明 細 書
抗コリン薬のプロドラッグ
技術分野
[0001] 本発明は、薬物の標的部位と副作用が発現する部位間においてその酵素活性に 差がある酵素を利用し、薬物の副作用を低減させることのできるプロドラッグに関する ものである。
背景技術
[0002] V、わゆる糖置換基を付与したプロドラッグは数多く研究されてきた。その主な目的 は、難溶性の親化合物の溶解度を向上させるためのものや、グルクロン酸抱合体の 類推力も無毒化をねらったものである。とくに、後者は生体の代謝機構を利用しようと するものである。すなわち、ガン細胞や炎症細胞で j8—ダルク口-ダーゼや j8—ダル コシダーゼのような糖開裂酵素の活性が向上しているという報告をもとに、患部での み親化合物を発現させ効果を発現しながら、望ましくない副作用を軽減させるという 考えに基づいて設計されたプロドラッグである。以下にそれらの詳細を説明する。
[0003] 腫瘍組織にぉ 、て j8—ダルク口-ダーゼをはじめ!/、くつかのグリコシダーゼの活性 が亢進している研究報告が発表されていた (非特許文献 1、非特許文献 2、非特許文 献 3)。他の疾患については、喘息患者で、肺胞マクロファージおよびマスト細胞から の β ダルク口-ダーゼ放出による肺胞洗浄液 (BALF)中の β ダルク口ニダーゼ活 性が亢進する傾向が報告されていたり(非特許文献 4、非特許文献 5)、また、 β—グ ルクロ-ダーゼと Ν ァセチルー D ダルコサミニダーゼ活性がリュウマチ患者の滑液 中で亢進していること(非特許文献 6)、 AIDS患者の血清中の 13 ダルク口-ダーゼ 活性が健常人と比較して高いこと等が報告されており(非特許文献 7)、各種の疾患 時にお 、てもグリコシダーゼの活性が亢進ある 、は細胞外への放出されることが示 唆されて 、る。この中で特に注目すべき酵素である 13—ダルク口-ダーゼは、 13—グ ルクロ-ドを加水分解して、 D—グルクロン酸を遊離させる反応を触媒する酵素であり 、肝臓、肺、脾臓、腎臓等の広範囲の臓器あるいはマクロファージ、好酸球等の炎症 細胞に存在して ヽることが報告されて ヽた (非特許文献 8、非特許文献 9)。
[0004] 癌の化学治療においては、腫瘍以外の正常組織あるいは正常細胞に対する毒性 の軽減が重要な課題である。これを解決するために、腫瘍組織に特異的に作用する 抗癌剤の開発が数多くなされたが、いずれも期待されたほどの副作用の軽減が見ら れていなかった。
De Duveは腫瘍組織におけるグリコシダーゼを含むリソソーム中の加水分解酵素に 着目し、これらの加水分解酵素とそれらの酵素で加水分解されて活性化する抗癌剤 のプロドラッグによる化学療法の概念を提案した (非特許文献 10)。 Connors and Whissonは、マウスを用いた実験で、抗癌剤ァ-リンマスタードの抗癌作用と腫瘍細 胞の β ダルク口-ダーゼ活性に高 、相関があることを示した (非特許文献 11)。 Sweeneyらも、抗癌剤ミコフエノール酸の作用機序は、ミコフエノール酸が臓器でダル クロン酸抱合化され、腫瘍組織において j8—ダルク口-ダーゼにより加水分解される ことにより活性体であるミコフヱノール酸になり抗癌作用を発揮しているとする説を発 表した (非特許文献 12)。 Youngらは、ミコフヱノール酸の場合と同様に抗癌剤ァ-リ ンマスタードが体内でグルクロン酸抱合ィ匕され、腫瘍組織にぉ 、て加水分解されるこ とにより抗癌作用を発揮するという仮説のもとに癌患者で臨床試験を行ったが、抗癌 作用と腫瘍組織の酵素活性の間に十分な相関は認められな力つた (非特許文献 13 ;)。 Babaらは、マウス乳癌モデルを用い、抗癌剤 5-フルォロウラシルのグルクロン酸誘 導体を静脈内投与して抑制作用を示す報告をしている (非特許文献 14)。
し力しながら、総じてこれら抗癌剤の糖誘導体プロドラッグは、標的部位での加水分 解が不十分なため、臨床上では満足な結果が得られて!/、な 、。
[0005] 次に、腫瘍特異的抗体と各種酵素を結合させたものをあらかじめ投与しておき、そ の酵素で開裂されて活性体に変換されるプロドラッグを用いるアプローチがなされた
。これは、 ADEPT (Antibody-directed enzyme prodrug therapy)と呼ばれ、数多くの 研究開発が行われたが、外因性の抗体 -酵素複合体が免疫抗原性を持つことゃプ ロドラッグが生体内で十分に活性ィ匕されないといった問題があり、成功には至ってい ない。
[0006] そこで、 Bossletら(非特許文献 15)は、癌細胞で投与した抗癌剤 糖誘導体と!/ヽぅ 構造のプロドラッグが効率的に加水分解を受けるためには、抗癌剤に直接糖を結合
するのではなぐスぺーサーを介したィ匕合物を合成することと酵素を結合させた免疫 抗原性の低い融合蛋白質を発明し、上記の問題を改善しようと試みた。その過程で 彼らは、グリコシドースぺーサー誘導体単独でも十分な効果を発揮する誘導体を見出 し、抗癌剤以外にも抗炎症剤、免疫抑制剤、 Ca拮抗剤、交感神経作動剤等に応用 できるプロドラッグとしてグリコシドースぺーサ一一ドラッグと 、う構造を開示して 、る(特 許文献 1、特許文献 2、特許文献 3)。
特許文献 3には、「化合物は、健康な個人においては原則的に細胞の内側に存在 するが、上述した病態生理学的条件下においては局所的な細胞外に存在する酵素 によって活性ィ匕される。」、「本発明によるプロドラッグは、特に活性ィ匕状態でマクロフ ァージ、顆粒球および血小板が存在するすべての非 腫瘍学的疾患に対して使用 することができる。活性化された状態で、上述した細胞は、主として、本発明によるプ ロドラッグの部位 特異的活性ィ匕を可能にする細胞内酵素を分泌する。」、と記載さ れている。
また、抗腫瘍剤を活性薬剤とした場合の本引例の物質が腫瘍モデルだけでなく、 数種の炎症モデルでも認められたことを根拠に腫瘍におけるのと同様に、炎症細胞 が関与する疾患すべてにぉ 、て想定できると述べて 、る。
その例示するところは、「細胞増殖抑制剤、代謝拮抗剤、 DNAに介在する物質、ト ポイソメラーゼ 1 + 2を阻害するもの、アルキル化剤、リボソーム不活性化剤、チロシン ンホスホキナーゼ阻害剤、分化誘導剤、ホルモン、ホルモンアンゴ-スト、ホルモンァ ンタゴ二スト、細胞増殖抑制剤に対する多面発現抵抗性を変化する物質、カルモジ ュリン阻害剤、プロテインキナーゼ C阻害剤、 p—グリコプロテイン阻害剤、へキソキナ ーゼ調節剤、 p—グルタミルシスティンシンセターゼ又はグルタチオン S—トランスフエ ラーゼ阻害剤、スーパーォキシドジスムターゼ阻害剤、増殖一関連蛋白質阻害剤、免 疫抑制作用を有する物質、免疫抑制剤、抗炎症作用を有する物質、非ステロイド性 抗炎症物質、抗リウマチ性薬剤、ステロイド、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有 する物質、有機酸誘導体、鎮痛剤、局所麻酔薬、抗不整脈剤、 Caアンタゴニスト、抗 ヒスタミン剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、副交感神経作動剤、交感神経作動剤、ヒ トウ口キナーゼ阻害作用を有する物質」に及んでいる。
すなわち、本引例のプロドラッグが炎症細胞の関与するあらゆる薬物において機能 する可能性があるということが示唆されているが、実際にいずれの薬剤が機能し、い ずれの薬剤は機能しな 、のかにっ 、ては指標も示唆もな 、。
実施例には、抗癌剤であるドキソルビシン、ナイトロジェンマスタード、キュンの糖誘 導体を用いた抗腫瘍作用とドキソルビシン糖誘導体の抗炎症作用ならびに急性毒性 の測定が示されるのみであり、上記のように、数多くの治療薬をあげているものの、抗 癌剤以外の薬物についての具体的な薬効薬理を示す参考例は記載されておらず、 実際の有効性については未確認であると思われる。例えば、ステロイドの糖誘導体に ついては、これまで多くの研究がなされているけれども、 Sugaiら(特許文献 4)が指摘 しているように、その安定性に問題があることと標的器官以外での酵素的な加水分解 による活性体への変換による副作用の発現という問題で開発が困難な状況にある。 ドキソルビシンでさえ、長く研究されているが、欧州でいまだ前臨床段階であり臨床 的な完成に至って 、な 、のである。
[0008] この他、癌以外への応用としては、先に触れたステロイドのグリコシドを用いたプロド ラッグの研究が早くから副作用の軽減のために研究開発されてきた。 Merck社のダル ープが 1962、 1964、 1966年にステロイドのグリコシド誘導体がステロイドの副腎萎縮、 体重減少、骨粗鬆症、白血球数減少等の副作用を軽減させるという可能性を示して いる(特許文献 5、特許文献 6、特許文献 7、非特許文献 16)。しかし、ステロイドのグ リコシドプロドラッグは、安定性が極めて悪ぐ標的組織以外でグリコシド結合が開裂 して副作用が発現するといつた問題点が判明し、 Sugaiら (特許文献 4)は、糖の水酸 基を保護することにより安定性を向上させ、副作用を軽減させることを試みた。しかし ながら、これまでに臨床上の成功には至っていない。ステロイドは、非常に微量で作 用を発揮でき、且つ生体内の幅広い組織での多彩な生理作用をもっため、グリコシ ドプロドラッグィ匕しても副作用の軽減を達成することは非常に難しい薬剤と言える。
[0009] さらに、 Friendらは、腸内細菌の保有するグリコシダーゼに着目して、潰瘍性大腸 炎の治療薬として副作用が問題となるステロイドの糖誘導体という構造のプロドラッグ の研究を行っている(特許文献 8、非特許文献 17、非特許文献 18)。し力しながら、こ れらの試みにっ 、ても、現在までに臨床的な成功は示されて!/、な!/、。
以上のように、 β ダルク口-ダーゼをはじめとする生体内の酵素を利用した薬物 糖誘導体というプロドラッグの開発は古くから試みられているが、臨床上の成果には 結びつ 、て 、な 、のが現状である。
[0010] 抗コリン剤は、気管支平滑筋の収縮を抑制するので、気管支喘息、慢性気管支炎
、肺気腫に基づく呼吸困難などの諸症状の緩解に用いられる。また、アレルギー性 鼻炎、血管運動性鼻炎に使用されることもある。また、 COPDの第一選択薬として用 いられている。し力し、いくつかの副作用が知られており、たとえば、眼圧を高めるお それがあるため緑内障の患者、頻脈、心悸亢進を起こすことがあるため重篤な心疾 患のある患者、胃腸管の緊張、運動性が抑制されるため、麻痺性ィレウスのある患者 に使用できない。
[0011] 特許文献 1 :米国特許 5621002(対応特許:欧州特許出願公開 642799、 特開平
7-149667)
特許文献 2:米国特許 5935995(対応特許:欧州特許出願公開 795334、 特開平 10-1495)
特許文献 3 :米国特許 US5955100 (対応特許:欧州特許出願公開 595133、 特開平 6-293665)
特許文献 4 :国際公開公報 WO95/09177
特許文献 5 :英国特許出願公開 1015396
特許文献 6:英国特許出願公開 1059548
特許文献 7:米国特許公報 3185682
特許文献 8 :欧州特許出願公開公報 123485 (対応特許:特表昭 60-501105) 非特許文献 l : Fishman、 Science 105、 646-647、 1947
非特許文献 2 : Fishmanand Anlyan、 Cancer Res. 7、 808-814、 1947
非特許文献 3 : Bollet等、 J.Clin. Invest. 38、 451、 1959
非特許文献 4 : Tonnel等、 Lancet8339、 1406-1408、 1983
非特許文献 5 : Murray等、 N.Engl. J. Med. 315、 800-804、 1986
非特許文献 6 : Stephens等、 J.Rheumatol. 2、 393-400、 1975
非特許文献 7 : Saha等、 Clin.Chim. Acta. 199、 311-316、 1991
非特許文献 8 : Hayashi、 J.Histochem. Cytochem. 15、 83-92、 1967 非特許文献 9 : Conchie等、 Biochem.J. 71、 318-325、 1959
非特干文献 10 : De Duve、 Biological approaches to cancer chemotheraph、 101-112 、 Academic press、 Inc.ゝ 1961
非特許文献 l l : Connorsand Whisson、 Nature 210 866- 867、 1966
非特許文献 12 : Sweeneyゝ Cancer Res. 31、 477-478、 1971
非特許文献 13 :Young、 Cancer 38、 1887-1895、 1976
非特許文献 14 : Baba、 Gann69、 283-284、 1978
非特許文献 15 : Bossletら、 Br.J. Cancer 65、 234-238、 1992
非特許文献 16 : Hirschmann等、 J. Am. Chem. So 86、 3903-3904、 1964 非特許文献 17 :J. Med.Chem. 27、 261-266、 1984
非特許文献 18 :J. Med.Chem. 28、 51-57、 1985
非特許文献 19 : PharmaceuticalRes. 10、 1553-1562、 1993
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0012] 抗コリン薬の副作用を低減させた薬物の開発は、臨床上極めて重要な課題であると 考えられる。本発明は、効果を発生する標的部位と副作用を発現する部位が異なる 抗コリン薬の副作用を低減させることを課題とする。 課題を解決するための手段
[0013] 従来の技術の欄にお!、て説明したように先行技術は!、ずれも癌ある!、は炎症組織 等において亢進した酵素活性を利用し、活性体へ変換させるプロドラッグである。一 方、本発明は、組織あるいは臓器にある酵素活性において、正常状態においても臓 器間に存在する活性の差を利用するプロドラッグである。
[0014] 本発明者らは、 11-ェチル -7、 9-ジヒドロキシ -10、 11-ジヒドロジべンゾ [b、 f]チェピ ンのグルクロン酸抱合に関する研究を行ってきた。この化合物は、経口投与後、肝臓 で速やかにグルクロン酸抱合を受け、血中では 99%以上グルクロン酸抱合体として 存在する。しかし、薬理上のターゲット組織である肺では、薬理活性を示した。研究の 結果、この化合物のグルクロン酸抱合体は、肺において脱抱合されることが判明し、
ダルク口-ダーゼによって脱抱合された親化合物が活性を示したものと推定され た。(詳細は実施例の後に参考例 6として記載した。)
ただし、 β ダルク口-ダーゼ活性の局在に関する各臓器あるいは細胞レベルにお ける詳細な研究報告はなかった。そこで、気管支における j8—ダルク口-ダーゼの局 在を確認したところ、図 1に示すように細気管支の上皮細胞に局在して 、ることを見 出した(図 1の黒く染まって見えるのが j8—ダルク口-ダーゼである)。 (試験法の詳細 は実施例の後に参考例 7として記載した。 )このように特定の部位に /3 ダルク口ニダ ーゼ活性が局在することを見出したことが本発明の基礎となっている。
[0015] さらに、 j8—ダルク口-ダーゼ力 生体中のどのような臓器に多く含まれるかについ て調査した。特に、抗コリン薬、 β 作用薬等の心臓、血圧への副作用の軽減を考慮
2
した場合、各種臓器の中で肺と心臓における j8—ダルク口-ダーゼ活性を調べること 力 抗コリン剤、 β 作用薬等のダルク口-ドプロドラッグィ匕において極めて重要である
2
と考え、モルモットの各臓器における j8—ダルク口-ダーゼ活性を測定した。この場合 に、実際の喘息状態を想定して、喘息の動物モデルを用いることで喘息状態の時に おける j8—ダルク口-ダーゼ活性の比較も行った。すなわち、抗原で感作したモルモ ットと非感作モルモット、さらに抗原感作モルモットを抗原刺激により発作を惹起した ときの各臓器の j8—ダルク口-ダーゼ活性を比較した。その結果を図 2に示す。(試験 法の詳細は実施例の後に参考例 8として記載した。 )
図 2の肺の結果力も明らかなように炎症状態により亢進する酵素活性はごくわずか であり、正常時力 存在している酵素活性が組織毎に大きく異なることがわかる。また 、抗コリン薬、 β 作用薬等の副作用発現部位である心臓においては酵素活性が低
2
いことが確認された。さらに、心臓における j8—ダルク口-ダーゼの局在の有無を確 認したところ、図 3に示すように全ぐ j8—ダルク口ニダーゼの活性を示す陽性像が認 められな力つた(図 3の矢印で示した黒い部分は、へマトキシリンによる細胞の核染色 像を示す)。(試験法の詳細は実施例の後に参考例 9として記載した。 )
[0016] 培養上皮細胞では、構成的(constitutive)に β ダルク口-ダーゼを培地中に放出 することが報告されている(Scaggiante等、 Exp.Cell Res. 195、 194-198、 1991)。同様 に培養ヒト肺マクロファージも構成的に 13 ダルク口-ダーゼを培地中に放出すること
が報告されている(Triggiani等、 The J. Immunol. 164、 4908-4915、 2000)。従って、 ダルク口ニダーゼが細胞外でその活性を発現するためには、必ずしも、炎症や細 胞損傷による放出が必要であるわけではなぐ組織の局所においてどれだけ高濃度 に j8—ダルク口-ダーゼが存在しているかに力かると思われる。このような観点から細 胞組織学的に考察すると、肺の細気管支上皮細胞周辺の j8 -ダルクロニダーゼは、 驚くべき局所活性を有する場といえる。
[0017] 本発明者らは、上記の知見を基に抗コリン薬、 13 作用薬等を予めダルクロン酸抱
2
合した化合物を合成し、本グルクロン酸抱合体を吸入せしめることによって、肺の細 気管支部分に多く存在する ι8—ダルクロニダーゼにより脱抱合させ、局所での気管支 拡張作用を発揮させ、一部が心臓に到達したとしても j8—ダルク口-ダーゼが殆ど存 在しない心臓では、抗コリン薬、 β 作用薬等特有の副作用が殆ど認められないと考
2
え、実際に j8 作用薬のダルク口-ドを合成し、頻用されている抗原誘発型モルモット
2
喘息モデルにおいて、吸入投与した結果、見事に気道収縮抑制作用を示し、続いて ラットを用いて、心拍数、血圧に対する副作用を調べた結果、全く影響がないことを 明らかにして、本発明を完成させた。
[0018] 本発明は、下記(1)一(10)に示されるプロドラッグである。
(1)グリコシダーゼが正常時から高濃度で局在化している上皮細胞を有する呼吸器 官が標的部位である抗コリン剤の副作用部位に着目し、該副作用部位の正常時に おけるグリコシダーゼ活性が低 、場合に、グリコシダーゼで切断される置換基を該抗 コリン剤に結合することにより該抗コリン剤の副作用を軽減するプロドラッグ。
(2)置換基が単糖またはオリゴ糖のグリコシル基である(1)のプロドラッグ。
(3)グリコシダーゼが 13 ダルクロニダーゼである(1)のプロドラッグ。
(4)置換基がダルク口-ル基である(1)のプロドラッグ。
(5)ダルクロニル基と抗コリン剤の結合が j8結合である(1)のプロドラッグ。
(6)抗コリン剤が水酸基を有する化合物である(1)のプロドラッグ。
(7)抗コリン剤が式
ΤΙ ΗΝΗ-Ι
3 は
0
(式 1)
又は、
(式 2)
(式中、 Rl、 R2は、それぞれ炭素数 1一 4の低級アルキル基、またはハロゲン基で置 換された炭素数 1一 4の低級アルキル基であり、 R3は水素または炭素数 1
o 一 3の低級 アルキル基であり、 R4、 R5は、それぞれ、水素、ハロゲン基、炭素数 1一 4の低級ァ ルキル基、置換基を有する炭素数 1一 4の低級アルキル基、フ ニル基、置換基を有 するフ -ル基、複素環のいずれかである。 )
で表される化合物である(1)のプロドラッグ。
(8)プロドラッグが式
Λ
R1—N+— 2 G lu c u r o n de 一 R1-h+-R2 CHO -Glucuronide I H 叉は I
R3 H R3
(式 3)
又は、
o O
II
OCCHO - Glucuronide H II
OCCHO Glucuronide
/
R1 R2 R3 十
0 R1-N+-R2 R3
H 叉は \ 丄
(式 4)
(式中、 Rl、 R2は、それぞれ炭素数 1一 4の低級アルキル基、またはハロゲン基で置 換された炭素数 1一 4の低級アルキル基であり、 R3は水素または炭素数 1一 3の低級 アルキル基であり、 R4、 R5は、それぞれ、水素、ハロゲン基、炭素数 1一 4の低級ァ ルキル基、置換基を有する炭素数 1一 4の低級アルキル基、フ ニル基、置換基を有 するフ -ル基、複素環のいずれかである。 )
で表される化合物である(1)のプロドラッグ。
(9)抗コリン剤がィプラト口ピウム、ォキシトロピウムのいずれかである(1)のプロドラッ グ。
(10)プロドラッグ力 3— 0— ( β—D—グルクロ-ル)—ィプラト口ピウム、 3— 0— ( β— D—ダルク 口-ル)-ォキシトロピウムの ヽずれかである(1)のプロドラッグ。
本発明は、上記(1)一(10)のプロドラッグの有効量を製薬的に適当でありかつ生 理学的に許容しうる賦形剤、添加剤、および Ζまたは他の活性化合物および補助剤 と一緒に含有する吸入用医薬組成物である。
本発明は、下記(12)—(14)の化合物である。
(12)式
(式 3)
又は、
o O
II II
OCCHO - G lucuron ide H
OCCHO - G lucuronide
4
R1 -N+-R2 R3 R1 -N+-R2 R3
_ I H 叉は _ I
H
(式 4)
(式中、 Rl、 R2は、それぞれ炭素数 1一 4の低級アルキル基、またはハロゲン基で置 換された炭素数 1一 4の低級アルキル基であり、 R3は水素または炭素数 1一 3の低級
アルキル基であり、 R4、 R5は、それぞれ、水素、ハロゲン基、炭素数 1一 4の低級ァ ルキル基、置換基を有する炭素数 1一 4の低級アルキル基、フ ニル基、置換基を有 するフ -ル基、複素環のいずれかである。 )
で表される化合物、その薬剤学的に許容される塩またはその水加物。
(13)式
(式 5)
で表される化合物、その薬剤学的に許容される塩またはその水加物。
(14)式
(式 6)
で表される化合物、その薬剤学的に許容される塩またはその水加物。
本発明は、下記(15)— (24)の抗コリン剤の副作用を軽減する方法である。
( 15)グリコシダーゼが正常時から高濃度で局在化している上皮細胞を有する呼吸器 官が標的部位である抗コリン剤の副作用部位に着目し、該副作用部位の正常時に おけるグリコシダーゼ活性が低 、場合に、グリコシダーゼで切断される置換基を該抗 コリン剤に結合することによりプロドラッグとし、該抗コリン剤の副作用を軽減する方法
(16)置換基が単糖またはオリゴ糖のグリコシル基である(15)の副作用を軽減する方 法。
(17)グリコシダーゼが β ダルク口-ダーゼである(15)の副作用を軽減する方法。
(18)置換基がダルクロニル基である(15)の副作用を軽減する方法。
(19)ダルクロニル基と抗コリン剤の結合が β結合である(15)の副作用を軽減する方 法。
(20)抗コリン剤が水酸基を有する化合物である(15)の副作用を軽減する方法。
(21)抗コリン剤が式
(式 4)
(式中、 Rl、 R2は、それぞれ炭素数 1一 4の低級アルキル基、またはハロゲン基で置 換された炭素数 1一 4の低級アルキル基であり、 R3は水素または炭素数 1一 3の低級 アルキル基であり、 R4、 R5は、それぞれ、水素、ハロゲン基、炭素数 1一 4の低級ァ ルキル基、置換基を有する炭素数 1一 4の低級アルキル基、フ ニル基、置換基を有 するフ -ル基、複素環のいずれかである。 )
で表される化合物である(15)の副作用を軽減する方法。
(23)抗コリン剤がィプラト口ピウム、ォキシトロピウムのいずれかである(15)の副作用 を軽減する方法。
(24)プロドラッグ力 3- 0- ( β -D-グルクロ-ル)-ィプラト口ピウム、 3- 0- ( β - D -ダルク ロニル) -ォキシトロピウムの ヽずれかである(15)の副作用を軽減する方法。
本発明は、上記(15)—(24)のいずれかのプロドラッグの有効量を製薬的に適当 でありかつ生理学的に許容しうる賦形剤、添加剤、および Ζまたは他の活性ィ匕合物 および補助剤と一緒に含有する吸入用医薬組成物として吸入投与させることにより 該薬物の副作用を軽減する方法である。
背景技術の欄にて説明した従来技術においては、薬物とグルクロン酸の間にスぺ 一サーを挿入するなどの工夫をしなければ、腫瘍細胞にぉ 、て効率的に薬物とダル クロン酸に、 j8—ダルク口-ダーゼによって切断することができな力つた力 本発明は 、このようなスぺーサー配列を挿入しなくても、肺の細気管支の局所に吸入された薬 物のダルク口-ドが効率的に切断することを証明した。
本発明は、腫瘍組織や炎症組織で亢進した β ダルク口-ダーゼ活性を利用する のではなぐ正常状態で非常に高い j8—ダルク口-ダーゼ活性がある組織を見い出し たことにより、完成したものである。細気管支の上皮細胞においては高い j8—ダルク口
ニダーゼ活性が存在するので、効率的に切断させる目的でのスぺーサー挿入の必 然性はな!/、ものと考えられる力 プロドラッグの合成面での簡便性や安定性等のため に任意の適切なスぺーサーを挿入することは差し支えな 、。かかるスぺーサーをダリ コシダーゼで切断される置換基と薬物の間に挿入したィ匕合物も本発明の範囲に含ま れる。
発明の効果
[0022] 薬物の標的部位と副作用が発現する部位間においてその活性に差がある酵素活 性を利用して、非標的器官に対する薬物の副作用を低減させることのできる抗コリン 薬のプロドラッグを提供することができる。心臓等に対する副作用が発現しない抗コリ ン薬の提供を可能にした。
発明を実施するための最良の形態
[0023] 本発明は、従来の技術に示される、癌組織や炎症組織において亢進した酵素活性 を利用するもの、あるいは、腸内細菌の有する酵素活性を利用するものと異なり、標 的部位と副作用発現部位間の酵素活性の差を利用したプロドラッグである。
抗コリン薬は、標的部位と副作用発現部位が異なっており、特に副作用発現部位 が特定され、限定されている点で好ましい。酵素で切断される置換基を結合する必 要から、抗コリン薬の中でもそれに適する構造を持つ薬物であることが好ましい。例え ば、 j8—ダルク口-ダーゼで切断される糖を結合する場合には水酸基、アミノ基、カル ボキシル基、チオール基を有する化合物が好ましい。特に、物質としての安定性、グ ルクロ-ダーゼにより切断されやす 、点から、水酸基を有する化合物が適して 、る。
[0024] 薬物の標的部位とは薬物が薬効を発揮する細胞、組織、臓器、器官等を意味する 。また、副作用が発現する部位とは薬物の好ましくない効果が発揮される細胞、組織 、臓器、器官等を意味する。
本発明にお 、て呼吸器官とは気道および肺を意味する。
本発明のプロドラッグは気管支喘息、小児喘息、慢性気管支炎、急性気管支炎、 肺炎、肺気腫、肺結核、 COPD等の疾患に対する治療剤である。
本発明において、気管支拡張剤とは吸入等により、気管支平滑筋に直接あるいは 間接的に作用する薬剤である。気管支においては、細気管支の上皮細胞等に j8—グ
ルクロ-ダーゼが局在しており、そこで薬物が遊離されると平滑筋は上皮細胞のすぐ 下にあるため効果的に作用させることができる。
本発明において抗コリン薬としては、ィプラト口ピウム、フルト口ピウム、ォキシトロピウ ム、チォトロピウム等が代表的なものとして例示されるが、これらの誘導体に限らず、 抗コリン作用を有する薬物であればよ ヽ。
ダルク口-ル基を置換基として導入するには水酸基を有する抗コリン剤が好ましい。 特に、抗コリン剤が式
(式 1)
又は、
(式 2)
(式中、 Rl、 R2は、それぞれ炭素数 1一 4の低級アルキル基、またはハロゲン基で置 換された炭素数 1一 4の低級アルキル基であり、 R3は水素または炭素数 1一 3の低級 アルキル基であり、 R4、 R5は、それぞれ、水素、ハロゲン基、炭素数 1一 4の低級ァ ルキル基、置換基を有する炭素数 1一 4の低級アルキル基、フ ニル基、置換基を有 するフ -ル基、複素環のいずれかである。 )
で表される化合物であるものが好ましぐこれらの水酸基にダルクロニル基を結合させ て、式
G lucuron ide
(式 3)
又は、
o o
II H II
OCCHO - G lucuron ide OCCHO - G lucuronide
Λ
R1 -N+-R2 R3 R1 -N+-R2 R3
_ I H 叉は _ I
H
(式 4)
(式中、 Rl、 R2は、それぞれ炭素数 1一 4の低級アルキル基、またはハロゲン基で置 換された炭素数 1一 4の低級アルキル基であり、 R3は水素または炭素数 1一 3の低級 アルキル基であり、 R4、 R5は、それぞれ、水素、ハロゲン基、炭素数 1一 4の低級ァ ルキル基、置換基を有する炭素数 1一 4の低級アルキル基、フ ニル基、置換基を有 するフ -ル基、複素環のいずれかである。 )
で表される化合物としたものがプロドラッグとして好ましい。
本願明細書中で用いられる用語「ハロゲン基」とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の いずれかの基を意味する。本願明細書中で用いられる用語「低級アルキル基」とは、 例えば、直鎖状もしくは分枝状のアルキル基を意味する。アルキル基としては、例え ば、メチル、ェチル、 n プロピル、 i プロピル、 n—ブチル、 iーブチル、又は t ブチル などが用いられる。該「低級アルキル基」が有していてもよい置換基としては、例えば 、アミ入ニトロ、低級アルコキシ (例えば、メトキシ、エトキシなど)、またはハロゲン原 子など力も選ばれた 1個もしくは 2個以上が用いられる。
本願明細書中で用いられる用語「置換フエニル基」とは、例えば、低級アルキル基( 例えば、メチル、ェチル、プロピルなどの C アルキル基)
3 、低級アルコキシ基(例え
1—
ば、メトキシ、エトキシ、プロポキシなどの C アルコキシ基)、アミノ基、ニトロ基、又は
1-3
ノ、ロゲン原子など力も選ばれた 1個もしくは 2個以上により置換されたフエニル基が用 いられる。
[0027] 本願明細書中で用いられる用語「複素環」とは、例えば、炭素原子以外に、窒素原 子、酸素原子、硫黄原子など力 選ばれた 1ないし 4個のへテロ原子を含んでいても よい 3ないし 7員の複素環力も水素原子 1個を除いた残りの原子団を意味する。複素 環は縮合していてもよい。複素環の具体例としては、例えば、ォキセタン、テトラヒドロ フラン、テトラヒドロチォフェン、テトラヒドロピラン、ピロール、ァゼチジン、ピロリジン、 ピぺリジン、ピぺラジン、チ才フェン、ホモピぺリジン、モノレホリン、フラン、ピリジン、ベ ンゾフランあるいはベンゾチォフェンなどが挙げられる。
[0028] 本発明の酵素としては、 j8—グルクロニダーゼ、ダルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、 N ァセチルー D ダルコサミニダーゼ、 N ァセチルー D ガラクトサミニダーゼ、マン ノシダーゼ、フコシダーゼ等のグリコシダーゼゃァリルスルファターゼが例示される。 呼吸器官用剤の場合、特に β ダルク口-ダーゼが好ましい。
酵素が、上述したグリコシダーゼの場合、本発明における単糖とは、 D—グルクロン 酸、 D グルコース、 D ガラクトース、 Ν—ァセチルー D ダルコサミン、 Ν ァセチルー D—ガラクトサミン、 D マンノース、 L フコース等カも選ばれる糖が例示され、オリゴ 糖とは前記単糖 2— 5個からなり、それらが互いにひ または β Ο—グリコシド結合で 結合しているものが例示される。通常、単糖と薬物との結合は α または j8—グリコシ ド結合である。酵素が j8—ダルク口-ダーゼである場合には j8—ダルクロニル結合が 好ましい。
[0029] 本発明において置換基とは酵素によって切断される糖残基、硫酸基などを意味す る。例えば酵素がグリコシダーゼの場合、酵素で切断される糖残基としては、ダルク口 -ル、ダルコピラノシル、ガラタトピラノシル、ァセチルーダルコサミル、ァセチルーガラ タトピラノシル、ァセチルーピラノシル、マンノビラノシル、フコビラノシルなどが例示さ れる。
薬物と置換基を直接、結合させずに、 J.Med.Chem.2000、 43、 475に例示されている ように j8—ダルク口-ドをトリガーとしスぺーサーを介して結合することも可能である。ス ぺーサ一とは、薬物と置換基の間に介在させる構造のことである。標的器官において 化学的にあるいは酵素的に切断され親化合物がすみやかに発現するものが望まし い。この場合、非選択的に切断されるものが好ましぐ単純に加水分解などで切断さ
れるものを用いる。
本発明では、酵素活性の高い標的器官が選択されているので、スぺーサーを使用し なくても、参考例に示すように標的組織で十分に薬物が遊離される。したがって、必 ずしもスぺーサーを必要としないが、選択する薬物、器官、酵素によってはスぺーサ 一を使用すると有利なことがある。
スぺーサーを介することにより、容易に酵素で切断できるようになったり、立体障害な どのため反応性が低 、置換基の場合、容易に変換できるなどの効果が考えられる。 ただし、スぺーサ一およびその代謝物の毒性などの薬理的性質を明らかにしておく 必要が生じる。
スぺーサ一としてはエステルや力ルバモイルのように化学的には安定でありながら最 終的には標的酵素によって分解され親化合物がすみやかに発現するものが古くから 汎用されている (H.Bundgaard Ed.、 Design of Prodrugsゝ p.262- 269、 1985、 Elsevier)。 薬物によっては(US 5621002 (family patent: EP 642799、特開平 7- 149667)、 US 5935995 (family patent: EP 795334、特開平 10-1495)、 US 5955100 (family patent:EP 5955100 (family patent:EP 595133、特開平 6-293665》などに開示されたも のちしょうでさる。
糖またはスぺーサ一の結合位置としては水酸基が考えられる。これらの置換基を手 がかりとして直接または間接に糖部分もしくは硫酸基を結合させプロドラッグとする。 本発明の化合物の具体的な例としては、 3-0-( |8 -D -ダルク口-ル) -ィプラト口ピウ ム、 3-0-( j8 - D-グルクロ-ル)-ォキシトロピウム等が例示される。
本発明のプロドラッグは、局所投与により用いることが好ましい。標的部位、副作用 発現部位以外の部位の酵素活性の影響を受ける可能性が低くなり、より効果的なプ ロドラッグとなる。呼吸器官用剤の場合は、吸入用の医薬組成物として用いるのが好 ましい。
本発明のプロドラッグを吸入剤として使用する場合、その吸入剤用添加剤としては 、一般に吸入用医薬組成物に使用される添加剤であれば 、ずれのものであってもよ ぐ例えば、噴射剤、固形賦形剤、液状賦形剤、結合剤、滑沢剤、矯味剤、保存剤、 安定化剤、懸濁化剤、分散剤、溶剤、等張化剤、 PH調整剤、可溶化剤などが用いら
れる。噴射剤としては、液化ガス噴射剤、圧縮ガスなどが用いられる。また、本発明の 医薬組成物には、活性成分として本発明プロドラッグ以外の医薬成分を含有してい てもよい。
[0031] 本発明の医薬組成物において、プロドラッグの含有量は、薬物、対象疾患、対象患 者の年齢や性別、疾患の状態などによって相違するが、通常医薬組成物全体に対し て約 0. 01— 99. 9重量%、好ましくは約 0. 1— 50重量%、さらに好ましくは約 0. 5 一 20重量%程度である。吸入剤用添加剤などの各種添加剤の含有量は、対象疾患 、対象患者の年齢や性別、疾患の症状などによって相違するが、通常医薬組成物全 体に対して約 0. 1— 99重量%、好ましくは約 10— 99重量%、さらに好ましくは約 50 一 99重量%程度、特に好ましくは約 70— 99重量%程度である。
[0032] 本発明の医薬組成物を吸入剤として使用する場合、公知の方法を用いて、粉末吸 入剤、吸入用懸濁剤、吸入用溶液またはカプセル状吸入剤とし、用時適当な吸入器 を用いて適用することができ、特に粉末吸入剤が好ましく用いられる。さらに、本発明 の医薬組成物は、エアゾール剤として使用することができる。
本発明の医薬組成物を使用する場合、適用の際に使用する器具としては、市販の 吸入器を用いても良ぐ例えば、ベントリン'ロタキャップス(VENTOLIN ROTACAPS ; ダラクソ社)、スピンへラー (登録商標、藤沢薬品工業 (株))、インタール'スピンキヤッ プス(INTAL SPINCAPS;フィソンズ社)、アト口ベント ·アンド ·ベロテック'インハレッテ ン(ATROVENT AND BEROTEC INHALETTEN ;ベーリンガ^ ~ ·インゲノレハイム社)、 フオラディル(FORADIL;チバ社)、ベントディスク(BENTODISKS;グラクソ社)、パブ ライザ一(登録商標、帝人 (株))、プリカニル 'ターブハラ一 (BRICANYL
TURBUHALER;ァストラ社)、ミアト'インスファレイタ一(MIAT INSUFFLATOR)など が例示される。
[0033] 本発明のプロドラッグは置換基として糖など、通常体内で安全に代謝されるものを 結合させただけのものなので、その毒性は薬物自体の毒性以上となる可能性は低い 。局所的に投与に適するので、最小有効量の投与で済み、全身的多量投与を避け ることができる。したがって、小児であっても容易に安全に服用することができる。特 に、吸入剤やエアゾール剤とした時は、格別の局所作用効果を発揮できる。
静脈内投与、筋肉内投与等を行った場合でもプロドラッグとせずに薬物そのままを 投与する場合に比べて、はるかに安全性が向上することはいうまでもない。例えば、 抗コリン薬を静脈内投与する必要がありうる力 その場合でも心臓ではダルク口ニダ ーゼの活性が低いので、心臓における抗コリン薬の副作用は薬物そのままを投与す る場合と比較してはるかに低減される。
本発明の医薬組成物の投与量は、薬物、対象疾患、年令、体重、症状、投与経路
、投与回数などにより異なる力 例えば、 13 作用薬の場合、プロドラッグにする前の
2
活性薬物の投与量とほぼ同等の効果を発揮する。
[0034] 本発明のプロドラッグの製造方法としては、有機化学的グリコシルイ匕および酵素的 グリコシルイ匕がある。たとえば、水酸基を保護した糖誘導体を Koenigs- Knorr反応によ つて代表 れるグリコント反 、 (Advances inし aroohydrate Chem.and Biochem. 57、 207、 2001、 Academic Press)によって所望のグリコシド結合を形成させたのち、脱保 護により目的とするプロドラッグが得られる。
酵素法でも (KISO TO RINSHOU, 30、 2403、 1996)糖転移酵素と UDP-糖誘導体の 組み合わせにより同様の結果が得られる。
抗コリン剤は、式
(式 7)
で表される基本骨格を持つものが多い。この基本骨格を持つ抗コリン剤の場合、側 鎖にある水酸基に実施例で示したのと同様な方法によりダルクロニル基を導入するこ とがでさる。
[0035] 以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものでは ない。
実施例
[0036] アト口べンヒ'グルクロ ド [3-0- ( β D—グルクロン酸)ィプラト口ピウム)(3- 0- ( β
-D- glucuronic acid)ipratropium)の製造方法
ィプラト口ピウム ブロミド 22mg、ベンジル (トリクロロェタンイミドイル 2、 3、 4-トリス- 0- ベンジル- a - D -ダルコピラノシド)ゥロナ一ト 42mg、ジクロロメタン 4mLの混合物に 40 °Cで三フッ化ホウ素エーテル錯体 5 /z Lを加え、同温度で 3時間撹拌した。反応液に トリェチルァミン O.lmLを加えて濃縮した。得られた油状物を含水アルコール 2mLに 溶解し、パラジウム-炭素 5mgを加え室温で一晩水素添加した。反応液を濾過後、濃 縮し、 LH-20カラムクロマトグラフィーで分離し目的物 32mgを得た。
nmr (D20): 1.01 (6H、 m)、 3.00 (3H、 s)ゝ 4.93 (1Hゝ m)、 7.22 (5H、 s)
[参考例 1]
サルブタモールグルクロニド(3—0—( β—D—グルクロニル)ーサルブタモール)(参者 ί列 ίの の ¾告
(1) 2- (4ーメトキシベンジロキシ)—5— (2— (Ν— tert—ブチルァミノ)—1— (4ーメトキシ ベンジロキシ)ェチル)ベンジルアルコールの調製
サルブタモール 1.466g、 NaI25mg、 THF5mLの混合物に NaH250mgを 78°Cで少 しずつ加えた。 0°Cで 15分撹拌したのちに、 - 78°Cで p—メトキシベンジルクロリド( p-MeO- benzylchloride) 1.125gを添加後、室温で 16時間撹拌した。反応混合物にァ セトンを加えて濾過、濃縮後、カラムクロマトグラフィーにて目的物 1.20g(59%)を得た nmr(CDCl ):1.19(9H、 s)、 2.60(2H、 m)、 2.62(2H、 m)、 3.53(1H、 d、 J=10Hz)ゝ 3.81(6H
3
、 s)ゝ 3.88(1H、 d、 J=10Hz)ゝ 3.93(1H、 m)、 4.60— 4.70(2H、 m)、 4.99(1H、 s)、
7.2- 7.8(11H、 m)
(2) glycosidationおよび脱保護
2- (4ーメトキシベンジロキシ) -5- (2- (N— tert—ブチルァミノ)—1— (4ーメトキシべ ンジロキシ)ェチル)ベンジルアルコール 1.04g、ァセトブロモグルクロン酸メチルエス ァノレ (bromo— 2,3,4— tri—〇— acety卜 j8— D— gmcopyranuroic adid methyl ester)丄.50g、灰 酸銀 1.577g、 MS4A 1.577gにジクロロメタン 4mLをカ卩え、室温でー晚撹拌した。反応 液をセライトで濾過し、濃縮後、カラムクロマトグラフィーで分離し、粗生成物 1.68g(82 %)を得た。これを MeOH- THF(5mL、 2:3)で溶解し、 20%NaOH(2.59mL)をカ卩えて室
温で 1時間撹拌した。 TLC(AcOEt/n-HeX=l/2)で反応を確認後、氷冷下、酢酸で中 和した。 Pd-C(lOOmg)をカ卩え、水素添加(室温、一晩)した。反応液を濾過後、濃縮し 、 LH-20カラムクロマトグラフィーで目的物(実施例 1の化合物) 138mg(12%)を分離し た。
nmr(DMSO-d ): 1.25(9H、 s)ゝ 2.80— 2.94(2H, m)、 3.05— 3.35(4H、 m)、 4.25(1H、 m)、
6
4.60(1H、 m)、 4.76(1H、 d、 J=10Hz)ゝ 4.78(1H、 d、 J=8.8Hz)、 6.80(1H、 d、 =8.2Hz)、 7.12(1H、 dd、 J=8.2Hz & 1.6Hz)、 7.44(1H、 d、 J=1.6Hz)
IR (KBr、 cm_1)3402, 2980、 1617、 1509、 1406、 1276、 1200、 1118、 1074
[0038] [参考例 2]
イソプレナリングルクロニド (4 O ( β D—グルクロ二ル))(参者例 2の化合物)の製 造
イソプレナリン塩酸塩 1.00g、 ΙΝ-NaOH (4.00mL)の混合物に、ァセトブロモダルク ロン酸メチノレエステノレ (Bromo— 2、 3、 4— tri— 0— acety卜 j8— D— glucopyranuroic acid methyl ester) 1.28§をァセトン4.16 mLに溶かしたものを少しずつ 0°Cで加え、室温で 静置した。 lN-NaOH(2.46mL)を随時カ卩えながら、 pH7付近に保ち室温で 2日間反応 させた。濃縮後、 20%NaOH(2mL)を加えて室温で 30分撹拌した。冷却後、酢酸を注 意深く加え、酸性にし HP-20カラムで分離後、さらに LH-20カラムで分離し、実施例 2 の化合物を得た。収量 81mg(5.2%).
nmr (DMSO— d ):1.22(6H、 d、 J=6.5Hz)、 2.82— 2.96(2H、 m)、 3.05— 3.35(4H、 m)、
6
3.30(1H、 m)、 4.70(1H、 brs)ゝ 4.70(1H、 m)、 6.80- 7.50(3H、 m)
IR (KBr、 cm_1):3402, 1617、 1509、 1400、 1287、 1068、
[0039] [参考例 3]
3- ( β D ダルクロニ口キシ)メチルー 4—ヒドロキシー a 「(4ーメトキシー a—メチルフ エネチル)ァミノ 1メチル }ベンジルアルコール
実施例 1と同様の製法にて標記化合物を得た。
nmr (DMSO— d ):0.90(3H、 d、 J=6.2Hz)、 2.82— 2.96(2H、 m)、 3.05— 3.35(4H、 m)、
6
3.30(1H、 m)、 3.71(3H、 S)ゝ 4.45(1H、 brs)ゝ 4.47(1H、 m)ゝ 6.60— 7.30(7H、 m)
[0040] [参考例 4]
作用薬ダルク口-ドの薬理活性》
2
1.試験方法
β 作用薬であるサルブタモール及びイソプレナリンのダルク口-ドの気管支拡張作
2
用を調べるために、 ovalbuminで感作したモルモットの喘息モデルを用いた。試験は、 Konzettと Rosslerの方法に従って実施した(Arch. Exp. Pathol. Pharmakol.、 195、 71-75、 1940) o
〈感作〉
感作開始 1および 8日目、モルモットに ovalbuminSOO /z g/0.5mLを両足に筋肉内投 与、百日咳ワクチン 1.5 X 105cell/mL/匹を腹腔内投与するすることにより能動的に感 作した。感作開始 15日目に ovalbuminlOおよび 100 /z g/siteを背部に皮内投与して感 作状態をチ ックした。皮内感作 6時間後の感作チ ックで陽性になった動物のみ試 験に使用した。
〈投与方法〉
被験物質は、超音波ネブライザ一の霧化量を小にして薬液を霧化し、エアロゾルを 発生させ、エアロゾルを曝露チャンバ一 (M丄 P.S.社)に導き、エアーポンプ (SPP-3GA 、 TECHNO TAKATSUKI社)を用いて 3 L/minで吸引し、 ovalbuminチャレンジの 40分 前に 10分間モルモットに吸入投与した。
〈気道内圧測定〉
感作開始 19一 23日目、ペントバルビタールナトリウム (50 mg/kg、 i.p.)で麻酔した。 気管に力-ユレーシヨンを行った。気管力-ユーレを介して人工呼吸器に接続し、人 ェ呼吸 (換気量 10 mL/kg、換気回数 50回/分)下で通気圧の変化を気管力-ユーレ に接続した差圧トランスデューサー(Validyne、 Gould Electronics)を介してレコーダ 一 (WT-645G、 日本光電株式会社)上に気道内圧として記録した。気道内圧は ovalbumin投与 10分後まで気道内圧を測定した。次に左右の総経静脈内に力-ユレ ーシヨンを行った。左側の力-ユレーシヨンよりガラミン (lOmg/mL)を lmL/kgの容量で 静脈内投与し、 自発呼吸が消失したことを確認した。その後、 ovalbuminを静脈内投 与し、抗原抗体反応を惹起した。気道内圧の測定ポイントは、惹起前、 ovalb醒 in惹 起後 1、 3、 5、 7および 10分とした。気道内圧の増加率は、惹起後の各測定時間の測
定値より惹起前の測定値を差し引き、各測定時間における最大閉塞に対する割合を 百分率で表した。
[0042] 〈試験材料〉
被験物質としてサルブタモールダルク口-ド、イソプレナリングルクロ-ドを使用した 。サルブタモールダルクロニドは白色粉末およびイソプレナリングルクロニドは茶褐色 結晶であり、いずれも- 80°Cで遮光下にて保存した。比較対照物質としては、各々サ ルブタモールおよびイソプレナリンを使用した。サルブタモールおよびイソプレナリン は白色粉末であり、いずれも遮光下で室温保存した。被験物質および比較対照物質 は、必要量を秤量して生理食塩溶液(大塚製薬工場株式会社、 Lot No.lD78、 1E84) に溶解し、用時調製とした。被験物質と比較対照物質の溶液中の濃度は、モル濃度 で等量になるようにした。 、ずれの溶液も室温で 24時間ほぼ安定であった。
なお、サルブタモールダルク口-ド及びイソプレナリングルクロ-ドは、調製後 30分 以内に使用した。この他、 ovalbumin (OVA, Sigma Chemical Company, Lot
No.l20K7001)、 gallamine (gallamine triethiodide、 Sigma Chemical Company^ Lot No.76H1106)、ペントパルビタールナトリウム(東京化成株式会社、 Lot No.GI01)、百 日咳ワクチン(和光純薬工業株式会社、 Lot No.SEK7880)、および生理食塩液(株 式会社大塚製薬工場、 Lot No.lD78、 1E84)を使用した。
[0043] 各試験群の構成を表 1に示す。
[0044] [表 1] 試験群 投与経路 薬物濃度 (%) 吸入時間 使用動物数 対照 吸入 0 10分間 8 サルブタモ一ル 吸入 0. 05 10分間 8 サルブタモ一ノレ
吸入 0. 072 10分間 8 ダルクロニド
イソブレナリン 吸入 0. 1 10分間 8 イソプレナリン
グゾレクロ二ド 吸入 0. 157 10分間 8
[0045] 〈統計学的解析処理方法〉
得られた試験成績は、気道内圧について平均値および標準誤差で表示した。有意 差検定は 2群間の比較の場合は対応のない Studentの t検定を行った。多群の比較 の場合は Dunnett's multiple testを行った。いずれも有意水準は 5%とした。気道抵 抗の上昇に対する各被験物質の抑制率は、対照群の抑制率を 0%とした時の対照 群に対する抑制率として算出した。
[0046] 2.結果
サルブタモール及びサルブタモールダルク口-ドの抗原誘発型即時型喘息反応に 対する影響を検討した結果を図 4に示す。結果は、方法に記述したように、抗原であ る ovalbuminの投与前 (pre)の気道内圧に対する増加率で表した。なお、図中の pre とは、ガラミンを投与し、自発張力を消失させ、安定した時点を指し、 ovalbuminの投 与開始約 5-10分前を意味するものである。 ovalbuminの静脈内投与により抗原抗体 反応が惹起された対照群のモルモットでは、抗原惹起の 1分後には気道内圧は速や かに上昇し、 3分後に最大約 44%の増加を示した。サルブタモールを 0.05 %の濃度 で吸入させた群では、抗原惹起の 3分後に約 3%の増加率を示し、気道内圧の上昇 を強く抑制した。これは、対照群と比較して約 92%の有意な抑制を示した。一方、サ ルブタモールダルク口-ドを 0.072%の濃度で吸入させた群でも同様に、 3分後に約 20%の増加率を示し、気道内圧の上昇を強く抑制した。これは、対照群と比較して 56 %の有意な抑制を示した。
[0047] 一方、イソプレナリン及びイソプレナリングルクロ-ドの抗原誘発型即時型喘息反応 に対する影響を検討した結果を図 5に示す。実験条件、結果の表わし方は、サルブ タモールの場合と同様である。イソプレナリンを 0.1%の濃度で吸入させた群では、抗 原惹起の 3分後に約 12%の増加率を示し、気道内圧の上昇を強く抑制した。これは、 対照群と比較して約 73%の有意な抑制を示した。一方、イソプレナリングルクロ-ドを 0.157%の濃度で吸入させた群でも同様に、 3分後に約 10%の増加率を示し、気道 内圧の上昇を強く抑制した。これは、対照群と比較して 77%の有意な抑制を示した。
[0048] 以上のことから、サルブタモールダルクロニド及びイソプレナリングルクロニドは、吸 入投与によりモルモットの即時型喘息反応を有意に抑制することができることを明ら
かにした。本結果と細気管支の上皮組織に j8—ダルク口-ダーゼ活性が強く存在す る結果(図 1)から、サルブタモールダルク口-ド及びイソプレナリングルクロ-ドは、吸 入投与により気道に入り、肺の細気管支周辺で β ダルク口-ダーゼにより加水分解 され、活性体であるサルブタモール及びイソプレナリンに変換されて抗喘息作用を発 揮したものと考えられる。
[0049] [参考例 5]
《ι8 作用薬ダルクロニドの副作用に対する影響》
2
薬物として j8 作用薬のイソプレナリンとサルブタモールを使用し、これらの j8 作用
2 2 薬とそのダルクロニド (参考例 1と参考例 2)の心臓に対する影響を確認した。
[0050] 1.試験方法
試験は、 Crj:CD(SD)ラットを用い、各群 6匹にて実施した。
〈血圧及び心拍数の測定〉
手術は酸素、笑気及びイソフルランの混合ガスの麻酔下で行い、総頸動脈にへパ リン (100 U/mL)含有の生理食塩液を満たしたポリエチレン製チューブ(PE50、 Becton Dickinson)の一方を挿入して留置し、他方を背中の頸部あたりを通して曝露用チヤ ンバーの上部に設置した力-ユーラシ一ベル (インステック社製)に接続した。この力 ニューラシ一ベルからポリエチレン製チューブを介して圧力トランスデューサー( P23XL、 Gould Electronics)に接続する。なお、背中力 力-ユーラシ一ベルに至る ポリエチレン製チューブの周りは金属製スプリングの中を通して、動物による損傷を 防止した。
[0051] 薬物の投与は、曝露用チャンバ一を作製し、チャンバ一内で血圧測定用の力-ュ 一レを総頸動脈に留置した状態のラットに全身吸入曝露で行った。この方法は全身 吸入曝露で汎用されて ヽるものである。
圧力トランスデューサー(P23XL、 Gould Electronics)からの信号をプレッシャープロ セッサ一シグナルコンディショナー(Gould Electronics)に導き、サーマルアレイレコー ダー(RS3400、 Gould Electronics)上に記録する。血圧及び心拍数は投与開始前か ら投与終了後 20分まで連続的に記録した。投与開始は、覚醒後 1時間以上経過し、 測定パラメータが安定してから実施した。
[0052] 〈試験材料〉
被験物質は参考例 3と同様に調製した。
各試験群の構成を表 2に示す。
[0053] [表 2]
[0054] 〈統計学的解析処理方法〉
各群の代表値は、平均値士標準誤差 (S.E.)で表示した。各群の平均値は、 Tukey の多重比較検定で有意差検定を行った。なお、有意水準は 5%とした。
[0055] 2.結果
サルブタモール及びサルブタモールグルクロ-ドの心臓機能、特に血圧 Z心拍数 に対する影響を検討した結果を図 6に示す。なお、図中の preとは、薬物の吸入投与 開始直前を意味するものである。サルブタモール吸入投与直後から、血圧の低下及 び心拍数の上昇が認められた。吸入終了後、 5分後に 75mmHgまでの血圧低下を示 し、これは、吸入前 (pre)の約 26%の低下であった。また、心拍数に関しても同様の傾 向が認められ、 5分後に最大約 36%の上昇を示した。経時的に測定した 30分間の中 で最大の血圧低下率と心拍数増加率は、各々 27%と 39%であった。このように、サル ブタモールの吸入が、血圧及び心拍数に顕著な影響を示すことが明らかとなった。こ れに対して、同様の試験をサルブタモールダルク口-ドで実施した結果、対照群(生 理食塩水の吸入)と同様に、全く影響が認められな力つた。
[0056] 一方、イソプレナリンもサルブタモールと同様に、吸入投与直後から血圧の低下及 び心拍数の上昇が認められ、吸入終了後、 5分後に 72mmHgまでの血圧低下を示し
、これは、処理前の約 27%の低下であった。また、心拍数に関しても同様の傾向が認 められ、 5分後に約 49%の上昇を示した(図 7)。経時的に測定した 30分間の中で最 大の血圧低下率と心拍数増加率は、各々 28%と 50%であった。このように、イソプレ ナリンの吸入力 血圧及び心拍数に顕著な影響を示すことが明ら力となった。これに 対して、同様の試験をイソプレナリングルクロ-ドで実施した結果、対照群と同様に、 全く影響が認められな力つた。特にイソプレナリンは、 β 作用を有し、心臓への副作
1
用が強いことが知られている。本発明により、 β 作用薬ダルク口-ドを用いることによ
2
つて ι8 作用薬の有する心臓への影響を完全になくすことが可能となることが示され
2
た。これらの結果から、サルブタモール及びイソプレナリンのグルクロ-ドは、サルブ タモール及びイソプレナリンの血圧 ζ心拍に対して影響を及ぼすと 、う重篤な副作 用を消失させることを明らかにした。
[参考例 6]
β ァゴニストに属するサルブタモール、イソプレナリンを参考例として用いて本発 明を説明したが、この概念が参考例に示す二つの化合物だけでなぐ他の構造的に 全く異なる化合物においても同様の傾向、即ち、グルクロン酸化された薬物が、標的 組織にぉ 、て水解され活性を発現しうると!/、う例を提示する。
11-ェチル -7、 9-ジヒドロキシ -10、 11-ジヒドロジべンゾ [b、 f]チェピンは、平滑筋を 用いた in vitroの収縮抑制試験で効果を示すィ匕合物である。ブタ気管平滑筋標本を 高濃度 KC1ある 、は、カルバコールで誘発した平滑筋収縮を IC =5 μ Μ程度で抑制
50
する。本ィ匕合物を経口投与した場合、 10mg/kgで、即時型喘息モデルで気道収縮抑 制作用を示した (参考例 4と同一の実験系)。その後、本ィ匕合物の代謝に関する検討 を開始したところ、本ィ匕合物は、経口投与後、吸収され、速やかにグルクロン酸抱合 化を受けることが判明した。マウス、ラット、モルモット、ィヌ、サルにおいて、投与後の 血中分析の結果、いずれの動物種においても 99%以上がグルクロン酸抱合体であつ た。この結果から、抱合体に活性が存在する可能性を考慮して、 O ダルク口-ドを合 成した。合成した O ダルク口-ドは、先に述べた in vitroの平滑筋を用いた収縮抑制 試験で全く効果を示さな力つた。一方、先に述べた、モルモットの感作モデルを用い て O ダルク口-ドの効果を静脈内投与で確認したところ、気道収縮抑制作用を確認
することができた。これは、静脈内に投与された o ダルク口-ドが、肺の組織に到達 した後に、水解されて、未変化体に戻ったために、気道収縮抑制作用を示した結果 であると推察される。
このように、 j8—ァゴニストとは、全く異なる構造の化合物でも、同様の結果が認めら れたことは、グルクロン酸抱合ィ匕した化合物が、肺で効率的に水解され活性を発現 する可能性を強く示して 、る。
[0058] 以下に「課題を解決するための手段」の欄で説明した図 1、 2、 3について詳細を示 す。
[参考例 7]
《図 1:肺における β ダルク口-ダーゼの局在》
肺及び心臓における j8—ダルク口-ダーゼの局在について酵素組織ィ匕学的な手法 を用いて解析した。
[0059] 1.試験方法
モルモット肺の組織標本を作成し、 Fishmanらの方法 0. Histo. Cytochem. 12、 298-305、 1964)に基づいて、 j8—グルクロ-ダーゼに対する基質 naphthol AS-BI β - glucuronideを用いて活性染色を実施した。摘出した肺を 4%パラフオルムアルデヒド 溶液で固定し、クリオスタツトにより 4-6 mの凍結切片を作成した。基質液は、 naphthol AS- BI β -glucuronide 28mgを 0.05 M重炭酸ソーダ 1.2mLに加えて溶解 し、 0.2 N酢酸'酢酸ナトリウム緩衝液 (pH5)を lOOmLまでカ卩えて作成した。染色液は 、 4%亜硝酸ナトリウム液 0.3mLにパラロザリン液 0.3mLをカ卩えて、ジァゾ化し、この液 に基質液 10mLを加えて、 pHを 5. 2に調整した後、蒸留水をカ卩えて 20mLにメスアツ プし、最後にろ紙でろ過して調整した。切片に染色液をのせて、 37°C、 2時間反応さ せた。反応後、常法に従って、洗浄、脱水、封入した。
[0060] 2.結果
肺の凍結切片を作製し、組織を β ダルク口-ダーゼ活性により活性染色した結果 を図 1に示す。図 1に示すように、肺の細気管支の上皮細胞(図中の Αで示した領域) と肺胞マクロファージ(図中の C)に強い陽性像が認められた (黒く染まってみえる部 分が j8—ダルク口-ダーゼの活性を示す)。
肺胞マクロファージの j8—グルクロ-ダーゼ活性が高いこと(Hayashi、 J Histochem. Cytochem. 15、 83—92、 1967、 Barry and Robinsonゝ Histochem.J.l、 505—515、 1969)は 報告されているが、細気管支を構成する上皮細胞に β ダルク口ニダ一ゼが局在す るという報告はな力つた。 j8—ダルク口-ダーゼ力 肺の細気管支という外部と接触す る領域にぉ 、て特に強く発現して 、ることが示された。
肺の j8—ダルク口-ダーゼ活性に最も大きく関与する細胞群は、炎症系の細胞では なぐ細気管支の上皮細胞である可能性が示唆された。
[0061] [参考例 8]
《図 2:各臓器中の 13 ダルク口-ダーゼ活性に関する検討》
各臓器中の β ダルクロニダーゼ活性の程度と喘息モデル動物における本酵素活 性の変動を調べる目的で、即時型喘息モデルとして確立されている感作モルモットを 作成し、未感作モルモットとの各臓器の酵素活性を比較した。また、感作モルモットで は、抗原惹起した個体と惹起しな!、個体における酵素活性の比較も行った。
[0062] 1.試験方法
〈感作〉
感作開始 1および 8日目、 6週齢の Std:Hartley系雄性モルモットに ovalbumin OVA ) 500 μ g/0.5 mLを両足に筋肉内投与、百日咳ワクチン 1.5 X 105 cell/mL/匹を腹腔 内投与することにより能動的に感作した。
〈抗原惹起〉
初回の感作後 19-23日目に感作モルモットに 2%OVA溶液を 5分間吸入させ、抗原 惹起を誘導した。惹起後、 4時間後に各臓器を回収した。
[0063] 〈j8—ダルクロニダーゼ活性の測定〉
未感作モルモット群、感作モルモット群、感作モルモットの抗原惹起群の 3群(各々 2個体)から各臓器を摘出し、生理食塩を 50倍容量加えて、ホモジナイズし、
12000rpm、 10min、 4°Cで冷遠心分離後の上清をサンプルとした。各サンプル中の j8 ーグルクロ-ダーゼ活性は、常法に従って p-nitropheny卜 β - D- glucuronideを基質と して用い、遊離した p-nitrophenolを 405nmで比色定量する方法で測定した(
Haeberlinら、 Pharmaceutical Res. 10、 1553-1562、 1993)。各サンプル中の蛋白濃度
は、巿販キットを用いて測定した。 j8 -ダルク口-ダーゼの比活性は、各臓器の場合 には、蛋白 lmgあたり 1分間に遊離する反応物質量として表した。各臓器の比活性は 平均値で示した。
[0064] 2.結果
未感作モルモット群、感作モルモット群、感作モルモットの抗原惹起群の 3群の各臓 器中の β ダルク口-ダーゼ活性を図 2に示した。未感作モルモット群の各臓器の β ダルクロニダーゼ活性は、肺(15nmol/mg/min)、肝臓(20.7nmol/mg/min)、脾臓( 14.2nmol/mg/min)で高ぐ心臓(1.9nmol/mg/min)、月 (2.6nmol/mg/min)、筋肉( 1.2nmol/mg/min)で低い値を示した。この結果は、これまで報告されているラットやマ ウス等の各臓器における酵素活性の報告と同様の傾向であった (Conchieら、 Biochem.J.71、 318—325、 1959、 Johnsonら、 Biochemical Genetics 24、 891—909、 1986 、 Hoogerbruggeら、 Transplantation43、 609 - 614、 1987J。
[0065] 一方、感作モルモット群にぉ 、ては、未感作モルモット群の酵素活性と比較して各 臓器の酵素活性に差が認められな力つた。この結果は、感作状態においては、未感 作の場合と各臓器中の酵素活性には影響がないことを示唆する。さらに、抗原惹起 した感作モルモット群にぉ 、ても各臓器の酵素活性は未感作モルモット群、抗原惹 起しない感作モルモット群と比較して顕著な差が認められな力つた。
これらの結果から、肺は、 j8—ダルク口-ダーゼ活性が非常に高い組織であり、肺組 織中の j8—ダルク口-ダーゼは、抗原感作による喘息モデルにおいて上昇しないこと を確認した。
[0066] [参考例 9]
《図 3:心臓における β ダルク口-ダーゼの局在》
1.試験方法
試験方法は、《図 1:肺における β ダルク口-ダーゼの局在》で記述したものと同様 である。ただし、対比染色としてへマトキシリンによる細胞核の染色を行った。
2.結果
心臓の凍結切片を作製し、組織を β ダルク口-ダーゼ活性により活性染色した結 果を図 3に示す。図 3に示すように、モルモット心臓切片において、 ダルク口ニダ
ーゼ活性を示す陽性像は認められなカゝつた。
産業上の利用可能性
[0067] 薬物の標的部位と副作用が発現する部位間においてその活性に差がある酵素活 性を利用して、非標的器官に対する薬物の副作用を低減させることのできる抗コリン 薬のプロドラッグを提供することができる。心臓等に対する副作用が発現しない抗コリ ン薬の提供を可能にした。さらに、本発明は、従来抗コリン薬の使用が制限されてい る心臓疾患等を有する患者に対ても抗コリン薬を安心して使用することを可能にした
図面の簡単な説明
[0068] [図 1]モルモット肺の細気管支上皮に強く j8—ダルク口-ダーゼが局在するすることを 示す顕微鏡写真である (倍率 100倍)(図中 A;肺の細気管支の上皮細胞、 B;平滑 筋細胞、 C;肺胞マクロファージ)。
[図 2]モルモットにおける各臓器中の β ダルク口-ダーゼ活性を示すグラフである( 倍率 50倍)(図中、矢印は、へマトキシリン染色された細胞の核を示す)。
[図 3]モルモット心臓にぉ 、て β ダルク口-ダーゼ活性が認められな 、ことを示す顕 微鏡写真である。
[図 4]モルモットにおける抗原誘発型気道収縮反応に対するサルブタモールダルク口 ニドの抑制作用を示すグラフである。
[図 5]モルモットにおける抗原誘発型気道収縮反応に対するイソプレナリングルクロ- ドの抑制作用を示すグラフである。
[図 6]サルブタモールダルク口-ドの血圧及び心拍数に対する影響を示すグラフであ る。
[図 7]イソプレナリングルクロ-ドの血圧及び心拍数に対する影響を示すグラフである