JPWO2017010448A1 - ネフロン形成能を有するネフロン前駆細胞の増幅培養方法 - Google Patents
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Abstract
Description
なお、これらの報告では、ネフロン前駆細胞の増幅量については述べられていない。
その後、研究を重ねた結果、上記条件で増殖した細胞はネフロン前駆細胞の主要なマーカー遺伝子を発現し、尿細管や糸球体を形成する分化能力を維持していたことを確認した。しかし、ラットのMMと同じ条件下で培養したマウスの全領域のMMは、容易に、ネフロン構造を形成する能力を失う。
より具体的には、本発明者らは、ネフロン前駆細胞の培養条件として、培地へのFgf9、Bmp7、CHIR99021の添加に加え、培地中のWnt活性化剤の濃度と培地中のBmp7の濃度の組み合わせがネフロン前駆細胞の分化、増殖に重要であることをつきとめた。さらに本発明者らは、Wnt活性化剤とBmp7だけでは高効率のSix2陽性の細胞の維持には不十分で、Lifが必須であることもつきとめた。
[1]以下の化合物:
(i)Wntアゴニスト、
(ii)Fgf、
(iii)白血球阻害因子(LIF)、
(iv)Bmpファミリー化合物、
(v)Rock阻害剤、および
(vi)Notch阻害剤
を含む培地を用いて、単離された哺乳動物由来のネフロン前駆細胞の増幅培養方法。
[2]さらに、培地が(vii)Tgf−αを含む上記[1]に記載の方法。
[3]前記培地が、1.0ng/ml〜20ng/ml(好ましくは、2.5ng/ml〜15ng/ml、よりに好ましくは、5ng/ml〜15ng/ml)の濃度のBmpファミリー化合物を含む、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記培地が、0.1μM〜5μM(好ましくは、0.5μM〜2.5μM、より好ましくは0.75μM〜1.5μM)の濃度のWntアゴニスト、1.0ng/ml〜20ng/ml(好ましくは、2.5ng/ml〜15ng/ml、より好ましくは、5ng/ml〜15ng/ml)の濃度のBmpファミリー化合物、10〜500ng/ml(好ましくは、30〜300ng/ml、より好ましくは、50〜200ng/ml)の濃度のFgf、および、1ng/ml〜30ng/ml(好ましくは、1ng/ml〜20ng/ml、より好ましくは、1ng/ml〜10ng/ml)の濃度のLIFを含む、上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]前記培地が、1.0μM〜50μM(好ましくは、2.0μM〜30μM、より好ましくは、5μM〜20μM)の濃度のRock阻害剤、および、1.0μM〜20μM(好ましくは、1.0μM〜10μM、より好ましくは、1.0μM〜5μM、さらに好ましくは2.5μM〜5μM)の濃度のNotch阻害剤を含む、上記[4]に記載の方法。
[6]前記培地が、1ng/ml〜500(好ましくは、5ng/ml〜300ng/ml、より好ましくは、10ng/ml〜200ng/ml)の濃度のTgfαを含む、上記[5]に記載の方法。
[7]前記Bmpファミリー化合物が、Bmp2、Bmp4、Bmp7、およびGDF11からなる群より選ばれる、上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8]前記Wntアゴニストが、GSK−3阻害剤(好ましくは、CHIR99021、BIO、またはSB415286、より好ましくはCHIR99021)である、上記[1]〜[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9]前記Fgfが、Fgf1、Fgf2、Fgf9、およびFgf20からなる群より選ばれる、前記[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記WntアゴニストがCHIR99021であり、前記FgfがFgf9またはFgf2であり、前記BmpがBmp7であり、前記Rock阻害剤がY27632であり、前記Notch阻害剤がDAPTである、前記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の方法。
[11]前記ネフロン前駆細胞が、ES細胞またはiPS細胞由来のネフロン前駆細胞(好ましくは、マウスES細胞またはマウスiPS細胞由来のマウスネフロン前駆細胞、またはヒトES細胞またはヒトiPS細胞由来のヒトネフロン前駆細胞)である、上記[1]〜[10]のいずれか一つに記載の方法。
[12]前記ネフロン前駆細胞が5日以上(好ましくは7日以上、より好ましくは10日以上、更に好ましくは15日以上)培養されることを特徴とする、上記[1]〜[11]のいずれか一つに記載の方法。
[13]前記ネフロン前駆細胞が、培養開始時の細胞数と比較して4倍以上(好ましくは、10倍以上、より好ましくは30倍以上、更に好ましくは50倍以上、最も好ましくは100倍以上)の細胞数まで培養されることを特徴とする、上記[1]〜[12]のいずれか一つに記載の方法。
[14]前記培養が、iMatrixまたはフィブロネクチン被覆プレート上で行われる、上記[1]〜[13]のいずれか一つに記載の方法。
[15]前記培養が、U底低細胞吸着プレートで行われる、上記[1]〜[13]のいずれか一つに記載の方法。
[16]上記[1]〜[15]のいずれか一つに記載の方法を用いて培養されたネフロン形成能を有するネフロン前駆細胞。
[17]上記[1]〜[15]のいずれか一つに記載の方法を用いて培養されたネフロン前駆細胞を用いて、糸球体および尿細管を有する三次元腎臓構造を作成する方法。
(i)Wntアゴニスト、
(ii)Fgf、
(iii)白血球阻害因子(LIF)、
(iv)Bmpファミリー化合物、
(v)Rock阻害剤、および
(vi)Notch阻害剤
を含む、ネフロン前駆細胞を増幅させるための培地。
[19]さらに、(vii)Tgfαを含む上記[18]に記載の培地。
[20]1.0ng/ml〜20ng/ml(好ましくは、2.5ng/ml〜15ng/ml、よりに好ましくは、5ng/ml〜15ng/ml)の濃度のBmpファミリー化合物を含む、上記[18]または[19]に記載の培地。
[21]0.1μM〜5μM(好ましくは、0.5μM〜2.5μM、より好ましくは0.75μM〜1.5μM)の濃度のWntアゴニスト、1.0ng/ml〜20ng/ml(好ましくは、2.5ng/ml〜15ng/ml、より好ましくは、5ng/ml〜15ng/ml)の濃度のBmpファミリー化合物、10〜500ng/ml(好ましくは、30〜300ng/ml、より好ましくは、50〜200ng/ml)の濃度のFgf、および、1ng/ml〜30ng/ml(好ましくは、1ng/ml〜20ng/ml、より好ましくは、1ng/ml〜10ng/ml)の濃度のLIFを含む、上記[18]〜[20]のいずれか一つに記載の培地。
[22]前記培地が、1.0μM〜50μM(好ましくは、2.0μM〜30μM、より好ましくは、5μM〜20μM)の濃度のRock阻害剤、および、1.0μM〜20μM(好ましくは、2.0μM〜10μM、より好ましくは、2.5μM〜5μM)の濃度のNotch阻害剤を含む、上記[21]に記載の培地。
[23]1ng/ml〜500(好ましくは、5ng/ml〜300ng/ml、より好ましくは、10〜200ng/ml)の濃度のTgfαを含む、上記[22]に記載の培地。
[24]Bmpファミリー化合物が、Bmp2、Bmp4、Bmp7、およびGDF11からなる群より選ばれる、上記[18]〜[23]のいずれか一つに記載の培地。
[25]前記Wntアゴニストが、GSK−3阻害剤(好ましくは、CHIR99021、BIO、またはSB415286、より好ましくはCHIR99021)である、上記[18]〜[24]のいずれか一つに記載の培地。
[26]前記Fgfが、Fgf1、Fgf2、Fgf9、およびFgf20からなる群より選ばれる、前記[18]〜[25]のいずれかに記載の培地。
[27]前記WntアゴニストがCHIR99021であり、前記FgfがFgf9またはFgf2であり、前記BmpがBmp7であり、前記Rock阻害剤がY27632であり、前記Notch阻害剤がDAPTである、前記[18]〜[23]のいずれか一つに記載の培地。
なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等または同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。
また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
本発明の別の態様は、ネフロン前駆細胞を、さらに(vii)Tgfαを含む培地で培養して増やす方法である。
本発明の他の態様は、ネフロン前駆細胞を未分化状態で増幅培養することができる培地である。
本発明の他の態様は、上記の方法で培養されたネフロン形成能を有するネフロン前駆細胞である。ここでネフロン形成能とは、分化して、発達した糸球体や尿細管を有する3次元のネフロン構造を形成できることを意味する。
本発明の他の態様は、本発明の方法で増幅培養されたネフロン前駆細胞を用いて糸球体および尿細管を有する三次元腎臓構造(ネフロン)を作成する方法である。
(a)Wntアゴニスト
本発明で用いることができるWntアゴニストは、Wntアゴニスト活性を有する限り特に制限されない。Wntアゴニストは、細胞中でTCF/LEF介在性の転写を活性化する薬剤として定義される。従ってWntアゴニストは、Wntファミリータンパク質のありとあらゆるものを含むFrizzled受容体ファミリーメンバーに結合し、活性化する真のWntアゴニスト、細胞内β−カテニン分解の阻害剤およびTCF/LEFの活性化物質から選択される。本発明でいう、Wntアゴニストは、この分子の非存在下でのWnt活性のレベルと比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも70%、よりさらに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%、細胞においてWnt活性を刺激するものを言う。当業者にとって公知のように、Wnt活性は、例えばpTOPFLASHおよびpFOPFLASH Tcfルシフェラーゼレポーターコンストラクトによって、Wntの転写活性を測定することにより調べることができる(Korinekら, Science 275:1784-1787, 1997)。
本発明で用いることができるWntアゴニストは、上記の定義に含まれる限り、天然物または合成物のいずれも含まれ、また、タンパク質、高分子、低分子のいずれであってもよい。本発明において用いることができるWntアゴニストの例としては、これに限定されないが、例えば、好ましくは、GSK−3阻害剤、より好ましくは、CHIR99021、BIO、またはSB415286をあげることができ、特に好ましくは、CHIR99021をあげることができる。各Wntアゴニストの使用濃度は使用目的に合わせて適宜選択できるが、例えば、CHIR99021を用いた場合に得られる効果と同様の効果を発揮できる濃度を選択することができる。これらのWntアゴニストは市販されている。
例えばCHIR99021を用いた場合、培地中の濃度は、例えば、0.1〜5.0μM、好ましくは、0.5〜2.5μM、より好ましくは、0.75〜1.5μMをあげることができる。
本発明で用いることができるFgfは、Fgfファミリーからなる群から選ぶことができ、好ましくはFgf2、Fgf9およびFgf20から選ばれ、より好ましくはFgf9である。培地中のFgfの濃度は、例えば、10〜500ng/ml、好ましくは、30〜300ng/ml、より好ましくは、50〜200ng/mlである。
またこれらのFgfも市販されており、特に制限なく、本発明に用いることができる。
本発明で用いるLIFの培地中の濃度は、例えば、1.0ng/ml〜30ng/ml、好ましくは、1.0ng/ml〜20ng/ml、よりに好ましくは、1.0ng/ml〜10ng/mlの濃度をあげることができる。
LIFの濃度が高いと(例えば、50ng/ml以上)、ネフロン前駆細胞において、ホスホリパーゼC(PLC)およびc−Jun N末端キナーゼ(Jnks)の活性化と分化を引き起こす。このような活性化は低濃度では軽度であり、低濃度のLIFは、前駆細胞の増幅に重要なSix2とYapの核局在化を維持することができる。また、Rock阻害剤(Y27632)との併用処置は、LIFによって誘導されるJNK活性化を減衰させ、それによってネフロン前駆細胞の増幅を可能にする。
また、LIFは市販されているものを制限なく用いることができる。
本発明で用いられるBmpファミリー化合物(以下、単に「Bmp」と言う場合がある)は、Bmp1、Bmp2、Bmp4、Bmp6、Bmp7、Bmp8a、Bmp8bおよびBmp10、GDF11等のBmpファミリーからなる群より選ばれ、好ましくは、Bmp2、Bmp4またはBmp7から選ばれ、さらに好ましくはBmp7である。これらのBmpは市販されている
培地中のBmpの濃度は、Bmpの種類に応じて適宜選択できるが、例えば、Bmp7を用いた場合は、例えば、1.0ng/ml〜20ng/ml、好ましくは、2.5ng/ml〜15ng/ml、よりに好ましくは、5ng/ml〜15ng/mlの濃度をあげることができる。これらの濃度は、引用している従来技術(非特許文献1〜4)で用いられている濃度(50ng/ml)とは大きく異なるものである。
また、用いるBmpは、いずれの起源のBmpを用いることができるが、好ましくはヒトBmpである。他のBmp化合物を用いる場合は、Bmp7を用いた場合に得られる効果を同様の効果を発揮できる濃度を適宜選択することができる。
Rock(Rhoキナーゼ)は、低分子量GTP結合タンパク質Rhoの標的タンパク質として同定されたセリン・スレオニンタンパク質リン酸化酵素である。その阻害剤であるRock阻害剤は、市販されており、それらのものが本発明において制限なく用いることができる。本発明で用いるRock阻害剤としては、これに制限されないが、例えば、Y27632、HA1077をあげることができ、好ましくは、Y27362である。本発明で用いるRock阻害剤の濃度は、例えば、1〜50μM、好ましくは2〜30μM、より好ましくは5〜20μMをあげることができる。
本発明で用いられるNotch阻害剤は、Notchシグナルを阻害する化合物であり、同様の活性を示す限りγ―セレクターゼも本発明のNotchシグナル阻害剤に含まれる。好ましいNotch阻害剤としては、DAPTをあげることができ、これらは市販されている。
培地中のNotch阻害剤の濃度は、用いるNotch阻害剤の種類に応じて適宜選択できるが、例えば、DAPTを用いた場合は、例えば、1.0〜20μM、好ましくは、1.0〜10μM、よりに好ましくは、1.0〜5μM、さらに好ましくは2.5〜5μMの濃度をあげることができる。
培地中のTgfαの濃度は、例えば、1〜500ng/ml、好ましくは、5〜300ng/ml、より好ましくは、10〜200ng/mlをあげることができる。
またこれらのTgfαも市販されており、特に制限なく、本発明に用いることができる。
本発明の培養方法で用いるネフロン前駆細胞は、生体から採取・回収したネフロン前駆細胞、多能性幹細胞(例えば、ES細胞やiPS細胞)から分化誘導したネフロン前駆細胞のいずれも制限なく用いることができる。
ヒトを除く哺乳動物のネフロン前駆細胞の生体からの採取・回収は、胎児の腎臓を摘出し、後腎間葉を単離することにより行うことができる。例えばマウスを例にした場合は、これに限定されないが、ネフロン前駆細胞が発生する胎生10−11日に、マウスの胎児の腎臓を摘出し、後腎間葉を単離することにより、採取・回収することができる。マウス前駆細胞マーカーがGFPで標識されたマウスを用いることにより、胎生12日〜出生後1日目のマウスのネフロン前駆細胞をFACSにより単離・回収することができる。
ES細胞やiPS細胞からのネフロン前駆細胞は、例えば、本発明者の公知の報告(非特許文献6;特許文献1)に従って作成できる。
本発明の増幅培養方法によりネフロン前駆細胞を培養すると、マウスネフロン前駆細胞を用いた場合は、細胞数は、培養開始時と比較して、少なくとも10倍以上、通常は30倍以上、好ましくは50倍以上、より好ましくは70倍以上、さらに好ましくは100倍以上、よりさらに好ましくは1000倍以上の増幅が可能である。ヒトのネフロン前駆細胞を用いた場合は、細胞数は、培養開始時と比較して、少なくとも4倍以上、好ましくは10倍以上の増幅が可能である。
本発明の増幅培養方法により培養したネフロン前駆細胞は、未分化状態を維持しており、また、ネフロンへの分化能を持っている。
ただし、純化した細胞(単一の細胞単位)から増幅した多くのネフロン前駆細胞を調製することが好ましい場合は、ネフロン前駆細胞を純化した後、本発明の増幅培養方法を用いて、効率良くネフロン前駆細胞を調製することができる。これに限定されないが、例えば、ヒトiPS細胞から誘導した組織からネフロン前駆細胞を単離し、細胞を純化した後、本発明の増幅培養方法を用いてネフロン形成能を有するネフロン前駆細胞を増幅培養することができる。
(1−1)動物
バクテリア人工染色体技術によって作成されたトランスジェニックマウス、Six2GFPCreは、アンドリュー・マクマホン(南カリフォルニア大学)により提供された。すべての動物操作は、熊本大学の実験動物委員会のガイドライン(#のA27-018)にしたがって行った。
(1−2)iPS細胞
iPS細胞(201B7)は、理研バイオリソースセンターから入手した。
Six2プロモーター下でGFPを発現する系統であるSix2−GFPマウスを用いた。胎生11.5日目(E11.5)のSix2−GFPマウスの胎児の腎臓を摘出し、後腎間葉(MM)を、コラゲナーゼXI(Sigma)を用いて尿管芽から単離し、次いで、2%ウシ胎児血清(FCS)、DNase(Roche)、CaCl2、およびNaHCO3を含むHepes緩衝生理食塩水(HBSS)で洗浄した。単離したMMは、トリプシン処理(0.25%トリプシン/EDTA)し、緩衝液で洗浄後、FACS緩衝液(1×HBSS、1%BSA、0.035% NaHCO3、および1μg/ml ヨウ化プロピジウム)中に懸濁した。E15.5 Six2−GFP陽性細胞の単離は、腎臓を37℃で10分間、0.25%トリプシン/EDTAでンキュベートし、そして細胞を、10%FCSを含む冷却DMEM中でピペッティングにより分離した。新生児腎臓を、コラゲナーゼXI(Sigma−Aldrich社)、ディスパーゼ(Life Technologies社)、およびDNase(Roche)の混合物を用いて、37℃で10分間、処理し、次いで、0.25%トリプシン−EDTAで、37℃にて5分間処理して、単一の細胞に分離した。
OSR1−GFPマウスES細胞を、ネフロン前駆細胞の誘導に使用した。ES細胞は、フィーダーを除去するために2日間ゼラチンコートプレート上で継代した。次いで、細胞を、メーカー記載の5段階のプロトコルに従い、Accutase(Merck Millipore)により回収し、凝集させ、分化させた。誘導したスフェロイドは、day 8.5で回収し、0.25%トリプシンEDTAを用いて解離させた。細胞は、正常マウス血清によってブロックし、そしてFACS緩衝液中で、抗integrinα8(R&D Systems)および抗PDGFRα(Cell signaling)抗体で染色した。OSR1−GFP+/integrinα8+/Pdgfrα− フラクションをFACSAria SORP(BD)でソートし、CDBLY添加培地で培養した。
培養細胞は、low−cell−binding platesに播種し、48時間かけて凝集体を形成させた。そして、10%FCSを含むDMEM培地に浮遊させたNucleopore膜(Millipore)上で、胚の脊髄と7日間共培養した。培地は3日ごとに交換した。培養した移植片を10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。6ミクロンの切片にスライスし、脱パラフィンし、次いで、121℃で5分間、クエン酸(10mM、pH6.0)により抗原回復を行った。切片は、1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロックし、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした後、室温で1時間二次抗体とインキュベートした。共焦点画像は、LSM780共焦点顕微鏡(Zeiss)によって撮像した。用いた一次抗体は以下の通りである:抗Cadherin1(BD)、抗Cadherin6(グレゴリー・ドレスラー博士、Department of Pathology, University of Michigan, AnnArbor, MI 48109, USA、から供与)、抗ネフリン(Progen)、および抗WT1(Santa Cruz)。用いた二次次抗体は以下の通りである:抗ウサギAlexa488、抗モルモットAlexa468、および抗マウスAlexa594(Life Technologies)。
全RNAをRNeasy Plus Micro Kit(Qiagen)を用いて単離し、そしてcDNAを、製造業者の指示にしたがって、VILO cDNA合成キット(Life Technologies)により合成した。PCR反応は、Thunderbird PCR mixture(東洋紡)およびDice Real Time System Thermal Cycler(タカラバイオ)を用いて行った。各マーカー遺伝子(β−Actin,E−Cadherin,Lef1,Osr1,Pax2,Sall1,Six2,およびWnt1)に対するqPCR用のプライマー配列はタカラバイオから購入した。インキュベーション条件は、45サイクルとした(95℃で15秒、60℃で45秒)。全てのサンプルはアクチン発現で正規化した。
データは、スチューデントのt検定を用いて解析し、統計的有意性を評価した。全ての実験は、独立して、少なくとも3回実施し、そして代表的なデータを示した。結果は、平均±標準偏差として示した。
実施例1:後腎間葉からネフロン前駆細胞の部分的増幅
培養時のマウスのネフロン前駆細胞の割合を正確に測定するために、E11.5でSix2−GFPマウスの腎臓から全MMを単離し、ラットMMの培養に用いたようにしてLIFとY27632(合わせて「LY」と略す)の存在下で、フィブロネクチンコートしたプレート上で、個々の細胞に分散させることなく細胞塊として培養した(図1)。FACS分析の結果、GFP陽性細胞は、単離されたばかりのMMの22.6%を占めていたが、7日の培養後には、割合は5.0%に低下した。LIFおよびY27632の非存在下では、細胞のわずか0.1%がGFP陽性であった。このことは、LYが、マウス前駆細胞にある種の効果を発揮しているが、ネフロン前駆細胞を維持するのに十分ではなかったことを明らかに示唆している。
7日目のSix2とPax2の発現レベルは、新たに単離したMMのものと比べると低かった。発明者らは以前にNotch2の活性化が未成熟な前駆細胞の分化を引き起こしたことを報告している。そこで、発明者らは、LYに加えて、Notch阻害剤DAPTをテストした。また、コーティングのマトリックスとして、ラミニンのE8フラグメント(iMatrix)をフィブロネクチンと比較した結果、iMatrixとDAPTの組み合わせが、Six2の、そしてより顕著にはPax2のレベルを維持するのに有効であることが判った。結果を図2に示す。
上記の培養条件(CDBLY)を、精製したSix2−GFP陽性前駆細胞に適用した。細胞数の制限のために、最初は、E11.5の代わりにE15.5および新生児(P0)腎臓を用いて、ソートした結果、GFP陽性細胞は、それぞれ、全細胞の21.1%と8.1%であった。ソートした細胞はその後、スフェロイドを形成するために二日間培養し凝集させ、iMatrix被覆プレート上に播種し、上記した条件で5日間以上培養した。図4に示されるように、総細胞数は増加し(E15.5で2.4倍、P0で1.7倍)、GFP陽性の割合が非常に高いままであった(E15.5で94.3パーセント、P0で90.9パーセント)。7日目でのネフロン前駆細胞マーカーの発現レベルを確認したところ、新たに単離したネフロン前駆細胞のものとほぼ同等であった。これらの培養細胞を、Wntを発現する間葉上皮転換の強力な誘導因子である脊髄と組み合わせると、管形成が3日以内に観察され、誘導してから5日後に回収したときは多数の糸球体や尿細管が確認された。結果を図5に示す。糸球体は、丸形で、足細胞特異的マーカーである、Wt1とネフリンが陽性であった。誘導された尿細管は、カドヘリン6陽性近位およびカドヘリン1陽性遠位ドメインに領域化した。したがって、この培養条件は、よく発達した糸球体や尿細管で示される三次元ネフロン構造を形成する能力を維持しながら、精製したネフロン前駆細胞の増殖を可能にした。新生児からの前駆細胞が7日間維持されたことは注目すべきことである。なぜなら、マウスのネフロン前駆細胞は、出生後2〜3日以内には増殖するのをやめ、最終分化をする。したがって、この結果は、本発明の培養条件は、生体内でそれらの生理学的制限時間を超えて前駆細胞の増殖を維持していることを示している。
上記の培養条件は、E15.5またはP0から精製ネフロン前駆細胞の増殖を可能にするが、細胞数の増加は劇的ではなかった(約2倍、図4参照)。上記のように、最初は、E11.5からの全MMを用いて培養条件を最適化し、E15.5やP0でも同様の結果が得られることを確認した。
次に、細胞数が制限されていたが、E11.5でSix2−GFP陽性前駆細胞を精製した。選別された細胞を、7日間、iMatrix被覆プレート上に凝集させ培養した結果、顕著な細胞数の増加(30倍)および95%以上のGFP陽性の残存が観察された(図6)。これらのデータは、後の発生段階のものと比較して、E11.5でのSix2陽性細胞は、より高い増殖能力を有していることを示唆している。
次に、一週間を超える前駆細胞の増幅を試みた。8日目での単一細胞への分散は、細胞のさらなる増殖を妨げた(データ示さず)。しかし、細胞を小さな塊(凝集体)に分離し3つのプレートに分割した場合は、細胞は成長を続け、19日目まで3〜4日ごとに継代することができた(図10参照)。19日目で、細胞数が増加し、97%がSix2−GFP陽性のままであった(図11)。最適条件(全ての因子を添加)では、19日目でGFP陽性細胞の割合は97%であった。LIFの非存在下では、GFP陽性細胞の割合が8日目に急激に低下し、19日で73%であったが、逆に、LIF存在の条件と比較した場合、全細胞数は増加した。結果を図12に示す。このことは、図9の状況と同様である。興味深いことに、Bmp7の非存在下では、GFP陽性細胞の割合は、11日目まで高いレベルに維持され、19日目で53%にまで急激に減少した。したがって、Bmp7は、GFP陽性細胞の長期維持に必須であった。培地からのLIFおよびBmp7の排除はまた、全細胞数の増加にもかかわらず、Six2陽性細胞を維持することができなかった(68%)。したがって、LIFおよびBmp7の両方がネフロン前駆細胞の自己複製に必要であると判った。この最適化された状態(CDBLY+Fgf9)では、Pax2を除くネフロン前駆細胞マーカーのほとんどが、8日目より低いレベルであったが、19日目で維持されていた(図13)。さらに、図14に示すように、培養細胞は、脊髄と組み合わせることにより、3次元ネフロン構造(糸球体と尿細管)を形成した。したがって、培養細胞は、19日間、分化能を保持していた。
発明者らは、マウスES細胞からネフロン前駆細胞の作成を最近報告している(非特許文献6;特許文献1)。そこで、上記の増幅培養方法が、ES細胞由来ネフロン前駆細胞に適用することができるかどうかを検討した。腎臓系統への分化能を持つSix2−GFP ES細胞は入手できなかったので、ネフロン前駆細胞およびそれに続いて三次元ネフロンに分化することが示されているOsr1−GFP ES細胞を用いた。マウスES細胞から誘導された凝集体は、おそらくE10.5−11.5でのネフロン前駆細胞に相当する。Osr1は、ネフロン前駆細胞で発現されているばかりでなくこの段階での間質でも発現されているが、発達の後期段階ではその発現はネフロン前駆細胞に制限されている。したがって、ネフロン前駆細胞画分としてOsr1−GFP+/インテグリンα8+/Pdgfrα−集団を選別し、それを7日間培養した。細胞は15倍に増殖し、それらの90.3パーセントはOsr1−GFPについて陽性のままであったが、インテグリンα8+/Pdgfrα−画分の割合は65.2パーセントに減少した。結果を図16に示す。7日目のOsr1−GFP陽性細胞におけるネフロン前駆細胞マーカー(Six2、Pax2、Sall1、Wt1およびOsr1)の発現レベルは、E11.5でのインビボでのSix2陽性細胞のものと同等であった。これらの培養細胞は、脊髄により刺激されると、三次元ネフロン構造を形成した(図17)。したがって、マウスES細胞から作成されたネフロン前駆細胞は、ネフロン形成能を維持したまま増幅でき、このことは、本発明の培養条件がしっかりしたものであることを示している。
太口らの方法(非特許文献6)に沿ってヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞を誘導する。その際に、ネフロン前駆細胞マーカーがGFPで光るヒトiPS細胞を作成し、FACSによってネフロン前駆細胞を単離する。その後、上記の実施例と同様にし、本発明の記載の各化合物の濃度にて、ネフロン細胞の培養を行う。培養したネフロン前駆細胞を用い、上記実施例と同様にして、本発明者の公知の報告(非特許文献6;特許文献1)に従い、三次元ネフロン構造を形成する。
具体的には以下のようにして行った。概略を図18に示す。
iPS細胞(201B7)から太口らの方法に従いヒトネフロン前駆細胞を作成した。培養14日目の前駆体スフェロイドを、解離溶液(CTK溶液、Reprocell)で処理して、小さな塊に解離した。前駆体スフェロイドを約1/4に分割した塊を、iMatrix被覆プレートに播き、CDBLYを添加したDMEM/F12培地(CHIR99021:1μM、DAPT:2.5μM、BMP7:5ng/ml、LIF:5ng/ml、Y27632:10μM)中で培養した。培地を毎日交換し、8日間培養を続けた。培養8日目のネフロン前駆体細胞数及びネフロン前駆細胞マーカーの遺伝子発現レベルを測定した結果を図19に示す。8日間で細胞が4倍に増幅された。
培養8日目の細胞を用いて、ネフロンへの分化アッセイを行った。培養8日目のiPS細胞由来ネフロン前駆体細胞を解離溶液(CTK溶液)を用いて小さな塊に解離し、96ウェルのU底low−cell−binding platesに播種して(ウェル当たり200,000細胞)24−48時間培養して凝集体を形成させ、次いで、胚の脊髄とともに共培養することにより、ネフロンを形成させた。その結果を図20に示す。糸球体や尿細管が確認された。
実施例6と同様にして、ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞の増幅と増幅した細胞のネフロン形成を行った。但し、ネフロン前駆細胞の増幅は、iMartix被覆プレートの代わりに96ウェルのU底low−cell−binding platesを用いて培養14日目の前駆体スフェロイドをタングステン針で4分割し、スフェロイド状で培養した。結果は、実施例6と同様に、ネフロンが形成され、多数の糸球体や尿細管が確認された(データは示さず)。
ヒトiPS細胞201B7から太口らの方法に従い誘導したspheroid様のネフロン前駆細胞を含む組織を1xAccumax細胞剥離液(Millipore社)に浸し、37度、8分間処理し、解離した(20個spheroid/500μLのAccumax細胞剥離液)。その間、2分ごとに溶液を攪拌した。
反応後、すぐに遠心を行った(1000rpm,2分)。次いで、上清を取り除き、500μLのFACS wash buffer(HBSS,FCS,DNase,CaCl2, NaHCO3)で再懸濁した。
Integrin α抗体およびPDGFR α抗体で細胞を処理し、FACSによりIntegrin α陽性/PDGFR α陰性の細胞を単離した。
これをネフロン前駆細胞として、実施例6に記載の培地条件および培養条件にて培養した。具体的には、純化した10,000個のIntegrin α陽性のネフロン前駆細胞をlow−cell binding plateにて培養し凝集体を形成させた。その結果、8日間の培養で40−60倍に増幅した。さらに、増幅した細胞から尿細管、糸球体様の組織をマウス胎児の脊髄との共培養によって再構築することできた。
Claims (27)
- 以下の化合物:
(i)Wntアゴニスト、
(ii)Fgf、
(iii)白血球阻害因子(LIF)、
(iv)Bmpファミリー化合物、
(v)Rock阻害剤、および
(vi)Notch阻害剤
を含む培地を用いて、単離された哺乳動物由来のネフロン前駆細胞を培養して増やす方法。 - さらに、培地が(vii)Tgf−αを含む請求項1に記載の方法。
- 前記培地が、1.0ng/ml〜20ng/mlの濃度のBmpファミリー化合物を含む、請求項1または2に記載の方法。
- 前記培地が0.1μM〜5μMの濃度のWntアゴニスト、1.0ng/ml〜20ng/mlの濃度のBmpファミリー化合物、10〜500ng/mlの濃度のFgf、および、1ng/ml〜30ng/mlの濃度のLIFを含む、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
- 前記培地が、1.0μM〜50μMの濃度のRock阻害剤、および、1.0μM〜20μMの濃度のNotch阻害剤を含む、請求項4に記載の方法。
- 前記培地が、1ng/ml〜500の濃度のTgfαを含む、請求項5に記載の方法。
- 前記Bmpファミリー化合物が、Bmp2、Bmp4、Bmp7、およびGDF11からなる群より選ばれる、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
- 前記Wntアゴニストが、GSK−3阻害剤から選ばれる、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
- 前記Fgfが、Fgf1、Fgf2、Fgf9、およびFgf20からなる群より選ばれる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
- 前記WntアゴニストがCHIR99021であり、前記FgfがFgf9またはFgf2であり、前記BmpがBmp7であり、前記Rock阻害剤がY27632であり、前記Notch阻害剤がDAPTである、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
- 前記ネフロン前駆細胞が、ES細胞またはiPS細胞由来のネフロン前駆細胞である、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
- 前記ネフロン前駆細胞が5日以上培養されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
- 前記ネフロン前駆細胞が、培養開始時の細胞数と比較して4倍以上の細胞数まで培養されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
- 前記培養が、iMatrixまたはフィブロネクチン被覆プレート上で行われる、上記請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法。
- 前記培養が、U底低細胞吸着プレートで行われる、請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法。
- 請求項1〜15のいずれか一つに記載の方法を用いて培養されたネフロン形成能を有するネフロン前駆細胞。
- 請求項1〜15のいずれか一つに記載の方法を用いて培養されたネフロン前駆細胞を用いて、糸球体および尿細管を有する三次元腎臓構造を作成する方法。
- 以下の化合物:
(i)Wntアゴニスト、
(ii)Fgf、
(iii)白血球阻害因子(LIF)、
(iv)Bmpファミリー化合物、
(v)Rock阻害剤、および
(vi)Notch阻害剤
を含む、ネフロン前駆細胞を増幅させるための培地。 - さらに、(vii)Tgfαを含む請求項18に記載の培地。
- 1.0ng/ml〜20ng/mlの濃度のBmpファミリー化合物を含む、請求項18または19に記載の培地。
- 0.1μM〜5μMの濃度のWntアゴニスト、1.0ng/ml〜20ng/mlの濃度のBmpファミリー化合物、10〜500ng/mlの濃度のFgf、および、1ng/ml〜30ng/mlの濃度のLIFを含む、請求項18〜20のいずれか一つに記載の培地。
- 前記培地が、1.0μM〜50μMの濃度のRock阻害剤、および、1.0μM〜20μMの濃度のNotch阻害剤を含む、請求項21に記載の培地。
- 1ng/ml〜500の濃度のTgfαを含む、請求項22に記載の培地。
- Bmpファミリー化合物が、Bmp2、Bmp4、Bmp7、およびGDF11からなる群より選ばれる、請求項18〜23のいずれか一つに記載の培地。
- 前記Wntアゴニストが、GSK−3阻害剤である、請求項18〜24のいずれか一つに記載の培地。
- 前記Fgfが、Fgf1、Fgf2、Fgf9、およびFgf20からなる群より選ばれる、請求項18〜23のいずれかに記載の培地。
- 前記WntアゴニストがCHIR99021であり、前記FgfがFgf9またはFgf2であり、前記BmpがBmp7であり、前記Rock阻害剤がY27632であり、前記Notch阻害剤がDAPTである、請求項18〜26のいずれか一つに記載の培地。
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