明 細 書
妊娠促進剤
技術分野
[0001] 本発明は,ヒトの胚盤胞移植による不妊治療において,妊娠を促進させる組成物及 びその製造方法に関する。
背景技術
[0002] ヒトの不妊症は,全カップルの 10%程度に見られると言われている。このため不妊 治療の需要は大きく,現在では広く行われている。不妊治療として行われているうち ,精子や卵を直接取り扱うものは,人工授精及び体外受精である。人工授精は,カテ 一テル等の器具により,精子を子宮頸部近くの膣内または直接子宮内や卵管に注 入することによって受精を促す技術であり,精子が卵子と遭遇するに至るまでに存在 する諸々の障害を回避することによって,受精の確率を高めることを目的とするもの である。これに対し,体外受精は,患者に排卵誘発剤を投与して産生させた卵を体 内から採取し,試験管内で精子と混ぜ合わせることで受精させ (媒精),受精卵を培 養し,通常,培養 2日目又は 3日目に, 4分割又は 8分割の胚をカテーテルで,一般 には子宮腔内に移植する技術である。移植された胚が着床し易いように,通常は,子 宮内膜を整えるための黄体ホルモン補充が行われる。
[0003] 着床前胚は,母体に自らの存在について母体に信号を発するために,発生時に数 種の因子を産生する。例えばインターロイキン 1 (IL 1)は,母体の子宮内膜と胚 の間での情報交換を調節する主要な因子であり,完全な IL 1系が,ヒト胚において 発生の全ての段階で検出される(非特許文献 1参照)。他の胚由来因子であるヒト絨 毛性ゴナドトロピン (HCG)は, 2細胞期胚で既にその遺伝子が転写されて!/、る(非特 許文献 2参照)。またこれらの因子を含む情報交換に関連する数種の胚由来因子が ,インビトロ(試験管内)において胚を培養したとき細胞外へ放出されることが観察さ れている。すなわち,子宮内膜の受容力を調節する数種の胚由来因子が,胚の培養 上清中に検出される(非特許文献 3〜9参照)。インビボ (生体内)でも,卵管におい て発生している胚が,子宮内膜の分化を誘導することが知られている(非特許文献 1
0参照)。これらのこと全てが,胚の発生初期段階において,胚と子宮内膜との間で, 胚が産生する因子を介して情報交換が行われていることを示している。事実,子宮腔 内の着床前胚のみならず,卵管内の初期胚もまた,着床を胚そのものが制御できる ように,子宮内膜の分子を調節することができることが明らかにされている(非特許文 献 10参照)。
近年,体外受精の一形態である胚盤胞移植が,ヒトの不妊治療における着床の確 率を改善する方法として提唱され,臨床上行われている(非特許文献 11〜; 13参照) 。この移植技術は,上記の体外受精後の胚を 5日目〜 6日目まで培養し,それにより 胚盤胞にまで成育させたものを子宮腔内に注入する。胚盤胞移植では,子宮内膜と 胚の発生段階との生理的同期化ができること,また長期間の体外培養により着床能 の高い胚を選択することが比較的容易になること等により,初期胚移植に比して着床 の確率が高くなる(非特許文献 14及び 15参照)。着床に至るまでの日数が, 2〜3日 培養の胚では 4〜5日であるのに比して胚盤胞移植では, 1日と短く,子宮外への胚 の流失のリスクが低下することも,着床に有利である。し力、しそれでも,ヒトの胚盤胞移 植における妊娠率は, 36. 4%程度に留まっているのが現状である。胚盤胞移植に おける着床の不成功は,胚盤胞が透明帯から孵化できなかったため力、,あるいは移 植された胚盤胞の発生が子宮腔内において停止したこと等によるものと考えられてい る。このように,現在行われている胚盤胞移植によっても妊娠に至らないケースが多 V、ことから,妊娠の確率を高める更なる手段が求められて!/、る。
非特許文献 1 : De los Santos MJ, Anderson DJ, Racowsky C, Simon C, and Hill JA(1 998) Biol Reprod.59, 1419-1424
非特許文献 2 : Jurisicova A, Antenos M, apasi , Meriano J, and Casper RF(1999) Hum Reprod.14, 1852-1858
非特許文献 3 : Tazuke SI, and Giudice LC,(1996)Semin Reprod Endocrinol.14,231-2 45
非特許文献 4 : Simon C, Gimeno MJ, Mercader A, O ' Connor JE, Remohi J, Polan M
L,and Pellicer A(1997)J Clin Endocrinol Metab.82, 2607-2616
非特許文献 5 : Giudice LC(1995) Semin Reprod Endocrinol.13,93-101
非特許文献 6: Sheth KV, Roca Gし, al- Sedairy ST, Parhar RS, Hamilton CJ, and al_ Abdul Jabbar F(1991)Fertil Steril.55,952- 957
非特許文献 7 : Baranao RI, Piazza A, Rumi LS, and Polak de Fried E(1997)Am J Rep rod Immunol.37, 191-194
非特許文献 8 : Licht P, Russu V, and Wildt L(2001)Semin Reprod Med.19,37-47 非特許文献 9 : Perrier d ' Hauterive S, Charlet—Renard C, Berndt S, Dubois M, Muna ut C, Goffin F, et. al.(2004)Hum Reprod.19,2633-2643
非特許文献 10 : Wakuda K, Takakura K, Nakanishi K, ita N, Shi H, Hirose M, and Noda Y(1999)J Reprod Fertil.115,315—324
非特許文献 11: Gardner D , Schoolcraft WB, Wagley L, Schlenker T, Stevens J, an d Hesla JA(1998)Hum Reprod.13,3434-3440
非特許文献 12 : Scholtes MC, and Zeilmaker GH(1998)Fertil Steril.69, 78-83 非特許文献 13 : Milki AA, Fisch JD, and Behr B(1999)Fertil Steril.72, 225-228 非特許文献 14 : Gardner DK, Vella P, Lane M, Wagley L, Schlenker T, and Schooler aft WB(1998)Fertil Steril.69,84-88
非特許文献 15 : Edwards RG, and Beard H (1999)Hum Reprod.14, 1-4
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 本発明の目的は,現時点において, 36. 4%程度に留まっているヒトの胚盤胞移植 をベースとし,それによる妊娠の確率を向上させるための手段を提供することである。 課題を解決するための手段
[0006] 本発明者は,胚盤胞移植が不成功に終わる一要因として,初期胚から胚盤胞まで の発生段階における,子宮内膜と胚との間の情報交換の欠落があるものと想定した。 この情報交換の欠落は,子宮内膜の胚受容能を十分に調節できない原因となり得る 。このこと力、ら,本発明者は,ヒトの胚盤胞移植における着床および妊娠の確率を高 めるため,胚そのものによる子宮内膜の受容能の調節に着目し,検討を行った。すな わちヒトの胚の培養上清を予め受け手の子宮腔に注入した上で,胚盤胞移植を試み たところ,本発明者は,これまでの胚盤胞移植に比して顕著に高い確率で着床及び
妊娠が得られることを見出した。胚の培養上清を子宮に予め注入することにより胚盤 胞移植における着床及び妊娠の確率を高められることについてはこれまで報告がな く,本発明は,この知見に基づき更に検討の結果完成させたものである。
すなわち本発明は,以下を提供する。
1.ヒト胚を培地中で胚盤胞に至るまで培養して得られる培養物の培養上清を含有 してなる,胚盤胞移植における妊娠促進剤。
2.該培養上清が,その中でヒト胚が少なくとも 2日間培養された培地から得られるも のである,上記 1の妊娠促進剤。
3.培養がヒト胚 1個当たり 10〜; 100 1の培地中で行われるものである,上記 1又は 2の妊娠促進剤。
4.少なくともヒト胚 0. 3個分の培養上清を含んでなるものである,上記 1ないし 3の 妊娠促進剤。
5.該培地が無血清培地である,上記 1ないし 4の何れかの妊娠促進剤。
6.ヒト胚を培地中で培養して胚盤胞を形成させるステップと,胚盤胞を形成してい る培養液の上清を採取するステップとを含んでなる,胚盤胞移植における妊娠促進 剤の製造方法。
7.該培養が少なくとも 2日間行われるものである,上記 6の妊娠促進剤の製造方法
8.培養がヒト胚 1個当たり 10〜; 100 1の培地中で行われるものである,上記 6又は 7の妊娠促進剤の製造方法。
9.少なくともヒト胚 0. 3個分の培養上清を採取するものである,上記 6ないし 8の何 れかの妊娠促進剤の製造方法。
10.該培地が無血清培地である,上記 6ないし 9の何れかの妊娠促進剤の製造方 法。
11.ヒトにお!/、て妊娠を促進するための方法であって,
ヒト胚を培地中で,該ヒト胚が胚盤胞に発生するまで培養するステップと, 該培養物の上清を含む組成物を,胚盤胞移植を受けることになつて!/、るヒト患者の
子宮腔内に注射するステップと,そして
1個又は 2個以上の胚盤胞を該患者の子宮腔内に移植するステップと
を含んでなる方法。
12.該培養が少なくとも 2日間行われるものである,上記 12の方法。
13.該培養が,ヒト胚 1個当たり 10〜; 100 しの培地中で行われるものである,上 記 11又は 12の方法。
14.該組成物が,少なくともヒト胚 0. 3個分の培養上清を含むものである,上記 11 ないし 13の何れかの方法。
15.該培地が無血清培地である,上記 11ないし 14の何れかの方法。
16.該組成物の注射が胚盤胞移植の 1〜5日前に行われるものである,上記 11な いし 15の何れかの方法。
発明の効果
[0008] 上記本発明による妊娠促進剤は,胚の受け手となるヒトの子宮内に胚盤胞を移植 するに先立って子宮腔に注入しておくことにより,移植された胚盤胞の着床及び妊娠 の確率を,現行の胚盤胞移植の場合に比して,著しく高めること力 Sできる。
発明を実施するための最良の形態
[0009] 本発明者は,本発明による胚盤胞移植での着床及び妊娠の確率の著しい増大が, 胚の培養上清に胚から分泌された,子宮内膜の受容能を調節する胚由来因子が存 在し,その投与により子宮内膜が刺激され,胚盤胞の移植に最適な環境が与えられ ることによってもたらされるものであろうと考える。本発明は,従って,これまでの胚盤 胞移植で欠落している,初期胚力 胚盤胞までの発生段階における子宮内膜と胚と の間の情報伝達を,胚盤胞移植に先立って培養液中の胚由来因子によって補うこと により,着床及び妊娠の確率を増大させるものである。
[0010] 本発明の妊娠促進剤は,ヒト胚を培地中で胚盤胞に至るまで培養して得られる培 養上清を含んでなる組成物(例えば,培養上清それ自体)である。採取する培養上 清は,好ましくは採取まで少なくとも 2日間,より好ましくは少なくとも 3日間の培養に 用いられたものである。用いる培地は,胚盤胞移植における慣用のものの何れでもよ く,プリオンその他の感染性因子の混入の可能性を遮断することを考慮すれば,無
血清培地が好ましい。そのような好ましい無血清培地としては,現在例えば, BlastAs sist System培地 1及び 2 ,特に,胚盤胞までの約 3日間の培養に好適に用いられる B lastAssist System培地 2 (MediCult社, Jyllinge, Denmark)が挙げられる。
[001 1] 上記におけるヒト胚の培養は,胚盤胞に十分量の培地を提供する必要性と,培養 液からの胚盤胞の採取の便宜とを考慮して,ヒト胚 1個当たり 10〜; 100 1の培地中 で行うことが好ましく, 10〜60 1の培地中で行うことがより好ましい。
[0012] 胚盤胞までに発生したヒト胚の培養上清のうち,少なくとも胚 0. 3個分の培養上清 が含有されていることが好ましい。すなわち,例えば,胚 1個を 50 1の培地中で胚盤 胞の発生まで培養した場合,培地から採取した少なくとも 1 5 (すなわち, 50 μ \ Χ 0. 3)の液量の上清が,本発明の組成物に含まれることが好ましい。尤も,より少量の 単位として分割して保管し,使用時 (患者への注入時)に複数単位を合わせて用いる こともできるから,その場合には,必ずしも単位投与量の組成物中に胚 0. 3個分の培 養上清が含まれなくともよい。
[0013] 採取した培養上清は,そのまま用いても,また凍結保存しておき使用時に解凍して 用いてもよい。また薬剤学的に不活性な希釈剤 (例えば,滅菌精製水,又は実施例 の部に記載の BlastAssist System培地 2に含有されるヒト血漿アルブミン,グルコース 、塩化ナトリウム等の成分を含有する水溶液)を加えて,取り扱いやすい液量,例え ば 0. 2ml又は 0. 5ml等へと希釈し増量することもできる。
[0014] 本発明の妊娠促進剤は,胚盤胞移植において,妊娠及び着床の確率を高めるた め,胚盤胞を受け手の子宮内に移植するに先立って,受け手の子宮腔に注入される 。胚盤胞の受け手は,その胚の元となった卵子の提供者本人である場合が主である が第三者であることもでき,従ってまた,本発明の妊娠促進剤の注入を受けるのも, 胚の元となった卵の提供者でもよく,第三者でもよい。また,多数の胚の培養により得 られた上清を,例えば個別に,冷凍保存しておき,他の受け手への別の胚盤胞の移 植において,移植に先立って解凍したものを受け手の子宮腔内に注入してもよい。
[0015] 本発明の妊娠促進剤は,好ましくは,患者に胚盤胞を移植する;!〜 5日前,より好ま しくは 2〜4日前に,患者の子宮腔内に注入される。注入は 1回(例えば, 3日前に 1 回)でもよく,また複数回の注入を隔日若しくは毎日行ってもよ!/、。
[0016] 本発明はまた,ヒト胚を培地中で胚盤胞に至るまで培養し,その培養上清を含んで なる上記組成物(例えば,培養上清それ自体)を,胚盤胞の移植を受けるヒトの子宮 腔に注入し,その後に胚盤胞を移植することを含む,妊娠促進方法をも提供する。こ こにおいて, 当該組成物の注入は,胚盤胞の移植の好ましくは 1〜5日前,より好まし くは 2〜4日前,特に好ましくは 3日前に行われる。
[0017] 本発明はまた,ヒトにおける妊娠促進のための方法であって,ヒト胚を培地中で胚 盤胞に至るまで培養し, 当該培養物の上清を含む組成物 (例えば, 当該培養上清そ れ自体)を,胚盤胞移植を受けることになつているヒト患者の子宮腔内に注射し,次い で当該患者の子宮腔内に胚盤胞を移植することを含むものである方法をも提供する 。ここに,本組成物の注射は,胚盤胞移植の;!〜 5日前,より好ましくは 2〜4日前,そ して特に好ましくは 3日前に行われる。
[0018] 本発明の妊娠促進剤は,胚盤胞の移植に先立って受け手の子宮腔に注入してお くことにより,胚盤胞移植における着床及び妊娠の確率を著しく向上させることができ 実施例
[0019] 以下,実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが,本発明が実施例に限 定されることは意図しない。
[0020] 〔試験プロトコール〕
22名の患者を登録した。これらの患者は, 2005年 1月から 2006年 4月までの間に エストロゲンとプロゲステロンによるホルモン補充療法(HRT)下に,凍結融解された 胚盤胞の移植を受けた。この試験における対象患者の基準は、年齢が 32歳以上で あり、胚盤胞移植または二段階 (連続した 2回の)胚移植を過去に 1回以上不成功の 治療歴を有し、かつ、採卵周期の 2日目に初期胚に発生した胚を少なくとも 4個以上 有することであった。
[0021] 前治療サイクルとして、患者はロングプロトコールによる措置を施された。すなわち、 治療前周期の高温期の 7日目力もゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)ァゴニスト 60 O ^ gを使用開始し、月経 3日目から,次席卵胞の直径が 18mmになるまで連日卵胞 刺激ホルモン (FSH製剤または HMG製剤)による卵巣刺激を受けた。次席卵胞の
直径が 18mmを超えたとき,排卵を促した。ヒト絨毛性ゴナドトロピン (hCG) 5000単 位を筋肉注射しその 36時間後に,超音波検査法を頼りに経膣的に採卵した。卵胞 の計測は,超音波スキャニング(Mitsubishi RDF173H)により行った。
[0022] 回収卵子は媒精法、または卵細胞質内精子注入法により受精させた。受精卵を、 B lastAssist System培地 1〔合成血漿代替物(SSR),ヒト血漿ァノレブミン, グルコース, ピルビン酸ナトリウム,乳酸塩,硫酸カリウム,硫酸マグネシウム,塩化ナトリウム,リン 酸水素ナトリウム,非必須アミノ酸, L グルタミン,タウリン,重炭酸ナトリウム, HEP ES ,ストレプトマイシン 50mg/L,ペニシリン 50,000 IU/L,及びフエノールレッド を含有; MediCult社, Jyllinge, Denmark]の小滴 50 1中で培養し, 2日目に初期胚を 得た。次いで、得られた初期胚の 1〜4個をミネラルオイル(Oil Embryo Culture, Irvi ne Scientific Santa Ana California USA)の被膜下で、 BlastAssist System培地 2〔合成 血漿代替物(SSR),ヒト血漿アルブミン,グルコース,ピルビン酸ナトリウム,乳酸,硫 酸カリウム,硫酸マグネシウム,塩化ナトリウム,リン酸水素ナトリウム,必須アミノ酸, 非必須アミノ酸, L グルタミン,重炭酸ナトリウム,ストレプトマイシン 50mg/L,ぺ ニシリン 50,000 IU/L,及びフエノールレッドを含有; MediCult社, Jyllinge, Denmark 〕の /J、滴 50〃 1中で,すなわち月丕 1固当たりの培地量 12· 5〜50〃1で,更に 3曰、合 わせて 5日目まで培養し胚盤胞を得た。培養プレートとして, FALCON353002 Tissue Culture Dish (Becton Dickinson, Franklin Lakes USA)を使用した。胚の培養は 5% CO , 5%0 , 90%Ν , 37°C, 100%湿度に設定したインキュベーター(TE-HER Ρ RODUCT O - CO incubator CP 02-1800シリーズ,ヒラサヮ、東京、 日本)内で実施 した。この培養過程で得られた初期胚及び胚盤胞の一部は新鮮な状態で前治療周 期の移植に用いられた。前治療周期の移植に用いな力、つた余剰の胚盤胞は凍結保 存した。また、 BlastAssist System培地 2における胚培養上清を 20°Cで保存した。
[0023] 患者に、採卵後 2日目に上記培養で得られた初期胚、採卵後 5日目に上記培養で 得られた胚盤胞を、それぞれ前治療周期で移植した。この前処理により妊娠した患 者は本試験から離脱した。
[0024] 前治療周期の移植で妊娠をしな力、つた患者(22名 )に対して、同移植後の月経次 周期若しくは月経次々周期に、次の処置を施した。エストラジオール製剤としてエスト
ラダーム Mの貼付を月経周期 2日目より開始した。 2日目からエストラダーム M2枚を 隔日に貼付し 10日目に 3枚、 12日目に 4枚、さらに 14日目に 6枚に漸増し、その後 1 6日目から妊娠判定日である 30日目までは 3枚を維持した。更に、プロゲステロン製 剤として、月経周期 15日目力もプロゲステロン膣坐剤(400mg/日)と酢酸クロルマ ジノン 12mg/日(内月艮)を併用した。
[0025] ホルモン補充療法(HRT)サイクルの 20日目に、 1または 2個の胚盤胞を患者に移 植した。移植は、子宮頸管を通して Fai con IVFカテーテル (Fuji systems)を用いて 行った。
[0026] 子宮内膜刺激胚移植群〔SEET (Stimulation of Endometrium Embryo Transfer)群 〕では、胚盤胞移植に先立って、ホルモン補充療法 (HRT)サイクル 17日目に、凍結 保存した BlastAssist System培地 2における患者自身の胚培養上清を解凍し、これを 11名の各患者の子宮腔に約 2011 1投与した。投与は、胚培養上清 2011 1を装填した Fai con IVFカテーテル(Fuji systems)を子宮頸管に挿入し、カテーテルの先が子宮 腔の基底部から約 lcmに達したときに培地を放出することによって行った。
[0027] コントロールである通常の胚盤胞移植群(BT群)に属する 11名の患者では、胚培 養上清の子宮腔への投与をすることなぐ胚盤胞移植を行った。
[0028] 胚移植後 17日目に、超音波スキャニング(Mitsubishi RDF173H)により子宮内の胎 嚢の有無を確認した。
[0029] 〔被験者群〕
SEET群と BT群の患者の基礎的特徴を表 1に示した。 SEET群と BT群の平均年 齢(土 SD)は、それぞれ, 37. 1 ±4. 1歳及び 36. 0 ± 3. 4歳であった(p = 0. 47)。 不妊の継続期間(土 SD)は、 SEET群 7. 6 ± 3· 8年、 BT群 6. 0 ± 2· 3年であった( ρ = 0. 27)。今回の試験前に経験した体外受精などの生殖補助技術 (ART)サイク ノレ数は、 SEET群 1. 6 ± 0. 9回、 BT群 2. 5 ± 2. 9回であった(p = 0. 39)。卵胞刺 激ホルモン(FSH)の基礎値(土 SD)は、 SEET群 6. 5 ± 2· OmIU/ml、 BT群 5· 7 ± 2· 7mIU/mlであった(ρ = 0· 46)。受精させた卵細胞の数(土 SD)は、 SEET 群 8· 5 ± 2. 0個、 BT群 8· 5 ± 1. 7個であった(ρ= 1 · 0)。移植された胚盤胞の数( 土 SD)は、 SEET群で 1 · 5 ± 0. 5個、 BT群で 1 · 5 ± 0. 5個であった(ρ = 0· 69)。
以上のように、 SEET群と BT群の患者の間で,基礎的特徴に有意な差は認められな 力 た。また,移植された胚盤胞の質は,両群間で同等であった。
[0030] 〔結果〕 SEETの有効性及び安全性
試験結果を表 1に示した。 SEET群では 11名中 10名が妊娠したのに対し、 BT群 にお!/、ては妊娠は 11名中 4名に止まった。妊娠率〔胎嚢の発生が認められた患者の 割合(%)〕は, SEET群 91. 9%で BT群 36. 4%であり、 BT群と比較したときの SEE T群の妊娠率向上は,統計学的に有意であった (p = 0. 027)。また、着床率〔移植し た胚盤胞のうち胎嚢へと発生したものの割合(%)〕は SEET群 70· 6%, BT群 25. 0 %であり、 BT群と比較した SEET群における着床率向上は統計学的に有意であった (p = 0. 023)。両群ともに,患者に副作用は観察されな力 た。
[0031] [表 1]
産業上の利用可能性
本発明は、胚盤胞移植における妊娠率、着床率を著しく改善する新しいタイプの妊 娠促進剤として有用である。