JP2003306795A - マグネシウム材における陽極酸化膜の形成方法、および、マグネシウム材の着色方法 - Google Patents

マグネシウム材における陽極酸化膜の形成方法、および、マグネシウム材の着色方法

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JP2003306795A
JP2003306795A JP2002113379A JP2002113379A JP2003306795A JP 2003306795 A JP2003306795 A JP 2003306795A JP 2002113379 A JP2002113379 A JP 2002113379A JP 2002113379 A JP2002113379 A JP 2002113379A JP 2003306795 A JP2003306795 A JP 2003306795A
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anodic oxide
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magnesium material
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Yasuo Naganuma
靖雄 長沼
Masami Tsutsumi
正巳 堤
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Fujitsu Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 色むら及びくすみを生じず又は充分に軽減し
つつ金属の質感を呈するように染色することが可能な陽
極酸化膜を形成するための方法、および、当該方法を経
てマグネシウム材に着色する方法を提供すること。 【解決手段】 マグネシウム製またはマグネシウム合金
製の基材を、アルカリ金属の水酸化物を含む電解液に浸
漬し、当該基材を一方の電極として火花放電を生じさせ
ずに陽極酸化処理S3を行うことによって陽極酸化膜を
形成することとした。そして、このようにして形成され
た陽極酸化膜の表面を染料で染色する工程S5を行うこ
とによって、マグネシウム材を着色することとした。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ノートパソコン筐
体などの構成材料として使用されているマグネシウムま
たはマグネシウム合金(以下、この両者を合わせて「マ
グネシウム材」と記載する)の表面に陽極酸化膜を形成
する方法、および、マグネシウム材の着色方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】近年、ノートパソコンなどの電気・電子
機器では、軽量化および薄型化の観点より、マグネシウ
ム材製の筐体が多用されている。特にB5サイズ以下の
モバイル型ノートパソコンで、その傾向が強い。マグネ
シウム材は、放熱性が高いため、ノートパソコンの筐体
構成材料に採用される場合においては、製品の軽量化お
よび薄型化に資するのみならず、CPUないしMPUの
高速化に伴う発熱の問題に対処するうえでも優れた金属
材料である。
【0003】マグネシウム材すなわちマグネシウムまた
はマグネシウム合金は、大気中で容易に酸化されるとい
う性質を有する。そのため、機器筐体として使用される
場合などにあっては、実用的には、マグネシウム材の表
面に対し、何らかの処理を施して耐食性を付与する必要
がある。
【0004】そのような耐食性付与手段の一つとして、
化成処理が知られている。化成処理では、所定の薬液に
マグネシウム材を浸漬することによって、材料表面に皮
膜が形成される。しかしながら、化成処理は、マグネシ
ウムまたはマグネシウム合金表面で自発的に生じる化学
反応を利用するものであり、膜厚制御において自由度に
乏しい。また、化成処理によると、皮膜は極めて薄く形
成される傾向にある。そのため、このような化成処理皮
膜のみによっては、マグネシウム材表面の耐食性を充分
な程度にまで向上させることは困難である。
【0005】一方、化成処理によるよりも厚い皮膜を形
成できる表面処理技術として、陽極酸化処理が知られて
いる。例えば、特開平9−176894号公報、特開平
11−236698号公報、特開2001−49493
号公報、特表2001−518983号公報には、マグ
ネシウム材を陽極酸化処理する技術が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】マグネシウム材に対す
る従来の陽極酸化処理によると、一般に、マグネシウム
材表面に黒色、緑色または褐色を呈した分厚い酸化膜が
形成され、それらは濃色である。そのため、マグネシウ
ム材表面において、マグネシウム材が本来的に有する金
属の質感が失われてしまう場合が多い。
【0007】また、従来の陽極酸化処理を経たマグネシ
ウム材に対してデザイン性の高い彩色を施すためには、
酸化膜上に、当該酸化膜の濃呈色からの影響を受けにく
い有機塗装を施す必要がある。有機塗装が施されたマグ
ネシウム材製品は、リサイクル過程においてそのまま高
温加熱に付されると、塗膜が燃焼されることにより有機
系の有害ガスを発生してしまう。マグネシウム材上の酸
化膜の呈色が濃いほど、有機塗膜を厚くする必要があ
り、塗膜が厚いほど、有害ガスの発生量は増大してしま
う。このような不具合を回避するためには、製品のリサ
イクル過程において、溶剤を用いて或いはウエットブラ
スト処理により、有機塗膜を剥離する必要があり、作業
環境の劣悪化や作業工程数の増加という問題を招来して
しまう。また、有機塗膜は、膜質の劣化により材料表面
から剥離し易くなり、このような剥離は製品のデザイン
上好ましくない。
【0008】一方、アルミン酸塩およびリン酸塩などを
主成分とする電解液を用いてマグネシウム材の表面に白
色系の陽極酸化膜を形成する陽極酸化技術も知られてい
る。しかしながら、白色系の陽極酸化膜をマグネシウム
材表面に形成すると、マグネシウム材表面において、マ
グネシウム材が本来的に有する金属の質感が失われてし
まう。また、白色系の陽極酸化膜を染料によって染色し
ても、素地が白色系であることに起因して、不透明でく
すんだ色調となってしまう。更には、白色系の陽極酸化
膜を染料によって染色しても、濃い色調に染色すること
ができない場合が多く、且つ、色むらが生じ易い。これ
らの理由により、表面に白色系の陽極酸化膜が形成され
ているマグネシウム材に対してデザイン性の高い彩色を
良好に施すことは、困難である場合が多い。
【0009】本発明は、このような事情のもとで考え出
されたものであって、色むら及びくすみを生じず又は充
分に軽減しつつ金属の質感を呈するように染色すること
が可能な陽極酸化膜を形成するための方法、および、当
該方法を経てマグネシウム材に着色する方法を提供する
ことを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の側面によ
ると、陽極酸化膜の形成方法が提供される。この方法
は、マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材
を、アルカリ金属の水酸化物を含む電解液に浸漬し、当
該基材を一方の電極として火花放電を生じさせずに陽極
酸化処理を行うことを特徴とする。
【0011】このような方法によりマグネシウム材に形
成される陽極酸化膜は、色むら及びくすみを生じず又は
充分に軽減しつつ金属の質感を呈するように染色するこ
とが可能である。アルカリ金属の水酸化物を含む電解液
を使用して且つ火花放電を生じさせずに、マグネシウム
材の陽極酸化処理を行うと、マグネシウム材表面におい
て、緻密の程度が比較的低くて非白色系の陽極酸化膜が
形成される。緻密の程度が比較的低い陽極酸化膜には、
染色時において、充分量の染料が均一に吸着し易い。そ
の結果、染色後に色むらが生じにくくなる。また、非白
色系の陽極酸化膜を染色すると、白色系の陽極酸化膜を
染色する場合に生ずるようなくすみが生じない。このよ
うな陽極酸化膜において、膜厚を比較的小さくしてマグ
ネシウム材素地の金属質感を陽極酸化膜表面に出すこと
によって、色むら及びくすみを生じず又は充分に軽減し
つつ金属の質感を呈するように染色することが可能な陽
極酸化膜とすることができるのである。
【0012】従来のマグネシウム陽極酸化技術において
は、マグネシウム材の耐食性を向上すべくマグネシウム
材表面において緻密な陽極酸化膜を形成するために、電
解時に火花放電を生じさせる手法が採用されている。し
かしながら、緻密な陽極酸化膜に対しては、染色時に染
料が吸着しにくく、その結果、染色後に色むらが生ずる
場合が多い。加えて、本来的に白色系でない陽極酸化膜
であっても、緻密な陽極酸化膜は白味を帯びる。白味を
帯びた陽極酸化膜に染料を作用させても、不透明でくす
んだ色調に染色されてしまう傾向にある。これに対し、
本発明では、アルカリ金属の水酸化物を含む電解液を使
用して且つ火花放電を生じさせずに、マグネシウム材の
陽極酸化処理を行うことによって、緻密の程度が比較的
低くて非白色系の陽極酸化膜がマグネシウム材表面に形
成される。このようにして形成される陽極酸化膜は、上
述したように、膜厚を適切に制御することによって、色
むら及びくすみを生じず又は充分に軽減しつつ金属の質
感を呈するように染色可能となるのである。
【0013】本発明の第2の側面によると、マグネシウ
ム材の着色方法が提供される。この方法は、マグネシウ
ム製またはマグネシウム合金製の基材を、アルカリ金属
の水酸化物を含む電解液に浸漬し、当該基材を一方の電
極として火花放電を生じさせずに陽極酸化処理すること
によって陽極酸化膜を形成する工程と、陽極酸化膜の表
面を染料で染色する工程とを含むことを特徴とする。
【0014】この方法は、マグネシウム材を着色すべ
く、本発明の第1の側面に係る陽極酸化膜形成方法の後
に染色工程を行うものである。したがって、本発明の第
2の側面によっても、マグネシウム材の染色において、
第1の側面に関して上述したのと同様の効果が奏され
る。
【0015】本発明の第1および第2の側面において、
陽極酸化処理で形成される陽極酸化膜の膜厚は、好まし
くは0.5〜10μmである。陽極酸化膜の膜厚につい
てのこのような範囲は、染色された陽極酸化膜において
良好な金属質感を達成するうえで、好ましい。
【0016】本発明で用いられる電解液は、更に、多価
アルコールおよび/またはオキソ酸塩を含むのが好まし
い。電解液中に存在する多価アルコールは、電解時にお
ける電圧の安定化に寄与する。本発明で用いられる多価
アルコールとしては、例えば、グリセリン、エチレング
リコール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。一
方、電解液中にオキソ酸塩が存在すると、当該オキソ酸
塩の一部は、電解時に成長形成されていく陽極酸化膜に
取り込まれる。このようにして膜構造に取り込まれたオ
キソ酸塩は、陽極酸化膜の耐食性向上に寄与することと
なる。本発明で用いられるオキソ酸塩としては、例え
ば、リン酸塩、スズ酸塩、アルミン酸塩などが挙げられ
る。
【0017】本発明における陽極酸化処理は、4〜20
A/dm2の電流密度で行うのが好ましい。また、陽極
酸化処理における電解時間は1〜10分であるのが好ま
しい。このような電解条件は、膜厚0.5〜10μmの
陽極酸化膜を形成するのに適している。
【0018】本発明の第2の側面に係る方法は、好まし
くは、更に、染色された陽極酸化膜の上にコーティング
層を形成する工程を含む。コーティング層は、アルキル
シロキサン系無機コーティング剤により形成するのが好
ましい。或は、アルコキシシラン系無機コーティング剤
により形成してもよい。陽極酸化膜上にコーティング層
が形成されると、陽極酸化膜の保護が図られるとともに
陽極酸化膜表面に光沢が付与され、更には、陽極酸化膜
が封孔処理されることとなる。
【0019】本発明の第3の側面によると、上述のいず
れかの方法を経て着色が施されている、マグネシウム製
またはマグネシウム合金製の電子機器筐体が提供され
る。このような構成によると、マグネシウム材よりなる
電子機器筐体の染色状態において、第1の側面に関して
上述したのと同様の効果が奏される。したがって、本発
明の第3の側面によると、金属質感を呈しつつ所望する
濃度の色調で良好に着色されている、ノートパソコン筐
体や携帯電話筐体などのマグネシウム材製筐体を得るこ
とが可能となる。
【0020】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の陽極酸化膜形成
方法およびマグネシウム材着色方法を含むマグネシウム
材表面処理のフローチャートを表す。この表面処理は、
脱脂工程S1と、第1水洗工程S2と、陽極酸化工程S
3と、第2水洗工程S4と、染色工程S5と、第3水洗
工程S6と、乾燥工程S7と、コーティング工程S8
と、焼付け工程S9とからなる。
【0021】本発明で用いられる基材は、マグネシウム
製またはマグネシウム合金製である。マグネシウム合金
としては、例えば、Mg−Al合金、Mg−Al−Zn
合金、Mg−Al−Mn合金、Mg−Zn−Zr合金、
Mg−希土類元素合金、Mg−Zn−希土類元素合金な
どを用いることができる。より具体的には、AZ91D
合金、AZ31合金、AZ61合金、AM60合金、A
M120合金などを用いることができる。本実施形態で
は、これらのようなマグネシウム材から、例えばノート
パソコン筐体や携帯電話筐体などの所定形状の成形体を
作製した後、当該成形体を基材として、基材表面が以下
のように処理される。
【0022】表面処理対象である基材に対しては、ま
ず、脱脂工程S1において脱脂処理を施す。脱脂処理
は、アセトンおよびこれに続いてアルカリ処理剤に基材
を浸漬することによって行うことができる。アルカリ処
理剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリ
ウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。これ
に代えて、脱脂処理は、基材表面に界面活性剤を作用さ
せることによって行うこともできる。界面活性剤として
は、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムな
どを用いることができる。
【0023】次に、第1水洗工程S2において、上述の
脱脂工程S1を経た基材を流水でよく洗浄し、脱脂処理
で使用した薬剤を除去する。
【0024】次に、陽極酸化工程S3において、基材表
面に対して陽極酸化処理を施す。陽極酸化処理に使用す
る電解液には、陽極酸化膜形成用の試薬として、アルカ
リ金属の水酸化物が添加されている。アルカリ金属の水
酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リ
チウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。電
解液におけるアルカリ金属水酸化物の濃度は、2〜6M
であるのが好ましい。また、電解液には、オキソ酸塩や
多価アルコールを添加してもよい。オキソ酸塩として
は、例えば、リン酸塩、スズ酸塩、アルミン酸塩などを
用いることができる。多価アルコールとしては、例え
ば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリ
コールなどを用いることができる。オキソ酸塩および多
価アルコールは、各々、単独で用いてもよいし、2種以
上を混合して用いてもよい。電解液に多価アルコールお
よびオキソ酸塩を添加する場合、これらの濃度は、各
々、0.05〜0.2Mおよび0.1〜0.3Mである
のが好ましい。
【0025】図2は、陽極酸化処理装置の模式図であ
る。電源1の一方の端子には処理に付される基材2を電
気的に接続し、他方の端子には、電解液に不溶な鉄電
極、ステンレス電極、またはカーボン電極3を電気的に
接続し、これらを一対の電極として、上述の組成の電解
液4に浸漬した状態で当該電極間に電圧を印加する。印
加電圧は、火花放電が生じないような範囲に制御する。
火花放電を生じさせないためには、陽極酸化時ないし電
解時における印加電圧は30V以下であるのが望まし
く、そのような電圧範囲において電流密度は4〜20A
/dm2であるのが望ましい。印加電圧については、直
流電圧および交流電圧のいずれをも採用することができ
る。交流電圧を採用する場合、その波形についてはsi
n波であっても矩形波であってもよい。電解液温度につ
いては、15〜60℃の範囲とする。15℃以下では酸
化膜形成速度が有意に低下する傾向にあり、60℃以上
では形成される酸化膜の表面粗さが過大になる傾向にあ
る。
【0026】このような条件での陽極酸化処理において
は、基材電極が陽極である時に基材表面にて陽極酸化膜
が次第に成長形成されていく。この陽極酸化膜は、緻密
の程度が比較的低くて非白色系であり、且つ、マグネシ
ウム材が本来的に有する金属の質感を当該マグネシウム
材表面に出すものである。本実施形態では、電解時間を
30秒〜10分程度として、膜厚0.5〜10μmの陽
極酸化膜が形成される。膜厚が0.5μmより小さい
と、マグネシウム材に対して付与される耐食性が充分と
ならない傾向にある。膜厚が10μmより大きいと、陽
極酸化膜表面に表れる金属質感が低下する傾向にある。
また、膜厚が10μmより大きいと、陽極酸化膜の剥離
が生じたり、或は、酸化膜上にコーティング層が積層形
成された場合に酸化膜へのコーティング剤の染込み量が
過大となり、その結果、酸化膜の色調が黒ずんだりする
傾向もある。
【0027】次に、第2水洗工程S4において、上述の
陽極酸化工程S3を経た基材を流水で30秒間洗浄し、
基材に付着している電解液を除去する。
【0028】次に、基材が乾燥する前に、染色工程S5
において、陽極酸化膜が既に形成されている基材を所望
の染料を含んだ染色液に浸漬することによって、基材に
対して染色を施す。染料としては、アゾ染料、アントラ
キノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料、
硫化染料、トリフェニルメタン染料、ピラゾロン染料、
スチルベン染料、ジフェニルメタン染料、キサンテン染
料、アリザリン染料、アクリジン染料、アジン染料、オ
キサジン染料、チアジン染料、チアゾール染料、メチン
染料、ニトロ染料、ニトロソ染料などを挙げることがで
き、市販のアルマイト用染料を用いることができる。染
色液は、所望の染料を1〜5g/Lの濃度で水に懸濁し
て、酢酸−酢酸アンモニウム緩衝液でpHを5〜6に調
整することによって調製する。
【0029】染色に際しては、まず、染色液を50〜6
0℃に加温し、これを維持しておく。次に、当該染色液
に対して、既に陽極酸化膜が形成されている基材を5〜
15分間浸漬する。5分未満では色調が薄くなる傾向に
あり、15分以上浸漬しても染色の度合いが向上しない
傾向にある。本工程では、使用する染料を適宜選択する
ことによって、マグネシウム材表面の陽極酸化膜に対し
て任意の彩色が可能である。
【0030】次に、第3水洗工程S6において、基材を
染色液から引き上げ、流水で30秒間洗浄する。これに
より、基材に付着している余分な染色液が除去される。
次に、乾燥工程S7において、基材を窒素ブローした後
に、オーブンで乾燥する。窒素ブローでは、基材に対し
て窒素ガスを噴きつけることによって、基材に付着して
いる水分を飛散ないし蒸散させる。また、オーブンによ
る乾燥では、オーブン内温度は120〜150℃、乾燥
時間は20〜60分が好ましい。
【0031】次に、コーティング工程S8において、基
材の陽極酸化膜上にコーティング層を設ける。具体的に
は、スピンコート、ディップコート、ロールコート、ド
クターブレード法などの手段によって、液状のコーティ
ング剤を基材の陽極酸化膜表面に塗布する。コーティン
グ層を形成するための材料としては、市販の無機系コー
ティング剤や、ゾルゲル法を利用して固化可能な金属酸
化物ゾルなどを使用することができる。より具体的に
は、アルキルシロキサン系無機コーティング剤、また
は、アルコキシシラン系無機コーティング剤を使用する
ことができる。リサイクル過程の燃焼において有機系有
毒ガスをほとんど発生しないので、コーティング剤とし
ては、有機系コーティング剤よりも上述のような無機系
コーティング剤の方が望ましい。
【0032】次に、焼付け工程S9において、陽極酸化
膜上のコーティング層を硬化させる。具体的には、上述
のようにコーティング剤が塗布された基材を、室温で1
0分程度静置した後に、120〜150℃に加熱したオ
ーブンに30〜60分間放置することによって、陽極酸
化膜上のコーティング層を硬化させる。このようにして
コーティング層を設けることによって、既に着色されて
いる陽極酸化膜に光沢を付与してその色調を引き立たせ
ることができるとともに、陽極酸化膜からの染料の染み
出しを防止することができる。更には、コーティング層
は、陽極酸化膜を物理的に保護することによって、マグ
ネシウム材の耐食性向上に寄与することもできる。ただ
し、本発明では、コーティング層を形成する必要のない
場合には、コーティング工程S8および焼付け工程S9
は行われない。
【0033】
【実施例】次に、本発明の実施例について、比較例とと
もに記載する。
【0034】
【実施例1】<電解液>水酸化ナトリウムを150g/
L、ジエチレングリコールを10g/Lの濃度で含み、
pH14の電解液を調製した。
【0035】<陽極酸化処理>基材としてのMg合金板
(AZ31合金板、東洋マーク製、70mm×20mm
×1.5mm)を、脱脂処理およびこれに続いて水洗し
た後、上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成におい
て、当該基材を陽極として且つステンレス(SUS−3
04)板を陰極として、15A/dm2の電流密度で火
花放電を生じさせずに1分間の定電流電解を行った。こ
のときの電解液の温度は30℃に維持した。すると、基
材において電解液と接する表面に、マグネシウム素地色
に近い淡褐色の陽極酸化膜が形成された。
【0036】<染色>上述のようにして陽極酸化膜が形
成された基材を、電解液から引き上げて、流水により3
0秒間洗浄した後、染色液に浸漬した。本実施例で使用
した染色液は、アルマイト用のアゾ染料(商品名:Sano
dal Orange、クラリアント(株)製)を5g/Lの濃度
で含む水溶液であって、酢酸−酢酸アンモニウム緩衝液
でpH5.5に調整したものである。本染色工程では、
染色液の温度を55℃とし、浸漬時間を10分間とし
た。10分間の浸漬の後、基材を染色液から引き上げて
流水で30秒以上洗浄し、続いて、基材に付着している
水分を窒素ブローにより除去した。次に、130℃に加
熱したオーブン中で30分間放置することにより、基材
を乾燥し、本実施例の染色サンプルを得た。本実施例で
は、マグネシウム素地色に近い淡褐色の陽極酸化膜が、
金属の質感を呈しつつオレンジ色に染色された。また、
色むら及び色調のくすみはなかった。
【0037】<コーティング>上述のようにして染色さ
れた基材を、無機コーティング剤ヒートレスグラス(商
品名:GS-600-1 type BC、大橋化学製)に浸漬し、3m
m/秒の速度で引き上げた。これを室温で15分間放置
した後、150℃に加熱したオーブンで60分間乾燥す
ることによって、陽極酸化膜に対してコーティング層を
焼付けた。その結果、金属の質感を呈しつつオレンジ色
に染色された陽極酸化膜を有して、当該酸化膜がコーテ
ィングされている基材(Mg合金板)を得ることができ
た。
【0038】
【実施例2〜5】実施例1と同一の陽極酸化膜が形成さ
れた基材に対して、染色工程において、アルマイト用の
アゾ染料(商品名:Sanodal Orange、クラリアント
(株)製)を5g/Lの濃度で含む染色液に代えて、ア
ルマイト用の別のアゾ染料(商品名:Aluminum Green、
クラリアント(株)製)を1g/Lの濃度で含む染色液
(実施例2)、アルマイト用のメチン染料(商品名:Sa
nodal Yellow、クラリアント(株)製)を3g/Lの濃
度で含む染色液(実施例3)、アルマイト用の別のアゾ
染料(商品名:Sanodal Red、クラリアント(株)製)
を5g/Lの濃度で含む染色液(実施例4)、あるいは
アルマイト用のフタロシアニン染料(商品名:Sanodal
Turquoise、クラリアント(株)製)を5g/Lの濃度
で含む染色液(実施例5)を使用した以外は、実施例1
と同様にして染色した。すると、マグネシウム素地色に
近い淡褐色の陽極酸化膜が、金属の質感を呈しつつ緑色
(実施例2)、黄色(実施例3)、赤色(実施例4)、
青緑色(実施例5)に染色された。各実施例において、
色むら及び色調のくすみはなかった。
【0039】各実施例の基材について、実施例1と同様
にして、無機コーティング剤ヒートレスグラスをディッ
プコートした後に陽極酸化膜に対してコーティング層を
焼付けた。その結果、金属の質感を呈しつつ緑色(実施
例2)、黄色(実施例3)、赤色(実施例4)、および
青緑色(実施例5)に染色された陽極酸化膜を有して、
当該酸化膜がコーティングされている基材(Mg合金
板)を得ることができた。
【0040】
【実施例6〜10】陽極酸化処理における電解時間を1
分間に代えて7分間とした以外は、実施例1と同様にし
て基材(AZ31合金板)の表面に陽極酸化膜を形成し
て当該酸化膜を染色し(実施例6)、実施例2と同様に
して基材表面に陽極酸化膜を形成して当該酸化膜を染色
し(実施例7)、実施例3と同様にして基材表面に陽極
酸化膜を形成して当該酸化膜を染色し(実施例8)、実
施例4と同様にして基材表面に陽極酸化膜を形成して当
該酸化膜を染色し(実施例9)、あるいは実施例5と同
様にして基材表面に陽極酸化膜を形成して当該酸化膜を
染色した(実施例10)。その結果、実施例6〜10の
各々の基材は、同一の染料を用いて染色された実施例1
〜5の基材よりも透明感に乏しいけれども鮮やかな色調
で、金属の質感を呈しつつオレンジ色(実施例6)、緑
色(実施例7)、黄色(実施例8)、赤色(実施例
9)、および青緑色(実施例10)に染色された。各実
施例において、色むら及び色調のくすみはなかった。
【0041】
【比較例1】<電解液>水酸化カリウムを2.9M、ア
ルミン酸ナトリウムを0.49M、フッ化カリウムを
0.6M、リン酸三ナトリウムを0.09M、スズ酸ナ
トリウムを0.13Mの濃度で含み、pH14の電解液
を調製した。
【0042】<陽極酸化処理>基材としてのMg合金板
(AZ31合金板、東洋マーク製、70mm×20mm
×1.5mm)を、脱脂処理およびこれに続いて水洗し
た後、上述の電解液に浸漬し、図2の装置構成におい
て、当該基材を陽極として且つステンレス(SUS−3
04)板を陰極として、4A/dm2の電流密度で火花
放電を生じさせて10分間の定電流電解を行った。この
ときの電解液の温度は30℃に維持した。すると、基材
において電解液と接する表面に、灰白色で緻密な陽極酸
化膜が形成された。
【0043】<染色>上述のようにして陽極酸化膜が形
成された基材を、実施例1と同様にして染色してこれを
乾燥し、本比較例の染色サンプルを得た。本比較例で
は、灰白色で緻密な陽極酸化膜が染色されたため、薄く
て白味を帯びた色調で、即ちくすんだ色合いでオレンジ
色に染色された。
【0044】
【比較例2〜5】比較例1と同一の陽極酸化膜が形成さ
れた基材に対して、染色工程において、アルマイト用の
アゾ染料(商品名:Sanodal Orange、クラリアント
(株)製)を5g/Lの濃度で含む染色液に代えて、ア
ルマイト用の別のアゾ染料(商品名:Aluminum Green、
クラリアント(株)製)を1g/Lの濃度で含む染色液
(比較例2)、アルマイト用のメチン染料(商品名:Sa
nodal Yellow、クラリアント(株)製)を3g/Lの濃
度で含む染色液(比較例3)、アルマイト用の別のアゾ
染料(商品名:Sanodal Red、クラリアント(株)製)
を5g/Lの濃度で含む染色液(比較例4)、あるいは
アルマイト用のフタロシアニン染料(商品名:Sanodal
Turquoise、クラリアント(株)製)を5g/Lの濃度
で含む染色液(比較例5)を使用した以外は、比較例1
と同様にして染色した。すると、灰白色で緻密な陽極酸
化膜が、薄くて白味を帯びた色調で、即ちくすんだ色合
いで、緑色(比較例2)、黄色(比較例3)、赤色(比
較例4)、および青緑色(比較例5)に染色された。
【0045】以上のまとめとして、本発明の構成および
そのバリエーションを以下に付記として列挙する。
【0046】(付記1)マグネシウム製またはマグネシ
ウム合金製の基材を、アルカリ金属の水酸化物を含む電
解液に浸漬し、当該基材を一方の電極として火花放電を
生じさせずに陽極酸化処理を行うことを特徴とする、陽
極酸化膜の形成方法。 (付記2)前記陽極酸化膜の膜厚は0.5〜10μmで
ある、付記1に記載の陽極酸化膜の形成方法。 (付記3)前記電解液は、更に、多価アルコールおよび
/またはオキソ酸塩を含む、付記1または2に記載の陽
極酸化膜の形成方法。 (付記4)前記多価アルコールは、グリセリン、エチレ
ングリコール、ジエチレングリコールからなる群より選
択される、付記3に記載の陽極酸化膜の形成方法。 (付記5)前記オキソ酸塩は、リン酸塩、スズ酸塩、ア
ルミン酸塩からなる群より選択される、付記3または4
に記載の陽極酸化膜の形成方法。 (付記6)前記陽極酸化処理は、4〜20A/dm2
電流密度で行う、付記1から5のいずれか1つに記載の
陽極酸化膜の形成方法。 (付記7)前記陽極酸化処理における電解時間は1〜1
0分である、付記1から6のいずれか1つに記載の陽極
酸化膜の形成方法。 (付記8)マグネシウム製またはマグネシウム合金製の
基材を、アルカリ金属の水酸化物を含む電解液に浸漬
し、当該基材を一方の電極として火花放電を生じさせず
に陽極酸化処理を行うことによって陽極酸化膜を形成す
る工程と、前記陽極酸化膜の表面を染料で染色する工程
と、を含むことを特徴とする、マグネシウム材の着色方
法。 (付記9)前記陽極酸化膜の膜厚は0.5〜10μmで
ある、付記8に記載のマグネシウム材の着色方法。 (付記10)更に、染色された前記陽極酸化膜の上にコ
ーティング層を形成する工程を含む、付記8または9に
記載のマグネシウム材の着色方法。 (付記11)前記コーティング層は、アルキルシロキサ
ン系無機コーティング剤またはアルコキシシラン系無機
コーティング剤により形成される、付記10に記載のマ
グネシウム材の着色方法。 (付記12)付記8から11のいずれか1つに記載の方
法により着色が施されていることを特徴とする、マグネ
シウム製またはマグネシウム合金製の電子機器筐体。
【0047】
【発明の効果】本発明によると、マグネシウム材に対し
て、色むら及びくすみを生じず又は充分に軽減しつつ金
属の質感を呈するように染色することが可能となる。し
たがって、マグネシウム材により成形される例えば電子
機器筐体に対して、有機塗装を行わずとも鮮やかな色彩
のデザインを付与することが可能となる。マグネシウム
材成形体に対して有機塗装を行わなければ、当該マグネ
シウム材成形体をリサイクルの過程で燃焼させた場合
に、有機塗装に由来する有機系有害ガスは発生しない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る陽極酸化膜形成方法およびマグネ
シウム材着色方法を含む、マグネシウム材に対する表面
処理のフローチャートである。
【図2】陽極酸化処理装置の模式図である。
【符号の説明】
S1 脱脂工程 S2 第1水洗工程 S3 陽極酸化工程 S4 第2水洗工程 S5 染色工程 S6 第3水洗工程 S7 乾燥工程 S8 コーティング工程 S9 焼付け工程

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 マグネシウム製またはマグネシウム合金
    製の基材を、アルカリ金属の水酸化物を含む電解液に浸
    漬し、当該基材を一方の電極として火花放電を生じさせ
    ずに陽極酸化処理を行うことを特徴とする、陽極酸化膜
    の形成方法。
  2. 【請求項2】 前記陽極酸化膜の膜厚は0.5〜10μ
    mである、請求項1に記載の陽極酸化膜の形成方法。
  3. 【請求項3】 前記電解液は、更に、多価アルコールお
    よび/またはオキソ酸塩を含む、請求項1または2に記
    載の陽極酸化膜の形成方法。
  4. 【請求項4】 アルカリ金属の水酸化物を含む電解液に
    マグネシウム製またはマグネシウム合金製の基材を浸漬
    し、当該基材を一方の電極として火花放電を生じさせず
    に陽極酸化処理を行うことによって陽極酸化膜を形成す
    る工程と、前記陽極酸化膜の表面を染料で染色する工程
    と、を含むことを特徴とする、マグネシウム材の着色方
    法。
  5. 【請求項5】 更に、染色された前記陽極酸化膜の上に
    コーティング層を形成する工程を含む、請求項4に記載
    のマグネシウム材の着色方法。
  6. 【請求項6】 請求項4または5に記載の方法により着
    色が施されていることを特徴とする、マグネシウム製ま
    たはマグネシウム合金製の電子機器筐体。
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