JPWO2018212312A1 - スクリーニング方法 - Google Patents
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Abstract
Description
AChは、中枢神経系及び神経筋接合部(副交感神経、運動神経)でシグナル伝達を誘発する神経伝達物質である。中枢神経系では、アセチルコリンニューロンの起始核は脳幹及び前脳にあり、それらのアセチルコリンニューロンは大脳皮質、海馬及び辺縁領域に投射している。さらに、線条体等のある脳領域におけるいくつかの介在ニューロンは、神経伝達物質としてAChを利用する。アセチルコリン受容体はリガンド依存性イオンチャンネル(コリン作動性ニコチン受容体)とGタンパク質共役型受容体(コリン作動性ムスカリン受容体)に分類される。コリン作動性ムスカリン受容体は、AChに対する受容体の1種であり、ムスカリンが当該受容体を選択的に活性化することに基づいて命名された。ムスカリン受容体はさらに細かくM1〜M5のサブタイプで分類され、コリン作動性ムスカリンM1受容体(M1R)は主に脳に広く分布し、特に学習、記憶、睡眠などに深くかかわっていることが知られている。脳生理学におけるM1Rの重要性は周知であり、M1R機能増強作用を有する化合物は、精神疾患、神経変性疾患、記憶障害、痛み、睡眠障害、認知症を伴うパーキンソン病、及びレヴィー小体型認知症等の予防又は治療剤として有用であると期待されている(非特許文献1)。
また、本発明は、低α値のM1PAMを用いた、アルツハイマー病などの治療、及びコリン系副作用の低減方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、低α値のM1PAMとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤等を用いた、アルツハイマー病などの治療、及びコリン系副作用の低減方法を提供することを目的とする。
[1]α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターのスクリーニング方法。
[2]哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療し、かつコリン系副作用を低減する方法であって、有効量の低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを、哺乳動物に投与することを含む、方法。
[2−1]投与後の哺乳動物において、副作用の重篤度をモニターし、スコア化することを更に含む、[2]の方法。
[3]哺乳動物が、コリン作動性の障害を有する哺乳動物である、[2]の方法。
[4]哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療する方法であって、有効量の低α値のM1PAMを、哺乳動物に投与することを含み、
該哺乳動物が、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤により引き起こされるコリン系副作用を患っている、方法。
[5]哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療し、かつコリン系副作用を低減する方法であって、哺乳動物に、有効量のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を投与し、次いで低α値のM1PAMを投与することを含む、方法。
[6]哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療し、かつコリン系副作用を低減する方法であって、以下:
(i)哺乳動物にアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を投与して、副作用を引き起こすこと、及び
(ii)有効量の低α値のM1PAMを、(i)の哺乳動物に投与すること
を含む、方法。
[7]哺乳動物に投与されるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の量を低減する方法であって、有効量の低α値のM1PAMを、哺乳動物に投与することを含む、方法。
本発明について、以下の通り説明する。
本発明は、α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたM1PAMのスクリーニング方法を提供する。
本スクリーニング方法は、以下の工程:
(a) M1R又はその部分ペプチドと、試験化合物及び検出可能なAChとを接触させ、
(b) 試験化合物のα値を測定し、及び
(c) 低α値のM1PAMを選択すること
を含む。
本スクリーニング方法は、以下の工程:
(a) M1R又はその部分ペプチドと、試験化合物、ACh及び検出可能なM1アンタゴニストとを接触させ、
(b) 試験化合物のα値を測定し、及び
(c) 低α値のM1PAMを選択すること
を含む。
本スクリーニング方法は、以下の工程:
(a) M1R又はその部分ペプチドと、試験化合物、検出可能なM1PAM及びAChとを接触させ、
(b) 試験化合物のα値を測定し、そして
(c) 低α値のM1PAMを選択すること
を含む。
無機塩基との塩の好適な例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アンモニウム塩が挙げられる。
有機塩基との塩の好適な例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン]、tert−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジベンジルエチレンジアミンとの塩が挙げられる。
無機酸との塩の好適な例としては、塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸、リン酸との塩が挙げられる。
有機酸との塩の好適な例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸との塩が挙げられる。
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、アルギニン、リジン、オルニチンとの塩が挙げられる。
酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸との塩が挙げられる。
これらの塩のなかでも、薬学的に許容し得る塩が好ましい。
雄性のICRマウスは、CLEA Japan Inc. (Tokyo, Japan)により供給され、6〜17週齢で使用した。C57BL/6-Chrm-1tm1 Stl/J WTマウス及びKOマウスは、マサチューセッツ工科大学(Cambridge, MA)から入手し、8ヶ月齢で使用した。これらの動物は、少なくとも1週間の馴化後、実験に使用した。全てのマウスを光調節された飼育室(午前7:00に点灯する、12時間の明/暗サイクル)内で飼育した。飼料と水を自由に与えた。
[3H]-ピレンゼピンはPerkinElmer (Waltham, MA)から入手した。実験で用いた他の試薬は、特記しない限り、Tocris Bioscience (Minneapolis, MN)から購入した。M1PAM (7-(((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロヘキシル)オキシ)-2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)ベンジル)イソインドリン-1-オン (以下、本明細書中「化合物A」と略記する場合がある)、3-フルオロ-2-((2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-3-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-4-イル)オキシ)ベンゾニトリル (以下、本明細書中「化合物B」と略記する場合がある)、3-((1S,2S)-2-ヒドロキシシクロヘキシル)-6-((6-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン-3-イル)メチル)ベンゾ[h]キナゾリン-4(3H)-オン (以下、本明細書中「化合物C」と略記する場合がある)、2-(2-フルオロフェニル)-5-(4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル)-2,5-ジヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-c]キノリン-3-オン (以下、本明細書中「化合物E」と略記する場合がある)、2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-7-(2-(ピペリジン-1-イル)エトキシ)イソインドリン-1-オン (以下、本明細書中「化合物F」と略記する場合がある)、2-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)ベンジル)-7-(1H-ピラゾール-5-イル)イソインドリン-1-オン(以下、本明細書中「化合物G」と略記する場合がある))を、0.5% (w/v)メチルセルロース (MC)となるように蒸留水で懸濁し、経口投与した。スコポラミン臭化水素酸塩を、生理食塩水中で溶解し、皮下に投与した。in vivoでの実験で使用した全ての化合物を、マウスに対し体重1kg当たり10又は20 mLの量で投与した。in vitroでのマグヌスアッセイでは、化合物をジメチルスルホキシド (DMSO)中に溶解した。化合物A、化合物B、化合物F及び化合物Gは、WO2014/077401に記載の製造法、参考例及び実施例又はそれに準じた方法に従って製造することができる。化合物Cは、WO 2010/059773に記載の参考例及び実施例又はそれに準じた方法に従って製造することができる。化合物Eは、WO 2011/049731に記載の参考例及び実施例又はそれに準じた方法に従って製造することができる。
終夜絶食した後、マウスを断頭により屠殺した。回腸を速やかに摘出し、氷冷したKrebs液(120.7 mM NaCl、5.9 mM KCl、2.5 mM CaCl2、1.2 mM MgCl2、15.5 mM NaHCO3、1.2 mM NaH2PO4及び11.5 mM グルコース)中に浸漬した。縦方向に回腸を10〜15mmの長さに切り出し、腸間膜及び脂肪組織を分離し、95% O2/5% CO2でエアレーションした、10 mLのKrebs液を含むオーガンバスにマウントした。バス温度を37℃に維持した。単離した回腸に0.5gの荷重を与えた。アイソメトリックトランスデューサー(MLT050/A, ADInstruments, New South Wales, Australia)及び記録計(PowerLab 8/30 ML870 and Octal Bridge Amp ML228, ADInstruments)を用いて、単離した回腸の収縮応答を連続的に記録した。
結合アッセイを96ウェルプレート中で行った。アッセイバッファー (20 mM HEPES、100 mM NaCl、10 mM MgCl2、0.1%脂肪酸フリーBSA)中で、一過的にヒトM1Rを発現したFreeStyle 293細胞由来の細胞膜を、試験化合物、ACh、及び4nM[3H]-ピレンゼピンを含むアッセイバッファー(20mM HEPES、100mM NaCl、10mM MgCl2、0.1%脂肪酸フリーのウシ血清アルブミン(BSA))と共にインキュベートした。室温で2時間インキュベートした後、セルハーベスター(PerkinElmer)を用いて細胞膜をGF/Cフィルタープレート(PerkinElmer, Massachusetts, USA)に移し、300 μLの50 mM Tris-HClで5回洗浄した。次いで、GF/Cプレートを42℃で乾燥させた。25 μLのMicroScint 0 (PerkinElmer)を添加し、TopCount (PerkinElmer)により放射能を測定した。10 μMアトロピンの存在下で、非特異的な結合を定義した。
ヒトM1R (hM1R-CHO)を安定して発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO-K1)細胞を、壁面が黒の384ウェルクリアボトムプレート(5,000細胞/ウェル)に播種し、10% FBS及び100 U/mLペニシリン-ストレプトマイシンを補充したHam's F-12培地中で、5% CO2存在下で、終夜37℃で培養した。翌日、培地を除去し、2.5 μg/mL Fluo-4 AM及び1.25 mMプロベネシドを含むアッセイバッファー (20 mM HEPES、0.1%脂肪酸フリーのBSAを含むHank's緩衝塩類溶液)を用いて、5% CO2存在下で、30分間37℃でインキュベートした。室温で30分インキュベートした後、化合物を用いて細胞を刺激した。本実験においては、ACh及び各PAMを同時に細胞に添加した。蛍光イメージングプレートリーダー (FLIPR)Tetraシステム(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を使用して、カルシウム流動を測定した。
実験日に、マウスをランダムに4群に分けた(n=6〜9)。マウスを個別のケージに移し、1時間以上馴化させた。溶媒(10若しくは20 mL/kg)、又は化合物A (3、10若しくは30 mg/kg, p.o.)、化合物B (10、30、100、300若しくは1,000 mg/kg, p.o.)若しくは化合物C (10 mg/kg, p.o.)を含む各化合物の単一用量のいずれかを、各マウスに投与した。動物をモニターし、投与後0.5、1、2、4及び6時間で、下痢の重篤度をスコア化した。0〜3の任意のスコア化基準を用いて下痢を評価した:0、健常なペレット;1、湿っているが形がある糞;2、膨張した又は粘液性の糞;3、重度の水様の下痢。観測中の最大スコアを採用した。
in vivoでの薬物動態 (PD)マーカー解析のために、化合物A又は化合物Bの投与後90分で、断頭によりマウスを屠殺した。海馬組織を脳から単離した。RNA抽出まで、これらの組織を-80℃で保存した。QIAzol Lysis Reagent及びRNeasyキット (Quiagen, Hilden, Germany)を用いて、製造業者の指示に従い、個々の組織からトータルRNAを抽出した。ABI PRISM 7900HTシーケンス検出装置 (Life Technologies, Bedford, MA)及びTaqMan試薬 (Eurogentec, Seraing, Belgium)を用いて、RT-PCRを行った。製造業者の指示に従って、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH) mRNA転写産物を用いて、RNA定量を標準化した。マウス Arc分析のために、以下のプライマーを用いた:フォワードプライマー、5'-AGCTGAAGCCACAAATGCAG-3’(配列番号:3);リバースプライマー、5’-CTGAGTCACGGAGCTGAGC-3’(配列番号:4);TaqManプローブ、5'-AGACCTGACATCCTGGCACCTCCTGG-3’(配列番号:5)。マウス Gapdh分析に使用したプライマーは、ABI (Applied biosystems-Life Technologies, Waltham, MA)から購入したTaqMan Rodent GAPDH Control Reagent、VICプローブであった。
Y迷路装置は、全てのアーム間で等しい角度の3本のアームの迷路を備え、黒色のアクリル製であった。各アームは、40 cm長、4 cm幅及び12 cm壁からなった。Y迷路を防音室に設置し、照度を10 ルクスに設定した。試験の60分前に、化合物B (10又は30 mg/kg)及び化合物A (1、3又は10 mg/kg)を経口投与した。30分後、スコポラミン (0.3又は1 mg/kg、臭化水素酸塩、s.c.)を投与することにより、記憶障害を誘発した。スコポラミンの投与後30分で、マウスをY迷路に進入させ、自発的交替行動(alternation)を視覚的に5〜8分間評価した。各動物で1回の試行を行った。4本の足が全て、Y迷路の中央からアーム通路の3分の1以上進入した場合、マウスはアームに入っていると判定した。交替行動を、重なり合った三つ組セットにおいて3本の各々のアームへの連続的な進入で定義し、可能な交替行動(アームへの総進入数−2)に対する実際の(総交替行動)の比×100に準拠して、交替行動率を%で表した。マウスのアームへの総進入数が10回未満の低い探索行動を示した場合、そのデータを解析から除外した。交替行動率を有意に下げるため、スコポラミン(0.3又は1 mg/kg)の投与量を調整した。
全データをGraphPad Prism 5ソフトウェア (GraphPad Software Inc., California, USA)を用いて分析した。放射性リガンド結合データを、以下のallosteric ternary complex modelにグローバルフィットさせた:
実験結果は、平均値±平均値の標準誤差(S.E.M.)で表した。α水準0.05でのAspin-WelchのT検定により2群間の統計的有意差を評価した。試験化合物の複数用量の影響を試験した実験において、分散の均質性を試験するために使用したBartlett検定を用いて影響を分析し、続けてWilliamsの両側検定 (パラメトリックデータについては、Bartlett検定によりP > 0.05)又はShirley-Williamsの両側検定 (非パラメトリックデータについては、Bartlett検定によりP≦0.05)を行った。EXSUS (Ver.8.0.0, CAC EXICARE Corporation, Tokyo, Japan)を用いてデータを分析し、統計的有意をP≦0.05に設定した。
M1PAMによる下痢誘発がM1R活性化に起因するか否かを決定するために、WT及びM1R KOマウスの両方に選択的M1PAMである化合物Cを経口投与した。WTマウスにおいては、化合物Cは10 mg/kgで下痢を誘発したが、M1R KOマウスにおいては誘発しなかった(図1)。それゆえ、化合物Cを含むM1PAMは、げっ歯類においてはM1R活性化を介して下痢を誘発する。
細胞外環境(例えばM1R周囲のACh濃度等)は、脳と末端組織では異なっており、異なる特徴を有する各M1PAMは、体内で組織毎に異なった効果を発揮し得る。それゆえ、回腸収縮と関連する、カギとなるM1Rモジュレーションパラメーターを探索することとした。最初に、in vitroでの機能解析のために、他のムスカリンサブタイプよりも100倍以上の選択性を有する7つのM1PAMを選択した(表1)。次いで、これらのM1PAMの様々なM1PAMパラメーターを、in vitroでの結合モジュレーションアッセイを使用して評価した(表1〜2)。次に、マグヌスアッセイを使用して、回腸収縮応答におけるこれらの化合物の影響を検討した。コントロール条件と比べて、回腸収縮レベルは93〜116%であった(表2)。回腸収縮応答と様々なM1PAMパラメーターとの相関を調べた。pIP、log α又はlog βと1 μMでの回腸収縮増強のPearsonの相関分析の結果を図2に示す。pIPとlog βはいずれも、増強したレベルの回腸収縮と相関を示さなかった(図2A、r=0.4979、P=0.2555、図2C、r=-0.5505、P=0.2004)。興味深いことに、log αは、0.80より大きい相関係数であり、回腸収縮応答と有意に相関した(図2B、r=0.8075、P=0.0281)。
より小さいα値のM1PAMの詳細なプロファイルを評価するために、log αが1.18 (α=16)の化合物Bを代表化合物として選択した(図3-A、表2)。化合物Bは1 μMまででEFS誘発回腸収縮に影響を与えなかった(図3-B)。この結果から予想されたように、化合物Bは1000 mg/kgまでで重篤な下痢を誘発しなかった (図3-C、図3-D);この化合物は、より高い投薬量では薬物動態が線形性を示さず、1000 mg/kgの血漿濃度は、30 mg/kgの時よりも3.6倍しか高くなかった(表3)ことを示す。認知機能課題のための投薬量を選択するために、Arc mRNAの発現誘導をM1R活性化に対するPDマーカーとして使用した;BQCAはM1R活性化により脳内のArc mRNA発現レベルを上昇させることが報告されている(Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America. 2009;106(37): 15950-5)。化合物Bは10〜100 mg/kgで、マウス海馬内のArc mRNA発現レベルを約2倍に増加させた(図3-E)。この結果から、10及び30 mg/kgの用量を、マウスでのスコポラミン誘発認知障害に対する薬効評価のために選択した。30 mg/kgの化合物Bは、5分の測定条件下で、マウスのY迷路課題におけるスコポラミン誘発認知機能障害を有意に改善した (図3-F)。それゆえ、低α値のM1PAMは、何ら下痢の兆候を呈さずに認知機能障害を改善することができ得ることを示す。
次に、高α値の代表化合物として化合物Aを選択した(図4-A);化合物Aは3.30のlog α (α=2371)を有する(表2)。予想されたように、化合物A (0.1 nM〜1 μM)は、in vitroマグヌスアッセイにおいて濃度依存的なEFS誘発回腸収縮の増強を引き起こし、この増強は1 nMのテレンゼピンにより抑制された (図4-B)。この結果と一致して、化合物Aは10及び30 mg/kgで、マウスにおいて重篤な下痢を引き起こした(図-4C)。化合物Aは、用量依存的にArc mRNAの発現レベルを上昇させ、マウスでは30 mg/kgで有意な増加を示した(図4-D)。次いで、Y迷路課題でのスコポラミン誘発認知機能障害を用いて、マウスにおける認知機能改善を評価した。5分間の測定条件下においては、スコポラミンは、有意な自発的交替行動率の減少を引き起こさなかったが、10 mg/kgの化合物Aはスコポラミン誘発認知機能障害を改善する傾向を示した (図4-E)。測定時間を8分間に延長した場合、スコポラミン投与は顕著な認知機能障害を誘発し、10 mg/kgの化合物Aは、マウスにおけるY迷路課題でスコポラミン誘発性の自発的交替行動率の低下を有意に改善した (図4-F)。
in vivo IP1アッセイ及び新奇物体認知課題において、雄性のLong Evansラット (日本エスエルシー株式会社, Hamamatsu, Japan)を使用した。副作用の評価のために、雄性のSprague-Dawleyラットを、日本チャールス・リバー株式会社 (Yokohama, Japan)から購入した。全てのラットは、6〜9週齢の時に使用した。in vitro マグヌスアッセイでは、雄性のICRマウス (日本クレア株式会社, Tokyo, Japan)を7〜9週齢で使用した。電気生理学実験のために、雄性のC57BL/6Jマウス (日本クレア株式会社)を4〜10週齢で使用した。C57BL/6-Chrm-1tm1 Stl/J野生型マウス及びM1R KOマウスは、マサチューセッツ工科大学(Cambridge, MA)から入手し、8ヶ月齢で使用した。全ての動物は、7:00に点灯する12時間の暗/明サイクルの、温度及び湿度を調整した飼育室にて群飼した。餌料と水を自由に与えた。全ての動物は、使用前の少なくとも1週間、施設に馴化飼育した。本研究で使用した動物のケア及び使用並びに実験プロトコールは、武田薬品工業株式会社の実験動物利用管理委員会に承認されたものであった。
化合物C及び4-フルオロ-2-[(3S,4S)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]-5-メチル-6-[4-(1H-ピラゾール-1-イル)ベンジル]-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-1-オン (以下、本明細書中「化合物D」と略記する場合がある)は、武田薬品工業株式会社が合成した。ドネペジル塩酸塩は、Mega Fine Pharma (P) Limited (Mumbai, India)から購入した。スコポラミン臭化水素酸塩は、Tocris Bioscience (Ellisville, MO)から購入した。塩化リチウム(LiCl)は、和光純薬工業株式会社(Osaka, Japan)から入手した。化合物Dは蒸留水中0.5% (w/v)メチルセルロースに懸濁し、ドネペジル塩酸塩は蒸留水に溶解し、いずれも経口で投与(p.o.)した。スコポラミン臭化水素酸塩及びLiClは生理食塩水に溶解し、皮下に投与(s.c.)した。ドネペジル及びスコポラミンの用量を、それぞれの塩として表す。in vivo試験で使用した化合物はそれぞれ、ラットに対しては体重1kg当たり2 mLの用量で投薬し、マウスに対しては体重1kg当たり10 mLの用量で投薬した。In vitroマグヌス法及びin vitro電気生理学的研究では、化合物はジメチルスルホキシド (DMSO)中に溶解した。化合物Dは、WO2016/208775に記載の参考例及び実施例又はそれに準じた方法に従って製造することができる。
ヒトM1受容体を発現するCHO-K1細胞を、壁面が黒の96ウェルクリアボトムプレート(Corning, New York, NY)に30,000細胞/ウェルで播種し、1日間37℃、5%CO2で培養した。培地を除去し、カルシウム色素バッファー (HBSS (Life Technologies, Carlsbad, CA)、20 mM HEPES (Life Technologies)、0.1%脂肪酸フリーBSA (Wako)、0.08% pluronic F127 (Dojindo Laboratories, Kumamoto, Japan)、2.5 μg/mL Fluo-4 (Dojindo Laboratories)、1.25 mM プロベネシド (Dojindo Laboratories))を用いて細胞を30分間、37℃、5%CO2で培養した。30分、室温でインキュベートした後、EC20濃度(0.8〜1 nM)のAChを含むアッセイバッファー (HBSS (Life Technologies)、20 mM HEPES (Life Technologies)、0.1%脂肪酸フリーBSA (Wako))に様々な濃度で溶解した試験化合物を用いて、細胞を刺激し、CellLux (PerkinElmer)を使用してCa2+応答を測定した。M1PAMのポジティブアロステリックモジュレーション活性を決定するために、EC20AChに対する応答を0%の応答として設定し、10 μM AChに対する応答を100%の応答として設定した。化合物の有効性は、変曲点の値(IP)として示した。変曲点の値と95%信頼性区間は、対照群のパーセントとして示されたデータからGraphPad Prism 5 ソフトウェア(GraphPad Software Inc., LaJolla, CA, USA)のXLfitにより、計算された。
手順
[3H]-ミオイノシトールを用いた、in vivoホスホイノシチド加水分解を測定するための方法が報告されている (Bymaster et al., Brain. Res. 1998 Jun 8;795(1-2):179-90;Patel and Freedman, Eur. J. Pharmacol. 1994 May 17;267(3):329-34.)。in vivo ホスホイノシチド加水分解をより容易に評価するために、均一性時間分解蛍光法(HTRF)を用いたアッセイ系、IP-One HTRF(登録商標)アッセイキット (Cisbio Bioassays, Codolet, France)(Trinquet et al., Anal Biochem. 2006 Nov 1;358(1):126-35.)を開発した。
Long EvansラットとC57BL/6Jマウスをアッセイに用いた。実験日に、動物を個別のケージに移し、少なくとも1時間馴化させ、サンプリングの3、1.5及び3時間前に、化合物D (3 mg/kg, p.o.)、ドネペジル (3 mg/kg, p.o.)及び化合物C (10 mg/kg, p.o.)をそれぞれ投与した。全てのIP1アッセイにおいて、化合物D又は化合物Cの投与後2時間で、IP1の分解を阻害するために、LiCl (10 mmol/kg)を皮下に投与した。LiClの投与後1時間で、動物を断頭により屠殺し、脳を摘出し、50 mM LiClを含む冷生理食塩水を用いて洗浄した。脳から海馬を速やかに単離し、ドライアイス上で凍結し、重量を測定し、分析まで-80℃で保存した。海馬組織重量に対し、39 (ラットでは)又は19 (マウスでは)倍量のホモジナイゼーションバッファー(10 mM HEPES pH 7.4、50 mM LiCl、150 mM NaCl及び1% Triton X-100)中で、ヒスコトロン (Physcotron) (Microtec Company Limited, Chiba, Japan)を用いて、各組織をホモジナイズした。ホモジネートを1時間、4℃でローテーター上でインキュベートし、12000g、20分、4℃で遠心分離した。上清を回収し、マトリクスの干渉を防ぐために、39 (ラットでは)又は19 (マウスでは)倍の希釈バッファー(10 mM HEPES pH 7.4、50 mM LiCl及び150 mM NaCl)を用いて希釈した。希釈した上清をIP1及びタンパク質濃度の測定に供した。希釈した上清 (20 μl)を384ウェルOptiplate (PerkinElmer)に移し、キット中で供された溶解バッファー中に希釈したd2-標識IP1 (5 μl)及びテルビウムクリプテート標識抗IP1 抗体 (5 μl)を添加した。少なくとも1時間、室温でインキュベーション後、EnVisionマルチラベルリーダー(PerkinElmer)を使用して、665 nm及び615 nmにおける蛍光強度を測定した。HTRF比 (665 nmでの蛍光/615 nmでの蛍光×104)に基づいて、IP1濃度を計算した。製造業者の指示に従って、Pierce BCAタンパク質アッセイキット (Thermo Scientific, Rockford, IL)により、タンパク質濃度を決定した。総タンパク質濃度に対するIP1の濃度の比として、in vivo IP1レベルを計算し、溶媒投与群(対照群)に対する%として表した。
終夜絶食させた後、マウスを屠殺した。回腸を速やかに摘出し、氷冷したKrebs液(120.7 mM NaCl、5.9 mM KCl、2.5 mM CaCl2、1.2 mM MgCl2、15.5 mM NaHCO3、1.2 mM NaH2PO4及び11.5 mM グルコース)中に浸漬した。縦方向に回腸を10〜15mmの長さに切り出し、腸間膜及び脂肪組織を分離し、95% O2/5% CO2でエアレーションした、10 mLのKrebs液を含むオーガンバスにマウントした。バス温度を37℃に維持した。単離した回腸に0.5gの受動的荷重を与えた。アイソメトリックトランスデューサー(MLT050/A, ADInstruments, New South Wales, Australia)及び記録計(PowerLab 8/30 ML870 and Octal Bridge Amp ML228, ADInstruments)を用いて、単離した回腸の収縮応答を連続的に記録した。単離した回腸の両側に、白金電極 (3-20 mm apart, Iwashiya Kishimoto Medical Instruments, Kyoto, Japan)をマウントした。
収縮は、ベースラインからの最大の強度で測定した。最大の収縮における試験化合物の影響を測定した。試験化合物の影響を調べるために、収縮応答が安定化した回腸を使用した。その後の単一化合物における各処置濃度間には洗浄を行わずに、化合物をオーガンバスに累積的に添加した。隣接する2つの処置濃度間の間隔は常に、少なくとも3分とした。単一化合物の処置の全てを累積した後、バスを3回洗浄し、単離した回腸を更に30分間静置させた。回腸自発的収縮における各濃度の化合物の影響を、6応答分の最大強度の平均値から計算した。次いで、化合物処置前のDMSO (溶媒)時に得られた最大の収縮に対する平均値の比として、回腸収縮応答を表した。濃度-応答曲線を作成するために、DMSO処置に対する割合で補正し、%で表した。弛緩が非常に小さかったために、それらに対する化合物の影響は分析しなかった。
4週齢の雄性のC57BL/6マウス由来の内側前頭前野(mPFC)の冠状脳切片で実験を行った。動物を速やかに屠殺し、氷冷N-メチル-D-グルタミン(NMDG)人工脳脊髄液(aCSF) (92 mM NMDG、2.5 mM KCl、0.5 mM CaCl2、1.25 mM NaH2PO4、6 mM MgSO4、30 mM NaHCO3、25 mMグルコース、20 mM HEPES、2 mM チオウレア、5 mM アスコルビン酸ナトリウム及び3 mM ピルビン酸ナトリウム) (Ting J.T. et al., Methods Mol Biol. 2014;1183:221-42)中に、脳を摘出した。振動スライサーを用いて、切片を300 μmの厚さでカットした。最初に、NMDG aCSFを含むホールディングチャンバーに、15分間以内34℃で切片を移した。次いで、HEPES aCSF (92 mM NMDG、2.5 mM KCl、2 mM CaCl2、1.25 mM NaH2PO4、2 mM MgSO4、30 mM NaHCO3、25 mM グルコース、20 mM HEPES、2 mM チオウレア、5 mM アスコルビン酸ナトリウム及び3 mM ピルビン酸ナトリウム)を含むホールディングチャンバーに、少なくとも1時間、室温で切片を移した。その後、切片をレコーティングチャンバーに移し、aCSF(124 mM NaCl、5 mM KCl、1.2 mM NaH2PO4、1.5 mM MgCl2、2.5 mM CaCl2、10 mM グルコース及び24 mM NaHCO3)に、切片を浸漬し1〜2 ml/分の流速で灌流した。カルボゲン(95% O2/5% CO2)を用いて、全てのバッファーを常時バブリングし、飽和させた。細胞内溶液 (135 mM グルコン酸カリウム、4 mM KCl、10 mM HEPES、0.2 mM EGTA、4 mM MgATP、0.3 mM Na2GTP、KOHでpH 7.3に調整)で満たしたホウケイ酸ピペット(5〜7 MΩ)を用いて、視覚的に特定した第5層錐体神経細胞で、電流クランプ記録を32〜33℃で行った。Multiclamp 700B増幅器とDigidata 1440Aインタフェースボード(Molecular Devices Japan, Tokyo, Japan)を使用して、2 kHzでフィルタリングし、10 kHzでサンプリングして、シグナルを獲得し、pClamp10ソフトウェアを用いて分析した。
手順
試験前日に、Long Evansラットを行動試験室の環境に1時間以上馴化させ、空の試験箱(灰色のポリ塩化ビニルボックス(40×40×50cm))に個別で10分間馴化させた。試験は、獲得試行と保持試行と呼ばれる2つの3分間の試験で構成された。これらの試行は、所与の試験間隔(ITI)によって隔てられた。試験日に、獲得試行においては、ラットに2つの同一の物体(A1とA2)を3分間探索させた。保持試行においては、ラットに再び見覚えのある物体(A3)と新奇物体(B)を3分間探索させた。物体探索は、ラットが舐める、嗅ぐ、嗅ぎながら手足で物体に触れるで定義した。上を見て物体にもたれ掛ること、物体の上に立つこと又は座ることは除外した。各試験における各物体(A1、A2、A3及びB)の探索時間は、手動で測定した。新奇物体識別指標 (NDI)は以下の式を用いて計算した:新奇物体との相互作用/総相互作用×100 (%)。
獲得試行と保持試行を4時間のITIにより隔てた。獲得試行の2時間、1時間及び2時間前に、化合物D (0.03、0.1、0.3、1及び3 mg/kg, p.o.)、ドネペジル (0.1、0.3及び1 mg/kg, p.o.)並びに化合物C (0.03、0.1及び 0.3 mg/kg, p.o.)をそれぞれ経口投与した。獲得試行の30分前に、スコポラミン (0.1 mg/kg)を皮下投与した。
獲得試行と保持試行を4時間のITIにより隔てた。ドネペジル又はリバスチグミンとの併用においては、化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)を投与した1.5時間後、ドネペジル (0.1 mg/kg, p.o.)又はリバスチグミン (0.1 mg/kg, i.p.)を投与した。
獲得試行と保持試行を4時間のITIにより隔てた。ドネペジルとの併用においては、化合物C (0.03 mg/kg, p.o.)を投与した1.5時間後、ドネペジル (0.1 mg/kg, p.o.)を投与した。
SD系ラットを個々に観察ケージに入れ、少なくとも1時間馴化させた。各ラットに、溶媒、ドネペジル (1、3、10及び30 mg/kg, p.o.)単独、化合物D (1、3、10及び30 mg/kg, p.o.)単独、化合物C (0.01、0.03、0.1及び0.3 mg/kg, p.o.)単独、化合物D (1及び3 mg/kg, p.o.)とドネペジル (0.3 mg/kg, p.o.)の併用、又は化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)とリバスチグミン (0.1 mg/kg, i.p.)の併用を投与し、下痢、痙攣、流涙、流涎、縮瞳及び骨格筋攣縮を含むコリン系副作用を評価した。化合物単独については投薬の0.5、1、2、4及び6時間後に、併用研究についてはドネペジル又はリバスチグミンの投薬後、10分及び30分、並びに1、2、4及び6時間に、群の割り当てについて知らされていない観察者によって重篤度をスコア化した。下痢の重篤度は以下の通りスコア化した:0、健常なペレット;1、湿っているが形がある糞;2、膨張した又は粘液性の糞;3、重度の水様の下痢。下痢については、2以上のスコアがつけられたラットとマウスの数を数えた。骨格筋攣縮については、上肢と下肢の両方の著しい骨格筋の攣縮を伴うラットの数を数えた。流涙については、中程度から顕著な流涙(眼周囲の体液よりも激しい流涙)が誘発されたラットの数を数えた。流涎については、口の周りが一見して濡れているという個体ではなく、激しい唾液分泌が誘発されたラットの数を数えた。観察中の最大のスコアを採用した。
実験結果は平均値±S.E.M.で表した。用量依存性を検討した試験では、Williamsの片側検定又はShirley-Williamsの片側検定により、溶媒投与群と試験化合物投与群の統計比較を行い、P≦0.025で有意差を示すものとした。2群間の統計分析は、StudentのT検定により行い、0.05未満のP値を統計的に有意と考えた。ドネペジル等との併用試験については、適切な場合には、P≦0.05に設定した統計的有意性でDunnett又はSteelの多重比較検定を行った。
まず最初に、ヒトM1Rを発現するCHO-K1細胞におけるCa2+流動アッセイを用いて、化合物ライブラリーからM1PAMをスクリーニングし、ヒット化合物のM1R選択性について評価した。選択された化合物について、α値によって示されるAChとM1R間の結合親和性の促進に対する活性値を、結合モジュレーションアッセイにより評価した。その結果、低α値を有する活性の高い選択的M1PAMとして、化合物Dが見出された。EC20AChに対する作用増強を検証すると、ヒトM1Rに対する化合物DのIP値は2.7 nMであった(図5A)。化合物DのM1R選択性は、他のヒトムスカリン受容体サブタイプよりも3700倍以上であった;各ヒトムスカリン受容体サブタイプを発現するCHO-K1細胞を使用したCa2+流動アッセイにおける、M2〜M5Rに対する化合物DのIPは、1000 nMより高かった(図5A)。AChによる、ヒトM1Rからの[3H]-ピレンゼピンの置換を測定する結合モジュレーションアッセイにより、化合物Dが199のα値を有していることが明らかになった(図5B)。野生型及びM1R KOマウスの海馬において、3 mg/kgの化合物DによるIP1産生を評価した。野生型マウスにおいては、3 mg/kgの化合物Dは海馬内でIP1産生を有意に増加させた(153.3±9.3%、図5C)。重要なことに、M1R KOマウスの海馬において、3 mg/kg, p.o.の化合物DはIP1産生を増加させなかった(図5C)。野生型とM1R KOマウス間でPKプロファイルにおける有意差は観察されず(表4)、それゆえマウスにおいて化合物DはM1R活性化によりIP1産生を増加させる。
α値がM1PAMの薬理学的プロファイルにどのように影響するかを理解するために、化合物DのIP値と類似するIP値で化合物Dより高いα値を有するM1PAMとして、化合物Cの特徴を調べた。結合モジュレーションアッセイにおいて、化合物Cは1786のα値を有し(図6C)、ヒトM1Rを発現するCHO-K1細胞を使用したin vitro Ca2+機能的アッセイで0.62 nMのIP値を示した。各ヒトムスカリン受容体サブタイプを発現するCHO-K1細胞を使用したCa2+流動アッセイにおいて、M2〜M5Rに対する化合物CのIPは、1,000 nMより高かった(図6B)。野生型及びM1R KOマウスの海馬において、10 mg/kgの化合物CによるIP1産生を評価した。野生型マウスの海馬において、化合物Cは10 mg/kg, p.o.でIP1産生を有意に増加させたが、M1R KOマウスにおいては増加させなかった(図6D)。野生型とM1R KOマウス間では、化合物Cの脳内濃度において有意差は観察されず(表5)、それゆえ化合物CはマウスにおいてM1R活性化によりIP1産生を増加させる。
in vitroマグヌスアッセイを使用して、回腸収縮における化合物Dと化合物Cの影響を調べた。化合物Cは、濃度依存的に自発性回腸運動性を増強したが、化合物Dは増強しなかった(図7)。それゆえ、高α値のM1PAMと比較して、化合物Dは、回腸運動性に与える影響がより小さい。
次に、ドネペジルを対照として使用し、NORTにおけるラットの認知記憶過程へのM1PAM(化合物Dと化合物C)の影響を評価した。スコポラミン誘発認知機能障害は、動物とヒトにおけるコリン作動性の障害と関連する認知機能障害モデルとして使用されている。認知記憶試験において、ドネペジルは0.3及び1 mg/kgでNDI を有意に増加させた (P≦0.025、図8A)。ドネペジルと同様、化合物Dは0.3、1及び3 mg/kgで、スコポラミン誘発認知機能障害に対し、NDIを有意に増加させた(0.3 mg/kgが、ラットにおける化合物Dの最小薬効用量である) (P≦0.025、図8B〜C)。化合物Cはまた、0.1及び0.3 mg/kgで、スコポラミン誘発認知機能障害を改善した(0.1 mg/kgが、ラットにおける化合物Cの最小薬効用量である) (P≦0.025、図8D)。それゆえ、化合物D、化合物C及びドネペジルは、ラットにおけるコリン作動性の障害と関連する認知機能障害を選択的に改善する。
ドネペジル、化合物D及び化合物Cは、ラットにおいて用量依存的に下痢を誘発した(10及び30 mg/kgではP≦0.025、図9A;10及び30 mg/kgではP≦0.025 (10 mg/kgが、ラットにおける化合物Dの最小下痢誘発用量である)、図9B;0.1及び0.3 mg/kgではP≦0.025 (0.1 mg/kgが、ラットにおける化合物Cの最小下痢誘発用量である)、図9C)。ラットにおけるドネペジル、化合物D及び化合物Cのコリン作動性副作用を表6に示した。ラットにおいては、ドネペジルは10 mg/kg, p.o.で下痢に加え流涎、縮瞳及び骨格筋攣縮を誘発した一方で、化合物Dは30 mg/kgまで、化合物Cは0.3 mg/kgまで、下痢以外のコリン作動性の副作用を誘発しなかった。
M1PAMとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の薬理学的メカニズムを考慮すると、化合物Dとドネペジル間の相乗効果が期待される。ラット海馬において、化合物D (3 mg/kg)とドネペジル (3 mg/kg)の併用は、各化合物の単独投与と比較して、より顕著なIP1産生の増加を引き起こした(図10A)。NORTにおけるスコポラミン誘発認知機能障害への無効用量での化合物D (0.1 mg/kg)とドネペジル (0.1 mg/kg)の併用効果を評価した。獲得試行においては、これら化合物の投与は探索時間に対して影響を与えなかった。保持試行においては、溶媒投与群(対照群)のラットは4時間のITI後、67.6% NDIで既知の物体と新奇物体を識別した一方で、スコポラミンを投与したラットは既知の物体と新奇物体を識別できず、有意に低いNDI (52.7%)を示した (図10B)。化合物Dの0.1 mg/kg、およびドネペジルの0.1 mg/kgは、単独ではNDIに影響を与えず (それぞれ54.1%と52.7%、図10B)、0.1 mg/kgの化合物Dとドネペジルの併用投与はスコポラミンを投与したラットにおける溶媒投与群と比較して、有意にNDIを増加させた (63.0%) (P≦0.05、図10B)。化合物単独と、化合物Dとの併用では、ドネペジルのPKプロファイルにおいて有意な差はなく(図11)、それゆえ無効用量の化合物Dとドネペジルは、スコポラミンを投与したラットの認知機能改善において相乗効果を有する。
また、ラットにおける化合物Dとドネペジルの併用投与後の副作用プロファイルの特徴を調べた。ラットの認知機能改善における化合物Dとドネペジルの両方の有効用量は0.3 mg/kgであった。化合物D (1 mg/kg)とドネペジル (0.3 mg/kg)の併用投与は、ラットにおけるコリン系副作用を何ら引き起こさなかった(表7)。
無効用量での化合物C (0.03 mg/kg)とドネペジル (0.1 mg/kg)の併用時の、NORTにおけるスコポラミン誘発認知機能障害への影響を評価した。獲得試行においては、化合物の投与は探索時間に対して影響を与えなかった。保持試行においては、溶媒投与群(対照群)のラットは4時間のITI後、65.6% NDIで既知の物体と新奇物体を識別した一方で、スコポラミンを投与したラットは既知の物体と新奇物体を識別できず、有意に低いNDI (51.1%)を示した (図12)。化合物C (0.03 mg/kg)又はドネペジル (0.1 mg/kg)の単独投与群では、いずれも無効用量では、NDIに影響を与えなかった (それぞれ52.3%と49.5%、図12)。化合物C (0.03 mg/kg)とドネペジル (0.1 mg/kg)の併用投与は、スコポラミンを投与したラットの溶媒投与群と比較して、NDIを有意に増加させなかった (54.8%)(図12)。それゆえ1000を超える高α値のM1PAMとドネペジルの併用は、ラットのスコポラミン誘発認知機能障害を相乗的に改善しない。
M1Rは、第5層錐体神経細胞において3つのコリン作動性の作用:静止膜電位(RMP)と、通常、活動電位発生の短い期間に続く、後過分極(AHP)や後脱分極(ADP)といった生理学的応答に寄与することが知られている(Gulledge et al., J. Neurosci. 2009 Aug 5;29(31): 9888-9902.)。異なるα値のM1PAMの脳機能への影響を調べるために、化合物Dと化合物Cによるコリン作動性の興奮を評価した。最初に、ムスカリン受容体アゴニストのカルバコール (10 μM、10分間)をバスアプリケーションにより試験した(図13-A、図13-B、図13-C)。カルバコールは、第5層錐体神経細胞において、脱分極電流刺激後のAHPを抑制し(図13-C左)、ADP電位を生成し(図13-C中央)、RMPの脱分極を誘発した(図13-C右)。これらの条件下で、化合物Dは10 μMで有意にADPを生成したが、RMPの脱分極やAHPの抑制は惹起しなかった(図13-D)。一方で、化合物CはRMPにおいて閾値下の変化を引き起こし、AHPを抑制し、ADPを生成した(図13-E)。
次に、無効用量での化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)とリバスチグミン (0.1 mg/kg, i.p.)を併用した際の、NORTにおけるスコポラミン誘発認知機能障害に対する影響を調べた。獲得試行においては、化合物投与は探索時間に対して影響を与えなかった。保持試行においては、溶媒投与群(対照群)のラットは4時間のITI後、65.9%のNDIで既知の物体と新奇物体を識別した一方で、スコポラミンを投与したラットは既知の物体と新奇物体を識別できず、有意に低いNDI (53.7%)を示した (図14)。化合物D (0.1 mg/kg)とリバスチグミン (0.1 mg/kg)はいずれも、単独投与でNDIに影響を与えなかった (それぞれ56.8%と53.9%、図14)。0.1 mg/kgの化合物D (p.o.)とリバスチグミン (i.p.)の併用は、スコポラミンを投与したラットの溶媒投与群と比較して、NDIを有意に増加させた (64.9%)(図14)。
また、NORTと同じ投与条件下で、化合物Dとリバスチグミンの併用投与後の、ラットにおける副作用プロファイルの特徴を調べた。化合物D (0.1 mg/kg, p.o.)とリバスチグミン (0.1 mg/kg, i.p.)の併用は、ラットにおいてコリン系副作用を何ら引き起こさなかった(表8)。
Claims (7)
- α値を指標とする、コリン系副作用の低減されたコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーター(M1PAM)のスクリーニング方法。
- 哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療し、かつコリン系副作用を低減する方法であって、有効量の低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを、哺乳動物に投与することを含む、方法。
- 哺乳動物が、コリン作動性の障害を有する哺乳動物である、請求項2記載の方法。
- 哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療する方法であって、有効量の低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを、哺乳動物に投与することを含み、
該哺乳動物が、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤により引き起こされるコリン系副作用を患っている、方法。 - 哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療し、かつコリン系副作用を低減する方法であって、哺乳動物に、有効量のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を投与し、次いで低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを投与することを含む、方法。
- 哺乳動物において、アルツハイマー病、統合失調症、認知症を伴うパーキンソン病又はレヴィー小体型認知症を治療し、かつコリン系副作用を低減する方法であって、以下:
(i)哺乳動物にアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を投与して、副作用を引き起こすこと、及び
(ii)有効量の低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを、(i)の哺乳動物に投与すること
を含む、方法。 - 哺乳動物に投与されるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の量を低減する方法であって、有効量の低α値のコリン作動性ムスカリンM1受容体ポジティブアロステリックモジュレーターを、哺乳動物に投与することを含む、方法。
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