以下、成分測定装置、成分測定方法及び成分測定プログラムの実施形態について、図1〜図17を参照して説明する。各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
まず、成分測定装置の1つの実施形態について説明する。図1は、本実施形態における成分測定装置1に成分測定チップ2が装着された成分測定装置セット100を示す上面図である。図2は、図1のI-I線に沿う断面のうち、成分測定チップ2が装着されている箇所近傍の拡大断面図である。
成分測定装置セット100は、成分測定装置1と、成分測定チップ2と、を備えている。本実施形態の成分測定装置1は、血液中の被測定成分としての血漿成分中のグルコース、の濃度(mg/dL)を測定可能な血糖値測定装置である。また、本実施形態の成分測定チップ2は、成分測定装置1としての血糖値測定装置の先端部に装着可能な血糖値測定チップである。ここで言う「血液」とは、成分毎に分離されておらず、すべての成分を含む全血を意味する。
成分測定装置1は、例えば樹脂材料からなるハウジング10と、このハウジング10の上面に設けられたボタン群と、ハウジング10の上面に設けられた液晶又はLED(Light Emitting Diodeの略)等で構成される表示部11と、成分測定装置1に装着された状態の成分測定チップ2を取り外す際に操作される取り外しレバー12と、を備えている。本実施形態のボタン群は、電源ボタン13と、操作ボタン14とにより構成されている。
ハウジング10は、上述したボタン群及び表示部11が上面(図1参照)に設けられている、上面視の外形が略矩形の本体部10aと、本体部10aから外方に突設され、上面(図1参照)に取り外しレバー12が設けられたチップ装着部10bと、を備えている。図2に示すように、チップ装着部10bの内部には、チップ装着部10bの先端面に形成された先端開口を一端とするチップ装着空間Sが区画されている。成分測定装置1に対して成分測定チップ2を装着する際は、外方から先端開口を通じてチップ装着空間S内に成分測定チップ2を挿入する。成分測定チップ2が所定位置まで押し込まれると、成分測定装置1のチップ装着部10bが成分測定チップ2を係止した状態となる。この係止した状態とすることにより、成分測定チップ2の成分測定装置1への装着が完了する。成分測定装置1による成分測定チップ2の係止は、例えば、チップ装着部10b内に成分測定チップ2の一部と係合可能な爪部を設ける等、各種構成により実現可能である。
逆に、成分測定装置1に装着されている成分測定チップ2を成分測定装置1から取り外す際は、ハウジング10の外部から上述した取り外しレバー12を操作する。その操作により、成分測定装置1のチップ装着部10bによる成分測定チップ2の係止状態が解除されると共に、ハウジング10内のイジェクトピン26(図2参照)が連動して移動し、成分測定チップ2を成分測定装置1から取り外すことができる。
本実施形態のハウジング10は、上面視(図1参照)で略矩形の本体部10aと、本体部10aから外方に突設されているチップ装着部10bと、を備える構成であるが、成分測定チップ2を装着可能なチップ装着部を備える構成であればよく、本実施形態のハウジング10の形状に限られない。したがって、本実施形態のハウジング10の形状の他に、例えば、ユーザにとって片手で把持し易くするための形状を種々採用することも可能である。
表示部11は、例えば、成分測定装置1により測定された被測定成分の情報を表示する。本実施形態では、成分測定装置1としての血糖値測定装置により測定されたグルコース濃度(mg/dL)を表示部11に表示することができる。表示部11には、被測定成分の情報のみならず、成分測定装置1の測定条件やユーザに所定の操作を指示する指示情報等、各種情報を表示できるようにしてもよい。ユーザは、表示部11に表示された内容を確認しながら、ボタン群の電源ボタン13や操作ボタン14を操作することができる。
次に、成分測定チップ2単体について説明する。図3は、成分測定チップ2を示す上面図である。また、図4は、図3のII-II線に沿う断面図である。図5は、図3のIII-III線に沿う断面図である。図3〜図5に示すように、成分測定チップ2は、内部に流路23を区画している。また、成分測定チップ2の流路23内には、この流路23を閉塞しないように対向する内壁との間に間隙28を隔てた状態で試薬としての発色試薬22が配置されている。
より具体的に、本実施形態の成分測定チップ2は、略矩形板状の外形を有するベース部材21と、このベース部材21を覆うように対向して配置されたカバー部材25と、ベース部材21とカバー部材25との間の距離を所定間隔に維持する2つのスペーサ部材27と、を備えている。本実施形態の成分測定チップ2の流路23は、ベース部材21、カバー部材25及び2つのスペーサ部材27に囲まれることにより形成されている。また、本実施形態の試薬としての発色試薬22は、流路23を区画する内壁としてのベース部材21の上面に塗布されることにより配置されている。この塗布された発色試薬22と、流路23を区画する内壁としてのカバー部材25の下面と、の間に間隙28が形成されている。
流路23は、成分測定チップ2の厚み方向と直交する方向に延在しており、成分測定チップ2の1つの側端から別の側端まで貫通している。流路23の一端が形成されている成分測定チップ2の1つの側端は、外方から血液を流路23内に供給可能な供給部24を構成している。外方から供給部24に供給された血液は、例えば毛細管現象によって流路23に沿って移動し、流路23の間隙28まで到達し、発色試薬22と接触する。血液と発色試薬22とが接触すると、血液中の被測定成分としてのグルコースと発色試薬22とが呈色反応を引き起こす。この呈色反応により発色成分が生成される。そのため、発色試薬22が保持されている保持位置及び間隙28の位置で、血液と、上述の呈色反応で生成された発色成分と、を含む混合物が生成される。
本実施形態の流路23は、ベース部材21、カバー部材25及び2つのスペーサ部材27により区画されているが、流路を区画する部材数や流路の形状は、本実施形態の構成に限られない。例えば、厚み方向の一方側の面に溝が形成されたベース部材と、この溝が形成された一方側の面を覆うように取り付けられたカバー部材と、の2つの部材のみで流路を形成することも可能である。このように、成分測定チップの流路は、3つ以下の部材により区画される構成であってもよい。また、5つ以上の部材により区画される流路であってもよい。本実施形態の流路23は、上面視(図3参照)や図5に示す断面視で直線状に延在しているが、例えば、上面視や図5と同様の断面視において、折れ曲がって延在していてもよく、一様に湾曲して延在していてもよい。
ベース部材21およびカバー部材25の材質としては、光の透過のために透明な素材を用いることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、環状ポリオレフィン(COP)や環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネード(PC)等の透明な有機樹脂材料;ガラス、石英等の透明な無機材料;が挙げられる。
また、スペーサ部材27は、透明か不透明かを問わず、ベース部材21およびカバー部材25と同様の材料により形成することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、環状ポリオレフィン(COP)や環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネード(PC)等の有機樹脂材料;ガラス、石英等の無機材料;が挙げられる。これらの材料から形成されたスペーサ部材27は、接着剤を用いて、ベース部材21及びカバー部材25に接着されるが、このような構成に代えて、上述の材料から形成された基材を有する両面テープを用いてもよい。
試薬としての発色試薬22は、血液中の被測定成分と反応して、被測定成分の血中濃度に応じた色に呈色する呈色反応を引き起こすものであり、本実施形態の発色試薬22は、ベース部材21上に塗布されている。本実施形態の発色試薬22は、血液中の被測定成分としてのグルコースと反応する。本実施形態の発色試薬22としては、例えば、(i)グルコースオキシダーゼ(GOD)と(ii)ペルオキシダーゼ(POD)と(iii)1−(4−スルホフェニル)−2,3−ジメチル−4−アミノ−5−ピラゾロンと(iv)N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン,ナトリウム塩,1水和物(MAOS)との混合試薬、あるいはグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とテトラゾリウム塩及び電子メディエーターとの混合試薬などが挙げられる。さらに、リン酸緩衝液のような緩衝剤が含まれていてもよい。発色試薬22の種類、成分については、これらに限定されない。
但し、本実施形態の発色試薬22としては、血液中のグルコースと発色試薬22との呈色反応により生じる発色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長が、血球中のヘモグロビンの光吸収特性に起因するピーク波長と異なるものを使用している。本実施形態の発色試薬22は、血液中のグルコースと発色試薬22との呈色反応により生じる発色成分の吸光度スペクトルが650nm付近にピーク波長を有するが、ピーク波長が650nm付近になるものに限られない。この詳細は後述する。
図2に示すように、成分測定装置1により被測定成分を測定する際には、成分測定チップ2をチップ装着部10b内に装着する。そして、成分測定チップ2の一端に設けられている供給部24に血液を供給すると、血液は、例えば毛細管現象により流路23内を移動し、流路23の間隙28まで到達し、上述したように、発色試薬22の保持位置及び間隙28の位置で、血液と、血液と発色試薬22との呈色反応で生じる発色成分と、を含む混合物が生成される。
いわゆる比色式の成分測定装置1は、発色試薬22の保持位置及び間隙28の位置に生成される混合物に向かって光を照射し、その透過光量(又は反射光量)を検出し、血中濃度に応じた発色の強度に相関する検出信号を得る。そして、成分測定装置1は、予め作成された検量線を参照することにより、被測定成分を測定することができる。本実施形態の成分測定装置1は、血液中の血漿成分におけるグルコース濃度(mg/dL)を測定する。
図6は、図1及び図2に示す成分測定装置1の電気ブロック図である。図6には、説明の便宜上、成分測定装置1に装着された状態の成分測定チップ2の断面(図4と同じ断面)を併せて示している。また、図6では、成分測定チップ2の近傍を拡大したものを左上に別途示している。以下、成分測定装置1の更なる詳細について説明する。
図6に示すように、成分測定装置1は、上述したハウジング10(図1参照)、表示部11、取り外しレバー12(図1参照)、電源ボタン13及び操作ボタン14の他に、演算部60と、メモリ62と、電源回路63と、測定光学系64と、を更に備えている。
演算部60は、MPU(Micro-Processing Unit)又はCPU(Central Processing Unit)で構成されており、メモリ62等に格納されたプログラムを読み出し実行することで、各部の制御動作を実現可能である。メモリ62は、揮発性又は不揮発性である非一過性の記憶媒体で構成され、ここで示す成分測定方法を実行するために必要な各種データ(成分測定プログラムを含む)を読出し又は書込み可能である。電源回路63は、電源ボタン13の操作に応じて、演算部60を含む成分測定装置1内の各部に電力を供給し、又はその供給を停止する。
測定光学系64は、血液と試薬としての発色試薬22との呈色反応により生じる発色成分を含む混合物の光学的特性を取得可能な光学システムである。測定光学系64は、具体的には、発光部66と、発光制御回路70と、受光部72と、受光制御回路74と、を備えている。
本実施形態の発光部66は5種類の光源67a、67b、67c、67d及び68を備えている。光源67a〜67d及び68は、分光放射特性が異なる光(例えば、可視光と近赤外光)を放射することができる。以下、説明の便宜上、光源67aを「第1光源67a」、光源67bを「第2光源67b」、光源67cを「第3光源67c」、光源67dを「第4光源67d」、光源68を「第5光源68」と記載する。
以下、第1光源67aから発光される光の波長を第1波長λ1とする。また、第2光源67bから発光される光の波長を第2波長λ2とする。更に、第3光源67cから発光される光の波長を第3波長λ3とする。また更に、第4光源67dから発光される光の波長を第4波長λ4とする。第5光源68から発光される光の波長を第5波長λ5とする。本実施形態では、第1波長λ1及び第2波長λ2が、近赤外領域に属し、第3波長λ3、第4波長λ4及び第5波長λ5が、可視領域に属する。第1波長λ1〜第5波長λ5の具体的な値やその特性については後述する。
本実施形態の第1光源67a、第2光源67b、第3光源67c、第4光源67d及び第5光源68としては、LED素子、有機EL(Electro−Luminescenceの略)素子、無機EL素子、LD(Laser Diodeの略)素子を含む種々の発光素子を適用することができる。近赤外領域の光を発光する光源としては、例えば、LED素子、白熱電球、ハロゲンランプなどを使用することができる。また、本実施形態では、第1波長λ1〜第5波長λ5それぞれの波長の光を別々の光源により発光しているが、例えば、可視領域における複数の波長の光を発光可能な1つの光源を利用することも可能である。更に、図6では、模式的に、第1光源67a、第2光源67b、第3光源67c、第4光源67d及び第5光源68を一列に並べて描いているが、このような配置に限られない。
図2、図6に示すように、本実施形態の受光部72は、発光部66と成分測定チップ2を挟んで対向して配置された1個の受光素子により構成されている。受光部72は、発光部66の第1光源67a〜第5光源68から成分測定チップ2の発色試薬22の保持位置及び間隙28の位置の両方を透過するように照射され、成分測定チップ2を透過した透過光を受光する。受光部72としては、PD(Photo Diodeの略)素子、フォトコンダクタ(光導電体)、フォトトランジスタ(Photo Transistorの略)を含む種々の光電変換素子を適用することができる。
発光制御回路70は、第1光源67a〜第5光源68それぞれに駆動電力信号を供給することで、第1光源67a〜第5光源68を点灯させ、又は消灯させる。受光制御回路74は、受光部72から出力されたアナログ信号に対して、対数変換及びA/D変換を施すことでデジタル信号(以下、検出信号という)を取得する。
図7は、図6に示す演算部60の機能ブロック図である。演算部60は、測定光学系64による測定動作を指示する測定指示部76、及び、各種データを用いて被測定成分の濃度を測定する濃度測定部77の各機能を実現する。
濃度測定部77は、吸光度取得部78と、吸光度補正部84と、を備えている。
図7では、メモリ62には、測定光学系64により測定された第1波長λ1〜第5波長λ5それぞれにおける吸光度の測定値データ85と、この測定値データ85又はこの測定値データ85に基づいて算出される二次データと相関する一群の補正係数等を含む補正データ86と、測定波長で実測された混合物の吸光度の測定値又はこの測定値を補正データ86により補正して得られる補正測定値と各種物理量(例えば、グルコース濃度)との関係を示す検量線や、混合物中のヘモグロビンの吸光度とヘマトクリット値との関係を示す検量線などの、検量線データ90と、が格納されている。「ヘマトクリット値」とは、血液中の血球成分の血液(全血)に対する容積比を百分率で示したものである。
以下、体液中の被測定成分としての血液中のグルコースと、発色試薬22と、の呈色反応を、グルコースを含む血漿成分を血液から分離することなく、血液(全血)と発色試薬22とにより実行し、この呈色反応により生じる発色成分を含む混合物の光学的特性に基づいて、血液中のグルコース濃度を測定する成分測定方法について説明する。
まず、図8及び図9を参照しつつ、血液中の被測定成分を、血液(全血)を用いた吸光度測定に基づいて推定しようとする際の問題点について言及する。以降の実施例では、発色試薬22としてグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とテトラゾリウム塩(WST−4)及び電子メディエーターとの混合試薬を用いた。
図8は、ヘマトクリット値及びグルコース濃度が既知である血液検体を発色試薬22と呈色反応させることにより得られる混合物の吸光度スペクトルを示している。ここで用いている血液検体は、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が400mg/dL(図8中では「Ht40 bg400」と表記)のものである。
また、図9は、ヘマトクリット値及びグルコース濃度が既知である2種の血液検体それぞれの吸光度スペクトルを示している。この2種の血液検体を第1血液検体、第2血液検体とする。第1血液検体は、ヘマトクリット値が20%で、グルコース濃度が400mg/dL(図9中では「Ht20 bg400」と表記)のものである。第2血液検体は、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が400mg/dL(図9中では「Ht40 bg400」と表記)のものである。第2血液検体は、図8に示す血液検体と同じものである。実際は、図9に示す第1血液検体及び第2血液検体に加えて、ヘマトクリット値が20%で、グルコース濃度が0mg/dLの第3血液検体、ヘマトクリット値が20%で、グルコース濃度が100mg/dLの第4血液検体、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が0mg/dLの第5血液検体、及び、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が100mg/dLの第6血液検体についても、吸光度スペクトルを求めているが、ヘマトクリット値が等しい血液検体の吸光度スペクトルは略一致するため、図9ではヘマトクリット値が異なる2つの血液検体の一例として、第1血液検体(ヘマトクリット値が20%)の吸光度スペクトル、及び第2血液検体(ヘマトクリット値が40%)の吸光度スペクトルのみを示している。
一般的に、測定対象となる発色成分以外の成分が試料中に含まれるとき、光学的現象の発生によって発色成分の測定結果に影響を与えることがある。例えば、血液中の血球成分等による「光散乱」や、発色成分とは別の成分(具体的には、ヘモグロビン)による「光吸収」が発生することで、真の値よりも大きい吸光度が測定される傾向がある。
具体的に、図9に示す2つの血液検体の吸光度スペクトルは、波長が長くなるにつれて吸光度が次第に小さくなるトレンド曲線を有し、且つ、540nm付近及び570nm付近を中心とする2つのピークを有する。この2つのピークは、主に、赤血球中のヘモグロビンの光吸収に起因する。また、図9に示す2つの血液検体の吸光度スペクトルでは、600nm以上の波長域において、波長が長くなるにつれて、吸光度が略直線状になだらかに減少している。この略直線状の部分は、主に、血球成分等による光散乱に起因する。
換言すれば、600nm付近より長波長側の波長域における血液検体の吸光度は、血球成分等による光散乱の影響が支配的であり、600nm付近より短波長側の波長域における血液検体の吸光度は、血球成分等による光散乱の影響よりも、ヘモグロビンによる光吸収の影響が大きい。
一方、図8に示す混合物の吸光度スペクトルでは、図9に示す血液検体の吸光度スペクトルと同様、波長が長くなるにつれて吸光度が次第に小さくなるトレンド曲線を有しているが、図9に示す曲線と比較して、可視領域である600nm〜700nm辺りにわたって吸光度が増加していることがわかる。この600nm〜700nm辺りにわたって増加している吸光度は、主に、血液中のグルコースと発色試薬22との呈色反応により生じた発色成分の吸光特性に起因する。
このように、測定対象となる発色成分の他に、図9に示す吸光特性を有する血液を含む混合物を用いて、色素成分由来の発色成分の吸光度を正確に測定する場合には、所定の測定波長(例えば650nm)における吸光度の測定値から、血球成分等による光散乱やヘモグロビンによる光吸収などの影響(ノイズ)を除去する必要がある。
より具体的には、測定対象となる発色成分の光吸収率が高い所定の測定波長(例えば650nm)における、血球成分等による光散乱やヘモグロビンによる光吸収などの影響(ノイズ)を推定し、同測定波長における吸光度の測定値を補正することが必要となる。
ここで、混合物が位置する間隙28の高さhは、流入する検体量を反映するものである。すなわち、検体に含まれる測定対象の量(濃度)を求めるためには、間隙28の高さhを成分測定チップの種類等に応じて定まる一定値(定数)として捉えた上で、混合物における発色成分の吸光度を導出する必要がある。しかしながら、既存の成分測定装置は、間隙28の高さhの変動を考慮していない。さらに、間隙28の高さhは、例えば、自然環境下における発色試薬22の水分吸収の有無や、呈色反応による発色試薬22の膨潤又は溶解の影響や、成分測定チップの製造上の寸法公差などにより、変動する。間隙28の高さhが変動すると、間隙28に位置する血液の量も変動する。そのため、間隙28の高さhの変動を考慮しない場合には、例えば、血液中のグルコース濃度の測定など、血液中の被測定成分の測定において測定精度が低下し、正確な血液中のグルコース濃度を測定することができない。
図10は、流路23の高さH(図5参照)の相違に基づく水の吸光度の相違を示すグラフである。具体的に、図10では、図3〜図5に示す成分測定チップ2のうち発色試薬22を取り除いた状態の空チップの近赤外領域における吸光度スペクトルを示している。より具体的に、図10では、流路23の高さHが30μmであって、流路23内に水がない状態の第1空チップでの吸光度スペクトル(図10では「30μm no water」と表記)と、流路23の高さHが50μmであって、流路23内に水がない状態の第2空チップでの吸光度スペクトル(図10では「50μm no water」と表記)と、流路23の高さHが60μmであって、流路23内に水がない状態の第3空チップでの吸光度スペクトル(図10では「60μm no water」と表記)と、流路23の高さHが30μmであって、流路23内が水で満たされた状態の第4空チップでの吸光度スペクトル(図10では「30μm water」と表記)と、流路23の高さHが50μmであって、流路23内が水で満たされた状態の第5空チップでの吸光度スペクトル(図10では「50μm water」と表記)と、流路23の高さHが60μmであって、流路23内が水で満たされた状態の第6空チップでの吸光度スペクトル(図10では「60μm water」と表記)と、示している。流路23の幅W(図3参照)は第1空チップ〜第6空チップで同じである。また、図10に示す吸光度スペクトルは、流路23の延在方向における一部の測定空間において、流路23の高さ方向(空チップの厚み方向と同じ方向)において流路23を貫通するように照射した光による吸光度を示している。
図10に示すように、流路23内に水がない状態の第1空チップ〜第3空チップの吸光度スペクトルは、流路23の高さHにかかわらず、同様の形状を有している。また、第1空チップ〜第3空チップの吸光度スペクトルはいずれも、水に固有の吸収帯域の1つである1820nm〜2000nmにおいて吸光度のピーク値を有していない。「水に固有の吸収帯域」とは、吸光度スペクトルにおいて、水の吸光度が特異なピークとして現れるピーク波長域を意味しており、例えば、近赤外領域(800nm〜2500nm)における1820nm〜2000nmの波長域や、近赤外領域における1300nm〜1650nmの波長域、などが挙げられる。
一方で、流路23内が水で満たされている状態の第4空チップ〜第6空チップの吸光度スペクトルは、全体としては同様のトレンドを示しているが、いずれも水に固有の吸収帯域である1820nm〜2000nmにおいて吸光度のピーク値を有している。そして、流路23内が水で満たされている状態の第4空チップ〜第6空チップは、流路23の高さHに応じて水の吸光度のピーク値が異なる吸光度スペクトルとなる。具体的に、第4空チップ〜第6空チップを比較すると、流路23の高さHが高くなるほど、水の吸光度のピーク値が高くなることがわかる。
このように、流路23中の測定空間の光路長が異なると、光路長を満たす水分量も異なるため、水に固有の吸収帯域での水の吸光度についても、水分量に応じて異なる値を示すことがわかる。
図11は、発色試薬22を有する成分測定チップ2の近赤外領域における吸光度スペクトルを示す図である。具体的に、図11には、検体としてグルコースが含まれていない水を使用した場合の間隙28の位置での吸光度スペクトル(図11では「bg0」と表記)と、検体としてグルコース濃度が100mg/dLのグルコース水を使用した場合の間隙28の位置での吸光度スペクトル(図11では「bg100」と表記)と、検体としてグルコース濃度が400mg/dLのグルコース水を使用した場合の間隙28の位置での吸光度スペクトル(図11では「bg400」と表記)と、流路23内に検体を入れない状態(間隙28は空隙の状態)での、成分測定チップ2における発色試薬22の吸光度スペクトル(図11では「ini」と表記)と、の4つの吸光度スペクトルを示している。
図11に、高さH=50μmのチップを用い、検体として水及びグルコース水を使用している3つの吸光度スペクトルを示した。図11に示すように、検体として水及びグルコース水を使用している3つの吸光度スペクトルは、略一致している。そして、これら3つの吸光度スペクトルはいずれも、水に固有の吸収帯域である1820nm〜2000nmの波長域において同程度の吸光度のピークを有している。すなわち、水に固有の吸収帯域でのピーク値(水に固有の1つの吸収帯域での極大吸光度)は、グルコースの有無や、グルコースの濃度の相違にかかわらないことがわかる。また、図11に示すように、検体を入れない発色試薬22の吸光度スペクトルは、上述した3つの吸光度スペクトルとは一致していない。但し、検体を入れない状態での発色試薬22の吸光度スペクトルであっても、水に固有の吸収帯域において小さいピークを有することがわかる。これは、発色試薬22自体に多少の水分が含まれているためである。
図10及び図11より、間隙28に位置する混合物に対して水に固有の吸収帯域に属する波長の光を照射すれば、混合物に含まれる被測定成分の量によらず、混合物に含まれる水分量に応じて、異なる吸光度を測定することができることがわかる。
但し、1つ1つの成分測定チップ2の間隙28の高さhを、例えば膜厚計等により実測し、その測定値に応じた補正値を個別の成分測定装置1に校正情報として取り込ませることは、患者や医療従事者などの使用者に多大な手間をかけることや、成分測定値の大型化につながり、使用者の利便性を損なう。また、成分測定チップ2の間隙28の高さhの許容される寸法公差を、測定空間の光路長について補正不要なほど極めて小さくすることも、製造上容易なことではない。更に、検体としての体液が試薬に接触し、間隙28に混合物が生成されている状態での測定空間の光路長としての間隙28の高さhを反映していない。
そこで、成分測定装置1では、上述した特性を利用して、混合物における発色成分の吸光度を測定する際(以下、単に「測定時」と記載する。)の、測定空間の光路長としての間隙28の高さhを推定する。具体的には、血液の血漿中には水分が含まれるため、水に固有の吸収帯域に属する光を間隙28に位置する混合物に照射すれば、測定時において間隙28に位置する混合物に含まれる水分量に応じた、換言すれば、測定時において間隙28に位置する血液量に応じた、水の吸光度の測定値を取得することができる。そのため、例えば水の吸光度と、間隙28の高さhと、の相関を示す検量線を使用すれば、測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhを推定することが可能となる。成分測定装置1では、測定時の間隙28の高さhを推定し、この推定に基づいて、体液中の被測定成分の測定値を補正する。これにより被測定成分の測定精度を向上させることができる。
以下、成分測定装置1により実行される、一実施形態としての成分測定方法について詳細に説明する。
成分測定装置1は、体液中の被測定成分と試薬との呈色反応により生じる発色成分を含む混合物の光学的特性に基づいて、体液中の被測定成分を測定可能である。具体的に、本実施形態では、体液中の被測定成分としての血液中のグルコースと、試薬としての発色試薬22と、により生じる発色成分を含む混合物の光学的特性を利用し、血液中の血漿成分に含まれるグルコースの濃度を測定する。
図12は、成分測定装置1により実行される成分測定方法を示すフローチャートである。図12に示すように、成分測定装置1により実行される成分測定方法は、流路23(図5等参照)内で、流路23を閉塞しないように内壁との間に間隙28(図5等参照)を隔てた状態で配置された発色試薬22と、間隙28に供給された体液としての血液と、により生成された間隙28に位置する混合物に対して、近赤外領域以上の長波長域で水に固有の吸収帯域に属する第1波長λ1の第1測定光を照射して吸光度を測定するステップS1と、ステップS1で測定された吸光度の測定値に基づいて、被測定成分の導出として、血液中のグルコース濃度を導出するステップS2と、を含む。
ステップS1では、成分測定装置1が、成分測定装置1に装着された成分測定チップ2における測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhを推定する。具体的に、成分測定装置1は、間隙28に位置する混合物に対して、近赤外領域以上の長波長域であり水に固有の吸収帯域に属する所定波長の測定光を照射し、この測定光による吸光度の測定値を取得する。
本実施形態の成分測定装置1では、第1波長λ1の第1測定光が、演算部60の指示により発光制御回路70を介して、第1光源67aから発光される。第1波長λ1は、近赤外領域で、かつ、水に固有の吸収帯域に属する所定波長であり、本実施形態では、水に固有の吸収帯域で水の吸光度がピーク値となる波長としている。具体的に、本実施形態では、水に固有の吸収帯域として、水の吸光度のピークが顕著に現れる1820nm〜2000nmを利用している。そして、この吸収帯域で水の吸光度がピーク値となる波長は、1940nmである。
図2、図6に示すように、第1波長λ1の第1測定光は、成分測定チップ2の間隙28の位置で、成分測定チップ2の厚み方向に、成分測定チップ2を透過する。そして、成分測定チップ2を透過した透過光は、受光部72により受光される。これにより、間隙28に位置する混合物の、水に固有の吸収帯域に属する第1波長λ1での吸光度を測定することができる。以下、説明の便宜上、ここで測定される吸光度の測定値を「第1測定値」と記載する。
例えば、水の吸光度と間隙28の高さhとの相関を示す検量線を利用することにより、第1測定値から、測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhを推定することができる。そして、後述するステップS2では、第1測定値に基づいて、血液中のグルコース濃度を導出する。
ここで、本実施形態では、測定時の間隙28の高さhの推定精度をより高めるために、間隙28の位置で混合物に対して、近赤外領域以上の長波長域に属し、かつ、水に固有の吸収帯域又は水に固有の吸収帯域の近傍の第2波長λ2の第2測定光を照射することにより、第1測定値よりも小さい吸光度である第2測定値を取得する。そして、ステップS2では、第1測定値と第2測定値との差分に基づいて、グルコース濃度を導出する。図12では、上述の第2測定値を取得する工程を、ステップS1−2として示している。
このような差分値を利用すれば、例えば血球散乱等による影響など、水以外の成分による吸光度への影響を除去することができるので、測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhをより精度よく推定することが可能となる。
更に、本実施形態では、間隙28に位置する混合物に照射される光で得られる吸光度スペクトルにおいて、第1波長λ1は、水に固有の吸収帯域で水の吸光度がピーク値となる又はピーク値の近傍となる波長とし、第2波長λ2は、水に固有の吸収帯域の裾部近傍の波長としている。このようにすれば、水以外の成分による吸光度への影響を除去しつつ、水分量に応じた吸光度の相違をより明確に識別することができるようになる。本実施形態では、第1波長λ1を1940nmとし、第2波長λ2を水に固有の吸収帯域の裾部に相当する1820nmとしている。第2波長λ2としては、水に固有の吸収帯域の裾部近傍であってもよいため、例えば、1760nmなどを利用してもよい。
また更に、本実施形態では、測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhの推定精度をより一層高めるために、体液としての血液と接触する前の発色試薬22に照射される第1波長λ1の第3測定光により測定された吸光度である第3測定値と、血液と接触する前の発色試薬22に照射される第2波長λ2の第4測定光により測定された吸光度である第4測定値と、を取得する。そして、ステップS2では、第1測定値と第2測定値との差分と、第3測定値と第4測定値との差分と、の間の更なる差分である補正差分値に基づいて、グルコース濃度を導出する。図12では、上述の第3測定値及び第4測定値を取得する工程を、ステップS1−0として示している。
このようにすれば、試薬自体に含まれていた水分による吸光度への影響を除去することができ、測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhの推定精度をより一層高めることが可能となる。
成分測定装置1の吸光度取得部78は、上述した第1波長λ1及び第2波長λ2それぞれでの測定値を取得する。具体的には、発光部66の第1光源67a及び第2光源67bから第1波長λ1及び第2波長λ2の照射光が混合物に対してそれぞれ照射される。そして、受光部72は、それぞれの照射光のうち成分測定チップ2を透過する透過光を受光する。そして、演算部60は、照射光と透過光との関係から算出される各波長における吸光度の測定値を、測定値データ85としてメモリ62に格納させる。また、成分測定装置1の吸光度取得部78は、メモリ62から測定値データ85を取得することができる。吸光度取得部78が上述の測定値を取得する手段は、上述した手段に限られず、各種公知の手段により取得することが可能である。
以下、ステップS2において、グルコース濃度を導出する方法を詳細に説明する。
まず、本実施形態で用いる発色試薬22は、血液中のグルコースと呈色反応することにより生じる発色成分の吸光度が600nm付近にピークを有するものを使用しているが、本実施形態において発色成分の吸光度を測定する測定波長は650nmとしている。
測定対象となる発色成分の吸光度を測定するための測定波長は、発色成分の光吸収率が相対的に大きくなる波長であって、かつ、ヘモグロビンの光吸収による影響が比較的小さい波長を用いればよい。例えば、測定対象となる発色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応し、かつ、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合が比較的小さい波長範囲に属する波長とすればよい。「ピーク波長域の半値全幅域に対応する」波長範囲とは、吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域を特定した際に、短波長側の半値を示す波長から、長波長側の半値を示す波長までの範囲を意味している。本実施形態の測定対象となる発色成分の吸光度スペクトルは、600nm付近がピーク波長となり、約500nm〜約700nmが半値全幅域に対応する波長範囲となる。また、全吸光度におけるヘモグロビンの光吸収による影響は、600nm以上の波長域で比較的小さくなる。したがって、本実施形態において、測定対象となる発色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応し、かつ、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合が比較的小さい波長範囲は、600nm以上、かつ、700nm以下である。そのため、測定波長としては、本実施形態の650nmに限られず、600nm〜700nmの範囲に属する別の波長を測定波長としてもよい。発色成分の吸光度を表すシグナルが強く、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合が非常に小さい波長範囲である方が、発色成分の吸光度をより正確に測定できるため、発色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長となる630nm付近よりやや長波長となる650nm付近を測定波長とすることが好ましい。より具体的には、測定波長を630nm〜680nmの範囲に属する波長とすることが好ましく、640nm〜670nmの範囲に属する波長とすることがより好ましく、本実施形態のように650nmとすることが特に好ましい。このような色素成分の例としてはテトラゾリウム塩が好ましく、例えばWST−4が最も好ましい。
更に、本実施形態では、発色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域が約500nm〜約700nmとなるような発色試薬22を使用しているが、ピーク波長域の半値全幅域がこの範囲と異なるような発色試薬を使用してもよい。但し、上述したとおり、ヘモグロビンの吸光特性を考慮し、ヘモグロビンの光吸収による吸光度が大きくなる波長域(600nm以下)と、発色成分の吸光度スペクトルにおける測定波長とが重ならないようにすることが望ましい。
また、測定波長は、水に固有の吸収帯域に属しない波長とすることが望ましい。本実施形態の測定波長は、第1波長λ1及び第2波長λ2よりも短波長域に属している。具体的に、本実施形態では、水に固有の吸収帯域として近赤外領域(800nm〜2500nm)の波長域を用いており、測定波長としては、近赤外領域より短波長域である可視領域(380nm〜800nm未満)に属する波長を使用している。
以下、本実施形態の測定波長である650nmにおける発色成分の吸光度を推定するための方法について説明する。成分測定装置1は、測定波長(650nm)とは異なる2つの第3波長λ3及び第4波長λ4における混合物の吸光度をそれぞれ測定し、この2つの測定値と、予め定めた補正データ86とを用いて、測定波長における混合物の吸光度の測定値を補正し、測定波長における発色成分の吸光度を推定する。以下、説明の便宜上、測定波長を「第5波長λ5」と記載する。また、測定波長における混合物の吸光度の測定値を「第5測定値」と記載する。
具体的に、成分測定装置1は、上述した2つの測定値として、測定波長である第5波長λ5よりも長波長側の第3波長λ3における混合物の吸光度の測定値と、測定波長である第5波長λ5よりも短波長側の第4波長λ4における混合物の吸光度の測定値と、を利用する。
より具体的には、上述した2つの測定値として、測定波長である第5波長λ5よりも長波長側で、全吸光度において血球成分等の光散乱による影響が支配的な波長域に属し、水に固有の吸収帯域とは異なる波長域に属する第3波長λ3における混合物の吸光度の測定値と、測定波長である第5波長λ5よりも短波長側で、全吸光度においてヘモグロビンの光吸収による影響が大きい波長域に属する第4波長λ4における混合物の吸光度の測定値と、を利用する。
第3波長λ3における混合物の吸光度の測定値を利用することにより、測定波長である第5波長λ5における、血球成分等の光散乱による影響を推定することができる。また、第4波長λ4における混合物の吸光度の測定値を利用することにより、測定波長である第5波長λ5における、ヘモグロビンの光吸収による影響の推定や、ヘマトクリット値の算出が可能となる。本実施形態では、第3波長λ3として760nmを利用し、第4波長λ4として540nmを利用している。
成分測定装置1の吸光度取得部78は、上述した第3波長λ3及び第4波長λ4それぞれでの測定値と、第5波長λ5での第5測定値と、を取得する。具体的には、発光部66の第3光源67c、第4光源67d及び第5光源68から第3波長λ3、第4波長λ4及び第5波長λ5の照射光が混合物に対してそれぞれ照射される。そして、受光部72は、それぞれの照射光のうち混合物を透過する透過光を受光する。そして、演算部60は、照射光と透過光との関係から算出される各波長における混合物の吸光度の測定値を、測定値データ85としてメモリ62に格納する。成分測定装置1の吸光度取得部78は、メモリ62から測定値データ85を取得することができる。吸光度取得部78が上述の測定値を取得する手段は、上述した手段に限られず、各種公知の手段により取得することが可能である。
そして、成分測定装置1の吸光度補正部84は、ステップS1で測定した第1測定値〜第4測定値並びにステップS2で測定した第3波長λ3及び第4波長λ4での吸光度の測定値に基づいて、血液中のグルコース濃度を導出する。より具体的に、成分測定装置1の吸光度補正部84は、ステップS1で導出した差分補正値と、ステップS2で導出した第3波長λ3での測定値及び第4波長λ4での測定値と、を用いて第5波長λ5での第5測定値を補正し、測定波長である第5波長λ5(本例では650nm)における発色成分の吸光度を推定する。
以下、成分測定装置1の吸光度補正部84による補正手法について説明する。
上述したように、成分測定装置1のメモリ62には、測定光学系64により測定された第1波長λ1〜第5波長λ5それぞれにおける吸光度の測定値である測定値データ85と、上記各測定値に対応する一群の補正データ86と、第5波長λ5で実測された混合物の吸光度を補正データ86により補正して得られる混合物中の発色成分の吸光度とグルコース濃度等の各種物理量との関係を示す検量線データ90と、が格納されている。
吸光度補正部84は、吸光度取得部78が取得した、メモリ62に格納されている測定値データ85、補正データ86及び検量線データ90に基づき、測定波長である第5波長λ5における発色成分の吸光度を導出する。
ここで、間隙28の高さhと、近赤外領域での水に固有の吸収帯域に属する光を間隙28に位置する混合物に対して照射することにより得られる吸光度と、の間の相関関係についての更なる詳細について説明する。図16は、間隙28の高さhと、近赤外領域での水に固有の吸収帯域に属する光を間隙28に位置する混合物に対して照射することにより得られる吸光度と、の間の相関関係を示すグラフである。具体的に、図16では、間隙28の高さhが異なる複数の成分測定チップ2それぞれについて、膜厚計により測定された間隙28の高さhの測定値と、水に固有の吸収帯域に属する光を間隙28に位置する混合物に対して照射することにより得られる吸光度の測定値と、を示している(図16においてプロットされている点を参照)。発色試薬22の塗布厚さについては、いずれの成分測定チップ2においても略一定である。また、図16において示す直線は、図16においてプロットされている点の近似直線である。図16に示すように、間隙28の高さhと、水に固有の波長の光を間隙28に位置する混合物に対して照射することにより得られる吸光度と、の間には相関関係があり、図16に示す近似直線のように、両者の関係式(グラフ、相関係数)を導出することができることがわかる。
図16に示す各点の間隙28の高さhは、膜厚計としての、浜松ホトニクス株式会社製のOptical MicroGauge 厚み計(C11011−01)により測定している。また、図16に示す各点の吸光度の測定値は、水に固有の波長における吸光度を測定し、検体が発色試薬22に接触してから9秒後の吸光度である9秒値と、検体が発色試薬22に接触する前の吸光度であるイニシャル値と、の間で差分を算出することにより測定している。より具体的には、まず、1940nmでの9秒値としての上述した第1測定値と、1820nmでの9秒値としての上述した第2測定値と、の差分を算出する。次いで、1940nmでのイニシャル値としての上述した第3測定値と、1820nmでのイニシャル値としての上述した第4測定値と、の差分を算出する。そして、9秒値の差分とイニシャル値の差分と、の間の更なる差分を算出し、図16では、この差分値を、各点の吸光度の測定値としている。ここでは水に固有の吸収帯域の裾部近傍の波長として1820nmを使用しているが、これに代えて、1760nmを使用してもよい。
最後に、測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhによる、グルコース濃度の測定値への影響の大きさについて、グルコースを含まない水及びグルコース水を用いて検証実験を行った。図13及び図14は、グルコースが含まれていない水、グルコース濃度が100mg/dLのグルコース水(図13及び図14では「bg100」と表記)、及びグルコース濃度が400mg/dLのグルコース水(図13及び図14では「bg400」と表記)について、測定空間の光路長についての補正を行わない場合(図13及び図14では「補正なし」と表記)、測定前の間隙28の高さhの測定値を用いて測定空間の光路長についての補正を行う場合(図13では「測定前補正あり」と表記し、図14では未掲載)、及び、本実施形態のように、測定時の間隙28の高さhを推定し、この推定値を用いて測定空間の光路長についての補正を行う場合(図13及び図14では「測定時補正あり」と表記)それぞれの、導出されたグルコース濃度の測定値のばらつきを示している。図13及び図14に示す測定値のばらつきは、グルコース濃度が含まれていない水については濃度の絶対値(mg/dL)の真値からのズレの標準偏差の2倍(2SD)により評価し、グルコース濃度が100mg/dL及び400mg/dLのグルコース水については、真値からのズレをグルコース濃度で割り返したものの標準偏差の2倍の値(2SD値)により評価している。また、測定前の間隙28の高さhの測定値は、浜松ホトニクス株式会社製のOptical MicroGauge 厚み計(C11011−01)により測定している。
更に、図13は、許容される成分測定チップ2の間隙28の高さh(図5参照)のばらつきが大きい場合についての、グルコース濃度の測定値への影響を示している。具体的に、図13では、間隙28の高さhが20.4μm〜53.4μmの範囲でばらつきがある15個の成分測定チップ2を用いた実験の結果である。間隙28の幅はいずれも一定である。
図13に示すように、測定空間の光路長に関して補正しない場合は、導出されるグルコース濃度のばらつきが大きく、導出されるグルコース濃度の精度が低いことがわかる。これに対して、測定前の間隙28の高さhの測定値を利用して、測定空間の光路長に関して補正する場合は、導出されるグルコース濃度のばらつきが、補正しない場合と比較して、非常に小さくなることがわかる。更に、本実施形態のように、測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhを推定し、この推定値を利用して測定空間の光路長に関して補正する場合は、導出されるグルコース濃度のばらつきが、補正しない場合及び測定前の間隙28の高さhの測定値を利用して補正する場合と比較して、更に小さくなり、導出されるグルコース濃度の精度が非常に高いことが確認できる。
また、図17(a)は、図13に示す「補正なし」について、測定波長(ここでは650nmを使用)における吸光度のばらつき示すグラフである。具体的に、図17(a)の横軸は、測定波長における吸光度であり、縦軸は、検体のグルコース濃度である。図17(a)に示すように、検体のグルコース濃度が100mg/dLであっても、測定波長における吸光度に大きなばらつきが生じることがわかる。これは、間隙28の高さhの相違による影響である。同様に、検体のグルコース濃度が400mg/dLであっても、間隙28の高さhの相違によって、測定波長における吸光度に大きなばらつきが生じていることがわかる。このように、間隙28の高さhの相違により、間隙28に流入する検体の体積が異なってくるため、測定光路内で観察される発色成分量、すなわち、測定波長における吸光度にばらつきが生じることが確認できる。図17(a)に示す直線は強引に引いた近似直線であるが、グルコース濃度と測定波長における吸光度との間に相関関係(図17(a)において各点が1つの直線上に並ぶ直線性)がない。
これに対して図17(b)は、図13に示す「測定時補正あり」について、測定波長(ここでは650nmを使用)における吸光度のばらつきを示すグラフである。図17(b)の横軸は、図17(a)の横軸と同様、測定波長における吸光度であり、図17(b)の縦軸は、間隙28の位置での混合物のグルコース濃度である。図17(b)に示すように、間隙28の位置での混合物のグルコース濃度と測定波長における吸光度には相関関係がみられる(相関係数R=0.999)。この関係を用いれば、近赤外領域の水に固有の吸収を測定することで、間隙28の高さhを考慮した補正を行うことができる。換言すれば、近赤外領域の水に固有の吸収を測定し、間隙28の高さhを補正することにより、測定波長における吸光度から、間隙28の位置での混合物のグルコース量ひいては間隙28の位置でのグルコース濃度をより正確に算出することができる。
また、図14は、許容される成分測定チップ2の間隙28の高さh(図5参照)のばらつきが非常に小さい場合についての、グルコース濃度の測定値への影響を示している。具体的に、図14では、間隙28の高さhが40±1μmの範囲でばらつきがある複数の成分測定チップ2を用いた実験の結果である。間隙28の幅はいずれも一定である。
成分測定チップ2の間隙28の高さh(図5参照)のばらつきが非常に小さいため、図14に示すように、測定空間の光路長に関して補正しない場合であっても、導出されるグルコース濃度のばらつきを小さくすることができる。但し、本実施形態のように測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhを推定し、この推定値を利用して測定空間の光路長に関して補正する場合であっても、導出されるグルコース濃度のばらつきを小さくできることがわかる。
したがって、本実施形態のように測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhを考慮して、導出されるグルコース濃度の測定値を補正するようにすれば、許容される成分測定チップ2の間隙28の高さh(図5参照)のばらつきがたとえ非常に小さい場合であっても、導出されるグルコース濃度の精度を高い状態とすることができ、クリアランス量のばらつきが大きい場合には、導出されるグルコース濃度の精度を大きく向上させることができることが理解できる。
次に、測定時の測定空間の光路長としての測定時の間隙28の高さhによる、グルコース濃度の測定値への影響の大きさについて、グルコース濃度が既知の血液を用いて検証実験を行った。図15は、グルコース濃度がゼロになるように調整した血液、グルコース濃度が100mg/dLとなるように調整した血液、及びグルコース濃度が400mg/dLとなるように血液について、測定空間の光路長についての補正を行わない場合、測定前の間隙28の高さhの測定値を用いて測定空間の光路長について補正を行う場合、及び、本実施形態のように、測定時の間隙28の高さhを推定し、この推定値を用いて測定空間の光路長について補正を行う場合それぞれの、導出されたグルコース濃度の測定値のばらつきを示している。図15に示す測定値のばらつきは、グルコース濃度が含まれていない水については濃度の絶対値(mg/dL)の真値からのズレの標準偏差の2倍(2SD)により評価し、グルコース濃度が100mg/dL及び400mg/dLのグルコース水については、真値からのズレをグルコース濃度で割り返したものの標準偏差の2倍の値(2SD値)により評価している。また、測定前の間隙28の高さhの測定値は、浜松ホトニクス株式会社製のOptical MicroGauge 厚み計(C11011−01)により測定している。
更に、図15は、許容される成分測定チップ2の間隙28の高さh(図5参照)のばらつきが37.3μm〜40.6μmの場合についての、グルコース濃度の測定値への影響を示している。間隙28の幅はいずれも一定である。
図15に示すように、測定空間の光路長に関して補正しない場合は、導出されるグルコース濃度のばらつきが大きく、導出されるグルコース濃度の精度が低いことがわかる。これに対して、測定前の間隙28の高さhの測定値を利用して、測定空間の光路長に関して補正する場合は、導出されるグルコース濃度のばらつきが、補正しない場合と比較して、小さくなることがわかる。更に、本実施形態のように測定時の間隙28の高さhを推定し、この推定値を利用して測定空間の光路長に関して補正する場合は、導出されるグルコース濃度のばらつきが、補正しない場合及び測定前の間隙28の高さhの測定値を利用して補正する場合と比較して、更に小さくなり、導出されるグルコース濃度の精度を高めることができることがわかる。
本発明に係る成分測定装置、成分測定方法及び成分測定プログラムは、上述した実施形態の具体的な記載に限られず、請求の範囲の記載した発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
上述の実施形態では、被測定成分としてのグルコースの測定として、グルコース濃度を測定しているが、濃度に限られず、別の物理量を測定してもよい。また、上述の実施形態では、血液中の被測定成分として、血漿成分中のグルコースを例示しているが、これに限られず、例えば血液中のコレステロールを被測定成分とすることも可能である。更に、上述の実施形態では、血液中の被測定成分を測定しているが、血液に限られず、別の体液中の被測定成分を測定するものであってもよい。したがって、成分測定装置は、血糖値測定装置に限られない。
更に、上述の実施形態では、発光部66として、複数種類の第1光源67a〜第5光源68を例に挙げて説明したが、単一の光源と、該光源の前方に配置された複数種類の光学フィルタ(バンドパス型)を組み合わせて構成してもよい。あるいは、単一の光源と、複数種類の受光部を組み合わせて構成してもよい。また更に、上述の実施形態では、成分測定チップ2を透過する透過光を受光する受光部72としているが、成分測定チップ2から反射する反射光を受光する受光部としてもよい。