JPWO2016181895A1 - 光学素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来の平板型レンズでは集光機能が弱く、小形化(焦点距離の短縮、レンズの小形化)に制限が大きかった。【解決手段】フォトニック結晶の複数の波長板領域を用いて直線偏光した光を集光・発散・屈折する光素子を与える。薄型の波長板は、実効的な屈折率差がきわめて大きいことや、1枚の基板上で位相差を連続的に可変にできることなどを用いて、直線偏光した光を集光・発散・屈折する光素子を可能にする。多数の薄型の波長板によってレンズを形成できるため、レンズ全体を極めて薄くすることができる。【選択図】図4(b)

Description

本発明は、集光、発散、屈折、偏光分離・合成を行う薄型平面光学素子に関する。
非特許文献1や特許文献1〜6には、例えばディジタルカメラ用のイメージセンサなどにおいて集光レンズとして利用することのできる従来の光学素子が開示されている。
平板マイクロレンズアレーを用いる微小光学イメージ前処理系の基礎的検討、秋葉敦、村重仁勇、伊賀健一、光学、1991年8月号、pp.507−513)
「3次元周期構造体及びその作製方法並びに膜の製造方法」 特許3325825号 「複屈折性周期構造体、位相板、回折格子型の偏光ビームスプリッタ及びそれらの作製方法」 特開2001−51122号公報 「多値波長板」 特開2010−156896号公報 「偏光回折素子」 特開2010−156895号公報 「偏光コンバータ」 特開2012−181385号公報 「偏光変換機能を有するフォトニック結晶」 特開2013−257371号公報
光学系において、集光レンズは、つねに用いられる最も基礎的普遍的な光学素子である。それを小形化、薄型化することは、たとえばディジタルカメラ用のイメージセンサに用いられるマイクロレンズなどで広く用いられる実用例がある。さらに、それを平面形にし、薄型化、短焦点距離化することは非常に望ましいが、従来の光学素子は、たとえば焦点距離は数ミリメートル、厚さは数ミリメートル程度が限度であり、光通信用のデバイス結合に用いるには制約が多いものであった。そこで、本発明は、光学素子の厚さを数μmから数十μm、焦点距離を数μmから数十μmあるいは数百μm程度とし、光学素子の厚さおよび焦点距離を飛躍的に改善することを目的とする。
本発明の第1の側面は、光学素子に関する。本発明に係る光学素子は、光の入射する平面が複数の領域に分かれ、各領域はそれぞれ波長板よりなり、各波長板はそれぞれの位相差をもち、領域間で遅軸または速軸の方向を共通に保ちながら各領域は隙間なく隣接しており、一つの直線偏光で入射する光に対して集光の機能をもつ。つまり、本発明に係る光学素子は、レンズとして機能することが可能であり、光の集光機能の他にも、光の発散機能及び屈折機能を持つものであるといえる
本発明の光学素子において、複数の領域は、中心を共有する複数の円形若しくは円環状の領域、中心を共有する複数の楕円形若しくは楕円環状の領域、又は複数の方形の領域であることが好ましい。本発明に係る波長板からなる光学素子の基本概念を図4(a)および図4(b)を用いて説明する。図4(a)および図4(b)に示されるように、この光学素子の構造は大きく三つの波長板領域に分かれている。つまり、中央に位置する円形(または楕円形)の領域と、その周囲に位置する円環状(または楕円環状)の領域と、さらにその周囲に位置する方形の領域である。そして、それぞれの領域はすじ状または方形の多数の波長板単位セルから成り立っている。つまり、中央の円形領域はX軸方向に延びるすじ状の波長板単位セルからなり、その周囲の円環状領域は方形の多数の波長板単位セルからなり、さらにその周囲の方形領域はY軸方向に延びるすじ状の波長板単位セルからなる。
また、本発明の光学素子は、光の入射する平面が帯状の複数の領域に分かれ、各領域はそれぞれ波長板よりなり、各波長板はそれぞれの位相差をもち、領域間で遅軸または速軸の方向を共通に保ちながら各領域は隙間なく隣接されており、二つの直交する直線偏光に対して偏光ごとの角度で屈折の機能をもつものであってもよい。
具体的に説明すると、各波長板単位セルの形状は長方形(正方形、平行凹凸を含む)であることが好ましい。光学素子をX軸とY軸を持つ2次元の平面として捉えた場合において、各波長板単位セルはX軸方向及びY軸方向に隙間なく隣接して形成される。ここで、光学素子を集光、発散、または屈折の機能をもつレンズとして機能させる場合、光学素子は、その中央部から外縁に向かって複数の領域(好ましくは3以上または5以上の領域)に区分される。このとき、最も中央寄りの領域には、遅軸が最も長く速軸が最も短い複数の波長板単位セルが配置されており、この最も中央寄りの領域から外縁に向かうにつれて、各領域に配置されている各波長板単位セルの遅軸が短くなるか若しくは速軸が長くなっていく。このように、複数の位相差の異なる波長板領域が配置された光学素子は、一つの直線偏光で入射する光に対して集光、発散、または屈折の機能をもつレンズとして機能する。他方、光学素子を偏光分離または合成の機能を持つプリズムとして機能させる場合、光学素子は、一端側から他端側に向かって複数の領域(好ましくは3以上または5以上の領域)に区分される。最も一端寄りの領域には、遅軸が最も長く速軸が最も短い複数の波長板単位セルが配置されており、この最も一端寄りの領域から他端側に向かうにつれて、各領域に配置されている各波長板単位セルの遅軸が短くなるか若しくは速軸が長くなっていく。このように波長板単位セルが配置された光学素子は、二つの直交する直線偏光に対して偏光分離または合成の機能をもつプリズムとして機能する。
波長板が、自己クローニング作用により形成されたフォトニック結晶であることが好ましい。フォトニック結晶は、平面内に周期溝状の構造を持ち、当該周期溝状の構造が厚さ方向に積層された構造を持つ。フォトニック結晶は、光学素子として機能する微小周期構造体である。具体的なフォトニック結晶の製造方法として、特開平10−335758号公報に開示される2次元的に周期的な凹凸をもつ基板の上に2種類以上の物質(透明体)を周期的に順次積層し、その積層の中の少なくとも一部分にスパッタエッチングを単独で、または成膜と同時に用いることにより光学素子を製造する方法があげられる。この方法は、自己クローニング法ともよばれる。また、自己クローニング結晶を用いて波長板を構成する技術は公知である(例えば、特開2008−197399号公報)。
フォトニック結晶を形成する複数種類の透明体の内一つは、アモルファスシリコン、5酸化ニオブ、または5酸化タンタルであることが好ましい。例えば、フォトニック結晶は、5酸化ニオブと5酸化タンタルの組み合わせ、アモルファスシリコンと5酸化ニオブの組み合わせ、アモルファスシリコンと5酸化タンタルの組み合わせとすることも可能である。具体的に、自己クローニング型フォトニック結晶は、高屈折率材料と低屈折率材料とをz方向に交互に積層した構造を有する。高屈折率材料は、5酸化タンタル、5酸化ニオブ、アモルファスシリコン、酸化チタン、酸化ハフニウムの1種またはこれら2種以上の材料を組み合わせたものであることが好ましい。低屈折率材料は、2酸化ケイ素、酸化アルミ、フッ化マグネシウムを含むフッ化物の1種またはこれら2種以上の材料を組み合わせたものであることが好ましい。
自己クローニング作用で形成される周期溝状(凹凸)の構造において溝の基本周期が、入射する光の光波長の3分の1以下または5分の1以下であることが好ましい。また、溝の基本周期は、入射する光の光波長の6分の1以下または8分の1以下とすることもできる。
本発明の第2の側面は、1枚の基板の両面に、上記第1の側面に係る光学素子を持つ光学部品に関する。
本発明は、上記第1の側面に係る光学素子を形成した後に、1種類の誘電体膜をある厚さ成膜し表面を平坦化した上で、最初の光学素子とは波長板の数、向き、又は周期が異なる第1の側面に係る光学素子を形成した光学部品であってもよい。
本発明の第3の側面は、第1の側面に係る光学素子、若しくは第2の側面に係る光学部品を用いて二つ以上の光通信部品間を結合する光学結合部品に関する。
ディジタルコヒーレント光通信(コヒーレント光通信)では、一つの光学素子が扱うべき光ビームが、所定の直線偏光に限定される場合が多い。従来の平面レンズでは等方的な屈折率の大小差により光を集めるが、本発明に係る直線偏光系の光学素子では波長板を用いることができる。入射光の電界に対し波長板の遅軸方向を平行に置くと位相遅れが大きく屈折率が高いのと同等である。速軸を平行に置くとその反対である。
さらに、自己クローニング形フォトニック結晶ではさまざまな遅延位相量をもつ波長板領域を1枚の基板上に隙間なく隣接して配置することができるので、レンズと同等の集光機能、発散機能、又は屈折機能を持たせることができる。このように、極めて薄い自己クローニング形フォトニック結晶をレンズとして機能させることができる。従って、本発明によれば、レンズとして機能する光学素子の厚さを1〜数十μm程度とし、焦点距離を1μmから数十あるいは数百μm程度とすることができる。
さらに、フォトニック結晶波長板では直交偏光間で、材料の選択によっては1波長相当の位相差πを自由空間波長の8倍相当の厚さで実現できるという常識を遙かに超える集光機能等をもつので、その厚さを飛躍的に微小化できる。
なお用語について付言する。本発明の光学素子は光通信用にも、より波長の短い可視域用にも利用できる。通信技術では偏波、可視光を中心とする光学では偏光という言葉を用いるがこれは習慣の差である。本願では通信応用に偏波、一般光学に偏光と記すが同等と了解する。
たとえばコヒーレント光通信用に平面光回路(PLC)と光ファイバを結合する、あるいはInP光変調器の微小で楕円形状の光を直径が大きく円形の光ファイバに平板貼り合わせの方法で実装できるなど部品数削減、工数節約、原価低減などの便益が大きい。
図1(a)は、集積された波長板の任意の領域に、所定の位相差をもたせるため、自己クローニングで形成される周期構造フォトニック結晶に与えるべき膜の凹凸構造の一例を示している。 図1(b)は、集積された波長板の任意の領域に、所定の位相差をもたせるため、自己クローニングで形成される周期構造フォトニック結晶に与えるべき膜の凹凸構造の一例を示している。 図1(c)は、集積された波長板の任意の領域に、所定の位相差をもたせるため、自己クローニングで形成される周期構造フォトニック結晶に与えるべき膜の凹凸構造の一例を示している。 図2は、図1で示されたフォトニック結晶の面内単位セルにおいて、縦と横の寸法比がそれぞれの位相差を決定することを示すための実測結果を表す図である。横軸ηは(1−a/b)を表し、正方形単位セルではηは零、縦と横の開きが大きくなると漸増しbがaに比してほとんど無限に大きいときηは1である。 図3は、集光レンズの一例として楕円レンズの構成法を示す。図において紙面に垂直に進む光に対し、像の水平方向の集光作用と垂直方向の集光作用を独立に実現することは従来技術では困難であるが、本発明ではその機能さえも実現できるので、その方法を示す。 図4(a)は、集光レンズの一例として、楕円レンズの斜視図を示している。 図4(b)は、楕円レンズの表面を撮影した電子顕微鏡写真である。 図4(c)は、楕円レンズの集光スポットを示している。ここでは、五酸化ニオブと二酸化ケイ素からなる自己クローニングフォトニック結晶形の集光レンズとその効果を示す。 図4(d)は、楕円レンズの焦点形状を示している。ここでは、五酸化ニオブと二酸化ケイ素からなる自己クローニングフォトニック結晶形の集光レンズとその効果を示す。 図5は、細長く、しかもサイズが光波長程度の細い楕円ビームを光ファイバに効率よく結合する光回路の例を示す。図5(a)は、光ビームを縦切りして短径が見えるような切断面である。縦軸はビームの断面を、横軸は伝搬長を示す。単位はum(マイクロメートル)である。左端は入射面、次のx印は第一のレンズによる変換点(6um)、右端のx印は光ファイバの入射面である。等位相面は2次曲線的なので第二のレンズをここにおき等位相面を補正し平坦にする(光ファイバのモードの等位相面は平坦である)。円弧はビームの等位相面を表す。図5(b)は、同じく長径に対応する図である。最初のレンズではほぼ平坦な等位相面を発散性に変換している。即ち凹レンズ作用を持たせている。 図6は、プリズム機能の実現方法の概念を示す。プリズムには集光作用は特にもたせず進行方向のみ変える。上下方向に偏光した光が図6の素子に入射すると光は左方に屈折される。 図7は、プリズム機能を実現するより具体化方法を示す。プリズムには集光作用は特にもたせず進行方向のみ変える。上下方向に偏光した光が図6の素子に入射すると光は左方に屈折される。左右方向に偏向した光は右方に屈折される。
以下、本発明について、実施例1ないし実施例6に基づいて詳細に説明する。
1枚の基板の上に複数種類の位相差をもつ波長板または波長板領域を同一プロセスで作成する方法を説明する。図1(a)には、短辺a、長辺bの長方形(矩形)を単位セルとする波長板の上面を示す。長辺bがaに比して殆ど無限に大きいような、自己クローニング法で作成したフォトニック結晶からできている波長板は既知である(特許文献1〜6)。これに対して、図1は、本発明に係る波長板の構造の例を示している。長さbおきに稜を設けた構造が図1(a)に示されており、反対に長さbおきに谷を設けた構造が図1(b)に示されている。また、図1(c)のように図1(a)を変形してもよく、無限長の山と溝を有限長の連なりとすることで異方性を減らすことができる。そのような位相差を制御された波長板領域を複数個隙間なく、かつ主軸方向を共通に保ったまま配置することにより位相差を場所ごとに独立に選択できる。なお本出願では波長板において遅軸と速軸とを併せて主軸と呼ぶ。
次に、自己クローニング法で作成された波長板の位相差を領域ごとに調節する方法を示す。5酸化ニオブと2酸化シリコンからなるフォトニック結晶波長板において、単位セル長方形の長辺bを短辺aの2倍、3倍、4倍にして、共通の層数、共通の厚さに製膜してそれぞれの位相差を評価した。その結果を図2に示す。相対的な位相差は(1−a/b)にほぼ比例している。
本願の発明思想においては、光学素子は、複数の波長板領域を遅軸および/または速軸の方向を共通に保ちながら隙間なく隣接させた構造となっている。また、各波長板単位セルは、短辺aと長辺bとを有する長方形を基本構造としている(なお、短辺aと長辺bの長さが等しい正方形状の波長板が存在していてもよい)。つまり、直交するX軸及びY軸の二次元座標系を考えたときに、長方形状の各波長板は、X軸方向とY軸方向に隣接して形成されていることとなる。本願明細書では便宜的に、Y軸方向(図の上下方向)に長い長方形を「縦長の長方形」と称し、X軸方向(図の左右方向)に長い長方形を「横長の長方形」と称している。図1(a)等に示されるように、各波長板領域は、凸部又は凹部を有しており、また各波長板領域の間には稜又は谷が形成されており、これらの稜又は谷によって各波長板領域の境界が明確に区切られている。例えば、図1(a)の例では、各波長板は凹部を有しており、隣接する波長板領域の境界には稜が形成されている。図1(a)の例では、波長板領域の間の稜がX軸とY軸に沿って略無限長に連なっている。また、図1(b)の例では、各波長板領域は凸部を有しており、隣接する波長板領域の境界には谷が形成されている。図1(b)の例では、波長板領域の間の谷がX軸とY軸に沿って略無限長に連なっている。また、図1(c)の例では、各波長板領域は凹部を有しており、隣接する波長板領域の境界には稜が形成されている。ただし、図1(c)の例では、稜は、Y軸に沿って略無限長に連なっているものの、X軸に沿っては有限長となっている。つまり、X軸方向に延びる稜は、Y軸方向に互い違いになるようにオフセットして形成されている。
入射光が直線偏光の場合、波長板の遅軸が直線偏光の偏光と一致するときその部分は光の波面を遅らせる、言い換えれば屈折率の大きい媒体と同等の振る舞いをする。同様に、波長板の速軸が直線偏光の偏光と一致するときその部分は光の波面を相対的に進める、言い換えれば屈折率の小さい媒体と同等の振る舞いをする。図3は、本発明に係る集光レンズ(光学素子)の一例として、楕円レンズの構成を示している。図3のように複数の位相差の異なる波長板領域(長方形)を配置し、所定の直線偏光に対して中央領域は波長板の位相遅れが最大となり、周辺に向かって位相遅れが減少するように各波長板領域を配置すれば、複数の波長板領域で構成される光学素子にレンズ作用を持たせることができる。つまり、このように構成された集光レンズは、一つの直線偏光に対しては、入射する光の偏光状態に応じて集光、発散、または屈折の機能を発揮する。なお、位相差は階段的に変化するので一般に位相遅れは空間の滑らかな関数とはならず微小な量子化誤差を持つことになるが、集光系ではその影響は小さい。
より具体的に説明すると、図3に示されるように、レンズ作用を持つ集光レンズ(楕円レンズ)は、中央部に比較的長辺の長い縦長の波長板領域が複数形成され、その中央部の周囲に比較的長辺の短い縦長の波長板領域が複数形成され、さらにその周囲に略正方形の(短辺と長辺が等しい)波長板領域が複数形成され、さらにその周囲に比較的長辺の短い横長の波長板領域が複数形成され、さらにその周囲に比較的長辺の長い横長の波長板領域が複数形成されている。このように、集光レンズは、中央部に相当する第1領域と、第1領域の周囲に位置する第2領域と、第2領域の周囲に位置する第3領域と、第3領域の周囲に位置する第4領域と、第4領域の周囲に位置する第5領域とから構成され、各領域でそれぞれ波長板領域の長辺の長さや向きが異なるため、結果として各領域で波長板の位相差が異なっている。図3に示した例において、集光レンズは、第1〜第5領域までの5段階の位相分布で構成されている。このように、図3に示された楕円レンズは、所定の直線偏光に対して中央部に位置する第1領域は波長板の位相遅れが最大となり、周辺に向かって位相遅れが減少するように各波長板領域が配置されている。
本発明のように、集光・分散・屈折機能をもつレンズ(光学素子)の位相分布を階段的なものとする場合、その段数が多いほど実現すべき理想的な位相変化量への近似度が高まる。仮に実現すべき位相変化量を端から端まで180度、即ち半波長相当とし、階段の数をnとすれば、一つの段は(180/n)度を代表し、最大誤差は(90/n)度となる。位相不整合による損失は、n=3のときに0.4dB、n=4のときに0.22dB、n=5のときに0.14dBとなるとなる。このように、段数(n)を多くする程、位相不整合による損失を低減させることが可能である。従って、位相分布の段数は、目的に応じて段数を選択することができる。ここでの位相分布の段数nは、3以上または5以上の整数であることが好ましい。
段数を増やすためには各位相板領域を構成する長方形のサイズを小さくすることが望ましい。自己クローニング法においては、波長板を作製するのに短辺の大きさを、5酸化ニオブ・5酸化タンタルでは通常は使用波長の1/3程度とすることができ、またアモルファスシリコンでは通常は使用波長の1/5程度とすることができる。また、面内周期と厚さ方向周期との比を保ったままで、これらの値より小さくすることも可能である。たとえば、5酸化ニオブ・5酸化タンタルでは通常は使用波長の1/5以下としたり、アモルファスシリコンでは通常は使用波長の1/8以下としても、波長板の特性は影響されないのでそのような設計を選ぶこともできる。
自己クローニング法で波長板形集光デバイスを作成するとき、必要とされる最大位相差と製膜すべき膜厚との概略の関係は次の通りである。
例えば光通信波長の1550nmにおいては、面内のいわば屈折率最小部と最大部の位相差をπラジアンにするには1/2波長板とおなじ厚さで良く、実施例2の材料系では約12μmとなる。より大きい、例えば2πラジアン必要なときは膜厚をそれに比例してさらに約12μm積層する。
より薄い膜厚で同等の機能を実現したい場合、アモルファスシリコンと2酸化シリコンの組み合わせの自己クローニングフォトニック結晶を用いれば良く、必要な厚さは前の場合の約1/3で済む。アモルファスシリコンは光通信波長帯では透明材料であるが可視域では不透明なので目的に応じて選択する。
そのような集光デバイスのパターンの一例を図3に示す。紙面に垂直に入射する光において、紙面の左右方向の集光力と上下方向の集光力を別々に定める例を示している。この例においては入射する光は上下方向の直線偏波であることを要する。
図3に示した楕円レンズは、上述したとおり、その中央から外縁に向かって、第1領域、第2領域、第3領域、第4領域、第5領域の順に区分されている。第1領域には比較的長辺の長い縦長の波長板領域が複数形成され、第2領域には比較的長辺の短い縦長の波長板領域が複数形成され、第3領域には略正方形の(短辺と長辺が等しい)波長板領域が複数形成され、第4領域には比較的長辺の短い横長の波長板領域が複数形成され、第5領域には比較的長辺の長い横長の波長板領域が複数形成されている。
図3において、縦長の長方形は遅軸が上下方向の波長板を、横長の長方形は遅軸が左右方向の波長板を表す。正方形は等方的、即ち位相差がゼロの場合を表す。図2を用いて説明したとおり、長方形の縦と横の比が1から大きく異なるほど波長板の位相差は大きくなる。
この構造により、X方向とY方向で独立の集光とする楕円レンズを形成することができる。
また、図3に示したように、楕円レンズ中央の第1領域に、遅軸が上下方向であって位相差の大きい波長板を配置し、その周囲の第2領域に、遅軸が上下方向であって位相差の小さい波長板を配置し、さらにその周囲の第3領域に、位相差がゼロとなる等方的な波長板を配置する。さらに、第3領域の周囲の第4領域には、遅軸が左右方向すなわち速軸が上下方向となる位相差の小さい波長板を配置し、さらにその周囲の第5領域には、遅軸が左右方向すなわち速軸が上下方向となる位相差の大きい波長板を配置する。ここで、入射光が直線偏光の場合、波長板の遅軸が直線偏光の偏光と一致するときその部分は光の波面を遅らせる、言い換えれば屈折率の大きい媒体と同等の振る舞いをする。同様に、波長板の速軸が直線偏光の偏光と一致するときその部分は光の波面を相対的に進める、言い換えれば屈折率の小さい媒体と同等の振る舞いをする。従って、図3のように位相差の異なる種々の波長板(長方形)を配置し、所定の直線偏光に対して中央部分は波長板の位相遅れが最大となり、周辺に向かって位相遅れが減少するように各波長板を配置すれば、複数の波長板で構成される光学素子にレンズ作用を持たせることができる。つまり、このように構成された集光レンズは、一つの直線偏光に対しては、入射する光の偏光状態に応じて集光、発散、または屈折の機能を発揮する。
図4(a)には本発明による集光レンズの構成を示し、図4(b)にはその表面の電子顕微鏡写真を示し、図4(c)にはその集光スポットを示し、図4(d)には焦点形状を示す。図4(b)は光の入射面となる、積層型フォトニック結晶の表面を示す。フォトニック結晶は全体の厚さ12μmの自己クローニング多層膜であり、それは直径5.8μmの内円柱、外形8.2μm、内径5.8μmの円環筒、その外側の領域からなる。内円柱部の遅軸をX軸で表す。外側領域の遅軸をそれと直交させYとする。中間の円環筒は西方格子の積層されたものでX、Yに関し等方的である。この構造はX方向に偏光した波長1.55μmの直径約10μmの入射光ビームを、レンズ通過後空気中を6.3μm伝搬した後に図4(c)、図4(d)に示すように直径約3μmに集光した。
光トランシーバー(光送受信機)では、送信素子、たとえばInP光変調器の光モードの形状が細径で非円形(短径が例えば1μm程度、長径も数μm、たとえば3μm以下)になることが多い。通常の光ファイバは直径約10μmの円形形状をしているから、その間を効率よく結合することは普通容易でない。しかし、ディジタルコヒーレント通信においては、送信回路または受信回路の一つ一つの導波路は特定の偏光の光だけを扱うので、本発明に係る集光系を適用して一体化された集光系を作ることができる。細径導波路のビームを楕円状ガウス波で近似し、短径(直径)を約0.92μmとし、長径を3.0μmとする(それぞれパワーexp(−2)倍全幅で表す)。それを通信用標準の光ファイバのモードである直径10μmの円形ビームに変換する光回路の例を図5に示す。
その光回路は次の四つの部分を一体に積層したものである。
(A)第1の高屈折率層、たとえばアモルファスシリコンでできた厚さ6μmの層
(B)第1の集光素子、たとえばアモルファスシリコンと2酸化シリコンよりなるフォトニック結晶で構成される。
(C)高屈折率層、たとえばアモルファスシリコンでできた厚さ40μmの層
(D)第2の集光素子、たとえばアモルファスシリコンと2酸化シリコンよりなるフォトニック結晶で構成される。
(A)の部分は前記細径導波路に接し(D)の部分は光ファイバに接する。
図5に示した第1の集光素子および第2の集光素子を以下説明する。
3次元空間において、光の進行方向をz軸、それに直交する細径導波路の短径方向をx軸、長軸方向をy軸とする。第1、第2の光学素子はそれぞれ階段関数をもって次の2次曲面で表される位相差を近似するようにつくる。
第1:位相差=Ax+By+C
第2:位相差=Dx+Ey+F
そのとき光ビームはxz面で観察して図5(a)、yz面で観察して図5(b)のように伝搬する。
ただし
A=0.91rad/μm^2
B=0.03rad/μm^2
D=−0.07rad/μm^2
E=0.034rad/μm^2
とする。
C、Fは中心点x=y=0における位相差を設定する定数である。Dの値が負なのは発散性(凹レンズ的)であることを意味する。
多数の波長板で構成された光学素子によってマイクロプリズムを実現する為には、図6に概念を示すフォトニック結晶波長板を用いることができる。図中の長方形と、それが表す波長板領域の主軸・位相差との関係は、図2について述べたのと同じである。また、図中の長方形の短辺、長辺は、一つの長方形内でも異なる長方形間でも簡単な整数比をなしているが、これは説明と作図の便宜上に過ぎず大きな自由度が存在する。同様に、領域の種類の多少、素子全体における部分波長板の数の多い・少ないは目的により自由に選択できる。
具体的に説明すると、図6に示した光学素子は、全体が矩形状の薄板状に形成されている。図6に示されるように、光学素子は、もっとも右側の第1領域に横長の長方形の波長板領域が複数形成され、その左方に位置する第2領域に略正方形(短辺と長辺が等しい)の波長板領域が複数形成され、その左方に位置する第3領域に縦長の長方形の波長板領域が複数形成され、さらにその左方に位置する第4領域により長辺の長い縦長の長方形の波長板領域が複数形成され、その左方に位置する第5領域にさらに長辺の長い横長の長方形の波長板領域が複数形成されている。
このような光学素子は、入射した光の偏光の電界成分が、長方形の波長板領域の長辺に平行ならば遅延が大きくなり、長方形の波長板の長辺に垂直ならば遅延が減少する。この素子には集光、発散の機能は持たせていない。このため、平行ビームは平行に保たれたまま、偏光ごとに定まる光路をとる。故にこれは偏光分離素子または偏光合成素子として動作する。このように、図5に示された光学素子は、二つの直交する直線偏光に対して偏光分離または合成の機能、すなわちプリズムとしての機能をもつものである。
図7には本発明による、波長1.55μm用の偏光分離プリズムの表面構成を示す。フォトニック結晶波長板はNb/SiOで構成され、Y方向(縦方向)に延びる溝列のX方向(横方向)の間隔はほぼ1/4波長である0.4μmであり、それをaと記す。この偏光分離プリズムは大きく13個の領域よりなり、個々の領域はそれぞれ共通の長辺を持つ長方形単位セル(一辺が素子の端に及ぶものも含む)よりなる。長方形単位セルの長辺をbと記せば、第m番の領域の長方形単位セルの長辺は
b=12a/(m−1)
すなわちb=∞、12a、6a、4a、2.4a、….
となる。
Y方向(縦方向)に偏光した入射光に対しては図の左側ほど実効的な屈折率が高く、光は左側に偏向される。X方向(横方向)の偏向に対してはその逆である。フォトニック結晶は全体の厚さ48μmの自己クローニング多層膜であり、それはX方向に配列された13個の帯状領域で構成される。左から第i番目の帯はさらにY軸に平行な、周期dの、4本の山・谷構造と、X軸に平行で間隔がb/Iに等しい谷とから構成される。この構造にX方向に偏光した波長1.55μmの入射光ビームは約1/12ラジアンだけ右方向に、y方向に偏光した波長1.55μmの入射光ビームは同じく約1/12ラジアンだけ左方向に偏向される。
本明細書では、単位となる波長板領域が長方形(正方形、平行凹凸を含めて)である場合について例示してきた。ただし、単位となる波長板は、長方形に限らず、たとえば細長い六角形のような遅軸と速軸を持つ多角形であってもよく、これを隙間なく配置する形態にすることもできる。また、本明細書では、単位となる波長板が長方形である場合において、長辺と短辺とが簡単な整数比をなす場合を多く示してきたが、より一般的な比とすることももちろん可能である。
何らかの光素子が処理すべき光が特定の直線偏光であるような状態は、光通信域ではコヒーレント光通信に、可視域でもレーザ光学系に広く利用することができる。短焦点距離特性、小形特性、高度の集積が可能であることなど利用範囲は多種多様である。

Claims (9)

  1. 光の入射する平面が複数の領域に分かれ、各領域はそれぞれ波長板よりなり、各波長板はそれぞれの位相差をもち、領域間で遅軸または速軸の方向を共通に保ちながら各領域は隙間なく隣接しており、一つの直線偏光で入射する光に対して集光の機能をもつ
    光学素子。
  2. 前記複数の領域は、
    中心を共有する複数の円形若しくは円環状の領域、
    中心を共有する複数の楕円形若しくは楕円環状の領域、又は
    複数の方形の領域である
    請求項1に記載の光学素子。
  3. 光の入射する平面が帯状の複数の領域に分かれ、各領域はそれぞれ波長板よりなり、各波長板はそれぞれの位相差をもち、領域間で遅軸または速軸の方向を共通に保ちながら各領域は隙間なく隣接されており、二つの直交する直線偏光に対して偏光ごとの角度で屈折の機能をもつ
    光学素子。
  4. 前記波長板は、平面内に周期溝状の構造を持ち、当該周期溝状の構造が厚さ方向に積層されたフォトニック結晶である
    請求項1または請求項3に記載の素子。
  5. 前記フォトニック結晶は、複数種類の屈折率の異なる透明体が厚さ方向に積層されたものであり、
    前記複数種類の透明体の内一つは、アモルファスシリコン、5酸化ニオブ、または5酸化タンタルである
    請求項4に記載の光学素子。
  6. 前記波長板は、前記周期溝状の構造において溝の基本周期が、入射する光の光波長の5分の1以下である
    請求項4に記載の光学素子。
  7. 1枚の基板の両面に請求項1または請求項3に記載の光学素子を持つ
    光学部品。
  8. 請求項1または請求項3に記載の第1の光学素子を形成した後に、1種類の誘電体膜をある厚さ成膜し表面を平坦化した上で、第1の光学素子とは波長板の数、向き、又は周期が異なる請求項1または請求項3に記載の第2の光学素子を形成する
    光学部品の製造方法。
  9. 請求項1または請求項3に記載の光学素子を用いて二つ以上の光通信部品間を結合する
    光学結合部品。
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