JP6540936B2 - 赤かび病抵抗性植物、その作製方法及びその利用 - Google Patents

赤かび病抵抗性植物、その作製方法及びその利用 Download PDF

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Description

本発明は、赤かび病抵抗性植物、その作製方法及びその利用に関するものである。
糸状菌であるフザリウム(Fusarium graminearum、Fusarium asiaticum等)を原因菌とする麦類赤かび病は、コムギ、オオムギ、エン麦、トウモロコシ等の多くのイネ科主要穀物に感染する病害であり、最重要病害のひとつとして知られる。赤かび病菌は、ありふれた腐生菌で、世界中の麦作地帯に分布しており、特に開花期から登熟期に雨の多い地域で被害が大きい。この赤かび病菌が穂に感染することによって、粒の肥大の阻害や穂全体の枯れが引き起こされ、穀粒の商品価値が損なわれるのみならず、赤かび病菌が産生するトリコテセン系カビ毒が、食品の安全性の観点から問題とされている。
トリコテセン系カビ毒は、pHの変化や熱に対して安定であるため無毒化することが困難であり、人畜が摂取すると吐き気、嘔吐、腹痛といった中毒症状を引き起こし、状況によっては死に至る極めて危険性の高い毒素である。トリコテセン系カビ毒は、非常に多様な分子種が存在し、その構造から大きく4つのグループに分けられる。赤かび病菌の中には数多くのstrainがあり、それぞれが産生するトリコテセン系カビ毒の分子種が決まっている。これらのうち、汚染の報告例が多いのはタイプAとタイプBの2つである。
タイプAには、非常に毒性の強いT2トキシン等が含まれるが、汚染範囲が限られている。一方、タイプBのトリコテセン系カビ毒には、デオキシニバレノール(Deoxynivalenol;DON)やニバレノール(Nivalenol;NIV)等が含まれる。タイプBの毒性はタイプAほど強くないが、汚染範囲が広範であるため、被害はより深刻である。例えば、我が国においては、2002年5月、厚生労働省により小麦粒中に含まれるDONの濃度を1.1ppm以下とする暫定基準値が設けられている。
このように、一定基準を超えてトリコテセン系カビ毒を含有する赤かび病罹病穀物は醸造、加工、飼料等いかなる形態でも利用することができず廃棄される。その一方で、食の安全性に対する意識が高まっているため、赤かび病発生を抑える農薬は極力使用しない栽培が求められている。
このような環境のなか、赤かび病の抵抗性品種の開発が世界規模で解決すべき緊急の課題となっており、これまでに、本発明者らは、赤かび病菌、特にDON又はNIV等のタイプBのトリコテセン系カビ毒を産出する赤かび病原菌に対する感受性又は抵抗性に関与する遺伝子を複数見出し、上記遺伝子の発現を抑制する又は増大させる工程を含むことで赤かび病抵抗性植物を作製する方法を開発している(例えば、特許文献1)。
特開2011−172562号公報
上述した技術は優れたものではあるが、これだけでは十全とはいえず、さらなる赤かび病への抵抗性を示す植物等の開発が強く要望されていた。
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、赤かび病抵抗性植物、その作製方法及びその利用に係る技術を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ニコチンアミドモノヌクレオチド(以下、「NMN」と称する場合もある。)が赤かび病に対する抵抗性を誘導すること、またNMN生合成経路の重要酵素であるNMNアデニルトランスフェラーゼが赤かび病の抵抗性を誘導すること等の新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)植物において、以下の(a)〜(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子の発現を増大させる工程を含む、赤かび病抵抗性植物の作製方法:
(a)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(b)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(c)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(d)配列番号6〜10のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(e)上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
(2)上記(1)に記載の作製方法により得られた赤かび病抵抗性植物。
(3)被検植物において、上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の有無、又は該遺伝子の発現量を検出する工程を含む赤かび病抵抗性植物の選抜方法:
(4)被検植物において、ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチド、及びニコチンアミドアデニルジヌクレオチドリン酸から選択される、少なくとも1つの化合物の量を測定する工程を含む赤かび病抵抗性植物の選抜方法。
(5)以下に示す(i)〜(v)から選択される物質のうち、少なくとも1つの物質を含む、上記(3)又は(4)に記載の赤かび病抵抗性植物の選抜方法を実施するためのキット:
(i)上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子、
(ii)(i)の部分断片、
(iii)(i)又は(ii)を固定化した検出器具、
(iv)(i)の遺伝子を増幅するためのプライマーセット、
(v)ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチド、及びニコチンアミドアデニルジヌクレオチドリン酸から選択される、少なくとも1つの化合物の量を測定するための試薬類。
(6)ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチドリン酸、及びこれらの農園芸上許容される塩から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含む植物病害防除剤。
(7)ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチドリン酸、及びこれらの農園芸上許容される塩から選択される少なくとも1種の化合物の有効量を、植物又は植物を栽培する土壌に処理する工程を含む植物病害防除方法。
本発明によれば、赤かび病に対する抵抗性植物を得ることができる。また、本発明によれば、赤かび病に対する防除剤を提供し得る。
オオムギの赤かび病罹病性系統と低カビ毒蓄積系統とにおけるNMNの蓄積を検討した結果を示す図である。 赤かび病菌に対するNMNの抗菌活性を検討した結果を示す図である。 NMNによる赤かび病菌のカビ毒産生の抑制を検討した結果を示す図である。 シロイヌナズナに対して、NMN及び関連代謝物を散布した場合の赤かび病菌に対する防除効果を検討した結果を示す図である。 野生株及び形質転換植物のそれぞれにおいて、NMNAT遺伝子のmRNA量を確認した結果を示す図である。 野生株及びNMNATを過剰発現する形質転換植物について、病徴及び菌体量を比較した結果を示す図である。 NMN噴霧のオオムギへの赤かび病防除効果の確認した結果を示す図である。
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、遺伝子は、DNAの形態(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)、又はRNA(例えば、mRNA)の形態にて存在し得る。DNA又はRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。また、遺伝子は化学的に合成してもよく、コードするタンパク質の発現が向上するように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更してもよい。同じアミノ酸をコードするコドン同士であれば置換することも可能である。また、用語「タンパク質」は、「ペプチド」又は「ポリペプチド」と交換可能に使用される。本明細書において使用される場合、塩基及びアミノ酸の表記は、適宜IUPAC及びIUBの定める1文字表記又は3文字表記を使用する。
<1.赤かび病抵抗性植物の作製方法>
本発明に係る赤かび病抵抗性植物の作製方法は、植物において、以下の(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現を増大させる工程を含むものであればよく、その他の工程、条件、材料等については特に限定されない。
(a)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(b)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(c)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(d)配列番号6〜10のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(e)上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
上記(a)〜(e)の遺伝子は、赤かび病への抵抗性を誘導する機能を有するタンパク質をコードしているため、植物においてこれらの遺伝子を発現させることにより、植物の赤かび病への抵抗性を付与又は高めることができる。
上記(a)の遺伝子について具体的に説明する。配列番号1は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のニコチンアミドモノヌクレオチドアデニルトランスフェラーゼ(NMNAT;NMN adenyltransferase)と称される、全長264タンパク質のアミノ酸配列である。このタンパク質は、NMNに対してアデニル基を付加し、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチド(NAD)へ変換する活性(以下、「NMNAT活性」と称する場合もある。)を有する酵素である。本発明において、NMNAT活性を有する酵素は、かかる反応を可逆的に触媒するものも含む。なお、NMNは、β−ニコチンアミドモノヌクレオチドを意図する。
配列番号2は、オオムギ(Hordeum vulgare subsp.)におけるNMNATのアミノ酸配列を示す。本タンパク質は、251アミノ酸からなるタンパク質であって、同様にNMNAT活性を有する。配列番号3は、イネ(Oryza sativa Japonica Group)におけるNMNATのアミノ酸配列を示す。本タンパク質は、315アミノ酸からなるタンパク質であって、同様にNMNAT活性を有する。配列番号4は、トウモロコシ(Zea mays)におけるNMNATのアミノ酸配列を示す。本タンパク質は、249アミノ酸からなるタンパク質であって、同様にNMNAT活性を有する。配列番号5は、コムギ(Triticum aestivum)におけるNMNATのアミノ酸配列を示す。本タンパク質は、174アミノ酸からなるタンパク質であって、同様にNMNAT活性を有する。
上記(b)の遺伝子は、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、又は他のタンパク質・ペプチドとの融合タンパク質等であって、NMNAT活性を有するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。ここで欠失、置換又は付加されてもよいアミノ酸の数は、上記機能を失わせない限り、限定されてないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の導入法によって欠失、置換又は付加できる程度の数をいい、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内であり、より好ましくは7アミノ酸以内、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、5、4、3、2又は1アミノ酸)である。また、明細書中において「変異」とは、部位特異的突然変異誘発法等によって人為的に導入された変位を主に意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。
変異するアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されていることが好ましい。例えば、アミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)が挙げられる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。さらに、標的アミノ酸残基は、共通した性質をできるだけ多く有するアミノ酸残基に変異させることがより好ましい。
本明細書において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、NMNATと同等(同一及び/又は類似)の生物学的機能や生化学的機能を有することを意図する。本明細書において、NMNATの生物学的機能や生化学的機能としては、例えばNMNに対してアデニル基を付加してNADへ変換する機能、及び/又はこの可逆的反応を触媒する機能を挙げることができる。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれ得る。
変異を導入したタンパク質が植物に所望の形質を付与するかどうかは、そのタンパク質をコードする遺伝子を植物に導入発現させ、その植物が赤かび病に対する抵抗性を示すかどうか調べることにより判断できる。
上記(c)の遺伝子も、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、又は他のタンパク質・ペプチドとの融合タンパク質等を意図しており、赤かび病に対する抵抗性に関与するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。
アミノ酸配列の相同性とは、アミノ酸配列全体(又は機能発現に必要な領域)で、少なくとも80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有することを意味する。アミノ酸配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990) を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993) に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore =100、wordlength =12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore =50、wordlength =3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。比較対象の塩基配列又はアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加又は欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。
上記(d)の遺伝子について、配列番号6は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列(Open Reading Frame:ORF)を示す。同様に、配列番号7は、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列(ORF)を示す。同様に、配列番号8〜10のポリヌクレオチドは、それぞれ配列番号3〜5に示すアミノ酸配列のタンパク質をコードする遺伝子である。
上記(e)遺伝子は、上記(a)〜(d)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子を意図する。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。換言すれば、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、更に好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件ともいえる。例えば、一例を示すと、0.25M Na2HPO4、pH7.2、7%SDS、1mM EDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16〜24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mM Na2HPO4、pH7.2、1%SDS、1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。他の例としては、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液及び温度条件は、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。ただし、上記SSC、SDS及び温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間等)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。このことは、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)等に記載されている。
上記遺伝子・タンパク質を得る方法としては、通常行われるポリヌクレオチド改変方法を用いてもよい。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドの特定の塩基を置換、欠失、挿入及び/又は付加することで、所望の組換えタンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドを作製することができる。ポリヌクレオチドの塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(KOD-Plus Site-Directed Mutagenesis Kit;東洋紡製,Transformer Site-Directed Mutagenesis Kit; Clontech製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit; Stratagene製など)の使用、又はポリメラーゼ連鎖反応法(polymerase chain reaction:PCR)の利用が挙げられる。これらの方法は当業者に公知である。
また、上記遺伝子は、上記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいが、その他の塩基配列が付加されていてもよい。付加される塩基配列としては、特に限定されないが、標識(例えば、ヒスチジンタグ、Mycタグ又はFLAGタグなど)、融合タンパク質(例えば、ストレプトアビジン、シトクロム、GST、GFP又はMBPなど)、プロモーター配列、及びシグナル配列(例えば、小胞体移行シグナル配列、及び分泌配列など)をコードする塩基配列などが挙げられる。これらの塩基配列が付加される部位は特に限定されるものではなく、例えば、翻訳されるタンパク質のN末端であっても、C末端でもあってもよい。
本発明の方法の対象となる植物としては、赤かび病菌に感染する植物であれば特に制限されないが、イネ科の植物が好ましく、ムギ類植物がより好ましい。より具体的には、例えばイネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ、エン麦、アワ、モロコシ、シロイヌナズナ等が挙げられ、これらの中でも、イネ、コムギ、オオムギ、エン麦及びトウモロコシがより好ましい。
本明細書中、「赤かび病」とは、フザリウム属菌等の糸状菌による植物病害を意図しており、特に限定されないが、Fusarium graminearum又はFusarium asiaticumを原因菌とする麦類赤かび病であることが好ましい。「赤かび病菌」についてもフザリウム属菌等の糸状菌であればよく、特に限定されないが、Fusarium graminearum又はFusarium asiaticumであることが好ましい。
本明細書において、「遺伝子の発現を増大させる」とは、対象とする植物内において、上記遺伝子がコードするタンパク質の産生量が増大すればよく、外部から遺伝子を形質導入する場合以外にも、内因性遺伝子の発現量を増加させる場合を含む。その増大の程度としても、特に制限はなく、結果として、対照植物(例えば、遺伝子の非導入体あるいは野生型植物等)と比べて、上記遺伝子の発現の増大を受けた植物が、赤かび病に対する抵抗性を示すようになればよい。
内因性遺伝子の発現量を増大させる場合は、例えば、公知の変異源を用いて、内因性遺伝子の発現量が増加している変異体を取得することにより、赤かび病に対する抵抗性植物を作出することができる。例えば、EMS(エチルメタンスルホン酸)、5−ブロモウラシル、2−アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、その他の発ガン性化合物に代表されるような化学的変異剤を使用する方法でもよいし、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、イオンビームに代表されるような放射線処理や紫外線処理により、対象となる植物の遺伝子に変異を導入し、結果として当該植物において、上記遺伝子の発現が増大した株を選別してもよい。これらの方法は当業者に公知である。
上記遺伝子の発現を増大させる工程は、上記(a)〜(e)からなる群より選択される遺伝子を植物に導入して形質転換植物を作製する工程、を含むものであることが好ましい。
本発明において、形質転換の対象とする植物材料としては、例えば、根、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉等の植物組織やその切片、細胞、カルス、それを酵素処理して細胞壁を除いたプロトプラスト等の植物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
外部から遺伝子を形質導入する場合、公知の方法を利用でき、具体的な方法は限定されないが、例えば組換えベクターを植物に導入し、上記遺伝子を発現させることにより、赤かび病に対する抵抗性植物を作出することができる。外部から遺伝子を形質導入する場合は、宿主植物と同類の植物あるいは近縁種の植物由来の遺伝子を用いることが好ましい。例えば、コムギであればコムギ由来かオオムギ由来の遺伝子を用いることが好ましい。
「組換えベクター」とは、上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子を含むものであればよいが、適当なプロモーター等も含み、植物内で本遺伝子を発現できるものであることが好ましい。この際、使用するプロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターを例示できるが、それ以外にもノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来のユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来のPRタンパク質プロモーターなども使用できる。
本発明の赤かび病抵抗性植物の作製方法では、例えば、上記組換えベクターを植物に導入し、上記遺伝子を発現させることにより、赤かび病抵抗性を有する植物を作製することができる。本発明の赤かび病抵抗性植物の作製方法において、組換えベクターを植物細胞に導入する方法としては、従来公知の方法を利用でき、特に限定されない。例えば、ポリエチレングリコール法、アグロバクテリウム法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(エレクトロポレーション)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法により生体内に導入する方法が挙げられる。
形質転換された植物細胞を再分化させて植物体を再生させる方法は、植物細胞の種類に応じた方法で行えばよく、公知の手法を好適に利用できる。例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))の方法が挙げられる。上記手法により再生され、かつ栽培した形質転換植物体中の導入された外来遺伝子の存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって、又は植物体中のDNAの塩基配列を解析することによって確認することができる。この場合、形質転換植物体からのDNAの抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)にしたがって実施することができる。
再生させた植物体中に存在する本発明の遺伝子を、PCR法を用いて解析する場合には、上記のように再生植物体から抽出したDNAを鋳型として増幅反応を行う。また、上記遺伝子(a)〜(e)の塩基配列に従って適当に選択された塩基配列をもつ合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、これらを混合させた反応液中において増幅反応を行うこともできる。増幅反応においては、DNAの変性、アニーリング、伸張反応を数十回繰り返すと、本発明の遺伝子の塩基配列を含むDNA断片の増幅生成物を得ることができる。増幅生成物を含む反応液を例えばアガロース電気泳動にかけると、増幅された各種のDNA断片が分画されて、そのDNA断片が本発明の遺伝子に対応することを確認することが可能である。
本発明には、育種法による赤かび病抵抗性植物の作製方法も含まれる。上記育種法としては、例えば、上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した品種と交雑させる一般的な育種法(交雑育種法等)を挙げることができる。該方法によって、赤かび病抵抗性植物を作出できる。
育種法によって赤かび病抵抗性植物を作製する際には、公知の種々の文献を参照して適宜実施することができる。(細胞工学別冊・植物細胞工学シリーズ15「モデル植物の実験プロトコール」秀潤社、2001年、加藤鎌司著「2.1 イネ・コムギの交配」p.6-9; 高牟礼逸朗、佐野芳雄著「2. 交配法」p.46-48)
上記育種方法の好ましい態様としては、以下の工程(A)及び(B)を含む方法を挙げることができる。
(A)上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した植物と交雑させる工程を含む、
(B)上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した植物改変体を選抜する工程。
より具体的には、以下のような工程を含む方法を挙げることができる。
(A1)植物Aと、上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した他の植物Bを交雑させ、F1を作出する工程
(A2)上記F1と上記植物Aを交雑させる工程
(B1)上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した植物を選抜する工程
(B2)工程(B1)によって選抜された植物と、上記植物Aを交雑させる工程
上記方法においては、上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した植物Bと、赤かび病に対する抵抗性を付与したい植物(これら植物を「植物A」と記載する。)を交雑し、植物Bの持つ上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した形質が受け継がれ、かつ植物Aに近い個体を選抜し、これに植物Aによる交雑を重ねていく「戻し交雑」を行って、植物Bが有する上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した形質を意図的に導入し得る。
上記方法においては、必要に応じて、上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した形質以外のゲノム全域が目的の遺伝形質でホモ固定するまで、繰り返して行うことができる。すなわち、上記工程(B2)によって交雑された個体について、一般的なDNAマーカーを利用して、上記遺伝子(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現量が増大した形質を有し、かつ、ゲノム構造が植物Aに近い植物個体を選抜することができる。
<2.赤かび病抵抗性植物>
本発明に係る赤かび病抵抗性植物は、上述の方法にて得られる植物であればよく、その他の構成は特に限定されない。換言すれば、上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の発現が増大している植物といえる。特に、上記(a)〜(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子が形質転換された、赤かび病抵抗性植物であることが好ましい。
本発明の赤かび病抵抗性植物には、植物体全体、植物器官(例えば根、茎、葉、花弁、種子、果実等)、植物組織(例えば表皮、篩部、柔組織、木部、維管束等)、植物細胞、カルス等のいずれをも包含し、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれ得る。
また、一旦、植物体のゲノム内に上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子が導入された形質転換植物が得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。上記植物又はその子孫、あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に上記植物を量産することもできる。また、本発明の赤かび病抵抗性植物は、形質転換処理を施した再分化当代である「T0世代」やT0世代の植物の自殖種子である「T1世代」などの後代植物や、それらを片親にして交配した雑種植物やその後代植物を含む。
本発明において、赤かび病に対する抵抗性を付与できることが実験的に確認されたのは、シロイヌナズナだけであるが、本発明は、赤かび病に感染する植物一般、特にイネ科植物、さらにはムギ類植物に広く適用できると考えられる。これは以下の理由による。
まず、赤かび病菌は、広くイネ科植物、特にムギ類植物に感染するが、シロイヌナズナにも感染する。そして、その感染形態・病徴は、ムギ類植物のコムギとシロイヌナズナとにおいてほぼ共通することが知られている(Urban et al., Plant J., 32: 961, 2002)。特に、赤かび病菌が産生するタイプBのトリコテセン系カビ毒の作用として、タンパク質合成阻害や根の伸長阻害が知られているが、これらカビ毒の作用はシロイヌナズナとコムギにおいて同様に引き起こされる(Masuda et al., J. Exp. Bot. 58:1617, 2007)。また、シロイヌナズナのAtNFXL1遺伝子は、トリコテセンにより顕著な発現誘導を受けるが(Asano et al., Plant J., 53: 450, 2008)、オオムギ及びコムギのオルソログ遺伝子は、赤かび病菌の接種によって発現誘導を受ける(Boddu et al., Mol. Plant-Microbe Interact., 20:1364,2007; Jia et al., Mol. Plant-Microbe Interact.,22: 1366, 2009)。さらに、トリコテセンは、シロイヌナズナとコムギにおいて、エリシター活性と細胞死誘導活性を有する(Nishiuchi et al., Mol. Plant-Microbe Interact. 19: 512, 2006; Desmond et al., Mol Plant Pathol.,9: 435, 2008)。
次に、本発明の実施例において機能を確認したシロイヌナズナ由来の遺伝子と類似する遺伝子は、シロイヌナズナ以外にも、イネ科植物において広く存在する。特に着目に値するのが、シロイヌナズナとは分類学的に遠縁の植物であるイネやオオムギにおいても存在することである。それゆえ、上述したシロイヌナズナ由来の遺伝子と類似する遺伝子は、赤かび病に感染する植物一般に広く存在すると考えられる。
以上の点を考慮した上で本明細書を読めば、当業者にとっては、シロイヌナズナ以外の植物における類似遺伝子も、シロイヌナズナにおける赤かび病に対する抵抗性の遺伝子と同様に、赤かび病に対する抵抗性に関与する機能を有するものと理解できる。それゆえ、上述した各種遺伝子を種々の植物に導入したり、又は植物内で発現を増大させたりすることにより、当該植物に赤かび病に対する抵抗性を付与できるといえる。なお、実施例において実証したシロイヌナズナ由来の遺伝子の類似遺伝子は、オオムギ、イネ、トウモロコシ及びコムギにおいて存在が確認されているが、今後、各植物のゲノム解析が進むにつれ、上記植物以外の植物においても、類似遺伝子が見出される可能性は高い。
<3.赤かび病抵抗性植物の選抜方法及びキット>
本発明に係る赤かび病抵抗性植物の選抜方法は、被検植物において、上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の有無、又は該遺伝子の発現量を検出する工程を含むものであればよく、その具体的な工程、条件及び材料等は特に限定されない。被検植物には、植物体のほか、被検繁殖媒体、植物細胞、植物の器官及び部位を含む。
本選抜方法は、例えば、(ア)〜(ウ)の工程を含む方法で行うことができる。
(ア)被検植物からポリヌクレオチド試料を調製する工程
(イ)上記ポリヌクレオチドと、上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせる工程
(ウ)上記ハイブリダイゼーションを検出する工程
上記工程(ア)は、被検植物から、ゲノムDNA又はmRNA等のポリヌクレオチドを抽出することにより行うことができる。ポリヌクレオチドの調製(抽出)に用いる植物の部位は特に限定されない。mRNAを抽出した場合には、逆転写することにより、mRNAからcDNAを調製してもよい。
上記工程(イ)は、上記で調製したポリヌクレオチド試料に対し、上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブ又はプライマーとして、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることにより行うことができる。ストリンジェントな条件は、既に述べたとおりである。
上記工程(イ)において、上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして用いた場合には、上記工程(ウ)は、通常のサザンブロッティング、ノーザンブロッティング、マイクロアレイ、Fluorescent In Situ Hybridization(FISH)等のハイブリダイゼーション検出方法により行うことができる。
一方、上記工程(イ)において、上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドをプライマーとして用いた場合には、上記工程(ウ)は、PCR増幅反応を行い、得られた増幅産物を電気泳動又はシークエンシング等によって解析することにより、ハイブリダイゼーションを検出することができる。
PCR増幅反応を行う場合、32P等のアイソトープ、蛍光色素、又はビオチン等によって標識したプライマーを用いることにより、増幅ポリヌクレオチド産物を標識することができる。あるいはPCR反応液に32P等のアイソトープ、蛍光色素、又はビオチン等によって標識された基質塩基を加えてPCRを行うことにより、増幅産物を標識することも可能である。さらに、PCR反応後にクレノウ酵素等を用いて、32P等のアイソトープ、蛍光色素、又はビオチン等によって標識された基質塩基を、増幅断片に付加することによっても標識を行うことができる。
また、本発明に係る赤かび病抵抗性植物の選抜方法の他の態様として、被検植物において、NMN、NAD、及びニコチンアミドアデニルジヌクレオチドリン酸(NADP)から選択される、少なくとも1つの化合物の量を測定する工程を含む方法を挙げることができる。
被検植物におけるNMN、NAD又はNADPの量は、公知のメタボローム解析の手法を用いて行うことができ、具体的な手法は限定されない。例えば、後述する実施例に記載の方法を挙げることができる。
後述する実施例に示すように、NMN、NAD及びNADPは、いずれも赤かび病抵抗性を誘導する機能を有するものである。特に、NMNは植物自体が持つ免疫機能を増強させるプラントアクチベーター様の機能を有することが示唆されている。このため、植物体中に含まれる、これらの化合物の量を指標として赤かび病抵抗性植物の選抜を行うことができる。
選抜に際して、例えば、被検植物のNMN等の量と、既知の赤かび病抵抗性植物におけるNMN等の量と比較してもよいし、あるいは既知の赤かび病抵抗性植物におけるNMN等の量を閾値として設定しておき、この閾値と比較することで簡便に選抜を行い得る。被検植物においてNMN等の量が多い場合、赤かび病抵抗性植物であると判定できる。
本発明に係る選抜方法には、これまでに栽培されていた品種における赤かび病抵抗性植物の選抜のみならず、交配や遺伝子組換え技術による新しい品種における赤かび病抵抗性の選抜も含まれる。
また、本発明には、上述した赤かび病抵抗性植物の選抜方法を実施するためのキットも含まれる。キットの構成は、上記選抜方法を実施できればよく、特に限定されないが、例えば、以下に示す(i)〜(v)から選択される物質のうち、少なくとも1つの物質を含むキットを挙げることができる。
(i)上記(a)〜(e)のいずれかの遺伝子
(ii)(i)の部分断片(プローブ)、
(iii)(i)又は(ii)を固定化した検出器具、
(iv)(i)の遺伝子を増幅するためのプライマーセット、
(v)NMN、NAD、及びNADPから選択される、少なくとも1つの化合物の量を測定するための試薬類。
上記(ii)の部分断片は、上記(i)の遺伝子とハイブリダイズするものであり、プローブとして用いるものである。プローブの設計は公知の手法により行い得る。また、上記(iv)のプライマーセットは、PCRに用いられるものであることが好ましく、公知の手法にしたがって、好適に設計可能される。例えば、上記遺伝子(a)〜(e)の塩基配列に従って適当に選択された塩基配列をもつ合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いることができる。上記(v)の試薬類は、NMN、NAD、又はNADPを測定するために使用されるものであればよく、特に限定されないが、例えば、後述する実施例に記載の方法に使用される各種試薬類を挙げることができる。
これらの構成を備えるキットを用いることにより、上記選抜方法を簡易に実施することができる。
<4.植物病害防除剤、植物病害防除方法、カビ毒低減剤及びカビ毒を低減する方法>
本発明に係る植物防除剤は、NMN、NAD、NADP及びこれらの農園芸上許容される塩から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含むものであればよく、その他の構成は特に限定されない。また、本発明には、NMN、NAD、NADP及びこれらの農園芸上許容される塩から選択される少なくとも1種の化合物の有効量を、植物又は植物を栽培する土壌に処理する工程を含む植物病害防除方法も含まれる。
後述する実施例に示すように、NMN、NAD及びNADPは、赤かび病抵抗性を誘導する化合物であり、特に、NMNは植物自体が持つ免疫機能を増強させるプラントアクチベーター様の機能を有することが示唆されている。このため、これらの化合物を有効成分として植物病害防除に利用することができる。
「植物病害防除剤」とは、植物病害に対して防除効果を示す薬剤を意味し、植物病原微生物を殺滅する薬剤のみならず、植物病原微生物の増殖を抑制する薬剤、植物病原微生物の植物への感染を防御する薬剤も含むものである。方法についても同様である。
対象となる植物病害については特に限定されないが、赤かび病を対象とすることが好ましい。
また、後述する実施例に示すように、NMN、NAD及びNADPは、赤かび病菌が産生するカビ毒を低減する作用も有することが本発明者らによって明らかにされている。このため、本発明によれば、NMN、NAD、NADP及びこれらの農園芸上許容される塩から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含む赤かび病菌が産生するカビ毒低減剤が提供される。さらに、NMN、NAD、NADP及びこれらの農園芸上許容される塩から選択される少なくとも1種の化合物の有効量を、植物又は植物を栽培する土壌に処理する工程を含む赤かび病菌が産生するカビ毒を低減する方法も本発明に包含される。
「カビ毒」とは、糸状菌が生産する二次代謝産物の中で、ヒト又は家畜に対して中毒を引き起こす有毒物質であり、本明細書中においては特に赤かび病菌が生産する有毒物質を意図している。上記カビ毒の具体的な例としては、赤かび病菌が生産するタイプBのトリコテセン系カビ毒が挙げられる。上記タイプBのトリコテセン系カビ毒の中でも、本発明が対象とするカビ毒としては、デオキシニバレノール(Deoxynivalenol;DON)又はニバレノール(Nivalenol;NIV)が好ましい。本発明が対象とするカビ毒がDON又はNIVである場合、本発明におけるカビ毒低減機能がより高い効果を示す。
本明細書中において、カビ毒を「低減」させるとは、植物内における上記カビ毒の濃度を減少させることを意図している。カビ毒の減少には、いったん生成されたカビ毒を分解等することにより減少させる場合のほか、カビ毒の生合成に関与する遺伝子群の発現抑制等により、カビ毒の生成自体を阻害する場合も含まれる。
以下、植物病害防除剤及びカビ毒低減剤をまとめて「本剤」と称し、植物病害防除方法及びカビ毒を低減する方法を「本方法」と称する。また、NMN、NAD、NADP及びこれらの農園芸上許容される塩を「NMN等」と称する。
本剤及び本方法において、NMN等を有効成分として用いる場合、NMN等をそのまま用いてもよいが、農園芸に用いられる各種剤型の常法にしたがって、適当な固体担体、液体担体、ガス状担体、界面活性剤、分散剤、及びその他の製剤用補助剤と混合して、乳剤、液剤、懸濁剤、水和剤、粉剤、粒剤、錠剤、油剤、エアゾール及びフロアブル剤等の任意の剤型にすることができる。
固体担体としては、例えば、澱粉、砂糖、セルロース粉、シクロデキストリン、活性炭、大豆粉、小麦粉、もみがら粉、木粉、魚粉、粉乳などの動植物性粉末;タルク、カオリン、ベントナイト、有機ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、重炭酸ナトリウム、ゼオライト、ケイソウ土、ホワイトカーボン、クレー、アルミナ、シリカ、硫黄粉末、消石灰などの鉱物性粉末などが挙げられる。
液体担体としては、例えば、液体担体としては、水;大豆油、綿実油などの植物油;牛脂、鯨油などの動物油;エチルアルコール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソホロンなどのケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ケロシン、灯油、流動パラフィンなどの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、シクロヘキサン、ソルベントナフサなどの芳香族炭化水素類;クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類;酢酸エチルエステル、脂肪酸のグリセリンエステルなどのエステル類;アセトニトリルなどのニトリル類;ジメチルスルホキシドなどの含硫化合物類などが挙げられる。
ガス担体としては、例えば、LPG、空気、窒素、炭酸ガス、ジメチルエーテル等が挙げられる。
界面活性剤又は分散剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル類、アルキル(アリール)スルホン酸塩類、ポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル類、多価アルコールエステル類、リグニンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
製剤用補助剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ポリエチレングリコール、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
上記の担体、界面活性剤、分散剤、及び補助剤は、必要に応じて各々単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
製剤中の有効成分の含有量は、特に限定されないが、剤型に応じて適宜設定可能であるが、例えば、0.0001〜50重量%の範囲で配合することが好ましい。本剤は、そのまま用いてもよいが、必要に応じて、水等の希釈剤で所定濃度に希釈して用いることができる。
本剤及び本方法において、他の農薬、例えば殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺土壌害虫剤、抗ウイルス剤、誘引剤、除草剤、植物生長調製剤、肥料等をさらに混用することもでき、例えば、混合して散布しても、経時的あるいは同時に散布してもよい。具体的には、例えば、ペスティサイド マニュアル(The Pesticide Manual、第13版 The British Crop Protection Council 発行)及びシブヤインデックス(SHIBUYA INDEX 第12版、2007年、SHIBUYA INDEX RESEARCH GROUP 発行)に記載のものが挙げられる。
本方法における有効成分の使用方法は、農業、園芸において一般的に適用される使用方法であれば特に限定されないが、例えば、茎葉散布、水面施用、土壌処理、育苗箱施用、種子消毒等が挙げられる。
本剤の使用量は、対象病害の種類及び発病程度、対象作物の種類及び対象部位、農業、園芸において一般的に適用される施用方法の他、航空散布、超微量散布等の施用態様に応じて決定することができ、特に限定されるものではない。対象とする作物は限定されないが、上述したように、イネ科植物であることが好ましい。
その他、上記<1>〜<4>の各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できることを付言する。また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
(1.オオムギの赤かび病罹病性系統と低カビ毒蓄積系統におけるNMNの蓄積検討)
赤かび病の罹病性系統のオオムギ及び赤かび病菌に感染するがカビ毒を低濃度しか蓄積しない系統(低カビ毒蓄積系統)のオオムギにおいて、NMNがそれぞれどの程度蓄積しているかを検討した。具体的には、罹病性系統としてT615(Turkey 45)、低カビ毒蓄積系統としてU389(Maja)及びU121(Sirius O.525)を用いた。T615はカビ毒(NIV)を1.2ppm蓄積し、U389はカビ毒(NIV)を0.6ppm蓄積する。
圃場で生育した各オオムギ系統に対して、切り穂接種(Hori et al., Breeding Science, 2006. 56: 25-30)を用いて、0.1% Tween 20を含む赤かび病菌(F. asiaticum OUZ78菌株)の胞子液(1 X105 conidia/mL)を接種し、2日後のβ−NMNの蓄積量を調べた。NMNの蓄積量の解析は、澤田らの方法にしたがって行った(Sawada et al., Plant Cell Physiol. 2009. 50: 37-47)。
結果を図1に示す。同図に示すように、罹病性系統のオオムギに比べて、低カビ毒系統のオオムギにおいて、NMNが多く蓄積していることがわかった。
胞子液(1×105 conidia/mL)
(2.赤かび病菌に対するNMNの抗菌活性の検討)
NMNの赤かび病菌に対する抗菌活性を検討した。具体的には、赤かび病菌(F. graminearum)に対して、各試験化合物を投与し、MTTアッセイにより菌の増殖をモニターして、各化合物の赤かび病菌に対する抗菌活性を測定した。ネガティブコントロールとして水を使用し、ポジティブコントロールとして赤かび病菌に対する市販薬であるメトコナゾール(クレハ社製)を使用した。また、試験化合物として、NMNのほか、ヘキシレングリコール、セロトニン塩酸塩、イソクエン酸三ナトリウム、シアニンクロリド、クロマニンクロリドを用いた。ネガティブコントロールには滅菌水を使用した。96wellプレートにF. graminearum H3株(日本における標準菌株)の胞子懸濁液(1×105 conidia/mL)を1mLのSYEP液体培地で培養を行い、上記試験化合物を0.1mg/mLの濃度で添加し、25℃、100rpm、暗所で振盪培養を行った。36時間後培養を止め、MTTアッセイ(nacalai tesque)により菌の増殖を定量化した。MTTはテトラゾリウム塩の一種で、生細胞のミトコンドリア中にある脱水素酵素によって、青色の非水溶性のホルマザンに変化するため、生細胞の測定に用いられる。
結果を図2の上側パネル(グラフ)に示す。同図に示すように、NMN及びその他の試験化合物のいずれについても、赤かび病菌に対する抗菌活性は認められなかった。
また、赤かび病菌を播種したシャーレに、水、メトコナゾール(図中、「メトコナ」と表示)、又はNMNをそれぞれ染み込ませたろ紙を配置し、赤かび病菌の増殖を観察した。具体的には、Synthetic low-Nutrient Agar (SNA)培地中央にF. graminearumの胞子を植菌し、滅菌したペーパーディスクに0.1mg/mLのNMNを浸み込ませたものを置いた。ネガティブコントロールには滅菌水、ポジティブコントロールとしてメトコナゾールを使用し、28℃、暗所、4日間培養を行った。
結果を図2の下側パネルに示す。同図に示すように、NMNは赤かび病菌の増殖を抑制できないことがわかる。
(3.NMNによる赤かび病菌のカビ毒産生の抑制の検討)
NMNが赤かび病菌のカビ毒産生を抑制するか検討した。赤かび病菌(F. graminearum)のH3株において、酵素TRI5をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、当該TRI5のコード領域に替えてGFPを連結したTRI5 promoter-GFP導入株を作製した。酵素TRI5は、トリコテセン系かび毒の生合成のキー酵素であり、この遺伝子の発現とかび毒産生には高い相関性が認められることから、かび毒産生をモニターするのに最も適した遺伝子の一つである。また、この酵素TRI5の破壊株はほとんどカビ毒を産生しないことが知られている。
このTRI5 promoter-GFP導入株に対して、水、メトコナゾール(クレハ社製)、試験化合物として、NMNのほか、ヘキシレングリコール、セロトニン塩酸塩、イソクエン酸三ナトリウム、シアニンクロリド、クロマニンクロリドを作用させて、GFPシグナルを測定した。具体的には、上記試験化合物を0.1mg/mLの濃度で添加し、25℃、100rpm、暗所で振盪培養を行った。36時間後培養を止め、Typhoon9400(GE Healthcare)を用いてGFPのシグナルを定量した。
結果を図3に示す。同図に示すように、NMNは赤かび病菌におけるカビ毒産生を抑制した。
(4.NMN等の散布による赤かび病菌に対する防除効果の検討)
シロイヌナズナに対して、NMN及び関連代謝物(NAD、NADP、ニコチンアミド(NIC))を散布した際の赤かび病菌に対する防除効果を検討した。具体的には、鉢植えのシロイヌナズナに対して、水又はNMN水溶液(100ppm)にSilwetL77を0.001%で添加したものを300μLスプレーにて噴霧した後、6時間後に赤かび病菌(F. graminearum)を接種した(1×105conidia/mL)。その後、72時間後に、シロイヌナズナの葉をサンプリングして、植物の防御遺伝子PR−1の発現解析の定量を行った。
具体的には、通常生育(蛍光灯下、22℃)させた播種後4週間のシロイヌナズナの本葉にアトマイザーを用いてNMN等の噴霧処理を行い6時間培養後、F. graminearumの胞子液(1×105 conidia/mL)を注入接種した。その後、72時間培養したシロイヌナズナの接種葉をサンプリングした。植物の防御遺伝子PR−1の発現解析を行うため、サンプリング葉からTotal RNAを抽出し、逆転写酵素によりcDNAを合成した。PR−1発現解析用プライマー及びコントロールの遺伝子としてActin2遺伝子を用いqRT−PCRを行った。
結果を図4(a)に示す。同図に示すように、NMN水溶液を噴霧した後に赤かび病菌を播種した場合、防御遺伝子PR−1の発現が有意に誘導されることがわかる。
次に、鉢植えのシロイヌナズナに対して、水、NMN水溶液、NAD水溶液、NADP水溶液、NIC水溶液(それぞれ100ppm)を300μLスプレーにて噴霧した後、6時間後に赤かび病菌(F. graminearum)の胞子液(1×105 conidia/mL)を注入接種した。その後、72時間後に、シロイヌナズナの葉をサンプリングして、植物のゲノムDNAに対する菌体のゲノムDNAの割合を定量した。具体的には、上記と同様に赤かび病菌を接種した植物試料を準備し、リアルタイムPCRにより赤かび病菌のEF1α遺伝子と植物のACT2遺伝子を増幅することにより、接種サンプルに含まれる菌と植物それぞれのゲノム量を測定した。菌のgDNA量が多い程、シロイヌナズナでの高い増殖能、すなわち高い病原性を示すことになる。
結果を図4(b)に示す。同図に示すように、NMN水溶液、NAD水溶液、NADP水溶液を噴霧した後に赤かび病菌を接種した場合、菌体量が低下した。一方、NIC水溶液を噴霧した後に赤かび病菌を接種した場合、菌体量はほとんど変化しなかった。この結果より、NMN、NAD及びNADPには、赤かび病菌に対する防除効果が示される。
(5.NMNAT過剰発現株の赤かび病菌に対する抵抗性の検討)
ニコチンアミドモノヌクレオチド アデニル基転移酵素(NMNAT)を過剰発現する形質転換植物が赤かび病菌に対して抵抗性を示すか検討を行った。カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターの下流にNMNATをコードする遺伝子を連結したNMNAT過剰発現用コンストラクト(pK2GW7.0+NMNAT)を作製し、これをシロイヌナズナに導入し形質転換植物を得た。
具体的には、シロイヌナズナのNMNAT遺伝子のCDS配列の全長をPCRにより増幅及びクローニングを行った。塩基配列の確認後、形質転換用バイナリーベクターのCaMV35Sプロモーターの下流にNMNAT遺伝子のCDS配列を組み込んだ過剰発現用ベクターを作製した。形質転換したアグロバクテリウムC58C1の菌液を用いて、Floral Dip法によりシロイヌナズナに導入し形質転換植物を得た。
図5に、RT−PCR及びqPCRにより、野生株と形質転換植物のそれぞれにおいてNMNAT遺伝子のmRNA量を確認した結果を示す。図中、形質転換植物は、35S::NMNATとして示す。同図に示すように、形質転換植物では、NMNATのmRNAが過剰発現していることが確認できた。
次に、赤かび病菌を接種した野生株及びNMNATを過剰発現する形質転換植物について、病徴及び菌体量を比較した。
具体的には、播種後約4週間のシロイヌナズナの本葉にF. graminearumの胞子液(1×105 conidia/mL)を注入接種した。その後、72時間培養しシロイヌナズナの接種葉をサンプリングし、接種葉の病徴の重症度を得点化した。得点化は、「normal」、「change to black leaf」、「partial aerial mycelium」、「expanded aerial mycelium」で評価した。また、赤かび病菌を接種した植物組織から抽出したゲノムDNAにおいて、シロイヌナズナのゲノムDNA量を、Actin2遺伝子を用いたリアルタイムPCR法により算出し、赤かび病菌のゲノムDNA量を、EF1α遺伝子を用いたリアルタイムPCR法により算出した。シロイヌナズナ(植物)ゲノムDNA中に対する赤かび病菌のゲノムDNA量をパーセントにより算出した。
結果を図6(a)〜図6(c)に示す。図6(a)に、赤かび病菌を接種した野生株及び形質転換植物の病徴を比較した図を示す。同図に示すように、野生株の葉には赤かび病の病徴が目視にて確認できたが、形質転換植物では赤かび病の病徴は目視では確認できなかった。
図6(b)に、赤かび病菌を接種した野生株及び形質転換植物の病徴をスコア化した結果を示す。赤かび病による病徴のスコアは、気中菌糸の発生の程度(全体か部分的か)、赤かび病菌の増殖による枯死の状態に基づき評価した。同図に示すように、野生株に比べて、形質転換植物では赤かび病による病徴が抑制されることがわかる。
図6(c)に、赤かび病菌を接種した野生株及び形質転換植物において、菌及び植物それぞれのゲノム量を測定した結果を示す。同図に示すように、形質転換植物では、野生株に比べて、赤かび病菌の菌体量が有意に低下した。
(6.NMN噴霧のオオムギへの赤かび病防除効果の確認)
赤かび病に非常に弱い六条オオムギ(HES4)を用いて、NMN溶液を噴霧した場合の赤かび病防除効果を検討した。具体的には、圃場で生育させた六条オオムギ(HES4)の麦穂に対して、水又はNMN水溶液(100ppm)にSilwetL77を0.001%で添加したもの300μLを、スプレー(アトマイザー)にて噴霧した4時間後に、前述の切り穂接種を用いて、0.001% SilwetL77を含む赤かび菌(F. graminearum)の胞子液を噴霧接種した(1×105 conidia/mL)。その後、7日後に、オオムギの穂をサンプリングした。
目視で観察した結果を図7(a)に示す。図中、「Mock/Fg」は水を噴霧した後に赤かび菌を接種したオオムギであり、「NMN/Fg」はNMN溶液を噴霧した後に赤かび菌を接種したオオムギである。同図に示すように、「Mock/Fg」では赤かび菌の病徴(気中菌糸出現)が目視で確認できたが、「NMN/Fg」では赤かび菌による顕著な病徴は認められなかった。
次に、同じくサンプリングしたオオムギ穂について、赤かび病菌を接種した植物組織から抽出したゲノムDNAにおいて、オオムギのゲノムDNA量を、Tublin遺伝子を用いたリアルタイムPCR法により算出し、赤かび病菌のゲノムDNA量を、EF1α遺伝子を用いたリアルタイムPCR法により算出した。オオムギ(植物)ゲノムDNA中に対する赤かび病菌のゲノムDNA量をパーセントにより算出した。
結果を図7(b)に示す。同図に示すように、「NMN/Fg」は、「Mock/Fg」に比べて、有意に菌体量が低下した。
次いで、同じくサンプリングしたオオムギ穂について、赤かび病菌を接種した植物組織を用いて、かび毒(DON)を定量した。具体的には、VICAM社のDON-NIV WB immunoaffynity columnを用いて、VICAM社の推奨プロトコールに基づき、オオムギ穂からカビ毒精製を行い、HPLCによる検出を行った。
結果を図7(c)に示す。同図に示すように、「NMN/Fg」は、「Mock/Fg」に比べて、有意にかび毒の量が低下した。
以上より、オオムギに対しても、NMNの赤かび病の防除効果が確認できた。
本発明によれば、赤かび病に対する抵抗性植物を提供することができるため、農園芸、食品産業等に利用可能である。

Claims (6)

  1. シロイヌナズナ及びイネ科植物において、以下の(a)〜(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子の発現を増大させる工程を含むことを特徴とする赤かび病抵抗性シロイヌナズナ及びイネ科植物の作製方法:
    (a)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
    (b)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
    (c)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;(d)配列番号6〜10のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
    (e)上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
  2. 被検植物において、以下の(a)〜(e)のいずれかの遺伝子の有無、又は該遺伝子の発現を検出する工程、
    上記遺伝子を有する場合、又は、上記遺伝子の発現が検出される場合、赤かび病抵抗性植物であると判定する工程、を含むことを特徴とする赤かび病抵抗性シロイヌナズナ及びイネ科植物の選抜方法:
    (a)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
    (b)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
    (c)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;(d)配列番号6〜10のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
    (e)上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
  3. 被検植物において、ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチド、及びニコチンアミドアデニルジヌクレオチドリン酸から選択される、少なくとも1つの化合物の量を測定する工程、
    野生型よりも上記化合物の量が多い場合、赤かび病抵抗性植物であると判定する工程、を含むことを特徴とする赤かび病抵抗性シロイヌナズナ及びイネ科植物の選抜方法。
  4. 以下に示す(i)〜(v)から選択される物質のうち、少なくとも1つの物質を含むことを特徴とする、請求項2又は3に記載の赤かび病抵抗性シロイヌナズナ及びイネ科植物の選抜方法を実施するためのキット:
    (i)以下の(a)〜(e)のいずれかの遺伝子
    (a)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
    (b)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
    (c)配列番号1〜5のいずれかに記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;(d)配列番号6〜10のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
    (e)上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポ
    リヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつNMNAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、
    (ii)(i)の遺伝子を検出するためのプローブ、
    (iii)(i)又は(ii)を固定化した検出器具、
    (iv)(i)の遺伝子を増幅するためのプライマーセット、
    (v)ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチド、及びニコチンアミドアデニルジヌクレオチドリン酸から選択される、少なくとも1つの化合物の量を測定するための試薬類。
  5. ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチドリン酸、及びこれらの農園芸上許容される塩から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含むことを特徴とするシロイヌナズナ及びイネ科植物用の赤かび病防除剤。
  6. ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニルジヌクレオチドリン酸、及びこれらの農園芸上許容される塩から選択される少なくとも1種の化合物の有効量を、シロイヌナズナ及びイネ科植物又はシロイヌナズナ及びイネ科植物を栽培する土壌に処理する工程を含むことを特徴とするシロイヌナズナ及びイネ科植物用の赤かび病防除方法。
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