【発明の詳細な説明】
炎症性疾患および自己免疫疾患の治療のための
免疫抑制治療薬としてのMUC-1
背景技術
自己免疫疾患とは、炎症の病因となる点が共通であることを除けば、関連性の
ない多様な疾患群を意味する。現在の治療法は炎症の病因に焦点が絞られており
、非ステロイド抗炎症薬、コルチコステロイド、細胞剥離薬も含む多種多様の薬
物が利用されている。残念ながら、既存の薬物やこれらを利用する治療法はいず
れも、完全に満足できるものではない。同様に、多くの炎症性疾患、臓器移植拒
絶反応および対宿主性移植片病に関しても満足できるものではない。従って、こ
れらの疾患の新しい治療薬と新しい治療法が必要とされている。
発明の概要
従って、本発明の目的は、自己免疫疾患、炎症性疾患、臓器移植拒絶反応およ
び対宿主性移植片病の新しい治療方法を提供することである。この目的に従って
、薬剤学的に有効量のMUC-1、MUC-1誘導体またはMUC-1炭水化物誘導体を前記治
療が必要な患者に投与することから成る方法が提供されている。
本発明の更なる目的は、自己免疫疾患、炎症性疾患、臓器移植拒絶反応および
対宿主性移植片病の治療を実施するための新しい有効な薬物の医薬組成物を提供
する事である。本発明のこの目的に従って、自己免疫疾患、炎症性疾患、臓器移
植の拒絶反応および対宿主性移植片病の治療に有効な一定量のMUC-1、MUC-1誘導
体またはMUC-1炭水化物誘導体から成る医薬組成物が、薬剤学的に有効な賦形剤
と組み合わせて提供されている。
好ましい方法および組成物において、MUC-1誘導体は、MUC-1コア配列の複数の
縦列反復から成る。
図面の簡単な説明
図1は、抗体B27.29を利用するフローサイトメトリーにより確認された、ヒト
MUC-1遺伝子によりトランスフェクションされた培養ネズミ(410.4)乳癌細胞表
面におけるMUC-1の発現を示す。MUC-1HiのMUC-1発現が高く(蛍光強度)、MUC-1
Loの約2.5倍であるが、野生型410.4細胞系はMUC-1を発現しないことに留意され
たい。
図2は、4時間刺激されたHUVECへのMCF-7細胞の結合が、内皮単層をモノクロ
ーナル抗体と共にプレインキュベーションした場合には抗Eセレクチン(Serotec
1.2B6)により最も効率的に阻害され、MCF-7細胞をモノクローナル抗体と共に
プレインキュベーションした場合には抗sLex/a(CSLEXおよびB667.4 sLea)によ
り最も効率的に阻害されることを示している(図2a)。24時間刺激されたHUVE
CへのMCF-7細胞の結合は、抗TCAM-1(Serotec 84H10)(内皮の前処理)および
抗MUC-1(B27.29)(MCF-7の前処理)により阻害される(図2b)。接着は、Be
rry, et al.Br.J.Cancer 51:179(1985)に報告されている標準スタティッ
ク内皮接着分析により評価された。結果は、各ウェルに添加された細胞総数から
の蛍光シグナルのパーセンテージとして表されており、各値は3回の測定値の平
均値±SD(誤差の線)を表し、“は、刺激された単層でコーティングされたウェ
ルを示す。表示されている実験は、各種類の3回の独立した実験の中で最良のも
のである。
図3は、MUC-1を高度に発現するトランスフェクタント(GZHi)を示しており
、24時間刺激されたHUVECへの結合率が野生型(410.4)よりも約4倍高く、MUC-
1の発現が低いトランスフェクタント(GZLo)よりも約2倍高いことを示し(図
3a)、この結合は抗MUC-1(B27.29)と抗-ICAM-1(18E3D)により阻害され得る
(図3b)。接着率が測定され、結果は図2の説明と同様に表されている。実験
は各種類の3回の独立した実験中最良のものである。
図4aは、サンドイッチラジオイムノアッセイによる血清MUC-1の測定結果を
示す。
図4bは、血清MUC-1濃度が低い程、生存期間が延長することを示している。
図5は、MUC-1を高度に発現するトランスフェクタント(GZHi)を示しており
、固定された組み換え可溶性ICAM-1-Ig融合タンパク質に結合し、抗MUC-1(B27.
29)、抗ICAM-1(18E3D)および可溶性MUC-1により阻害される。接着はTakada,
et al.Cancer Res.53:354(1993)に報告されている方法で測定された。表示
されている値は、3回の測定値の平均±SDで、“はICAM-1でコーティングされた
ウェルを示す。表示されている実験は4回の独立した実験中最良のものである。
図6は、MUC-1を高度に発現する細胞(MUC-1 Hi)が、組み換えICAM-1(rhICA
M-1)に37℃で最もよく結合することを示している。この接着機序は、4℃でほ
ぼ完全に阻害されると思われる。接着は測定され、結果は図3の説明と同様に表
されている。表示されている実験結果は、3回の独立した実験をあらわしたもの
で、棒線は標準偏差(SD)を示す。
図7は、精製MUC-1をin vitroヒトT細胞培養に添加すると、強い同種異系刺
激に対するT細胞増殖反応が阻害されることを示している。
図8、パネルaは、OSMまたは培養培地の対照との比較による、10μg/mlのMU
C-1またはMUC-1誘導体によるT細胞増殖の阻害を示している。パネルbおよびcは
、抗CD28とIL-2によるムチンを介するT細胞阻害が遮断されることをそれぞれ示
している。
図9は、MUC-1縦列コア反復数とT細胞増殖の正比例関係を示す。
発明の詳細な説明
本発明は、MUC-1のICAM-1への結合能と腫瘍モデルにおけるMUC-1の免役抑制効
果を示唆する証拠に基づき、炎症性疾患または自己免疫疾患を治療するためのMU
C-1およびその誘導体の利用に関する。本発明はまた、移植拒絶反応および対宿
主性移植片反応を抑制または予防するためのMUC-1またはその誘導体の利用にも
関する。炎症性疾患と自己免疫疾患は共に過剰免疫応答と関係している。従って
、MUC-1およびその誘導体は、過剰免疫応答を抑制することによりこれらの疾患
を治療するための免疫抑制薬として利用される。背景
ムチンは、200kDa以上の糖タンパク質群である。MUC-1の様な幾つかのムチン
は、多くのo-グリコシル化が可能な部位を含むアミノ酸配列(aa)の縦列反復か
ら成る大きな細胞外領域を有する膜結合分子である[Devine et al.BioEssays
14:619(1992)]。
多くの臨床試験により、ムチンの腫瘍抗原は、腫瘍細胞の細胞表面に発現され
た場合でも腫瘍細胞の表面から分離した場合でも、多様な癌の予後不良と関係し
ていることが明らかにされている[例えば、Itzkowitz,et al.Cancer 66:1960
(1990)]。
乳癌の90%以上に膜結合分子、MUC-1発現の増加が認められている[(Episial
in,Epithelial Membrane Antigen,Polymorphic Epithelial Mucin,Human Mil
k Fat Globule Membrane antigen etc.)、Berry,et al.Br.J.Cancer 51:17
9(1985)]。MUC-1は、特徴が明らかにされている腫瘍細胞表面ムチンで、血清
中に分離され、反復するシアリル-Tnエピトープを有する[Cancer Research 47:
5476(1987)参照]。MUC-1は、殆どの腺上皮の管腔表面に存在する、高度にグ
リコシル化されたムチン型糖タンパク質で、多くの癌細胞の表面全体にしばしば
増加が認められる。このムチンは細胞表面上方遠方に広がり、それによって、他
の細胞と容易に相互作用する。MUC-1は、正常乳房に発現され、乳癌の約90%に
発現される。MUC-1は、貫膜型と分泌型の両者の形態で存在する。両者のグリコ
シル化パターンが類似しているかどうかは不明である。
ムチンは、粘膜表面を潤滑にし、防御作用を発揮することが知られており、細
胞表面ムチンは細胞と細胞の相互作用に関与していると考えられている[Samuel
and Longenecker In Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach,Po
well,et al.,編。(Plenum Press,N.Y.pp.875-890(1995))]。数名の研究
者が、立体障害と負に荷電されたo-結合シアル酸残基によるMUC-1に対する抗接
着作用を支持している[Ligtenberg,et al.Cancer Res.52:2318(1992)]。
細胞外および細胞質ドメインにより、細胞間接着を支持することができる。細
胞外ドメインは、高度にグリコシル化された20のaa配列の30から90の縦列反復か
ら成る。多数の高度にグリコシル化された縦列反復の存在により、MUC-1は周囲
の10-30nmの糖衣から遠く離れた細胞表面の200-500nm上方に広がることができる
。これによってMUC-1は適切な受容体を有する細胞との接着を増強するのに理想
的な位置に配置される。やはりMUC-1が有するシアル化ルイスx/aは、悪性結腸細
胞のE-セレクチンへの接着を仲介する[Sawada,et al.Int.J.Cancer 57:901
(1994)、Zhang,et al.Int.J.Cancer 59:823(1994)]。MUC-1の69のaa
細胞質ドメインは、細胞骨格の微小管に結合され、その他の接着部分の構造と類
似している。膜下アクチン細胞骨格フィラメントとのこの様な相互作用は、MUC-
1が選択的に膜表面に遊離して、すなわち接着されずに発現されることを説明す
るものと考えられている[Parry,et al.Exp.Cell Res.188:302(1990)]。
膜結合MUC-1の存在は、血液による転移過程において、刺激された上皮細胞と
腫瘍細胞の相互作用を促進する様に見える。in vitroにおいて幾つかの癌細胞系
は、正常の管外遊出炎症性細胞により利用される分子と類似の分子を用いて、活
性化された上皮細胞に接着する[Takada,上記、Carlos,et al.Blood 84:2068
(1994)]。この過程において、ICAM-1またはVCAM等の上皮細胞免疫グロブリン
スーパーファミリーに属する物質間の高い親和性相互作用は、インテグリンファ
ミリーに属する物質との選択的相互作用に関与するものと考えられている[Carl
os,
上記]。
ICAM-1(細胞内接着分子)は、B細胞とT細胞および抗原提示細胞(APCs)に
発現され、そこで免疫応答の誘導に重要な細胞間相互作用に関与する。また上皮
細胞にも高濃度で存在する。ICAM-1(CD54)は、免疫系の殆どの細胞に認められ
、特に溶血性および非溶血性の繊維芽細胞およびケラチン生成細胞のサイトカイ
ン活性化細胞に見いだされる。
最近、ベータ2インテグリン(CD18を有するCD 11a/b)と構造的類似性を持た
ない高度にグリコシル化されたムチン型糖タンパク質、CD43が、ICAM-1と結合す
ることが報告された[Rosenstein,et al.Nature 354:233(1991)]。これは
、受容体-リガンド認識に柔軟性があり、異なる受容体クラスに属する受容体が
相互作用し得ることを示唆している。従って、MUC-1はICAM-1のような接着分子
との相互作用により副作用を仲介することが可能である。
ICAM-1とMUC-1の相互作用は、細胞毒性Tリンパ細胞と、MUC-1をトランスフェ
クションされた細胞を用いた研究により支持される。これらの相互作用は非MHC
に制限されることが明らかにされており、ICAM-1依存性である[van de Weil-va
n Kemmenade,et al.Immunology 151:767(1993)]。これらの相互作用はまた
、MUC-1縦列反復のaa配列DTRPに対する抗体、SM3により阻害される[Jerome,et
al.Immunology 151:1654(1993)]。これは、MUC-1のICAM-1結合部位がペプ
チドコア内部に存在することを示唆しており、癌に伴うMUC-1のグリコシル化の
減少により独特な様式で露出される。
乳癌において、膜結合MUC-1の量は増加する。ムチンも炭水化物残基が減少す
るように変化し、これによってタンパク質コアと内部炭水化物に存在する通常は
潜在するエピトープが露出される。この癌に関連する形態が抗癌免疫療法に基礎
を形成する[Longenecker,et al.The Immunologist 1:89(1993),Agrawal,
et al.Cancer Res.55:2257(1995)]。進行した乳癌において、MUC-1は腫瘍
細胞
から剥離するため、血清濃度が上昇し、これは予後不良と恐らくT細胞アネルギ
ーを誘導することによる免疫抑制と相関する[Reddish et al.Cancer Immunol
Immunother.42:303-09(1996)]。
可溶性MUC-1はMUC-1ポジティブ細胞とICAM-1との接着相互作用を競合的に阻害
できるため(図5)、細胞毒性T細胞(CTLs)のICAM-1受容体を占有することに
よって血清MUC-lはアネルギーを誘導することが可能となる。腫瘍周辺の上皮細
胞のICAM-1受容体を占有することにより、血清MUC-1は遊走細胞と上皮の相互作
用を阻害することも可能で、従って、(a)腫瘍部位への炎症性細胞の補充を減
少させ、また(b)一次病変から腫瘍細胞の遊離と転移を促進する。MUC-1 およびMUC-1誘導体の調製
本発明の組成物と方法に使用されるMUC-1は、癌患者の胸膜浸出液と腹水から
精製される[実施例8参照]。本発明の方法に使用されるMUC-1は、本技術に精
通する者にとって公知の組み換えDNA技術により得られる[例えば、Gendler et
al.,J.Biol Chem.265:15286(1990)参照]。
本明細書に使用されている“MUC-1誘導体”は、構造的および/または機能的
にMUC-1と関連するペプチドを意味する。この様な誘導体は、MUC-1の機能特性の
一部または全て、特にMUC-1の免疫抑制機能を保持することができる。免疫抑制
機能は、実施例の下記に記載されているアッセイを用いて測定される。
MUC-1誘導体は、一部脱グリコシル化されたMUC-1タンパク質、あるいは完全な
非グリコシル化MUC-1タンパク質が可能である。MUC-1の脱グリコシル化は、本技
術に精通する者にとって公知の技術により実施できる。
MUC-1誘導体は、MUC-1タンパク質のフラグメントであっても良い。この様なフ
ラグメントはグリコシル化されていてもされていなくてもよい。本発明に従って
、本発明のフラグメントはペプシンまたはパパインの様な酵素による消化を含む
方法により、精製されたMUC-1または組み換えDNA技術により作製されたMUC-1か
ら得
ることができる。あるいは、本発明のMUC-1フラグメントは、Applied Biosystem
s,Multiple Peptide Systems等の市販の自動ペプチド合成器を用いて合成でき
る。あるいは、本技術において公知技術を用いて手動で作製することができる[
Geysen et al.,J.Immunol.Methods 102:259(1978)]。
MUC-1にはグリコシル化または非グリコシル化合成ペプチドも含まれる。更に
、本発明のMUC-1誘導体には、タンパク質分解抵抗性MUC-1フラグメントまたはD-
アミノ酸のような1つ以上の非天然アミノを含むMUC-1フラグメントが含まれる
。
別の実施例において、MUC-1はアミノ酸配列DTRP(Asp-Thr-Arg-Pro)のアミノ
酸配列の反復を含むMUC-1の細胞外縦列反復領域を含む。好ましくは、これらの
縦列反復は配列SAPDTRP(Ser-Ala-Pro-Asp-Thr-Arg-Pro)を含む。
幾つかの好ましいMUC-1誘導体は、MUC-1ムチンの少なくとも1つのペプチドコ
ア反復を含む。天然MUC-1分子の1つのMUC-1ペプチドコア反復は、20個のアミノ
酸配列PDTRPAPGSTAPPAHGVTSA(Pro-Asp-Arg-Thr-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-
Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-Ser-Ala)を含む。有用な合成誘導体は、この配
列の順列を入れ換えたモノクローナル抗体が含まれる。例えば、GVTSAPDTRPAPGS
TAPPAHは反復がPDTRの代わりにGVTSから始まるだけである。それ以外に、同様の
入れ替えも可能である。
更に、コア配列の1つ以上のアミノ酸の変更も可能であり、好ましくは、必須
の免疫抑制作用が維持されるように、本技術において公知の保守的方法により変
更できる。その他のMUC-1誘導体は、MUC-1ムチンの少なくとも1つの切断された
ペプチドコア反復、例えば、GVTSAPDTRPAGSTAを含む。勿論、コア配列の入れ替
え、変更または切断のあらゆる組み合わせを結合し、複数の、特に縦列複数反復
を形成できる。
実施例8および9に示す示されているデータは、コア反復が1つより少ない場
合にはMUC-1免疫抑制機能を示さないことを証明している。しかし、反復が1つ
よ
り多ければ、免疫抑制の程度が反復数に比例して増加することが観察される。従
って、有効に利用できる反復数の上限はあるかも知れないが、多数の反復を含む
MUC-1誘導体が考えられる。例えば、天然MUC-1は60-100個のこの様な反復を含む
。
いくつかの実施例は、約2から約100個のコア反復を企図している、しかし、
より好ましいMUC-1誘導体は、2-20個のMUC-1コア反復を含む。最も好ましいMUC-
1誘導体は3-6個のMUC-1コア反復を含み、反復は好ましくは縦列に配列されてい
る。
勿論、上記の様に、これらの好ましいMUC-1誘導体は、本技術において公知の
方法によりグリコシル化または一部グリコシル化されている。更に、MUC-1およ
びMUC-1誘導体は、ポリエチレングリコールの様な分子量の大きなポリマーを用
いて修飾可能である。
本発明のMUC-1誘導体の実例として、非ペプチド“模擬物質”、すなわちMUC-1
タンパク質の1つ以上の機能特性を模倣する化合物もある。模擬物質は一般に水
溶性で、タンパク質加水分解に抵抗性で、非免疫原性である。MUC-1を模倣した
配座的に制限された、環状有機ペプチドも、例えば、Saragovi,et al.,Scienc
e 253:792(1991)により報告されている構築物の方法により作製できる。
“MUC-1炭水化物誘導体”も企図される。この様な誘導体は、本明細書に使用
されている様に、免疫抑制の様な少なくとも1つの機能特性を保持するグリコペ
プチドを意味する。この様な炭水化物誘導体は、MUC-1タンパク質に付着された
炭水化物の全てまたは一部を含むことができる。MUC-1炭水化物の少なくとも1
つの特性を模倣する模擬物質も利用できる。その他のMUC-1誘導体のデザインニング
別の実施例において、MUC-1誘導体は、ICAM-1を介する細胞相互作用を遮断し
て免疫抑制作用を発揮するようにデザインできる。抗原特異性T細胞反応におい
て、T細胞はT細胞受容体(TCRs)を介して抗原提示細胞(APCs)と相互作用す
る。T細胞への抗原提示時には、TCRとMHC複合体分子との相互作用の他に、種々
の補
助分子(コレセプター)を用いる多くのその他の相互作用がAPCsとTCRの間に必
要である。T細胞反応において補助分子の相互作用は重要である。なぜならばこ
れらの相互作用は、(1)APCとT細胞の相互作用の親和力を増大し、(2)T
細胞における種々の細胞内シグナル経路を誘導するからである。
ICAM-1とそのリガンドの相互作用は、TCR結合と共に、十分なT細胞刺激シグ
ナルを発生するために重要である。しかし、TCR結合が発生せずに、ICAM-1とリ
ガンドとの相互作用と架橋結合が発生すると。T細胞はアネルギー状態(非反応
性)となる。従って、MUC-1またはその誘導体を免疫抑制物質として利用するこ
とができる。すなわち、抗原刺激が起こらない状態で、MUC-1またはその誘導体
がICAM-1分子と相互作用し、架橋結合すると、これによってT細胞の非反応性(
免疫抑制)が引き起こされる。
この様に、本実施例において、MUC-l誘導体は、MUC-1/ICAM-1相互作用を遮断
するようにデザインする事ができる。これによってICAM-1を介する細胞免疫応答
が低下する。一実施例において、この様な遮断作用を持つMUC-1誘導体は、組み
換えヒト(rh)ICAM-1イムノグロブリン(Ig)融合タンパク質を結合したMUC-1
誘導体を使用することによりデザインできる。この方法において、融合タンパク
質は固相に固定される。MUC-1縦列反復に基づく合成MUC-1ペプチド、グリコペプ
チド、および複合糖質のライブラリの遮断活性をスクリーニングすることができ
る。MUC-1のICAM-1への結合を一部または完全に遮断する化合物の治療効果をス
クリーニングすることができる。
MUC-1タンパク質に含まれるMUC-1縦列反復の複数のコピーは幾つかのICAM-1分
子と架橋結合し、免疫抑制を引き起こすことができる。縦列反復の単一のコピー
を含む合成ペプチドの“ライブラリ”はこの効果を発揮しないはずである。同様
に、1つの完全な縦列反復を含んでいないペプチドはこの効果を発揮しないはず
である。実施例8と9に提示したデータがこの見解を支持している。
ICAM-1/MUC-1結合分析を用いて、免疫抑制作用を持つ可能性のあるMUC-1誘導
体が一旦同定されたなら、T細胞に基づく免疫抑制系を用いて、誘導体を更に評
価することができる。この様な系により、誘導体のin vitroにおけるT細胞誘導
阻害能が決定される。
MUC-1はICAM-1と相互作用し、ICAM-3の様なその他の接着分子と反応するもの
と予測されるため、種々のMUC-1誘導体が、MUC-1と接着分子の相互作用を遮断す
る薬物として有用なはずである。この様な接着阻害剤を利用して、MUC-1ムチン
により免疫抑制されている癌患者を治療できる可能性がある。医薬組成物
本発明の医薬組成物は一般に、薬剤学的に有効量のMUC-1、MUC-1誘導体または
MUC-1炭水化物誘導体を含む。好ましくは、MUC-1、MUC-1誘導体またはMUC-1炭水
化物誘導体は、薬剤学的に有効な賦形剤(補形剤)と混合される。
適切な処方は、治療される疾患、選択される薬物の性質、所望の投与経路、主
治医の判断によって異なる。適切な処方と薬剤学的に有効な賦形剤は、例えば、
REMMINGTON'SS PHRMACEUTICAL SCIENCE,83-92章、1519-1714ページ(Mack Publ
ishing Company 1990)(Remington's)に記載されており、これらは引用する事
により本明細書の一部を成す事とする。発明の方法
MUC-1、MUC-1誘導体またはMUC-1炭水化物誘導体は、自己免疫疾患と炎症性疾
患の治療に利用できる。MUC-1は、骨髄移植における移植の拒絶反応と対宿主性
移植片疾患の予防または抑制にも利用できる。従って、本発明の方法は典型的に
は、、薬剤学的に有効量のMUC-1、MUC-1誘導体またはMUC-1炭水化物誘導体を治
療が必要な患者に投与することから成る。患者はヒトまたはヒト以外の動物でも
よい。
本明細書に使用されている様に、“炎症性疾患”とは本技術に精通する者にと
って公知の多くの炎症性疾患の全てを指す。これらの疾患には、以下の疾患が含
まれるが、これらに限定されない。慢性関節リウマチ、乾癖、アレルギー性接触
性皮膚炎の様なアレルギー、剛直性脊椎炎。
本明細書に使用されている様に、“白己免疫疾患”とは、本技術に精通する者
にとって公知の多くの自己免疫疾患の全てを指す。これらの疾患には、以下の疾
患が含まれるが、これらに限定されない。重症筋無力症、全身性紅斑性狼瘡、結
節性多発性動脈炎、グッドパスチャー症候群、特発性血小板減少性紫斑病、自己
免疫性溶血性貧血、グレーブス病、リウマチ熱、悪性貧血、インシュリン抵抗性
糖尿病、水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、ウイルス性心筋炎(コクサッキーBウ
イルス反応)、自己免疫性甲状腺炎(橋本病)、男性不妊(自己免疫性)、サル
コイドーシス、アレルギー性脳脊髄炎、多発性硬化症、シェーグレン病、ライタ
ー病、セリアック病、交感性眼炎、原発性胆汁性肝硬変症。
MUC-1およびその誘導体の関節包内、静脈内、髄膜内および腹腔内投与が利用
される。精通した技術者にとって、投与経路が治療される疾患によって異なるこ
とは明らかである。例えば、関節包内投与は関節炎を治療する際行われる。肝門
脈内注入は、炎症性肝炎を治療する際に行われる。甲状腺の臓器内注入は、甲状
腺炎を治療する際に行われる。
膵臓炎または結腸炎の様な消化管の自己免疫疾患の治療には、静脈内または腹
腔内投与が行われる。髄膜内投与は、自己免疫性脳炎を治療する際に行われる。
静脈内または臓器内注入は、腎移植の様な移植の拒絶反応の予防または抑制に
使用される。
本発明に関する種々の文法形態の“治療する”という言葉は、病態、病気の進
行、病因(例えば、細菌またはウイルス)またはその他の以上な状態の悪い影響
を予防する、治す、後退させる、最小限にする、停止させることを意味する。
MUC-1、MUC-1誘導体またはMUC-1炭水化物誘導体の薬剤学的有効量を決定する
ことは熟練臨床医の十分権限内であり、主に発明の化合物、特定の患者の特性、
投
与経路、治療される疾患を正確に確認することに主に基づいている。一般的指標
は、例えば、調和化に関する国際会議の出版物およびREMINGTON'S PHARMACEUTIC
AL SCIENCES、第27および28章、484-528ページ(Mack Publising Company 1990
)に見いだされる。
明確な薬剤学的有効量の決定は、薬物の毒性および有効性等の因子に依存する
。毒性は、本技術において公知の方法を用いて決定され、前記の引用文献に記載
されている。有効性は、下記の例えば、実施例8および9に記載されている方法
と共に同じ指標を利用して決定できる。従って、薬剤学的有効量とは、臨床医が
毒性学的に耐えられ、なお有効と判断する量である。
前記の考察と以下の実施例は、単に説明を目的としており、制限することを意
味するものではない。従って、本技術に精通する者は、具体的に例示されていな
い、本発明の範囲内の更なる実施例を容易に認識することができるであろう。
実施例実施例1
本実施例は、MUC-1をトランスフェクションされた腫瘍細胞(MUC-1を血清中に
分泌する)を移植されたマウスの内、腫瘍移植後に最も高い血清MUC-1濃度を示
すマウスは、腫瘍移植後に血清MUC-1濃度が検出不能だったマウスよりも、生存
期間が最も短かったことを示している。
MUC-1 Hi細胞を皮下移植すると、6〜8週間以内に90%以上のマウスに腫瘍が
発生した。腫瘍移植後経時的に、生存率を追跡し、血清MUC-1濃度を測定した。
図4aは、63日目以前に死亡した8匹のマウスが、63日目まで生存したマウスよ
りも血清MUC-1濃度が高いことを示している。図4bは、63日目以前に死亡した
8匹のマウスにおいて、MUC-1濃度と生存期間の間に有意な正比例関係が認めら
れたことを示している。実施例2
本実施例は、MUC-1ムチンの静脈内注入により、ヒトMUC-1をトランスフェクシ
ョンされた腫瘍細胞のマウスへの移植が容易となることを示している。本実施例
において使用される手順は、Fung et al.Cancer Research 51:1170-1176(1991
)に記載されているものと同様で、これは引用する事により本明細書の一部を成
す事とする。しかし、本実施例においては、エピグリカニン系の代わりにヒトMU
C-1系が使用された。
CB6マウスに、腫瘍投与前(−2日目)と投与後(+2および+6日目)にMAb
B27.29アフィニティー精製MUC-1ムチン(1回の投与に20μgまたは約400単位
)を静脈内注入した。アフィニティー精製ムチンは、卵巣腺癌の患者の胸腔内浸
出液からB27.29CnBr-セファロース基質におけるアフィニティー吸着により調製
した。MUC-1ムチン投与マウスと対照マウスに1×106個のGZ-Hi腫瘍細胞を脇腹
に沿って皮下注入投与した。マウスを触診と視診により観察し、注入部位におけ
る腫瘍発生率を8週間にわたり観察した。
結果:
実験群 腫瘍取り込み率%
対照群 60%
MUC-1前投与群 100%実施例3
本実験は、精製ヒトMUC-1ムチンをヒトT細胞培養に添加することにより、in
vitroにおける強力なアロ抗原刺激に対するT細胞増殖が強力に阻害されること
を示している。
混合リンパ球反応は、in vitroの組織培養においてHLAが異なるヒトのリンパ
球を混合することにより実施される。本実験の“応答集団”は、一集団から得ら
れた精製T細胞で、本実験の“刺激”集団は、HLAが合わないヒトドナーから得
られた接着抗原提示細胞である。2つの細胞集団を混合し、種々の用量の胸膜浸
出液
から精製されたB27.29アフィニティー精製MUC-1ムチンを加えて、あるいは加え
ずに培養した。本実験の結果を図7に示す。実施例4
本実施例は、MUC-1ムチンがICAM-1に結合することを示している。ヒトMUC-1を
トランスフェクションされた腫瘍細胞は上皮細胞のICAM-1に結合した。MUC-1は
、細胞内接着分子(ICAM-1)のリガンドと思われる。ICAM-1とMUC-1の抗体は、M
UC-1ポジティブ細胞のヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)単層への接着をMUC-1発現レ
ベルに正比例して阻害した。同様の抗体によるMUC-1ポジティブ細胞の接着阻害
が、ICAM-1をトランスフェクションされた細胞と固定された組み換えヒトICAM-1
-Ig融合タンパク質を用いて見いだされた。これらの結果は、ICAM-1がMUC-1分子
の縦列反復配列のペプチドコアに結合し、それによってMUC-1を乳癌の転移と免
疫抑制に関与させることを示唆している。
MUC-1は、血管内腫瘍塞栓の周辺を覆う染色パターンを含む遊離膜表面に優先
的に局在する。DABイムノペルオキシダーゼ法を用いてMUC-1が染色された腫瘍塞
栓は、広範な細胞質染色パターンを示す実質的腫瘍巣と対照的に周辺に強く染色
を示した。内皮表面に沿って不均一な染色が存在し、これは恐らく剥がれた抗原
を表している。
最近、幾つかのムチンが、血管リガンドとして報告されている[Berg,et al
.Nature 366:695(1993)]。この様に、MUC-1の染色パターンはMUC-1が内皮細
胞接着に関与している可能性を示唆している。
腫瘍細胞と内皮細胞の接着分析:内皮細胞単層を24ウェル組織培養プレートで
増殖させ、20U/mL TNFα+20U/mL IL-1β(Phariningen)により4または24時間
刺激した。これらのプレートに、BCECF AMエステル(分子プローブ)蛍光色素標
識腫瘍細胞(1.5x105/500μL/ウェル)を加え、37℃で25分間インキュベーショ
ンした。非特異的接着細胞を激しい攪拌(175rpmの攪拌器)と周囲の吸引により
除去した。
次に、残りの接着細胞をデタージェント(NP-40)を用いて30分間溶解し、色素
シグナルをSPEX蛍光計量計を用いて定量し、各ウェルに添加した総細胞数からの
シグナルを比較した。
腫瘍細胞と固定ICAM-1の接着分析:96ウェル組織培養プレートを、PBSに溶解し
た20μg/mL組み換え可溶性ICAM-1溶液50μLで室温で1時間コーティングした
。次に、ウェルを1%BSAにより37℃で2時間遮断し、PBSで4回洗浄した。抗体
(10μg/mL)(抗ICAM-1 164B、18E3D、84H10、抗Eセレクチン1.2B6)と可溶性
MUC-1(10μg/mL)をウェルに室温で90分間加えた。次に、細胞を加える前にウ
ェルを再度洗浄した。BCECF標識腫瘍細胞を20μg/mLの抗体MUC-1(B27.29また
はDF3P)を加えて、あるいは加えずに前処理し、次いで適切なウェルに37℃で40
分間加えた。次に、ウェルを洗浄し、次いで接着率(%)を腫瘍細胞と内皮細胞
の接着分析に記載されている方法で決定した。
結果: 一連のモノクローナル抗体を、TL-IβとTNF−αにより刺激されたヒ
ト臍静脈内皮細胞(HUVEC)単層へのヒト乳癌細胞系(MCF-7)の結合阻害能をス
クリーニングした。上皮ガン細胞系に関する他の研究と一致して、HUVECsを4時
間サイトカインで刺激後、Eセレクチンまたはそのリガンド(SLex/a)に対する
抗体は、MCF-7のHUVECsへの最大の付着阻害を示した(図2a)。ICAM-1に対す
る抗体(84H10)も阻害を示したが、抗Eセレクチン(1.2B6)により得られた阻
害よりも遥かに少なかった。MUC-1に対する抗体(B27.29)は無効であった。サ
イトカインで刺激されたHUVECの付着分子プローブフィルムは経時的に変化した
[Iwai,et al.,Int'1 Journal of Cancer 54:972(1993)]。Eセレクチンは
、早期に発現され、4時間で最大となり、22時間までに徐々に消失した。ICAM-1
も4時間で発現されるが、22時間後も高度に発現が残存する[Thorhill,et al
.Scand.J.Immunology 38:279(1993)]。従って、内皮刺激を24時間まで延
長後に、付着分析を繰り返した。これらの条件において、EセレクチンとsLex/a
に対する抗体は
殆ど阻害を「示さなかった(図2b)。24時間における接着分子プローブフィル
ムと一致至適、ICAM-1に対する抗体は、腫瘍細胞とHUVECの接着を大きく阻害し
た。興味深いことに、MUC-1抗体(B27.29)もMUC-7細胞のHUVECへの接着をかな
り強力に阻害した(図2b)。これは、MUC-1がICAM-1に対する更なるムチンタ
イプリガンドである可能性を示唆している。
関連接着分子としてMUC-1を分離するために、親ネズミ410.4哺乳動物腺癌細胞
とヒトMUC-1遺伝子をトランスフェクションされたが、MUC-1発現が低レベル(GZ
Lo)、あるいは高レベル(GZHi)の2種類の誘導細胞系を用いて、24時間接着分
析を繰り返した。MUC-1発現レベルは、同時フローサイトメトリ分析と免疫組織
化学により定量した。図3aは、MUC-1の発現が増加するにつれて接着が増加す
ることを示し、GZHiはGZLoの2倍、野生型(410.4)の4倍接着率が増加した。
この接着は、MUC-1(B27.29)とICAM-1(18E3D)に対する抗体により阻害された
が、抗Eセレクチンと対照抗体(CD31)は全く影響を及ぼさなかった(図3b)
。
接着が、ICAM-1以外の内皮分子により仲介されている可能性を除外するために
、MUC-1トランスフェクタントの接着を固定組み換えヒトICAM-1-Ig融合タンパク
質を用いて検討した。接着率を対照として牛血清アルブミンおよびコラーゲンI
型と比較した。410.4とGZLo細胞は、1%BSAおよびICAM-1コーティングウェルに
対し同様に低い結合を示した。しかし、GZHiは、410.4およびGZLoよりもICAM-1
に対する結合率が約3.5倍高かったが、1%BSAに対する結合率は410.4およびGZL
oと同程度であった(図5)。更に、抗MUC-1(B27.29)および抗ICAM-1(18E3D
)抗体は、GZHiのICAM-1への接着率の増加を阻害した。しかし、これらの抗体は
、その後の実験において、MUC-1を高度に発現する細胞のコラーゲンI型への接
着を阻害しなかった。ICAM-1コーティングウェルの可溶性MUC-1による前処理は
、GZHiのICAM-1への接着を遮断することに関して、同等に有効であった。
これらの結果は、MUC-1がイムノグロブリンスーパーファミリーメンバーであ
る
ICAM-1に選択的に結合できることを示している。ICAM-1に対するMUC-1の結合部
位として考えられる部位は、B27.29による相互作用の阻害によって示唆される。
この抗体は、SM3によって認識される配列を包含するMUC-1コアペプチド縦列反復
の限定された配列を認識する[Reddish,et L.Tumor Marker Onc 7:19(1992)
]。これは、縦列反復のコアペプチド配列がICAM-1の結合部位であることを意味
している。実施例5
ICAM-1と配列相同性が高い分子はICAM-3である。この接着分子は、ユニークな
発現パターンを示し、実質的腫瘍の新しい脈管構造とある種の血管過形成にのみ
典型的に見いだされる[Patey,et al.Am.J.Pathol.148:465-472(1996)]
。
実施例4に報告されている手順を用いて、MUC-1のICAM-3に対する結合能が評
価される。一旦、ICAM-3がMUC-1に結合することが決定されたなら、ICAM-3とMUC
-1の結合に基づき多様な治療法を開発することができる。
実施例4に報告されている手順を用いて、MUC-1のその他の接着分子に対する
結合能が評価される。一旦、接着分子がMUC-1に結合することが決定されたなら
、多様な治療法を開発することができる。実施例6
自己免疫疾患の一例に重症筋無力症がある。この疾患において、患者は神経筋
接合部においてアセチルコリン受容体に対する抗体を産生する。この抗体産生は
、CD+ヘルパーT細胞が活動性に関与することに依存している。これらのT細胞
は、T細胞LFA-1と相互作用し、APCとT細胞の間に接着を形成する、ICAM-1を発
現する抗原提示細胞により活性化される。この相互作用を遮断する事により、T
細胞の活性化と、それに続く抗体を現す疾患に必要なT細胞の助けが阻害される
。重症筋無力症の症状を呈する患者は、薬剤学的に許容可能な量のMUC-1、MUC-1
誘導体またはMUC-1炭水化物誘導体の全身投与により治療され、これによってCD4
ヘル
パーT細胞の産生がダウンレギュレーションされ、次いでT細胞の助けに依存す
る特異抗体を産生するB細胞の産生を阻止する。以前に産生された抗体は、IgG
半減期にとって正常な経時的変化を辿って、循環血液から消失し、これによって
この疾患の症状が軽減する。実施例7
炎症性関節炎の場合、CD4+T細胞集団は、罹患関節の滑膜を浸潤し、プロ-炎
症性サイトカインTNFとγインターフェロンを産生することが知られている。次
に、これらのサイトカインは内在する滑膜細胞を誘導し、コラゲナーゼとその他
の加水分解酵素を産生する。これらはコラーゲンを減少させ、腱、軟骨、靱帯を
破壊する。これらのCD4細胞の活性化には、ICAM-1と抗原提示細胞の相互作用が
必要である。この相互作用は、薬剤学的有効量のMUC-1、MUC-1誘導体またはMUC-
1炭水化物誘導体の滑膜内皮細胞(または全身)投与により遮断され、これによ
ってT細胞の活性化とその後の本疾患のプロ-炎症性サイトカイン仲介物質の産
生が遮断される。実施例8
本実施例は、MUC-1コアの複数の縦列反復を含む合成ペプチドのT細胞増殖阻
害能を証明するものである。
ムチン:
MUC-1は、卵巣癌患者から得られた腹水から精製した。pH5の2M酢酸ナトリウム
を腹水に加え、20krpmで30分間遠心分離した。0.45ミクロン酢酸セルロースフィ
ルターにより濾過後、溶液をセファロース4Bに結合させたB27.29モノクローナ
ル抗体(Reddish et al.,J.Tumor Marker Oncol.7:19-27(1992))CNBrと一
晩混合し、続いて1M NaCl/PBSで洗浄した。アフィニティー結合MUC-1ムチンを、
pH11の150mM NaClに溶解した50mMジエタノールアミン(Fisher精製したもの)を
用いて溶出した。溶出物を、pH5の2M酢酸ナトリウムで中和した。アフィニティ
ー
精製された材料をPBSに対して透析し、次いでNalgene 0.2ミクロン酢酸セルロー
スシリンジフィルターにより滅菌濾過した。アフィニティー精製MUC-1ムチンを
、Truquant BR RIAアッセイ(Biomira Diagnostics Inc.,Roxdale,ON,Canada
)を用いることにより定量した。MUC-1ムチン量の計算は、約50ngのMUC-1ムチン
として変換式の1BR単位を使用した。
合成MUC-1誘導体は、1、3、4、5または6個のMUC-1コアの縦列反復を含み、約1
6、60、80、100または120アミノ酸長であった。16量体は、配列GVTSAPDTRPAPGST
Aを含んでいた。その他の誘導体は配列TAPPAHGVTSAPDTRPAPGSの縦列反復を含ん
でいた。
ヒツジ下顎ムチン(OSM)を対照として使用した。
T細胞培養:
富化T細胞集団を、過去に報告された手順により、ナイロンウールカラムを用
いて赤十字の正常ドナーから得られたバフィーコートから精製した[例えば、Ag
rawal et al.,J.Immunol.157:2089-95(1996)およびAgrawal et al.,J.Im
munol.157:3229-34(1996)を参照]。アロMLRに関しては、アフィニティー精
製MUC-1ムチンまたは対照OSMを存在させて、あるいは存在させずに、マイトマイ
シンC処理した同種異系PBLsを精製T細胞と共に同時培養した。実験の殆どにお
いて、T細胞を表示された濃度のMUC-1、MUC-1誘導体またはOSMを存在させて、
あるいは存在させずに、AIM V培地において6-7日間培養した。この時期以後に、
記載されているように、T細胞を収集し、洗浄し、培養した。
増殖分析:
精製されたT細胞(106/ml)を、アロPBLsを含むAIM V培地において、10μg/
mlのMUC-1、MUC-1誘導体またはOSMを存在させて、あるいは存在させずに、AIM V
培地において6-7日間培養した。T細胞を収集し、MUC-1、MUC-1誘導体またはOSM
を存在させて、あるいは存在させずに、アロPBLs(105/ウェル)と共に105/ウェ
ル
で96ウェル平底プレートにて平板培養した。対照培養を50U/ml IL-2または1μ
g/ml抗CD28モノクローナル抗体を用いて処理した。培養後4日目に、3H-チミジ
ン(1μCi/ウェル)を加えた。5日目に細胞を収集し、3H-チミジンの取込量を
液体シンチレーションにより測定した。
結果:
図8に認められるように、MUC-1コアの3-6個の縦列反復を含む合成ペプチドは
、対照と比較して、T細胞増殖レベルを有意に減少させた。この効果は、1個の
反復を含むペプチドには観察されなかった。更に、この効果は、IL-2またはCD28
モノクローナル抗体により逆転された。図9に認められる様に、T細胞増殖の阻
害は、存在するMUC-1コア反復の数に正比例した。
表1は、培地対照と比較したこれらのデータの統計学的有意性を示す。
表2は、OSM対照と比較したこれらのデータの統計学的有意性を示す。
実施例9
本実施例は、T細胞増殖阻害と縦列反復数の正比例関係を示す。使用された方
法は実施例8に説明されている。
実施例8に説明されているように、3、4、5または6個のMUC-1反復に対応する
合成ペプチドを10μg/mlの濃度でアロ培養に加え、T細胞増殖を培養開始から1
4日目に測定した。各ウェルに各ペプチドは等量存在したため、全試料が含む個
々の反復総数は等しかった。従って、違いはペプチド内皮細胞で縦列結合した反
復の数だけであった。言い換えれば、観察された効果は全て、反復のオリゴマー
としての性質の結果であり、それらの絶対数ではない。
図9に示すように、縦列に結合した反復の数は、T細胞増殖の阻害と正比例し
ていた。T細胞減少率(%)は、培養に加えられたMUC-1の縦列反復の数に正比
例していた(R=0.85、p<0.0001)。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】平成10年8月18日(1998.8.18)
【補正内容】
請求の範囲(補正)
1.薬剤学的に有効量のMUC-1、MUC-1誘導体またはMUC-1炭水化物誘導体を治
療が必要な患者に投与することから成る治療方法。
2.前記患者が、炎症性関節炎、慢性関節リウマチ、乾癖、アレルギー、アレ
ルギー性接触性皮膚炎の様なアレルギー、剛直性脊椎炎から成るグループから選
択される自己免疫疾患に罹患している請求項1記載の方法。
3.前記患者が、重症筋無力症、全身性紅斑性狼瘡、結節性多発性動脈炎、グ
ッドパスチャー症候群、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、グ
レーブス病、リウマチ熱、悪性貧血、インシュリン抵抗性糖尿病、水疱性類天疱
瘡、尋常性天疱瘡、ウイルス性心筋炎(コクサッキーBウイルス反応)、自己免
疫性甲状腺炎(橋本病)、男性不妊(自己免疫性)、サルコイドーシス、アレル
ギー性脳脊髄炎、多発性硬化症、シェーグレン病、ライター病、セリアック病、
交感性眼炎、原発性胆汁性肝硬変症から成るグループから選択される自己免疫疾
患に罹患している請求項1記載の方法。
4.前記患者が、臓器移植の拒絶反応または対宿主性移植片疾患に罹患してい
る請求項1記載の方法。
5.前記MUC-1誘導体が1個より多いMUC-1コア反復を含む請求項1記載の方法
。
6.前記MUC-1誘導体が約2から約100個のMUC-1コア反復を含む請求項1記載
の方法。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
A61P 9/00 A61P 9/00
15/00 15/00
17/00 17/00
17/06 17/06
19/02 19/02
21/04 21/04
25/00 25/00
27/02 27/02
29/00 29/00
101 101
31/12 31/12
37/08 37/08
43/00 43/00
C12N 5/10 C12N 15/00 A
15/09 5/00 B
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(GH,KE,LS,MW,S
D,SZ,UG,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG
,KZ,MD,RU,TJ,TM),AL,AM,AT
,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BY,CA,
CH,CN,CU,CZ,DE,DK,EE,ES,F
I,GB,GE,HU,IL,IS,JP,KE,KG
,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,
LU,LV,MD,MG,MK,MN,MW,MX,N
O,NZ,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SG
,SI,SK,SL,TJ,TM,TR,TT,UA,
UG,US,UZ,VN,YU,ZW
(72)発明者 ヒュー,ジュディス・シー
カナダ国、ティー6アール 2ジェイ6
アルバータ、エドモントン、ファルコナ
ー・ロード 1130、#38
(72)発明者 レジムバルド,ライル・エイチ
カナダ国、ティー8エヌ 2ダブリュー6
アルバータ、セント・アルバート、バタ
ーフィールド・クレセント 21