WO2019181235A1 - 脂質化タンパク質の製造方法、及び脂質化タンパク質 - Google Patents

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    • C12P21/00Preparation of peptides or proteins

Abstract

本開示は、微生物由来トランスグルタミナーゼの存在下、融合タンパク質と、1級アミノ基を有する化合物とを反応させて、上記融合タンパク質と上記化合物とがイソペプチド結合によって架橋された脂質化タンパク質を得る工程を備え、上記融合タンパク質は、グルタミン残基を含有する第一のペプチド及びタンパク質を有し、上記化合物は、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する、脂質化タンパク質の製造方法を提供する。

Description

脂質化タンパク質の製造方法、及び脂質化タンパク質
 本発明は、脂質化タンパク質の製造方法、及び脂質化タンパク質に関する。
 脂質化タンパク質は、細胞の機能発現及び機能制御の過程における重要な役割を担っている。細胞膜上における脂質化タンパク質の機能を解析することが、種々の疾病を解析するための有用な手段である。そのため、細胞膜上における脂質化タンパク質の機能を解析することが注目されている。また、脂質化タンパク質は、薬物送達キャリアへの係留が可能である等の特性を有している。そのため、脂質化タンパク質の医薬品としての応用も期待される。
 従来、タンパク質の脂質化方法は、反応効率及び部位特異性が低いことに加えて、原料のタンパク質に期待する機能に比べて、得られる脂質化タンパク質の機能が低下する等の課題があった。部位特異的かつ効率的な脂質修飾手段としては、微生物由来トランスグルタミナーゼを利用した脂質化タンパク質の製造方法が検討されている。例えば、非特許文献1には、微生物由来のトランスグルタミナーゼの存在下、リジン残基を含むペプチドを緑色蛍光タンパク質のC末端に結合させた融合タンパク質と、グルタミン残基を有するペプチドのN末端に脂肪酸を結合させた脂質ペプチドと、を反応させて、脂質化タンパク質を得る方法が記載されている。
Hiroaki Abe, et al.,"Protein Lipidation Catalyzed by Microbial Transglutaminase"、Chemistry A European Journal、2011、17、p.14004-14008
 脂質化タンパク質を得るために用いる融合タンパク質及び脂質ペプチドの組み合わせによってはトランスグルタミナーゼ反応が進行しづらく、トランスグルタミナーゼ反応の基質が制限される場合がある。タンパク質及び脂質の種類にかかわらず、容易にトランスグルタミナーゼ反応を行うことが可能な脂質化タンパク質の製造方法があれば、有用である。
 そこで、本発明は、脂質化タンパク質に求められる用途等に対応した種々の脂質又は脂溶性ビタミンが導入可能であり、脂質化タンパク質を容易に製造することができる脂質化タンパク質の製造方法及び脂質化タンパク質を提供することを目的とする。
 本発明は一側面において、微生物由来トランスグルタミナーゼの存在下、融合タンパク質と、1級アミノ基を有する化合物とを反応させて、上記融合タンパク質と上記化合物とがイソペプチド結合によって架橋された脂質化タンパク質を得る工程を備え、上記融合タンパク質は、グルタミン残基を含有する第一のペプチド及びタンパク質を有し、上記化合物は、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する、脂質化タンパク質の製造方法を提供する。
 従来法において、グルタミン残基を有するペプチドと脂肪酸との反応によって得られる脂質ペプチドの疎水性が高くトランスグルタミナーゼ反応における反応性が低下する場合等がある。このような場合には、グルタミン残基を有するペプチドに親水性アミノ酸残基を導入することで、脂質ペプチドの水溶性を改善する方法が考えられる。しかし、グルタミン残基を含有するペプチドに親水性のアミノ酸残基を導入すると、微生物由来トランスグルタミナーゼによって基質として認識されづらくなる傾向がある。
 脂質ペプチドが水に溶けにくい場合には、反応系に界面活性剤及び有機溶剤等を添加することで脂質ペプチドを溶解させる対応が考えられる。しかし、微生物由来トランスグルタミナーゼの酵素活性の低下若しくは消失を誘発し得ることから、脂質化タンパク質を得ることが困難になることが懸念される。また、医薬品等への応用を考えると、脂質化タンパク質の製造において有機溶剤等の使用は極力控えることが好ましい。
 上記脂質化タンパク質の製造方法では、従来とは逆に、脂質化させる対象となるタンパク質を含む融合タンパク質がグルタミン残基を有しており、脂質を含む化合物が1級アミノ基を有している。融合タンパク質と1級アミノ基を有する化合物とを、微生物由来トランスグルタミナーゼが基質として認識できる。また、親水性を付与し得る官能基として1級アミノ基を脂質側に導入することで、融合タンパク質と、1級アミノ基を有する化合物との間で、トランスグルタミナーゼ反応を進行させ、容易に脂質化タンパク質を製造することができる。
 上記化合物は、リジン残基を含有する第二のペプチド、及び、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する脂質ペプチドを含み、上記1級アミノ基が上記リジン残基に由来するものであってもよい。リジン残基を含有する第二のペプチド、及び、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する脂質ペプチドは、微生物由来トランスグルタミナーゼに基質として認識されやすい。上記化合物がこのような脂質ペプチドを含むことで、より容易に脂質化タンパク質を製造することができる。また、上記脂質ペプチドは、ペプチド鎖(第二のペプチド)を有しているため、第二のペプチド部分のアミノ酸残基の種類及び数を調整することができる。これによって、例えば、タンパク質に導入する脂質に応じて、アミノ酸残基の種類及び数等を調整することができる。上記化合物が脂質ペプチドを含むことで、上記製造方法によってタンパク質に後修飾可能な脂質又は脂溶性ビタミンの選択肢を広げることができる。
 上記第二のペプチドは、上記第一のペプチドよりも親水性アミノ酸残基の割合が高くてもよい。第二のペプチドの親水性アミノ酸残基の割合を、第一のペプチドよりも高くすることで、脂質ペプチドの脂質部分に由来する疎水性の程度を弱めて水溶性を改善させることができるため、トランスグルタミナーゼ反応をより進行しやすいものとできる。
 上記第二のペプチドは、ヒスチジン残基、プロリン残基、トリプトファン残基及びアルギニン残基からなる群から選ばれる少なくとも一種のアミノ酸残基を更に含有してもよい。第二のペプチドが上記アミノ酸残基を含むことで、脂質ペプチドが微生物由来トランスグルタミナーゼによってより認識されやすいものとなり、トランスグルタミナーゼ反応をより進行しやすいものとできる。
 上記脂質部は、炭素数12~18の脂肪族炭化水素基を含んでもよい。脂質部が上述のような構成を有することによって、得られる脂質化タンパク質が細胞膜により係留しやすいものとなる。
 上記第一のペプチドは、グリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、トリプトファン残基、及びフェニルアラニン残基からなる群から選ばれる少なくとも一種の疎水性アミノ酸残基を更に含んでもよい。第一のペプチドが上記疎水性アミノ酸残基を含むことで、融合タンパク質における第一のペプチドが微生物由来トランスグルタミナーゼによってより認識されやすいものとなり、トランスグルタミナーゼ反応をより進行しやすいものとできる。
 本発明は別の側面において、グルタミン残基を含有する第一のペプチド及びタンパク質を有する融合タンパク質部、及び脂質部又は脂溶性ビタミン部を含み、上記脂質部又は上記脂溶性ビタミン部が、上記第一のペプチドのグルタミン残基とイソペプチド結合によって上記融合タンパク質部と結合している、脂質化タンパク質を提供する。
 上記脂質化タンパク質は、融合タンパク質部がグルタミン残基を有しており、脂質部又は脂溶性ビタミン部がグルタミン残基とイソペプチド結合によって融合タンパク質部と結合する構成を備えることから、容易に合成することができる。
 上記脂質部又は上記脂溶性ビタミン部は、リジン残基を含有する第二のペプチドを有する脂質ペプチド部を含み、上記イソペプチド結合が、上記リジン残基と上記グルタミン残基との結合であってもよい。
 上記第二のペプチドは、上記第一のペプチドよりも親水性アミノ酸残基の割合が高くてもよい。
 上記第二のペプチドは、ヒスチジン残基、プロリン残基、トリプトファン残基及びアルギニン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基を更に含有してもよい。
 上記脂質部は、炭素数12~18の脂肪族炭化水素基を有してもよい。脂質が上記のような構成を有することによって、脂質化タンパク質がより細胞膜に係留しやすいものとなる。
 上記第一のペプチドは、グリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基及びフェニルアラニン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の疎水性アミノ酸残基を更に含有してもよい。
 本発明によれば、求められる用途等に対応した種々の脂質又は脂溶性ビタミンが導入可能であり、脂質化タンパク質を容易に製造することができる脂質化タンパク質の製造方法及び脂質化タンパク質を提供することができる。
図1は、合成した脂質ペプチドの細胞毒性試験の結果を示すグラフである。 図2は、合成した脂質ペプチドに内包させた蛍光物質(ピレン)の蛍光強度比(I385/I373)を測定した結果を示すグラフである。 図3は、合成した脂質ペプチドの円二色性スペクトル測定の結果を示すグラフである。 図4は、合成した脂質ペプチドの円二色性スペクトル測定の結果を示すグラフである。 図5は、実施例1における融合タンパク質と脂質ペプチドの反応結果を示す液体クロマトグラフである。 図6は、実施例1及び2におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率とK/Q比率との関係を示すグラフである。 図7は、実施例1及び2におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率と反応時間との関係を示すグラフである。 図8は、実施例3及び4におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率とK/Q比率との関係を示すグラフである。 図9は、実施例3及び4におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率と反応時間との関係を示すグラフである。 図10は、実施例5及び6におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率とK/Q比率との関係を示すグラフである。 図11は、実施例6におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率と反応時間との関係を示すグラフである。 図12は、実施例3、実施例4及び実施例7~10におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率とK/Q比率との関係を示すグラフである。 図13は、実施例3、実施例4及び実施例7~10におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率と反応時間との関係を示すグラフである。 図14は、実施例3、実施例4及び実施例11~16におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率とK/Q比率との関係を示すグラフである。 図15は、実施例3、実施例4及び実施例11~16におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率と反応時間との関係を示すグラフである。 図16は、実施例3、実施例4、及び実施例8~10にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞一個当たりの蛍光の発生量を示すグラフである。 図17は、実施例3、実施例4、及び実施例8~10にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞毒性の評価結果を示すグラフである。 図18は、実施例4、及び実施例11~16にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞一個当たりの蛍光の発生量を示すグラフである。 図19は、実施例3、実施例4、及び実施例11~16にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞毒性の評価結果を示すグラフである。 図20は、実施例25~28におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応率とK/Q比率との関係を示すグラフである。 図21は、実施例21~22、及び25~28にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞一個当たりの蛍光の発生量を示すグラフである。 図22は、実施例25~28にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した状態を示す蛍光顕微鏡写真である。 図23は、実施例28にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した状態を示す蛍光顕微鏡写真である。 図24は、実施例21及び22にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞毒性の評価結果を示すグラフである。 図25は、実施例26~28にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞毒性の評価結果を示すグラフである。 図26は、合成した脂質ペプチドの細胞毒性試験の結果を示すグラフである。 図27は、実施例9及び実施例29~34にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞一個当たりの蛍光の発生量を示すグラフである。 図28は、実施例4及び実施例29~34にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞毒性の評価結果を示すグラフである。 図29は、合成した脂質ペプチドの細胞毒性試験の結果を示すグラフである。 図30は、合成した脂質ペプチドの細胞毒性試験の結果を示すグラフである。 図31は、実施例11及び実施例42~47にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞一個当たりの蛍光の発生量を示すグラフである。 図32は、実施例11及び実施例42~47にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞毒性の評価結果を示すグラフである。 図33は、合成した脂質ペプチドの細胞毒性試験の結果を示すグラフである。 図34は、合成した脂質ペプチドの細胞毒性試験の結果を示すグラフである。 図35は、合成した脂質ペプチドの細胞毒性試験の結果を示すグラフである。 図36は、合成した脂質ペプチドトランスグルタミナーゼ反応の反応率とK/Q比率との関係を示すグラフである。 図37は、合成した脂質ペプチドトランスグルタミナーゼ反応の反応率とK/Q比率との関係を示すグラフである。 図38は、実施例16及び実施例55~64にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞一個当たりの蛍光の発生量を示すグラフである。 図39は、実施例55~57、実施例59~63及び実施例66にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞毒性の評価結果を示すグラフである。 図40は、実施例67にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞一個当たりの蛍光の発生量を示すグラフである。 図41は、実施例68にて得られた脂質化タンパク質及び融合タンパク質を浮遊細胞に適用した後における、細胞毒性の評価結果を示すグラフである。
 以下、場合により図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。
[脂質化タンパク質の製造方法]
 脂質化タンパク質の製造方法の一実施形態は、微生物由来トランスグルタミナーゼの存在下、融合タンパク質と、1級アミノ基を有する化合物とを反応させて、上記融合タンパク質と上記化合物とがイソペプチド結合によって架橋された脂質化タンパク質を得る工程を備える。上記融合タンパク質は、グルタミン残基を含有する第一のペプチド及びタンパク質を有する。上記化合物は、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する。
 本実施形態に係る脂質化タンパク質の製造方法において、グルタミン(Q)残基を含有する第一のペプチドを有する融合タンパク質、及び1級アミノ基を有する化合物がいずれも微生物由来トランスグルタミナーゼによって基質として認識されることから、トランスグルタミナーゼ反応によってイソペプチド結合を形成して、容易に脂質又は脂溶性ビタミンを導入した脂質化タンパク質を得ることができる。
 融合タンパク質が有する第一のペプチドを構成するアミノ酸残基数は、1~27であってもよく、2~27であってもよく、2~10であってもよく、2~8であってもよく、又は2~7であってもよい。第一のペプチドは、例えば、X QX モチーフで表されるアミノ酸配列を含むペプチドであってよい。ここで、nは、0~13の整数であってもよく、1~13の整数であってもよく、1~9の整数であってもよく、又は1~4の整数であってもよい。mは、0~13の整数であってもよく、1~13の整数であってもよく、1~9の整数であってもよく、又は1~4の整数であってもよい。X QX モチーフ中、複数あるX、及び複数あるXは互いに同一であっても異なってもよい。
 X QX モチーフにおいて、Xは、グルタミン残基及びリジン(K)残基以外のアミノ酸残基を示す。X QX モチーフにおけるXは、グリシン(G)残基、アラニン(A)残基、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、チロシン(Y)残基、プロリン(P)残基、トリプトファン(W)残基、フェニルアラニン(F)残基、ヒスチジン(H)残基及びアルギニン(R)残基からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基を含んでもよく、又はグリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、トリプトファン残基、及びフェニルアラニン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の疎水性アミノ酸残基を含んでもよい。
 X QX モチーフにおけるXは、グルタミン残基及びリジン残基以外のアミノ酸残基を示す。X QX モチーフにおけるXは、例えば、メチオニン(M)残基、アルギニン(R)残基、グリシン残基及びセリン(S)残基からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基を含んでもよい。
 X QX モチーフで表されるアミノ酸配列は、例えば、FYPLQMRG、LLQG、及びAWHRPQFGG等で表されるアミノ酸配列であってよい。
 融合タンパク質を構成するタンパク質は、特に制限されるものではなく、例えば、緑色蛍光タンパク質、抗体、酵素、抗原タンパク質、増殖因子、及び生理活性に作用するホルモン(例えば、インスリン及び成長ホルモン等)等が挙げられる。
 第一のペプチドは、タンパク質のC末端若しくはN末端に直接結合してもよく、又はタンパク質のC末端若しくはN末端に第一のリンカーを結合させ、当該第一のリンカーに結合してもよい。つまり、融合タンパク質は、タンパク質と、第一のリンカーと、第一のペプチドとを有していてもよい。融合タンパク質が第一のリンカーを有する場合、融合タンパク質は、例えば、[タンパク質]-[第一のリンカー]-[第一のペプチド]で表される融合タンパク質が含まれてもよく、[第一のペプチド]-[第一のリンカー]-[タンパク質]で表される融合タンパク質が含まれてもよい。
 第一のリンカーは、1~20個のアミノ酸残基を含む。第一のリンカーを構成するアミノ酸残基は、グリシン残基、セリン残基及びプロリン残基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸残基を含んでよく、グリシン残基、及びセリン残基からなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸残基を含んでよい。ここで、第一のリンカーを構成するアミノ酸残基数は以下のように決定される。まず、融合タンパク質のアミノ酸残基を解析し、融合タンパク質を構成するタンパク質のC末端又はN末端に直接接続するアミノ酸残基から第一のペプチドの方向に向かってアミノ酸残基の数を数える。アミノ酸残基の数が20個となるまでの間にグリシン残基、セリン残基及びプロリン残基以外のアミノ酸残基が検出された場合、検出された当該アミノ酸残基までのアミノ酸残基の数からひとつ減じた数を、第一のリンカーを構成するアミノ酸残基数とする。
 第一のリンカーは、例えば、Gモチーフ、(GS)モチーフ、(PGモチーフ、(PGS)モチーフ、及び(SGS)モチーフ等で表されるペプチドであってよい。ここで、rは1~6の整数である。ここで、sは1~5の整数である。第一のリンカーは、より具体的には、GGGS、PGGG、SGGGS、及びPGGGS等が挙げられる。
 融合タンパク質は、化学合成によって得られるものであってもよく、又は形質転換した宿主を利用してタンパク質を発現して得られるものであってもよい。化学合成によって得られる融合タンパク質としては、例えば、タンパク質の発現後修飾によって、第一のペプチド、又は第一のペプチド及び第一のリンカーを導入して得られるものを用いてもよい。形質転換した宿主を利用して得られる融合タンパク質としては、例えば、タンパク質のアミノ酸配列に、第一のペプチド、又は第一のペプチド及び第一のリンカーのアミノ酸配列を導入したもの(改変タンパク質)を設計して、当該改変タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1以上の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主によって、当該改変タンパク質を発現させることで得られるものを用いてもよい。ここで、調節配列、発現ベクター、及び宿主等は特に制限されるものではない。
 改変タンパク質をコードする核酸の製造方法は特に限定されず、設計した遺伝子を利用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等で増幅してクローニングする方法であってよく、又は化学合成によって製造する方法であってもよい。改変タンパク質の精製等を容易にするために、改変タンパク質のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHisタグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる改変タンパク質、をコードする核酸を合成してもよい。
 1級アミノ基を有する化合物は、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する。1級アミノ基及び脂質部を有する化合物は、例えば、テトラデシルアミン、及びヘキサデシルアミン等の脂肪族アミンが挙げられる。1級アミノ基を有する化合物は、例えば、リジン残基を含有する第二のペプチド、及び、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する脂質ペプチドであってもよい。この場合、1級アミノ基は、リジン残基に由来するアミノ基であってよい。上記化合物は、例えば、リジン残基、及び、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する脂質ペプチドである。上記化合物が、リジン残基を有することによって、微生物由来トランスグルタミナーゼに基質としてより認識されやすくなる。
 上記化合物が有する第二のペプチドは、リジン残基のみで構成されていてもよく、複数のアミノ酸残基で構成されていてもよい。第二のペプチドを構成するアミノ酸残基数は、1~27であってもよく、2~27であってもよく、2~10であってもよく、2~8であってもよく、又は2~7であってもよい。第二のペプチドは、例えば、X KX モチーフで表されるアミノ酸配列を含むペプチドであってよい。ここで、pは、0~13の整数であってもよく、1~13の整数であってもよく、1~9の整数であってもよく、又は1~4の整数であってもよい。qは、0~13の整数であってもよく、1~13の整数であってもよく、1~9の整数であってもよく、又は1~4の整数であってもよい。X KX モチーフ中、複数あるX、及び複数あるXは互いに同一であっても異なってもよい。
 X KX モチーフにおいて、Xは、グルタミン残基及びリジン残基以外のアミノ酸残基を示す。X KX モチーフにおけるXは、好ましくは、ヒスチジン残基、プロリン残基、トリプトファン残基及びアルギニン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基を含み、より好ましくは、ヒスチジン残基及びアルギニン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性アミノ酸残基を含む。X KX モチーフにおけるXが上記のアミノ酸残基を含むことによって、脂質ペプチドの反応溶液(例えば、水溶液)への溶解性をより向上させることが可能であり、使用可能な脂質又は脂溶性ビタミンの選択肢を広げるとともに、トランスグルタミナーゼ反応の進行をより促進できる。
 X KX モチーフにおけるXは、グルタミン残基及びリジン残基以外のアミノ酸残基を示す。X KX モチーフにおけるXは、例えば、グリシン残基及びセリン残基からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基を含んでもよい。
 X KX モチーフで表されるアミノ酸配列は、例えば、MRHKGS、KGS、RKGS及びHKGS等で表されるアミノ酸配列であってよい。X KX モチーフで表されるアミノ酸配列は、また例えば、K、RK、HK及びRHK等であってよい。
 上記脂質部は、脂質に由来する構造を備える部分である。上記脂溶性ビタミン部は、脂溶性ビタミンに由来する構造を備える部分である。上記脂質は、脂肪酸、及びステロイド等を含む。脂肪酸としては、例えば、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、及び多価不飽和脂肪酸等が挙げられる。ステロイドとしては、例えば、コレステロール等が挙げられる。コレステロールとしては、例えば、リトコール酸等が挙げられる。上記脂質は、例えば、脂肪族炭化水素基からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素基を有する脂質であってよく、脂肪族炭化水素基は、直鎖であってよく、分岐又は脂環を有していてもよい。脂肪族炭化水素基は、例えば、炭素数6以上の脂肪族炭化水素基を有する脂質であってよく、炭素数12~29の脂肪族炭化水素基を有する脂質であってよく、炭素数12~18の脂肪族炭化水素基を有する脂質であってもよい。脂質が上述のような炭化水素基を有すると、細胞膜への脂質化タンパク質の係留をより強いものとすることができ、また細胞に対する毒性を充分に低いものとできる。炭素数12~18の脂肪族炭化水素基を有する脂質は、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等の飽和脂肪酸が挙げられる。炭素数12~18の脂肪族炭化水素基を有する脂質は、上記飽和脂肪酸に加えて、例えば、オレイン酸及びリノール酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。炭素数12~24の脂肪族炭化水素基を有する脂質は、上記飽和脂肪酸に加えて、例えば、リトコール酸等が挙げられる。上記脂溶性ビタミンとしては、例えば、ビタミンA(レチナール等)、ビタミンD(エルゴカルシフェロール、及びコレカルシフェロール等),ビタミンE(α-トコフェロール等)、及びビタミンK(フィロキノン、メナキノン、メナジオン、及びメナジオール等)等が挙げられる。
 第二のペプチドは、脂質部又は脂溶性ビタミン部が末端に有するカルボキシル基若しくはアミノ基に直接結合してもよく、脂質部又は脂溶性ビタミン部が末端に有するカルボキシル基若しくはアミノ基に第二のリンカーを結合させ、当該第二のリンカーと結合していてもよい。つまり、脂質ペプチドは、脂質部又は脂溶性ビタミン部と、第二のリンカーと、第二のペプチドとを有していてもよい。脂質ペプチドが第二のリンカーを有する場合、脂質ペプチドは、例えば、[脂質部]-[第二のリンカー]-[第二のペプチド]で表される脂質ペプチドを含んでもよく、又は、[脂溶性ビタミン部]-[第二のリンカー]-[第二のペプチド]で表される脂質ペプチドを含んでもよい。
 第二のリンカーは、1~10個のアミノ酸残基を含むリンカーペプチドであってよく、又はポリアルキレングリコール鎖であってもよい。リンカーペプチドを構成するアミノ酸残基は、グリシン残基、セリン残基及びプロリン残基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸残基を含んでよい。ここで、リンカーペプチドを構成するアミノ酸残基数は以下のように決定される。まず、脂質ペプチドを構成するペプチド部分のアミノ酸残基を解析し、脂質部又は脂溶性ビタミン部に直接接続するアミノ酸残基から第二のペプチドの方向に向かってアミノ酸残基の数を数える。アミノ酸残基の数が10個となるまでの間にグリシン残基、セリン残基及びプロリン残基以外のアミノ酸残基が検出された場合、検出された当該アミノ酸残基までのアミノ酸残基の数からひとつ減じた数を、リンカーペプチドを構成するアミノ酸残基数とする。
 リンカーペプチドを構成するアミノ酸残基はまた、リジン残基、グリシン残基、セリン残基及びプロリン残基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸残基を含んでよい。この場合、リンカーペプチドを構成するアミノ酸残基数は以下のように決定される。まず、脂質ペプチドを構成するペプチド部分のアミノ酸残基を解析し、脂質部又は脂溶性ビタミン部に直接接続するアミノ酸残基から第二のペプチドの方向に向かってアミノ酸残基の数を数える。アミノ酸残基の数が10個となるまでの間にリジン残基、グリシン残基、セリン残基及びプロリン残基以外のアミノ酸残基が検出された場合、検出された当該アミノ酸残基の数からひとつ減じた数を、リンカーペプチドを構成するアミノ酸残基数とする。
 第二のリンカーは、例えば、Gモチーフ、(GS)モチーフ、(PGモチーフ、(PGS)モチーフ、及び(SGS)モチーフ等で表されるペプチドであってよい。ここで、rは1~6の整数を示す。ここで、sは1~5の整数を示す。第二のリンカーは、より具体的には、GG、GGGGS、SGGGS、PGGG、及びPGGGS等のアミノ酸配列を有するものが挙げられる。ポリアルキレングリコール鎖は、(RO)で表される。ここで、tは1~3の整数を示し、Rはアルキル基を示す。ポリアルキレングリコール鎖は、例えば、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコール等が挙げられる。
 上記化合物(例えば、上記脂質ペプチド)は、例えば、脂質末端のアミノ化等によって得られるものを用いてもよく、ペプチド合成によって得られるものを用いてもよい。ペプチド合成としては、例えば、Fmoc固相合成法を使用することができる。Fmoc固相合成法に用いる樹脂は、脂質ペプチドに要求される特性、及び反応させる融合タンパク質の特性等に応じて選択することができる。
 第一のペプチドは、第二のペプチドよりも疎水性アミノ酸残基の割合が高くてもよい。第一のペプチド及び第二のペプチドを上記のような関係とすることで、融合タンパク質及び脂質ペプチドが微生物由来トランスグルタミナーゼによって認識されやすいものとできる。
 第二のペプチドは、第一のペプチドよりも親水性アミノ酸残基の割合が高くてもよい。第一のペプチド及び第二のペプチドを上記のような関係とすることで、脂質ペプチドの脂質部又は脂溶性ビタミン部に由来する疎水性の程度を弱め、トランスグルタミナーゼ反応を促進することができる。
 上記化合物(例えば、上記脂質ペプチド)の臨界ミセル濃度は、例えば、1μM以上、5μM以上、10μM以上、又は20μM以上であってよい。上記化合物(例えば、上記脂質ペプチド)の臨界ミセル濃度は、例えば、350μM以下、300μM以下、250μM以下、又は200μM以下であってよい。上記化合物(例えば、上記脂質ペプチド)の臨界ミセル濃度はまた、例えば、150μM以下、又は140μM以下であってよい。上記化合物の臨界ミセル濃度が上記の範囲内にあることによって、トランスグルタミナーゼ反応の際に、系内において上記化合物がミセルを形成することが抑制され、微生物由来トランスグルタミナーゼの反応サイトに上記化合物が浸入することが容易となり、トランスグルタミナーゼ反応を促進することができる。臨界ミセル濃度は、例えば、脂質部又は脂溶性ビタミン部の種類、第二のリンカー並びに第二のペプチドの長さ及び構成するアミノ酸残基の種類等を選択することによって調整することができる。臨界ミセル濃度は、上記化合物にピレンを含む溶液を用いて、385nmにおける蛍光強度(I385)と373nmにおける蛍光強度(I373)との比(I385/I373)を測定する方法によって、I385/I373比の変化から決定することができる。具体的には、後述する実施例に記載した方法に基づいて決定することができる。
 上記化合物(例えば、上記脂質ペプチド)は、脂質部又は脂溶性ビタミン部の種類等によって、種々の二次構造を取り得る。上記化合物の二次構造としては、例えば、βシート構造及びランダムコイル構造等が挙げられる。例えば、上記化合物の二次構造が、βシート構造であると、細胞膜への係留能力を向上させることができる。
 微生物由来トランスグルタミナーゼは、野生型の微生物由来トランスグルタミナーゼ、又は野生型の微生物由来トランスグルタミナーゼの変異体であってよい。本明細書において「野生型の微生物由来トランスグルタミナーゼの変異体」とは、野生型の微生物由来トランスグルタミナーゼのアミノ酸配列に依拠して、そのアミノ酸配列を改変したもの又は野生型の微生物由来トランスグルタミナーゼのアミノ酸配列によらずに人工的に設計及び合成したものであり、トランスグルタミナーゼ活性を有するタンパク質である。
 野生型の微生物由来トランスグルタミナーゼの変異体は、例えば、野生型の微生物由来トランスグルタミナーゼのアミノ酸配列(シグナルペプチド部分を除く)において、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列を有する。アミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者において周知の方法によって行うことができる。アミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加は、例えば、1~10個のアミノ酸残基、1~5個のアミノ酸残基、1~3個のアミノ酸残基、1個のアミノ酸残基に対して行われてもよい。具体的には、国際公開2018/004014号に開示された微生物由来トランスグルタミナーゼの変異体等を使用することができる。
 脂質化タンパク質の製造方法において、微生物由来トランスグルタミナーゼと、融合タンパク質と、1級アミノ基を有する化合物(例えば、脂質ペプチドを含む化合物)とを、溶媒に溶解させた反応溶液中で反応を行う。溶媒は水を含み、例えば、リン酸緩衝生理食塩水を用いることができる。反応温度は、微生物由来トランスグルタミナーゼの活性に合わせて調整することができ、例えば、50℃以上、又は60℃以上であってよく、70℃以下であってよい。
 反応溶液における融合タンパク質と脂質ペプチドを含む化合物との濃度は、融合タンパク質及び脂質ペプチドを含む化合物の種類、及び組み合わせによって調整することができる。例えば、脂質ペプチドにおける第二のペプチドに含まれる1級アミノ基(ここではリジン(K)残基)と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)は、例えば、3以上、4以上、5以上、10以上、又は15以上であってよい。K/Q比率は、例えば、25以下又は20以下であってよい。例えば、K/Q比率を上記数値範囲内とすることによって、より効率的にタンパク質に脂質を導入することができる。
 脂質化タンパク質の製造方法は、脂質化タンパク質を作用させる対象となる細胞の存在下で行うこともできる。すなわち、脂質化タンパク質の製造方法の別の実施形態は、細胞(例えば、脂質化タンパク質を作用させる対象となる細胞)及び微生物由来トランスグルタミナーゼの存在下、融合タンパク質と、1級アミノ基を有する化合物とを反応させて、上記融合タンパク質と上記化合物とがイソペプチド結合によって架橋された脂質化タンパク質を得る工程を備える。上記融合タンパク質は、グルタミン残基を含有する第一のペプチド及びタンパク質を有し、上記化合物は、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する。
 脂質化タンパク質を係留させる対象となる細胞の存在下で、融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応を行う方法は、上述のようにあらかじめ脂質化タンパク質の合成及び生成を行ってから、対象とする細胞の細胞膜へ脂質化タンパク質を係留させる方法に比べて、精製などの操作が不要であるため有益である。
[脂質化タンパク質]
 脂質化タンパク質の一実施形態は、グルタミン残基を含有する第一のペプチド及びタンパク質を有する融合タンパク質部、及び脂質部又は脂溶性ビタミン部を含む。上記脂質部又は上記脂溶性ビタミン部が、上記第一のペプチドのグルタミン残基とイソペプチド結合によって上記融合タンパク質部と結合している。上記脂質部又は上記脂溶性ビタミン部は、リジン残基を含有する第二のペプチドを有する脂質ペプチド部を含んでもよい。
 脂質化タンパク質は、上述の脂質化タンパク質の製造方法によっても得ることができる。したがって、脂質化タンパク質は、上述の脂質化タンパク質の製造方法についての説明内容を適用することができる。また逆に、本実施形態の脂質化タンパク質についての説明は、上述の脂質化タンパク質の製造方法に適用することができる。
 脂質化タンパク質は、脂質又は脂溶性ビタミンを導入することによって、細胞膜への係留等の細胞膜との相互作用を持つことが可能となっている。本実施形態に係る脂質化タンパク質は、タンパク質に導入することが可能な脂質を種々選択可能であり、また第一のペプチド及び第二のペプチド並びに第一のリンカー及び第二のリンカーの選択によって、細胞膜への係留の程度を制御することが可能である。本実施形態に係る脂質化タンパク質は、例えば、医薬、分析試薬、及び酵素反応等に有用である。
 上記脂質化タンパク質を細胞と共存又は細胞に作用させた際の細胞生存率における50%効果濃度(CC50)は、例えば、1μM以上、5μM以上、10μM以上、又は20μM以上であってよい。上記脂質化タンパク質を細胞と共存又は細胞に作用させた際の細胞生存率における50%効果濃度は、例えば、150μM以下、又は140μM以下であってよい。上記細胞生存率における50%効果濃度が上記の範囲内にあることによって、脂質化タンパク質の安全性をより十分なものとすることができる。細胞生存率における50%効果濃度は、例えば、脂質部又は脂溶性ビタミン部の種類、脂質部の鎖長等を選択することによって調整することができる。細胞生存率における50%効果濃度は、WSTアッセイによって評価することができる。具体的には、後述する実施例に記載した方法に基づいて細胞生存率における50%効果濃度を決定することができる。
 以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
 以下、実施例、比較例及び参考例を参照して本発明の内容をより詳細に説明する。ただし、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
[融合タンパク質の調製]
 高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)(GeneBankアクセッション番号:HM640279、GI:312205490)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づいて、配列番号1~3に示すアミノ酸配列からなる融合タンパク質を設計した。これらの融合タンパク質はいずれもグルタミン(Q)残基を含む第一のペプチド部分を有している。なお、配列番号1及び配列番号2に示すアミノ酸配列においては、EGFPと第一のペプチドとがGly-Gly-Gly-Serの4塩基からなるリンカーによって結合している。一方、配列番号3に示すアミノ酸配列においては、EGFPと第一のペプチドとが直接結合している。
 次に、設計した上記融合タンパク質をコードする核酸を合成した。当該核酸をクローニングベクター(pET22b+)にクローニングした。その後、当該核酸を、PCR法によって遺伝子組換えを行うことで、目的タグ配列が挿入された発現ベクターを得た。この発現ベクターの配列は、DNAシーケンスにより同定した。
 配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を含む上記発現ベクターで、大腸菌BL21(DE3)株に対してヒートショック法を用いて形質転換した。形質転換した大腸菌を、アンピシリンナトリウム100μg/mLで含むLB寒天培地に植菌して、37℃で一晩静置することでコロニーを得た。得られた大腸菌コロニーを、アンピシリンナトリウム100μg/mLで含むLB培地10mLに植菌して、37℃、200rpmで4時間培養した。その後、500mLのLB培地に植菌して、37℃、120rpmで培養を行い、OD600が0.6に到達した時点で、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(Isopropyl β-D-1-Thiogalactopyranoside:IPTG)を終濃度が0.5mMとなるように添加して、培養温度を15℃に下げ、更に16時間培養を継続した。
 培養後、培養液を6000×g、7分間の条件で遠心分離を行い、菌体を回収した。得られた菌体をTBS緩衝液(25mMのTris-HCl及び150mMのNaCl水溶液の混合液、pH7.4)で3回洗浄した後、上清を除去し、ペレット状になった菌体を-80℃で凍結保存した。凍結保存したペレットをTBS緩衝液15mLに溶解させた後、超音波処理によって菌体を粉砕し、遠心分離(温度:4℃、遠心力:18000×g、時間:20分間)によって破砕した菌体の沈殿物と、タンパク質が溶解した溶液とを分離した。得られた溶液を0.45μmのPVDFメンブレンフィルター及び0.22μmのPVDFメンブレンフィルターでろ過して、不溶性画分及び菌体を除去した。不溶性画分等が除去された溶液に対してHisTrap Excel カラム(1mL)を用いて、タンパク質の精製を行った。得られたタンパク質に対してSDS-PAGEを行い、設計した融合タンパク質に対応する分子量帯に相当するバンドの出現が見られ、融合タンパク質の発現及び純度を確認した。
[脂質部を有する化合物(脂質ペプチド)の調製]
 Fmoc固相合成法によって、下記表1に記載のアミノ酸配列を1アミノ酸ずつ縮合して合成して第二のペプチドを調製し、その後、第二のペプチドのN末端アミノ酸のアミノ基とミリスチン酸を縮合して脂質ペプチド1を合成した。得られた脂質ペプチドは、逆相液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によって精製した。精製後の脂質ペプチドの同定及び純度の測定は、MALDI-TOF-MS及びRP-HPLCによって行った。また、ミリスチン酸と第二のペプチドとをリンカーで接続した脂質ペプチドを同様に合成した(表1の脂質ペプチド2~12)。ミリスチン酸に代えて、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸を用いて同様に脂質ペプチドを合成した(表1の脂質ペプチド13~15)。第二のペプチドとして、MRHKGSよりも短いペプチドを用いて同様に脂質ペプチドを合成した(表1の脂質ペプチド16~21)。ミリスチン酸に代えて、リトコール酸を用いて脂質ペプチドを合成した(表1の脂質ペプチド22)。
 RP-HPLCを用いた測定は、4.6×250mmのInertsil ODS-3カラムを用いて室温(25℃)で行った。移動相は0.1%TFA含有Milli-Q水及び0.1%TFA含有アセトニトリルを使用した。脂質ペプチド(0.5mg/mL、20μL)の溶出は、30分間後にアセトニトリルの濃度勾配が30%から60%になるように流速1.0mL/minで移動相を送液する条件で行い、220nmの吸光度で検出した。また、MALDI-TOF-MSを用いた測定は、0.5mg/mLの脂質ペプチド溶液2μLと、α-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸(CHCA)マトリックスとを用いて行った。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
[脂質ペプチドの細胞毒性試験]
 合成した脂質ペプチドの細胞に対する毒性をWSTアッセイによって評価した。100μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した浮遊細胞SNU-1を5.0×10個/ウェル(25μLの液体培地(Opti-MEM、ライフテクノロジーズジャパン株式会社製))となるように、96ウェルプレートに播種した。そして、上記で合成した脂質ペプチド(0~1000μM)を25μLだけ加えて混合し、終濃度が0~500μMとなるようにして溶液を調製した。得られた溶液を37℃の条件下で、一日間インキュベートした。インキュベート後、Opti-MEMで6倍に希釈した発色剤(WST-8、同仁化学研究所製)を60μL/ウェルとなるように添加して、37℃の条件下で、90分間インキュベートした。そして、450nmにおける吸光度を測定して、細胞生存率を算出した。細胞生存率は以下の式より計算した。結果を図1に示す。図1より、細胞毒性の指標であるCC50を、KaleidaGraphのシグモイド回帰曲線から算出した。結果を表2に示す。
 細胞生存率[%]=[OD450(試料)-OD450(ブランク)]/[OD450(未処理)-OD450(ブランク)]×100
 上記式において、ODは光学濃度を示す。
[脂質ペプチドの臨界ミセル濃度(CMC)の測定]
 表2に示す脂質ペプチドの臨界ミセル濃度を測定した。脂質ペプチドの濃度は、ピレン法(J. Aguiar et al., J. Colloid Interface Sci. 2003, 258, p.116-122)に従って測定した。まず、2μLミクロチューブに100μMのピレン(テトラヒドロフラン溶液)を取り、テトラヒドロフランを蒸発させた。その後、100μLの脂質ペプチド(0.0001~0.5mM、PBS溶液)を上記ミクロチューブに加えて、25℃、15rpmの条件下で、60分間インキュベートした。インキュベート後、PBS溶液を96ウェルプレートに、50μL/ウェルとなるように添加し、蛍光プレートリーダーで、385nmにおける蛍光強度(I385)と373nmにおける蛍光強度(I373)との比(I385/I373)を測定した。励起光の波長は334nmに設定した。脂質ペプチド1を用いた場合の結果を図2に示す。図2におけるI385/I373比の変化から、臨界ミセル濃度を決定した。結果を表2に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 図1に示す結果から、いずれの脂質ペプチドもCC50が大きな値となっており、脂質ペプチドが通常使用される1μM程度の濃度であれば、細胞毒性は低いことが確認された。また、第二のリンカーの選択によって、細胞毒性を調整することができることも確認された。表2に示す結果から、第二のリンカーの選択によって、臨界ミセル濃度を調整することができることが確認された。
[脂質ペプチドの円二色性スペクトル測定]
 合成した脂質ペプチドの円二色性スペクトル測定を行い、二次構造を評価した。まず、50μMの脂質ペプチドを、400μLのPBS中に溶解して、37℃の条件下で、30分間インキュベートした。インキュベート後、PBS溶液を、光路長0.1cmの石英セルを用いて、円二色性スペクトルの測定を行った。測定は、温度を37℃、走査速度を50nm/分、データ取込み間隔を0.2nmとして行った。結果を図3及び図4に示す。
 図3及び図4は、合成した脂質ペプチドの円二色性スペクトル測定の結果を示すグラフである。図3は、脂質ペプチド1,3,6,及び9~12の結果を示し、図4には、脂質ペプチド9、及び16~21の結果を示している。図3に示す結果から、脂質ペプチド9~11は、215~225nmに負のピークを有することから、脂質ペプチドがβシート構造を形成していることが確認された。また、脂質ペプチド6及び12は、205nmに負のピークを有することから、脂質ペプチドがランダムコイル構造を形成していることが確認された。図4に示す結果から、脂質ペプチド16,17及び20も脂質ペプチド9と同様にβシート構造を形成していることが確認された。また脂質ペプチド19及び21がランダムコイル構造を形成していることが確認された。βシート構造を形成する脂質ペプチドを用いることで、細胞膜への係留能力を向上させることが期待される。
[融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応]
 上記配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、上記脂質ペプチド1を50μM、及び微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mLを、10mLのPBS中で混合させ、37℃の条件下で、60分間反応させた。このとき、脂質ペプチドにおける第二のペプチドに含まれる1級アミノ基(ここではリジン(K)残基)と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)を5とした。60分間経過後、0.2%TFA含有アセトニトリルを30μL添加して反応を停止させた。RP-HPLCによって、脂質化タンパク質が得られたことを確認した。結果を図5に示す。
 図5の上部に示すクロマトグラムは反応前の溶液に対する液体クロマトグラフィーの結果を示している。13.4分間経過後に融合タンパク質に対応する溶出ピークが観察されることが確認された。また、図5の下部に示すクロマトグラムは反応後の溶液に対する液体クロマトグラフィーの結果を示している。13.4分間経過後に融合タンパク質に対応する溶出ピークが観察されることに加えて、14.3分間経過後に脂質化タンパク質に対応する新たな溶出ピークが観察された。図5に示される結果から、トランスグルタミナーゼ反応が進行していることが確認された。また図5に示すクロマトグラムのピーク面積から、トランスグルタミナーゼ反応における反応率を下記式によって算出した。
 トランスグルタミナーゼ反応における反応率[%]=[(14.3分間後のピークに対するピーク面積)/{(13.4分間後のピークに対するピーク面積)+(14.3分間後のピークに対するピーク面積)}]×100
 RP-HPLCによる測定は、4.6×150mmのInertsil ODS-3カラムを用いて室温(25℃)で行った。移動相は0.1%TFA含有Milli-Q水及び0.1%TFA含有アセトニトリルを使用した。脂質化タンパク質の溶出は、40分間後にアセトニトリルの濃度勾配が20%から100%になるように流速1mL/分で移動相を送液する条件で行い、280nmの吸光度で検出した。
 K/Q比率が5且つ反応時間30分間経過した際の、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を下記の基準で評価した。結果を表3に示す。
<反応性の評価基準>
 反応に要した融合タンパク質に対して脂質ペプチドが導入された割合に基づいて反応性を評価した。
 A:脂質ペプチドと反応した融合タンパク質が100質量%
 B:脂質ペプチドと反応した融合タンパク質が60質量%を超えて100%未満
 C:脂質ペプチドと反応した融合タンパク質が60質量%未満
 次に、K/Q比率が、1,2,10,及び20となるように変更して、上記と同様の実験を行い、各K/Q比率における反応率を算出した。結果を図6に示す。また、反応時間が、5分間,10分間,15分間,30分間,及び60分間経過したごとにサンプリングを行い、各反応時間後における反応率を算出した。結果を図7に示す。
(実施例2)
 脂質ペプチド1に変えて、リンカーを有する脂質ペプチド9を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実験を行い、反応率を算出した。結果を表3、図6及び図7に示す。
(実施例3)
 上記配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質に代えて、上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実験を行い、反応率を算出した。結果を表3、図8及び図9に示す。
(実施例4)
 上記配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質に代えて、上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を用いたこと以外は、実施例2と同様にして実験を行い、反応率を算出した。結果を表3、図8及び図9に示す。
(実施例5)
 上記配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質に代えて、上記配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実験を行った。評価に関しては、K/Q比率と反応率との関係を評価した。結果を表3、図10に示す。
(実施例6)
 上記配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質に代えて、上記配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を用いたこと以外は、実施例2と同様にして実験を行い、反応率を算出した。結果を表3、図10及び図11に示す。
 図6~図11に示す結果から、いずれの融合タンパク質と脂質ペプチドの関係においても脂質化タンパク質を製造できることが確認された。配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を用いる場合、脂質ペプチドの種類によらず、K/Q比率が小さくても反応性に優れることが確認された。また、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を用いる場合、K/Q比率を調整することによって、融合タンパク質のすべてに脂質を導入することが可能であることが確認された。
(実施例7)
[融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応]
 上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、上記脂質ペプチド6を50μM、及び微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mLを、10mLのPBS中で混合させ、37℃の条件下で、60分間反応させた。このとき、K/Q比率を5とした。60分間経過後、0.2%TFA含有アセトニトリルを30μL添加して反応を停止させた。RP-HPLCによって、脂質化タンパク質が得られたことを確認した。
 次に、K/Q比率が、1,2,10,及び20となるように変更して、上記と同様の実験を行い、反応性を評価した。結果を図12に示す。また、反応時間が、5分間,10分間,15分間,30分間,及び60分間経過したごとにサンプリングを行い、反応性を評価した。結果を表3及び図13に示す。図12及び図13には、比較のために実施例3及び実施例4で製造した例も併記する。
(実施例8~10)
 脂質ペプチド6に代えて、表1の脂質ペプチド10(実施例8)、表1の脂質ペプチド11(実施例9)、又は表1の脂質ペプチド12(実施例10)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして実験を行い、評価を行った。結果を表3、図12及び図13に示す。
(実施例11~16)
 脂質ペプチド6に代えて、表1の脂質ペプチド16(実施例11)、表1の脂質ペプチド17(実施例12)、表1の脂質ペプチド18(実施例13)、表1の脂質ペプチド19(実施例14)、表1の脂質ペプチド20(実施例15)、又は表1の脂質ペプチド21(実施例16)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして実験を行い、評価を行った。結果を表3、図14及び図15に示す。
[細胞膜への係留能力解析(フローサイトメトリー解析)]
 実施例3、実施例4、及び実施例8~実施例10で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂質ペプチドを含む)を用いて、脂質化タンパク質の細胞膜への係留能力を評価した。まず、浮遊細胞SNU-1を2.0×10個播種して、200μLのPBSで2回洗浄した後、25μLのPBSに懸濁させた。得られた浮遊細胞の懸濁液に、上記で得られた脂質化タンパク質(2μM、又は10μM)を25μLだけ混合して、終濃度が1μM又は5μMとなるようにして溶液を調製した。混合した後の溶液を37℃の条件下で、15分間インキュベートした。インキュベート後、200μLのPBSで溶液を2回洗浄した。洗浄した後の溶液を400μLのPBSに懸濁し、セルストレーナーで濾過した。その後、セルアナライザー(製品名「セルアナライザーEC800」)によって細胞一個あたりの蛍光を定量した。結果を図16に示す。
 定量した蛍光量に基づいて脂質化タンパク質の細胞膜への係留能力を下記の基準で評価した。結果を表3に示す。
<係留能力の評価基準(細胞1個あたりの蛍光強度)>
 A:1000以上
 B:500以上1000未満
 C:200以上500未満
 D:150以上200未満
 E:100以上150未満
 F:50以上100未満
 G:50未満
(参考例1)
 参考例として、脂質ペプチドと反応させる前の、上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質をそのまま浮遊細胞の懸濁液に添加し、終濃度が1μM又は5μMである溶液を調製した。混合した後の溶液を、37℃の条件下で、15分間インキュベートした。インキュベート後、200μLのPBSで溶液を2回洗浄した。洗浄した後の溶液を400μLのPBSに懸濁し、セルストレーナーで濾過した。その後、セルアナライザー(製品名「セルアナライザーEC800」)によって細胞一個あたりの蛍光を定量した。結果を表3及び図16に示す。
[細胞毒性試験]
 実施例3、実施例4、及び実施例8~実施例10で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂質ペプチドを含む)を用いて、WSTアッセイによって脂質化タンパク質の細胞毒性を評価した。まず、100μLのPBSで2回洗浄した浮遊細胞SNU-1を5.0×10個/ウェル(25μLのダルベッコPBS(D-PBS))を96ウェルプレートに播種した。そして、上記の反応溶液(2μM又は10μM、必要に応じてD-PBSで濃度を調整した)を25μLだけ混合して、終濃度が1μM又は2μMとるようにして溶液を調製した。得られた溶液を、37℃の条件下で、15分間インキュベートした。インキュベート後、100μLのD-PBSで2回洗浄した。Opti-MEMで希釈したWST-8を110μL/ウェル添加して、37℃の条件下で、90分間インキュベートした。その後、450nmにおける吸光度を測定して細胞生存率を算出した。結果を図17に示す。
(参考例2)
 参考例として、脂質ペプチドと反応させる前の、上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質をそのまま浮遊細胞の懸濁液に添加し、終濃度が1μM又は5μMである溶液を調製した。得られた溶液を、37℃の条件下で、15分間インキュベートした。インキュベート後、100μLのD-PBSで2回洗浄した。Opti-MEMで希釈したWST-8を110μL/ウェル添加して、90分間インキュベートした。その後、450nmにおける吸光度を測定して細胞生存率を算出した。結果を図17に示す。
 図17に示す結果から、脂質化タンパク質は1μM程度の濃度で使用しても、脂質化タンパク質を係留させた細胞の細胞生存率は100%近くとなっており、十分に生体適合性があるといえることが確認された。
 実施例4、及び実施例11~16で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂質ペプチドを含む)を用いて、脂質化タンパク質の細胞膜への係留挙動及び細胞毒性を評価した。結果を表3、図18及び図19に示す。
 図19に示す結果から、脂質化タンパク質は1μM程度の濃度で使用しても、脂質化タンパク質を係留させた細胞の細胞生存率は100%近くとなっており、十分に生体適合性があるといえることが確認された。
(実施例17~20)
 脂質ペプチド1に代えて、脂質ペプチド3(実施例17)、脂質ペプチド4(実施例18)、脂質ペプチド8(実施例19)又は脂質ペプチド7(実施例20)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして実験を行い、脂質化タンパク質を製造できることを確認した。結果を表3に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000003
(実施例21)
[脂溶性ビタミン部を有する化合物の調製]
 Fmoc固相合成法によって、GGGSMRHKGSで表されるアミノ酸配列を1アミノ酸ずつ縮合して合成し、その後、N末端アミノ酸のアミノ基とα-トコフェロールとを縮合して脂溶性ビタミン部を有する化合物を合成した。得られた脂溶性ビタミン部を有する化合物は逆相液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によって精製した。精製後の脂質ペプチドの同定及び純度の測定は、MALDI-TOF-MS及びRP-HPLCによって行った。
 RP-HPLCを用いた測定は、4.6×250mmのInertsil ODS-3カラムを用いて室温(25℃)で行った。移動相は0.1%TFA含有Milli-Q水及び0.1%TFA含有アセトニトリルを使用した。脂溶性ビタミン部を有する化合物(0.5mg/mL、20μL)の溶出は、30分間後にアセトニトリルの濃度勾配が50%から80%になるように流速1.0mL/minで移動相を送液する条件で行い、220nmの吸光度で検出した。また、MALDI-TOF-MSを用いた測定は、0.5mg/mLの脂溶性ビタミン部を有する化合物の溶液2μLと、α-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸(CHCA)マトリックスとを用いて行った。
[融合タンパク質と脂溶性ビタミン部を有する化合物との反応]
 上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、上記脂溶性ビタミン部を有する化合物を50μM、及び微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mLを、10mMのTris-HCl(pH8.0)、及び1質量/体積%のn-ドデシル-β-D-マルトシド(n-Dodecyl-β-D-maltoside:DDM)の混合溶液中で混合させ、37℃の条件下で、60分間反応させた。このとき、脂溶性ビタミン部を有する化合物における1級アミノ基(ここではリジン(K)残基)と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)を5とした。60分間経過後、0.2%TFA含有アセトニトリルを30μL添加して反応を停止させた。RP-HPLCによって、脂質化タンパク質(純度:99%)が得られたことを確認した。
(実施例22)
[融合タンパク質と、脂質部を有する化合物(脂質ペプチド)との反応]
 上記脂溶性ビタミン部を有する化合物に代えて、表1の脂質ペプチド22を用いたこと以外は、実施例21と同様にして、脂質化タンパク質を調製した。RP-HPLCによって、脂質化タンパク質(純度:80%)が得られたことを確認した。
(実施例23)
[融合タンパク質と脂質部を有する化合物との反応]
 脂溶性ビタミン部を有する化合物に代えて、テトラデシルアミン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例21と同様にして脂質化タンパク質を製造した。すなわち、上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、テトラデシルアミンを50μM、及び微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mLを、10mLのPBS中で混合させ、37℃の条件下で、30分間反応させた。このとき、脂質部を有する化合物に含まれる1級アミノ基と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)を5とした。30分間経過後、0.2%TFA含有アセトニトリルを30μL添加して反応を停止させた。RP-HPLCによって、脂質化タンパク質が得られたことを確認した。なお、テトラデシルアミンは、ジメチルスルホキシドに溶解させて調製した5mM溶液を用いた。
(実施例24)
 テトラデシルアミンに代えてヘキサデシルアミン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例23と同様にして実験を行い、脂質化タンパク質が得られたことを確認した。
(実施例25)
[融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応]
 上記配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、表1の脂質ペプチド9を50μM、及び微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mLを、10mMのTris-HCl(pH8.0)中で混合させ、37℃の条件下で60分間反応させた。このとき、脂質ペプチドにおける第二のペプチドに含まれる1級アミノ基(ここではリジン(K)残基)と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)を1,5又は20とした。60分間経過後、0.2%TFA含有アセトニトリルを30μL添加して反応を停止させた。RP-HPLCによって、脂質化タンパク質(純度:91%)が得られたことを確認した。各K/Q比率における反応率の結果を図20に示す。
(実施例26~28)
 脂質ペプチド9に代えて、表1の脂質ペプチド13(実施例26),表1の脂質ペプチド14(実施例27)又は表1の脂質ペプチド15(実施例28)を用いたこと以外は、実施例25と同様にして、脂質化タンパク質を製造した。脂質化タンパク質の純度はそれぞれ、実施例26では48%、実施例27では96%、及び実施例28では90%であった。各K/Q比率における反応率の結果を図20に示す。
[細胞膜への係留能力解析(フローサイトメトリー解析)]
 実施例21~22、及び25~28で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂溶性ビタミンを有する化合物を含む)を用いて、脂質化タンパク質の細胞膜への係留能力を評価した。評価方法は、上記実施例3と同様にして行った。結果を図21に示す。実施例25~28の蛍光顕微鏡観察結果を図22及び図23に示す。
[細胞毒性試験]
 実施例21及び22、並びに実施例26~28で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂溶性ビタミンを有する化合物を含む)を用いて、WSTアッセイによって脂質化タンパク質の細胞毒性を評価した。評価方法は、上記実施例3と同様にして行った。結果を図24及び図25に示す。
[脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する化合物の細胞毒性及び臨界ミセル濃度の測定]
 実施例21~22、及び実施例25~28で使用した脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する化合物の細胞毒性及び臨界ミセル濃度を測定した。結果を表4に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000004
(実施例29)
 Fmoc固相合成法によって、下記表5に記載のアミノ酸配列を1アミノ酸ずつ縮合して合成して第二のペプチドを調製し、その後、第二のペプチドのN末端アミノ酸のアミノ基とα-トコフェロールとを第二のリンカーで接続して脂質ペプチド23を合成した。得られた脂質ペプチドは、RP-HPLCによって精製した。精製後の脂質ペプチドの同定及び純度の測定は、MALDI-TOF-MS及びRP-HPLCによって行った。α-トコフェロールに代えて、コレステロールを用いて、同様に脂質ペプチドを合成した(表5の脂質ペプチド24)。なお、脂質ペプチド24は、下記の化学式で表される。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000005
 RP-HPLCを用いた測定は、4.6×250mmのInertsil ODS-3カラムを用いて室温(25℃)で行った。移動相は0.1%TFA含有Milli-Q水及び0.1%TFA含有アセトニトリルを使用した。脂質ペプチド(0.5mg/mL、20μL)の溶出は、30分間後にアセトニトリルの濃度勾配が30%か60%になるように流速1.0mL/minで移動相を送液する条件で行い、220nmの吸光度で検出した。また、MALDI-TOF-MSを用いた測定は、0.5mg/mLの脂質ペプチド溶液2μLと、α-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸(CHCA)マトリックスとを用いて行った。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000006
 上述のとおり合成した脂質ペプチド23及び脂質ペプチド24について、実施例1と同様にして、細胞毒性試験及び臨界ミセル濃度の評価を行った。結果を表6に示す。脂質ペプチド24を用いた場合の測定結果を図26に示す。また比較のため、実施例1において合成した脂質ペプチド9、脂質ペプチド13、脂質ペプチド14、脂質ペプチド15及び脂質ペプチド22の評価結果も表6に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000007
[融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応]
 上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、上記脂質ペプチド13を50μM、及び微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mLを、10mMのTris-HCl(pH8.0)中で混合させ、37℃の条件下で、60分間反応させた。このとき、脂質ペプチドにおける第二のペプチドに含まれる1級アミノ基(ここではリジン(K)残基)と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)を5とした。
 60分間経過後、0.2%TFA含有アセトニトリルを30μL添加して反応を停止させた。RP-HPLCによって、脂質化タンパク質が得られたことを確認した。実施例1と同様に反応性を評価した。結果を表7に示す。
 RP-HPLCを用いた測定は、4.6×250mmのInertsil ODS-3カラムを用いて室温(25℃)で行った。移動相は0.1%TFA含有Milli-Q水及び0.1%TFA含有アセトニトリルを使用した。脂質ペプチド(0.5mg/mL、20μL)の溶出は、40分間後にアセトニトリルの濃度勾配が20%か100%になるように流速1.0mL/minで移動相を送液する条件で行い、280nmの吸光度で検出した。
(実施例30~34)
 表7に記載のとおり、脂質ペプチド13に代えて、脂質ペプチド14(実施例30)、脂質ペプチド15(実施例31)、脂質ペプチド22(実施例32)、脂質ペプチド23(実施例33)、及び脂質ペプチド24(実施例34)を用いたこと以外は、実施例29と同様にして実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表7に示す。
(実施例35)
 表7に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例4と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表7に示す。
(実施例36)
 表7に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例29と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表7に示す。
(実施例37)
 表7に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例30と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表7に示す。
(実施例38)
 表7に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例31と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表7に示す。
(実施例39)
 表7に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例32と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表7に示す。
(実施例40)
 表7に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例33と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表7に示す。
(実施例41)
 表7に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例34と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表7に示す。
[細胞膜への係留能力解析(フローサイトメトリー解析)]
 実施例29~実施例41で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂質ペプチドを含む)を用いて、脂質化タンパク質の細胞膜への係留能力を評価した。まず、浮遊細胞SNU-1を2.0×10個播種して、100μLのPBSで2回洗浄した後、25μLのPBSに懸濁させた。得られた浮遊細胞の懸濁液に、上記で得られた脂質化タンパク質(2μM)を25μLだけ混合して、終濃度が1μMとなるようにして溶液を調製した。混合した後の溶液を37℃の条件下で、15分間インキュベートした。インキュベート後、200μLのPBSで溶液を2回洗浄した。洗浄した後の溶液を400μLのPBSに懸濁し、セルストレーナーで濾過した。その後、セルアナライザー(製品名「セルアナライザーEC800」)によって細胞一個あたりの蛍光を定量した。結果を図27及び表7に示す。
(参考例3)
 参考例として、脂質ペプチドと反応させる前の、上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質をそのまま浮遊細胞の懸濁液に添加し、終濃度が1μM又は5μMである溶液を調製した。混合した後の溶液を、37℃の条件下で、15分間インキュベートした。インキュベート後、200μLのPBSで溶液を2回洗浄した。洗浄した後の溶液を400μLのPBSに懸濁し、セルストレーナーで濾過した。その後、セルアナライザー(製品名「セルアナライザーEC800」)によって細胞一個あたりの蛍光を定量した。結果を図27に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000008
 従来のトランスグルタミナーゼを用いた脂質化タンパク質の製造方法のように、グルタミン残基を有するペプチドのN末端に脂肪酸を結合させた脂質ペプチドを基質として用いる場合には、脂質部の炭素数が比較的大きい(例えば、炭素数16以上)と水溶性が低く、界面活性剤の添加無しでは、トランスグルタミナーゼ反応を行うことが困難であった。しかしながら、表7の結果から、炭素数が比較的大きな脂質ペプチド14、脂質ペプチド15、脂質ペプチド23、及び脂質ペプチド24を用いた場合であっても、トランスグルタミナーゼ反応が進行し、脂質化タンパク質を製造することができることが確認された。また、表7の結果から、界面活性剤を用いた例(実施例35~実施例41)において、トランスグルタミナーゼ反応の反応性をより向上させることができた。
 なお、従来のトランスグルタミナーゼを用いた脂質化タンパク質の製造方法のように、グルタミン残基を有するペプチドのN末端に脂肪酸を結合させた脂質ペプチドを基質として用いる場合、脂質部の炭素数が大きくなると、脂質ペプチド自体の精製も困難となるため、脂質化タンパク質を製造するための脂質ペプチドの選択肢が限られる傾向にあった。上述のように本開示の方法によれば、脂質ペプチドの選択肢を従来よりも広げることが可能であることが確認された。
[細胞毒性試験]
 実施例29~34で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂溶性ビタミンを有する化合物を含む)を用いて、WSTアッセイによって脂質化タンパク質の細胞毒性を評価した。評価方法は、上記実施例3と同様にして行った。結果を図28に示す。
(参考例4)
 参考例として、脂質ペプチドと反応させる前の、上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質をそのまま浮遊細胞の懸濁液に添加し、終濃度が1μM又は5μMである溶液を調製した。得られた溶液を、37℃の条件下で、15分間インキュベートした。インキュベート後、100μLのD-PBSで2回洗浄した。Opti-MEMで希釈したWST-8を110μL/ウェル添加して、90分間インキュベートした。その後、450nmにおける吸光度を測定して細胞生存率を算出した。結果を図28に示す。
(実施例42)
 Fmoc固相合成法によって、下記表8に記載のアミノ酸配列を1アミノ酸ずつ縮合して合成して第二のペプチドを調製し、その後、第二のペプチドのN末端アミノ酸のアミノ基とラウリン酸とを第二のリンカーで接続して脂質ペプチド25を合成した。得られた脂質ペプチドは、RP-HPLCによって精製した。精製後の脂質ペプチドの同定及び純度の測定は、MALDI-TOF-MS及びRP-HPLCによって行った。さらに、ラウリン酸に代えて、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸又はコレステロールを用いて、同様に脂質ペプチドを合成した(表8の脂質ペプチド26~30)。
 RP-HPLCを用いた測定は、4.6×250mmのInertsil ODS-3カラムを用いて室温(25℃)で行った。移動相は0.1%TFA含有Milli-Q水及び0.1%TFA含有アセトニトリルを使用した。脂質ペプチド(0.5mg/mL、20μL)の溶出は、30分間後にアセトニトリルの濃度勾配が30%か60%になるように流速1.0mL/minで移動相を送液する条件で行い、220nmの吸光度で検出した。また、MALDI-TOF-MSを用いた測定は、0.5mg/mLの脂質ペプチド溶液2μLと、α-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸(CHCA)マトリックスとを用いて行った。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000009
 上述のとおり合成した脂質ペプチド25~脂質ペプチド30について、細胞毒性試験及び臨界ミセル濃度の評価を行った。
[脂質ペプチドの細胞毒性試験]
 合成した脂質ペプチドの細胞に対する毒性をWSTアッセイによって評価した。100μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した浮遊細胞SNU-1を1.0×10個/ウェル(25μLの液体培地(Opti-MEM、ライフテクノロジーズジャパン株式会社製))となるように、96ウェルプレートに播種した。そして、上記で合成した脂質ペプチド(0~1000μM)を25μLだけ加えて混合し、終濃度が0~500μMとなるようにして溶液を調製した。得られた溶液を37℃の条件下で、一日間インキュベートした。インキュベート後、Opti-MEMで6倍に希釈した発色剤(WST-8、同仁化学研究所製)を60μL/ウェルとなるように添加して、37℃の条件下で、90分間インキュベートした。そして、450nmにおける吸光度を測定して、細胞生存率を算出した。細胞生存率は実施例1に示したものと同じ式を用いて計算した。結果を図29及び図30に示す。図29及び図30から、細胞毒性の指標であるCC50をKaleidaGraphのシグモイド回帰曲線を用いて算出した。結果を表9に示す。比較のため、実施例1において合成した脂質ペプチド16の結果も表9に示す。
[脂質ペプチドの臨界ミセル濃度(CMC)の測定]
 脂質ペプチド25~脂質ペプチド30の臨界ミセル濃度を測定した。脂質ペプチドの濃度は、ピレン法(J. Aguiar et al., J. Colloid Interface Sci. 2003, 258, p.116-122)に従って測定した。まず、2μLミクロチューブに100μMのピレン(テトラヒドロフラン溶液)を取り、テトラヒドロフランを蒸発させた。その後、100μLの脂質ペプチド(0.0001~0.5mM、PBS溶液)を上記ミクロチューブに加えて、25℃、15rpmの条件下で、60分間インキュベートした。インキュベート後、PBS溶液を96ウェルプレートに、50μL/ウェルとなるように添加し、蛍光プレートリーダーで、385nmにおける蛍光強度(I385)と373nmにおける蛍光強度(I373)との比(I385/I373)を測定した。励起光の波長は334nmに設定した。実施例1と同様に、脂質ペプチドを用いた場合の蛍光強度測定の結果を示すグラフから、I385/I373比の変化を導き、臨界ミセル濃度を決定した。結果を表9に示す。比較のため、実施例1において合成した脂質ペプチド16の結果も表9に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000010
[融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応]
 上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、上記脂質ペプチド25を50μM、及び微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mLを、10mMのTris-HCl(pH8.0)中で混合させ、37℃の条件下で、60分間反応させた。このとき、脂質ペプチドにおける第二のペプチドに含まれる1級アミノ基(ここではリジン(K)残基)と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)を5とした。
 60分間経過後、0.2%TFA含有アセトニトリルを30μL添加して反応を停止させた。RP-HPLCによって、脂質化タンパク質が得られたことを確認した。実施例1と同様に反応性を評価した。結果を表10に示す。比較のため、実施例11の結果も表9に示す。
 RP-HPLCを用いた測定は、4.6×250mmのInertsil ODS-3カラムを用いて室温(25℃)で行った。移動相は0.1%TFA含有Milli-Q水及び0.1%TFA含有アセトニトリルを使用した。脂質ペプチド(0.5mg/mL、20μL)の溶出は、40分間後にアセトニトリルの濃度勾配が20%から100%になるように流速1.0mL/minで移動相を送液する条件で行い、280nmの吸光度で検出した。
(実施例43~47)
 表10に記載のとおり、脂質ペプチド25に代えて、脂質ペプチド26(実施例43)、脂質ペプチド27(実施例44)、脂質ペプチド28(実施例45)、脂質ペプチド29(実施例46)、及び脂質ペプチド30(実施例47)を用いたこと以外は、実施例42と同様にして実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表10に示す。
(実施例48)
 表10に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例11と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表10に示す。
(実施例49)
 表10に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例42と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表10に示す。
(実施例50)
 表10に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例43と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表10に示す。
(実施例51)
 表10に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例44と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表10に示す。
(実施例52)
 表10に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例45と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表10に示す。
(実施例53)
 表10に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例46と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表10に示す。
(実施例54)
 表10に記載のとおり、界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを加えたこと以外は、実施例47と同様にして、実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を表10に示す。
[細胞膜への係留能力解析(フローサイトメトリー解析)]
 実施例11及び実施例42~実施例54で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂質ペプチドを含む)を用いて、脂質化タンパク質の細胞膜への係留能力を評価した。まず、浮遊細胞SNU-1を2.0×10個播種して、100μLのPBSで2回洗浄した後、25μLのPBSに懸濁させた。得られた浮遊細胞の懸濁液に、上記で得られた脂質化タンパク質(2μM)を25μLだけ混合して、終濃度が1μMとなるようにして溶液を調製した。混合した後の溶液を37℃の条件下で、15分間インキュベートした。インキュベート後、200μLのPBSで溶液を2回洗浄した。洗浄した後の溶液を400μLのPBSに懸濁し、セルストレーナーで濾過した。その後、セルアナライザー(製品名「セルアナライザーEC800」)によって細胞一個あたりの蛍光を定量した。結果を図31及び表10に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000011
[細胞毒性試験]
 実施例42~47で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂溶性ビタミンを有する化合物を含む)を用いて、WSTアッセイによって脂質化タンパク質の細胞毒性を評価した。評価方法は、上記実施例3と同様にして行った。結果を図32に示す。
(実施例55)
 Fmoc固相合成法によって、下記表11に記載のアミノ酸配列を1アミノ酸ずつ縮合して合成して第二のペプチドを調製し、その後、第二のペプチドのN末端アミノ酸のアミノ基とラウリン酸とをリンカーで接続した脂質ペプチド31を合成した。得られた脂質ペプチドは、RP-HPLCによって精製した。精製後の脂質ペプチドの同定及び純度の測定は、MALDI-TOF-MS及びRP-HPLCによって行った。また、ラウリン酸に代えて、パルミチン酸、ステアリン酸、α-トコフェロール又はコレステロールを用いて同様に脂質ペプチドを合成した(表11の脂質ペプチド32~35)。
 また、第二のリンカーとして、GSの脂質部側にリジン(K)を導入することで、脂質部を2つ導入した脂質ペプチドの合成も行い、精製後の脂質ペプチドの同定及び純度の測定は、MALDI-TOF-MS及びRP-HPLCによって行った。より具体的には、ラウリン酸を2つ導入した脂質ペプチド36、ミリスチン酸を2つ導入した脂質ペプチド37、パルミチン酸を2つ導入した脂質ペプチド38、ステアリン酸を2つ導入した脂質ペプチド39、α-トコフェロールを2つ導入した脂質ペプチド40、及びコレステロールを2つ導入した脂質ペプチド41を合成した。なお、脂質ペプチド36は、下記の化学式で表される。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000012
 RP-HPLCを用いた測定は、4.6×250mmのInertsil ODS-3カラムを用いて室温(25℃)で行った。移動相は0.1%TFA含有Milli-Q水及び0.1%TFA含有アセトニトリルを使用した。脂質ペプチド(0.5mg/mL、20μL)の溶出は、30分間後にアセトニトリルの濃度勾配が30%か60%になるように流速1.0mL/minで移動相を送液する条件で行い、220nmの吸光度で検出した。また、MALDI-TOF-MSを用いた測定は、0.5mg/mLの脂質ペプチド溶液2μLと、α-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸(CHCA)マトリックスとを用いて行った。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000013
 上述のとおり合成した脂質ペプチド31~脂質ペプチド41について、細胞毒性試験及び臨界ミセル濃度の評価を行った。
[脂質ペプチドの細胞毒性試験]
 合成した脂質ペプチドの細胞に対する毒性をWSTアッセイによって評価した。100μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した浮遊細胞SNU-1を1.0×10個/ウェル(25μLの液体培地(Opti-MEM、ライフテクノロジーズジャパン株式会社製))となるように、96ウェルプレートに播種した。そして、上記で合成した脂質ペプチド(0~1000μM)を25μLだけ加えて混合し、終濃度が0~500μMとなるようにして溶液を調製した。得られた溶液を37℃の条件下で、一日間インキュベートした。インキュベート後、Opti-MEMで6倍に希釈した発色剤(WST-8、同仁化学研究所製)を60μL/ウェルとなるように添加して、37℃の条件下で、90分間インキュベートした。そして、450nmにおける吸光度を測定して、細胞生存率を算出した。細胞生存率は実施例1に示したものと同じ式を用いて計算した。結果を図33、図34及び図35に示す。図33、図34及び図35から、細胞毒性の指標であるCC50をKaleidaGraphのシグモイド回帰曲線を用いて算出した。結果を表12に示す。比較のため、実施例1において合成した脂質ペプチド21の結果も表12に示す。
[脂質ペプチドの臨界ミセル濃度(CMC)の測定]
 脂質ペプチド21及び脂質ペプチド31~脂質ペプチド41の臨界ミセル濃度を測定した。脂質ペプチドの濃度は、ピレン法(J. Aguiar et al., J. Colloid Interface Sci. 2003, 258, p.116-122)に従って測定した。まず、2μLミクロチューブに100μMのピレン(テトラヒドロフラン溶液)を取り、テトラヒドロフランを蒸発させた。その後、100μLの脂質ペプチド(0.0001~0.5mM、PBS溶液)を上記ミクロチューブに加えて、25℃、15rpmの条件下で、60分間インキュベートした。インキュベート後、PBS溶液を96ウェルプレートに、50μL/ウェルとなるように添加し、蛍光プレートリーダーで、385nmにおける蛍光強度(I385)と373nmにおける蛍光強度(I373)との比(I385/I373)を測定した。励起光の波長は334nmに設定した。実施例1と同様に、脂質ペプチドを用いた場合の蛍光強度測定の結果を示すグラフから、I385/I373比の変化を導き、臨界ミセル濃度を決定した。結果を表12に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000014
[融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応]
 上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、上記脂質ペプチド31を50μM、微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mL及び界面活性剤としてn-ドデシル-β-D-マルトシドを1.0質量/体積%を、10mLのPBS中で混合させ、37℃の条件下で、60分間反応させた。このとき、脂質ペプチドにおける第二のペプチドに含まれる1級アミノ基(ここではリジン(K)残基)と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)を10とした。K/Q比率を、5又は20に変更して上記同様の反応を行った。結果を図36に示す。
 60分間経過後、0.2%TFA含有アセトニトリルを30μL添加して反応を停止させた。RP-HPLCによって、脂質化タンパク質が得られたことを確認した。実施例1と同様に反応性を評価した。結果を表13に示す。
 RP-HPLCを用いた測定は、4.6×250mmのInertsil ODS-3カラムを用いて室温(25℃)で行った。移動相は0.1%TFA含有Milli-Q水及び0.1%TFA含有アセトニトリルを使用した。脂質ペプチド(0.5mg/mL、20μL)の溶出は、40分間後にアセトニトリルの濃度勾配が20%から100%になるように流速1.0mL/minで移動相を送液する条件で行い、280nmの吸光度で検出した。
(実施例56~66)
 表13に記載のとおり、脂質ペプチド31に代えて、脂質ペプチド32(実施例56)、脂質ペプチド33(実施例57)、脂質ペプチド34(実施例58)、脂質ペプチド35(実施例59)、脂質ペプチド36(実施例60)、脂質ペプチド37(実施例61)、脂質ペプチド38(実施例62)、脂質ペプチド39(実施例63)、脂質ペプチド40(実施例64)、脂質ペプチド41(実施例65)、及び脂質ペプチド21(実施例66)を用いたこと、及びK/Q比率が5、10、20となるように各脂質ペプチドの配合量を調整したこと以外は、実施例55と同様にして実験を行い、融合タンパク質及び脂質ペプチドのトランスグルタミナーゼ反応の反応性を評価した。結果を図36、図37及び表13に示す。
[細胞膜への係留能力解析(フローサイトメトリー解析)]
 実施例55~実施例66で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂質ペプチドを含む)を用いて、脂質化タンパク質の細胞膜への係留能力を評価した。まず、浮遊細胞SNU-1を2.0×10個播種して、100μLのPBSで2回洗浄した後、25μLのPBSに懸濁させた。得られた浮遊細胞の懸濁液に、上記で得られた脂質化タンパク質(2μM)を25μLだけ混合して、終濃度が1μMとなるようにして溶液を調製した。混合した後の溶液を37℃の条件下で、15分間インキュベートした。インキュベート後、200μLのPBSで溶液を2回洗浄した。洗浄した後の溶液を400μLのPBSに懸濁し、セルストレーナーで濾過した。その後、セルアナライザー(製品名「セルアナライザーEC800」)によって細胞一個あたりの蛍光を定量した。結果を図38及び表13に示す。比較のため、実施例16の結果も表13に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000015
 表13中「-」で示した部分は、測定を実施していないことを意味する。
[細胞毒性試験]
 実施例55~57、及び実施例59~63、66で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂溶性ビタミンを有する化合物を含む)を用いて、WSTアッセイによって脂質化タンパク質の細胞毒性を評価した。評価方法は、上記実施例3と同様にして行った。結果を図39に示す。
(実施例67)
[融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応]
 脂質化タンパク質を係留させる対象となる細胞の存在下で、融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応を行った。
 上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、上記脂質ペプチド24を5μM、微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mL、及び浮遊細胞SNU-1を2.0×10個、を10mLのD-PBS中で混合させ、37℃の条件下で、60分間反応させた。このとき、脂質ペプチドにおける第二のペプチドに含まれる1級アミノ基(ここではリジン(K)残基)と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)を0.5とした。
[細胞膜への係留能力解析(フローサイトメトリー解析)]
 実施例67で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂質ペプチドを含む)を用いて、脂質化タンパク質の細胞膜への係留能力を評価した。上記反応溶液を200μLのPBSで2回洗浄した後、400μLのPBSに懸濁させた。得られた懸濁液を対象として、セルアナライザー(製品名「セルアナライザーEC800」)によって細胞一個あたりの蛍光を定量した。結果を図40に示す。
(実施例68)
[融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応]
 脂質化タンパク質を係留させる対象となる細胞の存在下で、融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応を行った。
 上記配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を10μM、上記脂質ペプチド24を5μM、微生物由来トランスグルタミナーゼを0.1U/mL、及び浮遊細胞SNU-1を5.0×10個、をD-PBS中で混合させ、合計体積が50μL/ウェルとなるように調製し、37℃の条件下で、30分間反応させた。このとき、脂質ペプチドにおける第二のペプチドに含まれる1級アミノ基(ここではリジン(K)残基)と、融合タンパク質における第一のペプチドに含まれるグルタミン(Q)残基と、のモル比(K/Q比率)を0.5とした。
[細胞毒性試験]
 実施例68で得られた脂質化タンパク質の反応溶液(未反応の脂溶性ビタミンを有する化合物を含む)を用いて、WSTアッセイによって脂質化タンパク質の細胞毒性を評価した。上記反応溶液を100μLのD-PBSで2回洗浄した後、Opti-MEMで6倍に希釈した発色剤(WST-8、同仁化学研究所製)を110μL/ウェルとなるように添加して、37℃の条件下で、90分間インキュベートした。そして、450nmにおける吸光度を測定して、細胞生存率を算出した。細胞生存率は実施例1に示したものと同じ式を用いて計算した。結果を図41に示す。
 実施例67及び実施例68の結果から、脂質化タンパク質を係留させる対象となる細胞の存在下で、融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応を行う方法によっても、脂質化タンパク質を対象とする細胞の細胞膜へ係留させることができることが確認された。脂質化タンパク質を係留させる対象となる細胞の存在下で、融合タンパク質と脂質ペプチドとの反応を行う方法は、あらかじめ脂質化タンパク質の合成及び生成を行ってから、対象とする細胞の細胞膜へ脂質化タンパク質を係留させる方法に比べて、精製などの操作が不要であるため、有益である。

Claims (12)

  1.  微生物由来トランスグルタミナーゼの存在下、融合タンパク質と、1級アミノ基を有する化合物とを反応させて、前記融合タンパク質と前記化合物とがイソペプチド結合によって架橋された脂質化タンパク質を得る工程を備え、
     前記融合タンパク質は、グルタミン残基を含有する第一のペプチド及びタンパク質を有し、
     前記化合物は、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する、脂質化タンパク質の製造方法。
  2.  前記化合物は、リジン残基を含有する第二のペプチド、及び、脂質部又は脂溶性ビタミン部を有する脂質ペプチドを含み、前記1級アミノ基が前記リジン残基に由来するものである、請求項1に記載の脂質化タンパク質の製造方法。
  3.  前記第二のペプチドは、前記第一のペプチドよりも親水性アミノ酸残基の割合が高い、請求項2に記載の脂質化タンパク質の製造方法。
  4.  前記第二のペプチドは、ヒスチジン残基、プロリン残基、トリプトファン残基及びアルギニン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基を更に含有する、請求項2又は3に記載の脂質化タンパク質の製造方法。
  5.  前記脂質部は、炭素数12~18の脂肪族炭化水素基を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の脂質化タンパク質の製造方法。
  6.  前記第一のペプチドは、グリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、トリプトファン残基、及びフェニルアラニン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の疎水性アミノ酸残基を更に含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の脂質化タンパク質の製造方法。
  7.  グルタミン残基を含有する第一のペプチド及びタンパク質を有する融合タンパク質部と、脂質部又は脂溶性ビタミン部とを含み、
     前記脂質部又は前記脂溶性ビタミン部が、前記第一のペプチドのグルタミン残基とイソペプチド結合によって前記融合タンパク質部と結合している、脂質化タンパク質。
  8.  前記脂質部又は前記脂溶性ビタミン部は、リジン残基を含有する第二のペプチドを有する脂質ペプチド部を含み、
     前記イソペプチド結合が、前記リジン残基と前記グルタミン残基との結合である、請求項7に記載の脂質化タンパク質。
  9.  前記第二のペプチドは、前記第一のペプチドよりも親水性アミノ酸残基の割合が高い、請求項8に記載の脂質化タンパク質。
  10.  前記第二のペプチドは、ヒスチジン残基、プロリン残基、トリプトファン残基及びアルギニン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基を更に含有する、請求項8又は9に記載の脂質化タンパク質。
  11.  前記脂質部は、炭素数12~18の脂肪族炭化水素基を有する、請求項7~10のいずれか一項に記載の脂質化タンパク質。
  12.  前記第一のペプチドは、グリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、トリプトファン残基、及びフェニルアラニン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の疎水性アミノ酸残基を更に含有する、請求項7~11のいずれか一項に記載の脂質化タンパク質。
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