定精度が低い等の問題もあった。
【0009】
したがって、甲状腺系のように内分泌撹乱物質の受容体への結合性が弱い系に対する内分泌撹乱物質をスクリーニングする効率的な方法は知られていなかったのが実情である。
【0010】
さらに、湖沼や河川等のように、内分泌撹乱物質が含まれているか否かが不明な環境水や、このような環境水中に含まれる未知の物質が内分泌撹乱作用を有するか否かを検査する簡便な方法は知られていなかったのが実情である。
【0011】
この出願の発明は、以上のとおりの問題点を解決し、内分泌撹乱物質を効率的にスクリーニングするための方法と、環境中に内分泌撹乱物質が含まれているか否かを検査する精度高い方法を提供することを課題としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、以上のとおりの課題を解決するものとして、まず、第1には、内分泌撹乱物質をスクリーニングする方法であって、
甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量と、
甲状腺ホルモンとトランスサイレチンと候補物質を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を比較し、
共存させることにより甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量を変化させる候補物質を内分泌撹乱物質と判定することを特徴とする内分泌撹乱物質のスクリーニング方法を提供する。
【0013】
この出願の発明は、第2には、試料中に内分泌撹乱物質が存在するか否かを検査する方法であって、
甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量と、
甲状腺ホルモンとトランスサイレチンと試料を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を比較し、
試料の共存により甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量が変化する場合に、試料が内分泌撹乱物質を含有すると判定することを特徴とする内分泌撹乱物質の検査方法を提供する。
【0014】
そして、この出願の発明は、第3には、前記のスクリーニング方法、または検査方法のためのキットであって、少なくとも標識甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを含有することを特徴とする内分泌撹乱候補物質のスクリーニングまたは検出用キットをも提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】
この出願の発明者は、ステロイド系を撹乱する化学物質は主に受容体を標的とすることが知られているが、甲状腺系を撹乱する化学物質は受容体への結合が弱く、主要な作用点が受容体以外にあること、さらに、ある種のダイオキシン類やPCB類が血清蛋白質、トランスサイレチン(TTR)を強く認識するという事実に着目し、鋭意研究により本願発明のスクリーニング方法および検査方法に至ったものである。
【0016】
この出願の発明の内分泌撹乱物質のスクリーニング方法は、次の3つのステップを有するものであるといえる。
(1)まず、甲状腺ホルモンとトランスサイレチン(TTR)を共存させ、そのとき生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を測定する。
(2)次に、甲状腺ホルモンとトランスサイレチン(TTR)と候補物質を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を測定する。
(3)(1)と(2)で得られた甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を比較する。
【0017】
そして、以上(1)〜(3)のステップにおいて、共存させることにより甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量が変化した候補物質が、内分泌撹乱物質と判定される。
【0018】
すなわち、この出願の発明の内分泌撹乱物質のスクリーニング方法は、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンの結合反応において、候補物質が取りこまれた際に競合反応を起こし、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンの結合・解離平衡に影響を及ぼすか否かを確認するものであるといえる。
【0019】
生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量は、種々の化学的、生物学的、分光学的方法により測定することができる。例えば、予め甲状腺ホルモンを標識し、標識甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共存させれば、標識ホルモン−トランスサイレチン結合体が生成される。その後、標識甲状腺ホルモン単体を分離・除去すれば、生成された甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体によるシグナル量が測定できる。同様に、標識甲状腺ホルモンとトランスサイレチンと候補物質を共存させ、生成される標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体と標識甲状腺ホルモン単体を分離・除去し、シグナル量を測定すれば、候補物質共存時の標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体量が測定できる。したがって、先に得られた候補物質非存在下でのシグナル量と比較し、シグナル量に変化が見られれば、候補物質は内分泌撹乱物質として作用するものであるといえる。
【0020】
このような方法において、甲状腺ホルモンの標識は、酵素、蛍光色素、放射性同位体等を用いて行うことができる。酵素は、甲状腺ホルモンと結合させても安定であり、甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成に影響を及ぼさないものであればよく、とくに限定されない。また、蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRIC)等通常の蛍光法に用いられる物質の他、緑色蛍光蛋白質等の蛍光蛋白質を使用することもできる。さらに、放射性同位体を用いて甲状腺ホルモンを標識する場合には、125Iや3H等、通常のラジオイムノアッセイ(RIA)で用いられるものを適用できる。甲状腺ホルモンには、トリヨードチロニン(T3)とチロキシン(T4)があり、いずれも分子中にヨウ素を含有することから、甲状腺ホルモンの標識は、放射性物質、中でも125Iを用いて行うことが好ましい。
【0021】
シグナルの検出には、公知の各種の手法が適用できる。例えば、標識物質として酵素を用いる場合には、酵素作用によって分解して発光する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することにより結合体の生成量を算出する方法が適用できる。また、蛍光色素を使用する場合には、蛍光顕微鏡を組み合わせた測定装置によって蛍光量を測定することができる。さらに、放射性同位体を用いる場合には、放射性同位体の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定すればよい。
【0022】
以上のとおりの内分泌撹乱物質のスクリーニング方法は、前記のとおり、内分泌撹乱候補物質を甲状腺ホルモンと競合させ、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンの結合反応への影響を検出するものである。したがって、標識甲状腺ホルモンを用いて甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量を測定する場合には、前記のステップ(1)は、一定量の標識甲状腺ホルモンと一定量のトランスサイレチンと一定量の非標識甲状腺ホルモンの存在下で行い、ステップ(2)では、(1)と等量の標識甲状腺ホルモンと等量のトランスサイレチンに対し、前記非標識甲状腺ホルモンと等量の候補物質を添加して行うことが好ましい。これにより、系内の物質濃度が一定に保たれるとともに、標識甲状腺ホルモンとトランスサイレチンの結合性を非標識甲状腺ホルモン存在下および候補物質存在下で比較するため、より精度高いスクリーニングが可能となる。
【0023】
さらに、この出願の発明の内分泌撹乱物質のスクリーニング方法では、次の手順により候補物質のトランスサイレチンに対する結合親和性を判定することも可能となる。
(a)まず、各濃度の非標識甲状腺ホルモンと一定量の標識甲状腺ホルモンと、一定量のトランスサイレチンを共存させ、生成する標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を測定し、非標識甲状腺ホルモン濃度に対してプロットして検量線を得る。
(b)次に、任意の量の候補物質と前記一定量の標識甲状腺ホルモンと、前記一定量のトランスサイレチンを共存させ、生成する標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量をこの検量線と比較する。
【0024】
すなわち、このとき候補物質共存時に生成される標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量が検量線よりも上にあれば、該候補物質はトランスサイレチンに対する結合親和性が甲状腺ホルモンよりも高いものと判断できるのである。このような物質は、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンの結合を阻害する可能性が高いことから、甲状腺系に大きな影響を与えることが示唆される。
【0025】
さらに、同様の原理により、各濃度の化学物質と一定量の標識甲状腺ホルモンと、一定量のトランスサイレチンを共存させ、生成する標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を測定し、この量を化学物質濃度に対してプロットした検量線を予め準備すれば、任意の試料中に含まれる該化学物質量を定量することも可能となる。
【0026】
この出願の発明では、さらに、前記のスクリーニング方法において、候補物質の変わりに未知の試料を用いれば、試料中に内分泌撹乱物質が存在するか否かを検査することもできる。
【0027】
すなわち、この出願の発明の内分泌撹乱物質の検査方法では、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量と、甲状腺ホルモンとトランスサイレチンと試料を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を比較し、試料の共存により甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量が変化する場合に、試料が内分泌撹乱物質を含有すると判定できるのである。一方、試料が共存しても甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量が変化しない場合には、該試料には内分泌撹乱物質は含まれていないものと判定できる。
【0028】
湖沼や河川には、付近の田畑やゴルフ場からの農薬や除草剤、あるいは工場からの排水が流入している場合がある。したがって、試料として、これらの環境水を使用すれば、水質汚染の度合いやそれによる生態系への影響を検知することが可能となる。
【0029】
このような内分泌撹乱物質の検査方法においても、甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量は、前述の各手法を適用して測定できる。
【0030】
以上のとおりのこの出願の発明の内分泌撹乱物質のスクリーニング方法および検査方法では、各種物質のヒトに対する影響を調査する観点から、使用する甲状腺ホルモンは、主にヒトの甲状腺ホルモンとすることが好ましい。ただし、甲状腺ホルモンは、後述の実施例に示すとおり、アミノ酸誘導体であり、他のペプチドホルモンと異なりすべての動物種で同一の構造を持つ。後述の実施例にも示すとおり、発明者の研究によれば、化学物質の甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体生成に対する影響は、生物種によって大きく異なることが明らかになっているが、内分泌撹乱物質の生物種における作用の違いは、もっぱら結合性を有する蛋白質や細胞の生物種による違いを反映すると考えられる。
【0031】
また、甲状腺ホルモンには、チロキシン(テトラヨードチロニン:T4)とトリヨードチロニン(T3)があり、いずれも甲状腺ホルモンとしての生物活性を有すると考えられている。トランスサイレチンは、T4よりもT3を強く認識することから、この出願の発明の内分泌撹乱物質のスクリーニング方法および検査方法では、T3を用いることが好ましい。
【0032】
この出願の発明は、以上のとおりの方法により内分泌撹乱物質をスクリーニングするための、あるいは試料中に内分泌撹乱物質が存在するか否かを検査するためのキットをも提供する。この出願の発明のスクリーニング用あるいは検査用キットは、少なくとも標識甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを含有することを特徴とするものである。
【0033】
例えば、この出願の発明の内分泌撹乱物質スクリーニング用キットまたは内分泌撹乱物質検査用キットは、標識甲状腺ホルモンと非標識甲状腺ホルモンと固定化されたトランスサイレチンと洗浄液を含有するものとすることができる。その場合、一定量の標識甲状腺ホルモンと一定量の非標識甲状腺ホルモンを固定化トランスサイレチンに接触させた後、洗浄液で固相表面を洗浄し、固相表面の標識シグナルを測定した後、非標識甲状腺ホルモンの代わりに前記一定量の候補物質を用いて同様の操作を行い、固相表面の標識シグナルを測定すればよい。このとき、固相表面の標識シグナル量が変化すれば候補物質が標識甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成に影響を及ぼしたことが示され、候補物質が内分泌撹乱物質として作用することが確認できる。
【0034】
標識シグナル量が候補物質により減少した場合には、候補物質は、甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成を阻害するものであることが示される。したがって、遊離甲状腺ホルモンが増大する方向に作用し、細胞内に伝達される甲状腺ホルモン量が増大することが予想される。一方、候補物質の共存により標識シグナルが増大した場合には、候補物質は、甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成における平衡を崩し、遊離甲状腺ホルモン量が減少する方向に作用するものであることが示される。そのため、細胞内に伝達される甲状腺ホルモン量が減少することが予測できる。
【0035】
このようなキットは、以上のとおりのものに限定されず、様々な態様を有するものであってよい。例えばシグナルを発する標識物質は、前記のとおりに酵素、蛍光色素、放射性同位体等から選択される。また、トランスサイレチンの固定化方法はとくに限定されず、ビーズ、ゲル、プレート等に一般的な化学的あるいは生物学化学的手法により固定化されたものとすることができる。さらに、このようなキットは、標識甲状腺ホルモン、非標識甲状腺ホルモン、洗浄液の他にも、緩衝液、酵素溶液、色素等、甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体に適した条件を調整したり、甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成を確認したりするのに適したものを有していてもよい。
【0036】
以下、実施例を示してこの出願の発明についてさらに詳細に説明する。もちろん、この出願の発明は、以下の実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0037】
【実施例】
<実施例1> 内分泌撹乱物質のTTR−T3結合阻害試験
〔準備〕
(1)試薬等
[125I]トリヨードチロニン([125I]T3、122 MBq/μg)は、NEN Life Science Products社(Boston, MA)より購入した。
【0038】
非標識トリヨードチロニン(T3)、ビスフェノールA(BPA)、ベンゾ[a]ピレン、1−アミノピレン、ペンタクロロフェノール(PCP)はシグマ社より購入した。p−t−オクチルフェノール、ディコホル、マラチオン、ミレックスは和光純薬社より、p−ノニルフェノール、フタル酸n−ブチルベンジルはナカライテスクより、アセトクロール、イオキシニルは、林純薬より、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、2,4−ジニトロフェノールは関東化学社より、そして、ジエチルスチレベストロール(DES)は、東京化学工業社より購入した。
【0039】
甲状腺ホルモン([125I]T3、T3)はジメチルスルホキシド(DMSO)に、内分泌撹乱物質として使用した化学物質のうち、ピレン化合物とマイレックスはベンゼンに、それ以外はエタノールに、それぞれ2.5〜10 mMの濃度で溶解し、-20℃で保存した。これらの溶液を溶媒の最終濃度が1%(v/v)以下になるように希釈して用いた。これらの最終溶媒濃度は、一連のホルモン結合実験に影響を与えなかった。
(2)血清蛋白質およびトランスサイレチン(TTR)の精製
ニワトリ血清は、静岡ブロイラーセンターより供与を受けた。ウシガエル・オタマジャクシ血清は、静岡県および埼玉県で採取した個体より採血した。ウズラ血清は静岡県内の養鶏農家より供与を受けた。サクラマス(masu salmon)血清は、北海道大学水産学部 原彰彦教授、山内皓平教授より提供を受けた。ヒト血清は、実験目的・内容を説明した上で、ボランティア(成人男性)より供与を受けた。
【0040】
血清蛋白質のなかで、甲状腺ホルモン結合能を有する蛋白質は60 kDa画分を用いて行った。TTRの精製は、ヒト・レチノール結合蛋白質を架橋させたセファロース4Bカラムを用いたアフィニティー・クロマトグラフィーにより精製した(Larsson M. et al. (1985) Gen.Comp.Endocrinol. 58, 360-375)。これらの血清の精製度はSDS-PAGEを行い、銀染色で確認した(Laemmli, U.K. (1970) Nature 227, 680-685)。蛋白質量はBradford法(Bradford, M.M. (1976) Anal.Biochem. 72, 248-254)で行った。
【0041】
なお、甲状腺ホルモン結合蛋白質は、血漿(血液から、赤血球、白血球、血小板等の血球を除いた液状成分)にも、血清(血液を凝固させた後凝固塊を除去して得られる上澄みで、アルブミン、グロビンなどの蛋白質をはじめ、生体の機能維持に必要なさまざまな成分を含む)にも含まれる。血清は血球の他にフィブリノーゲン、第VIII因子、第V因子、プロトロンビン、第XIII因子など一部の凝固因子が失われていることから、血漿と区別し、ここでは甲状腺ホルモン結合蛋白質を血清蛋白質と呼ぶことがある。
(3)環境水の採取・処理
環境水は、塩素化合物を含んでいるという報告がすでになされている富士市の用水路水(Fukazawa, H. et al (2001) Chemosphere 44, 973-979)およびその下流域に位置する田子の浦湾の水を採取した。この水は、以下の2通りの処理を行った:
(a)1500 x g, 30分の遠心によって懸濁物を除去した後、直接アッセイに用いた。アッセイ溶液中での環境水濃度は、x 0.8で測定した。
【0042】
(b)500 mlの水をガラス・フィルター(GF-100/GA-100、アドバンテック社)でろ過した後、固相ディスク(C18-FF、3 M)に化学物質を吸着させ、4 mlのジクロロメタンで2回溶出を行った。この溶出液を無水硫酸ナトリウムで脱水処理し、窒素ガス流中で乾燥させた。これを0.5 mlのDMSOに溶解した。これをアッセイ溶液に250倍から16000倍希釈して用いた。
〔ホルモン結合実験〕
(1)スクリーニング対象物質
スクリーニング対象は、合成女性ホルモンであるDES、合成洗剤、樹脂または樹脂材料であるp−t−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、ビスフェノールA、可塑剤として用いられるフタル酸類(フタル酸n−ブチルベンジル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)、非意図的生成物である2,4−ジニトロフェノール、ベンゾ[a]ピレンとその類似物質である1−アミノピレン、殺菌剤であるペンタクロロフェノール、除草剤である2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、イオキシニル、アセトクロール、殺虫剤であるディコホル(ケルセン)、マイレックス、マラチオンの17種類の化学物質とした。
(2)血清サンプルの調整
まず、甲状腺ホルモン結合蛋白質に富む血清サンプルを得るために、それぞれの生物から採取した血清をゲルクロマトグラフィー(セルロファインGCL100 sfカラム)で分画した。高いT3結合活性は、これら4生物種でいずれも60 kDa画分に得られた。
【0043】
サクラマス血清は非特異的結合性が高いが、この操作により測定感度を挙げることができた。
(3)結合試験
血清蛋白質または精製したTTRの甲状腺ホルモン結合試験は、Yamauchiらの方法(Yamauchi, K. et al. (2000) Gen.Comp.Endocrinol. 119, 329-339)に従って行った。
【0044】
血清蛋白質を250μlの0.1 nM [125I]T3を含む20 mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.5)、93 mM塩化ナトリウム、1 mM塩化カルシウムで4℃、60分間インキュベートした。競合阻害実験では、10-10〜10-5 Mの濃度範囲の非標識ホルモンまたは化学物質存在下でインキュベーションを行った。
【0045】
蛋白質に結合した[125I]T3は、Dowex樹脂法(Yamauchi K. et al (1994) Eur.J.Biochem. 225, 1105-1112)で遊離[125I]T3と分離した。インキュベーション後、各試験管に100μlの10 % (w/v)イオン交換樹脂AG1-X8(バイオラッド社)水溶液を加えて攪拌し、遊離[125I]T3を吸着させた。その後4℃、3000 rpm、5分間の遠心分離によって樹脂を沈降させ、上清を蛋白質に結合した[125I]T3画分として回収し、ガンマカウンター(Auto Well Gamma System ARC-2000、アロカ社)で測定した。
【0046】
なお、得られた値は、非特異的に結合した[125I]T3も含むと考えられることから、非標識ホルモンの代わりに5μM T3を共存させてインキュベーションを行い、このとき得られた蛋白質に結合した[125I]T3画分を非特異的に結合した[125I]T3として算出し、前記の値から差し引いて特異的な[125I]T3量を得た。
【0047】
リガンドの結合親和性はスキャッチャード・プロット(Scatchard, G. (1949) Comp.Biochem.Physiol. 116B, 137-160)より算出した。
(4)結果
ヒト、ニワトリ、ウシガエル、サクラマス血清蛋白質の甲状腺ホルモン結合能に及ぼす化学物質の影響を図1に示した。
【0048】
4種のXenoestrogen(DES、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビスフェノールA)の中でも、DESはニワトリ、ウシガエル、サクラマス血清蛋白質のT3結合を最も強く阻害し、ビスフェノールAはヒト血清蛋白質のT3結合を最も強く阻害することが示された。2種のピレン化合物では、1−アミノピレンは、ベンゾ[a]ピレンよりも4生物種の甲状腺ホルモン結合蛋白質のT3結合活性を阻害したが、その効果は弱いものであった。また、3種のフタル酸類では、いずれもT3結合活性をほとんど阻害しなかった。
【0049】
さらに、8種の農薬では、イオキシニルおよびペンタクロロフェノールが、ニワトリ、ウシガエル、サクラマス血清蛋白質のT3結合を最も強く阻害した。また、マイレックスは、ウシガエル甲状腺ホルモン結合蛋白質に対してのみ、マラチオンは、ニワトリの甲状腺ホルモン結合蛋白質に対してのみ結合阻害作用を示した。しかし、8種の農薬は、いずれもヒト甲状腺ホルモン結合蛋白質に対して、T3結合阻害作用を示さなかった。また、8μMディコホルは、他生物種の甲状腺ホルモン結合蛋白質のT3結合活性に対してほとんど影響しないものの、ウシガエル甲状腺ホルモン結合蛋白質については、T3結合活性を約2倍まで増加させるという興味深い結果が示された。
<実施例2> ニワトリおよびウシガエルにおけるT3-TTR結合阻害試験
ニワトリ、ウシガエル血清蛋白質の甲状腺ホルモン結合活性を阻害する化学物質、DES、イオキシニル、ペンタクロロフェノール、マラチオン、ディコホル、ビスフェノールAについて、それぞれ10-10 M〜10-5 Mの濃度範囲で精製ニワトリTTRおよびウシガエルTTRと[125I]T3の結合阻害試験を行った。
【0050】
また、非標識のT3を用いて同様の試験を行った。
【0051】
図2に結果を示した。
【0052】
最も強い阻害を示した物質はDESであった。その[125I]T3を50%阻害する濃度(IC50)は、ニワトリTTRおよびウシガエルTTRにおいて、およそ0.4 nMと0.3 nMであった。内在性ホルモンであるT3のIC50は、それぞれ21 nM、0.5 nMであることからDESは内在性ホルモンよりニワトリTTRに対して102倍、ウシガエルのTTRに対して同程度の結合親和性を有することが示された。
【0053】
ニワトリTTRにおいて、イオキシニル、ペンタクロロフェノールのIC50は、それぞれ6 nM、15 nMであり、その結合親和性はT3よりわずかに強かった。また、マラチオン、ディコホル、ビスフェノールAのIC50は、μMのオーダーであり、T3より弱い結合親和性を示した。
【0054】
ウシガエルTTRにおいてペンタクロロフェノール、イオキシニル、ビスフェノールA、マラチオンのIC50は、それぞれ45 nM、100 nM、1.5 μM、2.7μMであり、その結合親和性は、いずれもT3より弱かった。
【0055】
これらの結果から、DES、ペンタクロロフェノール、イオキシニルが、ニワトリ、ウシガエルの2生物種においてTTRによく認識されることが示された。また、これらの化合物は、とくにニワトリにおいて内在性ホルモンであるT3のTTRへの結合を強く阻害することが示された。
【0056】
さらに、ディコホルは、ウシガエルTTRに対するT3の結合を促進することが示された。このようにTTRとT3の結合を促進する作用を示す化学物質の存在は、これまで知られておらず、この発明のスクリーニング方法によりはじめて確認されたものである。これより、内分泌撹乱物質が、TTRに結合し、本来結合すべきT3との結合を阻害することにより内分泌を撹乱しているとは限らないことが示され、化学物質が血液中の遊離甲状腺ホルモン濃度を上昇させるだけでなく、遊離甲状腺ホルモン濃度を低下させる働きをも有することが示唆された。
<実施例3> 化学物質とTTRの結合様式
化学物質がTTRにどのように作用して甲状腺ホルモンの結合に影響を与えるのかを明らかにするために、化学物質の存在下または非存在下で各種濃度の非標識T3および一定濃度の[125I]T3と精製ニワトリTTRおよびウシガエルTTRをインキュベーションし、スキャッチャード・プロット(Scatchard, G. (1949) Comp. Biochem. Physiol. 116B, 137-160)により解析を行った。
【0057】
図3にスキャッチャード・プロットを、表1に結果を示した。
【0058】
【表1】
Figure 0003768916
【0059】
図3におけるの直線の傾きから、化学物質存在下では、T3とTTRの解離定数(Kd)が算出され、ニワトリTTR(図3a)では28 nM、ウシガエルTTR(図3b)では2.7 nMであり、従来の報告(Chang, L., et al. (1999) Eur. J. Biochem. 259, 534-542; Yamauchi, K., et al. (2000) Gen. Comp. Endocrinol. 119, 329-339)とほぼ一致することが確認された。また、グラフが直線であることから、TTR分子には単一クラスの結合部位が存在することが示唆された。
【0060】
一方、0.35 nM DES、4 nM イオキシニル、および6 nMペンタクロロフェノール存在下では、いずれもT3に対するニワトリTTRの見かけのKdはそれぞれ62 nM、53 nM、49 nMと変化し、図の横軸切片から求められる最大結合容量は変わらなかった(図3a)。同様の結果はウシガエルTTRに対して100 nMペンタクロロフェノール、40 nMディコホルを作用させた際にも認められた。
【0061】
この結果から、化学物質がTTR分子の甲状腺ホルモン結合部位に拮抗的に作用することが示唆された。
【0062】
TTRに作用する化学物質の構造式を甲状腺ホルモンの構造式と比較したところ、甲状腺ホルモンは、フェニル基の水酸基の両側または一方がハロゲン化(ヨウ素化)されているが、同様の構造はペンタクロロフェノール(塩素化)、イオキシニル(ヨウ素化)において確認された。しかし、DESやディコホルではそのような類似性は見られなかったことから、TTRに作用する化学物資は、甲状腺ホルモンと類似の構造を有するものに限定されないことが示された。
【0063】
【化1】
Figure 0003768916
【0064】
<実施例4> 化学物質の構造と内分泌撹乱作用
化学物質の構造が内分泌撹乱作用にどのように関連するか、とくにフェニル基における水酸基の両側または一方のハロゲン化がどのように影響するかについて調査した。
【0065】
ビスフェノール塩素化体とノニルフェノール塩素化体を用いて、精製ニワトリTTRおよびウシガエルTTRへの[125I]T3の結合阻害試験を行った。ビスフェノール塩素化体としては、1塩素化体から4塩素化体まで、ノニルフェノール塩素化体としては、1塩素化体から2塩素化体までを検討した。
【0066】
【化2】
Figure 0003768916
【0067】
結果を図4に示した。
【0068】
図4より、塩素化の程度が高い化合物ほど、TTRと[125I]T3結合を強く阻害することが確認された。また、ビスフェノール塩素化体では、3,3'-ジ塩素化体より3,5-ジ塩素化体の方がニワトリTTRと[125I]T3結合を強く阻害することが示された。
【0069】
これらの化合物が内在性ホルモンであるT3とTTRの結合を阻害する能力は、ウシガエルTTRよりニワトリTTRに対して強かった。
【0070】
したがって、フェニル基の水酸基の両側または一方のハロゲン化がTTRへの結合に大きく影響することが示唆された。
<実施例5> 環境水中の内分泌撹乱物質の検査1
ビスフェノールの塩素化体を含む環境水を用いて、TTRの[125I]T3結合に及ぼす影響を検討した。試料は、ジクロロメタン抽出し、その濃度によってTTR-T3結合がどの程度阻害されるかを調べた。
【0071】
結果を図5に示した。
【0072】
環境水は、ウシガエル、ニワトリ、ウズラのいずれの精製TTRと[125I]T3の結合も阻害した。また、環境水x 1でその程度が最も大きく、x 4では阻害の程度も緩和された。以上より、この発明の方法により、環境水中に含まれる内分泌撹乱物質の検査も可能であることが確認された。
<実施例6> 環境水中の内分泌撹乱物質の検査2
実施例5で用いた環境水とその下流域に相当する3箇所の水を採取し、そのままの環境水と、実施例5同様に環境水をジクロロメタンで抽出し、化学物質を濃縮した試料について、TTRと[125I]T3の結合に及ぼす影響を調べた。
【0073】
図6に結果を示した。
【0074】
いずれの試料においても、汚染源から遠ざかるにつれ、TTRの[125I]T3結合に及ぼす影響は緩和された。また、環境水そのものよりも、ジクロロメタンによる抽出を行った試料の方がTTRの[125I]T3結合阻害作用が大きかった。
【0075】
これより、環境水に含まれる内分泌撹乱物質が、そのままの濃度ではTTRの[125I]T3結合に影響を与えにくい状態であることが確認された。
【0076】
しかし、いずれの試料を用いた場合にも、x 1の濃度で十分にTTRの[125I]T3結合に影響を及ぼす化学物質が検出できた。
【0077】
同様の試験を別の河川(静岡県清水市)から採取した水を用いて行ったところ、x 1では、TTRの[125I]T3結合阻害は認められなかった。したがって、この発明の方法により、環境水中に内分泌撹乱物質が存在するか否かを判定することも可能であることが確認できた。
【0078】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明により、内分泌撹乱物質を効率的にスクリーニングするための方法と、環境中に内分泌撹乱物質が含まれているか否かを検査する精度高い方法が提供される。この内分泌撹乱物質のスクリーニング方法および検査方法では、数時間のアッセイで50〜100検体の測定が可能であり、従来のHPLCや質量分析を用いる方法に比べ、安価であり、試料の前処理等を必要とせず、簡便で有用性が高い。
【0079】
この出願の発明の内分泌撹乱物質のスクリーニング方法は、内分泌系を撹乱することが想定される化合物だけでなく、未知の化合物や、内分泌撹乱物質を含有するかしないか不明な試料に対しても試験することが可能であり、環境の汚染状況やリスクアセスメントに威力を発揮すると期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の実施例において、17種類の化学物質がT3とTTRの結合反応に及ぼす影響を4種の生物について試験した結果を示すグラフである。
【図2】この出願の発明の実施例において、化学物質によるT3-TTR結合阻害試験におけるT3-TTR結合体生成量と化学物質濃度の関係を示した図である。(a:ニワトリ、b:ウシガエル)
【図3】この出願の発明の実施例において、化学物質存在下におけるT3-TTR結合のScatchardプロットを示した図である。(a:ニワトリ、b:ウシガエル)
【図4】この出願の発明の実施例において、塩素化フェノールの濃度とT3-TTR結合体生成量の関係を示した図である。(a:ニワトリ、b:ウシガエル)
【図5】この出願の発明の実施例において、環境水の濃度とT3-TTR結合体生成度(コントロールに対する%)を各生物毎に示した図である。
【図6】この出願の発明の実施例において、各領域から採取した環境水を共存させた際のT3-TTR結合体生成度(コントロールに対する%)を示した図である。(ウズラ)

Claims (3)

  1. 内分泌撹乱物質をスクリーニングする方法であって、
    甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量と、
    甲状腺ホルモンとトランスサイレチンと候補物質を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を比較し、
    共存させることにより甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量を変化させる候補物質を内分泌撹乱物質と判定することを特徴とする内分泌撹乱物質のスクリーニング方法。
  2. 試料中に内分泌撹乱物質が存在するか否かを検査する方法であって、
    甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量と、
    甲状腺ホルモンとトランスサイレチンと試料を共存させた際に生成する甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の量を比較し、
    試料の共存により甲状腺ホルモン−トランスサイレチン結合体の生成量が変化する場合に、試料が内分泌撹乱物質を含有すると判定することを特徴とする内分泌撹乱物質の検査方法。
  3. 請求項1または2の方法のためのキットであって、少なくとも標識甲状腺ホルモンとトランスサイレチンを含有することを特徴とする内分泌撹乱候補物質のスクリーニングまたは検出用キット。
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