明 細 書
集束強力超音波治療装置
技術分野
この発明はフェーズドアレイ振動子が超音波に関して送受信機能を有する こと、 生体 組織のような超音波減衰媒体内では集束強力超音波 (HIFU) が発 熱作用および浸透作用を発揮すること、 及び超音波ィメージングによつて超音 波減衰率や超音波伝播速度分布の測定が可能であることを利用して、 フェーズ ドアレイ振動子による HIFU 照射により患部の焼灼治療、 または遺伝子や薬物 の患部への浸透促進作用による導入など行う HIFU 治療装置に関するものであ る。
背景技術
集束強力超音波を生体組織に導入すると組織が加熱されるという発熱作用 を腫瘍などの焼灼治療に応用しょうとする試みは従来からあり、 生体組織内部 の温度計測手段の違い 1\強調画像、 化学シフト画像、 perfusion画像、 diffusion画像などの温度依存性に基づく MR 画像による温度計測、 組織の加 熱による水分量の変化に基づく X線 CT画像による温度計測、 超音波伝播速度 の温度依存性に基づく超音波 画像による温度計測、 光ファイバ一や温度セン サー (サーミスタ、 熱電対など) による直接温度測定 により分類される
「がん焼灼治療装置 J が研究されてきている。
しかし、 温度測定手段は違っても HIFU 照射用トランスデューサ (超音波 振動子) として凹型で球殻状の固定焦点型振動子を利用するという点は共通し ている。 フェーズドアレイ振動子も提案されてはいるが、 焦点領域拡大が主目 的で且つ振動子エレメントの数が不十分であったため未だ実用化されていない。 体内にある患部の形状は不定形で且つ体表面からの深さもまちまちであり、 焼 灼焦点領域も小さいことから、 HIFU 照射用トランスデューサを機械的に移動 させながら 音響伝播部材がある程度変形可能なことを利用して、 体表面 との接触を確保しながら移動させる 、 複数の地点で HIFU 照射を繰り返 すことで患部を焼灼する方法が採られてきた。
しかしながら従来の HIFU治療装置には 「HIFU照射用トランスデューサの 形状 が固定であるため、 HIFU 照射の焦点領域と振動子との位置関係が固定さ れている」、 「生体組織の減衰率分布を実測して HIFU 照射条件を補正しないの で、 先験データから照射強度と照射時間を決めて HIFU 照射を行っている」、 「HIFU照射手段と異なる手段 (例えば MRI 装置、 超音波診断装置のイメージ ング用プローブなど) を使って患部をモニタリングし、 その情報に基づいて HIFU 照射を行っている」 といった共通する特徴がある。 これらの特徴は以下 の問題点(1)、 (2)、 (3)、 及び (4)の原因となっている。
問題点(1) :固定焦点であるため、 大きな患部を焼灼しょうとすると "多 点照射" 焦点の位置を順次ずらしながら複数回 HIFU 照射を行うこと一 ——とならざるを得ず、 HIFU 照射用トランスデューサを内蔵しているアプリ ケータ部分を機械的に移動させざるを得ない。 このため生体組織の変形などに よって最初のイメージングを行ったアプリケータの位置を見失い易く、 焼灼位 置エラーが発生し易くなるとか、 アプリケータの移動時間だけ余分に時間がか かってしまうなどの問題があった
問題点 (2) :生体の個体差により、 全く同じ HIFU 照射条件 (照射強度、
照射時間など) でも、 超音波焦点領域での加熱状態が異なる ある個体で は患部を良く焼灼でき、 他の個体では上手く焼灼できないなど といった 焼灼結果にばらつきが生じるといった問題があった。
問題点 (3) :イメージング手段と焼灼手段が異なるため、 常にそれぞれの 手段の位置関係 例えば、 超音波診断装置のイメージング用プローブによ る Bモード画像と HIFU照射の焦点領域との位置関係や、 MRI画像や CT画像や
X線画像などと焦点領域との位置関係など を対応付けて、 それをモニタ リング画像に反映する必要があった。例えばモニタリング画像の第 1座標系と、 HIFU 照射用トランスデューサと焦点領域を決める第 2座標系が両方とも直交 座標系である場合でも、 第 1座標系の原点 0と第 2座標系の原点 0'との位置関 係、座標系の直交変換、座標軸環の縮尺関係などのデータを予め測定しておき、 焦点領域を表す画像を座標変換した後、 モニタリング画面に重畳するなどの作 業が必要であった。 特に超音波と異なる物理現象を使って収集したモニタリン グ画面にはその収集手段固有の画像歪があり 例えば MRIなどでは静磁場 の不均一性や勾配磁場による渦磁場などに起因する画像歪がある 、 高精 度で補正することが非常にむずかしい。 この座標系間の対応付けは治療装置の 場合に特に重要であり、脳手術などではミリメータ一以下の精度が要求される。
問題点 (4) :超音波パルス法による画像 (例えば B モード超音波画像な ど) は超音波反射エコーを画像化したものであり、 HIFU 照射を行うと生体内 の水分が沸騰してキヤビテーションが発生するため "ハイ ·エコー" として描 出されるが、 血流などによる冷却とともにハイ ·エコーが消失した後では、 タ ンパク質変性を判別するのは難しい。 その欠点を補うため、 体外から機械振動 を加えるなどして硬さの程度をイメージングする elastography などのィメー ジング方法が研究されているが、 外部からの "加振操作" などが別途必要にな るなどのわずらわしさがあった。
発明の開示
2次元に配置した振動子エレメント群から成る HIFU照射用トランスデュ ーサと、 それらの振動子エレメント群を一対一に対応するように接続した電極 群を持つ複数個のスィッチをカスケードに接続したものと、 複数個の初期位相 の異なる高周波電圧を発生できる駆動ァンプ群とを接続する。 さらに振動子ェ レメント群と最初に接続される電極群のうち、 余った電極群には振動子エレメ ントと同じ駆動周波数において同じィンピーダンスを有するダミ一負荷群を接 続しておく。 これにより前出の複数のスィッチ群がいかなる組み合わせに切り 換えられても、 駆動アンプ群から見込んだ負荷インピーダンスが決して開放に 近い状態にならないようにすることができる。 コントローラからは、 HIFU 照 射用トランスデューサが集束強力超音波 (HIFU、 high intensity focused ultrasound) を発生できるように計算された振幅、 初期位相、 周波数の条件に 則した制御信号が出力され、 上記駆動アンプ群に入力される。 この構成によれ ば、 HIFU照射用トランスデューサと駆動アンプ群の間に接続されたスィッチ 群を切り換えるだけで トランスデューサを機械的に移動させなくても一 一一、集束強力超音波を発生するための駆動パタ一ンは不変のまま駆動パター ンを上記 HIFU照射用トランスデューサ上で移動させることができ、 HIFU照射 の方向に対して概略直交する方向 (水平方向) に超音波焦点を自由に移動でき ることとなる。 また 1個の焦点に集束する超音波音場を発生させる場合、 HIFU 照射用トランスデューザが概略平面状であるとすると、 その駆動パターン—— 一駆動電圧の振幅と初期位相に着目して離散的に分類した場合のパタ一ン—— —はァ二ユラ一アレイ振動子と類似した同心円状となり、 さらに HIFU 照射用 トランスデューザから焦点までの距離のトランスデューサの直径に対する比が
極端に小さくなければ、 駆動振幅の振動子エレメントの位置によらずほぼ等し くなることから、 この同心円状の駆動パターンと駆動アンプ群の出力だけを変 更すれば、 振動子エレメント群から焦点までの距離 (深さ) も電子的に変える ことができる。 これにより、 スィッチ群と駆動アンプ群の出力設定変更だけで 3 次元的に焦点を移動可能であること分かる。 尚この構成の場合は、 振動子ェ レメント群には必ずスィツチ群が接続されるので、 イメージング用に兼用する ことはできない。 そこで、 焦点を含む領域のモニタリングには上記 HIFU用振 動子をセンサーとして利用しなレ、別のィメージング手段 例えばィメージ ング用プローブを使う超音波診断装置、 MRI装置、 X線 CT装置など が付 加されていることが望ましい。 超音波診断装置のイメージング用プローブをモ ニタリングに使う場合は、 HIFU 照射時に対象物內にある散乱体によって引き 起こされる HIFU反射波 100からプローブを守るために、 HIFU照射を含むタイ ミングにだけプローブの開口部を遮蔽する "耐熱性の羽根" を付加しておくこ とが望ましい。 説明の便宜上、 上記構成のものを 「スィッチ切り換え型ァニュ ラーアレイ HIFU装置」 と呼ぶことにする。
別の解決手段としては、 2 次元配置した振動子エレメント群によりフェーズド ァレイ振動子を構成し、 各振動子ェレメントにはそれぞれ超音波ィメージング のための送受信回路と HIFU 照射を行うための送信回路 超音波イメージ ング用送信と HIFU 照射用送信は、 その超音波強度の違いだけしかないので、 回路が兼用であっても構わない を接続しておく。 第 1周波数の搬送波を 持ち、 しかも 1個の焦点から放射するのと等価な超音波バーストを振動子エレ メント群から送信し、 戻って来た超音波反射波を "狭義の開口合成アルゴリズ ム" によって再構成することで、 超音波バーストの進行方向と概略垂直な断面 をもつ複数枚の第 1超音波画像 (Cモード画像) を撮影することができる。 こ の狭義の開口合成アルゴリズムに関しては、 「超音波ホログラフィ」 (永井啓之
亮、 日刊工業新聞社、 1989年) の pp. 71—84に詳しく解説されている。 次に、 第 2周波数 第 1周波数の整数倍の周波数を持つ高調波など の搬送 波を持つ超音波バーストを上記と同様に送信、 受信、 再構成し、 複数枚の第 2 超音波画像を撮影する。 同一断面の第 1超音波画像と第 2超音波画像を用いて 減衰率分布を求め、 それを複数枚の画像のセットに対して行い、 3次元の減衰 率分布を求める。 次に、 第 1超音波画像上に焼灼領域を設定し、 それに基づい て焼灼のための焦点位置とその HIFU照射強度を格子点状に割り付ける力、 ま たは直接に複数の焦点位置と HIFU焼灼強度を設定する。 これらの焦点位置と HIFU照射強度と 3 次元の減衰率分布の情報に基づき、 減衰率の符号を正負逆 にした上で "簡素化された点音源に対する 3次元波動方程式" を数値的に解い て各振動子ェレメントにおける音圧を求め、 それから各振動子エレメントの駆 動条件 (駆動電圧振幅と初期位相) を設定する。 実測したままの減衰率を使つ た場合の "簡素化された点音源に対する 3次元波動方程式" を数値的の解くこ とによつて得られる音圧分布を表す解と、 上記の減衰率の符号を逆にした場合 に得られる音圧分布を表す解と、 HIFU照射に使われる振動子エレメントの曲 面形状に関する情報と、 生体組織の比熱がほぼ一定という仮定から、 発熱分布 を計算して焼灼前の "HIFU焼灼計画" に利用する。 狭義の開口合成アルゴリ ズムで得た HIFU焼灼前後の 3次元画像から各画素値における位相の変化を求 め、 それが生体組織の音速変化に対応することを利用して加熱温度分布を計算 することができる。 加熱温度分布が "一過性 (急性的) の変化" を表すのに対 し、 減衰率分布は "不可逆性 (慢性的) 変化" を表すので、 焼灼してから十分 時間が経過した時点で再度減衰率分布を測定し、 焼灼前のものと区別すること で HIFU焼灼効果を確認することができる。 上記構成のものを 「反射型 HIFU装 置」 と名付けることにする。
さらに別の解決手段は、 "平面波の発生が可能な 2次元配置のフェーズドアレ
ィ振動子" と "超音波透過波を受信可能な 2次元配置のフェーズドアレイ振動 子" とを対象物 (患部を含む生体組織など) を挟んで対向するように配置する。 各フェーズドアレイ振動子には超音波ィメージングを行うための送受信回路群 と、 HIFU 照射を行うための送信回路群が接続されている。 両方のフェーズド ァレイ振動子は対向位置関係を固定した状態で対象物の周りを送受信しながら 360° 回転し、 3 次元データを収集する。 このデータから 「超音波回折トモグ ラフィ」 の再構成アルゴリズムによって 3次元画像を得る。 これらの画像は複 素数の画素値を持つので、 これから減衰率分布ひ(?) ここで Ϊは 3 次元 位置べクトルを表す と、 音速分布 C (?)を別々に且つ同時に求めること ができる。 フェーズドアレイ振動子は対象物の周りに回転可能なので、 HIFU 照射の有利さを考慮して フェーズドアレイ振動子と患部の中心との距離 が短いほど、 焼灼焦点から見込んだフェーズドアレイ振動子面の立体角が大き くなる可能性が高くなり、体表面での超音波エネルギー密度を低くできるので、 体表面の近傍でのダメージを少なくすることができる 回転固定した後、 HIFU 照射を行う。 HIFU 照射は一方のフェーズドアレイ振動子からのみ、 もし くは両方からで行ってもよい。
この構成を用いると、 「反射型 HIFU装置」 と同様に狭義の開口合成のアルゴリ ズムを使えば、 超音波回折トモグラフィのアルゴリズムよりデータ収集時間が 短いので、 準リアルタイムでモニタリングすることが可能である。 操作者は上 記いずれかの方法で収集した画像又はそれらの半透明表示画像上に、 複数の焼 灼焦点の位置および超音波強度を設定する。 これらの焼灼焦点位置や超音波強 度情報、 減衰率分布 ct (?)、 音速分布 C (f )、 HIFU 照射に使うフェーズドアレ ィ振動子の曲面形状情報から、 反射型 HIFU 装置と同様に、 減衰率の符号を正 負逆にした上で "簡素化された点音源に対する 3次元波動方程式" を数値的に 解いて各振動子エレメントにおける音圧を求め、 それから各振動子エレメント
の駆動条件 (駆動高周波電圧振幅とその初期位相) を設定する。 実測したまま の減衰率を使った場合の "簡素化された点音源に対する 3次元波動方程式" を 数値的の解くことによって得られる音圧分布を表す解と、 上記の減衰率の符号 を逆にした場合に得られる音圧分布を表す解と、 HIFU 照射に使われる振動子 エレメントの曲面形状に関する情報と、 生体組織の比熱がほぼ一定という仮定 力^、 発熱分布を計算して HIFU照射前の焼灼計画に利用することもできる。 生体組織の音速は温度に依存することと、 超音波回折トモグラフィによる焼灼
(HIFU 照射) 前後の音速分布画像から一過性の温度上昇を推定できるので、 これを利用して焼灼ができたかどうかの判定に利用することができる。 焼灼に よって生体組織が不可逆的なタンパク質変性を起こすと、 超音波に対する減衰 率が著しく変化する.ことが知られている。 これを利用して、 焼灼前の減衰率分 布画像と焼灼後平熱に戻った後での減衰率分布画像とを比較することで、 予後 観察への利用も可能となる。 上記構成のものを 「透過型 HIFU装置」 と名付け ることにする。
上記の 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU 装置」 を使えば、 焼灼焦 点を スィッチだけの切り換えだけで移動できるので、 アプリケータ部分と患 者体表面との接触状態を変えることなく良好な接触状態のまま HIFU 照射を続 行でき、 先に挙げた問題点 (1) は緩和され、 焼灼時間を短縮できる。 平均減 衰率を測定することで近似的にでも個体差を考慮した HIFU 照射を行えること になり、 問題点 (2) も緩和される。 問題点 (3) は残念ながらこの発明では解 決できないが、 問題点 (4) は超音波診断装置のイメージング用プローブをモ ニタリング用に使い減衰率分布画像 「反射型 HIFU 装置」 で提案してい る 2周波数で撮影した反射波画像から求める方法、 特開昭 63— 29629 「超音波 減衰係数測定装置」 で開示されている方法、 スぺクトラル ·ディファレンス法 などで求めた減衰率分布画像 等を利用することで解決することができ
る。
上記の 「反射型 HIFU装置」、 「透過型 HIFU装置」 を使えば、 「波の重ね合せの 原理」 から複数の焼灼焦点を一度に設定して HIFU照射できるので問題点 (1) を解決することができる。 また HIFU照射直前に対象物の減衰率分布や音速分 布を実測し、それを HIFU照射条件に反映させることができるので、問題点(2) も解決することができる。 振動子ェレメント群を構成する圧電セラミックスの 圧電正効果と圧電逆効果を利用することで、 HIFU照射やイメージング用超音 波送信に用いたフェーズドアレイ振動子をそのままイメージング用受信にも使 うことができるので、 座標合わせのための座標変換は不要となり、 問題点 (3) は解決できる。 また減衰率分布画像も撮影できるので、 elastography (硬さィ メージング) などを使うことなく焼灼によるタンパク質変性に対応する焼灼状 態を把握でき、 加振操作などが不要になる。 これによつて問題点 (4) も解決 できる。
これまでは、 画像診断装置で患者 64を撮影し、 その画像を医師が読影し、 そ の結果を基に手術計画を立て、 後日治療を行うというのが一般的な流れであ つた。 これに対し、 本発明では画像診断した直後に同じ装置を用いてその場 で焼灼することが可能であり、 使用方法により近年普及し始めた日帰り手術 (day surgery; えも可能となる。
図の簡単な説明
第 1図は、 MRI装置で患部をモニターしながら、 加温用トランスデューサ で患部を焼灼するという従来の HIFU装置の構成を示す図。
第 2図は、 加温用トランスデューサと温度測定用トランスデューサを有す る従来の HIFU装置の構成を示す図。
第 3図は、 本発明の第 1の実施例である 「スィッチ切り換え型ァニユラ一 アレイ HIFU装置」 のアプリケータ部分を示す斜視図。
第 4図は、 本発明の第 1の実施例である 「スィッチ切り換え型ァニユラ一 ァレイ HIFU装置」 の全体構成図。
第 5図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 1スィ ツチの第 1電極群と第 2電極群の電気的接続関係を表す展開図。
第 6図は、 スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 1 スィ ツチの第 2電極群を第 5図から抜き出した図。
第 7図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 2スィ ツチの第 3電極群と第 4電極群の電気的接続関係を表す展開図。
第 8図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 2スィ ツチの第 4電極群を第 7図から抜き出した図。
第 9図は、 「スィツチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 2スィ ツチの第 4電極群に接続される中継電極を表す図。
第 10図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 3ス ィツチの第 5電極群と第 6電極群の電気的接続関係を表す展開図。
第 11図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 3ス ィツチの第 6電極群を第 10図から抜き出した図。
第 12図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の駆動条 件を求める原理を説明するための図。
第 13図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 を駆動の ためのリング状パターン幅を求めるための図。
第 14図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の具体的 寸法の一例を示す図。
第 15図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 1ス
イッチと第 2スィツチの機能を統合した第 4スィツチの展開図。
第 16図は、 第 4スィッチの展開図のうち、 第 8電極だけを抜き出した図。 第 17図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 4ス ィツチを示す斜視図。
第 18図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の電極が スプリング機構を持つ電極 (摺動子) によって機械的に接触 ·導通する様子を 表す図。
第 19図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の電極が 磁気結合によつて導通する様子を表す図。
第 20図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の操作手 順を表すフローチヤ一ト。
第 21図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 のモニタ リング画面上に 「焼灼焦点移動可能範囲」 が重畳された状態を示す図。
第 22 図は、 超音波エコー法により減衰率分布を求める原理を説明するた めの図。
第 23 図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 のモニタ リング手段を用いて平均減衰率を求めるための領域を説明するための図。
第 24図は、 焼灼順序を決めるためのフローチャート。
第 25図は、 第 24図の様子をモニタリング画面上に表した図。
第 26図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 のィメー ジング用プローブを保護するための羽根が、 強力超音波に起因する反射波を遮 蔽している様子を示す図。
第 27図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 のィメー ジング用プローブで患部をモニタリングしている場合の保護用羽根の位置関係 を示す図。
第 28図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の HIFU照 射用トランスデューザが湾曲しているために、 イメージング用プローブを保護 するための羽根が斜めに取り付けられている状態を示す図。
第 29図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」において、 HIFU照射用トランスデューサの接地電極側の配線方法を示す図。
第 30図は、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 のアプリ ケータ部分を搭載するためのロボットアームの一例を示す図。
第 31図は、 「反射型フェーズドアレイ HIFU装置」 の構成を表す全体プロ ック図。
第 32図は、 「ソフト境界面」 を実現するためのフィードバック制御の原理 を説明するための図。
第 33図は、 「反射型フェーズドアレイ HIFU装置」 の操作手順を示すフロ 一チヤ一ト。
第 34図は、 「反射型フェーズドアレイ HIFU装置」 の焼灼焦点移動可能範 囲を示す図。
第 35図は、 第 34図の層を Cモードで表示した場合のモニタリング画面を 示す図。
第 36図は、 「乳房専用反射型フェーズドアレイ HIFU装置」 のィメ一ジン グ時にァタティブ状態にあるクラスターの範囲を示す図。
第 37図は、 第 36図のアクティブ状態にあるクラスターの範囲を示す水平 断面図。
第 38図は、 第 36図の構造を説明するための垂直断面図。
第 39図は、 第 4の実施例である 「頭部専用反射型フェーズドアレイ HIFU 装置 J を説明するための斜視図。
第 40図は、 第 5の実施例である 「頭部専用反射型フェーズドアレイ HIFU
装置」 を使い、 頭蓋骨の一部だけを開頭した状態で焼灼する様子を示す HIFU 装置の水平断面図。
第 41 図は、 複数の焼灼焦点を一度に同時焼灼する場合、 それらの焦点を 配置するための制限条件を説明するための図。
第 42図は、 「透過型 HIFU装置」 の構成を示す全体ブロック図。
第 43図は、 「頭部専用透過型 HIFU装置」 の構造を説明するための水平断 面図。
第 44図は、 「頭部専用透過型 HIFU装置」 の使用状態を示す斜視図。
第 45図は、 「乳房専用透過型 HIFU装置」 のアプリケータ部分を示す図。 第 46図は、 「体部用透過型 HIFU装置」 と患者とバスタブとの関係を示す 図。
第 47図は、 「透過型 HIFU装置」 の使用手順を示すフローチャート。
第 48図は、各振動子エレメントの駆動条件の求め方を説明するための図。 第 49図は、 「能動的に給水可能な超音波伝播部材」 の構成と使用方法を示 すための斜視図。
第 50図は、 第 49図を太い矢印の方から見た側面図。
第 51図は、 「能動的に給水可能な超音波伝播部材」 をアプリケータ部分と 患者体表面間に挟み込んで使用している状態を示す図。
第 52 図は、 振動子エレメントの超音波放射指向性を無指向性に近づける ために付加する 「概略凸レンズ状の音響レンズ」 を説明する図。
第 53 図は、 振動子エレメントの超音波放射指向性を無指向性に近づける ための 「概略凸型球形振動子エレメント」 を説明するための図。
第 54図は、 振動子エレメントの超音波放射指向性を無指向性に近づける ための 「概略凹型球形振動子エレメント」 を説明するための図。
第 55 図は、 トレンスデューサの開口径、 半径と焦点領域の大きさの関係
を説明するための図。
第 56図は、 点音源の超音波強度を規定する方法を説明する図
発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明を実施する形態について説明する。 以前から強力超音波が生 体軟部組織などの超音波減衰媒体に照射されると、 その組織が "発熱作用" を 示すことが既に知られている。 この発熱作用と、 腫瘍組織は正常組織と比較し て温度感受性が高く 42. 5°C以上で長時間保たれると死滅するという経験則と を利用して、 「ハイパーサーミア」 と呼ばれる温熱療法が確立されている。 こ れにはマイクロ波や強力超音波が利用されてきた。
最近ではこの強力超音波を集束させて、 積極的に患部 3を焼灼する 60〜
70°C以上において細胞内ではタンパク質変性が起こり、 その後アポトーシスに より壊死するという経過をたどる 治療法の研究 '治験が進められている。 以下、 この焼灼を行う装置を 「HIFU装置」 (high intensity focused ultrasound、 集束強力超音波) と呼ぶことにする。 これまでに知られている HIFU装置の構 成は以下の 4種類に大別される。 (1)患部 3のモニタリングは MRI装置で行い、 固定焦点 15を持つ球殻形超音波振動子を機械的に走査しながら HIFU照射する タイプ、 (2) モニタリングは超音波診断装置 29で行い、 固定焦点 15を持つ球 殻形超音波振動子を機械的に走査しながら HIFU照射するタイプ、 (3) リアル タイムでのモニタリング手段を全く持たず、焼灼前に撮影した画像に基づいて、 固定焦点 15を持つ球殻形超音波振動子を機械的に走査しながら HIFU照射する タイプ、 (4) MRI 装置で温度モニタリングし、 フェーズドアレイ振動子で焼灼 焦点領域サイズを変えて HIFU照射するタイプがある。
(1) としては米国 Insightech社の Exblate2000が知られており、 その構造
を第 1図に示す。 MRI装置 76はマグネット 77に筒状の穴が空いており、 そこ に出入りする寝台 122に RF コイル 78、 トランスデューサ 1、 それを移動させ るための移動ステージ 79が組み込まれている。 その寝台 122の上に患者 64が うつ伏せ状態で MRI画像撮影と HIFUによる焼灼が行われる。 (2) としては特 願昭 61— 209657 「超音波温熱治療装置」 がある。 第 2 図にそのブロック図を 示す。 この場合はトランスデューサ 1とイメージング用プローブ 2は一体化さ れて、 水槽 58に沈められた状態で使われる。 (3) としては英国の GR ter Haar のクノレープ力 extra-corporial rocused ultrasound surgery に禾 lj用し飞レヽな HIFU装置がある。 (4) としては米国の Kullervo Hynynenのグループが試作し た振動子エレメント数が 256チャンネルの HIFU装置が知られている。 In vivo demonstration of noninvasive thermal surgery of the liver and kidney using an ultrasonic phased array ( Ultrasound in Med. & Biol. , Vol. 25 , No. 7 , pp. 1087- 1098 , 1999 )に詳しい。
しかしながら、 これらには以下のような問題がある。 (1)、 (4) で使っている MRI 装置 76による温度測定イメージングは "体動" (撮影中、 患者 64 の身体 に動きが加わること) に非常に敏感で、エラーを起こし易いという問題があり、 また超音波と異なる手段でイメージングを行うので、 モニタリング画像と焼灼 焦点 15との位置合わせが難しいという問題もある。 また (1)、 (2)、 (3) では 固定焦点 15 の超音波振動子を機械的に走査するので、 サイズが大きいとか不 定形の患部 3の場合に複数回移動させながら複数回に渡って HIFU照射する必 要があり、 どうしても焼灼時間が長くなるという欠点がある。 (2) のような構 造のアプリケータ部分 16 (超音波振動子と水バッグ 14を内臓した部分) で、 それを移動させながら複数回 HIFU照射する場合、 体表面 8と水バッグ 14との 接触面に気泡が入り込まないように注意するすることが重要で 万が一気 泡が残っている状態で HIFU照射すると、 そこで強く発熱して体表面 8に熱的
損傷を与えてしまう 、 それを常に良好に保つことが非常に煩雑になると いう問題がある。
(1)、 (2)、 (3)、 (4) に共通する問題として生体の減衰率に個体差が無く一定 であると仮定しているので、 個体差による減衰率のばらつきや生体組織の減衰 率の不均一さによって、 焼灼結果にばらつきが生じるという問題がある。 腫瘍 組織などの減衰率は先験的に知ることができないので、 どうしても焼灼結果に ばらつきが生じる。 さらに (1)、 (2)、 (3)、 (4) に共通する問題点として骨な どの遮蔽物が一部分対象臓器を取り囲んでいるような場合 例えば肋骨越 しに肝臓に HIFU照射する場合 、 超音波振動子の全面から HIFU照射する ため、 骨およびその近傍の正常組織に損傷を与えてしまうという問題がある。 そこで、 第 1の実施例として第 3図のような 「スィッチ切り換え型ァニユラ一 アレイ HIFU装置」 を考える。 圧電セラミックスで構成された同形状の振動子 エレメント群 17が 2次元的に配置されているものとする。 この振動子エレメ ント群 17 が配置される曲面の形状は、 平面状に限らず円筒状もしくはその一 部、 球殻状もしくはその一部であってもよい。 この振動子エレメント群 17 が 配置された曲面のうちその一部分には "穴" が開けられており、 超音波診断装 置 29のイメージング用プローブ 2が取り付けられ、 ここから超音波ビーム 9 が発せられる。 通常この穴はモニタリング画面には HIFU照射の焦点領域 73が 映し出されている方が望ましいため、 焦点 15 を通る平面と振動子エレメント 群 17 が配置された曲面との交線上に開けられる。 普通はモニタリングできる 視野のことも考慮して中央に開けられる。 このプローブ 2はこの穴の法線の周 りに回転可能で、 外部制御でプローブ 2を回転させるための第 1ァクチユエ一 タ 11 (例えば超音波モータなど) 及びその回転角度情報を得るための検出器 (第 1エンコーダ 13) が付加されているものとする。
超音波診断装置 29のイメージング用プロ一ブ 2でイメージング中に HIFU照射
を行うと、 その強力超音波の雑音を拾ってしまうので超音波画像を同時には撮 影できない。 そこで HIFU照射中に短い休止期間を繰り返し設け、 そのタイミ ングのみで超音波画像を収集し、 雑音画像を挾まずに新しい画像が撮影できた タイミング毎に順次更新表示する方法が採られることが多い。 また HIFUが生 体組織に照射されたとき、 全ての超音波エネルギーが吸収されてしまえば特に 問題は発生しないが、 その一部が反射されて振動子エレメント群 17 に戻って 来た場合、 イメージング用プローブ 2の全面に貼付された榭脂製の音響レンズ などが発熱して破損するという問題が発生する。 そこで第 26図、 第 27図のよ うに "回転可能で耐熱性と非腐食性の羽根 10" とそれを "回転させるための 第 2ァクチユエータ 12" をプローブ 2の近傍に付加する。 この羽根 10はィメ 一ジング時には HIFU照射用振動子エレメント 17側に移動し、 HIFU照射時に はプローブ 2の開口部側に移動する。 交互に移動するため、 イメージングおよ び HIFU照射を全く妨害することなく、 且つ万が一、 HIFU反射波 100が戻って 来ても羽根 10自体に耐熱性があるのでこれをシャツトァゥトする働きをする。 しかも非腐食性 (例えばステンレスなど) なので、 それが原因で故障すること はない。 振動子エレメント群 17が球殻上に配置されている場合は、 第 28図の ように回転軸と羽根 10を斜めに取り付けることで解決できる。
次にこの 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の全体構成を、 第 4図を用いて説明する。 この場合、 トランスデューサ 1にはフェーズドアレ ィ振動子を使う。 フェーズドアレイ振動子を構成する各振動子エレメント 17 は、 個別に用意されたマッチング回路 52 (インピーダンス整合回路) 図示せず を介して第 1スィッチ 19の第 1電極 23に、 2次元的配列の順 序が変わらないように対応させて接続される。 第 1電極 23 のうち振動子エレ メント 17に接続されなかった部分には、 振動子エレメント 17と同じ駆動周波 数において振動子エレメント 17 と同じ電気インピーダンスを持つ負荷 "ダミ
一負荷 18" を別々に接続しておく。 各振動子エレメント 17には必ず電極が 2 箇所形成されており、 片側は電気安全を考えて接地電位にすることが多い。 水 バッグ 14があって患者 64の体表面 8に接する側は、 水バッグ 14が破れた場 合を想定して一括して第 29図のように接地用線材 101 を使って配線 ·接地さ れる。 第 4図では煩雑にならないようにこの図示は省略してある。 第 1スイツ チ 19の第 1電極 23と第 2電極 24は電気的に接触関係を保ちながら、 機械的 には共通の中心軸の周りに回転可能な構造をしているものとする。 第 1スイツ チ 19 には回転角度を検知するための第 1スィツチのエンコーダ 105が付加さ れて連動するものとする。 この第 1 スィッチ 19は手動で回転させて切り換え てもよいし、 ァクチユエータ 121 (例えばステッピングモータなど) を付 ¾1し てコントローラからの指令に従って切り換えるものであってもよい。
次に第 2スィツチ 20の第 3電極 25には、 第 1スィッチ 19の第 2電極 24が 2 次元的配列の順序が変わらないように接続される。 より詳細に説明すると以下 の通りになる。 第 6図の第 2電極 24から、 デイスエーブル信号 80 (スィッチ が切り換わる際に振動子エレメントに電圧が印加されないようにするタイミン グを図る信号) を発生させるための第 2デイスエーブル電極 32を除いた部分 の配列を "A行 C列の行列" と見なし、 それの第 i行 j列目の位置にある電極 を "(i , j) にある電極" と呼ぶこととする。 このとき第 2デイスエーブル電 極 32は第 1導線 81により電気的に接続されている。 第 2電極 24上の (i, j) にある電極は、 第 7図に示す第 3電極 25から第 3ディスェーブル電極 33を除 いた部分を "C行 D列の行列" とみなした場合の "(j , i) にある電極" に一 対一に電気的に接続される。 ここで Dは Aと等しくても構わないし、 それ以上 であってもよい。 言い換えると 「順序は変えずに縦横だけ入れ替えて接続され る」 ことになる。 さらに第 2スィッチ 20にも第 1スィッチ 19と同様に第 2ス イッチのエンコーダ 106が付加される。 この第 2スィッチ 20は手動で回転さ
せて切り換えてもよいし、 ァクチユエ一タ 121を付加してこれで切り換えるも のであってもよい。 第 2スィッチ 20の第 4電極 26は、 2次元的配列の順序が 変わらないように中継電極 21 に接続される。 これも以下に詳細説明する。 第 8図の第 4電極 26から第 4ディスエーブル電極 34を除いた部分を "C行 E列 の行列" とみなし、 その k行 1列目に位置する電極も "(k , 1)にある電極" と呼ぶことにする。 第 4ディスエープル電極 34は第 2導線 82により電気的に 接続される。 この(k , 1)にある電極は、 第 9図の中継電極 21を " C行 E列の 行列" とみなした場合の "(k , 1)にある電極" に電気的に接続される。 この 中継電極 21では、 トランスデューサ 1上の振動子エレメント 17とダミー負荷 18 の駆動パターンが同心円状になるようにするため、 電極が "概略同心円状" に相互接続される。 この電気的に接続された電極を "要素" と呼ぶことにする と、 第 1要素 83から第 F要素 84という具合に分類されることになる。 即ち、 中継電極 21 は隙間のない同心円のリングを形成するように細かくグループ化 された後、 同一リングのグループ内は並列接続される。 勿論、 異なるリングの グループは電気的に絶縁された状態にあるものとする。
中継電極 21は、 まず第 3スィツチ 22の第 6電極 28に接続される。 第 3スィ ツチ 22の第 5電極 27では、 中継電極 21でリング状に分割されたグループが 駆動高周波電圧の位相のグループ毎にまとめられるように各電極が相互接続さ れ、 最終的に第 1駆動アンプ 85から第 H駆動アンプ 86で構成される複数台の ドライバ一群に接続される。 以下に詳細を説明する。 中継電極 21の "第 m要 素" は、 第 11図の第 6電極 28から第 6ディスエーブル電極 36を除いた部分 を "F次元の縦べクトル" とみなしたときの "第 m要素" に電気的に接続され る。 第 3スィッチ 22の第 5電極 27から第 5デイスエーブル電極 35を除いた 部分は、 "F行 G列の行列" であって且つ "F次元の縦べクトルを要素とする G 次元横べクトル" であるともみなせる。 この F次元の縦べクトル (前述の "チ
ヤンネル" と同じものを意味する) に、 重複も許して、 第 1駆動アンプから第 H駆動アンプまでのどれを対応させるかで、 どの初期位相の高周波電圧を印加 するかが決定される。 この F次元の縦ベクトル (チャンネル) の成分を、 同じ 初期位相の電圧を印加されるもの同士で再分類して束ねられ、 且つ G次元べク トルの成分の間も同じ初期位相の電圧を印加されるもの同士に束ねられること で 電極を電気的に接続することを意味する 、 第 4 スィッチ 42か らタップという形で引き出され、 最終的に各駆動アンプ 4に接続されることに なる。 第 3スィッチ 22には第 1スィッチ 19、 2スィッチ 20と同様に第 3スィ ツチのエンコーダ 107が付加される。 同様に手動で回転させて切り換えてもよ いし、ァクチユエータ 121を付加して、これで切り換えるものであってもよレ、。 振動子エレメント群 17は周期的に 2次元配列されているので、 その配列方向 の一つを X方向と呼び、 それと異なる方向を Y方向と呼ぶことにする。 また振 動エレメント群が配置された曲面と概略垂直で HIFU照射方向を Z方向と呼ぶ ことにする。 このとき第 1スィッチ 19は X方向 (または Y方向) への駆動パ ターンの移動、 第 2スィッチ 20は Y方向 (または X方向) への駆動パターン の移動、 第 3スィッチ 22は焦点領域 73の位置を Z方向に変化させる働きをす る。 スィツチが切り換わる瞬間はドライバ一群から見て負荷がオープン状態に なり、 ドライバ一群の発振や HIFU の誤照射を招く恐れがあるので、 ドライバ 一群の出力を強制的に OFFすることが必要である。 このタイミングをディスェ 一ブル信号 80として検出するために、 第 1スィッチ 19には第 1デイスエーブ ル (disable) 電極 31、 第 2ディスエーブル電極 32が、 第 2スィッチ 20には 第 3デイスエーブル電極 33、 第 4デイスエーブル電極 34が、 第 3スィッチ 22 には第 5ディスエーブル電極 35、 第 6ディスエーブル電極 36が付加されてお り、 ディスエーブル信号がすべて正論理の場合には OR回路 87を経由して駆動 アンプ 4の停止 Z駆動を制御する。
焦点 15の移動機能がフェーズドアレイ振動子に対して X方向のみ (または Y 方向のみ) で十分な場合は、 第 2スィツチ 20 (または第 1スィツチ 19) を省 略し、 そのまま中継電極 21に接続する構成で実現できる。 次に Xと Yの両方 向の焦点移動だけで十分な場合は、 焦点の深さ (フェーズドアレイ振動子から 焦点 15までの距離) が固定になるので第 3スィッチ 22を省略し、 その代わり 中継電極 21 のリング状に分類 '接続した "要素" を、 駆動電圧の初期位相の 違いに従って再分類して電気的に相互接続した後、 駆動アンプ群 4に接続され るという構成で実現できる。 さらに Z方向のみの焦点移動で十分な場合は、 第 1スィッチ 19と第 2スィッチ 20を省略する構成で実現できる。
説明の続きに戻って、 第 5図、 第 6図、 第 7図、 第 8図、 第 10図、 第 11図は、 第 1スィッチ 19、 第 2スィッチ 20、 第 3スィッチ 22の切り換えメカニズムが 分かり易くなるように円筒状の電極の側面に沿って切れ込みを入れて展開した 場合の図で表してある。 これらの図を使って接続関係を整理すると、 まず第 1 スィッチ 19の第 1電極 23には、 マッチング回路 52を経由したフェーズドア レイ振動子群とマッチング回路 52を経由しないダミー負荷群 18が接続される。 この第 1電極 23と電気的接触を保ちながら摺動する第 2電極 24は、 縦,横の 配列を入れ替えた第 2スィツチ 20の第 3電極 25に接続される。 この第 3電極 25と電気的接触を保ちながら摺動する第 4電極 26は中継電極 21に接続され る。 次にフェーズドアレイ振動子上での駆動パターンがリング状になるように 中継電極 21は相互接続され、 その接続されたグループ毎に "要素"を形成し、 "要素群"を成す。 この要素群は第 3スィツチ 22の第 6電極 28に接続される。 この第 6電極 28と電気的接触を保ちながら摺動する第 3スィッチ 22の第 5電 極 27 では、 この要素の組み合わせを変えるための相互接続パターンが形成さ れ これを以下 "チャンネル" と呼ぶ 、 このチャンネルを構成する 相互接続された電極は駆動電圧の初期位相の違い毎に束ねられ、 且つ電気的に
接続された後 "タップ" として引き出される。 こうして第 5電極 27から引き 出されたタップは、 駆動電圧の初期位相の違い毎に、 独立した駆動アンプ群 4 に接続されることになる。
この HIFU装置の操作者は、 対象物の内部のモニタリング画面 例えば超 音波診断装置 29 をモニタリングに使う場合は超音波画像 の情報に基づ いて、 焼灼焦点位置と超音波強度を設定する。 モニタリング画面と HIFU照射 用トランスデューサ 1 (HIFU照射用振動子エレメント群 17) の位置関係は予 め計測されているので、その位置関係情報とプローブ 2の回転角度情報から「焼 灼計画ユニット」 が焦点移動距離を計算する。 この計算結果に基づいてァクチ ユエータ 121が第 1スィッチ 19、 第 2スィッチ 20、 第 3スィッチ 22を切り換 え、 さらに各駆動アンプ 4に駆動条件 (周波数、 電圧振幅、 初期位相) を設定 する。 この駆動条件は主に Z方向の焦点移動により決まるので、 焦点位置に対 する第 3スィツチ 22の切り換え設定情報及び駆動アンプ群 4の出力設定値を 予め計算 ·記録しておいた "ルックアップ ·テーブル" などを参照して単純化 するものであってもよレ、。
準備完了後、 操作者はタイミングを見計らって HIFU照射のスタートスィッチ 88 を押すことで、 焼灼が開始される。 超音波ァニユラ一アレイの基本原理は 同心円に分割された振動子エレメント群 17を、 後述する 「時間反転鏡の原理」 に基づいて第 12図に示すように "点音源" を Fで示す焦点 15の位置に配置し て、 トランスデューザの超音波放射面 89に到達する超音波の音圧 90で決定さ れる振幅と位相を持つ高周波電圧で駆動することに尽き、 逆にこの高周波電圧 の印加パターンを変えるだけで Z方向の焦点位置を制御できることが知られて いる。
実用上は、 常温における水の音速が約 1500[m/sec]なので、 HIFU照射の周波 数を 1. 5 [MHz]とすると波長は 1 = 1 [画]となる。 そこで全ての振動子エレメン
ト 17が同じ形状であってその最大寸法が AR==え 2 = 0.5 [mm]であるとし、 そ れらが平面上に等間隔で配置されていると仮定する。 駆動電圧の初期位相毎に 振動子エレメント群 17 を離散化すると、 同心円のリングに分割されてその幅 は一番外側で最も狭くなり、 しいては振動子エレメント 17 の最大寸法 ΔΙ? に 達する。 これ以下の幅になると初期位相を変えて駆動できなくなるので、 この 条件から第 13図を用いて開口角 2 Θを求めることができる。
超音波の波長を λ、 焦点 Fから点 Αまでの距離を r、 最も外側のリングの幅は 点 Aから点 Bまでの距離と等しくなるので とおき、 超音波音圧の初期位相 の刻み幅 初期位相を離散化して有限個のグループに分類する場合の離散 化幅のこと を C [deg]、 δ = ζ/360 とおくと、 点 Fから点 Βまでの距 離は (r+ δ · X) と表され、 式 (1) が成立する。
厶1 = + ^' 1)2 -r2 -cos26>-r -sine (1) ここで r》;iを顧慮して近似すると式 (2) を得る ( δ λ (2) sin 初期位相の刻み幅 ζ =60[deg]— -例えば同じ駆動周波数で初期位相が 0、 60、 120、 180、 240、 300[deg]となる 6種類の高周波電圧が各振動子エレメント 17 に印加されることを意味する 、 AR= え =1 [讓]の条件を代入す ると Θ =19.5[deg]となり、 焦点 15 までの距離 振動子エレメント群 17 が第 13図の線分 BC上に並んでいると仮定しているので、 線分 CFに相当長さ を 200 [誦]とすると、 トランスデューサ 1の半径は 66.7 [國]になる。 勿
論、 各振動子エレメント 17 の最大寸法は 0. 5 [mm]である。 このケース ' スタ ディの結果の一例を第 14図に記す。 ここで点 B'は点 Bの軸対称な点を表す。 振動子エレメント群 17は第 1 スィッチ 19、 第 2スィッチ 20を経由して中継 電極 21に接続され、 振動子エレメント群 17が "ほぼ同一の最小幅 ^え ば振動子エレメント 17 の最大寸法など を持つ同心円状のリング群" に 分割されたことに対応するように中継電極 21 が電気的に分割される。 即ち、 中継電極 21上で振動子エレメント群 17の同一リング内に対応する電極は電気 的に並列接続され、 異なるリングに対応する電極は電気的に絶縁される。 振動 子エレメント 17のリング群は、 第 3スィッチ 22を構成する第 10図の第 5電 極 27によって、 第 12図の初期位相の分布に对応するように再分類され、 それ ぞれ異なる初期位相の高周波電圧を出力する駆動アンプ群 4で駆動される。 こ れら初期位相の分布パターンは第 3スィッチ 22の第 6電極 28を摺動させるこ とで切り換えられる。
また無減衰媒体中では 「時間反転鏡の原理」 「逆回しの音響学」 (M.フ インク ; 日経サイエンス、 2000年 3月号、 pp. 52 _ 59) 参照 が成立し、 焦点 15に集束する音場を発生するには、 その焦点 15に点音源を配置したとき に振動子エレメント群 17 が受信する音圧を時間反転させて再生すればよいこ とが述べられている。
さらに 3次元空間では点音源から放射される遠距離音場における音圧振幅は、 その点音源からの距離に反比例することが知られている。 第 14図の例では、 トランスデューサ 1の中心点 Cでの音圧振幅に対するトランスデューサ 1の辺 縁である点 B (または点 B,)での音圧振幅の比は (1/210. 8): (1/200) = 0. 948: 1 となり、 初期位相の刻み幅毎に離散化したリングの駆動振幅は殆ど同じにし ても問題ないことが分かる。
この 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の第 1スィッチ 19と
第 2スィッチ 20の部分を、 Xと Y方向の両方向に切り換えができるように "2 自由度を有する第 4スィッチ 42" で置き換えてもよい。 第 4スィッチ 42を構 成する円筒状の電極の側面に沿って切れ込みを入れて展開した場合の図を第 15図と第 16図に、 斜視図を第 17図に示す。 第 4スィツチ 42の第 7電極 38 には第 7デイスエーブル電極 40が、 第 8電極 39には第 8デイスエーブル電極 41が付加され、 第 8デイスエープル電極 41は第 3導線 91で電気的に接続さ れているものとする。 ここで注意すべきは、 第 7デイスエーブル電極 40は第 15図の斜線部に対応する点である。 勿論それ以外のトランスデューサ 1、 中継 電極 21、 第 3スィッチ 22、 マッチング回路 52、 駆動アンプ群 4などは全く同 じでよレ、。第 4スィッチ 42には回転角度を検知するための第 2エンコーダ 44、 第 3エンコーダ 46が付加されて 2方向に動くものとする。 この第 4スィッチ 42は手動で動かすことで切り換えてもよいし、 第 3ァクチユエータ 43、 第 4 ァクチユエータ 45 を付カ卩してコントローラからの指令に従って切り換えるも のでもよレ、。
また第 1スィッチ 19、 第 2スィッチ 20、 第 3スィッチ 22及ぴ第 4スィッチ 42 を構成する各電極 47は第 18図のようにスプリング 92などで常時一定の電気 的接触を保つ構造の他に、 第 19図のように第 1コア 93と第 2コア 94との磁 気結合を利用するものであってもよい。 また図示はしないが、 電極間が近接し た場合に駆動周波数において低インピーダンスとなるだけの大容量が確保でき る構造の電極 47が使えるならば、 容量結合を利用するものであってもよい。 第 4図の構成を持つこの 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の操作手順のフローチャートを第 20 図に示す。 このフローチャートの各ステ ップの詳細を以下に記す。 ステップ 1A:患者体表面に 「超音波伝播部材」 を貼付。
ステップ 2A:アプリケータ部分に付属している水バッグに注水し、 トラ ンスデューザの冷却開始。
ステップ 3A:超音波伝播部材と体表面との間に、 ゼリーや液体などを注 入して気泡を排除。
ステップ 4A:アプリケータ部分を超音波伝播部材に当てがいアプリケー タの移動又はイメージング用プローブの回転操作を行い、 B モードなどで患部 をモニタリング。
ステップ 5A:アプリケータ部分を支えるロボットアームを適切な位置で 固定。 ィメージング用プローブを回転させ適切かどうかを確認。
ステップ 6A:回転位置が適切かどう力判断。
ステップ 7A:同一断面を異なる 2種類の周波数 f、 f。で超音波画像を収集 し、 減衰率分布 αを求める。
ステップ 8Α:ステップ 7Α と同じ断面で焼灼焦点位置と強度を設定。 操作 者がモニタリング画面上に焦点位置と強度を設定。
ステップ 9Α:イメージング用プローブを厶 φ [deg]ずつ回転させる。 ステップ 10A: 360° 回転したかどう力、判断。
ステップ 11A:強力超音波が通過する領域内で減衰率分布場像の画素値を 平均し、 平均減衰率 を計算。
ステップ 12A:焦点位置、 焼灼強度、 HIFU照射時間の設定値及び平均減衰 率 からトランスデューサ駆動条件を計算し、 駆動アンプを設定。
ステップ 13A:焼灼の上限温度を設定。 温度測定アルゴリズムを使い、 患 部温度をモニタリング。
ステップ 14A: HIFU照射開始。
ステップ 15A:上限温度に達した時点で HIFU照射をストップ。
ステップ 16A:イメージングプローブを回転させて焼灼後の温度測定。
ステップ 17A:焼灼完了かどうかを判断。 ここでフローチャートのステップ 8Aにおける焼灼焦点 15の位置の設定を容易 にするため、 第 21図のように、 焦点移動可能範囲 50を示すコンピュータ画像 、 生体組織 95を映し出しているモニタリング画面 49に重畳表示されるもの とする。 これによつて操作者は患部 3 と焦点移動可能範囲 50 とを考慮して、 焦点位置と焼灼強度を同時に設定する。 この焼灼焦点位置の設定を行った同一 断面に対して、 後述する 「減衰率分布測定」 が自動的に行われる。 第 28 図に 示すように、 モニタリング手段としてフェーズドアレイ振動子の中央に穴が開 けられ、 その穴に対して概略垂直に超音波診断装置 29 のイメージング用プロ ーブ 2、 回転角度検出用の第 1エンコーダ 13、 回転動作のための第 1ァクチュ エータ 11が取り付けられ且つ連動する構造になっており、 さらに HIFU照射に よる反射波からプローブ 2を保護するための羽根 10とそれを回転動作させる ための第 2ァクチユエータ 12も付加されているとしている。 イメージング用 プローブ 2は Z軸の周りに離散的に回転 例えば厶 0 = (36O/n) [deg] 、 n は自然数; 0、 Δ φ、 2 Δ 0、 3 Δ φ … の角度毎に回 させながら、 全 周にわたつて焼灼焦点位置および焼灼強度設定と減衰率分布測定を行う。
次にステップ 7Αの "2周波数 f 、 f。における超音波反射波画像を利用した減 衰率分布測定" の原理を説明する。 Lord Rayleighの Theory of Sound , Vol. Π , pp. 149によれば、入射波だけによる散乱体の位置の音圧を PQ、散乱体 96か ら距離 rで入射方向から Θの角度にある点の音圧を P、 音響伝播媒体 6の体積 弾性率を K、 音響伝播媒体 6の密度を ρ、 散乱体は任意形状であって且つその 体積が Q、 散乱体の体積弾性率が (Κ + ΔΚ)、 散乱体の密度が (ρ + Δ ρ ) で あり、 jを虚数単位とすると式 (3) が成立することが知られている。 ここで k は波数を意味する。
P k2 Q . exp(-jkr) ΔΚ + Ap cosO (3)
m K P ノ
2 C
式 (3) の絶対値を取- «Cると、 式 (4) と表される c
周波数を f、 その音響伝播媒体 6での音速を Cとすると、 波数 kは式 (5) の 関係があるので式 (6) の関係が導かれる。
k = (5)
(6)
即ち、 距離 rと角度 Θが一定で且つ途中の音響伝播媒体 6による超音波減衰が 無い場合、 散乱体に到達した進行波の音圧振幅に対する散乱波の音圧振幅の比 は、 周波数 f の 2乗に比例することが分かる。
次に、 仮想点音源から距離 Xだけ離れた位置 (遠方の点) における超音波強度 を Ixとし、 距離 における超音波強度を I,とおく。 「超音波技術便覧 (新訂 版)」 (日刊工業新聞社、 1991 年、 ρ· 616) によれば、 式 (7) が成立する。 こ こでひは減衰率 (吸収係数) を表す。
■I exp{-2a(X-Xj)} (7)
XJ
rx, •I, - exp(2aX, ) ' exp(-2aX)
さらに平面波や遠方における球面波では、 強度と音圧振幅の間に式 (8) の関 係が成り立つことから、 式 (9) の関係式が導かれる。
P (8)
2p-C
X、
|PH · C . I ^ I · exp(-aX) (9)
また、超音波技術便覧 (新訂版) の p.1372には、 「生体組織では吸収 (減衰率) が振動数 (周波数) に比例するものが多い」 とある。 このことは式 (10) で表 される。 or oc f (10) 第 22図と式 (6) 、 式 (9) 、 式 (10)から減衰率と周波数依存性を考慮して、 受信信号を散乱体 96のある位置までの距離 Xと周波数 f の関数として S(X, f) と表すと、 式 (11) のようになる。 ここで送受信の基本周波数を f
0、 これと は異なる送受信の周波数を f、 周波数 f。における距離 Xでの減衰率を a (x)、 周波数 f 。における距離 Xの位置での拡散損失だけを含む受信信号を S。 (X)と
おいた。 この式は 「受信信号が音圧に比例すること」、 「受信信号が周波数 f の 2乗に比例すること」、 「音圧は指数関数的に減衰すること」、 「減衰率 (吸収係 数) は周波数に比例すること」、 「反射波でイメージングする場合は、 送信から 受信までの距離が 2Xとなること」 を考慮して導かれている。
S(X,f) = S。(X) expト 2『X丄 - "(X)dX | (ID
I f
0ソ I 式 (11)から簡単な計算で減衰率 ct (X)を導くと式 (12) となる。 受信信号 (画 素値に対応) S (X , f)または S (X, f
0)の少なくとも一方が、 "無信号" とみ なせる閾値以下になった場合は 「その領域近傍に強い反射体が存在して遮蔽さ れている」 か、 もしくは 「その領域に大きな減衰率の物体が存在する」 ことを 意味するので、 後にこの減衰率分布を利用する際の便宜を考えて、 式 (13) の ように "絶対値が大きい負の数" を対応させておくのが望ましい。 このように
" ) o _ · 1 dS(X,f0)— _ 1 _ dS(X,f)
2if - f。) 1 s(X,f。) dX S(X,f) dX J (12)
(但し、 |S(X,f)| > B且つ |S(X,f0)| > Bの場合、
Bは閾値として決められる定数) すると、 HIFU ビーム 5 がこの 「無信号とみなせる領域」 を通過する場合、 振 動子ェレメント 17の駆動条件が自動的に "殆ど 0" となり、 過剰な HIFU照射 ゃ焼灼事故を回避できるからである。
α(Χ)ョ—Α ひ3) (Aは正の定数、 但し |S(X,f。)| < Bまたは |S(X,f)| < Bの場合) 一般的に振動子エレメント 17 は高調波 (基本周波数の整数倍の周波数) にお いても共振点を持つことが知られているので、異なる周波数 f は f=n · f0 (但 し nは 2以上の整数)、 実用上は f==2f。にする方が有利である。 実際は振動子 エレメント 17 の電気音響変換効率 (もしくは送受信感度) が周波数により異 なるので、 この補正を画素値に加えた上で式 (12) 、 式 (13) を適用しなけれ ばならない。 以下この方法を 「2周波数の画像による減衰率分布測定」 と呼ぶ ことにする。
モニタリングに超音波画像を利用している場合、 HIFU照射による熱エネルギ 一の蓄積とそれによる微少気泡の発生により、 焦点 15から HIFU用トランスデ ユーサ 1に向かって "ハイ ·エコー"領域が広がっていき、 モニタリングが困 難になる傾向がある。 第 20図のフローチヤ一トのステップ 12Aで駆動条件を 計算する際、 焼灼順序は第 24 図のフローチャートに従って決めていく方が望 ましい。 この様子を第 25 図に示す。 このときトランスデューサから最も離れ た層 99から焼灼の順番が決定される。 以下に第 24図のフローチヤ一トの各ス テツプを詳しく説明する。
1B:焦点移動可能範囲を HIFU用トランスデューサからの距離に 従って複数の層に分類。
ステップ 2B : トランスデューサから一番離れた層内で、 焼灼焦点の順番を 決める。 スタートの焦点は任意に決める。
ステップ 3B:同一層内において、 HIFU未照射で且つ最も近い焦点を 「次の
焦点」 とする。 もし、 等距離の焦点が複数ある場合は任意に決める。
ステップ 4B:同一層内で全て焼灼完了かどうかを判断する。
ステップ 5B:未照射の層であって、 且つトランスデューサから距離が一 番遠い層を選ぶ。 スタートの層は任意に決める。
ステップ 6B:全ての層で焼灼完了したかどう力、判断。 第 20図のフローチャートに戻って、 ステップ 9Aにおいて、 プローブ 2の角度 を Δ φ [deg]回転する毎に(このときの角度を順次 0 iとする。 i=l , 2 , · · · , Mで Mは正の整数) 「HIFUが通過する最大領域 97」 とィメ一ジング領域 48 と が重なる領域 98」 第 23図参照のこと において "角度 φにおける 平均減衰率 を求める。 これを全周にわたって計測し式 (14) に従って 平均することで、 平均減衰率 を求める。
1 Μ
(14)
焼灼焦点位置と焼灼強度情報から、 予め計算しておいた 「焦点 15 から振動子 エレメント 17までの距離が L。で照射時間 t。だけ HIFU照射したとき、 一定減 衰率 c。 (但し α。≠0) の音響伝播媒体 6 における焦点 15 の温度が平熱 Ts (36. 5°C)から T。に加熱される場合の振動子エレメント 17の駆動電圧振幅 、 初期位相 の情報」 を記憶装置から読み出し、 式 (15) のように補正した条 件で駆動する。 ここで iは、 同条件で駆動される振動子エレメント 17 という 基準で分類したグループの番号を表す。
F T - T0、
Y 一 (15)
. exp{ (a - a)-L0) · sin(2^f0t + )
0 -TJ、"ノ この補正の根拠を説明する。 点音源に対し基準となる距離 Xoでの超音波強度 を I。とする。 この強度はエネルギーの単位を持っている。 さらに音響伝播媒 体 6の減衰率は一定でその減衰率を α。とし、 音源からの距離が Xの点での発 熱を考える。 X が波長の数倍以上となる位置では平面波でほぼ近似出来、 その 点での発熱エネルギーは "減衰率と超音波強度の積" で近似できる。 音響伝播 媒体 6の比熱を σ、 音響伝播媒体 6の密度を ρとする。 温度が平熱 Tsから T に上昇したと仮定すると式 (16) のような関係式が成立する。
(Τ-Τ5)·σ·/? = α0 ■I0-exp{-2«0(X-X0)} (16)
X 減衰率が α。から αに変わった場合、 注目点での発熱エネルギーは式 (17) と 表され、 その点において同じ発熱エネルギーにするために必要な初期超音波強 度の増幅率を γとすれば、 式 (18) の関係式が成立する。 簡単な計算から式 (19)が導力、れ、それを電圧の増幅率に換算するには平方根を取ればよいので、 上記の式 (15) が導かれる。
a •I0-exp{-2«(X-X0)} (17)
γ ·α· 入 0 •1。 .exp{_2a(X-X0)}
Xノ
= αη 、 〕 .I。.eXp{—2"。(X— X( (18) "、
7 = jiml― I · exp{2(a -α0)·(Χ-Χ0)} (19)
( 、
·εχρ{2(α-α0)·Χ}
第 20 図のステップ 13A で使われる温度計測の手段としては、 Image-guided phased array system for ultrasound thermometry ( 19% IEEE International Ultrasonics Symposium-San Antonio , TX ; P. VanBaren , C. ¾imon , R. Seip , C. A. Cain , E. S. Ebbini )に述べられている温度推定の方法などを利用す ればよい。
「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 の全体構成を表す第 4図 のうち、 アプリケータ部分 16の保持 ·移動には第 30図のような多関節で多自 由度の第 1 ロボットアーム 51 を利用するものであってもよレ、。 これはロボッ トアームコントローラ 102で制御される。 自動的に移動する第 1ロボットァー ム 51の場合、誤動作時に患者 64に対して危害を加える可能性がある。そこで、 自走しない第 1 ロボットアーム 51であって、 且つ 「オートバランス (自動的 にアームの釣り合いを取る機能)」、 「アームを保持する機能」、 「操作者の介添 えによって自由に移動できる機能」 だけを有するものであることが望ましい。 この形式の HIFU装置の欠点には、 どうしても対象物 (例えば生体組織) の減 衰率が一定であることを前提としているため焼灼形状や加熱温度の精度は下が ると力 \ 肋骨などの有無も考慮せずに HIFU 照射せざるを得ないという欠点が
残る。 し力、し、 固定焦点型の HIFU用トランスデューサ 1 と比べてアプリケー タ部分 16の移動をできるだけ少なくでき、 水バッグ 14 と患者 64の体表面 8 との接触状態を常に良好に保っための操作を減らすことができるというメリッ トがある。
次に第 2の実施例である 「反射型フヱーズドアレイ HIFU装置」 について説明 する。 第 31 図にこのブロック図を示す。 従来タイプとの相違点として以下の 点が挙げられる。
(1) 同形状の振動子エレメント群 17が配列されたフェーズドアレイ振動子 であって、 同一振動子エレメント群 17を使って HIFU照射が可能である 従来のパルスエコー法より高強度で且つ長時間連続した超音波を放射できる一
——と同時に、 超音波バーストを使った "狭義の開口合成アルゴリズム" によ り 2次元及び 3次元画像収集が可能。
(2) 受信時に超音波エコーのフェーズドアレイ振動子による再反射 (多重 反射を防止するため、 振動子エレメント 17の表面での音圧を殆ど 0になるよ うに制御すると同時に超音波エコー信号を検出することが可能。
(3) 周波数の異なる 2 種類の超音波エコーを使って減衰率分布を測定でき るように、 振動子エレメント 17 を基本周波数及びその整数倍の高調波でも駆 動したり受信したりすることが可能。
(4) 測定した 3次元減衰率分布情報と、操作者が設定した 「焼灼焦点位置」、 「焼灼焦点強度」の情報から各振動子エレメント 17の駆動条件を計算して HIFU 照射することが可能。 このため複数の焦点 15 (多点焦点) を一度の HIFU照射 で焼灼可能。
(5) HIFU照射前に、 減衰率分布と HIFU 照射情報から発熱分布予測を行う ことが可能。
(6) アプリケータ部分 16 と患者 64 との位置関係を計測するので、 アプリ
ケ一タ部分 16 を移動させた後でも、 再度同じ位置関係に近い状態に復帰させ ることが可能。
この反射型 HIFU装置の操作手順のフローチャートを第 33図に示す。 各ステツ プの詳細を以下に記す。 ステップ 1C :患者体表面に 「超音波伝播部材」 と 「マーカー」 を貼付。 ステップ 2C:アプリケータ部分に付属する水バッグに注水し、 トランス デューサの冷却開始。
ステップ 3C:超音波伝播部材と体表面との間にゼリー、 液体などを注入 して気泡を排除。
ステップ 4C:アプリケータ部分を超音波伝播部材に当てがい、 アプリケ ータの移動操作を行う。 「狭義の開口合成」 のアルゴリズムで 3 次元領域を一 括撮影し、 Cモードまたは Bモード表示画像を使って患部をモニタリングする。
ステップ 5C:アプリケータ部分を支えるロボットアームを適切な位置で 固定。 「マーカー位置検出器」 でマーカー位置を計測し、 原点位置を決める。
ステップ 6C:操作者が C モ一ド表示画面を使って、 層毎の焦点移動可能 範囲内に焼灼焦点位置、 強度を設定する。
ステップ 7C:焦点位置が全て決定されたかどうかを判断する。
ステップ 8C :同一の 3次元領域の画像を 2種類の周波数 f、 f。で収集し、 B モード表示画像から減衰率分布を求める。 パルスエコーが或る閾値以下の領 域には、 「絶対値が大きい負の数」 を対応させる。
ステップ 9C : ステップ 6Cで設定した焼灼焦点位置情報、 ステップ 8Cの 減衰率分布データ、 各振動子エレメントの位置情報から、 焦点と各振動子エレ メントを結ぶ線分上での減衰率を補間して求め、 この線分上での式 (25) の方 程式を数値的に解いて駆動アンプを設定する。
10C:焦点と搔く振動子エレメントを結ぶ線分上で求めた音圧に 式 (32) を適用して発熱エネルギー分布を求める。 補間することで 「発熱等高 面」 を求める。
ステップ 11C:温度測定のために、 焼灼前の 3次元領域での画像データを 収集する。 焼灼による上限温度 Tsを設定する。
ステップ 12C : HIFU照射開始。 温度上昇による音速の増加は、 「狭義の開 口合成」 のアルゴリズムによる画像では画素値の位相変化に反映される。 これ を利用してモニタリング画面から温度を測定。
ステップ 13C:上限温度 Tsに達した時点で HIFU照射をストップ。 他の断 層面における温度上昇もチェックする。
ステップ 14C:焼灼完了かを判断する。
ステップ 15C:追加焼灼部位の位置と強度を設定する。 先ずアプリケータ部分 16を患者 64の体表面 8に接触させるところから説明す る。 従来から超音波診断装置 29を使う場合、 患者 64の体表面 8とイメージン グ用プローブ 2の間の音響的接触を良好に保っために 「超音波減衰の殆ど無い 超音波伝播部材」 例えば商品名 Sonar—Aid ( Geistlich社製の hydrated polyacrylaraide agar ) 、 商品名ソノゼリー (水溶性で且つ無害なゼリ一) な ど が良く使われている。 HIFU照射の場合、 アプリケータ部分 16に付加 されている水バッグ 14と患者 64の体表面 8との間に少しでも気泡が残ってい ると、 気泡近傍にホットスポット (局所的発熱) が生じて、 患者 64 の体表面 8 に火傷などの損傷を与える可能性がある。 超音波診断装置 29 の場合を単純 に真似ただけでは、 水バッグ 14のサイズはイメージング用プローブ 2 より概 して大きいので、 アプリケータ部分 16 の移動を繰り返すと気泡が入り込む可 能性がより高くなる。 そこで親水性があり、 且つ超音波減衰が殆ど無いゲルを
第 49図、第 50図、 第 51図に示す分厚いシート状に成型する。 成型段階で、 側 面からゲルシート 7の中央に向かって脱気精製水や脱気生理食塩水などを導入 するトンネル状の孔を開け、 シートの中央にこのトンネル状の孔と交差するよ うに厚み方向に貫通孔を開ける。 このシートの側面に開いた孔にはチューブ 59 が接続され、 そのチューブ 59は音響伝播媒体 6の入った貯留タンク 108に接 続される。 第 49図のように第 1ポンプや第 2ポンプ (ペリスタポンプ、 蠕動 ポンプなど)、 第 1圧力センサー 109、 第 2圧力センサー 110及びコントロー ラを使って、 給水口 113から強制的に脱気水がシートの中央から常時供給され るので、たとえ気泡が入り込んでも簡単な操作で気泡を追い出すことができる。 この 「能動的に給水可能な超音波伝播部材」 により、 強力超音波や超音波ィメ 一ジングのためのパルスエコーを対象物 (例えば患者 64体內) に効率よく導 入することができる。
次に、 患者 64の体表面 8にあって且つ皮膚などの伸縮によって移動しにくい 場所のうち、 直線上に並ばない 3箇所以上の地点に "位置検出用マーカー 74" (又は "マーカー位置検出センサー 75") を貼付する。 一方、 アプリケータ部 分 16には、 直線上に並ばない 3箇所以上の固定位置にマーカー位置検出セン サー 75 (又は位置検出用マーカ一 74) を取り付けておく。 ここで "3箇所以 上" としているのは、 直線上にない異なる位置がそれぞれ 3箇所以上あっては じめて、 方向も含めた空間的な相互位置関係を決定することができるからであ る。 焼灼作業中には、 この手段によって患者 64とアプリケータ部分 16との相 対位置関係を定期的に計測,記録する。 特に HIFU装置起動時やアプリケータ 部分 16 の移動完了時には必ず計測 ·記録するものとする。 この位置検出器は 患者 64 の着衣などに影響されずに計測できることが望ましく、 例えば位置検 出用マーカー 74 としては空中への無指向または無指向に近い状態で超音波パ ルスを放射する超音波振動子、 マーカー位置検出センサー 75 としては無指向
または無指向に近い状態で超音波パルスを検出できる超音波センサーを利用す ることができる。 これらをそれぞれ 3箇所以上ずつ取り付け、 超音波振動子の 超音波パルスの発振タイミングをずらすか又は超音波振動子の発振周波数を変 え、 そのときの気圧及び気温情報で補正することによって、 より正確な相対位 置情報を得ることができる。 この他には、 位置検出用マーカー 74 として小型 の高周波磁界発振装置を使い、 マーカー位置検出センサー 75 としてはその高 周波磁界を 3次元的に検出して位置検出用マーカー 74の位置を推定するとい う装置などを利用してもよい。 いずれにしても或る初期状態の位置からアプリ ケータ部分 16 を移動させた場合でも、 こ らの情報に基づいて初期状態に最 も近い位置関係に復帰させることができる。
この HIFU装置の場合、 振動子エレメント 17は連続的に HIFU照射で破損する ことが無いように、 或る程度以上のサイズの圧電セラミックスが用いられ、 必 然的にイメージング用プローブ 2よりは大きくなる。 この HIFU装置では HIFU 照射用フェーズドアレイがィメージング機能も有するように構成されており、 3次元超音波イメージング専用の超音波診断装置 29におけるプローブ 2の小 型化が困難であるという問題 即ち、 振動子ェレメント 17は 2次元配列 されるのでその数が急激に増大し、 全ての振動子エレメント 17 を配線する必 要があるため配線材がかなりのスペースを占めてしまい、 プローブ 2を小型化 することが非常に難しくなるという問題 が生じないので、 その実現も容 易となるという利点もある。
例えば、 狭義の開口合成アルゴリズムなどを利用すれば、 第 33 図のステップ 4C において、 従来の C モード (フェーズドアレイ振動子の面に概略平行な断 層像を撮影するモード) 及び Bモード (超音波送信パルスが放射される方向に 平行な断層像を撮影するモード) と呼ばれる断層像に対応する超音波画像を準 リアルタイムで撮影することも可能である。 但し、 狭義の開口合成アルゴリズ
ムによる画像の持つ欠点として、 フェーズドアレイ振動子から離れれば離れる ほど縦分解能 (超音波送信パルスの伝播方向に平行な方向の空間分解能) は低 下することが知られている。 しかし横分解能 (縦と垂直な方向の空間分解能) はそれほど低下しないことも知られている。
ステップ 5Cでモニタリングしながらアプリケータ部分 16 を移動させ、 HIFU 照射に最適の位置で固定する。 第 34図で選択した "層 54" の画像が、 モニタ リング画面 49上で第 35図のように 「焦点移動可能範囲 50」 を示すコンビュ ータ画像と共に重畳表示されるので、 操作者はそのコンピュータ画像の枠内に 焼灼焦点位置と超音波強度を指定することができる。 ステップ 8Cでは、 「スィ ツチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 で説明した 「2周波数の画像に よる減衰率分布測定」 と同じ手法を適用することで、 3次元的に減衰率分布を 求める。 この場合も "無信号" と見なされる領域には、 ステップ 9C での駆動 条件を求めるための便宜を考えて、 "絶対値が大きな負の数" を対応させてお くのが望ましい。 尚、 通常の減衰率は必ず "正の数" の値をとる。
次に、 ステップ 9Cにて駆動アンプ群 4の駆動条件を求める。 駆動条件を求め る問題は、 音波の伝播媒体 6が無減衰で等方均質と見なせる場合に 「閉局面 S で囲まれた領域 D 内の音場再生問題」 として扱われてきた。 結論としては 「Kirchhoff積分方程式を満たすように閉曲面上の N点に、 そこでの音圧およ び法線方向の粒子速度を再現すればよい」 ことが知られている。 また Time Reversed Acoustics 、 Mathias Fink , Physics Today, March 1997 , pp. 34 — 45 )、 Time Reversed Acoustics ( Mathias Fink , Scientific American , Nov. 1999 )によれば、 理論的には途中の音波の伝播経路でエネルギー損失が無いな らば波動方程式は時間反転しても成立し、 このことは実験的にも確認されてい る。 分かり易く言い換えれば 「領域 D内の任意の位置に点音源があり、 そこか ら音波が放射されるものとする。 それを閉曲面上の幾つかのポイントで受信 '
録音した後、 受信したのと同じポイントから時間反転させて再生した音波を放 射すれば、 元あった点音源の位置に正確に波面が集束する」 とことを意味して いる。
このことをそのまま生体内にできた腫瘍などの患部 3を焼灼するのに応用しよ うとすると、 以下の問題点(1)、問題点 (2)、 問題点 (3)に突き当たってしまう。
問題点 (1) :集束強力超音波 (HIFU) を 1点に集束させることが焼灼の基 本プロセスになるので、 点音源を患部 3の焦点位置に置くことができ、 且つそ のときの音波をフェーズドアレイ振動子で受信することができれば、 各振動子 エレメント 17 の駆動条件を実験的に決定することができるが、 実際は穿刺で もしない限り点音源を患部 3に置くことは不可能である。 穿刺が可能なら穿刺 による治療 例えば、 マイクロ波凝固治療、 エタノール注入療法など—— 一が行われるはずである。
問題点 (2) :生体組織の超音波減衰は無視できず 減衰があるから、 発熱作用を利用して焼灼できる 、 しかも減衰率分布は不均一である。
問題点 (3) :不均一減衰率分布を有する 3次元領域に対して波動方程式を 立て、 有限要素法や境界要素法で解こうとしても、 現在のコンピュータの計算 能力では、 エレメントサイズを少なくとも 1/6波長以下にするという制約条 件下で数万個のエレメントを极うのが実用上の限界とされており、 この数値解 法をそのまま実際の対象物に適用したのでは、 1. 5MHzでの水の波長が 1 [mm] であったことを思い出せば容易に分かるように大きな領域をこの方法でシミュ レーシヨンするには計算時間がかかり過ぎ、 実用にならない。
これらの問題を回避するために本実施例では以下の方法を採る。 即ち、 先ず対 象物の減衰率分布 (できれば音速分布も) を 3次元的に計測し、 その内部に焼 灼焦点位置と超音波強度を設定する。 「時間反転鏡の原理」、減衰率分布データ、 音速分布データ、 及び 「点音源から振動子エレメント 17 までは音波が球対称
な波面 37 を伴って伝播すると見なしても十分良い近似を与える」 という推論 結果を使い、 焼灼焦点 15に点音源を置くと仮定して各振動子エレメント 17の 駆動条件を求める。
具体的には、 波面 37が球対称となると近似することで簡略化した "点音源の 音場を表す 2階非線形微分方程式" に、 実測された減衰率 αの符号を逆にした 一 aを代入 音速分布データがある場合は符号を含めてそのままの値を代 入し、 データがない場合には、 符号はそのままで一定値を代入 し、 その 微分方程式を焦点 15の位置 (点音源の位置) と各振動子ェレメント 17の位置 を通る直線上で数値的に解く。 各振動子エレメント 17 を駆動する駆動アンプ 4 には、 計算で求めた各振動子エレメント 17 における音圧振幅と位相データ を設定し、 駆動周波数 f はその符号を逆にした周波数—f にして駆動するとい う方法を採る。
実測データに基づいた音場シミュレーシヨンを使うので、 穿刺などをする必要 が無くなり、 上記の問題 (1) は発生しない。 問題 (2) に関しては、 焦点 15 から振動子エレメント 17 に至る直線上において実測した減衰率分布や音速分 布を代入しながら数値的に解くので、 不均一な減衰率分布や音速分布という条 件は自動的に考慮される。 問題 (3) に関しては、 厳密な波動方程式の代わり に簡易化された 2階非線形微分方程式を解くので、 計算量を節約できて、 現在 のコンピュータの計算能力で十分まかなうことができる。
前出の 「点音源から振動子エレメント 17までは音波が球対称な波面 37を伴つ て伝播すると見なしても十分良い近似を与える」 が成立することを以下に説明 する。 音圧を ρ(ϊ, ω )とおく。 注目している点の位置ベクトル Ϊを、 強力超音 波 (HIFU) の角振動数を ω、 角周波数が ωのときの波数を 音速を(、 減衰 率を αとする。 特に、 均一な音響伝播媒体 6における減衰率を α。、波数を k0、
音速を C。で表し、 不均一な音響伝播媒体 6においては位置べクトル?の関数と なるので減衰率を α(ϊ)、 波数を ?)、 音速を C (?)で表すものとする。 ここ で 3次元の波動方程式を直交座標系上でラプラス演算子 V2を用いて、音圧 ρ(ϊ, ω)に関して書き表すと式 (20) となる。
(20) ν2ρ(τ,ω) + {Ητ)Υ·ρ(ν,ω) = 0 ここで均一な音響伝播媒体 6 における波数 k に関しては式 (21) の関係が成り 立ち、 不均一な音響伝播媒体 6の場合には式 (22) という関係が成立する。
k r) =— (21)
Cn
ω (22) km=— "- i-a(r)
Cff) 式 (20) の直交座標系で表された 3次元波動方程式を極座標表示し直すと、 式 (23) と表される。 ここで原点からの距離を!:、 天頂角を 0、 方位角を φとす る。 式 (23) は、 時間項 eXp(-jcot) (但し、 角周波数を ω、 時間を t、 虚数 単位を jとする)を省略した場合の波動方程式なので、実際の音圧は式 (23)の 解 Pにこの時間項 exp (- j ω t)を掛け合わせたものになる。
(但し、 Ρ = Ρ(τ,θ,φ) = p(x,y,z) = p(r sin θ - cos φ, r sin ^ · sin φ, r cos θ))
この式の第 4、 5、 6項は(lZr2)の因子を持つので Θ =0 となる 1 点を 除いて 、 距離!:が大きくなると波動方程式に占めるウェートは急激に下 がる。 そこで r》1を満たす遠距離地点では式 (24) という近似式が成立する。 この式を変形すれば式 (25) となる。
- + +{k^^2-p=o (24)
d2
(r-P) + {k(r,^^)}2-(r.P) = 0 (25)
この方程式は 「波面 37 が球対称である点音源の音場を表す波動方程式」 と同 じ形になっている。 球对称波面 37を持ち原点に位置する点音源の音場を G (?) とおけば、 デルタ関数 δ (Ϊ)を用いて式 (26) の微分方程式が成立する。 原点 を除けば式 (27) と表され、 この G(i)を ρ(ϊ, ω)に置き換えると全く同形の 式となる。 δ (Ϊ)は G(i)の未定比例定数を決定する条件となる。 ちなみに波 数 k (?)が定数 kならば、 この方程式の解は式 (28) となることが知られてい る。
(26)
V2G(r) + {k(r)}2.G(f) = ^(r)
V2G(r) + {k(r)}2-G(r) = 0 (27)
exp(-jkr)
G(?) = (28)
4ΛΓ
(但し |?| = Γとする)
減衰率分布が不均一で と表され、 音速分布が均一で定数 C0と表される場 合に、 各振動子エレメント 17の位置での減衰前の超音波音圧を求めるには、 波 数 k ( i )を式 (29) の ϊ)と置き換え 実測された減衰率 a (?)の符号だけ を逆にすることに相当する 、 式 (25) の方程式を解けばよいことになる。 減衰率分布も音速分布も不均一で、 音速分布が不均一で C ( Ϊ )と表される場合 は、 波数 k ( i )を式 (30) の ?)と置き換えて同様に式 (25) を解けばよい。 こ の方程式の解は、 原点 (ϊ =0の座標のこと。 方程式を単純化するために線形な 座標変換を行っているので原点になっている。) において無限大に発散してしま うので、 原点での音圧振幅は定義できない。 また、 波長をぇ、 第 55図のように 集束超音波を発生させる球殻形トランスデューサ 1 の開口直径を Φ、 トランス デューサ 1の表面から焦点 15までの距離を Rとした場合、 超音波照射方向に対 して横方向の焦点領域 73に直径 dは式 (31) で表されることが知られている。 逆に言うと焦点サイズはこれ以上小さくすることができない。 第 56図のように 「原点から半径 r = d/2のオーダーで且つ一定の距離 r。だけ離れた地点におけ る音圧値を使って焦点強度を表す」 のが合理的である。 ω
k(?) =— + ΐ ·«( (29) ω (30) k(r) = -^- + j - a(r)
2.4A - R
(31) Φ いま上記の 2階非線形微分方程式を数値的に解いて、 音圧が求まつたものとす る。 i番目の焦点 ( i番目の点音源) から j番目のフェーズドアレイ振動子の 到達した波面 37の音圧を Ρ 、 振幅を Α = | P ij |、 初期位相を0 1」= 3 (卩") とおく。 音圧の振幅は、 圧電セラミックスで構成された振動子エレメント 17 の駆動電圧振幅に非常に良い近似で比例することから、 振動子エレメント 17 の形状と電気音響的特性が同じである場合 sin (— ω t+ 0 u ) (但し八 の関係が成立する) という駆動電圧を印加すればよいことになる。
この方程式を解くと、 i番目の焦点と j番目の振動子エレメントを結ぶ線分上 での音圧分布も同時に求まってしまう。 波面 37 が平面波で近似できるときの 発熱エネルギーは式 (32) で計算でき、 発熱エネルギー分布を求めることがで きる。 第 33図のステップ 10Cでは、 生体組織の比熱が一定であるという仮定 下で、 この線分上でのみ計算された発熱分布を強力超音波が通過する領域にお いて、 補間操作により "発熱エネルギー分布の等高面" を求める。 ここで αは 減衰率、 Ρは音圧、 ρは密度、 Cは音速を意味する。
« · Ρ
(32)
P
「波の重ね合わせの原理」 により、 第 41図のように焼灼焦点 15を Fl、 F2と おき、 その焦点間の距離を dとおく。 さらにその音響伝播媒体 6における超音 波の波長を Lとするとき、 どの 2個の焦点を取ってみても、 2焦点間において 波面 37 が互いに打ち消しが発生しないように、 必ず次の制約条件を満足する
ように配置することが望ましい。
焦点における音圧が互いに同位相である場合には、
(1) d》n · λならば、 Fl、 F2を任意の位置に配置する。
(2) d< n · λならば、 Fl、 F2を d (m+1/2) · λ (n≥m、 mは自然数) 力 dに極力近い位置に配置する。
を満足するように配置する。
焦点における音圧が互いに逆位相である場合には、
(3) d>n · えならば、 Fl、 F2を任意の位置に配置する。
(4) d<n · えならば、 Fl、 F2を d m ' λ (n≥m, mは自然数) カ これ に極力近い位置に配置する。
第 33図のステップ 11C、 12C、 13Cにおいても、 狭義の開口合成アルゴリズム などを利用してステップ 4C と同様に、 Cモード及び Bモードに対応する断面 の超音波画像を準リアルタイムで撮影できる。 画像上の任意の点は複素数で表 される画素値を持つので、 その点での位相が計算できて、 位相変化分布から加 熱による "温度変化分布" を推定することができる。 また生体軟部組織は平均 水分含有量が約 70%ということが知られており、 温度変化に対する位相変化の 比率が、 生体軟部組織の種類によらずにほぼ同じであることが期待できる。 そ こでモニタリング画面上に、 予め "温度変化の閾値" を設定しておき、 HIFU 照射の合間をぬつて超音波画像の撮影を繰り返し行い、 その温度変化の閾値を 超えた画素を含む画像が撮影されたならば、 HIFU 照射を停止させるといった ことも可能である。 これによつて HIFU照射による局所的な沸 パルス エコー法による超音波画像では "ハイ ·エコー" (画素値が非常に高くなり、 超音波診断装置の白黒モニター上では、 画面上白色に表示される) として描出 される の発生を回避することもできる。
これまで説明してきた計算処理に必要な全ての計算は、 HIFU装置に直接搭载
した高速コンピュータで行う方式以外に、 計算に必要なデータ (超音波画像、 減衰率分布、 音速分布データなど) だけを遠隔地にある高速コンピュータに高 速通信回線 103で伝送し、 計算結果のみをそこから送り返してもらって利用す るという方式を採っても構わない。
1 回目の焼灼で焼き残しが発生した場合 1 回で同時に焼灼できる焦点の 数の制約、 各振動子エレメント 17の駆動条件を算出するための計算資源の制 約、 焦点 15の移動範囲の制約などで焼灼できないとき は、 第 33図のス テツプ 15Cで追加焦点に関する位置と超音波強度情報を入力、 ステップ 8Cに 再度戻って焼灼する。
本発明の反射型 HIFU装置と従来の HIFU装置との相違点のうち、 「(2) 振動子 エレメント 17の表面での音圧を殆ど 0になるように制御すると同時に超音波 エコー信号を検出する」 点に関して説明する。 従来の HIFU装置や構造の単純 化を狙った第 1の実施例 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 では、 HIFU照射用トランスデューサ 1 に超音波イメージング用プローブ 2が 組み込まれており、 イメージング時の反射パルスにとってこの HIFU照射用ト ランスデューサ 1は "完全反射体" として働いてしまう。 そのため多重反射に よる画像アーチファタ卜が発生して、 モニタリング画面としての画質を著しく 損ねかねない。 振動子エレメント群 17 をマウントする基台が超音波を吸収し 易い材 シリコンゴム、 プラスチック等 で構成されていてもそれ 以外の部分が金属電極をメツキした圧電セラミックスであるため、 そのままで は反射体となってしまいこの問題を解決できない。 特に後述する第 3の実施例
「透過型 HIFU装置」 のようにトランスデューサ 1が対向配置された場合は、 その弊害が著しい。 そこで第 32図の駆動系を考える。 これは第 31図のうち 1 個の振動子エレメント 17とそれに接続される駆動アンプ 4や受信アンプ 53な どの部分を抜き出し、 制御系のブロック図として書き換えたものである。
この第 32図において、 振動子エレメント 17 (圧電セラミックスなど) に到達 する音圧を p 、 振動エレメントで発生した電圧を e 、 HIFU照射を行うための 駆動アンプ 4のゲインを 、 駆動アンプ 4の入力電圧を Ein 、 駆動アンプ 4 の出力電圧を y 、 フィードバック要素 104のゲインを K 、 受信アンプ 53のゲ インを A2 、 受信アンプ 53の出力電圧を Esig 、 マッチング回路 52 (例えばコ ンベンショナル. トランス) の昇圧比を l : n とする。 電圧 eはマッチング回 路 52で昇圧されて neとなり、 駆動アンプ 4出力 yと加算されて、 フィードバ ック要素に入力される。 このこと力 ら式 (33) の関係式が成立し、 簡単な変形 で式 (34) を得る。
K-(y + n- e) + E
jn } -A
1 = y (33)
フィードバックが成立しているとき、 マッチング回路 52の駆動アンプ 4の方 に印加される "正味の電圧" を E。で表すと式 (35) が成立する。 振動子エレ メント 17の表面のおける "正味の音圧" を 0にするため、 駆動アンプ 4の入 力電圧を E
in =0 と仮定する。 式 (35) は式 (36) と表され、 A
tK» l と見なせ る場合は式 (37) が成立し、 式 (35) の値はほぼ 0と見なせることが分かる。 昇圧比は 1 : nで常に成り立つことから、 マッチング回路 52の振動子エレメン ト 17側の電圧 (E。ん)もほぼ 0となる。 最終的に "正味の音圧" (外来音圧に駆 動アンプ 4による音圧が加算された音圧) もほぼ 0となることが分かる。
E
0 = y + n-e « 0 (
36)
—方、 受信アンプ 53の出力は、 受信アンプ 53のゲインを十分大きくとれば式 (37) のように表され、 問題なく受信できることが分かる。 即ち、 目標電圧を 0 にするフィードバック制御を導入することで、 振動子エレメント 17 の表面 における正味の音圧をほとんど 0に保つことができる。 これは波動方程式の分 野で、 "ソフト境界面" と呼ばれる境界条件に相当する。 この境界条件が成立 する場合、 反射波は境界面で反射されずに全て吸収されたのと同じ振る舞いを する。
振動子エレメント 17に印加される "正味の電圧" が常に 0に保たれるならば ソフト境界面を形成できる理由をさらに詳しく説明する。 一般的に、 振動子ェ レメント 17には電極がほぼ対向する様に 2箇所形成される。 それぞれを電極 A、 電極 B と呼ぶことにする。 圧電セラミックスを振動子として使えるように するため、 電極 Aに対し電極 Bに正の高電圧を印加するという 「分極処理」 が 行われる。 この振動子エレメント 17を "圧縮" すると、 電極 Aに対し電極 B には "正電圧" が発生する。 (逆に "伸長" すると "負電圧" が発生する。) 次 に電極 Aに対し B電極に "負電圧" を印加すると "圧縮"が起こる。 (逆に "正 電圧" を印加すると "伸張"する。) 以上のことは圧電効果 ·圧電逆効果とし て知られている。 今、 振動子エレメント 17 が圧縮される音圧がかかっている とする。 振動子エレメント 17の表面上で "正味の音圧" を 0にするには、 さ
らに振動子エレメント 17 が圧縮する方向に "負電圧" を印加すればよいこと が分かる。 最初の圧縮によって振動子エレメント 17 には "正電圧" が生じ、 後から印加する "負電圧" とは符号が逆なので打ち消し合うことになる。 伸張 する場合も同様に打ち消し合うことになる。結局、振動子エレメント 17の "正 味の電圧" が常時 0になるように制御されている状態では、 振動子エレメント 17 に "正味の音圧" がかかっていないことを意味する。 即ち 「ソフト境界面」 の境界条件を実現できることが分かる。
この反射型 HIFU装置のトランスデューサ 1を構成するための必要条件は、 同 形状の振動子エレメント 17 を使うということだけである。 しかし実際上はィ メ一ジングのための再構成計算、 HIFU照射に必要な各振動子ェレメント 17の 駆動条件計算などを簡便化する都合上、 平面、 円筒、 または平面を伸び縮みさ せずに滑らかに曲げた曲面上に配置しておくことが望ましい。 概略平面、 概略 円筒、 概略球殻の曲面上に配置しても可能であるが、 上記のような計算が複雑 なる分、 余計な計算資源が必要となって若干不利である。 トランスデューサ 1 が円筒形になっても、 「振動子エレメント 17上での正味の音圧を 0にするフィ ードバック制御」 によって 「ソフト境界面」 という境界条件を実現できる。 こ れによって、 多重反射などによる超音波画像のアーチファタトゃ HIFU照射時 の意図していない位置における焼灼焦点の発生等を防ぐことができる。
この反射型 HIFU装置の変形例として、 第 3の実施例を第 36図に示す。 これは 「乳房専用円筒タイプ反射型 HIFU装置」 とでも呼べるもので、 振動子エレメ ント群 17が円筒状に配置されており、 円筒の内部領域でイメージングと HIFU 照射を行う構造となっている。 円筒内部には音響伝播媒体 6 例えば、 溶 存ガスをできるだけ除去した "脱気水" など が満たされており、 円筒形 トランスデューサ 1の上部にある開口部から乳房 56を挿入する。 イメージン グには、 振動子エレメント群 17 のうち限定された領域の部分 以下 Γク
ラスター」 と呼ぶことにする だけを使う。 狭義の開口合成のァルゴリズ ムに従ってイメージングを行うには、 例えばまず "第 1 クラスター 55" と対 象物の間にイメージングのための焦点を形成するように、 HIFU 照射より超音 波強度は十分小さい "超音波バースト" を送信する。 この送信波バーストは対 象物に到達して反射し、 "反射波バースト" として戻って来る。 これを "第 2 クラスター" 第 1クラスター 55と部分的に重なる領域 で受信し、 その受信波の振幅と初期位相情報を各振動子エレメント 17 から収集する。 こ れらの情報とどの位置での断層像を再構成するかを指定することで、 3 次元的 に画像を撮影することができる。 第 36図のし 、 R及び U、 Dの 2方向に第 1 クラスター 55 の位置を移動させることで、 任意の位置にある対象物を最良の 条件 . (例えば最良の S/N、 分解能など) で撮影することができる。
この HIFU装置の水平断面図を第 37図に示す。 「第 1クラスター 55で送信し、 第 1クラスター 55で受信する」、 「第 1クラスター 55で送信し、 そのクラスタ 一の領域を一部包含する第 2クラスター 111で受信する」 以外に、 反射波バー ストではなく "透過波バースト" を受信することになるが、 「第 1 のクラスタ 一 55 で送信し、 円筒の中心軸をはさんで概略軸対称となる領域を有する第 3 クラスター 112で受信する」 という動作を行うものであってもよい。
この HIFU装置の垂直断面図を第 38図に示す。 この図に示されているように、 トランスデューサ 1 を含み円筒形をしたアプリケ一タ部分 16 の底部から伸展 したチューブ 59があり、 それには "吸引カップ 57" が接続されているものと する。 この吸引カップ 57は、 モニタリングや HIFU照射を邪魔することなく乳 房 56を固定するために使われる。 患者 64は乳房 56の一部にこの吸引力ップ 57 をあてがい、 強制吸引することで吸い付かせる。 次にうつ伏せの状態で、 このトランスデューサ 1 の開口部から乳房 56を挿入する。 その後の吸引カツ プ 57が接続されたチューブ 59の他端には吸引ポンプ 62があり、 それで減圧
にコントロールされ、 さらにこのチューブ 59を固定滑車 60や動滑車 61を使 つて下方に向かって引っ張ることで、 乳房 56を固定する。 このチューブ 59の 牽引力や吸引力は常時センサーによって減圧状態を監視しながら、 吸引や牽引 が行われる機構となっている。 これ以外の固定方法として、 水バッグ 14 を乳 房周辺部から押し付けるというものであっても構わない。 またこの第 38 図に 示されているように、 トランスデューサ 1を大きくせずにイメージングゃ HIFU 照射領域を拡大するためにトランスデューサ 1に 「トランスデューサ移動用ァ クチユエータ」 が付加されていてもよい。 当然ではあるが、 給水口 113から音 響伝播媒体 6が水槽 58に注水され、 使用後は排出口 114から排水される。 振 動エレメント 17はトランスデューサ移動用ァクチユエータ 115で上下動する ことも可能となっている。
この反射型 HIFU装置の別の変形例として第 39図に第 4の実施例を示す。 これ は 「頭部専用円筒タイプ反射型 HIFU装置」 とも呼べるもので、 第 3の実施例 とは、 トランスデューサ 1を患者 64の姿勢に合わせて傾斜可能である点が異 なる。 この場合「円筒形をしたトランスデューサ 1の底部に相当する部分」 (以 下、 フリンジ 65 と呼ぶ) が取り外し可能となっており、 この部分は予め患者 頭部に "刀のツバ" のように取り付けられる。 脳外科手術の視点からは、 脳硬 膜さえ破らなければ頭皮や頭蓋骨を開けること自体はリスクが非常に低レ、こと が知られており、 しかも頭蓋骨は超音波にとって反射体として働くので HIFU 照射を使った焼灼の妨げになることも知られている。 そこで、 例えば頭部の脳 硬膜を破かない状態で全周開頭し、 頭皮はフリンジ 65 に一時的に固定する。 この処置の後、 フリンジ 65は円筒形をしたトランスデューサ 1の水密状態が 保たれるように取り付けられ、 脱気 ·冷却された生理食塩水がこのトランスデ ユーサ 1の内部に満たされる。 この円筒形をしたトランスデューサ 1を含むァ プリケータ部分 16は、 図示していない第 1ロボットアーム 51等によって適切
に傾けられて固定される。 この円筒形をしたトランスデューサ 1 には、 第 38 図と同様な 「円筒の中心軸に沿った上下移動も可能にする機械式移動機構」 が 付加されているものとする。 イメージングゃ HIFU照射は、 第 3の実施例と同 様の方法で行われるものとする。
さらに、 この反射型 HIFU装置の別の変形例として第 40図に第 5の実施例を示 す。 脱気された音響伝播媒体 6 (脱気水、 脱気された生理食塩水など) を満た す容器は円筒形になるが、 第 4の実施例との違いを表現するために中心軸に垂 直な平面で切った横断面が示されている。 この場合振動子エレメント群 17 の 個数を節約するために、 トランスデューサ 1は円筒形ではなく 「平面に近い形 状のもの」 が使われる。 このトランスデューサ 1は第 1 ロボットアーム 51等 で中心軸の周りに移動できるだけでなく、 中心軸に対して傾けることも可能で あるとする。 この HIFU装置を使えば、 第 4の実施例の全周開頭した後に焼灼 する以外に、 もちろん脳硬膜を破かない状態で第 40図に示すように患部 3に 近い位置に HIFU導入のために "第 1 の窓 116" を頭蓋骨に開け、 強力超音波 が焼灼焦点 15 を通過後に頭蓋骨で反射せずに抜けていくための "第 2 の窓 117" も同時に頭蓋骨に開けた後、 モニタリングのための撮影及ぴ HIFU照射を 行うという "局所開頭による焼灼" も実施可能である。 この第 2の窓 117がな い状態で HIFU 照射を行うと、 頭蓋骨はほぼ閉曲面となっているため超音波反 射が発生し、 予期しない場所な焼灼焦点が形成されて脳 63 に障害が発生する 可能性が高レ、。これらの事故を防ぐ意味からもこの第 2の窓 117は必要となる。 第 2の窓から出た超音波が円筒形の水槽 58の壁面で反射されるのを防ぐため、 必ず第 2の窓 117を覆い尽くすように 「強力超音波吸収部材 118」 が配置され る。 この部材自体もトランスデューサ 1 と同様に第 2ロボットアーム 66で移 動可能であるとする。 この強力超音波吸収部材には、 超音波エネルギーを吸収 して熱ェネルギーに変え、且つその熱を脱気生理食塩水などに移動させ易い「放
熱シート」 (半導体とヒートシンクとの間に使うシートで、 熱伝導率が非常に 高くゴムのような柔軟性を併せ持つ) のような材料を使うのが望ましい。
頭蓋骨を全周開頭しない場合は、 第 4の実施例を使っても可能である。 この場 合は、 フェーズドアレイ振動子群が 「ソフト境界面」 を形成してくれるので、 第 5の実施例のような強力超音波吸収部材を必要としない。
次に 「透過型 HIFU 装置」 とでも呼べる実施例について説明する。 文献 1 : Clinical imaging with transmissive ultrasonic computerized tomography ( J. F. Greenleaf , R. C. Bahn, IEEE Trans. Biomed. Eng. , 28 (2) , 177 (1981"、 文献 2: "Quasi 3D- Qualitative Computerized Tomography for Reconstructing Sound Velocity slices of Weakly Scattering Object " Akira Yamada , Jpn. J. Appl. Phys. Vol 35 (1996) Pt. 1 , No. 5B , pp. 3135— 3138 )、 文献 3 : 「超音波回折トモグラフィ」 (山田晃、 超音波 TECHNO 1997. 6 、 pp. 6 一 11 )、文献 4:「超音波 CT」 (超音波便覧、丸善株式会社(1999)、 pp. 453-456 )、 文献 5:「超音波ホログラフィ」 (永井啓之亮、 日刊工業新聞社、 1987年) によ れば J. F. Greenleaf に始まる "超音波 CT" は再構成アルゴリズムが改良され て 現時点ではシミュレーシヨンによる確認が終わったレベルであるが一 一一、 十分に実用に耐える精度で音速分布、 減衰率分布を断層像として撮影で きる段階に達している。 山田らが文献 3、 4 で提唱している 「超音波回折トモ グラフィの再構成アルゴリズム」 によれば、 対象物の密度 pはほぼ一定と仮定 し、 位置ベク トルを ϊ、 その位置での減衰率を α (? )、 音速を C (?)、 各周波数 を ω =2 π f ( f は超音波の振動数)、 その位置での波数を k (?)とおく。 さら に基準となる無減衰の音響伝播媒体 6 (「脱気水」 はこれに近い) の音速を C0、 そのときの波数を k。とおく。 このとき波数と音速、 減衰率、 角周波数との間 には式 (38) 、 式 (39) の関係式が成り立つ。 kf =― j - a(f) (38)
C(f)
ω
k0 = (39)
このアルゴリズムで得られる画像は、 式 (43) で表される 「物体関数」 0 (?) の分布を映像化したもので、 各点での画素値は複素数の値を取る。 いま任意の 複素数を ζとするとき、 その実部を Re { z }、 虚部を Im { z }で表すものとす る。 式 (41) を変形して、 α (?)は式 (44) から、 C (i)は式 (45) から求める ことができる。 即ち純粋な減衰率分布と音速分布を物体関数画像から導くこと ができることが分かる。
(42)
C(?)≡ C
(45)
Im 上記アルゴリズムを適用するにあたって、 イメージングのための送信用トラン スデューサ 67からは "平面進行波" を対象物 この場合は患部 3 を含む 生体組織 に照射し、 対象物を通過した透過波は対象物をはさんで平行に 対向配置されている受信用トランスデューサ 68 で受信される。 送信用トラン スデューサ 67と受信用トランスデューサ 68は対向位置関係を保ったまま、 ァ プリケータ部分 16 の中心軸の周りに順次回転させつつ、 送受信を繰り返して 1 周分のデータを収集する。 或る断面においてのみ音圧分布が均一な平面波を 発生させることは比較的容易であるが、 その波面 37 の伝播方向に直角な任意 の平面上で音圧分布を均一にするには、 送信用トランスデューサ 67 が平面状 に構成されることが不可欠である。 さらに、 この再構成アルゴリズムでは "リ トフ近似" のよる誤差を少なくするため、 受信データに "後方伝搬処理" を施 す必要があるので、 受信用トランスデューサ 68 も平面状に構成されている方 が望ましい。
しかしながら、 超音波回折トモグラフィとしてこれまでに公開されている内容 は撮像用装置とその再構成アルゴリズムに関する情報だけで、 これを焼灼用等 にも転用するというアイデアは全く開示されていなかった。 そこでフェーズド アレイ振動子にイメージングのための送受信機能と、 HIFU 照射機能の両方を 持たせた第 43図のような装置構成 送信用トランスデューサ 67も受信用 トランスデューサ 68 も "平面状フェーズドアレイ振動子" であって、 互いに 平行に対向したまま回転軸 69 の周りに回転しながら送受信を繰り返して撮影
すると同時に HIFU照射によって焼灼も行える装置構成 の 「透過型 HIFU 装置」 を考える。 全体のブロック図は対象物の違いこそあれ、 第 42 図と同じ である。 この装置によれば透過波によるイメージングだけでなく、 「反射型 HIFU装置」 のように反射波によるイメージングも勿論可能である。
これの変形例として、 第 6の実施例である 「頭部専用透過型 HIFU装置」 を第 44 図に示す。 透過波による "超音波回折トモグラフィ" のアルゴリズムを用 いて正確に断層像を撮影 ·再構成する場合、 回転軸 69 の全周にわたって透過 波データを収集する必要がある。 頭蓋骨は超音波の反射体として働くので、 ま ず第 5の実施例と同様に患者頭部にフリンジ 65を取り付け、 イメージングと 焼灼のため脳硬膜を破らない状態で全周にわたって頭蓋骨を一時的に開頭する。 その後、 フリンジ 65は円筒形をしたトランスデューサ 1 に水密状態が保たれ るように取り付けられ、 脱気 ·冷却された精製滅菌水や生理食塩水がこのトラ ンスデューサ 1の内部に満たされる。 トランスデューサ 1を含むアプリケータ 部分 16は、 図示していない第 1 ロボットアーム 51等によって適切に傾けられ て固定される。 このトランスデューサ 1 には、 「円筒の中心軸に沿った上下移 動も可能にする機械式移動機構」 が付加されていてもよい。 上記の再構成方法 により複数枚の 2次元画像データを同時撮影することができるので、 3次元的 に減衰率分布 α )、音速分布 C (?)を計測することが可能である。反射型 HIFU 装置の使用方法のフローチャートと同様に減衰率分布 α (?)、 音速分布 C (?) 及び操作者による焼灼焦点 15 の位置と超音波強度の設定情報から、 各振動子 エレメント 17 の駆動条件を、 2 階非線形微分方程式を数値的に解くことで求 め、 それを利用して焼灼を行うことができる。
別の変形例として、 第 7の実施例である 「乳房専用透過型 HIFU装置」 の斜視 図を第 45図に示す。 第 36図の乳房専用用反射型 HIFU装置との相違点は、 平 面状フェーズドアレイ振動子である 「送信用トランスデューサ 67J と 「受信
用トランスデューサ 68J を対向させ これらのトランスデューサ 1 は送 受信兼用にしておけば、 同じ物で構わない 、 この対向位置関係を保った まま機械的に回転させながら透過波を検出することで 3次元的に断層像を撮影 でき、その情報に基づいて最も精密にドライバ一群の駆動条件を計算して HIFU 照射できるという点にある。
さらに別の変形例として、 第 8の実施例である 「体部用透過型 HIFU装置」 を 第 46図に示す。 アプリケータ部分 16の基本構造は第 44図、 第 45図と同じで あり、腹腔や骨盤腔内の患部 3を HIFU照射によって焼灼するのに用いられる。 呼吸などによる腹部の体動を抑圧するために、 水バッグ 14等を脱気水で膨ら ませて押さえ込むことが望ましい。 この例では体表面 8 と水バッグ 14 との接 触面積が大きくなるので、 音響的接触状態を常時良好に保っために "バスタブ 119 (浴槽) " に患者 64とアプリケータ部分 16の両方を浸す方法を採った場合 を示す。
透過型 HIFU装置の操作手順を第 47図のフローチャートを用いて説明する。 以 下に各ステップの詳細を記す。 ステップ 1D:「頭部用透過型 HIFU装置」 の場合、 患者の脳硬膜を破かな い状態で全周にわたって頭蓋骨を開頭し、 頭部をアプリケータ部分にセットす る。 「乳房用透過型 HIFU装置」 の場合、 乳房固定用吸引カップを乳房先端部分 に吸い付かせ、 そのまま患者の乳房をうつ伏せ状態でアプリケ一た部分にセッ トする。 その後、 吸引カップに接続されているチューブを牽引して固定する。 また脱気水を充填した水バッグを使って体部を固定する。
ステップ 2D:「超音波回折トモグラフィ」 の再構成アルゴリズムを使い、 第 1のトランスデューサから 「平面進行波」 を発生させ、 第 2のトランスデュ —サで対象物を通過した 「透過波」 を受信して、 トランスデューサの回転軸と
垂直な断層像を複数枚同時に撮影する。
ステップ 3D :同一断面の 「減衰率分布画像」 と 「音速分布画像」 とが同 時に撮影できるので、 正常組織と患部とのコントラストが大きくなるように、 この 2種類の画像を重み付け加算した合成画像を作る。 この合成画像を利用し て、 患部を含む断層スライス (画像) を選択する。
ステップ 4D:断層スライス毎に、 患部にその周辺部 (マージン) を加え て閉曲線 R0Iで囲む。
ステップ 5D:焼灼焦点を格子点と見なして、 ステップ 4D の閉曲線 R0I を埋め尽くすことで、 焦点位置を決める。 同時にその焦点での超音波強度も設 定する。
ステップ 6D: ステップ 5Dで設定した焼灼位置情報、 ステップ 3Dの減衰 率分布データ、 音速分布データ、 各振動子エレメントの位置情報から、 焦点と 各振動子エレメントとを結ぶ線分上での減衰率を補間して求める。 式 (47) か ら波数を求め、 この線分上で式 (25) の方程式を数値的に解いて駆動アンプ条 件を導く。
ステップ 7D:焦点と各振動子エレメントを結ぶ線分上で求めた音圧に式 (48) を適用して、 発熱エネルギー分布を求める。 補間することで 「発熱等高 面」 を求める。
ステップ 8D:焼灼による温度上昇の上限温度 Tsを設定する。
ステップ 9D: HIFU照射開始。 温度上昇による音速の增加は、 「狭義の開口 合成」 のアルゴリズムによる画像では画素値の位相変化に反映される。 しかも 「超音波回折トモグラフィ」 のアルゴリズムと異なり、 リアルタイムにモニタ リングできる。 これを利用してモニタリング画面から温度を測定。 上限温度 Ts に達した時点で HIFU照射をストップ。
ステップ 10D: 「超音波回折トモグラフィ」 のアルゴリズムで求めた音速
分布画像から、 より正確に温度上昇分布を調べる。
ステップ 11D:ステップ 10Dで同時に求められる減衰率分布画像から、 患 部組織のタンパク質変性を確認する。
ステップ 12D:焼灼完了したかどう力判断。
ステップ 13D:追加焼灼部位の位置と強度を設定する。
ステップ 1Dで患者 64をアプリケータ部分 16にセットする。 ステップ 2Dにお いて、 送信用トランスデューサ 67 (送信用フェーズドアレイ振動子) から超 音波の平面進行波を発生させ、 患部 3を含む対象物に放射する。 その透過波を "ソフト境界面" として動作している受信用トランスデューサ 68 (受信用フ エーズドアレイ振動子) で受信し、超音波 CTの再構成アルゴリズム 「回 折フーリエ切断面定理」 とも呼ばれるもので、 X線 CT の再構成アルゴリズム に用いられる 「投影フーリエ切断面定理」 を拡張したもの で 3次元的に 減衰率分布 α (ϊ )と速度分布 C )を求める。 ステップ 3Dで減衰率分布画像 α (?)、 音速分布画像 C (?)、 それらに式 (46) で表される重み付け加算を施し た画像、又は狭義の開口合成のアルゴリズムで撮影した反射波画像などのうち、 患部 3と正常組織とのコントラストが一番際立つ画像をモニタリング用に表示 する。 - a(r) + (l- - C(r) (46) (但し 0≤<"≤1であり、 ま実数)
ステップ 4Dにおいて患部 3を含む領域を複数のスライス (多層) に分割し、 スライス毎にモニター 30上に表示する。 取り残しミスを防ぐ目的もあって、 外科手術では患部 3だけを摘出するのではなく若干の正常組織のマージンも含
めて摘出するのが普通である。 そこで操作者は患部 3を取り囲むように正常組 織のマージンを付け加えた領域を「閉曲線 R0I」 R0Iとは関心領域 region of interest を意味する で囲み、 焼灼部位として指定する。 さらにこ の部分を焼灼するときの超音波強度も併せて指定する。
ステップ 5Dでは、 上記 R0Iが 「1個の焼灼焦点を指定したときに焼灼できる 領域」 を複数個配置することで隙間無く埋め尽くされるように、 この HIFU装 置の焼灼計画コントローラが焼灼焦点位置を自動設定する。 この計算結果と各 振動子エレメント 17の位置情報、 超音波放射指向性の情報から、 ステップ 6D で各振動子エレメント 17の駆動条件を計算する。 反射型 HIFU装置において、 駆動条件を計算する際には音速分布 C (i) =C。 (一定) と仮定したが、 透過型 HIFU装置では音速分布 C (i)も同時に求めることができるので、 そのときの波 数 k (?)を式 (47) の ί¾ϊ)と置き換えて、 前出の 2階非線形微分方程式を数値 的に解く。 ω
k(r) = -^- + j - a(r) (47)
cm 正確には、 これによつて振動子エレメント 17 における音圧が計算され、 超音 波放射指向性を加味して駆動条件 (駆動電圧振幅、 初期位相、 角周波数) が求 められる。 第 48図には、 振動子エレメント 17と駆動アンプ 4が発生する音場 と、 第 2振動子ェレメント 70と第 2駆動アンプ 71が発生する音場が重なる様 子を模式的に示す。
ステップ 7Dにおいて、 焼灼焦点 15と各振動子エレメント 17を結ぶ線分上で の音圧は式 (47) の波数を代入した式 (25) の方程式を数値的に解き、 焦点通 過後の半直線上での音圧は式 (38) の波数を代入した式 (25) の方程式を数値
的に解いて求める。 以上の計算結果から式 (48) を使ってその線分上で発熱分 布エネルギー分布を求めることができ、その値を補間することで "発熱等高面" まで予測し焼灼計画に利用することもできる。
"(?) .|Ρ(Ϊ)|2
(48)
- C(r)
ステップ 10Dにおいて、 音速分布 C (i)を 3次元的に求めることができること から、 HIFU照射直前と HIFU照射直後の音速変化と、 「初期音速の如何にかか わらず生体軟部組織の音速変化が、 水の音速変化にほぼ比例する」 という仮定 と「温度に対する音速の関係を示す経験式」 例えば Greenspan— Tschi egg による温度に対する音速の実験式が知られている HIFU照射直前の平熱
(36. 5°C) における初期音速に基づき、 音速増分から温度増分を逆算すること ができ、 HIFU照射後の温度上昇を精度良くモニタリングすることができる。 さらにステップ 11Dにおいて、 HIFU照射前の減衰率に対する HIFU照射後の減 衰率の変化比率から焼灼による "たんぱく質変性" の程度を推定し、 焼灼完了 かどうかを判断する。
1回目の焼灼で焼き残しが発生した場合には、 ステップ 13Dで追加焼灼部位を 設定し、 ステップ 2Dに戻って焼灼を進めることなる。
以上で 8種類の実施例を説明したのであるが、 これらに共通する技術としてフ ユーズドアレイ用振動子エレメント 17 に関する発明を説明する。 一般的に最 も単純な構造のフェーズドアレイ用振動子エレメント 17は平板形をしている。 その例として 「半径 aの円形平板振動子」 を考える。 振動子エレメント 17が おかれている音響伝播媒体 6 の密度を p、 音速 C (一定と仮定)、 このときの 波数を k、 加速度の実行値を Ae 、 円形振動子エレメントの半径を a 、 円形振
動子エレメントの円板中心から距離 r 、 天項角 0 、 各振動数 ω 、 観測時刻 を tとすると、 音圧 Pは 1次の第 1種ベッセル関数を用いて式 (49) と表され ることが知られている。
yo- a^ 2J,(k - a - sm6') ,
Ρ = ^ —α ~ · Ae - exp{j( k - r)} (49)
r k a smy この式から 0 =0 で音圧が最大になり、 角度 Θが大きくなると急激に音圧が下 がることが分かる。 また半径 a が波長え
Zk のオーダーまで小さくなつ ても "無指向性" (0に依存しない音圧が放射される状態) にならないことも 分かる。 Huygens の原理に従って音場再現するには、 各振動子エレメント 17 が点音源 (無指向性) に近い方が望ましい。 さらに、 HIFU 照射時に振動子ェ レメント 17 が熱的破壊などを起こさないためには、 或る程度以上のサイズを 持つことが必要となる。
そこで、 これらの条件を満たす第 1 の手段として第 52図のように、 音響イン ピーダンスが超音波伝播媒体 6のそれより大きく且つ減衰の少ない材料で作つ た 「概略凸レンズ状の音響レンズ 120J を、 各振動子エレメント 17 の超音波 放射面に接着するという方法がある。 振動子エレメント 17 から放射された超 音波は、 この音響レンズによって広がるように屈折し、 点音源の無指向性音場 に近づくことになる。
第 2の手段として、 振動子の厚みと振動周波数との関係から、 ある程度以上の 大きさになるという制約はあるが、 第 53 図のような 「概略凸型球形振動子ェ レメント」 を使う方法もある。 これによれば、 あたかも球の中心点 72 に点音 源があるかのような音場を発生することができ、 無指向性に近づけることがで きる。上記の音響レンズを使う実施例とこの概略凸型球形振動子の実施例では、
概略水平方向にも HIFU照射をしてしまうので、 どうしても隣接する振動子ェ レメント間に "干渉" 超音波伝播によって駆動アンプ 4の出力に影響を 及ぼす を発生するという欠点が生じる。 これは、 駆動アンプ 4に "ロバ スト制御" (制御の一種。 出力に外乱が混入しても、 安定して設定目標どおり の出力が出るようにする制御方法) を組み込むことで解決することができる。 また第 3の手段として、 第 54図のような 「概略凹型球形振動子エレメント」 を使う方法もある。 この場合は上記 2例のように水平方向の干渉が発生しにく い。 振動子エレメント 17から放射された超音波は、 一旦この球形の中心点 72 を通過した後、 あたかもそこに点音源あるかのような音場を発生する。 超音波 エコーを受信するという観点からは、 どうしても理想的な無指向性に近づけに くいという欠点があるが、 超音波放射の観点からは口バスト制御などを特に必 要としないという利点がある。
産業上の利用可能性
以下に本発明のタイプ別にその産業上の利用可能性について述べる。 「ス イッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 では、 焼灼焦点 15の深さ (フ エーズドアレイ振動子から焦点 15 までの距離) 方向への移動、 横方向へ移動 をスィッチ群の切り換えだけで行え、 そのためアプリケ一タ部分 16 と患者体 表面 8 との音響的接触を一度確保したらその状態のままで複数の焦点 15を焼 灼できるので、 焼灼時間を大幅に短縮できるメリットがある。 さらに駆動アン プ群 4の数は、 振動子エレメント 17の総数ではなく、 位相の分割数にだけ依 存するので実用上その数を格段に減らすことができ、 しいては小型化を可能に するので、 焼灼治療装置、 止血装置、 遺伝子導入装置などを可搬型装置として 利用可能である。 また対象物の減衰率 平均減衰率を求め、 生体内部はそ
の一定の値で代表させる は実測値を使うので、先験値を使うよりは HIFU 照射の精度を高めることができ、 個体差による焼灼結果のばらつきを抑えるこ とができるメリットもある。
「反射型 HIFU装置」 では 「2周波数の画像による減衰率分布測定」 により減 衰率分布を実測し、 その不均一性を考慮して各振動子エレメント 17 の駆動条 件を設定するので、 「スィッチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置」 より高 精度な焼灼が可能となる。 干渉によって打ち消し合わない位置に置くことだけ に気を付けて配置すれば、 "重ね合せの原理" により、 1回の HIFU照射で複数 の焼灼焦点 15 を同時に焼灼することができる。 即ち焼灼時間を大幅に短縮す ることができる。 狭義の開口合成アルゴリズムで撮影した画像において、 各画 素における位相変化は温度上昇による音速の変化に対応することから、 一過性 の加熱状態もモニタリングできることになる。 さらにタンパク質変性も減衰率 分布の変化に対応させることができて、 焼灼程度を確認することができる。 さ らにイメージングのための送受信と HIFU照射には同一の振動子エレメント群 17 を使うので、 HIFU照射時の反射波によるエレメントの破損は発生しない。 そのためスィツチ切り換え型ァニユラ一アレイ HIFU装置に超音波診断装置 29 のィメージング用プローブ 2を組み合わせたときのように、 プローブ 2の開口 部を遮蔽するシャッターを付加する必要が無くなるというメリットがある。 各 振動子エレメント 17に対して HIFU照射用に使用するかしないかを個別に設定 することが出来、 肋骨などへの照射を避けながら体外から肝臓へだけ HIFU 照 射することも可能である。 脳、 肝臓、 乳房、 子宮を含む骨盤腔の臓器の焼灼治 療装置として利用可能である。 勿論、 減衰率分布と振動子エレメント群 17 の 駆動条件から HIFU照射前に発熱パターンを予測しながら焼灼計画を立てたり、 音速分布から HIFU照射直後の温度上昇分布をモニタリングすることで、 不測 の原因による過剰加熱などを最小限に食い止めたりすることも可能である。
「透過型 HIFU 装置」 では、 超音波回折トモグラフィの再構成アルゴリズムに よって 3次元的に減衰率分布と音速分布の両方を同時測定できるので、 上記 2 種類の HIFU装置より正確に振動子ェレメント群 17の駆動条件を設定すること ができ、 より正確な焼灼が可能な焼灼装置として利用可能である。 原理的には 空間分解能が超音波波長の 2 倍という高分解能で、 且つ超音波パルス法 で問題であったスペックル ·ノイズがない超音波透過画像をモニタリングに使 えるというメリツトもある。 さらに HIFU 照射用のフェーズドアレイ振動子は 或る固定された回転軸 69の周りに回転可能なので、 最も HIFU照射に有利な位 置まで回転および固定して焼灼することができるメリットもある。 全周にわた つて頭蓋骨を一時的外すこと 脳硬膜は開けない状態で により脳手 術に適用したり、 乳房 56 に適用したりすることが可能であるというメリット ¾ある。