脱水縮合反応により相転移を生じ得る分子集合体およびその相転移方法 技術分野
本発明は、 水界面での脱水縮合反応により相転移を生じ得る分子集合体お よびその相転移方法に関する。 よ明り詳細には、 リボソームなどの水界面の分 子集合体の融合や分裂を誘起させる方法に関する。
書
背景技術 '
分子集合状態の変化を起こすためには、 一般的には、 界面活性剤の濃度や 温度を変化させている。 ミセルなどの平衡系においては、 異なる種類の界面 活性剤を添加すれば、 状態変化が速やかに起こる。
一方、 リボソームに代表される二分子膜べシクルのような分散系では、 こ れらを構成している脂質は、 比較的安定な状態にあるため、 その移動は非常 に遅い。 これらの集合体の融合や分裂を誘起するために、 一般的には、 界面 の物理的な状態変化を起こしている。 この場合、 用いる脂質や反応条件など に依存性が高く、 制限がある場合が多い。
例えば、 ホスファチジルセリンなどから構成されるリボソームは、 C a 2 + の添加によって膜融合などの相転移が誘起される (Duzgunesら、 Biochemist ry, 1987年, 26卷, 8435- 8442頁) 。 これは、 C a 2 +によって、 電荷の中和、 脂質間の架橋、 脱水和などが起こり、 膜が不安定になるためと考えられる。 し力 し、 この方法は、 中性リン脂質のみから構成されるリボソームには適用 できない。 また、 ホスファチジルコリンからなるリボソームに高濃度のポリ エチレングリコールを添加することによって、 膜融合が起こることが報告さ れている (Lentzら、 Biochemistry, 1992年, 31卷, 2643 - 2653頁および Yang
ら、 Biophysical Journal, 1997年, 73巻, 277-282頁) 。 これは、 膜の自由 水が消失することによって膜が不安定になるために起こる。 さらに、 ウィル スを利用する膜融合法も提案されている (Blumenthalら、 Chemistry and Ph ysics of Lipids, 2002年, 116卷, 39- 55頁) 。 この方法では、 膜の外側に、 ウィルスに対するレセプターが必要である。 電気パルスによる物理的刺激を 介する S莫融合誘起法 (Sugarら、 Biophysical Chemistry, 1987年, 26巻, 32 1頁) あるいは接触させたリボソームに U V光を当てることによる膜融合法 (Kulinら、 Langmuir, 2003年, 19卷, 8206-8210頁) も報告されている。 タ ンパク質またはペプチドを添加することによって、 p H依存的なプロトン化 による高次構造の変化を引き起こし、 それによつて膜融合を誘起する方法も ある (Kimら、 Biochemistry, 1986年, 25卷, 7867 - 7874頁) 。
これらの種々の融合方法は、 いずれも分子集合体を形成している脂質の物 理的状態変化に基づくものであり、 融合の前段階で凝集を生じている必要が ある。 すなわち、 単独で分散している場合には、 分子集合体の脂質は、 全く 活十生ィ匕していない状態にある。
一方、 化学反応に基づく膜の相転移、 例えば、 融合および分裂についての 報告がある (Takakuraら、 Chemistry Letters, 2002年, 404- 405頁および To yotaら、 Chemistry Letters, 2004年, 33卷, 1442 - 1443頁) 。 具体的には、 べシクルの二分子膜中での脱水縮合によるィミン形成およびその加水分解反 応により、 べシクルの形態変化が生じ、 それによつて膜融合および分裂が生 じる。 例えば、 疎水性反応性基 (アルデヒド基) を有する両親媒性脂質で形 成されたべシクルの分散液中に親水性反応性基 (ァミノ基) を有する両親媒 性脂質のミセルの分散液を加えると、 二分子膜中で反応性基間の可逆的な脱 水縮合反応によってィミンが生じて、 べシクルが大きくなる (Takakuraら、 前出) 。 また、 これらの各反応性基を有する脂質と脱水縮合した両親媒性脂 質との存在比に応じて、 べシクルの可逆的な形態変化が観察されている (To
yotaら、 前出) 。 し力 し、 これらの方法では、 べシクルの二分子膜の状態を 制御することはできない。 - 酵素を用いた生物学的手法によって脂質構造を変化させることによって、 融合を起こす方法おある。 具体的には、 ホスファチジルコリンまたはホスフ ァチジノレエタノールアミンをホスホリパーゼ Cで (Nieva, J. -L.ら、 Bioche mistry, 1989年, 28卷, 7364- 7367頁) 、 あるいはスフインゴミエリンをス フインゴミエリナーゼで (大木和夫、 生物物理, 2004年, 44巻, 161-165 頁) それぞれ加水分解することによって、 べシクルの二分子膜を構成してい るリン脂質のリン酸基を除去し、 それぞれジァシルグリセロールまたはセラ ミ ドを生成する方法である。 いずれも分子の形が、'逆コーン型から極性頭部 の分子面積が小さい円柱型へ変化し (臨界充填パラメータが変ィヒし) 、 曲率 が変わって融合が生じる。
生物学的な研究として、 膜の融合や分裂を起こす際に、 一本鎖のリン脂質 をァシルイヒして二本鎖リン脂質へと変化させる酵素の活性が上昇することが 報告されている (Schmidt, A.ら、 Nature, 1999年, 401卷, 133- 141頁) 。 すなわち、 神経終末のシナプスにおいて、 シナプス小胞の再形成の際に、 リ ゾホスファチジン酸 (L P A) ァシル基転移酵素が必須であることが示され ている。 この酵素は、 リン酸が結合したモノァシルグリセロール (一本鎖の リン脂質) である L P Aにァシル基を転移して、 二本鎖のリン脂質へと変化 させる。 膜の変化が起きる際にこの反応が行われているため、 このような酵 素的化学反応による膜の曲率変化が重要であることが示唆されている。 発明の開示
本発明は、 分子集合体を形成している脂質の化学的変化によって、 その物 理的性質や形態を変化させ、 膜融合などの相転移のタイミングなどを調節す ることが可能な方法を提供することを目的とする。
本発明の二分子膜べシクルの相転移を誘起させる方法は、 ァミンまたは力 ルボン酸塩の極性頭部を有する界面活性剤を含む分子集合体 (リボソーム) 中で、 化学的にこれらの脱水縮合反応を行うことにより、 脂質の臨界充填パ ラメータを変化させ、 その結果、 リボソームの二分子膜の曲率が変化し、 そ れによって生じた歪が生じることに基づく。
本発明は、 二分子膜べシクルを提供し、 該ニ分子膜べシクルは、
(a) 炭素数 6から 20までの脂肪酸塩;
(b) 炭素数 6から 20までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはァミン 化合物;および
( c ) 二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質
を膜の構成成分として含む。
ある実施態様では、 上記 (b) アルコールまたはァミン化合物は、 以下の 式 I :
R1— NH— CH2— CH(OH)— CH2OH (I)
(式中、 R1は、 炭素数 6から 20までのアルキル基、 炭素数 6から 20ま でのアルケニル基、 または炭素数 6から 20までのアルキニル基である) で 表される二価アルコールである。
より好適な実施態様では、 上記二分子膜べシクルは、 さらに (d) 以下の 式 I I : CD
(式中、 R2、 R3、 および R4のうちの 1つまたは 2つは、 メチル基であり、 そして残りの R2、 R3、 および R4は、 それぞれ独立して、 一 CH2COO CnH2n +い 一 CnH2n +い または _C6H4— p— CnH2n + 1であり、 ここ で nは 6から 20までの整数であり、 一 CnH2n + 1は直鎖状である) で表さ
れる 3級ァミン;
を上記膜の構成成分として含む。 -
1つの実施態様では、 上記 (a) 脂肪酸塩と上記 (b) アルコールまたは ァミン化合物との ル比は 1 : 1である。
さらなる実施態様では、 上記 (a) 脂肪酸塩と上記 (b) アルコールまた はァミン化合物と上記 (c) 二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン 脂質とのモル比は 1 : 1 : 1である。
ある実施態様では、 上記 (c) 二分子膜を形成し得る人工合成脂質または リン脂質は、 リン S旨質である。
本発明はまた、 二分子膜べシクルの相転移を誘起させる方法を提供し、 該 方法は、
二分子膜べシクルを調製する工程であって、 該ニ分子膜べシクルが、
(a) 炭素数 6から 20までの脂肪酸塩;
(b) 炭素数 6から 20までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはァミン 化合物;および
(c) 二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質;を膜の構成成 分として含む、 工程;および
該ニ分子膜べシクルに脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体を添加するェ 程;
を含む。
1つの実施態様では、 上記 (b) アルコールまたはァミン化合物は、 以下 の式 I :
R1-NH-CH2-CH(OH)-CH2OH (I)
(式中、 R1は、 炭素数 6から 20までのアルキル基、 炭素数 6から 20ま でのアルケニル基、 または炭素数 6から 20までのアルキニル基である) で 表される二価アルコールである。
さらなる実施態様では、 上記二分子膜べシクルは、 さらに (d) 以下の式
I I :
(II)
(式中、 R2、 R3、 および R4のうちの 1つまたは 2つは、 メチル基であり、 そして残りの R2、 R3、 および R4は、 それぞれ独立して、 一CH2COO CnH2n +い 一 CnH2n +い または一 C6H4— p— CnH2n + 1であり、 ここ で nは 6から 20までの整数であり、 一 CnH2n + 1は直鎖状である) で表さ れる 3級ァミンを、 上記膜の構成成分として含み、'そして
上記脱水縮合剤前駆体は、 以下の式 I I I :
(式中、 R5および R6は、 それぞれ独立して、 メチル基、 ェチル基、 炭素数 2から 5のヒドロキシアルキル基、 一 (CH2CH2〇) mR7 (ここで、 m は 1から 1 20までの整数であり、 そして R 7は、 水素原子、 メチル基、 ェ チル基、 またはプロピル基である) 、 一 (CH2CH2NR8) mH (ここで、 mは 1から 1 20までの整数であり、 そして R 8は、 炭素数が 2から 5のァ ルキル基、 N, N—ジアルキルアミノエチル基、 または一 CH2CH2N + (CH3) 3である) 、 一 CH2CH2S03—、 -CH2CH2N+ (CH3) 3、 または炭素数 6から 20のアルキル基であるが、 R 5および R6は同時に炭素 数 6から 20のアルキル基ではなく、 そして; Xがハロゲン原子である) で 表される、 シァヌル酸誘導体である。
ある実施態様では、 上記式 I I Iにおける R 5および R 6の少なくとも一方 はメチル基またはェチル基である。 -
1つの実施態様では、 上記式 I Iにおける nは 1 2から 1 6である。 本発明の方法に れば、 脱水縮合反応を利用して二分子膜べシクルからな る分子集合体を形成している脂質を化学的に変化させて、 その物理的性質や 形態を変化させ、 膜融合などの相転移のタイミングなどを調節することが可 能であり得る。 すなわち、 二分子膜べシクルにおいて分子集合体の相転移 (融合や分裂) を誘起させることが可能になる。 したがって、 活性化状態ま たは準安定状態のべシクルを提供し得る。 また、 本発明の二分子膜べシクル は、 このような相転移を誘起するために好適に使用され得る。 図面の簡単な説明
図 1は、 本発明の原理を説明するための模式図である。
図 2は、 N B D— P Eから R h— P Eへの蛍光エネルギー転移の蛍光スぺ クトル図である。
111 3は、 M L V中に生じる擬似セラミドの収量の経時変化を示すグラフで ある。
図 4は、 S UVの膜結合による F値の経時的変化を示すグラフである。 図 5は、 蛍光希釈法による S U V膜融合による F値の経時的変化を示すグ ラフである。
図 6は、 C DMT添加前の S UVの電子顕微鏡写真である。
図 7は、 C DMT添加後の S U V (GUV) の電子顕微鏡写真である。 図 8は、 メタノールのみの添加後の S UVの電子顕微鏡写真である。 発明を実施するための最良の形態
本発明においては、 べシクルの二分子膜中に導入した適切な両親媒性物質
を、 脱水縮合剤によって脱水縮合反応させて、 二分子膜の状態を変化させる ことができる。
本発明の原理を、 図 1に基づいて説明する。 一般的な界面活性剤において は、 図中の逆三角开のように、 電荷を有するアミンゃカルボン酸塩は、 極性 頭部が大きい逆コーン型の界面活性剤である。 これらが脱水縮合したセラミ ドは、 この反応の前後で、 両親媒性物質のァシル鎖 (またはアルキル鎖) の 数と極性頭部の電荷や官能基の種類が変化し、 例えば、 電荷の消失によって 極性頭部が小さくなるため、 図中の長方形で示すような円柱またはコーン型 の脂質となる。 そこで、 これらのァミンとカルボン酸塩とを含む分子集合体 (リボソームなど) 中で、 これらの化合物の脱水縮合反応を行うと、 臨界充 填パラメータの増加と膜間の斥力低下とによつて膜の曲率の変化などが生じ、 これらを緩和するために最終的に膜が融合すると考えられる。 具体的には、 スフインゴシンからのセラミド合成が挙げられる。 し力し、 スフインゴシン の大量入手は困難なので、 好適には、 例えば、 類似の化合物として図に示す ような二価アルコールを用いて、 その縮合による擬似セラミド合成によって、 上記原理を確認した。
本発明の方法は、 脱水縮合によりセラミド類似物質を形成し得る基質に対 して幅広く応用可能であると考えられる。 このような基質として、 両親媒十生 の多様な脂肪酸塩や 1級および 2級ァミン類が挙げられる。 特に、 生成物で ある擬似セラミドの両親媒性を維持するためには、 少なくともカルボン酸ま たはアミンゃアルコールィヒ合物のいずれかの極性頭部周辺に、 脱水縮合反応 する力ルポキシル基ゃァミノ基または水酸基とは別に、 親水性官能基が存在 していることが好ましい。 この親水性官能基としては、 水酸基や糖などの中 性のものが好ましいが、 一般的な界面活性剤の極性頭部である 4級ァンモニ クムイオン、 リン酸イオン、 スルホン酸イオン、 硫酸イオンなどのイオンで あってもよい。
以下、 本発明について、 より詳細に説明する。
本発明は、 上記のように、 相転移を生じ得る二分子膜べシクルならびにそ の相転移方法を提供する。 本発明において、 「相転移」 とは、 二分子膜べシ クルの膜の相転移に限定されない。 例えば、 二分子膜べシクル膜融合や膜分 裂、 二分子膜べシクルから平面二分子膜ゃミセルへの変化、 ミセルから二分 子膜べシクルへの変化など、 種々の分子集合相の形態変化を包含する。
本発明の二分子膜べシクルは、
( a ) 炭素数 6から 2 0までの脂肪酸塩;
( b ) 炭素数 6から 2 0までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはァミン 化合物;および '
( c ) 二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質;を膜の構成成 分として含む。
上記 (a ) 炭素数 6から 2 0までの脂肪酸塩は、 水界面に集積する能力を 有する両親媒性の脂肪酸塩であれば、 特に限定されない。 このような脂肪酸 塩としては、 好ましくは、 長鎖アルキル基のような脂溶 1"生基を有する脂肪酸 塩、 より好ましくは炭素数約 1 0から約 2 0の直鎖、 分岐鎖、 または環状の 脂肪酸塩が挙げられる。 具体的には、 力プリン酸 (デカン酸) 、 ゥンデカン 酸、 ラウリン酸 (ドデシル酸) 、 ミリスチン酸、 パルミチン酸、 パルミトレ イン酸、 ステアリン酸、 ォレイン酸、 エライジン酸、 ペトロセリン酸、 リノ ール酸、 ひ一リノレン酸、 γ—リノレン酸、 ィコサン酸、 ィコサトリェン酸、 ァラキドン酸などの塩が挙げられる。 これらの塩としては、 通常、 ナトリウ ム塩、 カリウム塩などが挙げられる。 必要に応じて、 これらの化合物のカル ポキシル基の周辺または近傍に、 上記のような親水性官能基を有していても よい。
上記 (b ) 炭素数 6から 2 0までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはァ ミン化合物は、 上記 (a ) 脂肪酸塩の力ルポキシル基と脱水縮合可能な基
(例えば、 水酸基ゃァミノ基) を有し、 力つ水界面に集積する能力を有する 両親媒性の化合物であれば、 特に限定されない。 好ましくは、 長鎖アルキル 基のような脂溶性基を有し、 そして脱水縮合可能な基の周辺または近傍に、 上記のような親水性官能基を有していることがより好ましい。' なお、 上記 ( a ) 脂肪酸塩が、 脱水縮合反応するカルボキシル基以外にさらなる親水性 官能基を有していない場合は、 この (b ) の化合物は、 極性頭部周辺に、 さ らに親水性官能基を有していることがより好ましい。
このような化合物の好適な例としては、 以下の式 I :
R - NH -CH2-CH (OH) -CH2OH ( I )
(式中、 R 1は、 炭素数 6から 2 0までのアルキル基、 炭素数 6から 2 0ま でのアルケニル基、 または炭素数 6から 2 0までのアルキニル基である) で 表される二価アルコールが挙げられる。 この二価アルコールにおいては、 ァ ミン部分が脱水縮合可能な基であり、 そしてアルコール部分が親水性官能基 に相当する。
上記式 Iで表される (b ) 二価アルコールにおいて、 R 1が、 炭素数 6か ら 2 0までのアルキル基である場合、 このアルキル基は、 直鎖状、 分岐鎖状、 または環状であり得る。 好ましくは炭素数約 1 0から約 2 0の直鎖状である。 このようなアルキル基としては、 n—デシル、 n—ドデシル (ラウリル) 、 n一へキサデシル、 n—ォクタデシルなどが挙げられる。 R 1が、 炭素数 6 から 2 0までのアルケニル基である場合、 このアルケュル基は、 直鎖状、 分 岐鎖状、 または環状であり得る。 好ましくは炭素数約 1 0から約 2 0の直鎖 状である。 このようなアルケニル基としては、 1ーデセニル、 1―ドデセ二 ル、 9一へキサデセニル、 9ーォクタデセニルなどが挙げられる。 R 1が、 炭素数 6から 2 0までのアルキニル基である場合、 このアルキニル基は、 直 鎖状、 分岐鎖状、 または環状であり得る。 好ましくは炭素数約 1 0から約 2 0の直鎖状である。 このようなアルキニル基としては、 1一デシュル、 1一
ドデシェル、 9一へキサデシニル、 9一オタタデシュルなどが挙げられる。 上記 (c) 二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリ'ン脂質は、 二分子 膜を形成し得る化合物であれば、 特に限定されない。
人工合成脂質とし は、 長鎖ジアルキル化合物、 モノアルキル界面活性剤、 三本鎖型界面活性剤などが挙げられる。 例えば、 「リボソーム」 、 野島庄七 ら編, 南江堂, 1988年, 302-309頁に例示されている。 一般的には、 C 1 2 〜C 15の 2本の長鎖状アルキル基と親水性官能基 (カチオン性、 ァニオン 性、 非イオン性など) を同一分子内に有する化合物が好適であり、 代表的に は、 C 12〜C 15のジアルキルアンモ-ゥム塩が挙げられる。
リン脂質は、 特に限定されず、 グリセ口リン脂質またはスフインゴリン脂 質のいずれであってもよい。 このようなリン脂質としては、 ホスファチジル コリン (レシチン) 、 ホスファチジルエタノーノレアミン、 ホスファチジノレセ リン、 ホスファチジルイノシトール、 ホスファチジルグリセロール、 スフィ ンゴミエリンなどが挙げられる。 好適には、 ホスファチジルコリンである。 本発明の二分子膜べシクルは、 必要に応じて、 膜の構成成分としてさらに、
(d) 以下の式 I I : (ID
(式中、 R
2、 R
3、 および R
4のうちの 1つまたは 2つは、 メチル基であり、 そして残りの R
2、 R
3、 および R
4は、 それぞれ独立して、 一 CH
2COO C
nH
2n +い _C
nH
2n +い または一 C
6H
4—
P— C
nH
2n + 1であり、 ここ で nは 6から 20までの整数であり、 一 C
nH
2n + 1は直鎖状である) で表さ れる 3級ァミンを含む。
上記式 I Iで表される (d) 3級ァミンの R2、 R3、 および R4であり得 る一 CH2COOCnH2n +い 一 CnH2n +い または一C6H4— p—CnH2
n +1において、 nは 6から 20までの整数であり、 そして一 CnH2n + 1は直 鎖状である。 これらの置換基としては、 例えば、 n—ォクチルォキシカルボ ニルメチレン、 n—デシルォキシカルポニルメチレン、 n—ドデシルォキシ カノレポニノレメチレン、 n—へキサデシノレ才キシカノレボニノレメチレン; n—へ キシノレ、 n—へプチノレ、 n—才クチノレ、 n—ノニノレ、 n一デシノレ、 n—ゥン デシノレ、 n—ドアシノレ、 n—トリアシノレ、 n—テトラテシノレ、 n—ペンタテ シノレ、 n一へキサデシノレ、 n—ヘプタデシノレ、 n—ォクタデシノレ、 n—ノナ デシノレ、 n—エイコシル ; p— (n—へキシノレ) フエ二レン、 p― (n—ォ クチノレ) フエ二レン、 p - (n—デシノレ) フエ二レン、 p— (n—ドデシ ノレ) フエ二レン、 p— (n—テトラデシノレ) フエ レン、 p― (n—へキサ デシル) フエエレン、 p - (n—ォクタデシノレ) フエ二レンなどが挙げられ る。 本発明の二分子膜べシクルへの導入のしゃすさを考慮すると、 好ましく は、 上記式 I Iの R2、 R3、 および R4における nは 8から 18、 より好ま しくは 12から 16である。
上記式 I Iの R2、 R3、 および R4について、 本発明の方法による脱水縮 合の反応性を考慮すると、 R2、 R3、 および R4のうちの 1つまたは 2つは、 メチル基であり、 そして残りの R2、 R3、 および R4は、 炭素数 6から 20 の直鎖アルキル基を有する基である。 より好ましくは、 R2、 R3、 および R 4のうちの 2つはメチル基である。 R2、 R3、 および R4がすべて炭素数 6 から 20の直鎖アルキル基を有する基である場合は、 反応効率がよくないの で、 好ましくない。
上記式 I Iで表される 3級ァミンを二分子膜べシクルの膜の構成成分とし て含む場合は、 脱水縮合剤前駆体である、 以下で詳述する式 I I Iで表され るシァヌル酸誘導体を用いることが好ましい。
本発明の二分子膜べシクルにおける上記 (a) 〜 (d) の割合は、 べシク ルが形成され得る限り、 特に限定されない。 脱水縮合反応の基質である
(a) 脂肪酸塩と (b) アルコールまたはァミン化合物とは、 約 1 : 1のモ ノレ比であることが好ましい。 さらに好ましくは、 (a) 脂肪酸塩と (b) ァ ルコールまたはァミン化合物と (c) 人工合成脂質またはリン脂質とのモル 比は約 1 : 1ぺ 1である。 (d) 3級ァミンは、 通常、 (a) 脂肪酸塩 1モ ルに対して 0. 01〜1. 0モル、 好ましくは 0. 1〜0. 5モルの割合で 含まれる。
上記 (a) 〜 (d) はそれぞれ、 単独で用いても、 2種以上を混合して用 いてもよい。
本発明の二分子膜べシクルは、 必要に応じて、 他の界面集積性を有する化 合物あるいは界面集積性はないが二分子膜中に含まれ得る化合物を含んでい てもよい。 例えば、 以下で詳述するように、 膜融合を観察するための蛍光物 質などが挙げられる。
本発明の二分子膜べシクルは、 多重ラメラベシクル (MLV :通常 0. 2 〜5 μπιサイズ) または一枚膜べシクル (SUV : l O O nm以下; LUV および REV: 100〜1000 nm ; GUV : 1000 nm以上) のいず れであってもよい。 これらは、 当業者が用いる一般的な方法によって製造さ れ得る。 例えば、 MLVは、 次のように製造され得る:上記 (a) 〜 (d) をそれぞれ適切な有機溶媒 (例えば、 メタノール、 クロ口ホルムなど) に溶 角旱して容器中で混合し、 有機溶媒を留去する。 次いで、 内壁に形成された薄 膜を乾燥させた後、 適切な水溶液 (例えば、 リン酸緩衝液、 トリス塩酸緩衝 液、 炭酸緩衝液など) を加え、 約 30秒程度の超音波照射によって膨潤させ る。 さらにボルテックスミキサーなどで攪拌振盪して、 薄膜を剥がすことに よって、 MLVを懸濁液の状態で得ることができる。 SUVは、 例えば、 さ らに高出力で強力に超音波照射 (例えば、 氷冷下にて約 20分間) すること によって SUVの分散液として得られ得る (超音波処理法) 。 あるいは、 ェ タノールに溶解した脂質を相転移温度以上で緩衝液中にマイクロシリンジで
注入するェタノール注入法、 M L Vをフレンチプレスセルに入れて押し出す フレンチプレス法などによっても、 SUVを調製できる。 · LUVは、 エーテ ル注入法、 界面活性剤法、 C a 2+融合法、 凍結一 解法などの当業者が通常 用いる方法によつで調製される。 REVは、 逆相蒸発法によって得られる。 GUVは、 例えば、 メチルダルコシドと脂質とのエタノール溶液を多量の緩 衝液に対して透析することにより得られる。
本発明の二分子膜べシクルの相転移 (例えば、 膜融合) を誘起させる方法 は、
上記二分子膜べシクルを調製する工程;および
該ニ分子膜べシクルに脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体を添加する工程、 を含む。
上記方法で用いられる脱水縮合剤としては、 水溶性の脱水縮合剤あるいは 界面集積性の脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体が挙げられる。
水溶性の脱水縮合剤としては、 例えば、 以下の式 I V:
(ここで、 Eは、 3級アミノ基を 1または 2個有する一または二価の誘起基 であり ; nは、 Eが 3級アミノ基を 1個有するときは 1であり、 Eが 3級ァ ミノ基を 2個有するときは 2であり ; R 9および R 10はそれぞれ独立して炭 素数 1〜4のアルキル基、 または炭素数 6〜 8のァリール基を示し; aは 1 または 2であり、 nが 1のときは 1であり ;そして、 Z— (n/a)は (n, a) 価のカウンターァニオンを示す) で表される 4級アンモニゥム塩が挙げ
られる (WO 00/53544および Kunishimaら、 Tetrahedron, 2001年, 57巻, 1551 - 1558頁参照) 。 具体的には、 4一 (4, 6—ジメトキシ一 1, 3, 5—トリアジン一 2—ィル) 一4—メチルモルホリウムクロリ ド (DM T-MM) が挙げられる。
界面集積性の脱水縮合剤としては、 以下の式 V:
(式中、 R5および R6は、 それぞれ独立して、 メチル基、 ェチル基、 炭素数 2から 5のヒドロキシアルキル基、 一 (CH2CH20) mR7 (ここで、 m は 1から 1 20までの整数であり、 そして R7は、 水素原子、 メチル基、 ェ チル基、 またはプロピル基である) 、 一 (CH2CH2NR8) mH (ここで、 mは 1から 1 20までの整数であり、 そして R8は、 炭素数が 2から 5のァ ルキル基、 N, N—ジアルキルアミノエチル基、 または— CH2CH2N +
(CH
3) 3である) 、 一 CH
2CH
2SO
3一、 一 CH
2CH
2N+ (CH
3)
3、 または炭素数 6から 20のアルキル基であるが、 R
5および R
6は同時に炭素 数 6から 20のアルキル基ではなく ; R
2、 R
3、 および R
4のうちの 1つま たは 2つは、 メチル基であり、 そして残りの R
2、 R
3、 および R
4は、 それ ぞれ独立して、 — CH
2COO— C
nH
2n +い 一 C
nH
2n +い または一 C
6H
4— p—C
nH
2n + 1であり、 ここで nは 6から 20までの整数であり、 一C
n H
2n + 1は直鎖状であり ;そして X—は、 ハロゲン化物イオンである) で表さ れる、 1, 3, 5—トリアジン型化合物が挙げられる。 この式 Vで表される 化合物は、 以下の式 I I I :
(式中、 R 5および R 6は、 それぞれ独立して、 メチル基、 ェチル基、 炭素数 2から 5のヒドロキシアルキル基、 一 (CH2CH20) mR7 (ここで、 m は 1から 120までの整数であり、 そして R 7は、 水素原子、 メチル基、 ェ チル基、 またはプロピル基である) 、 一 (CH2CH2NR8) mH (ここで、 mは 1から 120までの整数であり、 そして R8は、 炭素数が 2から 5のァ ルキル基、 N, N—ジアルキルアミノエチル基、 または一 CH2CH2N +
(CH3) 3である) 、 一 CH2CH2S03一、 一 CH2CH2N+ (CH3) 3、 または炭素数 6から 20のアルキル基であるが、 R5および R6は同時に炭素 数 6から 20のアルキル基ではなく、 そして; Xがハロゲン原子である) で 表される、 シァヌノレ酸誘導体と、 以下の式 I I : (Π)
(式中、 R2、 R3、 および R4は上で定義したとおりである) で表される 3 級ァミンとを、 適切な溶媒中で混合することによって得られる。 特に、 脱水 縮合させるべき少なくとも 2種類の化合物を混合すると同時に、 これらのシ ァヌル酸誘導体および 3級ァミンも混合することが好ましい。
脱水縮合剤として、 上記式 Vで表される 1, 3, 5—トリアジン型化合物 を直接用いてもよいが、 この化合物は上述のようにべシクル調製の際に同時 に加えることが好ましいため、 融合や相転移を調節することが困難である。 そこで、 予め (d) 3級ァミン化合物を膜の構成成分として含むように調製
されたべシクルに、 脱水縮合剤前駆体であるシァヌル酸誘導体 (化合物 I I I) を添加することが好ましい。 この場合、 リボソームを調製した後にシァ ヌノレ誘導体 (化合物 I I I) を加えることにより、 系内 (リボソーム界面) で脱水縮合剤 (化合物 V) を発生させて、 界面の脱水縮合反応を起こすこと ができる。 そのため、 目的とする融合や相転移を適切に行うために、 より好 適でめ。。
上記式 I I Iにおいて、 R5および R6が炭素数 2から 5のヒドロキシアル キル基である場合、 このヒドロキシアルキル基は、 直鎖状、 分岐鎖状、 また は環状であり得、 ヒドロキシ基の位置および数は、 特に制限されなレ、。 好ま しくは、 直鎖状であり、 そして末端ヒドロキシである。 炭素数 2から 5のヒ ドロキシアルキル基としては、 例えば、 2—ヒ ドロキシェチル、 3—ヒ ドロ キシプロピル、 4ーヒ ドロキシブチル、 5—ヒ ドロキシペンチルが挙げられ る。
上記式 I I Iにおいて、 R5および R6がー (CH2CH2〇) mR7である 場合、 mは、 1から 120までの整数、 好ましくは 1から 50までの整数で ある。 R7は、 水素原子、 メチル基、 ェチル基、 またはプロピル基である。 この場合、 R5および R6の部分の平均分子量は、 好ましくは約 45から約 5 000まで (mが 1から 120に相当) 、 より好ましくは約 45から約 20 00まで (mが 1から 50に相当) である。
上記式 I I Iにおいて、 R5および R6がー (CH2CH2NR8) mHであ る場合、 mは、 1から 1 20までの整数、 好ましくは 1から 50までの整数 である。 R8は、 ェチル基または N, N—ジアルキルアミノエチル基であり、 該アルキルの炭素数は 2から 5である。 この場合、 R5および R6の部分の平 均分子量は、 好ましくは約 45から約 5000まで (mが 1から 120に相 当) 、 より好ましくは約 45から約 2000まで (mが 1から 50に相当) である。
上記式 I I Iにおいて、 R5および R6が炭素数 6から 20のアルキル基で ある場合、 このアルキル基は、 直鎖状、 分岐鎖状、 または環状であり得る。 好ましくは直鎖状である。 R5および R6の炭素数 6から 20のアルキル基と しては、 n—へキシクレ、 n—ペンチノレ、 n—ォクチノレ、 n—ノ ノレ、 n—デ シル、 n—ドデシル、 n—へキサデシルなどが挙げられる。
上記式 I I Iの R5および R6について、 このシァヌル酸誘導体の水界面へ の留まりやすさを考慮すると、 1 50—ぉょび1 60—部分は、 親水性を有し ていることが好ましい。 上記の R2、 R3、 および R4との組み合わせにより 異なるが、 好ましくは、 R5および R6の少なくとも一方は、 メチル基または ェチル基であり、 より好ましくは両方ともメチル基である。 R 5および R 6が 同時に炭素数 6から 20のアルキル基である場合は、 このシァヌル酸誘導体 の疎水性が強くなり、 水界面に集積しにくくなるため、 好ましくない。
このようなシァヌル酸誘導体としては、 例えば、 2—クロロー 4, 6—ジ メトキシー 1, 3, 5—トリアジン (CDMT) が挙げられる。
上述のように、 脱水縮合反応をさせるためには、 二分子膜べシクルの界面 への集積性が良好であり力つ界面で脱水縮合剤を発生させることができる点 で、 二分子膜べシクルの膜の構成成分として (d) 3級ァミンを含むべシク ルに対して、 脱水縮合剤前駆体であるシァヌル酸誘導体 (化合物 I I I) を 用いることが特に好ましい。
この工程において、 上記の脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体は、 (a) 脂肪酸塩または (b) アルコールまたはァミン化合物に対して 1〜100当 量、 好ましくは 25〜50当量用いられる。 この工程を行う温度は、 目的に 応じて適宜決定され、 通常は室温で行われる。 この工程に要する時間は、 ベ シクルの膜の構成成分、 脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体の量、 この工程 の実施温度などの種々の要因によって変化し、 あるいはこれらの要因によつ て調節可能である。
この工程において、 シァヌル酸誘導体を用いる場合、 以下のスキームに示 すように、 まず、 上記式 I I Iのシァヌル酸誘導体が添加されることによつ て、 二分子膜べシクルに存在する (d ) 3級ァミンとともに脱水縮合剤が形 成される。 次いで 膜中の (a ) カルボン酸と (b ) ァミン化合物 (二価ァ ルコール) とが脱水縮合して、 擬似セラミドが形成される。 そのため、 上述 のように、 膜の臨界充填パラメータの増加と膜間の斥力低下とによつて膜の 曲率の変化などが生じて、 膜の融合などの相転移が生じる (図 1参照) 。
膜の融合などの相転移を評価および観察するための手段としては、 電子顕 微鏡による観察、 生成した擬似セラミ ドの定量 (例えば、 マススぺクトルな どによる) 、 蛍光変化の測定などが挙げられる。 蛍光変化の測定の場合、 近 傍に存在することにより蛍光エネルギー転移が生じるような化合物を、 二分 子膜の構成成分として導入する。 このような化合物としては、 例えば、 1, 2—ジミリスチルー s n—グリセ口一 3—ホスホエタノールァミン一 N— ( 7—ニトロ一 2—1 , 3—ベンゾキサジァゾ一ルー 4一ィル) (N B D— P E) と 1, 2—ジミリスチルー s n—グリセロー 3—ホスホエタノールァ ミン一 N— (リツサミンローダミン Bスルフォ -ル) (R h— P E) との組 み合わせが挙げられる。 前者がエネルギードナーであり、 そして後者がエネ ルギーァクセプターである。 図 2に示すように、 N B D— P Eと R h— P E
とが互いに近傍に存在すると蛍光エネルギー転移が生じる。 蛍光変化の評価 は、 以下の式: : 蛍光変化(F) =
b a
t t '/ノa
0 0 a。=反応開始時の NBD— PEの蛍光強度
a ¾=任意の時間にぉける 80—?£の蛍光強度
b 0 =反応開始時の R h— P Eの蛍光強度
b t =任意の時間における R h-PEの蛍光強度
により得られる蛍光変化 Fを用いることができる。 例えば、 NBD— PEお ょぴ R h— P Eがそれぞれ別のべシクルに含まれている場合、 これらの融合 が起こると F値は増大する。 逆に、 NBD— PEと Rh— PEとの両方を含 むべシクルが、 これらを含まないべシクルと融合した場合は、 NBD— PE と R h— P Eとの距離が離れるため、 F値は減少する。
本発明の方法による膜の融合などの相転移は、 本発明により提供されるよ うな膜の構成成分として脂肪酸塩とアミンを含みそして脱水縮合によつ 活 性ィ匕され得る不安定な二分子膜べシクル同士の間だけでなく、 このような不 安定な二分子膜べシクルと活性化されない安定な二分子膜べシクルとの間で も生じ得る。 さらに、 不安定な二分子膜べシクルと安定な二分子膜べシクル との量比、 脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体の量などの種々の要因によつ て、 相転移の調節が可能である。
また、 本発明の方法によれば、 二分子膜べシクル同士の膜融合を誘起した 場合、 その内容物も膜の融合とともに漏出 (リーキング) することなく融合 され得る。
このように、 本発明の方法によれば、 例えば、 細胞と本発明により提供さ れる二分子膜べシクルとの間での膜融合を誘起し、 適切なタイミングでべシ クルの内容物を細胞内に送り込むように調節することも可能である。
実施例
[製造例 1 :二価アルコールの合成] '
リポソームを構成しそしてリボソームにおいて脱水縮合反応を行うための 基質として、 以下 スキーム 1に示すように、 極性基として水酸基を 2つ有 するァミンである擬似スフインゴシンを、 グリシドールのエポキシドと長鎖 1級ァミンとを反応させて合成した。 スキーム 1
RNH2 + z。、 OH
-CgHu,し 12H25,レ 16 3
ヽ 、 て, -。■■ 二価アルコール 1 A
H OH ―
OH 二 ルコール 1B
H OH
,Ν^Ι^ OH 二価アルコ—ル" I C
[1— 1] 3—オタチノレアミノ一 1, 2—プロパンジオール (二価アルコ ール 1A) の合成
n—ォクチルァミン (3. 0 g, 0. 023mo 1 ) を反応容器に加え、 85 °Cに加熱した。 窒素気流下にてグリシドール (1. 56 g, 0. 021 mo 1) を 10分間かけて加え、 1時間攪拌した後、 反応溶液を真空乾燥さ せた。 得られた残渣を、 カラムクロマトグラフィーにかけ、 クロ口ホルム: メタノール =1 : 1 (トリメチルァミン 1%添加) で展開した後、 メタノー ル (トリメチルァミン 1%添加) で溶出して分取し、 二価アルコール 1 A ( 1. 03 g, 収率 24 %) を得た。
無色結晶;融点: 59. 5〜61. 5°C。 NMR (CDC 13) δ 0.
87 ( t , J = 6. 9Hz, 3H) , 1. 21— 1. 35 (m, 10 H) , 1. 42-1. 51 (m, 2H) , 2. 54-2. 73 (m, 3 H) , 2. 79-2. 85 (m, 1H) , 3. 58 - 3. 65 (m, 1 H) , 3. 70 -3. 77 (m, 2H) ; I R (KB r ) 3320, 3271, 29 19, 2853 c m_1 0
以下の実施例で用いる緩衝液 (5 mM NaH2P04, 0. 15MNa C 1, pH7. 5) に対する二価アルコール 1 Aの溶解度は約 1 OmMであつ た。 [1— 2] 3—ドデシルァミノー 1, 2—プロパンジオール (二価アルコ ール 1 B) の合成
上記 [1— 1] の二価アルコール 1 Aの合成と同様の方法で合成した (収 率 33 %) 。
無色結晶;融点: 78〜79°C。 ェ!! NMR (CDC 13) δ 0 · 88 ( t , J = 6. 9Hz, 3H) , 1. 23— 1. 33 (m, 18 H) , 1.
42-1. 51 (m, 2H) , 2. 54-2. 73 (m, 3H) , 2. 79 一 2. 86 (m, 1H) , 3. 59— 3. 65 (m, 1 H) , 3. 70-3.
77 (m, 2H) ; I R (KB r ) 3323, 3272, 2916, 284
7 cm-1;元素分析: C15H33N02:計算値: H, 12. 82 ; C, 69. 45. 実測値: H, 12. 83 ; C, 69. 42。 ES I—MS m/ z 2
60 [ (M+l) +, C15H3302N] 。
以下の実施例で用いる緩衝液 (5 mM NaH2PO4, 0. 15M Na
C I , pH7. 5) に対する二価アルコール 1 Bの溶解度は約 0. 2mMで あった。
[1— 3] 3—へキサデシルァミノー 1, 2—プロパンジオール (二価ァ
ルコール 1 C) の合成
上記 [1-1] の二価アルコール 1 Aの合成と同様の方法で合成した (収 率 34 %) 。
無色結晶:融点 ' 86〜89. 5°C。 NMR (CDC 13) S O. 8
7 (t, J = 6. 9Hz, 3H) , 1. 23- 1. 33 (m, 26 H) , 1. 42- 1. 52 (m, 2H) , 2. 54— 2. 73 (m, 3 H) , 2. 80 -2. 87 (m, 1H) , 3. 59— 3. 66 (m, 1H) , 3. 70-3. 77 (m, 2H) ; I R (KB r ) 3345, 3272, 2918, 285 1 cmT1 ;元素分析: C19H41N〇2:計算値: H, 13. 10 ; C, 72. 32. 実測値: H, 13. 34 ; C, 72. 30; ES I一 MS m/ z 3 16 ['(Μ+ 1) +, C19H4102N] 。
[製造例 2 :擬似セラミドの合成]
リポソームにおける脱水縮合反応による生成物が擬似セラミドであると考 えられるため (スキーム 2) 、 これを確認するための標品として、 擬似セラ ミドを Kunishimaら、 前出に記載の方法に従って合成した。 スキーム 2
R1=CBH17, C12H25 R2=C7H15, CnHss
讓セラミド 2A 擬似セラミド 2B
[2- 1] 3— (N—ラウロイルドデシルァミノ) 一 1, 2—プロパンジ オール (擬似セラミド 2 B) の合成 '
ラウリン酸ナトリウム (0. 2 5 g, 1. 1 3mmo 1 ) を反応容器に加 え、 メタノール (&mL) を加えた。 さらに、 上記 [1— 2] で得られた二 価ァノレコーノレ 1 B (0. 2 9 g , 1. 1 3 mm o 1 ) をメタノール (4 m L) に溶かして加えた。 さらに、 DMT—MM (0. 34 g, 1. 24mm o 1 ) をメタノール (2mL) に溶かして加えた後、 室温で 5時間攪拌した。 メタノールをポンプで減圧留去した後、 残渣を酢酸ェチルおよび蒸留水を用 いて抽出した。 回収した酢酸ェチル層を、 飽和炭酸ナトリウムで 2回、 蒸留 水で 1回、 1 M H C 1で 2回、 蒸留水で 1回、 次いで飽和食塩水で 1回洗 浄した後、 無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、 減圧下で溶媒を除去した。 得 られた残渣を、 カラムクロマトグラフィーに供し、 へキサン:酢酸ェチル = 1 : 1で展開した後、 へキサン:酢酸ェチル =4 : 6で溶出して分取し、 擬 似セラミド 2 B (0. 3 3 g, 収率 6 5%) を得た。
無色結晶:融点: 35〜3 6. 5° (:。 NMR (CDC 13) δ 0. 8
8 ( t , J = 6. 9H z , 3H) , 0. 8 8 (t, J = 6. 9Hz, 3 H) , 1. 23 - 1. 3 5 (m, 34 H) , 1. 56— 1. 6 6 (m, 4H) , 2. 3 3 (t, J = 7. 6Hz, 2H) , 3. 1 7- 3. 3 6 (m, 2 H) , 3. 3 8 - 3. 5 9 (m, 4H) , 3. 7 0 - 3. 8 0 ( 1 H) ; I R (KB r ) 3 3 54, 291 9, 28 5 1, 1 6 1 3 c m_1;元素分析: C 27H5
5N03:計算値: H, 1 2. 5 5 ; C, 73. 4 1. 実測値: H, 1 2. 7 1 ; C, 73. 1 6。 E S I— MS m/ z 44 2 [ (M+ 1 ) +, C27H 5503N] 。
[2-2] 3— (N—オタタノィルォクチルァミノ) 一 1 , 2—プロパン ジオール (擬似セラミド 2A) の合成
上記 [2— 1] の擬似セラミド 2 Bの合成と同様の方法で合成した (収率 52 %) 。 '
無色油状。 NMR (CDC 13) δ 0. 88 (t, J = 7. OHz, 3H) , 0. 89 (t, J = 6. 9Hz, 3H) , 1. 22— 1. 3 7 (m, 18 H) , 1. 52- 1. 70 (m, 4 H) , 2. 33 (t, J = 7. 6H z, 2H) , 3. 1 8-3. 36 (m, 2 H) , 3. 39— 3. 59 (m, 4H) , 3. 71-3. 79 (m, 1 H) ; I R (n e a t) 3378, 2 926, 2855, 1620 c m— 1 ;元素分析: C i 9Η39Ο3Ν:計算値: H, 1 1. 93 ; C, 69. 25. 実測値: H, 1 2. 14 ; C, 69. 4 9。 E S I—MS m/z 330 [ (M+ 1 ) +, 'C19H3903N] 。
[製造例 3 :界面集積性 3級ァミンの合成] スキーム 3
DCC, DMAP O
ROH + H人
2 ~~^AF ~~ "
RO /NMe
2
C8-3級アミン CI 2— 3級ァミン
[3-1] N, N—ジメチルアミノー酢酸一 1—ドデシルエステル (C 2 - 3級ァミン) の合成
N, N—ジメチルグリシン塩酸塩 (2. 23 g、 0. 016 mo l) の 乾燥 N, N—ジメチルホルムアミ ド (DMF ; 1 0 OmL) 溶液に、 1ード デシルアルコール (2. 98 g、 0 · 0 1 6 m o 1 ) 、 トリェチルァミン (1. 62 g、 0ノ 0 1 6mo l ) 、 および 4— (N, N—ジメチルアミ ノ) ピリジン (DMAP ; 0. 195 g、 0. 0016 m o 1 ) を窒素雰囲 気下で加えて、 0°Cに冷却した。 次に、 ジシク口へキシルカルボジィミ ド (D C C ; 3. 6 3 g、 0. 01 76 m o 1 ) の乾燥 DMF溶液 (60 m 1) を 0°Cで加えた。 反応溶液を室温に戻して約 1日攪拌した後、 DMFを ポンプで減圧留去した。 残渣をエーテルおよび飽和炭酸水素ナトリゥム水溶 液を用いて溶角 し、 エーテル層を回収し、 水で 1回および飽和食塩水で 1回 洗浄し、 無水硫酸マグネシウムで乾燥後、 減圧下で溶媒を除去した。 得られ た残渣をカラムクロマトグラフィー (へキサン:酢酸ェチル: トリェチルァ ミン =50 : 50 : 1) にかけて分取し、 N, N—ジメチルァミノ一酢酸一 1一ドデシルエステル (C 12— 3級ァミン) を得た (収率 48%、 2. 1 0 g) 。
無色液体。 NMR (CDC 13) δ 0. 88 (t, J = 6. 9Hz, 3H) , 1. 23— 1. 31 (m, 18 H) , 1. 59— 1. 68 (m, J
=7. OH z , 2H) , 2. 35 ( s , 6 H) , 3. 15 ( s , 2H) , 4. 12 (t, J = 6. 8Hz, 2H) 。 ES I—MS m/ z 272 [ (M+
1) +, C16H3302N] 。 I R (KB r ) 2923, 1749 cm—
[3-2] N, N—ジメチルァミノ一酢酸一 1—ォクチルエステル (C 8 一 3級ァミン) の合成
1一ドデシルアルコールの代わりに 1-ォクチルアルコールを用いたこと 以外は、 上記 [3— 1] と同様にして、 N, N—ジメチルアミノー酢酸一 1 —ォクチルエステル (C 8— 3級ァミン) を 59%の収率で得た。
無色液体。 1H NMR (CDC 1 3) δ 0. 8 8 ( t , J = 6. 9 H z , 3 H) ' 1. 24 - 1. 3 3 (m, 1 OH) , 1. 5 7 - 1. 6 6 (m, J = 7. 2 H z , 2 H) , 2. 3 5 ( s , 6 H) , 3. 1 6 ( s, 2 H) , 4. 1 2 ( t , J = 6. - 8 H z , 2H) 。 E S I —MS m/ z 2 1 6 [ (M+ 1 ) +, C12H2502N] 。 I R (KB r ) 2 9 2 8, 1 7 5 3 cm一
[3 - 3] N, N—ジメチルァミノ一酢酸一 1一へキサデカエステル (C 1 6 - 3級ァミン) の合成
1一ドデシルアルコールの代わりにセチルアルコールを用いたこと以外は、 上記 [3— 1 ] と同様にして、 N, N—ジメチルアミノー酢酸一 1 _へキサ デカエステノレ (C 1 6— 3級ァミン) を 44 %の収率で得た。
無色液体。 XH NMR (CDC 1 3) δ 0. 8 7 ( t, J = 6. 7H z , 3 H) , 1. 2 3 - 1. 3 0 (m, 2 6 H) , 1. 5 9— 1. 6 8 (m, J = 6. 8 H z, 2H) , 2. 3 5 ( s , 6 H) , 3. 1 6 ( s, 2 H) , 4. 1 2 ( t, J = 6. 8 H z , 2H) 。 E S I —MS m 3 2 8 [ (M+ 1 ) +, C20H41O2N] 。 I R (KB r ) 2 9 2 3, 1 74 2 c m- ^
[実施例 1 : 3級ァミンを含む多重ラメラベシクル (MLV) 調製] 文献 ( 「化学と生物 実験ライン 2 7 リボソームの調製と実験法」 , 奥 直人編, 廣川書店, 第 5章, 4 3頁) に記載の方法に従って、 以下のような 方法で ML Vを調製した。
ラウリン酸ナトリウム (メタノール中 4 5. OmM, 8. 7 μ L) 、 上記 [ 1— 2] で合成した二価アルコール 1 Β (クロ口ホルム中 3 8. 5mM, 1 0. 1 ju L) 、 上記製造例 3で合成した 3種の 3級ァミンのいずれか (ク ロロホルム中 3. 0 5mM, 2 5. 6 μ L) 、 および L一 a—ホスファチジ ルコリン (クロ口ホルム中 1 2. 9mM, 2 8. 5 μ L) 、 および蛍光剤で
ある NBD— PE (Avanti Polar Lipids製) (クロ口ホルム中 1. 23m M, 15. 9 L) を、 2 OmLナス型フラスコに加えた。 ロータリ一エバ ポレーターを用いて溶媒を減圧留去し、 窒素ガスにより常圧に戻した後、 内 壁に形成された薄膜を、 さらに真空ポンプを用いて室温下にて 0. 5時間減 圧乾燥させた。 再び窒素ガスにより常圧に戻し、 リン酸緩衝液 (5 mM N aH2P04/Na 2HP04, 0. 1 5M N a C 1 , p H 7. 5) を 6m L加え、 浴槽型超音波発生装置で 30秒間超音波を照射した後、 さらにポル テックスミキサー (AS ONE TUBE MIXER MODEL TMFを使用) で 20分間振盪 (室温, 強度 80%) し、 薄膜を剥がした。 薄膜を含む分散液を 1 OmLサ ンプル瓶に移し替え、 ボルテックスミキサ一での振盪 (室温, 強度 30 %) を約半日間行って、 3級ァミンを含む NBD— PE含有 ML V分散液を得た。 蛍光斉 !Jとして NBD— PEの代わりに Rh— PE (Avanti Polar Lipids 製) (クロ口ホルム中 4. 1 9mM, 4. 7 n V) を用いること以外は、 上 記と同様にして、 3級アミンを含む R h— P E含有 ML V分散液を得た。
[実施例 2 :多重ラメラベシクル (MLV) 調製一 2]
上記実施例 1の ML V調製において、 2 OmLナス型フラスコに、 3級ァ ミンを加えなかったこと以外は、 上記実施例 1と同様にして、 3級ァミンを 含まない種々の M L V分散液を得た。
[実施例 3 :多重ラメラベシクル (MLV) を用いた膜融合実験] 上記実施例 1で得た 3級ァミン (C 8または C 16) を含む M L V分散液 を各 lniLずつ室温下で混合した。 これに、 2—クロ口一 4, 6—ジメ トキ シ一 1, 3, 5—トリアジン (CDMT) (15 OmMまたは 30 OmM) のメタノール溶液 (21. 7 L) を加え、 室温で静置した。 さらに、 上記 実施例 2で得た ML V分散液に水溶性脱水縮合剤である 4一 (4, 6—ジメ
トキシー 1 , 3, 5 _トリァジン一 2—ィノレ) 一 4ーメチルモルホリウムク ロリ ド (DMT—MM) (2 2 5mMまたは 3 0 OmM) のメタノール溶液 (2 1. 7 μ L·) を添加したものも調製した。 対照実験として CDMT溶液 の代わりに 2 1. 7'μ Lのメタノールを添加したものを調製した。
調製した各混合液の経時的蛍光変化を蛍光光度計で測定した。 励起波長は
4 7 0 nmとした。 蛍光変化の尺度として、 上述のように F値を用いた。 膜 融合が起こると F値は増大する (図 2を参照) 。 結果を表 1に示す。 表 1
*:ラウリン酸ナトリウムに対する量 表 1に示すように、 CDMTを用いた場合は、 いずれも時間とともに F値 が増大し、 膜融合が生じたことがわかる。 一方、 DMT— MMでは、 非常に ゆっくりと膜融合が生じた。 また、 縮合剤を加えなかった場合は、 蛍光の変 化は観察されなかった。 [実施例 4 :擬似セラミド 2 Bの定量]
ML V融合における擬似セラミドの反応収率と蛍光変化との相関性に関す
る検討するために、 ML Vに生じた擬似セラミ ドを定量した。
上記実施例 1で得た 3級ァミン ( C 8または C 1 6 ) を含む M L V分散液 2mLに、 CDMT (メタノール中 1 5 0 mMまたは 3 00 mM, 2 1. 7 μ L) を加え、 室温で静置した。 上記実施例 2で得た 3級ァミンを含まない MLV分散液についても CDMT溶液 2 1 · 7 /z Lを加え、 同様に静置した。 さらに、 上記実施例 2で得た ML V分散液に DMT—MM (メタノール中 3 0 OmM, 2 1. 7 / L) を添加したものも調製した。 対照実験として、 C DMT溶液の代わりに 2 1. 7 μ Lのメタノールを加え、 同様に静置した。 任意の時間 (2、 5、 1 2、 および 3 6時間) に各 ML V分散液の一部 (5 0 0 μ L) を取り、 酢酸アンモニゥム (蒸留水中' 3 9 OmM, 8. 3 μ L) および Ν—メチルモルホリン (NMM) (CDMT添加量に応じて、 0 L、 3. 6 μ L、 または 7. 2 μ L) を加え、 ボルテックスミキサーで (室温, 強度 3 0%) を 1 0分間振盪した。 次いで、 500 Lの酢酸ェチルを加え、 ボルテックスミキサーで (室温, 強度 50%) 1 0分間振盪して抽出し、 有 機層を回収した。 得られた有機層 50 z L、 内部標準 (擬似セラミ ド 2A) 溶液 (酢酸ェチル中 3 2. 5 μΜ, .5 0 L) 、 酢酸アンモニゥム水溶液 ( 1 0 mM) /ァセトニトリル混液 (1 : 1 0 (vZv) ) 500 ^ L, お よび塩化ナトリゥム水溶液 ( 1 OmM, 3. 6 μ L) を混和し、 E S I一 Μ S測定により定量を行った。 定量ピークは、 内部標準およぴ検量物質ともに ナトリウム付加ピーク (Μ+ 2 3) である、 それぞれ m/z 3 5 2および 4 64を用いた。 結果を図 3および表 2に示す。
表 2
*:ラウリン酸ナトリウムに対する量
3級ァミンを含む ML V分散液に CDMTを添加した場合は、 3級ァミン の脂肪鎖の長さに応じた収率で、 擬似セラミドが得られた。 また、 CDMT 非添加の場合は、 擬似セラミドの生成は認められなかった。 一方、 DMT— MMでは、 非常にゆつくりと擬似セラミ ドが生じた。 この結果は、 上記実施 例 3の結果と一致し、 したがって、 擬似セラミドの生成量と融合との相関性 が示された。 なお、 3級ァミンを含まない ML V分散液に CDMTを添加し た場合は、 擬似セラミドの生成は見られなかった。
[実施例 5 : ML Vの融合に伴う粒子径の変化]
以下の表 3に記載の化合物を用いて上記実施例 1に記載の操作に従って、 MLV分散液を調製した。
表 3
リン酸緩衝液(5 mM NaH2PO4Z0.15 NaCI, pH 8.5)15 mLを用いて調製した
'
調製した ML V分散液を 2 m Lずつに取り分け、 CDMT (メタノール中 30 OmM) を 50当量 (21. 7 /z L) 加えた。 対照として、 21. 7 μ Lのメタノールを添加した。 各 2検体を調製し、 12時間後の粒径を動的光 散乱法 (DLS) により測定した。 結果を表 4に示す。 表 4
*1:Z平均 =平均流体力学直径
CDMTを加えた場合は、 12時間経過後に粒子径が増大していたが、 C DMTを加えない場合は 12時間経過後でもサイズに変化が見られなかった。 このことから、 CDMTを加えた場合に、 膜融合が誘起されていることが示
された。
[実施例 6 :—枚膜べシクル (SUV) の調製]
文献 ( 「化学と生物 実験ライン 2 7 リボソームの調製と実験法」 , 奥 直人編, 廣川書店, 第 2章, 27頁) に記載の方法に従って、 以下のような 方法で SUVを調製した。
ラウリン酸ナトリウム (メタノール中 45. OmM, 5. 8 L) 、 二価 アルコール 1 B (クロ口ホルム中 38. 5mM, 6. 8 L) 、 C 1 6 - 3 級ァミン (クロ口ホルム中 3. 05mM, 17. 0 μ L) , 非還元型卵黄レ シチン (クロ口ホルム中 1 3. OmM, 1 9. 0 μ L) 、 および蛍光剤 (Ν BD— P Εの場合:クロ口ホルム中 1. 23mM, 10. 6 L; NBD- ΡΕの場合:クロ口ホルム中 4. 1 9 mM, 3. 1 u L) を、 20mLナス 型フラスコに加え、 ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去した。 内壁に形成された薄膜を、 さらに真空ポンプを用いて減圧乾燥 (室温下, 0. 5時間) させた。 リン酸緩衝液 (5mM N a H 2 P O 4/N a 2H P O 4,
0. 15M Na C l, pH8. 5) を 4 mL加え、 浴槽型超音波装置で 3 0秒間超音波処理を行った。 次いで、 ポルテックスミキサーにより 10分間、 強度 100%で攪拌振盪した。 次いで、 2 OmL試験管に移し替え、 プロ一 ブ型超音波発生装置 (TOM Y ULTRASON I C D I SRUPTO R MODEL UR— 200 P) を用いて 25 Wにて 20分間 ( 1分間照 射および 30秒間静置を繰り返して、 総照射時間を 20分とした) 超音波処 理 (水冷下) を行って、 SUV分散液を得た。
[実施例 7: SUVを用いた膜融合実験]
上記実施例 6で得られた N B D— PEおよび NBD— PEを含む S U V分 散液を用いて、 上記実施例 3の ML Vでの膜融合実験と同様に、 経時的蛍光
変化を測定した。 蛍光ピークより F値を求め、 SUVの融合について評価し た。 結果を図 4に示す。 グラフからわかるように、 CDMTを加えた場合の み、 膜融合を示唆する結果が得られた。 [実施例 8 :蛍光希釈法による S U V膜融合の評価]
上記実施例 6に記載の S UVの調製法に準じて、 表 5に示す組成で蛍光剤 を含む S U V分散液およぴ蛍光剤を含まない S U V分散液を調製した。
表 5
*:リン酸緩衝液は、 5 mM NaH2PO4/0.15 M NaCI, pH 8.5を用いた。
調製した蛍光剤を含む S U V分散液 0. 2 m Lと蛍光剤を含まない S U V 分散液 1. 8 mLとを室温下で混合した。 各 3検体を調製した。 そのうちの 各 2検体に CDMT (メタノール中 30 OmM) を 1 0. (25当 量) または 21. 7 L (50当量) ずつ加え、 室温で静置する。 残り 1つ は対照実験としてメタノールを 21. 7 i L加え、 同様に静置し、 一定時間 毎に蛍光を測定した。 結果を図 5に示す。
この実施例 8の蛍光希釈法の場合、 実施例 7の混合法とは異なり、 F値は 融合が進行するに従い小さくなる。 図 5に示すように、 GDMTを加えた場 合のみ蛍光の減弱が見られ、 膜融合が誘起されていることが強く示唆された。 なお、 図 5に示すダラフでは、 初期状態で CDMTを加えたものと対照との 間に差があるように見える。 し力 し、 これは、 CDMTの添加後 2時間で大 きな蛍光変化が見られたことを示しており、 反応開始前の蛍光には差はなか つた o
[実施例 9 : SUVの融合に伴う粒子径の変化]
脂肪酸塩として、 ラウリン酸ナトリウムおよびォレイン酸ナトリゥムの 2 種を用いて実験を行った。
上記実施例 6に記載の S UVの調製法に準じて、 表 6に示す組成で S U V 分散液を調製した。
表 6
*:リン酸緩衝液は、 5 mM NaH2PO4/0.15 M NaCI, pH 8.5を用いて調製した。 調製した SUV分散液を、 0. 45 μπιポアフィルターで濾過し、 2mL
ずつ各 2検体に分け、 一方には CDMT (メタノール中 30 OmM) 21.
(50当量) を加え、 そしてもう一方には対照実験としてメタノール を 21. 7 μ L加え、 室温で静置した。 3時間後の粒径を D L Sにより測定 した。 結果を表 7 示す。
表 7
*1: z平均-平均流体力学直径 いずれも 3時間程度で顕著に粒子径が增大した。 粒子径の変化より、 ラウ リン酸では十数個程度、 そしてォレイン酸では 30〜40個程度の SUVが 融合していることが示唆された。
[実施例 10 :透過型電子顕微鏡による S U Vの観察]
上記実施例 6に記載の S UVの調製法に準じて、 表 8に示す組成で S U V 分散液を調製した。
リン酸緩衝液(5 mM NaH2P04/O.15 M NaCI, pH 8.5)5 mL中で調製した
調製した SUV分散液を 200 μ L取り、 CDMT (メタノール中 300 mM) 4. 3 μ Lを加えて、 室温で静置した。 対照実験として CDMTの代 わりにメタノールを 4. 3 μ L加えて、 室温で静置した。 静置後の SUV分 散液をキャリアに数滴搭載し、 液体窒素で凍結させ、 当業者が通常行う凍結 割断法によって、 電子顕微鏡試料 (レプリカ) を調製した (J EOL J F D— 9010を使用した) 。 得られた試料を、 TEM (J EOL J EM— 1010) で観察した (加速電圧 100 k V) 。 電子顕微鏡写真を図 6〜 8 に示す。 写真中の矢印は、 SUVを示す。
CDMTを加えた場合、 粒子径は、 CMDT添カ卩前には数十〜約 100 n mであったが (図 6) 、 CDMT添加後には 1 μήι以上にまで極めて大きく なり、 そして粒子数が著しく減少していた (図 7) 。 これは、 互いに近接し ている SUV同士が数千個融合し巨大な GUVになったと考えられる。 一方、 メタノールのみを加えた場合は、 1日以上経過しても、 粒子径ゃ分布にあま り変化が見られなかった (図 8) 。
[実施例 1 1 :活性ィ匕 S U Vと不活性 S U Vとの融合実験]
膜の構成成分として脂肪酸塩とアミンを含みそして脱水縮合によって活性 化される SUV (以下、 活十生ィ匕 SUVという) および通常の SUV (以下、 不活性 SUVという) について、 上記実施例 6に記載の SUVの調製法に準 じて、 以下の表 9に示す組成で蛍光剤を含む S UV分散液および蛍光剤を含 まない S UV分散液をそれぞれ調製した。
表 9
*:リン酸緩衝液は、 5 mM NaH2PO4/0.15 M NaCI, pH 8.5を用いた。
上記実施例 8に記載の蛍光希釈法に従って、 調製した蛍光剤を含む S U V 分散液 0. 2mLと蛍光剤を含まない SUV分散液 1. 8 mLとを室温下で 混合した。 ここで、 SUVの組み合わせは、 蛍光剤を含む活性化 SUVと蛍 光剤を含まない活性化 SUVとの組み合わせ (r u n l) 、 蛍光剤を含む不 活性 S U Vと蛍光剤を含まない活性化 S U Vとの組み合わせ ( r u n 2 ) 、 蛍光剤を含む活性化 S U Vと蛍光剤を含まな V、不活性 S U Vとの組み合わせ (r u n 3) 、 ならびに蛍光剤を含む不活性 SUVと蛍光剤を含まない不活 性 SUVとの組み合わせの 4種類とした。 次に、 CDMT (メタノール中 3 00 mM) を 1 5. 2 μ L (4. 5 5 zmo l : r u n lの全脂肪酸塩の 3 5当量) 加え、 室温で放置して蛍光光度計により F値の経時変化を測定した。 結果を図 9に示す。
図 9からわかるように、 一方が不活性な SUVであっても F値が有意に変 化した (r u n 2および 3) 。 同じ S UV同士の融合では、 理論上、 蛍光変 化は起きないので、 この F値の減少は、 活性化 SUVと不活性 SUVとの融 合が起きたことを示している。 活性ィ匕 SUVが少ない場合 (r un 3) の方
が F値の変化量が小さいのは、 1回の融合によって S U Vの不安定性が解消 され、 それ以上の融合が進行しなくなり、 蛍光剤が十分に希釈されなかった ためと考えられる。 一方、 SUVのうち 90%が活性化 SUVの場合 (r u n 2) は、 融合が多段階生じ、 蛍光剤が十分に希釈されたため、 F値の変化 が大きく現れたと考えられる。
[実施例 12 :融合に伴う SUV内水相のリーキングの検討]
膜融合を D D Sや遺伝子導入などに用いるには、 リボソーム内容物がタ一 ゲット細胞の内部にうまく導入されなければならない。 融合がもし膜の部分 的な崩壌を伴う場合、 大量の内容物が外部へ漏れ出てしまい、 この目的を果 たすことができなくなり、 その応用性が限られる。 そこで、 融合の際の内容 物のリ一キング実験を行つた。
以下に示すカ^^セイン (Ca 1 c e i n) という蛍光色素は、 高濃度では 自己消光し蛍光を発しないが、 低濃度では蛍光を発する。
カ レセイン そこで、 本実施例では、 この性質を利用し、 内部 (内水相) に予め高濃度 の力ルセインを入れたリボソームの融合実験を行った。 融合に伴って内容物 の漏れ出しが起きれば、 外水相で希釈されたカルセィンの蛍光が現れるが、 漏れ出しが起きなければ蛍光は変化しない。
SUVの調製は実施例 6に記載の方法に従って行った。 ただし、 リン酸緩 衝液 (5mM NaH2P04/Na 2HP04, 0. 15M Na C 1 , p
H8) に力ルセインを入れ (75mM) 、 超音波処理によって S UVとした。 ゲル濾過 (S e p h a d e x G— 50、 移動相に同じ'リン酸緩衝液を使 用) によって SUVを分離し、 外水相に存在する力ルセインを除去し、 SU V分散液を得た。 」
得られた SUV分散液に CDMT (50当量) を添加後、 室温で放置し、 一定時間経過後に蛍光 (520 nm) を測定し (Fs) 、 直後に T r i t o n X— 100 (10%, 200 μ L) を添加して SUVを破壊した後、 再 ぴ蛍光を測定した (FT) 。 膜融合を伴わない対照実験は、 同じ SUVを用 いて、 CDMTを添加せずに、 一定時間毎に蛍光を測定し、 最後に Tr i t o n X_ l 00を添カ卩してリボソームを破壌し、'蛍光を測定した。 以下の 式に従って漏出率を算出した。 力ルセインの漏出( %) = --^ ~ノ X 100
Frx1.11-卜 0
F0:0時間における蛍光強度
Fs:各時間における蛍光強度
FT:TritonX-100添加後の蛍光強度 得られた結果を、 以下の表 10に示す。
表 10
表 10からわかるように、 CDMTを添カ卩して膜融合した場合、 融合がほ ぼ完了する 3時間までで漏出率に若干の増加が見られたものの (対照実験が 2%に対し、 融合した場合には 8%) 、 蛍光強度 (F
s) は測定直後に T r
i o n X— 1 0 0を添加した時の蛍光 (F
T) と比べて非常に小さく、 内容 物がほとんど漏出していないことが明らかとなった。 - 産業上の利用可能性
本発明の方法によれば、 脱水縮合反応を利用して分子集合体を形成してい る脂質を化学的に変化させて、 その物理的性質や形態を変化させ、 膜融合な どの相転移のタイミングなどを調節することが可能であり得る。 すなわち、 二分子膜べシクルにおいて分子集合体の相転移を誘起させることが可能にな り、 リボソームなどの水界面の分子集合体の融合や分裂を誘起できる。 また、 本発明の二分子膜べシクルは、 活性化状態または準安定状態のべシクルを提 供し得る。 さらに、 リボソームなどの膜融合の際に、 その内容物も融合可能 である。 したがって、 本発明の方法および二分子膜べシクルは、 脱水縮合反 応を利用する有機合成化学や界面化学の分野、 あるいはリボソームなどのべ シクルを利用する分野などにおける研究に有用である。 また、 細胞や細胞内 小器官の形成、 分解、 分裂、 または融合などの生物における形態変化に関す る研究のためのモデル系として、 エンドサイトーシスやェキソサイトーシス を伴う生物学的機構の解明のために、 あるいは遺伝子治療やドラッグデリパ リーシステムなどの治療医学の開発にも有用である。