JPWO2019097860A1 - 生体情報計測用衣服および伸縮性積層シート - Google Patents

Abstract

【課題】良好な導電性や伸縮性を有し、安定した電気信号を取得しながら、基材に対する接着性を高めて、着脱や洗濯時での応力や変形に対しても、電極の剥離や断線を生じない、生体情報計測用衣服用の伸縮性積層シートを提供する。【解決手段】本発明の伸縮性積層シートは接着性を有する伸縮性絶縁層と伸縮性導体層の少なくとも２層からなり、伸縮性絶縁層と伸縮性導体層との層間の９０度剥離強度が、１．０Ｎ／ｃｍ以上であることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、生体情報計測用衣服に用いられる電気配線ならびに電極などに用いられる伸縮性導体およびその絶縁皮膜に関するものであり、例えば生体の皮膚表面に接触させて生体内部の微弱な電気信号を計測することができる快適性に優れた生体情報計測用衣服であり、その電極および電気配線として有用な伸縮性積層シートに関するものである。

従来、脳波、心電図、筋電図等の生体内部の微弱な生体電気信号を測定するために、導電性を有する柔らかい導電性粘着ゲルなどからなる粘着パッド生体電極（特許文献１）等があり、この様な粘着パッド電極は皮膚に対する貼付性を有しており被験者が安静にした状態において導電性を確保し、生体電気信号中にノイズや信号劣化を取り込まないように用いられてきた。

また、健康管理や疾病予測などに用いるために、日常生活の長時間に渡り、被験者が動作した状態でも連続的に生体電気信号を取得できるように、衣類等に取り付けることができる生体電極があり、皮膚に対する密着性を有するキトサン又はキトサン誘導体を用いたシーリング層生体電極（特許文献２）や電極の表面平滑性を高めることで皮膚への密着性を高めた繊維編地生体電極（特許文献３）、電極全面が皮膚に密着し追随することで安定な信号取得を可能とした、導電性ペーストを乾燥して形成する伸縮性シート状電極（特許文献４）など、粘着ゲル電極に代わる提案がされている。

これらの電極は動作した状態においても安定した電気信号を確保するために皮膚に対する電極の密着性が重視されるが、これらの電極を衣類と一体化しようとした場合には、繰返しの着脱や洗濯において、生体電極が応力や変形を受けて電極の断線や衣類からの剥離が生じる恐れがあり、利便性の面で一般の衣類と同様に扱うには困難であった。

特開平０９−２１５６６８号公報 特開２００２−０３５１４１号公報 特許０６１８５６３８号公報 国際公開ＷＯ２０１６／１１４３３９

このように、日常生活の長期間に渡り電気信号を測定することを目的とした電極を取り付けた衣服に関しては、着用者が日常の様々な姿勢や動作をとっても、ノイズの混入や電気信号の劣化を防ぐために、電極が皮膚に密着し追随することが必要である。また、衣類を着たり脱いだりするときや洗濯をするときに、生体電極も応力や変形を受けるために、電極には十分な物性と衣類への接着性が必要となる。

本発明はかかる従来技術の課題を背景になされたものであり、良好な導電性や伸縮性を有し、安定した電気信号を取得しながら、着脱や洗濯時での応力や変形に対しても、電極の剥離や断線を生じない十分な物性と衣類への接着性を有する、生体情報計測用衣服用の伸縮性積層シートを提供することを目的とした。

すなわち本発明は以下の構成を有する。
［１］電気配線を有する生体情報計測用衣服において、前記生体情報計測用衣服を構成する破断伸度が１０％以上であるフレキシブルな被接着層に対する９０度剥離強度が１．０Ｎ／ｃｍ以上、２５．０Ｎ／ｃｍ以下の範囲である伸縮性絶縁層を有する事を特徴とする生体情報計測用衣服。
［２］前記被接着層が、衣服生地、絶縁下地層、導体層から選択される少なくとも一層であることを特徴とする［１］に記載の生体情報計測用衣服。
［３］生体情報計測用衣服の電気配線または生体接触型電極として用いられる伸縮性導体層と、該伸縮性導体層に対する９０度剥離強度が１．０Ｎ／ｃｍ以上、２５．０Ｎ／ｃｍ以下の範囲である伸縮性絶縁層を少なくとも有する事を特徴とする伸縮性積層シート。
［４］前記伸縮性積層シートの引張弾性率が１０ＭＰａ以上５００ＭＰａ以下で、かつ、伸縮性積層シートの伸長率１０％における伸長時の荷重が３Ｎ以上１００Ｎ以下であることを特徴とする［３］に記載の伸縮性積層シート。
［５］前記伸縮性導体層の未伸長時における皮膜抵抗が３００Ω_□以下であり、かつ、伸長率１０％における皮膜抵抗増加比が１０未満であることを特徴とする［３］または［４］に記載の伸縮性積層シート。
［６］前記接着性を有する伸縮性絶縁層が柔軟性樹脂からなり、前記導体層が導電性微粒子とバインダー樹脂から構成される導電性組成物からなり、柔軟性樹脂のハンセン溶解度パラメータ（δ）値からバインダー樹脂のハンセン溶解度パラメータ（δ）値を引いた値が−５．０〜＋５．０（ＭＰａ）^０．５ であり、かつ、柔軟性樹脂のハンセン溶解度パラメータの水素結合項（δｈ）からバインダー樹脂のハンセン溶解度パラメータの水素結合項（δｈ）を引いた値が−６．０〜＋６．０（ＭＰａ）^０．５ であることを特徴とする［３］から［５］のいずれかに記載の伸縮性積層シート。
［７］前記バインダー樹脂の弾性率が１ＧＰａ以下で、かつ、破断伸度が２００％以上であることを特徴とする［３］から［６］のいずれかに記載の伸縮性積層シート。
［８］塗布または印刷により作製されることを特徴とする［３］から［７］のいずれかに記載の伸縮性積層シートの製造方法。
［９］前記［３］から［８］のいずれかに記載の伸縮性積層シートを電気配線に用いた事を特徴とする［１］または［２］に記載の生体情報計測用衣服。
［１０］伸縮性積層シートと生地との層間の９０度剥離強度が、１．０Ｎ／ｃｍ以上２５．０Ｎ／ｃｍ以下である事を特徴とする［９］に記載の生体情報計測用衣服。

本発明は、電気配線を有する生体情報計測用衣服において、前記生体情報計測用衣服を構成する破断伸度が１０％以上であるフレキシブルな被接着層に対する９０度剥離強度が１．０Ｎ／ｃｍ以上、２５．０Ｎ／ｃｍ以下の範囲である伸縮性絶縁層を有する事を特徴とする生体情報計測用衣服である。この意味するところは前記被接着層が、衣服生地、絶縁下地層、導体層から選択される少なくとも一層であり、すなわち電気配線の絶縁において絶縁層と被着体との間に十分な接着性を与えることにより、着脱時のストレスや洗濯などによるストレスに対して十分に耐えうる絶縁を有する生体情報計測用衣服を実現する事である。
本発明は、あらかじめ導体層と絶縁層が積層された伸縮性積層シートの形態で衣服本体に電気配線ないし電極などを形成する手法で作製された生体情報測定用衣服に適用されることが好ましい。本発明では、衣類内側の一部に取り付けて、生体信号を測定するために皮膚に接触させる伸縮性積層シートは、接着性を有する伸縮性絶縁層と伸縮性導体層の少なくとも２層からなる。接着性を有する伸縮性絶縁層は伸縮性導体層との層間の９０度剥離強度が、１．０Ｎ／ｃｍ以上、２１．０Ｎ／ｃｍ以下の範囲であるために、着脱や洗濯時での応力や変形下において、伸縮性導体層を支持し、伸長時に伸縮性導体層内部の導電性微粒子の連鎖構造が破壊するのを抑えて、繰返し伸縮においても、高い導電性を維持する役目を果たす。

また、伸縮性積層シートの引張弾性率が１０ＭＰａ以上５００ＭＰａ以下で、かつ、伸縮性積層シートの伸長率１０％における伸長時の荷重が３Ｎ以上１００Ｎ以下であるために、着用時に姿勢変化したときに変形する生地に伸縮性積層シートが追随し違和感を損なわず、柔軟で伸縮可能なため衣類に取り付けて使用しても着用感を損なうことがない。

さらに、伸縮性導体層は未伸長時における皮膜抵抗が３００Ω_□以下であり、かつ、伸長率１０％における皮膜抵抗増加比が１０未満であることから、測定に必要な電気信号を得て、着用時に姿勢変化したときに変形する生地に伴って伸縮性導体層が引き伸ばされても安定な電気信号が確保される。

伸縮性導体層の構成は、導電性微粒子とバインダー樹脂からなり、導電性微粒子を用いることで電気信号を確保し、バインダー樹脂で微粒子を固定し伸縮性導体層としての形状を保持する。このとき弾性率が１ＧＰａ以下で、かつ、破断伸度が２００％以上であるバインダー樹脂を用いることで、伸縮性に優れた伸縮性導体層を得て、生地に伸縮性導体層が追随し違和感を損なわず、生地に伴って伸縮性導体層が引き伸ばされても安定な電気信号が確保される。

伸縮性導体層と積層される接着性を有する伸縮性絶縁層は柔軟性樹脂からなるが、伸縮性導体層の表面が平滑であるために柔軟性樹脂の浸透による物理的接着力が得られず、貼り合せ接着には化学的接着力を必要とする。そのため柔軟性樹脂のハンセン溶解度パラメータ（δ）値からバインダー樹脂のハンセン溶解度パラメータ（δ）値を引いた値が−５．０〜＋５．０（ＭＰａ）^０．５ であり、かつ、柔軟性樹脂のハンセン溶解度パラメータの水素結合項（δｈ）からバインダー樹脂のハンセン溶解度パラメータの水素結合項（δｈ）を引いた値が−６．０〜＋６．０（ＭＰａ）^０．５ の範囲内になるようにそれぞれの樹脂を選定することで、層間の９０度剥離強度が、１．０Ｎ／ｃｍ以上を満たすことができる。

また、伸縮性積層シートを複数備える生体情報計測用衣服は、伸縮性積層シートと生地との層間の９０度剥離強度が、１．０Ｎ／ｃｍ以上あるが、柔軟性樹脂と生地を貼り合せて接着するときには、柔軟性樹脂が生地に浸透して物理的接着力が得られるために、樹脂のハンセン溶解度パラメータによる選定をすることなく、必要十分な接着力を得て、使用時や洗濯時に伸縮性導体層が剥離することはない。

本発明の生体情報計測用衣服における電気配線の導体層としては、金属箔、導電性繊維ないし導電性糸、伸縮性導体層などを用いる事が出来る。金属箔としては銅箔、、アルミニウム箔、ステンレススチール箔、金箔などを用いる事が可能である。また導電性繊維ないし導電性糸としては金属の細線、金属コーティングした天然繊維または合成繊維、金属微粒子やカーボンナノファイバーなどの導電性フィラーを含有する高分子材料からなる繊維、導電性高分子を被覆ないし含清させた繊維などを用いる事が出来る。また、これら導電性繊維ないし導電糸から構成されるフェルト、布地、編地、不織布などを電気配線の導体層として用いることもできる。

以下、本発明の実施形態の伸縮性積層シートについて説明する。本発明の伸縮性積層シートは、好ましくは接着性を有する伸縮性絶縁層と伸縮性導電層の少なくとも２層からなり、伸縮性絶縁層と伸縮性導体層との層間の９０度剥離強度が、１．０Ｎ／ｃｍ以上２５．０Ｎ／ｃｍ以下の範囲であり、接着性を有する伸縮性絶縁層を介して衣類内側の一部に取り付けられる。
伸縮性絶縁層と伸縮性導体層との層間の９０度剥離強度の好ましい範囲は１．５Ｎ／ｃｍ以上１５．０Ｎ／ｃｍの範囲でアリ、さらに好ましくは２．５Ｎ／ｃｍ以上１０Ｎ／ｃｍ以下の範囲である。層間の９０度剥離強度が所定の範囲未満の場合には、着脱や洗濯時での応力や変形下において伸縮性導体層が剥離して脱落する恐れがあり、また、伸長時に伸縮性導体層内部の導電性微粒子の連鎖構造が破壊され、繰返し伸縮において、導電性が低下し断線する。また所定範囲以上では伸縮性絶縁層または伸縮性導体層の材料強度を遙かに超えてしまうため、実用的意味が無い。

伸縮性積層シートはその引張弾性率が５００ＭＰａ以下で、かつ、伸縮性積層シートの伸長率１０％における伸長時の荷重が１００Ｎ以下である。引張弾性率が５００ＭＰａを超える場合や、伸長率１０％における伸長時の荷重が１００Ｎを超える場合には、着用者が様々な姿勢や動作をとった場合に、電極が皮膚に追随することができず、皮膚から離れてノイズの混入や電気信号の劣化を引き起こす。
伸縮性導体層は未伸長時における皮膜抵抗が３００Ω_□以下であり、かつ、伸長率１０％における皮膜抵抗増加比が１０未満である。未伸長時における皮膜抵抗が３００Ω_□を超える場合や、伸長率１０％における皮膜抵抗増加比が１０を超える場合には、着用時に姿勢変化したときに変形する生地に伴って伸縮性皮膜層が引き伸ばされた時に、抵抗変化によりノイズの混入や電気信号の劣化を引き起こす。本発明の伸縮性積層シートは、皮膚に接触して電気信号を取得する電極として用いるほかに、配線として用いることもでき、その場合には伸縮性導体層の表側に絶縁保護層として伸縮性絶縁性皮膜層をさらに設けても良い。
なお引っ張り弾性率の上加減は１０ＭＰａ程度であり、引っ張り弾性率がこれ以上低い場合には材料強度が極端に弱くなるために実用性が乏しくなる。

本発明の伸縮性積層シートにおいて、接着性を有する伸縮性絶縁層は柔軟性樹脂からなり、熱可塑性樹脂、熱・光硬化性樹脂、ゴム・エラストマーなどが挙げられる。熱可塑性樹脂としては低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、共重合ポリエステルなどを用いることができる。熱・光硬化性樹脂としてはアクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂などを用いることができる。ゴム・エラストマーとしてはウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられる。この中で伸縮性を発現させるためにゴム・エラストマーを用いることが好ましい。また、塗工や印刷をするために柔軟性樹脂は水や有機溶剤を含有してもよい。

電気伝導性を有する伸縮性導体層は少なくとも導電性微粒子とバインダー樹脂の２種以上から構成され、それぞれ成分や導電性微粒子の連鎖構造が違う層を２層以上有してもよい。導電性微粒子は金属系微粒子およびまたは炭素系微粒子であり、金属系微粒子としては、銀、金、白金、パラジウム、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、鉛、錫などの金属粒子、黄銅、青銅、白銅、半田などの合金粒子、銀被覆銅のようなハイブリッド粒子、さらには金属メッキした高分子粒子、金属メッキしたガラス粒子、金属被覆したセラミック粒子などを用いることができる。炭素系微粒子としては、グラファイト粉末、活性炭粉末、鱗片状黒鉛粉末、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブなどを用いることができる。導電性微粒子は１種のみであってもよいし２種以上であってもよい。

バインダー樹脂は弾性率が１ＧＰａ以下で、かつ、破断伸度が２００％以上である樹脂を用いることが好ましく、熱可塑性樹脂、熱・光硬化性樹脂、ゴム・エラストマーなどが挙げられる。熱可塑性樹脂としては低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、共重合ポリエステルなどを用いることができる。熱・光硬化性樹脂としてはアクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂などを用いることができる。ゴム・エラストマーとしてはウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられる。バインダー樹脂は１種のみであってもよいし２種以上であってもよい。この中では導電性微粒子との密着性と伸縮性を発現させるためにはゴム・エラストマーを用いることが好ましい。

好ましくは接着性を有する伸縮性絶縁層と電気伝導性を有する伸縮性導体層とを貼り合せて積層する時に、それぞれの層を構成する柔軟性樹脂とバインダー樹脂との貼り合せ接着には化学的接着力を必要とする。そのため本発明で実施する層間の９０度剥離強度が１．０Ｎ／ｃｍ以上を満たすためには、柔軟性樹脂のハンセン溶解度パラメータ（δ）値からバインダー樹脂のハンセン溶解度パラメータ（δ）値を引いた値が−５．０〜＋５．０（ＭＰａ）^０．５ であり、かつ、柔軟性樹脂のハンセン溶解度パラメータの水素結合項（δｈ）からバインダー樹脂のハンセン溶解度パラメータの水素結合項（δｈ）を引いた値が−６．０〜＋６．０（ＭＰａ）^０．５ の範囲内になるようにそれぞれの樹脂を選定することが好ましい。

ここで述べるハンセンの溶解度パラメータとは、ＤＲ．Ｃｈａｒｌｅｓ Ｍ． Ｈａｎｓｅｎらが提唱した溶解性の指標であり、溶解性を分散項（δｄ）、極性項（δｐ）、水素結合項（δｈ）の３つのパラメータで表したもので、各パラメータが近い物質同士は互いの溶解性が高いと判断する指標である。なお、ハンセン溶解度パラメータ（δ）は下記式（１）で表される。

δ ＝ （（δｄ）^２ ＋（δｐ）^２ ＋（δｈ）２ ）^０．５ ・・・・・・ （１）

これらのパラメータによる指標は樹脂の混合性にも使用され、本発明における伸縮性積層シートの各樹脂層の化学的接着力の指標にも有用であり、とくに、ハンセン溶解度パラメータ（δ）と水素結合項（δｈ）による選定が有用であることを見出した。

伸縮性導体層に用いる導電性微粒子の配合量は電気抵抗と伸縮性、透湿性を考慮して決定され、バインダー樹脂に対する体積％が大きいと電気抵抗は低くなり電気信号の劣化が抑えられるが、伸縮性絶縁層との接着力が下がり耐洗濯性が低下し、また、伸縮性が下がり、ひきつれ感、フィット感が悪化する。一方、体積％が小さいと伸縮性が上がりひきつれ感、フィット感が向上するが、電気抵抗が高くなり電気信号が劣化する。両者の特性のバランスを取る上で導電性微粒子のバインダー樹脂に対する配合量は２０〜６０体積％が好ましい。

本発明の伸縮性積層シートの接着性を有する伸縮性絶縁層と伸縮性導体層のいずれか、または両方に、機械的特性、耐熱性、耐久性、透湿性を得るために、必要な特性を損なわない範囲で、絶縁性微粒子を含んでいてもよい。絶縁系微粒子は有機系ないし無機系の絶縁性物質からなる微粒子であり、有機系微粒子としは、アクリル樹脂微粒子、スチレン樹脂系微粒子、メラミン樹脂系微粒子などの樹脂系微粒子を用いることができる。無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、タルク、炭化ケイ素、マグネシア、窒化ホウ素などのセラミックス系微粒子や、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの水に難溶な塩の微粒子を用いることができる。絶縁系微粒子は１種のみであってもよいし２種以上であってもよい。

本発明の伸縮性導体層は上記の導電性微粒子とバインダー樹脂の他に、水または有機溶剤を含んだ導電性ペーストを塗布または印刷などの手段によって作製される。水または有機溶剤の含有量は導電性微粒子の分散方法や、導電性膜形成方法に適合する導電性ペーストの粘度や乾燥方法などによって決められるほか、塗布後の導電性微粒子の連鎖構造形成状態や皮膜層の透湿性を左右する。特に限定はされないが、導電性微粒子、バインダー樹脂と溶剤の合計質量を１００％とした場合に２０〜６０質量％であることが好ましい。２０質量％未満の場合には粘度が高くなり塗工や印刷に適さず、導電性微粒子の連鎖構造が不均一になり導電性や伸縮性が低下する。一方、６０質量％を超える場合には、乾燥硬化塗膜中の残溶剤量が多くなり、塗膜の信頼性低下を引き起こす懸念がある。

また、有機溶剤は、沸点が１００℃以上、３００℃未満であることが好ましい。有機溶剤の沸点が低すぎると、ペースト製造工程やペースト使用時に溶剤が揮発し、ペーストを構成する成分比が変化しやすい懸念があり、有機溶剤の沸点が高すぎると、乾燥硬化塗膜中の残溶剤量が多くなり、塗膜の信頼性低下を引き起こす懸念がある。このような有機溶剤としては、シクロヘキサノン、トルエン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、ベンジルアルコール、エクソン化学製のソルベッソ１００，１５０，２００、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ターピオネール、ブチルグリコールアセテート、ジアミルベンゼン（沸点：２６０〜２８０℃）、トリアミルベンゼン（沸点：３００〜３２０℃）、ｎ−ドデカノール（沸点：２５５〜２９℃）、ジエチレングリコール（沸点：２４５℃）、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート（沸点：１４５℃）、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート（沸点２１７℃）、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート（沸点：２４７℃）、ジエチレングリコールジブチルエーテル（沸点：２５５℃）、ジエチレングリコールモノアセテート（沸点：２５０℃）、トリエチレングリコールジアセテート（沸点：３００℃）トリエチレングリコール（沸点：２７６℃）、トリエチレングリコールモノメチルエーテル（沸点：２４９℃）、トリエチレングリコールモノエチルエーテル（沸点：２５６℃）、トリエチレングリコールモノブチルエーテル（沸点：２７１℃）、テトラエチレングリコール（沸点：３２７℃）、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル（沸点：３０４℃）、トリプロピレングリコール（沸点：２６７℃）、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル（沸点：２４３℃）、２，２，４−トリメチル−１，３−ペンタンジオールモノイソブチレート（沸点：２５３℃）などが挙げられ、必要に応じてそれらの２種以上が含まれてもよい。このような有機溶剤は、導電性ペーストが塗布や印刷などに適した粘度となるように適宜含有される。

また、本発明の伸縮性導体層を作製するために用いられる導電性ペーストには、塗布印刷特性を得るために、伸縮可能な導電性膜に必要な特性を損なわない範囲で、チキソ性付与剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤などを配合することができる。本発明の伸縮性導体層を形成するための導電性ペーストは、微粒子を液体に分散させる従来公知の方法を用いることによって樹脂中に導電性微粒子を均一に分散することができる。例えば、微粒子の分散液、樹脂溶液を混合した後、超音波法、ミキサー法、３本ロールミル法、ボールミル法などで均一に分散することができる。これらの手段は、複数を組み合わせて使用することも可能である。

本発明の伸縮性積層シートの製造方法は、導電性ペーストを離型性のある基材上に塗布または印刷して塗膜を形成し、次いで塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させ乾燥させた後に、予め形成された接着性を有する伸縮性絶縁層シートを貼り合せる方法、予め形成された接着性を有する伸縮性絶縁層シートに導電性ペーストを塗布または印刷して塗膜を形成し、次いで塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させ乾燥させて得る方法、導電性ペーストを離型性のある基材上に塗布または印刷して塗膜を形成し、次いで塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させ乾燥させた後に、その上に接着性を有する伸縮性絶縁層を形成する柔軟性樹脂溶液を塗布または印刷して塗膜を形成し、次いで塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させ乾燥させる方法等があり、いずれの方法を用いても良い。またいずれの方法を用いる場合でも、絶縁皮膜層と導電性皮膜層の層間接着力を向上するために、先に形成した皮膜層にプラズマ処理、火炎処理、プライマー処理等を施した後に、次の層を形成しても良い。

導電性ペーストを塗布する工程は、特に限定されないが、例えば、コーティング法、印刷法などによって行うことができる。印刷法としては、スクリーン印刷法、平版オフセット印刷法、インクジェット法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スタンピング法、ディスペンス法、スキージ印刷などが挙げられる。塗布された導電性ペーストや柔軟性樹脂溶液を加熱・乾燥する工程は、大気下、真空雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、還元性ガス雰囲気下などで行うことができ、有機溶剤が揮散され、場合により加熱下で硬化反応が進行し、乾燥後の伸縮性導体層の電気抵抗や伸縮性が良好となる。大気下における加熱温度は５０〜２００℃の範囲、加熱時間は１０〜９０分の範囲で行い、伸縮性導体層の電気抵抗や伸縮性、バインダー樹脂の耐熱性、有機溶剤の沸点などを考慮して低温長時間ないし高温短時間の組合せから選択される。５０℃未満ないし１０分未満では溶剤が塗膜中に残留し、所望の電気抵抗や伸縮性が得られず、２００℃を超える、ないし９０分を超える場合には、バインダー樹脂や柔軟性樹脂や基材の劣化や架橋により所望の伸縮性が得られず、また、コスト増加を招く。

本発明の生体情報測定用衣類は、上記本発明の伸縮性積層シートを複数衣類内側の一部に取り付けられた構成を有する。本発明の生体情報測定用衣類の基材は、ベルト、ブラジャーのような帯状の物、および／または、編織物、不織布からなる被服であれば特に制限されるものではないが、生体情報の測定のために着用時の身体へのフィット性や運動時・動作時の追従性などの観点から、伸縮性を有するものが好ましく、着脱や洗濯時での応力や変形に対しても電極の剥離や断線を生じないよう、伸縮性積層シートと生地との層間の９０度剥離強度が、１．０Ｎ／ｃｍ以上を有する。このような生体情報測定用衣類は、着用者の生体情報を計測する手段となり、通常の着用法と着用感を有し、着用するだけで簡便に各種生体情報を測定することができる。

次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
［導電性ペーストの作製］
表１に示す材料を用いて、表２に示す重量配合比により樹脂を各溶剤に溶解し、得られた溶液に導電性微粒子を配合し、３本ロールミルにて混合し、導電性ペーストを得た。

［伸縮性積層シートの作製］
離型処理ＰＥＴフィルム上に上記の導電性ペーストを使い、アプリケータを用いて乾燥膜厚が約６０μｍ になるように塗布し、１２０℃、３０分間、熱風乾燥オーブンで乾燥することにより、伸縮性導体層を形成した。同様にして別に用意した離型処理ＰＥＴフィルム上に表１に示す接着性樹脂溶液を使い、アプリケータを用いて乾燥膜厚が約６０μｍ になるように塗布し、１２０℃、３０分間、熱風乾燥オーブンで乾燥することにより、接着性を有する伸縮性絶縁層を形成した。次に離型処理ＰＥＴフィルム付き伸縮性導体層と離型処理ＰＥＴフィルム付き接着性を有する伸縮性絶縁層を、離型処理ＰＥＴフィルムが外側になるように重ね合わせて、ゴムロール温度を１２０℃に調整したロールラミネート機にて接着し、両面離型処理ＰＥＴフィルム付き伸縮性積層シートを作製した。これらのシートを用いて後述する方法で、厚さ、引張弾性率、１０％伸長時単位荷重、未伸長時皮膜電気抵抗、１０％伸長時抵抗増加比、９０度剥離強度を測定した。実施例の測定結果を表３に示す。

［電極および配線を備えた衣服の作製］
上記で作製した離型処理ＰＥＴフィルム付き伸縮性積層シートを配線巾１．０ｃｍ配線長１５．０ｃｍに続く５．０ｃｍ角の正方形状に切り抜いた。切り抜いた配線付き電極から接着性を有する伸縮性絶縁層側の離型紙を剥がしシャツ（ポリエステル１００％）の裏面側の所定の位置に配置してアイロンで熱圧着し、さらに離型処理ＰＥＴフィルムを剥がして、裏側に電極を備えたシャツを作製した。

［厚さ、弾性率および１０％伸長時荷重の測定］
厚さはＪＩＳ Ｋ７１３０（１９９９）プラスチック−フィルム及びシート−厚さ測定方法、Ａ法に基づいて測定した。 弾性率および伸長時荷重はＪＩＳ Ｋ７１６１−１（２０１２）プラスチック−引張特性の求め方−第 １ 部に基づいて測定した。測定条件は試験片幅１５ｍｍ、試験片長さ１５０ｍｍ、チャック間距離、１００ｍｍ、試験速度５０ｍｍ／分とした。

［伸長試験および電気抵抗の測定］
幅２．５ｃｍのチャックを２個備えた伸長試験機（手回し延伸機）を用いて、チャック間距離５．０ｃｍになるように上記で作製した伸縮性積層シートを挟み、長手方向に伸長率１０％まで伸長（変位量０．５ｃｍ）した。試験前後の電気抵抗はデジタルマルチメータ（横河メータ＆インスツルメンツ社製「ＹＯＫＯＧＡＷＡ ＴＹ５３０」）を用い、対向する２個のチャックの外側（測定距離１０ｃｍ）にて伸長前後の抵抗値（Ω）を測定し、伸縮性積層シートの電気抵抗（Ω_□）を得た。抵抗値の測定は伸長直後（３秒以内）に実施した。

［９０度剥離強度の測定］
伸縮性積層シートの、接着性を有する伸縮性絶縁皮膜層側と、電気伝導性を有する伸縮性皮膜層側各々に、引っ張り弾性率が１ＧＰａ以上、厚さが２０μｍ以上の基材を用いた粘着テープを貼り付け、各々の層を各々の層に貼り付けた粘着テープごと把持し、接着性を有する伸縮性絶縁皮膜層と電気伝導性を有する伸縮性皮膜層との層間の剥離力を、ＪＩＳ Ｋ６８５４−１（１９９９）接着剤−はく離接着強さ試験方法９０度はく離、に基づいて、伸縮性積層シートの９０度剥離接着力を測定した。測定条件は試験片幅１５ｍｍ、試験片長さ１５０ｍｍ、剥離速度５０ｍｍ／分とした。
なお、本実施例では基材厚さが５０μｍのポリエステルフィルム基材に厚さ２５μｍの粘着剤層を有する粘着テープを用いた。

［ハンセン溶解度パラメータ値の算出］
それぞれの樹脂をＨ１−ＮＭＲ、Ｃ１３−ＮＭＲ、及びＩＲ測定により解析した結果から構造式を求め、Ｃｈａｒｌｅｓ Ｍ．Ｈａｎｓｅｎ著「Ｈａｎｓｅｎ Ｓｏｌｕｂｉｌｉｔｙ Ｐａｒａｍｅｔｅｒｓ；Ａ Ｕｓｅｒｓ Ｈａｎｄｂｏｏｋ（ＣＲＣ Ｐｒｅｓｓ，２００７）」に記載されている方法を参考に、コンピュータソフトウエア 「Ｈａｎｓｅｎ Ｓｏｌｕｂｉｌｉｔｙ Ｐａｒａｍｅｔｅｒｓ ｉｎ Ｐｒａｃｔｉｃｅ（ＨＳＰｉＰ）を用いて算出を行った。算出した値を表１に示す。

［洗濯耐久性］
洗濯の条件は、ＪＩＳ Ｌ ０８４４に準拠して行った。具体的には、機械洗濯器、洗濯ネット、洗剤（花王株式会社製アタック）を用い、上記で作製した電極を備えたシャツを５回連続洗濯後、１回陰干を１サイクルとして１０回繰り返した。洗濯後の伸縮性導体シートのシート抵抗を測定し、初期シート抵抗との変化（洗濯後のシート抵抗／初期シート抵抗）を求めた。

［着脱耐久性］
上記で作成した電極および配線を備えたシャツを用いて、成人男性５名を被験者として１００回の着脱を行い、試験後の電極および配線の剥離状態および破断状態を目視にて観察した。

上述の通り、本発明の伸縮性積層シートは十分な接着性を有するため着脱時や洗濯時に伸縮性導体層が剥離することがなく、伸長時の荷重が低いために着心地や着用感を損なわず、伸長時においても電気抵抗の増加が抑えられるため電気ノイズが少ない生体電気信号を得ることができる。

本発明では、電極の接着不足が原因となる電極の剥離、破断を抑えて、着心地や着用感に優れ、良好な電気信号測定を可能とする生体情報測定用の伸縮性積層シートおよび衣類を提供するものであり、日常生活の健康管理、ジョギング、マラソン等屋外スポーツ時の生体情報の把握、建設現場などの屋外作業での労務管理に適用することができる。

Claims (10)

1. 電気配線を有する生体情報計測用衣服において、前記生体情報計測用衣服を構成する破断伸度が１０％以上であるフレキシブルな被接着層に対する９０度剥離強度が１．０Ｎ／ｃｍ以上、２５．０Ｎ／ｃｍ以下の範囲である伸縮性絶縁層を有する事を特徴とする生体情報計測用衣服。
2. 前記被接着層が、衣服生地、絶縁下地層、導体層から選択される少なくとも一層であることを特徴とする請求項１に記載の生体情報計測用衣服。
3. 生体情報計測用衣服の電気配線または生体接触型電極として用いられる伸縮性導体層と、該伸縮性導体層に対する９０度剥離強度が１．０Ｎ／ｃｍ以上、２５．０Ｎ／ｃｍ以下の範囲である伸縮性絶縁層を少なくとも有する事を特徴とする伸縮性積層シート。
4. 前記伸縮性積層シートの引張弾性率が１０ＭＰａ以上５００ＭＰａ以下であり、かつ、伸縮性積層シートの伸長率１０％における伸長時の荷重が３Ｎ以上１００Ｎ以下であることを特徴とする請求項３に記載の伸縮性積層シート。
5. 前記伸縮性導体層の未伸長時における皮膜抵抗が３００Ω_□以下であり、かつ、伸長率１０％における皮膜抵抗増加比が１０未満であることを特徴とする請求項３または４に記載の伸縮性積層シート。
6. 前記接着性を有する伸縮性絶縁層が柔軟性樹脂からなり、前記導体層が導電性微粒子とバインダー樹脂から構成される導電性組成物からなり、柔軟性樹脂のハンセン溶解度パラメータ（δ）値からバインダー樹脂のハンセン溶解度パラメータ（δ）値を引いた値が−５．０〜＋５．０（ＭＰａ）^０．５ であり、かつ、柔軟性樹脂のハンセン溶解度パラメータの水素結合項（δｈ）からバインダー樹脂のハンセン溶解度パラメータの水素結合項（δｈ）を引いた値が−６．０〜＋６．０（ＭＰａ）^０．５ であることを特徴とする請求項３から請求項５のいずれかに記載の伸縮性積層シート。
7. 前記バインダー樹脂の弾性率が１ＧＰａ以下で、かつ、破断伸度が２００％以上であることを特徴とする請求項３から請求項６のいずれかに記載の伸縮性積層シート。
8. 塗布または印刷により作製されることを特徴とする請求項３から請求項７のいずれかに記載の伸縮性積層シートの製造方法。
9. 請求項３から請求項８のいずれかに記載の伸縮性積層シートを電気配線に用いた事を特徴とする請求項１または請求項２に記載の生体情報計測用衣服。
10. 伸縮性積層シートと生地との層間の９０度剥離強度が、１．０Ｎ／ｃｍ以上２５．０Ｎ／ｃｍ以下である事を特徴とする請求項９に記載の生体情報計測用衣服。