JP2003270176A - 金属材料の疲労損傷診断方法 - Google Patents

金属材料の疲労損傷診断方法

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JP2003270176A JP2002069108A JP2002069108A JP2003270176A JP 2003270176 A JP2003270176 A JP 2003270176A JP 2002069108 A JP2002069108 A JP 2002069108A JP 2002069108 A JP2002069108 A JP 2002069108A JP 2003270176 A JP2003270176 A JP 2003270176A
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Masashi Yoshida
政司 吉田
Keiichi Takada
啓一 高田
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Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】金属材料の疲労破壊に対する余寿命(損傷率)
や振動エネルギー吸収性能の診断を行う方法の提供。 【解決手段】陽電子消滅測定法を用いて金属材料の疲
労損傷率を求める方法であって、陽電子の寿命を110ピ
コ秒以下の範囲内の短寿命成分および145〜155ピコ秒の
範囲内の長寿命成分の2成分に分解し、各成分の相対強
度比から金属材料の疲労損傷率を求めることを特徴とす
る金属材料の疲労損傷診断方法。陽電子消滅測定法を
用いて金属材料の疲労損傷率を求める方法であって、陽
電子の平均寿命から金属材料の疲労損傷率を求めること
を特徴とする金属材料の疲労損傷診断方法。本発明の方
法は、振動エネルギー吸収用金属材料、特に、その降伏
点が230N/mm以下の極低降伏点鋼の疲労損傷を診断す
るのに有用である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】金属材料は、微小な外力が繰
り返し負荷されることによって疲労損傷が発生し、最終
的には破断に至る場合がある。例えば、自動車の衝突時
の衝撃エネルギーを吸収するダンパーや地震の振動エネ
ルギーを吸収する建築用制振システムには、極低降伏点
鋼が使用されるが、このような材料においても疲労損傷
の発生は避けられない。本発明は、このような金属材料
の疲労損傷を定量的に診断する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、金属材料は欠陥がない完全結晶
では硬度が低いが、塑性変形が与えられると転位が導入
され、変形が繰り返し与えられることにより転位が増殖
し、これに伴って硬度が上昇すると考えられている。し
かし、金属材料のなかには、疲労の初期段階において硬
度が上昇し、破断の直前には軟化するものや、疲労の初
期段階においては軟化し、その後一定の硬度を保ったの
ちに破断するものもある。このように、疲労の過程にお
いて生成する転位や欠陥には様々な種類のものがあり、
金属材料の疲労による破断という現象は、転位や欠陥の
種類と粒界や析出物等の条件が複雑に絡み合って発生す
るものと考えられる。
【0003】従って、各金属材料について、その疲労の
各段階でどのような種類の転位や欠陥が生成し、また消
滅するのか、さらには、それぞれの種類の転位や欠陥が
どの程度の量生成または消滅するのかを定量的に測定で
きれば、金属材料の疲労損傷率を求めることができる。
【0004】近年、建築物の分野においては、耐震性を
向上させることを目的として、降伏点が230N/mm以下
という極低降伏点鋼を用いた制振ダンパー等の制振シス
テムの開発がなされてきている。極低降伏点鋼は、C、
Si、Mn等の強度増加元素を精錬技術により極力低減させ
て純鉄に近づけた鋼である。しかし、極低降伏点鋼にお
いても上述した疲労破壊が問題となる。また、極低降伏
点鋼に地震による繰り返し応力が加えられると、鋼中に
転位が増殖し、局所的な硬度の上昇が生じるため、疲労
破壊が発生するよりも極めて早い段階において振動エネ
ルギー吸収性能が劣化する。この振動エネルギー吸収性
能の劣化状態も金属材料の疲労損傷率を把握することに
より、予測することができる。
【0005】従来、金属材料中の転位や欠陥を観測する
方法として透過電子顕微鏡による方法が知られている
が、この方法では様々な種類の転位や欠陥が関与する疲
労の過程において生成、消滅する転位や欠陥の種類およ
びその量を定量的に評価することができないため、金属
材料の疲労損傷率を求めることができない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題
を解決するためになされたものであって、金属材料の疲
労破壊に対する余寿命や振動エネルギー吸収性能の診断
を行う方法を提供することを目的とする。なお、これら
の性能の診断を行う方法を総称して金属材料の疲労損傷
診断方法と呼ぶこととする。
【0007】
【課題を解決するための手段】金属材料中に生じた空孔
や欠陥等を高感度で検出する方法として陽電子消滅測定
法が知られている。陽電子消滅測定法は、22Naや58
Co等の放射性同位元素を陽電子線源として用い、放射性
同位元素のβ崩壊の結果生じた陽電子が金属材料中に
入射し、主として金属材料中の自由電子と対消滅するま
での陽電子寿命を測定することによって金属材料中の空
孔や欠陥等を検出する方法である。ここで、「陽電子寿
命」とは、陽電子に試料が入射してから電子と対消滅す
るまでの時間を意味し、下記のようにして求めることが
できる。
【0008】例えば、陽電子線源として22Naを用いる
場合について説明する。陽電子線源 22Naは、陽電子の
放出と同時に特定のエネルギー(1.28MeV)のγ線を放
出するため、1.28MeVのエネルギーを有するγ線を検出
することによって陽電子が誕生した時刻を知ることがで
きる。このγ線を検出する側をスタート側という。一
方、陽電子は、金属材料中の自由電子と対消滅する際に
0.511MeVのエネルギーを有する2本のγ線を放出するた
め、0.511MeVのエネルギーを有するγ線を検出すること
によって陽電子が消滅した時刻を知ることができる。こ
のγ線を検出する側をストップ側と呼ぶ。
【0009】図1は、陽電子寿命の測定システムの構成
を示す図である。図1に示すように、スタート側の検出
器に入ったγ線(1.28MeVのエネルギーを有するγ線)
の信号は、コンスタントフラクション・ディスクリミネ
ータ(以下、CFDと呼ぶ)に送られる。スタート側の
CFDは、そのタイミング信号を時間差波高変換器(以
下、TACと呼ぶ)に送る。一方、ストップ側の検出器
に入ったγ線(0.511MeVのエネルギーを有するγ線)の
信号は、ストップ側のCFDに送られ、そのタイミング
信号がTACに送られる。
【0010】TACでは、スタート側の入力を受けてか
ら、ストップ側の入力を受けるまでの時間差を電圧に変
換し、その電圧をマルチ・チャンネル・アナライザ(以
下、MCAと呼ぶ)に出力する。MCAは受け取った電
圧を数値化し、各数値ごとの陽電子の数を集積してい
き、できあがったヒストグラム(横軸:チャンネル(時
間)、縦軸:計測数)が陽電子寿命スペクトルとなる。
後段で説明する図3に示すように、陽電子寿命スペクト
ルは陽電子寿命を時定数に持つ指数関数となる。
【0011】このようにして得られた陽電子スペクトル
をP.KirkegaardとM.Eldrupが開発したPOSITRONFIT("Co
mmuputer Phys. Commum. 7"(1974)、401頁)等の解析ソ
フトを用いて解析し、そこに含まれる各陽電子寿命成分
と各成分の相対強度を求める。陽電子寿命は、金属材料
では塑性変形を加えることにより欠陥が導入されたり、
放射線を照射して空孔が発生したりすると、長くなるこ
とが知られている。
【0012】例えば、欠陥の少ない金属材料の陽電子寿
命は110ピコ秒(ピコ秒は10−12秒)程度であるが、
塑性変形が加えられた金属材料では徐々にその陽電子寿
命が長くなり150ピコ秒程度に達する。また、放射線が
照射された金属材料でも徐々にその陽電子寿命が長くな
り175ピコ秒程度となる。このように、陽電子寿命は金
属材料中の欠陥の種類や大きさなどによって固有の値を
取るため、陽電子消滅測定法によって陽電子寿命を検出
することは、金属材料中の欠陥のミクロ情報を得る上で
非常に有効である。なお、陽電子消滅法の原理について
は、白井泰治:「まてりあ」第37巻第1号(1998)の61
〜62頁に詳しく説明されている。
【0013】しかし、前述のとおり、金属材料の疲労の
過程においては、複数の種類の欠陥が関与して生成、消
滅を繰り返すため、陽電子消滅測定法で疲労損傷率を定
量的に評価できるか否かについては不明であった。
【0014】そこで、本発明者らは、実際に、所定の化
学組成を有する金属材料に疲労損傷率を変化させた試験
片を準備して、各疲労損傷率を有する金属材料について
の陽電子寿命を測定した結果、金属材料の疲労損傷率と
陽電子寿命との間には一定の相関関係があることを見出
し、本発明を完成させた。
【0015】本発明は、下記のおよびの金属材料の
疲労損傷診断方法を要旨とする。
【0016】線源から放出した陽電子を金属材料に入
射させ、金属材料中の陽電子寿命を測定することによっ
て、金属材料の疲労損傷率を求める方法であって、陽電
子の寿命を110ピコ秒以下の範囲内の短寿命成分および1
45〜155ピコ秒の範囲内の長寿命成分の2成分に分解
し、各成分の相対強度比から金属材料の疲労損傷率を求
めることを特徴とする金属材料の疲労損傷診断方法(以
下、第1の方法という)。
【0017】線源から放出した陽電子を金属材料に入
射させ、金属材料中の陽電子寿命を測定することによっ
て、金属材料の疲労損傷率を求める方法であって、陽電
子の平均寿命から金属材料の疲労損傷率を求めることを
特徴とする金属材料の疲労損傷診断方法(以下、第2の
方法という)。
【0018】なお、本発明の方法は、例えば、制振シス
テムに使用される振動エネルギー吸収用金属材料であ
り、特に、その降伏点が230N/mm以下の極低降伏点鋼
の疲労損傷を診断するのに有用である。
【0019】
【発明の実施の形態】(A)データ解析方法について 本発明の方法における測定データの解析方法は、前述の
白井泰治:「まてりあ」第37巻第1号(1998)の64〜67
頁に記載される方法に従った。その方法を下記に示す。
【0020】一般に、陽電子が複数の異なる状態から消
滅する場合、陽電子寿命スペクトルT(t)は複数の指数
関数の和から求められる。測定装置の時間分解能が理想
的に高ければ、T(t)は一般的に下記の(1)式で表され
る。
【数1】 但し、τは各成分の陽電子寿命、Iはその相対強度
である。また、装置の時間分解能関数は、通常下記の
(2)式で示すような標準偏差σ/2のガウス関数G(t)で近
似される。
【数2】
【0021】装置の分解能は、一般にこの半値幅(FWH
M)=2(ln2)0.5σで表示される。観測される陽電子
寿命スペクトルは、上記の(1)式で表した陽電子寿命を
示す指数関数を上記の(2)式で表した装置の分解能を示
すガウス関数にたたみこんだものにバックグラウンドB
を加えたものであり、下記の(3)式で表される。
【数3】
【0022】ここで、前記図1のMCAに蓄積された実
測データと比較するために、上記の(3)式の積分結果を
更に1チャンネル当たりの時間幅にわたって積分し、各
チャンネルjにおける計測数fを計算する。この計算
値と実験で求めた計測数yが最もよく一致するよう
に、各成分の陽電子寿命τおよびその相対強度I
決定する。即ち、重み付き最小2乗法により下記の(4)
式で示されるΦが最小となるように各パラメータの値を
決定する。
【数4】
【0023】なお、(4)式中のnは解析に用いるチャン
ネル数であり、ωは各データ点に対する重みである。
計測数が十分に大きいとき、yはfを中心とするポ
アソン分布に従い、そのバラツキの標準偏差は(f)
0.5に等しいと考えてよいので、重みωは、下記の
(5)式で与えられる。
【数5】
【0024】解析結果の妥当性の判断には、上記の(4)
で表されるΦの最小値(Φmin)を用いる。上記の
(4)式および(5)式から明らかなように、Φminは自由
度qのχ分布に従う。自由度qは、解析に用いたチャ
ンネル数と解析時のフリーパラメータの数lとの差(q
=n−l)として与えられるが、実際の解析条件ではn
≫lであるから、ほぼ解析に用いたチャンネル数nに等
しい。従って、qが十分に大きいとき、下記の(6)式か
ら求められる「χ/q」を考えると、これは中心値
1、標準偏差(2/q)0.5の正規分布に従う。
【数6】
【0025】この「χ/q」の値が1.2を超える場合に
は、その解析結果は実測スペクトルを十分に記述するも
のではないことを意味し、良好な範囲は0.9〜1.1程度で
ある。
【0026】(B)疲労損傷率について 疲労損傷率(単位:%)とは、金属材料の微小変形を繰
り返し与える場合に、所定の歪み量を得るために必要な
応力を与えた繰り返し数を当該金属材料が破断するまで
の繰り返し数で除して得た値に100をかけたものであ
る。例えば、下記のようにして求めることができる。
【0027】不純物としてのCが0.02%以下、Siが0.02
%以下、Mnが0.20%以下、Pが0.015%以下、Sが0.010
%以下である金属材料を疲労試験片の形状に加工した
後、歪み取りのため大気中での焼鈍を600℃で1時間施
したものを試験片とし、歪み量1.2%、歪み速度0.2%/s
ecの疲労試験を行った。
【0028】図2は、金属材料に1.2%歪みを与えるの
に必要な応力と疲労試験の繰り返し数との関係を示す図
である。なお、繰り返し数とは引張りおよび圧縮を1サ
イクルとした繰り返し回数をいう。図2に示すように、
繰り返し数の増加に伴って、金属材料に1.2%歪みを与
えるのに必要な応力は上昇していき、繰り返し数が1460
回のときに破断した。従って、この金属材料の場合、繰
り返し数が146回のときに疲労損傷率が10%であるもの
とする。なお、疲労損傷率0%とは、金属材料に上記の
疲労試験による1.2%歪みを一度も与えていない場合、
即ち、繰り返し数が0回の場合をいい、試験片形状に加
工した際に発生し、焼鈍によっても除去できなかった損
傷は考慮しないものとする。
【0029】金属材料の疲労破壊に対する余寿命の指標
としては、疲労損傷率70〜80%を目安とし、振動エネル
ギー吸収性能の指標としては、疲労損傷率10%を目安と
すればよい。
【0030】(C)陽電子スペクトルについて 上記の試験片に疲労を与えていき、疲労損傷率が0%
(繰り返し数:0回)、5%(繰り返し数:73回)、10%
(繰り返し数:146回)、20%(繰り返し数:292回)、
30%(繰り返し数:438回)、40%(繰り返し数:584
回)、50%(繰り返し数:730回)、60%(繰り返し
数:876回)、70%(繰り返し数:1022回)、80%(繰
り返し数:1168回)、90%(繰り返し数:1314回)およ
び100%(繰り返し数:1460回)のものを作製した。こ
れらの試験片からそれぞれ10mm×10mm×1mmの試験片を
2枚づつ切り出し、表面をバフ研磨した後、疲労損傷率
の条件毎に、前述の図1に示す装置を使用して陽電子寿
命の測定を行った。なお、陽電子源は22Naを用いた。
【0031】図3は、疲労損傷率0%の試験片および80
%の試験片の陽電子寿命スペクトルを示す図である。な
お、横軸は、MCAのチャンネル数(1chは5ピコ秒)を
示し、横軸は、陽電子数を対数で表示したものである。
図3に示すように、疲労損傷率が80%の試験片は、疲労
損傷率が0%のものに比べて、ピークより高チャンネル
側の減衰が小さく、陽電子寿命が長いことが分かる。
【0032】(D)陽電子寿命成分の分解および陽電子
の平均寿命について 陽電子スペクトルは前記の(1)式から求められるが、こ
の(1)式において指数関数の個数、即ち、n数はデータ
解析を行う者が自由に決めることができる。このとき、
n数が陽電子を捕捉できる欠陥の種類の数に1をプラス
した数となるときに良好な近似が得られる。逆に、例え
ば、n数が2個のときは陽電子を捕捉できる欠陥の種類
の数は1種類であると考えられる。
【0033】第1の方法においては、陽電子の寿命を短
寿命成分および長寿命成分の2成分に分解する必要があ
り、また、第2の方法においては、陽電子の平均寿命を
求める必要がある。
【0034】ここで、「2成分に分解する」とは、図3
に示した陽電子スペクトルを2個の指数関数、即ち、n
数を2個としたときの前記の(1)式で表される指数関数
と、前記の(2)式で表されるガウス関数とのコンボルー
ションで近似、即ち、前記の(3)式で近似し、最もよく
近似できる指数関数の指数部分の係数τを求めること
をいう。このとき得られる係数Iが各寿命成分の相対
強度である。また、「陽電子の平均寿命を求める」と
は、陽電子スペクトルを解析する際に、n数を1個とし
たときの前記の(1)式で表される指数関数と前記の(2)式
で表されるガウス関数から前記の(3)式で近似し、最も
よく近似できる指数関数の指数部分の係数τ を求める
ことをいう。なお、良好な近似とは、前記の(6)式で求
められる「χ /q」の値が0.9〜1.1程度となる場合を
いう。
【0035】(E)第1の方法について 第1の方法において「陽電子の寿命を110ピコ秒以下の
範囲内の短寿命成分および145〜155ピコ秒の範囲内の長
寿命成分の2成分に分解し」とは下記の内容をいう。
【0036】上記の(D)に示す方法によって、各疲労
損傷率を有する試験片について陽電子寿命を2成分に分
解し、各疲労損傷率を有する試験片のいずれについても
前記の(6)式で求められる「χ/q」の値が0.9〜1.1の
範囲内となるように陽電子スペクトルを解析した。その
結果を図4および図5に示す。
【0037】図4は陽電子寿命を2成分に分解して解析
したときの陽電子寿命と疲労損傷率との関係を示す図で
あり、図5は相対強度と疲労損傷率との関係を示す図で
ある。
【0038】図4に示すように、いずれの疲労損傷率を
有する試験片においても、良好な近似が得られる陽電子
寿命成分の内、短寿命成分は、疲労損傷率0%のときに1
06ピコ秒程度であったものが疲労損傷率の増加とともに
徐々に短くなっていくが、長寿命成分は、疲労損傷率に
関わらず、ほぼ150ピコ秒で一定であった。
【0039】また、図5に示すように、110ピコ秒以下
の範囲内の短寿命成分は、疲労損傷率の増加に伴い、相
対強度が小さくなっていき、150ピコ秒付近の長寿命成
分は、疲労損傷率の増加に伴って、相対強度が大きくな
っていく。従って、前記の一般的な知見、即ち、陽電子
寿命が欠陥等が増加するとともに長くなっていくという
知見とは異なる結果となった。これは、下記の理由のよ
るものと考えられる。
【0040】即ち、疲労試験における引張および圧縮の
繰り返しによって、金属材料には何らかの欠陥が導入さ
れるが、金属材料に入射した陽電子は、その欠陥に捕捉
されるとほぼ150ピコ秒で消滅する。言い換えれば、疲
労により発生した欠陥が一種類だけであったということ
が分かる。従って、この結果は、ある決まった構造の欠
陥が金属材料に導入されることによって、疲労損傷率が
増加し、その疲労損傷の数(密度)は増加していくが、
損傷の形態は変化しないことを示唆している。これによ
り、金属材料の疲労損傷率が増加しても、その形態は変
化しないため、欠陥の発生を意味するほぼ150ピコ秒と
いう長寿命の陽電子寿命成分には変化がないものと考え
られる。
【0041】なお、欠陥が発生した金属材料でも、損傷
を全く受けていない領域が存在し、陽電子が欠陥に捕捉
されることなく、この領域で電子と対消滅すると、110
ピコ秒以下の短い陽電子寿命が観測されることになる。
しかし、陽電子が欠陥に捕捉されると、局在化した状態
で電子と対消滅することとなり、このときには150ピコ
秒付近の長い陽電子寿命が観測されることになる。即
ち、疲労損傷率が増加すると、金属材料中の疲労損傷の
密度が大きくなり、陽電子が欠陥に捕捉される確率が高
くなるため、150ピコ秒付近の長寿命成分の相対強度が
大きくなると考えられる。
【0042】本発明者らは、この知見に基づき、陽電子
の寿命を110ピコ秒以下の範囲内の短寿命成分および145
〜155ピコ秒の範囲内の長寿命成分の2成分に分解し、
各成分の相対強度比から金属材料の疲労損傷率を求める
ことを特徴とする第1の方法を完成させた。例えば、第
1の方法によって、150ピコ秒付近の長寿命成分の相対
強度が80%となる場合を目安として、この金属材料の疲
労破壊に対する余寿命を診断を行えばよく、相対強度が
75%となる場合を目安として振動エネルギー吸収性能の
診断を行えばよい。
【0043】なお、長寿命成分の値は、疲労損傷率の増
加に関わらず、150ピコ秒付近の値となるが、145ピコ秒
未満の値または155ピコ秒を超える値を採用すると、良
好な近似が得られなくなるため、長寿命成分の値を145
〜155ピコ秒の範囲内とした。一方、短寿命成分の値
は、110ピコ秒以下の値とし、下限を特に定めていない
が、通常、40ピコ秒以上の値をとる。
【0044】(F)第2の方法について 第2の方法において、「陽電子の平均寿命から金属材料
の疲労損傷率を求めること」とは下記の内容をいう。
【0045】上記の(D)に示す方法によって、各疲労
損傷率を有する試験片について陽電子寿命を1成分で解
析した。このとき、前記の(6)式で求められる「χ/
q」の値は1.3〜1.5程度となり、フィッティングが悪く
なった。
【0046】図6は、陽電子寿命を1成分で解析したと
きの陽電子の平均寿命と疲労損傷率との関係を示す図で
ある。図6に示すように、疲労損傷率が0%の試験片で
は陽電子の平均寿命が106ピコ秒であり、疲労損傷率の
増加に伴い、疲労損傷率が10%のときに130ピコ秒まで
急速に長くなり、その後緩やかに長くなり、疲労損傷率
が80%以上ではほとんど変化しなくなる。
【0047】従って、例えば、第2の方法によって、平
均寿命が140ピコ秒となる場合を目安として、この金属
材料の疲労破壊に対する余寿命を診断を行えばよく、平
均寿命が130ピコ秒となる場合を目安として振動エネル
ギー吸収性能の診断を行えばよい。
【0048】(G)本発明方法の診断対象となる金属材
料について 本発明の方法は、例えば、振動エネルギー吸収用金属材
料の疲労診断に好適であり、特に、その降伏点が230N/m
m以下の極低降伏点鋼の疲労損傷を診断するのに有用
である。このような鋼は、疲労破壊に対する抵抗性や高
い振動エネルギー吸収性能が要求される材料として広く
用いられるからである。
【0049】
【発明の効果】本発明の金属材料の疲労損傷診断方法に
よれば、金属材料の疲労損傷率を定量的に測定すること
ができるので、金属材料の疲労破壊に対する余寿命や振
動エネルギー吸収性能の診断を正確かつ簡便に行うこと
ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】陽電子寿命の測定システムの構成を示す図であ
る。
【図2】金属材料に1.2%歪みを与えるのに必要な応力
と疲労試験の繰り返し数との関係を示す図である。
【図3】疲労損傷率0%の試験片および80%の試験片の
陽電子寿命スペクトルを示す図である。
【図4】陽電子寿命を2成分で分解して解析したときの
陽電子寿命と疲労損傷率との関係を示す図である。
【図5】陽電子寿命を2成分で分解して解析したときの
相対強度と疲労損傷率との関係を示す図である。
【図6】陽電子寿命を1成分で解析したときの陽電子の
平均寿命と疲労損傷率との関係を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 高田 啓一 大阪府大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友金属工業株式会社内 Fターム(参考) 2G001 AA05 BA12 CA02 EA03 FA04 FA06 GA01 GA03 HA01 JA11 KA03 LA02 SA12

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】線源から放出した陽電子を金属材料に入射
    させ、金属材料中の陽電子寿命を測定することによっ
    て、金属材料の疲労損傷率を求める方法であって、陽電
    子の寿命を110ピコ秒以下の範囲内の短寿命成分および1
    45〜155ピコ秒の範囲内の長寿命成分の2成分に分解
    し、各成分の相対強度比から金属材料の疲労損傷率を求
    めることを特徴とする金属材料の疲労損傷診断方法。
  2. 【請求項2】金属材料が振動エネルギー吸収用金属材料
    であることを特徴とする請求項1に記載の金属材料の疲
    労損傷診断方法。
  3. 【請求項3】振動エネルギー吸収用金属材料が230N/mm
    以下の降伏点を有する極低降伏点鋼であることを特徴
    とする請求項2に記載の金属材料の疲労損傷診断方法。
  4. 【請求項4】線源から放出した陽電子を金属材料に入射
    させ、金属材料中の陽電子寿命を測定することによっ
    て、金属材料の疲労損傷率を求める方法であって、陽電
    子の平均寿命から金属材料の疲労損傷率を求めることを
    特徴とする金属材料の疲労損傷診断方法。
  5. 【請求項5】金属材料が振動エネルギー吸収用金属材料
    であることを特徴とする請求項4に記載の金属材料の疲
    労損傷診断方法。
  6. 【請求項6】振動エネルギー吸収用金属材料が230N/mm
    以下の降伏点を有する極低降伏点鋼であることを特徴
    とする請求項5に記載の金属材料の疲労損傷診断方法。
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