【発明の詳細な説明】
自然抗体抗原に対する寛容
本発明は、移植片レシピエント、特に異種移植片レシピエントにおける免疫寛
容の誘発に関する。
発明の背景
この十年、臓器移植は多大なる成功を収めている。その結果、臓器ドナーの不
足が深刻な問題になっている。ドナーの数が比較的不変であるのに対し、臓器に
対する需要は増加し続けている。現在、33,000人以上ののアメリカ人が臓
器移植を待っているが、毎年約4,800個の臓器しか提供されていない。この
ように需要と提供のギャップが広がりつつあるので、異種臓器移植が重要な分野
として注目されている。
大きさ、入手の容易さ、遺伝子操作の容易さの観点から、ブタが異種移植にお
いて最も研究されている臓器ドナー種の一つとなっている[Sachs,D.H
.(1992)“MHC−Homozygous Miniature Swi
ne”Swine as Models in Biomedjcal Res
earch、Swindle,M.M.他(編)(Iowa State Un
iversity Press、アイオワ州エームズ、1992)p.3;Co
oper,D.K.C.他“The Pig as Potential Or
gan Donor for Man”Xenotransplantatio
n、Cooper,D.K.C.他(編)(Springer−Verlag、
ドイツ ハイデルベルク、1991)p.481]。
異種個体の自然抗体媒介性超急性拒絶反応は、異種臓器移植において大きな障
害となっている[Platt,J.L.及びBach,F.H.(1991)T
ransplantation52:937]。この障害を克服することが、ブ
タから霊長類への長期移植の成功にとって重要である。近年の研究によって、ヒ
ト自然抗体により認識されるブタ細胞上に支配的に存在するエプトープが、ガラ
タトシルα(1,3)ガラクトース二糖類構造の配座にある、末端ガラクトース
残基を含む炭水化物であることが判明している[Neethling,F.A.
他(1994)Transplantation57:959;Ye,Y他(1
994)Transplantation58:330;Sandri
n,M.S.他(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA9
0:11391;Good,A.H.他(1992)Transplant.P
roc.24:559]。超急性拒絶反応が進行している臓器から得た組織試料
の免疫病理学的分析によって、血管の内皮表面に沿ってレシピエント自然抗体及
び補体成分が存在することがわかっている[Leventhal,J.R.他(
1993)Transplantation55:857;Leventhal
,J.R.他(1993)Transplantation56:1;Plat
,J.L.他(1991)Transplantation52:214;Pl
att,J.L.他(1991)TransplantatIon52:103
7]。レシピエント自然抗体が臓器潅流によって除去されると、超急性拒絶反応
は遅延されるか、起こらなくなる。
発明の概要
本発明者は、自然抗体に反応する抗原(例えば炭水化物)を用いることによっ
て、レシピエントにおける抗原への免疫寛容が誘発され、よって抗原を含む移植
片に対する超急性拒絶反応が阻害されることを発見した。抗原に反応する自然抗
体を抑制する又は減少させることによって、抗原(例えば炭水化物抗原)を含む
移植片に対する、レシピエントの受容時間を延長させることができる。
従って本発明は、レシピエントである第一種の哺乳類における、抗原(例えば
炭水化物基)あるいは抗原を産生又は提示する移植片に対する免疫寛容を促進す
る方法を特徴とする。好ましくは第一種は、抗原(例えば炭水化物基)を細胞、
組織又は臓器上又は内部に産生又は提示しない種である。例えばレシピエント哺
乳類はヒトであってもよいし、ヒヒ(例えばPapio anubis)やカニ
クイザル(Macaca fascicularis)などの旧世界霊長類であ
ってもよい。
本発明の方法は、レシピエント哺乳類に免疫寛容を誘発する抗原(例えば炭水
化物基)を提供し、よって抗原あるいは抗原を産生又は提示する移植片に対する
免疫寛容を誘発する段階を包含する。理論に固執することを望むわけではないが
、本発明者は、抗原(例えば炭水化物基)が、抗原反応性抗体(例えば炭水化物
基反応性抗体)を発生させる免疫細胞の低減を媒介していると考えている。
好ましい態様にあっては、被験体はヒトであり、抗原はヒトによって産生又は
提示されない抗原(例えばブタ抗原)である。
好ましい態様にあっては、抗原(例えば炭水化物基)は、レシピエント細胞を
、抗原を産生又は提示するように改変したものによって産生又は提示される。細
胞は生体内(レシピエント体内)で、例えば生体内遺伝子治療又は細胞改変剤に
よる生体内処理によって改変することもできるし、あるいは生体外(レシピエン
ト体外)で改変することもできる。抗原をコードする(さもなくば抗原の産生又
は提示を促進する)核酸を細胞内に挿入することによって、抗原を産生又は提示
するように細胞を改変できる。炭水化物基の形成を促進する(例えば触媒する)
蛋白質をコードする核酸を細胞内に挿入することによって、炭水化物基を産生又
は提示するように細胞を改変できる。コードされる蛋白質は、細胞表面に炭水化
物基の形成を引き起こす酵素であってもよい。特に好ましい態様においては、コ
ードされる蛋白質は、細胞表面分子上の既存の糖残基に末端糖残基を付加するこ
とによって基を形成する。
例えば細胞を蛋白質(例えば酵素)に接触させることで抗原(例えば炭水化物
基)をレシピエント哺乳類の細胞表面上に形成することによって、あるいは抗原
を細胞に付着又は結合させることによって、抗原(例えば炭水化物基)を産生又
は提示するように細胞を改変することができる。特に好ましい態様にあっては、
蛋白質は、細胞表面分子上の既存の糖残基に末端糖残基を付加することによって
基を形成する。
好ましい態様にあっては、本発明の方法は、ドナー哺乳類からの移植片をレシ
ピエント哺乳類へ導入する段階をさらに包含する。例えばドナーは、通常、抗原
(例えば炭水化物基)を細胞、組織又は臓器上に産生又は提示する種であっても
よい。例えばドナーはブタ(例えばミニチュアブタ)又は新世界霊長類(例えば
リスザル(Saimiri sciureus))であってもよい。好ましくは
、移植片は主要組織適合複合体(MHC)抗原を発現する。移植片は臓器(例え
ば心臓、肝臓又は腎臓)又は皮膚であってもよいし、あるいは造血幹細胞の調製
物(例えば骨髄調製物)であってもよい。特に好ましい態様にあっては、レシピ
エントはヒトであり、移植片はブタ(例えばミニチュアブタ)から得たものであ
る。
好ましい態様においては、細胞をレシピエントから取り出し、抗原(例えば炭
水化物)を産生又は提示するように改変し、そしてレシピエントに移植する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは免疫寛容誘発抗原(例
えば炭水化物)を提供する前に、レシピエントの免疫系細胞[例えば異種反応性
(xenorea
ctive)免疫細胞(特に炭水化物基反応性免疫細胞)]を不活性化する段階
を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは免疫寛容誘発抗原(例
えば炭水化物)を提供する前に、レシピエントの抗体[例えば異種反応性抗体(
特に炭水化物基反応性抗体)]を不活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は超急性拒絶反応を阻害する。
好ましい態様においては、本発明の方法は第二の抗原(例えば炭水化物基)を
提供する段階、並びにそれに対する免疫寛容を誘発する段階をさらに包含する。
第二の抗原は、レシピエント細胞を改変したものの上に産生又は提示することが
できる。改変した細胞は、第一の抗原を産生又は提示する細胞と同じであっても
よいし、異なる細胞であってもよい。一般に、レシピエントに抗原を提供するた
めにここで説明した方法を用いて、第二の抗原をレシピエントに提供することが
できる。
他の態様においては、本発明は、レシピエントである第一種の哺乳類における
、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基あるいはガラクトシルα(1,3)
ガラクトース基を産生又は提示する移植片に対する免疫寛容を促進する方法を特
徴とする。好ましくは第一種は、UDPガラクトース:β−D−ガラクトシル−
1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα(1,3)ガラクトシルトランス
フェラーゼ(α1,3GT)活性を有さないか、細胞、組織又は臓器上にガラク
トシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示しない種である。例えばばレ
シピエント哺乳類はヒトであってもよいし、ヒヒ(例えばPapio anub
is)やカニクイザル(Macaca fascicularis)などの旧世
界霊長類であってもよい。
本発明の方法は、レシピエント哺乳類に免疫寛容を誘発するガラクトシルα(
1,3)ガラクトース基を提供し、よってガラクトシルα(1,3)ガラクトー
ス基あるいはガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示する移植
片に対する免疫寛容を誘発する段階を包含する。理論に固執することを望むわけ
ではないが、本発明者は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基が、ガラク
トシルα(1,3)ガラクトース基反応性抗体を発生させる免疫細胞の低減を媒
介していると考えている。
好ましい態様にあっては、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基は、レシ
ピエント細胞を、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示する
ように改変したも
のによって産生又は提示される。改変は生体内で行うことができるが、好ましく
は生体外で行う。
好ましい態様にあっては、本発明の方法は、ドナー哺乳類からの移植片をレシ
ピエント哺乳類へ導入する段階をさらに包含する。例えばドナーは、通常、ガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース基を細胞、組織又は臓器上に産生又は提示す
る種であってもよい。例えばドナーはブタ(例えばミニチュアブタ)又は新世界
霊長類(例えばリスザル(Saimjrj sciureus))であってもよ
い。好ましくは、移植片は主要組織適合複合体(MHC)抗原を発現する。移植
片は臓器(例えば心臓、肝臓又は腎臓)又は皮膚であってもよいし、あるいは造
血幹細胞の調製物(例えば骨髄調製物)であってもよい。特に好ましい態様にあ
っては、レシピエントはヒトであり、移植片はブタ(例えばミニチュアブタ)か
ら得たものである。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは免疫寛容誘ガラクトシ
ルα(1,3)ガラクトース基を提供する前に、レシピエントの免疫系細胞[例
えば異種反応性免疫細胞(特にガラクトシルα(1,3)ガラクトース基反応性
免疫細胞)]を不活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは免疫寛容誘発抗原(例
えば炭水化物)を提供する前に、レシピエントの抗体[例えば異種反応性抗体(
特に炭水化物基反応性抗体)]を不活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は超急性拒絶反応を阻害する。
好ましい態様においては、本発明の方法は第二の抗原(例えば炭水化物基)を
提供する段階、並びにそれに対する免疫寛容を誘発する段階をさらに包含する。
第二の抗原は、レシピエント細胞を改変したものの上に産生又は提示することが
できる。改変した細胞は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は
提示する細胞と同じであってもよいし、異なる細胞であってもよい。一般に、レ
シピエントに抗原を提供するためにここで説明した方法を用いて、第二の抗原を
レシピエントに提供することができる。
他の態様においては、本発明は、ガラタトシルα(1,3)ガラクトース基を
産生又は提示するレシピエントである第一種の哺乳類から得た細胞を提供するこ
とによって、レシピエント哺乳類における、ガラクトシルα(1,3)ガラクト
ース基あるいはガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示する移
植片に対する免疫寛容を促進する方
法を特徴とする。好ましくは第一種は、UDPガラクトース:β−D−ガラクト
シル−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα(1,3)ガラクトシルト
ランスフェラーゼ(α1,3GT)活性を有さないか、細胞、組織又は臓器上に
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示しない種である。例え
ばばレシピエント哺乳類はヒトであってもよいし、ヒヒ(例えばPapio a
nubis)やカニクイザル(Macaca fascicularis)など
の旧世界霊長類であってもよい。
本発明の方法は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示す
るレシピエント哺乳類から得た細胞(この細胞はガラクトシルα(1,3)ガラ
クトース基を産生又は提示するように改変されている)を提供し;そして
好ましくは、レシピエント哺乳類中でレシピエント哺乳類細胞にガラクトシル
α(1,3)ガラクトース基を産生又は提示させ、
よってガラクトシルα(1,3)ガラクトース基あるいはガラクトシルα(1
,3)ガラクトース基を含む移植片に対する免疫寛容を誘発する
段階を含む。
改変は生体内で行うことができるが、好ましくは生体外で行う。
好ましい態様においては、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基の形成を
促進する(例えば触媒する)蛋白質をコードする核酸を細胞内に挿入することに
よって、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示するように細
胞を改変する。
好ましい態様においては、例えば細胞を蛋白質(例えば酵素)に接触させるこ
とでガラクトシルα(1,3)ガラクトース基をレシピエント哺乳類の細胞表面
上に形成することによって、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又
は提示するように細胞を改変することができる。特に好ましい態様にあっては、
レシピエント細胞をα(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ(例えばβ−
D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα(1,3)ガ
ラクトシルトランスフェラーゼ)に接触させて、細胞表面上のガラクトシル残基
(例えばN−アセチルグルコサミニル残基に結合したガラクトシル残基)に末端
ガラクトシル残基を付加することによって基が形成される。
好ましい態様にあっては、本発明の方法は、ドナー哺乳類からの移植片をレシ
ピエント哺乳類へ導入する段階をさらに包含する。例えばドナーは、通常、ガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース基を細胞、組織又は臓器上に産生又は提示す
る種であってもよい。例え
ばドナーはブタ(例えばミニチュアブタ)又は新世界霊長類(例えばリスザル(
Saimiri sciureus))であってもよい。好ましくは、移植片は
主要組織適合複合体(MHC)抗原を発現する。移植片は臓器(例えば心臓、肝
臓又は腎臓)又は皮膚であってもよいし、あるいは造血幹細胞の調製物(例えば
骨髄調製物)であってもよい。特に好ましい態様にあっては、レシピエントはヒ
トであり、移植片はブタ(例えばミニチュアブタ)から得たものである。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくはガラクトシルα(1,
3)ガラクトース基を産生又は提示するレシピエント細胞を提供する前に、レシ
ピエントの免疫系細胞[例えば異種反応性免疫細胞(特にガラクトシルα(1,
3)ガラクトース基反応性免疫細胞)]を不活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくはガラクトシルα(1,
3)ガラクトース基を産生又は提示するレシピエント細胞を提供する前に、レシ
ピエントの抗体[例えば異種反応性抗体(特にガラクトシルα(1,3)ガラク
トース基反応性抗体)]を不活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は超急性拒絶反応を阻害する。
好ましい態様においては、本発明の方法は第二の抗原(例えば炭水化物基)を
提供する段階、並びにそれに対する免疫寛容を誘発する段階をさらに包含する。
第二の抗原は、レシピエント細胞を改変したものの上に産生又は提示することが
できる。改変した細胞は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は
提示する細胞と同じであってもよいし、異なる細胞であってもよい。一般に、レ
シピエントに抗原を提供するためにここで説明した方法を用いて、第二の抗原を
レシピエントに提供することができる。
他の態様においては、本発明は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を
産生又は提示する、レシピエントである第一種の哺乳類から得た細胞であり、か
つガラクトシルα(1,3)ガラタトース基の形成を促進する(例えば触媒する
)蛋白質をコードする核酸を挿入した細胞を提供することによって、レシピエン
ト哺乳類における、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基あるいはガラクト
シルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示する移植片に対する免疫寛容を
促進する方法を特徴とする。好ましくは第一種は、UDPガラクトース:β−D
−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα(1,3)ガラ
クトシルトランスフエラーゼ(α1,3GT)活性を有さないか、細胞、
組織又は臓器上にガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示しな
い種である。例えばばレシピエント哺乳類はヒトであってもよいし、ヒヒ(例え
ばPapio anubis)やカニクイザル(Macaca fascicu
laris)などの旧世界霊長類であってもよい。
本発明の方法は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基の形成を促進する
(例えば触媒する)蛋白質をコードする核酸を挿入した、レシピエント哺乳類か
ら得た細胞を提供し;そして
好ましくは、レシピエント哺乳類中でレシピエント哺乳類細胞にガラクトシル
α(1,3)ガラクトース基を産生又は提示させ、
よってガラクトシルα(1,3)ガラクトース基あるいはガラクトシルα(1
,3)ガラクトース基を産生又は提示する移植片に対する免疫寛容を誘発する
段階を含む。
核酸の挿入は生体内で行うことができるが、好ましくは生体外で行う。
好ましい態様にあっては、核酸は、ガラクトシル残基(例えばN−アセチルグ
ルコサミニル残基に結合したガラクトシル残基)への末端ガラクトシル残基の付
加を促進する蛋白質をコードする。或いは核酸は、哺乳類(例えば脊椎動物の、
特にブタ又はネズミ)のα(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼをコード
する。或いは核酸は、新世界霊長類(例えばリスザル)のα(1,3)ガラクト
シルトランスフェラーゼをコードする。或いは核酸は、α(1,3)ガラクトシ
ルトランスフェラーゼ(例えばUDPガラクトース:β−D−ガラクトシル−1
,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα(1,3)ガラクトシルトランスフ
ェラーゼ)をコードする。
好ましい態様にあっては、本発明の方法は、ドナー哺乳類からの移植片をレシ
ピエント哺乳類へ導入する段階をさらに包含する。例えばドナーは、通常、ガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース基を細胞、組織又は臓器上に産生又は提示す
る種であってもよいし、α(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有
する種であっても良い。例えばドナーはブタ(例えばミニチュアブタ)又は新世
界霊長類(例えばリスザル(Saimiri sciureus))であっても
よい。好ましくは、移植片は主要組織適合複合体(MHC)抗原を発現する。移
植片は臓器(例えば心臓、肝臓又は腎臓)又は皮膚であってもよいし、あるいは
造血幹細胞の調製物(例えば骨髄調製物)であってもよい。特に好まし
い態様にあっては、レシピエントはヒトであり、移植片はブタ(例えばミニチュ
アブタ)から得たものである。
レシピエント細胞としては、ガラクトシルα(1,3)ガラタトース基の産生
又は提示に好適なあらゆる細胞(例えば造血細胞)を用いることができる。成熟
骨髄性及び/又はリンパ系細胞に発達することのできる造血幹細胞(例えば骨髄
細胞)が、特に好ましい。導入遺伝子(α(1,3)ガラクトシルトランスフェ
ラーゼ)は内生蛋白質を改変して自身を認識されるようにしなければならないの
で、終期の細胞を用いることもできる。レシピエントの臍帯血に由来する幹細胞
を本発明の方法に用いることができる。本発明に用いるのに好適な他の細胞とし
ては、末梢血球が挙げられる。好適な細胞は、ガラクトシルα(1,3)ガラク
トース基を産生又は提示し、動物に免疫寛容を与える細胞である。理論に固執す
ることを望むわけではないが、本発明者は、好適なレシピエント細胞は、その発
達初期においてガラクトシルα(1,3)ガラクトース基が免疫細胞と相互作用
するように、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示する細胞
であると考えている。理論に固執することを望むわけではないが、これによって
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基反応性抗体を誘導する、細胞の低減が
可能になると考えられる。好適な細胞は、免疫応答に対立するものとしての免疫
寛容を生じる細胞である。
他の好ましい態様においては、本発明の方法の提供段階は、レシピエント哺乳
類から細胞を取り出して核酸をレシピエント哺乳類細胞に導入し、レシピエント
哺乳類細胞をレシピエント哺乳類に導入する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくはレシピエント細胞を提
供する前に、レシピエントの免疫系細胞[例えば異種反応性免疫細胞(特にガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース基反応性免疫細胞)]を不活性化する段階を包
含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくはレシピエント細胞を提
供する前に、レシピエントの抗体[例えば異種反応性抗体(特にガラクトシルα
(1,3)ガラクトース基反応性抗体)]を不活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、レシピエントの抗ガラクトシルα
(1,3)ガラクトース抗体を不活性化する追加的段階を包含する。例えば、ガ
ラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示するレシピエント細胞を
レシピエント内に導入又は形成する前に、抗ガラクトシルα(1,3)ガラクト
ースエピトープ抗体活性を不活
性化することができる。従って好ましい態様においては、本発明の方法は、下記
段階を1つ以上包含する。抗イディオタイプ抗体(例えば組み換え、モノクロー
ナル、ポリクローナル、キメラ、単鎖又はヒト化抗体)、又はその断片、特に抗
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース抗体を導入する段階;例えばドナー種の
哺乳類から得た臓器(肝臓、腎臓など)を血液吸着することによって、或いはレ
シピエントの血液を不溶性基質に結合したガラクトシルα(1,3)ガラクトー
ス基と接触させることによって、レシピエントの血液から自然抗体を低減させる
段階;レシピエントに自然抗体を不活性化する薬剤[例えばデオキシスパーグア
リン(DSG)(Bristol)]を投与する段階;又はレシピエントに抗I
gM抗体を導入する段階。
好ましい態様においては、本発明の方法は超急性拒絶反応を阻害する。
好ましい態様においては、本発明の方法は第二の抗原(例えば炭水化物基)を
提供する段階、並びにそれに対する免疫寛容を誘発する段階をさらに包含する。
第二の抗原は、レシピエント細胞を改変したものの上に産生又は提示することが
できる。改変した細胞は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は
提示する細胞と同じであってもよいし、異なる細胞であってもよい。一般に、レ
シピエントに抗原を提供するためにここで説明した方法を用いて、第二の抗原を
レシピエントに提供することができる。
他の態様においては、本発明は、レシピエントである第一種の哺乳類の細胞表
面上にガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を形成することによって、レシ
ピエント哺乳類における、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基あるいはガ
ラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示する移植片に対する免疫
寛容を促進する方法を特徴とする。好ましくは第一種は、UDPガラクトース:
β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα(1,3
)ガラクトシルトランスフェラーゼ(α1,3GT)活性を有さないか、細胞、
組織又は臓器上にガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示しな
い種である。例えばばレシピエント哺乳類はヒトであってもよいし、ヒヒ(例え
ばPapio anubis)やカニクイザル(Macaca fascicu
laris)などの旧世界霊長類であってもよい。
本発明の方法は、レシピエント哺乳類の細胞表面上にガラクトシルα(1,3
)ガラクトース基を形成し;そして
好ましくは、レシピエント哺乳類中でレシピエント哺乳類細胞にガラクトシル
α(1,
3)ガラクトース基を産生又は提示させ、
よってガラクトシルα(1,3)ガラクトース基に対する免疫寛容を誘発する
段階を含む。
形成は生体内で行うことができるが、好ましくは生体外で行う。
好ましい態様においては、細胞を蛋白質(例えば酵素)に接触させてガラクト
シルα(1,3)ガラクトース基を形成する。その結果、ガラクトシルα(1,
3)ガラクトース基が細胞表面に形成される。
好ましい態様においては、レシピエント細胞表面上のガラクトシル残基(例え
ばN−アセチルグルコサミニル残基に結合したガラクトシル残基)への末端ガラ
クトシル残基の付加によって基が形成される。末端残基の付加は、レシピエント
細胞を、末端ガラクトシル残基の付加を促進する蛋白質に接触させることによっ
て促進することができる。蛋白質の例として、ガラクトシル残基(例えばN−ア
セチルグルコサミニル残基に結合したガラクトシル残基)への末端ガラクトシル
残基の付加を促進する蛋白質;哺乳類(例えば脊椎動物の、特にブタ又はネズミ
)のα(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ;新世界霊長類(例えばリス
ザル)のα(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ;α(1,3)ガラクト
シルトランスフエラーゼ(例えばUDPガラクトース:β−D−ガラクトシル−
1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα(1,3)ガラクトシルトランス
フェラーゼ)が挙げられる。
好ましい態様にあっては、本発明の方法は、ドナー哺乳類からの移植片をレシ
ピエント哺乳類へ導入する段階をさらに包含する。例えばドナーは、通常、ガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース基を細胞、組織又は臓器上に産生又は提示す
る種であってもよいし、α(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有
する種であっても良い。例えばドナーはブタ(例えばミニチュアブタ)又は新世
界霊長類(例えばリスザル(Saimiri sciureus))であっても
よい。好ましくは、移植片は主要組織適合複合体(MHC)抗原を発現する。移
植片は臓器(例えば心臓、肝臓又は腎臓)又は皮膚であってもよいし、あるいは
造血幹細胞の調製物(例えば骨髄調製物)であってもよい。特に好ましい態様に
あっては、レシピエントはヒトであり、移植片はブタ(例えばミニチュアブタ)
から得たものである。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくはレシピエント細胞を提
供する前
に、レシピエントの免疫系細胞[例えば異種反応性免疫細胞(特にガラクトシル
α(1,3)ガラクトース基反応性免疫細胞)]を不活性化する段階を包含する
。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくはレシピエント細胞を提
供する前に、レシピエントの抗体[例えば異種反応性抗体(特にガラクトシルα
(1,3)ガラクトース基反応性抗体)]を不活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、レシピエントの抗ガラクトシルα
(1,3)ガラクトース抗体を不活性化する追加的段階を包含する。例えば、ガ
ラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は提示するレシピエント細胞を
レシピエント内に導入又は形成する前に、抗ガラクトシルα(1,3)ガラクト
ース抗体活性を不活性化することができる。従って好ましい態様においては、本
発明の方法は、下記段階を1つ以上包含する。抗イディオタイプ抗体(例えば組
み換え、モノクローナル、ポリクローナル、キメラ、単鎖又はヒト化抗体)、又
はその断片、特に抗ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープ抗体を導
入する段階;例えばドナー種の哺乳類から得た臓器(肝臓、腎臓など)を血液吸
着することによって、或いはレシピエントの血液を不溶性基質に結合したガラク
トシルα(1,3)ガラクトース基と接触させることによって、レシピエントの
血液から自然抗体を低減させる段階;レシピエントに自然抗体を不活性化する薬
剤[例えばデオキシスパーグアリン(DSG)(Bristol−Myers
Squibb Co.ニュージャージー州プリンストン)]を投与する段階;又
はレシピエントに抗IgM抗体を導入する段階。
好ましい態様においては、本発明の方法は超急性拒絶反応を阻害する。
好ましい態様においては、本発明の方法は第二の抗原(例えば炭水化物基)を
提供する段階、並びにそれに対する免疫寛容を誘発する段階をさらに包含する。
第二の抗原は、レシピエント細胞を改変したものの上に産生又は提示することが
できる。改変した細胞は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を産生又は
提示する細胞と同じであってもよいし、異なる細胞であってもよい。一般に、レ
シピエントに抗原を提供するためにここで説明した方法を用いて、第二の抗原を
レシピエントに提供することができる。
他の態様においては、本発明は、レシピエント哺乳類(例えばヒト)における
、同種のドナー哺乳類から得た抗原(例えば炭水化物基、特に血液型炭水化物)
に対する免疫寛容(ここで抗原はレシピエントに発現されていないが、ドナーに
発現されているものとす
る)を促進する方法を特徴とする。
本発明の方法は、レシピエント哺乳類に免疫寛容を誘発する抗原(例えば炭水
化物基、特に血液型炭水化物)を提供し、よって抗原あるいは抗原を産生又は提
示する移植片に対する免疫寛容を誘発する段階を包含する。理論に固執すること
を望むわけではないが、本発明者は、抗原(例えば炭水化物基)が、抗体反応性
抗体(例えば炭水化物基反応性抗体)を発生させる免疫細胞の低減を媒介してい
ると考えている。
ドナーは、例えば抗原を産生又は提示させる対立遺伝子を有する又は発現する
動物であり、レシピエントは、抗原を産生又は提示させる対立遺伝子を有さない
又は発現しない動物である。例えば、抗原は血液型を決定する抗原である。ヒト
血液型炭水化物エピトープは蛋白質及び脂質に結合したオリゴ糖の非還元末端に
見られる。血液型抗原決定子を合成する数多くの酵素の遺伝子が、今までにクロ
ーンされている。これらの酵素はN−及びO−グリカン及び糖脂質のGalβ1
,3/4GlcNAc基に作用する。様々な血液型を特徴付ける炭水化物基を、
ここで血液型抗原、血液型炭水化物又は血液型基として参照する。ヒト血液型A
、B、H、Le及びIエピトープは、それぞれUDP−GalNAc:Fucα
1,2Gal−Rα1,3−GalNAcトランスフェラーゼ(EC2.4.1
.40)、UDP−GalNAc:Fucα1,2Gal−Ra1,3Galト
ランスフェラーゼ(EC2.4.1.37)、GDP−Fuc:βガラクトシド
α2−Fucトランスフェラーゼ(EC2.4.1.69)、GDP−Fuc:
Galβ1,3/4GlcNAc−Rα4/3Fucトランスフェラーゼ(EC
2.4.1.65)、及びUDP−GlcNAc:GlcNAcβ1,3Gal
β1,4GlcNAc−Rβ6−GlcNAcトランスフェラーゼによって合成
される。
好ましい態様においては、被験体はヒトであり、抗原は血液型A炭水化物基で
ある。
好ましい態様においては、被験体はヒトであり、抗原は血液型B炭水化物基で
ある。
好ましい態様においては、被験体はヒトであり、抗原は血液型H炭水化物基で
ある。
好ましい態様においては、被験体はヒトであり、抗原は血液型Le炭水化物基
である。
好ましい態様においては、被験体はヒトであり、抗原は血液型I炭水化物基で
ある。
好ましい態様においては、例えば酵素をコードする核酸をレシピエント細胞に
挿入することによって、レシピエント細胞はUDP−GalNAc:Fucα1
,2Gal−Rα1,3−GalNAcトランスフェラーゼ(EC2.4.1.
40)又は同等の活性を有
する酵素を発現するように改変される。
好ましい態様においては、例えば酵素をコードする核酸をレシピエント細胞に
挿入することによって、レシピエント細胞はUDP−GalNAc:Fucα1
,2Gal−Rα1,3Galトランスフェラーゼ(EC2.4.1.37)又
は同等の活性を有する酵素を発現するように改変される。
好ましい態様においては、例えば酵素をコードする核酸をレシピエント細胞に
挿入することによって、レシピエント細胞はGDP−Fuc:βガラクトシドα
2−Fucトランスフェラーゼ(EC2.4.1.69)又は同等の活性を有す
る酵素を発現するように改変される。
好ましい態様においては、例えば酵素をコードする核酸をレシピエント細胞に
挿入することによって、レシピエント細胞はGDP−Fuc:Galβ1,3/
4GlcNAc−Rα4/3Fucトランスフェラーゼ(EC2.4.1.65
)又は同等の活性を有する酵素を発現するように改変される。
好ましい態様においては、例えば酵素をコードする核酸をレシピエント細胞に
挿入することによって、レシピエント細胞はUDP−GlcNAc:GlcNA
cβ1,3Galβ1,4GlcNAc−Rβ6−GlcNAcトランスフェラ
ーゼ又は同等の活性を有する酵素を発現するように改変される。
好ましい態様にあっては、抗原(例えば炭水化物基)は、レシピエント細胞を
、抗原を産生又は提示するように改変したものによって産生又は提示される。細
胞は生体内(レシピエント体内)で、例えば生体内遺伝子治療又は細胞改変剤に
よる生体内処理によって改変することもできるし、あるいは生体外(レシピエン
ト体外)で、組み換え又は細胞改変剤による処理によって改変することもできる
。抗原をコードする核酸、或いは抗原(例えば炭水化物基)の形成を促進する(
例えば触媒する)(複数の)蛋白質をコードする核酸をを細胞内に挿入すること
によって、抗原を産生又は提示するように細胞を改変できる。
コードされる蛋白質は、細胞表面に炭水化物を形成させる酵素(例えばトラン
スフェラーゼ)であっても良い。例えば細胞は、レシピエントによって産生又は
提示されない(複数の)血液型炭水化物基の形成を促進する(複数の)酵素を発
現するように改変することができる。このような酵素は、例えばUDP−Gal
NAc:Fucα1,2Gal−Rα1,3−GalNAcトランスフェラーゼ
(EC2.4.1.40)、UDP−Gal
NAc:Fucα1,2Gal−Rα1,3Galトランスフェラーゼ(EC2
.4.1.37)、GDP−Fuc:βガラクトシドα2−Fucトランスフェ
ラーゼ(EC2.4.1.69)、GDP−Fuc:Galβ1,3/4Glc
NAc−Rα4/3Fucトランスフェラーゼ(EC2.4.1.65)、及び
UDP−GlcNAc:GlcNAcβ1,3Galβ1,4GlcNAc−R
β6−GlcNAcトランスフェラーゼのうち1つ以上である。特に好ましい態
様においては、コードされる蛋白質は、細胞表面分子上の既存の糖残基に1個以
上の末端糖残基を付加することによって基を形成する。
例えば細胞を蛋白質(例えば酵素)に接触させることで抗原(例えば炭水化物
基)をレシピエント哺乳類の細胞表面上に形成する(例えば付着させる)ことに
よって、抗原(例えば炭水化物基)を産生又は提示するように細胞を改変するこ
とができる。特に好ましい態様にあっては、蛋白質は、細胞表面分子上の既存の
糖残基に1個以上の末端糖残基を付加することによって基を形成する。
好ましい態様にあっては、本発明の方法は、ドナー哺乳類からの移植片をレシ
ピエント哺乳類へ導入する段階をさらに包含する。
好ましい態様においては、細胞をレシピエントから取り出し、抗原(例えば炭
水化物)を産生又は提示するように改変し、そしてレシピエントに移植する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは免疫寛容誘発抗原(例
えば炭水化物)を提供する前に、レシピエントの免疫系細胞[例えば抗原反応性
免疫細胞(特に炭水化物基反応性免疫細胞)]を不活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は超急性拒絶反応を阻害する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは免疫寛容誘発抗原(例
えば炭水化物)を提供する前に、レシピエントの抗体[例えば抗原反応性抗体(
特に炭水化物基反応性抗体)]を不活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は第二の抗原(例えば炭水化物基)を
提供する段階、並びにそれに対する免疫寛容を誘発する段階をさらに包含する。
第二の抗原は、レシピエント細胞を改変したものの上に産生又は提示することが
できる。改変した細胞は、第一の抗原を産生又は提示する細胞と同じであっても
よいし、異なる細胞であってもよい。一般に、レシピエントに抗原を提供するた
めにここで説明した方法を用いて、第二の抗原をレシピエントに提供することが
できる。
好ましい態様にあっては、本発明の方法は、ドナー哺乳類からの移植片をレシ
ピエント哺乳類へ導入する段階をさらに包含する。
他の態様においては、本発明は、レシピエント哺乳類(例えばヒト)における
、同種のドナー哺乳類から得た血液型A抗原(例えば末端N−アセチル−D−ガ
ラクトサミン基)、或いは血液型A抗原(例えば末端N−アセチル−D−ガラク
トサミン基)を産生又は提示する移植片に対する免疫寛容を促進する方法を特徴
とする。血液型糖はタイプ1又はタイプ2がある。好ましくはレシピエントは、
血液型A炭水化物の形成を促進する酵素(例えばUDP−GalNAc:Fuc
α1,2Gal−Rα1,3−GalNAcトランスフェラーゼ(EC2.4.
1.40))又は同等の活性を有する酵素を有さないか、あるいは血液型A炭水
化物(例えば末端N−アセチル−D−ガラクトサミン基)を細胞、組織又は臓器
上に産生又は提示しない。
本発明の方法は、レシピエント哺乳類に免疫寛容を誘発する血液型A炭水化物
抗原(例えば末端N−アセチル−D−ガラクトサミン基)を提供し、よって血液
型A基あるいはその基を産生又は提示する移植片に対する免疫寛容を誘発する段
階を包含する。理論に固執することを望むわけではないが、本発明者は、炭水化
物基が、血液型A反応性抗体を発生させる免疫細胞の低減を媒介していると考え
ている。
ドナーは、例えは抗原を産生又は提示させる対立遺伝子を有する又は発現する
動物であり、レシピエントは、抗原を産生又は提示させる対立遺伝子を有さない
又は発現しない動物である。
好ましい態様にあっては、血液型A炭水化物基は、レシピエント細胞を、血液
型A炭水化物基を産生又は提示するように改変したものによって産生又は提示さ
れる。改変は生体内又は生体外で行うことができる。
好ましい態様においては、血液型A炭水化物基の形成を促進する(例えば触媒
する)蛋白質(例えばUDP−GalNAc:Fucα1,2Gal−Rα1,
3−GalNAcトランスフェラーゼ(EC2.4.1.40)又は同等の活性
を有する酵素)をコードする核酸を細胞内に挿入することによって、血液型A炭
水化物基を産生又は提示するように細胞を改変する。
他の好ましい態様においては、本発明の方法の提供段階は、レシピエント哺乳
類から細胞を取り出して核酸をレシピエント哺乳類細胞に導入し、レシピエント
哺乳類細胞をレシ
ピエント哺乳類に導入する段階を包含する。
好ましい態様においては、例えばレシピエント哺乳類の細胞上に血液型A炭水
化物基の形成を促進する蛋白質(例えば酵素)に細胞を接触させることで血液型
A炭水化物基を細胞表面上に形成することによって、血液型A炭水化物基を産生
又は提示するように細胞を改変する。特に好ましい態様にあっては、基の合成又
は付加を促進する酵素(例えばUDP−GalNAc:Fucα1,2Gal−
Rα1,3−GalNAcトランスフェラーゼ(EC2.4.1.40)又は同
等の活性を有する酵素)にレシピエント細胞を接触させることで細胞表面上に血
液型A炭水化物基を付加することによって基が形成される。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは血液型A炭水化物基を
産生又は提示するレシピエント細胞を提供する前に、レシピエントの免疫系細胞
[例えば抗原反応性免疫細胞(特に血液型A炭水化物基反応性免疫細胞)]を不
活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは血液型A炭水化物基を
産生又は提示するレシピエント細胞を提供する前に、レシピエントの抗体[例え
ば抗原反応性抗体(特に血液型A炭水化物基反応性抗体)]を不活性化する段階
を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は超急性拒絶反応を阻害する。
レシピエント細胞としては、血液型A炭水化物基の提示に好適なあらゆる細胞
(例えば造血細胞)を用いることができる。成熟骨髄性及び/又はリンパ系細胞
に発達することのできる造血幹細胞(例えば骨髄細胞)が、特に好ましい。終期
の細胞を用いることもできる。レシピエントの臍帯血に由来する幹細胞を本発明
の方法に用いることができる。本発明に用いるのに好適な他の細胞としては、末
梢血球が挙げられる。好適な細胞は、血液型炭水化物基を産生又は提示し、動物
に免疫寛容を与える細胞である。理論に固執することを望むわけではないが、本
発明者は、好適なレシピエント細胞は、その発達初期において血液型炭水化物基
が免疫細胞と相互作用するように、血液型炭水化物基を産生又は提示する細胞で
あると考えている。理論に固執することを望むわけではないが、これによって血
液型A反応性抗体を誘導する、細胞の低減が可能になると考えられる。好適な細
胞は、免疫応答に対立するものとしての免疫寛容を生じる細胞である。
好ましい態様においては、本発明の方法は、レシピエントの抗血液型A炭水化
物抗体を不活性化する追加的段階を包含する。例えば、血液型A炭水化物基を産
生又は提示するレシピエント細胞をレシピエント内に導入又は形成する前に、抗
血液型A炭水化物抗体活性
を不活性化することができる。従って好ましい態様においては、本発明の方法は
、下記段階を1つ以上包含する。抗イディオタイプ抗体(例えば組み換え、モノ
クローナル、ポリクローナル、キメラ、単鎖又はヒト化抗体)、又はその断片、
特に抗血液型A炭水化物抗体を導入する段階;例えばドナー種の哺乳類から得た
臓器(肝臓、腎臓など)を血液吸着することによって、或いはレシピエントの血
液を不溶性基質に結合した血液型A炭水化物基と接触させることによって、レシ
ピエントの血液から自然抗体を低減させる段階;レシピエントに自然抗体を不活
性化する薬剤[例えばデオキシスパーグアリン(DSG)(Bristol)]
を投与する段階;又はレシピエントに抗IgM抗体を導入する段階。
好ましい態様においては、本発明の方法は第二の抗原を提供する段階、並びに
それに対する免疫寛容を誘発する段階をさらに包含する。第二の抗原は、レシピ
エント細胞を改変したものの上に産生又は提示することができる。改変した細胞
は、第一の抗体を産生又は提示する細胞と同じであってもよいし、異なる細胞で
あってもよい。一般に、レシピエントに抗原を提供するためにここで説明した方
法を用いて、第二の抗原をレシピエントに提供することができる。
好ましい態様においては、1個以上の血液型炭水化物基をレシピエントに提供
する。第二の炭水化物基はここに述べた方法によって提供することができる。
好ましい態様にあっては、本発明の方法は、ドナー哺乳類からの移植片をレシ
ピエント哺乳類へ導入する段階をさらに包含する。
他の態様においては、本発明は、レシピエント哺乳類(例えばヒト)における
、同種のドナー哺乳類から得た血液型B抗原、或いは血液型B抗原を産生又は提
示する移植片に対する免疫寛容を促進する方法を特徴とする。血液型糖はタイプ
1又はタイプ2がある。好ましくはレシピエントは、血液型B炭水化物の形成を
促進する酵素(例えばUDP−GalNAc:Fucα1,2Gal−Rα1,
3−Galトランスフェラーゼ(EC2.4.1.37))又は同等の活性を有
する酵素を有さないか、あるいは血液型B炭水化物を細胞、組織又は臓器上に産
生又は提示しない。
本発明の方法は、レシピエント哺乳類に免疫寛容を誘発する血液型B炭水化物
抗原を提供し、よって血液型B基あるいはその基を産生又は提示する移植片に対
する免疫寛容を誘発する段階を包含する。理論に固執することを望むわけではな
いが、本発明者は、炭水化物基が、血液型B反応性抗体を発生させる免疫細胞の
低減を媒介していると考えている。
ドナーは、例えば抗原を産生又は提示させる対立遺伝子を有する又は発現する
動物であり、レシピエントは、抗原を産生又は提示させる対立遺伝子を有さない
又は発現しない動物である。
好ましい態様にあっては、血液型B炭水化物基は、レシピエント細胞を、血液
型B炭水化物基を産生又は提示するように改変したものによって産生又は提示さ
れる。改変は生体内又は生体外で行うことができる。
好ましい態様においては、血液型B炭水化物基の形成を促進する(例えば触媒
する)蛋白質(例えばUDP−GalNAc:Fucα1,2Gal−Rα1,
3−Galトランスフェラーゼ(EC2.4.1.37)又は同等の活性を有す
る酵素)をコードする核酸を細胞内に挿入することによって、血液型B炭水化物
基を産生又は提示するように細胞を改変する。
他の好ましい態様においては、本発明の方法の提供段階は、レシピエント哺乳
類から細胞を取り出して核酸をレシピエント哺乳類細胞に導入し、レシピエント
哺乳類細胞をレシピエント哺乳類に導入する段階を包含する。
好ましい態様においては、例えばレシピエント哺乳類の細胞上に血液型B炭水
化物基の形成を促進する蛋白質(例えば酵素)に細胞を接触させることで血液型
B炭水化物基を細胞表面上に形成することによって、血液型B炭水化物基を産生
又は提示するように細胞を改変する。特に好ましい態様にあっては、基の合成又
は付加を促進する酵素(例えばUDP−GalNAc:Fucα1,2Gal−
Rα1,3−Galトランスフェラーゼ(EC2.4.1.37)又は同等の活
性を有する酵素)にレシピエント細胞を接触させることで細胞表面上に血液型B
炭水化物基を付加することによって基が形成される。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは血液型B炭水化物基を
産生又は提示するレシピエント細胞を提供する前に、レシピエントの免疫系細胞
[例えば抗原反応性免疫細胞(特に血液型B炭水化物基反応性免疫細胞)]を不
活性化する段階を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は、好ましくは血液型B炭水化物基を
産生又は提示するレシピエント細胞を提供する前に、レシピエントの抗体[例え
ば抗原反応性抗体(特に血液型B炭水化物基反応性抗体)]を不活性化する段階
を包含する。
好ましい態様においては、本発明の方法は超急性拒絶反応を阻害する。
レシピエント細胞としては、血液型B炭水化物基の提示に好適なあらゆる細胞
(例えば
造血細胞)を用いることができる。成熟骨髄性及び/又はリンパ系細胞に発達す
ることのできる造血幹細胞(例えば骨髄細胞)が、特に好ましい。終期の細胞を
用いることもできる。レシピエントの臍帯血に由来する幹細胞を本発明の方法に
用いることができる。本発明に用いるのに好適な他の細胞としては、末梢血球が
挙げられる。好適な細胞は、血液型炭水化物基を産生又は提示し、動物に免疫寛
容を与える細胞である。理論に固執することを望むわけではないが、本発明者は
、好適なレシピエント細胞は、その発達初期において血液型炭水化物基が免疫細
胞と相互作用するように、血液型炭水化物基を産生又は提示する細胞であると考
えている。理論に固執することを望むわけではないが、これによって血液型B反
応性抗体を誘導する、細胞の低減が可能になると考えられる。好適な細胞は、免
疫応答に対立するものとしての免疫寛容を生じる細胞である。
好ましい態様においては、本発明の方法は、レシピエントの抗血液型B炭水化
物抗体を不活性化する追加的段階を包含する。例えば、血液型B炭水化物基を産
生又は提示するレシピエント細胞をレシピエント内に導入又は形成する前に、抗
血液型B炭水化物抗体活性を不活性化することができる。従って好ましい態様に
おいては、本発明の方法は、下記段階を1つ以上包含する。抗イディオタイプ抗
体(例えば組み換え、モノクローナル、ポリクローナル、キメラ、単鎖又はヒト
化抗体)、又はその断片、特に抗血液型B炭水化物抗体を導入する段階;例えば
ドナー種の哺乳類から得た臓器(肝臓、腎臓など)を血液吸着することによって
、或いはレシピエントの血液を不溶性基質に結合した血液型B炭水化物基と接触
させることによって、レシピエントの血液から自然抗体を低減させる段階;レシ
ピエントに自然抗体を不活性化する薬剤[例えばデオキシスパーグアリン(DS
G)(Bristol)]を投与する段階;又はレシピエントに抗IgM抗体を
導入する段階。
好ましい態様においては、本発明の方法は第二の抗原を提供する段階、並びに
それに対する免疫寛容を誘発する段階をさらに包含する。第二の抗原は、レシピ
エント細胞を改変したものの上に産生又は提示することができる。改変した細胞
は、第一の抗体を産生又は提示する細胞と同じであってもよいし、異なる細胞で
あってもよい。一般に、レシピエントに抗原を提供するためにここで説明した方
法を用いて、第二の抗原をレシピエントに提供することができる。
好ましい態様においては、1個以上の血液型炭水化物基をレシピエントに提供
する。第二の炭水化物基はここに述べた方法によって提供することができる。
好ましい態様にあっては、本発明の方法は、ドナー哺乳類からの移植片をレシ
ピエント哺乳類へ導入する段階をさらに包含する。
他の態様においては、本発明は、レシピエント哺乳類(例えばヒト)における
、同種のドナー哺乳類から得た血液型H抗原、或いは血液型H抗原を産生又は提
示する移植片に対する免疫寛容を促進する方法を特徴とする。血液型糖はタイプ
1又はタイプ2がある。好ましくはレシピエントは、血液型H炭水化物の形成を
促進する酵素(例えばGDP−Fuc:βガラクトシドα2−Fucトランスフ
ェラーゼ(EC2.4.1.69))又は同等の活性を有する酵素を有さないか
、あるいは血液型H炭水化物を細胞、組織又は臓器上に産生又は提示しない。
本発明の方法は、レシピエント哺乳類に免疫寛容を誘発する血液型H炭水化物
抗原を提供し、よって血液型H基あるいはその基を産生又は提示する移植片に対
する免疫寛容を誘発する段階を包含する。理論に固執することを望むわけではな
いが、本発明者は、炭水化物基が、血液型H反応性抗体を発生させる免疫細胞の
低減を媒介していると考えている。
ドナーは、例えば、抗原の産生又は提示を生じる対立遺伝子を有し又は発現す
る動物であってよく、レシピエントは、抗原の産生又は提示を生じる対立遺伝子
を欠き又は発現し得ない動物であってよい。
好適具体例においては、血液型H糖質部分を、レシピエントの改変された細胞
上に生成し又は提示する(この細胞は、血液型H糖質部分を産生し又は提示する
ように改変されている)。この細胞は、イン・ビボでもイン・ビトロでも改変す
ることができる。
好適具体例において:この細胞を改変して、血液型H糖質部分の形成を促進す
る(例えば、触媒する)蛋白質例えばGDP−Fuc:βガラクトシドα2−Fu
c−トランスフェラーゼ(EC2.4.1.69)又は同等の活性の酵素をコード
する核酸をこの細胞に挿入することにより、血液型H糖質部分を産生し又は提示
する。
他の好適具体例において、この方法の準備のステップは:レシピエントの哺乳
動物からレシピエント哺乳動物細胞を取り出してから、核酸をそのレシピエント
哺乳動物細胞に導入し、そしてそのレシピエント哺乳動物細胞をそのレシピエン
ト哺乳動物に投与することを含む。
好適具体例において:この細胞を修飾して、血液型H糖質部分を、レシピエン
ト哺乳動物の細胞表面に血液型H糖質部分を形成することにより(例えば、この
細胞をその細胞表面上に血液型H糖質部分の形成を促進する蛋白質例えば酵素と
接触させることにより)生成し又は提示する。特に好適な具体例においては、こ
の部分を、血液型H糖質をレシピエント細胞表面に、その細胞をその部分の合成
又は付着を促進する酵素例えばGDP−Fuc:βガラクトシドα2−Fuc−
トランスフェラーゼ(EC2.4.1.69)又は同等の活性の酵素と接触させる
ことによって加えることにより形成する。
好適具体例において、この方法は、レシピエントの免疫系細胞例えば抗原反応
性細胞例えば血液型H糖質部分と反応性の免疫細胞を不活性化する(好ましくは
、血液型H糖質部分を産生し又は提示するレシピエント細胞を用意する前に不活
性化する)ことを含む。
好適具体例において、この方法は:レシピエントの抗体例えば抗原反応性抗体
例えば血液型H糖質反応性抗体を不活性化する(好ましくは、血液型H糖質部分
を産生し又は提示するレシピエント細胞を用意する前に不活性化する)ことを含
む。
好適具体例において、この方法は、超急性拒絶反応を阻止する。
レシピエント細胞は、血液型H糖質部分の提示に適した任意の細胞例えば造血
細胞であってよい。成熟骨髄性及び/又はリンパ性細胞に発生し得る造血幹細胞
例えば骨髄細胞は、特に好適である。もっと遅いステージの細胞を用いることが
できることはあり得る。レシピエントの臍帯血に由来する幹細胞をこの発明の方
法において用いることができる。この発明で用いるのに適した他の細胞には、末
梢血液細胞が含まれる。適当な細胞は、血液型糖質部分を産生し又は提示するこ
とができそして動物を寛容化することのできるものである。理論に束縛されるこ
とは望まないが、本発明者は、適当なレシピエントの細胞は、血液型糖質部分を
、その部分が発生の早期ステージにおいて免疫細胞と相互作用することができる
ように産生又は提示する細胞であると考える。理論に束縛されることは望まない
が、これは、血液型H反応性抗体を生じる細胞の消去を与えることであると考え
られる。適当な細胞は、免疫応答に対抗する寛容を生じるものである。
好適具体例において、この方法は、レシピエントの抗血液型H糖質抗体を不活
性化する更なるステップを含む。例えば、抗血液型H糖質抗体の活性を、血液型
H糖質部分を産生し又は提示するレシピエント細胞のレシピエントへの導入又は
レシピエントにおける形成の前に不活性化することができる。従って、好適具体
例において、この方法は、抗血液型H糖質抗体に特異的な抗イディオタイプ抗体
(例えば、組換えの、モノクローナルの、ポリクローナルの、キメラの、一本鎖
の又はヒト化した抗体)又はこれらの断片を投与すること;自然抗体をレシピエ
ントの血液中から、例えばドナー種の哺乳動物から得た臓器(例えば、肝臓又は
腎臓)の灌流により又はレシピエントの血液を不溶性基質に結合した血液型H部
分と接触させることによって涸渇させること;レシピエントに自然抗体を不活性
化する薬物例えばデオキシスパガリン(DSG)(Bristol)を投与すること;又は
レシピエントに抗IgM抗体を投与することの少なくとも1つを含む。
好適具体例において、この方法は、更に、レシピエントに、第2の抗原を準備
させ、該抗原に対する寛容を誘導することを含む。この抗原は、レシピエントの
改変された細胞により産生され又は提示され得る。この改変された細胞は、第1
の抗原を産生し又は提示する細胞と同じであっても異なる細胞であってもよい。
一般に、レシピエントに抗原を与えるためにここに記載した方法は、第2の抗原
をレシピエントに与えるために用いることができる。
好適具体例において、一種類より多くの血液型糖質部分をレシピエントに与え
る。第2の糖質部分を、ここに記載した方法によって与えることができる。
好適具体例において、この方法は、更に、ドナー哺乳動物からの移植片をレシ
ピエンド哺乳動物に導入することを含む。
他の面において、この発明は、レシピエント哺乳動物、例えばヒトにおいて、
血液型Le糖質抗原又は血液型Le部分を産生し若しくは提示する移植片に対す
る寛容を促進する方法を特徴とする。好ましくは、レシピエントは、血液型Le
糖質の形成を促進する酵素を有さず(例えば、GDP−Fuc:Galβ1,3
/4GlcNAc−Rα4/3Fucトランスフェラーゼ(EC2.4.1.6
5)又は同等の活性の酵素を発現しない)、又はその細胞、組織若しくは臓器上に
血液型Le糖質部分を産生若しくは提示しない。
この方法は、下記を含む:
レシピエント哺乳動物に寛容誘導性血液型Le糖質抗原を与え、それにより、
血液型Le部分に対する又はその部分を産生し若しくは提示する移植片に対する
寛容を誘導する。理論に束縛されることは望まないが、本発明者は、この糖質部
分が血液型Le反応性抗体を生じる免疫細胞の消失を媒介すると考える。
ドナーは、例えば、抗原の産生又は提示を生じる対立遺伝子を有し又は発現す
る動物であってよく、レシピエントは、抗原の産生又は提示を生じる対立遺伝子
を欠き又は発現できない動物であってよい。
好適具体例において、血液型Le糖質部分は、レシピエントの改変された細胞
において産生され又は提示される(この細胞は、血液型Le糖質部分を産生し又
は提示するように改変されている)。この細胞は、イン・ビボ又はエキス・ビボ
で、改変することができる。
好適具体例において:この細胞は、血液型Le糖質部分の形成を促進する(例
えば、触媒する)蛋白質例えばGDP−Fuc:Galβ1,3/4GlcNA
c−Rα4/3Fucトランスフェラーゼ(EC2.4.1.65)又は同等の活
性の酵素をコードする核酸をその細胞に挿入することによって、血液型Le糖質
部分を産生し又は提示するように改変される。
他の好適具体例において、この方法の準備のステップは:レシピエント哺乳動
物細胞をそのレシピエント哺乳動物から、核酸をそのレシピエント哺乳動物細胞
に導入する前に取り出すこと及びそのレシピエント哺乳動物細胞をそのレシピエ
ント哺乳動物に投与することを含む。
好適具体例においては:この細胞を、血液型Le糖質部分をレシピエント哺乳
動物細胞表面に形成することにより、例えば、この細胞を、その細胞表面上での
血液型Le糖質部分の形成を促進する蛋白質例えば酵素と接触させることによっ
て、血液型Le糖質部分を産生し又は提示するように改変する。特に好適な具体
例において、この部分は、血液型Le糖質を、この細胞をこの部分の合成又は付
着を促進する酵素例えばGDP−Fuc:Galβ1,3/4GlcNAc−R
α4/3Fucトランスフェラーゼ(EC2.4.1.65)又は同等の活性の酵
素と接触させることによってレシピエント細胞表面に加えることにより形成され
る。
好適具体例において、この方法は、レシピエントの免疫系細胞例えば抗原反応
性免疫細胞例えば血液型Le糖質部分と反応性の免疫細胞を不活性化する(好ま
しくは、血液型Le糖質部分を産生し又は提示するレシピエント細胞を用意する
前に不活性化する)ことを含む。
好適具体例において、この方法は:レシピエントの抗体例えば抗原反応性抗体
例えば血液型Le糖質反応性抗体を不活性化する(好ましくは、血液型Le糖質
部分を産生し又は提示するレシピエント細胞を用意する前に不活性化する)こと
を含む。
好適具体例において、この方法は、超急性拒絶反応を阻止する。
このレシピエント細胞は、血液型Le糖質部分の提示に適した任意の細胞例え
ば造血細胞であってよい。成熟骨髄性及び/又はリンパ性細胞に発生し得る造血
幹細胞例えば骨髄細胞は、特に好適である。もっと遅いステージの細胞を用いる
ことができることはあり得る。レシピエントの臍帯血に由来する幹細胞をこの発
明の方法において用いることができる。この発明で用いるのに適した他の細胞に
は、末梢血液細胞が含まれる。適当な細胞は、血液型糖質部分を産生し又は提示
することができそして動物を寛容化することのできるものである。理論に束縛さ
れることは望まないが、本発明者は、適当なレシピエントの細胞は、血液型糖質
部分を、その部分が発生の早期ステージにおいて免疫細胞と相互作用することが
できるように産生又は提示する細胞であると考える。理論に束縛されることは望
まないが、これは、血液型Le反応性抗体を生じる細胞の消去を与えることであ
ると考えられる。適当な細胞は、免疫応答に対抗する寛容を生じるものである。
好適具体例において、この方法は、レシピエントの抗血液型Le糖質抗体を不
活性化する更なるステップを含む。例えば、抗血液型Le糖質抗体の活性を、血
液型Le糖質部分を産生し又は提示するレシピエント細胞のレシピエントへの導
入又はレシピエントにおける形成の前に不活性化することができる。従って、好
適具体例において、この方法は、抗血液型Le糖質抗体に特異的な抗イディオタ
イプ抗体(例えば、組換えの、モノクローナルの、ポリクローナルの、キメラの
、一本鎖の又はヒト化した抗体)又はこれらの断片を投与すること;自然抗体を
レシピエントの血液中から、例えばドナー種の哺乳動物から得た臓器(例えば、
肝臓又
は腎臓)の灌流により又はレシピエントの血液を不溶性基質に結合した血液型L
e部分と接触させることによって涸渇させること;レシピエントに自然抗体を不
活性化する薬物例えばデオキシスパガリン(DSG)(Bristol)を投与すること;
又はレシピエントに抗IgM抗体を投与することの少なくとも1つを含む。
好適具体例において、この方法は、更に、レシピエントに、第2の抗原を準備
させ、該抗原に対する寛容を誘導することを含む。この抗原は、レシピエントの
改変された細胞により産生され又は提示され得る。この改変された細胞は、第1
の抗原を産生し又は提示する細胞と同じであっても異なる細胞であってもよい。
一般に、レシピエントに抗原を与えるためにここに記載した方法は、第2の抗原
をレシピエントに与えるために用いることができる。
好適具体例において、一種類より多くの血液型糖質部分をレシピエントに与え
る。第2の糖質部分を、ここに記載した方法によって与えることができる。
好適具体例において、この方法は、更に、ドナー哺乳動物からの移植片をレシ
ピエント哺乳動物に導入することを含む。
他の面において、この発明は、レシピエント哺乳動物、例えばヒトにおいて、
血液型I糖質抗原又は血液型I部分を産生し若しくは提示する移植片に対する寛
容を促進する方法を特徴とする。好ましくは、レシピエントは、血液型I糖質の
形成を促進する酵素を有さず(例えば、UDP−GlcNAc:GlcNAcβ
1,3Galβ1,4GlcNAc−Rβ6−GlcNAcトランスフェラーゼ
(EC2.4.1.65)又は同等の活性の酵素を発現しない)、又はその細胞、
組織若しくは臓器上に血液型I糖質部分を産生若しくは提示しない。
この方法は、下記を含む:
レシピエント哺乳動物に寛容誘導性血液型I糖質抗原を与え、それにより、血
液型I部分に対する又はその部分を含む移植片に対する寛容を誘導する。理論に
束縛されることは望まないが、本発明者は、この糖質部分が血液型I反応性抗体
を生じる免疫細胞の消失を媒介すると考える。
ドナーは、例えば、抗原の産生又は提示を生じる対立遺伝子を有し又は発現す
る動物であってよく、レシピエントは、抗原の産生又は提示を生じる対立遺伝子
を欠き又は発現できない動物であってよい。
好適具体例において、血液型I糖質部分は、レシピエントの改変された細胞に
おいて産生され又は提示される(この細胞は、血液型I糖質部分を産生し又は提
示するように改変されている)。この細胞は、イン・ビボ又はエキス・ビボで、
改変することができる。
好適具体例において:この細胞は、血液型I糖質部分の形成を促進する(例え
ば、触媒する)蛋白質例えばUDP−G1cNAc:GlcNAcβ1,3Ga
lβ1,4G1cNAc−Rβ6−GlcNAcトランスフェラーゼ又は同等の
活性の酵素をコードする核酸をその細胞に挿入することによって、血液型I糖質
部分を産生し又は提示するように改変される。
他の好適具体例において、この方法の準備のステップは:レシピエント哺乳動
物細胞をそのレシピエント哺乳動物から、核酸をそのレシピエント哺乳動物細胞
に導入する前に取り出すこと及びそのレシピエント哺乳動物細胞をそのレシピエ
ント哺乳動物に投与することを含む。
好適具体例においては:この細胞を、血液型I糖質部分をレシピエント哺乳動
物細胞表面に形成することにより、例えば、この細胞を、その細胞表面上での血
液型I糖質部分の形成を促進する蛋白質例えば酵素と接触させることによって、
血液型I糖質部分を産生し又は提示するように改変する。特に好適な具体例にお
いて、この部分は、血液型I糖質を、この細胞をこの部分の合成又は付着を促進
する酵素例えばUDP−GlcNAc:GlcNAcβ1,3Galβ1,4G
lcNAc−Rβ6−GlcNAcトランスフェラーゼ又は同等の活性の酵素と
接触させることによってレシピエント細胞表面に加えることにより形成される。
好適具体例において、この方法は、レシピエントの免疫系細胞例えば抗原反応
性免疫細胞例えば血液型I糖質部分と反応性の免疫細胞を不活性化する(好まし
くは、血液型I糖質部分を産生し又は提示するレシピエント細胞を用意する前に
不活性化する)ことを含む。
好適具体例において、この方法は:レシピエントの抗体例えば抗原反応性抗体
例えは血液型I糖質反応性抗体を不活性化する(好ましくは、血液型I糖質部分
を産生し又は提示するレシピエント細胞を用意する前に不活性化する)ことを含
む。
好適具体例において、この方法は、超急性拒絶反応を阻止する。
このレシピエント細胞は、血液型I糖質部分の提示に適した任意の細胞例えば
造血細胞であってよい。成熟骨髄性及び/又はリンパ性細胞に発生し得る造血幹
細胞例えば骨髄細胞は、特に好適である。もっと遅いステージの細胞を用いるこ
とができることはあり得る。レシピエントの臍帯血に由来する幹細胞をこの発明
の方法において用いることができる。この発明で用いるのに適した他の細胞には
、末梢血液細胞が含まれる。適当な細胞は、血液型糖質部分を産生し又は提示す
ることができそして動物を寛容化することのできるものである。理論に束縛され
ることは望まないが、本発明者は、適当なレシピエントの細胞は、血液型糖質部
分を、その部分が発生の早期ステージにおいて免疫細胞と相互作用することがで
きるように産生又は提示する細胞であると考える。理論に束縛されることは望ま
ないが、これは、血液型I反応性抗体を生じる細胞の消去を与えることであると
考えられる。適当な細胞は、免疫応答に対抗する寛容を生じるものである。
好適具体例において、この方法は、レシピエントの抗血液型I糖質抗体を不活
性化する更なるステップを含む。例えば、抗血液型I糖質抗体の活性を、血液型
I糖質部分を産生し又は提示するレシピエント細胞のレシピエントへの導入又は
レシピエントにおける形成の前に不活性化することができる。従って、好適具体
例において、この方法は、抗血液型I糖質抗体に特異的な抗イディオタイプ抗体
(例えば、組換えの、モノクローナルの、ポリクローナルの、キメラの、一本鎖
の又はヒト化した抗体)又はこれらの断片を投与すること;自然抗体をレシピエ
ントの血液中から、例えばドナー種の哺乳動物から得た臓器(例えば、肝臓又は
腎臓)の灌流により又はレシピエントの血液を不溶性基質に結合した血液型I部
分と接触させることによって涸渇させること;レシピエントに自然抗体を不活性
化する薬物例えばデオキシスパガリン(DSG)(Bristol)を投与すること;又は
レシピエントに抗IgM抗体を投与することの少なくとも1つを含む。
好適具体例において、この方法は、更に、レシピエントに、第2の抗原を準備
させ、該抗原に対する寛容を誘導することを含む。この抗原は、レシピエントの
改変された細胞により産生され又は提示され得る。この改変された細胞は、第1
の抗原を産生し又は提示する細胞と同じであっても異なる細胞であってもよい。
一般に、レシピエントに抗原を与えるためにここに記載した方法は、第2の抗原
をレシピエントに与えるために用いることができる。
好適具体例において、一種類より多くの血液型糖質部分をレシピエントに与え
る。第2の糖質部分を、ここに記載した方法によって与えることができる。
好適具体例において、この方法は、更に、ドナー哺乳動物からの移植片をレシ
ピエント哺乳動物に導入することを含む。
他の面において、この発明は、自然抗体に対する抗イディオタイプ抗体(例え
ば、組換えの、モノクローナルの、ポリクローナルの、キメラの、一本鎖の又は
ヒト化した抗体)又はその断片を投与することにより異種移植片の表面に見出さ
れる抗原例えば移植片上の糖質部分例えばガラクトシルα(1,3)ガラクトース
部分例えばガラクトシルα(1,3)ガラクトース部分に結合するレシピエントの
自然の抗体を不活性化し、それにより、超急性拒絶を阻止する方法を特徴とする
。
好適具体例において、この方法は、更に、移植片例えば腎臓、肝臓、心臓又は
造血幹細胞集団をレシピエントに移植することを含む。
好適具体例において、レシピエントはヒトであり、移植片はブタ例えばミニブ
タからのものである。
好適具体例において、この方法は、超急性拒絶反応を阻止する。
他の面において、この発明は、ブタ細胞表面に存在する抗原(この抗原に対し
てヒトが自然抗体を生じる)例えば糖質例えばガラクトシルα(1,3)ガラクト
ース部分と反応する自然抗体に対する抗イディオタイプモノクローナル抗体(例
えば、組換えの、モノクローナルの、ポリクローナルの、キメラの、一本鎖の又
はヒト化した抗体)又はその断片を特徴とする。
他の面において、この発明は、糖質部分、ガラクトシルα(1,3)ガラクトー
ス部分と反応する抗体に対する抗イディオタイプモノクローナル抗体(例えば、
組換えの、モノクローナルの、ポリクローナルの、キメラの、一本鎖の又はヒト
化した抗体)又はその断片の精製された調製物を特徴とする。
ここに記載した方法は又、レシピエント細胞又は移植片に対する受容を促進し
又は寛容を誘導するための他のステップをも包含する。
他の好適な具体例は:好ましくは、レシピエント細胞移植の前に、造血空間を
レシピエント中に造ることを包む。レシピエントへの、処理した或いは改変した
自己細胞の再導入を、造血空間を造ることによって最適化することができる。造
血空間は、骨髄を涸渇させる抗体又は薬物の投与により、例えば細胞増殖のイン
ヒビター例えばDSG又は代謝拮抗剤例えばブレキナー(Brequinar)又は抗T細
胞抗体、例えば抗CD4若しくは抗CD8抗体の一方若しくは両方の投与によっ
て造ることができる。造血空間は又、レシピエントの哺乳動物を低線量の例えば
約100〜400ラドの照射(レシピエントの骨髄を涸渇させ又は部分的に涸渇
させる全身照射)によっても造ることができる。造血空間を造ることは、レシピ
エントの骨髄をすべて除去するのではなく、混合キメリズムを生成する。造血空
間の必要性を、レシピエントにおいて胸腺空間を造ることによって最小にするこ
とができる。
他の好適具体例は:レシピエント中に胸腺空間を、例えばレシピエントの胸腺
を照射することにより、例えば100〜1,000ラドの一層好ましくは300
〜700ラド(例えば、700ラド)の胸腺照射を施すことにより、又は抗T細胞
抗体を十分な投与量で投与して胸腺細胞を不活性化することによって造るステッ
プを包含する。胸腺空間を造るための他の方法は:ステロイド、コルチコステロ
イド、ブレキナー又は免疫抑制剤例えばラパマイシン、シクロスポリン若しくは
FK506の投与を含む。胸腺空間を造る方法は、暫定的米国特許出願60/0
17,099号に開示されており、本明細書中に参考として援用する。ここに開
示した方法は、米国特許出願60/017,099号に開示された方法と合わせ
ることができる。
好適具体例において、この方法は:レシピエントの免疫系細胞例えば異種反応
性免疫細胞を不活性化することを含む。免疫系細胞には、胸腺細胞、T細胞、B
細胞及びNK細胞が含まれる。
他の好適具体例において、この方法は:レシピエントのT細胞例えば異種反応
性T細胞を、例えば、レシピエント細胞又は移植片をレシピエント哺乳動物に導
入する前に、そのレシピエント哺乳動物にそのT細胞に結合することのできる抗
体を導入することによって不活性化することを含む。
好適具体例において、この方法は:レシピエント哺乳動物の自然のキラー細胞
例えば異種反応性NK細胞を、例えば、これらの細胞又は移植片をレシピエント
哺乳動物に導入する前に、そのレシピエント哺乳動物にそのナチュラルキラー細
胞に結合することのできる抗体を導入することによって不活性化することを含む
。
抗NK抗体の一の起源は、抗ヒト胸腺細胞ポリクローナル抗血清である。T細
胞並びにNK細胞を不活性化する第2の抗成熟T細胞抗体をも投与することがで
きる。T細胞の涸渇、不活性化は、骨髄及び異種移植片の生存の両方に好都合で
ある。抗T細胞抗体は、抗胸腺細胞抗血清中に抗NK抗体と共に存在する。抗N
K又は抗T細胞抗体の反復投与は、好適であり得る。モノクローナル調製物をこ
の発明の方法において用いることができる。
ここに記載した方法は、1994年6月27日出願の米国特許出願第08/2
66,427号に記載された寛容を誘導する方法(その内容を参考として、明白
に本明細書中に援用する)と組み合わせることができる。従って、ここに記載し
た方法は、ドナーのMHCクラスI遺伝子又はドナーのMHCクラスII遺伝子(
又は、両方)を発現するレシピエント細胞をレシピエントに投与することを含む
ことができる。このドナーのMHC遺伝子を発現する細胞は、ガラクトシルα(
1,3)ガラクトース部分を発現する細胞と同じであっても異なる細胞であって
もよい。
好適具体例において、補助の軽減処置の短期コースを用いて、レシピエント細
胞又は移植片に寛容を誘導することができる。特に、1995年6月1日出願の
米国特許出願第08/458,720号に記載の方法(その内容を参考として明
白に本明細書中に援用する)は、ここに記載した方法と組み合わせることができ
る。
好適具体例において、免疫抑制剤の短期コースを施して、レシピエントにおけ
るT細胞活性を阻止することができる。特に、1995年6月1日出願の米国特
許出願第08/458,720号に記載された方法(その内容を参考として明白
に本明細書中に援用する)は、ここに記載の方法と組み合わせることができる。
ここに記載した方法により寛容を誘導する方法は又、更に別の寛容を誘導する
方法例えば:寛容を誘導するためのドナーの幹細胞の移植を利用する方法例えば
1995年5月26日出願の米国特許出願第08/451,210号に記載され
た方法(その内容を参考として明白に本明細書中に援用する);遺伝子工学的に処
理されたブタ例えば1994年8月19日出願の米国特許出願第08/292,
565号(その内容を参考として明白に本明細書中に援用する)又は1996年8
月2日出願の米国特許出願第08/692,853号(その内容を参考として明
白に本明細書中に援用する)中の遺伝子工学的に処理されたブタに由来する幹細
胞又は他の組織を利用する方法;寛容を誘導するために異種の胸腺移植片の移植
を利用する方法例えば1993年12月7日出願の米国特許出願第08/163
,912号に記載された方法(その内容を参考として明白に本明細書中に援用す
る);寛容を促進し若しくはGVHDを阻止するサイトカインの活性レベルを上
げるか又は寛容を阻害し若しくはGVHDを促進するサイトカインの活性レベル
を減じる方法例えば1993年8月30日出願の米国特許第08/114,07
2号に記載された方法(その内容を参考として明白に本明細書中に援用する);と
組み合わせることもできる。請帯血細胞を利用して寛容を誘導する方法例えば1
993年11月10日出願の米国特許出願第08/150,739号に記載され
た方法(その内容を参考として明白に本明細書中に援用する);GVHDを防止す
る方法例えば1995年6月5日出願の米国特許出願第08/461,693号
に記載された方法(その内容を参考として明白に本明細書中に援用する);胸腺の
機能を増強し又は維持することにより寛容を促進する方法例えば1994年8月
26日出願の米国特許第08/297,291号に記載された方法(その内容を
参考として明白に本明細書中に援用する);ブタレトロウイルス配列の存在を検
出する方法例えば1995年12月14日出願の米国特許第08/572,64
5号又は1996年12月13日出願の継続米国特許出願第08/572,64
5号に記載された方法(これらの内容を参考として明白に本明細書中に援用する)
;及びSykes及びSachsの1994年2月14日出願のPCT/US94/016
16(その内容を参考として明白に本明細書中に援用する)に開示された寛容を誘
導する方法と組み合わせることもできる。
他の面において、この発明は、自己抗原に対する好ましくない抗体により特徴
付けられる病気を有する患者の哺乳動物例えばヒトの治療方法を特徴とする。こ
の方法は:
その哺乳動物に、寛容を誘導する自己抗原例えば糖質部分、蛋白質又はペプチ
ドを与え、それにより、この自己抗原に対する寛容を誘導することを含む。理論
に束縛されることは望まないが、本発明者は、自己抗原が、自己抗原反応性の抗
体を生じる免疫細胞の涸渇を媒介すると考えている。
好適具体例において、患者はヒトであり、自己抗原は、糖尿病、MS、狼瘡又
は関節炎を媒介するものである。
好適具体例において、自己抗原は、患者の改変された細胞上に産生され又は提
示される(この細胞は、自己抗原を産生し又は提示するように改変されている)。
この細胞は、イン・ビボ(レシピエントの身体内)で例えばイン・ビボ遺伝子治療
により又はこの細胞を改変する薬剤でのイン・ビボ処理により、又はエキス・ビ
ボで(患者の身体から取り出して)改変することができる。この細胞は、自己抗原
をコードする(又は、自己抗原の産生又は提示を促進する)核酸をその細胞中に、
その細胞が自己抗原を産生し又は提示するように挿入することにより改変するこ
とができる。この細胞を改変して、糖質部分の形成を促進する(例えば、触媒す
る)蛋白質をコードする核酸をこの細胞に挿入することにより、糖質部分を産生
又は提示させることができる。このコードされる蛋白質は、細胞の表面に糖質部
分の形成を生じる酵素であってよい。特に好適な具体例において、コードされる
蛋白質は、この部分を、末端糖残基を細胞表面分子上に既に存在している糖残基
に加えることにより形成する。
この細胞を改変して、自己抗原例えば蛋白質又は糖質部分を、レシピエント哺
乳動物の細胞表面において若しくは該表面上で自己抗原例えば蛋白質又は糖質部
分を形成し又は自己抗原を患者の細胞に例えばその細胞をその細胞の表面に自己
抗原例えば糖質部分の形成を生じる蛋白質例えば酵素に接触させることにより付
着させることにより又は自己抗原をその細胞に接着若しくは付着させることによ
り、産生し又は提示することができる。特に好適な具体例において、この蛋白質
は、この部分を、末端糖残基を細胞表面分子上に既に存在する糖残基に加えるこ
とによって形成する。
好適具体例において、この細胞を患者から取り出し、それが自己抗原を産生し
又は提示するように改変し、そしてレシピエントに移植する。
好適具体例において、この方法は:好ましくは寛容を誘導する自己抗原を与え
る前に、レシピエントの免疫系細胞例えば自己抗原反応性免疫細胞を不活性化す
ることを含む。
好適具体例において、この方法は:好ましくは寛容を誘導する自己抗原を与え
る前に、レシピエントの抗体例えば自己抗原反応性抗体例えば糖質部分と反応す
る抗体を不活性化することを含む。
好適具体例において、この方法は、更に、レシピエントに第2の自己抗原例え
ば糖質部分、蛋白質又はペプチドを与えること(及び、該抗原に対する寛容を誘
導すること)を含む。この第2の自己抗原は、レシピエントの改変された細胞に
よって産生され得るものであり、又は該細胞上に提示され得る。この改変された
細胞は、第1の自己抗原を産生し又は提示する細胞と同じであっても異なる細胞
であってもよい。一般に、ここに記載したレシピエントに対する自己抗原を与え
る方法を用いて、そのレシピエントに対する第2の自己抗原を与えることができ
る。
「抗原」は、ここでは、レシピエントの免疫系により非自己と認識され得る分
子として用い、蛋白質及び糖質例えば糖蛋白質又は糖脂質において見出される糖
質を包含する。好適な抗原は、ヒトにおいて自然抗体と反応するものである。
「細胞表面上のガラクトシルα(1,3)ガラクトース部分の形成」は、ガラク
トシルα(1,3)ガラクトース部分を細胞表面に提示する細胞生じるプロセスを
いう。形成は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース部分の細胞表面への付着(
好ましくは、共有結合による修飾による)又は該部分の酵素的形成を含み得る。
「ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープ」は、ここで用いる場合、
Gal(1−3)βGal(1−4)βGlcNAc又はαGal(1−3)βGal
(1−4)βGlc構造のガラクトシルα(1,3)ガラクトース構造上に全体的に
又は部分的に位置されたエピトープをいう。
「ガラクトシルα(1,3)ガラクトース部分」は、ここで用いる場合、ガラク
トシルα(1,3)ガラクトース構造例えばαGal(1−3)βGal(1−4)β
GlcNAc又はαGal(1−3)βGal(1−4)βGlc構造中に見出され
るものをいう。
「α(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ例えばβ−D−ガラクトシル−
1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα(1,3)ガラクトシルトランスフ
ェラーゼ活性は、ここで用いる場合、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース部分
を形成する酵素活性をいう。B血液型抗原を形成する酵素活性は、この定義によ
りカバーされない。
「移植片」は、ここで用いる場合、身体の部分、臓器、組織又は細胞をいう。
移植片は、臓器例えば肝臓、腎臓、心臓又は肺;身体の部分例えば骨又は骨格マ
トリクス;組織例えば皮膚、腸管、内分泌腺、胸腺組織;又は種々の型の前駆幹
細胞よりなってよい。
「抗体(又は抗体応答)の不活性化」は、患者中の同起源のエピトープに結合し
得る抗体特に異種反応性抗体例えばガラクトシルα(1,3)ガラクトース部分と
反応性の抗体の数を減じる処理をいう。不活性化は:患者の血液を抗体の血液か
らの除去を与える試薬例えばアフィニティーマトリクスに接触させることによる
抗体の患者からの除去;抗体の産生を促進する免疫細胞の不活性化;及び抗体を
抗イディオタイプ抗体と接触させることによる抗体の阻害を含む。
「免疫細胞の不活性化」は、患者中の活性な免疫細胞例えば胸腺細胞、T細胞
、B細胞又はNK細胞の数を減じる処理をいう。不活性化は:患者の血液からの
除去;免疫細胞例えばT若しくはB細胞の、例えば細胞増殖を阻止するような薬
物例えばDSG若しくは代謝拮抗剤例えばブレキナーの投与による一時的若しく
は恒久的な阻害;抗免疫細胞抗体例えば抗T細胞抗体例えば抗CD4若しくは抗
CD8抗体の一方若しくは両方、抗B細胞抗体又は抗NK細胞抗体の投与による
免疫細胞の一時的若しくは恒久的な阻害を含む。
「リンパ節又は胸腺T細胞」は、ここで用いる場合、T細胞不活性化の慣用法
による不活性化例えば抗T細胞抗体例えばATG調製物の単一の静脈投与による
不活性化に耐性であるT細胞をいう。
「MHC抗原」は、ここで用いる場合、1つ以上のMHC遺伝子の蛋白質産物
をいい、この用語は、レシピエント生物において免疫応答を引き起こすことので
きるMHC遺伝子産物の断片又はアナログを包含する。MHC抗原の例には、ヒ
トのMHC遺伝子即ちHLA遺伝子の産物(及びその断片又はアナログ)が含まれ
る。ブタ例えばミニブタのMHC抗原には、SLA遺伝子例えばDRB遺伝子の
産物(及びその断片及びアナログ)が含まれる。
「ミニブタ」は、ここで用いる場合、少なくとも1つのMHC遺伝子座につい
て、好ましくは完全に又は部分的に同系交配の小型のブタをいう。ミニブタを与
える集団の同系交配率は、少なくとも0.70であるべきであり、一層好ましく
は少なくとも0.82である。
「産生し又は提示する」は、ここで用いる場合、実在物例えば細胞、組織又は
臓器がその表面に部分を与え、分泌し、或いは提供することを意味する。この部
分は、免疫系の少なくとも1つの成分例えば抗体又は細胞に結合したレセプター
例えばT細胞レセプターに到達することができる。
「レシピエント細胞」は、ここで用いる場合、ガラクトシルα(1,3)ガラク
トースエピトープの発現に対して寛容化するのに適した細胞をいう。例えば、レ
シピエント細胞は、成熟骨髄性及び/又はリンパ性細胞に発生することのできる
造血細胞例えば骨髄細胞であってよい。レシピエントの臍帯血、骨髄又は末梢血
液由来の幹細胞を、この発明の方法において用いることができる。米国特許第5
,192,553号(参考として本明細書中に援用する)及び第5,004,68
1号(参考として本明細書中に援用する)を参照されたい。
「胸腺空間」は、ここで用いる場合、ドナーの胸腺への移動及び/若しくは該
胸腺における発生を促進する処理により又はドナー抗原を認識するレシピエント
胸腺細胞を消去し若しくは不活性化することのできる型の処理された自己造血細
胞により造られた状態である。この効果は、胸腺中に既に存在しているレシピエ
ント細胞の排除により媒介されると考えられる。
「超急性拒絶」は、ここで用いる場合、少なくとも部分的に予め形成された抗
体により媒介されるレシピエントの抗ドナー応答をいう。
「部分」は、ここで用いる場合、化学的実在物の全部又は部分例えば糖質の全
部又は部分をいう。
「寛容」は、ここで用いる場合、移植片のレシピエントの免疫応答特に超急性
拒絶応答の阻止をいい、該阻止がなければ、該応答が、例えば抗原例えばガラク
トシルα(1,3)ガラクトース部分のレシピエントへの導入に応答して生じる。
この用語「寛容」は、抗原に対する完全な免疫学的寛容をいうだけでなく、部分
的な免疫学的寛容即ちこの発明の方法を用いなかった場合に見られたであろうも
のより強い抗原に対する寛容の程度をもいう。寛容には、体液性の、細胞性の、
又は体液性と細胞性の両方の応答が包含され得る。寛容は、抗原例えばガラクト
シルα(1,3)ガラクトース部分に又はその部分に全部又は部分的に位置される
エピトープに対して特異的であり、免疫抑制の一般的状態をいうものではない。
理論に束縛されることは望まないが、本発明者は、寛容は、それがなければ抗原
反応性の例えばαガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性抗体を生じたであ
ろう免疫の消去により達成することができると考えている。
臓器灌流を用いるか又はもっと最近は合成のガラクトシルα(1,3)ガラクト
ースカラムを用いる異種の自然抗体の排除が、超急性拒絶の開始を遅らせること
が示された。しかしながら、自然抗体を産生するB細胞の継続的存在のために、
自然抗体のレベルが移植の第1週後増加し、遅延移植片拒絶に寄与し得る。この
発明の方法を用いて、自然抗体応答を例えば遺伝し治療を用いて操作してB細胞
レベルで寛容を誘導し、それにより、移植組織の受容を促進することができる。
ミニブタは、それらのヒトに対する類似性及びそれらの繁殖特性の故に、臨床
の異種移植のための魅力的な潜在的ドナーである(Sachs,D.等(1994)Path.Biol.4
2:217)。しかしながら、ブタから霊長類へ等の不一致の種の組合せにおける臨床
的異種移植に対する主要な障害は、予め形成されてレシピエント中に存在してい
る自然抗体により媒介される超急性拒絶である(Galili,U.(1993)Immunol.Today
14:480;Platt,J.L.及びBach,F.H.(1991)Transplantation 52:937;Platt,J.L.
等(1990)Immunol.Today 11:450)。
ガラクトシル(α1,3)ガラクトースエピトープは、ヒトの自然抗体の主要な
標的である(Galili,U.(1993)Immunol.Today 14:480;Platt,J.L.及びBach,F.H.(
1991)Transplantation 52:937;Platt,J.L.等(1990)Immunol.Today 11:450;San
drin,M.S.及びMcKenzie,I.F.(1994)Immunol.Rev.141:169)。この糖質エピトープ
は、N−アセチル−グルコサミニル残基に結合された既に存在しているガラクト
ース残基に末端ガラクトシル残基を加えることにより合成される。この反応は、
グルコシルトランスフェラーゼUDPガラクトース:β−D−ガラクトシル−1
,4−N−アセチル−グルコサミニドα(1,3)ガラクトシルトランスフェラー
ゼ(α1,3GT)により触媒される。α1,3GTを発現する種には、ガラクト
シル(α1,3)ガラクトース部分に対して反応性の自然抗体は存在しない。ヒト
、類人猿及び旧世界霊長類におけるα1,3GTの欠如は、ガラクトシルα(1
,
3)ガラクトースエピトープを発現できないことを生じ、このエピトープに対し
て反応性の自然抗体の存在を許容する。マウスのα1,3GT遺伝子の胚性幹細
胞技術による破壊がガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープに対して反
応性の自然抗体の発生へと導くことが、通常ガラクトシルα(1,3)ガラクトー
スエピトープを発現する種であるマウスにおいて示されている(Thall,A.等(1995
)J.Biol.Chem.270:21437;Thall,A.等(1996)Transplant.Proc.28:561)。自然抗
体のガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープとの相互作用を防止するこ
とは、異種移植の分野における主要なゴールであった。
異種移植における自然抗体媒介による拒絶の問題を排除することを目的とした
幾つかの異なるアプローチが試みられてきた。ドナーの臓器上のガラクトシルα
(1,3)ガラクトースエピトープの様々な方法による操作並びにα1,3GTの
発現を変化させることが試みられてきた(Sandrin,M.S.等(1995)Nat.Med.1:1261
;Rosengard,A.M.等(1995)Transplant.Proc.27:326;Langford,G.A.等(1994)Tra
nsplant.Proc.26:1400;LaVecchio,J.A.等(1995)Transplantation 60:841)。こ
れらのアプローチの欠点は、このエピトープの発現を完全に破壊することができ
ないことであった。超急性拒絶の防止において吸着により宿主から血清中の自然
抗体を除去することは成功しているが、ガラクトシルα(1,3)ガラクトースと
反応性の自然抗体の恒久的除去は生じず、それ故、それは、長期間にわたって未
解決の問題である。ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープに対する寛
容を誘導することによる宿主の体液系の改変は、ガラクトシルα(1,3)ガラク
トースと反応性の自然抗体の問題に対する実行可能な長期の解決を与える。
この発明の他の特徴及び利点は、下記の詳細な説明及び請求の範囲から明らか
となろう。
詳細な説明 図面の簡単な説明
図1(パネルA、B、C、D)は、ヒトの自然抗体のブタ細胞への結合のα1,
3Gal/BSAによる阻止を示す一組のグラフである。ヒトの血清(20μl)
をαGal/BSA(パネルA、C)又はウシのチログロブリン(パネルB、D)と
1,000μg/ml(b)若しくは0.1μg/ml(c)の濃度で予備インキュ
ベートしてからブタの抹消血液単核細胞(pPBMC)で染色した。負の対照(a)
は、pPBMC及び等容のガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性自然抗体
を涸渇させたヒト血清(XNA)よりなったが、陽性対照は、20μlの競合物質
を含まないヒト血清(d)であった。ヒト血清とのインキュベーション後に、これ
らの細胞を、抗ヒトIgG(パネルA、B)又は抗ヒトIgM(パネルC、D)の何
れかで染色した。
図2(パネルA、B)は、ヒトの血清のガラクトシルα(1,3)ガラクトース反
応性を示す一組のグラフである。12の無関係のドナーからの血清試料の連続的
希釈物(1:2、1:4、1:8、1:16、1:32、1:64、1:128)
をIgG(A)又は(IgM)(B)のαGal/BSAへの結合について分析した。
これらの血清試料を、ドナー番号により指名してある。
図3(パネルA、B)は、血液型B抗原を有する個体におけるガラクトシルα(
1,3)ガラクトース反応性自然抗体の低発現を示す一組のグラフである。B及
び非Bを発現するドナーからの連続的に希釈したヒト血清を、αGal/BSA
ELISAにより分析した。IgM(パネルA)及びIgG(パネルB)の結合を、
血清の希釈度に対する平均光学密度(O.D.)で表してある。べた塗りの棒=A
、O血清;充填された棒=B、AB血清。
図4(パネルA、B)は、無関係のドナーからのヒト自然抗体が交差反応性イデ
ィオタイプを発現することを示す一組のグラフである。IgG(パネルA)及びI
gM(パネルB)のαGal/BSAへの結合を、10784抗イディオタイプ試
薬の不在(充填された棒)及び存在(白抜きの棒)下で、ELISAにより評価した
。阻害パーセントを各ドナーについて計算した。
図5は、LGTA7及びMZGTレトロウイルスベクターの図式表示である。
図6は、骨髄移植の12週後にLGTA7又はNeoで形質導入した骨髄で再
構成したマウスにおける抗α(1−3)Gal反応性IgM抗体のELISAによ
る分析のグラフである。すべてのアッセイを、ELISAプレートウェルをコー
トするウシ血清アルブミンに結合されたα(1−3)Galを用いて行った。すべ
てのアッセイにおいて、正常の非再構成マウスからの血清を用いて観察されたバ
ックグラウンド結合を差し引いた。同様の結果が、ラクトサミンコートしたプレ
ートで認められたバックグラウンド結合を差し引くことによって得られた。LG
TA7で形質導入したグループからの血清を用いて観察されたバックグラウンド
結合は、図7に示したように、α(1−3)Gal特異的ではない。類似の結果が
、18週において観察された。
図7は、ウサギの補体の存在下でα(1−3)Gal陽性のブタPK−15を溶
解させることのできる血清抗体の分析のグラフである。LGTA7のNeoを形
質導入した骨髄で再構成したマウスのグループ間のP値を示してある。血清を、
骨髄移植の9週後に分析した。ガラクトシル(α1,3)ガラクトース部分
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性の自然抗体は、超急性拒絶のプロ
セスにおいて重要である。ヒトの抗ブタ自然抗体により認識される決定基は、リ
ンパ球を含むすべての組織において発現されるようである。殆どのヒトの抗ブタ
応答の原因である末端ガラクトシルα(1,3)ガラクトース糖質部分は、ヒト及
び旧世界霊長類を除くすべての哺乳動物により合成される。ヒト血清中の異種反
応性自然抗体の80%より多くは、ガラクトシルα(1,3)ガラクトースと特異
的に反応し、これは、このヒト自然抗体の集団の大多数が、抗原特異性に関して
高度に制限されていることを示唆する。ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反
応性自然抗体のレシピエントサルの血清からのカラム灌流による除去は、超急性
拒絶を排除する。
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース構造の原因である酵素α(1,3)ガラク
トシルトランスフェラーゼ(α1,3GT)をコードする遺伝子は、ヒト及び旧世
界サルにおいては、非機能的である。α1,3GTの不活性化は、2800万年
程前に起きたと見積もられている。ヒト由来の細胞も旧世界サル由来の細胞も、
自然抗体と反応しない。逆に、マウス又はブタのα1,3GTのCOS細胞(旧
世界サル)における発現は、抗ガラクトシルα(1,3)ガラクトース自然抗体に
より認識されるガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープの産生を生じる
。従って、超急性拒絶の受け易さは、単に動物間の系統発生的距離によるのでは
なく、機能的α1,3GTの発現によって決定される。これは、新世界サルと旧
世界サ
ルの間の移植の研究により示された。新世界サルの心臓を旧世界サルに移植した
ときに、その移植片は、1時間以内に機能を停止した。自然抗体媒介の超急性拒
絶と一致して、免疫病理学的研究は、この移植片中の免疫グロブリンの付着の存
在を示した。
ヒト及び旧世界霊長類における、α(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ
の消失とそれに続く抗ガラクトシルα(1,3)ガラクトース抗体の産生によりに
より与えられる選択的利点は、知られていない。この酵素活性の消失及びこのエ
ピトープの抑制は、抗ガラクトシルα(1,3)ガラクトース抗体の産生に関係し
得る。これらの抗体の役割は、不一致の種からのC型レトロウイルスの伝達に対
する防御にあり得る。公開された報告によれば、ガラクトシルα(1,3)ガラク
トース反応性自然抗体は、健康な個体の循環性Igの約1%を構成し、従って、
異種移植に対する重要なバリヤーに相当する。レシピエント細胞におけるガラクトシル(α1,3)ガラクトースエピトープの形 成 ガラクトシルα(1,3)ガラクトース部分を提示する遺伝子工学的処理された 細胞
ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープの形成を促進する蛋白質をコ
ードする核酸を、その核酸の発現を寛容を与えるのに十分なレベルで十分な期間
にわたって与える任意の方法によって、レシピエント細胞に導入することができ
る。これらの方法には、例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーショ
ン、粒子銃ボンバードメント及びウイルスベクター例えばレトロウイルスベクタ
ーによる形質導入が含まれる。
遺伝子を哺乳動物細胞に導入するための幾つかの古典的な方法は、多くの系に
おけるそれらの有用性を制限する限定された効率を有している(Hwang,L.H.等(19
84)J.Virol.50:417)。それ故、組換えレトロウイルスが、遺伝子トランスファー
のためのビヒクルとして開発された(Eglitis,M.A.等(1988)Adv.Exp.Med.Biol.24
1:19;Anderson,W.F.(1992)Hum.Gene Ther.3:1;al-Lebban,Z.S.等(1990)Exp.He
matol.18:180)。最も簡単なレトロウイルスベクター構築物は、このウイルスの
構
造遺伝子を単一の遺伝子で置き換えたものであり、次いで、それは、このウイル
スのロングターミナルリピート(LTR)に含まれる調節エレメントの制御下で転
写される(Blair,D.G.等(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:3504)。モロニーマ
ウス白血病ウイルス(MoMuLV)を含む様々な単一遺伝子ベクター主鎖が用い
られてきた。この型の主鎖に由来するのは、内部プロモーターの制御下に、複数
の遺伝子例えば選択マーカー及び関心のある遺伝子を挿入することのできるレト
ロウイルスベクターである(McLachlin,J.R.等(1990)Prog.Nucleic Acid Res.Mol
.Biol.38:91)。
効率的なパッケージング細胞株の使用は、生成された組換え成熟ウイルス粒子
の感染効率及び感染スペクトルの両方を増大させた(Miller,A.D.(1989)Biotechn
iques 7:980)。これらのレトロウイルスによる形質導入の後に、最も効率的な発
現は、「強い」プロモーターを用いて、LTR内で開始されるウイルス転写とは
別個に導入した遺伝子の転写を制御したときに認められた(Chang,J.M.等(1989)I
nt.J.Cell Cloning 7:264)。このストラテジーの主要な限界は、形質導入された
遺伝子を含む第2の転写ユニットがレトロウイルス転写ユニット内に位置されて
転写の干渉を引き起こすことであった(Emerman,M.等(1984)Cell 39:449;Kadesc
h,T.等(1986)Mol.Cell Biol.6:2593;Cullen,B.R.等(1984)Nature 307:241)。種
々の研究室からの結果は、プロモーターエレメントをLTRの内側に位置させた
結果が幾分予想不能であり;ある場合には、効率的な転写を生じ(Garver,R.I.等
(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:1050)、別の場合には、弱い発現又は無発現
を生じる(Dzierzak,E.A.等(1988)Adv.Exp.Med.Biol.241:41;Williams,D.A.等(1
986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:2566)ということを示唆している。二重コピー(
DC)ベクターと呼ばれる新しい型のレトロウイルスベクターが開発されて、こ
の問題は、ウイルス性転写ユニットと非ウイルス性転写ユニットを物理的に分離
することにより克服された(Hantzopoulos,P.A.等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA
86:3519)。更に、DCベクターは、複数の挿入を与え、ヒトのリンパ球におけ
る効率的な発現を生じる。かかるレトロウイルスは、臨床的に適切であることが
判明し得る遺伝子のトランスファーに現在利用できる最高の技術に相当する。
ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープのイン・サイチュー形成
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース部分を、イン・サイチューでレシピエン
ト細胞の表面に加えることができる。例えば、レシピエント細胞をレシピエント
から取り出して、その細胞上にガラクトシルα(1,3)ガラクトース部分の形成
を促進する酵素とインキュベートすることができる。例えば、ヒト細胞上に、イ
ン・ビトロで、ガラクトシルα(1,3)ガラクトシドエピトープを合成するため
の組換えα1,3ガラクトシルトランスフェラーゼの利用を開示しているLaTemp
le等,1996,Cancer Res.56:3069-3074(参考として本明細書中に援用する);組
換え酵素の産生を記載しているJosiasse等,1990,Eur.J.Biochem.191:75-83(参
考として本明細書中に援用する);及びヒト細胞上のα1,3gal構造の形成
のために細菌の酵素を利用することを記載しているHamadeh等,1996,Infect.Im
mun.64:528-534(参考として本明細書中に援用する)を参照されたい。
この発明を、更に、下記の実施例により説明するが、これは、更に制限するも
のと解すべきではない。すべての本願中で引用した参考文献(研究論文、発行さ
れた特許、公開された特許出願及び同時係属中の特許出願を含む)の内容を、明
白に、参考として本明細書中に援用する。
実施例
実施例1:ヒト血清に存在する自然抗体の殆どは、ガラクトシルα(1,3)ガラ
クトース基に反応性を有する
競合結合測定法を用いて、自然抗体によるガラクトシルα(1,3)ガラクトー
ス基の認識を調べた。
ヒト血清を健康な成人から得た。別個人の試料をそれぞれ4℃で短期間貯蔵す
るか或いは等分して−70℃で貯蔵した。純系ミニチュアブタ群から得た全血を
ヘパリンで凝血防止し、そこからブタ末梢血液単核細胞(pPBMC)を単離し
、フローサイトメトリー分析染色緩衝液[ハンクス液(HBSS)、2.0%ウ
シ胎児血清、0.04%アジ化ナトリウム(Sigma Chemical C
o.、ミズーリ州セントルイス)]に再懸濁して、最終濃度1×107pPBM
C/mlとした。
ヒト血清(15μl)を、最終濃度1mg/ml〜1ng/mlになるように
段階希釈したαGal/BSA、ウシチログロブリン(Sigma Chemi
cal Co.、ミズーリ州セントルイス)又はBSA(Fisher Sci
entific、ペンシル
バニア州ピッツバーグ)と共に4℃で90分間、緩やかに揺らしながら前保温し
た。50μlのpPBMC(細胞数5×105)を50μlのヒト血清及び競合
物と共に、4℃で90分間保温した。正の対照としてヒト血清のみを用いたもの
を、負の対照として自然抗体を除去した(XNA-)ヒト血清を用いたものを使
用した。引き続く段階において、細胞は直接フローサイトメトリー分析[Der
Simonian,H.M.他(1993)J.Exp.Med.17:162
3]で行われるのと同様に処理された。
ヒト血清がαGal/BSAと共に前保温された場合、自然抗体のブタPBM
Cへの結合[正中蛍光輝度(M.F.I.)により測定]は実質的に減少してい
た。1mg/mlのαGal/BSA濃度において、IgMのブタ細胞への結合
が94%減少していることが観察され、IgGについては84%の減少が観察さ
れた(図1)。低濃度のαGal/BSAにおいては、免疫グロブリン結合は多
くなっていた。ヒト抗体を他のガラクトシルα(1,3)ガラクトース含有分子
であるウシチログロブリンと前保温した場合にも、ヒトIgG及びヒトIgMの
ブタPBMCへの結合が阻害される効果が観察された。1mg/mlのウシチロ
グロブリン濃度において、抗体のブタ細胞への結合は、IgMについて66%、
IgGについて79%減少した(図1)。ウシチログロブリン分子は推計11個
の自然ガラクトシルα(1,3)ガラクトース残基を含む[Thall,A.及
びGalili,U.(1990)Biochemistry29:3959]
が、合成結合したαGal/BSAはBSA分予1個あたり15〜39個のαG
al基を有する。加えて、αGal/BSAはウシチログロブリン(300kD
)より小さい分子サイズ(70kD)を有する。その結果、αGal/BSAは
ウシチログロブリンに比べて、ブタ細胞との結合における自然抗体との競合にお
いて、より効果を有する。同じ条件でヒト血清をBSAと前保温した場合には、
阻害は観察されなかった。これらの観察は、ガラクトシルα(1,3)ガラクト
ースが異種反応性自然抗体の殆どに認識される決定子であることを示唆しており
、他の研究グループによる観察結果[Collins,B.H.他(1995)
J.Immunol.154:5500;Oriol,R.他(1993)Tr
ansplantation56:1433;Sandrin,M.S.他(1
993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:11391;C
ooper,D.K.他(1993)Transplant.Immunol.
1:198;Parker,W.他(1994)J.Immunol.153:
3791]とも一致する。
実施例2:ヒト血清中のIgG及びIgM量の決定
ヒト血清試料中の、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性抗体の検出
を容易にするために、αGal/BSAを抗原とするELISA系を用いた。濃
度が10μg/mlでαGal/BSA(BioTransplant、Inc
.)を含むPBSを96個のウェルポリスチレンプレート(Costar)に入
れ4℃で一晩置き、プレートを被覆した。BSAに対するバックグラウンド反応
の対照としてBSAで被覆したプレートも用意した。1%のBSAを含むTBS
(100mM Tris−HCl、pH7.5、0.9%NaCl)をウェルに
入れて室温で1〜2時間置き、ウェルをブロックした。すべてのプレートを、S
katronプレート洗浄機(Skatron Instrumetns、In
c.、バージニア州スターリング)を用いて0.1%トゥイーン20を含むTB
S(TBS/トゥイーン)で3回洗浄した。一人のドナーから得たヒト血清の段
階希釈を標準的な正の対照として用いた。XNA-(実施例3参照)を負の対照
として用いた。試料を三等分し、室温で1時間保温した。TBS/トゥイーンで
3回洗浄した後、アルカリフォスファターゼを結合させたマウスモノクローナル
抗ヒトIgG又はIgM抗体(Sigma Chemical Co.、ミズー
リ州セントルイス)と共に、プレートを暗所にて室温で1〜2時間保温した。プ
レートを洗浄し、Sigma104アルカリフォスファターゼ基質タブレットを
含む炭酸緩衝液(水1L中、0.203gのMgCl2、2.2gのNa2CO3
、2.43gのNaHCO3を含む)で発色させた。発色した産物の量を、SL
T実験器具340ATCELISA読み取り機を用いて、405nmにて測定し
た。競合ELISA用に、ウシチログロブリンおよびαGal/BSAを10倍
に段階希釈し、最終濃度を2mg/ml〜1ng/mlとした。同容量のヒト血
清と競合物とを合わせて、4℃で1時間保温した。競合反応物を抗原で被覆した
プレートに等分し、室温で1時間保温した。プレートを洗浄し、アルカリフォス
ファターゼを結合させたマウスモノクローナル抗ヒトIgG又はIgM抗体(S
igma Chemical Co.、ミズーリ州セントルイス)と共に、室温
で1時間保温した。ウェルを洗浄してSigma104アルカリフォスファター
ゼ基質で発色させた。すべての試料について、3セット作成して分析した。
ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープがこれらの条件下で安定し
ているこ
とを確認するために、ヒト血清の存在下でガラクトシルα(1,3)ガラクトー
ス炭水化物基の加水分解が検出されるかどうかを調べる実験を行った。上に述べ
た全てのアッセイは24℃で行ったが、このELISA系を37℃で24時間ま
で実施した場合でさえも、αGal/BSAは安定していたことがわかった。
このELISAの特異性は、ウシチログロブリンとの競合によって説明されて
いる。血清自然抗体の、αGal/BSAとの結合は、ウシチログロブリンとの
前保温によって完全に阻害された。1μg/mlのαGal/BSAがヒトIg
G及びIgMのウシチログロブリンへの結合を完全に阻害したのに対し、より高
い濃度(100〜1,000μg/ml)のウシチログロブリンが、αGal反
応性自然抗体のαGal/BSAへの結合をブロックするのに必要だったので、
ここで再度、αGal/BSAはウシチログロブリンに比べてより効果的な競合
物であることが示された。
このELISA系が、ヒト血清中のガラクトシルα(1,3)ガラクトース反
応性自然抗体レベルを評価するのに用いることができると判明したので、95人
以上の別個のドナーから得た試料について同様にアッセイを行った。市販のIg
G及びIgM(Sigma Chemical Co.、ミズーリ州セントルイ
ス)を標準として用いた競合ELISA[Ali,R.他(1985)Mol.
Immunol.22:1415]によってIgG及びIgM濃度を調べた。1
2の代表的なドナー並びに試験されたその他のドナー全てに関するELISAの
結果において、IgG及びIgMαのGal/BSAへの相対的反応性は、ドナ
ー間で実質的に異なった。上記12の試料について、ガラクトシルα(1,3)
ガラクトース反応性に約8倍にわたる違いがあった(図2)。
実施例3:親和精製された自然抗体の特徴付け
ヒトガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性XNAを、ヒト血清から、
ガラクトシルα(1,3)ガラクトースカラムを用いて親和精製した。ガラクト
シルα(1,3)ガラクトースと結合させたビーズを、ガラクトシルα(1,3
)ガラクトース反応性自然抗体を親和精製するのに用いた。これらのビーズを含
むカラム(10ml)をPBSで入念に洗浄し、10mlのヒト血漿を充填した
。充填した試料を流速30ml/時間で通過させた後、カラムの8倍容積のPB
Sで洗浄した。結合した抗体は100mMクエン酸ナトリウム(pH3)で溶出
させ、直後に1M Tris−HCl(pH8.0)で中和し
た。1mlの画分を集めてIgG及びIgMの総濃度、並びにガラクトシルα(
1,3)ガラクトース特異性についてアッセイを行った。カラム画分の、αGa
l/BSA又はブタ細胞への反応性についてアッセイを行うのに先立って、通過
流(flowthrough)又は溶出濃度が希釈されている場合には、元の血
漿に相対して補償した。ガラクトシルα(1,3)ガラクトースカラムが検出可
能なガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性IgG及びIgMを全て除去
したことが、通過流及び洗浄画分の分析によって判明した。これに対して、復元
された溶出画分は相当なレベルのαGal/BSA反応性IgG及びIgMを有
していた。通過流及び洗浄画分は、洗浄画分ごとに徐々に減少し溶出画分中わず
かに増加する、高レベルのIgG及びIgMを含んでいた。このことは、全ての
αGal/BSA反応性が、カラムに保持された少量画分のIgG及びIgMに
存在することを示している。
溶出画分(XNA+)中のIgG及びIgMの殆どが、カラムへの非特異的結
合の結果なのか、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性なのかを確認す
るために、自然抗体(XNA)吸着実験を、ブタ赤血球を用いて行った。ブタ赤
血球(pRBC)をこの吸着実験に選んだのは、ガラクトシルα(1,3)ガラ
クトース基を細胞表面に有するが、IgGに非特異的に結合するFc受容体を有
さないからである。ヘパリンで凝血防止したブタ血液からpRBCを単離し、L
SM(Organon Teknika、ノースカロライナ州ダラム)で処理し
た。赤血球は、赤血球顆粒の下から採取し、顆粒球又はPBMCと混合されるの
を回避した。pRBCをHBSSで洗浄し、次いで細胞数及び純度を決定した。
自然抗体(XNA)を、プールしたヒト血清から上記したように親和クロマトグ
ラフィーによって単離した[Galili,U.他(1987)Proc.Na
tl.Acad.Sci.USA84:1369]。XNA-画分を希釈して、
IgM濃度をXNA+試料の濃度と同じにした。2×107、2×108、2×1
09又は2×1010pRBCを2mlのXNA-又はXNA+試料と4℃で20分
間、緩やかに揺らしながら保温した。pBCを1,500rpm、4℃で10分
間回転させた。各吸着試料について、上澄みのIgG及びIgM総濃度、並びに
αGal/BSA反応性を、ELISAによって調べた。αGal/BSA反応
性並びにIgG及びIgM濃度は、吸着前後で測定した。2×1010pRBCに
ついては、吸着されたXNA+のαGal/BSA IgM反応性が92%減少
し、全IgMの70%が低減した。IgGについてはこれらの値はそれぞれ62
%、
64%であった。pRBCとのXNA-の吸着も同時に行った。免疫グロブリン
濃度における減少は観察されなかった。これらの条件下で親和精製されたガラク
トシルα(1,3)ガラクトース反応性自然抗体は、30%の非特異的IgMと
、それよりずっと少ないレベルの不純IgGを含有しうる。ガラクトシルα(1
,3)ガラクトース反応性自然抗体が全免疫グロブリンのうち一定のパーセント
を構成するかどうかを調べるために、10個の血清試料から親和精製されたガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース反応性自然抗体の免疫グロブリン濃度を、競
合ELISAによって定量した。IgG自然抗体の濃度は39〜153μg/m
lに渡り(平均値65.3μg/ml)、IgM XNAについては濃度は24
〜63μg/mlに渡った(平均値40.1μg/ml)。表1は、異なる個人
における、IgG及びIgM自然抗体のパーセントを示す。
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性自然抗体の量がIgG又はIg
M総量に関係しているかどうかを調べるために、精製された自然抗体の免疫グロ
ブリン濃度を、元の血清中のIgG及びIgMのレベルと比較した。ガラクトシ
ルα(1,3)ガラクトース反応性IgGのパーセントを計算したところ、1.
0〜2.4%の範囲に渡り(平均値1.5%)、一方IgMについては3.9〜
8.0%の範囲であった(平均値5.3%)。この試料に基づくと、ヒト血清中
の自然抗体の量は全免疫グロブリンの一定のパーセントを構成していないことが
わかる。評価を行った各血清について、IgM XNA-より多くのIgG X
NA+が単離された。しかし全免疫グロブリンに対するXNA+免疫グロブリンの
総括的なパーセントは、IgGについてよりもIgMについて実質的に高かった
。
これまでに、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性IgGが全IgG
の約1%であると説明されており[Galili,U.他(1984)J.Ex
p.Med.160:1519;Galili,U.他(1985)J.Exp
.Med.162:573]、近年、IgM自然抗体が全IgMの約1〜4%で
あると説明されている[Park
er,W.他(1994)J.Immunol.153:3791]。ここに提
示した結果はこれらの推定に一致するが、いくつかの試料においては実質的に高
いパーセントの自然抗体があったことをここに報告する。ブタ赤血球(pRBC
)を用いた吸着実験は、親和精製された自然抗体中に非特異的IgMが混ざって
いるかもしれないことを示唆しており、理論上、その値は多く見積もって30%
だと考えられる。しかし、吸着後に残っている非ガラクトシルα(1,3)ガラ
クトース反応性IgMは、機能損失によるものとも考えられる。これに一致して
、自然抗体は、蛋白質Aからの酸溶出の後に、ガラクトシルα(1,3)ガラク
トースに対する結合能を実質的に低下させている。自然抗体が酸性条件下でガラ
クトシルα(1,3)ガラクトースカラムから溶出されるにつれて、溶出画分中
のある免疫グロブリンによってガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性が
損なわれることは、期待できない。
実施例4:血液型B抗原を有する個人における、ガラクトシルα(1,3)ガラ
クトースXNAの低発現
本発明者は驚くべきことに、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基に類似
したヒト細胞上の基は、ヒト血清中のガラクトシルα(1,3)ガラクトース自
然抗体を有意に減少させる効果を有することを発見した。ヒト赤血球中のポリN
−アセチルラクトサミンは、ABO式血液型抗原を受け持つ。ヒトにおいて、末
端ガラクトースはまずα(1,2)フコースで置換され、H抗原を形成する。B
型の個人において、H抗原はα(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼによ
ってα(1,3)ガラクトースを付加されてさらに改変される。このα(1,3
)ガラクトシルトランスフェラーゼは、新世界霊長類及びブタに存在するα(1
,3)ガラクトシルトランスフェラーゼとは異なる。このα(1,3)ガラクト
シルトランスフェラーゼはH抗原上にフコース基の存在を必要とする。ブタα(
1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼはN−アセチルラクトサミンに結合し
たフコースを必要としない。血液型B抗原とガラクトシルα(1,3)ガラクト
ース決定子との間における抗体交差反応性の存在を調べるために、A、B、AB
及びO型の血液型から得た等しい数(n=12)のヒト血清試料について、血清
中のガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性自然抗体の相対レベルを直接
ELISAによって測定した。検出される抗体結合が完全にガラクトシルα(1
,3)ガラクトース決定子によるものであることを確実に
するために、各血清試料についてBSA反応性を調べ、BSA反応性を示した血
清試料(試料の約10%)を除外した。
B抗原発現血液型(AB、B)のガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応
性全体は、非B抗原発現血液型(A、O)の反応性と比較して、B抗原が存在し
た場合に自然抗体のレベルが減少することを示した(図3)。この効果はIgM
についてよりもIgGについて顕著である。観察された減少をより正確に定量す
るために、各血清希釈液について0.D.値の統計学分析を行った。スチューデ
ントのt検定によって非B発現ドナー(A、O)とB発現ドナー(AB、B)を
比較することによってデーターを分析した。得られた結果は、検定した3種(1
/4、1/8、1/16)の血清希釈液のIgG(p<0.0002)及びIg
M(p<0.06)について、BとABの血液型と、AとOの血液型とに有意な
違いがあることを示している。これらの結果は、ヒト自然抗体群はヒト血球上の
B抗原の存在によって制御されているという仮定を支持するものである。
実施例5:ガラクトシルα(1,3)ガラクトース自然抗体低減の一時的効果
生体外実験を行って、ガラクトシルα(1,3)ガラクトースカラム潅流前後
のレシピエントの血漿自然抗体レベルを測定した。カラム潅流に続いて、急性拒
絶反応を起こさないようにブタ腎臓をサルに移植した。サル血漿中の自然抗体の
レベルをフローサイトメトリー分析(即ちブタ反応性の測定)及びELISA(
即ちガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性の測定)によって測定したと
ころ、全ての場合(n=8)においてそのレベルはカラム潅流の後にバックグラ
ウンドレベルまで減少した。しかし、自然抗体のレベルは数日後に回復した。も
っとも長く異種移植が成功したケースの1つで示されているように、血漿中の自
然抗体のレベルは短い時間だけ低く保たれていた。15日目までに、ガラクトシ
ルα(1,3)ガラクトース反応性自然抗体は吸着前のIgMレベルに回復した
のに対し、IgGレベルは元の値の10倍に上昇した。これらの結果はガラクト
シルα(1,3)ガラクトース反応性自然抗体低減の重要性を示しているだけで
なく、異種移植においてB細胞群を産生する自然抗体の制御の重要性を示してい
る。
実施例6:α(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼを細胞に運搬するレト
ロウイルスベクターの作成
pSa13GT1[Strahan,K.M.他(1995)Immunog
enetics41:101]から得たブタα(1,3)ガラクトシルトランス
フェラーゼ(α1,3GT)のコード領域を含む1145bpのEcoRI−C
ac8I制限cDNA断片をpBluescriptIIKS(−)(Stra
tagene)にクローンし、ネズミグリセリン酸燐酸キナーゼ(PGK)転写
プロモーターをα(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼコード領域の上流
に挿入してPGKα1,3GTを作成した。次いでPGKα1,3GTをレトロ
ウイルスベクターN2Aの3’LTRに導入し[Armentano,D.他(
1987)J.Virol.61:1647;Bordignon,C.他(1
989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:6784;Ha
yashi,H.他(1995)Transplant.Proc.27:17
9]、PGK転写プロモーターにより作動するα1,3GTを有するプロウイル
ス(PGKα1,3GTRV)を作成した。次いでPGKα1,3GTRVをト
ランスフェクションによって両栄養性レトロウイルスパッケージング細胞系PA
317[Miller,A.D.及びButtimore,C.(1986)M
ol.Cell.Biol.6:2895]に導入してウイルス産生細胞系を作
成した。G148でトランスフェクションしたクローンの選択に続いて、産生ク
ローンを選択し試験ウイルス力価に増殖させた。高力価でヘルパーのいらないウ
イルスを産生する細胞系を用いてレトロウイルス群(α1,3GTRV)を調製
した。
ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープを産生することのできる機
能的α1,3GTをα1,3GTRVが移転できるかどうかを調べるために、C
OS細胞(α1,3Gal非産生)を組換えウイルス(M.O.I>2)に感染
させ、α1,3Galエピトープが細胞表面蛋白質上に発現するかどうかを、α
1,3Galとしてのガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープを特異
的に認識するBandeiraea simplicifoliaから得たレク
チン(IB4、BS−IイソレクチンB4)で染色し或いはガラクトシルα(1,
3)ガラクトース反応性ヒト自然抗体の精製物に結合し、標準法を用いたフロー
サイトメトリーで分析して調べた。形質導入された酵素によるガラクトシルα(
1,3)ガラクトースのレベルを、ブタから得た細胞に通常存在するレベルと比
較した。
α1,3GTRVを用いた形質導入の効率を調べるために、成熟B及びT細胞
を持たな
いRAG−1(R-)欠損マウス[Mombaerts,P他(1992)Ce
ll68:869]を、α1,3GTRVまたはNEO耐性遺伝子のみを有する
対照レトロウイルスENJ36[Fraser,C.C.他(1995)J.I
mmunol.154:1587]により形質導入したマウスであるα1,3G
T欠損マウス(A-)から得た骨髄で再構成した。M.O.Iは全ての感染につ
いて2より大きく、Sykes,M.他(1993)Transplantat
ion55:197に述べられているように実施した。再構成後14日目に、マ
ウスから脾臓を取り出し、脾臓のコロニー形成単位(CFU−S)を採取した。
細胞懸濁液を調製してIB4レクチンで染色し、あるいはガラクトシルα(1,
3)ガラクトース結合性ヒト自然抗体の精製物に結合し、フローサイトメトリー
で分析した。DNAを各コロニーの1/2から調製してPCRによって分析し、
コロニーがA-骨髄に由来するものであるかどうかを調べた。
実施例7:ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を発現する細胞に対する免
疫寛容の誘発についてのネズミモデル
ここに述べるネズミ系を用いて、特定の構成要素(例えばガラクトシルα(1
,3)ガラクトース基形成酵素をコードする配列)の、ガラクトシルα(1,3
)ガラクトース基に対する免疫寛容を促進する能力について評価することができ
る。レトロウイルスによってトランスフェクトされた細胞に、ガラクトシルα(
1,3)ガラクトースエピトープに対する免疫寛容を誘発する能力があるかどう
かを調べるために、(a)ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性抗体を
産生する発達中のB細胞の低減を引き起こすガラクトシルα(1,3)ガラクト
ースエピトープ、並びに(b)改変した骨髄細胞を拒絶することのできるガラク
トシルα(1,3)ガラクトース反応性自然抗体、の両方を欠損するネズミ宿主
を作成した。α1,3GT欠損マウス(A-)を、成熟B及びT細胞欠損である
ことが示されているRAG−1(R-)欠損マウス[Mombaerts,P.
他(1992)Cell68:869]と掛け合わせてα1,3GT−/−,R
AG−1−/−(A-R-)マウスを作成する。A-R-マウスを作成するために、
同型接合のA-及びR-欠損マウスを掛け合わせる。得られたF1世代を交雑し、
16匹に1匹の割合で得られると予測されるA-R-マウスを作成する。後代の遺
伝子型はサザンハイブリダイゼーションに基づいて決定する。次いでA-R-を交
雑し、コロニーを得る。照射したA-R-マウスを、
α1,3GTを有するレトロウイルス又はネオマイシン耐性遺伝子のみを有する
対照レトロウイルスで形質導入したA-マウスから得た骨髄細胞で再構成する。
このモデルにおいて、再構成マウスのガラクトシルα(1,3)ガラクトース反
応性抗体を産生する能力を、遺伝子治療の結果としてB細胞寛容が生じるかどう
かを調べるために用いる。
実施例8:ブタ抗ヒト抗イディオタイプ抗体の作成
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース炭水化物カラムを用いて、1つのドナ
ーの血清からXNA+(250μg)を単離し、完全フロイントのアジュバント
(CFA)を用いて乳化して、ミニチュアブタを免疫化した。ヒト免疫グロブリ
ンに対する高レベルの反応性が得られるまで、この動物に繰り返し精製自然抗体
を投与した。5回目の投与の後、動物から全血採取し、血清を集めて−20℃で
保存した。非イディオタイプ特異的抗ヒト抗体を除去するために、カラムに血漿
を通過させて自然抗体を除去したヒトIgを結合させた。通過流画分を、ELI
SAによりXNA+又はXNA-で被覆したプレートに感差結合するものについて
スクリーンした。部分的に精製された通過流はXNA+と選択的に反応したが、
このことは、元のドナーのXNA+画分及びXNA-画分を区別することのできる
ブタ抗イディオタイプ試薬が作成されたことを意味している。
実施例9:交差反応性イディオタイプを発現する無関係なヒトドナーから得た自
然抗体
上記の実施例で作成された抗イディオタイプ抗血清の有する、血清自然抗体の
ガラクトシルα(1,3)ガラクトースへの結合を阻害する能力を、無関係の4
人のドナーから得た血清を用いた競合ELISAによって評価した。自然抗体の
α1,3Gal/BSA被覆プレートへの結合は、IgMについて20〜60%
、IgGについて13〜78%阻害された(図4)。これらの結果は、交差反応
性自然抗体イディオタイプが無関係の個人内で発現されていることを示している
。このような交差反応性は、おそらくはヒト自然抗体群内でV遺伝子が限られた
使用をされているため、構造上の関連性が生じていることを示している。
実施例10:マウス抗ヒト抗イディオタイプ抗体の産生
ブタ抗イディオタイプ試薬の、無関係の4個人から得た自然抗体との交差反応
性は、モ
ノクローナル抗イディオタイプ試薬産性の実用性を示唆している。抗イディオタ
イプ試薬は治療用途、並びに自然抗体産生EBVで形質転換したB細胞を優勢的
なイディオタイプについてスクリーンするのに有用である。
マウス抗ヒト抗イディオタイプモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、血
漿から又はEBV形質転換タローン性B細胞から親和精製した、ヒト自然抗体に
対して産生することができる。他の血清成分からヒト抗体画分を精製するために
、親和精製の初期段階は、抗ヒトIgG及びIgMカラムを用いて行う。次いで
精製したIgをガラクトシルα(1,3)ガラクトースカラムにかけて、ガラク
トシルα(1,3)ガラクトース反応性自然抗体を濃縮する(XNA+)。ガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース抗体を除去した画分(XNA-)も収集する
。次いで親和精製したXNA+をCentriconカラム(Amicon)で
濃縮し、競合ELISAでIgG及びIgMの総濃度を定量する。精製したXN
A+及びXNA-免疫グロブリンをSDS−PAGEにかけて、純度を調べる。こ
の工程により2次元電気泳動を含む実験用の及び抗イディオタイプ抗体産生用の
材料が提供される。
マウスを免疫化し、抗ヒトIg強反応性について調べた後、マウスから脾臓を
得て脾臓細胞を融合させる。ハイブリドーマ上澄み液を、XNA+及びXNA-被
覆プレート上でのELISAによって直接スクリーンする。ガラクトシルα(1
,3)ガラクトース特異的XNA+で被覆したプレートに対して反応性を示すが
、XNA-で被覆したプレートに対する反応性を示さないウェルを選択して、更
なる分析に用いる。これらのハイブリドーマ細胞系を増殖させて低温保存する。
抗イディオタイプと推定されるモノクローナルについても、自然抗体のガラクト
シルα(1,3)ガラクトース被覆ELISAプレートへの結合をブロックする
能力について調べる。
実施例11:遺伝子治療による抗α(1,3)ガラクトースα(1,3)Gal
反応性抗体の排除
レトロウイルス遺伝子治療を、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性
抗体の産生を低減させる免疫寛容誘発治療プログラムに用いることができる。こ
の方法は、α(1,3)Gal反応性抗体により媒介される移植片拒絶反応を阻
害する効果があり、非調和という障害を克服する異種移植にとって重要である。
ガラクトシルα(1,3)ガラクトー
ス反応性抗体[Thall他、1996、Transplantation P
roceedings28:561]を産生することのできるα1,3GTマウ
スノックアウトマウス(GT0)[Thall他、1995、J.Biol.C
hem.270:21437]を、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応
性抗体の産生に際しての、レトロウイルス媒介の遺伝子移転による、ブタα1,
3GTの骨髄リンパ造血幹細胞への導入のモデル系として用いることができる。
α1,3GTを形質導入した同質遺伝子的ブタ骨髄と共に、致死線量照射したG
T0マウスを再構成することによって、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース
産生B細胞の発達が効果的に回避される。
骨髄由来細胞中に恒常的に発現される遺伝子としての、ブタα(1,3)GT を移転する能力のあるレトロウイルスベクター
ブタαGTをコードする遺伝子を有するレトロウイルスベクター2個を作成し
た(図5)。第一のベクター(LGTA7)は、αGT発現がネズミグリセリン
酸燐酸キナーゼ(PGK)プロモーターにより作動する、N2A(Hantza
poulous他、1989、PNAS86:3519)を基にしたレトロウイ
ルスベクターである。第二のベクター(MZGT)は、α1,3GT発現がウイ
ルスの5’LTRに含まれる脊髄増殖性肉腫ウイルスプロモーターにより作動す
る、Macrozen(Johnson他、1989、EMBO J.8:44
1)を基にしたベクターである。二つの異なるレトロウイルスベクターを企図し
たのは、α1,3GT発現において異なるベクターが多かれ少なかれ効果的であ
ろうという理由からである。ウイルス産生細胞系を誘導するために、上記の構造
体を別々にAM12両栄養性パッケージング細胞系(Markovitz他、1
988、Virology167:400)に導入し、ウイルス産生系を既存の
方法(Fraser他、1995、J.Immunol.154:1587)で
作成した。両栄養性パッケージング細胞を前臨床の霊長類異種移植法に用いた。
組換えレトロウイルスが、機能的α1,3GT発現を移転できるかどうかを調
べるために、Vero細胞(ミドリザル腎臓表皮細胞系、α1,3GT非産生)
を、AM12細胞で産生されたLGTA7又はMZGTウイルスで形質導入した
。次いで選択したクローンについて、ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエ
ピトープの表面発現を、ガラクトシルαガラクトースに特異なBandeira
ea simplicifolia(BS=イソレクチンB4)から得たFIT
C標識化レクチンを用いて染色し、フローサイトメト
リーで分析した。全ての実験において、ネオマイシン耐性遺伝子(NEO)のみ
を含む対照レトロウイルスで感染させたVero細胞を並行して分析した。LG
TA7で感染させたVero細胞は、細胞表面上にガラクトシルα(1,3)ガ
ラクトースエピトープをフローサイトメトリーで検出可能なレベルで発現した。
ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープの表面発現は安定しており、
数ケ月培養したクローンの表面上にも検出できた。対照のNEO形質導入細胞に
おいては、ガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープの表面発現は検出
されなかった。IB4レクチンによる染色が、実際に導入されたトランスジーン
によりコードされるガラクトシルα(1,3)ガラクトースエピトープ発現の結
果であることを確認するために、LGTA7で形質導入したVero細胞をαガ
ラクトシダーゼで処理した。LGTA7で形質導入したVero細胞クローンを
αガラクトシダーゼで処理した結果、IB4−FITCの染色により検出される
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース発現は特異的に減少した。MZGT両栄
養性レトロウイルスを用いた場合にも同様の結果が得られた。これらのデータは
、LGTA7及びMZGTレトロウイルスが、ブタα1,3GTの発現を移転す
ることができ、次いで霊長類細胞表面上にα(1−3)結合でガラクトースエピ
トープを付加する触媒になることを示唆している。
GT0マウスから得た骨髄由来細胞における、レトロウイルスにより形質導入 されたブタαGTの発現は、α(1,3)Gal反応性抗体の産生を減少させる
採取前に生体内で150mg/kgの5−フルオロウラシルで7日間処理した
、GT0マウスから得た骨髄細胞を、LGTA7ウイルス産生細胞、又はネオマ
イシン耐性遺伝子のみを含むウイルスを産生する対照系(Fraser他、19
95、J.Immunol.154:1587)と共に培養して形質導入した。
生体外で4日間培養した後、形質導入した骨髄細胞を採取して、致死線量照射(
10.25Gy)したGT0マウスを106LGTA7(グループ1、n=4)又
はNeo形質導入(グループ2、n=3)骨髄細胞と共に再構成した。骨髄移植
後3週間してから、各グループのマウスから採血し、α(1,3)Gal反応性
血清抗体の存在をELISAによって分析した。図6に示すように、ガラクトシ
ルα(1,3)ガラクトース反応性血清抗体は、Neo形質導入骨髄で再構成し
た対照マウス中で容易に検出されたが、LGTA7形質導入骨髄で再構成された
マウスは、α(1,3)Gal反応性抗体を発生させなかった。骨髄移植後の少
なくとも1
8週間にわたって、血清ガラクトシルα(1,3)ガラクトース反応性抗体は、
LGTA7形質導入骨髄で再構成されたマウス内では検出されなかった。ELI
SAによって得られた結果を確認するために、各グループのマウスから得た血清
を、ウサギ補体の存在下においてα(1,3)Gal産生ブタPK−15細胞を
溶解することのできる抗体の存在について分析した(Koren他、1994、
Transplantation Proceedings26:1166;及
びKoren他、1994、Transplantation Proceed
ings26:1336参照)。図7に示すように、ブタPBMCで免疫化した
GT0マウス及びNeo形質導入骨髄で再構成したマウスが、PK−15細胞の
溶解を媒介することのできる血清抗体を含んでいたのに対し、ブタPBMCで免
疫化した正常なマウス又はPK−15細胞の溶解を媒介することのできる、LG
TA7形質導入骨髄で再構成したマウスにおいては、血清抗体は検出できなかっ
た。これらのデータを合わせると、ブタα1,3GT形質導入同質遺伝子的骨髄
での、致死線量照射GT0マウスの再構成は、ガラクトシルα(1,3)ガラク
トース産生B細胞の発生を効果的に阻止することを示している。
実施例12:ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基に対する免疫寛容の誘発
下記の工程は、ヒト又は旧世界霊長類にいおいてガラクトシルα(1,3)ガ
ラクトース基に対する免疫寛容を誘発することを企図したものである。この工程
は、ミニチュアブタドナーからの腎臓を受容する旧世界霊長類であるヒヒ(Pa
tio anubis)を用意するのに用いることができる。
この工程は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基をレシピエント内に提
示する自己由来の幹細胞を導入することによって、レシピエントの抗ガラクトシ
ルα(1,3)ガラクトース天然抗体(XNA)応答を減少させることを企図す
る。レシピエント骨髄をレシピエントの腸骨稜から吸引する。これによって、レ
シピエント幹細胞を培養するのに用いられるフィーダー層の産生に用いる自己由
来の細胞が提供される。ストローマ細胞培養は、低密度骨髄細胞をフィコール勾
配によって分離し、1%ゼラチンで被覆した24ウェルプレートに、ウェルあた
り2×106個の細胞を植えることによって作成される。5%CO2及び95%湿
度の条件下で、10%ウシ胎児血清、10%ウマ血清及び10-6Mヒドロコルチ
ゾンを含むM199培地を用いて、37℃で1週間、次いで33℃でさらに2
週間培養を保温する。培地は1週間ごとに半分除去し、新鮮なものを継ぎ足した
。融合性のストローマ細胞層が形成される間、これを3週間にわたって続けた。
フィーダー層を調製した後、第二の骨髄吸引を行って形質導入のための自己由
来幹細胞を得る。CD34+自己由来骨髄細胞の形質導入は、上で形成したスト
ローマ細胞培養の存在下に行う。骨髄移植の3日前に採取したレシピエント骨髄
の低密度フィコール勾配画分から、Ceprateカラム(CellPro I
nc.、ワシントン州ボーテル)を用いた免疫吸着によって、CD34+細胞を
濃縮する。次いで骨髄細胞を、上記した自己由来ストローマ細胞層の上に5×1
04個/ml/ウエルの量で植える。100ng/ml rhSCF(R&D
Systems、ミネソタ州ミネアポリス)及び100ng/ml rhIL−
3(Sandoz Pharmaceuticals Co.、バーゼル・スイ
ス)を追加した、10%ウシ胎児血清及び10%ウマ血清を含むM199培地に
て、CD34+細胞を37℃で一晩培養する。6μg/mlのポリブレン及び成
長因子の存在下で、培養をα(1,3)GT発現性レトロウイルス上澄み液(4
×106個の感染性粒子/mlの両栄養性組換えウイルス)に18時間接触させ
る。細胞をサイトカイン及びウイルスに上記の手順に従って再度接触させる。(
対照の形質導入実験を、細胞がレトロウイルスを受容しないことをのぞいては、
上記と同様の条件で行った。)0日目に、形質導入した癒着性及び非癒着性の細
胞群を採取し、骨髄を採取したのと同じ動物に注射する。
骨髄から採取しない条件のプログラムを用いて、工学処理した自己由来幹細胞
の移植用にレシピエントを調製する。移植3日前にこのレシピエントに、60Co
源からの300Radを非致死線量で全身照射する。移植1日前にこの動物にさ
らに700Radの胸腺照射を行い、移植3、2、1日前に50mg/kgの抗
胸腺細胞グロブリン(ATG、Upjohn、ミシガン州カラマズー)を静脈内
注射する。
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース発現性レシピエント細胞を導入する前
に、レシピエントの血液をガラクトシルα(1,3)ガラクトース親和カラムに
通過させて自然抗体をレシピエントの循環系から除去する。ガラクトシルα(1
,3)ガラクトース親和カラムを説明書(Alberta Research
Council、カリフォルニア州エドモントン)に従って準備する。ハロタン
でレシピエントに麻酔をかけ、レシピエントの血圧、血中酸素飽和度、血中ガス
及びpHをモニターしながら一般的な気管内挿管麻酔
法によって麻酔状態を保つ。頚静脈内部切開に次いで、上腕動脈にカテーテルを
設置して、直接的な血圧測定を可能にする。レシピエントの脾臓摘出を行っても
よい。次いでレシピエントの大動脈及び大静脈を露出させシラスチックシャント
を用いてカニューレを挿入する。大動脈カニューレをカラム入口に連結し、レシ
ピエントの大静脈カニューレをカラム出口に連結することで回路が完成する。流
速は容積計を用いて測定する。正常な血中体液量(euvolemia)を維持
し、手術中の凝固障害、貧血症及び低体温症を制御するためには麻酔医による継
続的なモニターが必要である。レシピエントの血液を60分間カラムに潅流する
。潅流法による自然抗体除去の効率を、フローサイトメトリー分析によって測定
する。
第0〜28日に、15mg/kg/日の量でシクロスポリン(Sandoz
Pharmaceuticals Co.、スイス・バーゼル)を静脈内注射し
、血漿レベルを300ng/ml以上に維持する。第0〜14日に、5μg/k
g/日の量で組換えヒトGM−CSF(Sandoz Pharmaceuti
cals Co.、スイス・バーゼル)を皮下投与する。感染予防として好中球
減少期間に渡って(移植3日前に開始)50mg/日の量でオフロキサシンを静
脈注射する。
抗ガラクトシルα(1,3)ガラクトース自然抗体を患者の血液から除去した
後、工学処理されたレシピエント細胞をレシピエントに導入する。次いでガラク
トシルα(1,3)ガラクトース抗体の産性について、レシピエントをモニター
する。ガラクトシルα(1,3)ガラクトース抗体が減少した又は低減されたこ
とを確認した後、ブタ骨髄幹細胞及び腎臓を、実施例12で述べるようにレシピ
エントに移植する。
ヒト自然抗体は、以下のELISAによって測定することができる。炭酸重炭
酸緩衝液(pH>9.5)中でBSA(Alberta Research C
ouncil、カナダ)に結合した5μg/mLのαGal(1→3)βGal
(1→4)βGlc−X−Yをウェルあたり100μl用いて、Nunc Ma
xisorbプレートを被覆する。これらのプレートを4℃で一晩保温する。被
覆したプレートをPBS−トゥイーン20(0.5%)で5〜6回洗浄し、1%
BSA(Sigma、ミズーリ州)を含むPBS−トゥイーン20をウェルあた
り200μL用いて37℃で1時間ブロックする。プレートはすぐに用いるか、
使用まで−20℃で冷凍する。使用前にプレートをPBS−トゥイーン20(0
.5%)で5〜6回洗浄し、ウェルあたり100μlのヒヒ又はヒト血清の段
階的投与量(0.016〜2%)を充填する。次いでプレートを37℃で1時間
保温し、PBS−トゥイーン20(0.5%)で5〜6回洗浄する。結合した抗
体は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)に結合させたポリクローナル
ロバ抗ヒトIgG(Accurate、ニューヨーク州)及びウサギ抗ヒトIg
M(Dako、デンマーク)を用いて検出する。プレートを37℃で1時間保温
する。プレートをPBS−トゥイーン20(0.5%)で5〜6回洗浄したのち
、基質となる二塩酸o−フェニレンジアミン(OPD、シグマ、ミズーリ州)を
0.9mg/mLの量で含む、尿素水素ペルオキシダーゼ(Sigma、ミズー
リ州)含有燐酸−クエン酸緩衝液を用いて発色させる。室温・完全な暗所で13
分間保温したのち、プレートを50μLの2N H2SO4でブロックし、490
nmにおける吸光度をTHERMOmaxプレート読み取り機(Molecul
ar Devices、カリフォルニア州)で測定する。
Galα1,3Gal反応性マウス自然抗体は、検出抗体としてロバ抗マウス
IgG及びロバ抗マウスIgM(Acurate、ニューヨーク州)を用いるこ
とを除いては、上記した分析と同様の分析によって検出することができる。
実施例13:ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を提示する移植片に対す
る免疫寛容の誘発
以下の工程は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を提示する移植組織
が、ヒト又は旧世界霊長類内で拒絶反応を受けるまでの時間を延長することを企
図したものである。組織は例えば造血幹細胞であってもよいし、肝臓、腎臓、心
臓などの臓器であってもよい。ガラクトシルα(1,3)ガラクトース提示レシ
ピエント幹細胞をレシピエントに移植することによって、移植片上のガラクトシ
ルα(1,3)ガラクトース基を認識する自然抗体を低減させ(実施例11参照
);レシピエント抗ドナーT及びNK細胞活性を減少させ;免疫寛容を誘発する
ドナー骨髄を移植し;そして移植片導入時に短期の補助低減剤投与をする;こと
を主な目的とする。
抗ガラクトシルα(1,3)ガラクトース自然抗体応答の低減
ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を認識するレシピエント自然抗体を
、実施例11で述べたように低減させる。
ドナー幹細胞用のレシピエントの準備
レシピエントT及びNK細胞の活性を、抗T及び抗NK細胞抗体を投与するこ
とによって不活性化する。従って、ドナー幹細胞の導入3、2及び1日前に、ウ
マ抗ヒト抗胸腺細胞グロブリン(ATG)の市販調製物(Upjohn、ミシガ
ン州カラマズー)をレシピエントに注射する。免疫寛容誘発に用いた骨髄細胞を
促進することのできるがさもなくば拒絶しうる成熟T細胞及びNK細胞が、AT
Gによって低減される。レシピエントに麻酔をかけ、IVカテーテルをレシピエ
ントに挿入し、注射前に6mlのヘパリンで凝血防止した全血を採取する。AT
G調製物(50mg/kg)を静脈注射するヘパリンで凝血防止した全血試料6
mlを試験するために、30分、24時間及び48時間で抽出した。血液試料を
、NK細胞活性における抗体処理の効果(K562標的)について、CD4、C
D8、CD3、CD11b及びCD16を含むリンパ球部分母集団のフローサイ
トメトリー分析によって調べた。成熟T細胞及びNK細胞が十分に阻害されない
場合には、ATGを処理後期の臓器移植前後に再度投与することができる。どの
ような哺乳類宿主から得た抗ヒトATG(例えばブタ内で産生されるATG)を
用いることもできる(ただし今までのところブタATG調製物はウマ由来のAT
Gに比べて低い力価であることがわかっている)。ATGは抗NKモノクローナ
ル抗体より優っている。というのは、後者は一般に全ての宿主NK細胞を溶解す
ることはできないが、ATG中のポリクローナル混合物は全ての宿主NK細胞を
溶解することができるからである。しかし抗NKモノクローナル抗体を用いるこ
ともできる。
宿主T細胞が移植後に再生する間に、宿主胸腺中にドナー抗原が存在している
ことが、宿主T細胞の免疫寛容化にとって重要である。宿主T細胞が再生する前
にドナー造血幹細胞が宿主胸腺内に定着せず免疫寛容を誘発することができない
場合には、骨髄から採取しない条件のプログラムを通じて、抗レシピエントT細
胞抗体を繰り返し投与することが必要となるであろう。宿主T細胞の連続的低減
が、数週間に渡って必要であろう。
ドナー幹細胞移植の3〜1日前に、準致死線量照射をレシピエントに行って造
血空間を作成する。全身準致死線量照射は、最小限の毒性効果をレシピエントに
与えるだけで十分に移植を可能にする。全身照射(300Rad)を、10Ra
d/分にて両側コバルト遠隔治療法によって非ヒトの霊長類レシピエントに行う
ことができる。
胸腺空間の作成も、免疫寛容の誘発に有益である。胸腺の局部照射(700R
ad)を用いて胸腺空間を誘発することができる。胸腺照射は、ドナー幹細胞投
与前に行うことが
できる。
ブタドナー幹細胞の投与
T細胞及びB細胞媒介寛容性を通じた、長期臓器移植を促進するために、ドナ
ー骨髄細胞をレシピエントに注射してキメラ骨髄を形成する。(肝臓は胎児にお
いて造血が主に行われる場所なので、造血幹細胞供給源として胎児肝臓を骨髄の
代用物として用いることもできる。)ドナー骨髄細胞はレシピエントの適当な場
所に収まり、他の宿主細胞と共に成長・増幅し続け、キメラリンパ造血細胞群を
構成する。骨髄中にドナー抗原が存在することによって、新たにB細胞が発達し
、新たにT細胞に感応性を与え、ドナー上の抗原を自己として認識し、よってド
ナーからの移植臓器に対する寛容性を誘発する。ドナーBMCを安定させるため
に、ブタIL−3及び幹細胞因子(BioTransplant,Inc.マサ
チューセッツ州チャールズタウン)を、第0〜14日に10μg/kg/日の量
でレシピエントに投与することができる。骨髄を採取して(7.5×108/k
gの量で)静脈注射することができる(Pennington他、1988、T
ransplantation45:21−26参照)。自然抗体が免疫寛容誘
発前の状態に復帰し、これらの抗体が移植片に損傷を与える場合には、プロトコ
ルを変更して、BMTに続いて臓器移植を行う前に、体液寛容を確立するように
十分な時間を与えることができる。
キメリズム作成に続いて、2色フローサイトメトリーを用いることができる。
この分析では、ドナークラスI主要組織適合抗原及びリンパ球共通抗原とレシピ
エントクラスI主要組織適合抗原との間の違いを識別するためにモノクローナル
抗体を用いる。あるいはキメリズム作成に続いて、PCRを用いてブタに特異的
な配列を増幅し、よってブタ細胞の存在を指示することもできる。
ドナー細胞移植時(又はその数日前)に始まって約28日間に渡って、15m
g/kg/日の量でシクロスポリン(Sandoz Pharmaceutic
als Co.、スイス・バーゼル)を静脈注射し、血漿レベルを300ng/
ml以上に維持する。
ブタ移植片の導入
ドナー幹細胞を投与したのち、ミニチュアブタ腎臓をレシピエントに移植する
。骨髄キメリズムを導入して数ケ月したレシピエントに臓器が移植されると、ド
ナーに対する自然抗体は消失し、移植片は免疫系の体液及び細胞アームの両方に
受け入れられるはずである。臓器移植は造血細胞移植のかなり後でも行うことが
でき、正常な健康状態と免疫適格は臓
器移植時までに回復する。異種ドナーの使用によって、同じ動物又は遺伝子的に
適合する他の動物から得た骨髄細胞及び臓器を用いることが可能となる。
上記した方法は、移植片拒絶反応の問題を相互作用的に回避することを企図し
ている。これらの工程のいずれもが臓器の長期移植を助けるものであるが、全て
の段階を組み合わせて用いた場合に最も良好な結果が達成される。
幹細胞の導入方法は、特に以下の点について変更することもできる。(1)造
血幹細胞の注射と、移植片の移植との間隔を長くする;(2)注射される造血幹
細胞の量を増やす又は減らす;(3)造血幹細胞の注射回数を変える;(4)造
血幹細胞の投与方法を変える;(5)造血幹細胞の供給組織を変える(例えば胎
児肝臓細胞懸濁液を用いる);(6)造血幹細胞の供給ドナーを変える。造血幹
細胞は移植片ドナーに由来するものが好ましいが、造血幹細胞は他の個体、好ま
しくは純系のドナーから得たもの、あるいは生体外の細胞培養から得たものであ
ってもよい。
レシピエントの照射において以下の点について変更することもできる。(1)
準致死線量以下で、全身照射の吸収量を変える;(2)体の他の部分(例えば胸
腺、脾臓)を標的とする;(3)照射速度を変える(例えば10Rad/分、1
5Rad/分);又は(4)照射と造血幹細胞移植との間隔を変える(1〜14
日の間隔のうちいずれをも用いることができ、4〜7日の間隔を用いることによ
って確実に利点が生じる)。
造血細胞移植に先立って導入される抗体は、以下の点について変更することが
できる。(1)T細胞群又はNK細胞に対するモノクローナル抗体(例えばHe
rcend他による米国特許第4,772,552号に記載の抗NKH1A。参
照して説明に変える)を用いる;(2)他の哺乳類宿主(例えばサル、ブタ、ウ
サギ、イヌ)内で抗ヒトATGを調製する;又は(3)上記した宿主において調
製した抗サルATGを用いる。
他の態様
本発明の方法に用いることのできる好ましい寛容原は、ガラクトシルα(1,
3)ガラクトース基である。しかし、実施例4に示したように、他の基(例えば
血液型B抗原)もガラクトシルα(1,3)ガラクトース基免疫寛容性をある程
度誘発することができる。従って、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基に
対する免疫寛容を誘発するのに十分に類似した構造を有するあらゆる基、特に他
の炭水化物基を、ここに記載した方法及び組成物に用いることができる。抗ガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース抗体との交差反応
性を調べることによって、寛容原として用いることのできる化合物をスクリーン
することができる。候補化合物の抗体に結合する能力は、寛容原としての有用性
を示す。
本発明の方法は、自然抗体の標的になる他の自然抗体抗原(例えば他の炭水化
物)に対する免疫寛容を誘発するのに用いることもできる。免疫寛容誘発の対照
となる基は、次のように見つけることができる。ヒト自然抗体を単離し、抗ガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース基反応性抗体を除去する。残った自然抗体を
、抗原のパネル(例えば炭水化物基のパネル)について試験し、免疫寛容に用い
る抗原を選択する。抗原を同定した後、ここに述べた方法を新たな抗原用に改変
し、免疫寛容を誘発する。
本発明の方法は、腫瘍性疾患、特に(化学療法、放射線療法などの)通常の治
療法に耐性のある疾患にかかっている組織又は臓器の交換に特に有用である。好
ましい態様においては、移植片は消化管から得た組織(例えば胃から得た組織、
小腸、大腸、結腸などの腸から得た組織)を含む。移植片は、レシピエントの消
化系の、あらゆる消化管(胃又は小腸、大腸、結腸などの腸)の(全又は一)部
分と置き換わる。
ここに述べたように、混合キメリズムの発達を促進させるために、移植レシピ
エントを照射することがしばしば望まれる。照射量を分割することによって、例
えば2回以上の照射を行うことによって、より少ない毒性で照射によるキメリズ
ムの誘発を行うことができる。従って、異種移植のレシピエント(例えば霊長類
やヒト)照射を必要とする本発明の方法のあらゆる態様において、照射を1回で
或いはより好ましくは2回以上に分割して行うことができる。分割した線量の合
計は、好ましくは混合キメリズムを与える1回の照射量(単位は例えばRadや
Gy)と同じにする。分割は、各線量がおおよそ等しくなるのが好ましい。例え
ば、700Radの1回の照射を、350Radの2回の分割照射と、又は10
0Radの7回の分割照射と置き換えることができる。照射量の超分割を本発明
の方法に用いることもできる。分割照射を同じ日に行うこともできるし、1日、
2日、3日、4日、5日又はそれ以上の間隔をおいて行うこともできる。全身照
射、胸腺照射、又はその両方を、分割することができる。
本発明の方法は、レシピエントの脾摘出を含むことができる。
ここに述べたように、レシピエントの血液をガラクトシルα(1,3)ガラク
トースエピトープと接触させることによって、宿主の自然抗体を低減させること
ができる。自然抗体を低減又はさもなくば不活性化させる他の方法を、ここに記
載した方法と共に用いるこ
とができる。例えば、自然抗体を不活性化する薬剤[デオキシスパーグアリン(
DSG)(Bristol)]又は抗IgM抗体を、同種移植又は異種移植のレ
シピエントに投与することができる。本発明の方法において、DSG(又は同様
の薬剤)、抗IgM抗体、及び血液潅流のうち1以上を、レシピエント自然抗体
を不活性化するのに用いることができる。6mg/kg/日の濃度のDSGの静
脈注射が、カニクイザル腎臓移植のブタにおいて機能する自然抗体を抑制するの
に有用であることが分かっている。
胸腺T細胞又は胸腺細胞を不活性化する方法も、本発明の態様に含まれる。こ
こに記載した方法の幾つかは、宿主胸腺T細胞を不活性化する或いはさもなくば
ドナー抗原に対する宿主胸腺T細胞媒介応答を減少させることを目的とした、胸
腺照射の適用を含む。本発明の異種移植方法に必要な胸腺照射は、(例えば胸腺
T細胞を低減させる及び/又はT細胞受容体(TCR)、CD4共受容体、CD
8共受容体のうち1個以上を下方変調させることによって)宿主胸腺T細胞媒介
応答を低減する他の処理を追加できる又はそのような処理と置き換えできること
が判明している。例えば胸腺照射は、宿主の胸腺T細胞媒介応答を低減するのに
充分な回数・投与量・期間で投与される抗T細胞抗体(例えば抗CD4及び/又
は抗CD8モノクローナル抗体)を追加できる又はそのような抗体と置き換えで
きる。
最も適当な結果を得るためには、抗T細胞抗体を繰り返し投与すべきである。
例えば抗T細胞抗体を、骨髄移植に先立って1、2、3又はそれ以上の回数投与
できる。通常、骨髄移植に先立つ抗体の患者への投与は、骨髄移植の約5日前に
行われる。追加的に、骨髄移植の6、7又は8日前に早期投与を行うこともでき
る。第一の投与を行った後、骨髄移植前に1〜5日ごとの投与を繰り返し、患者
血清中に過度の抗体が生じる又は末梢T細胞の約99%の低減が起こってから、
骨髄移植を行うのが望ましい。抗T細胞抗体を、ドナー骨髄移植の後、1、2、
3又はそれ以上の回数投与することもできる。通常、骨髄移植後の処理は、骨髄
移植の約2〜14日後に行われる。骨髄移植後の投与は、必要なだけ繰り返すこ
とができる。1回より多い投与が行われる場合には、1週間の間隔をおいて投与
することができる。患者に早期又は望まれないT細胞回復が見られる場合には、
追加の投与を行うことができる。好ましくは、抗T細胞抗体は、骨髄移植前に少
なくとも一回(そして好ましくは2、3回かそれ以上)、骨髄移植後に少なくと
も一回(そして好ましくは2、3回かそれ以上)投与される。
ここに記載した方法の幾つかは、造血幹細胞(工学処理した自己由来細胞又は
ドナー細胞)のレシピエントへの投与を含む。こうした方法の多くにおいて、造
血幹細胞は移植片の移植に先立って又は移植時に投与される(この投与は、移植
片に対する免疫寛容を誘発することを主要な目的とする)。1回以上後に続ける
造血幹細胞の投与(例えば2回、3回、4回、5回目又はその後の投与)が、免
疫寛容の発生及び/又は維持に望ましいことが本発明者によりわかっている。従
って本発明は、ここに記載した全て方法の一部として造血幹細胞を投与したレシ
ピエント(例えば霊長類、ヒト)に、造血幹細胞を投与する方法も含む。
理論に固執することを望むわけではないが、幹細胞投与の繰り返しは、移植片
レシピエントにおけるキメリズム及び長期の欠損型免疫寛容を促進すると考えら
れる。従って、造血幹細胞の投与を含む、ここに言及した全ての方法も、幹細胞
の複数投与をさらに包含することができる。好ましい態様においては、幹細胞の
第一及び第二の投与を移植前に行い;幹細胞の第一の投与を移植前に、幹細胞の
第二の投与を移植時に行う。他の好ましい態様においては、幹細胞の第一の投与
を移植前又は移植時に行い、幹細胞の第二の投与を移植に続いて行う。造血幹細
胞投与の期間は、様々に変えることができる。好ましい態様にあっては、後に続
ける造血幹細胞の投与は、前回の幹細胞投与の少なくとも2日、1週間、1ヶ月
又は6ヶ月後に行い、移植の少なくとも2日、1週間、1ヶ月又は6ヶ月後に行
う。
本発明の方法は、例えば移植臓器の機能低下によって、ホストドナー特異的抗
体応答の変化によって、あるいはドナー抗原に対するホストリンパ球応答におけ
る変化によって示されるような、拒絶反応の兆候をレシピエントが示し始めた場
合;キメリズムのレベルが低下する場合;又は一般に、移植片に対する寛容を維
持する又はさもなくば受容を延長するのに必要な場合;に、第二の又は後に続け
る造血幹細胞の投与を行う段階をさらに包含する。従って本発明の方法は、1回
以上の造血幹細胞投与を受けた被験体が後に続く造血幹細胞投与を必要とするか
を調べる段階を、並びにそうである場合には後に続く造血幹細胞投与をレシピエ
ントに行う段階を、さらに包含するように改変することができる。
ここに言及した全ての方法も、レシピエント中の抗体の産生、レベル又は活性
を不活性化する(例えば阻害する)薬剤(例えば1,5−デオキシスパーグアリ
ン、マイコフェノラートモフェチル(mofetil)、ブレクイナー(bre
quinar)ナトリウム又は同様の薬剤)の投与を包含することができる。1
個以上のこれらの薬剤を、ドナー組
織移植の前(例えば1、2、3日又は1、2、3週間前)に;ドナー組織の移植
時に;又は移植の前(例えば1、2、3日又は1、2、3週間前)に投与するこ
とができる。
薬剤の投与は、例えば移植臓器の機能低下によって、ホストドナー特異的抗体
応答の変化によって、あるいはドナー抗原に対するホストリンパ球応答における
変化によって示されるような、拒絶反応の兆候をレシピエントが示し始めた場合
;キメリズムのレベルが低下する場合;キメリズムのレベルが所定の値より低く
なった場合;又は一般に、移植片に対する寛容を維持する又はさもなくば受容を
延長するのに必要な場合;に、行うことができる。
薬剤投与の期間(又は臨床上効果的なレベルが被験体中で維持される期間)は
、長期(例えば6ヶ月以上又は1年以上)又は短期(例えば1年以下、より好ま
しくは6ヶ月以下、より好ましくは1ヶ月以下、より好ましくは2週間以下)で
あることができる。期間は一般に少なくとも約1週間、好ましくは少なくとも約
2週間である。好ましい態様にあっては、期間は2又は3週間である。
好ましい態様は、移植の日に始まって約2週間、15−デオキシスパーグアリ
ン(6mg/kg/日)を投与することを含む。
(好ましくはモノクローナル例えばBTI−322の、又は類似の又はオーバ
ーラップするエピトープに対応するモノクローナルの)抗CD2抗体を、ここに
言及した全ての方法における抗T細胞抗体(例えばATG)に加えて又はその代
わりに、用いることができる。
他の態様においては、本発明は、遺伝子工学処理したブタ細胞(例えば培養ブ
タ細胞、レトロウイルスで形質転換したブタ細胞、又はトランスジェニックブタ
に由来する細胞)を特徴とする。この細胞は、α(1,3)ガラクトシルトラン
スフェラーゼ(例えばβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−D−グル
コサミニドα(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ)に結合し且つブタ細
胞上にガラクトシルα(1,3)ガラクトース基を形成する酵素を阻害する、細
胞内抗体をコードするトランスジーンを包含する。ブタ細胞は普通サイズのブタ
からのものでもよいし、ミニチュアブタからのものでもよい。好ましくは、トラ
ンスジーンは細胞のゲノム内に統合する。
好ましい態様にあってはトランスジーンは、小胞体を標的とする抗体;単鎖抗
体(例えば単鎖可変部断片)をコードする。(単鎖可変部断片抗体は、フレキシ
ブルペプチドリン
カーの結合した免疫グロブリンH及びL鎖可変部(VH及びVL領域を含む。)
好ましい態様においては、遺伝子工学処理したブタ細胞は、ブタ造血幹細胞(
例えば臍帯血造血幹細胞、骨髄造血幹細胞、或いは胎児又は新生児の肝臓又は脾
臓造血幹細胞);骨髄性細胞などの、分化した血液細胞に由来する細胞(例えば
巨核球、単球、顆粒球又は好酸球);赤血球などの、赤血球系細胞(例えばBリ
ンパ球、Tリンパ球などのリンパ球系細胞);多能造血幹細胞に由来する細胞[
例えばバースト形成単位−赤血球系(BFU−E)、コロニー形成単位−赤血球
系(CFU−E)、コロニー形成単位−巨核球(CFU−Meg)、コロニー形
成単位−単球(CFU−GM)、又はコロニー形成単位−顆粒球−赤血球−巨核
球−単球(CFU−GEMM)などの造血先駆体];造血幹細胞ではないブタ細
胞又は他の血球;ブタ胸腺細胞(例えばブタ胸腺ストローマ細胞);骨髄ストロ
ーマ細胞;ブタ肝臓細胞ブタ腎臓細胞;ブタ上皮細胞;ブタ造血幹(proge
nitor)細胞;ブタ筋肉細胞(例えば心臓細胞);ブタ内皮細胞;あるいは
樹状細胞又はその前駆体;である。
さらに他の好ましい態様においては、細胞は、培養細胞(例えば初代培養、特
に造血幹細胞の初代細胞培養)から単離した又はそれに由来する細胞;或いは、
トランスジェニック動物から単離又はそれに由来する細胞である。
他の態様においては、本発明は、α(1,3)ガラクトシルトランスフェラー
ゼ(例えばβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニド
α(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ)に結合する細胞内抗体をコード
するトランスジーンを包含する細胞を有するトランスジェニックブタを特徴とす
る。トランスジェニック抗体は、トランスジェニックブタ細胞上にガラクトシル
α(1,3)ガラクトース基を形成する酵素を阻害する。トランスジェニックブ
タは普通サイズのブタでもよいし、ミニチュアブタでもよい。好ましくは、トラ
ンスジーンは細胞のゲノム内に統合する。
好ましい態様にあってはトランスジーンは、小胞体を標的とする抗体;単鎖抗
体(例えば単鎖可変部断片)をコードする。本発明のトランスジェニックブタ(
又はブタ細胞)は、ヒトレシピエントへの移植における、組織(例えば造血細胞
又は他の組織や臓器)の供給源として用いることができる。
他の態様においては、本発明は、α(1,3)ガラクトシルトランスフェラー
ゼ(例えばβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニド
α(1,3)ガラ
クトシルトランスフェラーゼ)に結合する細胞内抗体をコードするトランスジー
ンを包含する細胞を有するブタ臓器又はブタ組織を特徴とする。トランスジェニ
ック抗体は、トランスジェニックブタ細胞上にガラクトシルα(1,3)ガラク
トース基を形成する酵素を阻害する。トランスジェニックブタ臓器又は組織は普
通サイズのブタのものでもよいし、ミニチュアブタのものでもよい。好ましくは
、トランスジーンは細胞のゲノム内に統合する。
好ましい態様においては、臓器は心臓、肺、腎臓、膵臓又は肝臓である。
好ましい態様においては、組織は胸腺組織;膵島細胞又は島;幹細胞;骨髄;
内皮細胞;皮膚;又は維管束組織である。
本発明のブタ臓器及び組織を、ヒトレシピエントへの移植用の組織(例えば造
血細胞又は他の組織又は臓器)の供給源として用いることができる。
トランスジェニック抗α(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ細胞内抗
体を発現する移植組織を用いて、異種組織をレシピエントに移植する方法を改良
することができる。例えば、α(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ(例
えばβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα(1
,3)ガラクトシルトランスフェラーゼ)に結合し、よって移植片表面上のガラ
クトシルα(1,3)ガラクトース基の数を削減するする抗体、好ましくは細胞
内抗体をブタ(例えばミニチュアブタ又は普通サイズのブタ)組織が発現する場
合、ヒトレシピエントにおけるブタ組織の受容を延長することができる。ここに
説明したトランスジェニック組織を、ここに記載した全ての方法において他のブ
タ組織の代わりに用いることができる。
本発明の遺伝子工学処理したブタ細胞は、当業者に公知の方法(例えばブタ細
胞のレトロウイルス形質導入)で作製することができる。本発明のトランスジェ
ニックブタを産生する方法には、標準的なトランスジェニック法を用いる。これ
らの方法の例としては、レトロウイルスなどのウイルスによって受精卵又は生物
体を感染させる方法;ウイルスで組織を感染させ、組織を動物内に再導入する方
法;及び哺乳類の胎児性幹細胞に組み換え核酸分子を導入し、適当な操作を行っ
てトランスジェニック動物を作製する方法;が挙げられる。
ここで言う「トランスジーン」とは、工学的に細胞内に導入された(例えば抗
体、特に細胞内抗体をコードする)核酸配列のことを言う。トランスジーンは、
細胞から全体又は
一部に成長する動物のゲノムの一部となる。トランスジーンがゲノムに統合され
ると、その挿入によってゲノムの核酸配列が変化する。トランスジーンは、特定
の核酸の望ましい発現レベル又はパターンに必要な、1個以上の転写制御配列及
び他の核酸配列(例えばイントロン)を、その特定の核酸に操作可能に連結させ
て含むことができる。トランスジーンはエンハンサー配列を含むことができる。
トランスジーンは通常、出生前の時期(例えば胚時期又はそれより早い時期)に
動物又は動物の祖先に導入される。トランスジーンは、小胞体を標的とするトラ
ンスジーン産物の配列を含む。
ここで言う「トランスジェニック細胞」とは、トランスジーンを含んでいる細
胞のことを言う。
ここで言う「トランスジエニック動物」とは、1個以上の、好ましくは実質的
に全ての細胞が、トランスジーンを含んでいる動物のことを言う。慎重な遺伝子
操作(例えばマイクロインジェクション又は組み換えウイルスとの感染)によっ
て細胞前駆体に導入することによって、トランスジーンは直接又は間接に細胞内
に導入される。ここで言う「遺伝子操作」の語は古典的な交雑育種や生体外受精
を含まないが、むしろ組み換えDNA分子の導入について意味するものである。
この分子は染色体内に統合されてもよいし、染色体外で複製するDNAであって
も良い。
ここで言う「組み換えブタ細胞」とは、組み換えベクター又は他の移転核酸の
レシピエントとして用いられた、並びにトランスフェクト又は形質転換された元
の細胞の後代を含む、ブタ(好ましくはミニチュアブタ)に由来する細胞のこと
を言う。組み換えブタ細胞は、トランスジーン又は他の核酸ベクターが宿主細胞
のゲノムに組み込まれた細胞、並びに宿主細胞のゲノムからの自己制御を保って
いる発現ベクターを有する細胞を含む。
ここで言う「組織」とは、移植可能な全ての生物学的物質のことをいい、臓器
(特に心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓及び胸腺などの内部生体臓器)、角膜、皮膚
、血管及び他の結合組織、血球及び造血細胞を含む細胞、ランゲルハンス島、脳
細胞、内分泌及び他の臓器からの細胞、体液を含む。ここに挙げたものは全て移
植の対象となりうる。
細胞内抗体(intrabody)の産生:単鎖可変部断片抗体
単鎖可変部断片抗体が、ここに記述した方法に使用されるのが特に好ましい。
本発明の細胞内抗体の産生では先ず、α(1,3)ガラクトシルトランスフェラ
ーゼ(例えばβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニ
ドα(1,3)ガラクトシ
ルトランスフェラーゼ)に特異的なモノクローナル抗体を産生する。これらの抗
体は、酵素(好ましくはブタ酵素)を動物(例えばマウス)に注射することによ
って調製できる。各ハイブリドーマによって産生される抗体を、α(1,3)ガ
ラクトシルトランスフェラーゼ活性の阻害能について、生体外で試験することが
できる。活性を阻害する抗体から得た免疫グロブリンH及びL鎖可変部(VH及
びVL)領域をクローンして、単鎖抗体構造体を調製するのに用いた。この構造
体をブタ細胞系内にトランスフェクトし、ガラクトシルα(1,3)ガラクトー
ス基の存在に対する抗体の効果を調べることによって、構造体の生体内活性につ
いて評価することができる。基の存在を減少させた構造体を用いて、トランスジ
ェニック動物を作製する、或いは遺伝子工学処理した細胞を調製することができ
る。
遺伝子工学処理ブタ細胞
トランスジェニックブタ細胞は、当分野で公知の方法を用いて産生することが
できる。トランスジーンは細胞(例えば幹細胞、特に培養幹細胞)に、移植を促
進する又は細胞を維持するのに充分なレベル・期間でこれらの遺伝子の発現を可
能にする方法で、導入することができる。こうした方法の例として、トランスフ
ェクション、電気穿孔法、粒子銃法及びウイルスベクター(例えばレトロウイル
ス)による形質導入が挙げられる。トランスジーンブタ細胞は、トランスジェニ
ック動物に由来させることもできる。組み換えレトロウイルスが運搬系として好
ましい。
トランスジェニックブタの作製 ブタ卵母細胞へのマイクロインジェクション
好ましい態様においては、本発明のトランスジェニックブタは、
i)組み換え核酸分子をブタ受精卵にマイクロインジェクションして遺伝子的に
改変したブタ卵を作製し;
ii)遺伝子的に改変したブタ卵を宿主雌ブタに移植し;
iii)実質的にブタ胎児を妊娠したのと同じ期間にわたって宿主雌ブタを維持
し;そして
iv)遺伝子的に改変したブタ卵から発達した細胞を少なくとも1個有し、ヒト
クラスI遺伝子を発現するするトランスジェニックブタを得る
段階によって作製される。
一般に、トランスジェニック動物作製におけるマイクロインジェクションプロ
トコルの
使用は、主に以下の4つの段階に分けられる。(a)動物の調達;(b)1又は
2細胞胎芽の、生体外採取及び維持;(c)胎芽へのマイクロインジェクション
;並びに(d)レシピエント雌ブタへの胎芽の再移植。トランスジェニック家畜
、特にブタの作製に用いる方法は、トランスジェニックマウス作製に用いるもの
と原理的には変わらない。例えばトランスジェニックマウスに関して述べたGo
rdon他(1983)Methods in Enzymology101:
411;及びGordon他(1980)PNAS77:7380と、トランス
ジェニックブタの作成法について教示を与えてくれるHammer他(1985
)Nature315:680、Hammer他(1986)J.Anim Sci6
3:269−278、Wall他(1985)Biol Reprod.32:
645−651、Pursel他(1989)Science244:1281
−1288、Vize他(1988)J Cell Science90:29
5−300、Muller他(1992)Gene121:263−270、及
びVelander他(1992)PNAS89:12003−12007を比
較されたい。PCT公開番号WO90/03432及びPCT公開番号WO92
/22646、並びにそこに参照されている文献をさらに参照されたい。
準備工程中の一段階は、少なくともドナー雌の発情周期を同調させ、交配前に
ドナー雌の過剰排卵を誘発することを包含する。通常、過剰排卵には発情周期の
適当な段階で薬剤を投与して卵胞の発達を刺激し、薬剤処理して発情を同調させ
、排卵を開始させることを包含する。下記の実施例で述べるように、通常は妊娠
した雌ウマの血清を卵胞刺激ホルモン(FSH)の模擬として用い、それに組み
合わせて、ヒト絨毛膜性生殖腺刺激ホルモン(hCG)を黄体形成ホルモン(L
H)の模擬として用いる。ブタにおける効果的な過剰排卵の誘発は、良く知られ
るように、雌の年齢及び体重、生殖腺刺激ホルモン投与の量及びタイミングを含
む、幾つかの変数に依存する。例えばブタの過剰排卵について記載したWall
他(1985)Biol.Peprod.32:645を参照されたい。過剰排
卵によって、多数の健全な胎芽が交配の後に入手しやすくなり、従業者にもタイ
ミングをコントロールしやすくなる。
交配の後、1又は2細胞受精卵を過剰排卵化雌からマイクロインジェクション
用に採取する。ブタから卵を採取するのに有用な様々なプロトコルが知られてい
る。例えば一つの方法においては、受精した過剰排卵化雌の卵管を手術により摘
出し、緩衝溶液/培地内で
単離し、単離した卵管組織から受精卵を抽出する[Gordon他(1980)
PNAS77:7380;及びGordon他(1983)Methods i
n Enzymology101:411参照]。或いは、麻酔をかけた動物の
卵管にカニューレを挿入し、緩衝溶液/培地で洗浄して受精卵を採取する(これ
によって動物を殺す必要が無くなる)[Hammer他(1985)Natur
e315:600参照]。過剰排卵化雌の交配後の、胎芽採取のタイミングは、
受精工程の長さ及び前核の適当な成長に必要な時間に依存させることができる。
この一時的な待ち時間は、例えば大型品種のブタの場合、48時間までの範囲に
わたる。前核を含む1細胞卵、又は2細胞胎芽といった、マイクロインジェクシ
ョンに適した受精卵は、解剖顕微鏡を用いて容易に同定することができる。
単離したブタ胎芽のマイクロインジェクションに必要な装置及び試薬は、マウ
スに用いるものと同様である。胎芽マイクロインジェクション用の装置及び試薬
について記述のある、Gordon他(1983)Methods in En
zymology101:411;及びGordon他(1980)PNAS7
7:7380を参照されたい。以下簡潔に述べると、マイクロマニピュレーター
に付いている卵ホルダー(1mmガラス管から製作されたもの)に受精卵を配置
し、微分干渉コントラスト光学に適用させた解剖顕微鏡で調節する。ブタ胎芽に
良くあることだが、光学的に不透明な細胞質物質の存在によって前核の視覚化が
難しい場合には、胎芽の生育力にかかわらず、胎芽を遠心分離にかけることがで
きる[Wall他(1985)Biol.Reprod.32:645参照]。
通常、遠心分離がこの方法に必要であろう。原核細胞の配列と不必要なフランキ
ング配列の除去を目的として、組み換え核酸分子を少なくとも1個の制限エンド
ヌクレアーゼで線形化することによって得た、線形の本発明の組み換え核酸分子
が提供される。加えて、組織特異的プロモーター及びヒトクラスI遺伝子を含む
組み換え核酸分子を、1個以上の制限エンドヌクレアーゼを用いてベクター配列
から単離しても良い。組み換え核酸分子の操作及び線形化の方法は公知のもので
あり、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual
、第2版、Maniatis他編、Cold Spring H
arbor、ニューヨーク(1989)を参照されたい。
公知の方法を用いて、線形化組み換え核酸分子をブタ卵にマイクロインジェク
ションして、遺伝子的に改変した哺乳類卵を作製することができる。通常、線形
化核酸分子は受精卵の前核に直接マイクロインジェクションされる[Gordo
n他(1980)PNAS
77:7380−7384参照]。これによって、有意な数の生存胎芽において
、安定した組み換え核酸分子の染色体への統合が達成される[Brinster
他(1985)PNAS82:4438−4442及びHammer他(198
5)Nature315:600−603参照]。卵ホルダーのような、注入に
用いられるミクロニードルを、ガラス管から引き抜くこともできる。ミクロニー
ドルの先端に、毛管現象によってプラスミド懸濁液を満たす。顕微鏡による視覚
化で、卵ホルダーに固定された細胞の前核にミクロニードルを挿入し、プラスミ
ド懸濁液を前核に注入する。注入に成功した場合、前核が膨張するのがはっきり
分かる。ミクロニードルを引き抜き、マイクロインジェクションをしても生き残
った(例えば崩壊しなかった)細胞を次いで宿主雌に移植する。
次いで遺伝子的に改変した哺乳類胎芽を、レシピエントの卵管又は子宮角に移
植する。マイクロインジェクションされた胎芽を移植ピペットに採取し、外科的
に露出したレシピエント雌の卵管にピペットを挿入し、マイクロインジェクショ
ンされた卵を卵管に放出する。移植ピペットを抜いた後、切開を縫合し、胎芽を
母体内で発達させる[Gordon他(1983)Methods in En
zymology101:411;Gordon他(1980)PNAS77:
7390;Hammer他(1985)Nature315:600;Wall
他(1985)Biol.Reprod.32:645参照]。
遺伝子的に改変した哺乳類卵を移植した宿主雌哺乳類を充分な時間維持して、
遺伝子的に改変した哺乳類卵から発達した、本発明の組み換え核酸分子を発現す
る少なくとも1個の細胞(例えば骨髄細胞、造血細胞)を有するトランスジェニ
ック哺乳動物を生ませる。
出生後2〜4週間して、子豚の尻尾部分を採取してプロテイナーゼKで消化す
る。試料から得たDNAをフェノール−クロロホルムで抽出し、様々な制限酵素
で消化する。DNA消化物をTrisホウ酸ゲル上で電気泳動にかけ、ニトロセ
ルロース上にブロットする。対象とする組み換えcDNAのコード領域の少なく
とも一部からなり且つランダム六量体を延長して標識付けしたプローブでハイブ
リダイズする。口緊縮条件下で、このプローブは内因性のブタ遺伝子とはハイブ
リダイズせず、トランスジェニックブタを同定することができる。
本発明の方法は、血液型B型抗原をレシピエントに投与することによって、ガ
ラクトシルα(1,3)ガラクトース基に対する免疫寛容を誘発する段階をさら
に包含する。この段階は、ガラクトシルα(1,3)ガラクトース基寛容原に接
触させる前に行うことがで
きる。これによってガラクトシルα(1,3)ガラクトース基に対する第一レベ
ルの免疫寛容が誘発される。
同等物
当業者は、通常の実験法を用いるだけで、ここに開示した本発明の特異な態様
と同等な数多くの態様が可能であることを理解されるであろう。これらの同等な
態様も、請求の範囲に含まれることを企図している。
他の態様も請求の範囲に含まれる。
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フロントページの続き
(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
C07K 16/42 C07K 16/42
C12N 5/06 C12N 9/00
// C12N 9/00 5/00 E
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(GH,GM,KE,LS,M
W,SD,SZ,UG,ZW),EA(AM,AZ,BY
,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),AL,AM
,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BY,
CA,CH,CN,CZ,DE,DK,EE,ES,F
I,GB,GE,GH,GM,GW,HU,ID,IL
,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LC,
LK,LR,LS,LT,LU,LV,MD,MG,M
K,MN,MW,MX,NO,NZ,PL,PT,RO
,RU,SD,SE,SG,SI,SK,SL,TJ,
TM,TR,TT,UA,UG,UZ,VN,YU,Z
W
(72)発明者 サックス,デイビッド エイチ.
アメリカ合衆国 02166 マサチューセッ
ツ,ニュートン,ストューディオー ロー
ド 77