以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、変速機100を含む車両の要部を示す図である。車両は、エンジン1と、トルクコンバータ2と、バリエータ20と、副変速機構30と、車軸4と、駆動輪5と、を備える。
エンジン1は、車両の動力源を構成する。トルクコンバータ2は、流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータ2では、ロックアップクラッチ2aを締結することで、動力伝達効率を高めることができる。バリエータ20と副変速機構30とは、入力された回転速度を変速比に応じた回転速度で出力する。変速比は、入力回転速度を出力回転速度で割って得られる値である。車軸4は、減速ギヤや差動装置で構成される駆動車軸である。エンジン1の動力は、トルクコンバータ2、バリエータ20、副変速機構30及び車軸4を介して駆動輪5に伝達される。
バリエータ20は無段変速機構であり、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、ベルト23と、を備える。以下では、プライマリプーリ21を単にプーリ21とも称し、セカンダリプーリ22を単にプーリ22とも称す。
プライマリプーリ21は、固定円錐板と、可動円錐板と、油圧シリンダ21aと、を備える。セカンダリプーリ22は、固定円錐板と、可動円錐板と、油圧シリンダ22aと、を備える。プーリ21、22それぞれにおいて、固定円錐板と可動円錐板とは、シーブ面を互いに対向させた状態で配置され、V溝を形成する。プーリ21では油圧シリンダ21aが、プーリ22では油圧シリンダ22aが、可動円錐板の背面に設けられ、可動円錐板を軸方向に変位させる。ベルト23は、プーリ21とプーリ22とに巻きかけられる。ベルト23にはVベルトを用いることができる。
油圧シリンダ21aには第1油圧が作用する。プーリ21は、第1油圧によってV溝の幅が制御される。油圧シリンダ22aには第2油圧が作用する。プーリ22は、第2油圧によってV溝の幅が制御される。
第1油圧を調整し、プーリ21のV溝の幅を変化させることで、プーリ21とベルト23との接触半径が変化する。第2油圧を調整し、プーリ22のV溝の幅を変化させることで、プーリ22とベルト23との接触半径が変化する。このため、プーリ21やプーリ22のV溝の幅を制御することで、バリエータ20の変速比を無段階に制御することができる。
副変速機構30は有段変速機構であり、前進2段、後進1段の変速段を有する。副変速機構30は、前進用変速段として、1速と、1速よりも変速比が小さい2速を有する。副変速機構30は、エンジン1から駆動輪5に至るまでの動力伝達経路において、バリエータ20の出力側に直列に設けられる。副変速機構30は、バリエータ20に直接接続されてもよく、ギヤ列など他の構成を介してバリエータ20に間接的に接続されてもよい。
車両では、バリエータ20及び副変速機構30それぞれにおいて、変速比が変更される。このため、車両ではバリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られるバリエータ20及び副変速機構30全体の変速比であるスルー変速比に応じた変速が行われる。
バリエータ20は副変速機構30とともに、自動変速機構3を構成する。バリエータ20と副変速機構30とは構造上、個別の変速機構として構成されてもよい。
車両は、オイルポンプ10と、油圧制御回路11と、コントローラ12と、をさらに備える。
オイルポンプ10は、油圧を発生させる。オイルポンプ10には、エンジン1の動力で駆動する機械式のオイルポンプを用いることができる。
油圧制御回路11は、オイルポンプ10がオイル供給によって発生させる油圧を調整してバリエータ20や副変速機構30の各部位に伝達する。油圧制御回路11は、ライン圧調整部11s、第1油圧調整部11a及び第2油圧調整部11bを含む。
ライン圧調整部11sは、オイルポンプ10がオイル供給によって発生させる油圧を調整してライン圧を生成する。ライン圧は、第1油圧及び第2油圧の元圧となる油圧であり、ベルト23の滑りが発生しないように設定される。第1油圧調整部11aは、ライン圧から第1油圧を生成する。第2油圧調整部11bは、ライン圧から第2油圧を生成する。ライン圧調整部11sや、第1油圧調整部11aや、第2油圧調整部11bには、油圧レギュレータを用いることができる。油圧制御回路11はさらに、副変速機構30の変速段を制御するための油圧回路部11cを有して構成されている。
コントローラ12は、油圧制御回路11を制御する。コントローラ12には、回転センサ41や、回転センサ42や、回転センサ43の出力信号が入力される。回転センサ41は、バリエータ20の入力側の回転速度を検出するためのバリエータ入力側回転センサに相当するセンサである。回転センサ42は、バリエータ20の出力側の回転速度を検出するためのバリエータ出力側回転センサに相当するセンサである。回転センサ42は具体的には、バリエータ20の出力側且つ副変速機構30の入力側の回転速度を検出する。回転センサ43は、副変速機構30の出力側の回転速度を検出するための副変速機構出力側回転センサに相当するセンサである。
バリエータ20の入力側の回転速度は具体的には、バリエータ20の入力軸の回転速度である。バリエータ20の入力側の回転速度は、前述の動力伝達経路において、例えばギヤ列をバリエータ20との間に挟んだ位置の回転速度であってもよい。バリエータ20の出力側の回転速度や、副変速機構30の出力側の回転速度についても同様である。
コントローラ12には、このほかアクセル開度センサ44や、インヒビタスイッチ45や、エンジン回転センサ46などの出力信号が入力される。アクセル開度センサ44は、アクセルペダルの操作量を表すアクセル開度APOを検出する。インヒビタスイッチ45は、セレクトレバーの位置を検出する。エンジン回転センサ46は、エンジン1の回転速度Neを検出する。コントローラ12は、回転センサ43の出力信号に基づき車速VSPを検出することができる。
コントローラ12は、これらの信号に基づき変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を油圧制御回路11に出力する。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、ライン圧や第1油圧や第2油圧を制御するほか、油圧経路の切り換えなどを行う。
これにより、油圧制御回路11からバリエータ20や副変速機構30の各部位に変速制御信号に応じた油圧の伝達が行われる。結果、バリエータ20や副変速機構30の変速比が、変速制御信号に応じた変速比すなわち目標変速比に変更される。
変速機100は自動変速機であり、このようにして変速比を制御する油圧制御回路11及びコントローラ12のほか、バリエータ20、副変速機構30、回転センサ41、回転センサ42及び回転センサ43を有して構成されている。油圧制御回路11及びコントローラ12は、車両に搭載される変速機100において制御を行う変速機の制御装置50を構成する。以下では、変速機の制御装置50を単に制御装置50と称す。
図2は、コントローラ12が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ12は、本フローチャートに示す処理を微小時間毎に繰り返し実行することができる。コントローラ12は、ステップS1で回転センサ42が異常であるか否かを判定する。
ステップS1で、コントローラ12は例えば、回転センサ42が断線しているか否かを判定したり、回転センサ42の出力信号が正常範囲を外れているか否かを判定したりすることができる。回転センサ42が異常であるか否かの判定には、公知技術のほか適宜の技術が適用されてよい。
ステップS1で否定判定であれば、回転センサ42が正常であると判定される。この場合、コントローラ12は、ライン圧調整部11sによってステップS2に示すように、ライン圧を可変に制御する。また、コントローラ12は、ステップS3に示すように両調圧方式によりバリエータ20の変速比を可変に制御する。
両調圧方式は、第1油圧と第2油圧との大小関係が入れ替わる調圧方式である。したがって、両調圧方式では、第1油圧と第2油圧との大小関係が、第1油圧>第2油圧となる場合と、第1油圧=第2油圧となる場合と、第1油圧<第2油圧となる場合がある。両調圧方式につき、詳しくは後述する。
ステップS3で、コントローラ12は、副変速機構30の変速段も可変に制御する。すなわち、ステップS3では、副変速機構30も変速制御信号に応じて適宜変速される。副変速機構30が変速される場合、コントローラ12は協調変速制御を行う。協調変速制御は、副変速機構30の変速時において、バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比変化と逆の方向に変化させる制御である。協調変速制御では具体的には、スルー変速比が一定になるようにバリエータ20の変速比を制御する。協調変速制御を行うことで、副変速機構30変速時の変速ショックが抑制される。
協調変速制御には、少なくとも回転センサ42の出力が用いられる。このため、回転センサ42のフェール時には協調変速制御を行うことができなくなる。協調変速制御には、回転センサ41の出力及び回転センサ43の出力も用いられる。回転センサ41の出力、回転センサ42の出力及び回転センサ43の出力は、バリエータ20の実変速比及び副変速機構30の実変速比を検出するために用いることができる。ステップS3の後には、本フローチャートを一旦終了する。
ステップS1で肯定判定であれば、回転センサ42のフェールが判定される。この場合、コントローラ12は、ステップS4で副変速機構30の変速段が2速であるか否かを判定する。副変速機構30の変速段が2速であるか否かは例えば、副変速機構30の変速段を検出可能なセンサの出力に基づき判定することができる。ステップS4で肯定判定であれば、コントローラ12は、ステップS5で車両走行中であるか否かを判定する。
ステップS5で否定判定であれば、コントローラ12は、ステップS6で副変速機構30の変速段を2速から1速に変更する。また、コントローラ12は、ステップS7で副変速機構30の変速段を1速に固定する。これにより、停車中に副変速機構30の変速段が1速に固定される。副変速機構30の変速段を1速に固定する、とは、修理等によってフェールが解除されるまでの間、副変速機構30の変速段を1速に維持することを意味する。コントローラ12は、ステップS4で否定判定であった場合にも、ステップS7で副変速機構30の変速段を1速に固定する。ステップS7の後には、処理はステップS5に戻る。
ステップS5で肯定判定であった場合、コントローラ12は、ライン圧調整部11sによってステップS8に示すように、ライン圧を所定以上の値αに固定する。ライン圧を所定以上の値αに固定する、とは、修理等によってフェールが解除されるまでの間、ライン圧を所定以上の値αに維持することを意味する。所定以上の値αには、例えばライン圧の最大設定圧が適用される。所定以上の値αは、バリエータ20への入力トルクが最大になったときにベルト23に滑りが生じない値であればよい。
さらにコントローラ12は、ステップS9で第2油圧をライン圧に固定する。また、コントローラ12は、ステップS10で車速VSPに応じて第1油圧を制御する。これにより、第2油圧をライン圧に固定する片調圧方式によりバリエータ20の変速比が可変に制御される。
片調圧方式は、第1油圧と第2油圧との大小関係が入れ替わらない調圧方式である。したがって、片調圧方式では、第1油圧と第2油圧との大小関係は、第1油圧≧第2油圧のまま、或いは第1油圧≦第2油圧のままとなる。片調圧方式につき、詳しくは後述する。
ステップS10で、コントローラ12は、少なくとも回転センサ43の出力を用いて第1油圧を制御することで、車速VSPに応じて第1油圧を制御することができる。この場合、コントローラ12は、回転センサ41の出力や回転センサ42の出力を用いることなく、第1油圧を制御してよい。
これにより、フェールの影響を回避しながら車速VSPに応じてバリエータ20の変速比を制御することができる。回転センサ43の出力は、フェール時のバリエータ20の変速比制御指令を含む変速制御信号を生成するのに用いることができる。
ステップS10で、コントローラ12は、回転センサ41、回転センサ42及び回転センサ43の出力以外の他のパラメータをさらに用いて第1油圧を制御してよい。すなわち、フェール時の変速制御信号は、当該他のパラメータをさらに用いて生成されてよい。
コントローラ12は、ステップS9で第1油圧をライン圧に固定し、ステップS10で車速VSPに応じて第2油圧を制御してもよい。
この場合、コントローラ12は、第1油圧をライン圧に固定する片調圧方式によりバリエータ20の変速比を可変に制御することができる。ステップS10の後には、本フローチャートを一旦終了する。
本実施形態において、フェール判定部はコントローラ12、具体的にはステップS1の判定を行う部分として機能的に把握されるコントローラ12の一部により実現されている。また、変速比制御部は、コントローラ12及び油圧制御回路11、具体的にはステップS3、S9及びS10の処理を行う部分として機能的に把握されるコントローラ12の一部、及び油圧制御回路11の一部である第1油圧調整部11aと第2油圧調整部11bとにより実現されている。また、変速段制御部は、コントローラ12及び油圧制御回路11、具体的にはステップS6及びステップS7の処理を行う部分として機能的に把握されるコントローラ12の一部、及び油圧制御回路11の一部である油圧回路部11cにより実現されている。また、ライン圧制御部は、コントローラ12及び油圧制御回路11、具体的にはステップS2及びステップS8の処理を行う部分として機能的に把握されるコントローラの一部、及び油圧制御回路11の一部であるライン圧調整部11sにより実現されている。
次に、調圧方式について説明する。
図3A、図3B及び図3Cは、調圧方式の比較例の説明図であり、具体的には片調圧方式用のバリエータにおける片調圧方式の説明図である。図3Aは、当該バリエータへの入力トルクがT1である場合のPri圧及びSec圧を当該バリエータの変速比に応じて示す。図3Bは、当該バリエータへの入力トルクがT2である場合のPri圧及びSec圧を当該バリエータの変速比に応じて示す。図3Cは、ライン圧を最大設定圧に固定した場合のPri圧及びSec圧を当該バリエータの変速比に応じて示す。
Pri圧は第1油圧相当の油圧であり、片調圧方式用のバリエータにおけるプライマリプーリの制御油圧を示す。Sec圧は第2油圧相当の油圧であり、片調圧方式用のバリエータにおけるセカンダリプーリの制御油圧を示す。図3Aから図3Cに示す変速比とPri圧及びSec圧との関係は、換言すれば目標変速比とこれに応じたPri圧及びSec圧との関係ということができる。T1及びT2は、T1<T2の大小関係を満たす入力トルクを示す。図3Aから図3Cでは、Sec圧をライン圧に固定する場合を示す。
図3A、図3Bに示すように、片調圧方式用のバリエータで変速を行う場合、全変速比領域においてSec圧をライン圧にし、入力トルクに応じてライン圧を変更することで、ベルト滑りを防止する。また、Pri圧とSec圧とが等しくなった場合に、変速比がHighになるようにプライマリプーリ及びセカンダリプーリの受圧面積が設定される。
この場合、プライマリプーリの受圧面積はセカンダリプーリの受圧面積よりも大きく設定される。例えば、プライマリプーリの受圧面積はセカンダリプーリの受圧面積の約2倍である。プライマリプーリの受圧面積は、プライマリプーリをダブルピストン構造にすることで、実効的に増やすことができる。
このような片調圧方式用のバリエータに対し、ライン圧を最大設定圧に固定すると、Pri圧とSec圧とは、入力トルクに関わらず、図3Cに示すように設定される。このとき、Pri圧及びSec圧は、全変速比領域に亘る範囲で設定される。
図4A及び図4Bは、両調圧方式の説明図である。図4Aでは、バリエータ20への入力トルクがT1である場合の第1油圧及び第2油圧をバリエータ20の変速比に応じて示す。図4Bでは、バリエータ20への入力トルクがT2である場合の第1油圧及び第2油圧をバリエータ20の変速比に応じて示す。
最Low変速比は最大変速比であり、最High変速比は最小変速比である。Mid変速比は中間変速比であり、第1油圧と第2油圧とが等しくなる変速比である。図4A及び図4Bに示す変速比と第1油圧及び第2油圧との関係は、換言すれば目標変速比とこれに応じた第1油圧及び第2油圧との関係ということができる。後述する図5A及び図5Bについても同様である。
図4A及び図4Bそれぞれに示すように、両調圧方式では、バリエータ20の変速比に応じて、第1油圧と第2油圧との大小関係が入れ替わるように第1油圧及び第2油圧が設定される。また、バリエータ20の変速比が最Low変速比から最High変速比までの範囲で可変に制御される。
具体的には、最Low変速比以上且つMid変速比未満の変速比領域では、第2油圧が第1油圧よりも大きくなるように第1油圧及び第2油圧が設定される。また、Mid変速比では、第1油圧と第2油圧とが等しくなるように第1油圧及び第2油圧が設定される。さらに、Mid変速比よりも高く且つ最High変速比以下の変速比領域では、第1油圧が第2油圧よりも大きくなるように第1油圧及び第2油圧が設定される。
両調圧方式では、さらに上述のように設定した第1油圧及び第2油圧のうち大きい方の油圧にライン圧を用いる。
このため、最Low変速比以上且つMid変速比未満の変速比領域では、第2油圧がライン圧になる。また、Mid変速比よりも大きく且つ最High変速比以下の変速比領域では、第1油圧がライン圧になる。Mid変速比では、第1油圧及び第2油圧がライン圧になる。
両調圧方式では、上述のように第1油圧及び第2油圧を設定することで、変速比がMid変速比付近である場合に、ライン圧を下げることができる。したがって、変速比がMid変速比付近である場合に、オイルポンプ10の負荷軽減による燃費向上を図ることができる。
図4A及び図4Bそれぞれに示すように、両調圧方式では、変速を行う場合に第1油圧及び第2油圧の双方を可変にする。両調圧方式では、少なくともバリエータ20への入力トルクが一定という条件下で、第1油圧及び第2油圧の双方を可変にすることができる。換言すれば、目標変速比に応じて第1油圧及び第2油圧の双方を可変にすることができる。
バリエータ20への入力トルクに対してプーリ圧が不十分であると、ベルト23の滑りが発生する場合がある。プーリ圧をライン圧より大きくすることはできないので、ベルト23の滑りが発生しないようなプーリ圧とするためには、入力トルクに応じてライン圧を変更する必要がある。このため、図4A及び図4Bに示すように、両調圧方式では、さらにライン圧調整部11sによって入力トルクに応じてライン圧を変更する。具体的には、入力トルクが大きい場合ほどライン圧を大きくする。これにより、ベルト23の滑り発生を抑制することができる。
両調圧方式で変速を行うバリエータ20では、プライマリプーリ21の受圧面積とセカンダリプーリ22の受圧面積とが等しくなるように設定される。このため、バリエータ20では、Mid変速比で変速比を「1」にすることができる。Mid変速比は、例えばセカンダリプーリ22の可動円錐板を付勢するリターンスプリングの推力分だけ「1」からずれた値になるなど、「1」にならなくてもよい。
図5A及び図5Bは、両調圧方式用のバリエータ20における片調圧方式の説明図である。図5Aでは、第1油圧をライン圧に固定する場合の第1油圧及び第2油圧をバリエータ20の変速比に応じて示す。図5Bでは、第2油圧をライン圧に固定する場合の第1油圧及び第2油圧をバリエータ20の変速比に応じて示す。
図5Aに示すように、第1油圧をライン圧に固定する場合、変速比領域はMid変速比以上且つ最High変速比以下の範囲に制限される。したがって、Mid変速比以上且つ最High変速比以下の変速比領域でのみ変速が可能になる。
図5Bに示すように、第2油圧をライン圧に固定する場合、変速比領域は最Low変速比以上且つMid変速比以下の範囲に制限される。したがって、最Low変速比以上且つMid変速比以下の変速比領域でのみ変速が可能になる。
理由は次の通りである。すなわち、両調圧方式用のバリエータ20では、前述した通り、プライマリプーリ21の受圧面積とセカンダリプーリ22の受圧面積とが等しくなるように設定されており、Mid変速比で第1油圧と第2油圧とが等しくなるためである。
図5A及び図5Bの場合ともに、ライン圧を最大設定圧に固定することで、ベルト23の滑りの発生は最大限に抑制される。
次に、制御装置50の主な作用効果について説明する。
前述の通り、変速機100では、回転センサ42のフェール時に協調変速制御を行うことができなくなる。この場合、副変速機構30の変速を禁止すれば、副変速機構30の変速に起因する変速ショックの発生を防止することができる。ところが、副変速機構30の変速段をフェール直前の変速段に固定すると、フェール直前の変速段が2速であった場合、車両停車後の再発進時に駆動力を稼ぎにくくなる。
このような事情に鑑み、制御装置50は、バリエータ20と、副変速機構30と、回転センサ42と、を有し車両に搭載される変速機100において制御を行う。制御装置50は、油圧制御回路11と、コントローラ12と、を有する。コントローラ12は、回転センサ42のフェールを判定する。油圧制御回路11及びコントローラ12は、副変速機構30の変速段を可変に制御する一方、フェールが判定された場合には、副変速機構30の変速段を1速に固定する。また、油圧制御回路11及びコントローラ12は、フェールが判定されたときの副変速機構30の変速段が2速である場合、停車中に副変速機構30の変速段を1速に固定する。
このような構成の制御装置50によれば、フェールが判定された場合に、副変速機構30の変速段を1速に固定するので、回転センサ42のフェール時に車両発進性を確保することができる。また、車両発進性確保の機能を主に副変速機構30に持たせるので、バリエータ20の動作の自由度を高めることができる。また、停車中に副変速機構30の変速段を1速に固定するので、変速ショックの発生を防止しつつ車両発進性を確保することができる。
制御装置50では、コントローラ12は、フェールが判定されても、バリエータ20の変速比を可変に制御することでスルー変速比を可変に制御する。
このような構成の制御装置50によれば、バリエータ20にスルー変速比を可変にする機能を持たせることで、スルー変速比を固定する場合と比較して、車両の運転状態等に応じて変速比を変更することができる分、燃費を向上させることができる。さらに、スルー変速比を可変とする場合、発進時はバリエータ20の変速機を最Low変速比とすることにより、副変速機構30のみならず、バリエータ20にも車両発進性確保の機能を持たせることができる。結果、フェールしていないときと遜色のない車両発進性を確保することができる。
上述した各構成において、バリエータ20はトロイダル型の無段変速機構であってもよい。この場合でも、制御装置50は同様の作用効果を奏することができる。
制御装置50では、油圧制御回路11及びコントローラ12はさらに、ライン圧を可変制御する一方、フェールが判定された場合には、ライン圧を所定以上の値αに固定する。バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、ベルト23と、を有する。油圧制御回路11及びコントローラ12は、両調圧方式によりバリエータ20の変速比を可変に制御する一方、フェールが判定された場合には、第1油圧及び第2油圧のうち一方をライン圧に固定する片調圧方式によりバリエータ20の変速比を可変に制御する。
このような構成の制御装置50によれば、フェールが判定された場合に、第1油圧及び第2油圧のうち一方の油圧が所定以上の値αのライン圧に固定されるので、当該一方の油圧を高めることができる。また、当該一方の油圧を高めることで、他方の油圧も底上げされるので、第1油圧及び第2油圧を高めることができる。結果、回転センサ42のフェール時に、ベルト滑りを防止するフェールセーフを行うことができる。
また、このような構成の制御装置50によれば、フェールが判定された場合に、上記一方の油圧をライン圧に固定する片調圧方式によりバリエータ20の変速比を可変に制御するので、車両の運転状態等に応じて変速比を可能な範囲内で変更することができる。このため、フェール時にバリエータ20の変速比を最大変速比、すなわち最Low変速比等に固定にする場合と比較して、燃費の悪化を抑制することもできる。
制御装置50では、油圧制御回路11及びコントローラ12は、両調圧方式によりバリエータ20の変速比を最Low変速比から最High変速比までの範囲で可変に制御する一方、フェールが判定された場合に、第2油圧をライン圧に固定する片調圧方式によりバリエータ20の変速比を最Low変速比から中間変速比までの範囲で可変に制御する。
上記構成の制御装置50によれば、フェールが判定された場合には、バリエータ20の変速比を最Low変速比からMid変速比までの範囲で可変に制御するので、車両発進時の駆動力を確保することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
本願は2015年3月20日に日本国特許庁に出願された特願2015-57902に基づく優先権を主張し、この出願のすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。