JP4592969B2 - 分光装置および分光方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被測定光のスペクトルを求める分光装置および分光方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
被測定光のスペクトルを求める分光装置として光スペクトラムアナライザーがある。図20は、光スペクトルアナライザーの構成図である。この光スペクトルアナライザー100は、入射スリット102、コリメートミラー103、回折格子104、集光ミラー105、出射スリット106、光検出器107、演算部108および表示装置109から構成される。この光スペクトルアナライザー100では、被測定光101は、入射スリット102から入射し、コリメートミラー103によりコリメートされ、回折格子104により波長成分毎に分散され、集光ミラー105により集光され、出射スリット106を通って、光検出器107により検出される。光検出器107上の光検出位置は被測定光101の波長成分毎に異なるため、演算部108は、スリット102およびスリット106それぞれの幅、回折格子104の分散特性、光検出器107の位置などのデータから、被測定光101の分光特性を演算し、その結果を表示装置109に表示する。
【0003】
また、光の干渉を利用した分光装置としてヘテロダイン分光装置がある。図21は、ヘテロダイン分光装置の構成図である。このヘテロダイン分光装置110は、参照光112を出力する参照光源、ハーフミラー113、受信部114およびアナライザー115から構成される。受信部114は、ミキサー116および中間周波数増幅器117からなる。アナライザー115は、フィルターアレー、ディジタルオートコリレーターおよび音響光学素子など(図示せず)からなる。被測定光111は、参照光112とハーフミラー113により同一光軸にされてミキサー116により混合される。そして、ミキサー116から出力された差周波に相当する中間周波数信号118は、中間周波数増幅器117により増幅された後、アナライザー115により周波数成分に分解され、分解された周波数要素毎に二乗検波および積分が行われて、直流成分として出力される。これを解析することで、被測定光111のスペクトル成分を測定することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図20に示した光スペクトルアナライザー100では、回折格子104の回折効率が低いことや、光検出器107の検出効率が低いことなどから、微弱な被測定光の計測は不可能である。また、光スペクトルアナライザー100では、光検出器107の位置制御などを行うため、構成が複雑であり一般に高価である。図21に示したヘテロダイン分光装置110では、被測定光を波動として扱っているため、被測定光を量子として扱うレベル(すなわち光子レベル)での分光は不可能である。なお、被測定光を量子として扱う計測法として、非古典光を計測するために構成された光ホモダイン装置がある。しかし、この光ホモダイン装置は、光子レベルでの被測定光の振幅や位相の測定が可能であるが、分光情報が得られるように構成されてはいない。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、被測定光が微弱であっても簡易な構成で被測定光のスペクトルを測定することができる分光装置および分光方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る分光装置は、(1) 被測定光を入力し2分岐して第1の光および第2の光とする分岐部と、(2) 第1の光および第2の光それぞれを受光して、両者の強度の差を検出する光検出部と、(3) 光検出部により繰り返し検出された強度差の頻度の分布を求め、この分布に基づいて被測定光のスペクトルを求める処理部と、を備えることを特徴とする。この分光装置によれば、被測定光は、分岐部により2分岐されて第1の光および第2の光とされ、これら第1の光および第2の光それぞれは、光検出部により受光されて、両者の強度の差が検出される。そして、処理部により、光検出部により検出された強度差の分布が求められて、この分布に基づいて被測定光のスペクトルが求められる。
【0007】
また、本発明に係る分光装置は、波長が可変の参照光を出力する波長可変光源と、被測定光と参照光とを合波する合波部と、を更に備え、分岐部が合波部により合波された被測定光と参照光とを2分岐し、処理部が光検出部により繰り返し検出された強度差の頻度の分布に基づいて被測定光のうち参照光の波長と同じ波長成分の強度を求める、ことを特徴とする。この場合には、被測定光は、波長可変光源から出力された参照光と合波部により合波された後に、この参照光とともに分岐部により2分岐されて第1の光および第2の光とされ、これら第1の光および第2の光それぞれは、光検出部により受光されて、両者の強度の差が検出される。処理部により、光検出部により検出された強度差の分布が求められて、この分布に基づいて被測定光のうち参照光の波長と同じ波長成分の強度が求められる。そして、波長可変光源から出力される参照光の波長が掃引されることで、被測定光のスペクトルが求められる。
【0008】
また、本発明に係る分光装置では、光検出部は、第1の光を受光する第1のフォトダイオードと、第2の光を受光する第2のフォトダイオードとを有し、第1のフォトダイオードのカソードと第2のフォトダイオードのアノードとが接続されており、当該接続点より第1の光および第2の光それぞれ強度の差を出力する、ことを特徴とする。この場合には、第1の光および第2の光それぞれ強度の差を簡易な構成で得ることができ、また、結線が短くなり、浮遊容量によるノイズを抑えることができる。
【0009】
なお、光検出部により検出された強度差の分布を処理部が求めるに際して、被測定光がパルス光である場合には、パルス毎に上記強度差を求めて分布を求める。また、被測定光が連続光である場合には、チョッパーを用いて連続光をパルス光としてパルス毎に上記強度差を求めて分布を求める他、光検出部において一定時間毎に上記強度差を求めて分布を求める。さらに、参照光を用いる場合には、その参照光は、被測定光がパルス光である場合には当該パルスに同期して出力され、被測定光が連続光である場合にはチョッパーまたは光検出部の動作タイミングに同期して出力される。
【0010】
本発明に係る分光方法は、(1) 被測定光を入力し2分岐して第1の光および第2の光とし、(2) 第1の光および第2の光それぞれを受光して、両者の強度の差を繰り返し検出し、(3) この検出された強度差の頻度の分布を求め、この分布に基づいて被測定光のスペクトルを求める、ことを特徴とする。また、本発明に係る分光方法は、(1) 波長が可変の参照光を波長可変光源より出力して、被測定光と参照光とを合波し、(2) この合波された被測定光と参照光とを2分岐して第1の光および第2の光とし、(3) 第1の光および第2の光それぞれを受光して、両者の強度の差を繰り返し検出し、(4) この検出された強度差の頻度の分布を求め、この分布に基づいて被測定光のうち参照光の波長と同じ波長成分の強度を求める、ことを特徴とする。本発明に係る分光方法は、上記の本発明に係る分光装置と同じ技術的思想に基づくものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
先ず、本発明に係る分光装置の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る分光装置における分光特性取得の原理を説明する図である。この図に示すように、複素振幅作用素asigで表される被測定光と、複素振幅作用素aLOで表される参照光とが、互いに異なる方向からビームスプリッタ21へ入力するものとする。このとき、被測定光の反射成分と参照光の透過成分とが合波されてビームスプリッタ21から出力される出力光(複素振幅作用素aout1)は検出器22により検出される。また、被測定光の透過成分と参照光の反射成分とが合波されてビームスプリッタ21から出力される出力光(複素振幅作用素aout2)は検出器23により検出される。
【0013】
2つの検出器22,23それぞれから出力される電気出力の差は
【数1】
なる式で表される。参照光がコヒーレント状態(振幅αLO)であれば、平均光子数noutは
【数2】
なる式で表される。ここで、Xsig(φsig) は被測定光の直交成分を表す。
【0014】
このときの分散は
【数3】
なる式で表される。参照光の振幅が被測定光の振幅に対して十分強いとすると、参照光の直交振幅ゆらぎ(量子ゆらぎ)は極めて小さいので、上記(3)式の右辺の第一項は無視できて、分散は
【数4】
なる式で近似される。
【0015】
以上のように、差出力には参照光のゆらぎは含まれず、参照光によって増大された被測定光およびその量子ゆらぎのみが得られることになる。ここで得られる値は、物理的には被測定光のウィグナー関数の特定の位相への投影になっている。この投影は、例えば被測定光が単一モードのレーザ光であれば単一のガウシアン分布となる。このような分布を得るためには、同一の計測を繰り返し、得られた値を統計処理することが必要である。具体的には、計測毎の差出力を、横軸に出力値、縦軸に頻度をプロットすることにより分布を求める。
【0016】
測定の作用を説明するために、被測定光として図2の波長特性を持つレーザ光を考える。本手法によれば、参照光は被測定光のうち同じ波長成分だけを抽出する働きがあるため、例えば波長λ1の参照光を用いることにより、被測定光の成分のうち波長λ1の成分だけを抽出・増幅する。その結果、例えば図3に示す分布が得られる。同様に、波長λ2の参照光を用いた場合にも、図4に示す分布が得られる。ただし、図3の分布と図4の分布とでは高さが必ずしも同一ではなく、分布の高さは被測定光の波長成分の存在比に比例する。このように、参照光の波長を変化させて分布を測定し、横軸に波長、縦軸に分布の高さをプロットすることにより、被測定光の各波長成分の存在比が計測でき、図2に示すような被測定光の分光特性を得ることができる。
【0017】
次に、第1実施形態に係る分光装置の構成について図5を用いて説明する。図5は、第1実施形態に係る分光装置1の構成図である。この図に示す分光装置1は、上述した分光特性取得の原理に基づいて被測定光31のスペクトルを測定するものである。この分光装置1では、被測定光31の経路に沿って、入射端子32、光ファイバー33、コリメーターレンズ34、グランテーラープリズム35、ビームサンプラー36、λ/2板37、可変NDフィルター38、光路遮断器39が順に設置されている。一方、分光装置1内部に波長可変光源40が設置され、この波長可変光源40から出力される参照光41の経路に沿って、コリメーターレンズ42、グランテーラープリズム43、λ/2板44、光路遮断器45が順に設置されている。
【0018】
被測定光31と参照光41との経路の交点には、偏光ビームスプリッタ46が設置され、偏光ビームスプリッタ46の後方には、λ/2板47、偏光ビームスプリッタ48、反射ミラー49,50、光検出部53が順に設置されている。ビームサンプラー36の脇にはフォトダイオード51が設置されており、また、偏光ビームスプリッタ46の脇にはフォトダイオード52が設置されている。グランテーラープリズム35,43、λ/2板37,45,47、可変NDフィルター38、光路遮断器39,45それぞれは、調整機構(図示せず)が取り付けられており、ケーブルを介して制御部56と接続されている。以上の構成要素は、光学測定系を成しており、外部からの迷光および電磁ノイズを遮断するための匡体57内に設置されている。光検出部53は処理部54に接続され、処理部54は表示部55に接続されている。
【0019】
次に、図5を用いて、被測定光31、参照光41及び電気出力58それぞれの流れについて説明する。被測定光31は、匡体57に取り付けられた入射端32から入射され、光ファイバー33により導光され、光ファイバー33から出射された後にコリメートレンズ34によりコリメートされ、グランテーラープリズム35により余分な偏光成分をカットされ、一方向に揃った直線偏光となる。グランテーラープリズム35から出力された被測定光31は、その一部がビームサンプラー36によりカットされフォトダイオード51に入射する。ビームサンプラー36を透過した被測定光31は、λ/2板37により偏光ビームスプリッタ46を完全に反射する方向(S偏光:紙面に垂直)に直線偏光の方向を変化させられる。
【0020】
一方、波長可変光源40から出力された参照光41は、コリメートレンズ42によりコリメートされた後、グランテーラープリズム43により余分な偏光成分をカットされ、一方向に揃った直線偏光となる。さらに、参照光41は、λ/2板44により偏光ビームスプリッタ46を完全に透過する方向(P偏光:紙面に水平)に直線偏光の方向を変化させられる。
【0021】
偏光ビームスプリッタ46では、被測定光31は反射し、参照光41は透過するため、被測定光31と参照光41とは同一光軸上に偏光ビームスプリッタ46より出力される。偏光ビームスプリッタ46から出力された被測定光31および参照光41は、λ/2板47でそれぞれ偏光方向を45度回転させられ、偏光ビームスプリッタ48に入射する。偏光ビームスプリッタ48からの2つの出力光59,60は、反射ミラー49,50でそれぞれ反射され、光検出部53に配置された2つのフォトダイオード(後述)でそれぞれ検出され、この検出信号は差分・増幅・整形される。光検出部53からの電気出力58は、処理部54で統計処理及び演算され、演算された被測定光31の分光特性は表示部55に送られ表示される。
【0022】
なお、図1を用いて説明した分光特性取得の原理では、被測定光と参照光とを1つのビームスプリッタ21に入射する配置であったが、本実施形態の分光装置1では、偏光ビームスプリッタ46、λ/2板47および偏光ビームスプリッタ48に置き換えている。この理由は、実用上1つのビームスプリッタだけでは光の分割比を正確に1:1に調整することが困難であるため、偏光ビームスプリッタと波長板との組み合わせを用いて偏光特性を利用することにより、これを実現するためである。すなわち、本実施形態の分光装置1における2つの偏光ビームスプリッタ46,48とλ/2波長板47との組み合わせは、分光特性取得の原理で説明した1つのビームスプリッタ21を使う方式と原理的には同じである。
【0023】
次に、分光装置1の光検出部53の構成について図6を用いて説明する。図6は、第1実施形態に係る分光装置1の光検出部53の構成図である。光検出部53は、2つのフォトダイオード61,62、チャージアンプ63、波形整形アンプ64、ADコンバーター65で構成される。トリガ信号66は、ADコンバーター65におけるAD変換のタイミングを決めるためのであり、制御部56から送られる。偏光ビームスプリッタ48からの2つの出力光59,60は、それぞれフォトダイオード61,62に入射する。
【0024】
フォトダイオード61,62が直列に接続され、両者の接続の中間から出力をとっているため、それぞれの出力信号の差が得られる構成となっている。図7は、実際のフォトダイオード61,62の設置接続例を示す図である。図7のようにフォトダイオード61のカソード(K)とフォトダイオード62のアノード(A)とを接続することにより、結線が短くなり、浮遊容量によるノイズを抑える効果がある。また、本実施形態では、光子1個レベルでのゆらぎ(量子ゆらぎ)を測定するため、ノイズ対策が特に重要である。そこで、外部電磁ノイズを遮断するために、光検出部53の匡体69には銅を用い、各構成要素はこの中に配置される。
【0025】
チャージアンプ63は、フォトダイオード61,62からの差出力を電荷増幅する。チャージアンプ63は、低ノイズ特性のもので、例えば等価入力雑音が100electronRMS程度の性能であるのが好適である。波形整形アンプ64は、チャージアンプ63から出力された電気出力を、ADコンバーター65への入力に適した波形に整形することを目的とし、同時に雑音の平滑化を行ない低S/Nを実現する。また、ADコンバーター65でデジタル変換したい数値は差出力の電荷であり、波形整形アンプ64からの出力パルスのピーク高さに相当する。そのため、この出力パルスのピーク位置を検出するために、制御部56からのトリガ信号66がADコンバーター65に入力される。図8は、波形整形アンプ64からの出力パルス71およびトリガ信号66それぞれの波形の一例を示す図である。この例では、トリガ信号66の立ち上がりのタイミングでADコンバーター65はAD変換を行う。制御部56からのトリガ信号66は、フォトダイオード51の信号から作られ、被測定光31に同期している。
【0026】
このような光検出器53に接続された処理部54は、光検出器53内のADコンバーター65から出力されたデジタル値を入力する。分光特性取得の原理で説明したように、光検出部53からの電気出力58は計測毎に異なる値が出力されるが、これを積算して処理することにより必要な分布が得られる。処理部54は、上記統計処理を行い、さらに制御部56から送られてくる参照光41の波長の情報を基に、被測定光31の各波長成分の存在比を求め、被測定光31の分光特性を演算する。そして、表示部55は、処理部54で演算された被測定光31の分光特性を、例えば図2の形式で表示する。
【0027】
次に、本実施形態に係る分光装置1を用いた実際の測定を想定した動作について説明する。以下では、被測定光31は図2の分光特性を持つパルス光とする。
【0028】
被測定光31を入力して分光特性を測定するのに先だって、参照光41に合わせて各光学素子を調整しておく必要がある。この調整は、参照光光源40が同一のものであれば、毎回行う必要はなく、調整に必要なデータを適宜制御部56に蓄えておく。また、調整中は被測定光31側の光路遮断器39は閉じておく。この調整は以下のように行なう。
【0029】
まずグランテーラープリズム43の光学軸を調整して、グランテーラープリズム43から出力される参照光41の強度が最大になるようにする。これにより、偏光方向が一方向に揃った参照光41が得られる。次にλ/2板44の光学軸を調整し、フォトダイオード52へ入力する参照光41の強度が最小となるようにする。これにより、偏光ビームスプリッタ46を完全に透過する方向(P偏光:紙面に水平)に参照光41の直線偏光の方向を変化させられる。偏光ビームスプリッタ46からの参照光は、λ/2板47により偏光方向を45度回転させられ、偏光ビームスプリッタ48に入射して2つに分割され、反射ミラー49,50で反射され、光検出部53内の2つのフォトダイオード61,62に入射する。この際、λ/2板47の光学軸の調整によって、偏光ビームスプリッタ48での分割比が1:1になるように調整する。分割比のモニターは処理部54で行い、得られた分布が図9に示すように0Vを中心とした形状になるように調整する。また前提として、波長毎の参照光41の光量は分かっているものとする。これらのデータは制御部56に記憶され、波長および光量の調節は、制御部56が行う。
【0030】
以上に説明した参照光41の光学系の調整の後に以下のようにして被測定光31の測定を行う。図10は、第1実施形態に係る分光装置1を用いた測定の流れを示すフローチャートである。
【0031】
上述したように、参照光41に合わせて光学素子の調整を行う際には、光路遮断器39が閉じて、光路遮断器45が開いているので、この調整後に光路遮断器45を閉じる(ステップS11)。次に光路遮断器39を開き、被測定光31を入射する(ステップS12)。これにより、被測定光31は、匡体57に取り付けられた入射端32から入射され、光ファイバー33により導光され、光ファイバー33から出射された後にコリメートレンズ34によりコリメートされる。そして、グランテーラープリズム35の光学軸を調整して、グランテーラープリズム35から出力される被測定光31の強度が最大になるようにする(ステップS13)。このときの出力モニターはフォトダイオード51で行う。これにより、グランテーラープリズム35から出力される被測定光31は、余分な偏光成分がカットされ、一方向に揃った直線偏光となる。
【0032】
次にλ/2板37の光学軸を調整して、フォトダイオード52への入力が最小となるようにする(ステップS14)。これにより、偏光ビームスプリッタ46を完全に反射する方向(S偏光:紙面に垂直)に被測定光31は直線偏光の方向を変化させられる。偏光ビームスプリッタ46で反射された被測定光31は、λ/2板47により偏光方向を45度回転させられ、偏光ビームスプリッタ48に入射して2つに分割されて、それぞれ反射ミラー49,50で反射され、2つのフォトダイオード61、62に入射する。ここで偏光ビームスプリッタ48での分割比が1:1になるように、λ/2板37の回転によって微調整を行なう。分割比のモニターは処理部54で行い、得られた分布が図9に示すように、0Vを中心とした形状になるように調整する。次に光量の調節を行なう(ステップS15)。適切な光量は、参照光41に対し被測定光31が10-5〜10-8であり、フォトダイオード51で得られた被測定光31の光量の情報を基に、可変NDフィルター39の調整または参照光光源40へ供給する電流量の調節により行なう。
【0033】
そして、光路遮断器45を開け、参照光41を出射する(ステップS16)。このとき、被測定光31と参照光41とを同期させるため、フォトダイオード51で得られた被測定光31の入射タイミングに合わせて、参照光光源40より参照光41を出射する。ここまでの操作で被測定光31と参照光41とは混合され、分光特性取得の原理で述べた工程で、検出・統計処理される(ステップS17)。次に参照光41の波長を変えてステップS16およびS17の過程を繰り返す(ステップS18)。得られたデータから被測定光31の分光特性を演算し(ステップS19)、表示部55に表示する(ステップS20)。
【0034】
ここで、本実施形態で測定できる光量と測定にかかる時間について説明する。測定できる光量は、既述したように参照光41に対し被測定光31が10-5〜10-8である。この関係を満たせばどのような光量でも測定可能であるが、現実の問題として光量を大きくすることによる検出系(フォトダイオードおよびアンプ)の飽和が問題となる。したがって、参照光41をレーザパルスとすると、条件により違いはあるが、典型値として108光子/パルス程度が望ましい。この場合、被測定光31としては、1〜1000光子/パルス程度のものが測定可能である。このように本実施形態では、1光子レベルでの被測定光31の測定が可能であることが特長である。さらに、被測定光31の光子数が多くなった場合には、可変NDフィルター38により減光することにより、ダイナミックレンジを大きくすることができる。測定時間としては、チャージアンプ63の帯域が大きく影響する。入手し易い低ノイズアンプとして5kHz帯域のものを使用し、統計的に十分な測定点数を10000点とし、波長点数を100点として見積もると、5分程度で1測定が可能となる。高帯域の検出系を採用すれば、さらに高速な測定が実現できる。
【0035】
次に、参照光と被測定光のタイミングについて述べる。本実施形態では、参照光31と被測定光41とが時間的および空間的に一致することが重要である。それ故、被測定光31のすべての情報を得るためには、参照光41のパルス幅が被測定光31のパルス幅と同じか大きくなくてはいけない。一方、参照光41のパルス幅が被測定光31のパルス幅より小さい場合には、参照光41と重なった部分の分光特性のみが計測される。これを利用すると、参照光41の発光時間タイミングを制御部56により変化させることにより、被測定光31の時間分解分光計測が可能になる。図11に参照光31および被測定光41の時間タイミング例を示す。この例では被測定光31のハッチング部分の分光特性が計測される。なお、図11では説明の簡略化のため矩形波で表示したが、任意の時間形状が可能である。
【0036】
このように本実施形態に係る分光装置1は、光学的に比較的簡単な構成である。また、分光装置1は、被測定光31が微弱であって1光子レベル/パルス程度であっても、被測定光31の分光特性を測定することができる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る分光装置の第2実施形態について説明する。図12は、第2実施形態に係る分光装置における分光特性取得の原理を説明する図である。この図に示す原理は、被測定光31の光量が大きい場合に適用するのに好適な計測法であって、図1に示したものとの相違点は、参照光が入力していたポートに真空場(複素振幅作用素avuc)が入力していることである。真空場とは、測定系を量子論的に扱う際に導入される量であり、平均複素振幅及び平均光子数それぞれがゼロで、直交振幅のゆらぎが1/4であり、あらゆる波長成分を持つという性質がある。本実施形態で利用する特徴だけを分かり易く言い換えると、真空場は、どのような波長で測定しても同じ値であり、その大きさは既知である。さらに、図1では参照光の振幅が被測定光に対して十分強いとしたが、今回は被測定光の振幅が真空場に対して十分強いことが相違点である。そのため、上記(2)式は、
【数5】
なる式に書き換えられる。ここでは被測定光がコヒーレント光であると仮定してある。
【0038】
次に、被測定光が多くの波長成分を含む場合を考える。波長成分をλで表すと、差出力は
【数6】
なる式で表される。ここで、R,Tはそれぞれビームスプリッタ21の反射率,透過率である。
【0039】
上記(6)式の右辺の第2項は、被測定光のλ個の波長成分が真空場と干渉して生じる項であり、測定結果にλ個のピークとして得られる。このλ個のピークの高さは、波長成分の存在比に依存する。例えば図13に示す2波長成分の被測定光の場合、例えば図14のような結果が得られる。図14の横軸は電圧出力値であり、縦軸は頻度である。この例では波長成分の存在比を1:0.6にしてある。2つのピークがそれぞれの波長成分の真空場に対応している。横軸は電圧出力値であるが、入力波長とR,Tとの関係から波長に換算できる。この例では右側が長波長側になっている。図14は被測定光の分光特性と真空場とがコンボリューションしたものであるので、真空場でデコンボリューションすることにより、被測定光の分光特性を知ることができる。なお、ここでは被測定光の分光特性が不連続な場合を例にしたが、連続的な分光特性を持つものでも同様である。
【0040】
本実施形態に係る分光装置の構成は、図5に示した構成のうち波長可変光源40から光路遮断器45に到るまでの各構成要素を取り除いたものであり、或いは、図5に示した構成において光路遮断器45を閉じたままとしたものである。
【0041】
図15は、第2実施形態に係る分光装置を用いた測定の流れを示すフローチャートである。本2実施形態に係る分光装置を用いた測定の流れは、図10に示されたものと類似しており、参照光側の光路遮断器45を閉じたまま同様の測定を行うことにより、参照光側の光源40を使わないことが特徴である。また、図10では偏光ビームスプリッタ48での参照光31の分割比を1:1にするための調整をλ/2板37によって行なったが、ここでは参照光側の光源40を使わないため、λ/2板47で行なうことが相違点である。
【0042】
測定前の準備として、まず上記(6)式におけるビームスプリッタの各波長成分での反射率Rと透過率Tを測定しておく。また図12では1つのビームスプリッタ21で説明したが、本実施形態では2つの偏光ビームスプリッタ46,48とλ/2板47との組み合わせを用いるため、ここでの反射率Rおよび透過率Tそれぞれは、これらの3つを組み合わせた総合的なものである。さらに、標準光源を被測定光31とし、出力電圧値と波長との関係を別に求めておく。これらのデータは制御部56に蓄えられ、調整及び演算に適宜使用される。
【0043】
以下の説明では、被測定光31の測定の流れは、図10での説明と重複するところが多いので、適宜省略して説明する。参照光側の光路遮断器45を閉じる(ステップS31)。光路遮断器39を開け、被測定光31を入射する(ステップS32)。グランテーラープリズム35の調整(ステップS33)、λ/2板37の調整(ステップS34)、λ/2板47の調整(ステップS35)、光量の調節(ステップS36)、検出・統計処理(ステップS37)での各操作は図10で既述したものと同じである。被測定光31の光量は、真空場が光子1個レベルであるので、108個/パルス程度にする。図10との相違点は、図10では参照光41の波長を変えて測定を繰り返したが、本実施形態では、真空場はすべての波長成分を持っているため、参照光41の波長を掃引することなしに、一度で全波長成分の分布を取得できることである。演算部54では、既知の真空場、波長と出力電圧値との位置の関係から、被測定光31の分光特性を演算し(ステップS38)、その結果を表示部に表示する(ステップS39)。
【0044】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る分光装置の第3実施形態について説明する。記述した第1実施形態および第2実施形態それぞれの分光装置は、被測定光がパルス光である場合の構成であったが、本実施形態に係る分光装置は、被測定光が連続光である場合の構成である。
【0045】
図16は、第3実施形態に係る分光装置2の構成図である。この図16では、図5に示した構成部品と同様のものには同じ符号を付している。本実施形態に係る分光装置2の構成は、図5に示した構成と略同様であるが、被測定光31の経路にあるコリメートレンズ34の後方にチョッパー81が設けられている点で相違する。測定の動作は第1実施形態と略同様であるが、フォトダイオード51からの信号の代わりに、チョッパー81による繰り返し周波数に同期して参照光41は出射される。同様に、検出部53でのADコンバーターのトリガ信号66もチョッパー81による繰り返し周波数に同期している。チョッパー81により、連続光である被測定光31はパルス変換されるため、第1実施形態と同様の構成で被測定光31の分光特性を計測できる。
【0046】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る分光装置の第4実施形態について説明する。本実施形態に係る分光装置も、被測定光が連続光である場合の構成である。本実施形態に係る分光装置の構成は、図5に示した構成と略同様であるが、検出部53の回路構成が相違する。
【0047】
図17は、第4実施形態に係る分光装置の検出部53の構成図である。この図17では、図6に示した構成部品と同様のものには同じ符号を付している。本実施形態では、フォトダイオード61,62からの差出力は、チャージアンプ63で電荷増幅され、ある時間間隔での積算電荷を得るために、積算時間に対応するリセット信号91がチャージアンプ63に入力される。このリセット信号91により、チャージアンプ63の電荷増幅がリセットされ、決められた積算時間における電荷が整形アンプ64に送られる。図6での説明と同様に、ADコンバーター65にトリガ信号66が入力されるが、トリガ信号66は、リセット信号91と同期している。リセット信号91およびトリガ信号66は制御部56から送られ、その時間タイミングは制御部56で制御される。図18にフォトダイオード61,62からの差出力、リセット信号91、チャージアンプ63出力それぞれのタイムチャートを示す。この場合には、積算時間がリセット信号91のパルス周期Tである。第1実施形態ではパルス幅が積算時間に対応していたので、本実施形態でも同様の方法で被測定光31の分光特性を計測できる。
【0048】
(第5実施形態)
次に、本発明に係る分光装置の第5実施形態について説明する。本実施形態に係る分光装置も、被測定光が連続光である場合の構成である。本実施形態に係る分光装置の構成は、図5に示した構成と略同様であるが、検出部53の回路構成が相違する。
【0049】
図19は、第5実施形態に係る分光装置の検出部53の構成図である。この図19では、図6に示した構成部品と同様のものには同じ符号を付している。本実施形態では、フォトダイオード61,62からの差出力は、電流アンプ92に入力し増幅される。電流アンプ92からの出力はADコンバーター65でAD変換され、演算部54に送られる。演算部54ではAD変換されたデータをある時間間隔で積算し、統計処理をソフト的に行う。それ以降は第1実施形態での工程と同じである。
【0050】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したとおり、本発明に係る分光装置は、光学的に比較的簡単な構成である。また、この分光装置は、被測定光を量子として扱うレベル(すなわち光子レベル)での分光特性を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係る分光装置における分光特性取得の原理を説明する図である。
【図2】被測定光の波長特性の一例を示す図である。
【図3】波長λ1の参照光を用いた場合に得られる分布の一例を示す図である。
【図4】波長λ2の参照光を用いた場合に得られる分布の一例を示す図である。
【図5】第1実施形態に係る分光装置1の構成図である。
【図6】第1実施形態に係る分光装置1の光検出部53の構成図である。
【図7】第1実施形態に係る分光装置1の光検出部53における2つのフォトダイオードの設置接続例を示す図である。
【図8】第1実施形態に係る分光装置1の光検出部53における波形整形アンプ64からの出力パルス71およびトリガ信号66それぞれの波形の一例を示す図である。
【図9】第1実施形態に係る分光装置1における参照光41の光学系の調整の際に得られる分布を示す図である。
【図10】第1実施形態に係る分光装置1を用いた測定の流れを示すフローチャートである。
【図11】参照光31および被測定光41の時間タイミング例を示す図である。
【図12】第2実施形態に係る分光装置における分光特性取得の原理を説明する図である。
【図13】被測定光の波長特性の一例を示す図である。
【図14】真空場を用いた場合に得られる分布の一例を示す図である。
【図15】第2実施形態に係る分光装置を用いた測定の流れを示すフローチャートである。
【図16】第3実施形態に係る分光装置2の構成図である。
【図17】第4実施形態に係る分光装置の検出部53の構成図である。
【図18】第4実施形態に係る分光装置の検出部53における、フォトダイオード61,62からの差出力、リセット信号91、チャージアンプ63出力それぞれのタイムチャートである。
【図19】第5実施形態に係る分光装置の検出部53の構成図である。
【図20】光スペクトルアナライザーの構成図である。
【図21】ヘテロダイン分光装置の構成図である。
【符号の説明】
1,2…分光装置、31…被測定光、32…入射端子、33…光ファイバー、34…コリメーターレンズ、35…グランテーラープリズム、36…ビームサンプラー、37…λ/2板、38…可変NDフィルター、39…光路遮断器、40…波長可変光源、41…参照光、42…コリメーターレンズ、43…グランテーラープリズム、44…λ/2板、45…光路遮断器、46…偏光ビームスプリッタ、47…λ/2板、48…偏光ビームスプリッタ、49,50…反射ミラー、51,52…フォトダイオード、53…光検出部、54…処理部、55…表示部、56…制御部、61,62…フォトダイオード、63…チャージアンプ、64…波形整形アンプ、65…ADコンバーター、81…チョッパー、92…電流アンプ。
Claims (5)
- 被測定光を入力し2分岐して第1の光および第2の光とする分岐部と、
前記第1の光および前記第2の光それぞれを受光して、両者の強度の差を検出する光検出部と、
前記光検出部により繰り返し検出された強度差の頻度の分布を求め、この分布に基づいて前記被測定光のスペクトルを求める処理部と、
を備えることを特徴とする分光装置。 - 波長が可変の参照光を出力する波長可変光源と、前記被測定光と前記参照光とを合波する合波部と、を更に備え、
前記分岐部が前記合波部により合波された前記被測定光と前記参照光とを2分岐し、
前記処理部が前記光検出部により繰り返し検出された強度差の頻度の分布に基づいて前記被測定光のうち前記参照光の波長と同じ波長成分の強度を求める、
ことを特徴とする請求項1記載の分光装置。 - 前記光検出部は、前記第1の光を受光する第1のフォトダイオードと、前記第2の光を受光する第2のフォトダイオードとを有し、前記第1のフォトダイオードのカソードと前記第2のフォトダイオードのアノードとが接続されており、当該接続点より前記第1の光および前記第2の光それぞれ強度の差を出力する、ことを特徴とする請求項1記載の分光装置。
- 被測定光を入力し2分岐して第1の光および第2の光とし、
前記第1の光および前記第2の光それぞれを受光して、両者の強度の差を繰り返し検出し、
この検出された強度差の頻度の分布を求め、この分布に基づいて前記被測定光のスペクトルを求める、
ことを特徴とする分光方法。 - 波長が可変の参照光を波長可変光源より出力して、前記被測定光と前記参照光とを合波し、
この合波された前記被測定光と前記参照光とを2分岐して前記第1の光および前記第2の光とし、
前記第1の光および前記第2の光それぞれを受光して、両者の強度の差を繰り返し検出し、
この検出された強度差の頻度の分布を求め、この分布に基づいて前記被測定光のうち前記参照光の波長と同じ波長成分の強度を求める、
ことを特徴とする請求項4記載の分光方法。
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