JP2000222377A - ダイナミクスを利用してコスト関数の最適値を探索する処理装置 - Google Patents

ダイナミクスを利用してコスト関数の最適値を探索する処理装置

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 最適化問題において、コスト関数の局所的な
形に依らずに、その最適値を効率的に探索することが課
題である。 【解決手段】 入力部10は、入力データ21を入力
し、コスト関数値計算部12は、コスト関数およびその
偏導関数の値を計算し、方程式計算部14は、ダイナミ
クスを表す常微分方程式を計算する。数値積分実行部1
5は、計算結果を用いて数値積分を実行し、度数計算部
17は、コスト関数や座標値の実現度数を計算し、候補
選択部18は、それらの度数に基づいて最適状態の候補
を選択する。降下部20は、降下法により最適状態候補
23から最適状態を探索する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、最適構造問題、最
適配置問題、最適経路問題等のような最適化問題におい
て、コスト関数の最適値を探索する処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、様々な産業分野において、最適化
問題を解決することが要求されている。最適化問題と
は、与えられたコスト関数が最大、最小、あるいは局所
最大、局所最小となるような状態を探索する問題であ
る。コスト関数の符号を変えることにより、最大あるい
は局所最大を求める問題は、最小あるいは局所最小を求
める問題に置き換えられる。以下では、主として、最小
あるいは局所最小を求める問題として最適化問題を説明
する。
【0003】例えば、CAD(computer-aided design
)においては、建築物、構造物等の強度を高め、外力
に対する安定性を高めるために、強度や安定性の評価値
がコスト関数として用いられ、その最適値に対応する構
造が求められる。また、材料設計においては、材料の原
子・分子レベルのエネルギーがコスト関数として用いら
れ、最低エネルギー状態に対応する構造が求められる。
さらに、より一般的なパラメタフィッティング問題にお
いても、コストを最適にするようなパラメタの組が求め
られる。
【0004】このような最適化問題を解決するための従
来の方法としては、降下法(Descent Method)と確率的
方法の2つの方向がある。降下法の代表的アルゴリズム
である最急降下法(Steepest Descent Method )は、与
えられた状態からコスト関数の値が下がる方向を計算
し、その方向に状態を変化させて、コスト関数の最小値
の1つの候補を求める方法である。これにより、コスト
関数の極小値が得られる。
【0005】また、確率的方法の代表的アルゴリズムに
は、ランダム法、シミュレーティド・アニーリング法
(Simulated Annealing Method,SA法)、および遺伝
アルゴリズム法(Genetic Algorithm Method,GA法)
がある。
【0006】ランダム法は、状態をランダムに選び、コ
スト関数の値が小さい状態をピックアップしていく方法
である。SA法は、次の状態を定めるためにメトロポリ
ス(metropolis)のアルゴリズムを用いる。このアルゴ
リズムによれば、次の状態のコストが下がればその状態
が採用され、コストが上がればある確率をもってその状
態が採用される。その確率は温度パラメタに依存してお
り、最初は温度を高めに設定してメトロポリスのアルゴ
リズムを用い、徐々に、温度を低くしていく方法が取ら
れている。
【0007】GA法は、生物進化の機構を模倣した最適
化方法である。この方法では、状態を染色体と呼ばれる
文字列で表現し、染色体の集団に選択、交差、突然変異
等の遺伝子操作を行って、各遺伝子を最適化していく。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述し
た従来の方法には次のような問題がある。最急降下法
は、探索途中にコスト関数が極小となる状態があれば、
それにトラップされてしまい、その状態から抜け出せな
くなる。したがって、必ずしもコスト関数が最小の状態
を見つけられるとは限らない。ランダム法は、状態数が
有限かつ少ない時は厳密解を見つけられる可能性がある
が、状態数が多くなれば良く機能しない。
【0009】また、SA法では、メトロポリスのアルゴ
リズムにより低コスト値の状態の実現確率を高めるため
に温度を低くする必要があるが、そうすると探索のため
の状態の変化が緩慢になる。このため、一旦、極小状態
にトラップされると、長時間待たなければ、その状態か
ら抜け出せない。そこで、最初は温度を高めに設定し、
徐々に低くしていく方法が効果的と考えられるが、この
温度スケジューリングの方法には決定的あるいは汎用的
なものはなく、どのようにして温度スケジュールを設定
するかが問題となる。
【0010】また、GA法は、近傍探索能力に欠けるた
め、近くにより最適な状態があってもそれを見つけられ
ずに、ニアミスを起こしやすい。また、最適な状態が見
つけられるという理論的裏付けに乏しい。
【0011】本発明の課題は、コスト関数の局所的な形
に依らずに、その最適値を効率的に探索する処理装置を
提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】図1は、本発明の処理装
置の原理図である。図1の処理装置は、入力手段1、候
補探索手段2、および出力手段3を備える。
【0013】入力手段1は、問題を記述する状態と、状
態のコストを与えるコスト関数の情報を入力する。ま
た、候補探索手段2は、コスト関数の最適値により近い
コスト値の状態の実現確率を高めるような決定論的ダイ
ナミクスを用いて、最適状態の1つ以上の候補を求め
る。そして、出力手段3は、得られた候補を出力する。
【0014】候補探索手段2は、入力手段1により入力
された情報を用いて、状態を表す変数の集合とダイナミ
クスの計算アルゴリズムを決定し、それらに従って計算
を行う。そして、コスト関数の最適値に対応する最適状
態の候補となる変数値の集合を求める。出力手段3は、
候補探索手段2が求めた候補を、探索結果として出力す
る。
【0015】ダイナミクスとは、方程式等に基づく計算
により生成された座標(点)の時間的発展に対応する。
状態を座標変数とする状態空間におけるダイナミクスを
求めることにより、初期位置の近傍探索から出発して、
適当な条件下で与えられた状態空間全体を探索すること
ができ、コスト関数の極小値等にトラップされることが
ない。したがって、コスト関数の局所的な形に依らずに
計算を行うことができる。
【0016】また、コスト関数の最適値により近いコス
ト値の状態の実現確率を高めるようなダイナミクスを用
いることで、系の温度を下げることなく最適値に近いコ
スト値の周辺を探索することができる。したがって、従
来の確率的方法のように、最適値により近いコスト値の
状態の実現確率を高めるために状態の変化を遅らせる必
要がなく、処理が効率化される。
【0017】このように、本発明のポイントは、コスト
関数の最適値により近いコスト値の状態の実現確率を高
めるような決定論的ダイナミクスを用いて、最適状態を
探索することである。
【0018】また、図1の処理装置は、処理の精度をよ
り高めるために、格納手段4と最適状態探索手段5をさ
らに備える。格納手段4は、候補探索手段2が求めた1
つ以上の候補を格納し、最適状態探索手段5は、それら
の候補の各状態からコスト関数の値が良くなる方向に変
化させて、最適状態に近い状態を求める。
【0019】最適状態探索手段5が行う計算は、例え
ば、降下法の計算に対応し、候補の状態よりさらに最適
値に近いコスト値の状態を求めることができる。こうし
て得られた状態の中で最も良いコスト値を持つ状態を選
択すれば、精度の高い解が得られる。
【0020】例えば、図1の入力手段1は、後述する図
2の入力部10および図17の入力装置53に対応し、
図1の候補探索手段2は、図2のコスト関数値計算部1
2、方程式計算部14、数値積分実行部15、度数計算
部17、および候補選択部18に対応する。また、例え
ば、図1の出力手段3は、図2の出力部19および図1
7の出力装置54に対応し、図1の格納手段4は、図1
7のメモリ52に対応し、図1の最適状態探索手段5
は、図2の降下部20に対応する。
【0021】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら、本発
明の実施の形態を詳細に説明する。本実施形態において
は、n個の実変数によって表される状態q=
(q1 ,...,qn )によって定まるコスト関数U
(q)の最小値とそのときの状態qmin(もしくは、よ
り最小に近い値とそのときの状態)を探索する。ただ
し、U(q)は微分可能な関数とする。U(q)の符号
を変えることにより、最小値を探索する問題を最大値を
探索する問題に置き換えることもできる。ここでは、以
下のような性質を持つ計算を実現することが目標とな
る。 (A)近傍探索能力を有する。 (B)探索途中に極小状態があってもそれにトラップさ
れない。 (C)パラメタや調整関数を設定することによって、低
コスト値の状態の実現確率を高めることができる。ただ
し、SA法のように、探索が緩慢になるようなことは回
避する。 (D)充分長時間計算すると、各状態の実現確率がどう
なるか、どのような条件が必要かも含めて、最適な状態
が見つけられるという理論的裏付けがある。
【0022】このような目標を実現するため、まず、決
定論的ダイナミクスを用いてqminのいくつかの候補を
求める。次に、それぞれの候補の状態からなんらかの降
下法を用いてコスト値を降下させ、qmin もしくはより
最小に近い状態を求める。
【0023】ここでは、qmin の候補を求める決定論的
ダイナミクスの一例として、次のような常微分方程式を
用いる。 dqi /dt =−(β/n)τK (p)pi +(β/n)[Bi (x)∂ΘZ (ζ,w)/∂w−∂Bi (x)/∂w] (i=1,...,n) (1) dpi /dt =(β/n)τU (q)Fi (q) −(β/n)[(1/Q)∂ΘZ (ζ,w)/∂ζ +α∂ΘZ (ζ,w)/∂w]pi (i=1,...,n) (2) dζ/dt =[−(β/n)τK (p)K(p)−β]/Q +(β/n)[A(x)∂ΘZ (ζ,w)/∂w−∂A(x)/∂w] (3) dw/dt =[−(β/n)τK (p)K(p)−β]α −(β/n)[A(x)∂ΘZ (ζ,w)/∂ζ−∂A(x)/∂ζ] +(β/n)Σ[τU (q)Fi (q)Bi (x)+∂Bi (x)/∂qi ] (4) ただし、ここでは、以下のような定義を用いている。
【0024】
【数1】
【0025】 q≡(q1 ,...,qn )∈D⊂Rn (5) p≡(p1 ,...,pn )∈Rn (6) x≡(q,p,ζ,w)∈Γ≡D×Rn ×R2 (7) U:Rn ⊃D→R (8) Fi (q)≡−∂U(q)/∂qi (9) τU (q)≡[dΘU (u)/du]u=U(q) (10) K(p)≡Σpi 2 (11) τK (p)≡−2[dΘK (k)/dk]k=K(p) (12) ΘU :R⊃DU ≡U(D)→R (13) ΘK :[0,∞)→R (14) ΘZ :R2 →R (15) A:Γ→R (16) B=(B1 ,...,Bn ):Γ→Rn (17) (1)〜(4)の常微分方程式はニュートン方程式を拡
張したものに相当し、qi を座標とすると、pi は運動
量に相当する。また、ここでは、拡張変数としてζとw
が導入されている。ΘU 、ΘK 、ΘZ 、A、およびBは
調整関数として導入された滑らかな関数であり、β、
Q、およびαは調整パラメタとして導入されている。β
は設定温度の役割を果たす。これらの調整関数および調
整パラメタは、任意に設定することができる。このと
き、(1)〜(4)式は、次のような特徴を有する。
【0026】(2)式の左辺は運動量の時間変化を表
し、右辺第1項のFi (q)はコスト関数の微分に負の
符号を付加して得られる力を表している。言い換えれ
ば、状態の変化の方向(加速度の方向)には、コスト関
数の微分と逆の符号の成分が含まれている。したがっ
て、コスト関数が増加する場合には、それとは逆の方向
に状態が変化し、コスト関数が減少する場合には、その
方向に状態が変化する。このように、(2)式は、コス
ト関数が極小となる状態があれば、その方向に近づいて
いく性質を示しており、上述した(A)の性質を有して
いる。
【0027】また、(2)式の右辺第2項はpi に比例
する摩擦力を表し、ΘZ (ζ,w)により記述されるp
i の係数は摩擦係数に相当する。(3)式の左辺はζの
時間変化を表し、右辺第1項の−(β/n)τK (p)
K(p)は系の温度を表し、K(p)は系の運動エネル
ギーを表す。
【0028】ここで、∂ΘZ (ζ,w)/∂ζがζの増
加関数であるものとし、系の温度が設定温度βを超えて
ζの時間変化が正になったとすると、(2)式の右辺の
摩擦力が大きくなり、運動量が減少して、系の温度が低
下する。また、逆に、系の温度が設定温度βを下回りζ
の時間変化が負になったとすると、(2)式の右辺の摩
擦力が小さくなり、運動量が増加して、系の温度が上昇
する。(2)式の摩擦力は、正負両方の値をとることが
できる。
【0029】したがって、(2)、(3)式は、系の温
度を設定温度βに近づけようとする性質を示している。
実際に、適当な条件下では、系の温度の時間平均がβに
なることが証明できる。そこで、βを高く設定する等の
調整を行って系に熱振動を与えてやれば、極小状態から
脱出させることが可能になる。このように、(2)、
(3)式は、上述した(B)の性質を有している。
【0030】また、通常の場合は成立すると考えられる
いくつかの条件が成り立てば、長時間(理論的には無限
時間)経過後にU(q)がu1からu2の範囲の値をと
る確率は、(2)式のτU (q)を生成する調整関数Θ
U を用いて表すことができる。より具体的には、系がエ
ルゴード性を持てば、付加的な数学的条件の下で、この
確率は次式により与えられることが証明できる。
【0031】
【数2】
【0032】 S≡{q∈D|u1≦U(q)≦u2}×Rn+2 (19) kU (u)=exp[−ΘU (u)] (20) ここで、(18)式の左辺は時間tに関する定積分の極
限値を表し、右辺はコスト関数U(q)の値uに関する
定積分を表す。左辺のTt (x)は座標xの時間的発展
(フロー)を表し、χS (x)は、xが集合Sの要素で
あるとき1となり、そうでないとき0となる関数であ
る。
【0033】また、右辺のΩはコスト関数の状態数の密
度を表す関数であり、kU (u)Ω(u)は、系のコス
ト値U(q)がuとなる確率密度を表す。(18)式の
確率は、U(q)がu1からu2の範囲の値をとる状態
に滞在する時間の割合を表し、その範囲への軌道の訪問
頻度と呼ぶこともできる。
【0034】(18)式は、適当な条件下で、系が次式
の密度関数ρ(x)により与えられる不変測度を持つと
いう事実から証明される。 ρ(x)≡exp[−{ΘU (U(q))+ΘK (K(p)) +ΘZ (ζ,w)}] (21) このρ(x)はx=(q,p,ζ,w)の状態が実現さ
れる確率密度を表している。
【0035】上述した(C)の性質を実現するには、
(18)式のkU Ωがuの最小値付近で極大となるよう
に、kU を設定すればよい。密度関数Ωは、通常、uの
増加とともに急激に増加するので、kU をuの増加とと
もに急激に減少する関数等として適当に設定すれば、k
U Ωのピークをuの最小値に近づけることができる。k
U を急減関数にするには、ΘU を急増関数にすればよ
い。これにより、長時間後には、低コスト値の状態の訪
問頻度を高めることができる。
【0036】関数kU は、系の進行速度(即ち、探索速
度)を決定する設定温度βとは独立に設定することがで
きるため、低コスト値の状態の実現確率を高めながら、
探索速度の低下を回避できることが理論的に保証され
る。したがって、従来のSA法のように、低コスト値の
状態の実現確率を高めるために温度を低くした結果、探
索速度が低下するという問題が生じない。このように、
(2)式は、上述した(C)および(D)の性質を有し
ている。
【0037】言い換えれば、(18)式の確率を実現す
るような不変測度を持つ常微分方程式の一例が、(1)
〜(4)式である。(1)〜(4)式は、調整パラメタ
と調整関数を適当に設定することで、与えられた個々の
問題に柔軟に対応できるという利点を持っている。しか
しながら、(18)式の確率を実現するようなダイナミ
クスは(1)〜(4)式に限られず、他の定式化も可能
である。例えば、導入される拡張変数は、必ずしも2つ
(ζとw)である必要はない。
【0038】次に、(1)〜(4)式を用いてコスト関
数の最適値を探索する処理装置について説明する。この
処理装置は、例えば、コンピュータを用いて構成され、
(1)〜(4)式を適当な数値積分法で解いていき、q
min の候補を求める。ただし、一般には、最適解への収
束は保証されないので、適当な終了条件を設定して、探
索を終了する。次に、得られたqmin の候補のそれぞれ
を初期値として、適当な降下法によりコスト値を降下さ
せ、より最適な状態を求める。
【0039】図2は、このような処理装置の構成図であ
る。図2の処理装置は、入力部10、コスト定義部1
1、コスト関数値計算部12、関数作成部13、方程式
計算部14、数値積分実行部15、チェック部16、度
数計算部17、候補選択部18、出力部19、および降
下部20を備える。
【0040】入力部10は、入力データ21を入力し、
コスト定義部11は、コスト関数およびその偏導関数を
設定する。コスト関数値計算部12は、コスト定義部1
1により設定された関数の時刻tにおける値を計算し、
関数作成部13は、必要に応じて新たな調整関数を作成
する。方程式計算部14は、コスト関数値計算部12お
よび関数作成部13からの情報を用いて、時刻tにおけ
る(1)〜(4)式の計算を行う。数値積分実行部15
は、方程式計算部14の計算結果を用いて数値積分を実
行し、チェック部16は、積分結果をチェックする。
【0041】度数計算部17は、コスト関数U、運動エ
ネルギーK(温度)、注目する座標値qobs 等の実現度
数(頻度)を計算し、候補選択部18は、それらの度数
に基づいて最適状態qmin の候補を選択する。出力部1
9は、積分結果および度数計算部17の計算結果を出力
データ22としてファイルに出力する。
【0042】数値積分実行部15は、終了条件が成立す
るかどうかをチェックし、それが成立しなければ、時刻
tをΔtだけ進めて、次の積分を実行する。そして、終
了条件が成立すれば、積分を終了する。
【0043】その後、出力データ22がディスプレイ画
面上で可視化されるとともに、得られた複数の最適状態
候補23が降下部20に渡される。降下部20は、入力
データ21と最適状態候補23に基づいて、降下法によ
りqmin を探索し、得られた状態を最適状態24として
出力する。この最適状態24も、ディスプレイ画面上で
可視化することができる。
【0044】図2において、数値積分実行部15、チェ
ック部16、度数計算部17、候補選択部18、出力部
19、および降下部20は、与えられた問題に依存しな
い汎用的な機能を持つ。
【0045】図3は、入力データ21を示している。こ
の入力データにおいて、パラメタ31は、コスト関数を
定義する際に必要なパラメタであり、自由度32は、与
えられた問題を記述する状態変数の数nである。
【0046】また、シミュレーション条件33には、ス
テップ数、時間刻み幅、終了条件、出力指定パラメタ等
が含まれる。ステップ数は、数値積分および降下法の反
復回数を表し、時間刻み幅は数値積分の間隔Δtを表
し、終了条件は数値積分および降下法の終了条件を表
す。出力指定パラメタは、出力データ22の出力間隔等
を指定するパラメタである。終了条件としては、例え
ば、次のようなものが用いられる。 (a)計算時間または処理ステップ数があらかじめ決め
られた値に到達したとき、計算を終了する。 (b)あらかじめ決められたU(q)の目標値を下回る
コスト値の状態が所定の数以上得られたとき、計算を終
了する。
【0047】また、度数計算パラメタ34には、離散
幅、変域パラメタ等が含まれる。離散幅は、与えられた
変数や関数の値の実現度数を計算する際の値の間隔を表
し、変域パラメタは、変数や関数の値の計算範囲を表
す。
【0048】また、調整パラメタ35は、上述のパラメ
タβ、Q、およびαの値であり、調整関数の選択条件3
6は、上述の関数ΘU 、ΘK 、ΘZ 、A、およびBを設
定するための条件である。処理装置には、あらかじめ様
々な調整関数が組み込み関数として格納されており、そ
れらの識別番号を選択条件として入力すれば、指定され
た組み込み関数が自動的に設定される。また、新規関数
の定義を選択条件として入力すれば、新たな調整関数が
設定される。
【0049】また、境界条件37は、コスト関数の定義
域Dに関する境界条件を表す。例えば、トーラスが境界
条件として指定されると、処理装置は、領域Dがトーラ
ス状に連続しているものとみなして、数値積分を行う。
【0050】また、図4は、出力データ22を示してい
る。この出力データにおいて、状態変数値の時間変化4
1は、変数qの変化を表し、その他の変数値の時間変化
42は、q以外の変数の変化を表す。最適コスト値の時
間変化43は、探索により得られたコスト値の最適値の
変化を表す。
【0051】また、コスト関数値の度数44は、離散幅
毎に集計されたコスト値の実現度数を表し、系の温度の
度数45は、離散幅毎に集計された温度の実現度数を表
し、注目する座標の度数46は、離散幅毎に集計された
座標値qobs の実現度数を表す。
【0052】次に、図5から図12までを参照しなが
ら、図2の処理装置の処理についてより詳細に説明す
る。図5は、入力部10の処理のフローチャートであ
る。入力部10は、まず、入力データ21を入力し(ス
テップS11)、状態変数やその他の変数の初期値を定
義する処理を行い(ステップS12)、度数計算の準備
を行う(ステップS13)。
【0053】初期値の定義において、自動生成を行うか
どうかをユーザに問い合せ(ステップS14)、自動生
成の指示があれば、所定の方法で各変数の初期値を生成
して(ステップS15)、処理を終了する。自動生成の
指示がなければ、所定の外部ファイルから初期値を読み
込んで各変数に設定し(ステップS16)、処理を終了
する。
【0054】図6は、コスト定義部11の処理のフロー
チャートである。コスト定義部11は、まず、パラメタ
31に基づいてコスト関数およびその偏導関数を定義し
(ステップS21)、コスト関数を改変するかどうかを
ユーザに問い合せる(ステップS22)。改変の指示が
あれば、コスト関数を改変し(ステップS23)、処理
を終了する。改変の指示がなければ、コスト関数を改変
せずに、処理を終了する。コスト関数の改変の例として
は、定義されたコスト関数の比較的大きな値の部分を探
索対象から除外するような処理が考えられる。
【0055】図7は、コスト関数値計算部12の処理の
フローチャートである。コスト関数値計算部12は、コ
スト定義部11からコスト関数を受け取り、時刻tにお
いて更新された状態qに基づいて、コスト関数値を計算
する(ステップS31)。そして、コスト関数の偏導関
数値を計算して(ステップS32)、処理を終了する。
【0056】図8は、関数作成部13の処理のフローチ
ャートである。関数作成部13は、まず、調整関数の選
択条件36に基づいて、調整関数の新規作成を行うかど
うかを決定する(ステップS41)。選択条件36が新
規作成を指示していれば、入力された情報に基づいて調
整関数を作成し(ステップS42)、処理を終了する。
新規作成の指示がなければ、調整関数を作成せずに、処
理を終了する。
【0057】図9は、方程式計算部14の処理のフロー
チャートである。方程式計算部14は、まず、(1)〜
(4)式の計算に必要な温度等の変数を計算し(ステッ
プS51)、その結果を用いて(1)〜(4)式の右辺
を計算する(ステップS52)。そして、境界条件37
に関する処理を行い(ステップS53)、処理を終了す
る。
【0058】図10は、数値積分実行部15およびチェ
ック部16の処理のフローチャートである。数値積分実
行部15は、Runge-Kutta 法、Gear法、またはその他の
方法により数値積分を行い(ステップS61)、チェッ
ク部16は、数値エラーが発生したかどうかをチェック
する(ステップS62)。
【0059】数値エラーが発生しなければ、度数計算部
17に後続する処理を依頼し(ステップS63)、処理
を終了する。数値エラーが発生すれば、終了条件が成立
するかどうかに関わらず数値積分を終了させ(ステップ
S64)、処理を終了する。
【0060】図11は、候補選択部18の処理のフロー
チャートである。候補選択部18は、まず、度数計算部
17の計算結果に基づいて、これまでに得られた状態の
中から最適状態の複数の候補を選択する(ステップS7
1)。そして、それらの状態をqmin の候補として記憶
し、対応するコスト値をUmin の候補として記憶して
(ステップS72)、処理を終了する。
【0061】図12は、降下部20の処理のフローチャ
ートである。降下部20は、まず、与えられたqmin
候補を初期状態として、所定の降下法の計算ステップを
進め(ステップS81)、コスト関数値を計算する(ス
テップS82)。次に、計算結果をファイルに出力し
(ステップS83)、終了条件が成立するかどうかをチ
ェックする(ステップS84)。
【0062】終了条件が成立しなければ、ステップS8
1以降の処理を繰り返し、終了条件が成立すれば、降下
法を終了する(ステップS85)。そして、出力データ
をディスプレイ画面上で可視化し(ステップS86)、
得られた最適状態を出力して(ステップS87)、処理
を終了する。
【0063】次に、n=2とおき、コスト関数U(q)
を7つの2次元ガウス(Gauss )関数の和で表して、4
次のRunge-Kutta 法により数値積分のシミュレーション
を行った結果を説明する。探索領域Dは2次元トーラス
とし、調整関数は次のように設定した。 A=0 B=0 ΘU (u)=(1/2T′)u2 Θk (k)=(1/2T)k ΘZ (ζ,w)=(1/2T)(Qζ2 +α′w2 ) ここで、T′、T、およびα′は、調整関数を決定する
パラメタであり、次のように設定した。 T′=10.0 T=10.0 α′=0.0 また、調整パラメタは次のように設定した。 β=nT=20.0 Q=0.001 α=0.0 また、初期条件は、q1 =q2 =p2 =ζ=w=0.
0、p1 =T0.5 とおき、数値積分のステップ数は10
000000とし、数値積分の時間刻み幅は0.000
1とした。すべてのステップにおいてデータを出力する
とデータ量が膨大になることがあるので、ここでは、デ
ータの出力間隔を1000ステップ毎とした。
【0064】このとき、U(q)は図13に示すような
関数で与えられ、複数の極小値を含んでいる。これらの
極小値のうち最も小さい値が、コスト関数の最適値とな
る。指定されたステップ数の数値積分を行った後、図1
4に示すような座標値の分布が得られ、座標値の実現度
数は図15のようになった。図15では、図13の極小
値に対応する位置において、度数が大きくなっているこ
とが分かる。また、コスト関数値の実現度数は図16の
ようになった。図16における度数のピークは、図13
の極小値に対応している。
【0065】以上説明した実施形態においては、コスト
関数を実n変数の微分可能な関数としているが、離散型
の変数により記述される問題においても、適当なコスト
関数を定めれば、同様の探索を行うことができる。離散
型の最適化問題としては、例えば、最適配置問題、最適
経路問題、最適ネットワーク問題、最適フロー問題、最
適効率問題等がある。
【0066】最適配置問題は、都市設計における施設の
配置等を最適化する問題であり、最適経路問題は、車両
のナビゲーションや電気回路等において経路を最適化す
る問題である。
【0067】また、最適ネットワーク問題は、ガスや水
道の配管、電気配線、通信ネットワーク等を最適化する
問題であり、最適フロー問題は、道路上の交通フローや
ネットワーク上のデータフロー等を最適化する問題であ
り、最適効率問題は、科学、工学、経済、ビジネス等の
分野で効率を最適化する問題である。
【0068】ところで、上述した図2の処理装置は、図
17に示すような情報処理装置(コンピュータ)を用い
て構成することができる。図17の情報処理装置は、C
PU(中央処理装置)51、メモリ52、入力装置5
3、出力装置54、外部記憶装置55、媒体駆動装置5
6、およびネットワーク接続装置57を備え、それらは
バス58により互いに接続されている。
【0069】メモリ52は、例えば、ROM(read onl
y memory)、RAM(random access memory)等を含
み、処理に用いられるプログラムとデータを格納する。
CPU51は、メモリ52を利用してプログラムを実行
することにより、必要な処理を行う。
【0070】図2の入力部10、コスト定義部11、コ
スト関数値計算部12、関数作成部13、方程式計算部
14、数値積分実行部15、チェック部16、度数計算
部17、候補選択部18、出力部19、および降下部2
0は、メモリ52の特定のプログラムコードセグメント
に格納されたソフトウェアコンポーネントに対応し、1
つ以上のインストラクションからなるプログラムにより
実現される。
【0071】入力装置53は、例えば、キーボード、ポ
インティングデバイス、タッチパネル等であり、ユーザ
からの指示や情報の入力に用いられる。出力装置54
は、例えば、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ等であ
り、ユーザへの問い合わせや処理結果の出力に用いられ
る。
【0072】外部記憶装置55は、例えば、磁気ディス
ク装置、光ディスク装置、光磁気ディスク(magneto-op
tical disk)装置等である。この外部記憶装置55に、
上述のプログラムとデータを保存しておき、必要に応じ
て、それらをメモリ52にロードして使用することもで
きる。また、外部記憶装置55は、コスト関数、調整関
数等を格納するデータベースとしても用いられる。
【0073】媒体駆動装置56は、可搬記録媒体59を
駆動し、その記録内容にアクセスする。可搬記録媒体5
9としては、メモリカード、フロッピー(登録商標)デ
ィスク、CD−ROM(compact disk read only memor
y )、光ディスク、光磁気ディスク等、任意のコンピュ
ータ読み取り可能な記録媒体が用いられる。この可搬記
録媒体59に上述のプログラムとデータを格納してお
き、必要に応じて、それらをメモリ52にロードして使
用することもできる。
【0074】ネットワーク接続装置57は、LAN(lo
cal area network)等の任意のネットワーク(回線)を
介して外部の装置と通信し、通信に伴うデータ変換を行
う。また、必要に応じて、上述のプログラムとデータを
外部の装置から受け取り、それらをメモリ52にロード
して使用することもできる。
【0075】図18は、図17の情報処理装置にプログ
ラムとデータを供給することのできるコンピュータ読み
取り可能な記録媒体を示している。可搬記録媒体59や
外部のデータベース60に保存されたプログラムとデー
タは、メモリ52にロードされる。そして、CPU51
は、そのデータを用いてそのプログラムを実行し、必要
な処理を行う。
【0076】
【発明の効果】本発明によれば、コスト関数の最適値に
対応する状態を探索する処理において、近傍探索能力と
極小状態へのトラップを回避する能力を用いて、最適状
態の候補を次々に探索することができる。これらの2つ
の能力は、必ずしも、力関数の性質や温度制御に依らな
くとも、調整関数を適当に設定することにより実現する
することもできる。
【0077】また、探索速度を制御する温度パラメタの
値に直接依存しない形で、低コスト値の状態の実現確率
を高めることができる。このため、温度パラメタの値
を、数値計算誤差による不備が発生しない程度にまで高
くすることができ、処理速度の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の処理装置の原理図である。
【図2】処理装置の構成図である。
【図3】入力データを示す図である。
【図4】出力データを示す図である。
【図5】入力部の処理のフローチャートである。
【図6】コスト定義部の処理のフローチャートである。
【図7】コスト関数値計算部の処理のフローチャートで
ある。
【図8】関数作成部の処理のフローチャートである。
【図9】方程式計算部の処理のフローチャートである。
【図10】数値積分実行部およびチェック部の処理のフ
ローチャートである。
【図11】候補選択部の処理のフローチャートである。
【図12】降下部の処理のフローチャートである。
【図13】コスト関数を示す図である。
【図14】座標値の分布を示す図である。
【図15】座標値の実現度数を示す図である。
【図16】コスト関数値の実現度数を示す図である。
【図17】情報処理装置の構成図である。
【図18】記録媒体を示す図である。
【符号の説明】
1 入力手段 2 候補探索手段 3 出力手段 4 格納手段 5 最適状態探索手段 10 入力部 11 コスト定義部 12 コスト関数値計算部 13 関数作成部 14 方程式計算部 15 数値積分実行部 16 チェック部 17 度数計算部 18 候補選択部 19 出力部 20 降下部 21、31、32、33、34、35、36、37 入
力データ 22、41、42、43、44、45、46 出力デー
タ 23 最適状態候補 24 最適状態 51 CPU 52 メモリ 53 入力装置 54 出力装置 55 外部記憶装置 56 媒体駆動装置 57 ネットワーク接続装置 58 バス 59 可搬記録媒体 60 データベース
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 桝田 彰一 神奈川県川崎市中原区上小田中4丁目1番 1号 富士通株式会社内 (72)発明者 鈴木 一郎 神奈川県川崎市中原区上小田中4丁目1番 1号 富士通株式会社内 Fターム(参考) 5B046 BA02 BA04 CA07 GA01 5B056 AA04 BB03 BB91 5H004 GA18 KC06 KC08 KC12 MA36 MA40 MA50 MA52

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 問題を記述する状態と、状態のコストを
    与えるコスト関数の情報を入力する入力手段と、 前記コスト関数の最適値により近いコスト値の状態の実
    現確率を高めるような決定論的ダイナミクスを用いて、
    最適状態の1つ以上の候補を求める候補探索手段と、 得られた候補を出力する出力手段とを備えることを特徴
    とする処理装置。
  2. 【請求項2】 前記1つ以上の候補を格納する格納手段
    と、該1つ以上の候補の各状態から前記コスト関数の値
    が良くなる方向に変化させて、最適状態に近い状態を求
    める最適状態探索手段とをさらに備えることを特徴とす
    る請求項1記載の処理装置。
  3. 【請求項3】 パラメタを入力する入力手段と、 状態のコストを与えるコスト関数を定義する定義手段
    と、 調整関数を設定する設定手段と、 前記パラメタ、コスト関数、および調整関数により記述
    される微分方程式を数値的に解き、最適状態の1つ以上
    の候補を求める計算手段と、 得られた計算結果を可視化する出力手段とを備えること
    を特徴とする処理装置。
  4. 【請求項4】 前記1つ以上の候補を格納する格納手段
    と、該1つ以上の候補の各状態から前記コスト関数の値
    が良くなる方向に変化させて、最適状態に近い状態を求
    める最適状態探索手段とをさらに備えることを特徴とす
    る請求項3記載の処理装置。
  5. 【請求項5】 前記設定手段は、前記コスト関数の最適
    値により近いコスト値の状態の実現確率を高めるような
    調整関数を設定することを特徴とする請求項3記載の処
    理装置。
  6. 【請求項6】 コンピュータのためのプログラムを記録
    した記録媒体であって、 問題を記述する状態と、状態のコストを与えるコスト関
    数とを設定するステップと、 前記コスト関数の最適値により近いコスト値の状態の実
    現確率を高めるような決定論的ダイナミクスを用いて、
    最適状態の1つ以上の候補を求めるステップと、 得られた候補を出力するステップとを含む処理を前記コ
    ンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコ
    ンピュータ読み取り可能な記録媒体。
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