JP2002300822A - 細胞死抑制遺伝子が導入されたストレス抵抗性植物およびその作出方法 - Google Patents

細胞死抑制遺伝子が導入されたストレス抵抗性植物およびその作出方法

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JP2002300822A
JP2002300822A JP2002026196A JP2002026196A JP2002300822A JP 2002300822 A JP2002300822 A JP 2002300822A JP 2002026196 A JP2002026196 A JP 2002026196A JP 2002026196 A JP2002026196 A JP 2002026196A JP 2002300822 A JP2002300822 A JP 2002300822A
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cell death
plant
stress
bcl
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JP2002026196A
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Yuko Ohashi
祐子 大橋
Ichiro Mitsuhara
一朗 光原
A Malik Kamaru
エイ.マリク カマル
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National Institute of Agrobiological Sciences
Original Assignee
National Institute of Agrobiological Sciences
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  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
  • Breeding Of Plants And Reproduction By Means Of Culturing (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 細胞死抑制遺伝子が導入されたストレス抵抗
性植物を提供すること。 【解決手段】 細胞死抑制遺伝子が導入されたストレス
抵抗性植物であって、ここで該細胞死抑制遺伝子がBc
l−2ファミリーのメンバー以外の細胞死抑制遺伝子で
あって、細胞死抑制活性を有するペプチドをコードする
遺伝子である、ストレス抵抗性植物。特定の実施形態で
は、上記ストレスはUVである。別の実施形態では、上
記ストレスがスーパーオキシド発生型除草剤である。さ
らに別の実施形態では、上記ストレスが塩ストレスであ
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ストレス抵抗性植
物およびその作出方法に関する。さらに詳しくは、細胞
死抑制遺伝子を植物に導入することにより、ストレス抵
抗性植物を育種することに関する。
【0002】
【従来の技術】現在、多細胞生物においては、プログラ
ムされた細胞死(Programmed Cell Death、以下、PCDと
いう)の研究が盛んに行われている。このPCDは、生物
の個体発生、恒常性の維持、環境ストレスへの対応など
に必須のものであると理解されている。このPCDについ
ては、線虫、ショウジョウバエ、哺乳動物について研究
されている(例えば、三浦ら、細胞工学 vol.14 No.2:1
45−153, (1995))。そして、例えば、線虫において
は、いくつかの細胞死遺伝子(例えば、ced−3、ced−4
など)および細胞死抑制遺伝子(例えば、ced−9など)
が明らかになってきた。この細胞死抑制遺伝子は、細胞
死遺伝子の活性を負に調節して、ランダムな細胞死を抑
制していると考えられている。
【0003】哺乳動物において発見されたbcl−2遺伝子
によりコードされるタンパク質(Bcl−2タンパク質)
は、多くの系統の細胞(リンパ系、神経系、生殖系、お
よび上皮系の細胞)において細胞死を抑制する活性を示
すタンパク質である。これまでに、さまざまな処理によ
り誘導される細胞死が、Bcl−2を過剰発現することによ
って抑制されることが知られている(例えば、恵口ら、
実験医学、vol.13、No.16、18−23(1995))。
【0004】近年、多くのBcl−2関連タンパク質および
Bcl−2結合タンパク質をコードする遺伝子が報告されて
おり、これらは、Bcl−2ファミリーとして分類されてい
る。Bcl−2ファミリーに属する遺伝子としては、例え
ば、哺乳動物由来のbcl−2、bax、bcl−xL、bcl−xS、b
ad、bak、Al、およびMcl−1遺伝子、線虫由来のced−
9、ならびにウイルス由来のBHRF1遺伝子(Epstein−Bar
r virus由来)およびLMW5−HL遺伝子(African Swine F
ever virus由来)が挙げられる(高山、実験医学、vol.
13、No.16、24−31(1995))。一般に、Bcl−2ファミ
リーの間の塩基配列レベルでの同一性および類似性は非
常に低く、さらにアミノ酸レベルでも低いことが、当該
分野において知られている。例えば、BaxαとBcl−2と
の間で、同一性は約21%であり、および類似性は43%であ
る(山本、実験医学別冊、細胞内シグナル伝達、羊土
社)。
【0005】高等植物のPCDに関しては、研究の緒につ
いたばかりである(福田ら、化学と生物、34:586−59
4,1996を参照)。植物は、常に厳しいストレス(例え
ば、ウイルスや細菌の感染、UVの照射、除草剤による過
酸化物の生成など)に曝されており、これに対応するた
めに、例えば、ウイルス感染に対しては、過敏感反応を
起こし、感染部位周辺細胞を自殺させて感染の拡大を防
止するなどのPCDが起こる。この植物のPCDにも、細胞死
遺伝子と細胞死抑制遺伝子とが関連していることが考え
られる。
【0006】ところで、細胞死抑制遺伝子は、ストレス
などで生じる細胞死に対して、負の調節(つまり、細胞
死を防ぐ)を行うと考えられていることから、ストレス
に対して抵抗性を示すと考えられる。従って、植物の育
種に際して、細胞死抑制遺伝子を機能させることによ
り、植物はストレスに対して抵抗性を得ると考えられ
る。特に、植物に環境ストレスに対する抵抗性を付与す
ることは、農業の分野において重要な課題である。現
在、オゾン層が破壊され、その結果、紫外線(UV−B)の
照射を受ける量が10年で約6.8%ずつの割合で増加して
いることを考えると、植物に対する影響も大きいといわ
ざるを得ない。
【0007】しかし、細胞死抑制遺伝子を用いて、UVな
どの環境ストレスに対して抵抗性を獲得するという研究
は全くなされていないのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の問題を
解決するためのものであり、その目的とするところは、
PCDに関連する遺伝子を植物に導入することにより、種
々のストレスに対して抵抗性の植物を提供することであ
る。本発明は、さらに、PCDに関連する遺伝子が導入さ
れた、ストレスに対して抵抗性を有する植物を育種する
方法を提供する。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、細胞死抑制遺
伝子が導入されたストレス抵抗性植物に関する。この細
胞死抑制遺伝子は、公知の遺伝子組換え技術により、植
物細胞中のDNAに組み込まれて存在する。なお、植物
細胞中のDNAとは、染色体のみならず、植物細胞中に
含まれる各種オルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉
緑体など)に含まれるDNAを含む。
【0010】好適な実施態様においては、上記の細胞死
抑制遺伝子がBcl−2ファミリーに属する遺伝子であっ
て、細胞死抑制活性を有するペプチドをコードする遺伝
子である。
【0011】好適な実施態様においては、上記の細胞死
抑制遺伝子が線虫のced−9遺伝子、またはヒトbcl−xL
遺伝子である。
【0012】好適な実施態様においては、上記のストレ
スがUV、スーパーオキシド発生型除草剤、または塩スト
レスである。
【0013】また、本発明は、細胞死抑制遺伝子を植物
細胞に導入する工程、および該遺伝子が導入された植物
細胞を植物体に再生する工程を含む、ストレス抵抗性植
物の作出方法に関する。
【0014】好適な実施態様においては、上記の細胞死
抑制遺伝子が植物発現ベクターに組み込まれている。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。
【0016】「細胞死抑制遺伝子」は、PCDに対して抑
制的に作用する遺伝子をいい、多細胞生物の遺伝子であ
れば、植物、動物などの起源を問わない。細胞死抑制遺
伝子としては、動物起源のものが好ましい。例えば、細
胞死抑制遺伝子は、線虫(例えば、Caenorhabditis eleg
ans:C.elegans)、ヒトを含む哺乳動物から由来し得
る。細胞死抑制遺伝子としては、例えば、Bcl−2ファミ
リーに属する細胞死抑制遺伝子である、線虫C.elegans
のced−9遺伝子、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、チ
キンなど)のbcl−2遺伝子、およびヒトのbcl−xL遺伝
子など(三浦ら、上記の文献)が挙げられる。
【0017】本発明においては、公知の細胞死抑制遺伝
子が使用され得る。好ましい細胞死抑制遺伝子には、Bc
l−2ファミリーに属する細胞死抑制遺伝子(例えば、ce
d−9遺伝子およびbcl−xL遺伝子)が含まれる。
【0018】公知の細胞死抑制遺伝子またはその断片を
プローブとして得ることができる、種々の多細胞生物の
遺伝子ライブラリー由来の、これらの遺伝子と相同性を
有する遺伝子もまた細胞死抑制遺伝子として使用され得
る。このような目的で、例えば、植物の遺伝子ライブラ
リー、線虫遺伝子ライブラリー、およびヒト遺伝子ライ
ブラリーが使用され得る。ライブラリーをスクリーニン
グするためのストリンジェントな条件は、当業者により
適宜選択される。ここで、「相同性を有する遺伝子」と
は、ある細胞死抑制遺伝子とアミノ酸レベルで比較した
とき、特定の領域について保存性が高い遺伝子をいう。
保存性が高いとは、例えば、同質アミノ酸を含めたアミ
ノ酸レベルでの相同性が約40%以上、好ましくは約70%以
上、より好ましくは80%以上、およびさらにより好まし
くは90%以上であることをいう。
【0019】Bcl−2ファミリーに属する遺伝子は、アミ
ノ酸レベルで保存性が高い領域を有する。この保存性が
高い領域として、BH1およびBH2領域があり、さらに、N
末端側にも保存性が高い領域(BH3領域)が存在し得る
ことが知られている。これらの領域は、異種(ヒト、マ
ウス、ラット、ニワトリ)のBcl−2ファミリー間でも進
化的に保存されている(高山、上記の文献;および太田
ら、実験医学、vol.13、No.16、32−37(1995))。こ
のBH1、BH2、およびBH3領域の全てを含むタンパク質
は、特に、単独でアポトーシスを抑制し得ることが知ら
れている(高山、上記の文献)。
【0020】したがって、「Bcl−2ファミリーに属する
遺伝子」とは、Bcl−2ファミリーに属する公知の細胞死
抑制遺伝子およびこれらと相同性を有する遺伝子をい
う。この相同性を有する遺伝子としては、BH1、BH2、お
よびBH3からなる群から選択される少なくとも1つの領
域を含むタンパク質をコードする遺伝子、より好ましく
は、BH1、BH2、およびBH3からなる群から選択される少
なくとも2つの領域を含むタンパク質をコードする遺伝
子、さらにより好ましくはBH1とBH2領域とを含むタンパ
ク質をコードする遺伝子、ならびに最も好ましくは、BH
1、BH2、およびBH3領域の全てを含むタンパク質をコー
ドする遺伝子が意図される。
【0021】このような保存性が高い領域の検索は、目
的の遺伝子によりコードされるアミノ酸配列と公知のBc
l−2ファミリータンパク質のアミノ酸配列とを、市販の
コンピューター解析ソフト(Gene Works(Intelligenet
ics, Inc.))を使用してアラインメントすることによ
り容易に行われ得、それによりこれらの領域が同定され
得る。
【0022】得られた遺伝子の細胞死抑制活性は、三浦
ら(上記の文献)の文献に記載の方法で確認され得る。
具体的には、培地から血清を除くことによって細胞死が
誘導されることが知られているRat1細胞(Kumar, Sら、
Genes Dev. 8, 1613−1626 (1994))に遺伝子を導入
し、組換えRat1細胞において培地から血清を除いた4日
後の細胞死の割合が有意に抑制されている場合には、こ
の遺伝子は細胞死抑制活性を有する。得られた遺伝子の
細胞死抑制活性はまた、恵口ら(上記の文献)の文献に
記載の方法によっても確認され得る。具体的には、酸素
濃度100ppm以下の低酸素条件(アポトーシスを誘導する
条件)下で48時間培養すると約半数の細胞が細胞死を起
こすことが知られているラットPheochromocytoma株PC12
に、目的の遺伝子を形質転換する。約105個の細胞を6cm
ディシュに巻き込み、低酸素チャンバーに入れ、例え
ば、BBL GasPac Plus(Becton Dickinson)を用いて低
酸素状態にする。酸素濃度が100ppmに下がった時間を0
時間として経時的にトリパンブルーにより生存細胞数を
定量する。細胞死の割合が有意に抑制されている場合に
は、この遺伝子は細胞死抑制活性を有する。したがっ
て、「細胞死抑制活性を有する遺伝子とは、上記の方法
またはこれらと同等の方法を用いたとき、その少なくと
も1つによって細胞死抑制活性を有することが確認され
る遺伝子をいう。
【0023】公知の細胞死抑制遺伝子と相同性を有する
遺伝子をスクリーニングするための遺伝子ライブラリー
の作製法、プローブとのハイブリダイゼーションに使用
するストリンジェントな条件、および遺伝子のクローニ
ング法は当業者に周知である。例えば、マニアティスら
のMolecular Cloning, A Laboratory Manual、第2版、
Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring H
arbor, New York(1989)を参照のこと。
【0024】ced−9遺伝子は、まず、線虫C.elegansか
ら全RNAを単離し、ced−9の全長cDNAをRT−PCRにより単
離することによってスクリーニングし得る。プライマー
として、5’−TTGAATTCGAGATGACACGCTGCACGGCGG−3’
(配列番号:1)が好適に用いられ得る。第一鎖cDNAを
mRNAから合成し、次いで、配列番号1のプライマーと
5’−GGGAATTCGTTACTTCAAGCTGAACATCAT−3’(配列番
号:2)とを用いて、PCRを行い、目的のcDNAが得られ
る。bcl−xL遺伝子も、同様にして適切なプライマーを
用いることによって、単離され得る。PCRは、市販のキ
ットおよび装置の製造者の指針に基づいて行うか、当業
者に周知の方法で行い得る。
【0025】得られた動物または他の起源由来の細胞死
抑制遺伝子は、適切な植物発現ベクターに連結され、植
物に導入され得る。細胞死抑制遺伝子はまた、核酸の直
接的な取り込みによる形質転換法(例えば、エレクトロ
ポレーション、パーティクルガン、リン酸カルシウム
法、およびポリエチレングリコール(PEG)法)を使用
して導入され得る。
【0026】「植物」は、単子葉植物および双子葉植物
のいずれも含む。特に好ましい植物としては、タバコ、
ピーマン、ナス、メロン、トマト、サツマイモ、キャベ
ツ、ネギ、ブロッコリー、ニンジン、キウリ、柑橘類、
白菜、レタス、モモ、イネ、ジャガイモ、オオムギ、コ
ムギおよびリンゴが挙げられる。また、特に他で示さな
い限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細
胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例と
しては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物
細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げら
れる。
【0027】「植物発現ベクター」は、細胞死抑制遺伝
子の発現を調節するプロモーターなどの種々の調節エレ
メントが宿主植物の細胞中で作動し得る状態で連結され
ている核酸配列をいう。好適には、植物遺伝子プロモー
ター、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子および、エンハ
ンサーを含み得る。植物発現ベクターのタイプおよび使
用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変
わり得ることは、当業者に周知の事項である。本発明に
用いる植物発現ベクターはさらにT−DNA領域を有し
得る。T−DNA領域は、特にアグロバクテリウムを用
いて植物を形質転換する場合に遺伝子の導入の効率を高
める。
【0028】「植物遺伝子プロモーター」は、植物で発
現するプロモーターを意味する。例えば、タバコの感染
特異的タンパク質PR1aのプロモーター(以下、タバコPR
1aプロモーターという)などのある種のストレスにより
発現が誘導されるプロモーター、カリフラワーモザイク
ウイルス(C aMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素の
プロモーター(Pnos)などが挙げられるがこれらに限
定されない。
【0029】「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク
質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写
される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配
列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して
遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。タ
ーミネーターとしては、CaMV35Sターミネーター、ノパ
リン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバ
コPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに
限定されない。
【0030】「薬剤耐性遺伝子」は、形質転換植物の選
抜を容易にするものであることが望ましく、カナマイシ
ン耐性を付与するためのネオマイシンフォスフォトラン
スフェレースII(NPTII)遺伝子、およびハイグロマイシ
ン耐性を付与するためのハイグロマイシンフォスフォト
ランスフェレース遺伝子などが好適に用いられ得る。
【0031】薬剤耐性遺伝子を発現させるプロモーター
の例としては、上記植物遺伝子プロモーター、例えば、
E12Ωプロモーター、タバコPR1aプロモーター、CaMV35S
プロモーター、ノパリン合成プロモーターなどが挙げら
れるがこれらに限定されない。好適には、構成的に高発
現するE12Ωプロモーターが用いられ得る。このE12Ωプ
ロモーターは、CaMV35Sプロモーターのエンハンサー領
域(En35S:−417〜−90)が2つタンデムに並び、その
下流にCaMV35Sプロモーターならびにタバコモザイクウ
イルスのΩ領域(Gene 217: 217, (1987))の配列を有
している(特開平7−250685号公報のプラスミドpS T10
参照)。このE12Ωプロモーターは、CaMV35Sプロモータ
ーと比較して、10−20倍活性が高い。
【0032】「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効
率を高めるために用いられ得る。エンハンサーとして
は、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエン
ハンサー領域が好適である。エンハンサーは複数個用い
られ得る。
【0033】植物発現ベクターの構築に用いるベクター
としては、pBI系のベクター、pUC系のベクターあるいは
pTR A系のベクターが好適に用いられ得る。
【0034】pBI系およびpTRA系のベクターは、アグロ
バクテリウムを介して植物に目的の遺伝子を導入し得
る。pBI系のバイナリーベクターまたは中間ベクター系
が好適に用いられ得る。例えば、pBI121、pBI101、pBI1
01.2、pBI101.3などが挙げられる。これらのベクター
は、植物に導入され得る領域(T−領域)の遺伝子と、マ
ーカー遺伝子として植物プロモーターの支配下で発現さ
れるNPT2遺伝子(カナマイシン耐性を付与する)とを
含む。
【0035】pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接
導入し得る。例えば、pUC18、pUC19、pUC9などが挙げら
れる。
【0036】本発明の植物発現ベクターは、当業者に周
知の遺伝子組換え技術を用いて作製され得る。好適に
は、上記ベクターのプロモーター下流に動物由来の細胞
死抑制遺伝子が組み込まれ得る。
【0037】植物細胞への植物発現ベクターの導入に
は、当業者に周知の方法、例えば、アグロバクテリウム
を介する方法および直接細胞に導入する方法、が用いら
れ得る。アグロバクテリウムを介する方法としては、例
えば、Nagelらの方法(FEMS Micribiol. Lett., 67, 325
(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば植
物発現ベクターでエレクトロポレーションによってアグ
ロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換された
アグロバクテリウムをPlant Molecular BiologyManual
(S. B. Gelvin et al., Academic Press Publishers)
に記載の方法で植物細胞に導入する方法である。植物発
現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレク
トロポレーション法、遺伝子銃法などがある。これらの
方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植
物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
【0038】植物発現ベクターを導入された細胞は、ま
ずカナマイシン耐性などの薬剤耐性で選択される。次い
で、常法により、植物組織、植物器官および/または植
物体に再生され得る。さらに、植物体から種子が取得さ
れ得る。
【0039】形質転換植物に細胞死抑制遺伝子が導入さ
れたか否かは、プライマーを用いるPCRで確認され得
る。例えば、ノパリン合成酵素のターミネーターを含む
植物発現ベクターによって線虫ced−9遺伝子を導入した
場合には、5’−CCTCTTCGTTTACACATCGC−3’(配列番
号:3)を、ヒトbcl−xL遺伝子を導入した場合には、
5’−ACAAGGAGATGCAGG−3’(配列番号:4)を5’側の
プライマーとし、そして、ノパリン合成酵素のターミネ
ーターの5’−AGACCGGCAACAGGATTCAA−3’(配列番号:
5)を3’側のプライマーとして用い、PCRを行い得る。
得られたPCR産物をアガロースゲル上で電気泳動して、
コントロールと同じ移動度を示すDNAが増幅され得るか
否かにより、目的の遺伝子の存在が確認され得る。
【0040】導入された細胞死抑制遺伝子の発現の確認
には、当業者に周知の方法が用いられ得る。この確認
は、例えば、ノーザンブロット解析を用いて行い得る。
具体的には、植物の葉から全RNAを抽出し、アガロース
ホルムアルデヒドゲルでの電気泳動の後、適切なメンブ
ランにブロットし、導入遺伝子に対応するDNA、例え
ば、ced−9もしくはbcl−xLのcDNAまたはその断片をハ
イブリダイズプローブとして、目的とするmRNAを検出し
得る。
【0041】植物における動物または他の起源由来の細
胞死抑制遺伝子産物の発現の確認には、当業者に周知の
方法(例えば、ウエスタンブロッティング)が用いられ
得る。例えば、形質転換植物からタンパク質を抽出し、
Leammliら、Nature 227:680−685(1970)に記載のよう
に、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
で抽出したタンパク質を分離し、目的とするタンパク質
に対する抗体と反応させて、生じるバンドを免疫化学的
に検出することによって、その発現が確認され得る。ヒ
トbcl−xL遺伝子の産物の発現を検出する場合には、葉
から抽出したタンパク質をSDS−PAGEで分離し、メンブ
レンに転写した後、ヒトbcl−xLタンパク質に対するモ
ノクローナル抗体とインキュベートする。次いで、例え
ば、メンブレンをアルカリホスファターゼ結合抗ウサギ
IgG抗体と反応させて、BCIP(5−bromo−4−chloro−3−
indolyl−phosphate)およびNBT(Nitroblue tetrazoliu
m)を基質として発色させて、遺伝子産物の発現を検出し
得る。
【0042】形質転換植物のストレス抵抗性は、UV処理
に対する抵抗性、スーパーオキシド発生型除草剤(例え
ば、パラコート(商品名)(1,1−dimethyl−4,4−bipyr
idinium dichloride))処理に対する抵抗性、および/
または塩ストレスに対する抵抗性として検出され得る。
【0043】UV照射処理は、代表的には、UV−Bを用い
て行い得る。UV−B処理は、東芝UV−Bランプ(東芝FK−
208E)を用いて行い得る。水平に位置した二本のUVラン
プを20cm離したものを1セットとして、2セット用意す
る。このUV−Bランプから照射される紫外線の波長は、
大部分がUV−B(290−320nm)であり、残りはUV−C(260−
280nm)およびUV−A(340−360nm)である。290nmより短い
波長は、セルロースジアセテートフィルターでカットし
得る。UV−Bと草冠との距離は適切なUV−B照射量となる
ように調整し得る。UV−B照射は白色光で補足し(100μm
ol-2S-1、16時間照射期間/日)、すべてのUV−B光測定
は、白色光の存在下にて測定する。照射強度は、S pect
rolinedigital radiometer (Spectronic Corporation,
Westbury,NY)で測定し、NIST標準で校正し得る。
【0044】スーパーオキシド発生型除草剤としては、
パラコート(商品名)が挙げられる。除草剤処理は、除
草剤溶液中に円形に切り取った葉を浸漬し、24時間光照
射する。
【0045】UV−B処理は、照射された葉表面の異常光
沢または葉のしおれ、さらには枯死が非形質転換株に比
べて抑制されているときは、UV−B抵抗性があるとす
る。また、UV−B処理または除草剤処理後の形質転換植
物の葉の色の退化が、非形質転換株に比べて抑制されて
いるときは、UV−B抵抗性または除草剤抵抗性があると
する。
【0046】UV−B処理あるいは除草剤処理効果の別の
測定法として、クロロフィル含量測定が挙げられる。一
定期間の処理を行い、その直後にN,N−ジメチルホルム
アミドでクロロフィルを抽出して、分光光度計で測定す
る。形質転換株と非形質転換株とのクロロフィル含量を
測定して、形質転換株のクロロフィル含量が高ければ、
抵抗性があるとする。
【0047】高塩濃度は、対象となる植物の正常な生育
を妨げる濃度である。塩ストレスとは、このような高塩
濃度の生育環境に植物が曝されることをいう。高塩濃度
の範囲は、当業者に周知であり、例えば、0.1Mまたは
0.2MのNaCl濃度を有する溶液における耐性が、耐塩性
の指標とされる。
【0048】塩ストレスに対する抵抗性は、植物の芽生
え、および草丈30〜40cmに生育した植物に、食塩水を吸
わせるなど高塩濃度を有する環境におき、形質転換植物
とコントロールの植物との間の重量の変化および観察さ
れ得る形態学的変化(例えば、葉の黄化および白変化の
程度、ならびに離層形成の程度)の差異を比較すること
により試験し得る。塩ストレス環境に曝露した後の形質
転換植物の、重量の変化および観察され得る形態学的変
化が、コントロールの植物に比べて抑制されているとき
は、形質転換植物は、塩ストレスに対する抵抗性がある
とする。
【0049】当業者に明らかなように、形質転換植物に
おけるストレス抵抗性は、上記の条件と同等な他の条件
によっても検出し得る。
【0050】本発明においては、形質転換植物が、UV処
理に対する抵抗性、スーパーオキシド発生型除草剤に対
する抵抗性、および塩ストレスに対する抵抗性の少なく
とも1つについて抵抗性である場合に、ストレス抵抗性
植物という。
【0051】
【実施例】以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明す
る。この実施例で使用した制限酵素、プラスミドなどは
商業的な供給源から入手可能である。
【0052】(実施例1:植物発現ベクターの調製)バ
イナリーベクターpBE2113(図1)を植物発現ベクター
の出発材料として用いた。このベクターは、特開平7−2
50685号公報に記載されているように、薬剤耐性遺伝子
領域(Pnos、NPTIIおよびTnos)を有するバイナリー
ベクターpBI121(Clonetech社製)を出発材料とし、プ
ロモーター領域配列E12Ωを組み込んだものである。
【0053】(実施例2:動物由来細胞死抑制遺伝子の
単離と植物発現ベクターの構築)線虫C.elegansから、T
RIsol(Life Technologies, Inc)を用いて全RNAを単離し
た。mRNAから第一鎖cDNAを合成した。次いで、ced−9の
全長cDNAを、5’−TTGAATTCGAGATGACACGCTGCACGGCGG−
3’(配列番号:1)を用いて、RT−PCRを行って合成し
た。次に、配列番号1のプライマーを5’側のプライマ
ーとして、および、5’−GGGAATTCGTTACTTCAAGCTGAACAT
CAT−3’(配列番号:2)を3’側のプライマーとして
用い、Pfuポリメラーゼ(Stratagene社製)を用いて、P
CRを行った。DNAを94℃、1.5分間変性させ、55℃、2.5
分間アニールさせ、次いで、72℃、2分間の伸長反応を
行った。このサイクルを25回行った。PCR産物を、pBlus
criptのEcoRI部位にクローン化し、プラスミドpM61を得
た。
【0054】他方で、ヒトcDNAライブラリー(Clontech
社製)から、5’側のプライマーとして、5’−ATGTCTCA
GAGCAACCGGGAGCTGGTGGTT−3’(配列番号:6)を、3’
側のプライマーとして、5’−TCATTTCCGACTGAAGAGTGAGC
CCAGCAG−3’(配列番号:7)を用いて、PCRにより、
ヒトbcl−xL遺伝子を単離した。PCRの条件は上記と同じ
である。単離した全長のヒトbcl−xL cDNAをpBluscript
のEcoRI部位にクローン化し、プラスミドpM21を得た。p
M21のSalI部位、あるいはpM61のHindIII部位をリンカー
を接続することによりBglIIに変え、生じたプラスミド
をそれぞれ、pM21−BglおよびpM61−Bglと名付けた。pM
21−BglのBglII−SacIフラグメントまたはpM61−BglのB
glII−SacIフラグメントを単離し、pBE2113のE12Ωの下
流にクローン化した。ヒトbcl−xL遺伝子を有するベク
ターをpM65、線虫ced−9遺伝子を有するベクターをpM66
と命名した。図2に発現ベクターpM65およびpM66を示
す。
【0055】(実施例3:発現ベクターのタバコへの導
入) (Agrobacterium tumefaciensの形質転換)Agrobacteri
um tumefaciensを250μg/mlのストレプトマイシンと50
μg/mlのリファンピシンを含む培地中、28℃で培養しNa
gelら(上記の文献)の方法に従って、細胞培養液を調
製し、発現ベクター(pM65またはpM66)をエレクトロポレ
ーションにより上記細菌に導入した。
【0056】なお、CaMV35SプロモーターにGUS(グルク
ロニダーゼ)遺伝子を接続したプラスミド(35S−GUS)、
およびCaMV35SプロモーターにPOX(イネパーオキシダー
ゼ)遺伝子(伊藤ら、Plant Cell Reports 13:361−366
(1994))を接続したプラスミド(35S−POX)を用いて、同
様に形質転換を行い、形質転換効率を比較した。
【0057】(タバコの形質転換)上記方法でプラスミ
ドpM65またはpM66で形質転換されたAgrobacteriumを
得、YEB培地(DNA cloning第2巻78頁)で振とう培養した
後、減菌水で20倍に希釈し、タバコ(Nicotiana tabacum
cv. Samsun NN)の葉片を共存培養した。2〜3日後、
抗生物質を含む培地で上記細菌を除去し、2週間ごとに
選択培地で継代し、形質転換したタバコ細胞を選抜し、
常法により再生させた結果、ヒトbcl−xL遺伝子(pM65)
を有するカナマイシン耐性の20個体、および線虫ced−9
遺伝子(pM66)を有するカナマイシン耐性の29個体の独立
した形質転換個体を得た。また、プラスミド(35S−GUS)
では20個体、プラスミド(35S−POX)では、47個体がカナ
マイシン耐性であった。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】細胞死抑制遺伝子が導入された形質転換体
は、非常に高率(97%以上)で目的の遺伝子(bcl−xLまた
はced−9)を有していた。この結果は、後述するPCRで
も確認された。一方、細胞死抑制遺伝子が導入されてい
ない形質転換体は、70%程度しか目的の遺伝子(GUSま
たはPOX)を含んでいなかった。このことは、細胞死抑
制遺伝子が導入された細胞は、生存に有利であることを
示している。
【0060】(実施例4:PCR法による形質転換株の確
認)線虫ced−9遺伝子(pM66)を導入したタバコ形質転換
株から常法により全RNAを抽出し、mRNAからcDNAを合成
した。次いで、5’−CCTCTTCGTTTACACATCGC−3’(配列
番号:3)を、5’側のプライマーとして、そして、ノ
パリン合成酵素のターミネーターの配列5’−AGACCGGCA
ACAGGATTCAA−3’(配列番号:5)を3’側のプライマ
ーとして用いてRT−PCRを行った。PCR条件は、実施例2
と同じであった。得られたPCR産物をアガロースゲル上
で電気泳動し、コントロールと同じ移動度を有するDNA
断片が増幅され得るか否かを観察した。結果を図3に示
す。形質転換株における導入遺伝子の存在が確認され
た。
【0061】(実施例5:形質転換植物における細胞死
抑制遺伝子産物の発現の検出)ヒトbcl−xL遺伝子産物
の発現をウエスタンブロッティングで確認した。ヒトbc
l−xL遺伝子(pM65)を有する形質転換タバコSamsun NNお
よび野生型のSamsun NN植物それぞれの葉から採取した
直径約7mmの葉片4枚あたり、20μlの125mM Tris−H C
l(pH6.8)(0.1% SDS、20% グリセリン、28mM 2−メルカ
プトエタノール、10μg/ml ブロモフェノールブルーを
含む)で磨砕し、16,000rpmで10分間遠心を行い、上清
をタンパク質画分として回収した。このタンパク質画分
を12.5%のSDS−PAGEにかけ、Immobilion−Pメンブラン
(Milipore社製)に転写した後、ヒトbcl−xLタンパク質
に対するウサギポリクローナル抗体(MBL社製)とイン
キュベートした。このメンブランを洗浄し、アルカリホ
スファターゼ結合抗ウサギIgG抗体(1:1000、KPLラボラ
トリー社製)と反応させ、BCIPおよびNBTを基質として発
色させた。結果を図4に示す。形質転換株におけるヒト
bcl−xLタンパク質の発現が確認された。
【0062】(実施例6:形質転換植物におけるノーザ
ンブロッティングよるRNAの検出)ced−9遺伝子の組換
え植物での発現をノーザンブロッティングにより確認し
た。常法により、再生したタバコの葉から全RNAを抽出
し、アガロースホルムアルデヒドゲルでの電気泳動の
後、Hybond−Nメンブラン(Amersham社製)にブロット
し、導入遺伝子に対応するDNA、例えば、ced−9もしく
はbcl−xLのcDNAをハイブリダイズプローブとして、目
的とするmRNAを検出した。結果を図5に示す。形質転換
株における導入遺伝子の発現が確認された。
【0063】(実施例7:形質転換植物におけるUV抵抗
性の獲得)実施例6の方法によって、細胞死抑制遺伝子
の発現が確認された形質転換タバコの中から、ヒトbcl
−xL遺伝子を有する品種(M65−21)、および線虫ced−
9遺伝子を有する品種(M66−30)を選択し、UV抵抗性の
検討を行った。UV照射処理は、東芝UV−Bランプを用い
て、上述した条件で行った。
【0064】まず、野生型タバコ株に、フィルターをか
けたUV−B、およびフィルターをかけていないUV−Bを照
射したところ、フィルターをかけたUV(290−360nm)を照
射したときよりも、直接UV(260−360nm)を照射したとき
の方がUVに対する感受性が高いことがわかり、UV−CがU
V−Bの有害な効果を増強すると考えられた。
【0065】フィルターをかけていないUV−Bを用い
て、M65−21(bcl−xL)、M66−3 0(ced−9)および野生株
の自殖次世代植物の、播種後4週目の葉、12週目の葉
片、および幼若苗を処理した。形質転換タバコおよび野
生型タバコ株(コントロール)を10日間、UV−B(25kJ/
m2)に曝した。処理の4日目または5日目には、視覚的
に何の変化もみられなかった。野生型は7日目あるいは
8日目には、しおれ、最終的には枯死したが、形質転換
株M65−21(bcl−xL)およびM66−30(ced−9)は変化を示
さないか、やや形態的に損傷を受けているように見える
程度であった。図6に結果を示す。図6aは、播種後4
週目の葉および12週目の葉片を10日間UV−B処理したも
のである。図6bは、幼若苗を10日間、UV−B照射したも
のである。この結果は、形質転換株はUV−Bに対して抵
抗性を獲得していることを示しており、自然界における
UV照射に対しても抵抗性を獲得することが期待される。
【0066】(実施例8:形質転換植物におけるクロロ
フィルの分解阻害効果)実施例7と同様に、フィルター
をかけていないUV−Bを用いて、M65−21(bcl−xL)、M66
−30(ced−9)および野生株の12週目の葉片を、10日間、
U V−B(32kJ/m 2)に曝した。UV−B処理後に、N,N−ジ
メチルホルムアミドを用いて処理葉からクロロフィルを
抽出して、Borraら(Biochemica et Biophysica Acta 97
5:384−394(1989))の方法で測定した。すなわち、クロ
ロフィルaは、式:13.43×(663.8nmにおける吸光度)−
3.47×(646.8nmにおける吸光度)で、クロロフィルb
は式:22.9×(646.8nmの吸光度)−5.38×(663.8nmに
おける吸光度)により算出し、クロロフィルa+bの含量を
測定した。さらに、UV−B(126kJ/m2)でも処理を行っ
た。この場合、3日目で葉片が褐色化したので、処理は
2日間とした。結果を図7に示す。いずれの処理におい
ても、形質転換株M65−21(bcl−xL)およびM66−30(ced
−9)では、クロロフィルが分解されずに残存していた。
【0067】(実施例9:形質転換植物におけるパラコ
ート(商品名)耐性)パラコートは、クロロプラスト中
でスーパーオキシドとフリーラジカルを発生する除草剤
である。形質転換タバコM65−21(bcl−xL)およびM66−3
0(ced−9)は、ともに、クロロフィル分解に対して抵抗
性を示したので、パラコートに対しても抵抗性を有する
と考えられた。そこで、0−100μMのパラコート溶液中
に円形に切り取ったタバコ葉片を浸漬し、24時間光照射
し、実施例8と同様にして、クロロフィルを抽出して、
クロロフィルaの濃度を測定した。結果を図8に示す。
形質転換タバコ株M65−21(bcl−xL)およびM66−30(ced
−9)は、共に、パラコートに対して抵抗性を示した。
【0068】(実施例10:形質転換タバコにおける耐
塩性の獲得)細胞死抑制遺伝子の発現が確認された形質
転換タバコの中から、ヒトbcl−xLを有するM65−21品
種、および線虫ced−9遺伝子を有するM66−30品種を選
択し、耐塩性を検討した。
【0069】(A)カナマイシン50μg/mlを含む寒天培
地にM65−21−2(M65−21の自殖次世代)の種子、M65
−30−3(M65−30の自殖次世代)の種子、およびコント
ロールとして35S−GUSの種子を播種した。播種の2ヶ月
後の芽生えを寒天培地より注意深く抜きとり、根に付着
した寒天を洗浄により取り除いた。次いで、それぞれの
芽生えを、2.2mlの水、0.1、0.15、0.20M NaCl溶液を
含有する、2mlのエッペンドルフチューブ(フタは切り
取る)に、根が水溶液中に浸るように1本ずつさしてチ
ューブ立てに並べた。これを透明なアクリル製の箱に入
れ、25℃、3000lux(16時間/日)の光照射下において耐
塩性の検定を行った。
【0070】またコントロール植物として、非形質転換
タバコ(野性型タバコ株)をカナマイシンを含まない寒
天培地に播種して使用することも行った。
【0071】(1)経時的に、各処理個体の重量を測定
することにより、定量的な耐塩性の評価を行った。図9
に結果を示す(グラフは5個体の平均値を表す)。
【0072】水処理(0M)の場合でも、移した1日後
に芽ばえ植物の重量は減少したが、これは、芽生え植物
を密閉したシャーレ中から外気に出してチューブ培養に
移したためと考えられた。その後、水処理の芽生え植物
の重量は、ゆるやかに増加する傾向がみられた。
【0073】野性型タバコでは、0.1M NaCl処理により
明らかに個体重量が減少し、0.2MNaCl処理ではさらに
減少した。
【0074】これに対して、形質転換株M65−21−2(b
cl−xL)およびM66−30−3(ced−9)では、0.1M NaC
l処理による重量減少はほとんど認められず、0.2M NaC
l処理によっても重量の減少程度は、野生型株に比べて
抑制された。
【0075】(2)全く同じ条件で、コントロールとし
て35S−GUS植物を用いた場合も野生型タバコを用いた場
合と同様の結果が得られた。処理3日後の芽ばえの状態
を撮影した(図10)。35S−GUS植物では高塩濃度下で
植物全体に障害が出ており、葉がしおれ、根の生長が止
まったのに対して、形質転換タバコではその障害の受け
方がコントロール植物に比べて軽微であった。
【0076】(3)この実験において障害を受けた葉の
面積を実体顕微鏡下で観察した。図11に、障害を受け
た葉の面積の割合を示すグラフを示す。M65−21植物が
0.1MNaClによってほとんど影響を受けなかったことを
含めて、これらの形質転換タバコがコントロール植物に
比べて、耐塩性を有することも示された(図11)。
【0077】(4)(1)〜(3)の実験で用いたもの
と同じ芽生え(播種2ヶ月後の芽生え)を、カナマイシ
ンを含まない寒天培地に移植した。移植3日後に、試験
区においては、培地の最終的なNaCl濃度が0.2Mになる
ようにNaCl水溶液を加え(NaCl処理区)、対照区におい
ては代わりに同容量の水を加えて(NaCl非処理区)、そ
の後の植物の生長の様子を観察した。移植の20日後、Na
Cl非処理区においては、35S−GUS植物および形質転換タ
バコは両方とも順調に生育し、緑色の葉を展開した(図
12右)。一方、NaCl処理区においては、全体に生育が
阻害された(図12左)。
【0078】しかし、NaC l処理区において、形質転換
タバコは、コントロールの35S−GUS植物に比べて明らか
に塩障害の受け方が少なかった。コントロールの植物の
葉は全て黄化し、白変化の兆候が観察されたのに対し
て、形質転換タバコは、20日間の塩処理にも耐性であ
り、そして緑色を保っている葉が多く観察された。
【0079】(B)上記に加えて、バーミキュライトで
生育させた、草丈30〜40cmのタバコ植物の茎を切断し、
NaCl水溶液を茎から吸収させる方法によっても耐塩性を
検定した。さらに処理植物の下位葉に含まれるNa+およ
びCl-濃度を定量することにより、耐塩性の機構を解析
した。
【0080】鉢植えした、野生型タバコならびに形質転
換タバコM65−21−2およびM66−30−3の茎を植物体の
下部(根より約7cm上)で切断し、茎切断部を下にして
300mlの0.2M NaCl水溶液(または、コントロールとし
て300mlの水)を入れた500ml三角フラスコにつけて、25
℃、3000lux(16時間/日)に9日間保った。9日後、野
生型タバコは、葉の黄化が甚だしく、下位葉が水浸状に
なって離層が形成されやすく落葉する傾向が観察され
た。これに比較して、形質転換タバコM65−21−2およ
びM66−30−3は、外見上明らかに、より健全であり、
しかも下位葉の離層形成は進行しなかった(図13)。
【0081】これらの植物から下位葉を採集し、葉柄部
を含む全葉を蒸留水と共に磨砕し、そして10,000×gに
て、15分間、遠心分離した。得られた上澄液について、
そのイオン伝導率およびNa+およびCl-含量を測定した。
【0082】電気伝導度検出器シマツCDD−6Aを用い
て、電気伝導度を測定した。上澄液100μlを検出器に注
入し、表示された測定値μS/cmをセル定数(25)で割っ
た値を電気伝導度S(シーメンス)とした。
【0083】Na+濃度についてはダイオネクス イオンク
ロマトグラフDX−100を用いるダイオネクスCS12Aカラム
にて、Cl-濃度についてはダイオネクス イオンクロマト
グラフ2000iを用いるダイオネクスAS4Aカラムにて定量
した。
【0084】イオン伝導率について解析した結果を表2
に示す。NaClの代わりに水を吸収させた植物(コントロ
ール)に比べて、0.2M NaClを吸収させた植物の下位葉
は、いずれもより高い濃度の電解質を含んでいた。特に
野生型タバコ株SNN(2株)では、水を吸収させた場合
に比べて、146%および113%の電解質含量の増加が検出
された。これに対して形質転換タバコの下位葉に含まれ
る電解質含量は、野生型タバコSNNに比べて明らかに少
なく、水を吸収させた植物が有する元来の電解質含量に
比べて、せいぜい37%から78%増加したのみであった。
このことから、形質転換タバコは、吸収したNaClを葉組
織から何らかの機構で排出しているか、またはもともと
NaClを取り込みにくいことが考えられる。
【0085】さらにNa+およびCl-濃度を測定した結果、
コントロールのSNNタバコにおいては、新たに下位葉に
蓄積したNa+濃度が、水を吸収させた植物の6〜8倍に
もなったが、形質転換タバコでは、このNa+濃度が、か
なり低く抑えられ、特にM66植物においては、水を吸収
させた植物の2〜3倍にしかならないことが明らかにな
った(表2)。Cl-についてもまた、すべてに対して同
様の結果が得られた(データは示さず)。
【0086】
【表2】
【0087】これらの結果は、動物の細胞死抑制遺伝子
産物を過剰発現しているこれらの植物が、過剰なNa+
よびCl-の蓄積を防ぐことにより、耐塩性を示すことを
示唆している。
【0088】(6)耐塩性機構をさらに明らかにするた
めに、M65−21植物の葉の細胞内顆粒を分画遠心分離に
よって単離し、Bcl−xLタンパク質の局在性を調べた。
図14にウェスタンブロット解析による結果を示す。
【0089】これらの結果から、タンパク質レベルでミ
トコンドリア画分にこのタンパク質の大部分が局在する
ことが明らかになった。
【0090】動物においては、これら細胞死抑制遺伝子
産物が、ミトコンドリア膜に存在し、そしてミトコンド
リアの機能障害を防ぐことにより、細胞死を抑制してい
ると考えられている。本実施例で得られた実験結果は、
植物においても動物由来の細胞死抑制タンパク質が機能
し、UV耐性およびパラコート耐性のみならず耐塩性をも
付与することを示している。その機構としては、ミトコ
ンドリアなどの細胞内顆粒のストレス処理による機能障
害の保護などが考えられる。
【0091】
【発明の効果】細胞死抑制遺伝子が導入された植物は、
UVに対する抵抗性、スーパーオキシド発生型除草剤に対
する抵抗性、および塩ストレスに対する抵抗性を獲得し
得る。本発明により、種々のストレスに対して抵抗性を
有する農業上および育種上有用な植物が提供される。さ
らにストレス抵抗性を植物に付与する方法が提供され
る。
【0092】
【配列表】 配列番号:1 配列の長さ:30 配列の型:核酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:プライマー 配列 TTGAATTCGA GATGACACGC TGCACGGCGG 30
【0093】 配列番号:2 配列の長さ:30 配列の型:核酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:プライマー 配列: GGGAATTCGT TACTTCAAGC TGAACATCAT 30
【0094】 配列番号:3 配列の長さ:20 配列の型:核酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:プライマー 配列: CCTCTTCGTT TACACATCGC 20
【0095】 配列番号:4 配列の長さ:15 配列の型:核酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:プライマー 配列: ACAAGGAGAT GCAGG 15
【0096】 配列番号:5 配列の長さ:20 配列の型:核酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:プライマー 配列: AGACCGGCAA CAGGATTCAA 20
【0097】 配列番号:6 配列の長さ:30 配列の型:核酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:プライマー 配列 ATGTCTCAGA GCAACCGGGA GCTGGTGGTT 30
【0098】 配列番号:7 配列の長さ:30 配列の型:核酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:プライマー 配列: TCATTTCCGA CTGAAGAGTG AGCCCAGCAG 30
【図面の簡単な説明】
【図1】出発ベクターpBE 2113の構造を示す図である。
【図2】ヒトbcl−xL遺伝子を有するプラスミド(pM65)
および線虫ced−9遺伝子を有するプラスミド(pM66)の模
式図である。
【図3】形質転換植物(M66)における導入遺伝子の存
在を確認したRT−PCRの結果を示す電気泳動写真であ
る。Cはコントロールを示し、そして上部の各番号は形
質転換植物の個体番号を示す。
【図4】動物の細胞死抑制遺伝子が導入された植物(M6
5)におけるヒトbcl−xL遺伝子産物の発現を、ウエスタ
ンブロット解析の結果を示す電気泳動写真である。抗体
として、抗bcl−xL抗体を使用した。Cはコントロール
を示し、そして上部の各番号は形質転換植物の個体番号
を示す。
【図5】形質転換植物(M66)において線虫ced−9遺伝
子が発現していることを確認したノーザンブロット解析
の結果を示す電気泳動写真である。Cはコントロールを
示し、そして上部の各番号は形質転換植物の個体番号を
示す。
【図6】動物の細胞死抑制遺伝子が導入された植物がUV
抵抗性を獲得したことを示す生物の形態を示す写真であ
る。図6aは、4週目の葉および12週目のUV処理した葉片
を示し、図6bは、10日間UV−B処理した幼若苗を示す。
【図7】動物の細胞死抑制遺伝子が導入された植物のク
ロロフィル含量がUV照射後も減少しにくいことを示す図
である。
【図8】動物の細胞死抑制遺伝子が導入された植物が、
パラコート耐性を獲得したことを示す図である。
【図9】動物の細胞死抑制遺伝子が導入された植物(M6
5−21およびM66−30)、および野生型タバコの塩ストレ
ス下における重量変化を示す図である。
【図10】各塩濃度での処理3日後の、動物の細胞死抑
制遺伝子が導入された植物(M65−21およびM66−30)お
よび35S−GUS植物の芽生えの状態を示す生物の形態を示
す、生物の形態を示す写真である。
【図11】動物の細胞死抑制遺伝子が導入された植物
(M65−21およびM66−30)、および35S−GUS植物(コン
トロール)の、障害を受けた葉面積の割合を示す図であ
る。
【図12】芽生えの移植20日目後の、動物の細胞死抑制
遺伝子が導入された植物(M65−21およびM66−30)およ
び35S−GUS植物の塩ストレス(0.2M NaCl)下における
状態を示す、生物の形態を示す写真である。コントロー
ルとして、塩の代わりに水を加えたものを用いた。動物
の細胞死抑制遺伝子が導入された植物が、耐塩性を獲得
したことが示される。
【図13】鉢植えした野生型植物(コントロール)およ
び動物の細胞死抑制遺伝子が導入された植物(M65−21
およびM66−30)の茎を切断し、0.2M NaClの環境下に
置いた、9日後の各植物の状態を示す、生物の形態を示
す写真である。動物の細胞死抑制遺伝子が導入された植
物が、耐塩性を獲得したことが示される。
【図14】形質転換植物の細胞内における、Bcl−xLタ
ンパク質の局在性を確認した、ウエスタンブロト解析の
結果を示す電気泳動写真である。Bcl−xLタンパク質
が、ミトコンドリア画分に局在することが示される。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 カマル エイ.マリク 茨城県つくば市観音台2丁目1−2 農林 水産省 農業生物資源研究所内 Fターム(参考) 2B030 AD04 CA15 CA17 CA19 4B024 AA08 BA80 CA04 DA01 EA04 GA11 HA12 4B065 AA88X AA89X AA90Y AB01 AC14 CA24 CA53

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 細胞死抑制遺伝子が導入されたストレス
    抵抗性植物であって、ここで該細胞死抑制遺伝子がBc
    l−2ファミリーのメンバー以外の細胞死抑制遺伝子で
    あって、細胞死抑制活性を有するペプチドをコードする
    遺伝子である、ストレス抵抗性植物。
  2. 【請求項2】 前記ストレスがUVである、請求項1に
    記載のストレス抵抗性植物。
  3. 【請求項3】 前記ストレスがスーパーオキシド発生型
    除草剤である、請求項1に記載のストレス抵抗性植物。
  4. 【請求項4】 前記ストレスが塩ストレスである、請求
    項1に記載のストレス抵抗性植物。
  5. 【請求項5】 細胞死抑制遺伝子を植物細胞に導入する
    工程であって、ここで該細胞死抑制遺伝子がBcl−2
    ファミリーのメンバー以外の細胞死抑制遺伝子であっ
    て、細胞死抑制活性を有するペプチドをコードする遺伝
    子である、工程;および該遺伝子が導入された植物細胞
    を植物体に再生する工程を含む、ストレス抵抗性植物の
    作出方法。
  6. 【請求項6】 前記細胞死抑制遺伝子が植物発現ベクタ
    ーに組み込まれている、請求項5に記載の方法。
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