JP2003264326A - 分子集積回路素子及びその製造方法 - Google Patents

分子集積回路素子及びその製造方法

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知二 川合
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裕司 桑原
Takuji Ogawa
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 自己組織化構造を下地の影響を受けずに成長
させることができるナノオーダーのフラットな下地を有
する分子集積回路素子及びその製造方法を提供する。 【解決手段】 自己組織化する分子が配置される0.5
nm以下の平坦度を有する基板1表面に1nm以下の絶
縁膜2と、金属電極3とを形成し、その上に分子7を配
列させるとともに、前記金属電極3と前記分子7の導通
はトンネル効果を用いて行うようにした。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機分子やナノス
ケールの無機物等の電子素子を配列させた分子集積回路
素子及びその製造方法に係り、特に電子素子が自己組織
化により配列された分子デバイス及びその製造方法に関
するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、このような分野の参考文献として
は、以下に示すようなものがあった。 〔1〕A.Aviram,M.A.Ratner,Ch
em.Phys.Lett.29,277(1974) 〔2〕G.Binning,H.Rohrer,C
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T.Kawai,Surface Sci,in pr
ess トランジスタの発明以来、電子デバイスは、半導体の集
積化により高性能化されてきた。高集積化は微細加工の
寸法を縮小することで達成されてきたが、この寸法縮小
による性能向上は本質的な限界に近づいている。単一の
分子をデバイスの電子素子として使うという概念は約2
5年前に提案された。
【0007】近年、単一分子の操作技術が急速に進展
し、また分子の機能が解明されてきたことと相まって研
究が急速に進展している。リソやエッチングによる従来
の微細加工方法をトップダウンと称し、自己組織化によ
る機能発現をボトムアップと称して、超高集積を実現す
る新規なデバイスはボトムアップの考え方を導入する必
要がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、有機分子は
径が0.5nmから数nm、長さが1nmから10nm
の大きさである。この分子をある条件で配列させる場
合、その下地に段差があることは好ましくない。下地は
分子が配列される部分と電極への接触部分があり、下地
は異種物質で構成される。楕円形状の分子を立たせる配
列では、段差の所で横になってしまい、そうなると分子
の持つ機能が発現出来ない。
【0009】更に、下地が完全に平坦であっても、下地
が異種物質で構成されるため下地の材質の影響を受け
る。よって、自己組織化構造を下地の影響を受けずに成
長させる必要がある。また、巨大有機分子は長さが10
nm以上とされるが(100nm以下)、この場合も下
地が平坦であることが肝要である。
【0010】本発明は、上記状況に鑑みて、自己組織化
構造を下地の影響を受けずに成長させることができるナ
ノオーダーのフラットな下地を有する分子集積回路素子
及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達
成するために、有機分子、又は有機分子と無機物質が自
己組織化して構成され、機能を発現する分子デバイス、
あるいは単一巨大分子を電子素子とする分子デバイスに
おいて、自己組織化する分子が配置される基板表面を、
0.5nm以下の平坦度に加工することを特徴とする。
【0012】更に、平坦化された基板表面に1nm以下
の絶縁膜(SiO2 ,Al2 3 )を設け、その上に分
子を配列させる。金属電極と分子の導通はトンネル効果
を用いる。代表例としてシリコン基板を酸化して50n
m程度の酸化膜を形成し、10nm程度の分子サイズの
トレンチを形成し、スパッタでAuを埋める。次に、A
rガスクラスターイオンエッチングにより、0.5nm
以下の平坦な超平坦化処理をする。次に、シリコン基板
をエタノール等を溶媒とした有機ジチオール溶液に浸漬
し、Auナノ粒子の有機溶媒分散体を添加すると、Au
ナノ粒子/有機ジチオール分子複合体が自己組織化で形
成される。
【0013】したがって、トランジスタ、論理演算素子
としての自己組織化分子配列によるセルラオートマト
ン、又センサ等のデバイスに広く利用することができ
る。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態につい
て詳細に説明する。
【0015】図1は本発明の実施例を示す分子集積回路
素子の要部断面図、図2はその分子集積回路素子の2D
分子が配列されていない状態の分子集積回路素子の斜視
図、図3は2D分子が配列された状態の分子集積回路素
子の斜視図である。
【0016】これらの図において、1はシリコン(S
i)基板、2はそのシリコン基板1上に形成される酸化
シリコン(SiO2 )膜、3はAu電極、4は極薄絶縁
膜、5は分子吸着規制パターン(例えば、SiO
2 膜)、6は2D分子配列を行わせるための凹所、7は
自己組織化分子配列(2D分子配列)、8は配列分子中
の情報の流れ、9は分子配列7とAu電極3とのトンネ
ル結合である。
【0017】まず、完全フラット微細回路網では金属電
極と絶縁部分の高さが同じで、表面ラフネスは0.5n
m以下が必要である。
【0018】図4はその分子集積回路素子の製造工程断
面図である。
【0019】(1)まず、図4(a)に示すように、シ
リコン基板11上に熱酸化により絶縁層である50nm
程度の酸化シリコン膜12を形成する。
【0020】(2)次に、図4(b)に示すように、電
子ビームとドライエッチング技術により、酸化シリコン
膜12内に10nm程度の分子サイズ以下の幅のトレン
チ13を形成する。
【0021】(3)次に、図4(c)に示すように、ト
レンチ13を蒸着法又はスパッタ法によりAu等の金属
電極材料14で埋め込む。
【0022】(4)次に、図4(d)に示すように、A
rガスクラスターイオンエッチングによる0.5nm以
下の表面平坦化を行い、完全フラット微細回路網15を
作製する。ここでは、Arが好ましく、平均クラスター
サイズは3000、加速電圧は3から12kV、好まし
くは9kV付近である。イオン照射量は1016から10
18ion/cm2 で、好ましくは1017ion/cm2
である。
【0023】(5)次に、その後は、図示しないが、2
D分子の種類を考慮して、分子吸着規制パターンを形成
して凹所を画成して、図4(e)に示すように、そこに
2D分子16を載置する。
【0024】以下、ナノオーダの基板表面上に形成させ
る分子の自己組織化の配列のさせ方、並べ方について説
明する。
【0025】〔1〕ここでは、Auナノ粒子/有機ジチ
オール分子複合体による自己組織化の方法を説明する。
【0026】Auのナノ粒子(直径約2から100n
m、直径の分布は約5%)を、t−ドデカンチオールで
保護した物を標準的な方法で作製し、これを再沈殿およ
びシリカゲルのカラムクロマトグラフィーにより精製す
る。これを、トルエンもしくはエタノールに溶解し、お
よそ10mモル/lの溶液を作製する。これをA液とす
る。
【0027】次に、有機ジチオールのトルエンもしくは
エタノールのおよそ10mモル/lの溶液を作製する。
これをB液とする。
【0028】Auのナノ電極を、B液約2mlに、室
温、Ar雰囲気でおよそ1時間浸ける。その上から、A
液を約2ml加える。Au電極表面には、図5に示すよ
うな、Auナノ粒子/有機ジチオール複合体のネットワ
ークが形成し、およそ3時間以内に飽和膜厚に達する。
ここで、21はAuナノ粒子、22は有機ジチオール分
子を示している。同じ操作をナノ電極の代わりに、Au
のマイクロメッシュを用いて行い、マイクロメッシュ間
にできた複合体の透過電顕を観察すると、ほぼ6方最密
充填の形でAu微粒子が並んでいる。
【0029】有機ジチオールとしては、脂肪族、芳香族
いずれの物でも良い。複合体形成の速度は、脂肪族が早
く、芳香族は遅い。
【0030】このAuナノ粒子/有機ジチオール分子複
合体形成反応を、今回の平坦電極上で行うことにより、
図6に示すように、非常に規則性の正しい構造体ができ
る。ここで、23は平坦電極上でのAuナノ粒子/有機
ジチオール分子複合体である。
【0031】この様にしてできた複合体は、基板が平坦
である範囲で均一にできる。8インチウエハ1枚が原子
レベルで平坦にできれば、その上に形成する複合体も、
ウエハ全体で均一にすることができる。
【0032】Au微粒子のサイズ、有機分子のサイズ構
造は、非常に自由度が大きいため、その複合体の微細構
造のサイズや形状に制限が有るとは予測されない。
【0033】〔2〕機能性巨大単一分子の平坦ナノ電極
上での自己組織化について説明する。
【0034】一辺の長さがおよそ10nmであり、基板
の金属や半導体との結合が可能な分子の合成を行う。
【0035】分子と選択的に吸着する材料を用いた平坦
ナノ電極を作製する。選択吸着可能な官能基・材料の組
み合わせとして次のものがある。
【0036】Au、Ptに対しては、チオール、ジチオ
ール、スルフィド。
【0037】酸化スズに対しては、亜リン酸。
【0038】ドープシリコンに対しては、カンボン酸。
【0039】水素終端シリコンに対しては、末端アルケ
ンもしくは末端アルキン。
【0040】この分子の1mモル/l程度の濃度の溶液
に平坦ナノ電極を浸すことで、電極上に分子が吸着す
る。この際分子同士の相互作用よりも、分子と基板との
相互作用が強くなるように設計しておくことで、分子は
単層を作る。溶液の濃度が高かったり、吸着時間が長い
と多層になる可能性があるが、これらのパラメータを制
御することで、単層で細密充填した状態を作り出すこと
ができる。これは、単純なアルキルチオールがAu表面
に自己集合単分子膜(SAM膜)を形成するときと同様
である。
【0041】なお、説明が前後するが、本発明を説明す
る上で、意義があるので、従来技術の説明とともに、本
発明に至る経緯について以下に説明する。
【0042】単一の分子を電子デバイスとして使おうと
するアイデアは古く、その概念がはじめて提出されたの
は、約25年も前である(参考文献〔1〕)。このアイ
デアは非常な興奮をもって迎えられたが、当時は単一分
子へアクセスする方法もなかったので、単なる理論的研
究に留まった。現在の21世紀初頭になり、再び単一分
子デバイスに関心が集まりつつあるのには、いくつかの
歴史的必然ともいえる背景がある。
【0043】第一の要因は、1980年代後半から、走
査プローブ顕微鏡などの技術が確立して、原子や分子を
直接観察しながら操ることができるようになったことで
ある(参考文献〔2〕)。この手法の出現により、これ
まで間接的にとらえることしかできなかった原子・分子
の世界が、日常的な知覚に近いかたちで姿を現したこと
が、非常に大きな背景となっている。
【0044】第二の要因は、半導体デバイスが高密度化
して、微細加工可能なサイズがナノスケールの領域に近
づいてきたことにある。
【0045】一方、巨大分子の精密合成が盛んに行わ
れ、分子サイズもサブミクロンに達し、微細加工可能な
サイズと重なりを持つようになった。単一の分子を電極
に貼り付けることが、いよいよ可能になってきたのであ
る。
【0046】第三に、原子・分子の自己組織化現象の理
解が進み、自然の力を借りてナノスケール構造を制御す
るための道筋が見えてきた。特にDNAは塩基配列によ
る情報を持っているので、自己組織的にナノデバイスを
構築する材料として、注目を集めている。
【0047】第四に、ナノスケール領域では非常に豊か
で面白いメゾスコピックな物性・機能が発現することが
明らかになってきた。例えば、電子・スピン・格子間の
強相関的相互作用のコヒーレンス長と作製可能なデバイ
スサイズが重なるようになったため、新しい量子現象が
次々に発見されている。
【0048】以上のような状況から、分子スケールエレ
クトロニクスはナノサイエンス・テクノロジーの最重要
課題として、注目をあつめるようになった。 ここで
は、特に、巨大分子と走査プローブ顕微鏡に焦点を絞っ
て説明する。 (A)有機分子と金属電極の接続について 1.単一分子/電極系の接続問題 分子スケールエレクトロニクスにおいて、単一分子の電
気伝導は最も基本的な研究課題の一つである。例えば、
単一分子の電気伝導には、振動・電子励起が結合した量
子化コンダクタンスや分子運動・コンホメーション変化
が関与する伝導など、分子系ならでは現れる多彩な物性
が期待できる。ここで注意したいのは、分子スケールエ
レクトロニクスでいう「単一分子」とは、真空中や溶液
中などの平均場中に存在する孤立分子ではない。分子ス
ケールエレクトロニクスで主役を演ずるのは、固体表面
上に配置された分子であり、また、情報の入出力を行う
ために電極に接続された分子である。従って、単一分子
の物性も、このような動作環境で述べる。
【0049】そこで、単一巨大分子系の研究例を見る前
に、単一分子/電極系における問題点を整理しておく。
最も単純な系として、図8に示すような、ある有機分子
が2つの電極に接続された状況を考える。すると、数々
の疑問が浮かび上がってくる。例えば、 分子の構造やコンホメーションは固体表面上や電極接
続によりどう変化するか。
【0050】分子と金属電極との界面における電子状
態は如何に接続されるか。
【0051】単一分子の物性は分子集合体とどのよう
に異なるか。などである。
【0052】実験的にこれらの疑問に答えるには、走査
プローブ顕微鏡を用いたアプローチが最も有力である。
特に、に関しては、走査プローブ顕微鏡は局所的な構
造を知ることの出来る唯一の方法であると言える。と
に関しては電子状態に関する議論が中心となるので、
走査プローブ顕微鏡を用いて、単一分子/金属界面の電
子状態にどこまで迫ることができるか、電荷や状態密度
の分布状態を明らかにする方法について述べる。
【0053】1−1.表面分子系における電荷移動 表面と分子の軌道相互作用について、分子軌道の立場か
ら、直感的な考察が行われている(参考文献〔3〕)。
図7は表面分子系と孤立分子系の違いを示した模式図で
ある。二つの分子からなる孤立分子系の場合は、結合性
軌道と反結合性軌道の組み合せで、新たな結合性軌道に
電子が入り、引力的相互作用が生じる。また、二つの結
合性軌道からできる分子軌道には、新たに出来た反結合
性軌道にも電子が入るので斥力的となり、二つの反結合
性軌道からできる分子軌道には電子がないので、相互作
用が生じない。
【0054】表面分子系の場合も、結合性軌道と反結合
性軌道の場合は、同様に考えられる。しかし、分子と表
面の両方とも結合性軌道である場合や、両方とも反結合
性軌道である場合の界面分子軌道では、表面と分子の間
で電子移動が起こり、引力的相互作用が生じる。
【0055】電荷移動錯体や高分子の場合は単結晶や分
子集合体であるので、バンド描像が有効であり、電極の
役割は物理的接触に過ぎない。バルクの有機分子集合体
と金属電極との接触では、電荷移動が生じ、分子準位の
シフトが起こったとしても、界面だけの現象に過ぎず、
伝導特性はバルクとしての物性が支配的である。
【0056】ところが、図9に示すように、電極/単一
分子/電極系のようなナノスケールの系では、離散的な
分子軌道を利用するので、電極のフェルミ準位と個々の
軌道の接続が極めて重要である。特に、電荷移動が分子
全体の静電ポテンシャルに影響を及ぼすので、真空準位
のシフトを考慮した分子設計・界面設計が必要となる。
【0057】このような界面での電荷移動は、電極から
分子系への電子やホールのドーピングと見なすことがで
きる。分子の準位がシフトして電極のフェルミ準位に近
づけば、HOMO−LUMOギャップが小さくなくと
も、電気伝導性が発現すると期待できる。もちろん分子
系へのドーピングは従来の分子集合体においても行われ
てきた。しかし、分子スケールエレクトロニクスでは、
電極も分子系の一部と考え、電極の効果を不可避的に取
り込んだ電子状態を考慮しなければならないのが、従来
の分子性導体と最も大きく異なる点である。
【0058】最近では電子やホールを平均場中での粒子
と見なした古典的な議論では不十分であることが分かっ
てきた。表面電子軌道や外部電場の影響により、分子/
電極界面の電子状態は、単なるシフトにとどまらず、図
10に示す研究例のように状態密度分布の形そのものの
変化を考慮しなければならないことが明らかになりつつ
ある(参考文献〔4〕)。
【0059】さらに、複数の分子が直列または並列につ
ながった、分子ナノスケール回路網では、通常の抵抗を
直列、並列にしたときと、全く異なる結果となることが
理論的に予測されている(参考文献〔5〕)。例えば、
普通の抵抗では、直列抵抗は個々の抵抗の和であるが、
ナノスケール分子系では波動関数の減衰が指数関数的で
あるため、積になる。また、並列接続の場合は、波の重
ね合わせの効果が現れてくる。さらに、環状の経路があ
る場合には、環電流が流れることも指摘されている(参
考文献〔6〕)。
【0060】以上のように、単一分子の電気伝導度測定
は電極と分子の接続状態を直接取り込んだ量子輸送問題
を観測するものであると言える。
【0061】1−2.単一分子電気伝導度の表現 一次元電子系の電気伝導率の議論には、ランダウアーの
理論がよく使われる(参考文献〔7〕)。これによれ
ば、相互作用しない一次元電子系のコンダクタンスは、
電子散乱がなければ、2e2 /h(eは電子の電荷、h
はプランク定数)である。この値は量子コンダクタンス
と呼ばれ、系に依存しない普遍的値である。分子を通し
たコンダクタンスGは、透過係数T(Ef )を掛け合わ
せて、 G=(2e2 /h)T(Ef ) …(1) で表現できる。ここで、T(Ef )は電極/分子界面を
含んだ全体の透過係数である。一方、分子単体の電気伝
導性を評価するには、減衰項係数βを用いて、コンダク
タンスの表式として、
【0062】が用いられる。ここで、G0 は距離ゼロに
おけるコンダクタンスである。この中には、電極と分子
の接触抵抗も含まれているので、普遍量である量子コン
ダクタンスに対応するものではない。このG0 は上記
(1)式の透過係数T(Ef )の中の様々な係数と量子
コンダクタンスをまとめてくくりだした項と考えればよ
い。
【0063】上記(2)式はランダウアーの理論を用い
ない場合も、現象論的議論をする際によく用いられる。
この式は、β値が小さいほど電子は長距離のトンネリン
グが可能であることを示している。様々なπ電子系をも
つ一次元分子に関して、β値を求める計算が精力的に行
われている(参考文献〔8〕)。例えば、最も小さなβ
値を与えるポリエンの場合、β=0.187Å-1であ
る。真空中の値β=2.2Å-1と比べると、π電子系で
は著しく遠距離の電子トンネリングが可能であることが
分かる。さらに理論的な下限値はβ=0.02と、はる
かに小さいことが報告されている(参考文献
〔9〕)の
で、小さなβ値をもつ実在分子系を設計・探索して行く
ことが重要である。
【0064】一方、上記のような弾性的伝導以外にも、
ポーラロンやソリトンによる伝導、あるいはホッピング
伝導も考慮する必要がある。実際の系では、複数の伝導
機構が働いている場合もあるので、伝導度の温度依存性
を注意深く検討して、伝導機構に関する議論を行う必要
がある。
【0065】(B)巨大有機分子が持つ電子機能につい
て 2.有機分子の構造と機能 2−1.分子ワイヤー (a)直鎖アルカン分子 金属電極に挟まれた直鎖アルカン分子の電気伝導度を調
べた最初の研究は、1971年に行われている。脂肪酸
CH3 (CH2 n-2 COOHのCd塩を用いて、ラン
グミュアーブロジェット法によりアルキル鎖が立った形
のサンドイッチ型接合をつくり、トンネル電流の解析を
行った(参考文献〔10〕)。ここでは、電極間のアル
カン分子は単純な絶縁体として扱われており、電極間の
電子トンネリング過程には、誘電分極の影響のみが議論
されている。
【0066】実験データの解析には、電極を種々の仕事
関数を持つ金属に変えたときの、トンネル電流の比のみ
が議論されている。全体として、実験結果は絶縁体を挟
んだトンネル現象の理論とよく合うとされた。トンネル
電流の絶対値に関しては接合の不完全さが残るため、議
論の対象とされていない。
【0067】また、電流−電圧特性における非線形性も
不純物効果として片付けられている。この非線形成分の
中に分子を介した電気伝導が現れていると考えられる
が、ここでは、有機分子は絶縁体であるとの固定観念か
ら見過ごされてしまったと思われる。
【0068】アルカン分子中の電子移動は、光化学の分
野の研究から意識されるようになった。光電子移動にお
いて、光励起された電子はドナー分子からアクセプター
分子へ移動する。このとき、20Å程度から50Åの距
離を電子がいともたやすく移動することから、真空トン
ネル以外の機構を考える必要が生じた。
【0069】このような電子移動を研究するために、ド
ナーとアクセプターを有し、これらが分子架橋で結ばれ
た分子の速度論的研究が盛んに行われた。例えば、チオ
ール基とフェロセンを末端に持つ直鎖アルカン分子の自
己組織化膜に関する最近の研究では、高速サイクリック
ボルタメトリーを用いて酸化還元の速度論から長距離の
電子的結合が見積もられた。分子鎖に沿った指数関数的
減衰項の大きさβ値はβ=0.85Å-1(1.1 pe
r methylene unit)と求められた(参
考文献〔11〕)。このβ値が小さいほど長距離の電子
トンネリングが可能である。真空中では、β=2.2Å
-1である。
【0070】最近では走査トンネル顕微鏡(STM)を
用いた測定も盛んに行われている。STMを用いれば、
単一分子の電気伝導度を計測できる。詳細は後述の測定
法に譲るが、直鎖アルカンチオールCH3 (CH2 12
SHについてβ=1.2Å-1(1.5 per met
hylene unit)の値が報告されている(参考
文献〔12〕)。
【0071】また、原子間力顕微鏡の探針に金属を蒸着
して点接触法による測定も行われた(参考文献〔2
9〕)。STM測定と同じアルカンチオールの系につい
て、β=1.15Å-1(1.45 per methy
lene unit)の値が得られ、良い一致を示して
いる。
【0072】以上の報告では、いずれの場合も、メチレ
ン鎖の数が増えるに従い、電子移動速度は指数関数的に
小さくなっていくことが示されている。従って、アルカ
ン鎖を介した電気伝導はトンネルメカニズムと考えられ
る。アルカン鎖の存在により、減衰項の係数βは真空の
場合(β=2.2Å-1)に比べて著しく小さくなるの
で、長距離の電子移動が実現すると考えられる。
【0073】(b)π電子系鎖状分子 分子ワイヤーとして、パイ電子系を持つ分子を用いれ
ば、電子移動を効率的に行うことができる。光化学的方
法により、不飽和フェニレン、ポリエン、ポリインの測
定が行われ、β=0.2−0.6Å-1の値が報告されて
いる。この値は飽和アルカン分子と比べてかなり小さ
い。
【0074】チオフェンポリマーは導電性物質として古
くから知られている。微細構造電極の間に成長させたチ
オフェン6量体の単層膜の電気伝導度が測定された(参
考文献〔13〕)。チオフェンのバンド構造は半導体で
あるので、このように薄い二次元膜ではバンドギャップ
が大きくなり、絶縁体化が予想される。しかし、実験で
は、単分子層レベルの厚さしかなくても、十分に電流を
導くことが示された。
【0075】また、ブレークジャンクションを用いた分
子数個の測定においても、分子軌道がないはずのゼロバ
イアスでコンダクタンスが存在するとの報告がある(参
考文献〔14〕)。
【0076】これらの結果は、分子軌道が直接かかわる
電気伝導では理解できない。ナノスケールの領域では電
子トンネリングが基本であり、そこに金属電極との混成
により広がりをもった分子軌道が関わって減衰係数が著
しく小さくなり、分子に沿った電気伝導度が現れると考
えるのが妥当である。このような考えに立てば、アルカ
ン分子に比べてHOMO−LUMOギャップが小さく、
軌道が分子全体に広がりを持つパイ電子系ではトンネリ
ングの減衰項が小さくなり、電子移動に有利であるのが
理解できる。
【0077】このような理由から、分子ワイヤーとして
一次元的パイ電子構造を持つ様々な分子が合成されてき
た。図11にそれらの例を示した。これらの多くは合成
されただけで物性測定は行われていない(参考文献〔1
5〕)。しかし類似の構造をもつ短い分子のいくつかに
ついて、STMにより単一分子観察が行われている。自
己組織化膜のマトリックス中で4−(2’−ethyl
−4’−(phenylethyl)phenylet
hynyl)−1−phenylthiolate分子
は、基板に直立の形で吸着している(図12)。
【0078】この分子のSTM像は、まわりの自己組織
化マトリックスに比べて7Åも高く、分子の長さを反映
している。分子の先端からSTMチップに電子のトンネ
リングが起こっているように見えるので、分子内の伝導
度は真空トンネルに比べると極めて高いと結論できる
(参考文献〔16〕,〔17〕)。
【0079】(c)電子状態のチューニングと構造最適
化 パイ電子系の持つ重要な特徴は、エネルギー準位のチュ
ーニングが可能なことである。分子軌道のレベルが電極
またはドナー分子と一致すれば共鳴現象が起こり、電子
移動速度は非常に大きくなると考えられる。実際、ドナ
ー分子がテトラセン(TET)、アクセプター分子がp
yromellitimide(PI)で、分子ワイヤ
ーにp−phenylenevinylene(PP
V)の3量体を用いた系で、β=0.04Å-1の極めて
小さな値が報告されている(参考文献〔18〕)。
【0080】この分子ワイヤーPPVは単量体から5量
体まで系統的に合成され(図13)、β値が測定され
た。単量体・2量体と3量体以上では、β値に大きな違
いがあるが、これは3量体以上ではHOMOやLUMO
の値がTETに近づいてくるためと結論されている。
【0081】上述の例はドナー分子とワイヤー分子の間
での電子状態のチューニングである。これに対して、分
子スケールエレクトロニクスで重要な金属電極に接続さ
れた分子ワイヤーの電子移動を有利にするには、HOM
O−LUMOギャップを小さくして、フェルミ準位にH
OMOやLUMOを近づける必要がある。オリゴチオフ
ェン分子の骨格に種々の置換基を導入して、HOMO−
LUMOギャップを小さくする試みが行われてきた(参
考文献〔19〕)(図14)。しかし、一次元的なパイ
系では、HOMO−LUMOギャップを1eV以下の安
定な分子を合成するのは難しい。
【0082】そこで、もともとHOMO−LUMOギャ
ップが2eVと小さなポルフィリンやフタロシアニンを
骨格として、パイ電子系を伸ばしていけば、HOMO−
LUMOギャップを著しく小さくすることができる。2
つ以上のポルフィリン鎖が縮合環で結合した分子の合成
が行われている(参考文献〔20〕)(図15)。しか
し、この分子ではポルフィリン環の間での結合は弱く、
分子のサイズを大きくしてもHOMO−LUMOギャッ
プはあまり小さくならない。ポルフィリン環のパイ電子
系が二箇所以上でもう一つのポルフィリン環とつながっ
たラダー(はしご)型分子であれば、HOMO−LUM
Oギャップの低下を期待できる。
【0083】最近、ポルフィリン環が直接結合した縮合
環分子の合成が達成された(参考文献〔21〕,〔2
2〕)。その後、パイ電子系がさらに完全な形で結合し
た完全縮合ポルフィリン分子の合成も報告されている
(図16)。現在では、この完全縮合ポルフィリンは1
2量体まで伸び、赤外吸収からHOMO−LUMOギャ
ップは0.3eV以下であることが分かっている(参考
文献〔23〕)。
【0084】また、この分子は高いドナー性を有し、金
属表面上では表面に電子を放出してカチオン化している
ことが、STMを用いたトンネル障壁像の測定(後述)
から明らかになった。この電子放出に伴い、HOMOが
金属表面のフェルミ準位に近づいているので、この分子
は界面を含めて金属的な伝導を示す可能性がある。
【0085】一方、エネルギーのチューニングとは全く
異なる考え方で、分子ワイヤーを目指した合成も行われ
ている。ポルフィリン環とポルフィリン環がメソ位で結
合したポルフィリンアレイである(参考文献〔24〕)
(図17)。このアレイにはエネルギー準位が同じポル
フィリン環が電子的には独立に規則正しく直線状に並ん
でいるので、ホッピング伝導が期待できる。
【0086】しかし、この分子設計は溶液中では妥当で
あるが、表面吸着状態では問題がある。吸着エネルギー
により、分子鎖が変形してしまうことが分かった。ま
た、もっと長い48量体でも、決して直線的にはなら
ず、曲がった形で吸着することが分かっている(後
述)。この結果は、分子ワイヤーの設計において、表面
吸着エネルギーの効果も考慮しておく必要があることを
示している。
【0087】(d)巨大分子(極めて長い分子、極めて
面積の広い分子、分岐を持つ分子) 現在の一般的な微細加工技術で、比較的簡単に作製でき
る電極のサイズは50nm程度である。従って、このサ
イズを持つ一次元分子の合成は分子ワイヤーとして重要
である。ポリマーを用いればこの長さは容易に達成でき
るが、ポリマーの長さは一定ではなく、幅広い分散を持
つ。従って、精密合成によりきちんと長さが決まった極
めて長いオリゴマー(多量体)分子は、分子スケールエ
レクトロニクスにとって非常に重要である。
【0088】現在、オリゴチオフェンの48量体(1
8.6nm)(参考文献〔25〕)、メソーメソ結合ポ
ルフィリンアレイの512量体(参考文献〔24〕)が
報告されている。また、面積の大きい分子として、ポル
フィリン21量体が報告されている(参考文献〔2
6〕)(図18)。これらの分子はワイヤーや量子ドッ
トとして機能する可能性があり、分子スケールエレクト
ロニクスの研究にとって重要である。
【0089】さらに、将来のネットワーク構造やデバイ
ス間の結合に利用することを想定して、分岐を持つ分子
の合成も行われている(参考文献〔27〕)(図1
9)。しかし、これらの分子はいずれも合成されたのみ
で、実際の電気伝導性の測定はまだ行われていない。
【0090】2−2.分子スイッチ 分子スイッチには酸化・還元、コンホメーション変化、
分子軌道干渉効果など様々な動作機構が提案されてい
る。トンネル伝導を基本とする分子ワイヤーに比べて、
多様な化学過程が関与するメカニズムが提案されてお
り、化学の側面から非常に興味深い。また、分子スイッ
チには負性抵抗やヒステリシス効果を示すものも多いの
で、メモリー、高周波ミキサー、発振器、ロジック回路
など、様々な応用が可能である。
【0091】ニトロアミン単一分子膜の酸化・還元を利
用したサンドイッチ構造のデバイスでは、1000:1
のオン/オフ比と負性抵抗が実現している(参考文献
〔28〕)。このデバイスでは、一電子還元で、ニトロ
アミンがラジカルアニオンになることで電気伝導性が発
現する。
【0092】一方、走査トンネル顕微鏡探針を用いて、
単一分子のコンホメーションを直接制御すれば、分子を
通したトンネルコンダクタンスが変化することが報告さ
れている(参考文献〔29〕)。この研究から、電界、
酸化・還元、光励起などの外部刺激を利用して分子のコ
ンホメーションを変えれば、スイッチとして利用できる
ことが分かる。
【0093】また、可動部分を持つ超分子であるロータ
キサンに電子を出し入れすることによるスイッチ動作も
実現している(参考文献〔30〕)。(図20)。この
デバイスの動作機構は明らかではないが、おそらく酸化
・還元による可動部分のコンフィギュレーション変化が
スイッチ動作に寄与していると考えられる。このデバイ
スでは、実際に論理回路を構成し、ORゲートを動作さ
せるデモンストレーションも行われている。
【0094】酸化・還元と超分子の動きを組み合わせた
スイッチ動作には、多くの可能性があり、分子シャトル
(参考文献〔31〕)(図21)やシクロデキストリン
ネックレス(参考文献〔32〕)(図22)などの研究
が行われている。さらに、単一分子内の分子軌道の干渉
効果を利用したスイッチ分子も提案され、実際に合成さ
れているが、機能の測定には至っていない(参考文献
〔33〕)。
【0095】2−3.DNA (a)電気伝導性 DNA上で速い電子移動が起こるかどうか、議論が分か
れている。はじめ、DNAを通した電子移動は光化学の
分野で議論が始まった。最近では、電子移動速度はDN
Aの塩基配列により大きく異なり、β=0.14−1.
0Å-1の値が報告されている(参考文献〔34〕)。ま
た、GGGの三つの連続したグアニン塩基の配列が重要
であるとの考えも提出され、ここではβ=0.7Å-1
値が報告されている(参考文献〔35〕)。
【0096】一方、このような速い電子移動は全く信じ
られないとの立場もあり、そのような報告ではβ=1.
6Å-1とされている(参考文献〔36〕)。このような
議論の概略に関しては、解説記事として、(参考文献
〔37〕)に詳しい。
【0097】一方、DNAの電気伝導度を求めようとす
る研究も盛んに行われている。微細加工電極やピエゾド
ライブのチップを使う方法など、様々な試みが行われて
いるが、完全に絶縁体であるという結果(参考文献〔3
8〕)から半導体(参考文献〔39〕)、金属(参考文
献〔40〕)など抵抗率の測定結果は1010のオーダー
のばらつきがある(図23)。最近では、近接効果によ
りDNAが超伝導化するという報告も現れた(参考文献
〔41〕)。
【0098】さらに、キャビティ中におけるマイクロ波
吸収の実験から、DNAの伝導はイオン伝導であるとい
う報告(参考文献〔42〕)、またDNA中の電荷のマ
イグレーションは構造が揺らぐことで起こるとする理論
(参考文献〔43〕)も提出されている。
【0099】いずれにせよ現状では、DNAが分子ワイ
ヤーとして利用可能であるかどうか、決着はついていな
い。
【0100】(b)DNAテンプレート DNAの持つ自己組織化能力を活用してテンプレートと
して利用しようとする試みが盛んに行われている。DN
Aの周りに電界をかけて、Agのクラスターを析出させ
て、Agのナノワイヤーを形成する試みが報告された
(参考文献〔44〕)(図24)。また、DNAの相補
的配列を利用して、DNAに接続したAu微粒子を規則
配列させる試みも行われている(参考文献〔45〕)。
このようにDNAを使ったナノサイズのクラスター回
路、アレイなどを形成する方法論についてまとめた総説
がある(参考文献〔46〕)。
【0101】(C)走査プローブ顕微鏡を用いた研究例 3.走査プローブ顕微鏡を用いた単一分子計測 走査プローブ顕微鏡の発明により、単一分子へのアクセ
スが初めて可能となった。この発明により、分子スケー
ルエレクトロニクスの提案が現実味を帯びるようになっ
たといってよい。この走査プローブ顕微鏡は極めて重要
であるので、測定原理から詳しく紹介することにする。
初めに走査トンネル顕微鏡の原理と応用例、および周辺
技術について述べる。
【0102】また、最近開発された非接触原子間力顕微
鏡が分子スケールエレクトロニクス研究には非常に重要
であることを述べる。それぞれ後半では、走査プローブ
顕微鏡の様々な技術が分子スケールエレクトロニクス研
究にどのように生かされるかを示す目的で、本願発明者
の最近の研究を紹介する。
【0103】3−1.走査トンネル顕微鏡の原理 走査トンネル顕微鏡(STM)の原理は図25に示すよ
うに、いたって簡単である。「探針」と呼ばれる導電性
を持つプローブと試料の間にバイアス電圧をかけて、探
針−試料表面間距離を1nm程度まで近づけると、トン
ネル電流が流れる。原子・分子の像を得るには、トンネ
ル電流を一定に保ちつつ、圧電素子を用いて探針を試料
表面に沿って走査する。このときトンネル電流を一定に
保つために圧電素子に加えた制御電圧を記録・画像化す
れば試料表面の原子や分子の像を得ることができる。こ
のトンネル電流は I∝Vρexp(−√φz) …(3) ここで、I:トンネル電流、V:バイアス電圧、ρ:状
態密度、φ:トンネル障壁、z:探針−試料表面間距離
で表される。この式(3)から、トンネル電流は探針−
試料表面間距離に対して非常に敏感で指数関数的に変化
することが分かる。例えば、探針−試料表面間距離が
0.1nm変化すると、トンネル電流は約1桁変わるの
で、極めて高い分解能で表面を走査することができる。
【0104】STM測定で得られる画像には、表面の幾
何学的な構造の他に、電子状態密度や仕事関数、軌道の
対象性、表面と探針先端の原子・分子の動きなど、電子
のトンネル過程に影響を及ぼす様々な要素が反映され
る。電気伝導体ではない一般的な有機分子がSTMによ
り観測できるのは、この電子トンネル過程に有機分子が
介在し、トンネル確率に影響を与えるからである。
【0105】3−2.走査トンネル顕微鏡による分子電
気伝導度測定 以上説明したSTMの原理から、トンネル確率が小さい
マトリックス分子の間に、トンネル確率が大きい目的分
子があると、明瞭に画像化できると考えられる。この考
えに基づき、図26に示すように、自己組織化膜のマト
リックス中に目的分子を直立させた試料について、ST
M観察が精力的に行われている。
【0106】上記したように、STMで観測されるトポ
グラフは単純に分子の高さを反映したものではなく、電
子状態も反映している。そこで、トンネル電流を様々に
変化させて、探針−試料表面間距離とトンネル電流の関
係を考慮すると、目的分子のコンダクタンスを求めるこ
とができる(参考文献〔47〕)。しかし、ここに示し
た取り扱いの中には、仕事関数が一定であるという仮定
が含まれている。
【0107】現実の系では、表面と分子の間に電荷移動
が起こり、マトリックス分子と目的分子では仕事関数が
異なると考えられる。最近では、この効果も考慮した取
り扱いも試みられている(参考文献〔48〕)。
【0108】分子を垂直に立てた場合は以上のような問
題が生じるが、分子軸に沿った分子内の分布を測れば問
題を避けることができる。分子の電気伝導部が絶縁体の
「足」で基板から浮き上がった構造をもつ特殊な分子を
用いて、分子内の波動関数の分布状態を画像化した研究
が成功している(参考文献〔49〕)。この実験では、
ステップ端を利用して、分子への電極接続にも成功して
いる。図27にこの測定の概念図を示した。STM像の
解析から、パイ電子共役系部分で指数関数的なコンダク
タンスの減少が観測され、理論計算の結果とも良い一致
を示した。
【0109】実験装置の工夫も行われている。直流から
20GHzまで測定可能なACSTMも開発されている
(参考文献〔47〕)。分子のコンダクタンスに非線形
成分があれば、2つの周波数を入れると、ミキサーとし
て働き、差周波数の信号が得られる。試料−探針系とは
別に、レファレンス用に差周波数信号を取り出してお
き、これをレファレンスとしてロックインアンプで検出
して画像化すれば、非線形成分を持った部分が明るく画
像化される。分子コンダクタンスの非線形性に基づいた
ミキサーは分子デバイスの大きな目標の一つである。
【0110】3−3.走査トンネルスペクトロスコピー
(Scanning Tunneling Spect
roscopy,STS) 前述したように、STM像で観測されるのは、単純な表
面のトポグラフではなく、様々な表面の電子的性質を反
映したものである。従って、その解釈は一義的には決ま
らないことも多い。このような複雑性は、分析手法とし
ては弱点であるが、反面、豊富な情報を含んでいるの
で、スペクトロスコピーを行えば、固体表面上に吸着し
た単一分子の物性が明らかになる。
【0111】STMで一般的に行われるスペクトロスコ
ピーは、大きく分けて (a)試料−探針間のバイアス電圧を変えて、そのとき
のトンネル電流の変化(I−V)を測定 (b)試料−探針間の距離を変化させて、そのときのト
ンネル電流の変化(I−s)を測定 の2種類がある。(a)は試料の状態密度を、(b)は
トンネル障壁など、表面における波動関数の減衰項を観
測するのが主な目的である。
【0112】(a)I−V測定 普通、STSと呼ばれるのは、I−V測定である。最も
標準的な測定は、走査中に探針の動きを一時的に止め、
試料−探針間距離も一定に保ち、バイアス電圧を掃引し
て、トンネル電流の変化を記録する。このようにして測
定したトンネルスペクトルは試料表面の局所的な状態密
度を反映しているので、表面吸着状態の分子の電子構造
を知ることができる。
【0113】また、このようなスペクトルをSTM像の
各ピクセルで測定し、任意のバイアス電圧でのトンネル
電流の大きさを画像化すれば、状態密度の分布図を描く
ことができる。この方法はCurrent Image
Tunneling Spectroscopy(C
ITS)と呼ばれている。
【0114】これらのSTS測定は、半導体の表面電子
状態の研究で威力を発揮した。しかし、分子スケールエ
レクトロニクス研究に適用するときには、注意が必要で
ある。HOMO−LUMOギャップが小さな分子や、大
きなレベルシフトが起こる系、あるいは、電極に挟まれ
た小さな分子系では、探針のバイアス電圧の範囲内に、
明確な伝導チャンネルや分子軌道を持つ。このような場
合にSTS測定を行えば、これらの準位に対応するスペ
クトルを得ることができる。
【0115】ところが、分子系のHOMO、LUMOレ
ベルが基板のフェルミ準位から遠く離れている場合に
は、スペクトルには基板の情報しか現れない。即ち、分
子によってβ値が小さくなり、長距離トンネリングが実
現するような場合でも、走査トンネル顕微鏡のフィード
バック動作自体がトンネル電流を規格化してしまうの
で、スペクトル上は何ら変化がないように見える。この
問題を解決するには、後述する非接触原子間力顕微鏡と
走査トンネル顕微鏡の複合測定を行う必要がある。
【0116】(b)I−s測定 I−s測定を行うことで、試料−探針間の見かけのバリ
ア高さを求めることができる。STSのときと同じよう
に、探針の走査とフィードバックを止めて、試料−探針
間距離を変化し、そのときの電流を記録して測定する。
STS測定と最も異なるのは、距離を1Å変化すると、
トンネル電流は約1桁変わるので、プリアンプのダイナ
ミックレンジに十分注意する必要がある。
【0117】一方、試料−探針間距離に交流変調を加
え、このときのトンネル電流変化をロックインアンプで
検出して、その結果を画像化する方法がある。この方法
はバリア高さの局所分布を見ることができるが、交流成
分をロックインアンプで検出するので、絶対値の信頼性
はない。絶対値測定には直接I−sカーブを記録して解
析するのが良い。
【0118】バリア高さを決定づけるのは、表面の仕事
関数(イオン化ポテンシャル)と表面電荷である。例え
ば、表面と吸着分子の間に電荷移動や分極がある場合
は、実効バリア高さが変化する。これを逆に利用して、
バリア高さの評価を行えば、電荷移動量や分極率を求め
ることができる(参考文献〔50〕)。図28の模式図
中に実効トンネル障壁測定の原理と測定例を示した(参
考文献〔51〕,〔52〕。電荷移動があると、表面に
電場ベクトルが生じ、波動関数の減衰率に変化が生じ
る。探針を振動させたときのトンネル電流の変化率か
ら、波動関数の減衰率を局所的に求めることができるの
で、表面の荷電状態を原子・分子分解能で評価できる。
【0119】金属−有機分子間の電子的接続について
は、いまだ明らかでない点が多い。特に、界面における
電荷移動がどのような形で起こり、イオン化ポテンシャ
ルの不一致が如何に補償されているかは、重要な問題で
ある。
【0120】金属−有機分子間に電荷移動がある場合に
は、図9に示すような分子のエネルギー準位のシフトが
起こる。ナノスケール分子系では、このようなシフトは
分子系全体に影響を及ぼすことになるので、この現象を
うまく利用すれば、界面における電子的接続をチューニ
ングすることができる。また、この電荷移動は電極から
分子系へのキャリア注入として積極的に利用できる。
【0121】図28の測定例に示したように、表面と分
子との間の電荷移動は、吸着様式により大きく異なる。
Si(100)2×1表面とシクロペンテンの例のよう
な共有結合を作る系では、結合に関与する電子対は分子
−表面間に出来た深い結合性準位に落ち込むため、大き
な電気双極子を形成することはない。
【0122】また、グラファイトとエライジン酸の例の
ように、化学的結合がなく、物理吸着の場合も、電子の
やりとりが起こらないので、双極子を形成しない。
【0123】SrTiO3 表面上のアデニン分子はマイ
グレーション可能であり、表面−分子間に強固な結合は
生じない。しかし、吸着エネルギーは1eV以上あるの
で、明らかに化学吸着である。この化学吸着力の大きな
部分を占めるのが電子移動による系の安定化エネルギー
である。SrTiO3 の仕事関数が4.3eVであるの
に対して、アデニン分子のイオン化ポテンシャルは約9
eVと大きいので、表面から分子に電子移動が起こる。
実効トンネル障壁像のデータから、一分子あたり0.2
eの電荷がSrTiO3 表面からアデニン分子上に移動
して、大きな双極子が誘起されることが分かる。
【0124】3−4.メゾ−メゾ結合ポルフィリンと完
全共役ポルフィリンのSTM 分子ワイヤーとして期待される、(1)メゾ−メゾ結合
ポルフィリン6量体(参考文献〔24〕)と(2)完全
共役ポルフィリン6量体(参考文献〔23〕)の2種の
分子について、STMを用いた単一分子計測を行った。
これらの分子は、ごく最近、京都大学理学研究科化学専
攻大須賀篤研究室で合成されたものである(図29)。
【0125】図29(a)に分子(1)のSTM像を示
す。この分子は同じ構造をもつポルフィリン環がσ結合
一つでつながっている。π電子系はここで切れている
が、最短距離で接続されているので、ホッピングメカニ
ズムによる伝導が期待できる。また、このσ結合は、ポ
ルフィリン環を180度の角度で結合しているので、分
子鎖は直線になり、分子ワイヤーとして期待できる。
【0126】この分子をCu(111)清浄表面に吸着
したところ、分子像は6量体の長さに対応した間隔の2
つの明点として観察された。この分子の各ポルフィリン
環はお互いに直交しており、立体障害により平面的なコ
ンホメーションをとることができない。STM像から、
端の2つのポルフィリン環が基板平面に平行に吸着した
と考えられる。すると、この分子は6量体であるので、
偶奇性から矛盾が生じて、歪みにより中心部が浮き上が
ってしまったと考えれば説明がつく。
【0127】STM像では、基板に密着せず、浮き上が
ったところのコントラストは著しく低くなる。この分子
は直線的な分子という考え方で合成された。ところが、
単一分子素子を構築するには、固体表面上に分子を配置
する必要がある。表面吸着により、歪みが生じる構造で
は、分子は著しく変形してしまうことを示している。さ
らに長いメソ−メソ結合48量体も直線分子として設計
・合成されたが、STM測定によると、図29(b)に
示すように曲がってしまうことが分かった。
【0128】これに対して、分子(2)は、非常に大き
な平面的π共役系をもつ。実際、図29(c)に示すよ
うに、分子の外形にほぼ対応した平面的な分子像が観測
された。この分子の電子状態を測定するために、分子像
の見かけの高さをバイアス電圧の関数としてプロットし
たのが図30である。この高さ解析から、HOMO−L
UMO間のギャップ値Eg =0.25eVであることが
分かった。この値は赤外分光からの予測Eg <0.3e
Vとよく一致する。これだけであれば、STMで得られ
る情報は他の分光学的手段と大差ない。
【0129】しかし、図30において注目すべきは、フ
ェルミ準位の下わずか0.05eVのところに、HOM
Oのレベルがきていることである。すなわちSTMで
は、電極を基準とした分子軌道の位置を見ることができ
る。この結果は、図9で示したようなレベルシフトが起
こり、電極のフェルミ準位との接続が実際に可能である
ことを示唆している。従って、分子(2)は分子ワイヤ
ーとして、極めて有望であるといえる。
【0130】このようなレベルシフトが起こるには、分
子と電極の間で電荷移動が必要である。図31はこの分
子(2)の実効トンネル障壁像を示したものである。分
子中央部の共役ポルフィリン環の部分だけが、著しく暗
くなっており、実際に強い電荷移動が起こっていること
を示している。さらに周辺のオクチル基の部分は、中心
部の電荷によって分極し、周辺より明るくなっているこ
とが分かる。
【0131】以上の説明から、上記した疑問に対する答
えとして、 表面に吸着した状態で溶液中の分子構造を保つに
は、平面的構造が必要である。σ結合では表面吸着エネ
ルギーに打ち勝って、分子構造を保つのは困難であるこ
と、 電荷移動により、分子のHOMOがシフトして金属
のフェルミ準位に近づくこと、 分子全体に広がったπ軌道を通したバリスティック
な伝導チャンネルが開くことが期待されること、 が分かった。
【0132】3−5.非接触原子間力顕微鏡 以上のように、STM測定により極めて高い分解能で表
面の様々な物性を明らかにすることができる。しかし、
STM測定の最大の問題点は、常に試料に電気伝導性が
要求されることである。金属・絶縁体・有機分子がナノ
スケールで混在した系である分子スケールエレクトロニ
クスの研究には不十分と言わざるを得ない。電気伝導性
にかかわらず使用可能な原子間力顕微鏡(Atomic
Force Microscope,AFM)が適し
ているが、これも従来のAFMは分解能が低く、分子ス
ケールエレクトロニクスの研究には不十分であった。こ
のような状況の中で、1995年に発明された非接触原
子間力顕微鏡(Non−contact Atomic
Force Microscope,NC−AFM)
は、原子分解能を有する画期的なものである(参考文献
〔53〕)。
【0133】AFMは図33に示すように「カンチレバ
ー」と呼ばれるAFMのプローブと試料表面間に働く力
を検出することが根本原理である。カンチレバーは、柔
らかいバネの先端に鋭い探針がついている。一般に試料
表面−探針間に働く力は、このバネのたわみをレーザー
光で測ることによって検出する。AFM像を得るために
は、試料表面−探針間に働く力を一定に保ちつつ、圧電
素子を用いて針を試料表面に沿って走査すればよい。
【0134】このとき試料表面−探針間に働く力を一定
に保つために圧電素子に加えた制御電圧を記録・画像化
することによりAFM像が得られる。しかし、従来から
のAFM測定では、試料と探針は接触していて、試料表
面と探針先端はともに激しく変形し、お互いの原子が混
ざり合っている(参考文献〔54〕)。
【0135】このような状況では、単一の原子・分子の
観察は望めない。実際、これまで接触モードで報告され
てきた原子や分子の二次元配列像と言われるものは、全
て周期的な摩擦力の画像化に過ぎないことが明らかにな
っている。
【0136】ところが、NC−AFMと呼ばれる新しい
測定モードでは、カンチレバーを、図35に示すように
固有振動数で共振させたときの周波数変化を利用する。
カンチレバー先端の探針を表面に接近させると、探針先
端と試料表面の間に働く力によって、振動の周波数が変
化する。
【0137】これは丁度図33に示すように、振動して
いるバネ先端の重りに力を加えているのに対応し、簡単
な運動方程式で記述することができる。周波数の変化
は、力の微分に対応するから、探針先端と試料表面の間
に働くポテンシャルエネルギーの変化を感じ取ることが
できる。この手法を用いれば、試料と探針が接触する前
に、わずかに働く引力を検知して走査を行うことができ
るので、点欠陥を含む真の原子分解能測定が可能となっ
た(参考文献〔53〕)。例としてSi(111)7×
7表面の原子像を図32に示した。原子欠陥を明瞭に確
認できる分解能があることが分かる。
【0138】この測定モードでは、カンチレバーの共振
周波数に対してppmオーダーのわずかな周波数偏移
(数Hz程度)を検出しなければならない。1秒程度の
時間をかければ周波数カウンターで簡単に測定できる
が、走査画像を得るには、1msくらいの時定数で、し
かもリアルタイムで周波数偏移を測定する必要がある。
周波数偏移は位相変化と等価であるので、瞬間的な位相
ずれを測定すればよい。
【0139】そこで図34に示すような水晶発振器とス
ーパーヘテロダインを用いた位相同期回路(Phase
−locked loop,PLL)を試作した。この
回路の分解能は0.1Hzである。当初、NC−AFM
の装置は極めて不安定で実用的ではなかったが、最近で
は市販装置も現れたので、この手法は急速に広がり、分
子エレクトロニクスの研究になくてはならないツールと
なるであろう。
【0140】3−6.NC−AFM/STM同時測定 分子スケールエレクトロニクスの研究では、金属と単一
あるいは少数の分子から構成された系を取り扱う。3−
3で述べたように、このような系では、有機分子の状態
数は金属に比べて圧倒的に少ないので、共鳴準位が無い
場合には分子の個性は現れにくい。分子軌道の広がり方
やエネルギーによる差異は、主に金属に由来する波動関
数の分子内での減衰係数として現れる。
【0141】STSを用いて、この分子内での減衰率を
議論することは難しい。なぜなら、STM測定ではトン
ネル電流が一定になるように試料−探針間距離にフィー
ドバックをかけるため、バイアス電圧のポテンシャルで
状態密度分布も自動的に規格化されてしまうからであ
る。ところが、NC−AFMとSTMの同時測定を行え
ば、試料表面からの距離一定の条件における状態密度の
比較が可能である(図36)。
【0142】STMにおいてトンネル電流Iは、試料表
面からの距離zにおける状態密度ρ、バイアス電圧V、
障壁高さφの関数として I=Vρexp(−√φz) …(4) で表現される。一方、NC−AFM測定における周波数
シフトΔfは、探針−試料間のポテンシャル関数をF
(z)とすれば、 Δf=(f0 /2k)F’(z) …(5) となる。ただし、ここで、f0 はカンチレバーの共鳴周
波数、kはカンチレバーのばね定数である。STMでフ
ィードバックをかけて走査を行えば、VとIは一定でz
は同時測定なので共通である。STMとNC−AFMの
同時測定を行うという実験操作は式の上では、上記の二
式からz項を消去する作業と同じ意味を持つ。従ってz
を消去すれば、 Δf∝F’(ρ) …(6) の関係式が得られる。この式(6)から、試料−探針間
ポテンシャルや仕事関数の差異がない部分の中では、周
波数シフトΔfの値は局所状態密度を反映していること
になる。
【0143】3−7.分子デバイス素子としてのDNA
の構造と電子的物性測定 (a)表面におけるDNAの構造 DNAは分子ワイヤーとして期待されている。単一DN
A分子を構成要素とするナノスケールデバイスの物性を
考えるには、まず、DNA分子の吸着状態における構造
を明らかにすることが必要である。既に固体表面に吸着
したDNAに関して、STMを用いた高分解能観察が行
われている(参考文献〔55〕)。しかし、前節で述べ
たように、STM像には様々な電子的要素が入り込まれ
るので、STM測定から真のトポグラフを得ることは難
しい。これに対してAFM測定は力による相互作用を用
いるので、真のトポグラフを得ることができる。このよ
うな目的から、NC−AFMを用いたDNA分子の高分
解能測定を試みた。
【0144】図37は試料と探針が周期的な従来からの
タッピングモード(TM−AFM)とNC−AFM測定
の結果を比較したものである(参考文献〔56〕)。試
料はマイカ基板上に液相から分散した環状DNAであ
る。TM−AFM像では、DNA鎖が一本の部分と二本
の部分とは、コントラストの差として明瞭に現れている
が、二本のDNA鎖が集まった部分は、特徴のない明る
い線としてしか現れず、DNA分子が絡まりあっている
様子は見えない。
【0145】これに対して、NC−AFM像では、二本
のDNA鎖が絡まりあっている様子もはっきりと見るこ
とができる。また、急な折れ曲がりなど、キンク周辺で
は、二重らせん構造が弛緩したところも観察することが
出来る。NC−AFMでこのような高分解能観察が可能
なのは、試料と探針が接触しないので、図38に示すよ
うに、探針先端のミニチップがつぶれることなく有効に
働く結果と考えられる(参考文献〔57〕)。
【0146】さらに、金属基板と金属コーティングを施
したカンチレバーを用いれば、図39に示すように、バ
イアス電圧の印加により、探針先端の形状を一層先鋭化
することができる。図40(a)はこのような方法で、
探針先端のアスペクト比を改良した後測定したCu(1
11)表面上のDNA像である(参考文献〔58〕)。
二重らせん周期に対応した凹凸がはっきり確認できるよ
うになり、探針先鋭化が有効であることが分かった。こ
のようにして測定したDNAの二重らせん周期の分布を
示したのが図40(b)のヒストグラムである。3−4
nmに分布の最大値があり、ワトソン−クリックモデル
の値3.4nmと良い一致を示す。
【0147】このことから、表面吸着状態においても、
この試料作成条件ではDNAのらせん構造は変化しない
と結論できる。ただし、周期は6−7nmまで広い分布
を持っているのが、溶液中とは異なる。これは、吸着エ
ネルギーのために、急な角度での折れ曲がりやねじれ等
の歪みをもったままDNA鎖が固定されるので、二重ら
せん構造が局所的に緩んで、広い周期分布を与えたと理
解できる。
【0148】次に、DNA鎖の高さについて検討した。
これまで、AFMを用いて表面に吸着したDNA鎖の高
さ計測が行われてきた。しかし、これまでの測定は接触
モードでの測定であったため、常にカンチレバーの圧力
によるDNA鎖の変形が問題にされてきた。今回行った
測定は、非接触モードによる引力領域での測定であるの
で、変形の問題を避けることができる。結果は、0.8
nm程度の高さが得られた。
【0149】図41に示すように、引力から斥力への遷
移領域での測定や、試料−探針間の接触を伴う斥力領域
におけるタッピングモードでの測定を比較すると、力の
向き、大きさにかかわらず、一様に0.8nm程度の高
さが得られた。水溶液中のDNA分子の直径が2nmで
あることを考慮すると、DNA分子は表面では扁平な構
造をとっていることが示唆された。また、原子間力顕微
鏡の通常の測定で用いる力では、DNAは変形せず、十
分に剛直であることも分かった。以上の結果を総合する
と、表面においてDNA分子はワトソン−クリックの二
重らせん構造を維持しつつも、表面では高さ約2分の1
まで、扁平にひしゃげていると推測される。
【0150】(b)DNAと金属との接合界面の電子状
態 SrTiO3 上に吸着したアデニン分子の場合は、表面
から分子に0.2eの電子が移動していた(図28)。
これに対して、Cu(100)表面上に吸着したDNA
分子では、電荷移動はほとんど起こらないことが明らか
になった。
【0151】図42はDNA分子の実効トンネル障壁像
である。DNA像に影がついたように見えるが、フィー
ドバック回路の応答遅れに起因するアーティファクトに
過ぎない。詳細な解析を行うと、DNA上における実効
トンネル障壁は、Cu(111)表面とほぼ同じである
ことが分かった。これは、Cu(111)表面とDNA
鎖の間に大きな電荷移動はないことを示している。DN
Aの場合には、電荷の授受に関与すると思われる塩基対
は、糖鎖の内側にあり、表面と直接相互作用を持つこと
ができない。従って、DNAを金属電極に接合した場
合、DNAの準位は金属のフェルミ準位に対してシフト
することはなく、また、電極からDNAへのキャリア注
入も起こらないと考えられる。
【0152】(c)NC−AFM/STM同時測定 図43はDNA及びDNA水溶液中に含まれている緩衝
溶液の成分(EDTA)についてNC−AFM/STM
同時測定を行った結果である。この測定では、シリコン
製カンチレバーを用いた。DNA水溶液に含まれている
EDTA分子の凝集体は、原子間力ではきちんと画像化
されるが、トンネル電流では観測されず、ほとんど透明
になる。これに対してDNA分子は、原子間力、トンネ
ル電流とともに明瞭な画像として現れる。この結果か
ら、普通の有機分子に比べて、DNA分子は電子を導き
やすいことが分かる。
【0153】さらに、この測定結果からDNAのSTM
像において観察される二重らせん周期のコントラスト
と、DNA鎖の凹凸との関係を明らかにすることができ
る。図44に、コントラストメカニズムのモデルを示し
た。モデル1はDNA鎖の低い部分が明るく、高い部分
が暗くなる場合である。DNA鎖にほとんど電流を流す
能力がない場合は、金属基板と接している部分の軌道混
成の方が、浮き上がった部分よりも強いので、STM像
では明るくなると考えられる。
【0154】しかし、同時測定の結果、NC−AFMで
高い部分が、STMでも高いので、このモデルは直ちに
否定できる。モデル2またはモデル3が考えられるが、
前節で述べたように大きな電荷移動は無いことが分かっ
ているので、モデル2も否定できる。結局、DNA自身
にある程度の電気伝導性があり、DNA鎖から探針にト
ンネル電流が流れる場合を仮定したモデル3がコントラ
ストメカニズムについて正しい描像と考えられる。
【0155】(d)単一DNAデバイス構築に向けて STMを用いて固体表面上の単一DNA分子について構
造と電子状態を明らかにした。これらの結果をまとめた
のが図45である。表面吸着状態において、 DNAの二重らせん構造は維持されるものの、吸着
力のために多数のキンクを含んだ形で固定され、部分的
には二重らせんが緩んでいること。また、高さは半分程
度にまで扁平になっていること、 DNAはπスタック鎖の周りに糖鎖があるため、基
板とπ系が接触できない。そのため、大きな電荷移動は
起こらないこと、 二重らせんの半周期程度の範囲においてDNAは電
気伝導性を持つこと、が分かった。
【0156】表面上でDNAは扁平であるが、このよう
なコンホメーションでは、DNA塩基のスタックは垂直
ではなく斜めにずれた形で起こると考えられるので、π
電子系を介した電荷移動にも大きな影響があると考えら
れる。また、キンクと伝導性との関係も気になるところ
である。
【0157】このようなDNAのらせん軸に沿った電気
伝導性を議論するには、金属上に吸着した形の測定では
難しい。将来の単一分子デバイスのように、絶縁体上に
DNA分子を配置し、分子端を金属に接続して測定する
必要がある。
【0158】図46はこのような測定を実現するための
概念図である。
【0159】金属上に絶縁体のアイランドを形成し、そ
のアイランドを横切る形でDNA鎖を吸着する。このよ
うにすれば、DNAの端は金属に接するので、絶縁体上
でプローブをDNA鎖に接触すれば、DNA鎖を通した
ナノスケールの回路を構成できる。この実験に向かっ
て、現在、Cu(111)上に絶縁体CaF2 のアイラ
ンド形成を試みている(参考文献〔59〕)(図4
7)。このような測定を行えば、キンク、二重らせんの
緩和、塩基配列など、DNAの構造が電気伝導に及ぼす
効果を実験的に明らかにできるであろう。また、そのと
きには前述したNC−AFM/STMの同時測定の技術
が生きるものと期待できる。
【0160】以上、単一巨大分子と表面(電極)との相
互作用について、走査プローブ顕微鏡を用いた研究例を
中心に紹介した。有機分子/金属界面は、分子系への入
出力に関わる問題であり、極めて重要であるにも関わら
ず、まだ、わからないことがあまりにも多い。今後、系
統的な研究が必要である。有機化学、表面科学、固体物
理をはじめとする異分野の専門家の協力が必要である。
【0161】一方、このような研究は、分子エレクトロ
ニクスの基礎として重要ではあるが、あくまで物性測定
中心であり、実際のデバイスに直接つながるものではな
い。既に序文でも述べたが、有機合成の進歩はめざまし
く、微細加工電極のサイズと同程度の巨大分子が可能と
なってきた。この点だけを見れば、明日にでも巨大分子
をナノギャップ電極間に配置して、単一分子デバイスが
実現するのではないかと思える。しかし、現在の微細加
工技術を分子エレクトロニクスに適用するには、多くの
問題点がある。巨大分子を用いたデバイスを構成するに
は、分子を集積化し、マクロ構造に接続するための方法
が必要である。
【0162】最も深刻なのは、電極の高さや表面ラフネ
スが分子のサイズにくらべて大きすぎる点である。DN
Aや単層カーボンナノチューブなど、分子エレクトロニ
クスの素材分子の中では例外的に大きいものでも、その
直径は2nm程度である。π電子系をもつ平面的な形の
分子の場合、分子の厚みはわずか0.2〜0.3nm、
立体的π系であるC60でも、高さは0.8nmに過ぎな
い。
【0163】このような分子サイズと比較して、標準的
な電子線リソグラフィー技術を用いて作製したナノギャ
ップ電極の高さは非常に高く10〜20nmもある。ま
た、電極や絶縁体部分の平均ラフネスも5nm以上もあ
る。このような電極に分子を配置しようとしても、電極
間の深い溝に分子が落ち込むか、あるいは平面的な分子
吸着が実現できないなどの理由で現実的ではない。実
際、カーボンナノチューブを用いたデバイスにおいて、
電極と絶縁部の段差により分子が変形し、局所的な絶縁
体化が起こることが報告されている。
【0164】さらに、分子の自己組織化を利用しようと
しても、平坦性が不十分で自己組織化現象自体が阻害さ
れてしまう可能性が高い。従って、トップダウンとボト
ムアップを組み合わせるためには、平坦表面を形成する
技術が不可欠である。
【0165】そこで、図1〜図6に示すように、完全フ
ラット微細回路網及びその製造方法を発明した。
【0166】これによれば、完全フラット微細回路網で
は、金属電極と絶縁部分の高さが同じであり、表面ラフ
ネスは0.5nm以下である。このような電極の実現に
より、分子を表面上に配置したとき、電極と絶縁体の境
界における分子変形を防ぐことができる。さらに、完全
フラット電極の発展として、回路網の上にごく薄い絶縁
体層を形成すれば、電極と絶縁体どちらの上でも連続的
に自己組織化分子配列が成長可能になる。このシステム
では、電極と分子間はトンネル結合しており、絶縁体上
の分子配列で情報処理を行う。
【0167】また、現在の微細加工技術はフォトリソグ
ラフィーあるいは電子ビームリソグラフィーによりパタ
ーン形成をおこなった後、反応性イオンエッチングなど
比較的高いエネルギーで加工を行っている。このような
方法では平坦な表面を作ることは難しいので、加工方法
の発想の転換が必要である。例えば、クラスターイオ
ンビーム、ナノインプリントによるケミカルパターニ
ングと電気化学的エッチングの組み合わせなど、先端的
エッチング技術の適用、分子線エピタクシーなど表面
科学的方法の適用など、現在の微細加工の枠組みを超え
た手法開発が必要である。
【0168】なお、本発明は上記実施例に限定されるも
のではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能
であり、これらを本発明の範囲から排除するものではな
い。
【0169】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明に
よれば、以下のような効果を奏することができる。
【0170】(A)自己組織化構造を下地の影響を受け
ずに成長させることができる、ナノオーダーのフラット
な下地を有する分子集積回路素子及びその製造方法を提
供する。
【0171】(B)電極と絶縁体の境界における分子変
形を防ぐことができる。
【0172】(C)完全フラット電極の発展として、回
路網の上にごく薄い絶縁体層を形成するようにしたの
で、電極と絶縁体どちらの上でも連続的に自己組織化分
子配列が成長可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す分子集積回路素子の要部
断面図である。
【図2】本発明の実施例を示す2D分子が配列されてい
ない状態の分子集積回路素子の斜視図である。
【図3】本発明の実施例を示す2D分子が配列された状
態の分子集積回路素子の斜視図である。
【図4】本発明の実施例を示す分子集積回路素子の製造
工程断面図である。
【図5】本発明の実施例を示すAuナノ粒子/有機ジチ
オール分子複合体の模式図である。
【図6】本発明の実施例を示す平坦電極上でのAuナノ
粒子/有機ジチオール分子複合体の模式図である。
【図7】表面と分子の軌道相互作用を示した模式図であ
る。
【図8】単一分子電気伝導と従来の有機伝導体との差異
を示す図である。
【図9】単一分子を電極に接合した系の概念図である。
【図10】ベンゼンジチオール分子の両端を2つの電極
に接続して、バイアス電圧をかけたときの状態密度の計
算結果を示す図である。
【図11】様々なπ電子系鎖状分子を示す図である。
【図12】π電子系直鎖状分子のSTM測定の模式図で
ある。
【図13】極めて速い電子移動速度を示す分子の図であ
る。
【図14】チオフェン骨格に誘導体を導入してエネルギ
ーギャップを下げる試みを示す図である。
【図15】共役系で結合されたポルフィリン分子を示す
図である。
【図16】完全共役ポルフィリン分子を示す図である。
【図17】メソ−メソ結合ポルフィリン多量体を示す図
である。
【図18】ポルフィリン21量体を示す図である。
【図19】分岐を持つ分子ワイヤーを示す図である。
【図20】分子スイッチ動作を行うロタキサン分子を示
す図である。
【図21】分子シャトルを示す図である。
【図22】シクロデキストリンネックレスを示す図であ
る。
【図23】DNA電気伝導度研究の現状を示す図(塩基
配列、コンホメーション、pH、電極/DNA界面、局
所効果)である。
【図24】DNAテンプレートを利用したAgナノワイ
ヤーを示す図である。
【図25】走査トンネル顕微鏡の原理を示した模式図で
ある。
【図26】自己組織化膜に埋め込んだ直鎖分子の電気伝
導度の評価方法を示す図である。
【図27】分子内トンネル確立の画像化と電気伝導測定
の方法を示す図である。
【図28】バリア高さ測定を用いた分子−表面間電荷移
動量の評価方法と実例を示す図である。
【図29】ポルフィリンアレイの構造とSTM像を示す
図である。
【図30】完全共役ポルフィリンのSTMコラゲーショ
ンのバイアス依存性を示す図である。
【図31】完全共役ポルフィリンのSTM像と実効トン
ネル障壁像を示す図である。
【図32】非接触原子間力顕微鏡によるSi(111)
7×7表面の原子像観察結果を示す図である。
【図33】非接触原子間力顕微鏡(Non−conta
ct AFM)の原理図である。
【図34】水晶振動子制御ヘテロダイン位相同期ループ
を用いた周波数シフト検出回路を示す図である。
【図35】タッピングモードAFMとノンコンタクトA
FMの比較を示す図である。
【図36】STMとノンコンタクトAFMの同時測定を
示す図である。
【図37】非接触モードとタッピングモードの分解能比
較を示す図である。
【図38】ミニチップの影響を示す図である。
【図39】真空噴霧法による試料作製および電界マイグ
レーション法による探針作製を示す図である。
【図40】非接触原子間力顕微鏡によるDNAの高分解
能画像と二重らせん周期の分布を示す図である。
【図41】種々の測定モードによるDNA鎖の高さ測定
の結果を示す図である。
【図42】DNAのトポグラフとバリア高さ像の同時測
定を示す図である。
【図43】DNAおよび緩衝材分子(EDTA)凝集体
の非接触原子間力顕微鏡と走査トンネル顕微鏡の同時測
定結果を示す図である。
【図44】走査トンネル顕微鏡によるDNA分子観察の
ときのコントラストメカニズムを示す図である。
【図45】走査プローブ顕微鏡で明らかになったDNA
の構造と電子状態を示す図である。
【図46】ナノスケール絶縁体を用いた単一分子電気伝
導度測定の様子を示す図である。
【図47】Cu(111)表面に成長したナノスケール
絶縁体CaF2 のSTM像を示す図である。
【符号の説明】
1,11 シリコン(Si)基板 2,12 酸化シリコン(SiO2 )膜 3 Au電極 4 極薄絶縁膜 5 分子吸着規制パターン(SiO2 膜) 6 2D分子配列を行わせるための凹所 7 自己組織化分子配列(2D配列) 8 配列分子中の情報の流れ 9 分子配列とAu電極とのトンネル結合 13 トレンチ 14 金属電極材料 15 完全フラット微細回路網 16 2D分子 21 Auナノ粒子 22 有機ジチオール分子 23 平坦電極上でのAuナノ粒子/有機ジチオール
分子複合体
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 小川 琢治 愛媛県松山市土居田町658−305 (72)発明者 松井 真二 兵庫県姫路市御立西5丁目8−9

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 自己組織化する分子が配置される0.5
    nm以下の平坦度を有する基板表面に、1nm以下の絶
    縁膜と金属電極とを形成し、その上に分子を配列させる
    とともに、前記金属電極と前記分子の導通はトンネル効
    果を用いて行うことを特徴とする分子集積回路素子。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の分子集積回路素子におい
    て、前記基板はSiであり、前記絶縁膜はSiO2 また
    はAl2 3 であることを特徴とする分子集積回路素
    子。
  3. 【請求項3】 請求項1記載の分子集積回路素子におい
    て、前記金属電極はAuであることを特徴とする分子集
    積回路素子。
  4. 【請求項4】 シリコン基板を酸化して50nm程度の
    酸化膜を形成し、10nm程度の分子サイズのトレンチ
    を形成し、スパッタでAuを埋め、Arガスクラスター
    イオンエッチングにより、0.5nm以下の平坦化処理
    を行うことを特徴とする分子集積回路素子の製造方法。
  5. 【請求項5】 請求項4記載の分子集積回路素子の製造
    方法において、前記シリコン基板をエタノール等を溶媒
    とした有機ジチオール溶液に浸漬し、Auナノ粒子の有
    機溶媒分散体を添加し、Auナノ粒子/有機ジチオール
    分子複合体を自己組織化で形成することを特徴とする分
    子集積回路素子の製造方法。
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