JP2000245452A - トランスジェニック軟体動物及びその作出方法 - Google Patents

トランスジェニック軟体動物及びその作出方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 所望の外来遺伝子を発現することができるト
ランスジェニック軟体動物及びその作出方法を提供する
こと。 【解決手段】 所望の外来遺伝子が導入され、該外来遺
伝子を発現するトランスジェニック軟体動物並びに導入
しようとする所望の外来遺伝子又は該外来遺伝子を含む
核酸をベクターに組み込んだ組換えベクターを軟体動物
のオス及びメスの生殖巣にそれぞれマイクロインジェク
ションし、これらのオスとメスを交配させて第1代を作
り、前記所望の遺伝子を発現している個体を選択するこ
とを含む、トランスジェニック軟体動物の作出方法が提
供された。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、トランスジェニッ
ク軟体動物及びその作出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一方、従来の真珠養殖では、ひたすら幾
種類かの天然に存在する真珠の生産のみが可能であり、
色調などは生産後に染色などで色調加工を行なってき
た。これら生産後の加工は色調が退色しやすく、また望
みの色調に加工することは真珠層の強固なことからほと
んど不可能であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】もし、ウイルス抵抗性
や、着色真珠を産生する能力を有するトランスジェニッ
ク真珠貝が得られれば、養殖真珠産業にとって有利であ
る。しかしながら、このような有用な性質を有するトラ
ンスジェニック真珠貝は言うに及ばず、軟体動物門全体
においても、所望の外来遺伝子を発現することができる
トランスジェニック軟体動物は現在までのところ作出さ
れていない。
【0004】従って、本発明の目的は、所望の外来遺伝
子を発現することができるトランスジェニック軟体動物
及びその作出方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本願発明者らは、鋭意研
究の結果、所望の外来遺伝子を軟体動物のオス及びメス
の生殖巣にマイクロインジェクションし、それらのオス
とメスを交配することにより、又は軟体動物中で機能す
るプロモーターの下流に所望の外来遺伝子を連結したも
のを軟体動物の受精卵又は胚に導入することにより、所
望の外来遺伝子を発現するトランスジェニック軟体動物
を作出することに成功し、本発明を完成した。
【0006】すなわち、本発明は、所望の外来遺伝子
(ウイルス抵抗性を付与する遺伝子を除く)が導入さ
れ、該外来遺伝子を発現するトランスジェニック軟体動
物を提供する。また、本発明は、導入しようとする所望
の外来遺伝子又は該外来遺伝子を含む核酸をベクターに
組み込んだ組換えベクターを軟体動物のオス及び/又は
メスの生殖巣にマイクロインジェクションし、これらの
オスとメスを交配させて第1代を作り、前記所望の遺伝
子を発現している個体を選択することを含む、上記本発
明のトランスジェニック軟体動物の作出方法を提供す
る。さらに本発明は、形質転換しようとする軟体動物中
の本来の遺伝子ないしこれを修飾したプロモーター活性
を発揮するプロモーターの下流に、前記所望の遺伝子を
機能的に連結した核酸を組み込んだ組換えベクターを該
軟体動物の受精卵又は胚に導入し、該受精卵又は胚を個
体にまで成長させ、前記所望の遺伝子を発現している個
体を選択することを含む、上記本発明のトランスジェニ
ック軟体動物の作出方法を提供する。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明のトランスジェニック軟体
動物は、軟体動物門に属する動物であればいずれのもの
でもよいが、好ましい例として、ニマイガイ綱(斧足
類)やマキガイ綱(腹足類)のような貝類、とりわけ、ア
コヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイのような真
珠貝を挙げることができる。
【0008】軟体動物に導入される所望の外来遺伝子
は、軟体動物に付与しようとする形質を与えることがで
きるいずれの遺伝子であってもよい(ただし、ウイルス
抵抗性を付与する遺伝子を除く)。好ましい例として、
軟体動物が真珠貝の場合には、緑色蛍光発光タンパク質
(GFP:グリーンフルーオレスンスタンパク質)遺伝
子、アントシアニン遺伝子、蛍光ルシフェラーゼ遺伝
子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、フォスファターゼ遺
伝子等の着色に関与する遺伝子を挙げることができる。
なお、ここで、「着色に関与する遺伝子」とは、上記の
例示からも明らかなように、色素(蛍光色素を包含する)
をコードする遺伝子のみならず、体内で色素を生成する
反応を触媒する酵素をコードする遺伝子等、体内での色
素生成反応に関与する物質をコードする遺伝子をも包含
する。
【0009】本発明のトランスジェニック軟体動物は次
のようにして作出することができる。第一の方法では、
上記所望の外来遺伝子又は該外来遺伝子を含む核酸をベ
クターに組み込んだ組換えベクターを、軟体動物のオス
及び/又はメスの生殖巣にマイクロインジェクションに
より注入し、これらのオスとメスを交配して第1代の個
体を作り、該第1代の個体の中から上記所望の外来遺伝
子を発現している個体を選択する。
【0010】マイクロインジェクションされる組換えベ
クターに組み込むべきものは、上記所望の外来遺伝子の
みであってもよいし、該外来遺伝子を含む核酸であって
もよい。このような核酸の例として、該外来遺伝子の上
流に、軟体動物細胞中でプロモーター活性を発揮するプ
ロモーターを結合したもの及び該外来遺伝子を他の遺伝
子と融合させた融合遺伝子等を挙げることができる。な
お、ここで、上記所望の外来遺伝子と融合される他の遺
伝子の好ましい例として、外来遺伝子が着色に関与する
遺伝子であり、軟体動物が真珠貝の場合には、真珠層タ
ンパク質遺伝子、プリズム層骨格タンパク質遺伝子、炭
酸カルシウム結晶化酵素遺伝子等を挙げることができ
る。ベクターとしては、アデノウイルスベクターやレト
ロウイルスベクターのような動物細胞用ベクターを挙げ
ることができる。これらのベクターは市販されているの
で、市販品を用いることができる。
【0011】上記組換えベクターを軟体動物の生殖巣に
マイクロインジェクションする方法について説明する。
基本的には、組換えベクターを含む溶液を注射針で直接
生殖巣内に注入することにより行なうことができる。マ
イクロインジェクション用の溶液の媒体としては、TE
緩衝液のような緩衝液でよく、溶液中の組換えベクター
の濃度は、2〜200μg/ml程度が好ましく、特に
は5〜10μg/ml程度が好ましい。注入する溶液の
量は、1箇所につき10〜50μl程度が好ましく、卵
巣、精巣とも2〜4箇所程度に注入することが好まし
い。
【0012】マイクロインジェクション後、10〜25
℃、好ましくは15〜20℃で24〜72時間、好まし
くは24〜48時間放置した後、マイクロインジェクシ
ョンしたオスとメスを交配させる。交配は自然交配でも
よいが、再現性良く確実に交配させるために人工授精を
行なうことが好ましい。人工授精は、基本的に、マイク
ロインジェクションした精巣からの精子をマイクロイン
ジェクションしたメスの卵巣中の成熟卵に添加すること
により行なうことができる。なお、マイクロインジェク
ションは、交配させるオス及びメスの両者の生殖巣に対
して行うことが好ましいが、いずれか一方の生殖巣に対
して行ってもトランスジェニック軟体動物を作出するこ
とが可能である。軟体動物の人工授精の方法自体はDev
Biol 1994, 163(1): 162-174等に記載の方法により行な
うことができる。
【0013】受精卵からの個体の育成は、受精卵を海水
又は人工海水中で、その軟体動物の通常の生育温度範囲
でインキュベートすることにより容易に行なうことがで
きる。
【0014】次いで、得られた個体から形質転換体を選
択する。これは、軟体動物の細胞中に、導入しようとす
る所望の外来遺伝子が存在するか否かをサザンブロット
法により調べ、さらに軟体動物細胞で該外来遺伝子が発
現されているか否かをノーザンブロット法により調べる
ことにより行なうことができる。サザンブロット法及び
ノーザンブロット法自体及びそのための試料の調製方法
自体はこの分野において周知であり、例えば中山・西方
著、「バイオ実験イラストレイテッド−遺伝子解析の
基礎」、秀潤社(1995)に記載されている。
【0015】形質転換ラインを確立するために、上記の
方法により形質転換体であることが確認された第一代の
軟体動物のオス及びメスを上記と同様にして交配させ、
第二代の個体を得、その中から上記と同様にして形質転
換体を選択することが好ましい。さらに第三代以降を同
様にして作ることにより、より確実に形質転換ラインを
確立することが可能である。
【0016】トランスジェニック軟体動物を作出する第
二の方法では、形質転換しようとする軟体動物中でプロ
モーター活性を発揮するプロモーターの下流に、前記所
望の遺伝子を機能的に連結した核酸を組み込んだ組換え
ベクターを該軟体動物の未受精卵、受精卵又は胚に導入
し、該未受精卵、受精卵又は胚を個体にまで成長させ、
前記所望の遺伝子を発現している個体を選択する。
【0017】形質転換しようとする軟体動物中でプロモ
ーター活性を発揮するプロモーターは、形質転換しよう
とする軟体動物中でプロモーター活性を発揮するもので
あればいずれのものであってもよく、例えばアクチン遺
伝子プロモーター、熱ショックプロテイン遺伝子プロモ
ーター等を挙げることができるがこれらに限定されるも
のではない。また、所望の外来遺伝子をプロモーターの
下流に「機能的に連結」するとは、該外来遺伝子が該プロ
モーターの支配を受けるように読み枠を合わせて連結す
ることを意味する。この場合、プロモーターの下流に機
能的に連結された他の構造遺伝子又はその断片の下流に
上記所望の外来遺伝子を読み枠を合わせて連結して、融
合タンパク質として発現させることも可能である。な
お、プロモーターの下流に構造遺伝子を機能的に連結す
る方法はこの分野において周知である。組換えベクター
は、第1の方法と同様にして調製することができる。
【0018】次いで、調製した組換えベクターを軟体動
物の未受精卵、受精卵又は胚、好ましくは未受精卵に導
入する。これは例えば次のようにして行なうことができ
る。濃度100〜200mg/ml程度のベクター溶液
をシャーレあるいはウェルに用意し、未受精卵あるいは
受精卵又は胚を浸す。このように浸した卵あるいは胚を
マイクロインジェクション用マイクロピペットを用いて
(これに限るものではない)鋭利に一瞬だけ傷を付ける
ようにしてベクター液を卵あるいは胚内に注入する。こ
の時、破裂は勿論のこと致命傷にならない程度に傷穴を
空けることが肝心である。組換えベクターを導入した受
精卵又は胚から第1の方法と同様にして個体を得ること
ができ、第1の方法と同様にして形質転換体を選択し、
形質転換ラインを確立することができる。
【0019】また、未受精卵は上記操作の直後あるいは
並行して人工授精を行った後、第1の方法と同様にして
個体を得ることができる。
【0020】
【実施例】以下、本発明を、実施例に基づきより具体的
に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定され
るものではない。
【0021】参考例1 ヒトインターフェロンα遺伝子
を導入したトランスジェニックアコヤガイの作出 ヒトあるいはマウスインターフェロンα遺伝子(BBL
社、RDS社より市販)をアデノウイルスベクター(宝
酒造社製、タカラ・アデノウイルス発現ベクターキッ
ト)に組み込み組換えベクターを作製した。この操作は
具体的には次のようにして行なった。上記市販のインタ
ーフェロンα遺伝子をコスミドベクター(pAxcwt(44,74
1 bp), Niwa, M. et al., (1991) Gene 108, 193,上記
市販のアデノウイルス発現ベクターキットに含まれてい
る)のSwa I部位に挿入した。組み込まれた遺伝子を持
つコスミドベクターと、上記制限酵素で処理した上記市
販のアデノウイルス由来DNA−TPC(Miyake, S. e
t al., (1996), Proc. Natl.Acad. Sci. USA 93 1320)
とを293細胞(ヒト胎児腎細胞、大日本製薬株式会社
製)に共存導入した。共存導入は、具体的には次のよう
に行った。293細胞を10%FCS添加DMEM培地
で、5%CO2、37℃の条件下に100%コンフルエ
ントに培養し、上記コスミドベクターDNA10μgと
制限酵素処理済みDNA−TPC5μgとを直径6cm
のシャーレ上で混合した。このトランスフェクションは
リン酸カルシウム法で行った。共存導入後の細胞を37
℃、5%CO2で24時間培養後、増殖した組換えアデ
ノウイルスの分画を集め、DNA量(100〜200m
g/個)をアコヤ貝の卵巣に注入し、別にオスから取出
した精子(卵子の2倍量)と試験管内で混合し受精させ
た。これを海水中25℃で、24日間培養し、稚貝を得
た。200個の稚貝31個中に、インターフェロン用D
NAプローブの蛍光(FITC)の発色が見られた。さらに
稚貝のDNAを精製し、同じDNAプローブにより配列
を確認した。これらの貝は継続養殖された。
【0022】また、ウイルス感染により閉殻筋が赤色に
変化することが報告されており、インターフェロン遺伝
子の存在が確認された成貝では、20個中18個でこの
積変が見られなかった。
【0023】一方、上記のようにして得た組換えアデノ
ウイルスベクターをHela細胞にトランスフェクトし、He
la細胞中で増殖させた。Hela細胞へのトランスフェクト
及び増殖は、Nature 1995, 374(6523):660-662に記載さ
れた方法により行なった。Hela細胞から常法により組換
えベクターDNAを回収し、これを10 mM Tris-HCl (pH
7.5)、1 mM EDTAないし20 mMリン酸カリウム、3 mMクエ
ン酸カリウム、2% PEG-6000 (pH7.5)中にDNA量50
〜100μg/mlの濃度で溶解してマイクロインジェ
クション用溶液を調製した。該溶液を、アコヤガイのメ
スの卵巣及びオスの精巣にマイクロインジェクションし
た。注入した溶液の量は、1箇所当たりDNA換算10
0μgで、卵巣又は精巣にそれぞれ3箇所注入した。2
4〜48時間後、精巣からの精子と卵巣からの成熟卵を
用いて人工授精を行なった。人工授精は具体的には次の
ようにして行なった。アコヤ貝のオスより精巣を、メス
より卵巣をそれぞれ切除し、試験管に精子と卵子を取出
し1:2の割合で混合した。受精卵を海水中で2〜3週
間、25℃でインキュベートすることにより受精卵から
第一代のアコヤガイ個体を得た。得られたアコヤガイの
生殖巣から常法により全DNAを回収し、ヒトインター
フェロンα遺伝子をプローブとして用いて常法(「バイ
オ実験イラストレイテッド」、上掲)によりサザンブロ
ット法を行なった。さらに、アコヤガイの内臓塊、閉殻
筋細胞から常法により全mRNAを回収し、ヒトインタ
ーフェロンα遺伝子をプローブとして用いて常法(「バ
イオ実験イラストレイテッド」、上掲)によりノーザン
ブロット法を行なった。
【0024】サザンブロット陽性かつノーザンブロット
陽性のメス及びオスの個体から採取した成熟卵及び精子
を用いて上記と同様に人工授精を行い、上記と同様にし
て第2代の個体を得た。上記と同様にサザンブロット及
びノーザンブロットを行なうことにより、ヒトインター
フェロンα遺伝子を導入したトランスジェニックアコヤ
ガイを3ライン選択した。
【0025】養殖アコヤガイの状態から、ウイルス汚染
されていると考えられる海域及びウイルス汚染されてい
ないと考えられる海域において、上記のように作出した
トランスジェニックアコヤガイ及び対照として従来のア
コヤガイを180日間養殖し、その致死率を比較した。
結果を下記表1に示す。
【0026】
【表1】表1 ヒトインターフェロンα遺伝子導入の効
果(360日間養殖)
【0027】表1から明らかなように、本発明のトラン
スジェニックアコヤガイ(ライン1〜3)では、非汚染海
域における致死率は従来種と同等であるにもかかわら
ず、汚染海域における致死率は従来種よりも遥かに低か
った。このことから、ヒトインターフェロンα遺伝子導
入による致死率低下の効果が明瞭に認められた。
【0028】参考例2 ヒトインターフェロンβ遺伝子
を導入したトランスジェニックアコヤガイの作出 ヒトインターフェロンα遺伝子に代えて、ヒトインター
フェロンβ遺伝子(BBL社より市販、HIGASHI, Y. et
al. (1983) J. Biol. Chem. 258:92)を用いること、及
びサザンブロット及びノーザンブロットで用いたプロー
ブがインターフェロンβ遺伝子の5’末端40塩基ない
し50塩基の配列フラグメントをFITC蛍光で修飾したプ
ローブを用いたことを除き、参考例1と同じ操作を行
い、ヒトインターフェロンβ遺伝子が導入されたトラン
スジェニックアコヤガイ(第2代)を作出した。
【0029】ヒトインターフェロンβ遺伝子導入の効果
を参考例1と同様にして調べた。結果を下記表2に示
す。
【0030】
【表2】表2 ヒトインターフェロンβ遺伝子導入の効
果(180日間養殖)
【0031】参考例1の場合と同様、ヒトインターフェ
ロンβ遺伝子導入の効果が明瞭に認められた。
【0032】実施例1 緑色蛍光発光タンパク質(GF
P)遺伝子を持つアコヤガイの作製(1) 完全長GFP遺伝子(Science 1994, 263:802-805; Gen
Bank No. U53602、和光純薬工業より市販)を参考例1
と同様にしてアデノウイルスベクターへ組み込んだ(増
殖に用いた細胞は293細胞)。得られたGFP含有組換
えベクターをTE緩衝液で濃度100mg/mlとし、
参考例1と同様にしてアコヤガイの卵巣にマイクロイン
ジェクションした。以下、参考例1と同様にして(ただ
し、サザンブロット及びノーザンブロットで用いたプロ
ーブはGFP遺伝子である)、トランスジェニックアコ
ヤガイ(第2代)を作出した。
【0033】得られたトランスジェニックアコヤガイの
各組織において蛍光発光が認められるか否かを蛍光顕微
鏡により調べた。結果を下記表3に示す。なお、表中
「+」は蛍光発光が認められたことを示し、「+」の数が多
いほど蛍光発光が強いことを意味する。
【0034】
【表3】表3 蛍光発光の認められた組織
【0035】実施例2 緑色蛍光発光タンパク質(GF
P)遺伝子を持つアコヤガイの作製(2) 真珠貝のプリズムタンパク質は、真珠を構成している重
要なタンパク質である。この実施例では、プリズムタン
パク質の遺伝子に緑色蛍光発光タンパク質遺伝子を融合
し、真珠に自己蛍光発光をさせる試みである。
【0036】アコヤガイのプリズムタンパク質遺伝子
(Nature 1997, 387(6633):563-564;GenBank No. D860/
3)をその読み始めコドン5kb上流を含めてクローン
し、このプロモーターにGFP遺伝子を融合し、アデノ
ウイルスベクターに導入した。プリズムタンパク質遺伝
子(プロモーター含む)とGFP遺伝子の融合遺伝子は、
M. Chalfie et al., Science 1994, 263:802-805に記載
された方法により調製した。すなわち、上記読み始めコ
ドン5kb上流を含むプリズムタンパク質遺伝子の開始
コドンから10nt目に、9nt、10nt又は11n
tのリンカー(ポリT)を結合し、市販のGFP遺伝子の
5’末端に、それぞれ9、10、あるいは11ntのポ
リAリンカーを結合させたDNAをハイブリダイズし
て、融合遺伝子を得た。得られた融合遺伝子を制限酵素
NHeI及びEcoRIを用い、参考例1で用いたのと同じアデ
ノウイルスベクターに挿入した。次いで参考例1と同様
にして、プリズムタンパク質遺伝子とGFP遺伝子との
融合遺伝子を導入したトランスジェニックアコヤガイを
得た。得られたトランスジェニックアコヤガイの外套膜
組織を蛍光顕微鏡で観察したところ、蛍光発光を認め
た。
【0037】本実施例で得られたトランスジェニックア
コヤガイは、プリズムタンパク質のプロモーター及び構
造遺伝子の下流にGFP遺伝子を連結したものであり、
これが発現されて蛍光が認められているので、このアコ
ヤガイに真珠を作らせれば、真珠を構成するプリズムタ
ンパク質にはGFPが融合しているから、蛍光発光する
真珠玉が形成されると考えられる。
【0038】実施例3 緑色蛍光発光タンパク質(GF
P)遺伝子を持つアコヤガイの作製(3) 外套膜タンパク質は、プリズムタンパク質と同様に真珠
を構成する大切なタンパク質である。実施例2のプリズ
ムタンパク質遺伝子に代えてアコヤガイ外套膜タンパク
質遺伝子(Nature 1997, 387(6633):563-564; GenBank
No. 86074)を用いて実施例2と同様な操作を行ない、
外套膜タンパク質遺伝子とGFP遺伝子との融合遺伝子
を導入したトランスジェニックアコヤガイを作出した。
なお、アコヤガイ外套膜タンパク質遺伝子とGFP遺伝
子との融合及び該融合遺伝子とアデノウイルスベクター
への組み込みは、具体的には次のように行なった。実施
例2と同様、外套膜タンパク質の開始コドン約5kb上
流を含むDNA断片の開始コドンから15b目に9、1
0あるいは11ntのポリTを結合し、実施例2で用い
たと同様のGFP遺伝子に9、10、11ntのポリA
をハイブリダイズして融合遺伝子を作製した。得られた
融合遺伝子を用いて実施例2と同様な操作を行い、トラ
ンスジェニックアコヤガイを得た。
【0039】得られたトランスジェニックアコヤガイの
外套膜組織を蛍光顕微鏡で観察したところ、蛍光発光を
認めた。
【0040】本実施例で得られたトランスジェニックア
コヤガイは、外套膜タンパク質のプロモーター及び構造
遺伝子の下流にGFP遺伝子を連結したものであり、こ
れが発現されて蛍光が認められているので、このアコヤ
ガイに真珠を作らせれば、真珠を構成する外套膜タンパ
ク質にはGFPが融合しているから、蛍光発光する真珠
玉が形成されると考えられる。
【0041】実施例4 プロモータートラップ法による
GFP遺伝子又はLacZ遺伝子の導入 基本的にはI. A. Hope, Development 113巻339-408(199
1年)の方法によった。先ず、実施例1に記載した方法
により精巣及び卵巣にGFP遺伝子(10〜50mgD
NA/個)を注入し、のち試験管内で受精させた。これ
を海水中25℃で培養し、3週間で稚貝を得た。約5〜
15%の稚貝にGFP特有の発色が認められた。これら
を養殖槽で12ヶ月間養殖し、成貝を得た。成貝を解剖
し、特によく発色している臓器を単離し、DNAを抽出
した。抽出されたDNA中にGFP遺伝子を発現するプ
ロモーター遺伝子配列を解析した。タンパク質合成酵素
や閉殻筋中の酵素のプロモーター遺伝子がトラップされ
た。
【0042】新しく単離されたプロモーター領域を含む
配列の下流にGFPあるいはLacZ遺伝子を挿入し、発現
ベクターpAxCAwt(タカラアデノウイルス発現ベクター
キット)からβ−アクチンプロモーターを制限酵素によ
り切除したもののSwa I制限部位(サイトメガロウイル
スエンハンサー配列とウサギβ−グロビンポリAシグナ
ルの間)に、得られた遺伝子を導入した。得られた組換
えベクターを用い、濃度100〜200mg/ml程度
の該ベクター溶液をシャーレに用意し、未受精卵を浸し
た。このように浸した未受精卵をマイクロインジェクシ
ョン用マイクロピペットを用いて鋭利に一瞬だけ傷を付
けるようにしてベクター液を卵に注入した。以後、参考
例1と同様にしてトランスジェニックアコヤガイを得
た。それぞれの遺伝子の発現量は分光学的に検出した。
【0043】得られたトランスジェニックアコヤガイに
ついて、自己蛍光発光(GFP遺伝子の場合)及び発色
基質XGによる染色(LacZ遺伝子の場合)による観察の
結果、アコヤガイの種々の組織に蛍光発光あるいは染色
が認められた。
【0044】
【発明の効果】本発明により、所望の外来遺伝子を発現
することができるトランスジェニック軟体動物が初めて
提供された。本発明により、着色真珠を形成する真珠貝
等の産業上有用な種々の軟体動物を作出することが可能
になった。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 三輪 錠司 神奈川県横浜市磯子区杉田坪呑6−30 (72)発明者 磯和 望 三重県志摩郡志摩町越賀822−4 Fターム(参考) 4B024 AA10 BA80 CA04 DA02 EA02 FA02 GA11 GA18 HA20 4B065 AA90X AC20 BA02 CA52 CA60

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 所望の外来遺伝子(ウイルス抵抗性を付
    与する遺伝子を除く)が導入され、該外来遺伝子を発現
    するトランスジェニック軟体動物。
  2. 【請求項2】 貝類である請求項1記載のトランスジェ
    ニック軟体動物。
  3. 【請求項3】 真珠貝である請求項2記載のトランスジ
    ェニック軟体動物。
  4. 【請求項4】 前記外来遺伝子は、着色に関与する遺伝
    子であり、いずれかの組織が着色された請求項1ないし
    3のいずれか1項に記載のトランスジェニック軟体動
    物。
  5. 【請求項5】 前記着色に関与する遺伝子は、緑色蛍光
    発光タンパク質遺伝子であり、いずれかの組織が蛍光を
    発する請求項4記載のトランスジェニック軟体動物。
  6. 【請求項6】 導入しようとする所望の外来遺伝子又は
    該外来遺伝子を含む核酸をベクターに組み込んだ組換え
    ベクターを軟体動物のオス及び/又はメスの生殖巣にマ
    イクロインジェクションし、これらのオスとメスを交配
    させて第1代を作り、前記所望の遺伝子を発現している
    個体を選択することを含む、請求項1ないし5のいずれ
    か1項に記載のトランスジェニック軟体動物の作出方
    法。
  7. 【請求項7】 前記所望の遺伝子を発現している前記第
    1代のオスとメスを交配して第2代を作り、前記所望の
    遺伝子を発現している個体を選択することをさらに含
    む、請求項6記載の方法。
  8. 【請求項8】 形質転換しようとする軟体動物中でプロ
    モーター活性を発揮するプロモーターの下流に、前記所
    望の遺伝子を機能的に連結した核酸を組み込んだ組換え
    ベクターを該軟体動物の未受精卵、受精卵又は胚に導入
    し、該未受精卵、受精卵又は胚を個体にまで成長させ、
    前記所望の遺伝子を発現している個体を選択することを
    含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のトラン
    スジェニック軟体動物の作出方法。
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