以下、図面を参照しながら本実施の形態について詳細に説明する。無線LANの規格書として知られているIEEE Std 802.11TM−2012およびIEEE Std 802.11acTM−2013は、本明細書においてその全てが参照によって組み込まれる(incorporated by reference)ものとする。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る無線通信システムを示している。図1の無線通信システムは、アクセスポイント(AP)11と、複数の無線端末(ステーション)1、2、3、4とを具備した無線ネットワークである。アクセスポイント11も無線端末の一形態である。アクセスポイント11と各無線端末1〜4は、任意の無線通信方式に従って無線通信を行う。一例として、アクセスポイント11と各無線端末1〜4は、IEEE802.11規格に従って無線通信を行う。以下の説明では、主としてIEEE802.11規格の無線LANを想定した説明を行うが、本実施形態はこれに限定されるものではない。
アクセスポイント11は、複数のアンテナを備える。図1の例では、アクセスポイント11は、4つのアンテナ12A、12B、12C、12Dを備える。各無線端末1〜4は、それぞれ1つまたは複数のアンテナを備える。この例では、各無線端末1〜4は、それぞれ1本のアンテナ1A、2A、3A、4Aを備える。
アクセスポイント11は、無線端末1〜4宛てのフレームを空間多重で無線端末1〜4に送信する。空間多重の送信とは、同一の周波数帯域で複数のフレームを同時に送信することを意味する。具体的には、アクセスポイント11は、各無線端末宛てのフレームを、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信する。これにより、スループットを向上させることができる。
アクセスポイント11は、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信するために、各アンテナ12A〜12Dから各無線端末1〜4へのダウンリンクの伝搬路情報を、事前に無線端末1〜4から取得する。アクセスポイント11は、各無線端末から取得した伝搬路情報に基づき、互いの信号の干渉を抑制するように、無線端末1〜4に向けた複数の指向性のビームパターンを算出する。アクセスポイント11は、指向性のビームパターンに従って、ビーム21、22、23、24を形成する。これにより、アクセスポイント11は、各無線端末に対して、同一の周波数帯域で同時に複数のフレームを送信できる。つまり、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信が可能になる。
ダウンリンクマルチユーザMIMO送信によりデータを受信した各無線端末は、アクセスポイント11に対して、ACK(Acknowledgement)フレーム、BA(BlockAck)フレームなどの送達確認応答フレームを送信する。ここで、本実施形態の無線端末1〜4は、アップリンクマルチユーザMIMO(UL−MU−MIMO)技術により送達確認応答フレームを送信する。つまり、無線端末1〜4がアクセスポイント11に対して、同一の周波数帯域で同時にBAフレームを送信する。
図2は、無線端末1〜4がアクセスポイント11に対してBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信する方法の概要を説明する図である。アクセスポイント11および各無線端末1〜4が送信する信号(フレーム)が矩形によって示されている。横軸は時間軸であり、図に沿って右側が時間の流れる方向である。本実施形態では、送達確認応答フレームとしてBAフレームを用いる方法について説明するが、ACKフレームを用いた場合でも同様である。
アクセスポイント11は、事前に無線端末1〜4を含む複数の無線端末と無線リンクを確立している。また、アクセスポイント11は、各アンテナ12A〜12Dから各無線端末1〜4へのダウンリンクの伝搬路情報を無線端末1〜4から事前に取得している。そして、バッファに保持していた無線端末1〜4宛てデータを、データフレーム601〜604でダウンリンクマルチユーザMIMO送信する。データフレーム601〜604は、それぞれ1つ以上のデータフレームをアグリゲートしたアグリゲーションフレームでもよい。アグリゲーションフレームは、複数のフレームをデリミタを介して互いに連結しており、受信側ではデリミタにより各フレームを分離できる。ここではアグリゲーションフレームは複数のデータフレームを集約しているとするが、集約するフレームは、データフレームと管理フレームなど、複数種類のフレームが混在していてもかまわない。なおデータフレーム、管理フレーム等のフレーム種別の詳細は、別の実施形態において詳述する。データフレーム601〜604をを受信した無線端末1〜4は、受信したデータフレームに対するCRC(cyclic redundancy code)をチェックし、データフレームを誤り無く受信できたか否かを検査する。そして、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信から一定時間T1の経過後、アクセスポイント11に対して、送達確認応答フレームであるBAフレーム611〜614をアップリンクマルチユーザMIMO送信する。一定時間T1は、予め定められた一定時間であれば任意の値でよい。一例として、IEEE802.11無線LANのMACプロトコル仕様で規定されているフレーム間のタイムインターバルであるSIFS(short interframe space)時間(=16μs)を用いてもよいし、これより長い値を用いてもよい。
アクセスポイント11は、各無線端末からアップリンクマルチユーザMIMOにより送信されたBAフレーム611〜614を同一の周波数帯域で同時に受信するため、これらBAフレームを空間的に分離する必要がある。そこで、アクセスポイント11は、BAフレームを空間的に分離するために必要な情報(空間分離情報)を、予め無線端末1〜4に送信しておく。本実施形態では、アクセスポイント11は、空間分離情報として互いに直交するプリアンブルパターン(ビット列)に関する情報を無線端末1〜4に送信する。そして、無線端末1〜4は、自端末から送信するBAフレームのプリアンブルフィールドに、無線端末間で互いに直交するプリアンブルパターン(ビット列)を格納する。アクセスポイント11は、各BAフレームのプリアンブルパターンを事前に把握しており、このプリアンブルパターンを利用して各無線端末からアクセスポイント11へのアップリンクの伝搬路応答を推定する。
例えば、アクセスポイント11は、各無線端末のアンテナからアクセスポイント11のアンテナへの伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を推定する。アクセスポイント11は、推定したアップリンクの伝搬路応答行列を用いることで、各無線端末から受信したBAフレームのプリアンブルフィールドより後のフィールド(例えばデータフィールド)を分離する。これは、公知の手法、例えばZF(Zero−Forcing)法、または、MMSE(Minimum Mean Square Error)法、または、最尤推定法等、任意の方法を用いて行うことができる。
ここで、アクセスポイント11が、無線端末1〜4に対して空間分離情報を送信する方法について説明する。本実施形態のアクセスポイント11は、空間分離情報を、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信するデータフレーム601〜604のMACヘッダあるいはPHYヘッダを用いて無線端末1〜4に送信する。
(MACヘッダを用いた空間分離情報の送信)
まず、アクセスポイント11がMACヘッダを用いて空間分離情報を送信する方法について説明する。
図3に、アクセスポイント11が各無線端末に送信するデータフレームの一例を示す。
このデータフレームは、FC(Frame Control)フィールド、Duration/IDフィールド、RA(Receiver Address)フィールド、TA(Transmitter Address)フィールド、共通情報フィールド、端末情報フィールド、Frame Bodyフィールド、FCS(Frame Check Sequence)フィールドを含む。
FCフィールドには、フレームの種別などを表す情報が格納される。
Duration/IDフィールドには、バーチャルキャリアセンスとして設定する時間が格納される。
RAフィールドには、フレームの送信先のMACアドレスが格納される。無線端末1宛てのデータフレーム601には、無線端末1のMACアドレスが格納される。
TAフィールドには、フレーム送信元のMACアドレスが格納される。本実施形態では、アクセスポイント11のMACアドレスが格納される。
共通情報フィールドには、空間分離情報として、無線端末1〜4に共通して通知する情報が格納される。
端末情報フィールドには、空間分離情報として、無線端末別に通知する情報が格納される。
Frame Bodyフィールドには、アクセスポイント11が各無線端末に送信するデータ本体が格納される。
FCSフィールドには、各データフレームのFCS情報が格納される。FCS情報は、データフレームを受信した無線端末側でのフレーム誤り検出に用いられる。
アクセスポイント11が、共通情報フィールドおよび端末情報フィールドを用いて通知する空間分離情報について説明する。
アクセスポイント11は、各無線端末が互いに直交するプリアンブルパターンを用いてアップリンクマルチユーザMIMO送信するために、一例として、直交行列を空間分離情報として送信する。以下に、直交行列の一例を示す。
行列(1)は、空間多重数が2の場合の直交行列(すなわち2x2の行列)の例である。行列(2)は、空間多重数が4(図1の例に相当)の場合の直交行列(すなわち4x4の行列)の例である。直交行列は、各行(または各列)を表す行(または列)ベクトルが互いに直交する性質を持っている。ベクトルが直交するとは、内積がゼロのことである。また、空間多重数とは空間多重するストリーム数のことである。
アクセスポイント11は、共通情報フィールドを使って、直交行列を無線端末1〜4に送信する。ここで、アクセスポイント11は、無線端末1〜4によるアップリンクマルチユーザMIMO送信のストリーム数およびその数に応じた直交行列を送信するようにしてもよい。図2の場合、アップリンクマルチユーザMIMOのストリーム総数は4であるため、4および行列(2)の直交行列を共通情報フィールドに格納する。
無線端末1〜4が互いに直交するプリアンブルパターンを送信するためには、各無線端末が使用するプリアンブルパターンを端末情報フィールドで指定する必要がある。プリアンブルパターン指定の一例として、直交行列の行番号(または列番号)を用いることができる。例えば、無線端末1が使用する行番号(または列番号)を、無線端末1に送信するデータフレームの端末情報フィールドに格納する。無線端末1は、端末情報フィールドに格納された番号の行(または列)に基づき、使用するプリアンブルパターンを特定することができる。
行列の値がIEEE802.11規格で予め定められており、アクセスポイント11および無線端末1〜4が内部メモリにその値を記憶している場合、アクセスポイント11は、共通情報フィールドでストリームの総数を送信すればよい。無線端末1〜4は、アクセスポイント11から指定されたストリームの総数を参照して、内部メモリに記憶している行列を読み出すことができる。
また、端末情報フィールドに他の無線端末で使用する空間分離情報が含まれていてもよい。例えば、無線端末1に送信するデータフレームの端末情報フィールドに、無線端末1だけでなく無線端末2〜4が使用するプリアンブルパターンの情報が格納されていてもよい。また、無線端末1向けの端末情報フィールド、無線端末2向けの端末情報フィールドなどのように、各無線端末の識別子を有した複数の端末情報フィールドを設けるようにしてもよい。
なお、図3におけるフレームフォーマットは一例であり、他のフォーマットを用いてもよい。例えば、共通情報フィールドと端末情報フィールドを入れ替えてもよいし、これらのフィールドが挿入される位置を変更してもよい。共通情報フィールドおよび端末情報フィールドを統合した別のフィールドを設けてもよい。また、空間分離情報を他のフィールドの予約領域に格納してもよい。
(PHYヘッダを用いた空間分離情報の送信)
次に、アクセスポイント11が、データフレーム601〜604のPHYヘッダを用いて空間分離情報を送信する方法について説明する。
図4に、アクセスポイント11が無線端末1〜4に送信するデータフレームのPHYヘッダの一例を示す。
PHYヘッダは、L−STF(Legacy−Short Training Field)、L−LTF(Legacy−Long Training Field)、L−SIG(Legacy Signal Field)、共通情報フィールド、端末情報フィールドを含む。
L−STF、L−LTF、L−SIGには、例えば、IEEE802.11aなどのレガシー規格が認識可能なフィールドであり、信号検出、周波数補正、伝送速度などの情報が格納される。
共通情報フィールドおよび端末情報フィールドには、前述したMACヘッダによる通知と同様に、空間分離情報として無線端末1〜4に共通で通知する情報および無線端末別に通知する情報がそれぞれ格納される。また、アクセスポイント11は、IEEE802.11ac規格でダウンリンクマルチユーザMIMO送信を実現するために規定されたGroup IDおよびユーザポジションと関連付けて、空間分離情報を共通情報フィールドおよび端末情報フィールドに格納してもよい。
アクセスポイント11は、無線端末1〜4に対してデータフレーム601〜604をダウンリンクマルチユーザMIMO送信する際、L−STFから共通情報フィールドまでのフィールドをビームフォーミングなしで送信し、端末情報フィールド以降のフィールドをビームフォーミングありで送信してもよい。つまり、無線端末1〜4向けに同一情報が格納されたフィールドについては、ビームフォーミングを使わずに送信することができる。ビームフォーミングなしで送信する場合、使用するアンテナは複数でも1本でもよい。
なお、図4におけるフレームフォーマットは一例であり、他のフォーマットを用いてもよい。例えば、共通情報フィールドと端末情報フィールドとを入れ替えてもよいし、これらのフィールドが挿入される位置を変更してもよい。共通情報フィールドおよび端末情報フィールドを統合した別のフィールドを設けてもよい。また、空間分離情報を他のフィールドの予約領域に格納してもよい。
(BAフレームのアップリンクマルチユーザMIMO送信)
次に、無線端末1〜4が、アクセスポイント11に対してBAフレーム611〜614をアップリンクマルチユーザMIMO送信する方法について説明する。
無線端末1〜4は、アクセスポイント11から受信したデータフレームに対するCRCをチェックし、データフレームが誤り無く受信できたか否かを検査する。そして、一定時間T1の経過後、アクセスポイント11に対して、送達確認応答フレームであるBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信する。この際、各無線端末は、アクセスポイント11から通知された空間分離情報を参照して、BAフレームのプリアンブルフィールドに設定するプリアンブルパターン(ビット列)を選択する。
図5に、無線端末1〜4が送信するBAフレーム611〜614(より詳細にはBAフレームを含むPHYパケット)の一例を示す。
図5におけるMACフレームには、アクセスポイント11から受信したデータフレームに対するCRC結果が、開始シーケンス番号(Starting Sequence Number)およびビットマップを利用して格納されている。また、送信先および送信元に応じて、RAフィールドおよびTAフィールドの値が設定される。
プリアンブルフィールド501には、直交行例を用いて生成したプリアンブルパターン(ビット列)が格納されている。この例では、アクセスポイント11から通知された空間分離情報により、無線端末1は行列(2)の1行目、無線端末2は行列(2)の2行目、無線端末3は行列(2)の3行目、無線端末4は行列(2)の4行目がそれぞれプリアンブルパターンとして指定されているものとする。
プリアンブルフィールド501は複数の区間からなり、各区間には、フレーム方向に沿って “P”または“−P”が直交行列の該当する行の値に応じて配置されている。1つの区間は、少なくとも1つ以上の変調シンボルに対応している。また、1つの区間はシンボル期間に対応する。シンボルの変調方式は、BPSK、QPSK、QAM等、任意の方式で構わない。“P”と“−P”はそれぞれ1ビット以上のビット列からなる要素である。一例として、ビット列Pの変調シンボルと、−Pの変調シンボルは、振幅が同一で位相が180度ずれた関係(互いに打ち消し合う関係)にある。
無線端末1のプリアンブルパターンは[P、−P、P、P]であり、これは行列(2)の1行目の[1、−1、1、1]に対応する。同様に、無線端末2のプリアンブルパターンは[P、P、−P、P]であり、これは行列(2)の2行目の[1、1、−1、1]に対応する。無線端末3のプリアンブルパターンは[P、P、P、−P]であり、これは行列(2)の3行目の[1、1、1、−1]に対応する。無線端末4のプリアンブルパターンは[−P、P、P、P]であり、これは行列(2)の4行目の[−1、1、1、1]に対応する。無線端末間のプリアンブルパターンは互いに直交している。
図5における“t1”、“t2”、“t3”、“t4”は、プリアンブルパターンの各区間のビット列(Pまたは−P)が送信されるタイミングを表している。例えば、タイミングt1では、無線端末1のプリアンブルパターンの1番目の区間のビット列Pが、変調方式に応じた変調シンボル(第1変調シンボル)によって送信される。同様に、無線端末2および無線端末3のプリアンブルパターンの1番目の区間のビット列 Pが送信される。さらに、無線端末4のプリアンブルパターンの1番目の区間のビット列 −Pが、変調方式に応じた変調シンボル(第2変調シンボル。例えば第1変調シンボルと同一振幅で逆相のシンボル)によって送信される。
このように、各無線端末が空間多重数(ストリーム数)に応じた直交行列の各行(または各列)のそれぞれ異なる1つに基づきプリアンブルパターンを構成することで、無線端末間で直交したプリアンブルパターンを構成できる。すなわち、アクセスポイント11は各無線端末からプリアンブルパターンの信号を同時に重なった状態で受信しても、お互いのプリアンブルパターンが直交しているため、伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を推定できる。
なお、図5におけるフレームフォーマットは一例であり、他のフォーマットを用いてもよい。例えば、プリアンブルパターンを他のフィールドの予約領域に格納してもよい。
(アクセスポイント11でのBAフレームの受信)
次に、アクセスポイント11がBAフレームのプリアンブルフィールド501に基づき、無線端末1〜4からアクセスポイント11へのアップリンクの伝搬路応答を推定する方法を説明する。
図6に示すように、各無線端末1〜4のアンテナ1A〜4Aから、アクセスポイント11のアンテナ12A〜12Dへのアップリンクの伝搬路応答をそれぞれh11〜h14、h21〜h24、h31〜h34、h41〜h44と表す。
4台の無線端末1〜4のそれぞれのアンテナ1A〜4Aから、図5に示したタイミングt1でプリアンブルパターンの1番目の区間のビット列“P”が第1変調シンボル、ビット列“−P”が第2変調シンボルで送信される。無線端末1のアンテナ1Aから送信された “P”の第1変調シンボル信号は、アクセスポイント11のアンテナ12Aへの伝搬路応答h11と、アンテナ12Bへの伝搬路応答h12と、アンテナ12Cへの伝搬路応答h13と、アンテナ12Dへの伝搬路応答h14の影響を受けて、各アンテナ12A〜12Dで受信される。同様に、無線端末2、3のアンテナ2A、3Aから送信された第1変調シンボル信号、無線端末4のアンテナ4Aから送信された第2変調シンボル信号も各伝搬路応答の影響を受けてアクセスポイント11のアンテナ12A〜12Dで受信される。
以上により、タイミングt1におけるアクセスポイント11のアンテナ12Aの受信信号は、t1A = P*h11 + P*h21 + P*h31 − P*h41、アンテナ12Bの受信信号は、t1B = P*h12 + P*h22 + P*h32 − P*h42、アンテナ12Cの受信信号は、t1C = P*h13 + P*h23 + P*h33 − P*h43、アンテナ12Dの受信信号は、t1D = P*h14 + P*h24 + P*h34 − P*h44と記述できる。
同様に、タイミングt2におけるアクセスポイント11のアンテナ12Aの受信信号は、t2A = −P*h11 + P*h21 + P*h31 + P*h41、アンテナ12Bの受信信号は、t2B = −P*h12 + P*h22 + P*h32 + P*h42、アンテナ12Cの受信信号は、t2C = −P*h13 + P*h23 + P*h33 + P*h43、アンテナ12Dの受信信号は、t2D = −P*h14 + P*h24 + P*h34 + P*h44と記述できる。
タイミングt3におけるアクセスポイント11のアンテナ12Aの受信信号は、t3A = P*h11 − P*h21 + P*h31 + P*h41、アンテナ12Bの受信信号は、t3B = P*h12 − P*h22 + P*h32 + P*h42、アンテナ12Cの受信信号は、t3C = P*h13 − P*h23 + P*h33 + P*h43、アンテナ12Dの受信信号は、t3D = P*h14 − P*h24 + P*h34 + P*h44と記述できる。
タイミングt4におけるアクセスポイント11のアンテナ12Aの受信信号は、t4A = P*h11 + P*h21 − P*h31 + P*h41、アンテナ12Bの受信信号は、t4B = P*h12 + P*h22 − P*h32 + P*h42、アンテナ12Cの受信信号は、t4C = P*h13 + P*h23 − P*h33 + P*h43、アンテナ12Dの受信信号は、t4D = P*h14 + P*h24 − P*h34 + P*h44と記述できる。
アクセスポイント11は、アンテナ12Aの受信信号t1A、t2A、t3A、t4Aを加算あるいは減算することで、伝搬路応答h11、h21、h31、h41を求めることができる。例えば、h11に関しては、t1A − t2A + t3A + t4Aを計算することにより、h11 = (t1A − t2A + t3A + t4A)/4Pとなる。Pは既知信号であり、受信信号t1A、t2A、t3A、t4Aは測定可能であることから、h11を求めることができる。同様に、h21、h31、h41についても、受信信号t1A、t2A、t3A、t4Aを加算あるいは減算することで求めることができる。
アクセスポイント11は、アンテナ12B〜12Dの受信信号についても、それぞれ加算あるいは減算をとることで、他の伝搬路応答を求めることができる。例えば、h44に関しては、−t1D + t2D + t3D+ t4Dを計算することにより、h44 = (−t1D + t2D + t3D+ t4D)/4Pとなり、h44を求めることができる。
以上のようにして求めた伝搬路応答h11〜h14、h21〜h24、h31〜h34、h41〜h44に基づき、アクセスポイント11は、以下の(3)で示す伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を得ることができる。
この伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を用いることで、無線端末1〜4のアンテナ1A〜4Aから送信される4つのストリームを分離できる。すなわち、アクセスポイント11は、無線端末1〜4から受信したBAフレームのプリアンブルフィールド501より後に配置されるデータを空間的に分離できる。
空間多重数が4以外の場合でも、空間多重数に対応する直交行列を用いて、互いに直交するプリアンブルパターンを各無線端末に割り当てることにより、アクセスポイント11側で、アップリンクの伝搬路応答行列を推定できる。例えば、空間多重数が2の場合は、各無線端末が行列(1)を用いてプリアンブルパターンを構成することで、アクセスポイント11は、アップリンクの伝搬路応答行列を推定できる。
ここで、伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を推定するためには、無線端末間で直交するプリアンブルパターンを使用する必要がある。仮に、2台以上の無線端末が直交行列の中から同一の行(または列)に基づきプリアンブルパターンを構成すると、アクセスポイントで受信するプリアンブルパターンは直交しなくなり、伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を取得できない。マルチユーザMIMOではない通常のMIMO送信の場合、複数のアンテナを備える1台の無線端末で、複数のストリームの送信を行うため、MIMO送信を行う無線端末は、自らの判断により、送信する各ストリームに対し、それぞれ異なるパターンを適用できる。しかしながら、アップリンクマルチユーザMIMOの場合、ストリームの送信を行う無線端末が異なるため、他の無線端末が直交行列のうちどの行(または列)に基づくパターンを使用するか把握できない。
そこで、本実施形態では、アクセスポイント11が、各無線端末が使用するプリアンブルパターンが互いに異なるように決定し、各無線端末が用いるべきプリアンブルパターンに関する情報(空間分離情報)を、データフレーム601〜604における共通情報フィールドおよび端末情報フィールドで通知する。これにより、各無線端末がそれぞれ異なるプリアンブルパターンを使用することを確保できる。各無線端末は、自装置に対して指定されたプリアンブルパターンを使用する。アクセスポイント11で各無線端末から受信したBAフレームのプリアンブルパターンは互いに直交するため、アクセスポイント11は、アップリンクの伝搬路応答行列を推定できる。アクセスポイント11は、当該アップリンクの伝搬路応答行列を利用して、各BAフレームのプリアンブルフィールド以降のデータを空間的に分離することができる。
(機能ブロック図)
アクセスポイント11は、無線通信装置(後述する図7参照)を搭載する。無線通信装置は、無線通信部105と、制御部101と、バッファ104とを備える。アクセスポイント11における制御部101は、複数の無線端末1〜4との通信を制御する。
また、各無線端末も同様に、無線通信装置(後述する図8参照)を搭載する。無線通信装置は、無線通信部205と、制御部201を備える。無線端末における制御部201は、アクセスポイント11との通信を制御する
アクセスポイント11は、各無線端末との間で形成する無線ネットワーク(第1ネットワークと呼ぶ)とは別に、有線または無線の他のネットワーク(第2ネットワークと呼ぶ)にも接続されてもよい。アクセスポイント11は、これら第1ネットワークおよび第2ネットワーク間や、無線端末間の通信を中継する。アクセスポイント11は、第2ネットワークから、または第1ネットワークの無線端末から、無線端末1〜4宛てのフレームを受信して、バッファに保持する。
図7は、アクセスポイント11の無線通信装置の機能ブロック図である。この図は、第1ネットワーク側の無線通信装置の構成を示している。
無線通信装置は、制御部101と、送信部102と、受信部103と、アンテナ12A、12B、12C、12Dと、バッファ104とを備えている。制御部101は、無線端末との通信を制御する制御部またはベースバンド集積回路に対応し、送信部102と受信部103は、一例として、無線通信部105またはRF(Radio Frequency)集積回路に対応する。制御部101の処理は、CPU等のプロセッサで動作するソフトウェア(プログラム)によって行われてもよいし、ハードウェアによって行われてもよいし、これらのソフトウェアとハードウェアの両方によって行われてもよい。制御部101は、バッファ104を含む構成、含まない構成どちらでもよい(図7では含む)。また、図示はしていないが、無線通信装置は、空間分離情報等を記憶する内部メモリを備えてもよい。また、空間分離情報等を記憶するための外部メモリと接続されていてもよい。
バッファ104は、上位層と制御部101との間で、データを受け渡しするための記憶部である。上位層は、第2ネットワークから受信したフレームを第1のネットワークへの中継のためバッファ104に格納したり、第1ネットワークから受信したフレームを制御部101から受け取ったりする。上位層は、TCP/IPやUDP/IPなど、MAC層の上位の通信処理を行ってもよい。また、上位層は、データを処理するアプリケーション層の処理を行ってもよい。上位層の動作は、CPU等のプロセッサによるソフトウェア(プログラム)の処理によって行われてもよいし、ハードウェアによって行われてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの両方によって行われてもよい。
制御部101は、主としてMAC層の処理、物理層の処理の一部(例えばMIMO関連の処理等)を行う。制御部101は、送信部102および受信部103を介して、フレームを送受信することで、第1ネットワークにおける各無線端末との通信の制御を行う。また制御部101は定期的にBeaconフレームを送信するよう制御してもよい。制御部101は、クロック生成部を含んでもよい。また制御部101は外部からクロックが入力されるように構成されてもよい。クロックによって制御部101は内部時間を管理してもよい。クロック生成部で作ったクロックを外部に出力してもよい。
制御部101は、無線端末からのアソシエーション要求を受けて、必要に応じて認証等のプロセスを経て、当該無線端末と無線リンクを確立する。制御部101は、バッファ104を定期的に確認する。または、制御部101は、バッファ104等の外部からのトリガによりバッファ104を確認する。制御部101は、バッファ104に複数の無線端末へ送信するフレームがあることを確認したら、共通情報フィールド、端末情報フィールドまたはこれらの両方に空間分離情報を設定した各無線端末宛てのデータフレーム601〜604を生成する。
制御部101は、各無線端末宛てのフレームをバッファ104から読み出し、MAC層の処理を行って送信部102に送る。また制御部101は、各無線端末から事前に取得したダウンリンクの伝搬路情報に基づき、各送信系統の送信ウェイトを算出し、送信部102の各送信系統に送る。送信部102は、各送信系統に対する送信ウェイトの情報を取得する。送信部102では、送信系統ごとに各フレームを変調し、変調された信号に送信系統に応じた送信ウェイトを乗じる。各送信系統では、各乗算信号に対してPHYヘッダの付加等の物理層の処理を行い、物理層の処理後の各フレームに対して、DA変換や、所望帯域の信号成分を抽出するフィルタ処理、周波数変換(アップコンバート)を行う。さらに、各送信系統では、周波数変換された信号を増幅して、それぞれ対応するアンテナから空間に電波として放射する。これにより、各無線端末へのダウンリンクマルチユーザMIMO送信が行われる。
各アンテナで受信された信号は、受信部103において、それぞれアンテナに対応する受信系統ごとに処理される。例えば、複数の無線端末から送信されるBAフレーム611〜614が各アンテナで同時に受信される(アップリンクマルチユーザMIMO受信)。受信部103における各受信系統へ、各アンテナの受信信号が入力される。各受信信号は、それぞれ受信系統において増幅され、周波数変換(ダウンコンバート)され、フィルタリング処理で所望帯域成分が抽出される。抽出された信号は、さらにAD変換によりデジタル信号に変換されて、復調等の物理層の処理を経た後、それぞれ制御部101に入力される。
制御部101は、各受信系統から入力された信号のプリアンブルパターンに基づき、伝搬路推定を行うことで、アップリンクの伝搬路応答行列を取得する。制御部101は、推定により得たアップリンクの伝搬路応答行列に基づき、プリアンブルフィールド以降のデータ部を無線端末ごと(BAフレームごと)に分離し、各データ部からCRC結果を読み出す。
上述した制御部101と送信部102の処理の切り分けは一例であり、別の形態も可能である。例えばデジタル領域の処理までは制御部101で行い、DA変換以降の処理を送信部102で行うようにしてもよい。制御部101と受信部103の処理の切り分けについても同様に、A/D変換までの処理を受信部103で行い、その後の物理層の処理を含むデジタル領域の処理を制御部101で行うようにしてもよい。ここで述べた以外の切り分けを行ってもよい。
図8は、無線端末1に搭載される無線通信装置の機能ブロック図である。無線端末2〜4に搭載される無線通信装置も無線端末1と同様の構成を有するため、以下では無線端末1の説明によって、無線端末2〜4の説明に代える。
無線通信装置は、制御部201と、送信部202と、受信部203と、アンテナ1Aと、バッファ204とを備えている。制御部201は、アクセスポイント11との通信を制御する制御部またはベースバンド集積回路に対応し、送信部202と受信部203は、一例として、無線通信部205またはRF集積回路に対応する。制御部201の処理は、CPU等のプロセッサで動作するソフトウェア(プログラム)によって行われてもよいし、ハードウェアによって行われてもよいし、これらのソフトウェアとハードウェアの両方によって行われてもよい。制御部201は、バッファ104を含む構成、含まない構成どちらでもよい(図8では含む)。また、図示はしていないが、無線通信装置は、空間分離情報等を記憶する内部メモリを備えてもよい。また、空間分離情報等を記憶するための外部メモリと接続されていてもよい。
バッファ204は、上位層と制御部201との間で、データフレームを受け渡しするための記憶部である。上位層は、他の無線端末、アクセスポイント11、またはサーバ等の他のネットワーク上の装置に送信するフレームを生成して、バッファ204に格納したり、第1ネットワークで受信したフレームを、バッファ204を介して受け取ったりする。上位層は、TCP/IPやUDP/IPなど、MAC層の上位の通信処理を行ってもよい。また、上位層は、データを処理するアプリケーション層の処理を行ってもよい。上位層の処理は、CPU等のプロセッサで動作するソフトウェア(プログラム)によって行われてもよいし、ハードウェアによって行われてもよいし、これらのソフトウェアとハードウェアの両方によって行われてもよい。
制御部201は、主としてMAC層の処理を行う。制御部201は、送信部202および受信部203を介して、アクセスポイント11とフレームを送受信することで、アクセスポイント11との通信を制御する。制御部201は、例えばアクセスポイント11から定期的に送信されるBeaconフレームを、アンテナ1Aおよび受信部203を介して受信する。制御部201は、クロック生成部を含んでもよい。また制御部201は外部からクロックが入力されるように構成されてもよい。クロックによって制御部201は内部時間を管理してもよい。クロック生成部で作ったクロックを外部に出力してもよい。
制御部201は、一例としてBeaconフレームを受信してアクセスポイント11にアソシエーション要求を行い、必要に応じて認証等のプロセスを経て、当該アクセスポイント11と無線リンクを確立する。制御部201は、バッファ204を定期的に確認する。または、制御部201は、バッファ204等の外部からのトリガによりバッファ204を確認する。制御部201は、アクセスポイント11へ送信するフレームがあることを確認したら、当該フレームを読み出して、使用する通信方式に従って、送信部202およびアンテナ1Aを介して送信する。送信部202は、制御部201から入力されたフレームに変調処理やPHYヘッダの付加など、所望の物理層の処理を行う。また、物理層の処理後のフレームに対して、DA変換や、所望帯域の信号成分を抽出するフィルタ処理、周波数変換(アップコンバート)を行う。送信部202は、周波数変換された信号を増幅して、アンテナから空間に電波として放射する。
アンテナ1Aで受信された信号は、受信部203において処理される。例えば、アクセスポイント11から無線端末1宛てに送信されたデータフレーム601の信号が受信され、受信部203において処理される。受信信号は、受信部203において増幅され、周波数変換(ダウンコンバート)され、ファイルタリング処理で所望帯域成分が抽出される。各抽出された信号は、さらにAD変換によりデジタル信号に変換されて、復調等の物理層の処理を経た後、制御部201に入力される。
制御部201は、データフレーム601の共通情報フィールドおよび端末情報フィールドに格納されている空間分離情報を読み出す。読み出した情報に、BAフレームの送信の際に使用するプリアンブルパターンを特定するための情報が含まれる場合は、当該情報に基づき、使用するプリアンブルパターンを特定する。なお、使用するプリアンブルパターンが事前に与えられている場合は、そのプリアンブルパターンを用いるようにしてもよい。
また、制御部101は、データフレーム601の受信から一定時間後に、BAフレームを送信するよう制御する。制御部101は受信したデータフレームのCRCチェックを行い、CRC結果を表す情報を格納したBAフレームを生成する。ここで、BAフレームのプリアンブルフィールドには、上記特定されたプリアンブルパターンを格納する。
送信部102は、生成したBAフレームを変調し、変調された信号に対してPHYヘッダの付加等の物理層の処理を行う。さらに、物理層の処理後のフレームに対して、DA変換や、所望帯域の信号成分を抽出するフィルタ処理、周波数変換(アップコンバート)を行う。送信部102は、周波数変換された信号を増幅して、任意の1つのアンテナから空間に電波として放射する。
上述した制御部201と送信部202の処理の切り分けは一例であり、別の形態も可能である。例えばデジタル領域の処理までは制御部201で行い、DA変換以降の処理を送信部202で行うようにしてもよい。制御部201と受信部203の処理の切り分けについても同様に、AD変換までの処理を受信部203で行い、その後の物理層の処理を含むデジタル領域の処理を制御部201で行うようにしてもよい。ここで述べた以外の切り分けを行ってもよい。
なお、バッファ104、204はDRAM等の揮発性メモリでもよいし、NAND、MRAM等の不揮発メモリでもよい。また、内部メモリおよび外部メモリは、上記揮発性メモリおよび不揮発メモリに加え、SSD、ハードディスク等でもよい。
(フローチャート)
図9は、本実施形態に係るアクセスポイント11に搭載された制御部101の基本的な動作例のフローチャートである。
ステップS1では、制御部101は、データフレーム601〜604の共通情報フィールドおよび端末情報フィールドに格納する空間分離情報を生成する。直交行列やプリアンブルパターン指定に関する規定等が内部メモリに記憶されている場合は、内部メモリから読み出す。
ステップS2では、制御部101は、ステップS1で生成した空間分離情報をデータフレーム601〜604の共通情報フィールドおよび端末情報フィールドに格納し、無線通信部105を介して空間多重で送信(ダウンリンクマルチユーザMIMO送信)する。
ステップS3では、制御部101は、データフレーム601〜604に対するBAフレーム611〜614を、無線通信部105を介して受信する。BAフレーム611〜614は、無線端末1〜4から空間多重で送信(アップリンクマルチユーザMIMO送信)される。
ステップS4では、制御部101は、受信したBAフレーム611〜614のプリアンブルフィールド501を参照し、各BAフレームを空間的に分離する。
図10は、本実施形態に係る無線端末に搭載された制御部201の基本的な動作例のフローチャートである。
ステップS11では、制御部201は、無線通信部205を介して自端末宛てのデータフレームを受信する。データフレームはアクセスポイント11から空間多重で送信される。
ステップS12では、制御部201は、受信したデータフレームから空間分離情報を取得する。取得した空間分離情報は、内部メモリに記憶することができる。
ステップS13では、制御部201は、ステップS13で取得した空間分離情報に基づいて、BAフレームを生成する。BAフレームのプリアンブルフィールドには、空間分離情報で指定されたプリアンブルパターンを設定する。
ステップS14では、制御部201は、無線通信部205を介して、BAフレームを送信する。ここで、無線端末1〜4は、同一周波数帯域を用いて同時にBAフレームを送信する(アップリンクマルチユーザMIMO送信)。
以上、第1の実施形態によれば、各無線端末は、送達確認応答フレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信する。これにより、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信されたデータフレームに対する送達確認の時間が短くなり、スループットを向上させることができる。
また、アクセスポイントは、送達確認応答フレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信するために必要な情報を各無線端末に対して事前に通知する。これにより、アクセスポイントは、複数の無線端末からアップリンクマルチユーザMIMO送信された送達確認応答フレームの分離が可能になる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、アクセスポイント11は、空間分離情報を、データフレーム601〜604のMACヘッダあるいはPHYヘッダを用いて無線端末1〜4に送信していた。本実施形態では、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信するデータフレーム以外の通知フレームを用いて空間分離情報を送信する方法について説明する。
(通知フレームでの空間分離情報の送信)
本実施形態では、アクセスポイント11が、IEEE802.11ac規格で定義されたGroup ID Managementフレームに空間分離情報を追加して送信する方法について説明する。本明細書では、このようなGroup ID Managementフレームを“空間分離情報付きGroup ID Managementフレーム”と呼ぶ。
図11に、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームの一例を示す。
このフレームは、Membership Status Arrayフィールド、User Position Arrayフィールド、共通情報フィールド、端末情報フィールドを含む。
IEEE802.11ac規格では、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信を実現する方法として、同じマルチユーザ送信の対象となる複数の無線端末毎にGroup IDを割り当てている。Membership Status Arrayフィールドは、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームの送信先の無線端末がどのグループに属するかを通知するためのフィールドである。図11では、Group ID0〜63のグループに関する所属情報を通知している。例えば、Membership Status Arrayフィールドにおける「Membership Status In Group ID 1」が“0”の場合は、この無線端末がGroup ID1には属さないことを表しており、“1”の場合は、Group ID1に属することを表している。
User Position Arrayフィールドは、各グループにおける無線端末のユーザポジションを通知するためのフィールドである。図11では、Group ID0〜63のグループにおけるユーザポジションを通知している。例えば、User Position Arrayフィールドにおける「User Position In Group ID 1」が“1”の場合は、Group ID1における無線端末のユーザポジションが“1”であることを表している。無線端末は複数のグループに属することも可能であり、この際、グループ毎にユーザポジションが異なることも可能である。
共通情報フィールドおよび端末情報フィールドには、第1の実施形態と同様に、空間分離情報として無線端末1〜4に共通で通知する情報および無線端末別に通知する情報がそれぞれ格納される。
共通情報フィールドには、行列(1)や(2)のような直交行列を格納することができる。ここで、アクセスポイント11は、Group ID毎に異なる直交行列を格納するようにしてもよい。例えば、グループに属する無線端末数が2のGroup ID1には行列(1)を通知し、グループに属する無線端末数が2のGroup ID3には行列(1)とは異なる2x2の行列を通知することができる。また、グループに属する無線端末数が4のGroup ID3には行列(2)を通知する。
端末情報フィールドには、各無線端末へのプリアンブルパターン指定の一例として、直交行列の行番号(または列番号)を格納する。ここで、アクセスポイント11は、無線端末のユーザポジションに応じて、指定するプリアンブルパターンを変更してもよい。例えば、ユーザポジション“0”の場合は行列(1)の1行目、ユーザポジション“1”の場合は行列(1)の2行目などのように指定することができる。また、Group ID1のユーザポジション1の場合は行列(1)の1行目、Group ID2のユーザポジション1の場合は2行目などのように、Group IDとユーザポジションを組み合わせてプリアンブルパターンを指定してもよい。
アクセスポイント11は、データフレーム601〜604をダウンリンクマルチユーザMIMO送信する前に、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームを無線端末1〜4に送信しておく。空間分離情報付きGroup ID Managementフレームの送信は、一例としてユニキャストで行う。アクセスポイント11は、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームをアソシエーション時に送信することができる。また、各グループに属する無線端末を再編した場合、空間分離情報を更新した空間分離情報付きGroup ID Managementフレームを再度送信するようにしてもよい。
アクセスポイント11は、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームに、複数の無線端末向けのGroup ID、ユーザポジションおよび空間分離情報を格納してもよい。この場合、アクセスポイント11は、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームをブロードキャストあるいはマルチキャストで送信することができる。
なお、図11におけるフレームフォーマットは一例であり、他のフォーマットを用いてもよい。例えば、共通情報フィールドと端末情報フィールドとを入れ替えてもよいし、これらのフィールドが挿入される位置を変更してもよい。共通情報フィールドおよび端末情報フィールドを統合した別のフィールドを設けてもよい。また、空間分離情報を他のフィールドの予約領域に格納してもよい。
また、本実施形態では、IEEE802.11規格で定義されたGroup ID Managementフレームに空間分離情報を追加したが、空間分離情報を通知するフレーム(通知フレーム)を新たに定義してもよい。なお、図11では示していないが、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームおよび新たに定義した通知フレームにも、送信元および送信先に応じたアドレスを格納することができる。また、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームを、データフレーム601〜604を無線端末1〜4にダウンリンクマルチユーザMIMO送信した後に、無線端末1〜4に送信してもよい。この際、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームを、上述したのと同様に、端末毎にユニキャスト送信する方法、および、ブロードキャストまたはマルチキャスト送信する方法のいずれも可能である。この場合、無線端末1〜4がアップリンクマルチユーザMIMO送信を行うタイミングは、任意の方法で定めればよい。例えば、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームをブロードキャストまたはマルチキャスト送信する場合、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームの受信完了から所定の時間後を送信タイミングとしてもよい。また、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームの送信に要する時間を考慮して、データフレーム601〜604の受信完了からの経過時間で定めてもよい。または、共通情報フィールドにアップリンクマルチユーザMIMO送信を行うタイミングに関する情報を設定してもよい。変形例として、共通情報フィールドに当該情報が設定されている場合は、当該情報に従って端末はアップリンクマルチユーザMIMO送信タイミングを決定し、設定されていない場合は、事前に定めた方法でアップリンクマルチユーザMIMO送信タイミングを決定する(例えばダウンリンクマルチユーザ送信されたデータフレームの受信完了から予め定めた時間後を送信タイミングとする)ことなども可能である。ここで述べた以外の方法で定めてもよい。
(BAフレームのアップリンクマルチユーザMIMO送信)
アクセスポイント11は、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームを送信後、データフレーム601〜604をダウンリンクマルチユーザMIMO送信する。ここで、アクセスポイント11は、データフレーム601〜604のPHYヘッダあるいはMACヘッダに、無線端末1〜4が属するGroup IDおよびユーザポジション毎のストリーム数を格納することができる。
データフレームを受信した無線端末1〜4は、第1の実施形態と同様に、アクセスポイント11から受信したデータフレームに対するCRCをチェックし、データフレームが誤り無く受信できたか否かを検査する。そして、一定時間T1の経過後、アクセスポイント11に対してBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信する。
この際、各無線端末は、データフレームのPHYヘッダあるいはMACヘッダに格納されたGroup IDと、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームで予め通知された空間分離情報を参照して、BAフレームのプリアンブルフィールドに設定するプリアンブルパターン(ビット列)を選択する。プリアンブルパターンの選択にユーザポジション情報が必要な場合は、各無線端末は、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームで通知されたGroup ID毎のユーザポジション情報を参照してプリアンブルパターンを特定することができる。
(フローチャート)
図12は、本実施形態に係るアクセスポイント11に搭載された制御部101の基本的な動作例のフローチャートである。
ステップS21では、制御部101は、データフレーム601〜604の共通情報フィールドおよび端末情報フィールドに格納する空間分離情報を生成する。直交行列やプリアンブルパターン指定に関する規定等が内部メモリに記憶されている場合は、内部メモリから読み出す。
ステップS22では、制御部101は、ステップS21で生成した空間分離情報を共通情報フィールドおよび端末情報フィールドに格納した空間分離情報付きGroup ID Managementフレーム(通知フレーム)を生成し、無線通信部105を介して送信する。
ステップS23では、制御部101は、無線通信部105を介して、データフレーム601〜604を空間多重で送信(ダウンリンクマルチユーザMIMO送信)する。
ステップS24では、制御部101は、データフレーム601〜604に対するBAフレーム611〜614を、無線通信部105を介して受信する。BAフレーム611〜614は、無線端末1〜4から空間多重で送信(アップリンクマルチユーザMIMO送信)される。
ステップS25では、制御部101は、受信したBAフレーム611〜614のプリアンブルフィールド501を参照し、各BAフレームを空間的に分離する。
図13は、本実施形態に係る無線端末に搭載された制御部201の基本的な動作例のフローチャートである。
ステップS31では、制御部201は、無線通信部205を介して、アクセスポイント11から送信された空間分離情報付きGroup ID Managementフレーム(通知フレーム)を受信する。制御部201は、受信した空間分離情報付きGroup ID Managementフレームから空間分離情報を取得する。
ステップS32では、制御部201は、無線通信部205を介して自端末宛てのデータフレームを受信する。データフレームはアクセスポイント11から空間多重で送信される。
ステップS33では、制御部201は、ステップS31で取得した空間分離情報に基づいて、BAフレームを生成する。BAフレームのプリアンブルフィールドには、空間分離情報で指定されたプリアンブルパターンを設定する。
ステップS34では、制御部201は、無線通信部205を介して、送達確認応答フレームを送信する。ここで、無線端末1〜4は、同一周波数帯域を用いて同時に送達確認応答フレームを送信する(アップリンクマルチユーザMIMO送信)。
以上、第2の実施形態によれば、アクセスポイントは、送達確認応答フレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信するために必要な情報を、データフレームの送信前に各無線端末に対して事前に通知する。これにより、アクセスポイントは、複数の無線端末からアップリンクマルチユーザMIMO送信された送達確認応答フレームの分離が可能になる。
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態では、アップリンクマルチユーザMIMO送信を行う各無線端末からの送信がそれぞれ1ストリームであった。同様に、アクセスポイントから各無線端末へのダウンリンクマルチユーザMIMO送信もそれぞれ1ストリームであった。本実施形態では、2以上のストリームの送信または受信が可能な無線端末が存在する場合、つまり、MIMO送信または受信が可能な無線端末が存在する場合の実施形態を示す。
図14(A)および図14(B)に、2以上のストリームの送信および受信が可能な無線端末、すなわちMIMO送信および受信が可能な無線端末が存在する場合の無線通信システムの一例を示す。
図14(A)では、無線端末1が3つのアンテナ、無線端末2が1つのアンテナを備えている。無線端末1は3ストリームをアクセスポイント11からMIMOで受信し、無線端末2は1ストリームをアクセスポイント11から受信する。図14(B)では、無線端末1と無線端末2がそれぞれ2つのアンテナを備え、それぞれ2ストリームをアクセスポイント11からMIMOで受信する。
図14(A)および図14(B)のいずれの場合も、アクセスポイント11からのダウンリンクマルチユーザMIMOにおける総ストリーム数は4である。図1では、ダウンリンクにおけるユーザ多重数が4であるのに対して、図14(A)および図14(B)の例ではユーザ多重数は2となる。
なお、MIMO対応可能な無線端末に搭載の無線通信装置のブロック構成は、図7に示したものと同様となる。その構成および動作はこれまでのアクセスポイントのMIMO動作の説明から自明であるため、説明を省略する。
(1ストリームでのBAフレームの送信)
図14(A)の無線端末1および図14(B)の無線端末1、2は、アクセスポイント11から複数のストリームでデータフレームを受信後、それぞれ1ストリームでBAフレームをマルチユーザMIMO送信することができる。この場合、ダウンリンクマルチユーザMIMOのストリーム数は4であるのに対し、アップリンクマルチユーザMIMOのストリーム数は2となる。つまり、アップリンクにおけるストリーム数は、ダウンリンクにおけるユーザ多重数と等しくなる。各無線端末1ストリームでBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信することは、例えば、IEEE802.11規格で規定することができる。
アクセスポイント11は、無線端末1および2に対して空間分離情報を通知するために、共通情報フィールドにユーザ多重数およびそれに応じた直交行列を、端末情報フィールドに各無線端末が使用する直交行列の行番号(または列番号)を格納することができる。例えば、図14(A)では、ユーザ多重数は2になるため、共通情報フィールドに行列(1)を、端末情報フィールドに「無線端末1は1行目、無線端末2は2行目」などの情報を格納することができる。これら空間分離情報の通知には、第1および第2の実施形態で説明した方法(MACヘッダ、PHYヘッダ、空間分離情報付きGroup ID Managementフレーム)を用いることができる。
無線端末1および2は、アクセスポイント11から通知された空間分離情報に基づいて自端末が使用するプリアンブルパターンを特定し、複数ストリームで受信したデータフレームに対するBAフレームを、それぞれ1ストリームでアップリンクマルチユーザMIMO送信する。プリアンブルパターンの特定および利用方法は、第1乃至第2の実施形態と同様のため説明を省略する。
また、アクセスポイント11は、空間分離情報として、ユーザポジションごとのプリアンブルパターン情報を通知することもできる。例えば、Group ID1に属する無線端末数が4、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信の総ストリーム数が5、ユーザポジション0〜3に属する無線端末に対するダウンリンクのストリーム数がそれぞれ2、0、2、1である場合(ユーザポジション1の無線端末にはデータフレームの送信がない)、データフレームを受信したユーザポジション0、2、3に属する無線端末は、それぞれ1ストリームでBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信する。
この場合、アクセスポイント11は、空間分離情報として、ユーザ多重数3およびそれに応じた3x3の直交行列を共通情報フィールドで通知し、各無線端末が使用する行番号(または列番号)を端末情報フィールドで通知すればよい。各無線端末は、アクセスポイント11から指定された空間分離情報を利用して、各端末が使用するプリアンブルパターンを特定する。
また、ユーザポジションが小さい無線端末から直交行列の行番号を昇順に割り当てる、等のルールを規定してもよい。この場合、アクセスポイント11は、空間分離情報として、3x3の直交行列およびユーザポジション毎のダウンリンクのストリーム数を通知すればよい。各無線端末は、ユーザポジション毎のストリーム数を把握することにより、ユーザ多重数を把握し、自装置が使うプリアンブルパターンを特定できる。例えば、Group ID1に属する無線端末数が4、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信の総ストリーム数が5、ユーザポジション0〜3に属する無線端末に対するダウンリンクのストリーム数がそれぞれ2、0、2、1である場合、ユーザポジション0に属する無線端末は3x3行列の1行目、ユーザポジション2に属する無線端末は3x3行列の2行目、ユーザポジション3に属する無線端末は3x3行列の3行目などのようにプリアンブルパターンを特定できる。なお、行列の値がIEEE802.11規格で予め定められており、無線端末1〜4が内部メモリにその値を記憶している場合、アクセスポイント11は、無線端末1〜4に対して行列の値を送信する必要はなくなる。
無線端末1〜4は、アクセスポイント11から明示的あるいは暗示的に通知されたアップリンクのユーザ多重数(総ストリーム数)を参照し、対応する行列を内部メモリから読み出すことができる。なお、暗示的な通知の例として、アクセスポイント11はユーザポジション毎のダウンリンクのストリーム数を通知する。各無線端末はストリーム数が0以外の無線端末数をカウントすることで、アップリンクにおけるユーザ多重数(総ストリーム数)を取得できる。
(複数ストリームでのBAフレームの送信)
図14(A)および(B)の無線端末1、2は、アクセスポイント11から受信したストリームと同数のストリームでBAフレームを送信することができる。例えば、図14(A)の場合、無線端末1は3ストリームでBAフレームを送信し、無線端末2は1ストリームでBAフレームを送信する。
アクセスポイント11は、無線端末1および2に対して、共通情報フィールドでアップリンクにおけるストリームの総数およびそれに応じた直交行列を、端末情報フィールドで各無線端末が使用する直交行列の行番号(または列番号)を通知することができる。図14(B)では、アップリンクマルチユーザMIMOにおけるストリームの総数は4になるため、共通情報フィールドに行列(2)を、端末情報フィールドに「無線端末1は1、2行目、無線端末2は3、4行目」などの情報を格納することができる。これら空間分離情報の通知には、第1および第2の実施形態で説明した方法(MACヘッダ、PHYヘッダ、空間分離情報付きGroup ID Managementフレーム)を用いることができる。
無線端末1および2は、アクセスポイント11から通知された空間分離情報に基づいて自端末が使用するプリアンブルパターンを特定し、それぞれ受信したデータフレームと同数のストリームでBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信することができる。
また、アクセスポイント11が、空間分離情報として各無線端末がアップリンクマルチユーザMIMO送信する際に使用するストリーム数を通知するようにしてもよい。例えば、図14(B)において、「無線端末1は1ストリーム、無線端末2は2ストリーム」のような情報を通知する。ストリーム数の通知には、共通情報フィールド、端末情報フィールド、あるいはその他フィールドを利用することができる。無線端末1および2は、通知されたストリーム数に応じてBAフレームを送信する際のストリーム数を決定する。その際、「無線端末1は1ストリーム、無線端末2は1ストリーム」のように1ストリームでの送信を通知することも可能である。
なお、アクセスポイント11が指定するストリームの総数は、アクセスポイント11の受信能力(アンテナ数)を超えない範囲で調整可能である。また、各無線端末に指定するストリーム数も各無線端末の受信能力(アンテナ数)を超えない範囲で調整可能である。
この他にも、アクセスポイント11から受信したストリーム数と同数のストリームでBAフレームを送信する等のルールを規定することもできる。例えば、Group ID1に属する無線端末数が4、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信の総ストリーム数が5、ユーザポジション0〜3に属する無線端末に対するダウンリンクのストリーム数がそれぞれ2、0、2、1である場合(ユーザポジション1の無線端末にはデータフレームの送信がない)、ユーザポジション0、2、3に属する無線端末は、それぞれ2ストリーム、2ストリーム、1ストリームでBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信する。この場合もユーザポジションが小さい無線端末から直交行列の行番号を昇順に割り当てる等のルールを規定し、各無線端末がこのルールに基づいてプリアンブルパターンを特定するようにしてもよい。
なお、行列の値がIEEE802.11規格で予め定められており、無線端末1〜4が内部メモリにその値を記憶している場合、アクセスポイント11は、無線端末1〜4に対して行列の値を送信する必要はなくなる。無線端末1〜4は、アクセスポイント11から直接的あるいは間接的に通知された総ストリーム数を参照し、対応する行列を内部メモリから読み出すことができる。
(ストリーム数の通知方法)
MIMO送信を行うことが可能な無線端末が存在する場合、アクセスポイント11の制御部101は、共通情報フィールドを用いて、BAフレームを送信する際の総ストリーム数を(明示的または暗示的に)指定するのに加えて、端末情報フィールドを用いて、各無線端末に対してそれぞれ送信許可するストリーム数を指定することができる。また、無線端末に送信許可するストリーム数だけ、直交行列の行番号(または列番号)を端末情報フィールドで指定することも可能である。なお、アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末が対応可能なストリーム数を、例えばアソシエーション時に各無線端末から取得してもよい。
アクセスポイント11の制御部101は、総ストリーム数の指定を、共通情報フィールドで行ってもよい。または、端末情報フィールドに他の無線端末の情報が含まれている場合、各無線端末向けの行番号(または列番号)の総数を計算することで総ストリーム数を把握できることから、総ストリーム数の明示的な通知を省略してもよい。
以下、ストリーム数を暗示的に通知する例を示す。例えば、図14(A)に示したように、無線端末1が3ストリーム、無線端末2が1ストリームの、総ストリーム数4のアップリンクマルチユーザMIMO送信の場合を考える。
アクセスポイント11の制御部101は、無線端末1に対応する端末情報フィールドに、直交行列の行番号1、2、3を設定する。これにより、無線端末1は自装置が3ストリームの送信を許可されていることを把握する。また、無線端末1は、総ストリーム数4に対応する直交行列の行番号1、2、3の各行[1, −1, 1, 1]、[1, 1, −1, 1]、[1, 1, 1, −1]に基づくプリアンブルパターンを各ストリームで用いることを把握する。上述したように、アクセスポイント11の制御部101は、総ストリーム数を共通情報フィールドで明示的に通知してもよいし、通知を省略してもよい。
ここで、送信許可するストリーム数を各端末情報フィールドにて明示的に通知する場合には、直交行列の行番号(または列番号)の通知を省略する構成も可能である。例えば、端末情報フィールド1に対応する無線端末のストリーム数が3であり、端末情報フィールド2に対応する無線端末のストリーム数が1であるとする。この場合には、端末情報フィールド1に対応する無線端末は、直交行列の1行目から3行目、端末情報フィールド2に対応する無線端末は4行目を用いるようにする。各無線端末は、自装置よりフィールド番号が小さい端末情報フィールドに格納されているストリーム数を合計し、合計値に1を加算することで、当該自装置が使用する行番号(または列番号)の開始値を算出できる。つまり、端末情報フィールドの小さい無線端末から順番に、直交行列の行また列を番号の昇順に割り当てる仕組みを採用することで、各無線端末に使用する行番号(または列番号)の通知を省略できる。
ここで、各無線端末に許可するストリーム数が共通の値に限られる場合には、共通情報フィールドにて共通のストリーム数を指定するようにし、各端末情報フィールドでの個別のストリーム数の通知は行わなくてもよい。この場合も、アップリンクマルチユーザMIMOの総ストリーム数は、共通情報フィールドで明示的に通知してもよい。あるいは、共通情報フィールドでの明示的な通知を行わず、共通のストリーム数と、各端末情報フィールドの個数とから、各無線端末が総ストリーム数を把握するようにしてもよい。
以上、本実施形態によれば、各無線端末に許可するストリーム数を直接または間接に指定することにより、各無線端末がそれぞれMIMO送信も併用可能となる。もし仮に、各無線端末に許可するストリーム数の指定を行わないとすると、アップリンクマルチユーザMIMOで送信される総送信ストリームの合計が、アクセスポイントで分離できる能力以上のストリーム数で送られることになり得る。また、各無線端末が、他の無線端末と重複しないプリアンブルパターンを選択できなくなる可能性もある。本実施形態では、各無線端末に許可するストリーム数を指定することより、これらの問題を解消することが可能となる。
(第4の実施形態)
第1乃至第3の実施形態では、各無線端末から互いに直交するプリアンブルパターンを送信することで、アクセスポイントでアップリンクの伝搬路応答行列を推定できるようにした。本実施形態では、各無線端末が直交する周波数キャリアを用いてプリアンブルパターンを送信することで、アップリンクの伝搬路応答行列を推定できるようにする。ここでは、マルチキャリア変調方式、特にOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を用いる場合を想定する。なお、前述した第1乃至第3の実施形態では、マルチキャリア変調方式およびシングルキャリア変調方式のいずれも対応可能である。
図15に、本実施形態に係るBAフレームの概略構成例を示す。無線端末1〜4が送信するBAフレームの概要構成例が示される。第1の実施形態と同様、BAフレームにはプリアンブルフィールド501が含まれるが、プリアンブルパターンとして設定される値が第1の実施形態と異なっている。
各BAフレームのプリアンブルフィールド501は複数の区間からなり、各区間にはキャリアパターンP1、P2、P3、P4がそれぞれ異なる順番で割り当てられている。1つの区間は1つのOFDMシンボル区間に対応する。
キャリアパターンP1は、OFDM変調のサブキャリアf1、f5、f9を用いてプリアンブルパターンを送信することを表す。キャリアパターンP2は、OFDM変調のサブキャリアf2、f6、f10を用いてプリアンブルパターンを送信することを表す。キャリアパターンP3は、OFDM変調のサブキャリアf3、f7、f11を用いてプリアンブルパターンを送信することを表す。キャリアパターンP4は、OFDM変調のサブキャリアf4、f8、f12を用いてプリアンブルパターンを送信することを表す。
各サブキャリアで送信するプリアンブルパターンは、アクセスポイント11で既知である限り任意でよい。すべてのサブキャリアで同一のデータでもよいし、サブキャリアごとに異なるデータでも構わない。
各区間には、それぞれ左から順にタイミングt1、t2、t3、t4が設定されている。タイミングt1、t2、t3、t4は、プリアンブルフィールド501の該当する区間での送信タイミングを表している。各無線端末で、同じタイミングの区間では、キャリアパターンは、互いに異なっている。つまり、タイミングt1、t2、t3、t4の各々で、各無線端末がプリアンブルパターンの送信に使用するサブキャリアは、それぞれ周波数的に直交している。つまり、各無線端末のサブキャリアは互いに干渉しない。OFDMの場合、サブキャリアの周波数はお互いのサブキャリアが直交するように選ばれることから、同じサブキャリアを使用しない限り、各無線端末のサブキャリアは互いに干渉しない。
例えば、タイミングt1では、無線端末1のサブキャリアはf1、f5、f9、無線端末2のサブキャリアはf2、f6、f10、無線端末3のサブキャリアはf3、f7、f11、無線端末4のサブキャリアはf4、f8、f12である。無線端末間でサブキャリアは重複しないから、無線端末間でサブキャリアが直交する。他のタイミングt2〜t4についても同様に、無線端末間でサブキャリアが直交する。無線端末1〜4には、それぞれP1〜P4の全てが異なる順序で割り当てられるから、無線端末1〜4のいずれも、f1〜f12のすべてのサブキャリアで互いに干渉することはない。このように無線端末間で同じ区間(タイミング)では異なるサブキャリアを用いるようにしつつ、区間に応じて使用するサブキャリアを切り換えることをトーンインターリーブと呼ぶ場合もある。
具体的な動作例として、タイミングt1では、無線端末1の制御部201は、サブキャリアf1、f5、f9にはプリアンブルパターンを割り当て、他のサブキャリアには例えばヌルデータを割り当てることでOFDMシンボルを生成し、送信する。同様に、無線端末2の制御部201は、サブキャリアf2、f6、f10にはプリアンブルパターンを割り当て、他のサブキャリアには例えばヌルデータを割り当てることでOFDMシンボルを生成し、送信する。無線端末3の制御部201は、サブキャリアf3、f7、f11にはプリアンブルパターンを割り当て、他のサブキャリアには例えばヌルデータを割り当てることでOFDMシンボルを生成し、送信する。無線端末4の制御部201は、サブキャリアf4、f8、f12にはプリアンブルパターンを割り当て、他のサブキャリアには例えばヌルデータを割り当てることでOFDMシンボルを生成し、送信する。
アクセスポイント11では、各無線端末1〜4からのOFDMシンボルを、各アンテナで同時に受信する。アクセスポイント11の受信部103または制御部101は、アンテナ毎に受信信号を復調することで、サブキャリア毎の信号を取得できる。具体的に、タイミングt1に関して、無線端末1についてはサブキャリアf1、f5、f9、無線端末2についてはサブキャリアf2、f6、f10、無線端末3についてはサブキャリアf3、f7、f11、無線端末4についてはサブキャリアf4、f8、f12についての信号を取得できる。他のタイミングt2〜t4についても同様にして、各無線端末で、順次異なるキャリアパターンに基づき、OFDMシンボルを生成し、送信する。これにより、アクセスポイント11の制御部101は、無線端末1〜4について、全ての周波数サブキャリアf1〜f12の信号をそれぞれ取得でき、よってアップリンクの伝搬路応答行列を推定することが可能となる。
このように、各無線端末間で互いに直交するサブキャリアを用いてプリアンブルパターンを送信するためには、使用するキャリアパターンの順序や、キャリア毎に使用するプリアンブルパターンの情報を、各無線端末に通知する必要がある。
通知の方法としては、第1乃至第3の実施形態と同様に、アクセスポイント11の制御部101が、データフレーム601〜604のMACヘッダ、PHYヘッダ、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームの共通情報フィールドまたは端末情報フィールドまたはこれらの両方を利用して、無線端末ごとのキャリアパターンの順序や、サブキャリア毎のプリアンブルパターンなどの空間分離情報を通知することができる。なお、プリアンブルパターンがすべての無線端末、およびすべてのサブキャリアで同じ固定のものである場合は、通知を省略してもよい。
通知の具体例として、キャリアパターンP1〜P4のそれぞれごとに、使用するサブキャリアの番号と、当該サブキャリアに割り当てるプリアンブルパターンとの対応を表した情報を共通情報フィールドで通知してもよい。また、無線端末別の端末情報フィールドで、P1〜P4の順序に関する情報を通知してもよい。
通知の方法は、上述した実施形態と同様の考え方で、種々の形で拡張または変形が可能である。例えば、共通情報フィールドや各端末情報フィールドで明示的に通知する方法以外にも、無線端末別の端末情報フィールドの個数や、総送信ストリームの数などを利用して、暗示的に通知することも可能である。
なお、プリアンブルパターンを送信するサブキャリアとしてf1〜f12を用いたが、これは一例であり、より多数または少数のサブキャリアを用いてプリアンブルパターンを送信してもよい。また、データ部を送信するサブキャリアは、プリアンブルパターンを送信したサブキャリアと同じサブキャリアでもよいし、これらとは別のサブキャリアでもよい。別のサブキャリアを用いる場合は、アクセスポイント11では、プリアンブルパターンを送信したサブキャリアの伝搬路応答から、後続するデータ部(MACフレーム部)用のサブキャリアの伝搬路応答を任意の方法で予測して求めればよい。例えばデータ部用のサブキャリアのそれぞれについて、プリアンブルパターンを送信したサブキャリアのうち最も周波数的に近いものと同じ伝搬路応答を採用してもよい。
この他にも、各無線端末が異なるタイミングでプリアンブルパターンを送信することで、アップリンクの伝搬路応答行列を推定することができる。
図16に、異なるタイミングでプリアンブルパターンを送信する場合のBAフレームの概略構成例を示す。キャリアパターン“P−ALL”は、OFDM変調の全てのサブキャリアf1〜f12を用いてプリアンブルパターンを送信することを表す。“NULL”はプリアンブルパターンを送信しないことを表す。プリアンブルパターンは、アクセスポイント11で既知である限り任意でよい。タイミングt1では無線端末1が、t2では無線端末2が、t3では無線端末3が、t4では無線端末4がそれぞれプリアンブルパターンを送信することにより、時間的に直交したプリアンブルパターンの送信が可能になる。
アクセスポイント11では、タイミングt1では無線端末1、t2では無線端末2、t3では無線端末3、t4では無線端末4からのプリアンブルパターンを受信する。これにより、アクセスポイント11の制御部101は、無線端末1〜4について、全ての周波数サブキャリアf1〜f12の信号を取得でき、アップリンクの伝搬路応答行列を推定することが可能となる。
このように、各無線端末間で異なるタイミングを用いてプリアンブルパターンを送信するためには、各無線端末の送信タイミングや使用するプリアンブルパターンなどの空間分離情報を、各無線端末に通知する必要がある。
通知の方法としては、第1乃至第3の実施形態と同様に、アクセスポイント11の制御部101が、データフレーム601〜604のMACヘッダ、PHYヘッダ、空間分離情報付きGroup ID Managementフレームの共通情報フィールドまたは端末情報フィールドまたはこれらの両方を利用することができる。
以上、本実施形態によれば、各無線端末が直交する周波数キャリアを用いてプリアンブルパターンを送信する。また、各無線端末がタイミングをずらしてプリアンブルパターンを送信する。これにより、アクセスポイント11は、アップリンクの伝搬路応答行列を推定することができる。
(第5の実施形態)
本実施形態では、アクセスポイントが、各無線端末からアップリンクマルチユーザMIMOで送信されるBAフレームを受信するタイミングを調整する方法を示す。
第1の実施形態の説明で述べたように、各無線端末は、データフレーム601〜604の受信から一定時間(図2のT1参照)経過後、BAフレームの送信を行う。アクセスポイントと各無線端末の距離が同一の場合は、基本的にはアクセスポイントでは各無線端末から送信されたBAフレームは同じタイミングにて受信されると考えることができる。
しかしながら、アクセスポイントと各無線端末の距離が異なると、各々の伝搬時間が異なるため、アクセスポイントからの距離が遠い無線端末ほど、アクセスポイントからデータフレームを受信するタイミングが遅延する。また、各無線端末がデータフレームを受信した後、一定時間経過後に送信するBAフレームも、アクセスポイントからの距離が遠い無線端末ほど、アクセスポイントで受信するタイミングに遅延が生じる。
そのため、アクセスポイントと各無線端末間で片方向での最大の遅延時間差をΔtとすると、アクセスポイントで各無線端末からBAフレームを受信するタイミングとしては、最大2×Δtの時間差が生じる。2×Δtの時間差が、OFDM等のガードインターバル(サイクリックプレフィクスと呼ばれる場合もある)内に収まっていれば問題ない。なお、サイクリックプレフィクスは、OFDM以外のマルチキャリア変調方式、あるいは、シングルキャリア変調方式でも用いられ得るものであり、本実施形態はOFDMに限定されるものではない。
しかしながら、ガードインターバルを超えた遅延時間差で各無線端末からのBAフレームを受信すると、アップリンクマルチユーザMIMO送信の特性劣化につながる。
そこで、本実施形態では、アクセスポイントでのBAフレームの受信タイミングを調整する。具体的には、各無線端末からのBAフレームの送信タイミングを調整する。これにより、アクセスポイントおよび各無線端末間の遅延時間差に起因するアップリンクマルチユーザMIMO送信の特性劣化を防止する。
本実施形態に係るアクセスポイント11の制御部101は、データフレーム601〜604の送信前に、事前に各無線端末と通信して、各無線端末との遅延時間を推定しておく。推定する方法は任意の方法で良く、既存の様々な公知技術を用いることが可能である。例えば、アクセスポイント11から測定用フレームを送信して、各無線端末が当該測定用フレームの受信時刻を格納したフレームを返信する。アクセスポイント11の制御部101は、測定用フレームを送信した時刻と、返信されたフレームに格納されている受信時刻との差から遅延時間を測定する。別の例として、アクセスポイント11から測定用フレームを送信して、各無線端末から応答フレームを受信する。測定用フレームを送信した時刻と応答フレームを受信した時刻の差分から遅延時間を測定する。ここで述べた以外の種々の方法を用いることができる。
本実施形態のアクセスポイント11の制御部101は、各端末情報フィールドにて、当該無線端末によるBAフレームの送信タイミングを調整するための時間調整量を指定する。各無線端末の制御部201は、アクセスポイント11から第1乃至第3の実施形態で説明した方法により端末情報フィールドを受信し、通知された時間調整量に従って、BAフレームの送信タイミングを、基準タイミングに対して、早める、あるいは遅くする。基準タイミングは、例えばデータフレームを受信してから一定時間(図2のT1参照)後のタイミングである。各無線端末は、調整後の送信タイミングで、BAフレームを送信する。
ここで、アクセスポイント11が設定する各無線端末の時間調整量は、各無線端末からBAフレームを受信するタイミングが、一定の時間遅延の範囲内に収まるように決定する。一定の時間遅延の範囲は、少なくともガードインターバル以内に設定する。このような時間調整量を設定するために、事前に推定した各無線端末との遅延時間を用いる。
各無線端末の時間調整量は、基準となる無線端末の送信タイミングからの相対時間を用いて設定してもよい。ここで、基準となる無線端末については、所定のタイミング(例えば、データフレームを受信してから一定時間後)を送信タイミングとして設定することができる。基準となる無線端末以外の無線端末は、当該基準となる無線端末の送信タイミングから当該相対時間だけずらしたタイミングで、BAフレームを送信する。
ここで、基準となる無線端末は、任意の方法で指定すればよい。例えば、共通情報フィールドに基準となる無線端末の指定を含めてもよい。または、端末情報フィールド1など、事前に決めた番号の端末情報フィールドに設定されている無線端末を、基準となる無線端末としてもよい。
以上、本実施形態によれば、アクセスポイント11は、BAフレームの送信タイミングを制御することで、アクセスポイント11と各無線端末との通信遅延時間によらず、各無線端末からBAフレームを受信するタイミングを一定範囲(ガードインターバル等)内に収めることができる。
(第6の実施形態)
本実施形態は、アクセスポイントが各無線端末から受信するBAフレームの受信電力のダイナミックレンジを、一定の範囲内に収めることを特徴とする。
これまでの実施形態の説明で述べたように、アクセスポイント11は、各無線端末からBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMOで同時に受信する。このとき、各無線端末の送信電力が同一であったとしても、アクセスポイント11と各無線端末との距離がそれぞれ異なる場合は、信号の減衰レベルの違いにより、それぞれ異なった受信電力でBAフレームを受信する可能性がある。
図17に、無線端末1、2がアクセスポイント11に対して、それぞれ近い位置および遠い位置に配置された状況を示す。この例では、アクセスポイント11に近接した無線端末1の距離減衰量が20dBであり、アクセスポイント11から遠い位置に配置された無線端末2の距離減衰量が60dBである。この場合、アクセスポイント11は、40dBの受信電力差のあるBAフレームを同時に受信することになる。
受信電力の最大値および最小値の比または差である入力ダイナミックレンジが大きくなってしまうと、小さい受信電力のフレームが、AD変換時に量子化雑音に埋もれてしまい、正しく受信できない恐れがある。大きい入力ダイナミックレンジに対応するためには、量子化ビット数が大きいAD変換器を採用すればよいが、量子化ビット数にも限度があり、またコスト高になってしまう。
そこで、本実施形態では、各無線端末から受信するBAフレームの受信電力のダイナミックレンジを、一定の範囲内に収めるように制御することで、上記問題を解決する。
まず、アクセスポイント11の制御部101は、データフレームの送信前に、事前に各無線端末と通信して、各無線端末との距離減衰量を推定する。推定する方法は任意の方法で良く、既存の様々な公知技術を用いることが可能である。例えば、アクセスポイント11の制御部101は各無線端末に特定の送信電力でフレームを送信するよう指示し、当該フレームの受信電力値と、当該特定の送信電力値から距離減衰量(アップリンクの距離減衰量)を推定する。あるいは、アクセスポイント11が一定の送信電力で測定用フレームを送信し、各無線端末から当該測定フレームの受信電力値を格納したフレームを返信する。アクセスポイント11の制御部101は、測定用フレームの送信電力値と、返信されたフレームに格納された受信電力値に基づき距離減衰量(ダウンリンクの距離減衰量)を推定する。本実施形態の目的からアップリンクの距離減衰量を求めることが望ましいが、ダウンリンクとアップリンクの距離減衰量に大きな差異がないと見なせる環境では、どちらの距離減衰量を求めてもかまわない。
アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末との距離減衰量に基づき、伝搬路推定対象となる無線端末により送信されるBAフレームの受信ダイナミックレンジが、一定の範囲内になるように、各無線端末の送信電力を決定する。一定の範囲内のダイナミックレンジは、少なくともアクセスポイント11に実装されているAD変換器の量子化ビット数で対応可能なダイナミックレンジ以内とする。
アクセスポイント11の制御部101は、これまでの実施形態で説明した端末情報フィールドにて、伝搬路推定対象となる無線端末の指定を行うとともに、当該無線端末に対して決定した送信電力に関する情報(送信電力情報)を設定する。送信電力情報は、各無線端末が送信すべき送信電力値そのもので表してもよいし、通常の送信で使用する送信電力(通常送信電力)に対する相対値で表してもよい。
上述した説明では、各無線端末の送信電力はアクセスポイント11が決定したが、各無線端末において送信電力を決定する構成も可能である。以下、この一例を示す。
第1の例として、アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末について推定した距離減衰量を、データフレームの各端末情報フィールドで各無線端末に通知する。各無線端末の制御部201は、各端末情報フィールドで通知された距離減衰量に応じて、BAフレームの送信電力を決定する。例えば、アクセスポイント11でのBAフレームの受信電力が、特定の値または特定の範囲内となるように、送信電力を決定する。この場合、データフレーム601〜604の共通情報フィールドにて、アクセスポイント11で期待する受信電力の値または範囲を通知してもよい。アクセスポイント11で期待する受信電力の値または範囲が予め決まっている場合には、通知を省略してもよい。
第2の例として、アクセスポイント11の制御部101は、データフレームの共通情報フィールドに、当該フレームの送信電力値と、アクセスポイント11が期待する各無線端末からのBAフレームの受信電力値(期待受信電力値)を設定する。アクセスポイント11の制御部101は、このように設定したデータフレームを、共通情報フィールドに設定した送信電力値で送信する。なお、データフレームの送信電力値や、BAフレームの期待受信電力値が、予め決められた固定値である場合には、アクセスポイント11の制御部101は、これらの値の通知を省略してもよい。
アクセスポイント11からデータフレームを受信した各無線端末の制御部201は、データフレームの受信電力を測定する。各無線端末の制御部201は、測定した受信電力値と、共通情報フィールドで通知された送信電力値とに基づき、アクセスポイント11から各無線端末への距離減衰量を把握する。
各無線端末の制御部201は、それぞれ把握した距離減衰量を基に、アクセスポイント11でのBAフレームの受信電力値が、データフレームで通知された期待受信電力値になるよう、BAフレームの送信電力を決定する。各無線端末の制御部201は、それぞれ決定した送信電力により、BAフレームを送信するよう制御する。なお、アクセスポイント11から無線端末へのダウンリンクの距離減衰量と、無線端末からアクセスポイント11へのアップリンクの距離減衰量は通信環境によっては厳密には一致するとは限らないが、概ね一致するとみなせる環境では、このような方法も可能である。あるいは、任意の方法で係数を乗じることでダウンリンクの距離減衰量を調整することにより、アップリンクの距離減衰量を推定することも可能である。
本実施形態では、アクセスポイント11がデータフレームを用いて受信電力値を調整する方法について説明したが、第2の実施形態における空間分離情報付きGroup ID Managementフレームや他のフレームを用いることもできる。
以上、本実施形態によれば、アクセスポイントが各無線端末から送信されるBAフレームの送信電力を制御することにより、アクセスポイントで受信電力値が一定のダイナミックレンジ内に収まるように、各無線端末から送信されるBAフレームを受信できる。
(第7の実施形態)
本実施形態では、アクセスポイントおよび無線端末間でOFDM伝送を行う場合を考える。OFDM伝送においては、サブキャリア間干渉を防止するため、サブキャリア間の直交性を保つ必要がある。サブキャリア間の直交性を保つには、送信側装置と受信側装置の間で、周波数同期を必要とする。しかしながら、送信装置および受信装置間で、発振周波数のズレやドップラー偏移により、サブキャリア群の周波数オフセットが生じることがある。このことは、OFDM伝送の特性を悪くする要因となる。
特に、アップリンクマルチユーザMIMO送信の場合には、アクセスポイントは複数の無線端末から同時にフレームを受信する。このため、アクセスポイントは、無線端末ごとに異なった周波数オフセットが生じたフレームを同時に受信する場合もあり得る。この場合、周波数オフセットは、通常の送信(単一ストリームの送信)に比べ、より特性劣化の要因に繋がってしまう。
そこで、本実施形態は、アクセスポイントが各無線端末のサブキャリアの周波数オフセットを各々の使用周波数(基準周波数)に対し一定範囲内に収まるように制御することで、アップリンクマルチユーザMIMO送信する際の特性劣化を低減しようとするものである。
まず、アクセスポイント11の制御部101は、データフレーム601〜604を送信する前に、各無線端末と通信して、それぞれのサブキャリアの周波数オフセットの量を推定する。推定する方法は任意の方法で良く、既存の様々な公知技術を用いることが可能である。例えば、アクセスポイント11が、使用周波数のサブキャリア群を各無線端末に送信し、各無線端末から各サブキャリアの受信周波数を格納したフレームを返信する。アクセスポイント11の制御部101は、送信した周波数と、返信されたフレームに記載の受信周波数を比較することで、各サブキャリアの周波数オフセットの量を推定する。あるいは、アクセスポイント11が、使用周波数のサブキャリア群を各無線端末に送信するよう指示し、アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末から受信されたサブキャリア群の周波数と、当該使用周波数との比較により、各サブキャリアの周波数オフセットの量を推定する。各サブキャリアの周波数オフセットが同一または一定範囲内とみなせる場合は、サブキャリア毎の周波数オフセットを算出せずに、OFDM信号の中心周波数(チャネル帯域の中心周波数)のオフセット量を推定してもよい。
アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末について推定した各サブキャリアの周波数オフセット量に基づき、無線端末の周波数補正量を決定する。周波数補正量は、アクセスポイント11が各無線端末からBAフレームを受信する際の各サブキャリアの周波数オフセットが、各々の使用周波数に対し、一致または一定の範囲内に収まるように決定する。使用周波数は事前にアクセスポイント11と無線端末で固定的に設定しておいてもよいし、アクセスポイント11が使用周波数を決定して各無線端末に通知しておく構成も可能である。
アクセスポイント11の制御部101は、データフレーム601〜604の端末情報フィールドにて、決定した各サブキャリアの周波数補正量に関する情報(周波数補正情報)を指定する。
周波数補正情報は、周波数をどれだけシフトさせるかを示す絶対的な補正量で表してもよいし、基準となる無線端末の周波数の値に対してどれだけシフトさせるかを示す相対的な補正量で表してもよい。
周波数補正情報が絶対的な補正量の場合は、無線端末の制御部201は、指定された補正量だけサブキャリア群の周波数をシフトさせるよう制御する。シフトさせたサブキャリア群に基づき変調を行うことで、BAフレームを生成する。
周波数補正情報が基準となる無線端末との相対補正量の場合は、基準となる無線端末以外の無線端末の制御部201は、当該基準となる無線端末のシフト後の周波数に対し、当該相対補正量だけ周波数をシフトさせるよう制御する。シフト後の各サブキャリアに基づき、変調を行うことで、BAフレームを生成する。ただし、基準となる無線端末については、絶対補正量を指定する。基準となる無線端末以外の無線端末は、当該基準となる無線端末の絶対補正量に基づき、基準となる無線端末のシフト後の周波数を把握できる。
ここで、基準となる無線端末は、任意の方法で指定すればよい。例えば、共通情報フィールドに基準となる無線端末の指定を含めてもよい。または、端末情報フィールド1など、事前に決めた番号の端末情報フィールドに設定されている無線端末を、基準となる無線端末に特定してもよい。
上述した説明ではサブキャリアごとに周波数を調整する場合を示したが、各サブキャリアのオフセットが同一または一定範囲内とみなせる場合は、全体として同じ量だけ周波数を補正してもよい。この場合は、アクセスポイント11の制御部101は、事前にサブキャリア毎の周波数オフセットを算出せずに、受信したOFDM信号の中心周波数(チャネル帯域の中心周波数)と基準となる中心周波数のずれに基づき補正量を決定すればよい。無線端末では、チャネル帯域の中心周波数をシフトさせるようにサブキャリア群全体を同じ周波数だけシフトすればよい。
本実施形態では、アクセスポイント11がデータフレームを用いて周波数を調整する方法について説明したが、第2の実施形態における空間分離情報付きGroup ID Managementフレームや他のフレームを用いることもできる。
以上、本実施形態によれば、アクセスポイントが各無線端末から送信されるBAフレームの周波数を制御することにより、各無線端末のサブキャリアの周波数オフセットを補正することが可能になる。
(第8の実施形態)
上述した実施形態に関する変形例について説明する。
本変形例では、上述した異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。例えば、空間分離情報の送信に、空間分離情報付きGroup ID Managementフレーム、データフレームのMACヘッダ、PHYヘッダをそれぞれ組み合わせて用いてもよい。
また、空間分離情報は、アップリンクマルチユーザMIMO送信されたBAフレームを空間的に分離するために必要な情報であり、BAフレームのアップリンクマルチユーザMIMO送信方法に関する情報でもある。アクセスポイント11は、空間分離情報を共通情報フィールドおよび端末情報フィールド以外のフィールドに格納することができる。また、各無線端末は、共通情報フィールドおよび端末情報フィールド以外のフィールド(例えば、レガシー規格のフィールド)から空間分離情報を取得してもよい。
アクセスポイント11が各無線端末に使用するプリアンブルパターンを指定する場合を示したが、変形例として、各無線端末が固定のプリアンブルパターンを使用する形態も可能である。この場合、アクセスポイント11は、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信を行うとする際は、直交するプリアンブルパターンを有する無線端末の組を常に特定するようにすればよい。また、空間多重数の変動を許容する場合は、各無線端末は空間多重数に応じた固定のプリアンブルパターンを使用するようにし、アクセスポイント11は空間多重数を特定する情報を各無線端末に通知すればよい。
BAフレーム送信を行う無線端末ごとに端末情報フィールドを設けてもよい。図2の例では、端末情報フィールド数は4つ設けられる。すなわち端末情報フィールド1、端末情報フィールド2、端末情報フィールド3、端末情報フィールド4が設けられる。この場合、端末情報フィールドには、無線端末の識別情報と当該無線端末に通知する空間分離情報を格納することができる。
各無線端末が使用する行番号(または列番号)は、暗示的な方法で通知することもできる。暗示的な通知として、例えば端末情報フィールドのフィールド番号によって、行番号(または列番号)を間接的に通知する方法がある。例えば、端末情報フィールド 1で指定された無線端末(すなわち端末情報フィールド1に自装置の識別情報が設定された無線端末)は、直交行列の1行目、端末情報フィールド2で指定された無線端末は、直交行列の2行目、・・・、端末情報 フィールドnで指定された無線端末は、直交行列のn行目というようにする。
また上述した実施形態ではプリアンブルパターン等の空間分離情報を、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信する複数のデータフレーム601〜604に含めた。より詳細には、データフレームフレーム601〜604の各々のMACヘッダ(またはPHYヘッダ)内の共通情報フィールドまたは端末情報フィールドを介して空間分離情報を通知した。別の方法として、当該空間分離情報を、単独の専用フレーム(ここではトリガーフレームと呼ぶ)に設定し、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信では、1つ以上のデータフレームとトリガーフレームとを集約したアグリゲーションフレームを端末毎に生成し、これらのアグリゲーションフレームをダウンリンクマルチユーザMIMO送信してもよい。つまり、共通情報フィールドおよび端末情報フィールドを図3または図4に示したMACヘッダまたはPHYヘッダから取り除き、トリガーフレームとして専用のフレームにこれらのフィールドを用意する。トリガーフレームの構成例は図23のようになる。共通情報フィールドおよび端末情報フィールドは、フレームボディフィールド内でもよいし、MACヘッダ内でもよい。また、共通情報フィールドおよび端末情報フィールドが、物理ヘッダ内に配置されることを許容してもよい。フレームコントロールフィールド(FC)のTypeフィールドは、Control、Subtypeフィールドは、新規に定義した値を設定してもよい。または、Subtypeフィールドは既存の規格の値を流用し、共通情報フィールドおよび端末情報フィールドを、既存の規格で定義されたフレームの予約領域に設定することも可能である。また図24に、データフレームとトリガーフレームをアグリゲートしたアグリゲーションフレームの構成を概略的に示す。複数のデータフレームとトリガーフレームとがデリミタ(図示せず)によって互いに連結されることでアグリゲーションフレームが構成される。なおデータフレーム数は1でもよい。トリガーフレームのRAは、受信先の端末のMACアドレスでよい。
アクセスポイントからダウンリンクマルチユーザMIMO送信された複数のアグリゲーションフレームは、それぞれ該当する端末で受信される。端末は、アグリゲーションフレーム内の1つ以上のデータフレームのCRC検査を行うとともに、トリガーフレームから空間分離情報を取得する。この後の処理は、これまでの実施形態と同様である。例えば、端末は、CRC検査の結果に基づき、BAフレームを生成し、物理ヘッダのプリアンブルフィールドに空間分離情報に応じたプリアンブルパターンを設定して、物理ヘッダを付加したBAフレームをアクセスポイントに、アグリゲーションフレームの受信完了から時間T1後に送信する。また、端末は、別の動作例として、BAフレームと他のフレームとを集約したアグリゲーションフレームを送信してもよい。他のフレームはデータフレームでもよいし、管理フレーム等、別のフレームでもよい。この場合に、各端末から送信されるパケット長(PPDU(Physical layer Convergence Protocol Protocol Data Unit)長等)が揃うように、アクセスポイントは、トリガーフレームの共通情報フィールドまたは端末情報フィールドで、端末が送信するパケット長に関する情報を設定してもよい。指定されたパケット長に満たない場合に、フレームの末尾にパディングデータを付加してもよい。
また、上述した実施形態では、ダウンリンクのユーザ多重送信方式として、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信を行ったが、別の方式を用いてダウンリンク送信を行い、これに対して複数の端末からBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信してもよい。例えば、別の方式として、端末ごとに異なる周波数成分を通信リソースとして用いて、複数の端末宛ての送信を同時に行う周波数多重通信がある。より詳細に、周波数成分を、1つまたは複数のサブキャリアを含むリソースユニットとして定義し、リソースユニットを最小単位の通信リソースとして用いて、複数の端末宛ての送信または複数の端末からの受信を同時に行う直交周波数分割多元接続方式(OFDMA;Orthogonal Frequency Division Multiple Access)がある。アクセスポイントから複数の端末宛ての同時送信はダウンリンクOFDMA送信、複数の端末からアクセスポイントへの同時送信はアップリンクOFDMA送信に相当する。
図25に、1つのチャネル(ここではチャネルMと記述している)の連続した周波数領域内に確保したリソースユニット(RU#1、RU#2、・・・RU#K)を示す。チャネルMには、互いに直交する複数のサブキャリアが配置されており、1つまたは複数の連続するサブキャリアを含む複数のリソースユニットがチャネルM内に定義されている。リソースユニット間には、1つ以上のサブキャリア(ガードサブキャリア)が配置されてもよいが、ガードサブキャリアは必須ではない。チャネル内の各サブキャリアには、サブキャリアを識別するための番号が付与されていてもよい。1つのチャネルの帯域幅は、一例として、20MHz、40MHz、80MHz、160MHzなどであるが、これらに限定されない。20MHzの複数のチャネルをまとめて1つのチャネルとしてもよい。帯域幅に応じてチャネル内のサブキャリア数またはリソースユニット数が異なってもよい。複数の端末にそれぞれ異なるリソースユニットを割り当てて同時に用いることで、アップリンクOFDMAまたはダウンリンクOFDMAが実現される。
ダウンリンクマルチユーザMIMOの場合には各無線端末のデータストリームをビームフォーミングにより空間的に分離していたが、ダウンリンクOFDMAの場合には、各リソースユニットは周波数的に直交しており、異なるリソースユニットでは互いに干渉しないため、アクセスポイントは端末毎に異なるリソースユニットを利用して同時にデータフレーム(または1つ以上のデータフレームを集約したアグリゲーションフレーム)を送信すればよい。この際、これらのデータフレーム(アグリゲーションフレーム)の物理ヘッダの所定フィールド(ここではSIGフィールドと呼ぶ)には、端末ごとに復号するべきリソースユニットを指定する情報を設定し、端末は当該情報で指定されたリソースユニットを復号すればよい。当該SIGフィールドは、図5で説明したL−STF、L−LTF、LSIGと同様に、チャネル帯域幅で送信し、受信した複数の端末のすべてが共通に復号できるようにすればよい。当該SIGフィールドで使用する端末の識別子は、アソシエーション時にアクセスポイントから付与されるアソシエーションID(AID)またはその一部分(Partial AID)でもよいし、MACアドレスなど別の識別子でもよい。
また、前述の変形例と同様に、ダウンリンクOFDMA送信において、1つ以上のデータフレームとトリガーフレームとを集約したアグリゲーションフレームを端末毎に生成し、これらのアグリゲーションフレームをダウンリンクOFDMA送信してもよい。トリガーフレームの構成は前述した図24と同様でよい。
また上述した実施形態では、複数の端末からアクセスポイントへ複数のBAフレームをアップリンクマルチユーザMIMO送信したが、別のユーザ多重送信方式として、アップリンクOFDMA送信してもよい。この場合、複数の端末がそれぞれ異なるリソースユニットを使用してBAフレームを同時に送信することになる。アップリンクOFDMAを行う場合、ダウンリンクのユーザ多重送信(ダウンリンクマルチユーザMIMOまたはダウンリンクOFDMA)において、上述した共通情報フィールドまたは端末情報フィールドで、プリアンブルパターンの代わりに、アップリンクのOFDMAで使用するリソースユニットを指定する情報を端末毎に通知すればよい。
その他、複数の端末からアクセスポイントへの複数のBAフレームのユーザ多重送信において、OFDMAとマルチユーザMIMOを組み合わせた通信方式(OFDMA&MU−MIMOと呼ぶ)を用いることも可能である。この場合、利用するリソースユニット毎にアップリンクマルチユーザMIMO送信が行われる。すなわち、複数の端末のうちの2つ以上が同じ1つのリソースユニットに割り当てられ、同じリソースユニットでは当該2つ以上の端末が、アップリンクマルチユーザMIMO送信を行うことになる。なお、1つのリソースユニットに1つの端末のみが割り当てられる場合もあり得る。アップリンクのOFDMA&MU−MIMOを行う場合、ダウンリンクのユーザ多重送信(ダウンリンクマルチユーザMIMOまたはダウンリンクOFDMA)で、上述した共通情報フィールドまたは端末情報フィールドで空間分離情報を端末毎に通知するとともに、アップリンクのOFDMA&MU−MIMOで使用するリソースユニットを指定する情報を端末毎に通知すればよい。この場合、異なるリソースユニット間では、同一のプリアンブルパターンが用いられることも可能である。
(第9の実施形態)
図18は、第4の実施形態に係る端末またはアクセスポイントの全体構成例を示したものである。この構成例は一例であり、本実施形態はこれに限定されるものではない。端末またはアクセスポイントは、1つまたは複数のアンテナ1〜n(nは1以上の整数)と、無線LANモジュール148と、ホストシステム149を備える。無線LANモジュール148は、第1〜第3のいずれかの実施形態に係る無線通信装置に対応する。無線LANモジュール148は、ホスト・インターフェースを備え、ホスト・インターフェースで、ホストシステム149と接続される。接続ケーブルを介してホストシステム149と接続される他、ホストシステム149と直接接続されてもよい。また、無線LANモジュール148が基板にはんだ等で実装され、基板の配線を介してホストシステム149と接続される構成も可能である。ホストシステム149は、任意の通信プロトコルに従って、無線LANモジュール148およびアンテナ1〜nを用いて、外部の装置と通信を行う。通信プロトコルは、TCP/IPと、それより上位の層のプロトコルとを含んでもよい。または、TCP/IPは無線LANモジュール148に搭載し、ホストシステム149は、それより上位層のプロトコルのみを実行してもよい。この場合、ホストシステム149の構成を簡単化できる。本端末は、例えば、移動体端末、TV、デジタルカメラ、ウェアラブルデバイス、タブレット、スマートフォン、ゲーム装置、ネットワークストレージ装置、モニタ、デジタルオーディオプレーヤ、Webカメラ、ビデオカメラ、プロジェクト、ナビゲーションシステム、外部アダプタ、内部アダプタ、セットトップボックス、ゲートウェイ、プリンタサーバ、モバイルアクセスポイント、ルータ、エンタープライズ/サービスプロバイダアクセスポイント、ポータブル装置、ハンドヘルド装置等でもよい。
図19は、無線LANモジュールのハードウェア構成例を示す。この構成は、無線通信装置がアクセスポイントおよび非アクセスポイントのいずれに搭載される場合にも適用可能である。つまり、図7および図8に示した無線通信装置の具体的な構成の一例として適用できる。この構成例では、アンテナは1本のみであるが、2本以上のアンテナを備えていてもよい。この場合、各アンテナに対応して、送信系統(116、122〜125)、受信系統(132〜135)、PLL142、水晶発振器143およびスイッチ145のセットが配置され、各セットがそれぞれ制御回路112に接続されてもよい。アクセスポイントがマルチユーザMIMO、OFDMA&MU−MIMOを行う場合などは、このように複数のアンテナと複数のセットが用いられる。
無線LANモジュール(無線通信装置)は、ベースバンドIC(Integrated Circuit)111と、RF(Radio Frequency)IC121と、バラン125と、スイッチ145と、アンテナ147とを備える。
ベースバンドIC111は、制御回路であるベースバンド回路112、メモリ113、ホスト・インターフェース114、CPU115、DAC(Digital to Analog Conveter)116、およびADC(Analog to Digital Converter)117を備える。
ベースバンドIC111とRF IC121は同じ基板上に形成されてもよい。また、ベースバンドIC111とRF IC121は1チップで構成されてもよい。DAC116およびADC117の両方またはいずれか一方が、RF IC121に配置されてもよいし、別のICに配置されてもよい。またメモリ113およびCPU115の両方またはいずれか一方が、ベースバンドICとは別のICに配置されてもよい。
メモリ113は、ホストシステムとの間で受け渡しするデータを格納する。またメモリ113は、端末(アクセスポイントの場合を含む)に通知する情報、または端末(アクセスポイントの場合を含む)から通知された情報、またはこれらの両方を格納する。また、メモリ113は、CPU115の実行に必要なプログラムを記憶し、CPU115がプログラムを実行する際の作業領域として利用されてもよい。また、メモリ113は、空間分離情報等を記憶してもよい。また無線通信装置は、空間分離情報等を記憶するための外部メモリと接続されていてもよい。メモリ113はSRAM、DRAM等の揮発性メモリでもよいし、NAND、MRAM等の不揮発メモリでもよい。
ホスト・インターフェース114は、ホストシステムと接続するためのインターフェースである。インターフェースは、UART、SPI、SDIO、USB、PCI Expressなど何でも良い。
CPU115は、プログラムを実行することによりベースバンド回路112を制御するプロセッサである。ベースバンド回路112は、主にMAC層の処理および物理層の処理を行う。ベースバンド回路112、CPU115またはこれらの両方は、通信を制御する制御部に対応する。
ベースバンド回路112およびCPU115の少なくとも一方は、クロックを生成するクロック生成部を含み、当該クロック生成部で生成するクロックにより、内部時間を管理してもよい。ベースバンド回路112は、物理層の処理として、物理ヘッダの付加、符号化、暗号化、変調処理など行い、例えば2種類のデジタルベースバンド信号(以下、デジタルI信号とデジタルQ信号)を生成する。MIMO送信の場合は各ストリームに応じてそれぞれ2種類のデジタルベースバンド信号を生成する。ベースバンド回路112では、MIMOに関する処理、例えば、伝搬路推定の処理、送信ウェイトおよび受信ウェイトの計算処理などを行ってもよい。
DAC116は、ベースバンド回路112から入力される信号をDA変換する。より詳細には、DAC116はデジタルI信号をアナログのI信号に変換し、デジタルQ信号をアナログのQ信号に変換する。なお、直交変調せずに一系統の信号のままで送信する場合もありうる。前述したように、複数のアンテナを備え、一系統または複数系統の送信信号をアンテナの数だけ振り分けて送信する場合には、アンテナの数に応じた数のDAC等を設けてもよい。
RF IC121は、一例としてRFアナログICあるいは高周波IC、あるいはこれらの両方である。RF IC121は、フィルタ122、ミキサ123、プリアンプ(PA)124、PLL(Phase Locked Loop:位相同期回路)142、低雑音増幅器(LNA)、バラン135、ミキサ133、およびフィルタ132を備える。これらの要素のいくつかが、ベースバンドIC111または別のIC上に配置されてもよい。フィルタ122、132は、帯域通過フィルタでも、低域通過フィルタでもよい。
フィルタ122は、DAC116から入力されるアナログI信号およびアナログQ信号のそれぞれから所望帯域の信号を抽出する。PLL142は、水晶発振器143から入力される発振信号を用い、発振信号を分周または逓倍またはこれらの両方を行うことで、入力信号の位相に同期した、一定周波数の信号を生成する。なお、PLL142は、VCO(Voltage Controlled Oscillator)を備え、水晶発振器143から入力される発振信号に基づき、VCOを利用してフィードバック制御を行うことで、当該一定周波数の信号を得ることが一般的である。生成した一定周波数の信号は、ミキサ123およびミキサ133に入力される。PLL142は、一定周波数の信号を生成する発信装置の一例に相当する。
ミキサ123は、フィルタ122を通過したアナログI信号およびアナログQ信号を、PLL142から供給される一定周波数の信号を利用して、無線周波数にアップコンバートする。プリアンプ(PA)は、ミキサ123で生成された無線周波数のアナログI信号およびアナログQ信号を、所望の出力電力まで増幅する。バラン125は、平衡信号(差動信号)を不平衡信号(シングルエンド信号)に変換するための変換器である。RF IC121では平衡信号が扱われるが、RF IC121の出力からアンテナ147までは不平衡信号が扱われるため、バラン125でこれらの信号変換を行う。
スイッチ145は、送信時は、送信側のバラン125に接続され、受信時は、受信側のバラン134またはRF IC121に接続される。スイッチ145の制御はベースバンドIC111またはRF IC121により行われてもよいし、スイッチ145を制御する別の回路が存在し、当該回路からスイッチ145の制御を行ってもよい。
プリアンプ124で増幅された無線周波数のアナログI信号およびアナログQ信号は、バラン125で平衡−不平衡変換された後、アンテナ147から空間に電波として放射される。
アンテナ147は、チップアンテナでもよいし、プリント基板上に配線により形成したアンテナでもよいし、線状の導体素子を利用して形成したアンテナでもよい。
RF IC121におけるLNA134は、アンテナ147からスイッチ145を介して受信した信号を、雑音を低く抑えたまま、復調可能なレベルまで増幅する。バラン135は、低雑音増幅器(LNA)134で増幅された信号を、不平衡−平衡変換する。ミキサ133は、バラン135で平衡信号に変換された受信信号を、PLL142から入力される一定周波数の信号を用いてベースバンドにダウンコンバートする。より詳細には、ミキサ133は、PLL142から入力される一定周波数の信号に基づき、互いに90°位相のずれた搬送波を生成する手段を有し、バラン135で変換された受信信号を、互いに90°位相のずれた搬送波により直交復調して、受信信号と同位相のI(In−phase)信号と、これより90°位相が遅れたQ(Quad−phase)信号とを生成する。フィルタ132は、これらI信号とQ信号から所望周波数成分の信号を抽出する。フィルタ132で抽出されたI信号およびQ信号は、ゲインが調整された後に、RF IC121から出力される。
ベースバンドIC111におけるADC117は、RF IC121からの入力信号をAD変換する。より詳細には、ADC117はI信号をデジタルI信号に変換し、Q信号をデジタルQ信号に変換する。なお、直交復調せずに一系統の信号だけを受信する場合もあり得る。
前述したように、複数のアンテナが設けられる場合には、アンテナの数に応じた数のADCを設けてもよい。ベースバンドIC111は、デジタルI信号およびデジタルQ信号に基づき、復調処理、誤り訂正符号処理、物理ヘッダの処理など、物理層の処理等を行い、フレームを得る。ベースバンドIC1は、フレームに対してMAC層の処理を行う。なお、ベースバンドIC111は、TCP/IPを実装している場合は、TCP/IPの処理を行う構成も可能である。
また制御回路112は、MIMOに関する処理を行ってもよい。例えば、伝搬路推定の処理、送信ウェイト計算処理、ストリームの生成および分離処理等を行う。また、UL−OFDMA、UL−MU−MIMO、およびUL−OFDMA&MU−MIMOの少なくとも1つに関する処理を行う。
上述した各部の処理の詳細は、図7および図8の説明から自明であるため、重複する説明は省略する。
(第10の実施形態)
図20(A)および図20(B)は、それぞれ第10の実施形態に係る無線端末の斜視図である。図20(A)の無線端末はノートPC301であり、図20(B)の無線端末は移動体端末321である。ノートPC301および移動体端末321は、それぞれ無線通信装置305、315を搭載している。無線通信装置305、315として、これまで説明してきた無線端末に搭載されていた無線通信装置(図8、図19等)、またはアクセスポイント11に搭載されていた無線通信装置(図7、図18等)を用いることができる。無線通信装置を搭載する無線端末は、ノートPCや移動体端末に限定されない。例えば、スマートフォン、タブレット、TV、デジタルカメラ、ウェアラブルデバイス等にも搭載可能である。また、携帯型ではなく据置型の端末であってもよい。
また、無線端末またはアクセスポイント11に搭載されていた無線通信装置は、メモリーカードにも搭載可能である。当該無線通信装置をメモリーカードに搭載した例を図21に示す。メモリーカード331は、無線通信装置355と、メモリーカード本体332とを含む。メモリーカード331は、外部の装置(無線端末またはアクセスポイント11等)との無線通信のために無線通信装置335を利用する。なお、図21では、メモリーカード331内の他の要素(例えばメモリ等)の記載は省略している。
(第11の実施形態)
第11の実施形態では、上述した実施形態に係る無線通信装置(図7または図8等)の構成に加えて、バス、プロセッサ部、及び外部インターフェース部を備える。プロセッサ部及び外部インターフェース部は、バスを介してバッファと接続される。プロセッサ部ではファームウエアが動作する。このように、ファームウエアを無線通信装置に含める構成とすることにより、ファームウエアの書き換えによって無線通信装置の機能の変更を容易に行うことが可能となる。
(第12の実施形態)
第12の実施形態では、上述した実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または無線端末の無線通信装置)の構成に加えて、クロック生成部を備える。クロック生成部は、クロックを生成して出力端子より無線通信装置の外部にクロックを出力する。このように、無線通信装置内部で生成されたクロックを外部に出力し、外部に出力されたクロックによってホスト側を動作させることにより、ホスト側と無線通信装置側とを同期させて動作させることが可能となる。
(第13の実施形態)
第13の実施形態では、上述した実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または無線端末の無線通信装置)の構成に加えて、電源部、電源制御部、及び無線電力給電部を含む。電源制御部は、電源部と無線電力給電部とに接続され、無線通信装置に供給する電源を選択する制御を行う。このように、電源を無線通信装置に備える構成とすることにより、電源を制御した低消費電力化動作が可能となる。
(第14の実施形態)
第14の実施形態では、上述した実施形態に係る無線通信装置の構成に加えて、SIMカードを含む。SIMカードは、無線通信装置における送信部(102または202)または受信部(103または203)または制御部(101または201)と接続される。このように、SIMカードを無線通信装置に備える構成とすることにより、容易に認証処理を行うことが可能となる。
(第15の実施形態)
第15の実施形態では、上述した実施形態に係る無線通信装置の構成に加えて、動画像圧縮/伸長部を含む。動画像圧縮/伸長部は、バスと接続される。このように、動画像圧縮/伸長部を無線通信装置に備える構成とすることにより、圧縮した動画像の伝送と受信した圧縮動画像の伸長とを容易に行うことが可能となる。
(第16の実施形態)
第16の実施形態では、上述した実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または無線端末の無線通信装置)の構成に加えて、LED部を含む。LED部は、送信部(102または202)または受信部(103または203)または制御部(101または201)と接続される。このように、LED部を無線通信装置に備える構成とすることにより、無線通信装置の動作状態をユーザに容易に通知することが可能となる。
(第17の実施形態)
第17の実施形態では、上述した実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または無線端末の無線通信装置)の構成に加えて、バイブレータ部を含む。バイブレータ部は、送信部(102または202)または受信部(103または203)または制御部(101または201)と接続される。このように、バイブレータ部を無線通信装置に備える構成とすることにより、無線通信装置の動作状態をユーザに容易に通知することが可能となる。
(第18の実施形態)
第18の実施形態では、上述した実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または端末の無線通信装置)の構成に加えて、ディスプレイを含む。ディスプレイは、図示しないバスを介して、無線通信装置の制御部(101または201)に接続されてもよい。このようにディスプレイを備える構成とし、無線通信装置の動作状態をディスプレイに表示することで、無線通信装置の動作状態をユーザに容易に通知することが可能となる。
(第19の実施形態)
本実施形態では、[1]無線通信システムにおけるフレーム種別、[2]無線通信装置間の接続切断の手法、[3]無線LANシステムのアクセス方式、[4]無線LANのフレーム間隔について説明する。
[1]通信システムにおけるフレーム種別
一般的に無線通信システムにおける無線アクセスプロトコル上で扱うフレームは、大別してデータ(data)フレーム、管理(management)フレーム、制御(control)フレームの3種類に分けられる。これらの種別は、通常、フレーム間で共通に設けられるヘッダ部で示される。フレーム種別の表示方法としては、1つのフィールドで3種類を区別できるようにしてあってもよいし、2つのフィールドの組み合わせで区別できるようにしてあってもよい。
管理フレームは、他の無線通信装置との間の物理的な通信リンクの管理に用いるフレームである。例えば、他の無線通信装置との間の通信設定を行うために用いられるフレームや通信リンクをリリースする(つまり接続を切断する)ためのフレーム、無線通信装置でのパワーセーブ動作に係るフレームがある。
データフレームは、他の無線通信装置と物理的な通信リンクが確立した上で、無線通信装置の内部で生成されたデータを他の無線通信装置に送信するフレームである。データは本実施形態の上位層で生成され、例えばユーザの操作によって生成される。
制御フレームは、データフレームを他の無線通信装置との間で送受(交換)する際の制御に用いられるフレームである。無線通信装置がデータフレームや管理フレームを受信した場合にその送達確認のために送信される応答フレームは、制御フレームに属する。
これら3種類のフレームは、物理層で必要に応じた処理を経て物理パケットとしてアンテナを経由して送出される。なお、接続確立の手順においては、接続要求フレームと接続受付フレームが管理フレームであり、接続受付フレームへの確認フレームは制御フレームの応答フレームを用いることができる。
[2]無線通信装置間の接続切断の手法
接続の切断には、明示的な手法と暗示的な手法とがある。明示的な手法としては、接続している無線通信装置のいずれか一方が切断のためのフレームを送信する。このフレームは管理フレームに分類される。切断のためのフレームは、例えば接続をリリースするという意味でリリースフレームと呼ぶことがある。通常、リリースフレームを送信する側の無線通信装置ではリリースフレームを送信した時点で、リリースフレームを受信する側の無線通信装置ではリリースフレームを受信した時点で、接続の切断と判定する。その後、通信フェーズでの初期状態、例えば通信相手の無線通信装置を探索する状態に戻る。これは、切断のためのフレームを送信する際には、接続先の無線通信装置と通信距離が離れて無線信号が受信不可あるいは復号不可になるといった、物理的な無線リンクが確保できないことがあるからである。
一方、暗示的な手法としては、一定期間接続を確立した接続相手の無線通信装置からフレーム送信(データフレーム及び管理フレームの送信、あるいは自端末が送信したフレームへの応答フレームの送信、あるいはこれらの両方)を検知しなかった場合に、接続状態の切断の判定を行う。このような手法があるのは、上述のように接続の切断を判定するような状況では、接続先の無線通信装置と通信距離が離れて無線信号が受信不可あるいは復号不可になるなど物理的な無線リンクが確保できない状態が考えられるからである。すなわち、リリースフレームの受信を期待できないからである。
暗示的な方法で接続の切断を判定する具体例としては、タイマを使用する。例えば、送達確認応答フレームを要求するデータフレームを送信する際、当該フレームの再送期間を制限する第1のタイマ(例えばデータフレーム用の再送タイマ)を起動し、第1のタイマが切れるまで(つまり所望の再送期間が経過するまで)当該フレームへの送達確認応答フレームを受信しないと再送を行う。当該フレームへの送達確認応答フレームを受信すると第1のタイマは止められる。
一方、送達確認応答フレームを受信せず第1のタイマが切れると、例えば接続相手の無線通信装置がまだ(通信レンジ内に)存在するか(言い換えれば、無線リンクが確保できているか)を確認するための管理フレームを送信し、それと同時に当該フレームの再送期間を制限する第2のタイマ(例えば管理フレーム用の再送タイマ)を起動する。第1のタイマと同様、第2のタイマでも、第2のタイマが切れるまで当該フレームへの送達確認応答フレームを受信しないと再送を行い、第2のタイマが切れると接続が切断されたと判定する。
あるいは接続相手の無線通信装置からフレームを受信すると第3のタイマを起動し、新たに接続相手の無線通信装置からフレームを受信するたびに第3のタイマを止め、再び初期値から起動する。第3のタイマが切れると前述と同様に接続相手の無線通信装置がまだ(通信レンジ内に)存在するか(言い換えれば、無線リンクが確保できているか)を確認するための管理フレームを送信し、それと同時に当該フレームの再送期間を制限する第2のタイマ(例えば管理フレーム用の再送タイマ)を起動する。この場合も、第2のタイマが切れるまで当該フレームへの送達確認応答フレームを受信しないと再送を行い、第2のタイマが切れると接続が切断されたと判定する。後者の、接続相手の無線通信装置がまだ存在するかを確認するための管理フレームは、前者の場合の管理フレームとは異なるものであってもよい。また後者の場合の管理フレームの再送を制限するためのタイマはここでは第2のタイマとして前者の場合と同じものを用いたが、異なるタイマを用いるようにしてもよい。
[3]無線LANシステムのアクセス方式
例えば複数の無線通信装置と通信または競合することを想定した無線LANシステムがある。IEEE802.11(拡張規格なども含む)無線LANではCSMA/CAをアクセス方式の基本としている。ある無線通信装置の送信を把握し、その送信終了から固定時間を置いて送信を行う方式では、その無線通信装置の送信を把握した複数の無線通信装置で同時に送信を行うことになり、その結果、無線信号が衝突してフレーム送信に失敗する。ある無線通信装置の送信を把握し、その送信終了からランダム時間待つことで、その無線通信装置の送信を把握した複数の無線通信装置での送信が確率的に分散することになる。よって、ランダム時間の中で最も早い時間を引いた無線通信装置が1つなら無線通信装置のフレーム送信は成功し、フレームの衝突を防ぐことができる。ランダム値に基づき送信権の獲得が複数の無線通信装置間で公平になることから、Carrier Avoidanceを採用した方式は、複数の無線通信装置間で無線媒体を共有するために適した方式であるということができる。
[4]無線LANのフレーム間隔
IEEE802.11無線LANのフレーム間隔について説明する。IEEE802.11無線LANで用いられるフレーム間隔は、distributed coordination function interframe space(DIFS)、arbitration interframe space(AIFS)、point coordination function interframe space(PIFS)、short interframe space(SIFS)、extended interframe space(EIFS)、reduced interframe space(RIFS)の6種類ある。
フレーム間隔の定義は、IEEE802.11無線LANでは送信前にキャリアセンスアイドルを確認して開けるべき連続期間として定義されており、厳密な前のフレームからの期間は議論しない。従ってここでのIEEE802.11無線LANシステムでの説明においてはその定義を踏襲する。IEEE802.11無線LANでは、CSMA/CAに基づくランダムアクセスの際に待つ時間を固定時間とランダム時間との和としており、固定時間を明確にするためこのような定義になっているといえる。
DIFSとAIFSとは、CSMA/CAに基づき他の無線通信装置と競合するコンテンション期間にフレーム交換開始を試みるときに用いるフレーム間隔である。DIFSは、トラヒック種別による優先権の区別がないとき、AIFSはトラヒック種別(Traffic Identifier:TID)による優先権が設けられている場合に用いる。
DIFSとAIFSとで係る動作としては類似しているため、以降では主にAIFSを用いて説明する。IEEE802.11無線LANでは、MAC層でフレーム交換の開始などを含むアクセス制御を行う。さらに、上位層からデータを渡される際にQoS(Quality of Service)対応する場合には、データとともにトラヒック種別が通知され、トラヒック種別に基づいてデータはアクセス時の優先度のクラス分けがされる。このアクセス時のクラスをアクセスカテゴリ(Access Category;AC)と呼ぶ。従って、アクセスカテゴリごとにAIFSの値が設けられることになる。
PIFSは、競合する他の無線通信装置よりも優先権を持つアクセスができるようにするためのフレーム間隔であり、DIFS及びAIFSのいずれの値よりも期間が短い。SIFSは、応答系の制御フレームの送信時あるいは一旦アクセス権を獲得した後にバーストでフレーム交換を継続する場合に用いることができるフレーム間隔である。EIFSはフレーム受信に失敗した場合に発動されるフレーム間隔である。
RIFSは一旦アクセス権を獲得した後にバーストで同一無線通信装置に複数のフレームを連続して送信する場合に用いることができるフレーム間隔であり、RIFSを用いている間は送信相手の無線通信装置からの応答フレームを要求しない。
ここでIEEE802.11無線LANにおけるランダムアクセスに基づく競合期間のフレーム交換の一例を図29に示す。
ある無線通信装置においてデータフレーム(W_DATA1)の送信要求が発生した際に、キャリアセンスの結果、媒体がビジーである(busy medium)と認識する場合を想定する。
この場合、キャリアセンスがアイドルになった時点から固定時間のAIFSを空け、その後ランダム時間(random backoff)空いたところで、データフレームW_DATA1を通信相手に送信する。
ランダム時間は0から整数で与えられるコンテンションウィンドウ(Contention Window:CW)の間の一様分布から導かれる擬似ランダム整数にスロット時間をかけたものである。ここで、CWにスロット時間をかけたものをCW時間幅と呼ぶ。CWの初期値はCWminで与えられ、再送するたびにCWの値はCWmaxになるまで増やされる。CWminとCWmaxの両方とも、AIFSと同様アクセスカテゴリごとの値を持つ。W_DATA1の送信先の無線通信装置では、データフレームの受信に成功するとその受信終了時点からSIFS後に応答フレーム(W_ACK1)を送信する。W_DATA1を送信した無線通信装置は、W_ACK1を受信すると送信バースト時間制限内であればまたSIFS後に次のフレーム(例えばW_DATA2)を送信することができる。
AIFS、DIFS、PIFS及びEIFSは、SIFSとスロット時間との関数になるが、SIFSとスロット時間とは物理層ごとに規定されている。また、AIFS、CWmin及びCWmaxなどアクセスカテゴリごとに値が設けられるパラメータは、通信グループ(IEEE802.11無線LANではBasic Service Set(BSS))ごとに設定可能であるが、デフォルト値が定められている。
例えば、802.11acの規格策定では、SIFSは16μs、スロット時間は9μsであるとして、それによってPIFSは25μs、DIFSは34μs、AIFSにおいてアクセスカテゴリがBACKGROUND(AC_BK)のフレーム間隔はデフォルト値が79μs、BEST EFFORT(AC_BE)のフレーム間隔はデフォルト値が43μs、VIDEO(AC_VI)とVOICE(AC_VO)のフレーム間隔はデフォルト値が34μs、CWminとCWmaxとのデフォルト値は、各々AC_BKとAC_BEとでは31と1023、AC_VIでは15と31、AC_VOでは7と15になるとする。なお、EIFSは、SIFSとDIFSと最も低速な必須の物理レートで送信する場合の応答フレームの時間長の和である。本実施形態では、このようなフレーム間隔のパラメータを用いる無線通信システムを通信レンジの広い干渉システムとして想定する。
本実施形態で用いられる用語は、広く解釈されるべきである。例えば用語“プロセッサ”は、汎用目的プロセッサ、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、コントローラ、マイクロコントローラ、状態マシンなどを包含してもよい。状況によって、“プロセッサ”は、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラム可能論理回路 (PLD)などを指してもよい。“プロセッサ”は、複数のマイクロプロセッサのような処理装置の組み合わせ、DSPおよびマイクロプロセッサの組み合わせ、DSPコアと協働する1つ以上のマイクロプロセッサを指してもよい。
別の例として、用語“メモリ”は、電子情報を格納可能な任意の電子部品を包含してもよい。“メモリ”は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、プログラム可能読み出し専用メモリ(PROM)、消去可能プログラム可能読み出し専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、フラッシュメモリ、磁気または光学データストレージを指してもよく、これらはプロセッサによって読み出し可能である。プロセッサがメモリに対して情報を読み出しまたは書き込みまたはこれらの両方を行うならば、メモリはプロセッサと電気的に通信すると言うことができる。メモリは、プロセッサに統合されてもよく、この場合も、メモリは、プロセッサと電気的に通信していると言うことができる。
以上説明した本実施形態において、複数の端末が送信するデータフレーム等のフレームは、異なる内容のフレームであっても、同一の内容のフレームでもよい。一般的な表現として、複数の端末が第Xのフレームを送信またはアクセスポイントが複数の第Xフレームを受信すると表現するとき、これらの第Xのフレームの内容は同じであっても、異なってもよい。
また、本明細書で述べるフレームは、例えばIEEE802.11規格でフレームと呼ばれているもののみならず、パケットと呼ばれているものであってもよい。
以上説明した本実施形態における一部機能もしくは全ての機能は、ソフトウェア処理により実現可能である。
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。