JPWO2020059708A1 - Casタンパク質の活性調節法 - Google Patents

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Abstract

AcrIIA4とCdt1との融合タンパク質を、Casタンパク質とともに細胞内で発現させることにより、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を細胞周期依存的に調節することができることを見出した。

Description

本発明は、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を細胞周期依存的に調節する方法、および当該方法に用いるためのキットに関する。
部位特異的ヌクレアーゼ(SSN)は、約20bpのDNA配列を認識し、標的配列を選択的に切断する。しかしながら、部位特異的ヌクレアーゼは、非標的DNA配列を切断して、突然変異(オフターゲット変異)を導入し得る。オフターゲット変異は、標的配列に類似した非標的配列でしばしば起こり、予期しない副作用または表現型変化をもたらしかねない。したがって、特に臨床応用のためにゲノム編集ツールを使用する際には、オフターゲット効果に慎重に対処する必要がある。
オフターゲット変異は、細胞内に部位特異的ヌクレアーゼがより高い濃度と長い持続時間で存在すること、および、部位特異的ヌクレアーゼの親和性がより高いことが原因で起こり得る。どちらの事象も部位特異的ヌクレアーゼがオフターゲット部位に結合する可能性を高め得るものである。同様に、オフターゲット部位での予期しない二重鎖切断(DSB)後の修復の精度にも影響がある。
これまで、多くの研究により、CRISPR−Cas9および他のゲノムの編集プラットフォームのオフターゲット効果を減少させるための方法の開発がなされてきている。例えば、部位特異的ヌクレアーゼを直接送達することにより、オンターゲット編集効率を阻害することなく、オフターゲット効果を減らすことができることが報告されている(非特許文献1)。また、他のアプローチにおいては、活性誘導可能ドメインによりヌクレアーゼ活性が制御されることが報告されている(非特許文献2)。これらの手法は、Cas9の発現のためにプラスミドDNAを使用する方法と比較して、活性Cas9の存続時間を短縮し、細胞内のCas9の量を制御することが可能である。
近年、高分子を細胞内に直接送達するためのナノ材料を使用する新規な方法が開発されている。これらの方法は、オフターゲット効果の減少にも役立ち得るものである(非特許文献3)。標的DNAに対する親和性を低下させるために、高忠実度のCas9突然変異体が開発されている(非特許文献4)。短縮型sgRNAの使用もまた、この目的のための効果的なアプローチである(非特許文献5)。これらの方法は、Cas9−sgRNA−標的DNAの三次複合体の安定性を低下させることにより、オフターゲット切断を抑制するものである。ニッカーゼ(非特許文献6)を使用することにより、修復過程における不確実なエラーが減少する可能性がある。他の効果的なアプローチとして、生じ得るオフターゲット部位および非常に特異的なsgRNA配列をバイオインフォマティクス・ツールにより予測することが挙げられる(非特許文献7)。これらの手法の組み合わせは、オフターゲット効果を減らすための強力な手段となる可能性があるが、オフターゲット突然変異を完全に抑制することは困難である。
ところで、相同組換え修復(HDR)は、相同組換えDNA修復経路を含むゲノム編集機構である。相同組換え修復には、切断部位周辺の配列と相同な配列を有する鋳型DNAが必要である。相同組換え修復により標的ゲノム配列を精密に編集することができる。さらに、オフターゲット切断は、相同組換えを介して精密に修復可能である。従って、精密なゲノム編集にとって、相同組換え修復を介するDNA修復の割合の増加が重要である。
相同組換えは、S期とG2期において生じる。別の経路である非相同末端結合(NHEJ)は細胞周期のすべての期間において作動する(非特許文献8)。非相同末端結合に対する相同組換えの割合は、S期中期においてピークに達する(非特許文献9)。相同組換え修復を用いたゲノム編集の効率は、非相同末端結合経路の化学的または遺伝的な破壊による影響を受ける(非特許文献10)。相同組換え修復の効率は、化学的に同期化した細胞へのSpCas9−sgRNA複合体の送達のタイミングを制御することによっても高めることができる(非特許文献11)。非相同末端結合経路の遮断や細胞の同期化をするために化学物質を使用する場合は、これらの化学物質の細胞に対する細胞毒性を考慮しなければならない。ジェミニン(1/110)タンパク質のN末端と融合され、S期およびG2期に特異的に活性化されうるCas9が報告されている(非特許文献12)。ジェミニン融合Cas9は、化学物質なしでCas9活性を制御できるため、細胞とってより好ましい。しかしながら、相同組換え修復活性は、わずかしか増加しない。これは、おそらく、G1期で劣化したCas9の量を回復するのに時間がかかり、S期でのCas9の活性が減少するためであると思われる。
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本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、細胞内で相同組換え修復の効率を高めるための新たな方法を提供することにある。
近年、CRISPR−Cas9システムの抗CRISPR(Acr)阻害剤が報告されている(非特許文献13)。Acr阻害剤の中でも、AcrIIA4は、Cas9−sgRNA複合体に強く結合するが、Cas9に対する結合親和性はより低い(非特許文献14)。また、AcrIIA4は、哺乳動物細胞におけるCas9活性を効率的に阻害する(非特許文献15)。さらに、AcrIIA4によるCas9活性の阻害はオフターゲット編集を減少させる(非特許文献15)。これらAcrIIA4の特性に着目し、本発明者は、まず、AcrIIA4をCas9活性を制御するスイッチとして採用することを考えた。
ここで、非相同末端結合が細胞周期を通じて作動する一方、相同組換えが細胞周期のG1期においては作動しないという知見に基づき、G1期に特異的にAcrIIA4を機能させてCas9による非相同末端結合を抑制することができれば、相同組換え修復の効率を相対的に高めることができると考えられる。本発明者は、Cdt1と呼ばれるライセンス因子と融合した蛍光タンパク質が、細胞周期のS期、G2期、およびM期においてSCFSkp2E3ユビキチンリガーゼが介在するタンパク質分解により分解されることが報告されていること(非特許文献16)に鑑み、細胞周期依存的にAcrIIA4を分解させる手段として、Cdt1を採用することとした。
本発明者は、この構想に基づき、AcrIIA4をCdt1と融合し、この融合タンパク質をCas9とともに細胞内で発現させ、細胞周期におけるCas9活性の評価を行った。その結果、相同組換えが作動しない細胞周期上の時期においてはCas9活性が抑制される一方、相同組換えが作動する細胞周期上の時期においては、Cas9活性が発揮されることを見出した(図1)。この事実は、Cdt1と融合したAcrIIA4にCas9に対する阻害活性を発揮させることに成功するとともに、ユビキチンリガーゼによる細胞周期依存的なCdt1の分解に伴ってAcrIIA4の機能をも喪失させることに成功したことを意味する。
また、本発明者は、自己切断ペプチドを介して、前記融合タンパク質とCas9とを融合したタンパク質を発現させることにより、相同組換え効率を向上させるとともに、非相同末端結合とオフターゲットを減少させることができることを見出した。さらに、本発明者は、一本鎖ドナーDNAや短縮型ガイドRNAを利用したシステムでは、相同組換えによる標的の精密編集の割合をより高めるとともに、オフターゲットをより減少させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、AcrIIA4とCdt1との融合タンパク質を利用して細胞周期依存的にCas活性を調節する方法、当該方法を利用して細胞周期依存的に細胞内のDNAを編集する方法、およびこれら方法に用いるためのキットに関し、より詳しくは、以下を提供するものである。
[1]細胞内でCasタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を細胞周期依存的に調節する方法であって、
(i)AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質、および
(ii)Casタンパク質
を含む細胞を提供することを含み、
該細胞内で、細胞周期依存的に該融合タンパク質が該Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を抑制する方法。
[2]前記融合タンパク質におけるCdt1タンパク質が、E3ユビキチンリガーゼ介在タンパク質分解を受けるアミノ酸配列を含む部分ペプチドである、[1]に記載の方法。
[3]細胞が、前記融合タンパク質とCasタンパク質が自己切断ペプチドを介して融合されたタンパク質を含む、[1]または[2]に記載の方法。
[4]Casタンパク質がCas9タンパク質である、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5]DNAが編集された細胞を製造する方法であって、
(i)AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質、および
(ii)CRISPR−Casシステム
を含む細胞を提供することを含み、
該細胞内で、細胞周期依存的に該融合タンパク質が該CRISPR−CasシステムにおけるCasタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を抑制し、これにより細胞周期依存的に細胞内のDNAが編集される方法。
[6]前記融合タンパク質におけるCdt1タンパク質が、E3ユビキチンリガーゼ介在タンパク質分解を受けるアミノ酸配列を含む部分ペプチドである、[5]に記載の方法。
[7]細胞が、前記融合タンパク質とCasタンパク質が自己切断ペプチドを介して融合されたタンパク質を含む、[5]または[6]に記載の方法。
[8]細胞が、さらに、ドナーDNAを含む、[5]から[7]のいずれかに記載の方法。
[9]ドナーDNAが一本鎖ドナーDNAである、[8]に記載の方法。
[10]CRISPR−Casシステムを構成するガイドRNAにおいて、標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列が20塩基長未満である、[5]から[9]のいずれかに記載の方法。
[11]Casタンパク質がCas9タンパク質である、[5]から[10]のいずれかに記載の方法。
[12][1]から[11]に記載の方法に用いるためのキットであって、AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質、該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターが導入された細胞を含むキット。
[13]さらに、以下の(i)から(iii)の少なくとも1つを含む、[12]に記載のキット。
(i)Casタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
(ii)ガイドRNA、該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
(iii)ドナーDNA
本発明により、細胞周期依存的にCasタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を調節することが可能となった。特に、本発明によれば、相同組換え修復が作動する細胞周期上の時期において、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を発揮させ、それ以外の時期においては、当該エンドヌクレアーゼ活性を抑制することができる。このため、本発明において、ドナーDNAとともにCRISPR−Casシステムを利用すれば、相同組換え修復による正確なゲノム編集の効率を高めるとともに、非相同末端結合によるオフターゲット効果を抑制することができる。
細胞周期依存的に活性化されるCRISPR−Cas9システムの概念図である。 mKO2−Cdt1の発現レベルの変化を示す写真である。 293A細胞におけるAcrIIA4−Cdt1の発現と局在を確認した結果を示す写真である。 AcrIIA4またはAcrIIA4−Cdt1による量依存的な突然変異誘発の阻害を示す写真である。 CRISPR−CasシステムとAcrIIA4またはAcrIIA4−Cdt1とのモル比が1:5の場合における、AcrIIA4またはAcrIIA4−Cdt1による突然変異誘発の阻害を示す写真である。CRISPR−Casシステムについては、ガイドRNAの有無で検証した。 自己切断2Aペプチドを利用してAcrIIA4−Cdt1とCas9を同時発現させるためのベクターを示す図、および当該ベクターを利用した場合のAcrIIA4−Cdt1とCas9の細胞周期における発現レベルを示すグラフである。 図6に記載のベクターを用いた場合における、AcrIIA4またはAcrIIA4−Cdt1の細胞周期における発現量の変化を示すグラフである。 図6に記載のベクターとドナーDNAを用いて、相同組換え修復(HDR)を介したゲノム編集を試験した結果を示す写真である。 図6に記載のベクターを用いて、非相同末端結合(NHEJ)による標的部位におけるゲノム編集を試験した結果を示す写真である。 図6に記載のベクターを用いて、非相同末端結合(NHEJ)によるオフターゲット部位におけるゲノム編集を試験した結果を示す写真である。 図6に記載のベクターと一本鎖ドナーDNAを用いて、相同組換え修復(HDR)または非相同末端結合(NHEJ)を介した、標的部位またはオフターゲット部位におけるゲノム編集を試験した結果を示す写真である。標的遺伝子として、AAVS1遺伝子を利用した。 標的遺伝子として、EMX1遺伝子を利用して、図11と同様の実験を行った結果を示すグラフである。 標的遺伝子として、VEGFA遺伝子を利用して、図11と同様の実験を行った結果を示すグラフである。 短縮型一本鎖ガイドRNAを用いて、図12と同様の実験を行った結果を示すグラフである。 短縮型一本鎖ガイドRNAを用いて、図13と同様の実験を行った結果を示すグラフである。
−Casタンパク質の活性調節法−
本発明は、細胞内でCasタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を細胞周期依存的に調節する方法を提供する。本発明の方法は、(i)AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質、および(ii)Casタンパク質、を含む細胞を提供することを含み、該細胞内で、細胞周期依存的に該融合タンパク質が該Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を抑制する。
本発明における「AcrIIA4タンパク質」は、抗CRISPR(Acr)阻害剤として知られているタンパク質の一つである。典型的なListeria monocytogenes由来のAcrIIA4タンパク質のアミノ酸配列を配列番号1に、当該タンパク質がコードするDNAの塩基配列を配列番号2に示す。本発明に用いられる「AcrIIA4タンパク質」は、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性の阻害能を有している限り、上記Listeria monocytogenes由来のAcrIIA4タンパク質のホモログ、変異体、あるいは部分ペプチドであってもよい。ホモログとしては、例えば、対象となるAcrIIA4タンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号1)と、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性の阻害能を有するタンパク質が含まれる。塩基配列の同一性は、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときの数値で評価することができる(以下、同様)。また、変異体としては、天然型のAcrIIA4タンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号1)に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、または挿入されたアミノ酸配列からなり、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性の阻害能を有するタンパク質が含まれる。ここで、「複数個」とは、例えば、2〜15個、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜8個(例えば、2〜7個、2〜6個、2〜5個、2〜4個、2〜3個、2個)である。また、AcrIIA4タンパク質による「Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性の阻害」には、完全な阻害および部分的な阻害(例えば、50%以上の阻害、70%以上の阻害、90%以上の阻害)が含まれるが、完全な阻害であることが好ましい。Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性は、本実施例に記載の通り、ガイドRNAと組み合わせて細胞内に導入した場合における、標的部位の切断活性を指標に評価することができる。
本発明における「Cdt1タンパク質」は、高等真核生物における過剰複製を防ぐタンパク質として知られており、その機能は、ユビキチン介在タンパク質分解とジェミニン結合による分解により阻害されることが知られている(Nishitani, H. et al. J Biol Chem 276, 44905−44911 (2001)、Kim, Y. & Kipreos, E.T. Cell Div 2 (2007)、Wohlschlegel, J.A. et al. Science 290, 2309−2312 (2000)、Lee, C. et al. Nature 430, 913−917 (2004))。典型的なヒト由来のCdt1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号3に、当該タンパク質がコードするDNAの塩基配列を配列番号4に示す。本発明に用いられる「Cdt1タンパク質」は、細胞周期依存的に分解される限り、上記のヒト由来のCdt1タンパク質のホモログ、変異体、あるいは部分ペプチドであってもよい。ホモログとしては、例えば、対象となるCdt1タンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号3)と、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、細胞周期依存的に分解されるタンパク質が含まれる。また、変異体としては、天然型のCasタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号3)に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、または挿入されたアミノ酸配列からなり、細胞周期依存的に分解されるタンパク質が含まれる。ここで、「複数個」とは、例えば、2〜80個、好ましくは2〜40個、より好ましくは2〜20個(例えば、2〜10個、2〜5個、2〜3個、2個)である。
本発明において用いるCdt1の部分ペプチドは、E3ユビキチンリガーゼ介在タンパク質分解を受けるアミノ酸配列を含む部分ペプチドであることが好ましい。Cdt1のN末端は、SCFSkp2E3リガーゼおよびCUL4Ddb1(Cullin4、損傷特異的DNA結合タンパク質1)E3リガーゼという2種類のE3ユビキチンリガーゼにより標的とされるユビキチン化ドメインである(Nishitani, H. et al. EMBO J 25, 1126−1136 (2006))。
SCFSkp2E3リガーゼは、S期およびG2期においてリン酸化アミノ酸(Ser31および/またはThr29)を標的としている。そして、サイクリンA依存性キナーゼが、これらのリン酸化反応を触媒しており、この反応においては、Cdt1のサイクリン結合モチーフ(Cyモチーフ)であるArg68−Arg69−Leu70が必要である。従って、本発明に用いられるCdt1の部分ペプチドの一つの態様は、Cdt1タンパク質の全長アミノ酸配列におけるリン酸化アミノ酸(Ser31および/またはThr29)とCyモチーフ(Arg68−Arg69−Leu70)とを含む部分ペプチドである。本態様の部分ペプチドの例としては、本実施例において用いたCdt1タンパク質の全長アミノ酸配列における30〜120位のアミノ酸配列からなる部分ペプチドが挙げられる。本態様の部分ペプチドをAcrIIA4タンパク質と融合して細胞内に導入、または、細胞内で発現させることにより、細胞周期のS期およびG2期においてCasタンパク質を活性化させることができる。
一方、CUL4Ddb1E3リガーゼは、Cdt1のN末端(約1〜10のアミノ酸残基)で増殖細胞核抗原相互作用タンパク質モチーフ(PIPボックス)において高度に保存されている6個のアミノ酸を認識する。CUL4Ddb1E3リガーゼが介在するCdt1のタンパク質分解は、S期またはDNA損傷後にのみ生じる(Havens, C.G. & Walter, J.C. Mol Cell 35, 93−104 (2009)、Ishii, T. et al. J Biol Chem 285, 41993−42000 (2010)、Roukos, V. et al. J Cell Sci 124, 422−434 (2011))。従って、本発明に用いられるCdt1の部分ペプチドの他の一つの態様は、Cdt1のN末端(約1〜10のアミノ酸残基)を含む部分ペプチドである。ここで、CUL4Ddb1E3リガーゼ介在タンパク質分解を適用したFucci(CA)と呼ばれる新しいFucciシステムが報告されている(Sakaue−Sawano, A. et al. Mol Cell 68, 626−640 e625 (2017))。Fucci(CA)は、Cdt1由来のCyモチーフの非存在下でのmKOとアミノ酸残基1〜100との融合タンパク質である。このため、本態様における部分ペプチドにおいては、Cyモチーフは必須ではない。従って、本態様の部分ペプチドの例としては、Cyモチーフを変異させた、Cdt1タンパク質の全長アミノ酸配列における1〜100位のアミノ酸配列からなる部分ペプチドが挙げられる。本態様の部分ペプチドをAcrIIA4タンパク質と融合して細胞内に導入、または、細胞内で発現させることにより、細胞周期のS期においてCasタンパク質を活性化させることができる。
本発明における「AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質」は、AcrIIA4タンパク質をコードするDNAとCdt1タンパク質をコードするDNAとを連結し、適切なベクターに挿入して発現させることにより調製することができる。発現させた融合タンパク質が、上記目的の機能を発揮しうる限り、両タンパク質をコードするDNAの連結の仕方に特に制限はない。また、上記融合タンパク質には、さらに、他の機能性タンパク質が融合されていてもよい。他の機能性タンパク質は、その機能を発揮しうる限り、上記融合タンパク質のN末側とC末側のいずれか一方もしくは両側、または上記両タンパク質の間に、直接的にまたは間接的に融合させることができる。他の機能性タンパク質としては特に制限はなく、融合タンパク質に付与したい機能に応じて適宜選択されるが、例えば、融合タンパク質に付与したい機能が細胞内局在性であれば、核移行シグナル(NLS)などが挙げられ、融合タンパク質に付与したい機能が当該融合タンパク質の検出や精製であれば、緑色蛍光タンパク質(GFP)やFLAG−タグタンパク質などが挙げられる。また、融合タンパク質を構成するタンパク質の間には、リンカーペプチドが介在していてもよい。
本発明に用いる「Casタンパク質」は、AcrIIA4タンパク質によって、そのエンドヌクレアーゼ活性を阻害しうるものであれば、特に制限はない。このような「Casタンパク質」としては、Cas9タンパク質が好ましく、Streptococcus pyogenes由来のCas9(SpCas9)タンパク質が特に好ましい。各種Casタンパク質のアミノ酸配列および塩基配列は、文献やNCBIなどの公開されたデータベースに掲載されている(例えば、WO2013/176772、WO2014/093712、WO2013/142578、WO2014/131833、アクセッション番号:Q99ZW2.1、WP_021736722等)。典型的なSpCas9タンパク質のアミノ酸配列を配列番号5に、当該タンパク質がコードするDNAの塩基配列を配列番号6に示す。
本発明に用いられる「Casタンパク質」は、既知のCasタンパク質のホモログ、変異体、あるいは部分ペプチドであってもよい。ホモログとしては、例えば、対象となるCasタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号5)と、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、エンドヌクレアーゼ活性を有するタンパク質が含まれる。また、変異体としては、天然型のCasタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号3)に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、または挿入されたアミノ酸配列からなり、エンドヌクレアーゼ活性を有するタンパク質が含まれる。ここで、「複数個」とは、例えば、2〜200個、好ましくは2〜100個、より好ましくは2〜50個(例えば、2〜30個、2〜10個、2〜5個、2〜3個、2個)である。変異体の例としては、例えば、特定のアミノ酸残基に変異を導入することによりエンドヌクレアーゼ活性の一部を喪失させたニッカーゼ型Casタンパク質(nCas)や、特定のアミノ酸残基に変異を導入することによりPAMの認識特異性を改変したCasタンパク質(Benjamin,P.ら、Nature 523,481−485(2015)、Hirano,S.ら、Molecular Cell 61, 886−894(2016))が挙げられる。
本発明においては、前記融合タンパク質およびCasタンパク質を含む細胞を提供する。このような細胞の調製においては、前記融合タンパク質およびCasタンパク質を、直接、細胞に導入してもよく、前記融合タンパク質およびCasタンパク質を細胞内で発現させてもよい。また、いずれか一方のタンパク質を、直接、細胞に導入し、他の一方を細胞内で発現させてもよい。
細胞内でタンパク質を発現させる方法としては特に制限はなく、適宜公知の手法を選択して利用することができる。例えば、融合タンパク質の発現ベクターとCasタンパク質の発現ベクターを細胞内に導入してもよく、また、融合タンパク質とCasタンパク質の双方を発現するベクターを細胞内に導入してもよい。
発現ベクターの形態を採用する場合には、発現させるべきDNAに作動的に結合している1つ以上の調節エレメントを含む。ここで、「作動可能に結合している」とは、調節エレメントに上記DNAが発現可能に結合していることを意味する。「調節エレメント」としては、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、および他の発現制御エレメント(例えば、転写終結シグナル、例えば、ポリアデニル化シグナルおよびポリU配列)が挙げられる。発現ベクターは、宿主ゲノムに組み込まれることなく、コードするタンパク質を安定して発現することができるものが好ましい。このような発現ベクターの形態としては、エピソーマルベクターが挙げられる。
また、本発明においては、発現ベクターの形態ではなく、mRNAの形態で細胞に導入して、上記融合タンパク質およびCasタンパク質を発現させてもよい。
本発明においては、融合タンパク質とCasタンパク質の間に自己切断ペプチドを導入することが好ましい。これにより、融合タンパク質とCasタンパク質の発現量を厳密に制御することができる(図6)。自己切断ペプチドとしては、例えば、T2A、P2A、E2A、F2Aなどが挙げられるが、これらに制限されない。
本発明に用いられる「細胞」としては、上記融合タンパク質およびCasタンパク質が機能する細胞であって、上記融合タンパク質におけるCdt1を細胞周期特異的に分解する機構を持つ細胞であれば、その由来に特に制限はない。細胞は、好ましくは、動物細胞、植物細胞、藻細胞、真菌細胞などの真核生物細胞であり、特に好ましくは動物細胞である。
「動物細胞」には、例えば、動物の個体を構成している細胞、動物から摘出された器官・組織を構成する細胞、動物の組織に由来する培養細胞などが含まれる。具体的には、例えば、各段階の胚の胚細胞(例えば、1細胞期胚、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚、桑実期胚など);誘導多能性幹(iPS)細胞、胚性幹(ES)細胞、造血幹細胞などの幹細胞;線維芽細胞、造血細胞、ニューロン、筋細胞、骨細胞、肝細胞、膵臓細胞、脳細胞、腎細胞などの体細胞などが挙げられる。ゲノム編集動物の作成には、受精卵を用いることができる。
動物としては、例えば、哺乳動物の他、魚類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類が挙げられる。「哺乳動物」とは、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を包含する概念である。非ヒト哺乳動物の例としては、ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの偶蹄類、ウマなどの奇蹄類、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、リスなどの齧歯類、ウサギなどのウサギ目、イヌ、ネコ、フェレットなどの食肉類などが挙げられる。上記の非ヒト哺乳動物は、家畜またはコンパニオンアニマル(愛玩動物)であってもよく、野生動物であってもよい。
「植物細胞」としては、例えば、穀物類、油料作物、飼料作物、果物、野菜類の細胞が挙げられる。「植物細胞」には、例えば、植物の個体を構成している細胞、植物から分離した器官や組織を構成する細胞、植物の組織に由来する培養細胞などが含まれる。植物の器官や組織としては、例えば、葉、茎、茎頂(生長点)、根、塊茎、塊根、種子、カルスなどが挙げられる。植物の例としては、イネ、トウモロコシ、バナナ、ピーナツ、ヒマワリ、トマト、アブラナ、タバコ、コムギ、オオムギ、ジャガイモ、ダイズ、ワタ、カーネーションなどが挙げられる。
上記融合タンパク質およびCasタンパク質、並びに、それらを発現させるためのmRNAやベクターの細胞への導入は、例えば、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、DEAE−デキストラン法、リポフェクション法、ナノ粒子媒介性トランスフェクション法、ウイルス媒介性核酸送達法などの公知の方法を適宜選択して行うことができる。
こうして調製された上記融合タンパク質およびCasタンパク質を含む細胞においては、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性が細胞周期依存的に調節される。ここで「細胞周期依存的」とは、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性が細胞周期の時期に依存して変化することを意味する。本発明の好ましい態様においては、Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性は、細胞周期のS/G2/M期において高く、G1期において低い。このような細胞周期依存性は、抗CRISPR阻害剤であるAcrIIA4を含む本発明の融合タンパク質を細胞周期のS/G2/M期に分解させることにより実現することができる。このような融合タンパク質の分解は、本発明の融合タンパク質に含まれる、もう一方のドメインであるCdt1の細胞周期依存的な分解によって誘導することができる。このCdt1の細胞周期依存的な分解は、例えば、内因性のE3ユビキチンリガーゼなどの作用により、引き起こされる。
−ゲノム編集法−
上記本発明の方法において、Casタンパク質をガイドRNAと組合せ、CRISPR−Casシステムとして機能させることにより、CRISPR−Casシステムが標的化する細胞内のDNAを編集することができる。従って、本発明は、DNAが編集された細胞を製造する方法であって、(i)AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質、および(ii)CRISPR−Casシステムを含む細胞を提供することを含み、該細胞内で、当該融合タンパク質が細胞周期依存的に当該CRISPR−CasシステムにおけるCasタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を抑制し、これにより細胞周期依存的に細胞内のDNAが編集される方法を提供する。
ガイドRNAは、Casタンパク質と相互作用する塩基配列(以下、「Cas相互作用塩基配列」と称する)と標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列(以下、「標的化塩基配列」と称する)とを含むRNAである。このためガイドRNAは、Casタンパク質と複合体を形成して、当該複合体を標的DNA領域に誘導し、標的DNA領域に誘導されたCasタンパク質は、そのエンドヌクレアーゼ活性によって標的DNA領域中の標的部位を切断する。この標的部位の切断が、非相同末端結合により修復された場合、主として、ヌクレオチドの挿入や欠失が生じ、フレームシフトなどにより遺伝子のノックアウトを行うことができる。一方、細胞外から、修復鋳型となるドナーDNAを導入した場合には、標的DNA領域とドナーDNAとの間の相同組換えにより、当該領域に遺伝子のノックインを行うことができる。
CRISPR−CasシステムがcrRNAおよびtracrRNAを含む場合(例えば、CRISPR−Cas9システムの場合)には、ガイドRNAは、crRNAおよびtracrRNAを含む一分子ガイドRNAでも、crRNA断片とtracrRNA断片とからなる二分子ガイドRNAであってもよい。
crRNA中の標的化塩基配列は、通常、12〜50塩基、好ましくは、17〜30塩基、より好ましくは17〜25塩基からなる塩基配列であり、PAM(proto−spacer adjacent motif)配列と隣接する領域を標的化するように選択される。本発明においては、ガイドRNAにおいて、短い標的化塩基配列を利用することにより、オフターゲット効果を減少させることができることが見出された(図14、15)。従って、標的化塩基配列の鎖長は、この目的においては、好ましくは、20塩基長未満(例えば、19塩基長、18塩基長、17塩基長)である。
多くのCRISPR−Cas系においては、crRNAは、さらに、tracrRNAと相互作用(ハイブリダイズ)が可能な塩基配列を3’側に含む。一方、tracrRNAは、crRNAの一部の塩基配列と相互作用(ハイブリダイズ)が可能な塩基配列を5’側に含む。これら塩基配列の相互作用により形成された二重鎖RNAは、Casタンパク質と相互作用する。
PAMは、Casタンパク質の種類や由来により異なる。典型的なPAM配列は、例えば、S.pyogenes由来のCas9タンパク質(II型)では、「5′−NGG」であり、S.solfataricus由来のCas9タンパク質(I−A1型)では、「5′−CCN」であり、S.solfataricus由来のCas9タンパク質(I−A2型)では、「5′−TCN」であり、H.walsbyl由来のCas9タンパク質(I−B型)では、「5′−TTC」であり、E.coli由来のCas9タンパク質(I−E型)では、「5′−AWG」であり、E.coli由来のCas9タンパク質(I−F型)では、「5′−CC」であり、P.aeruginosa由来のCas9タンパク質(I−F型)では、「5′−CC」であり、S.Thermophilus由来のCas9タンパク質(II−A型)では、「5′−NNAGAA」であり、S.agalactiae由来のCas9タンパク質(II−A型)では、「5′−NGG」であり、S.aureus由来のCas9タンパク質では、「5′−NGRRT」または「5′−NGRRN」であり、N.meningitidis由来のCas9タンパク質では、「5′−NNNNGATT」であり、T.denticola由来のCas9タンパク質では、「5′−NAAAAC」である。
なお、上記の通り、Casタンパク質を改変すること(例えば、変異の導入)により、PAM認識を改変することも可能である(Benjamin,P.ら、Nature 523,481−485(2015)、Hirano,S.ら、Molecular Cell 61, 886−894(2016))。これにより、CRISPR−Casシステムの標的化DNA領域の選択肢を拡大することができる。
本発明においては、異なる標的DNA領域を標的化する複数のガイドRNAを利用することにより、異なる標的DNA領域のDNAを同時に編集することもできる。
細胞に導入される「CRISPR−Casシステム」は、例えば、ガイドRNAとCasタンパク質の組み合わせの形態であっても、ガイドRNAとCasタンパク質に翻訳されるメッセンジャーRNAとの組み合わせの形態であっても、それらを発現するベクターの形態であってもよい。細胞へのCRISPR−Casシステムの導入法は、上記の融合タンパク質およびCasタンパク質の導入法と同様である。
本発明の方法において、ドナーDNAを用いることにより、CRISPR−Casシステムの標的DNA領域(Casタンパク質による切断部位の周辺領域)で生じる相同組換え修復(HDR)を利用して、標的DNA領域に所望のDNAを挿入することができる。相同組換え修復のプロセスにおいては、標的DNA領域の塩基配列とドナーDNAの塩基配列の相同性を必要とし、ドナーDNAを、Casタンパク質による切断部位を含む標的DNA領域の鋳型修復に用い、ドナーDNAから標的DNA領域への遺伝情報の移動をもたらす。これにより、標的DNA領域の塩基配列を変化(例えば、挿入、欠失、置換など)させることができる。従って、ドナーDNAは、標的DNA領域内の塩基配列と高い同一性を有する2つの塩基配列(相同性アーム)とそれらの間に配置された所望のDNA(標的DNA領域に挿入するためのDNA)を含む。
相同性アームは相同組換えを行うのに十分な程度の大きさがあればよく、また、ドナーDNAの形態や鎖長により変動し得るが、二本鎖ドナーDNAの場合は、例えば、500〜1000塩基対であり、一本鎖ドナーDNAの場合は、例えば、30〜100塩基である。また、相同性アームは相同組換えを行うのに十分な程度に標的DNA領域内の塩基配列と同一性を有していれば、100%の同一性がなくともよい。例えば、95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.9%以上の同一性をそれぞれ有する。
また、相同性アームの間に存在する所望のDNAの長さは特に限定されることなく、様々なサイズのものを利用することができる。所望のDNA中に、事後的に除去したい塩基配列が存在する場合には、当該塩基配列の両端に、例えば、組換え酵素の認識配列(例えば、loxP配列やFRT配列)を付加することもできる。当該認識配列に挟まれた塩基配列は、組換え酵素(例えば、Cre組換え酵素やFLP組換え酵素)を作用させることにより、除去することができる。また、DNAのノックインの成功を確認するため等の目的で、例えば、選択マーカー配列(例えば、蛍光タンパク質や薬剤耐性遺伝子など)を所望のDNA中に組み込むこともできる。また、所望のDNAとして、1つ以上の調節エレメントに作動的に結合させた遺伝子を用いることもできる。
本発明で用いられるドナーDNAは、直鎖状DNAであっても、環状DNAであってもよい。また、一本鎖DNAであっても、二本鎖DNAであってもよい。産生が容易でコストが低い、反応が迅速である、相同組換えの効率が増加する、予想外の組み込みが少ないなどの観点から、一本鎖DNAであることが好ましい。
−キット−
また、本発明は、上記本発明の方法に用いるためのキットであって、AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質、該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターが導入された細胞を含むキットを提供する。
当該キットにおけるAcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質は、例えば、自己切断ペプチドを介してCasタンパク質と融合された形態であってもよい。すなわち、前記融合タンパク質とCasタンパク質は、同一分子として、細胞に導入し、または、発現させることができる。
前記融合タンパク質とCasタンパク質を別分子として利用する場合には、本発明のキットは、(i)Casタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含んでいてもよい。
本発明のキットは、目的に応じて、さらに、(ii)ガイドRNA、該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および(iii)ドナーDNA、の少なくとも1つを含んでもよい。
また、本発明のキットは、一つまたは複数の追加の試薬をさらに含む場合があり、追加の試薬としては、例えば、希釈緩衝液、再構成溶液、洗浄緩衝液、核酸導入試薬、タンパク質導入試薬、対照試薬(例えば、対照のガイドRNA)が挙げられるが、これらに制限されない。当該キットは、本発明の方法を実施するための使用説明書を含んでいてもよい。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
A.材料および方法
(1)プラスミド構築
AcrIIA4とFLAGタグ遺伝子とをコードするプラスミドDNAは、ユーロフィンジェノミクスにより合成されたものである。pFucci−G1オレンジ発現ベクターは医学生物学研究所から購入した。gRNAクローニングベクターおよびhCas9はジョージ・チャーチから譲り受けた(Addgeneプラスミド41824番および41815番)。AcrIIA4フラグメントは、増幅されたDNAをBamHIとBstXIとで消化することにより産生した。このフラグメントをhCdt1(30/120)のN末端のpFucci−G1オレンジ発現ベクターに結合してAcrIIA4−hCdt1(30/120)プラスミドDNAを構築した。AcrIIA4フラグメントをCMVプライマーとAcr−REsite_XbaI_Rvとにより増幅し、BamHIとXbaIとにより消化した。このフラグメントをpFucci−G1オレンジベクターに結合し、これをBamHIとXbaIとで消化してAcrIIA4プラスミドDNAを構築した。NLSを導入するために、プライマーBamHI_NLS−AcrIIA4_FwとプライマーAcr−REsite_XbaI_Rvとを使用した。DNAフラグメントを増幅し、BamHIとXbaIとにより消化し、そして元のベクターに挿入して、これをBamHIとXbaIとにより消化した。AcrIIA4−2A−Cas9またはAcrIIA4−Cdt1−2A−Cas9をコードする新しいプラスミドDNAを、ギブソン・アセンブリを用いて構築した。AcrIIA4、AcrIIA4−Cdt1、および、Cas9フラグメントをPCRにより増幅した。ギブソン・アッセンブリー・マスター・ミックス(NEB)を用いて、NotI処理したpEBMulti−Hyg(富士フィルム)と各フラグメントとをpEBベクターに挿入した。
構築したAcrIIA4−Cdt1ベクターが発現する融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号7に、この融合タンパク質がコードするDNAを配列番号8に示す。また、構築したAcrIIA4−Cdt1−2A−Cas9ベクターが発現する融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号9に、この融合タンパク質がコードするDNAを配列番号10に示す。
(2)細胞培養とトランスフェクション
293A細胞(インビトロジェン)を、10%FBSとペニシリン/ストレプトマイシンとを添加したDMEM中、5%CO雰囲気において37℃で維持した。Cas9、AcrIIA4−2A−Cas9またはAcrIIA4−Cdt1−2A−Cas9をコードするエピソーマルベクターをリポフェクタミン3000により導入後、3〜7日間、350μg/mLのハイグロマイシン溶液(富士フィルム)を用いて細胞を選択した。リポフェクタミン3000(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)をウエスタンブロットおよびプラスミド量の評価に使用した。Neon(登録商標)トランスフェクションシステム10μLキット(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)を用いて内因性相同組換え修復活性を評価した。ウエスタンブロット分析およびタイムラプス観察において、500ngのプラスミドDNAを、リポフェクションによって80〜90%の密集度まで増殖した293A細胞にトランスフェクトした。標的部位での阻害を実証実験するために、修復鋳型プラスミドとsgRNAプラスミド(各250ng)とを、リポフェクションによって80〜90%の密集度まで増殖した293A細胞にトランスフェクトした。ssODNを鋳型として使用する相同組換え修復評価では、50pmolのssODNと250ngのsgRNAプラスミドとを、1,245Vのパルス電圧、10msのパルス幅、および3つのパルスを使用して5×10個の細胞にトランスフェクトした。
(3)mKO−Cdt1(30/120)のタイムラプス観察
293A細胞を24ウェルプレート(グライナーバイオワン)のウェルに細胞4×10個/ウェルの密度で播種し、10%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンを含有する高グルコースDMEM(和光)において、5%COの雰囲気中37℃で24時間培養した。リポフェクタミン3000(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)を用いて、製造業者のプロトコルに従って、pFucci−G1オレンジ発現ベクター(500ng)を293A細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、トランスフェクトされた細胞を10%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンを含有するフェノールレッドフリー高グルコースDMEM(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)を用いて35mmガラス底皿(グライナーバイオワン)に播種した。mLOの発現を、FLUOVIEW FV10i顕微鏡(オリンパス)を用いて25時間にわたって1時間毎に観察した。
(4)免疫細胞化学
293A細胞を24ウェルプレート(グライナーバイオワン)のウェルに細胞4×10個/ウェルの密度で播種し、10%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンを含有する高グルコースDMEM(和光)中で、5%COの雰囲気中37℃で24時間培養した。リポフェクタミン3000(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)を用いて、製造業者のプロトコルに従って、プラスミド(500ng)を細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、増殖培地を新鮮な培地と交換し、細胞をさらに24時間培養した。観察の24時間前に、トランスフェクトされた細胞を35mmガラス底皿に播種した。細胞を、16%ホルムアルデヒド溶液(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した4%ホルムアルデヒド溶液により室温で10分間固定した。細胞を、0.1%トリトンX−100(カルビオケム)により室温で10分間透過処理し、そして、ブロッキングワン(ナカライテスク)を用いて室温で1時間ブロックした。その後、細胞を、抗FRAGタグ抗体(シグマ・アルドリッチ)と室温で1時間反応させ、AlexaFluor594(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)で標識した抗マウスIgG(H+L)Cross−Adsorbed二次抗体と室温で30分間反応させた。細胞核をHoechst33258(同仁化学研究所)により室温で15分間染色した。染色細胞の観察は、前述のFLUOVIEW FV10i顕微鏡を用いて行った。
(5)蛍光活性化細胞選別(FACS)分析
293A細胞を6×ウェルプレートのウェルに細胞1×10個/ウェルの密度で播種した。二重チミジンブロックおよびノコダゾール処理を行った。二重チミジンブロックのために、5μMのチミジンを添加し、18時間培養した。その後、培地を新鮮な培地と交換し、8時間培養し、続いて5μMのチミジンを添加し、16時間培養した。ノコダゾール処理のために、200ng/mLのノコダゾールを添加し、18時間培養した。両方の処理の後、PBSで3回洗浄し、最後の洗浄後に新鮮な培地を添加することによって細胞を薬物から解放した。細胞を3時間毎(0時間、3時間、6時間、9時間、12時間、15時間)に収集し、70%エタノールを用いて氷上で30分間固定した。固定された細胞をPBSで2回洗浄し、RNaseA(10μg/mL)を含むヨウ化プロピジウム溶液(フナコシ)を用いて室温で30分間染色した。染色された細胞を、NovoCyte(ACEAバイオサイエンス)およびNovoExpressソフトウェアによって分析した。
(6)ウエスタンブロット分析
293A細胞を24ウェルプレートのウェルに細胞4×10個/ウェルの密度で播種した。24時間後、細胞を500ngのプラスミドDNAを用いてトランスフェクトした。24時間後、トランスフェクトされた細胞を、350μg/mLのハイグロマイシンBを含有するDMEMを入れた10cmの皿に播種し、細胞を1週間の培養中に選択した。細胞を6ウェルプレートのウェルに細胞1×10個/ウェルの密度で播種し、二重チミジンブロックおよびノコダゾール処理を上記のように行った。これらの処理の後、PBSで3回洗浄した後に培地を新鮮な無薬物培地と交換することにより細胞を薬物から解放した。回復後3時間毎(0時間、3時間、6時間、9時間、12時間、15時間)に細胞を収集した。収集した細胞を、RIPA緩衝液(ナカライテスク)を使用し、氷上で30分間培養することによって溶解した。タンパク質濃度は、市販のタンパク質アッセイ(バイオ・ラッド)とiMarkマイクロプレートリーダー(バイオ・ラッド)とを用いて算出した。標準曲線は、予備希釈タンパク質アッセイ標準(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)を用いて作成した。同量のタンパク質をBolt 4−12% Bis−Tris Plusゲル(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)のウェルに充填し、電気泳動を100Vで1時間行った。iBlotゲル転写デバイス(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)を用いて、製造業者のプロトコルに従い、分解したタンパク質をPVDF膜(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)に転写した。転写膜を、ブロッキングワン溶液(ナカライテスク)により室温で1時間処理した。次に、β−アクチン(和光)に対する一次抗体と、FRAG−tag(和光)と、Cas9(クロンテック)(すべて1:10,000希釈)とを、0.05%Tween20(TBS−T、タカラバイオ)を含むトリス緩衝食塩水を用いて3回すすいだ後、室温で1時間反応させた。その後、抗マウスIgG(和光)に対する西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体と抗ウサギIgG(和光)とを、TBS−Tを使用して3回すすいだ後、室温で1時間反応させた。西洋ワサビペルオキシダーゼを、3回すすいだ後、Clarity Western ECL基質(バイオ・ラッド)と室温で1時間反応させた。発光は、ChemiDocXRS+システム(バイオ・ラッド)を用いて検出した。
(7)T7E1アッセイおよび制限酵素アッセイ
293A細胞を細胞4×10個/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。24時間後、細胞を500ngのプラスミドDNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、トランスフェクトされた細胞を、350μg/mLのハイグロマイシンBを含有するDMEMと共に6ウェルプレートのウェルに播種し、細胞を1週間の培養中に選択した。トランスフェクトされた細胞を24ウェルプレートのウェルに細胞4×10個/ウェルの密度で播種した。細胞を24時間培養し、sgRNAをコードするプラスミドDNAおよび鋳型DNAの2種類でトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、QIAamp DNAミニキット(キアゲン)を用いてゲノムDNAを抽出した。各標的のT7E1プライマーと共にヘラクレスII融合DNAポリメラーゼ(アジレント)を用いて、ゲノムDNA(100ng)を増幅した。数種の遺伝子、即ち、AAVS1標的、EMX1標的と標的外、および血管内皮増殖因子A(VEGFA)標的と標的外に対するPCR条件は、最初の変性では95℃で3分間、事前増幅では98℃で10秒間、72℃〜62℃(1サイクル当たり1度ずつ低下)で20秒間、および72℃の30秒間を10サイクル、増幅では98℃で10秒間、62℃で20秒間、および72℃で30秒間を25サイクル、そして最終的伸長では72℃で3分間とした。生成物は、使用するまで3%ジメチルスルホキシド中に4℃で保存した。他の遺伝子に対するPCR条件は、製造元のマニュアルに従った。QIAquick PCR精製キット(キアゲン)を使用してPCRフラグメントDNAを精製した。フラグメントDNA(200ng)を、2μLの10×NE緩衝液2(NEB)を含有する19μLの溶液中で、95℃で10分間、95℃から25℃までは0.1℃/秒のランプレートで、そして、4℃にアニールした。アニール後のDNAに1μLのT7エンドヌクレアーゼ1を加え、37℃で1時間培養した。反応後のサンプルをQIAquick PCR 精製キット(キアゲン)により精製した。MultiNA(島津製作所)を用いてDNA断片を分析した。インデル効率を以下のように計算した。
100*(1−(1−(a+b)/(a+b+c))^(1/2))
ここで、aおよびbは、切断フラグメントの面積を示し、cは、非切断フラグメントの面積を示す。
制限酵素アッセイにおいて、200ngの増幅されたDNAを、カットスマート緩衝液(NEB)と1×ウシ血清アルブミン(NEB)との中において、0.5μLのXhoIまたはHindIII(NEB)と37℃で1時間(XhoI)または3時間(HindIII)反応させた。反応後のサンプルをエタノール沈殿により精製した。MultiNA(島津製作所)を用いてDNA断片を分析した。インデルのインデル効率を以下のように計算した。
100*((a+b)/(a+b+c))
ここで、aおよびbは切断フラグメントの面積を示し、cは非切断フラグメントの面積を示す。
(8)プライマー・リスト
本実施例で使用したプライマーのリストを以下の表1および2に示す。
Figure 2020059708
Figure 2020059708
B.結果
(1)AcrIIA4−Cdt1の細胞周期依存性発現
mKO蛍光タンパク質と融合したCdt1ドメインの細胞周期依存性発現を、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)を用いて観察した。発現プラスミドであるFucciベクター(Sakaue−Sawano, A. et al. Cell 132, 487−498 (2008))を、293A細胞に一過性トランスフェクトした。mKOの発現をCLSMを用いて観察した。mKO発現のタイムラプス観察により、発現レベルが時間依存的に変化することが示唆された(図2)。
NLSを有するAcrIIA4またはAcrIIA4−Cdt1(30/120)をコードするプラスミドDNAを構築し、293A細胞を一過性トランスフェクトするために使用した。トランスフェクションの48時間後に、細胞核におけるAcrIIA4およびAcrIIA4−Cdt1の局在化がCLSMによって確認された(図3)。
(2)インデルの導入に対するAcrIIA4−Cdt1の効果
Cdt1(30/120)ドメインがAcrIIA4の阻害活性に影響を及ぼすかどうかを実証実験するために、Cas9と、H2B遺伝子を標的とするsgRNAと、AcrIIA4/AcrIIA4−Cdt1との共発現を行った。阻害活性を、T7E1アッセイにおける突然変異分析によって評価した。AcrIIA4/AcrIIA4−Cdt1のCas9に対するモル比が増加したときに、変異誘発率の低下が観察された(図4)。AcrIIA4またはAcrIIA4−Cdt1のCas9に対するモル比が5:1の場合、AcrAIIおよびAcrIIA4−Cdt1によって阻害された突然変異誘発率は、Cas9を単独で発現した場合の8.0%から、それぞれ0.9%および3.7%に減少した(図5)。観察された非相同末端結合による突然変異誘発率の減少により、AcrIIA4−Cdt1の発現がCdt1の細胞周期依存的分解により制限され得ることが示唆された。
(3)精密編集用ドナープラスミドを用いたゲノム編集に対するAcrIIA4‐Cdt1の効果
非相同末端結合による突然変異誘発率はAcrIIA4−Cdt1によって低下し、AcrIIA4単独ではほぼ完全に突然変異誘発を抑制できたことが示された。Cas9とAcrIIA4のDNAの量を制御するために、自己切断ペプチド配列(T2A)によって分離されたAcrIIA4−Cdt1とCas9とをコードするプラスミドDNAを構築した(図6左)。この発現システムを用いて、AcrIIA4−Cdt1およびCas9の量を厳密に調整することができた(図6右)。T2Aの切断後、プロリン残基がCas9のN末端に付加されたが、Cas9の一部はアポ型またはgRNAおよび標的DNAとの複合体で表面に露出していたため、これがCas9の活性に影響を及ぼすことはなかった。プラスミドはエピソーマルベクターに基づくものであるため、コードされたタンパク質を宿主ゲノムに組み込まれることなく安定して発現することができる。
AcrIIA4‐Cdt1融合タンパク質の細胞周期依存性発現をウエスタンブロットにより分析した。AcrIIA4−Cdt1−2A−Cas9をコードするプラスミドの一過性トランスフェクションの後、細胞をハイグロマイシンにより選択した。生き残った細胞を同期化のためにチミジンまたはノコダゾールで処理した。薬物処理からの解放後に得た細胞におけるAcrIIA4およびCas9の発現をウエスタンブロットにより確認した(図7)。Cdt1ドメインと融合したAcrIIA4の発現の低下はS/G2/M期で観察されたが、発現はG1期で増加した。Cdt1ドメインを含まないAcrIIA4の発現レベルは細胞周期に亘って変化しなかった。なお、AcrIIA4−Cdt1とは反対に、同じ遺伝子カセットから発現されたCas9は、発現レベルと細胞周期との相関を示さなかった。
Cas9およびAcrIIA4/AcrIIA4−Cdt1用のエピソームベクターの一過性トランスフェクションの後、細胞を3〜7日間ハイグロマイシンを用いて選択した。生き残った細胞を、リポフェクションによって、AAVS1部位コードプラスミドおよびドナー鋳型DNAを標的とするsgRNAでトランスフェクトした。ドナー鋳型DNAはsgRNA−Cas9に対する2つの認識部位をコードしていたので、プラスミドは細胞内で切断されて二本鎖修復フラグメントを形成したと思われた。修復DNA配列の挿入は、トランスフェクションの72時間後にXhoI消化によって確認された(図8)。sgRNAの非存在下では、修復配列の挿入を示す特異的XhoI消化は観察されなかった。AcrIIA4とCas9を共発現した場合、XhoI消化バンドは観察されなかった。これは、sgRNA−Cas9切断が完全に抑制されたことを意味する。Cas9単独の存在下では、XhoI消化バンドが観察され、精密編集の効率は1.6%であると概算された。AcrIIA4−Cdt1およびCas9の共発現の場合、効率は2.0%に増加した。これらの結果は、Cas9の細胞周期依存的な活性化により、相同組換え修復効率が増加したことを示した。
相同組換え修復と非相同末端結合の効率の割合を評価するために、非相同末端結合を介した標的突然変異誘発をT7E1アッセイで評価した(図9)。標的突然変異誘発率は、Cas9単独およびCas9とAcrIIA4−CdtIとの共発現について、それぞれ1.5%および0.8%であると概算された。AcrIIA4とCas9との共発現により、非相同末端結合による突然変異誘発は完全に抑制された。Cas9単独を使用した場合と比較して、AcrIIA4−Cdt1とCas9との組み合わせについての相同組換え修復効率の増加値および非相同末端結合による突然変異誘発の減少値から、Cas9の細胞周期活性化による精密ゲノム編集が293細胞を使用して達成されたことがわかる。
ゲノム編集の精密度に関して、オフターゲット効果の減少は、特に臨床的使用または動植物の飼育・栽培にとって別の重要な問題である。オフターゲット効果を減らすために、いくつかの方法が開発され報告されている。これらには、sgRNA−Cas9複合体およびsgRNAの短縮シード配列の直接送達が含まれる。このような結果は、細胞内におけるCas9活性の制限の重要性を示すものであった。さらに、標的に類似したオフターゲット部位での切断に加えて、非相同末端結合による不確実な修復プロセスは変異配列の修復つながることから、別の鍵となり得る。非相同末端結合が支配的な細胞周期におけるCas9活性の抑制は、オフターゲット効果を抑制できると我々は仮定した。AAVS1標的部位を使用して、T7E1アッセイにより、オフターゲット効果にも対処した(図10)。オフターゲット候補として、AAVS1標的配列と比較して2塩基変異を有するMYBPC2遺伝子を選択した。この部位では、Cas9単独での発現は8.3%のオフターゲット率を示した。驚くべきことに、T7E1消化によるオフターゲット突然変異を示すバンドは、AcrIIA4−Cdt1とCas9との共発現では観察されなかった。さらに、AcrIIA4とCas9との共発現は、オンターゲットおよびオフターゲットの変異を示さなかった。
(4)ssODNを用いた相同組換え修復による精密ゲノム編集
細胞周期依存的Cas9活性化における、相同組換え修復効率向上のためのssODNの使用について検証した。細胞を、Cas9、AcrIIA4−2A−Cas9、またはAcrIIA4−Cdt1−2A−Cas9をコードするプラスミドを用いてトランスフェクトした。ハイグロマイシンによる選択の後、sgRNAコードプラスミドおよびssODN鋳型DNAのさらなるトランスフェクションをエレクトロポレーションによって行った。2回目のトランスフェクションの72時間後に、非相同末端結合を介したオンターゲットおよびオフターゲット突然変異や相同組換え修復を介した精密編集をHindIIIまたはT7E1消化によって分析した。AAVS1、EMX1、およびVEGFAという3種の遺伝子について3箇所のsgRNA標的部位を調べた。AAVS1については、Cas9単独発現と比較してAcrIIA4−Cdt1をCas9と共に発現した場合、精密編集効率は約1.4倍増加した。これらの結果は、プラスミドDNA鋳型を使用した前述の実験の結果と同様であったが、その効率の値はそれぞれ10.8%と7.8%に増加した(図11)。同様に、非相同末端結合を介した標的配列での突然変異誘発の効率も、Cas9単独、ならびにAcrIIA4−Cdt1およびCas9の共発現について、それぞれ36.6%および27.1%に増加した。AcrIIA4は標的突然変異誘発をほぼ完全に抑制し、0.6%までにした。AcrIIA4−Cdt1およびCas9の共発現は標的突然変異を74%抑制した。Cas9を単独で発現した場合、MYBPC2遺伝子でのオフターゲット突然変異誘発は3.4%であったが、AcrIIA4−Cdt1を使用した場合は、0.6%に効率的に減少した。
EMX1遺伝子またはVEGFA遺伝子を標的とする別のsgRNAを使用して、他の標的部位でも結果が同様となるかどうかを確かめた(図12、13)。その結果、AAVS1遺伝子の場合と同様に、標的の正確な編集は、AcrIIA4−Cdt1をCas9と共に発現した場合、Cas9のみを発現した場合と比較して顕著に増加する一方、オフターゲット部位における突然変異率は顕著に減少した。
(5)短縮型sgRNAと組み合わせることによるオフターゲット効果の減少
オフターゲット突然変異を減少するために、短縮型sgRNAをAcrIIA4−Cdt1に適用した。EMX1遺伝子およびVEGFA遺伝子を標的とする2つの新しい短縮型sgRNAを構築し、オフターゲット突然変異の減少の効果をT7E1アッセイを用いて評価した。EMX1遺伝子およびVEGFA遺伝子のいずれを標的とした場合でも、短縮型sgRNAを使用すると、オフターゲット突然変異が顕著に減少する一方、標的の正確な編集の効率の低下もなかった(図14、15)。
以上説明したように、本発明によれば、細胞周期依存的にCasタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を調節することが可能となる。また、本発明において、ドナーDNAとともにCRISPR−Casシステムを利用すれば、相同組換え修復による正確なゲノム編集の効率を高めるとともに、非相同末端結合によるオフターゲット効果を抑制することができる。本発明は、再生医療などの医療分野、有用形質を有する作物の作成などの農業分野、微生物を利用した有用物質の生産などの工業分野、実験動物の作成などの研究分野を含む、ゲノム編集技術が利用可能な幅広い分野に貢献しうる。
配列番号7:融合タンパク質のアミノ酸配列
配列番号8:融合タンパク質をコードする塩基配列
配列番号9:融合タンパク質のアミノ酸配列
配列番号10:融合タンパク質をコードする塩基配列
配列番号11〜53:プライマー

Claims (13)

  1. 細胞内でCasタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を細胞周期依存的に調節する方法であって、
    (i)AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質、および
    (ii)Casタンパク質
    を含む細胞を提供することを含み、
    該細胞内で、細胞周期依存的に該融合タンパク質が該Casタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を抑制する方法。
  2. 前記融合タンパク質におけるCdt1タンパク質が、E3ユビキチンリガーゼ介在タンパク質分解を受けるアミノ酸配列を含む部分ペプチドである、請求項1に記載の方法。
  3. 細胞が、前記融合タンパク質とCasタンパク質が自己切断ペプチドを介して融合されたタンパク質を含む、請求項1または2に記載の方法。
  4. Casタンパク質がCas9タンパク質である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  5. DNAが編集された細胞を製造する方法であって、
    (i)AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質、および
    (ii)CRISPR−Casシステム
    を含む細胞を提供することを含み、
    該細胞内で、細胞周期依存的に該融合タンパク質が該CRISPR−CasシステムにおけるCasタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を抑制し、これにより細胞周期依存的に細胞内のDNAが編集される方法。
  6. 前記融合タンパク質におけるCdt1タンパク質が、E3ユビキチンリガーゼ介在タンパク質分解を受けるアミノ酸配列を含む部分ペプチドである、請求項5に記載の方法。
  7. 細胞が、前記融合タンパク質とCasタンパク質が自己切断ペプチドを介して融合されたタンパク質を含む、請求項5または6に記載の方法。
  8. 細胞が、さらに、ドナーDNAを含む、請求項5から7のいずれかに記載の方法。
  9. ドナーDNAが一本鎖ドナーDNAである、請求項8に記載の方法。
  10. CRISPR−Casシステムを構成するガイドRNAにおいて、標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列が20塩基長未満である、請求項5から9のいずれかに記載の方法。
  11. Casタンパク質がCas9タンパク質である、請求項5から10のいずれかに記載の方法。
  12. 請求項1から11に記載の方法に用いるためのキットであって、AcrIIA4タンパク質とCdt1タンパク質の融合タンパク質、該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターが導入された細胞を含むキット。
  13. さらに、以下の(i)から(iii)の少なくとも1つを含む、請求項12に記載のキット。
    (i)Casタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
    (ii)ガイドRNA、該ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
    (iii)ドナーDNA
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