JP2002068916A - 昆虫の休眠卵誘導剤およびその休眠卵産出方法 - Google Patents

昆虫の休眠卵誘導剤およびその休眠卵産出方法

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JP2002068916A JP2000261112A JP2000261112A JP2002068916A JP 2002068916 A JP2002068916 A JP 2002068916A JP 2000261112 A JP2000261112 A JP 2000261112A JP 2000261112 A JP2000261112 A JP 2000261112A JP 2002068916 A JP2002068916 A JP 2002068916A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 昆虫(例えば、カイコ)の休眠卵を産出
させる機能を持つと共に、生体の生理状態を攪乱させる
ことのない昆虫(例えば、カイコ)の休眠卵誘導剤およ
び該休眠卵の産出方法を提供すること。 【解決手段】 配列表の配列番号1に示すアミノ酸配
列、Glu-Asn-Phe-Ala-Gly-Gly-Cys-Ala-Thr-Gly-Phe-Me
t-Arg-Thr-Ala-Asp-Gly-Arg-Cys-Lys-Pro-Thr-Phe-を有
し、C末端が遊離酸化され、分子量が2435.73である昆虫
麻酔性ペプチドを有効成分として含有する。該ペプチド
は、カイコなどの昆虫に対して休眠卵誘導作用を有す
る。該ペプチドをカイコなどの昆虫に投与して、休眠卵
を製造することができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、昆虫の休眠卵誘導
剤およびその休眠卵産出方法に関し、特にカイコ用休眠
卵誘導剤およびカイコ休眠卵産出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】昆虫由来で、いわゆる生体防御物質とし
て知られている抗菌性ペプチドは、200種類以上にもお
よび、それらの多くが単離され、構造決定されている。
本明細書では、野蚕およびカイコの休眠誘導機能を持つ
生理活性物質であるタンパク質を対象とするため、以
下、昆虫の休眠を誘導する機能を有する物質を中心に説
明し、発明の背景の理解が容易になるようにする。
【0003】従来から、昆虫の麻痺性ペプチドは知られ
ている。この麻痺性ペプチドという用語は、活性画分を
生体外から注射することにより、体の全体または一部分
が収縮し、麻痺性行動を惹起するような活性ペプチドの
総称として用いられている。近年、これらの既知ペプチ
ドにおいて、麻痺性活性以外に、生体防御系に関与する
活性が見出されたことから、生体内では多機能性がある
と考えられるようになり、昆虫ペプチドの中でも注目さ
れるようになっている。
【0004】「麻痺性ペプチド」、「休眠制御物質」と
いうように、本明細書では同一の物質でありながらも異
なる用語で用いられる場合があるため、以下、これらの
用語の定義をする。
【0005】従来、昆虫由来の麻痺性ペプチドファミリ
ーとしては10種類が知られていた。最近、天蚕の5齢幼
虫体液から単離同定された天蚕麻痺性ペプチド(Seino,
A. etal., J. Seric. Sci. Jpn., 67, 473-478, 1998.)
が、その一次構造のアミノ酸配列と麻痺性の生理活性と
から、新にこのファミリーに加えられた(Strand, M.R.
et al., J. Insect Physiol., 46, 817-824, 2000)。従
って、本明細書では、天蚕由来の麻痺性ペプチドは、昆
虫由来の麻痺性ペプチドファミリーの一つとして位置付
けて説明する。しかし、前記Seinoらは、ペプチドを単
離・同定し、それが麻痺性機能を持つことを既に明らか
にしているので、混乱をさけるために、本明細書では、
このペプチドを「天蚕麻痺性ペプチド」の代わりに「休
眠制御物質」と呼ぶこともある。
【0006】昆虫の生理活性ペプチドの中で、麻痺性ペ
プチドファミリーと呼ばれているものには、例えば、以
下のものがある。すなわち、ヨトウガの1種からのプラ
ズマ細胞拡散ペプチド(Clark K. D et al., J. Biol.
Chem., 272, 23440-23447, 1997)、アワヨトウからの発
育阻害ペプチド(Hayakawa, Y., J. Biol. Chem., 266,
7982-7984, 1991)、ヨトウガとハスモンヨトウからの
発育阻害ペプチド(Hayakawa and Ohnishi, Biochem. a
nd Biophys. Res. Commun., 250, 194-199, 1998)、タ
バコスズメガ・タバコガ・シロイチモンジヨトウからの
麻痺性ペプチド(Skinner W. S. et al., J. Biol. Che
m., 266, 12873-12877, 1991)、ウワバの1種からの麻痺
性ペプチド(Skinner W. S. et al., Biochem. Physio
l., 104C, 133-135, 1993)、ヨトウガの1種からの心縮
性ペプチド(Furuya et al., Peptides, 20, 53-61, 19
99)、そしてカイコからの麻痺性ペプチド(Ha et al.,
Peptides, 20, 561-568, 1999)が知られている。
【0007】これまでに知られている昆虫麻痺性ペプチ
ドファミリーの中で、麻痺性機能が最も大きいものとし
て、配列番号1に示すアミノ酸配列を持つ天蚕由来の麻
痺性ペプチドである休眠制御物質がある。そのため、本
明細書では、配列番号1に示すペプチドを天蚕の休眠制
御物質と略記することもある。
【0008】19世紀に、養蚕のための実用的な孵化技術
として塩酸を用いてカイコ卵を孵化させる、いわゆる
「塩酸孵化法」が確立されているが、孵化メカニズムの
詳細は現在に至っても未だ明らかにされていない。ま
た、天蚕の人工孵化法が開発されたものの、その分子機
構は全く解明されていない。本発明者らが進めているカ
イコの生理活性蛋白質の開発は、昆虫における人工孵化
機構を解明するための糸口となるだけでなく、下記に述
べるように表裏一体の関係にある長期低温の機構解析へ
の道をも切り拓くことになる。
【0009】昆虫のみならず温帯地方に生息する多くの
休眠する生物にとって、長期低温順化機構は、生物にお
ける人工孵化機構を解明することと表裏一体の関係にあ
るものであり、重要な生活史調節のための環境シグナル
になっている。植物種子の春化機構もその1つの例であ
るといえる。短期低温順化や長期低温順化に関し、分子
レベルからみた低温刺激について、最近活発に研究され
ている。植物界においては各種のcDNAが決定されるよう
になり、推定アミノ酸配列から、RNA結合タンパク質、
伸長因子、あるいは耐凍タンパク質などが重要な働きを
持つものと考えられている。しかし、長期低温順化によ
る生体反応および、休眠覚醒を決定的に説明する遺伝子
とタンパク質は未だ発見されていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】ところで、インド、ベ
トナム、タイなどの主要な生糸生産国では、年中桑が栽
培でき、しかもカイコの品種が卵で休眠しない非休眠系
統で育成されている。従って、一年中、次ぎから次ぎへ
とカイコ飼育に追われている。しかし、いかに南方と言
えども、1〜3月には桑の生育状況が悪く、しかも蚕室を
消毒する期間を設定することも困難であることから、1
〜3月の生産量は少なく、品質も低下する上、これが原
因となり次ぎのカイコ飼育にも悪影響を及ぼしている。
この悪循環を克服するためにカイコ飼育を一旦停止しな
ければならないが、これらの国のカイコは非休眠系統で
あり、休眠できない。このことが、カイコを飼育し、生
糸を製造する蚕糸業において大きな問題となっており、
これらの国のカイコ品種を休眠させる技術が強く求めら
れてきた。しかるに、昆虫由来の生理活性物質であっ
て、カイコの休眠を制御でき、その結果、休眠卵を産出
させることができるような新規物質の歴史は浅く、新規
物質に関する知識は少なく、未だ満足すべき物質は得ら
れておらず、有用な休眠卵誘導物質の開発が望まれてい
る。
【0011】上記したように、休眠・発育・変態を誘導
する物質の機能については次第に明らかにされてきた。
本発明者らは、すでに単離・構造決定した天蚕の麻痺性
ペプチドもまた休眠・発育・変態の機構を解析する上
で、鱗翅目昆虫では重要なペプチドであると考えてい
る。これまでに発見されている昆虫の麻痺性ペプチドフ
ァミリーと呼ばれるものの中には、ヨトウガの1種のプ
ラズマ細胞拡散ペプチドのように、生体防御系に深く関
与したり、アワヨトウの発育阻害ペプチドのように、幼
虫の発育遅延ならびに蛹休眠の直接のプロモーターと考
えられているものも存在している。しかしながら、カイ
コ休眠卵を誘導する物質は未だ見出されておらず、有用
なカイコ休眠卵誘導物質の開発が望まれている。
【0012】また、上記したように、昆虫の休眠性・麻
痺性行動を制御する生理活性物質としては、ヨトウガの
1種からのプラズマ細胞拡散ペプチド、アワヨトウから
の発育阻害ペプチド、ヨトウガとハスモンヨトウからの
発育阻害ペプチド、タバコスズメガ・タバコガ・ヨトウ
ガの1種からの麻痺性ペプチド、ウワバの1種からの麻痺
性ペプチド、ヨトウガの1種の心縮性ペプチド、そして
カイコからの麻痺性ペプチドがある。しかし、これらの
従来のペプチドについては、カイコで休眠卵を産出させ
る効果はまったく報告されていないことから、カイコ休
眠ホルモン以外で、休眠卵を産出させるペプチドに関し
て、昆虫由来の生理活性物質であり、昆虫の生理状態を
攪乱させることなく、正常に保ちながら休眠卵を効率的
に生じさせる生理活性物質の出現が強く望まれている。
【0013】次ぎに、カイコの化性との関係で問題点を
説明する。これまで我が国において養蚕のために飼育さ
れてきたカイコは、2化性・多化性系統と、多収性の遺
伝的特性とが導入されている交雑種と呼ばれているもの
であり、形質表現上は、1化性である。一般に、2化性・
多化性の系統は1化性系統と比較して、多収性の能力が
劣る。しかし、2化性・多化性系統も耐病性および高温
耐性などの優れた遺伝的特性を所有することから、今日
のカイコの交雑種に原原種などとしてその特性が導入さ
れている。
【0014】一方、今日では世界的生糸生産国になって
いるインド、タイ、ベトナムなどの東南アジアを中心と
した国々のカイコの系統品種は、多化性の遺伝的特性を
有するものである。これらのカイコは、多化性系統品種
であるが故に耐病性や高温耐性に優れてはいるが、逆に
多収性に劣り、しかも飼育不適切な時期でも年中飼育を
繰り返さなければならないという問題がある。これらの
国々のカイコの系統品種の弱点を克服するためには、長
い時間を必要とする選抜育種の方法を導入するのではな
く、多化性系統の品種を随時休眠させる昆虫発育制御剤
の開発が強く望まれてきた。従って、21世紀には、中国
・ブラジルから東南アジアを中心とした地域に生糸の主
要生産がますますシフトされていくと予想されている中
で、多化性系統品種を随時休眠化できる方法が開発され
れば、生糸の世界産業レベルにおいて重要な技術になり
得ると考えられる。
【0015】本発明は、昆虫(例えば、カイコ)の休眠
卵を産出させる機能を持つと共に、生体の生理状態を攪
乱させることのない、昆虫(例えば、カイコ)の休眠卵
誘導剤およびその休眠卵産出方法を提供することを課題
とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、同一出願
人の先の出願(特願平11-152273号;特許第3023790号)
において、前幼虫休眠タイプの天蚕、マイマイガ、ウス
バシロチョウ、オビカレハ、カシワマイマイ等の鱗翅目
昆虫および直翅目昆虫を中心とした40種以上の広範な昆
虫(これらの前幼虫休眠タイプの昆虫としては、梅谷与
七郎、蚕の越冬卵より見たる昆虫の卵態越冬現象、蚕糸
試験場報告、12:393-481 (1946)およびUmeya Y., Studi
es on embryonic hibernation and diapause in insect
s,Proc.Jpn. Acad., 26,1-9 (1950)に記載されている)
に特異的かつ効率的に作用する休眠制御活性を有する生
理活性物質に関する発明について明らかにした。本発明
者らは、その後、この生理活性物質が生体細胞の効率的
な制御活性、例えば、ガン細胞の効率的な増殖抑制活性
を有するものであることを見出した。すなわち、上記先
願発明における遺伝子Any-RFは、配列表の配列番号1に
示すアミノ酸配列、Asp-Ile-Leu-Arg-Glyを有し、C末端
がアミド化されており、分子量が570.959であるタンパ
ク質をコードするものであり、本発明者らはこの生理活
性物質がガン細胞の増殖を効率的に抑制すること、ひい
ては生体細胞を効率的に制御する活性を有することを見
出して、特許出願をした(特願2000-81012号)。
【0017】本発明者らは、カイコの休眠状態を維持
し、さらに細胞制御活性を有する生理活性物質を先の出
願の主題としたが、その後、天蚕麻痺性ペプチドについ
てカイコ休眠ホルモンの機能である休眠誘導が模倣され
ていることを見出した。これは、本発明者らが先願発明
の中で述べた、休眠状態を維持する機能ではなく、あく
までも休眠ホルモンに似せた機能である。このような技
術的背景の下、本発明者らは、天蚕幼虫から単離・精製
した、カイコの休眠卵産出を誘導する物質を有効成分と
して本発明を完成するに至ったのである。
【0018】本発明の昆虫(特に、天蚕)用休眠卵誘導
剤は、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列、Glu-Asn
-Phe-Ala-Gly-Gly-Cys-Ala-Thr-Gly-Phe-Met-Arg-Thr-A
la-Asp-Gly-Arg-Cys-Lys-Pro-Thr-Phe- を有し、C末端
が遊離酸化されており、分子量が2435.73であるペプチ
ドを有効成分として含有するものである。この有効成分
は、例えば、天蚕を含む鱗翅目昆虫の体液から血球を除
き、エタノールで終濃度25%にし、遠心上清を粗抽出物
として採取し、凍結乾燥した後、乾燥物をカートリッジ
C18Sep-Pak Vacで溶出し、HPLC操作を3回繰り返すこと
により、単離精製物として得ることができる。あるいは
また、公知のペプチド合成装置を用いて公知の方法に従
って調製することもできる。
【0019】前記有効成分であるペプチドは、天蚕幼虫
体液由来の昆虫麻痺性ペプチドである。
【0020】また、本発明の昆虫用休眠卵誘導剤は、ヨ
トウガ1種のプラズマ細胞拡散ペプチドI(Psi PSP I)又
はアワヨトウ発育阻害ペプチド(Pss GBP)のいずれかを
有効成分として含有するものである。
【0021】さらに、本発明の休眠卵産出方法は、カイ
コの非休眠卵産出蛹の蛹化後72〜96時間のステージのも
のに、前記ペプチド150〜300 nmoles/蛹1頭を投与し、
該蛹を生育し、羽化した雌を雄と交尾させ、その後産卵
させて休眠卵を得ることからなる。このように、蛹の卵
黄形成期である72〜96時間のステージの蛹に該ペプチド
を適用することにより、得られる休眠卵の誘導率を60%
以上とし、未受精卵の発生率を2.5〜3%レベルより低く
することができる。なお、96時間を超えると、卵黄形成
期のステージのものが減少するので、休眠卵誘導率も低
下する。
【0022】
【発明の実施の形態】本発明者らは、上記した先願発明
において、昆虫から単離された生理活性物質が昆虫の休
眠を維持する機能のあることを明らかにした。本発明の
内容を詳細に記述するのに先立って、本発明の理解を容
易にするために、先願発明の概要を先ず繰り返し説明す
る。
【0023】先ず、天蚕・柞蚕等の野蚕一般の産業上の
特徴について述べる。天蚕(正式和名:ヤママユ、学
名:Antheraea yamamai Guerin-Meneville)は、わが国
を原産地とし、江戸時代から飼育の記録があり長い歴史
を持つこと、最近人工飼料が開発されて幼虫の飼育が容
易になったこと、農家段階で一般的に飼育されているこ
とから、飼育に関する情報が多く、しかも入手が容易で
あると共に、年1回発生し、卵で越年する。カイコ幼虫
が専ら桑の葉を食べて生長するのに対して、天蚕はクヌ
ギ、コナラ、カシワ、アベマキ等の葉を食べる。養蚕農
家が家蚕幼虫を飼育するのに対して、野生の天蚕幼虫
は、自然状態で生育する。天蚕種の孵化率は低く、繭糸
から絹糸となる割合(糸歩)は極めて少ない。また、繭
糸をとる作業が困難であるため、希少価値としての意義
がある。天蚕絹1kgの価格が20万円とも30万円ともいわ
れ、絹のダイヤモンドと呼ばれるほど希少価値があるの
はこのためである。野蚕である柞蚕絹糸の配合率が増加
した絹織物では糸の滑りが抑えられ、縫目の滑脱抵抗が
改善できる。また、野蚕の絹織物は摩擦に強いため好ん
で用いられる。そのため、将来、絹糸を生産する大型昆
虫の天蚕を利用した分野の発展が大いに期待され、それ
に伴い天蚕由来の各種機能を持つ生理活性物質を単離し
たり、生理活性物質の構造を決定する学術研究の重要性
はますます高まっている。
【0024】こうした観点から、本発明者らは、天蚕由
来の生理活性物質の研究を進めたところ、先願発明のよ
うに、休眠中の天蚕前幼虫から、アミノ酸配列が5個で
C末端が遊離酸化されたまったく新規の休眠制御物質を
単離構造決定することに成功した。この物質の生理活性
としては、天蚕前幼虫の休眠状態を維持するための機能
を有していることを明らかにすると共に、さらに、ラッ
トの肝ガン細胞の増殖を抑制するという新たな生理活性
機能をも明らかにした。このことから、天蚕由来の休眠
制御物質には広い普遍性が有り、しかも生細胞の増殖制
御剤として、応用開発のための優れたリード化合物にな
り得るものである。
【0025】また、本発明者らは、天蚕の麻痺性ペプチ
ドに関する成果を報告した(前記Seino et al., 1998)。
すなわち、天蚕休眠前幼虫の体液抽出物を前幼虫に注射
したところ、注射した部位に麻痺性活性が認められたこ
と、5齢幼虫の体液抽出物でも同様の活性が確認できた
ことを確認した。その後の研究において、5齢幼虫の体
液抽出物から活性因子を単離し、一次構造を決定した。
一次構造の決定された23残基からなるペプチド、NH2-Gl
u-Asn-Phe-Ala-Gly-Gly-Cys-Ala-Thr-Gly-Phe-Met-Arg-
Thr-Ala-Asp-Gly-Arg-Cys-Lys-Pro-Thr-Phe-COOHは、下
記に述べるように、鱗翅目の麻痺性ペプチド、プラズマ
細胞拡散ペプチド、発育阻害ペプチドと高い相同性を示
したので、麻痺性ペプチドの一種であると結論した。本
発明におけるペプチドは、鱗翅目昆虫において普遍的に
存在する可能性が高いため、カイコ(大造)の5齢幼虫
に上記アミノ酸構造を有する合成ペプチドを注射し活性
を調査したところ、同様の効果が認められた。
【0026】そこで、天蚕幼虫体液から麻痺性ペプチド
として単離し、構造決定することができたペプチド(上
記Seino et al., 1998)を、カイコの非休眠卵産出蛹に
注射したところ、休眠卵が産出された。「非休眠卵産出
蛹」とは、蛹が成虫になり、交尾後産下した卵が約10日
前後で孵化するような卵を生む雌親の蛹のことをいう。
これとは反対に、産下した卵が孵化せず、卵内で原腸胚
後期で発育を停止した状態で休眠するような卵を生む雌
親の蛹のことを以下、「休眠卵産出蛹」という。このよ
うにして休眠卵が産出されるということは、上記天蚕麻
痺性ペプチドには、これまで単離されて構造決定された
り、またはcDNAからその存在が予想されていた昆虫の麻
痺性ペプチドファミリーについて報告されている生理活
性とは全く異なる新規の生理活性があるということを示
すものである。というのは、上記したように、昆虫の麻
痺性ペプチドファミリーの生理活性機能が多様であると
いうことと共に、カイコの卵休眠を誘導するホルモンシ
ステムはすでに確立されたものであるが、本発明の場合
は、以下説明するように、従来の麻痺性ペプチドとは全
く類似性のないアミノ酸配列から構成されているホルモ
ンで誘導されているからである。
【0027】カイコの麻痺性行動は、カイコ麻痺性ペプ
チドや天蚕麻痺性ペプチドにより誘導される。しかし、
カイコの卵休眠という現象は、この麻痺性行動とはまっ
たく異なっており、カイコ独特のホルモンシステムで説
明されている。カイコの卵休眠の場合は、雌蛹の食道下
神経節から休眠ホルモンが分泌され、それが卵巣に作用
すれば、産下した卵は原腸胚後期で発育停止し、休眠が
スタートする。この休眠ホルモンは、24個のアミノ酸か
らなりN末端がアミド化されている分子量2645のペプチ
ドであると報告されている(Imai, K. et al., Proc. Ja
pan Acad., 67(B), 98-101, 1991.)。このペプチドホル
モン1.5 ngを非休眠卵産出蛹(この場合、N4という非休
眠系統が使用されている)に注射したところ、20%の休
眠卵が生産された(前記Imai et al., 1991)。カイコの
休眠ホルモンのトレハレース活性化機構および休眠誘導
機構からして、このホルモンがカイコの真の休眠誘導の
ためのペプチドであるということは疑う余地が無い。
【0028】一方、公知の休眠ホルモンを用いることな
く、全く別の化学合成物質によりカイコの非休眠卵産出
蛹から休眠卵を産出させることも可能である。例えば、
Na+-K+-ATPaseを特異的に阻害するウアバインを蛹化1〜
3日目の非休眠卵産出蛹(N4と大造系統を使用)に10〜2
0 nmolesを経皮を通して注射すると、約70%の休眠卵が
産出されることが知られている。休眠ホルモンの分泌器
官である食道下神経節を予め摘出しておくと、休眠卵を
産出することはないので、この現象はウアバインが中枢
神経系に作用し、食道下神経節から休眠ホルモン分泌を
促進した結果であると考えられる。
【0029】また、本発明者らは、カイコの休眠ホルモ
ンとは機能も構造も全く異なる生理活性物質である天蚕
由来の「天蚕麻痺性ペプチド」を非休眠卵産出蛹に注射
することにより、カイコの休眠卵が産出され得ることを
見出し、本発明の休眠卵産出方法を開発するに至った。
また、休眠ホルモンの分泌センターである食道下神経節
をカイコ体内から予め摘出除去しておくことにより、同
様にカイコの休眠卵を産出できることも確認した。この
ことは、天蚕麻痺性ペプチドはウアバインとは違って、
カイコ休眠ホルモンと同じ機能を有する生理活性物質で
あることを実証するものである。また、昆虫の麻痺性ペ
プチドファミリーが多様な機能を有することを指摘する
ものでもあり、将来、害虫および有益昆虫の発育・変態
・休眠・生殖を制御する新しい成長制御剤の開発のため
には極めて重要なリード化合物になり得る可能性を示唆
するものである。すなわち、カイコの休眠ホルモンはカ
イコの卵休眠誘導のみにしか作用しないが、天蚕の麻痺
性ペプチドは、麻痺行動、血球細胞拡散機能、幼虫発育
遅延機能、心縮性機能を誘発し、しかも本発明で見出さ
れたカイコでの休眠卵産出という新しい機能まで有して
いることを示すものである。
【0030】以上のことから、本発明の生理活性物質、
または合成した天蚕麻痺性ペプチドは、カイコの休眠卵
を安定して産出するための技術開発に役立つことがわか
る。また、このペプチドをリード化合物とすれば昆虫成
長制御剤を開発するためにも役立ち、さらに多くの生物
に普遍的である休眠という現象を、タンパク質の高次構
造ならびにレセプターとの分子機構から解明するために
も有効である。かくして、天蚕麻痺性ペプチドは有用な
昆虫ペプチドといえる。
【0031】なお、以下の実施例で用いる天蚕麻痺性ペ
プチドおよびその他の公知昆虫麻痺性ペプチドファミリ
ーは、以下のアミノ酸配列を有する。
【0032】 上記アミノ酸配列において、天蚕麻痺性ペプチドAny Pa
rPと異なるアミノ酸配列の場合、その部分のアミノ酸に
アンダーラインを引いてある。
【0033】また、カイコ休眠ホルモン(Bom DH)のアミ
ノ酸配列は次の通りである。
【0034】 上記したように、天蚕麻痺性ペプチド(Any ParP)の場合
は、N末端から12番目のアミノ酸がメチオニンであり、
このメチオニンがリジンに置換しているのがカイコ麻痺
性ペプチド(Bom ParP)およびタバコスズメガ麻痺性ペプ
チドII(Mas ParPII)である。カイコ麻痺性ペプチド(Bom
ParP)はまた、4番目のアミノ酸がアラニン(Any ParPの
場合)からバリンに置換している。さらに、カイコ休眠
ホルモン(Bom DH)のアミノ酸配列はN末端から19番目の
アミノ酸が唯一システインであるということ以外、昆虫
麻痺性ペプチドファミリーとの相同性はほとんどない。
【0035】上記天蚕麻痺性ペプチド(学名と生理機能
の略字からAny ParPと略記され、以後略字を使用するこ
ともある)、カイコ麻痺性ペプチド(Bom ParP)、タバ
コスズメガ麻痺性ペプチドII(Mas ParPII)、ヨトウガ1
種のプラズマ細胞拡散ペプチドI(Psi PSPI)、アワヨト
ウ発育阻害ペプチド(Pss GBP)、ヨトウガ1種の心縮性
ペプチド(Spe CAP)を定法に従って合成し、以下の実施
例で用いた。
【0036】本発明における麻痺性ペプチドは、以下の
通り公知の投与法で適用できる。2化性系統大造の非休
眠卵産出蛹の蛹化後80〜85時間のステージのものを使用
した。その理由は、実験のためには生理活性物質の標的
器官である蛹卵巣に存在している最適感受ステージを選
択することが最適だからである。天蚕麻痺性ペプチド15
0 nmolesを30μlの滅菌蒸留水に溶解し、これを腹部の
第2と第3の関節間膜の背面に注射したものを実験区とし
た。また、カイコ休眠ホルモンの分泌器官である食道下
神経節には、非休眠卵産出蛹といえども休眠ホルモンが
合成・蓄積されているので、安全のためにこの器官を蛹
化後24時間以内に予め摘出しておいたものについても同
様に注射し、実験区とした。天蚕麻痺性ペプチドは常時
滅菌蒸留水に溶解して用いるので、滅菌蒸留水30μlを
腹部の第2と第3の関節間膜の背面に注射したものを対照
区とした。注射部位としては、この部位に限定されるこ
とはないが、多量の出血を避けるため背脈管への注射は
好ましくない。背脈管以外であればどの部位であっても
良い。通常、天蚕麻痺性ペプチド150〜300 nmolesを1頭
当たり30μlの滅菌蒸留水に溶解したものを注射すると
よい。こうすることで、休眠卵の誘導率を60%以上と
し、未受精卵の発生率も2.5〜3%レベルに抑えることが
できる。天蚕麻痺性ペプチドの投与量が150 nmoles未満
であると、休眠卵の誘導率は低くなり、また、300 nmol
esを超えると未受精卵率が高くなるという問題がある。
【0037】本発明の休眠卵誘導剤をカイコに投与する
方法は、上記注射以外に、生体内に投与できる方法であ
れば手段を選ばない。例えば、粉末状態の休眠卵誘導剤
をカプセル化し、これを蛹に埋め込み体内で溶出させる
方法でもよい。
【0038】カイコ休眠ホルモンと本発明における天蚕
由来の麻痺性ペプチドとを比較し、天蚕麻痺性ペプチド
の特徴を以下述べる。カイコ休眠ホルモンおよび天蚕麻
痺性ペプチドによりカイコの休眠卵を産出する活性(以
下、カイコ休眠卵産出活性と略す)をペプチド濃度で比
較すると、カイコの休眠卵誘導のためには、天蚕麻痺性
ペプチドは、カイコ休眠ホルモンよりも約790倍の高濃
度を投与しないと休眠卵が産出しない。例えば、合成し
たカイコ休眠ホルモンで約50%の休眠卵を得る濃度は、
1頭の非休眠卵産出蛹に0.19 nmoles (約0.5μgに相
当)の注射で十分であるが、天蚕麻痺性ペプチドの場合
は、少なくとも150 nmoles (約366μgに相当)が必要
である。カイコにおける休眠卵の誘導のために、天蚕麻
痺性ペプチドの方が高い濃度を必要とするということ
は、真の休眠ホルモンの活性と、そうでない生理活性ペ
プチドによる活性との違いによるものに過ぎない。この
場合、カイコ休眠ホルモンでは9.3%の未受精卵の発生
があるが、天蚕麻痺性ペプチドでは2.5%の未受精卵し
か発生しなかった。
【0039】カイコの非休眠卵産出蛹に対する休眠ホル
モンの投与量を高めていくと、未受精卵の発生が多くな
り、天蚕麻痺性ペプチド並の高濃度(1頭当たり38 nmol
esで、約100μgに相当)で注射すると、休眠誘導率は42
%レベルまで減少し、しかも未受精卵が43%も発生す
る。このことは、カイコでは真の休眠ホルモンであるが
故に、これを高濃度で使用すると生体内毒性が発現する
ことを意味する。天蚕麻痺性ペプチドを生体に高濃度で
投与しても未受精卵発生のレベルは極めて低く、高濃度
でもカイコ蛹に対しては麻痺性行動を誘発することな
く、また、その他の生理状態(例えば、羽化行動、交尾
行動等も含む)を撹乱する現象も認められず、ほぼ完璧
に休眠卵産出のみに作用する。
【0040】さらに、分類上は、カイコ休眠ホルモンの
場合、FXPRLamideファミリーに分類されるが、天蚕麻痺
性ペプチドは昆虫麻痺性ペプチドファミリーに分類され
る。従って、アミノ酸配列の相同性がまったく異なる天
蚕麻痺性ペプチドが、カイコの生活史を非休眠性から休
眠性に変換する休眠ホルモンの生理活性を模倣したこと
になる。この逆の現象、すなわちカイコの休眠ホルモン
で天蚕の麻痺行動を誘発することはない。
【0041】本発明の有効成分である物質は、それ自体
が天蚕の麻痺性ペプチドとして有用であることに加え、
将来的には生体防御剤を含めた新規医薬品開発のための
リード化合物として重要となるものと考えられる。本発
明における天蚕麻痺性ペプチドは、天蚕の生体防御物質
であり、また、カイコの休眠卵産出に有効であることか
ら、生物界において新規な機能を持つペプチドである。
【0042】
【実施例】以下、本発明を実施例および比較例により更
に詳細に説明する。本発明は、これらの例により限定さ
れるものではない。なお、実施例を具体的に説明するに
先立って、使用昆虫、生物検定方法、有効物質(生理活
性物質)の合成、および有効物質の特性解明の概要を説
明する。
【0043】以下の実施例で用いたカイコについて:2
化性カイコである大造(カイコの品種名)卵を、15℃に
おいて、保存環境に光が全く入らないいわゆる「全暗
下」で保存した。このような環境において孵化したカイ
コ幼虫を25℃で12時間「明環境下」で飼育し、それに続
く12時間を「暗環境下」というように、「明暗のサイク
ルの繰り返し」の環境において人工飼料を給飼して非休
眠卵産出蛹を得た。この蛹の生育した雌が羽化した後、
雄と交尾し、その後産卵すれば、ほぼ100%が非休眠卵
となり、産卵後10日以内で全ての卵は孵化する。一方、
2化性カイコの大造卵を、25℃で明環境下で飼育する、
いわゆる「全明環境下」保存のような環境において、孵
化した幼虫を上記と同じ条件で飼育すれば、休眠卵産出
蛹を得ることができる。この蛹の生育した雌が羽化後に
雄と交尾し、その後産卵すれば、ほぼ100%の休眠卵と
なる。すなわち、産卵後、卵内の胚子発育は原腸胚後期
で停止し、休眠し続けるからである。さらに、大造卵を
用いて、産卵後の保存状態を厳密にコントロールするこ
とにより非休眠卵産出蛹を得る上記方法以外に、もとも
と非休眠卵産出系統であるN4という系統も一部使用し
た。
【0044】生物検定方法について:検体の活性調査
は、カイコ麻痺性ペプチドなどを上記したカイコの大造
の非休眠卵産出蛹および休眠卵産出蛹の各ステージに注
射して行った。一部、N4の非休眠卵産出蛹にも注射し
た。
【0045】生理活性物質の合成について:昆虫の麻痺
性ペプチド群として知られているもののうち、前記天蚕
麻痺性ペプチド(前記Seino et al., 1998)、カイコ麻
痺性ペプチド(前記Ha et al., 1999)、タバコスズメガ
麻痺性ペプチドII (前記Skinner et al., 1991)、ヨト
ウの1種のプラズマ細胞拡散ペプチド(前記Clark et a
l., 1997)、アワヨトウ発育阻害ペプチド(前記Hayakaw
a, 1991)、ヨトウの1種の心縮性ペプチド(前記Furuyae
t al., 1999)の6種類について、報告されている一次構
造と完全に一致する一次構造を有する各ペプチドを、ペ
プチド合成装置(PSSM-8:株式会社島津製作所製)を用
いて合成した。なお、休眠卵産出活性の比較のために、
カイコにおいて本来卵休眠誘導として蛹の生体内で機能
している休眠ホルモン(前記Imai et al., 1991)につい
ても、その一次構造に従って上記装置を用いて合成し
た。各ペプチドの純度については、HPLCとMALDI-TOFMS
(Matrix-Assisted Laser DesorptionIonization-Time-o
f-Flight質量分析計、VoyagerPerSeptive Biosystems
社製)によって確認したところ、それぞれの純度は90%
以上であった。 (実施例1)天蚕麻痺性ペプチドの新しい生理活性機能
の解析:2化性系統大造の非休眠卵産出蛹の蛹化後80〜8
5時間のステージのものを使用した。天蚕麻痺性ペプチ
ド150 nmolesを30μlの滅菌蒸留水に溶解し、これを腹
部の第2と第3の関節間膜の背面に注射したものを実験区
とした。また、カイコ休眠ホルモンの分泌器官である食
道下神経節には、非休眠卵産出蛹といえども休眠ホルモ
ンが合成・蓄積されているので、安全のためにこの器官
を蛹化後24時間以内に予め摘出しておいたものについて
も、同様に注射したものを実験区とした。さらに、滅菌
蒸留水30μlを腹部の第2と第3の関節間膜の背面に注射
したものを対照区とした。各実験区および対照区のカイ
コが産下した卵の着色の状況を写真撮影した。得られた
結果を図1に示す。
【0046】図1から明らかなように、非休眠卵産出蛹
に滅菌蒸留水を注射した対照区では、産出したすべての
卵(約250〜400卵産卵)は黄白色であり、10日以内に孵
化するところの非休眠卵であった(図1(A))。ところ
が、非休眠卵産出蛹に天蚕麻痺性ペプチドを注射した実
験区では、休眠卵の一つの特性である着色卵(淡褐色〜
濃褐色)を産出した(図1(B))。また、蛹化後24時間
以内に非休眠卵産出蛹から予め食道下神経節を摘出した
ものに、蛹化後85時間に天蚕麻痺性ペプチドを注射した
実験区でも、着色卵(淡褐色〜濃褐色)を産出した(図
1(C))。以上の結果から、天蚕麻痺性ペプチドとして
単離・構造決定されたものに、カイコの休眠卵産出とい
う従来の常識からは全く予期できない新規の生理活性機
能が存在することが明らかである。次いで、実施例2に
おいて、この点をさらに詳細に検討する。 (実施例2)カイコの着色卵が真の休眠卵かどうかの検
証:実施例1記載の、天蚕麻痺性ペプチドにより誘導さ
れたカイコの着色卵が、はたして真の休眠卵かどうかに
ついて、次の方法で検証することにした。
【0047】実施例1で誘導された着色卵の中から産卵
後10日経過しても孵化しない卵をカルノア固定液(容量
比で、エタノール6:クロロフォルム3:氷酢酸1)で24
時間固定した。この卵を100%、95%、90%、80%エタ
ノール−水系の順で洗浄し、このようにして脱水処理し
た卵を最後に80%エタノール中に入れ、エタノール中で
卵殻を除去した。卵殻を除去した卵を、チオニン染色液
で2時間染色した後、80%、90%、95%、100%エタノー
ルの順で脱水した。チオニン染色液は次のようにして調
製した。チオニン1gとフェノール5gを100mlの蒸留
水に溶解して得た原液を、80%エタノールで30倍希釈し
たものをチオニン染色液とした。定法で染色した卵をベ
ンゼンで透徹し、封入処理したものについて、顕微鏡視
野の下で胚子発育の状態を観察した。対照区として、大
造の本来の休眠卵産出蛹から産出された休眠卵を上記と
同様の方法で、固定染色して観察した。得られた結果を
図2に示す。
【0048】図2(A)に示したように、本来の休眠卵産
出蛹から産下された休眠卵は原腸胚後期で胚子発育が停
止していた。非休眠卵産出蛹に天蚕麻痺性ペプチドを注
射して得られた着色卵、および非休眠卵産出蛹から予め
食道下神経節を摘出したものに天蚕麻痺性ペプチドを注
射して得られた着色卵でも、本来の休眠卵同様に原腸胚
後期で胚子発育が停止していた(図2(B)と(C))。この
点をさらに確認するために、本来の休眠卵が冷蔵浸酸と
いう方法で休眠打破され得ることが知られていることか
ら、この方法を用いて休眠打破して、以下のように休眠
卵の孵化率を調べた。
【0049】カイコの休眠打破の現象を理解しやすくす
るため、胚子発育段階の一般的な知識を説明する。一般
に、カイコの胚発生段階は、1)受精期、2)胚盤葉期、
3)胚帯形成期、4)原腸胚期、5)細長期、6)突起形成
期、7)反転期、8)剛毛形成期、9)催青期(前幼虫期
ともいう)、10)孵化直前期というように様々な発育段
階から構成されている。特に、カイコの休眠卵において
は胚子発育停止がアレイ期で起こると従来から説明され
ているが、アレイとは胚子の形状を表現する便宜的用語
であるので、カイコの休眠卵における胚子発育停止が、
発生学的には、原腸胚期の後期で発生することから、本
明細書では、「原腸胚後期」と表現することにする。
【0050】上記したように、天蚕麻痺性ペプチドを注
射して得られたカイコの休眠卵は、外部形態上は真の休
眠卵同様に原腸胚後期で胚子発育を停止しているが、こ
れだけでは、生理学的にも休眠状態であるかどうかを判
定できない。しかし、人為的に冷蔵浸酸処理すること
で、もし休眠が打破されれば、この休眠卵は真の休眠と
判定できる。そこで、産卵後48時間の本来の休眠卵69個
と天蚕麻痺性ペプチドで産出された休眠卵135個とを準
備し、5℃で20日間低温保存した後に、47℃で保温した
比重1.10の塩酸水溶液中にこれらの卵を6分間温湯処理
したものを、25℃で10日間観察し、冷蔵浸酸による休眠
卵の孵化率を調べた。得られた結果を表1に示す。 (表1)冷蔵浸酸による休眠卵の孵化率
【0051】表1に示したように、本来の休眠卵の孵化
率は87%で、天蚕麻痺性ペプチドによる誘導処理で産出
した休眠卵の孵化率は89.6%であった。
【0052】かくして、天蚕麻痺性ペプチドで産出され
たカイコの休眠卵は、カイコ休眠ホルモンで誘導された
休眠卵同様、外部形態的にも生理学的にも真の休眠卵で
あることが明らかである。 (実施例3)休眠卵産出に及ぼす蛹ステージと麻痺性ペ
プチド濃度との関係:実施例1と2の結果から、天蚕麻痺
性ペプチドは、カイコの休眠ホルモンと同様に、カイコ
の休眠卵産出という全く新しい機能を持つことが確認で
きた。そこで、この新しい機能をカイコの休眠ホルモン
の本来の機能と比較検討するために、天蚕麻痺性ペプチ
ドによる休眠卵産出効果と蛹ステージの関係、および天
蚕麻痺性ペプチドの濃度と休眠卵産出との関係について
検討することとした。対照区としては、常時カイコの休
眠ホルモンを使用した。
【0053】まず、2化性大造の非休眠卵産出蛹の蛹化
後6〜10時間から144時間までのものについて、天蚕麻痺
性ペプチドを1頭当たり150 nmoles注射し、また、カイ
コ休眠ホルモンを1頭当たり0.38 nmoles注射した際の休
眠卵の誘導率を調べた。得られた結果を図3に示す。
【0054】図3に示したように、天蚕麻痺性ペプチド
の場合、効果的なステージは蛹化後72時間から96時間ま
での間のものであり、51.0〜60.1%の休眠卵が産出され
た。一方、対照区として使用したカイコ休眠ホルモンの
場合も、同様に蛹化後72時間から96時間迄の間のものが
効果的であり、50.6〜51.7%の休眠卵が産出された。次
ぎに、蛹化後80〜85時間の蛹を使用し、天蚕麻痺性ペプ
チド濃度を1頭当たり3〜300 nmoles注射した場合を実験
区とし、また、カイコ休眠ホルモンを1頭当たり0.038〜
38 nmoles注射した場合を対照区として、濃度の異なる
カイコ休眠ホルモンおよび天蚕麻痺性ペプチドの作用に
よる休眠卵の誘導率を調べた。得られた結果を図4に示
す。
【0055】図4に示したように、天蚕麻痺性ペプチド
では、濃度の上昇に伴ってほぼ直線的に休眠卵産出が増
加した。注射した最大濃度の300 nmolesでは72.4%の休
眠卵を産出した。一方、カイコ休眠ホルモンでは、低濃
度で直線的に休眠卵産出効果は増加し、0.38 nmolesで
ほぼ最大値近くの65.6%まで達し、それ以上の濃度では
一定レベルを保ち、3.8 nmoles濃度から減少を始め、38
nmoles濃度で休眠卵産出効果が41.5%になった。
【0056】実施例3の結果は、天蚕麻痺性ペプチドの
休眠卵産出効果と蛹ステージの関係について新たな機構
解明を示唆するものである。すなわち、本来のカイコ休
眠ホルモンと同様に、その感受ステージが蛹中期に存在
することを検証できたが、濃度との関係では、休眠ホル
モンと同等の休眠卵産出のためには、天蚕麻痺性ペプチ
ド濃度の方が約350〜790倍必要であることがわかった。 (実施例4)カイコの休眠卵産出に及ぼす利点:上記実
施例3の結果から、天蚕麻痺性ペプチドのカイコ休眠卵
産出効果において、高濃度であれば、カイコ休眠ホルモ
ンと同等の効果があることが明らかになった。そこで、
機能安全性について検討するために、天蚕麻痺性ペプチ
ドおよびカイコ休眠ホルモンの濃度と未受精卵発生との
関係を調べた。得られた結果を表2に示す。 (表2)天蚕麻痺性ペプチドおよびカイコ休眠ホルモン
の濃度と未受精卵発生との関係
【0057】表2に示したように、カイコ休眠ホルモン
では、濃度が高くなるにつれて未受精卵の発生率が高く
なり、生理機能が撹乱されていることがわかるが、天蚕
麻痺性ペプチドの場合は、このような現象はまったく確
認されない。従って、天蚕麻痺性ペプチドを昆虫成長制
御剤のリード化合物の骨格とする方が、機能的安全性が
高く、目的とする生理的反応以外の撹乱を発生する危険
性が低いと考えられる。
【0058】次いで、これまでに単離・構造決定されて
いる昆虫麻痺性ペプチド群と本発明の有効成分である天
蚕麻痺性ペプチドとの生理機能を比較して、本発明の天
蚕麻痺性ペプチドがカイコの休眠卵を産出する効果にお
いて優れた効果を発揮するかを評価した。
【0059】すなわち、前記カイコ麻痺性ペプチド、タ
バコスズメガ麻痺性ペプチドII、ヨトウガの1種のプラ
ズマ細胞拡散ペプチド、アワヨトウ発育阻害ペプチド、
ヨトウガの1種の心縮性ペプチドの5種類の昆虫麻痺性ペ
プチドファミリーについて、既知のペプチド合成装置で
合成し、これらペプチドによるカイコ休眠卵産出効果
を、実施例1および実施例3と同様の方法で検討し、得
られた結果を表3に示す。 (表3)昆虫麻痺性ペプチドファミリーによるカイコ休
眠卵産出効果(大造)
【0060】表3から明らかなように、カイコ麻痺性ペ
プチドでは、天蚕麻痺性ペプチドと同様に蛹化後80〜85
時間の蛹に60 nmoles注射した場合、0.1±0.2%という
極めて低い休眠卵産出率であった。一方、高い休眠卵産
出率のアワヨトウ発育阻害ペプチドでも45.6±7.8%で
あり、天蚕麻痺性ペプチドの63.9±9.3%よりかなり低
いレベルであった。なお、未受精卵発生率はいずれのペ
プチドでも2.0〜4.0%のレベルに抑えられていた。
【0061】以上の結果から、カイコの休眠卵産出効果
としては、これまで発見されている昆虫の麻痺性ペプチ
ドファミリーの中で、天蚕から単離構造決定された本発
明で用いる天蚕麻痺性ペプチドが最も効果的であること
が判明した。このことは、将来新しい昆虫成長制御剤を
開発する上で、天蚕麻痺性ペプチドの一次構造がリード
化合物の骨格となる価値があることを示している。 (実施例5)カイコの系統品種による休眠卵産出効果の
検証:上記、実施例1〜4は、2化性のカイコ、「大
造」の非休眠卵産出蛹に、本発明の天蚕休眠卵誘導剤の
有効成分である休眠卵誘導物質を注射した場合について
の結果を示すものであった。本発明の有効成分が、不特
定のカイコにも有効であることを2化性のカイコでな
く、多化性のカイコを用いて次のようにして確認した。
【0062】休眠卵誘導物質の投与条件は、実施例4の
表3に示した条件と全く同一とし、被検用のカイコ蛹
は、カイコ休眠ホルモンの生物検定で使用した多化性系
統のN4の蛹を利用し、休眠卵誘導性に及ぼす影響を、天
蚕麻痺性ペプチドを含む以下の合計6種類のペプチドフ
ァミリーを投与することで検討した。各麻痺性ペプチド
の投与量を1頭当たり60 nmolesとし、カイコの休眠卵産
出効果を調べた。得られた結果を表4に示す。 (表4)昆虫麻痺性ペプチドファミリーによるカイコ休
眠卵産出効果(N4)
【0063】表4から明らかなように、N4系統において
も天蚕麻痺性ペプチドによるカイコ休眠卵産出効果が最
も高く、表3記載の「大造」系統と同様の傾向が確認さ
れた。このことから、天蚕麻痺性ペプチドの新規機能は
カイコの系統間の違いに左右されることなく発揮される
ことが明らかである。
【0064】上記実施例から明らかなように、天蚕麻痺
性ペプチドは、カイコに対する優れた休眠卵誘導性を持
つため、カイコと同じ原腸胚後期のステージで休眠する
昆虫種であれば、天蚕はもとより、クワコ、ウスバクワ
コ、クスサン、ヒメシロモンドクガなどにも適用するこ
とができると共に、有用昆虫から害虫に至るまでの生活
環境制御にも利用することが可能である。
【0065】
【発明の効果】本発明の休眠卵誘導剤は、配列表の配列
番号1に示すアミノ酸配列を有し、C末端が遊離酸化さ
れ、分子量が2435.73であるペプチドを有効成分として
含むため、昆虫(例えば、天蚕)の休眠卵を効率的に誘
導させる生理活性を有するので、カイコ等の昆虫に作用
し休眠卵を産出する機能を持ち、休眠卵を産出するため
の簡単な投与法が期待できる。また、本発明における新
規生理活性物質を用いることで、昆虫休眠メカニズムの
機構を解明することも可能である。更に、本発明の休眠
制御物質を、休眠することが確認されている他の種類の
生物に利用することにより、これら生物が休眠する本質
ともいえる「低エネルギー代謝」の生命機構を解明する
のにも有効である。本発明の休眠卵誘導剤は、将来的な
視点に立てば長期生命維持の促進物質と成り得るし、最
終的には長寿促進物質の開発のためのリード化合物とも
なり得る。このように、本発明の休眠卵誘導剤は、生物
学、生命科学、薬学、農学の各領域で重要な役割を演ず
ることが期待でき、さらに本発明のペプチドは、休眠卵
誘導機能のある新しい医薬となり得る。
【0066】本発明の休眠卵誘導剤と従来のカイコ休眠
ホルモンとによるカイコの休眠卵産出効率を比較する
と、天蚕麻痺性ペプチドの方がカイコ休眠ホルモンより
も高い投与量を必要とするが、休眠卵を産出する効率を
高めるため、カイコに投与するカイコの休眠ホルモン濃
度を高めると、未受精卵の発生が多くなり、生体内での
毒性が発現するが、本発明の天蚕麻痺性ペプチドの場
合、相当高濃度の投与量であっても未受精卵発生のレベ
ルは極めて低く、カイコの全体の生理活性を撹乱するよ
うな現象は認められないという利点がある。
【0067】カイコ休眠ホルモンの場合は、FXPRLamide
ファミリーに分類されるが、天蚕麻痺性ペプチドは昆虫
麻痺性ペプチドファミリーに分類される。従って、アミ
ノ酸配列の相同性がカイコの休眠ホルモンとは全く異な
る天蚕麻痺性ペプチドが、カイコの生活史を非休眠性か
ら休眠性に変換する休眠ホルモンの生理活性を模倣した
ことになる。しかし、この逆の現象、すなわちカイコの
休眠ホルモンで天蚕の麻痺行動を誘発することはない。
このことは、21世紀のポストゲノムの大きな課題となる
「タンパク質の機能と構造」の視点から、学術的にも応
用的にも重要な発見を提案している。
【0068】以上のことから、本発明のカイコ休眠卵誘
導剤によれば、将来、天蚕麻痺性ペプチドを大量合成す
ることによりカイコの休眠卵産出を安定化するのみでな
く、このペプチドをリード化合物として新規昆虫成長制
御剤を開発することが可能となる。さらに、多くの生物
に普遍的にみられる「休眠」という現象を、タンパク質
の高次構造の特異性とレセプターの分子機構との関係か
ら追求する上で、天蚕麻痺性ペプチドは優れた昆虫ペプ
チドになり得ると考えられる。
【0069】また、天蚕麻痺性ペプチドは、次のように
利用できる。従来から知られている昆虫麻痺性ペプチド
ファミリーに比べて、本発明の天蚕麻痺性ペプチドは、
カイコの休眠卵産出面において最も優れた機能を示す。
その作用機構は、カイコ休眠ホルモンを模倣しているも
のの、天蚕麻痺性ペプチドをカイコに高濃度投与して
も、従来の休眠ホルモンと違って、未受精卵を発生する
ことは極めて少ない。そのため、天蚕麻痺性ペプチドの
一次構造をリード化合物とすることで、基礎的にはカイ
コの休眠卵誘導のメカニズムの解明が可能となり、応用
的には世界中のカイコ非休眠系統種の随時保存法の確立
のための基盤技術となり得る。なお、本発明の天蚕麻痺
性ペプチドは休眠卵誘導性を持つため、カイコと同じ原
腸胚後期のステージで休眠する昆虫種であれば、天蚕は
もとより、クワコ、ウスバクワコ、クスサン、ヒメシロ
モンドクガなどにも適用することができると共に、有用
昆虫から害虫に至るまでの生活環境制御にも利用するこ
とが可能である。
【0070】上記したように、本発明における休眠卵誘
導物質は、カイコ休眠ホルモンよりも、未受精卵発生率
が極めて低く、カイコの生理状態を撹乱させるようなこ
とがないため、インド、ベトナム、タイなどの主要な生
糸生産国でのカイコに対して、非休眠系統を効果的に休
眠させることができる。
【0071】また、本発明の休眠卵誘導剤は、2化性カ
イコに限定されることなく、インド、タイ、ベトナムな
どの東南アジア等で飼育する多化性のカイコにも適用が
可能である。そのため、多化性系統品種を随時休眠化す
るための休眠卵誘導剤は、生糸を製造するという世界の
養蚕・産業レベルにおいても重要である。
【0072】上記したように、本発明では、天蚕由来の
休眠卵誘導を制御する麻痺性ペプチドをカイコの休眠卵
産出のために極めて効果的に利用できるものであり、将
来の昆虫成長制御剤のリード化合物となる。
【0073】
【配列表】 SEQUENCE LISTING <110> Inoue, Hajime; Director General of National Institute of Sericultu ral and Entomological Science Ministry of Agriculture, Forestry and Fish erries <120> Agent for deriving diapausing eggs of insects and method of produc ing diapausing eggs <130> K000326 <160> 1 <210> 1 <211> 23 <212> PRT <213> Antheraea yamamai Guerin-Meneville <400> 1 Glu Asn Phe Ala Gly Gly Cys Ala Thr Gly Phe Met Arg Thr Ala Asp 1 5 10 15 Gly Arg Cys Lys Pro Thr Phe 20
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)非休眠卵産出蛹に蒸留水を注射して、カ
イコが産下した卵の着色状況を撮影した写真(対照
区)。 (B)非休眠卵産出蛹に天蚕麻痺性ペプチドを注射し
て、カイコが産下した卵の着色状況を撮影した写真(実
験区)。 (C)非休眠卵産出蛹から食道下神経節を摘出したもの
に天蚕麻痺性ペプチドを注射して、カイコが産下した卵
の着色状況を撮影した写真(実験区)。
【図2】(A)本来の休眠卵産出蛹から得られた休眠胚
子の発育状態の顕微鏡写真(対照区)。 (B)非休眠卵産出蛹に天蚕麻痺性ペプチドを注射し、
誘導された休眠卵の胚子の発育状態の顕微鏡写真(実験
区)。 (C)非休眠卵産出蛹から食道下神経節を摘出したもの
に天蚕麻痺性ペプチドを注射し、誘導された休眠卵の胚
子の発育状態の顕微鏡写真(実験区)。 (D)上記(B)の実験区から得られ休眠卵を冷蔵浸酸
処理した場合の孵化幼虫の写真。
【図3】天蚕麻痺性ペプチドおよびカイコ休眠ホルモン
を投与した際の、それぞれの休眠卵の誘導率を示すグラ
フ。
【図4】濃度の異なるカイコ休眠ホルモンおよび天蚕麻
痺性ペプチドを投与した際の、それぞれの休眠卵の誘導
率を示すグラフ。
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C07K 14/435 C07K 14/435 (72)発明者 宋 紅生 岩手県盛岡市青山2−6−20 市営アパー ト4号館402号 Fターム(参考) 4H011 AC08 BA01 BB06 BC23 4H045 AA30 BA17 CA51 EA05 FA34 HA03

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 配列表の配列番号1に示すアミノ酸配
    列、Glu-Asn-Phe-Ala-Gly-Gly-Cys-Ala-Thr-Gly-Phe-Me
    t-Arg-Thr-Ala-Asp-Gly-Arg-Cys-Lys-Pro-Thr-Phe-を有
    し、C末端が遊離酸化され、分子量が2435.73であるペプ
    チドを有効成分として含有することを特徴とする昆虫の
    休眠卵誘導剤。
  2. 【請求項2】 前記昆虫がカイコである請求項1記載の
    昆虫の休眠卵誘導剤。
  3. 【請求項3】 前記ペプチドが天蚕幼虫体液由来の昆虫
    麻痺性ペプチドである請求項1または2記載の昆虫の休
    眠卵誘導剤。
  4. 【請求項4】 ヨトウガ1種のプラズマ細胞拡散ペプチ
    ドI(Psi PSP I)又はアワ阻害ペプチド(Pss GBP)のいず
    れかを有効成分として含有することを特徴とする昆虫の
    休眠卵誘導剤。
  5. 【請求項5】 蛹化後72〜96時間のステージのカイコの
    非休眠卵産出蛹に、請求項1〜3のいずれかに記載のペ
    プチド150〜300 nmoles/蛹1頭を投与し、該蛹を生育
    し、羽化した雌を雄と交尾させ、その後産卵させて休眠
    卵を得ることを特徴とする休眠卵の産出方法。
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