本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
また、本明細書中で使用される場合、塩基及びアミノ酸の表記は、適宜IUPAC及びIUBの定める1文字表記又は3文字表記を使用する。本明細書において使用される場合、用語「タンパク質」は、「ペプチド」又は「ポリペプチド」と交換可能に使用される。また、用語「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、遺伝子は、DNAの形態(例えば、cDNA若しくはゲノムDNA)、又はRNA(例えば、mRNA)の形態で存在し得る。DNA又はRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。また、遺伝子は化学的に合成してもよく、コードするタンパク質の発現が向上するように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更してもよい。勿論、同じアミノ酸をコードするコドン同士であれば置換することも可能である。また、遺伝子は、タンパク質をコードするものであれば、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
〔1.遺伝子及びタンパク質〕
本発明に用いられる遺伝子は、以下の(a)〜(e)からなる群より選択される遺伝子である:
(a)配列番号1〜34のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(b)配列番号1〜34のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(c)配列番号1〜34のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(d)配列番号35〜64のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(e)上記(a)〜(d)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
また、本発明に用いられるタンパク質は、以下の(f)〜(i)からなる群より選択されるタンパク質である。
(f)配列番号1〜34のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(g)配列番号1〜34のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質;
(h)配列番号1〜34のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質;
(i)上記(a)〜(e)のいずれかに記載の遺伝子にコードされるタンパク質。
上記(a)〜(e)の遺伝子は、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質、すなわち上記(f)〜(i)に記載のタンパク質をコードしている。このため、例えば、植物においてこれらの遺伝子の発現を増大させることにより、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させることができる。なお、本発明においては、結果的に植物の耐病性、耐塩性及び生産性の全てを向上させることができればよく、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を同時に向上させるものであってもよい。
まず、上記(a)の遺伝子及び上記(f)のタンパク質について具体的に説明する。配列番号1は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のPEPR1タンパク質(AtPEPR1タンパク質、At1g73080)のアミノ酸配列を示す。PEPR1タンパク質は、1123アミノ酸からなるタンパク質であり、内生エリシターであるPep1〜8タンパク質のレセプターとして機能すると考えられている。また、配列番号2は、シロイヌナズナ由来のPEPR2タンパク質(AtPEPR2タンパク質、At1g17750)のアミノ酸配列を示す。PEPR2タンパク質は、1088アミノ酸からなるタンパク質であり、内生エリシターであるPep1、2タンパク質のレセプターとして機能すると報告されている。
後述する実施例に示すように、本発明者は、PEPR1遺伝子及び/又はPEPR2遺伝子が、(1)通常条件において植物の生育を阻害することがなく、むしろ生育を促進させる機能(生産性を向上させる機能)、(2)PEPR1タンパク質及びPEPR2タンパク質のリガンドではない他のエリシター因子に対する感受性を向上させ、耐病性を増強する機能、及び(3)耐塩性を向上させる機能を有することを見出した。
当該技術分野では、エリシター因子を投与したり過剰発現させたりすると、植物の耐病性又は耐塩性を向上させる効果はあるものの、通常条件において生育阻害が起きることが知られていた。しかしながら、驚くべきことに、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合には、野生型植物、並びにPEPR1遺伝子及びPEPR2遺伝子をノックアウトした二重変異体と比較して、生重量が増加した。また、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合には、野生型植物、並びにPEPR1遺伝子及びPEPR2遺伝子をノックアウトした二重変異体と比較して、幼植物の生育促進効果が観察された。これらの結果から、PEPR1遺伝子及びPEPR2遺伝子は、通常条件において植物の生育を阻害することがなく、むしろ生育を促進させる機能を有していることが明らかになった。なお、この植物の生育の促進には、地上部の生育促進のみならず、側根または根毛の形成促進を含む根系の生育促進等も包含される。当該機能は、植物の収穫量(植物バイオマス)を増加させることにつながる。従って、当該機能は、植物の生産性を向上させるとも言える。
なお、本明細書において「通常条件」とは、病原体若しくはエリシター、又は塩ストレス等を与えずに滅菌培地又は滅菌処理を施していない土壌等にて植物を生育させることを意図している。また、「通常条件」とは、あくまで上記病原体若しくはエリシター、又は塩ストレス等がない条件を意図しており、リン欠乏などの貧栄養条件は通常条件に含まれる。なお、本発明は、通常条件のみならず、病原体若しくはエリシター、又は塩ストレス等が存在するようなストレス条件下であっても、植物の生産性を保持及び/又は促進しながら、植物の耐病性及び耐塩性を向上させ得る。上記ストレス条件とは、例えば、植物がどれだけ成長を維持できるかが問題となる程度のストレス条件(軽度のストレス)または成長停止が起こった後での植物個体(もしくは感染器官)の生存が重要となる強度のストレス条件を含み得る。
これらの知見は、本発明者が独自に見出した新規知見である。このため、本発明に係る遺伝子にコードされるタンパク質(つまり、上記(a)〜(e)のいずれかに記載の遺伝子にコードされるタンパク質(上記(f)〜(i)に記載のタンパク質))は、植物の生育を阻害することがない、という機能(活性)を有するものであることが好ましい。
また、上述のようにPEPR1タンパク質のリガンドはPep1〜8タンパク質であり、PEPR2タンパク質のリガンドはPep1及び2タンパク質であると考えられているが、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合には、微生物由来のエリシター因子に対する感受性も高まった。この結果から、PEPR1遺伝子及びPEPR2遺伝子を高発現させることで、PEPR1タンパク質及びPEPR2タンパク質のリガンドではない他のエリシター因子に対する感受性を向上させ、耐病性を増強することができることが明らかになった。
さらに、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合には、塩ストレス下におけるクロロフィル含有量が、野生型植物、並びにPEPR1遺伝子及びPEPR2遺伝子をノックアウトした対照植物と比較して、増加した。この結果から、PEPR1遺伝子及びPEPR2遺伝子を高発現させることで、耐塩性を向上させることができることが明らかになった。
本遺伝子を利用することで、栽培に不適な環境(例えば塩濃度が高い環境又は植物が密集して栽培されているために病気が蔓延しやすい環境等)における栽培の安定化が可能となる。また、これにより、栽培地の拡大、作物収量の増加及び砂漠緑化が可能となる。
上記配列番号1又は2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質のオルソログとしては、例えば、以下のものを例示できる。
配列番号3は、イネ(Oryza sativa)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(Os08g0446200、アクセッション番号:XP_002445581)。本タンパク質は、1112アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)48%、相同性(Positives)82%であった。
配列番号4は、イネにおけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(Os08g0446400(アクセッション番号:Q6ZAB5)と、Os08g0446301と、それらの間の遺伝子領域とを含む遺伝子によってコードされるタンパク質)。本タンパク質は、1010アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)47%、相同性(Positives)81%であった。
配列番号5は、トウモロコシ(Zea mays)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_008677479.1)。本タンパク質は、1123アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)47%、相同性(Positives)82%であった。
配列番号6は、トウモロコシにおけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_008664628.1)。本タンパク質は、1174アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)47%、相同性(Positives)82%であった。
配列番号7は、ジャガイモ(Solanum tuberosum)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_006342870.1)。本タンパク質は、1104アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)50%、相同性(Positives)83%であった。
配列番号8は、ナガミノアマナズナ(Camelina sativa)におけるPEPR2タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_010476937.1)。本タンパク質は、1089アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR2タンパク質との同一性(Identities)85%、相同性(Positives)96%であった。
配列番号9は、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_009149230.1)。本タンパク質は、1112アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)76%、相同性(Positives)93%であった。
配列番号10は、ブラッシカ・ラパにおけるPEPR2タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_009149229.1)。本タンパク質は、1053アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR2タンパク質との同一性(Identities)74%、相同性(Positives)90%であった。
配列番号11は、ブラッシカ・ラパにおける配列番号9及び10の相同タンパク質のアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:CDY59496.1)。本タンパク質は、1020アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR2タンパク質との同一性(Identities)76%、相同性(Positives)94%であった。
配列番号12は、オレンジ(Citrus sinensis)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:KDO46301.1)。本タンパク質は、1109アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)64%、相同性(Positives)88%であった。
配列番号13は、モロコシ(Sorghum bicolor)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_002445581.1)。本タンパク質は、1121アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)48%、相同性(Positives)83%であった。
配列番号14は、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_002273607.2)。本タンパク質は、1120アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)52%、相同性(Positives)86%であった。
配列番号15は、ヨーロッパブドウにおけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:CBI25282.3)。本タンパク質は、1036アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)53%、相同性(Positives)87%であった。
配列番号16は、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:KEH39683.1)。本タンパク質は、1080アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)51%、相同性(Positives)84%であった。
配列番号17は、タルウマゴヤシにおけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_003591681.1)。本タンパク質は、1088アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)50%、相同性(Positives)84%であった。
配列番号18は、ナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:KDP34452.1)。本タンパク質は、1112アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)53%、相同性(Positives)86%であった。
配列番号19は、ナンヨウアブラギリにおけるPEPR2タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:KDP42984.1)。本タンパク質は、1097アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR2タンパク質との同一性(Identities)52%、相同性(Positives)86%であった。
配列番号20は、モモ(Prunus persica)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_007217286.1)。本タンパク質は、1086アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)54%、相同性(Positives)87%であった。
配列番号21は、ウメ(Prunus mume)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_008229366.1)。本タンパク質は、1086アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)54%、相同性(Positives)87%であった。
配列番号22は、エゾヘビイチゴ(Fragaria vesca subsp. vesca)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_004305817.1)。本タンパク質は、1110アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)54%、相同性(Positives)85%であった。
配列番号23は、トマト(Solanum lycopersicum)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_004235511.1)。本タンパク質は、1125アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)50%、相同性(Positives)84%であった。
配列番号24は、アブラヤシ(Elaeis guineensis)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_010929233.1)。本タンパク質は、1110アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)49%、相同性(Positives)84%であった。
配列番号25は、ダイズ(Glycine max)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_003555482. 1)。本タンパク質は、1082アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)51%、相同性(Positives)85%であった。
配列番号26は、ダイズにおけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_003546285.2)。本タンパク質は、1086アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)51%、相同性(Positives)84%であった。
配列番号27は、オオムギ(Hordeum vulgare subsp. Vulgare)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:BAK08322.1)。本タンパク質は、1114アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)45%、相同性(Positives)81%であった。
配列番号28は、ポプラ(Populus trichocarpa)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_002311912.2)。本タンパク質は、1115アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)55%、相同性(Positives)88%であった。
配列番号29は、ポプラにおけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_002310940.2)。本タンパク質は、1033アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)53%、相同性(Positives)86%であった。
配列番号30は、コトカケヤナギ(Populus euphratica)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_011033036.1)。本タンパク質は、1033アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)53%、相同性(Positives)86%であった。
配列番号31は、コトカケヤナギにおけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_011033023.1)。本タンパク質は、1115アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)55%、相同性(Positives)87%であった。
配列番号32は、カカオ(Theobroma cacao)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_007023088.1)。本タンパク質は、1110アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)56%、相同性(Positives)87%であった。
配列番号33は、ゴマ(Sesamum indicum)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_011072724.1)。本タンパク質は、1107アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)53%、相同性(Positives)84%であった。
配列番号34は、バナナ(Musa acuminata subsp. malaccensis)におけるPEPR1タンパク質のオルソログのアミノ酸配列を示す(NCBI Reference Sequence, アクセッション番号:XP_009383176.1)。本タンパク質は、1110アミノ酸からなる。GENETYX(登録商標) Ver.12にて相同性解析を行ったところ、PEPR1タンパク質との同一性(Identities)49%、相同性(Positives)82%であった。
以上のように、配列番号3〜34に示すタンパク質は、配列番号1又は2と同一性(identities)で45%以上、相同性(positives)で81%以上のものであり、PEPR1タンパク質又はPEPR2タンパク質と非常に高い相同性を示す。それゆえ、かかる配列番号3〜34に示すタンパク質も植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる機能を有するといえる。このように、広い種類の植物において、本発明に用いられる遺伝子と相同性が高いものが存在することがわかる。
上記(b)の遺伝子は、配列番号1〜34に示すアミノ酸配列を有するタンパク質に関して、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、又は他のタンパク質若しくはペプチドとの融合タンパク質であって、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質(すなわち上記(g)のタンパク質)をコードする遺伝子を意図しており、その具体的な配列については限定されない。
本明細書において「植物の耐病性を向上させる活性を有するタンパク質」とは、植物(培養細胞を含む)において発現させることで、微生物由来のエリシター因子への免疫応答を促進する機能を有するタンパク質を意図する。免疫応答の促進とは、対照植物(例えば野生型植物)に比べて、エリシター因子を投与した場合の免疫応答が増大していることを意味する。なお、免疫応答の促進は、例えば、植物へ微生物由来のエリシター因子を投与した場合の活性酸素種のバーストを測定し、対照植物と比較することによって評価することができる。
また、本明細書において「植物の耐塩性を向上させる活性を有するタンパク質」とは、植物(培養細胞を含む)において発現させることで、塩ストレスに対する植物の耐性を促進する機能を有するタンパク質を意図する。塩ストレスに対する植物の耐性の促進とは、対照植物(例えば野生型植物)に比べて、塩ストレスに対する植物の耐性が増大していることを意味する。なお、塩ストレスに対する植物の耐性の促進は、例えば、NaCl等を用いた塩ストレス下において植物を栽培した場合のクロロフィル含量を測定し、対照植物と比較することによって評価することができる。
また、本明細書において「植物の耐病性及び耐塩性を向上させる活性を有するタンパク質」とは、上述した2つの活性を併せ持つタンパク質を意図する。
さらに、本明細書において「植物の生育を阻害することなく植物の耐病性及び耐塩性を向上させる活性を有するタンパク質」とは、植物(培養細胞を含む)において発現させることで、植物の生育に対し負の影響を与えることなく、植物の耐病性及び耐塩性を向上させる機能を有するタンパク質を意図する。この場合、植物の生育が促進されていることがより好ましい。換言すれば、上述の耐病性及び耐塩性が向上しているとともに、植物のバイオマス量が、対照植物(例えば野生型植物)に比べて、同等又は増大していることを意味する。本明細書においては、当該タンパク質を、「植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質」とも称する。
本明細書において「バイオマス量」とは、植物個体の全体、一部、個別器官、あるいはその組み合わせに係る量を意図する。植物個体の全体、一部、あるいは個別器官として、例えば、全体、地上部、根、茎、葉、果実、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉及び穂等が挙げられる。また、量として、例えば、大きさ、長さ、幅、重量、面積、又は体積等が挙げられる。従って、バイオマス量の例としては、全体重、地上部重、収量、茎径、茎数、稈長、葉面積、葉数、穂数、一穂粒数、穂長、最大穂長、又は全穂重等を挙げることができる。また、バイオマス量は生重量又は乾燥重量であってもよい。「増大」とは、これらバイオマス量のいずれかが単独で、又は複数が組み合わさって増大していればよい。増大の指標としては、例えば、対照植物(野生型植物等)と比較して、植物体のバイオマス量を調べることで評価できる。
なお、本明細書において、「対照植物」には、上記(a)〜(e)のいずれかに記載の遺伝子の発現が増大していない植物及び上記(a)〜(e)のいずれかに記載の遺伝子が形質転換されていない植物も包含され得る。また、「対照植物」には、上記(a)〜(e)のいずれかに記載の遺伝子の発現が増大した植物又は上記(a)〜(e)のいずれかに記載の遺伝子が形質転換された植物において、当該遺伝子の発現を抑制又はノックアウトした植物も包含され得る。
ここで、置換、欠失、挿入及び/又は付加されてもよいアミノ酸の数としては、上記機能を失わせない限り、その個数は制限されないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異導入法により置換、欠失、挿入及び/又は付加できる程度の数をいう。通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内であり、最も好ましくは5アミノ酸以内(例えば、5,4,3,2又は1アミノ酸)である。変異を導入したタンパク質が植物に所望の形質を付与するかどうかは、そのタンパク質をコードする遺伝子を発現させ、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させているかどうかを調べることにより判断できる。また、ここでいう「変異」は、主には部位特異的突然変異誘発法等により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y及びV)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S及びT)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I及びP)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T及びY)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C及びM)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E及びQ)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K及びH)、並びに芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y及びW)を挙げることができる。さらに、例えば、変異マトリクス(mutational matrix)によってアミノ酸を分類することも周知である(Taylor 1986, J, Theor. Biol. 119, 205-218; Sambrook, J. et al., Molecular Cloning 3rd ed. A7.6-A7.9, Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)。この分類を以下に要約すると、脂肪族アミノ酸(L、I及びV)、芳香族アミノ酸(H、W、Y及びF)、荷電アミノ酸(D、E、R、K及びH)、正荷電アミノ酸(R、K及びH)、負荷電アミノ酸(D及びE)、疎水性アミノ酸(H、W、Y、F、M、L、I、V、C、A、G、T及びK)、極性アミノ酸(T、S、N、D、E、Q、R、K、H、W及びY)、小型アミノ酸(P、V、C、A、G、T、S、N及びD)、並びに微小アミノ酸(A、G及びS)及び大型(非小型)アミノ酸(Q、E、R、K、H、W、Y、F、M、L及びI)が挙げられる。なお、上記括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す。
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、挿入、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。さらに、標的アミノ酸残基は、共通した性質をできるだけ多く有するアミノ酸残基に変異させることがより好ましい。
本明細書において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、PEPR1タンパク質又はPEPR2タンパク質と同等(同一及び/又は類似)の生物学的機能及び/又は生化学的機能を有することを意図する。本明細書において、PEPR1タンパク質及びPEPR2タンパク質の生物学的機能及び/又は生化学的機能としては、例えば植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる機能を挙げることができる。生物学的な性質には発現する部位の特異性及び/又は発現量等も含まれ得る。
上記(c)の遺伝子も、配列番号1〜34に示すアミノ酸配列を有するタンパク質に関して、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、又は他のタンパク質若しくはペプチドとの融合タンパク質等であって、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質(すなわち上記(h)のタンパク質)をコードする遺伝子を意図しており、その具体的な配列については限定されない。
アミノ酸配列の相同性は、アミノ酸配列全体(若しくは機能発現に必要な領域)で、少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは、95%、96%、97%、98%、99%又は99.5%以上の配列の同一性を有する。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)又はBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993)に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength =12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。比較対象の塩基配列又はアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加又は欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。
また、本明細書において「相同性」とは、性質が類似のアミノ酸残基数の割合(homology、positive等)を意図しているが、より好ましくは、一致したアミノ酸残基数の割合(identity)である。なお、アミノ酸の性質については上述したとおりである。
上記(d)の遺伝子について、配列番号35は、配列番号1に示すアミノ酸配列のPEPR1タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列(ORF)を示す。全長3372塩基からなり、末尾のTAAが終始コドンである。また、配列番号36は、配列番号2に示すアミノ酸配列のPEPR2タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列(ORF)を示す。全長3267塩基からなり、末尾のTAGが終始コドンである。同様に、配列番号37〜64は、配列番号3〜14、17、20〜34に示すアミノ酸配列のタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列(ORF)を示す。
上記(e)遺伝子は、上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を意図している。
PEPR1遺伝子及びPEPR2遺伝子は維管束植物全般にわたって広く存在すると考えられる。つまり、本発明に係る遺伝子には、種々の植物に存在する、PEPR1遺伝子及びPEPR2遺伝子の相同遺伝子も含まれる。ここで、相同遺伝子を単離するための当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975)及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, vol. 230, 1350-1354, 1985, Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487-491,1988)が挙げられる。すなわち、当業者にとっては、PEPR1遺伝子若しくはPEPR2遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号35〜64に記載のDNA)若しくはその一部をプローブとして、またPEPR1遺伝子若しくはPEPR2遺伝子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、種々の植物からPEPR1遺伝子及びPEPR2遺伝子の相同遺伝子を単離することは通常行い得る。
ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。換言すれば、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、更に好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件ともいえる。例えば、一般的なハイブリダイゼーション用緩衝液中で、68℃、20時間の条件でハイブリダイズする条件を挙げることができる。一例を示すと、0.25M Na2HPO4,pH7.2,7%SDS,1mM EDTA,1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16〜24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mMNa2HPO4,pH7.2,1%SDS,1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。他の例としては、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mMHepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液及び温度条件は、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待し得る。ただし、上記SSC、SDS及び温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ及びハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。例えば、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、こうした遺伝子を容易に取得することができる。
また、上記(e)遺伝子は、上記(d)遺伝子(配列番号35〜64に記載の塩基配列)と相同性において少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列の同一性を有することが好ましい。なお、配列番号35〜64に記載の塩基配列との相同性は、FASTA検索又はBLAST検索により決定することができる。ポリヌクレオチドの塩基配列は、Science, 214: 1205 (1981)に記載されたジデオキシ法により決定され得る。
ゲノムDNA及びcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、植物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC又はPACなどが利用できる)を作製し、これを展開して、上記遺伝子(例えば、配列番号3又は4に記載の遺伝子)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより当該クローンを得、調製することが可能である。また、上記遺伝子に特異的なプライマーを作製し、これを利用したPCRをおこなうことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、植物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作製し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
また、上記遺伝子を得る方法としては、通常行われるポリヌクレオチド改変方法を用いてもよい。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドの特定の塩基を置換、欠失、挿入及び/又は付加することで、所望の組換えタンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドを作製することができる。ポリヌクレオチドの塩基を変換する具体的な方法としては、Kunkel法若しくはGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用の市販のキット(Mutant-K又はMutant-G(何れも商品名、TAKARA Bio社製)、KOD-Plus Site-Directed Mutagenesis Kit;東洋紡績製,Transformer Site-Directed Mutagenesis Kit; Clontech製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit; Stratagene製など)の使用が挙げられる。又はポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を利用した方法として、例えば、LA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット(商品名、TAKARA Bio社製)が挙げられる。また、変異導入方法としては、EMS(エチルメタンスルホン酸)、5−ブロモウラシル、2−アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン及びその他の発ガン性化合物に代表されるような化学的変異剤を使用する方法でも良いし、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線及びイオンビームに代表されるような放射線処理又は紫外線処理による方法でも良い。これらの方法は当業者に周知である。
また、本発明に利用する遺伝子は、上記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいが、その他の塩基配列が付加されていてもよい。付加される塩基配列としては、特に限定されないが、標識(例えば、ヒスチジンタグ、Mycタグ又はFLAGタグなど)、融合タンパク質(例えば、ストレプトアビジン、シトクロム、GST、GFP又はMBPなど)、プロモーター配列、及びシグナル配列(例えば、小胞体移行シグナル配列、及び分泌配列など)をコードする塩基配列などが挙げられる。これらの塩基配列が付加される部位は特に限定されるものではなく、例えば、翻訳されるタンパク質のN末端であっても、C末端であってもよい。
また、本発明においては、上述の(a)〜(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子にコードされるタンパク質に対するリガンドを利用することもできる。
上述のように、従来、エリシター因子を投与したり過剰発現させたりすると、生育阻害が起きることが知られていた。しかしながら、驚くべきことに、後述する実施例に示すように、PEPR1タンパク質及びPEPR2タンパク質のリガンドであるPep1タンパク質のイネホモログOsPepペプチドをイネに投与した場合、微生物由来のエリシター因子を投与した場合には見られない、幼植物の生育促進効果が観察された。従って、上述の(a)〜(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子にコードされるタンパク質に対するリガンドを投与することによっても、生育を促進することができる(すなわち、植物の生産性を向上させることができる)。なお、この植物の生育の促進には、地上部の生育促進のみならず、側根または根毛の形成促進を含む根系の生育促進等も包含される。また、同様に、当該リガンドを投与することによって、植物の耐病性及び耐塩性を向上させることができる。
上記リガンドとしては、例えば、以下のものが挙げられる。配列番号1で示されるAtPEPR1タンパク質のリガンドとしては、Pep1〜8タンパク質が挙げられる。また、配列番号2で示されるAtPEPR2タンパク質のリガンドとしては、Pep1タンパク質及びPep2タンパク質が挙げられる。配列番号3又は4で示されるタンパク質のリガンドとしてはOsPep1〜6タンパク質が挙げられる。配列番号65〜70は、それぞれOsPep1〜6タンパク質のアミノ酸配列を示している。
〔2.組換え発現ベクター〕
上記遺伝子は、当該遺伝子を含む組換え発現ベクターによって形質転換の対象となる植物に導入されていてもよい。本組換え発現ベクターとしては、形質転換体作製のために宿主細胞内で上述の遺伝子を発現させるためのベクターのほか、組換えタンパク質の生産に用いるものも含まれる。
本発明において、組換え発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、又はコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞及び導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBluescript系のベクター、pBI系のベクター、又はpUC系のベクター等を使用できる。pBluescript系のベクターとしては、例えば、pBluescript SK(+)、pBluescript SK(-)、pBluescript II KS(+)、pBluescript II KS(-)、pBluescript II SK(+)及びpBluescript II SK(-)などが挙げられる。pBI系のベクターとしては、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3及びpBI221などが挙げられる。pBluescript系のベクター及びpBI系のベクター等のバイナリーベクターは、アグロバクテリウムを介して植物に目的のDNAを導入できるという点で好ましい。また、pUC系のベクターとしては、pUC19及びpUC119等を挙げることができる。pUC系ベクターは、植物にDNAを直接導入することができるという点で好ましい。
また、上記ベクターとしては、植物細胞で転写可能なプロモーター配列と転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含む転写ターミネーター配列とを含むことが好ましい。当業者は、このようなプロモーター配列及び転写ターミネーター配列を適切に選択することができる。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター又は外的な刺激により誘導的に発現させるためのプロモーターを用いることも可能である。
恒常的に遺伝子発現を行うためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35S(CaMV35S)プロモーター(Odell et al. 1985 Nature 313:810)、イネのアクチンプロモーター(Zhang et al.1991 Plant Cell 3:1155)、トウモロコシのユビキチンプロモーター(Cornejo et al. 1993 Plant Mol.Biol. 23:567)、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、トマトのリブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニット遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター及びオレオシン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。この中でも、CaMV35Sプロモーターをより好ましく用いることができる。
また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、後述の実施例で使用したもの以外にも、例えば、糸状菌、細菌若しくはウイルスの感染若しくは侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、又は特定の化合物の散布等の外因によって発現することが知られているプロモーター等が挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌、細菌若しくはウイルスの感染若しくは侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu et al. 1996 PlantMol.Biol.30:387)及びタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター(Ohshima et al. 1990 Plant Cell 2:95)、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター(Aguan et al. 1993 Mol. Gen. Genet. 240:1)、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子及び「hsp72」遺伝子のプロモーター(Van Breusegem et al. 1994 Planta 193:57)、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター(Nundy et al. 1990 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1406)、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefertet al. 1989 EMBO J. 8:651)、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Walker et al. 1987 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:6624)、並びに塩ストレスによって誘導されるプロモーター(Shinozaki, K. and Yamaguchi-Shinozaki, K., Curr. Opin. Plant Biol. 3, 217-223 (2000) )等が挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーター及びタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
従って本発明においては、上記遺伝子に適切なプロモーターを作動可能に連結したコンストラクトを用いてもよい。当業者は、本明細書の記載と技術常識とに基づき適切なプロモーターを適宜選択することができる。
すなわち、本発明では、上記遺伝子と、上記プロモーターとを連結した発現カセットを用いてもよい(必要に応じて後述する転写ターミネーター等を連結してもよい)。かかる発現カセットは、上記遺伝子発現を増大させるコンストラクトとして、利用可能である。発現カセットの構築では、例えば、各DNAセグメントの切断部位を互いに相補的な突出末端としておき、ライゲーション酵素で反応させることで、当該DNAセグメントの順序を規定することが可能となる。なお、発現カセットにターミネーターが含まれる場合には、上流から、プロモーター、上記遺伝子、ターミネーターの順となっていればよい。
また、かかる発現カセットを適宜選択される母体となるベクターに導入すれば、本組換えベクターを取得し得る。発現ベクターを構築するための試薬類、すなわち制限酵素及びライゲーション酵素等の種類についても特に限定されるものではなく、市販のものを適宜選択して用いればよい。
転写ターミネーター配列は、転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)又はカリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。上記組換え発現ベクターにおいては、転写ターミネーター配列を適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成したり、強力なプロモーターがプラスミドのコピー数を減少させたりするような現象の発生を防止することができる。
また、上記組換え発現ベクターには、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、形質転換体選別マーカー、エンハンサー及び翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記組換え発現ベクターは、さらにT−DNA領域を有していてもよい。T−DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記組換え発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
形質転換体選別マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子の具体的な一例としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン又はクロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる(抗生物質カナマイシン又はゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子及びハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子)。また、除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等も利用可能である。これにより、上記抗生物質又は除草剤を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、形質転換された植物体を容易に選別することができる。
翻訳効率を高めるための塩基配列としては、例えばタバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーターの非翻訳領域(5’UTR)に配置させることによって、上記融合遺伝子の翻訳効率を高めることができる。
また、エンハンサーとしては、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域があげられる。このように、上記組換え発現ベクターには、その目的に応じて、さまざまなDNAセグメントを含ませることができる。
組換え発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに、上記プロモーター、上記遺伝子、及びターミネーター配列、並びに必要に応じて上記他のDNAセグメントを所定の順序となるように導入すればよい。上記遺伝子を母体となるベクターに挿入するには、常法にしたがい、精製された遺伝子のDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入する方法などが用いられる(例えば、Molecular Cloning, 5.61-5.63)。
当業者においては、所望の遺伝子を有するベクターを、一般的な遺伝子工学技術によって、適宜、作製することが可能である。通常、市販の種々のベクターを利用することにより容易に作製できる。
〔3.植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる方法〕
本方法は、植物において、上記(a)〜(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子の発現を増大させる工程を含むものであればよく、その他の工程、条件及び材料等については特に限定されるものではない。また、本発明には、上記(a)〜(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子の発現を増大させる工程を含む、耐病性、耐塩性及び生産性が向上した植物の生産方法も含まれる。
本発明において対象となる「植物」とは、維管束植物であれば特に制限されないが、被子植物であることが好ましく、単子葉植物及び双子葉植物のいずれであってもよい。また、草本類だけでなく、木本類も含まれ得る。
「単子葉植物」としては、例えば、ラン科(Orchidaceae、例:シュンラン(ホクロ)及びバニラ等)、イネ科(Poaceae、例:イネ、コムギ、オオムギ、ライ麦、トウモロコシ、キビ、アワ及びサトウキビ等)、カヤツリグサ科(Cyperaceae、例:パピルス及びオオクログワイ等)、サトイモ科(Araceae、例:タロイモ、サトイモ及びハスイモ等)、オモダカ科(Alismataceae、例:クワイ等)、ユリ科(Liliaceae、例:リーキ、シャロット、タマネギ、ラッキョウ、ネギ、ワケギ、ニンニク、アサツキ、ニラ、アスパラガス、ヤマユリオニユリ及びコオニユリ(3種ユリ根)等)、ヤマノイモ科(Dioscoreaceae、例:ダイショ、ヤマイモ(ナガイモ及びツクネイモ)及びジネンジョ等)、並びにショウガ科(Zingiberaceae、例:ミョウガ及びショウガ等)等が挙げられ、その他にも木本類として、タケ(マダケ、ハチク及びモウソウチク等)及びヤシ等を挙げることができる。
また、「双子葉植物」としては、離弁花類及び合弁花類のいずれであってもよく、例えば、キク科(Asteraceae、例:ヒマワリ、レタス、ゴボウ、シュンギク、ショクヨウギク、エンダイブ、チコリー、ゴボウアザミ(ヤマゴボウ)、アーチチョーク(チョウセンアザミ)、ツワブキ、スイゼンジナ、キクイモ、カキチシャ、タチチシャ、フキ、キクゴボウ、ショクヨウタンポポ及びサルシファイ(バラモンジン)等)、マメ科(Fabaceae、例:ダイズ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、ナタマメ、フジマメ、ベニバナインゲン、ライマビーン、インゲンマメ、ハッショウマメ、ナンテンハギ、リョクトウ及びササゲ等)、アカネ科(Rubiaceae、例:コーヒー等)、シソ科(Lamiaceae、例:シソ、セージ、チョロギ、タイム、エゴマ及びハッカ等)、トウダイグサ科(Euphorbiaceae、例:トウゴマ及びキャッサバ等)、ノボタン科(Melastomataceae)、フトモモ科(Myrtaceae、例:フトモモ等)、キョウチクトウ科(Apocynaceae)、アオイ科(Malvaceae、例:オクラ等)、ツツジ科(Ericaceae)、イワタバコ科(Gesneriaceae)、セリ科(Apiaceae、例:ニンジン、パセリ、セロリ、アシタバ、セルリー、コエンドロ、ミツバ、ウイキョウ、ハマボウフウ、セリ及びパースニップ等)、アブラナ科(Brassicaceae、例:ナタネ、ダイコン、ワサビダイコン、タイサイ(シャクシナ)、キョウナ、ヒサゴナ、アブラナ、ハクサイ、カブ、ダイシンサイ、カラシナ、タカナ、タニクタカナ、ケール、カイラン、カリフラワー、キャベツ、メキャベツ、コールラビ、ブロッコリー、ルタバガ、ハクラン、ワサビ、ハツカダイコン及びウォータークレス等)、キツネノマゴ科(Acanthaceae)、バラ科(Rosaceae、例:リンゴ、サクランボ及びイチゴ等)、ムラサキ科(Boraginaceae)、イラクサ科(Urticaceae)、キンポウゲ科(Ranunculaceae)、ナス科(Solanaceae、ジャガイモ、トマト、トウガラシ、タバコ、ピーマン及びナス等)、タデ科(Polygonaceae、例:ヤナギタデ(ホンタデ)、アイタデ及びルバーブ(食用大黄)等)、アカザ科(Chenopodiaceae、例:フダンソウ(トウヂシャ)、テーブルビート(火焔菜)、ホウキギ、オカヒジキ、ホウレンソウ及びマツナ等)、ヒユ科(Amaranthaceae、例:ヒユ等)、ザクロソウ科(Molluginaceae、例:ツルナ(ハマヂシャ)等)、スベリヒユ科(Portulacaceae、例:タチスベリヒユ(オオスベリヒユ)等)、ツルムラサキ科(Basellaceae、例:ツルムラサキ等)、スイレン科(Nymphaeaceae、例:ジュンサイ及びハス(レンコン)等)、ミカン科(Rutaceae、例:サンショウ等)、アカバナ科(Onagraceae、例:ヒシ等)、ウコギ科(Araliaceae、例:ウド及びタラノキ等)、ヒルガオ科(Convolvulaceae、例:ヨウサイ及びサツマイモ等)、ウリ科(Cucurbitaceae、例:トウガン、スイカ、シロウリ、マクワウリ、メロン、キュウリ、カボチャ(ニホンカボチャ、クリカボチャ及びペポカボチャの3種)、ユウガオ、ヘチマ、ツルレイシ(ニガウリ)及びハヤトウリ等)等が挙げられ、その他にも木本類として、クスノキ、シイ、サクラ、ツツジ及びスイカズラ等を挙げることができる。
「遺伝子の発現を増大させる」とは、対象とする植物内において、上記遺伝子がコードするタンパク質の発現量(産生量)が増大すればよく、外部から遺伝子を形質導入する場合以外にも、内因性遺伝子の発現量を増加させる場合を含む。その増大の程度としても、特に制限はなく、結果として、上記遺伝子の発現の増大を受けた植物において、対照植物(例えば、遺伝子の非導入体又は野生型植物等)と比べて、耐病性、耐塩性及び生産性が向上した表現型を示すようになればよい。耐病性、耐塩性及び生産性が向上したか否かについては後述の実施例に示すように、遺伝子の発現を増大させた場合の(1)微生物由来のエリシターを投与した際の活性酸素種のバースト、及び(2)塩ストレス下におけるクロロフィル含量を調べることで簡易に評価できる。また、上記植物は、生育が阻害されていない表現型を示すことが好ましい。生育が阻害されているか否かについては後述の実施例に示すように、遺伝子の発現を増大させた場合の生重量又はその他のバイオマス量(植物の稈長、最大穂長又は全穂重等)を調べることで簡易に評価できる。
例えば、内因性遺伝子の発現量を増加させる方法として、変異導入法を利用することができる。例えば、EMS(エチルメタンスルホン酸)、5−ブロモウラシル、2−アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン及びその他の発ガン性化合物に代表されるような化学的変異剤を使用する方法でも良いし、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線及びイオンビームに代表されるような放射線処理又は紫外線処理により、対象となる植物の遺伝子に変異を導入し、結果として当該植物において、上記遺伝子の発現が増大した株を選別すればよい。これらの方法は当業者に公知である。
外部から遺伝子を形質導入する場合であれば、従来公知の遺伝子工学的方法を利用できる。具体的には、上述した組換え発現ベクターを用いたり、以下に説明する各種手法を利用したりできる。
上記遺伝子を発現させる方法としては、上記遺伝子を適当なベクターに組み込み、例えば、ポリエチレングリコール法、アグロバクテリウム法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(エレクトロポレーション)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. JohnWiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法及びパーティクルガン法等の当業者に公知の方法により生体内に導入する方法が挙げられる。
また、植物体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。また、植物体内へ上記遺伝子を導入する場合、遺伝子は、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法又はポリエチレングリコール法等を用いて、植物細胞に直接導入することもできるが、植物への遺伝子導入用プラスミドに組込み、これをベクターとして、植物感染能のあるウイルスあるいは細菌を介して、間接的に植物細胞に導入することもできる。かかるウイルスとしては、例えば代表的なウイルスとして、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルス及びジェミニウイルス等が挙げられ、細菌としては、アグロバクテリウム等が挙げられる。アグロバクテリウム法により、植物への遺伝子導入を行う場合には、市販のプラスミドを用いることができる。このようなベクターを用いて、植物体内へ上記遺伝子を導入する場合の方法としては、好ましくは、アグロバクテリウムを介して遺伝子を導入するリーフディスク法(Jorgensen, R.A. et al., (1996). Chalcone synthase cosuppression phenotypes in petunia flowers: comparison of sense vs. antisense constructs and single-copy vs. complex T-DNA sequences. Plant Mol. Biol. 31, 957-973.)が挙げられる。
本方法では、上記遺伝子又は組換え発現ベクターを導入して形質転換植物細胞を作製する工程、を含むものであることが好ましい。なお、本発明において、形質転換の対象とする植物材料としては、例えば、根、茎、葉、種子、完熟胚、未熟胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉等の植物組織及びその切片、細胞、カルス、並びにそれを酵素処理して細胞壁を除いたプロトプラスト等の植物細胞が挙げられる。
さらに、上記方法は、上記植物細胞から植物体を再生させる工程、を含むものであることが好ましい。上述のように形質転換した植物細胞は、当業者に公知の組織培養法により器官又は植物個体に再生することができる。例えば、カルス状の形質転換細胞をホルモンの種類及び/又は濃度を変えた培地へ移して培養し、不定胚を形成させ、完全な植物体を得る方法などが挙げられる。具体的に例示すると、まず、形質転換の対象とする植物材料として植物組織又はプロトプラストを用いた場合、これらを無機要素、ビタミン、炭素源、エネルギー源としての糖類、及び、植物生長調節物質(オーキシン及びサイトカイニン等の植物ホルモン)等を加えて滅菌したカルス形成用培地中で培養し、不定形に増殖する脱分化したカルスを形成させる(以下「カルス誘導」という)。このように形成されたカルスをオーキシン等の植物生長調節物質を含む新しい培地に移しかえて更に増殖(継代培養)させる。カルス誘導は寒天等の固型培地で行い、継代培養は例えば液体培養で行うと、それぞれの培養を効率良くかつ大量に行うことができる。次に、上記の継代培養により増殖したカルスを適当な条件下で培養することにより器官の再分化を誘導し(以下、「再分化誘導」という)、最終的に完全な植物体を再生させる。再分化誘導は、培地におけるオーキシン及びサイトカイニン等の植物生長調節物質、炭素源等の各種成分の種類及び/又は量、光、並びに温度等を適切に設定することにより行うことができる。かかる再分化誘導により、不定胚、不定根、不定芽又は不定茎葉等が形成され、更に完全な植物体へと育成させる。あるいは、完全な植物体になる前の状態(例えばカプセル化された人工種子、乾燥胚、凍結乾燥細胞及び組織等)で貯蔵等を行ってもよい。
他にも、形質転換の対象とする植物材料として植物組織、例えばリーフディスクを用いた場合、アグロバクテリウム感染後、これらを無機塩類、ビタミン類、炭素源(エネルギー源としての糖類など)、植物生長調節物質(オーキシン及びサイトカイニン等の植物ホルモン)及びカナマイシン等の選抜薬剤等を加えて滅菌した再分化固型培地上で適当な光及び温度条件の下、培養することによって茎葉を形成させることができる。次に、上記固型培地より植物生長調節物質を除いた培地(発根培地)上で茎葉を培養することにより不定根を誘導し、完全な植物体へと再生することができる。使用する培地としては、例えば、LS培地及びMS培地などの一般的なものが挙げられる。
また、本発明の耐病性、耐塩性及び生産性が向上した植物体は、育種法によっても作出することが可能である。上記育種法としては、例えば、本発明に係る遺伝子を有する品種と交雑させることを特徴とする一般的な育種法(交雑育種法等)を挙げることができる。該方法によって、耐病性、耐塩性及び生産性が向上した植物体を作出することができる。育種法によって本発明の植物体を作製する際には、公知の種々の文献を参照して適宜実施することができる(細胞工学別冊・植物細胞工学シリーズ15「モデル植物の実験プロトコール」秀潤社、2001年)。
上記育種方法の好ましい態様としては、耐病性、耐塩性及び生産性が向上した植物と任意の機能を有する植物とが交配された品種を作製する工程、並びに上記工程で作製された植物において耐病性、耐塩性及び生産性が向上しているかを検出する工程、を含む方法が挙げられる。また、他の態様としては、上記遺伝子を有する植物と交雑させる工程及び当該遺伝子を有する植物改変体を選抜する工程、を含む方法が挙げられる。
さらに、他の態様としては、(ア)植物Aと上記遺伝子を有する他の植物Bとを交雑させ、F1を作出する工程、(イ)上記F1と上記植物Aとを交雑させる工程、(ウ)上記遺伝子を有する植物を選抜する工程及び(エ)工程(ウ)によって選抜された植物と、上記植物Aとを交雑させる工程、を含む方法を挙げることができる。
上記方法においては、上記遺伝子を有する植物Bと、耐病性、耐塩性及び生産性を向上させたい植物(これら植物を「植物A」と記載する。)とを交雑し、植物Bのもつ上記遺伝子が受け継がれ、かつ植物Aに近い個体を選抜し、これに植物Aによる交雑を重ねていく「戻し交雑」を行って、植物Bが有する上記遺伝子の形質を意図的に導入する。その際、常法にしたがい、一般的にゲノム育種に利用されるDNAマーカーを利用して上記遺伝子を有する植物を選抜することにより、上記「戻し交雑」による置換を効率的に行うことが可能である。その結果、育種期間の短縮に繋がり、また、余分なゲノム領域の混入を正確に除くことができる。通常、「戻し交雑」では、上記遺伝子と非常に強く連鎖する他の遺伝子に依存する形質がどうしても排除できないという現象が問題となることがある。この場合は、上記遺伝子の近傍に存在するDNAマーカーを利用することにより、所望の植物の正確な選抜が可能となる。
また、上記方法においては、必要に応じて、上記遺伝子以外のゲノム全域が目的の遺伝形質でホモ固定するまで、繰り返して行うことができる。つまり、上記工程(エ)によって交雑された個体について、一般的なDNAマーカーを利用して、上記遺伝子を有し、かつ、ゲノム構造が植物Aに近い植物個体を選抜することができる。さらに、この選抜された植物個体は、必要に応じて、「戻し交雑」(植物Aと交雑)させることができる。
特にDNAマーカーを利用したゲノム育種方法では、置換率の高い個体を選抜して次の交雑に進むことができるため、世代を進めるほどに選抜効率が良くなる。また、本方法では、少ない個体数を扱えば済むので、省スペースでの育種が可能になる。さらに、温室又は人工気象室を利用して1年に複数回もの交雑が可能になる。
また、上記工程(ウ)において、DNAマーカーを用いて選抜するとは、当該DNAマーカーを特徴付ける塩基配列(例えば、多型等)についての塩基種の情報を基に、選抜を行うことを意図する。例えば、上記遺伝子の近傍に多型変異が存在する場合、当該多型変異と同一の多型変異を有する個体を選抜すること等をいう。それゆえ、上記育種方法は、好ましくは、DNAマーカーを利用した「ゲノム育種」方法ともいえる。該「ゲノム育種」は「マーカー育種」とも換言できる。上記育種方法において利用可能なDNAマーカーは、特に制限されず、一般的に知られている種々のDNAマーカーを好適に用いることができる。例えば、RFLP(制限酵素断片長多型)マーカー、SSR(単純反復配列)マーカー及びSNP(一塩基多型)マーカー等を挙げることができる。
なお、上記遺伝子の発現を増大させることにより、耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる方法は、シロイヌナズナ等の双子葉植物のみならず、広く維管束植物一般、特に単子葉植物に対しても適用できる。本発明において効果が確認されたシロイヌナズナ由来の遺伝子と類似する遺伝子(配列相同性が高い遺伝子)は、上述のようにシロイヌナズナ以外の双子葉植物はもちろんのこと、単子葉植物において広く存在する。特に着目に値するのが、シロイヌナズナとは分類学的に遠縁の植物であるイネにおいても存在することである。つまり、上述した遺伝子の相同遺伝子は、双子葉植物のみならず単子葉植物を含む維管束植物一般に広く存在する。このように、遺伝子が双子葉植物から単子葉植物まで広く保存されていることから、上記遺伝子によって耐病性、耐塩性及び生産性が向上するメカニズムは、双子葉植物と単子葉植物との間において共通する可能性が極めて高い。
以上の点を考慮した上で本明細書を読めば、当業者にとっては、双子葉植物以外の植物においても、上述した遺伝子を種々の植物に導入し発現を増大させることにより、当該植物において耐病性、耐塩性及び生産性を向上させることができる。例えば、単子葉植物において本発明を利用する場合、後述する実施例において用いている植物材料(双子葉植物)を、単子葉植物に置き換えるのみで本発明を実施可能である。なお、その際、出願当時の技術水準及び技術常識を考慮し、実験手順及び材料等を適宜変更することは当業者にとって周知である。
また、本発明には、(a)〜(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子にコードされるタンパク質に対するリガンドを植物に投与する工程を含む、植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる方法も含まれる。当該リガンドを投与する方法は、特に限定されず、例えば、リガンドを添加した培地にて植物を生育させる方法等が挙げられる。
〔4.耐病性、耐塩性及び生産性が向上した植物〕
本発明には、上記遺伝子又は組換え発現ベクターを導入してなる形質転換植物が含まれる。上記遺伝子は、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、形質転換の対象となる宿主細胞へ導入される。すなわち本発明には、上記遺伝子又は組換え発現ベクターを保持する宿主細胞(形質転換体)も含まれる。
上記宿主細胞としては、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト及び植物体中の細胞が含まれる。また、本発明に係る形質転換植物としては、植物細胞のみならず、植物体全体、植物器官(例えば、根、茎、葉、花弁、種子及び果実等)、植物組織(例えば、表皮、篩部、柔組織、木部及び維管束等)、これらの切片、カルス、苗条原基、多芽体、毛状根及び培養根等のいずれをも包含する。
本生産方法の対象となる植物等については、上記〔3.植物の耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる方法〕の説明を適宜援用する。なお、上述の形質転換方法は、宿主となる植物等の種類(例えば単子葉植物及び双子葉植物)に応じて適宜選択することが好ましい。
また、本発明には、上記遺伝子又はベクターを直接導入した宿主細胞のみならず、植物細胞を生育させた植物体、当該植物の、後代、子孫又はクローンである植物、並びに繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス及びプロトプラスト等)が含まれる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法、及びアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法などを挙げることができるが、特に制限されるものではない。上記技術については既に確立し、本発明の技術分野において広く用いられており、本発明において上記方法を好適に用いることができる。
形質転換された植物細胞を再分化させて植物体を再生させる方法は、植物細胞の種類により異なるが、例えばイネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法及びGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))の方法が挙げられる。上記手法により再生され、かつ栽培した形質転換植物体中の導入された外来遺伝子の存在は、公知のPCR法若しくはサザンハイブリダイゼーション法によって、又は植物体中のDNAの塩基配列を解析することによって確認することができる。この場合、形質転換植物体からのDNAの抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)にしたがって実施することができる。
例えば、再生させた植物体中に存在する上記遺伝子を、PCR法を用いて解析する場合には、上記のように再生植物体から抽出したDNAを鋳型として増幅反応を行う。また、上記遺伝子、あるいは改変された遺伝子の塩基配列に従って適当に選択された塩基配列をもつ合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、これらを混合させた反応液中において増幅反応を行うこともできる。増幅反応においては、DNAの変性、アニーリング及び伸張反応を数十回繰り返すと、上記遺伝子の塩基配列を含むDNA断片の増幅生成物を得ることができる。増幅生成物を含む反応液を例えばアガロース電気泳動にかけると、増幅された各種のDNA断片が分画されて、そのDNA断片が上記遺伝子に対応することを確認することが可能である。
一旦、ゲノム内に上記遺伝子が導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体又はその子孫若しくはクローンから繁殖材料を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、上記遺伝子又は組換え発現ベクターが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫及びクローン、並びに該植物体、その子孫、及びクローンの繁殖材料が含まれる。つまり、本発明には、形質転換処理を施した再分化当代である「T0世代」及びT0世代の植物の自殖種子である「T1世代」などの後代植物、並びにそれらを片親にして交配した雑種植物及びその後代植物を含む。
このようにして作出された植物体は通常の植物に比べて、生育が阻害されることなく耐病性及び耐塩性が向上しているため、有用性が高い。
さらに、本発明には、形質転換植物のみならず、上記遺伝子の発現が増大している、耐病性、耐塩性及び生産性が向上した植物も含まれる。増大の比較対象として、例えば、野生型植物を挙げることができる。かかる遺伝子の発現が増大している植物は、形質転換、突然変異及び従来育種などの製造方法を問わず、当該形質を有していればよい。
〔5.耐病性、耐塩性及び生産性が向上した植物の選抜方法〕
本選抜方法は、植物において、上述の(a)〜(e)からなる群より選択される遺伝子の有無、あるいは該遺伝子の発現が増大しているか否かを判定する工程を含む。
上記(a)〜(e)の遺伝子は耐病性、耐塩性及び生産性を向上させるタンパク質をコードしているため、植物においてこれらの遺伝子の有無、あるいは該遺伝子の発現が増大しているか否かを判定することにより、当該植物が耐病性、耐塩性及び生産性を向上させる表現型を有するか否かを簡易に判断できる。
具体的な判定方法については従来公知の方法を用いることができるが、例えば、(i)対象となる植物体からDNA試料を得て、遺伝子の有無又は遺伝子に変異が入っているか否かを調べる方法、(ii)上記遺伝子の転写産物であるmRNAの有無又は量を調べる方法及び(iii)上記遺伝子の転写産物であるタンパク質の有無又は量を調べる方法等を挙げることができる。
上記DNA、RNA又はタンパク質を調べる手法としては、従来公知の方法を利用でき、特に限定されないが、例えば、プローブを用いる手法、PCR法、RT−PCR法、抗体を用いた各種イムノアッセイ法及びマイクロアレイを利用する方法等を挙げることができる。
本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、明細書に記載した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔1.生育状態〕
AtPEPR1遺伝子又はAtPEPR2遺伝子を恒常的に高発現するシロイヌナズナを作出した。具体的な実験手法は以下の通りである。
まず、Tintor et al., Proc Natl Acad Sci USA 110: 6211-6216, 2013に記載の方法に基づき、シロイヌナズナ(Col−0アクセッション)からAtPEPR1遺伝子及びAtPEPR2遺伝子をノックアウトしたpepr1−1 pepr2−3二重変異体を作出した。
得られた二重変異体に、アグロバクテリウムを利用した形質転換法により、AtPEPR1遺伝子又はAtPEPR2遺伝子をカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの制御下で導入することにより、AtPEPR1高発現植物及びAtPEPR2高発現植物を得た。
野生型植物(シロイヌナズナ、Col−0アクセッション)、pepr1−1 pepr2−3二重変異体、AtPEPR1高発現植物及びAtPEPR2高発現植物を、土植えで4週間育て、その後、地上部の生重量を測定した。なお、用いた土壌は滅菌操作等を施したものではなく、通常条件に該当する。また、以下では、野生型植物を「Col」、pepr1−1 pepr2−3二重変異体を「pepr1 pepr2」、AtPEPR1高発現植物を「PEPR1 OX」、AtPEPR2高発現植物を「PEPR2 OX」とも記載する。
結果を図1及び2に示す。図1は、Col、pepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXを4週間育てた際の生育状況を示す図である。図1に示すように、PEPR1 OX及びPEPR2 OXは、Col及びpepr1 pepr2と比較して同等又はより大きな葉を有している。図2は、Col、pepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXを4週間育てた際の地上部の生重量を示す図である。図2において、「*」は危険率5%未満において有意差があることを示し、「n.s.」は有意差がなかったことを示す。図2に示すように、PEPR1 OX及びPEPR2 OXは、Col及びpepr1 pepr2と比較して生重量の観点からも大きく、特にPEPR2 OXは、Colと比較して有意に大きかった。この結果より、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合、通常条件において生育が阻害されることはなく、むしろ生育が促進されることが明らかになった。従って、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合、植物の生産性を向上させることができる。
〔2.エリシター因子に対する応答〕
実施例1と同様に得られたCol及びPEPR2 OXのロゼット葉を用いて、エリシター因子に対する応答を確認した。エリシター因子としては、カビ(糸状菌)の細胞壁成分であるキチンエリシター(CARBOSYNTH社(東洋サイエンス社)製)及びシロイヌナズナの内生タンパク質であるPROPEP2に由来するPep2ペプチド(ペプチド断片を人工的に合成して得られた)を用いた。また、エリシター因子に対する応答の程度は、エリシター因子の投与により誘導される活性酸素種(ROS)バーストを測定することによって評価した。
測定に際しては、ロゼット葉からコルクボーラーでくり抜いた直径5〜6mmのリーフディスクを、一晩水面に静置してから用いた。当該リーフディスク1枚を、ROS測定液(ルミノール誘導体L−012 500μM、ホースラディッシュ・パーオキシダーゼ10μg/mLを含む)100μL中に置き、そこにキチン溶液又はPep2ペプチド溶液を投与した。その後、ROSに依存したルミノール発光をマイクロプレートリーダー(TriStar LB941、バイオメディカルサイエンス社)によって測定した。
結果を図3及び4に示す。図3は、キチンエリシターに対するCol及びPEPR2 OXにおける活性酸素種の産生に基づくルミノール発光を示す図である。また、図4は、Pep2ペプチドに対するCol及びPEPR2 OXにおける活性酸素種の産生に基づくルミノール発光を示す図である。図3及び4に示すように、PEPR2 OXは、キチンエリシター及びPep2ペプチドのいずれに対する応答性も高まっていることが確認できた。この結果より、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合、PEPR1タンパク質及びPEPR2タンパク質のリガンドとして知られている内生エリシター因子に対する応答性だけではなく、微生物由来のエリシター因子に対する応答性が高まり、耐病性が向上することが示唆される。
〔3.耐塩性〕
上記〔1.生育状態〕と同様に得られたCol、pepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXを用いて耐塩性を評価した。図5は本実施例における耐塩性評価の実験方法の概略を示す図である。まず、各植物を、30mMスクロースを含む1/2×MS(Murashige and Skoog)寒天培地1に配置したナイロンメッシュ上で発芽後7日間育てた。次に、ナイロンメッシュごと上記の組成に100mM NaClを加えたフレッシュな寒天培地2に移してさらに7日間置いて低度の塩ストレスに馴化させた。その後、上記の組成に750mMソルビトールを含む寒天培地3に移して7日間放置した。また、これらの植物体からクロロフィルを抽出して生重量あたりの含量を測定した。
図6及び7に結果を示す。図6は、Col、pepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXを上記の塩ストレス下で育てた際の生育状況を示す図である。また、図7は、Col、pepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXを上記の塩ストレス下で育てた際のクロロフィル含量を示す図である。図7において、「**」は危険率1%未満において有意差があることを示す。図6及び7に示すように、Col及びpepr1 pepr2に比べ、PEPR1 OX及びPEPR2 OXでは、クロロフィル含量が高かった。この結果より、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合、塩ストレス耐性が増強されることが明らかになった。
〔4.PEPR高発現による成長促進効果〕
上記〔1.生育状態〕と同様にpepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXを作出し、リン充分条件又は欠乏条件における植物の成育を評価した。
25mMスクロースを含む1/2×MS培地(0.8%Agar、pH5.7)で7日間生育させた植物を、25mMスクロースを含む+P培地(625μM KH2PO4を含む)又は低P培地(5μM KH2PO4を含む)に移し、明期12時間、暗期12時間、22℃で9日間生育させた。あるいは、上記植物を、スクロースを含まない+P培地(625μM KH2PO4を含む)又は低P培地(5μM KH2PO4を含む)に移し、明期12時間、暗期12時間、22℃で9日間生育させた。
結果を図8及び9に示す。図8はスクロースを含む培地を用いて、pepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXをリン充分条件又はリン欠乏条件にて育てた際の生育状況を示す図である。また、図9はスクロースを含まない培地を用いて、pepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXをリン充分条件又はリン欠乏条件にて育てた際の生育状況を示す図である。図8及び9において、「+P」は上記+P培地を用いたリン充分条件であることを示し、「−P」は上記低P培地を用いたリン欠乏条件であることを示す。図8及び9の(a)、(b)及び(c)は、それぞれpepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXをリン充分条件にて育てた際の生育状況を示している。また、図8及び9の(d)、(e)及び(f)は、それぞれpepr1 pepr2、PEPR1 OX及びPEPR2 OXをリン欠乏条件にて育てた際の生育状況を示している。
図8に示すように、スクロースを含む培地において、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の高発現により、リン充分条件で幼植物の生育促進効果が観察されるとともにリン欠乏条件で葉の緑色の保持が高まった。当該緑色は、クロロフィルによるものであると考えられる。また、図9に示すように、スクロースを含まない培地において、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の高発現により、リン充分条件及びリン欠乏条件ともに幼植物の生育促進効果が観察された。この結果より、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合、貧栄養条件においても生育が阻害されることはなく、むしろ生育が促進されることが明らかになった。従って、当該実施例からも、PEPR1遺伝子又はPEPR2遺伝子の発現を増大させた場合、植物の生産性を向上させることができることがわかる。
〔5.イネにおけるOsPepペプチド処理による生育の促進〕
イネ(日本晴)の種子を1日吸水させた後に、水面に浮く網上に播種して0.5μMのOsPep1ペプチド、OsPep2ペプチド、OsPep3ペプチド、OsPep4ペプチド、OsPep5ペプチド又はOsPep6ペプチドを添加した液体培地で吸水開始5日後まで栽培して観察した。
結果を図10に示す。図10は、イネをOsPep1ペプチド、OsPep2ペプチド、OsPep3ペプチド、OsPep4ペプチド、OsPep5ペプチド又はOsPep6ペプチドにて処理した結果及び無処理区(コントロール)の結果を示す図である。図10の(a)〜(g)はそれぞれ、無処理区、又はイネをOsPep1ペプチド、OsPep2ペプチド、OsPep3ペプチド、OsPep4ペプチド、OsPep5ペプチド若しくはOsPep6ペプチドにて処理した結果を示している。また、図10の(a)〜(g)はイネ幼植物の全体を示している。図10に示すように、OsPep1ペプチド、OsPep2ペプチド、OsPep3ペプチド、OsPep4ペプチド、OsPep5ペプチド又はOsPep6ペプチドを添加した場合、無処理区と比べてイネ幼植物の生育促進効果が観察された。従って、本発明に係る方法によれば、シロイヌナズナのみならず、他の植物種においても、生育を促進することができる(すなわち、植物の生産性を向上させることができる)ことが明らかになった。