JP2003313634A - 溶接継手部の軟化が小さい高張力焼戻し省略厚鋼板 - Google Patents

溶接継手部の軟化が小さい高張力焼戻し省略厚鋼板

Info

Publication number
JP2003313634A
JP2003313634A JP2003043124A JP2003043124A JP2003313634A JP 2003313634 A JP2003313634 A JP 2003313634A JP 2003043124 A JP2003043124 A JP 2003043124A JP 2003043124 A JP2003043124 A JP 2003043124A JP 2003313634 A JP2003313634 A JP 2003313634A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
less
amount
solid solution
steel
steel plate
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2003043124A
Other languages
English (en)
Inventor
Shigeo Okano
重雄 岡野
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kobe Steel Ltd
Original Assignee
Kobe Steel Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kobe Steel Ltd filed Critical Kobe Steel Ltd
Priority to JP2003043124A priority Critical patent/JP2003313634A/ja
Publication of JP2003313634A publication Critical patent/JP2003313634A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Heat Treatment Of Steel (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 高張力鋼板において、大入熱溶接時の溶接継
手部の軟化抵抗が小さくし、小入熱溶接時の割れをも防
止する。 【解決手段】 C:0.01〜0.1%(質量%の意
味。以下同じ)、Si:1%以下(0%を含まない)、
Mn:1.1〜2.5%、P:0.02%以下(0%を
含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、
Al:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.0
3〜0.06%、N:0.0025〜0.01%を含有
する非調質の高張力厚鋼板において、固溶Ti量を0.
005〜0.030%に制御する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、溶接性及び引張強
度に優れ、主として建築・橋梁などの構造物に有用な厚
鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】高張力厚鋼板は、ビルや橋梁などの構造
物を建設する際に不可欠であり、ビル用鉄骨の組み立て
時や橋梁の建設現場において、高張力厚鋼板は大入熱溶
接されている。大入熱溶接を行う場合、溶接熱影響部
(HAZ部)の靭性の劣化を防止したり、HAZ部の軟
化を防止したり、溶接割れを防止したりする必要があ
り、種々の方法が提案されている。
【0003】例えば、特許文献1には、TiCの析出物
が溶接時に溶接HAZ部に析出し、HAZ部の軟化を抑
えることができると記載されている。
【0004】また特許文献2には、PCM=C+Si/3
0+(Mn+Cu+Cr)/20+Ni/60+Mo/
15+V/10で規定される溶接割れ感受性組成
(PCM)を0.18%以下として溶接低温割れやHAZ
部の硬化を防止すると共に、Nbを0.05〜0.2%
添加してHAZ部の軟化を防止することにより、溶接性
を改善する技術が開示されている。
【0005】特許文献3には、Ceq(%)=[C]+
[Si]/22+[Mn]/6+[P]/10−[C
u]/20−[Ni]/24+[Cr]/2で規定され
る炭素当量(Ceq)を0.41%以下とすることによ
り、板厚が厚くても良好な溶接性を確保できることが開
示されており、前記溶接性は高温割れ、引張強さ、及び
靭性で評価している。
【0006】特許文献4には、Tiを0.03〜0.2
%程度添加してHAZ靭性を損なうことなく母材強度を
向上させると共に、粗大なTiC等を積極的に析出させ
ることにより母材靭性を向上させることが記載されてい
る。
【0007】上述のような技術により大入熱溶接時の溶
接性を高めることができると思料されるものの、HAZ
部の軟化防止の観点からはさらなる改良が求められる。
すなわちビルや橋梁では大地震時の倒壊を防止するため
に、設計者は各部位の強度を厳密にコントロールして構
造設計しているものの、軟化が著しいと設計者の想定し
ている部位以外で破断し、計画した安全性を確保するの
が困難となる事態が想定される。しかも近年、構造物の
コスト−安全性バランスの追求が進み、溶接時の軟化防
止技術がクローズアップされ始めている。特に大入熱溶
接では、溶接時の冷却速度が極めて遅いため、軟化防止
が極めて重要である。
【0008】溶接部の軟化防止に注目すれば、合金元素
の添加量を増加することが基本的な対応策として挙げら
れる。しかし合金元素を増量すると、小入熱溶接する場
合には冷却速度が早いため、溶接部の硬化が進み割れが
発生することが懸念される。
【0009】従って、高張力鋼板において、大入熱溶接
時のHAZ部の軟化防止がさらに改善され、しかも小入
熱溶接時の割れをも防止できる有効な技術は知られてい
ない。
【0010】一方、引張強度(TS)が590MPa以
上程度、降伏強度(YS)が430MPa以上程度の高
張力鋼板のうち、建築用では、降伏比(YR=YS/T
S)を下げることが要求される。すなわちビルの高層
化、大スパン化の進展にともない、建築用厚鋼板は、従
来のTS490MPa級に比べてさらに高強度化、厚肉
化してきており、具体的にはTS590MPa級以上の
高張力鋼板が広く使われるようになってきている。そし
て建築用鋼板では、大地震時の倒壊を防止するため、地
震のエネルギーを鋼材の塑性変形によって吸収すること
を目的として、降伏比(YR)を80%以下にすること
が要求されている。しかし、一般には、TSが大きくな
るにつれて、YSはさらに大きくなるため、高TSと低
YRとを両立するのは困難である。
【0011】現在、TS590MPa以上、YS430
MPa以上の高強度鋼板において、80%以下の低いY
Rを確保するために、Q’と称される特殊な熱処理を施
すのが主流となっている(特許文献5参照)。すなわち
TS590MPa級鋼板は、元々、熱間圧延後にQ処理
(焼入処理;Ac3点以上の温度からの水冷)とT処理
(焼戻処理;Ac1点未満に加熱した後の空冷)とから
なる通常の2回熱処理を施すことによって製造されてい
たが、このようにして得られるTS590MPa級鋼板
のYRは85%程度以上と高くなっていた。そこで、前
記Q処理とT処理との間に、Q’処理と称される熱処理
を施すことによって、すなわちQ−Q’−Tの3回に亘
る熱処理を施すことによって低YRを達成している。し
かし熱処理回数が増大するため、製造コストが上昇し、
製造工期が長くなる。
【0012】また前記Q’処理とは、Ac1点とAc3点と
の間の二相域温度に加熱した後で水冷する処理であり、
軟質フェライトを生成させることによって低YR化を達
成するものである。そのためQ’処理を施す場合には、
全体の強度低下を防止するため、フェライト以外のミク
ロ組織を硬くしておく必要があり、Cや合金元素を増量
する必要がある。従って溶接性が低下し、例えば、y型
溶接割れ試験で評価した場合、ある程度の予熱を行わな
ければ割れを防止するのが困難である。
【0013】従って高張力鋼板において、低YRと溶接
性とを両立できる有効な技術も知られていない。
【0014】
【特許文献1】特開平6−145790号公報(請求項
1、段落0016)
【特許文献2】特開2001−288533号公報(請
求項1、段落0016、段落0032)
【特許文献3】特開2001−247916号公報(請
求項1〜2、段落0036、実施例)
【特許文献4】特開2001−355040号公報(段
落0008〜0009、0013)
【特許文献5】特開平4−318号公報(従来技術の
欄)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の様な事
情に着目してなされたものであって、その目的は、高張
力鋼板において、大入熱溶接時の溶接継手部(HAZ部
など)の軟化を小さくできると共に、小入熱溶接時の割
れをも防止できる技術を確立することにある。
【0016】本発明の他の目的は、高張力鋼板であって
も前記の優れた溶接特性と低YRを両立できる技術を確
立することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題
を解決するために鋭意研究を重ねた結果、鋼板中の固溶
Ti量が大入熱溶接時の溶接継手部(HAZ部など)の
軟化に極めて大きな影響を与えていることを発見した。
特にC:0.01〜0.1%、Si:1%以下(0%を
含まない)、Mn:1.1〜2.5%、P:0.02%
以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を
含まない)、Al:0.1%以下(0%を含まない)、
Ti:0.03〜0.06%、N:0.0025〜0.
01%を含有する鋼においては、固溶Ti量≒0.00
5%を境にして、HAZ部の軟化特性が著しく変化する
ことを発見した。そして前記特定の鋼において固溶Ti
量を前記境界量(略0.005%)以上とすれば、大入
熱溶接時のHAZ部の軟化を防止できることを見出し、
これと固溶Ti量の上限を規定すれば母材靭性を確保で
きるという知見、及びC量の上限を規定して小入熱溶接
時の硬化を防止すれば溶接部の割れを確実に防止できる
という知見とを組み合わせることにより、強度と溶接性
とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】すなわち上記目的を達成し得た本発明の溶
接性の優れた高張力厚鋼板とは、C:0.01〜0.1
%(質量%の意味。以下同じ)、Si:1%以下(0%
を含まない)、Mn:1.1〜2.5%、P:0.02
%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%
を含まない)、Al:0.1%以下(0%を含まな
い)、Ti:0.03〜0.06%、N:0.0025
〜0.01%を含有しており、固溶Ti量が0.005
〜0.030%である点に要旨を有するものである。な
お前記高張力厚鋼板は、焼戻し省略鋼である。なお焼入
れ(特に直接焼入れ)は、行ってもよく、行わなくても
よい。本発明の鋼板は、上記範囲で合金元素が適正化さ
れており焼入性が高められているため、焼入れを行わな
い場合でもベイナイト組織とすることができ、高い強度
を達成できる。例えば、引張強度590MPa以上程
度、降伏強度430MPa以上程度にできる。そして焼
戻し省略鋼であるため、焼入れ・焼戻し処理(調質処
理)による降伏比の上昇を防止でき、高強度でありなが
ら低降伏比(例えば、80%以下、特に75%以下)を
達成することができる。
【0019】前記鋼は、さらにNi:3%以下(0%を
含まない)、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、
Cr:2%以下(0%を含まない)、Mo:1%以下
(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まな
い)、Nb:0.03%以下(0%を含まない)、B:
0.0005〜0.005%、Ca:0.0005〜
0.005%などを含有していてもよい。なおこれら追
加の元素を含有する場合及び有しない場合のいずれの場
合でも、残部はFe及び不可避的不純物であってもよ
い。
【0020】なお前記特許文献1に開示の鋼は本発明の
鋼とは成分組成が異なっており、しかもHAZ部の軟化
の点で固溶Ti量に臨界性があるか否かは当該文献から
は全く不明である。また前記特許文献2では請求項1に
おいてTi:0.005〜0.030%と規定している
ものの、実施例の欄で具体的に開示している鋼では全て
Ti量が0.018%以下と少なくなっているため、当
然のこととして固溶Ti量も極めて少なくなってしまっ
ている。前記特許文献3に開示の技術は、Ti添加鋼に
おいて加工性を高める(降伏比を低くする)ことを最大
の目的としている。そして鋼板製造工程における熱間圧
延に際して、圧延後の冷却過程で変態が生じる前にTi
Cを積極的に析出させることによって、変態後の析出に
よる硬化を防止して前記課題を解決している。すなわち
TiCは既に析出してしまっているのであるから、この
公報に開示の鋼板でも固溶Ti量は極めて少なくなって
しまっている。また前記特許文献4では、上述したよう
に粗大なTiC等を積極的に析出させることにより母材
靭性を向上させている。そのためこの公報に開示の鋼板
でも固溶Ti量は極めて少なくなってしまっている。
【0021】
【発明の実施の形態】本発明では、C:0.01〜0.
1%(質量%の意味。以下同じ)、Si:1%以下(0
%を含まない)、Mn:1.1〜2.5%、P:0.0
2%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0
%を含まない)、Al:0.1%以下(0%を含まな
い)、Ti:0.03〜0.06%、N:0.0025
〜0.01%を含有する鋼を対象としている。以下、各
成分量を上記範囲に設定した理由について述べる。
【0022】(1)C:0.01〜0.1% Cは強度確保に有用な元素であり、かかる作用を有効に
発揮させるべく、その下限を0.01%に設定した。好
ましくは0.02%以上、特に0.03%以上である。
しかし、C添加量が過剰となると小入熱溶接後にHAZ
部が硬化して割れが発生する虞があるため、その上限を
0.1%に設定した。好ましくは0.09%以下、特に
0.08%以下である。
【0023】(2)Si:1%以下(0%を含まない) Siが過剰になると溶接性が阻害される為、その上限を
1%に設定した。好ましくは0.6%以下、特に0.4
%以下である。一方、Siは強度向上に有効な元素であ
るため、溶接性を阻害しない範囲で添加するのが望まし
い。好ましいSi量の下限は0.1%、特に0.2%で
ある。
【0024】(3)Mn:1.1〜2.5% Mnは焼入れ性向上元素であり、本発明のような低C鋼
において所定の強度を確保するのに有用である。このよ
うな作用を有効に発揮させる為にその下限を1.1%に
設定した。好ましくは1.2%以上、特に1.25%以
上である。但し、Mn添加量が過剰になると溶接性が劣
化する為、その上限を2.5%に設定した。好ましくは
2.0%以下、特に1.75%以下である。
【0025】(4)P:0.02%以下(0%を含まな
い) Pが過剰になると溶接性及び靭性が阻害される為、その
上限を0.02%に設定した。好ましくは0.015%
以下、特に0.013%以下である。
【0026】(5)S:0.01%以下(0%を含まな
い) Sが過剰になると硫化物系介在物(FeS、MnSな
ど)が多量に生成し、靭性が劣化するため、その上限を
0.01%に設定した。好ましくは0.007%以下、
特に0.005%以下である。
【0027】(6)Al:0.1%以下(0%を含まな
い) Alが過剰になると溶接性が阻害されるため、その上限
を0.1%に設定した。好ましくは0.08%以下、特
に0.06%以下である。一方、Alは固溶酸素を捕捉
し、鋼の靭性向上に寄与するため、溶接性を阻害しない
範囲で添加してもよい。好ましいAl量の下限は0.0
1%、特に0.02%である。
【0028】(7)Ti:0.03〜0.06% Tiは、後述する固溶Ti量を確保できる範囲で設定で
き、通常、0.03%以上(例えば、0.035%以
上、特に0.038%以上)、0.06%以下(例え
ば、0.05%以下、特に0.045%以下)である。
【0029】(8)N:0.0025〜0.01% Nは、TiNを形成することによって後述する固溶Ti
量を少なくしてしまう虞があるため、その上限を0.0
1%に設定した。好ましくは0.008%以下、特に
0.006%以下である。しかしNの含有量を0%とす
るのは困難であるため、その下限を0.0025%に設
定した。好ましくは0.003%以上である。
【0030】また本発明の対象とする鋼では、残部はF
e及び不可避的不純物であってもよく、必要に応じて種
々の元素を含有していてもよい。例えば、上記成分に加
えて、Ni:3%以下(0%を含まない)、Cu:1.
5%以下(0%を含まない)、Cr:2%以下(0%を
含まない)、Mo:1%以下(0%を含まない)、V:
0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.03%以
下(0%を含まない)、B:0.0005〜0.005
%などを含有していてもよい。これら任意の元素は、単
独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0031】(1)Ni、Cu、Cr、Mo、V、Nb Ni、Cu、Cr、Mo、V、Nbは強度向上に有効な
元素である。好ましい添加量は、Ni:0.1%以上
(特に0.2%以上)、Cu:0.1%以上(特に0.
2%以上)、Cr:0.1%以上(特に0.3%以
上)、Mo:0.05%以上(特に0.1%以上)、
V:0.001%以上(特に0.002%以上)、N
b:0.005%以上(特に0.01%以上)である。
但し、NiやCuを過剰に添加しても効果が飽和してし
まい経済的に無駄であり、Crを過剰に添加すると溶接
性やHAZ靭性が低下する。またMoを過剰に添加する
と溶接性が低下し、NbやVを過剰に添加するとHAZ
靭性が低下する。従って、これら元素の上限量を上記範
囲に設定した。好ましい添加量は、Ni:2%以下(特
に1%以下)、Cu:1%以下(特に0.5%以下)、
Cr:1.5%以下(特に1%以下)である。なおこれ
らNi、Cu、Cr、Mo、V、及びNbは、単独で又
は2種以上組み合わせて使用できる。
【0032】(2)B Bは微量の添加によって鋼の焼入性を高めることがで
き、このような作用を有効に発揮させる為にその下限を
0.0005%に設定した。好ましくは0.0006%
以上、さらに好ましくは0.001%以上、特に0.0
012%以上である。但し、過剰に添加するとBN等の
B化合物を形成して靭性が劣化する為、その上限を0.
005%に設定した。好ましくは0.004%以下、さ
らに好ましくは0.003%以下である。
【0033】また本発明の対象とする鋼は、Caを含有
していてもよい。CaはHAZ靭性の向上に有効な元素
であり、かかる作用を有効に発揮させる為にその下限を
0.0005%に設定した。好ましくは0.001%以
上、さらに好ましくは0.0013%以上である。一
方、Caを過剰に添加すると粗大な鋼中介在物を形成し
て鋼の性質が悪化する為、その上限を0.005%に設
定した。好ましくは0.004%以下、さらに好ましく
は0.003%以下である。
【0034】そして本発明の鋼では、Tiを固溶させて
いる。Tiを固溶させると、大入熱溶接後、固溶Tiが
HAZ部に析出して強化作用を発揮するため、HAZ部
の軟化を防止できる。さらに本発明では、単に固溶Ti
量を多くしているのではなく、上述したような特定の成
分組成の鋼においては、固溶Ti量≒0.005%を境
にして、HAZ部の軟化特性が著しく変化するという知
見を元に、固溶Ti量を0.005%以上、好ましくは
0.006%以上、さらに好ましくは0.007%以上
に設定している。加えて固溶Ti量を前記下限値以上の
範囲で使用すると、鋼の引張強度及び降伏強度を十分に
高めることもできる。一方、固溶Tiは、HAZ部の軟
化を防止できる限り、また所望の引張強度及び降伏強度
を達成できる限り、少ないほど好ましい。また固溶Ti
を過剰にしないことによって、母材靭性の低下を防止で
きる。母材靭性の低下を防止できれば、本発明では溶接
時の硬化をも防止しているため、溶接後においても継手
靭性を損なうことがなく、溶接後の割れをも防止でき
る。固溶Tiの上限は、例えば、0.030%程度、好
ましくは0.025%程度、さらに好ましくは0.01
5%程度(特に0.014%程度)である。また固溶T
iを過剰にしないことによって、低降伏比を達成するこ
ともできる。
【0035】固溶Ti量を上記範囲に制御するために
は、圧延時のスラブ加熱温度、圧延仕上温度、圧延後の
冷却速度などを総合的に設定すればよい。これらの条件
は互いに関連し、しかも鋼材の組成(添加Ti量、C
量、N量など)によっても固溶Ti量は変化し得るた
め、各条件を一義的に設定するのは困難であるものの、
下記の傾向を参考にすれば固溶Ti量を上記範囲に制御
することができる。
【0036】傾向1:添加Ti量が多い程、固溶Ti量
も多くなる。
【0037】傾向2:Ti析出物を形成可能な元素
(C,Nなど)が多い程、固溶Ti量は少なくなる。
【0038】傾向3:スラブ加熱温度が高いほど、固溶
Ti量は多くなる。加熱温度は、他の要件に応じて適宜
設定されるが、通常、950〜1250℃程度の範囲か
ら選択する。
【0039】傾向4:圧延仕上温度が高いほど、固溶T
i量は多くなる。圧延仕上温度は、他の要件に応じて適
宜設定されるが、通常、900〜700℃程度の範囲か
ら選択する。
【0040】傾向5:圧延後の冷却速度が速いほど、固
溶Ti量は多くなる。冷却速度は、他の要件に応じて適
宜設定されるが、通常、900℃〜室温の温度域を0.
1〜100℃/秒程度の範囲から選択される速度で冷却
する。
【0041】具体的な条件は後述の実施例を参照でき
る。
【0042】上述のようにして得られる本発明の鋼板
は、C、Mn等によってある程度強化されており、しか
も固溶Tiによっても強化されているため、所定の強度
(490MPa級以上。例えば、490〜780MPa
程度)を有している。加えて本発明の鋼板は、固溶Ti
量が所定量以下に抑制されているために母材靭性に優れ
ており、C量が所定の範囲に抑制されているために小入
熱(例えば、5kJ/mm未満。特に1kJ/mm以上
5kJ/mm未満)溶接時の硬化をも抑制されているた
め、小入熱溶接しても高い靭性が損なわれることがな
く、小入熱溶接時の割れを抑制することができる。さら
に本発明の鋼板は、固溶Ti量が所定量以上に制御され
ているために大入熱(例えば、5kJ/mm以上。通
常、5〜30kJ/mm)溶接による軟化の虞がない。
すなわち本発明の鋼は、小入熱溶接から大入熱溶接に至
るまで、幅広い範囲で溶接特性に優れている。
【0043】また本発明の鋼板は、熱間圧延後に焼戻し
処理を行わない焼戻し省略鋼であり、焼入れ(特に直接
焼入れ)は行ってもよく、行わなくてもよい[なお、焼
入れを行う場合には、工程省略の利点を考慮して、オフ
ラインでの焼入れではなく直接焼入れするのが望まし
い]。本発明によれば、焼入れの有無に拘わらず高い強
度を達成することができる。高強度鋼が得られる理由と
しては、固溶Tiによって強化されていること、成分組
成が適切な範囲に調整されているため、焼入れを行わな
い場合でもベイナイト主体(例えば、面積比でベイナイ
トが50%以上)の組織にできることなどが挙げられ
る。しかも焼戻し省略鋼とすれば、高い強度を維持しな
がら低降伏比(例えば、80%以下程度。通常、78%
以下程度、特に70〜75%程度)を達成することがで
きる。なお、この低降伏比鋼板は、従来、熱処理等によ
らなければ低降伏比鋼板を製造するのが困難であった高
張力鋼板、例えば、引張強度が590MPa以上(例え
ば、590〜780MPa程度)、降伏強度が430M
Pa以上(例えば、440〜700MPa程度)の分野
で極めて有用である。
【0044】上述した本発明の鋼板(厚板)は、構造部
材(例えば、建築用部材、橋梁用部材)として極めて有
用である。なお構造部材としての使用を考慮すると、本
発明の鋼板の板厚は、少なくとも10mm以上であるの
が望ましい。
【0045】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に
説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限
を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範
囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であ
り、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含され
る。
【0046】実験例1 C:0.05%、Si:0.31%、Mn:1.52
%、P:0.009%、S:0.002%、Al:0.
038%、Ti:0.035%、N:0.0051%を
含有し、残部はFe及び不可避的不純物である鋼材を溶
製し、下記表1に示す条件で圧延することにより、固溶
Ti量が異なる種々の焼戻し省略鋼板(板厚30mm)
を製造した。
【0047】得られた鋼板の引張強度(TS)、降伏強
度(YS)とを測定し、降伏比(YR=YS/TS)を
算出すると共に、以下のようにして母材靭性と溶接性
(耐軟化性)を評価した。
【0048】[母材靭性]得られた鋼板から2mmVノ
ッチ試験片を切り出し、この試験片を用いて破面遷移温
度(vTrS)を求めた。
【0049】[溶接性(耐軟化性)]得られた鋼板の断
面のビッカース硬さを測定した(HV1)。次に、得ら
れた鋼板を突き合わせ、大入熱(7kJ/mm)のサブ
マージアーク溶接を行い、溶接熱影響部(HAZ部)の
ビッカース硬さを測定した(HV2)。下記式に基づい
て、溶接前後の硬さの変化(Δ硬さ)を算出し、溶接に
よる軟化の程度を求めた。
【0050】Δ硬さ=HV2−HV1 結果を表1及び図1〜図5に示す。
【0051】
【表1】
【0052】図1より明らかなように、固溶Ti量が
0.005%未満になると急激にHAZ部が軟化するの
に対し、固溶Ti量が0.005%以上であれば軟化を
抑制できる。
【0053】図2より明らかなように、固溶Ti量が少
ない程、母材の靭性がよくなる。
【0054】図3〜図5より明らかなように、固溶Ti
量が所定の範囲内であれば、直接焼入れの有無に拘わら
ず高TS及び高YSを維持することができ、しかも焼戻
しを省略しているため低YRを達成することができる。
【0055】実験例2 下記表2に示す種々の組成の鋼材を溶製し(残部はFe
及び不可避的不純物である)、下記表3に示す条件で圧
延することによって種々の鋼板を製造した。この鋼板
は、入熱量を15kJ/mmとする以外は前記実験例1
と同様にして溶接性(耐軟化性)を評価した。また実験
例1と同様にして母材靭性、TS、YS、YRも評価し
た。さらに下記のようにして溶接性(耐割れ性)を評価
した。
【0056】[溶接性(耐割れ性)]得られた鋼板を突
き合わせ、小入熱(1.5kJ/mm)のy型溶接割れ
試験を行い、ルート割れが生じているか否かを目視で確
認した。
【0057】前記溶接を3回行い、ルート割れが生じる
頻度(%)に基づいて溶接性(耐割れ性)を評価した。
【0058】結果を表4に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】表2〜4から明らかなように、実験例2−
8〜2−12では固溶Ti量が少ないため、HAZ部が
軟化してしまうのに対して、実験例2−1〜2−7では
固溶Ti量が所定量以上に制御されているため、HAZ
部の軟化を防止できる。しかもこの実験例2−1〜2−
7で使用した鋼A〜Gは、C量が抑制されているため、
小入熱溶接時の割れをも防止できる。
【0063】さらに表実験例2−8〜2−12では固溶
Ti量が少ないために降伏強度(YS)が低くなり、実
験例2−13〜2−15では固溶Ti量が多すぎるため
母材靭性が低下するのに対して、実験例2−1〜2−7
では固溶Ti量が適切であるため、高い母材強度(T
S,YS)と優れた母材靭性及び低降伏比とを維持でき
る。そして実験例2−1〜2−7の鋼は、焼戻し省略鋼
であるため、低YRを達成できている。
【0064】
【発明の効果】本発明によれば、特定の組成を有する鋼
において固溶Ti量が0.005%以上に制御されてい
るため、大入熱溶接時のHAZ部の軟化を防止できる。
さらには固溶Ti量が0.030%以下に抑制されてい
るため、母材の靭性に優れておりかつ低降伏比を達成で
きる。しかもC量が抑制されているため、小入熱溶接時
の割れをも防止できる。
【0065】また本発明の鋼は焼戻し省略鋼であるた
め、溶接性等の優れた前記特性を維持したまま、高張力
鋼板の降伏比を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は実験例1における固溶Ti量と溶接前後
の硬さの変化(Δ硬さ)との関係を示すグラフである。
【図2】図2は実験例1における固溶Ti量と母材靭性
との関係を示すグラフである。
【図3】図3は実験例1における固溶Ti量と引張強度
(TS)との関係を示すグラフである。
【図4】図4は実験例1における固溶Ti量と降伏強度
(YS)との関係を示すグラフである。
【図5】図5は実験例1における固溶Ti量と降伏比
(YR)との関係を示すグラフである。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.01〜0.1%(質量%の意
    味。以下同じ)、Si:1%以下(0%を含まない)、
    Mn:1.1〜2.5%、P:0.02%以下(0%を
    含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、
    Al:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.0
    3〜0.06%、N:0.0025〜0.01%を含有
    する焼戻し省略鋼であり、かつ固溶Ti量が0.005
    〜0.030%であることを特徴とする溶接継手部の軟
    化が小さい高張力厚鋼板。
  2. 【請求項2】 さらに、Ni:3%以下(0%を含まな
    い)、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:
    2%以下(0%を含まない)、Mo:1%以下(0%を
    含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)、N
    b:0.03%以下(0%を含まない)、及びB:0.
    0005〜0.005%から選択された少なくとも1種
    を含有する請求項1記載の高張力焼戻し省略厚鋼板。
  3. 【請求項3】 さらにCa:0.0005〜0.005
    %を含有する請求項1又は2に記載の高張力焼戻し省略
    厚鋼板。
JP2003043124A 2002-02-25 2003-02-20 溶接継手部の軟化が小さい高張力焼戻し省略厚鋼板 Pending JP2003313634A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2003043124A JP2003313634A (ja) 2002-02-25 2003-02-20 溶接継手部の軟化が小さい高張力焼戻し省略厚鋼板

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2002-48626 2002-02-25
JP2002048626 2002-02-25
JP2003043124A JP2003313634A (ja) 2002-02-25 2003-02-20 溶接継手部の軟化が小さい高張力焼戻し省略厚鋼板

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2003313634A true JP2003313634A (ja) 2003-11-06

Family

ID=29551948

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2003043124A Pending JP2003313634A (ja) 2002-02-25 2003-02-20 溶接継手部の軟化が小さい高張力焼戻し省略厚鋼板

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2003313634A (ja)

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2008280552A (ja) * 2007-05-08 2008-11-20 Nippon Steel Corp 高強度鋼板および溶接構造物
JP2009050866A (ja) * 2007-08-23 2009-03-12 Nippon Steel Corp サブマージアーク溶接方法

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2008280552A (ja) * 2007-05-08 2008-11-20 Nippon Steel Corp 高強度鋼板および溶接構造物
JP2009050866A (ja) * 2007-08-23 2009-03-12 Nippon Steel Corp サブマージアーク溶接方法

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5079419B2 (ja) 溶接熱影響部の靱性が優れた溶接構造物用鋼とその製造方法および溶接構造物の製造方法
JP5509923B2 (ja) レーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法
JP4951997B2 (ja) 引張強さが550MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
JP5407478B2 (ja) 1層大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた高強度厚鋼板およびその製造方法
JP7262288B2 (ja) 母材と溶接熱影響部の靭性に優れかつ音響異方性の小さい高強度低降伏比厚鋼板およびその製造方法
JP5073396B2 (ja) 高温強度と低温靭性に優れる溶接構造用鋼の製造方法
JP4464909B2 (ja) 溶接熱影響部の靭性に優れた高降伏比高張力鋼板
JPH05186823A (ja) 高靱性Cu含有高張力鋼の製造方法
JP5055783B2 (ja) 高強度・高靭性鋼の製造方法
JP3602471B2 (ja) 溶接性に優れた高張力鋼板およびその製造方法
JP5515954B2 (ja) 耐溶接割れ性と溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高張力厚鋼板
JP2000319726A (ja) 溶接性に優れた高強度鋼板の製造方法
JP5008879B2 (ja) 強度および低温靭性の優れた高張力鋼板および高張力鋼板の製造方法
JP3698082B2 (ja) 耐摩耗鋼
JP2012188749A (ja) 多パス溶接部の靭性に優れた厚鋼板および多パス溶接継手
JP2004162085A (ja) 疲労き裂伝播抵抗に優れた鋼板およびその製造方法
JPH06316723A (ja) ガス切断性及び溶接性の優れた建築構造用耐候性耐火鋼材の製造方法
JP7506305B2 (ja) 大入熱溶接用高強度鋼板
JP7410438B2 (ja) 鋼板
JP4433844B2 (ja) 耐火性および溶接熱影響部の靭性に優れる高張力鋼の製造方法
JP2002224835A (ja) 溶接熱影響部靭性に優れた高靱性高張力鋼の溶接方法
JP2003313634A (ja) 溶接継手部の軟化が小さい高張力焼戻し省略厚鋼板
JP2898455B2 (ja) 溶接性に優れた高張力鋼の製造方法
JP4174041B2 (ja) 1150MPa以上の引張強さを有する溶接用鋼の製造法
JP3739997B2 (ja) 溶接性に優れた高張力鋼板

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20040810

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20051221

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20070501

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20070515

A521 Written amendment

Effective date: 20070717

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20070717

A02 Decision of refusal

Effective date: 20071106

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02