以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るシールリング1の概略構成を示す一方の側の側面図であり、図2は、シールリング1の概略構成を示す正面図であり、図3は、シールリング1の概略構成を示す他方の側の側面図である。また、図4は、シールリング1の概略構成を示す部分拡大斜視図である。
本実施の形態に係るシールリング1は、軸とこの軸が挿入される軸孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であり、車両や汎用機械において、互いに相対回転する軸とハウジング等に形成されたこの軸が挿入される軸孔との間を密封するために用いられる。シールリング1は、例えば、自動変速機や無段変速機において、作動油の油圧を保持するために、軸の外周面に形成された溝に取り付けられて用いられる。なお、本発明の実施の形態に係るシールリング1が適用される対象は、上記に限られない。
図1に示すように、シールリング1は、軸線x周りに環状であり、軸線x方向に面する面である少なくとも1つの側面2と、側面2に周方向において互いに離間して形成された複数の凹部3と、複数の凹部3に対応して夫々形成された複数の内周壁部4とを備えている。凹部3は、側面2に収束する周方向に延びる動圧部31と、動圧部31から内周側に向かって延びる動圧部31を内周側に開放する導入部32とを有している。内周壁部4は、凹部3の各々に対して1つ又は2つ設けられており、内周壁部4の各々は、対応する凹部3の動圧部31と導入部32とによって、対応する凹部3の内周側に画成された部分であり、側面2から続く面である内周壁面41を有している。内周壁面41は、側面2から沈むように側面2に対して傾いて周方向に導入部32に向かって延びている。
具体的には、側面2は、後述する使用状態において軸に形成された溝の溝側面に押し付けられる摺動面として形成された側面であり、本実施の形態に係るシールリング1は、図1,3に示すように、摺動面としての側面2を1つのみ有している。シールリング1は、摺動面としての側面2を2つ有していてもよく、つまり他方の側面にも摺動面としての側面2を有していてもよい。この場合、軸に形成された溝に対するシールリング1の取り付け方向が無くなり、シールリング1の取り付けが容易になる。
シールリング1は、図1〜3に示すように、軸線xに沿う面における断面の形状が矩形又は略矩形であり、内周側に面する面である内周面5と、外周側に面する外周面6と、側面2と、他方の側面である側面7とを有している。内周面5は、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面であり、外周面6は、内周面5に背向する面であり、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面である。また、側面2は、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面5と外周面6との間に広がっており、側面7は、側面2に背向する面であり、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面5と外周面6との間に広がっている。
摺動面である側面2には、上述のように複数の凹部3が形成されており、凹部3は、軸線x周りに等角度間隔又は略等角度間隔に形成されている。図4,5に示すように、凹部3は、側面2から側面7側に凹む凹部であり、軸線x方向に見て略T字型になっている。また、凹部3は、側面2において内周面5側に設けられており、使用状態において軸の溝の側面よりも外周側に飛び出さないようになっている。
具体的には、図4,5に示すように、凹部3の動圧部31は、外周面6及び内周面5から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部31は、径方向において内周面5側に設けられている。動圧部31は、具体的には、側面2が面する側に面する面である底面33を有しており、底面33は、導入部32に接続する導入面34と、導入面34と側面2との間に延びる1つ又は2つの動圧面35とを有している。本実施の形態に係るシールリング1においては、底面33は2つの動圧面35を有している。
導入面34は、図4,6に示すように、動圧部31において最も低い側に位置しており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に広がっている。なお、凹部3において、軸線x方向を高さ方向ともいい、この高さ方向(図6,7の矢印a方向)において、シールリング1の内部側を低い側とし、側面2側を高い側とする。導入面34は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。また、動圧面35は、導入面34から昇るように側面2に対して傾いて周方向に側面2に向かって延びており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に延びている。動圧面35は、導入面34と側面2との間に延びており、側面2に滑らかに繋がっている。動圧面35は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、動圧面35は、側面2側に向かって広がる又は狭まる台形状であってもよい。また、動圧面35は、軸線x方向において側面7側に沈む段差を形成する段差面36を介して導入面34に接続している。凹部3は、段差面36を有しておらず、動圧面35は導入面34に直接接続していてもよい。
凹部3においては上述のように2つの動圧面35が形成されており、動圧面35は底面33において導入面34に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の動圧面35は、導入面34の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面2まで延びており、他方の動圧面35は、導入面34の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面2まで延びている。動圧部31は、後述する使用状態において、接触する軸の溝の側面から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部3の導入部32は、図4,5に示すように、内周面5に側面2側に開放する切欠きを形成しており、導入部32は、動圧部31の周方向における端部(端部3a)の間において動圧部31に接続している。具体的には、導入部32は、動圧部31の導入面34及び段差面36に接続しており、導入面34に繋がる底面37を有している。この底面37は、動圧部31の導入面34に滑らかに接続しており、底面37は、例えば導入面34と同じ高さに位置する面である。この導入部32により、シールリング1において、内周面5から動圧部31に連通する通路が形成されている。
後述するように、シールリング1の側面2が軸の溝の側面に接触した使用状態において、凹部3は内周面5の接する空間に連通し、より具体的には、動圧部31は導入部32を介して内周面5の接する空間に連通する。そして、使用状態において、動圧部31は軸の溝の側面との間に周方向に延びる空間を形成し、動圧面35は、軸の溝の側面との間に周方向に延びる、導入面34側から側面2側に向かって高さ(高さ方向の幅)が徐々に小さくなる空間を形成する。
上述のように、複数の凹部3に対応して夫々複数の内周壁部4が形成されており、具体的には、図4,5に示すように、各凹部3に対して、2つの内周壁部4が形成されている。内周壁部4は、動圧部31の1つの動圧面35が延びる周方向の部分と、導入部32と、内周面5とによって画成された部分であり、動圧部31の動圧面35に内周側で隣接して、動圧面35よりも高い側に突出している。内周壁部4は、内周壁面41と、導入部32によって形成される軸線xに沿って延びる面である端面42とを有している。
内周壁部4の内周壁面41は、側面2が面する側に面しており、周方向において動圧面35と同じ又は略同じ範囲に延びている。具体的には、内周壁面41は、周方向において、動圧部31の段差面36と同じ位置から動圧部31の端部3aと同じ位置まで、または、動圧部31の段差面36と同じ位置から動圧部31の端部3aの近傍まで延びている。つまり、内周壁面41の側面2に接続する部分である端部41aは、周方向において、動圧面35が側面2に接続する部分である端部3aと同じであってもよく、端部3aの近傍であってもよい。図示のシールリング1においては、端部41aと端部3aとは周方向において同じ位置となっている。また、端部41aが周方向において端部3aの近傍である場合は、周方向において、内周壁面41の端部41aが動圧面35の端部3aよりも導入部32側(内側)にあることが好ましい。
また、図4,7に示すように、内周壁面41は、端面42との接続する部分から昇るように側面2に対して傾いて周方向に側面2に向かって延びており、側面2に滑らかに繋がっている。内周壁面41は、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に延びている。内周壁面41は、曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、内周壁面41は、側面2側に向かって広がる又は狭まる台形状であってもよい。また、複数の平面又は略平面、または、複数の曲面又は略平面、または、複数のこれらの面が連続して連なって形成された面であってもよい。例えば、図8に示すように、内周壁面41は、側面2に対する傾斜角度が次第に大きくなる平面又は略平面を連ねて形成してもよい。内周壁面41の側面2に対する傾斜角αは、動圧面35の側面2に対する傾斜角β(図6参照)よりも小さくなっている(図6,7参照)。
各凹部3に対しては上述のように2つの内周壁部4が形成されており、内周壁部4は導入部32に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の内周壁部4は、導入部32の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面2まで延びており、他方の内周壁部4は、導入部32の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面2まで延びている。
後述するように、シールリング1の側面2が軸の溝の側面に接触した使用状態において、内周壁部4の内周壁面41は、軸の溝の側面に対向する。内周壁面41は側面2に対して傾斜しており、このため、内周壁面41は溝の側面に接触せず、溝の側面との間に空間を形成する。この空間は楔形であり、端面42側から端部41a側に向かって高さが徐々に小さくなっていく。
シールリング1は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材から形成されている。シールリング1の外周面6の周長は、軸が挿通される軸孔の内周面の周長よりも短くなっており、軸孔に対して締め代を持たないようになっている。このため、使用状態において流体圧力がシールリング1に作用していない状態においては、シールリング1の外周面6は軸孔の内周面から離れた状態となる。
また、シールリング1は、無端ではなく、図1〜3に示すように、周方向の1箇所に合口部8が設けられている。合口部8は、シールリング1の熱膨張又は熱収縮によりシールリング1の周長が変化しても安定したシール性能を維持可能にする公知の構造となっている。合口部8の構造としては、例えば、外周面6側及び両側面2,7側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカット構造や、ストレートカット構造、バイアスカット構造、ステップカット構造等がある。また、シールリング1の材料として、低弾性の材料(PTFE等)を採用した場合には、シールリング1には合口部8を設けずに、シールリング1を無端としてもよい。
次いで、上述の構成を有するシールリング1の作用について説明する。
図9は、シールリング1が取付対象としての油圧装置100のハウジング101及びこのハウジング101に形成された貫通孔である軸孔102に挿入された軸110に取り付けられた使用状態におけるシールリング1の部分拡大断面図である。軸110はハウジング101に対して相対回転可能になっており、軸110の外周面111には、中心側に凹む環状の溝112が形成されている。溝112は、断面形状が矩形又は略矩形であり、平面状の側面113,114と底面115とによって画成されている。油圧装置100において、軸孔102の内周面103と軸110の外周面111との間には環状の空間が形成されており、軸110及びハウジング101には、図示しない作動油が充填される油圧経路が形成されている。シールリング1は溝112に取り付けられて油圧経路内の作動油の油圧の損失を防止するために、軸110と軸孔102との間の隙間Gを密封する。図9においては、溝112の右側が油圧経路となっており、溝112の左側の側面113がシールリング1の押し付けられる摺動側面となり、溝112の右側が高圧に、溝112の左側が低圧となる。シールリング1は、側面2が溝112の摺動側面113と対向するように溝112に取り付けられる。
油圧経路に作動油が導かれると油圧経路が高圧となり、シールリング1の外周面6及び側面2が夫々軸孔102の内周面103及び溝112の摺動側面113に押し付けられる。これにより、環状の隙間Gにおいて油圧経路が密封され、油圧の保持が図られる。軸110が回転すると、シールリング1に対して軸110が回転し、シールリング1の側面2に対して溝112の摺動側面113が摺動する。このとき、作動油がシールリング1の導入部32から凹部3内に入り込み、作動油は、動圧部31に導かれ、その油圧により動圧部31を動圧面35に沿って周方向に端部3aまで移動する。シールリング1の側面2と溝112の摺動側面113とは接触しているが、この動圧部31における作動油の移動によって動圧部31の端部3a側の圧力が上がっていき、ついには端部3a側における作動油の圧力は摺動側面113からシールリング1の側面2を離間させる大きさまで高まり、作動油は動圧部31の端部3aから側面2に漏れ出る。これにより、シールリング1の側面2と溝112の摺動側面113との間には作動油による薄い潤滑膜が形成され、シールリング1に対する溝112の摺動抵抗が低減される。このように、使用状態において、凹部3は動圧効果により、シールリング1に対する溝112の摺動抵抗を低減している。
また、内周壁部4の内周壁面41は、側面2に対して傾斜しており、溝112の摺動側面113との間に、動圧部31における作動油の移動方向に狭まる楔状の空間を形成している。このため、内周壁面41は、上述の凹部3の動圧効果と同様に作動油によって動圧効果を得ることができ、内周壁面41によってもシールリング1に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。また、内周壁面41が側面2に対して傾斜しており、内周壁面41の摩耗量は小さく、このため動圧効果の低下を抑制することができる。
また、内周壁面41と溝112の摺動側面113との間に形成された空間により、シールリング1の溝112の摺動側面113に対する接触面積を低減することができ、これによってもシールリング1に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
また、シールリング1は、上述のようにシールリング1に対する溝112の摺動抵抗を低減することができる。このため、使用時に摺動部に発生する発熱を抑制することができ、更なる高PV条件下での使用が可能になる。また、軟質な軸110に対してもシールリング1を使用することができる。
上述のように、本発明の第1の実施の形態に係るシールリング1によれば、更なる摺動抵抗の低減を図ることができる。
次いで、本発明の第2の実施の形態に係るシールリング10について説明する。図10は、シールリング10の概略構成を示すシールリング10の一方の側の側面の一部を拡大して示す部分拡大側面図であり、図11は、シールリング10の概略構成を示す部分拡大斜視図である。本発明の第2の実施の形態に係るシールリング10は、上述の本発明の第1の実施の形態に係るシールリング1に対して、凹部及び内周壁部の構成が異なる。以下、本発明の第2の実施の形態に係るシールリング10について、本発明の第1の実施の形態に係るシールリング1と同一又は同様の機能を有する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる構成について説明する。
シールリング10は、シールリング1の凹部3とは異なる凹部11を有している。凹部11は、図10,11に示すように、動圧部51と導入部52とを有しており、動圧部51は、動圧面35を1つのみ有している。以下、具体的に説明する。
凹部11の動圧部51は、外周面6及び内周面5から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部51は、径方向において内周面5側に設けられている。動圧部51は、具体的には、側面2が面する側に面する面である底面53を有しており、底面53は、導入部52に接続する導入面34と、導入面34と側面2との間に延びる1つの動圧面35とを有している。動圧面35は、段差面36を介して導入面34に接続している。また、動圧部51は、導入面34に対して周方向において動圧面35とは反対側に、軸線xに沿って延びる平面又は略平面である端面54を有している。端面54は、導入面34の動圧面35(段差面36)に接続する端部とは周方向において反対側の端部から側面2まで延びている。動圧部51は、使用状態において、接触する軸110の溝112の摺動側面113から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部3の導入部52は、図10,11に示すように、内周面5に側面2側に開放する切欠きを形成しており、導入部52は、動圧部51の周方向における一方の端部において動圧部51に接続している。具体的には、導入部52は、動圧部51の導入面34、段差面36、及び端面54に接続しており、導入面34に繋がる底面37を有している。この導入部52により、シールリング10において、内周面5から動圧部51に連通する通路が形成されている。このようにシールリング10の凹部11はL字型となっている。
また、シールリング10は、各凹部11に対して内周壁部4を1つのみ有している。図10,11に示すように、導入部52に対して周方向において端面54側には内周壁部4が形成されておらず、導入部52に対して周方向において動圧面35側にのみ内周壁部4が形成されている。
本発明の第2の実施の形態に係るシールリング10においても、上述のシールリング1と同様に、使用状態において、軸110の溝112の摺動側面113と動圧面35との間に楔形の空間が形成される。この楔形の空間は、導入面34側から側面2側に向かって高さが徐々に小さくなっている。このため、シールリング10は、上述のシールリング1と同様の効果を奏することができる。シールリング1においては、2つの動圧面35が設けられており、導入面34(導入部32)に対して周方向において両方の方向に動圧面35が設けられている。このため、シールリング1は、軸110の両方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。一方、シールリング10には、1つの動圧面35が設けられており、導入面34(導入部52)に対して周方向において一方の方向に動圧面35が設けられている。このため、シールリング10は、軸110の一方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。
次いで、本発明の第3の実施の形態に係るシールリング201ついて説明する。図12は、本発明の第3の実施の形態に係るシールリング201の概略構成を示す一方の側の側面図であり、図13は、シールリング201の概略構成を示す正面図であり、図14は、シールリング201の概略構成を示す他方の側の側面図である。また、図15は、シールリング201の概略構成を示す部分拡大斜視図である。
第3の本実施の形態に係るシールリング201は、軸とこの軸が挿入される軸孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であり、車両や汎用機械において、互いに相対回転する軸とハウジング等に形成されたこの軸が挿入される軸孔との間を密封するために用いられる。シールリング201は、例えば、自動変速機や無段変速機において、作動油の油圧を保持するために、軸の外周面に形成された溝に取り付けられて用いられる。なお、本発明の第3の実施の形態に係るシールリング201が適用される対象は、上記に限られない。
図12に示すように、シールリング201は、軸線x周りに環状であり、軸線x方向に面する面である少なくとも1つの側面202と、側面202の周方向において互いに離間して形成された複数の凹部203と、複数の凹部203に対応して夫々形成された複数の内周壁部204とを備えている。凹部203は、側面202に収束するように周方向へ延びる動圧部231と、動圧部231から内周側へ向かって延び、動圧部231を内周側へ開放する導入部232とを有している。
内周壁部204は、凹部203の各々に対して1つ又は2つ設けられており、内周壁部204の各々は、対応する凹部203の動圧部231と導入部232とによって、対応する凹部203の内周側に画成された部分であり、側面202から続く面である内周壁面2411を有している。内周壁面2411は、側面202から所定深さだけ沈み、かつ、側面202に対して平行な状態で周方向へ導入部232に向かって延びている。より具体的には、内周壁面2411は、側面202から垂直面2412を介して所定深さだけ沈んだ平坦な段差面である。
具体的には、側面202は、後述する使用状態において軸に形成された溝の側面に押し付けられる摺動面として形成された面であり、第3の実施の形態に係るシールリング201は、図12,14に示すように、摺動面としての側面202を1つのみ有している。なお、シールリング201は、摺動面としての側面202を2つ有していてもよく、つまり他方の側の面にも摺動面としての側面202を有していてもよい。この場合、軸に形成された溝に対するシールリング201の取り付け方向が制約されなくなり、シールリング201の取り付けが容易になる。
シールリング201は、図12〜14に示すように、軸線xに沿う面における断面の形状が矩形又は略矩形であり、内周側に面する面である内周面205と、外周側に面する面である外周面206と、側面202と、他方の側の面である側面207とを有している。内周面205は、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面であり、外周面206は、内周面205に背向する面であり、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面である。また、側面202は、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面205と外周面206との間に広がっている。側面207は、側面202に背向する面であり、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面205と外周面206との間に広がっている。
摺動面である側面202には、上述のように複数の凹部203が形成されており、凹部203は、軸線x周りに等角度間隔又は略等角度間隔に形成されている。図15,16に示すように、凹部203は、側面202から側面207側に向かって凹む凹部であり、軸線x方向に見て略T字型になっている。また、凹部203は、側面202において内周面205側に設けられており、使用状態において軸の溝の側面よりも外周側に飛び出さないようになっている。
具体的には、図15,16に示すように、凹部203の動圧部231は、外周面206及び内周面205から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部231は、径方向において内周面205側に設けられている。動圧部231は、具体的には、側面202が面する側に面する面である底面233を有しており、底面233は、導入部232に接続する導入面234と、導入面234と側面202との間に延びる1つ又は2つの動圧面235とを有している。本実施の形態に係るシールリング201においては、底面233は2つの動圧面235を有している。
導入面234は、図15,17に示すように、動圧部231において最も低い側に位置しており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に広がっている。なお、凹部203において、軸線x方向を高さ方向ともいい、この高さ方向(図17,18の矢印a方向)において、シールリング201の内部側を低い側とし、側面202側を高い側とする。導入面234は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。
また、動圧面235は、導入面234から昇るように側面202に対して傾いて周方向へ側面202に向かって矩形状又は略矩形状に延びた平面又は略平面である。動圧面235は、導入面234と側面202との間に延びており、側面202と滑らかに繋がっている。ここで、動圧面235の側面202に対する傾きは傾斜角θとなっており、凹部203の周方向の長さに応じて任意の角度となり得る。
なお、動圧面235は平面又は略平面であると述べたが、これに限らず、曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、動圧面235は、側面202側へ向かって広がる又は狭まる台形状であってもよい。また、動圧面235は、軸線x方向において側面207側に沈む段差を形成する段差面236を介して導入面234に接続している。ただし、凹部203は、段差面236を有しておらず、動圧面235は導入面234に直接接続していてもよい。
凹部203においては上述のように2つの動圧面235が形成されており、動圧面235は底面233において導入面234に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の動圧面235は、導入面234の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面202まで延びており、他方の動圧面235は、導入面234の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面202まで延びている。動圧部231は、後述する使用状態において、接触する軸の溝の側面から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部203の導入部232では、図15,16に示すように、内周面205に側面207側に開放する略U字状の切欠きが形成されており、動圧部231の周方向における端部(端部203a)の間において動圧部231と接続されている。具体的には、導入部232は、動圧部231の導入面234及び段差面236に接続しており、導入面234に繋がる底面237を有している。この底面237は、動圧部231の導入面234と滑らかに接続しており、底面237は、例えば導入面234と同じ高さに位置する面である。この導入部232により、シールリング201において、内周面205から動圧部231に連通する通路が形成されている。
後述するように、シールリング201の側面202が軸の溝の側面に接触した使用状態において、凹部203は内周面205の接する空間と連通し、より具体的には、動圧部231は導入部232を介して内周面205の接する空間と連通する。そして、使用状態において、動圧部231は軸の溝の側面との間に周方向に延びる空間を形成し、動圧面235は、軸の溝の側面との間に周方向に延びる、導入面234側から側面202側に向かって高さ(高さ方向の幅)が徐々に小さくなる空間を形成する。
上述のように、複数の凹部203に対応して夫々複数の内周壁部204が形成されており、具体的には、図15,16に示すように、各凹部203に対して、2つの内周壁部204が動圧部231の動圧面235よりも内周面205側に形成されている。
内周壁部204は、動圧部231の1つの動圧面235が延びる周方向の部分と、導入部232と、内周面205とによって画成された部分である。内周壁部204は、動圧部231の動圧面235と内周側で隣接して、動圧面235よりも低くなるように一部が高さ方向(矢印a方向)において当該動圧面235よりも低い位置に沈み、動圧面235よりも高くなるように一部が高さ方向(矢印a方向)において当該動圧面235よりも高い位置に突出した内周壁面2411を有している。内周壁部204は、内周壁面2411と、端部203aから側面202の内部側へ当該側面202とは垂直であって軸線xに沿って延びる面である垂直面2412と、導入部232によって形成される軸線xに沿って延びる面である垂直面2413とを有している。
内周壁部204の内周壁面2411は、側面202が面する側に面しており、周方向において動圧面235と同じ又は略同じ範囲に延びている。具体的には、内周壁面2411は、周方向において、動圧部231の段差面236と同じ位置から動圧部231の端部203aと同じ位置まで、または、動圧部231の段差面236と同じ位置から動圧部231の端部203aの近傍まで延びている。つまり、内周壁面2411の側面202に接続する部分である端部2411aは、周方向において、動圧面235が側面202に接続する部分である端部203aと同じであってもよく、端部203aの近傍であってもよい。図示のシールリング201においては、端部2411aと端部203aとは周方向において同じ位置となっている。また、端部2411aが周方向において端部203aの近傍である場合は、周方向において、内周壁面2411の端部2411aが動圧面235の端部203aよりも導入部232側(内側)にあることが好ましい。
また、図15,18に示すように、内周壁面2411は、垂直面2412から垂直面2413に向かって側面202と平行に周方向へ平面状に延びており、垂直面2413を介して導入部232と接続されている。内周壁面2411は、軸線x方向に見て、動圧面235よりも低くなる部分である低壁面部2411Lと、動圧面235よりも高くなる部分である高壁面部2411Hとを有している。ただし、内周壁面2411は、その高さが側面202よりも常に低くなっている。なお、内周壁面2411は、低壁面部2411Lおよび高壁面部2411Hを有するようにしたが、これに限らず、全て動圧面235よりも低くなる低壁面部2411Lだけを有するようにしてもよい。
因みに、内周壁面2411は、平面又は略平面であり、平面視矩形状又は平面視略矩形状に延びている。内周壁面2411は、曲面であってもよく、平面視矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、内周壁面2411は、側面202側に向かって広がる又は狭まる平面視台形状であってもよい。また、複数の平面又は略平面、または、複数の曲面又は略平面、または、複数のこれらの面が連続して連なって形成された面であってもよい。
例えば、図19(A)に示すように、内周壁面2411は、垂直面2412から垂直面2413に向かって凹状に沈むように僅かに湾曲した曲面によって形成してもよい。また、図19(B)に示すように、内周壁面2411bは、垂直面2412から垂直面2413に向かって凸状に突出するように僅かに湾曲した曲面によって形成してもよい。この場合、内周壁面2411bは、側面202よりも高さ方向(矢印a方向)において飛び出ることのない高さである。さらに、図19(C)に示すように、内周壁面2411cは、垂直面2412から垂直面2413に向かって波状に湾曲曲面によって形成してもよい。
各凹部203に対しては上述のように2つの内周壁部204が形成されており、内周壁部204は導入部232に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の内周壁部204は、導入部232の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面202まで延びており、他方の内周壁部204は、導入部232の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面202まで延びている。
後述するように、シールリング201の側面202が軸の溝の側面に接触した使用状態において、内周壁部204の内周壁面2411は、軸の溝の側面に対向する。内周壁面2411は側面202に対して平行であり、このため、内周壁面2411は溝の側面には接触せず、溝の側面との間に断面矩形状の空間を形成する。
シールリング201は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材から形成されている。シールリング201の外周面206の周長は、軸が挿通される軸孔の内周面の周長よりも短くなっており、軸孔に対して締め代を持たないようになっている。このため、使用状態において流体圧力がシールリング201に作用していない状態においては、シールリング201の外周面206は軸孔の内周面から離れた状態となる。
また、シールリング201は、無端ではなく、図12〜14に示すように、周方向の1箇所に合口部208が設けられている。合口部208は、シールリング201の熱膨張又は熱収縮によりシールリング201の周長が変化しても安定したシール性能を維持可能にする公知の構造となっている。合口部208の構造としては、例えば、外周面206側及び両側面202,207側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカット構造や、ストレートカット構造、バイアスカット構造、ステップカット構造等がある。また、シールリング201の材料として、低弾性の材料(PTFE等)を採用した場合には、シールリング201には合口部208を設けずに、シールリング201を無端としてもよい。
次いで、上述の構成を有するシールリング201の作用について説明する。
図20は、シールリング201が取付対象としての油圧装置100のハウジング101及びこのハウジング101に形成された貫通孔である軸孔102に挿入された軸110に取り付けられた使用状態におけるシールリング201の部分拡大断面図である。軸110はハウジング101に対して相対回転可能になっており、軸110の外周面111には、中心側に凹む環状の溝112が形成されている。溝112は、断面形状が矩形又は略矩形であり、平面状の側面113,114と底面115とによって画成されている。油圧装置100において、軸孔102の内周面103と軸110の外周面111との間には環状の空間が形成されており、軸110及びハウジング101には、図示しない作動油が充填される油圧経路が形成されている。シールリング201は溝112に取り付けられて油圧経路内の作動油の油圧の損失を防止するために、軸110と軸孔102との間の隙間Gを密封する。図20においては、溝112の右側が油圧経路となっており、溝112の左側の側面113がシールリング1の押し付けられる摺動側面となり、溝112の右側が高圧に、溝112の左側が低圧となる。シールリング201は、側面202が溝112の摺動側面113と対向するように溝112に取り付けられる。
油圧経路に作動油が導かれると油圧経路が高圧となり、シールリング201の外周面206及び側面202が夫々軸孔102の内周面103及び溝112の摺動側面113に押し付けられる。これにより、環状の隙間Gにおいて油圧経路が密封され、油圧の保持が図られる。軸110が回転すると、シールリング201に対して軸110が回転し、シールリング201の側面202に対して溝112の摺動側面113が摺動する。このとき、作動油がシールリング201の導入部232から凹部203内に入り込み、作動油は、動圧部231に導かれ、その油圧により動圧部231を動圧面235に沿って周方向に端部203aまで移動する。シールリング201の側面202と溝112の摺動側面113とは接触しているが、この動圧部231における作動油の移動によって動圧部231の端部203a側の圧力が上がっていき、ついには端部203a側における作動油の圧力は摺動側面113からシールリング201の側面202を離間させる大きさまで高まり、作動油は動圧部231の端部203aから側面202に漏れ出る。これにより、シールリング201の側面202と溝112の摺動側面113との間には作動油による薄い潤滑膜が形成され、シールリング201に対する溝112の摺動抵抗が低減される。このように、使用状態において、凹部203は動圧効果により、シールリング201に対する溝112の摺動抵抗を低減している。
また、内周壁部204の内周壁面2411は、側面202よりも凹んだ状態で当該側面202とは平行かつ平坦に設けられており、溝112の摺動側面113との間に、断面矩形状の空間を形成している。このため、内周壁面2411は、上述の凹部203の動圧効果と同様に作動油によって動圧効果を得ることができ、内周壁面2411によってもシールリング201に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
また、内周壁面2411が側面202に対して垂直面2412を介して当該側面202とは平行に凹んでいるため、凹部203内の作動油を空間へ逃がし、冷却効果を付与することができる。更に、内周壁面2411が側面202に対して垂直面2412を介して当該側面202とは平行に凹んでいるため、シールリング201の側面202が摩耗した場合であっても、内周壁面2411が平らな形状であった場合に較べて摩耗量が少なく、動圧効果の低下を抑制することができる。
また、内周壁面2411と溝112の摺動側面113との間に形成された断面矩形状の空間により、シールリング201の溝112の摺動側面113に対する接触面積を低減することができ、これによってもシールリング201に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
また、シールリング201は、上述のようにシールリング201に対する溝112の摺動抵抗を低減することができる。このため、使用時に摺動部に発生する発熱を抑制することができ、耐久性を確認する際の指標であるP(Pressure)・V(velocity)条件において、更なる高PV条件下での使用が可能になる。また、軟質な軸110に対してもシールリング201を使用することができる。
上述のように、本発明の第3の実施の形態に係るシールリング201によれば、更なる摺動抵抗の低減を図ることができる。
次いで、本発明の第4の実施の形態に係るシールリング210について説明する。図21は、シールリング210の概略構成を示すシールリング210の一方の側の側面の一部を拡大して示す部分拡大側面図であり、図22は、シールリング210の概略構成を示す部分拡大斜視図である。本発明の第4の実施の形態に係るシールリング210は、上述の本発明の第3の実施の形態に係るシールリング201に対して、凹部及び内周壁部の構成が異なる。以下、本発明の第4の実施の形態に係るシールリング210について、本発明の第3の実施の形態に係るシールリング201と同一又は同様の機能を有する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる構成について説明する。
シールリング210は、シールリング201の凹部203とは異なる凹部211を有している。凹部211は、図21,22に示すように、動圧部251と導入部252とを有しており、動圧部251は、動圧面235を1つのみ有している。以下、具体的に説明する。
凹部211の動圧部251は、外周面206及び内周面205から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部251は、径方向において内周面205側に設けられている。動圧部251は、具体的には、側面202が面する側に面する面である底面253を有しており、底面253は、導入部252に接続する導入面234と、導入面234と側面202との間に延びる1つの動圧面235とを有している。
動圧面235は、段差面236を介して導入面234に接続している。また、動圧部251は、導入面234に対して周方向において動圧面235とは反対側に、軸線xに沿って延びる平面又は略平面である端面254を有している。端面254は、導入面234の動圧面235に接続する端部とは周方向において反対側の端部から側面202まで延びている。動圧部251は、使用状態において、接触する軸110の溝112の摺動側面113から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部211の導入部252は、図21,22に示すように、内周面205において側面202側に開放する略U字状の切欠きを形成しており、導入部252は、動圧部251の周方向における一方の端部において動圧部251と接続している。具体的には、導入部252は、動圧部251の導入面234、段差面236、及び端面254と接続しており、導入面234に繋がる底面237を有している。この導入部252により、シールリング210において、内周面205から動圧部251に連通する通路が形成されている。このようにシールリング210の凹部211はL字型となっている。
また、シールリング210は、各凹部211に対して内周壁面2411が形成された内周壁部204を1つのみ有している。図21,22に示すように、導入部252に対して周方向において端面254側には内周壁部204が形成されておらず、導入部252に対して周方向において動圧面235側にのみ内周壁部204が形成されている。
第4の実施の形態に係るシールリング210においても、上述のシールリング201と同様に、使用状態において、軸110の溝112の摺動側面113と動圧面235との間に楔形の空間が形成される。この楔形の空間は、導入面234側から側面202側に向かって高さが徐々に小さくなっている。このため、シールリング210は、上述のシールリング201と同様の効果を奏することができる。
シールリング201においては、2つの動圧面235が設けられており、導入面234(導入部232)に対して周方向において両方の方向に動圧面235が設けられている。このため、シールリング201は、軸110の両方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。
一方、シールリング210には、1つの動圧面235が設けられており、導入面234(導入部252)に対して周方向において一方の方向に動圧面235が設けられている。このため、シールリング210は、軸110の一方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。
また、内周壁部204の内周壁面2411は、溝112の摺動側面113との間に、断面矩形状の空間を形成しているため、上述の凹部203の動圧効果と同様に作動油によって動圧効果を得ることができ、内周壁面2411によってもシールリング201に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
また、内周壁面2411が側面202に対して垂直面2412を介して当該側面202とは平行に凹んでいるため、油圧が生じた場合に側面202の受圧面積が低減するとともに、凹部203内の作動油を逃がし、冷却効果を付与することができる。更に、内周壁面2411が側面202に対して垂直面2412を介して当該側面202とは平行に凹んでいるため、シールリング201の側面202が摩耗した場合であっても動圧効果の低下を抑制することができる。
さらに、内周壁面2411と溝112の摺動側面113との間に形成された断面矩形状の空間により、シールリング201の溝112の摺動側面113に対する接触面積を低減することができ、これによってもシールリング201に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
次いで、本発明の第5の実施の形態に係るシールリング301について説明する。図23は、本発明の第5の実施の形態に係るシールリング301の概略構成を示す一方の側の側面図であり、図24は、シールリング301の概略構成を示す正面図であり、図25は、シールリング301の概略構成を示す他方の側の側面図である。また、図26は、シールリング301の概略構成を示す部分拡大斜視図である。
第5の実施の形態に係るシールリング301は、軸とこの軸が挿入される軸孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であり、車両や汎用機械において、互いに相対回転する軸とハウジング等に形成されたこの軸が挿入される軸孔との間を密封するために用いられる。シールリング301は、例えば、自動変速機や無段変速機において、作動油の油圧を保持するために、軸の外周面に形成された溝に取り付けられて用いられる。なお、本発明の第5の実施の形態に係るシールリング301が適用される対象は、上記に限られない。
図23に示すように、シールリング301は、軸線x周りに環状であり、軸線x方向に面する面である少なくとも1つの側面302と、側面302の周方向において互いに離間して形成された複数の凹部303と、複数の凹部303に対応して夫々形成された複数の内周壁部304とを備えている。凹部303は、側面302に収束するように周方向へ延びる動圧部331と、動圧部331から内周側へ向かって延び、動圧部331を内周側へ開放する導入部332とを有している。
内周壁部304は、凹部303の各々に対して1つ又は2つ設けられており、内周壁部304の各々は、対応する凹部303の動圧部331と導入部332とによって、対応する凹部303の内周側に画成された部分であり、側面302から続く面である内周壁面3421を有している。内周壁面3421は、側面302から所定深さづつ沈み、かつ、側面302に対して平行な状態で周方向へ導入部332に向かって階段状に延びている。より具体的には、内周壁面3421は、側面302から垂直面3412を介して所定深さづつ階段状に形成された平坦な段差面である。
具体的には、側面302は、後述する使用状態において軸に形成された溝の側面に押し付けられる摺動面として形成された面であり、第5の実施の形態に係るシールリング301は、図23,25に示すように、摺動面としての側面302を1つのみ有している。なお、シールリング301は、摺動面としての側面302を2つ有していてもよく、つまり他方の側の面にも摺動面としての側面302を有していてもよい。この場合、軸に形成された溝に対するシールリング301の取り付け方向が制約されなくなり、シールリング301の取り付けが容易になる。
シールリング301は、図23〜25に示すように、軸線xに沿う面における断面の形状が矩形又は略矩形であり、内周側に面する面である内周面305と、外周側に面する面である外周面306と、側面302と、他方の側の面である側面307とを有している。内周面305は、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面であり、外周面306は、内周面305に背向する面であり、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面である。また、側面302は、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面305と外周面306との間に広がっている。側面307は、側面302に背向する面であり、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面305と外周面306との間に広がっている。
摺動面である側面302には、上述のように複数の凹部303が形成されており、凹部303は、軸線x周りに等角度間隔又は略等角度間隔に形成されている。図26,27に示すように、凹部303は、側面302から側面307側へ向かって凹む凹部であり、軸線x方向に見て略T字型になっている。また、凹部303は、側面302において内周面305側に設けられており、使用状態において軸の溝の側面よりも外周側に飛び出さないようになっている。
具体的には、図26,27に示すように、凹部303の動圧部331は、外周面306及び内周面305から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部331は、径方向において内周面305側に設けられている。動圧部331は、具体的には、側面302が面する側に面する面である底面333を有しており、底面333は、導入部332に接続する導入面334と、導入面334と側面302との間に延びる1つ又は2つの動圧面335とを有している。本実施の形態に係るシールリング301においては、底面333は2つの動圧面335を有している。
導入面334は、図26,28に示すように、動圧部331において最も低い側に位置しており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に広がっている。なお、凹部303において、軸線x方向を高さ方向ともいい、この高さ方向(図28,29の矢印a方向)において、シールリング301の内部側を低い側とし、側面302側を高い側とする。導入面334は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。
また、動圧面335は、導入面334から昇るように側面302に対して傾いて周方向へ側面302に向かって矩形状又は略矩形状に延びた平面又は略平面である。動圧面335は、導入面334と側面302との間に延びており、側面302と滑らかに繋がっている。ここで、動圧面335の側面302に対する傾きは傾斜角θとなっており、凹部303の周方向の長さに応じて任意の角度となり得る。
なお、動圧面335は平面又は略平面であると述べたが、これに限らず、曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、動圧面335は、側面302側へ向かって広がる又は狭まる台形状であってもよい。また、動圧面335は、軸線x方向において側面307側に沈む段差を形成する段差面336を介して導入面334に接続している。ただし、凹部303は、段差面336を有しておらず、動圧面335は導入面334に直接接続していてもよい。
凹部303においては上述のように2つの動圧面335が形成されており、動圧面335は底面333において導入面334に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の動圧面335は、導入面334の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面302まで延びており、他方の動圧面335は、導入面334の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面302まで延びている。動圧部331は、後述する使用状態において、接触する軸の溝の側面から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部303の導入部332では、図26,27に示すように、内周面305に側面307側に開放する略U字状の切欠きが形成されており、動圧部331の周方向における端部(端部303a)の間において動圧部331と接続されている。具体的には、導入部332は、動圧部331の導入面334及び段差面336に接続しており、導入面334に繋がる底面337を有している。この底面337は、動圧部331の導入面334と滑らかに接続しており、底面337は、例えば導入面334と同じ高さに位置する面である。この導入部332により、シールリング301において、内周面305から動圧部331に連通する通路が形成されている。
後述するように、シールリング301の側面302が軸の溝の側面に接触した使用状態において、凹部303は内周面305の接する空間と連通し、より具体的には、動圧部331は導入部332を介して内周面305の接する空間と連通する。そして、使用状態において、動圧部331は軸の溝の側面との間に周方向に延びる空間を形成し、動圧面335は、軸の溝の側面との間に周方向に延びる、導入面334側から側面302側に向かって高さ(高さ方向の幅)が徐々に小さくなる空間を形成する。
上述のように、複数の凹部303に対応して夫々複数の内周壁部304が形成されており、具体的には、図26,27に示すように、各凹部303に対して、2つの内周壁部304が動圧部331の動圧面335よりも内周面305側に形成されている。
内周壁部304は、動圧部331の1つの動圧面335が延びる周方向の部分と、導入部332と、内周面305とによって画成された部分である。内周壁部304は、動圧部331の動圧面335と内周側で隣接して、側面302よりは低いが動圧面335よりは高くなるように当該側面302から段階的に所定深さづつ沈む階段状に周方向へ導入部332に向かって延びた段差面である内周壁面3421を有している。内周壁部304は、内周壁面3421と、内周壁面3421の導入部332側の端部から側面302の内部側へ当該側面302とは垂直であって軸線xに沿って延びる面である垂直面3422とを有している。
内周壁部304の内周壁面3421は、側面302が面する側に面しており、周方向において動圧面335と同じ又は略同じ範囲に延びている。具体的には、内周壁面3421は、周方向において、動圧部331の段差面336と同じ位置から動圧部331の端部303aと同じ位置まで、または、動圧部331の段差面336と同じ位置から動圧部331の端部303aの近傍まで階段状の段差を持って延びている。
また、図26,29に示すように、内周壁面3421は、側面302から向かって側面302と平行に周方向へ階段状に段差を設けながら延びており、垂直面3422を介して導入部332と接続されている。
因みに、内周壁面3421は、平面又は略平面であり、平面視矩形状又は略矩形状に延びているが、これに限るものではなく、平面視曲面であってもよく、平面視矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、内周壁面3421は、側面302側に向かって広がる又は狭まる平面視台形状であってもよい。
また、内周壁面3421は、4段の階段状に形成されているが、これに限るものではなく、図30(A)に示すように、少なくとも2段以上であれば、3段でも、5段以上であってもよい。さらに、内周壁面3421は、図30(B)に示すように、周方向の導入部332へ延びる長さL1〜L4の夫々が均等ではなく、次第に長くなるようにしてもよく、また、逆に次第に短くなるようにしてもよい。さらに、内周壁面3421は、階段状の段差の高さが全て均等であるばかりではなく、段差の高さが各段毎に異なっていてもよい。
各凹部303に対しては上述のように2つの内周壁部304が形成されており、内周壁部304は導入部332に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の内周壁部304は、導入部332の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面302まで延びており、他方の内周壁部304は、導入部332の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面302まで延びている。
後述するように、シールリング301の側面302が軸の溝の側面に接触した使用状態において、内周壁部304の内周壁面3421は、軸の溝の側面に対向する。内周壁面3421は側面302に対して平行な階段状であり、このため、内周壁面3421は溝の側面には接触せず、溝の側面との間に大きさの異なる断面矩形状の空間が複数連なった階段状の空間を形成する。この空間は、導入部332側から側面302側へ向かって高さが徐々に小さくなっていくような形状である。
シールリング301は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材から形成されている。シールリング301の外周面306の周長は、軸が挿通される軸孔の内周面の周長よりも短くなっており、軸孔に対して締め代を持たないようになっている。このため、使用状態において流体圧力がシールリング301に作用していない状態においては、シールリング301の外周面306は軸孔の内周面から離れた状態となる。
また、シールリング301は、無端ではなく、図23〜25に示すように、周方向の1箇所に合口部308が設けられている。合口部308は、シールリング301の熱膨張又は熱収縮によりシールリング301の周長が変化しても安定したシール性能を維持可能にする公知の構造となっている。合口部308の構造としては、例えば、外周面306側及び両側面302,307側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカット構造や、ストレートカット構造、バイアスカット構造、ステップカット構造等がある。また、シールリング301の材料として、低弾性の材料(PTFE等)を採用した場合には、シールリング301には合口部308を設けずに、シールリング301を無端としてもよい。
次いで、上述の構成を有するシールリング301の作用について説明する。
図31は、シールリング301が取付対象としての油圧装置100のハウジング101及びこのハウジング101に形成された貫通孔である軸孔102に挿入された軸110に取り付けられた使用状態におけるシールリング301の部分拡大断面図である。軸110はハウジング101に対して相対回転可能になっており、軸110の外周面111には、中心側に凹む環状の溝112が形成されている。溝112は、断面形状が矩形又は略矩形であり、平面状の側面113,114と底面115とによって画成されている。
油圧装置100において、軸孔102の内周面103と軸110の外周面111との間には環状の空間が形成されており、軸110及びハウジング101には、図示しない作動油が充填される油圧経路が形成されている。シールリング301は溝112に取り付けられて油圧経路内の作動油の油圧の損失を防止するために、軸110と軸孔102との間の隙間Gを密封する。
図31においては、溝112の右側が油圧経路となっており、溝112の左側の側面113がシールリング301の押し付けられる摺動側面となり、溝112の右側が高圧に、溝112の左側が低圧となる。シールリング301は、側面302が溝112の摺動側面113と対向するように溝112に取り付けられる。
油圧経路に作動油が導かれると油圧経路が高圧となり、シールリング301の外周面306及び側面302が夫々軸孔102の内周面103及び溝112の摺動側面113に押し付けられる。これにより、環状の隙間Gにおいて油圧経路が密封され、油圧の保持が図られる。軸110が回転すると、シールリング301に対して軸110が回転し、シールリング301の側面302に対して溝112の摺動側面113が摺動する。このとき、作動油がシールリング301の導入部332から凹部303内に入り込み、作動油は、動圧部331に導かれ、その油圧により動圧部331を動圧面335に沿って周方向へ端部303aまで移動する。シールリング301の側面302と溝112の摺動側面113とは接触しているが、この動圧部331における作動油の移動によって動圧部331の端部303a側の圧力が上がっていき、ついには端部303a側における作動油の圧力は摺動側面113からシールリング301の側面302を離間させる大きさまで高まり、作動油は動圧部331の端部303aから側面302に漏れ出る。これにより、シールリング301の側面302と溝112の摺動側面113との間には作動油による薄い潤滑膜が形成され、シールリング301に対する溝112の摺動抵抗が低減される。このように、使用状態において、凹部303は動圧効果により、シールリング301に対する溝112の摺動抵抗を低減している。
また、内周壁部304の内周壁面3421は、側面302よりも段階的に凹んだ階段状で当該側面302とは平行かつ平坦に設けられており、溝112の摺動側面113との間に、階段状の空間を形成している。このため、内周壁面3421は、上述の凹部303の動圧効果と同様に作動油によって動圧効果を得ることができ、内周壁面3421によってもシールリング301に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
また、内周壁面3421が側面302に対して平行かつ段階的にその高さが変わるように凹んでいるため、凹部303内の作動油を導入部332から容易に逃がすことができ、高い冷却効果を付与することができる。更に、内周壁面3421が側面302に対して垂直面3422を介して当該側面302とは段階的に平行に凹んでいるため、シールリング301の側面302が摩耗した場合であっても、内周壁面3421が平らな形状であった場合に較べて摩耗量が少なく、動圧効果の低下を抑制することができる。
また、内周壁面3421と溝112の摺動側面113との間に形成された階段状の空間により、シールリング301の溝112の摺動側面113に対する接触面積を低減することができ、これによってもシールリング301に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
また、シールリング301は、上述のようにシールリング301に対する溝112の摺動抵抗を低減することができる。このため、使用時に摺動部に発生する発熱を抑制することができ、耐久性を確認する際の指標であるP(Pressure)・V(velocity)条件において、更なる高PV条件下での使用が可能になる。また、軟質な軸110に対してもシールリング301を使用することができる。
上述のように、本発明の第5の実施の形態に係るシールリング301によれば、更なる摺動抵抗の低減を図ることができる。
次いで、本発明の第6の実施の形態に係るシールリング310について説明する。図32は、シールリング310の概略構成を示すシールリング310の一方の側の側面の一部を拡大して示す部分拡大側面図であり、図33は、シールリング310の概略構成を示す部分拡大斜視図である。本発明の第6の実施の形態に係るシールリング310は、上述の本発明の第5の実施の形態に係るシールリング301に対して、凹部及び内周壁部の構成が異なる。以下、本発明の第6の実施の形態に係るシールリング310について、本発明の第5の実施の形態に係るシールリング301と同一又は同様の機能を有する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる構成について説明する。
シールリング310は、シールリング301の凹部303とは異なる凹部311を有している。凹部311は、図32,33に示すように、動圧部351と導入部352とを有しており、動圧部351は、動圧面335を1つのみ有している。以下、具体的に説明する。
凹部311の動圧部351は、外周面306及び内周面305から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部351は、径方向において内周面305側に設けられている。動圧部351は、具体的には、側面302が面する側に面する面である底面353を有しており、底面353は、導入部352に接続する導入面334と、導入面334と側面302との間に延びる1つの動圧面335とを有している。
動圧面335は、段差面336を介して導入面334に接続している。また、動圧部351は、導入面334に対して周方向において動圧面335とは反対側に、軸線xに沿って延びる平面又は略平面である端面354を有している。端面354は、導入面334の動圧面335に接続する端部とは周方向において反対側の端部から側面302まで延びている。動圧部351は、使用状態において、接触する軸110の溝112の摺動側面113から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部311の導入部352は、図32,33に示すように、内周面305において側面302側に開放する略U字状の切欠きを形成しており、導入部352は、動圧部351の周方向における一方の端部において動圧部351と接続している。具体的には、導入部352は、動圧部351の導入面334、段差面336、及び端面354と接続しており、導入面334に繋がる底面337を有している。この導入部352により、シールリング310において、内周面305から動圧部351に連通する通路が形成されている。このようにシールリング310の凹部311はL字型となっている。
また、シールリング310は、各凹部311に対して内周壁面3421が形成された内周壁部304を1つのみ有している。図32,33に示すように、導入部352に対して周方向において端面354側には内周壁部304が形成されておらず、導入部352に対して周方向において動圧面335側にのみ内周壁部304が形成されている。
第6の実施の形態に係るシールリング310においても、上述のシールリング301と同様に、使用状態において、軸110の溝112の摺動側面113と動圧面335との間に楔形の空間が形成される。この楔形の空間は、導入面334側から側面302側に向かって高さが徐々に小さくなっている。このため、シールリング310は、上述のシールリング301と同様の効果を奏することができる。
シールリング301においては、2つの動圧面335が設けられており、導入面334(導入部332)に対して周方向において両方の方向に動圧面335が設けられている。このため、シールリング301は、軸110の両方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。一方、シールリング310には、1つの動圧面335が設けられており、導入面334(導入部352)に対して周方向において一方の方向に動圧面335が設けられている。このため、シールリング310は、軸110の一方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。
また、内周壁部304の内周壁面3421は、溝112の摺動側面113との間に、階段状の空間を形成しているため、上述の凹部303の動圧効果と同様に作動油によって動圧効果を得ることができ、内周壁面3421によってもシールリング301に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。また、内周壁面3421が側面302に対して当該側面302とは平行に段階的に凹んでいるため、油圧が生じた場合に側面302の受圧面積が低減するとともに、凹部303内の作動油を容易に逃がし、高い冷却効果を付与することができる。更に、内周壁面3421が側面302に対して当該側面302とは段階的に平行に凹んでいるため、シールリング301の側面302が摩耗した場合であっても動圧効果の低下を抑制することができる。
さらに、内周壁面3421と溝112の摺動側面113との間に形成された階段状の空間により、シールリング301の溝112の摺動側面113に対する接触面積を低減することができ、これによってもシールリング301に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
次いで、本発明の第7の実施の形態に係るシールリング401について説明する。図34は、本発明の第7の実施の形態に係るシールリング401の概略構成を示す一方の側の側面図であり、図35は、シールリング401の概略構成を示す正面図であり、図36は、シールリング401の概略構成を示す他方の側の側面図である。また、図37は、シールリング401の概略構成を示す部分拡大斜視図である。
本実施の形態に係るシールリング401は、軸とこの軸が挿入される軸孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であり、車両や汎用機械において、互いに相対回転する軸とハウジング等に形成されたこの軸が挿入される軸孔との間を密封するために用いられる。シールリング401は、例えば、自動変速機や無段変速機において、作動油の油圧を保持するために、軸の外周面に形成された溝に取り付けられて用いられる。なお、本発明の実施の形態に係るシールリング401が適用される対象は、上記に限られない。
図34に示すように、シールリング401は、軸線x周りに環状であり、軸線x方向に面する面である側面402と、側面402に周方向において互いに離間して形成された複数の動圧部403と、側面402の内周側に形成された内周壁部404と、側面402の外周側に形成された外周壁部405とを備えている。内周壁部404は、側面402の面する側(以下、摺動面側ともいう。)に側面402よりも突出する環状の部分であり、外周壁部405は、側面402の面する側に側面402よりも突出する環状の部分である。動圧部403は、側面402に収束する周方向に延びる凹部である。内周壁部404は、軸線x方向に面する面である内周壁面441と、内周壁面441に形成された外周側と内周側との間に延びる動圧部403を内周側に開放する凹部である導入部442とを有している。外周壁部405は、軸線x方向に面する面である外周壁面451を有している。
シールリング401は、図34〜36に示すように、軸線xに沿う面における断面の形状が矩形又は略矩形であり、内周側に面する面である内周面406と、外周側に面する外周面407と、摺動面側の面と、他方の側面である側面408とを有している。内周面406は、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面であり、外周面407は、内周面406に背向する面であり、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面である。また、側面402は、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面406と外周面407との間の途中に広がっており、側面408は、摺動面側の面に背向する面であり、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面406と外周面407との間に広がっている。
側面402には、上述のように複数の動圧部403が形成されており、動圧部403は、軸線x周りに等角度間隔又は略等角度間隔に形成されている。図37,38に示すように、動圧部403は、側面402から側面408側に凹む凹部であり、径方向において側面402と同一の幅を有しており、使用状態において軸の溝の側面よりも外周側に飛び出さないようになっている。動圧部403の径方向における幅は、側面402の径方向における幅よりも小さくてもよい。
具体的には、図37,38に示すように、動圧部403は、外周面407及び内周面406から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部403は、径方向において内周面406側に設けられている。動圧部403は、具体的には、側面402が面する側に面する面である底面431を有しており、底面431は、導入部442に接続する導入面432と、導入面432と側面402との間に延びる1つ又は2つの動圧面433とを有している。本実施の形態に係るシールリング401においては、底面431は2つの動圧面433を有している。
導入面432は、図37,38に示すように、動圧部403において最も低い側に位置しており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に広がっている。なお、動圧部403において、軸線x方向を高さ方向ともいい、この高さ方向(図39,40の矢印a方向)において、シールリング401の内部側を低い側とし、側面402側を高い側とする。導入面432は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。また、動圧面433は、導入面432から昇るように側面402に対して傾いて周方向に側面402に向かって延びており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に延びている。動圧面433は、導入面432と側面402との間に延びており、側面402に滑らかに繋がっている。動圧面433は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、動圧面433は、側面402側に向かって広がる又は狭まる台形状であってもよい。また、動圧面433は、軸線x方向において側面408側に沈む段差を形成する段差面434を介して導入面432に接続している。動圧部403は、段差面434を有しておらず、動圧面433は導入面432に直接接続していてもよい。
動圧部403においては上述のように2つの動圧面433が形成されており、動圧面433は底面431において導入面432に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の動圧面433は、導入面432の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面402まで延びており、他方の動圧面433は、導入面432の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面402まで延びている。動圧部403又は側面402は、後述する使用状態において、接触する軸の溝の側面から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
上述のように、側面402の内周側には摺動面側に突出する環状の内周壁部404が形成されている。具体的には、図38,40に示すように、内周壁部404は、内周面406の摺動面側の一部と、内周壁面441と、側面402の内周側の縁から摺動面側に内周壁面441まで延びる環状の面である外周面443とによって画成されている。内周壁面441は、軸線xに直交する平面に沿って延びている平面又は略平面である。内周壁面441は、後述するシールリング401の使用状態において、軸の溝の側面に接触するような位置に位置している。なお、内周壁面441は、曲面であってもよいが、この場合、平面に対して環状に(全周に亘って)接触するようになっていることが好ましい。
また、上述のように、内周壁部404には、径方向に延びて内周壁部404を貫通して動圧部403に連通する導入部442が形成されている。導入部442は、図37,38に示すように、内周壁面441を分断しており、摺動面側に開放している。また、導入部442は、各動圧部403に対応して1つ設けられており、動圧部403の周方向における端部(端部403a)の間において動圧部403に接続している。具体的には、図38,40に示すように、導入部442は、底面444及び互いに対向する一対の端面445によって画成されており、底面444は動圧部403の導入面432に接続しており、端面445は動圧部403の段差面434に接続している。底面444は、導入面432に滑らかに接続しており、例えば導入面432と面一となっている。端面445は、段差面434に滑らかに接続しており、例えば導入面432と面一となっている。この導入部442により、シールリング401において、内周面406から動圧部403に連通する通路が形成されている。図38に示すように、動圧部403及び導入部442が形成する凹部は、摺動面側から見てT字型になっている。なお、動圧部403が側面402の径方向における幅全体に形成されていない場合は、動圧部403の導入面432及び段差面434は、側面402を超えて導入部442まで延びている。
また、上述のように、側面402の外周側には摺動面側に突出する環状の外周壁部405が形成されている。具体的には、図38,40に示すように、外周壁部405は、外周面407の摺動面側の一部と、外周壁面451と、側面402の外周側の縁から摺動面側に外周壁面451まで延びる環状の面である内周面452とによって画成されている。外周壁面451は、軸線xに直交する平面に沿って延びている平面又は略平面である。外周壁面451は、後述するシールリング401の使用状態において、軸の溝の側面に接触するような位置に位置している。具体的には、外周壁部405は、高さ方向(図40の矢印a方向)において、内周壁部404と同一の高さ(位置)まで突出しており、外周壁面451及び内周壁面441は、軸線x方向(高さ方向)に直交する同一の面上に位置するようになっている。また、外周壁面451は、後述する使用状態において、軸の溝の側面と少なくとも内周側の一部が接触するような径方向の位置に形成されている。なお、外周壁面451は、曲面であってもよいが、この場合、平面に対して環状に接触するようになっていることが好ましい。
後述するように、シールリング401の使用状態において、外周壁部405の外周壁面451及び内周壁部4の内周壁面41は軸の溝の側面に接触し、動圧部403は導入部442を介して内周面406の接する空間に連通する。そして、使用状態において、動圧部403は軸の溝の側面との間に周方向に延びる空間を形成し、動圧面433は、軸の溝の側面との間に周方向に延びる、導入面432側から側面402側に向かって高さ(高さ方向の幅)が徐々に小さくなる楔状の空間を形成する。
シールリング401は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材から形成されている。シールリング401の外周面407の周長は、軸が挿通される軸孔の内周面の周長よりも短くなっており、軸孔に対して締め代を持たないようになっている。このため、使用状態において流体圧力がシールリング401に作用していない状態においては、シールリング401の外周面407は軸孔の内周面から離れた状態となる。
また、シールリング401は、無端ではなく、図34〜36に示すように、周方向の1箇所に合口部409が設けられている。合口部409は、シールリング401の熱膨張又は熱収縮によりシールリング401の周長が変化しても安定したシール性能を維持可能にする公知の構造となっている。合口部409の構造としては、例えば、外周面407側、摺動面側、及び側面408側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカット構造や、ストレートカット構造、バイアスカット構造、ステップカット構造等がある。また、シールリング401の材料として、低弾性の材料(PTFE等)を採用した場合には、シールリング1には合口部409を設けずに、シールリング401を無端としてもよい。
次いで、上述の構成を有するシールリング401の作用について説明する。
図41は、シールリング401が取付対象としての油圧装置100のハウジング101及びこのハウジング101に形成された貫通孔である軸孔102に挿入された軸110に取り付けられた使用状態におけるシールリング401の部分拡大断面図である。軸110はハウジング101に対して相対回転可能になっており、軸110の外周面111には、中心側に凹む環状の溝112が形成されている。溝112は、断面形状が矩形又は略矩形であり、平面状の側面113,114と底面115とによって画成されている。油圧装置100において、軸孔102の内周面103と軸110の外周面111との間には環状の空間が形成されており、軸110及びハウジング101には、図示しない作動油が充填される油圧経路が形成されている。シールリング401は溝112に取り付けられて油圧経路内の作動油の油圧の損失を防止するために、軸110と軸孔102との間の隙間Gを密封する。図41においては、溝112の右側が油圧経路となっており、溝112の左側の側面113がシールリング401の押し付けられる摺動側面となり、溝112の右側が高圧に、溝112の左側が低圧となる。シールリング401は、摺動面側(動圧部403)が溝112の摺動側面113と対向するように溝112に取り付けられる。
油圧経路に作動油が導かれると油圧経路が高圧となり、シールリング401の外周面407及び外周壁面451並びに内周壁面441が夫々軸孔102の内周面103及び溝112の摺動側面113に押し付けられる。これにより、環状の隙間Gにおいて油圧経路が密封され、油圧の保持が図られる。軸110が回転すると、シールリング401に対して軸110が回転し、シールリング401の外周壁面451並びに内周壁面441に対して溝112の摺動側面113が摺動する。このとき、作動油がシールリング401の導入部442から動圧部403内に入り込み、作動油は、動圧部403に導かれ、その油圧により動圧部403を動圧面433に沿って周方向に端部403aまで移動する。シールリング401の側面402と溝112の摺動側面113との間には微小な空間が形成されているが外周壁部405及び内周壁部404とによって密封されており、この動圧部403における作動油の移動によって動圧部403の端部403a側の圧力が上がっていき、ついには端部403a側における作動油の圧力は摺動側面113からシールリング401の外周壁面451並びに内周壁面441を離間させる大きさまで高まる。これにより、シールリング401の外周壁面451並びに内周壁面441と溝112の摺動側面113との間には作動油による薄い潤滑膜が形成され、シールリング401に対する溝112の摺動抵抗が低減される。このように、使用状態において、動圧部403は動圧効果により、シールリング401に対する溝112の摺動抵抗を低減している。
また、側面402と溝112の摺動側面113との間に形成された空間により、シールリング401の溝112の摺動側面113に対する接触面積を低減することができ、これによってもシールリング401に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
また、シールリング401は、上述のようにシールリング401に対する溝112の摺動抵抗を低減することができる。このため、使用時に摺動部に発生する発熱を抑制することができ、更なる高PV条件下での使用が可能になる。また、軟質な軸110に対してもシールリング401を使用することができる。
上述のように、本発明の第7の実施の形態に係るシールリング401によれば、更なる摺動抵抗の低減を図ることができる。
次いで、本発明の第8の実施の形態に係るシールリング410について説明する。図42は、シールリング410の概略構成を示すシールリング410の一方の側の側面の一部を拡大して示す部分拡大側面図であり、図43は、シールリング410の概略構成を示す部分拡大斜視図である。本発明の第8の実施の形態に係るシールリング410は、上述の本発明の第7の実施の形態に係るシールリング401に対して、動圧部及び内周壁部の構成が異なる。以下、本発明の第8の実施の形態に係るシールリング410について、本発明の第7の実施の形態に係るシールリング401と同一又は同様の機能を有する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる構成について説明する。
シールリング410は、シールリング401の動圧部403及び導入部442とは異なる動圧部411及び導入部461を有している。動圧部411は、図42,43に示すように、底面462を有しており、底面462は、動圧面433を1つのみ有している。以下、具体的に説明する。
動圧部411は、側面402において、軸線x周りに等角度間隔又は略等角度間隔に設けられており、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部411は、具体的には、側面402が面する側に面する面である底面462を有しており、底面462は、導入部461に接続する導入面432と、導入面432と側面402との間に延びる1つの動圧面433とを有している。動圧面433は、段差面434を介して導入面432に接続している。また、動圧部411は、導入面432に対して周方向において動圧面433とは反対側に、軸線xに沿って延びる平面又は略平面である端面463を有している。端面463は、導入面432の動圧面433(段差面434)に接続する端部とは周方向において反対側の端部から側面402まで延びており、段差面434に対向している。動圧部411又は側面402は、使用状態において、接触する軸110の溝112の摺動側面113から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。つまり、上述のシールリング401と同様に、外周壁部405の外周壁面451は、使用状態において、摺動側面113と少なくとも内周側の一部が接触するような径方向の位置に形成されている。
内周壁部404の導入部461は、図42,43に示すように、径方向に延びて内周壁部404を貫通して動圧部411に連通しており、内周壁面441を分断しており、摺動面側に開放している。また、導入部461は、各動圧部411に対応して1つ設けられており、動圧部411の周方向における一方の端部において動圧部411に接続している。具体的には、導入部461は、動圧部411の導入面432、段差面434、及び端面463に接続している。より具体的には、導入部461は、シールリング401の導入部442と同様に、底面444、端面445、及び端面445に対向する端面446によって画成されており、底面444が導入面432に、端面445が段差面434に、端面446が端面463に夫々繋がっている。この導入部461により、シールリング410において、内周面406から動圧部411に連通する通路が形成されている。このようにシールリング410においては、図43に示すように、動圧部411及び導入部461が形成する凹部は、摺動面側から見てL字型となっている。上述のシールリング401においては、各動圧部403に対して2つの領域において内周壁部404が延びていたが、シールリング410おいては、各動圧部411に対して1つの領域においてのみ内周壁部404が延びている。
本実施の形態に係るシールリング410においても、上述のシールリング401と同様に、使用状態において、軸110の溝112の摺動側面113と動圧面433との間に楔形の空間が形成される。この楔形の空間は、導入面432側から側面402側に向かって高さが徐々に小さくなっている。このため、シールリング410は、上述のシールリング401と同様の効果を奏することができる。シールリング401においては、2つの動圧面433が設けられており、導入面432に対して周方向において両方の方向に動圧面433が設けられている。このため、シールリング401は、軸110の両方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。一方、シールリング410には、1つの動圧面433が設けられており、導入面432に対して周方向において一方の方向に動圧面433が設けられている。このため、シールリング410は、軸110の一方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。
上述の第7の実施の形態においては、外周壁部405は、高さ方向(図40の矢印a方向)において、内周壁部404と同一の高さ(位置)まで側面402から突出しており、外周壁面451及び内周壁面441は、軸線x方向に直交する同一の面上に位置するようになっているとしたが、外周壁面451と内周壁面441との軸線x方向における位置関係はこれに限られない。外周壁面451は、軸線x方向において、内周壁面441よりも摺動面側に位置していてもよく、外周壁部405は、内周壁部404よりも摺動面側に突出していてもよい。この場合、使用状態において、内周壁面441は溝112の摺動側面113に接触せず、内周壁面441と摺動側面113との間に空間が形成される。これにより、シールリング401,410の溝112の摺動側面113に対する接触面積を低減することができ、これによってもシールリング401,410に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
次いで、本発明の第9の実施の形態に係るシールリング501について説明する。図44は、本発明の第9の実施の形態に係るシールリング501の概略構成を示す一方の側の側面図であり、図45は、シールリング501の概略構成を示す正面図であり、図46は、シールリング501の概略構成を示す他方の側の側面図である。また、図47は、シールリング501の概略構成を示す部分拡大斜視図である。
第9の実施の形態に係るシールリング501は、軸とこの軸が挿入される軸孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であり、車両や汎用機械において、互いに相対回転する軸とハウジング等に形成されたこの軸が挿入される軸孔との間を密封するために用いられる。シールリング501は、例えば、自動変速機や無段変速機において、作動油の油圧を保持するために、軸の外周面に形成された溝に取り付けられて用いられる。なお、本発明の第9の実施の形態に係るシールリング501が適用される対象は、上記に限られない。
図44に示すように、シールリング501は、軸線x周りに環状であり、軸線x方向に面する面である少なくとも1つの側面502と、側面502に周方向において互いに離間して形成された複数の凹部503とを備えている。凹部503は、側面502に収束する周方向に延びる動圧部531と、動圧部531から内周側に向かって延びる動圧部531を内周側に開放する導入部532とを有している。
具体的には、側面502は、後述する使用状態において軸に形成された溝の溝側面に押し付けられる摺動面として形成された側面であり、本実施の形態に係るシールリング501は、図44,46に示すように、摺動面としての側面502を1つのみ有している。シールリング501は、摺動面としての側面502を2つ有していてもよく、つまり他方の側面にも摺動面としての側面502を有していてもよい。この場合、軸に形成された溝に対するシールリング501の取り付け方向が無くなり、シールリング501の取り付けが容易になる。
シールリング501は、図44〜46に示すように、軸線xに沿う面における断面の形状が矩形又は略矩形であり、内周側に面する面である内周面505と、外周側に面する外周面506と、側面502と、他方の側面である側面507とを有している。内周面505は、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面であり、外周面506は、内周面505に背向する面であり、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面である。また、側面502は、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面505と外周面506との間に広がっており、側面507は、側面502に背向する面であり、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面505と外周面506との間に広がっている。
摺動面である側面502には、上述のように複数の凹部503が形成されており、凹部503は、軸線x周りに等角度間隔又は略等角度間隔に形成されている。図47,48に示すように、凹部503は、側面502から側面507側に凹む凹部であり、軸線x方向に見て略T字型になっている。また、凹部503は、側面502において内周面505側に設けられており、使用状態において軸の溝の側面よりも外周側に飛び出さないようになっている。
具体的には、図47,48に示すように、凹部503の動圧部531は、外周面506及び内周面505から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部531は、径方向において内周面505側に設けられている。動圧部531は、具体的には、側面502が面する側に面する面である底面533を有しており、底面533は、導入部532に接続する導入面534と、導入面534と側面502との間に延びる1つ又は2つの動圧面535とを有している。本実施の形態に係るシールリング501においては、底面533は2つの動圧面535を有している。
導入面534は、図47,49に示すように、動圧部531において最も低い側に位置しており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に広がっている。なお、凹部503において、軸線x方向を高さ方向ともいい、この高さ方向(図49の矢印a方向)において、シールリング501の内部側を低い側とし、側面502側を高い側とする。導入面534は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。また、動圧面535は、導入面534から昇るように側面502に対して傾いて周方向に側面502に向かって延びており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に延びている。動圧面535は、導入面534と側面502との間に延びており、側面502に滑らかに繋がっている。動圧面535は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、動圧面535は、側面502側に向かって広がる又は狭まる台形状であってもよい。また、動圧面535は、軸線x方向において側面507側に沈む段差を形成する段差面536を介して導入面534に接続している。凹部503は、段差面536を有しておらず、動圧面535は導入面534に直接接続していてもよい。
凹部503においては上述のように2つの動圧面535が形成されており、動圧面535は底面533において導入面534に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の動圧面535は、導入面534の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面502まで延びており、他方の動圧面535は、導入面534の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面502まで延びている。動圧部531は、後述する使用状態において、接触する軸の溝の側面から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部503の導入部532では、図47,48に示すように、内周面505に側面507側に開放する略U字状の切欠きが形成されており、動圧部531の周方向における端部(端部503a)の間において動圧部531と接続されている。具体的には、導入部532は、動圧部531の導入面534及び段差面536に接続しており、導入面534に繋がる底面537を有している。この底面537は、動圧部531の導入面534と滑らかに接続しており、底面537は、例えば導入面534と同じ高さに位置する面である。この導入部532により、シールリング501において、内周面505から動圧部531に連通する通路が形成されている。
後述するように、シールリング501の側面502が軸の溝の側面に接触した使用状態において、凹部503は内周面505の接する空間と連通し、より具体的には、動圧部531は導入部532を介して内周面505の接する空間と連通する。そして、使用状態において、動圧部531は軸の溝の側面との間に周方向に延びる空間を形成し、動圧面535は、軸の溝の側面との間に周方向に延びる、導入面534側から側面502側に向かって高さ(高さ方向の幅)が徐々に小さくなる空間を形成する。
また、複数の凹部503には、互いに隣接する凹部503と凹部503とを連通する連通溝SL1が設けられている。連通溝SL1は、互いに隣接する凹部503の動圧部531と凹部503の動圧部531とを連通する断面矩形状の凹部からなる平面視略湾曲状のスリットである。連通溝SL1は、互いに隣接する動圧部531の空間同士を連通する流路でもあり、その深さは任意に設定可能である。連通溝SL1の幅は、動圧面535の幅よりも短くなっているが、連通溝SL1の幅が動圧面535の幅とほぼ同じ程度の幅を有していてもよい。
なお、連通溝SL1は、断面矩形状に限るものではなく、断面略U字状の凹部からなっていてもよく、その他の種々の断面形状であってもよい。さらに、連通溝SL1は、側面502の周方向に沿って平面視湾曲状であるが直線状であってもよく、要は、凹部503の動圧部531と凹部503の動圧部531とを連通することができれば、断面形状および平面視形状等は任意である。
この場合、連通溝SL1は、複数の凹部503の全てに設けられているようにしたが、これに限るものではなく、例えば、3個の凹部503ごとに区切って、その3個の凹部503については連通溝SL1で接続されるが、隣り合う3個の凹部503との間には連通溝SL1が設けられていないようにしてもよい。さらに、3個の凹部503に限らず、4個、8個、n個ごとに区切って凹部503同士が連通溝SL1で接続されるようにしてもよい。
シールリング501は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材から形成されている。シールリング1の外周面506の周長は、軸が挿通される軸孔の内周面の周長よりも短くなっており、軸孔に対して締め代を持たないようになっている。このため、使用状態において流体圧力がシールリング501に作用していない状態においては、シールリング501の外周面506は軸孔の内周面から離れた状態となる。
また、シールリング501は、無端ではなく、図44〜46に示すように、周方向の1箇所に合口部508が設けられている。合口部508は、シールリング501の熱膨張又は熱収縮によりシールリング501の周長が変化しても安定したシール性能を維持可能にする公知の構造となっている。合口部508の構造としては、例えば、外周面506側及び両側面502,507側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカット構造や、ストレートカット構造、バイアスカット構造、ステップカット構造等がある。また、シールリング501の材料として、低弾性の材料(PTFE等)を採用した場合には、シールリング501には合口部508を設けずに、シールリング501を無端としてもよい。
次いで、上述の構成を有するシールリング501の作用について説明する。
図50は、シールリング501が取付対象としての油圧装置100のハウジング101及びこのハウジング101に形成された貫通孔である軸孔102に挿入された軸110に取り付けられた使用状態におけるシールリング501の部分拡大断面図である。軸110はハウジング101に対して相対回転可能になっており、軸110の外周面111には、中心側に凹む環状の溝112が形成されている。溝112は、断面形状が矩形又は略矩形であり、平面状の側面113,114と底面115とによって画成されている。油圧装置100において、軸孔102の内周面103と軸110の外周面111との間には環状の空間が形成されており、軸110及びハウジング101には、図示しない作動油が充填される油圧経路が形成されている。シールリング501は溝112に取り付けられて油圧経路内の作動油の油圧の損失を防止するために、軸110と軸孔102との間の隙間Gを密封する。図50においては、溝112の右側が油圧経路となっており、溝112の左側の側面113がシールリング501が押し付けられる摺動側面となり、溝112の右側が高圧に、溝112の左側が低圧となる。シールリング501は、側面2が溝112の摺動側面113と対向するように溝112に取り付けられる。
油圧経路に作動油が導かれると油圧経路が高圧となり、シールリング501の外周面506及び側面502が夫々軸孔102の内周面103及び溝112の摺動側面113に押し付けられる。これにより、環状の隙間Gにおいて油圧経路が密封され、油圧の保持が図られる。軸110が回転すると、シールリング501に対して軸110が回転し、シールリング501の側面502に対して溝112の摺動側面113が摺動する。このとき、作動油がシールリング501の導入部532から凹部503内に入り込み、作動油は、動圧部531に導かれ、その油圧により動圧部531を動圧面535に沿って周方向に端部503aまで移動する。シールリング501の側面502と溝112の摺動側面113とは接触しているが、この動圧部531における作動油の移動によって動圧部531の端部503a側の圧力が上がっていき、ついには端部503a側における作動油の圧力は摺動側面113からシールリング501の側面502を離間させる大きさまで高まり、作動油は動圧部531の端部503aから側面502に漏れ出る。これにより、シールリング501の側面502と溝112の摺動側面113との間には作動油による薄い潤滑膜が形成され、シールリング501に対する溝112の摺動抵抗が低減される。このように、使用状態において、凹部503は動圧効果により、シールリング501に対する溝112の摺動抵抗を低減している。
また、シールリング501は、上述のようにシールリング501に対する溝112の摺動抵抗を低減することができる。このため、使用時に摺動部に発生する発熱を抑制することができ、耐久性を確認する際の指標であるP(Pressure)・V(velocity)条件において、更なる高PV条件下での使用が可能になる。また、軟質な軸110に対してもシールリング501を使用することができる。
また、シールリング501の側面502には、互いに隣接する凹部503の動圧部531と凹部503の動圧部531とを連通する断面矩形状の凹部からなる連通溝SL1が設けられているが、図51に示すように、連通溝SL1が設けられていない場合には、動圧部531の空間に存在する異物590が端部503a近傍において溜まり、軸110の溝112の摺動側面113を傷付けてしまう。
しかしながら、本発明のシールリング501では、互いに隣接する凹部503と凹部503とを連通する連通溝SL1の存在により、異物590が凹部503の端部503a近傍で留まることなく、回転方向とは逆方向の隣接する凹部503へ流動することになるため、軸110の溝112の摺動側面113を傷付けてしまうことを未然に防止することができる。また、異物590は凹部503と凹部503との間を流動しているため、自然と凹部503の導入部532から排出することもできる。
上述のように、本発明の第9の実施の形態に係るシールリング501によれば、更なる摺動抵抗の低減を図り、耐久性を向上することができる。
次いで、本発明の第10の実施の形態に係るシールリング510について説明する。図53は、シールリング510の概略構成を示すシールリング510の一方の側の側面の一部を拡大して示す部分拡大側面図であり、図54は、シールリング510の概略構成を示す部分拡大斜視図である。本発明の第10の実施の形態に係るシールリング510は、上述の本発明の第9の実施の形態に係るシールリング501に対して、凹部及び内周壁部の構成が異なる。以下、本発明の第10の実施の形態に係るシールリング510について、本発明の第9の実施の形態に係るシールリング501と同一又は同様の機能を有する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる構成について説明する。
シールリング510は、シールリング501の凹部503とは異なる凹部511を有している。凹部511は、図53,54に示すように、動圧部551と導入部552とを有しており、動圧部551は、動圧面535を1つのみ有している。以下、具体的に説明する。
凹部511の動圧部551は、外周面506及び内周面505から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部551は、径方向において内周面505側に設けられている。動圧部551は、具体的には、側面502が面する側に面する面である底面553を有しており、底面553は、導入部552に接続する導入面534と、導入面534と側面502との間に延びる1つの動圧面535とを有している。
動圧面535は、段差面536を介して導入面534に接続している。また、動圧部551は、導入面534に対して周方向において動圧面535とは反対側に、軸線xに沿って延びる平面又は略平面である端面554を有している。端面554は、導入面534の動圧面535に接続する端部とは周方向において反対側の端部から側面502まで延びている。動圧部551は、使用状態において、接触する軸110の溝112の摺動側面113から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部511の導入部552は、図53,54に示すように、内周面505において側面502側に開放する略U字状の切欠きを形成しており、導入部552は、動圧部551の周方向における一方の端部において動圧部551と接続している。具体的には、導入部552は、動圧部551の導入面534、段差面536、及び端面554と接続しており、導入面534に繋がる底面537を有している。この導入部552により、シールリング510において、内周面505から動圧部551に連通する通路が形成されている。このようにシールリング510の凹部511はL字型となっている。
また、シールリング510では、凹部511の導入部552の凹空間と、隣り合う凹部511の動圧部551の凹空間とを連通する連通溝SL2が設けられている。この連通溝SL2の構造については、第9の実施の形態における連通溝SL1と周方向の長さが異なる程度であって、それ以外同様である。
本実施の形態に係るシールリング510においても、上述のシールリング501と同様に、使用状態において、軸110の溝112の摺動側面113と動圧面535との間に楔形の空間が形成される。この楔形の空間は、導入面534側から側面502側に向かって高さが徐々に小さくなっている。このため、シールリング510は、上述のシールリング501と同様の効果を奏することができる。
また、シールリング510についても、凹部511の導入部552と、凹部511の動圧部551とを連通する連通溝SL2が設けられているため、異物590(図52)が凹部511の導入部552近傍で留まることなく、隣接する凹部511へ流動することになるため、軸110の溝112の摺動側面113を傷付けてしまうことを未然に防止することができる。また、異物590は凹部511と凹部511との間を流動しているため、自然と凹部511の導入部552から排出することもできる。
次いで、本発明の第11の実施の形態に係るシールリング601について説明する。図55は、本発明の第11の実施の形態に係るシールリング601の概略構成を示す一方の側の側面図であり、図56は、シールリング601の概略構成を示す正面図であり、図57は、シールリング601の概略構成を示す他方の側の側面図である。また、図58は、シールリング601の概略構成を示す部分拡大斜視図である。
本実施の形態に係るシールリング601は、軸とこの軸が挿入される軸孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であり、車両や汎用機械において、互いに相対回転する軸とハウジング等に形成されたこの軸が挿入される軸孔との間を密封するために用いられる。シールリング601は、例えば、自動変速機や無段変速機において、作動油の油圧を保持するために、軸の外周面に形成された溝に取り付けられて用いられる。なお、本発明の実施の形態に係るシールリング601が適用される対象は、上記に限られない。
図55〜58に示すように、シールリング601は、軸線x周りに環状であり、軸線x方向に面する面である少なくとも1つの側面602と、側面602に周方向において互いに離間して形成された複数の凹部603と、複数の凹部603に対応して夫々形成された複数の内周壁部604とを備えている。凹部603は、側面602に収束する周方向に延びる動圧部631と、動圧部631から内周側に向かって延びる動圧部631を内周側に開放する導入部632とを有している。内周壁部604は、凹部603の各々に対して1つ又は2つ設けられており、内周壁部604の各々は、対応する凹部603の動圧部631と導入部632とによって、対応する凹部603の内周側に画成された部分であり、側面602から続く面である内周壁面641を有している。内周壁面641には、周方向において互いに離間して形成された少なくとも1つのくぼみ部644が形成されている。
具体的には、側面602は、後述する使用状態において軸に形成された溝の溝側面に押し付けられる摺動面として形成された側面であり、本実施の形態に係るシールリング601は、図55,57に示すように、摺動面としての側面602を1つのみ有している。シールリング601は、摺動面としての側面602を2つ有していてもよく、つまり他方の側面にも摺動面としての側面602を有していてもよい。この場合、軸に形成された溝に対するシールリング601の取り付け方向が無くなり、シールリング601の取り付けが容易になる。
シールリング601は、図55〜57に示すように、軸線xに沿う面における断面の形状が矩形又は略矩形であり、内周側に面する面である内周面605と、外周側に面する外周面606と、側面602と、他方の側面である側面607とを有している。内周面605は、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面であり、外周面606は、内周面605に背向する面であり、例えば、軸線xを中心又は略中心とする円筒面又は略円筒面である。また、側面602は、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面605と外周面606との間に広がっており、側面607は、側面602に背向する面であり、軸線xに直交又は略直交する平面又は略平面に沿う環状の面であり、内周面605と外周面606との間に広がっている。
摺動面である側面602には、上述のように複数の凹部603が形成されており、凹部603は、軸線x周りに等角度間隔又は略等角度間隔に形成されている。図58,59に示すように、凹部603は、側面602から側面607側に凹む凹部であり、軸線x方向に見て略T字型になっている。また、凹部603は、側面602において内周面605側に設けられており、使用状態において軸の溝の側面よりも外周側に飛び出さないようになっている。
具体的には、図58,59に示すように、凹部603の動圧部631は、外周面606及び内周面605から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部631は、径方向において内周面605側に設けられている。動圧部631は、具体的には、側面602が面する側に面する面である底面633を有しており、底面633は、導入部632に接続する導入面634と、導入面634と側面602との間に延びる1つ又は2つの動圧面635とを有している。本実施の形態に係るシールリング601においては、底面633は2つの動圧面635を有している。
導入面634は、図58,60に示すように、動圧部631において最も低い側に位置しており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に広がっている。なお、凹部603において、軸線x方向を高さ方向ともいい、この高さ方向(図60,61の矢印a方向)において、シールリング601の内部側を低い側とし、側面602側を高い側とする。導入面634は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。また、動圧面635は、導入面634から昇るように側面602に対して傾いて周方向に側面602に向かって延びており、平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に延びている。動圧面635は、導入面634と側面602との間に延びており、側面602に滑らかに繋がっている。動圧面635は曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、動圧面635は、側面602側に向かって広がる又は狭まる台形状であってもよい。また、動圧面635は、軸線x方向において側面607側に沈む段差を形成する段差面636を介して導入面634に接続している。凹部603は、段差面636を有しておらず、動圧面635は導入面634に直接接続していてもよい。
凹部603においては上述のように2つの動圧面635が形成されており、動圧面635は底面633において導入面634に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の動圧面635は、導入面634の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面602まで延びており、他方の動圧面635は、導入面634の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面602まで延びている。動圧部631は、後述する使用状態において、接触する軸の溝の側面から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部603の導入部632は、図58,59に示すように、内周面605に側面602側に開放する切欠きを形成しており、導入部632は、動圧部631の周方向における端部(端部603a)の間において動圧部631に接続している。具体的には、導入部632は、動圧部631の導入面634及び段差面636に接続しており、導入面634に繋がる底面637を有している。この底面637は、動圧部631の導入面634に滑らかに接続しており、底面637は、例えば導入面634と同じ高さに位置する面である。この導入部632により、シールリング601において、内周面605から動圧部631に連通する通路が形成されている。
後述するように、シールリング601の側面602が軸の溝の側面に接触した使用状態において、凹部603は内周面605の接する空間に連通し、より具体的には、動圧部631は導入部632を介して内周面605の接する空間に連通する。そして、使用状態において、動圧部631は軸の溝の側面との間に周方向に延びる空間を形成し、動圧面365は、軸の溝の側面との間に周方向に延びる、導入面634側から側面602側に向かって高さ(高さ方向の幅)が徐々に小さくなる空間を形成する。
上述のように、複数の凹部603に対応して夫々複数の内周壁部604が形成されており、具体的には、図58,59に示すように、各凹部603に対して、2つの内周壁部604が形成されている。内周壁部604は、動圧部631の1つの動圧面635が延びる周方向の部分と、導入部632と、内周面605とによって画成された部分であり、動圧部631の動圧面635に内周側で隣接して、動圧面635よりも高い側に突出している。内周壁部604は、内周壁面641と、導入部632によって形成される軸線xに沿って延びる面である端面642と、動圧部631によって形成される周方向に延びる外周側に面する面である外周面643とを有している。
また、図58,61に示すように、内周壁面641は、側面602と面一又は略面一であり、側面602に滑らかに繋がっている。内周壁面641は、側面602と同じ高さに位置する平面又は略平面であり、矩形状又は略矩形状に延びている。内周壁面641は、曲面であってもよく、矩形状に広がっていなくてもよい。例えば、内周壁面641は、側面602側に向かって広がる又は狭まる台形状であってもよい。
各凹部603に対しては上述のように2つの内周壁部604が形成されており、内周壁部604は導入部632に関して周方向に対称に形成されている。つまり、一方の内周壁部604は、導入部632の周方向における一方の端からこの周方向における一方の方向に側面602まで延びており、他方の内周壁部604は、導入部632の周方向における他方の端からこの周方向における他方の方向に側面602まで延びている。
また、図58,59に示すように、くぼみ部644は、内周壁面641の外周側から内周側の間において外周側から途中まで延びている。つまり、くぼみ部644は、内周壁面641上を内周壁部4の外周面643から径方向における途中まで延びており、外周面643から動圧部631に開放しており、内周面605までは達していない。くぼみ部644は、内周壁面641上における輪郭が内周側に向かって凸の曲線645を有する船底形状のくぼみであり、径方向において外周側から内周側に向かうにつれて深さ(図61の矢印a方向の幅)が浅くなっている。くぼみ部644は、夫々同一又は略同一の輪郭を有している。また、くぼみ部644は、内周壁面641上における輪郭が直線部分を有していてもよい。例えば、くぼみ部644の外周側の部分が径方向に同一の周方向の幅で延びていてもよい。また、くぼみ部644は、深さ方向(矢印a方向)において各々内周壁面641から動圧部631の動圧面635と同じ深さ又は近傍まで延びている。各くぼみ部644の深さは、動圧面635より浅いことが好ましい。つまり、くぼみ部644は、端面642側から端部641a側に向かって深さが徐々に浅くなっていく。なお、くぼみ部644は、外周面643から内周面605側に向かって浅くなるように楔形形状に形成されていてもよい。また、くぼみ部644は、夫々同じ深さに形成されていてもよい。各くぼみ部644は、矩形の空間を形成して同じ深さになっていてもよい。本実施の形態においては、くぼみ部644は、一方の内周壁部604に4つ形成され、他方の内周壁部604に4つ形成されており、合計8つ形成されている。くぼみ部644は、内周壁部604に少なくとも1つ形成されていればよい。
後述するように、シールリング601の側面602が軸の溝の側面に接触した使用状態において、内周壁部604の内周壁面641は、軸の溝の側面に対向する。内周壁面641は少なくとも1つのくぼみ部644を有しており、このため、内周壁面641は一部が溝の側面に接触せず、溝の側面との間に空間を形成する。この空間は本実施の形態においては船底形状であり、端面642側から端部641a側に向かって深さが徐々に浅くなっていく。
シールリング601は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材から形成されている。シールリング601の外周面606の周長は、軸が挿通される軸孔の内周面の周長よりも短くなっており、軸孔に対して締め代を持たないようになっている。このため、使用状態において流体圧力がシールリング601に作用していない状態においては、シールリング601の外周面606は軸孔の内周面から離れた状態となる。
また、シールリング601は、無端ではなく、図55〜57に示すように、周方向の1箇所に合口部608が設けられている。合口部608は、シールリング601の熱膨張又は熱収縮によりシールリング601の周長が変化しても安定したシール性能を維持可能にする公知の構造となっている。合口部608の構造としては、例えば、外周面606側及び両側面602,607側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカット構造や、ストレートカット構造、バイアスカット構造、ステップカット構造等がある。また、シールリング601の材料として、低弾性の材料(PTFE等)を採用した場合には、シールリング601には合口部608を設けずに、シールリング601を無端としてもよい。
次いで、上述の構成を有するシールリング601の作用について説明する。
図62は、シールリング601が取付対象としての油圧装置100のハウジング101及びこのハウジング101に形成された貫通孔である軸孔102に挿入された軸110に取り付けられた使用状態におけるシールリング601の部分拡大断面図である。軸110はハウジング101に対して相対回転可能になっており、軸110の外周面111には、中心側に凹む環状の溝112が形成されている。溝112は、断面形状が矩形又は略矩形であり、平面状の側面113,114と底面115とによって画成されている。油圧装置100において、軸孔102の内周面103と軸110の外周面111との間には環状の空間が形成されており、軸110及びハウジング101には、図示しない作動油が充填される油圧経路が形成されている。シールリング601は溝112に取り付けられて油圧経路内の作動油の油圧の損失を防止するために、軸110と軸孔102との間の隙間Gを密封する。図62においては、溝112の右側が油圧経路となっており、溝112の左側の側面113がシールリング601の押し付けられる摺動側面となり、溝112の右側が高圧に、溝112の左側が低圧となる。シールリング601は、側面2が溝112の摺動側面113と対向するように溝112に取り付けられる。
油圧経路に作動油が導かれると油圧経路が高圧となり、シールリング601の外周面606及び側面602が夫々軸孔102の内周面103及び溝112の摺動側面113に押し付けられる。これにより、環状の隙間Gにおいて油圧経路が密封され、油圧の保持が図られる。軸110が回転すると、シールリング601に対して軸110が回転し、シールリング601の側面602に対して溝112の摺動側面113が摺動する。このとき、作動油がシールリング601の導入部632から凹部603内に入り込み、作動油は、動圧部631に導かれ、その油圧により動圧部631を動圧面635に沿って周方向に端部603aまで移動する。シールリング601の側面602と溝112の摺動側面113とは接触しているが、この動圧部631における作動油の移動によって動圧部631の端部603a側の圧力が上がっていき、ついには端部603a側における作動油の圧力は摺動側面113からシールリング601の側面602を離間させる大きさまで高まり、作動油は動圧部631の端部603aから側面602に漏れ出る。これにより、シールリング601の側面602と溝112の摺動側面113との間には作動油による薄い潤滑膜が形成され、シールリング601に対する溝112の摺動抵抗が低減される。このように、使用状態において、凹部603は動圧効果により、シールリング601に対する溝112の摺動抵抗を低減している。
また、内周壁部604の内周壁面641は、くぼみ部644を有しており、内周壁面641と溝112の摺動側面113との間には、空間が形成されている。このため、くぼみ部644に作動油を溜めることができ、内周壁面641においてもシールリング601に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。加えて、くぼみ部644は動圧部631に開放されており、このため、くぼみ部644により、上述の凹部603の動圧効果と同様に作動油によって動圧効果を得ることができ、内周壁面641においてもシールリング601に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。また、内周壁面641がくぼみ部644を有しており、内周壁面641の摩耗量は少なく、動圧効果の低下を抑制することができる。
また、内周壁面641と溝112の摺動側面113との間にくぼみ部644によって形成された空間により、シールリング601の溝112の摺動側面113に対する接触面積を低減することができ、これによってもシールリング601に対する溝112の摺動抵抗を低減させることができる。
また、シールリング601は、上述のようにシールリング601に対する溝112の摺動抵抗を低減することができる。このため、使用時に摺動部に発生する発熱を抑制することができ、更なる高PV条件下での使用が可能になる。また、軟質な軸110に対してもシールリング601を使用することができる。
上述のように、本発明の第11の実施の形態に係るシールリング601によれば、更なる摺動抵抗の低減を図ることができる。
次いで、本発明の第12の実施の形態に係るシールリング610について説明する。図63は、シールリング610の概略構成を示すシールリング610の一方の側の側面の一部を拡大して示す部分拡大側面図であり、図64は、シールリング610の概略構成を示す部分拡大斜視図である。本発明の第12の実施の形態に係るシールリング610は、上述の本発明の第11の実施の形態に係るシールリング601に対して、凹部及び内周壁部の構成が異なる。以下、本発明の第12の実施の形態に係るシールリング610について、本発明の第11の実施の形態に係るシールリング601と同一又は同様の機能を有する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる構成について説明する。
シールリング610は、シールリング61の凹部603とは異なる凹部611を有している。凹部611は、図63,64に示すように、動圧部651と導入部652とを有しており、動圧部651は、動圧面635を1つのみ有している。以下、具体的に説明する。
凹部611の動圧部651は、外周面606及び内周面605から径方向に離間されて、軸線xを中心又は略中心とする円弧状又は略円弧状に周方向に延びている。動圧部651は、径方向において内周面605側に設けられている。動圧部651は、具体的には、側面602が面する側に面する面である底面653を有しており、底面653は、導入部652に接続する導入面634と、導入面634と側面602との間に延びる1つの動圧面635とを有している。動圧面635は、段差面636を介して導入面634に接続している。また、動圧部651は、導入面634に対して周方向において動圧面635とは反対側に、軸線xに沿って延びる平面又は略平面である端面654を有している。端面654は、導入面634の動圧面635(段差面636)に接続する端部とは周方向において反対側の端部から側面602まで延びている。動圧部651は、使用状態において、接触する軸110の溝112の摺動側面113から外周側にはみ出ないような位置となるように形成されている。
凹部603の導入部652は、図63,64に示すように、内周面605に側面62側に開放する切欠きを形成しており、導入部652は、動圧部651の周方向における一方の端部において動圧部651に接続している。具体的には、導入部652は、動圧部651の導入面634、段差面636、及び端面654に接続しており、導入面634に繋がる底面637を有している。この導入部652により、シールリング610において、内周面605から動圧部651に連通する通路が形成されている。このようにシールリング610の凹部611はL字型となっている。
また、シールリング610は、各凹部611に対して内周壁部604を1つのみ有している。図63,64に示すように、導入部652に対して周方向において端面654側には内周壁部604が形成されておらず、導入部652に対して周方向において動圧面635側にのみ内周壁部604が形成されている。この場合、上述のシールリング601よりも多くのくぼみ部644を内周壁部604に形成することができ、例えば、内周壁部604には8つのくぼみ部644が形成されている。くぼみ部644は、内周壁部604に少なくとも1つ形成されていればよい。
本実施の形態に係るシールリング610においても、上述のシールリング601と同様に、内周壁部604の内周壁面641は、くぼみ部644を有しており、内周壁面641と溝112の摺動側面113との間には、空間が形成されている。このため、シールリング610は、上述のシールリング601と同様の効果を奏することができる。シールリング601においては、2つの動圧面635が設けられており、導入面634(導入部632)に対して周方向において両方の方向に動圧面635が設けられている。このため、シールリング601は、軸110の両方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。一方、シールリング610には、1つの動圧面635が設けられており、導入面634(導入部652)に対して周方向において一方の方向に動圧面635が設けられている。このため、シールリング610は、軸110の一方の回転方向の回転に対して上述の効果を奏することができる。
シールリング601,610としては、くぼみ部644の内周壁面641上における内周面605側の輪郭が船底形状である場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図65,66に示すように、くぼみ部644が内周壁面641の外周側と内周側との間の幅全体に延びていてもよい。具体的には、くぼみ部644は、外周面643から内周面605まで径方向に延びている、つまり、外周面643と内周面605との間で内周壁部604を貫通するスリット状に形成されていてもよい。また、図67,68に示すように、くぼみ部644が内周壁面641の外周面643と内周面605との間の途中に形成されていてもよい。具体的には、くぼみ部644は、内周壁面641上に円形状又は略円形状の輪郭を形成するくぼみであってもよい。また、この場合、くぼみ部644は、円形状又は略円形状でなくてもよく、輪郭はこれらに限定されない。このような場合であっても、上述のシールリング601,610と同様の効果を奏することができる。また、くぼみ部644の関係は上述に限られず、互いに相似であってもよい。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係るシールリング1,10,201,210,301,310,401,410,501,510,601,610に限定されるものではなく、本発明の概念及び請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。また、例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。