JP2003323987A - 有機エレクトロルミネッセンス素子 - Google Patents

有機エレクトロルミネッセンス素子

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JP2003323987A JP2003150772A JP2003150772A JP2003323987A JP 2003323987 A JP2003323987 A JP 2003323987A JP 2003150772 A JP2003150772 A JP 2003150772A JP 2003150772 A JP2003150772 A JP 2003150772A JP 2003323987 A JP2003323987 A JP 2003323987A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 低抵抗かつ高透明な陽極を有するとともに、
発光効率および耐久性(耐湿熱性)に優れ、透明発光素
子としても利用可能な有機エレクトロルミネッセンス素
子(EL素子)の提供。 【解決手段】 下部電極である陰極と、前記陰極の対向
電極である陽極との間に有機発光層を含む有機層が介在
してなる有機EL素子であって、前記陽極が正孔注入電
極層と非晶質透明導電膜とからなり、かつ前記正孔注入
電極層が前記有機層と接する構成を有する有機EL素子
を用いる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、発光を素子の両側
から取り出すことができる、耐久性に優れた有機エレク
トロルミネッセンス素子に関する。
【0002】
【従来の技術】電界発光を利用したエレクトロルミネッ
センス素子(以下、EL素子と略記する)は、自己発光
のため視認性が高く、かつ完全固体素子であるため、耐
衝撃性に優れるなどの特徴を有することから、各種表示
装置における発光素子としての利用が注目されている。
【0003】EL素子には、発光材料として無機化合物
を用いる無機EL素子と、有機化合物を用いる有機EL
素子とがあり、このうち、有機EL素子は、印加電圧を
大幅に低くし得るので小型化が容易であり、そのため次
世代の表示素子としてその実用化研究が積極的になされ
ている。有機EL素子の構成は、下部電極/発光層/対
向電極の構成を基本とし、ガラス板等を用いた基板上
に、下部電極を設ける構成が通常採用されている。この
場合、発光は基板側に取り出される。
【0004】ところで、近年以下の理由で、対向電極を
透明にして発光を対向電極側に取り出す試みがなされて
いる。 (ア)下部電極を透明とすれば、透明な発光素子ができ
る。 (イ)透明な発光素子の背景色として任意の色が採用で
き、発光時以外もカラフルなディスプレイとすることが
でき、装飾性が改良される。又、背景色として黒を採用
した場合には、発光時のコントラストが向上する。
【0005】(ウ)カラーフィルターや色変換層を用い
る場合は、発光素子の上にこれらを置くことができる。
このため、これらの層を考慮することなく素子を製造す
ることができる。その利点として、例えば、下部電極を
形成させる際に基板温度を高くすることができ、これに
より下部電極の抵抗値を下げることができる。対向電極
を透明にすることにより、前記のような利点が得られる
ため、透明な対向電極を用いた有機EL素子を作成する
試みがなされている。
【0006】特許文献1には、透明導電層よりなる下部
電極と、超薄膜の電子注入金属層及びその上に形成され
る透明導電層よりなる対向電極を設けた、透明な有機E
L素子が開示されている。前記公報には、これらの透明
導電層を構成する物質として、ITO(インジウムチン
オキサイド)やSnO2 が開示されている。しかし、こ
れらはX線回折ピークが消失する程度にまで結晶性を低
減することはできず、本質的に結晶質である。このた
め、有機層を介して基板に積層するに際して、有機層の
損傷を防ぐために基板温度を室温〜100℃近くに設定
して蒸着した場合、比抵抗値の高い透明導電層が形成さ
れる(ITOでは、1×10-3Ω・cm程度以上とな
る)。そして、そのような有機EL素子においては、透
明導電層の配線ラインで電圧降下が発生し、発光に不均
一性が生じるため、比抵抗値を下げる等の改良が求めら
れている。その上、ITOやSnO2 は、本質的に結晶
質であるため、結晶粒界より水分や酸素が侵入し易い。
このため、隣接して積層される電子注入金属層が劣化を
受け易く、その結果発光欠陥が生じたり、発光しなくな
ったりする等、耐久性が十分とは言えず、更なる改良が
求められている。
【0007】又、別の技術として、直接、有機層に透明
導電層である酸化物膜をスパッタリングにて形成し対向
電極とする場合がある。しかしながら、この方法では、
スパッタリング時に発生する酸素プラズマにより有機層
が損傷を受け、良好な性能が発揮できないという問題が
ある。
【特許文献1】特開平8−185984号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記
従来技術の課題を解決し、低抵抗かつ高透明の対向電極
を有する有機EL素子を提供することにある。又、対向
電極を構成する透明導電膜から水分や酸素が侵入しにく
く、耐久性に優れ、更に、透明導電膜の形成時に有機層
が損傷を受けない構成の陽極を有する有機EL素子を提
供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を解決するために鋭意研究を重ねた結果、対向電極を構
成する透明導電膜として非晶質の透明導電膜を採用する
ことにより、上記の課題が解決されることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成させたものであ
る。
【0010】即ち、本発明の要旨は以下の通りである。 (1)下部電極である陰極と、前記陰極の対向電極であ
る陽極との間に有機発光層を含む有機層が介在してなる
有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陽極
が正孔注入電極層と非晶質透明導電膜とからなり、かつ
前記正孔注入電極層が前記有機層と接することを特徴と
する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0011】(2)正孔注入電極層が、正孔注入性の金
属、合金、導電性ポリマー及びカーボンから選ばれる1
種又は2種以上を用いて、超薄膜状に形成されているこ
とを特徴とする前記(1)記載の有機エレクトロルミネ
ッセンス素子。 (3)正孔注入電極層が、正孔注入性の金属、合金、導
電性ポリマー及びカーボンから選ばれる1種又は2種以
上と正孔伝達性の有機物の混合層であることを特徴とす
る前記(1)記載の有機エレクトロルミネッセンス素
子。
【0012】(4)正孔注入電極層が、島状正孔注入域
からなることを特徴とする前記(1)記載の有機エレク
トロルミネッセンス素子。 (5)非晶質透明導電膜が、インジウム(In)、亜鉛
(Zn)、酸素(O)からなる酸化物を用いて、形成さ
れていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれ
かに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、下部電極と対向電極との間に
有機発光層を含む有機層が介在しており、対向電極は正
孔注入電極層と非晶質透明導電膜とによって構成されて
おり、しかも正孔注入電極層が有機層と接するという構
成である。この構成は、例えば、図1により模式的に表
すことができる。以下に、これらの構成について説明す
る。
【0014】<非晶質透明導電膜>先ず、本発明の有機
EL素子において対向電極を構成する非晶質透明導電膜
について説明する。本発明で用いる非晶質透明導電膜
は、非晶質であって透明性を有するものであればよい
が、前記したように、電圧降下とそれに起因する発光の
不均一性を排除するため、比抵抗値が5×10-4Ω・c
m以下であることが好ましい。
【0015】又、材質としては、In−Zn−O系の酸
化物膜が好ましい。ここで、In−Zn−O系の酸化物
膜とは、主要カチオン元素としてインジウム(In)及
び亜鉛(Zn)を含有する非晶質酸化物からなる透明導
電膜のことである。Inの原子比〔In/(In+Z
n)〕は0.45〜0.90が好ましい。なぜならば、
この範囲外では導電性が低くなる可能性があるからであ
る。Inの原子比〔In/(In+Zn)〕は、導電性
の観点からは0.50〜0.90が特に好ましく、0.
70〜0.85が更に好ましい。
【0016】上記非晶質酸化物は、主要カチオン元素と
して実質的にIn及びZnのみを含有するものであって
もよいし、その他に価数が正3価以上の1種以上の第3
元素を含有するものであってもよい。前記第3元素の具
体例としては、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、
アンチモン(Sb)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム
(Ge)、チタン(Ti)等が挙げられるが、導電性の
向上という観点からは、Snを含有するものが特に好ま
しい。又、第3元素の含有量は、その総量の原子比
[(全第3元素)/〔In+Zn+(全第3元素)〕]
が0.2以下となる量が好ましい。第3元素の総量の原
子比が0.2を超えると、イオンの散乱により導電性が
低くなる場合がある。この第3元素の総量の特に好まし
い原子比は0.1以下である。尚、組成が同じであって
も、結晶化したものは非晶質のものより導電性に劣るの
で、この点からも非晶質の透明導電膜を使用する必要が
ある。
【0017】上述の非晶質酸化物は、薄膜にすることで
透明導電膜として利用可能となる。この時の膜厚は、概
ね3〜3000nmとするのが好ましい。なぜならば、
3nm未満では導電性が不十分となり易く、3000n
mを超えると光透過性が低下したり、有機EL素子を製
造する過程や製造後において、故意又は不可避的に有機
EL素子を変形させた時に透明導電膜にクラック等が生
じ易くなるからである。この透明導電膜の特に好ましい
膜厚は5〜1000nmであり、更に好ましい膜厚は1
0〜800nmである。
【0018】本発明の有機EL素子において、基板上に
下部電極及び有機層を介して対向電極が形成される場
合、正孔注入電極層の上に非晶質透明導電膜(酸化膜)
が形成される。非晶質透明導電膜の形成手法としては、
スパッタリング法の他、化学蒸着法、ゾルゲル法、イオ
ンプレーティング法等を採用できるが、有機層への熱的
な影響が少ないことや簡便性の観点より、スパッタリン
グ法が好ましい。この場合、スパッタリング時に発生す
るプラズマにより有機層が損傷を受けないように注意す
る必要がある。又、有機層の耐熱性は低いので、基板の
温度を200℃以下とするのが好ましい。
【0019】スパッタリングの方法は、RFあるいはD
Cマグネトロンスパッタリング等でも反応性スパッタリ
ングでもよく、使用するスパッタリングターゲットの組
成やスパッタリングの条件は、成膜しようとする透明導
電膜の組成等に応じて適宜選択される。RFあるいはD
Cマグネトロンスパッタリング等によりIn−Zn−O
系の透明導電膜を形成させる場合には、下記(i)、
(ii)のスパッタリングターゲットを用いることが好ま
しい。
【0020】(i)酸化インジウムと酸化亜鉛との組成
物からなる焼結体ターゲットで、インジウムの原子比が
所定のもの。ここで、「インジウムの原子比が所定のも
の」とは、最終的に得られる膜におけるInの原子比
〔In/(In+Zn)〕が0.45〜0.90の範囲
内の所望値となるものを意味するが、焼結体ターゲット
における原子比が概ね0.50〜0.90のものであ
る。この焼結体ターゲットは、酸化インジウムと酸化亜
鉛との混合物からなる焼結体であってもよいし、In 2
3 (ZnO)m (m=2〜20)で表される六方晶層
状化合物の1種以上から実質的になる焼結体であっても
よいし、In2 3 (ZnO)m (m=2〜20)で表
される六方晶層状化合物の1種以上とIn2 3 及び/
又はZnOとから実質的になる焼結体であってもよい。
尚、六方晶層状化合物を表す前記式においてmを2〜2
0に限定する理由は、mが前記範囲外では六方晶層状化
合物とならないからである。
【0021】(ii)酸化物系ディスクと、このディスク
上に配置した1種以上の酸化物系タブレットとからなる
スパッタリングターゲット。酸化物系ディスクは、酸化
インジウム又は酸化亜鉛から実質的になるものであって
もよいし、In2 3 (ZnO)m (m=2〜20)で
表される六方晶層状化合物の1種以上から実質的になる
焼結体であってもよいし、In2 3 (ZnO)m (m
=2〜20)で表される六方晶層状化合物の1種以上と
In2 3 及び/又はZnOとから実質的になる焼結体
であってもよい。又、酸化物系タブレットとしては、上
記酸化物系ディスクと同様のものを使用することができ
る。酸化物系ディスク及び酸化物系タブレットの組成並
びに使用割合は、最終的に得られる膜におけるInの原
子比〔In/(In+Zn)〕が0.45〜0.80の
範囲内の所望値となるように適宜決定される。
【0022】前記(i)、(ii)のいずれのスパッタリ
ングターゲットもその純度は98%以上であることが好
ましい。スパッタリングターゲットの純度が98%未満
では、不純物の存在により、得られる膜の耐湿熱性(耐
久性)が低下したり、導電性が低下したり、光透過性が
低下したりすることがある。より好ましい純度は99%
以上であり、更に好ましい純度は99.9%以上であ
る。
【0023】又、焼結体ターゲットを用いる場合、この
ターゲットの相対密度は70%以上とすることが好まし
い。相対密度が70%未満では、成膜速度の低下や膜質
の低下を招き易い。より好ましい相対密度は85%以上
であり、更に好ましくは90%以上である。ダイレクト
スパッタリング法により透明導電膜を設ける場合のスパ
ッタリング条件は、ダイレクトスパッタリングの方法や
スパッタリングターゲットの組成、用いる装置の特性等
により種々変わってくるため、一概に規定することは困
難であるが、DCダイレクトスパッタリング法による場
合には例えば下記のように設定することが好ましい。
【0024】スパッタリング時の真空度及びターゲット
印加電圧は次のように設定することが好ましい。即ち、
スパッタリング時の真空度は1.3×10-2 〜6.7
×100 Pa程度、より好ましくは1.7×10-2
1.3×100 Pa程度、更に好ましくは4.0×10
-2〜6.7×10-1Pa程度とする。又、ターゲットの
印加電圧は200〜500Vが好ましい。スパッタリン
グ時の真空度が1.3×10-2Paに満たない(1.3
×10-2Paよりも圧力が低い)とプラズマの安定性が
悪く、6.7×100 Paよりも高い(6.7×100
Paよりも圧力が高い)とスパッタリングターゲットへ
の印加電圧を高くすることができなくなる。又、ターゲ
ット印加電圧が200V未満では、良質の薄膜を得るの
が困難になったり、成膜速度が制限されることがある。
【0025】雰囲気ガスとしては、アルゴンガス等の不
活性ガスと酸素ガスとの混合ガスが好ましい。不活性ガ
スとしてアルゴンガスを用いる場合、このアルゴンガス
と酸素ガスとの混合比(体積比)は概ね1:1〜99.
99:0.01、好ましくは9:1〜99.9:0.1
とする。この範囲を外れると、低抵抗かつ光線透過率の
高い膜が得られない場合がある。
【0026】基板温度は、有機層の耐熱性に応じて、当
該有機層が熱により変形や変質を起こさない温度の範囲
内で適宜選択される。基板温度が室温未満では冷却用の
機器が別途必要になるため、製造コストが上昇する。
又、基板温度を高温に加熱する場合、別途そのための加
熱処理装置が必要になるため、製造コストが上昇する。
このため、基板温度は室温〜200℃とするのが好まし
い。
【0027】前記した(i)、(ii)のスパッタリング
ターゲットを用いて、上述したような条件でダイレクト
スパッタリングを行うことにより、目的とする透明導電
膜を有機層上に設けることができる。
【0028】<正孔注入電極層>次に、正孔注入電極層
について説明する。正孔注入電極層とは、発光層を含む
有機層に良好に正孔注入ができる電極の層であり、透明
発光素子を得るためには、光線透過率が50%以上であ
ることが好ましく、これを達成するためには膜厚を0.
5〜20nm程度の超薄膜とすることが望ましい。
【0029】正孔注入電極層としては、例えば、仕事関
数4.8eV以上の金属(正孔注入性の金属)、例え
ば、Pt、Ni、Pd、Os等を用いて、膜厚を1〜2
0nmとした層を挙げることができる。この場合におい
て、50%以上、特に60%以上の光線透過率を与える
構成が好ましい。他の好ましい例としては、前記の仕事
関数4.8eV以上の金属(複数種でもよい)と他の金
属との合金(正孔注入性の合金)を用いた正孔注入電極
層を挙げることができる。このような合金としては、正
孔注入電極層の形成が可能な合金であれば足りるが、例
えば、金−インジウム合金、金−アルミニウム合金、イ
ンジウム−白金合金、鉛−金合金、ビスマス−金合金、
スズ−金合金、アルミニウム−白金合金、アルミニウム
−ニッケル合金、アルミニウム−パラジウム合金を挙げ
ることができる。この場合においても、膜厚を1〜20
nmとすることが好ましく、50%以上、特に60%以
上の光線透過率を与える層とすることが好ましい。
【0030】前記の金属又は合金を用いて正孔注入電極
層を形成させる場合、好適には抵抗加熱蒸着法又は電子
ビーム蒸着法を用いる。この場合、基板温度を10〜1
00℃の間で設定し、蒸着速度を0.05〜20nm/
秒の間に設定するのが好ましい。又、特に合金を蒸着す
る場合には、2元蒸着法を用い、2種の金属の蒸着速度
を個別に設定して蒸着することができる。この場合、P
t、Ni、Pd、Au等の蒸着速度を0.01〜0.1
nm/秒の間に設定し、In等の他の金属の蒸着速度を
1〜10nm/秒の間に設定して同時に蒸着するという
手法が採用できる。又、合金を蒸着する場合に、1元蒸
着法を用いることもできる。この場合、予め所望の割合
で正孔注入性の金属を母体金属に仕込んだ蒸着ペレット
又は粒状体を抵抗加熱ボートやフィラメントに設置し、
加熱蒸着する。
【0031】更に別の好ましい形態としては、薄膜状の
正孔注入性のカーボンであって、膜厚が0.1〜20n
mの超薄膜を挙げることができる。前記カーボンとして
は、例えば、グラファイト、非晶質カーボンを好ましい
ものとして挙げることができる。カーボン層の形成手法
としては、アーク放電蒸着法によりカーボンを蒸着する
方法を採用することもできる。
【0032】尚、これまで説明した、正孔注入性の金
属、合金、カーボンについては、1種のみでなく2種以
上を用いて正孔注入電極層を形成することもできる。更
に他の好ましい例として、正孔注入電極層は、正孔注入
性の金属、合金あるいはカーボンと正孔伝達性の化合物
との混合層であってもよい。正孔注入性の金属、合金、
カーボンとしては、前記した金属、合金、カーボンを挙
げることができる。又、これらは、1種のみでなく2種
以上を用いることもできる。一方、正孔伝達性の化合物
は、正孔を伝達する化合物であればよく、好ましい化合
物として、一種の正孔輸送芳香族第三アミンを含有して
いるものである。この、芳香族第三アミンは、炭素原子
(その内の一つは芳香環の環員である)にのみ結合して
いる少なくとも一個の三価の窒素原子を有する化合物で
ある。これらの一態様として、芳香族第三アミンは、モ
ノアリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールア
ミン又は高分子アリールアミン等のアリールアミンが挙
げられる。低分子トリアリールアミンは、クラプフル等
(Klupfel et. al. )による米国特許第3,180,7
30号公報に開示されている。ビニルあるいはビニレン
ラジカルで置換され、そして/又は少なくとも一個の水
素含有基を含有している他の適当なトリアリールアミン
は、ブラントレイ等(Brantley et. al.)による米国特
許第3,567,450号公報及び米国特許第3,65
8,520号公報に開示されている。好ましい種類の芳
香族第三アミンは、少なくとも二個のアミン成分を含む
ものである。このような化合物としては、以下の構造式
[I] で表されるものが挙げられる。
【0033】
【化1】
【0034】式中、Q1 及びQ2 は各々独立した芳香族
第三アミン成分であり、Gは、アリレーン基、シクロア
ルキレン基、アルキレン基、又は炭素−炭素結合を表し
ている。構造式[I] を満足し、そして2個のトリアリー
ル成分を含有する、特に好ましい種類のトリアリールア
ミンは、以下の構造式[II]を満足するものである。
【0035】
【化2】
【0036】式中、R1 及びR2 は、各々独立した水素
原子、アリール基又はアルキル基を表すか、あるいはR
1 とR2 が結合してシクロアルキル基を完成している基
を表し、R3 及びR4 は、各々独立して以下の構造式[I
II] で示されるようなジアリール置換アミノ基で置換さ
れたアリール基を表す。
【0037】
【化3】
【0038】式中、R5 及びR6 は、各々独立して選択
されたアリール基である。別の好ましい種類の芳香族第
三アミンとしては、テトラアリールジアミンが挙げられ
る。このテトラアリールジアミンは、アリーレン基を介
して結合した構造式[III] で表されるジアリール基を2
個含むことが好ましい。好ましいテトラアリーレンジア
ミンとしては、以下の構造式[IV]により表されるものが
挙げられる。
【0039】
【化4】
【0040】式中、Areはアリーレン基であり、nは
1〜4の整数であり、Ar、R7 、R8 及びR9 は独立
して選択されたアリール基である。上記の構造式[I] 、
[II]、[III] 、及び[IV]の種々のアルキル、アルキレ
ン、アリール及びアリーレン成分は、各々置換されてい
てもよい。典型的な置換基としては、例えば、アルキル
基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基並び
にフッ素、塩素及び臭素等のハロゲンが挙げられる。種
々のアルキル及びアルキレン成分は、典型的には、炭素
数が約1〜6である。シクロアルキル成分の炭素数は約
3〜10であるが、典型的には、5個、6個又は7個の
環炭素原子を含み、例えば、シクロペンチル、シクロヘ
キシル及びシクロヘプチル環構造を有しているものであ
る。アリール及びアリーレン成分は、フェニル及びフェ
ニレン構造であることが好ましい。
【0041】又、正孔注入性の金属、合金、カーボンと
正孔伝達性の化合物との混合比(重量比)は、100:
1〜1:100とすることが好ましい。正孔注入性の金
属、合金及び電子伝達性の化合物との混合層は、2元同
時蒸着法により形成するのが好ましい。その時の基板温
度は、10〜100℃の間で設定すればよい。
【0042】更に他の好ましい例として、正孔注入電極
層が島状の正孔注入域である構成を挙げることができ
る。ここで、島状とは、例えば図2に示すように、不連
続に正孔注入性化合物層が形成されていて、この層は有
機層の表面を覆いつくすことがないことを意味する。島
状正孔注入域は、例えば仕事関数4.8eV以上の高仕
事関数の金属、酸化物、合金、カーボン等を島状に不連
続に形成させたものであり、その形状及び大きさについ
ては特に制限はないが、微粒子状又は結晶状であって、
大きさが0.5nm〜5μm程度のものが好ましい。
【0043】又、この正孔注入域は、薄膜状を指すもの
でも、孤立原子分散の状態を示すものでもない。上記の
高仕事関数の金属又は化合物が、粒子状の形態で導電性
薄膜上又は有機化合物層内に分散されている状態を指
す。上記島状正孔注入域を構成する高仕事関数の金属及
び合金としては、仕事関数4.8eV以上のものが好ま
しく、例えば、前記した金属及び合金を挙げることがで
きる。又、高仕事関数の酸化物としては、酸化ニッケ
ル、酸化マンガンが好ましい。
【0044】島状正孔注入域の形成方法としては、抵抗
加熱蒸着法や電子ビーム蒸着法を採用することができ
る。後者の場合、高融点の酸化物やカーボンを電子ビー
ム蒸着により島状に不連続に形成させる。本発明の有機
EL素子においては、対向電極である陽極が正孔注入電
極層と非晶質透明導電膜とで構成されているため、非晶
質透明導電膜の形成時に正孔注入電極層が損傷を受ける
ことより有機層が保護される。この結果として良好な有
機EL素子を作製できる。
【0045】又、正孔注入電極層が有機層と接すること
で、正孔が有機層に注入される。これにより、下部電極
である陰極側からの電子の注入とあいまってEL素子へ
良好に電荷注入がなされる。本発明の有機EL素子にお
いては、通常、基板上に下部電極である陰極を積層し、
その上に有機層を積層する構成を採用するが、この場
合、有機発光層を含む有機層の上に正孔注入電極層を形
成する。形成方法は、前記の通りであり、他の好ましい
方法としてスパッタリング法があるが、この手法を用い
るに際しては、プラズマにより有機層が損傷を受けない
ように注意する必要がある。
【0046】他の好ましい正孔注入電極層としては、導
電性のポリマー、例えば全共役系ポリマーである、ポリ
アリーレンビニレン、ポリチオフェン、ポリチェニレン
ビニレン、ポリアニリン等も用いることができる。
【0047】<有機層>本発明の有機EL素子におい
て、陽極と陰極との間に介在する有機層は、少なくとも
発光層を含む。有機層は、発光層のみからなる層であっ
てもよく、又、発光層とともに、正孔注入輸送層等を積
層した多層構造のものであってもよい。
【0048】この有機EL素子において、発光層は
(1)電界印加時に、陽極又は正孔輸送層により正孔を
注入することができ、かつ電子注入層より電子を注入す
ることができる機能、(2)注入した電荷(電子と正
孔)を電界の力で移動させる輸送機能、(3)電子と正
孔の再結合の場を発光層内部に提供し、これを発光につ
なげる発光機能等を有している。この発光層に用いられ
る発光材料の種類については特に制限はなく、従来から
知られている有機EL素子において公知のものを用いる
ことができる。
【0049】又、正孔注入輸送層は、正孔伝達化合物か
らなる層であって、陽極より注入された正孔を発光層に
伝達する機能を有し、この正孔注入輸送層を陽極と発光
層との間に介在させることにより、より低い電界で多く
の正孔が発光層に注入される。その上、電子注入層より
発光層に注入された電子は、発光層と正孔注入輸送層の
界面に存在する電子の障壁により、この発光層内の界面
近くに蓄積されたEL素子の発光効率を向上させ、その
結果発光性能の優れたEL素子となる。この正孔注入輸
送層に用いられる正孔伝達化合物については特に制限は
なく、従来から有機EL素子において使用されてきた、
正孔伝達化合物として公知のものを使用することができ
る。正孔注入輸送層は、単層のみでなく多層とすること
もできる。
【0050】<陰極>次に、陰極について説明する。陰
極とは、発光層を含む有機層に良好に電子注入ができる
電極の層であり、透明発光素子を得るためには、光線透
過率が50%以上であることが好ましく、このためには
膜厚を0.5〜20nm程度の超薄膜とすることが望ま
しい。
【0051】陰極としては、例えば、仕事関数3.8e
V以下の金属(電子注入性の金属)、例えば、Mg、C
a、Ba、Sr、Li、Yb、Eu、Y、Sc等を用い
て膜厚を1〜500nmとした層を挙げることができ
る。この場合において、50%以上、特に60%以上の
光線透過率を与える構成が望ましい時には、膜厚を1〜
20nmとすることが必要である。
【0052】他の好ましい例としては、前記の仕事関数
3.8eV以下の金属(複数種でもよい)と仕事関数
4.0eV以上の金属との合金(電子注入性の合金)を
用いた電子注入電極層を挙げることができる。このよう
な合金としては、電子注入電極層の形成が可能な合金で
あれば足りるが、例えば、アルミニウム−リチウム合
金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−リ
チウム合金、鉛−リチウム合金、ビスマス−リチウム合
金、スズ−リチウム合金、アルミニウム−カルシウム合
金、アルミニウム−バリウム合金、アルミニウム−スカ
ンジウム合金等を挙げることができる。この場合におい
ても、膜厚を1〜20nmとすることで、50%以上、
特に60%以上の光線透過率を与える層とすることがで
きる。
【0053】前記の金属又は合金を用いて陰極を形成さ
せる場合、好適には抵抗加熱蒸着法を用いる。この場
合、基板温度を10〜100℃の間で設定し、蒸着速度
を0.05〜20nm/秒の間に設定するのが好まし
い。又、特に合金を蒸着する場合には、2元蒸着法を用
い、2種の金属の蒸着速度を個別に設定して蒸着するす
ることができる。この場合、Li、Ba、Ca、Sc、
Mg等の蒸着速度を0.01〜0.1nm/秒の間に設
定し、Al等の母体金属の蒸着速度を1〜10nm/秒
の間に設定して同時に蒸着するという手法が採用でき
る。又、合金を蒸着する場合に、1元蒸着法を用いるこ
ともできる。この場合、予め所望の割合で電子注入性の
金属を母体金属に仕込んだ蒸着ペレット又は粒状体を抵
抗加熱ボートやフィラメントに設置し、加熱蒸着する。
【0054】更に別の好ましい形態としては、薄膜状の
電子注入性のアルカリ土類金属酸化物、アルカリ酸化物
又はアルカリフッ化物であって、膜厚が0.1〜10n
mの超薄膜を挙げることができる。前記アルカリ土類金
属酸化物としては、例えば、BaO、SrO、CaO及
びこれらを混合したBax Sr1-x O(0<x <1)
や、BaXCa1-XO(0<x <1)を好ましいものとし
て挙げることができる。アルカリ酸化物又はアルカリフ
ッ化物としては、LiF、Li2O、NaF等が挙げら
れる。
【0055】アルカリ土類金属酸化物層の形成手法とし
ては、抵抗加熱蒸着法によりアルカリ土類金属を蒸着し
ながら、真空槽内に酸素を導入して真空度を10-3〜1
-4Paとし、酸素とアルカリ土類金属を反応させなが
ら蒸着させる方法が好ましい。又、アルカリ土類金属酸
化物を電子ビーム蒸着法により製膜する方法を採用する
ことできる。
【0056】アルカリ酸化物の形成方法としては、上記
アルカリ土類金属酸化物の形成方法と同様の方法を用い
ることができる。アルカリフッ化物の形成方法として
は、電子ビーム蒸着法又は、抵抗加熱蒸着法が挙げられ
る。尚、これまで説明した、電子注入性の金属、合金、
アルカリ土類金属酸化物については、1種のみでなく2
種以上を用いて電子注入電極層を形成することもでき
る。
【0057】更に好ましい例としては、Al2 3 又は
AlOX (1<x ≦3/2)が挙げられる。この作製方
法としては、Alの自然酸化、プラズマによる酸化が挙
げられる。この他の作製方法としては、Al2 3 を電
子ビーム蒸着する方法、真空槽内に酸素を導入して真空
度を10-3〜10-4Paとし、酸素とAlを反応させな
がら蒸着させる方法が好ましい。
【0058】又、更に好ましい方法は、Alを電解質液
中でこれを陽極として、通電、酸化する陽極酸化法が挙
げられる。陽極酸化法の詳細な条件としては、クエン
酸、リン酸、ホウ酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム
の希釈溶液中で、前記のAlを陽極とし、白金等の貴金
属を陰極として、5〜300Vの電圧を定電流で通電す
る。この時、pHを調整し、pH6〜8の範囲に保つこ
とにより作製すると、緻密なAlOX (1<x ≦3/
2)ができる。
【0059】<有機EL素子の構成>本発明の有機EL
素子は、陽極と陰極との間に有機発光層を含む有機層が
介在しており、陽極は正孔注入電極層と非晶質透明導電
膜とによって構成され、しかも正孔注入電極層が有機層
と接するという構成を具備していれば、本発明の目的を
達成することができるが、更に他の構成を付加して、種
々の機能を持たせることができる。以下に本発明の有機
EL素子を利用した構成を例示する。
【0060】(1) 透明陰極/有機層/正孔注入電極層/
非晶質透明電極 (2) 陰極/有機層/正孔注入電極層/非晶質透明電極/
カラーフィルター (3) 陰極/有機層/正孔注入電極層/非晶質透明電極/
色変換層 (4) 透明陰極/有機層/正孔注入電極層/非晶質透明電
極/黒色光吸収層 (5) 透明陰極/有機層/正孔注入電極層/非晶質透明電
極/背景色形成層 (6) 黒色光吸収層/透明陰極/有機層/正孔注入電極層
/非晶質透明電極 (7) 背景色形成層/透明陰極/有機層/正孔注入電極層
/非晶質透明電極前記 (8) の構成の場合、両方の電極が透明なので、透明表示
素子が形成される。
【0061】前記(2) や(3) の構成の場合、陰極を支持
基板上に形成し、支持基板とは逆方向に発光の取り出し
ができるので、カラーフィルターや色変換層上に陽極を
形成する必要がない。従って、陰極を形成する際に基板
温度が150℃以上となるようなプロセスを採用するこ
とができ、形成する陰極によっては高温プロセスの採用
に限定される場合や、陰極の抵抗値を下げる面で大きな
メリットがある。又、カラーフィルターや色変換層は陰
極形成後に形成されるため、高温プロセスの採用による
劣化を心配する必要がない。図3に、前記(2) の構成を
例示する。尚、ここで、色変換層としては、蛍光性色素
を含有する透明性ポリマーからなり、EL発光色を蛍光
により別の色に変換するものであることが好ましい。
【0062】又、前記(2) や(3) の構成で、多くの画素
を構成させた態様においては、基板上に陽極以外の補助
配線やTFT(Thin Film Transister)が形成されるた
め、基板方向に光を取り出すと、補助配線やTFTが光
を遮断し、光取り出しの開口率が落ち、結果としてディ
スプレイの輝度が小さくなり、画質が落ちるという欠点
がある。それ故、本発明を用いれば基板とは逆の方向に
光の取り出しができ、この場合には光が遮断されず光取
り出しの開口率が落ちないという効果がある。
【0063】
〔実施例1〕
<有機EL素子の作製>25mm×75mm×1mmの
ガラス基板上に、ITOを100nmの膜厚で製膜した
もの(ジオマティックス社製)を、基板上に導電性薄膜
が成膜してあるものとして使用した。次に、これをイソ
プロピルアルコール中に浸漬し、超音波洗浄を行った
後、サムコインターナショナル製の紫外線照射機UV−
300を用いて紫外線とオゾンとを併用して30分間洗
浄した。
【0064】次に、真空蒸着装置にてAlを15nmの
膜厚で蒸着した。次いで、0.1モル/リットルの酒石
酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールを1:9の
容量比で混合し、これに少量のアンモニウム水溶液を添
加して調整した溶液に、上記のAlを形成したガラス基
板を浸漬し、これを陽極として陽極酸化した。尚、陽極
酸化は生成する酸化膜の膜厚が3nmとなるよう電圧を
4〜6Vに設定した。これにより、ITO上にAl/酸
化アルミニウムの陰極が形成された。
【0065】次に、この基板をイソプロピルアルコール
中に浸漬し、超音波洗浄を行った後、上記と同じ紫外線
照射機UV−300(サムコインターナショナル製)に
て紫外線とオゾンを併用し、5分間洗浄した。上記基板
を真空蒸着装置の基板ホルダーに取り付け、8−キノリ
ノールアルミニウム錯体(以下Alqと略記する)を6
0nm蒸着した。次に、N,N’−ビス(3−メチルフ
ェニル)−N,N’−ジフェニル−(1,1’−ビフェ
ニル)−4,4’−ジアミン(以下TPDと略記する)
を20nm蒸着した。次に、4,4’−ビス−(N,N
−ジ−m−トリルアミノ)−4”−フェニル−トリフェ
ニルアミン(以下TPD74と略記する)を80nm蒸
着した。ここで、Alq、TPD、TPD74は各々、
発光層、正孔輸送層、正孔注入層としての機能を果た
す。次に、カーボンをアーク放電蒸着により10nm蒸
着した。このカーボンは、正孔注入電極層としての機能
を果たす。
【0066】次に、上記真空蒸着装置に連結されている
別の真空槽の基板ホルダーに基板を移送しセットした。
尚、この間真空度は保たれたままである。上記、別の真
空槽はDCマグネトロンスパッタリングによりIn−Z
n−O系酸化物膜を形成できるように設備されている。
In−Zn−O系酸化物膜を形成させるためのターゲッ
トは、In2 3 とZnOとからなる焼結体であり、I
nの原子比〔In/(In+Zn)〕は0.67であ
る。この真空槽のアルゴンガスと酸素ガスの混合ガス
(体積比で1000:2.8)を3×10-1Paとなる
まで導入し、スパッタリング出力を100W、基板温度
を室温に設定して膜厚200nmの非晶質透明導電膜を
形成させた。尚、In−Zn−O系酸化物膜が非晶質で
あることは、ITO薄膜が蒸着されていないガラス基板
を用いて上記と同様の方法により積層体を形成し、X線
回折により確認した。
【0067】次に有機EL素子を評価した。先ず、非晶
質透明導電膜について、三菱油化株式会社製のロレスタ
FPを用いた四探針法により面抵抗値を調べたところ、
23Ω/□であった。そして、膜厚が200nmである
から、比抵抗値は、4.6×10-4Ω・cmと低いこと
が確認された。次に、ITO/Al/酸化アルミニウム
を陰極として、前記カーボン層/In−Zn−O透明導
電膜を陽極として、電圧を7V印加したところ、2.0
mA/cm2 の電流密度となり、非晶質透明導電膜側よ
り観測したところ、輝度70Cd/m2 の発光があっ
た。この発光は、Alqより生じた緑色発光であった。
【0068】更に、この素子を大気中、70%RH(相
対湿度)の雰囲気に500時間放置したところ、無発光
点は目視では観測されず、素子の発光性能も維持されて
いた。本発明の透明陽極は、空気中の水分、酸素に対し
ても耐性のあることが判った。
【0069】〔比較例1〕実施例1と同様の方法により
有機EL素子を作製した。但し、In−Zn−O系酸化
物膜を形成させる代わりに、In−Sn−O系酸化物
(ITO)をDCマグネトロンスパッタリングで結晶質
透明導電膜であるところのITO膜を形成させた。
【0070】その後、実施例1と同様の方法により有機
EL素子の性能を評価したところ、面抵抗値は300Ω
/□と大きな値を示した。そして、膜厚が200nmで
あるから、比抵抗値は、6×10-3Ω・cmと高いこと
が確認された。次に、ITO/Al/酸化アルミニウム
を陰極として、前記カーボン層/In−Sn−O透明導
電膜を陽極として、この有機EL素子に電圧を8V印加
したところ、2.4mA/cm2 の電流密度となり、非
晶質透明導電膜側より観測したところ、輝度60Cd/
2 の発光があった。この発光は、Alqより生じた緑
色発光であった。
【0071】この素子を大気中、70%RH(相対湿
度)の雰囲気に500時間放置したところ、無発光点は
目視で多数(3000個/cm2 以上)確認され、発光
欠陥の多いことが確認された。更に、基板温度が室温の
場合、結晶質であるITO基板は高い抵抗値を示し、こ
れを1mm程度以下に細線化して発光させると、輝度が
不均一化することが判った。
【0072】〔比較例2〕実施例1と同様の方法により
有機EL素子を作製した。但し、カーボン(正孔注入電
極層)は形成しないで、直接In−Zn−O透明導電膜
をTPD74上に製膜した。
【0073】実施例1と同様の方法により有機EL素子
の性能を評価したところ、非晶質透明導電膜の面抵抗値
は、25Ω/□と実施例1の場合とほぼ同じであった。
そして、膜厚が200nmであるから、比抵抗値の面で
は、4×10-4Ω・cmと優れていることが確認され
た。次に、ITO/Al/酸化アルミニウムを陰極とし
て、前記In−Zn−O透明導電膜を陽極として、この
有機EL素子に電圧を7V印加したが、電流密度は0.
2mA/cm2 と実施例1に比べて低い値を示した。
又、非晶質透明導電膜側より観測したところ、輝度70
Cd/m2 を与える電流量が4.0mA/cm2 と大き
くなり、効率が著しく低下した。この理由は、In−Z
n−OのDCマグネトロンスパッタリング時に、プラズ
マによる損傷をTPD74が受けているためと考えられ
る。正孔注入電極層はプラズマダメージ(特に酸素プラ
ズマと想定される)を防ぐために必要であることが判っ
た。
【0074】〔実施例2〕実施例1と同様の方法により
有機EL素子を作製した。但し、カーボン(正孔注入電
極層)は形成しないで、これに代わる正孔注入電極層と
して、抵抗加熱蒸着により形成したAu薄膜(膜厚5n
m)を用いた。このAu薄膜を走査型電子顕微鏡で観察
したところ、Auは島状に形成されていた。そして、A
u薄膜上に、In−Zn−O透明導電膜を製膜した。
【0075】実施例1と同様の方法により有機EL素子
の性能を評価したところ、Au/In−Zn−O積層体
である対向電極の面抵抗値は8Ω/□と低かった。この
結果より、高仕事関数の金属薄膜/非晶質透明導電膜を
積層した電極は、低抵抗値を有する対向電極として有用
であることが判った。従って、この小さな値は、細線化
した対向電極を用いて発光させる時に有用である。
【0076】次に、ITO/Al/酸化アルミニウムを
陰極として、Au薄膜/In−Zn−O透明導電膜を陽
極として、この有機EL素子に電圧を7V印加したとこ
ろ電流密度は2.3mA/cm2 であり、非晶質透明導
電膜側より観測したところ、輝度は50Cd/m2 であ
った。この発光は、Alqより生じた緑色発光であっ
た。又、実施例1と同様に大気中放置テストを行った
が、無発光点は目視では観測できず、発光性能は維持さ
れていた。
【0077】〔実施例3〕実施例1と同様の方法により
有機EL素子を作製した。但し、正孔注入電極層とし
て、Au:In合金薄膜を2元蒸着法を用いて作製し、
Au:In合金薄膜の膜厚は7nmとした。
【0078】実施例1と同様の方法により有機EL素子
の性能を評価したところ、Au:In/In−Zn−O
積層体である対向電極の面抵抗値は8Ω/□と低かっ
た。この結果より、高仕事関数の金属薄膜/非晶質透明
導電膜を積層した電極は、低抵抗値を有する対向電極と
して有用であることが判った。従って、この小さな値
は、細線化した対向電極を用いて発光させる時に有用で
ある。
【0079】次に、ITO/Al/酸化アルミニウムを
陰極として、Au:In合金薄膜/In−Zn−O透明
導電膜を陽極として、この有機EL素子に電圧を7V印
加したところ、電流密度は3.0mA/cm2 、輝度は
40Cd/m2 であった。又、実施例1と同様に大気中
放置テストを行ったが、無発光点は目視では観測でき
ず、発光性能は維持されていた。
【0080】〔実施例4〕正孔伝達性の化合物であるT
PD74とカーボンを蒸着法にて、重量比1:1で混合
し、正孔注入電極層とした以外は、実施例1と同様の方
法により有機EL素子を作製した。
【0081】実施例1と同様の方法により有機EL素子
を評価した。即ち、ITO/Al/酸化アルミニウムを
陰極として、カーボンとTPD74の混合層/In−Z
n−O透明導電膜を陽極として、電圧を7V印加したと
ころ電流密度は2.1mA/cm2 、輝度は78Cd/
2 であった。そして、対向電極の面抵抗値は21Ω/
□であった。
【0082】又、実施例1と同様に大気中放置テストを
行ったが、無発光点は目視では観測できず、発光性能は
維持されていた。次に、ITO/Al/酸化アルミニウ
ムを陰極とし、カーボンとTPD74の混合層/In−
Zn−O透明導電膜を陽極とし、電圧を8V印加したと
ころ、3.8mA/cm2 の電流密度となった。そし
て、非晶質透明導電膜側より観測したところ、輝度65
Cd/m2 の発光があった。この発光は、Alqより生
じた緑色発光であった。
【0083】更に、この素子を大気中、70%RHの雰
囲気に500時間放置したところ、無発光点は目視では
観測されず、素子の発光効率も落ちず、発光性能が維持
されていた。
【0084】
【発明の効果】本発明の有機EL素子は、低抵抗かつ高
透明の陽極を有するため、発光を効率よく素子の両面か
ら取り出すことができる。又、耐久性に優れる。このた
め、本発明の有機EL素子は、例えば情報機器のディス
プレイ等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の有機EL素子の一例の構成を示す断
面図である。
【図2】 本発明の有機EL素子において、島状正孔注
入域が、非晶質透明導電膜と有機層との界面に存在する
場合の一例の構成を示す断面図である。
【図3】 本発明の有機EL素子の利用態様の一例を単
純化して示したものであって、非晶質透明導電膜の外側
にカラーフィルターを付加した構成を示す断面図であ
る。
【図4】 本発明の有機EL素子の利用態様の一例を単
純化して示したものであって、非晶質透明導電膜の外側
に黒色吸収層を備えた構成を示す断面図である。
【図5】 本発明の有機EL素子の利用態様の一例を単
純化して示したものであって、透明陰極の外側に背景色
形成層を備えた構成を示す断面図である。
【符号の説明】
1:基板 2:陰極(下部電極) 3:有機層 4:正孔注入電極層 5:非晶質透明導電膜 6:島状注入域 7:カラーフィルター 8:黒色光吸収層 9:背景色形成層

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下部電極である陰極と、前記陰極の対向
    電極である陽極との間に有機発光層を含む有機層が介在
    してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
    前記陽極が正孔注入電極層と非晶質透明導電膜とからな
    り、かつ前記正孔注入電極層が前記有機層と接すること
    を特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
  2. 【請求項2】 正孔注入電極層が、正孔注入性の金属、
    合金、導電性ポリマー及びカーボンから選ばれる1種又
    は2種以上を用いて、超薄膜状に形成されていることを
    特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセン
    ス素子。
  3. 【請求項3】 正孔注入電極層が、正孔注入性の金属、
    合金、導電性ポリマー及びカーボンから選ばれる1種又
    は2種以上と正孔伝達性の有機物の混合層であることを
    特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセン
    ス素子。
  4. 【請求項4】 正孔注入電極層が、島状正孔注入域から
    なることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロル
    ミネッセンス素子。
  5. 【請求項5】 非晶質透明導電膜が、インジウム(I
    n)、亜鉛(Zn)、酸素(O)からなる酸化物を用い
    て、形成されていることを特徴とする請求項1〜4のい
    ずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
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