JPWO2016017632A1 - 電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器 - Google Patents

電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器 Download PDF

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Abstract

1枚の振動板で、高音質な音を安定して再生することができ、また、再生可能な周波数帯域を広帯域化することができる電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器を提供する。常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、高分子複合圧電体の両面に積層された一対の電極対とを有し、一方の主面側に突出するように凸面状に成形されてなる凸部を1以上有する。

Description

本発明は、スピーカなどの音響デバイス等に用いられる電気音響変換フィルム、ならびに、これを用いた電気音響変換器に関する。
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなど、ディスプレイの薄型化に対応して、これらの薄型ディスプレイに用いられるスピーカにも軽量化・薄型化が要求されている。さらに、可撓性を有するフレキシブルディスプレイにおいて、軽量性や可撓性を損なうことなくフレキシブルディスプレイに一体化するために、可撓性も要求されている。このような軽量・薄型で可撓性を有するスピーカとして、印加電圧に応答して伸縮する性質を有するシート状の圧電フィルムを採用することが考えられている。
例えば、特許文献1には、圧電フィルムとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:Poly VinyliDene Fluoride)の一軸延伸フィルムを高電圧で分極処理したものを用いることが記載されている。
このような圧電フィルムをスピーカとして採用するためには、フィルム面に沿った伸縮運動をフィルム面の振動に変換する必要がある。この伸縮運動から振動への変換は、圧電フィルムを湾曲させた状態で保持することにより達成され、これにより、圧電フィルムをスピーカとして機能させることが可能になる。
ところが、一軸延伸されたPVDFからなる圧電フィルムは、その圧電特性に面内異方性があるため、同じ曲率でも曲げる方向によって音質が大きく異なってしまう。
更に、PVDFはコーン紙等の一般的なスピーカ用振動板に比べ損失正接が小さいため、共振が強く出やすく、起伏の激しい周波数特性となる。従って、曲率の変化に伴い最低共振周波数が変化した際の音質の変化量も大きくなってしまう。
以上のように、PVDFからなる圧電フィルムでは、安定した音を再生することが困難であった。
そこで、本願出願人は、可撓性を有し、かつ、高音質な音を安定して再生することができるスピーカとして、特許文献2に開示される、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、高分子複合圧電体の両面に形成された薄膜電極と、薄膜電極の表面に形成された保護層とを有する電気音響変換フィルムを提案した。
特開2008−294493号公報 特開2014−14063号公報
特許文献2に記載された電気音響変換フィルムは、圧電体層の材料を、常温で粘弾性を有する高分子材料とすることで、20〜20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振舞うことが可能で、更に20kHz以下の全ての周波数の振動に対して適度な損失正接を有する。そのため、可撓性および音響特性に優れ、しかも、変形されても安定した音声の出力が可能で可撓性および音響特性に優れ、しかも、変形されても安定した音の出力が可能である。
しかしながら、特許文献2に記載された電気音響変換フィルムは、単一の振動板であるため、高音質かつ十分な音量で再生可能な周波数帯域がやや狭いという問題があることがわかった。
ここで、特許文献1では、音声信号を、周波数帯域別に振幅を所定量増減するように補正する、固有の補正パターンをそれぞれ備えた複数のフィルタを有し、計測されたスピーカの湾曲度合いに応じて、フィルタの1つを選択して、このフィルタで音声信号を補正して、スピーカに出力することで、周波数特性や音量等の音質を向上させることが記載されている。
しかしながら、スピーカに入力する音声信号を補正する構成では、周波数特性や音量の向上が不十分であった。
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、1枚の振動板で、広い周波数帯域で高音質かつ十分な音量で音を安定して再生することができる電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべき鋭意検討した結果、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、高分子複合圧電体の両面に積層された一対の電極対とを有し、一方の主面側に突出するように凸面状に成形されてなる凸部を1以上有することにより、1枚の振動板であっても、広い周波数帯域で、高音質な音を十分な音量で安定して再生することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の構成の電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器を提供する。
(1) 常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、高分子複合圧電体の両面に積層された一対の電極対とを有し、
一方の主面側に突出するように凸面状に成形されてなる凸部を1以上有する電気音響変換フィルム。
(2) 凸部の主面に対する最大高さdと、主面に垂直な方向から見た際の、凸部の最大長さLとが、d≦0.5×Lの関係を満たす(1)に記載の電気音響変換フィルム。
(3) 凸部は、少なくとも1方向に湾曲されてなる(1)または(2)に記載の電気音響変換フィルム。
(4) 凸部は、主面に垂直な一方向の断面、および、一方向と直交する他方向の断面において、湾曲している(1)〜(3)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(5) 2以上の凸部を有し、2以上の凸部のうち、少なくとも2つは互いに表面積および曲率半径の少なくとも一方が異なる(2)〜(4)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(6) 凸部の形成領域に応じて積層された、複数の電極対を有する(1)〜(5)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(7) 電気音響変換フィルムの動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において10〜30GPa、50℃において1〜10GPaである(1)〜(6)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(8) 高分子材料の周波数1Hzでのガラス転移温度が0〜50℃である(1)〜(7)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(9) 高分子材料の動的粘弾性測定による周波数1Hzでの損失正接(Tanδ)が0.5以上となる極大値が0〜50℃の温度範囲に存在する(1)〜(8)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(10) 高分子材料が、シアノエチル基を有するものである(1)〜(9)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(11) 高分子材料が、シアノエチル化ポリビニルアルコールである(1)〜(10)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(12) (1)〜(11)のいずれかに記載の電気音響変換フィルムと、電気音響変換フィルムを支持する支持部材とを有する電気音響変換器であって、
支持部材は、電気音響変換フィルムの主面を湾曲した状態で電気音響変換フィルムを支持する電気音響変換器。
(13) 電気音響変換フィルムの1以上の凸部は、主面の湾曲の突出方向と同じ方向に突出する(12)に記載の電気音響変換器。
(14) 電気音響変換フィルムの1以上の凸部は、主面の湾曲の突出方向の反対方向に突出する(12)に記載の電気音響変換器。
(15) 常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、高分子複合圧電体の両面に積層された一対の電極対とを有する電気音響変換フィルムと、電気音響変換フィルムを支持する支持部材とを有する電気音響変換器であって、
電気音響変換フィルムは、面積および曲率半径の少なくとも一方が異なる2以上の領域を形成されて支持される電気音響変換器。
(16) 2以上の領域のうち、少なくとも2つの領域は、電気音響変換フィルムの主面に垂直な方向に重なっている(15)に記載の電気音響変換器。
(17) 2以上の領域のうちの1つの領域は、電気音響変換フィルムの主面を湾曲してなるものである(16)に記載の電気音響変換器。
(18) 3以上の領域を有し、少なくとも2つは互いに面積および曲率半径の少なくとも一方が異なる(15)〜(17)のいずれかに記載の電気音響変換器。
(19) 領域は、少なくとも1方向に湾曲されてなる(15)〜(18)のいずれかに記載の電気音響変換器。
(20) 領域は、圧電フィルムの主面に垂直な一方向の断面、および、一方向と直交する他方向の断面において、湾曲している(15)〜(19)のいずれかに記載の電気音響変換器。
このような本発明の電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器によれば、1枚の振動板で、広い周波数帯域で高音質かつ十分な音量で音を安定して再生することができる。
図1(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの一例を概念的に示す斜視図であり、図1(B)は、図1(A)のB−B線断面図であり、図1(C)は、図1(A)のC−C線断面図である。 図2(A)は、本発明の電気音響変換フィルムを用いる電気音響変換器の一例を概念的に示す上面図であり、図2(B)は、図2(A)のB−B線断面図であり、図2(C)は、電気音響変換器の他の一例の断面図である。 図1(A)に示す電気音響変換フィルムの一部を拡大して示す概略断面図である。 図4(A)〜図4(E)はそれぞれ、変換ユニットの大きさの定義を説明するための概念図である。 図5(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を概念的に示す上面図であり、図5(B)は、図5(A)のB−B線断面図である。 図6(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を概念的に示す上面図であり、図6(B)は、図6(A)のB−B線断面図である。 本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を概念的に示す断面図である。 図8(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を概念的に示す上面図であり、図8(B)は、図8(A)のB−B線断面図であり、図8(C)は、図8(A)のC−C線断面図である。 図9(A)〜図9(E)は、電気音響変換フィルムの作製方法の一例を説明するための概念図である。 図10(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を概念的に示す上面図であり、図10(B)は、図10(A)のB−B線断面図であり、図10(C)は、図10(A)のC−C線断面図である。 図11(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を概念的に示す上面図であり、図11(B)は、図11(A)のB−B線断面図であり、図11(C)は、図11(A)のC−C線断面図である。 図12(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を概念的に示す上面図であり、図12(B)は、図12(A)のB−B線断面図であり、図12(C)は、図12(A)のC−C線断面図である。 図13(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を概念的に示す上面図であり、図13(B)は、図13(A)のB−B線断面図であり、図13(C)は、図13(A)のC−C線断面図である。 周波数と音圧レベルとの関係を表すグラフである。
以下、本発明の電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
図1(A)に、本発明の電気音響変換フィルムの一例を概念的に示す斜視図を示し、図1(B)に、図1(A)のB−B線断面図を示し、図1(C)に、図1(A)のC−C線断面図を示す。また、図2(A)および図2(B)に、図1の電気音響変換フィルムを用いる本発明の電気音響変換器の一例を概念的に示す。
図2(A)および図2(B)に示すように、電気音響変換器80は、電気音響変換フィルム(以下、「変換フィルム」ともいう)10を振動板として用いるものである。
このような電気音響変換器80は、スピーカ、マイクロフォン、および、ギター等の楽器に用いられるピックアップなどの各種の音響デバイスとして利用されるものであり、変換フィルム10に電気信号を入力して電気信号に応じた振動により音を再生したり、音による変換フィルム10の振動を電気信号に変換するために利用されるものである。
ここで、図1(A)に示すように、本発明の変換フィルム10は、一方の主面の略中央に、一方の主面側に突出するように凸面状に成形されてなる、1つの凸部10aを形成されたものである。そのため、この変換フィルム10を用いた電気音響変換器80は、図2(B)に示すように、変換フィルム10が、変換フィルム10に形成された凸部10aからなる第1の領域と、変換フィルム10の、凸部10aを除く主面全体からなる第2の領域とを有し、第1の領域と第2の領域とは、表面積が異なり、かつ、第1の領域と第2の領域とで、異なる曲率で湾曲した状態で支持されている構成を有する。
これにより、第1の領域と第2の領域とで、好適に振動する周波数帯域を異ならせることができるので、音質を低下させることなく、1枚の振動板で、再生可能な周波数帯域を広帯域化することができる。
この点に関しては後に詳述する。
まず、本発明の電気音響変換フィルムについて説明する。
図3は、図1に示す変換フィルム10の部分拡大断面図である。
図1(A)〜図1(C)、および、図3に示すように、変換フィルム10は、圧電性を有するシート状物である圧電体層12と、圧電体層12の一方の面に積層される下部薄膜電極14と、下部薄膜電極14上に積層される下部保護層18と、圧電体層12の他方の面に積層される上部薄膜電極16と、上部薄膜電極16上に積層される上部保護層20とを有し、主面の略中央に凸部10aを形成されてなる構成を有する。
本発明の変換フィルム10において、高分子複合圧電体である圧電体層12は、図3に概念的に示すような、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス24中に、圧電体粒子26を均一に分散してなる高分子複合圧電体からなるものである。なお、本明細書において、「常温」とは、0〜50℃程度の温度域を指す。
また、後述するが、圧電体層12は、好ましくは、分極処理されている。
本発明の変換フィルム10は、フレキシブルディスプレイ用のスピーカなど、フレキシブル性を有するスピーカ等に好適に用いられる。ここで、フレキシブル性を有するスピーカに用いられる高分子複合圧電体(圧電体層12)は、次の用件を具備したものであるのが好ましい。
(i) 可撓性
例えば、携帯用として新聞や雑誌のように書類感覚で緩く撓めた状態で把持する場合、絶えず外部から、数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けることになる。この時、高分子複合圧電体が硬いと、その分大きな曲げ応力が発生し、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生し、やがて破壊に繋がる恐れがある。従って、高分子複合圧電体には適度な柔らかさが求められる。また、歪みエネルギーを熱として外部へ拡散できれば応力を緩和することができる。従って、高分子複合圧電体の損失正接が適度に大きいことが求められる。
(ii) 音質
スピーカは、20Hz〜20kHzのオーディオ帯域の周波数で圧電体粒子を振動させ、その振動エネルギーによって振動板(高分子複合圧電体)全体が一体となって振動することで音が再生される。従って、振動エネルギーの伝達効率を高めるために高分子複合圧電体には適度な硬さが求められる。また、スピーカの周波数特性が平滑であれば、曲率の変化に伴い最低共振周波数fが変化した際の音質の変化量も小さくなる。従って、高分子複合圧電体の損失正接は適度に大きいことが求められる。
以上をまとめると、フレキシブル性を有するスピーカに用いる高分子複合圧電体は、20Hz〜20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことが求められる。また、高分子複合圧電体の損失正接は、20kHz以下の全ての周波数の振動に対して、適度に大きいことが求められる。
一般に、高分子固体は粘弾性緩和機構を有しており、温度上昇あるいは周波数の低下とともに大きなスケールの分子運動が貯蔵弾性率(ヤング率)の低下(緩和)あるいは損失弾性率の極大(吸収)として観測される。その中でも、非晶質領域の分子鎖のミクロブラウン運動によって引き起こされる緩和は、主分散と呼ばれ、非常に大きな緩和現象が見られる。この主分散が起きる温度がガラス転移点(Tg)であり、最も粘弾性緩和機構が顕著に現れる。
高分子複合圧電体(圧電体層12)において、ガラス転移点が常温にある高分子材料、言い換えると、常温で粘弾性を有する高分子材料をマトリックスに用いることで、20〜20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の遅い振動に対しては柔らかく振舞う高分子複合圧電体が実現する。特に、この振舞いが好適に発現する等の点で、周波数1Hzでのガラス転移温度が常温、すなわち、0〜50℃にある高分子材料を、高分子複合圧電体のマトリックスに用いるのが好ましい。
常温で粘弾性を有する高分子材料としては、公知の各種のものが利用可能である。好ましくは、常温、すなわち0〜50℃において、動的粘弾性試験による周波数1Hzにおける損失正接Tanδの極大値が、0.5以上有る高分子材料を用いる。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に、最大曲げモーメント部における高分子マトリックス/圧電体粒子界面の応力集中が緩和され、高い可撓性が期待できる。
また、高分子材料は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において100MPa以上、50℃において10MPa以下、であることが好ましい。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に発生する曲げモーメントが低減できると同時に、20Hz〜20kHzの音響振動に対しては硬く振る舞うことができる。
また、高分子材料は、比誘電率が25℃において10以上有ると、より好適である。これにより、高分子複合圧電体に電圧を印加した際に、高分子マトリックス中の圧電体粒子にはより高い電界が掛かるため、大きな変形量が期待できる。
しかしながら、その反面、良好な耐湿性の確保等を考慮すると、高分子材料は、比誘電率が25℃において10以下であるのも、好適である。
このような条件を満たす高分子材料としては、シアノエチル化ポリビニルアルコール(シアノエチル化PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニリデンクロライドコアクリロニトリル、ポリスチレン−ビニルポリイソプレンブロック共重合体、ポリビニルメチルケトン、および、ポリブチルメタクリレート等が例示される。また、これらの高分子材料としては、ハイブラー5127(クラレ社製)などの市販品も、好適に利用可能である。なかでも、シアノエチル基を有する材料を用いることが好ましく、シアノエチル化PVAを用いるのが特に好ましい。
なお、これらの高分子材料は、1種のみを用いてもよく、複数種を併用(混合)して用いてもよい。
このような常温で粘弾性を有する高分子材料を用いる粘弾性マトリックス24は、必要に応じて、複数の高分子材料を併用してもよい。
すなわち、粘弾性マトリックス24には、誘電特性や機械特性の調整等を目的として、シアノエチル化PVA等の粘弾性材料に加え、必要に応じて、その他の誘電性高分子材料を添加しても良い。
添加可能な誘電性高分子材料としては、一例として、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体及びポリフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系高分子、シアン化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシサッカロース、シアノエチルヒドロキシセルロース、シアノエチルヒドロキシプルラン、シアノエチルメタクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルアミロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルジヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルアミロース、シアノエチルポリアクリルアミド、シアノエチルポリアクリレート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルサッカロース及びシアノエチルソルビトール等のシアノ基あるいはシアノエチル基を有するポリマー、ニトリルゴムやクロロプレンゴム等の合成ゴム等が例示される。
中でも、シアノエチル基を有する高分子材料は、好適に利用される。
また、圧電体層12の粘弾性マトリックス24において、シアノエチル化PVA等の常温で粘弾性を有する材料に加えて添加される誘電性ポリマーは、1種に限定はされず、複数種を添加してもよい。
また、誘電性ポリマー以外にも、ガラス転移点Tgを調整する目的で、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリブテン、イソブチレン、等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、マイカ、等の熱硬化性樹脂を添加しても良い。
更に、粘着性を向上する目的で、ロジンエステル、ロジン、テルペン、テルペンフェノール、石油樹脂、等の粘着付与剤を添加しても良い。
圧電体層12の粘弾性マトリックス24において、シアノエチル化PVA等の粘弾性材料以外のポリマーを添加する際の添加量には、特に限定は無いが、粘弾性マトリックス24に占める割合で30重量%以下とするのが好ましい。
これにより、粘弾性マトリックス24における粘弾性緩和機構を損なうことなく、添加する高分子材料の特性を発現できるため、高誘電率化、耐熱性の向上、圧電体粒子26や電極層との密着性向上等の点で好ましい結果を得ることができる。
圧電体粒子26は、ペロブスカイト型或いはウルツ鉱型の結晶構造を有するセラミックス粒子からなるものである。
圧電体粒子26を構成するセラミックス粒子としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛(PLZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、および、チタン酸バリウムとビスマスフェライト(BiFe3)との固溶体(BFBT)等が例示される。
このような圧電体粒子26の粒径は、変換フィルム10のサイズや用途に応じて、適宜、選択すれば良いが、本発明者の検討によれば、1〜10μmが好ましい。
圧電体粒子26の粒径を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
なお、図3においては、圧電体層12中の圧電体粒子26は、粘弾性マトリックス24中に、規則性を持って分散されているが、本発明は、これに限定はされない。
すなわち、圧電体層12中の圧電体粒子26は、好ましくは均一に分散されていれば、粘弾性マトリックス24中に不規則に分散されていてもよい。
本発明の変換フィルム10において、圧電体層12中における粘弾性マトリックス24と圧電体粒子26との量比は、変換フィルム10の面方向の大きさや厚さ、変換フィルム10の用途、変換フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、本発明者の検討によれば、圧電体層12中における圧電体粒子26の体積分率は、30〜70%が好ましく、特に、50%以上とするのが好ましく、従って、50〜70%とするのが、より好ましい。
粘弾性マトリックス24と圧電体粒子26との量比を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
また、本発明の変換フィルム10において、圧電体層12の厚さにも、特に限定はなく、変換フィルム10のサイズ、変換フィルム10の用途、変換フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、本発明者の検討によれば、圧電体層12の厚さは、10μm〜300μmが好ましく、20〜200μmがより好ましく、特に、30〜100μmが好ましい。
圧電体層12の厚さを、上記範囲とすることにより、剛性の確保と適度な柔軟性との両立等の点で好ましい結果を得ることができる。
なお、圧電体層12は、分極処理(ポーリング)されているのが好ましいのは、前述のとおりである。分極処理に関しては、後に詳述する。
図3に示すように、本発明の変換フィルム10は、このような圧電体層12の一面に、下部薄膜電極14を形成し、その上に下部保護層18を形成し、圧電体層12の他方の面に、上部薄膜電極16を形成し、その上に上部保護層20を形成してなる構成を有する。ここで、上部薄膜電極16と下部薄膜電極14とが電極対を形成する。
なお、変換フィルム10は、これらの層に加えて、例えば、上部薄膜電極16、および、下部薄膜電極14からの電極の引出しを行う電極引出し部や、圧電体層12が露出する領域を覆って、ショート等を防止する絶縁層等を有していてもよい。
すなわち、変換フィルム10は、圧電体層12の両面を電極対、すなわち、上部薄膜電極16および下部薄膜電極14で挟持し、この積層体を、上部保護層20および下部保護層18で挟持してなる構成を有する。
このように、上部薄膜電極16および下部薄膜電極14で挾持された領域は、印加された電圧に応じて駆動される。
変換フィルム10において、上部保護層20および下部保護層18は、圧電体層12に適度な剛性と機械的強度を付与する役目を担っている。すなわち、本発明の変換フィルム10において、粘弾性マトリックス24と圧電体粒子26とからなる圧電体層12は、ゆっくりとした曲げ変形に対しては、非常に優れた可撓性を示す一方で、用途によっては、剛性や機械的強度が不足する場合がある。変換フィルム10は、それを補うために上部保護層20および下部保護層18が設けられる。
上部保護層20および下部保護層18には、特に限定はなく、各種のシート状物が利用可能であり、一例として、各種の樹脂フィルムが好適に例示される。中でも、優れた機械的特性および耐熱性を有するなどの理由により、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)、および、環状オレフィン系樹脂が好適に利用される。
上部保護層20および下部保護層18の厚さにも、特に、限定は無い。また、上部保護層20および下部保護層18の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
ここで、上部保護層20および下部保護層18の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれるため、機械的強度やシート状物としての良好なハンドリング性が要求される場合を除けば、上部保護層20および下部保護層18は、薄いほど有利である。
本発明者の検討によれば、上部保護層20および下部保護層18の厚さが、圧電体層12の厚さの2倍以下であれば、剛性の確保と適度な柔軟性との両立等の点で好ましい結果を得ることができる。
例えば、圧電体層12の厚さが50μmで上部保護層20および下部保護層18がPETからなる場合、上部保護層20および下部保護層18の厚さは、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、中でも25μm以下とするのが好ましい。
本発明の変換フィルム10において、圧電体層12と上部保護層20との間には上部薄膜電極(以下、上部電極とも言う)16が、圧電体層12と下部保護層18との間には下部薄膜電極(以下、下部電極とも言う)14が、それぞれ形成される。
上部電極16および下部電極14は、変換フィルム10(圧電体層12)に電界を印加するために設けられる。
本発明において、上部電極16および下部電極14の形成材料には、特に、限定はなく、各種の導電体が利用可能である。具体的には、炭素、パラジウム、鉄、錫、アルミニウム、ニッケル、白金、金、銀、銅、クロムおよびモリブデン等や、これらの合金、酸化インジウムスズ等が例示される。中でも、銅、アルミニウム、金、銀、白金、および、酸化インジウムスズのいずれかは、好適に例示される。
また、上部電極16および下部電極14の形成方法にも、特に限定はなく、真空蒸着やスパッタリング等の気相堆積法(真空成膜法)やめっきによる成膜や、上記材料で形成された箔を貼着する方法等、公知の方法が、各種、利用可能である。
中でも特に、変換フィルム10の可撓性が確保できる等の理由で、真空蒸着によって成膜された銅やアルミニウムの薄膜は、上部電極16および下部電極14として、好適に利用される。その中でも特に、真空蒸着による銅の薄膜は、好適に利用される。
上部電極16および下部電極14の厚さには、特に、限定は無い。また、上部電極16および下部電極14の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
ここで、前述の上部保護層20および下部保護層18と同様に、上部電極16および下部電極14の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれるため、上部電極16および下部電極14は、電気抵抗が高くなり過ぎない範囲であれば、薄いほど有利である。
ここで、本発明者の検討によれば、上部電極16および下部電極14の厚さとヤング率との積が、上部保護層20および下部保護層18の厚さとヤング率との積を下回れば、可撓性を大きく損なうことがないため、好適である。
例えば、上部保護層20および下部保護層18がPET(ヤング率:約6.2GPa)で、上部電極16および下部電極14が銅(ヤング率:約130GPa)からなる組み合わせの場合、上部保護層20および下部保護層18の厚さが25μmだとすると、上部電極16および下部電極14の厚さは、1.2μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、中でも0.1μm以下とするのが好ましい。
前述のように、本発明の変換フィルム10は、常温で粘弾性を有する粘弾性マトリックス24に圧電体粒子26を分散してなる圧電体層12を、上部電極16および下部電極14で挟持し、さらに、この積層体を、上部保護層20および下部保護層18を挟持してなる構成を有する。
このような変換フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの損失正接(Tanδ)が0.1以上となる極大値が常温に存在するのが好ましい。
これにより、変換フィルム10が外部から数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けたとしても、歪みエネルギーを効果的に熱として外部へ拡散できるため、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生するのを防ぐことができる。
変換フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において10〜30GPa、50℃において1〜10GPaであるのが好ましい。
これにより、常温で変換フィルム10が貯蔵弾性率(E’)に大きな周波数分散を有することができる。すなわち、20Hz〜20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことができる。
また、変換フィルム10は、厚さと動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)との積が、0℃において1.0×106〜2.0×106(1.0E+06〜2.0E+06)N/m、50℃において1.0×105〜1.0×106(1.0E+05〜1.0E+06)N/mであるのが好ましい。
これにより、変換フィルム10が可撓性および音響特性を損なわない範囲で、適度な剛性と機械的強度を備えることができる。
さらに、変換フィルム10は、動的粘弾性測定から得られたマスターカーブにおいて、25℃、周波数1kHzにおける損失正接(Tanδ)が、0.05以上であるのが好ましい。
これにより、変換フィルム10を用いたスピーカの周波数特性が平滑になり、スピーカの曲率の変化に伴い最低共振周波数fが変化した際の音質の変化量も小さくできる。
ここで前述のとおり、変換フィルム10は、主面の略中央部に1つの凸部10aを形成されてなる構成を有する。
図1(A)〜図1(C)に示す例では、凸部10aは、変換フィルム10の一部を、一方の主面側に突出するように、半球状の凸面に形成されている。すなわち、凸部10aは、他方の主面側から見た際には、半球状の凹面に形成されている。
このように、凸部10aを形成されてなる変換フィルム10を振動板として使用することで、電気音響変換器80において、変換フィルム10は、凸部10aからなる第1の領域と、変換フィルム10の主面全体からなる第2の領域とを有し、第1の領域と第2の領域とで表面積が異なり、かつ、第1の領域と第2の領域とで、異なる曲率半径で湾曲した状態で支持される。
そのため、変換フィルム10の第1の領域における共振周波数は、変換フィルム10主面(第2の領域)における共振周波数とは異なる周波数となるので、第1の領域と第2の領域とで異なる振動特性となる。すなわち、第1の領域と第2の領域とで、音(振動)と電気信号との変換効率が高い周波数帯域が異なるものとなり、十分な音量で再生可能な周波数帯域が異なるものとなる。従って、1つの振動板として、広い周波数帯域の音を、十分な音量で再生することができる。
ここで、本発明においては、変換フィルム10の圧電体層12は、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス24中に圧電体粒子26を分散してなるものである。そのため、単一の振動板上に複数の異なる振動モードが混在した場合であっても、各振動モードでの振動が互いに干渉してクロストークをおこすことがない。すなわち、変換フィルム10では、第1の領域と、第2の領域との振動が互いに干渉することがなく、それぞれの領域が異なる周波数帯域の音を良好に再生することができる。
従って、この変換フィルム10を振動板として用いる電気音響変換器80において、広い周波数帯域で高音質な音を十分な音量で再生することができる。
なお、凸部10aの大きさ(表面積)、高さ、曲率等には特に限定はなく、変換フィルム10の大きさ、厚さ、電気音響変換器80に組み込んだ際の変換フィルム10主面の曲率半径、電気音響変換器80に求められる音と電気信号との変換効率や、求められる周波数帯域等に応じて適宜決定すればよい。
ここで、凸部10aの変換フィルム10の主面に対する最大高さdと、変換フィルム10の主面に垂直な方向から見た際の、凸部10aの最大長さLとが、d≦0.5×Lの関係を満たすのが好ましい。
例えば、図1(A)および図1(B)に示すように、変換フィルムの主面に垂直な方向から見た際の、凸部10aの形状が円形である場合には、図4(A)に示すように、その直径を凸部10aの最大長さLとし、この最大長さLと凸部10aの主面に対する最大高さdとが、d≦0.5×Lの関係を満たすのが好ましい。ここで、dが0.5×Lに近づくほど共振周波数は高くなり、より高音が強調された音が再生されることになる。一般に高い周波数の音は直進性が高いため指向性が強くなり易いが、図1(B)に示されるように凸部10aを半球状にすることで全方位に音が放射されるため、理想的な高音用ツイーターが実現可能になる。
上記共振周波数や指向性の観点から、凸部10aの主面に対する最大高さdと、凸部10aの最大長さLとが、高音域の場合は、0.3×L≦d≦0.5×Lの関係を満たすのが好ましく、中・低音域の場合は、d≦0.3×Lの関係を満たすのが好ましい。
ここで、図4(A)に示す例では、変換フィルム10の主面に垂直な方向から見た際の、凸部10aの形状は円形としたが、本発明はこれに限定はされず、矩形状、三角形状、五角形状等の多角形状、楕円形状等の種々の形状とすることができる。
なお、凸部の形状は、対称性の高い形状であることが好ましく、正多角形または円形状であることが好ましい。
凸部10aの各形状における、凸部の最大長さLの定義について、図4(B)〜図4(E)を用いて説明する。
図4(B)に示すように、凸部10aの形状が楕円形の場合には、長径を凸部10aの最大長さLとする。
図4(C)に示すように、凸部10aの形状が四角形状である場合には、凸部10aの対角線の長さを凸部10aの最大長さをLとする。
図4(D)に示すように、凸部10aの形状が、四角形以上の多角形の場合には、対角線のうち、最長の対角線を凸部10aの最大長さLとする。
図4(E)に示すように、凸部10aの形状が三角形の場合には、垂線のうち、最長の垂線を凸部10aの最大長さLとする。
また、図1(A)に示す例では、変換フィルム10は、凸部10aを1つ有する構成としたが、これに限定はされず、複数の凸部を有する構成としてもよい。
図5(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を示す概略上面図であり、図5(B)は、図5(A)のB−B線断面図である。
図5(A)および図5(B)に示すように、変換フィルム90は、面方向に等間隔に配置された2行4列の計8つの凸部90aを有する。凸部90aは、凸部10aと同様に、一方の主面側に突出するように、半球状の凸面に形成された部位であり、各凸部90aの表面積、高さ、曲率半径は同じである。
このように複数の凸部90aを形成することで、所望の周波数帯域での変換効率を向上させることができ、より好適に広帯域化することができる。
また、複数の凸部を形成する際には、各凸部の表面積、高さ、曲率等を異なるものとしてもよい。
図6(A)は、本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を示す概略上面図であり、図6(B)は、図6(A)のB−B線断面図である。
図6(A)および図6(B)に示すように、変換フィルム92は、面方向の略中央に1つの凸部92aを有し、図中、凸部92aの右側に1つの凸部92bを有し、凸部92aの左側に3つの凸部92cを有する。
凸部92a〜92cはそれぞれ、凸部10aと同様に、一方の主面側に突出するように、半球状の凸面に形成された部位である。また、各凸部の表面積、高さ、曲率半径は異なり、凸部92aは凸部92bよりも表面積、高さおよび曲率半径が大きく、凸部92cは凸部92bよりも表面積、高さおよび曲率半径が小さい。
このように異なる大きさの凸部を形成することで、各凸部の共振周波数を異なるものとして、効率よく再生することができる周波数帯域をより広帯域化することができる。
なお、図6(A)に示すように、複数の凸部のうち、少なくとも2つの凸部の曲率半径(共振周波数)が異なればよく、同じ曲率半径(共振周波数)の凸部を有していてもよい。
なお、図6(A)に示す例では、各凸部の表面積、高さおよび曲率半径を異なるものとして、各凸部の共振周波数を異ならせる構成としたが、これに限定はされず、各凸部で共振周波数が異なればよく、各凸部の曲率半径は同じにして表面積のみを異ならせて、共振周波数を異なるものとする構成としてもよく、あるいは、各凸部の表面積は同じにして曲率半径のみを異ならせて、共振周波数を異なるものとする構成としてもよい。
また、共振周波数を異なるものとすることができれば、凸部の形状を異ならせる構成に限定はされず、例えば、一部に保護フィルムを二重に貼り付けて、領域ごとに質量やスチフネスを異ならせるようにして、共振周波数を異なるものとする構成にしてもよい。
また、図1(A)に示す例では、凸部の形状を半球状の凸面としたが、これに限定はされず、図7に示す変換フィルム94の凸部94aのように、略矩形状の凸面であってもよい。あるいは、凸部は、楕円状、正弦波状、角丸長方形、ハニカム形状等の凸面であってもよく、これらの形状の一部で表される形状に湾曲した凸面、一部がこれらの形状に湾曲した凸面であってもよい。
また、図5(A)、図6(A)に示す例では、複数の凸部を変換フィルムの主面の面方向の異なる位置に配置したが、これに限定はされず、曲率半径、表面積等が異なる凸部を面方向の重なる位置に配置する構成としてもよい。すなわち、曲率半径等が異なる凸部が変換フィルムの主面に垂直な方向に重なってなる構成としてもよい。
図8(A)は、本発明の変換フィルムの他の一例を概念的に示す上面図であり、図8(B)は、図8(A)のB−B線断面図であり、図8(C)は、図8(A)のC−C線断面図である。
図8(A)〜図8(C)に示すように、変換フィルム102は、面方向の略中央に凸部102aと、凸部102aよりも大きい凸部102bとを有する。
凸部102aは、変換フィルム102の主面の略中央の矩形状の領域を、図中左右方向および上下方向に湾曲してなる凸面である。また、凸部102bは、主面の面方向において凸部102aと中心が一致する位置に、凸部102aよりも大きい矩形状の領域を、図中左右方向および上下方向に湾曲してなる凸面である。図8(B)および図8(C)に示すように、凸部102bの曲率半径は、凸部102aの曲率半径よりも大きい。また、凸部102bの表面積は、凸部102aの表面積よりも大きい。
このように、複数の凸部が変換フィルムの主面に垂直な方向に重なる構成とした場合であっても、各凸部の共振周波数を異なるものとして、効率よく再生することができる周波数帯域をより広帯域化することができる。
なお、図8(A)に示す例では、凸部は、変換フィルムの主面に垂直な一方向の断面、および、この一方向に直交する他方向の断面において湾曲する構成としたが、これに限定はされず、一方向のみが湾曲する構成であってもよい。
本発明においては、圧電体層12は、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体である。そのため、圧電体層12は、圧電特性に面内異方性がないので、変換フィルム10を、どの方向に湾曲させても振動板として機能させることができる。従って、変換フィルムの主面に垂直な一方向の断面、および、この一方向に直交する他方向の断面において湾曲させることで、音質を変化させることなく、より好適に広帯域化することができ、この変換フィルムを用いるスピーカ構造の簡略化や軽量化が容易にできる。
以下、図9(A)〜図9(E)を参照して、変換フィルム10の製造方法の一例を説明する。
まず、図9(A)に示すように、下部保護層18の上に下部電極14が形成されたシート状物11aを準備する。このシート状物11aは、下部保護層18の表面に、真空蒸着、スパッタリング、めっき等によって下部電極14として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。
下部保護層18が非常に薄く、ハンドリング性が悪い時などは、必要に応じて、セパレータ(仮支持体)付きの下部保護層18を用いても良い。尚、セパレータとしては、厚さ25〜100μmのPET等を用いることができる。なお、セパレータは、薄膜電極および保護層の熱圧着後、側面絶縁層や、第2の保護層等を形成する直前に、取り除けばよい。
一方で、有機溶媒に、シアノエチル化PVA等の常温で粘弾性を有する高分子材料(以下、粘弾性材料とも言う)を溶解し、さらに、PZT粒子等の圧電体粒子26を添加し、攪拌して分散してなる塗料を調製する。有機溶媒には、特に限定はなく、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等の各種の有機溶媒が利用可能である。
前述のシート状物11aを準備し、かつ、塗料を調製したら、この塗料をシート状物にキャスティング(塗布)して、有機溶媒を蒸発して乾燥する。これにより、図9(B)に示すように、下部保護層18の上に下部電極14を有し、下部電極14の上に圧電体層12を形成してなる積層体11bを作製する。
この塗料のキャスティング方法には、特に、限定はなく、スライドコータやドクターナイフ等の公知の方法(塗布装置)が、全て、利用可能である。
あるいは、粘弾性材料がシアノエチル化PVAのように加熱溶融可能な物であれば、粘弾性材料を加熱溶融して、これに圧電体粒子26を添加/分散してなる溶融物を作製し、押し出し成形等によって、図9(A)に示すシート状物11aの上にシート状に押し出し、冷却することにより、図9(B)に示すような、下部保護層18の上に下部電極14を有し、下部電極14の上に圧電体層12を形成してなる積層体11bを作製してもよい。
なお、前述のように、本発明の変換フィルム10において、粘弾性マトリックス24には、シアノエチル化PVA等の粘弾性材料以外にも、PVDF等の高分子圧電材料を添加しても良い。
粘弾性マトリックス24に、これらの高分子圧電材料を添加する際には、上記塗料に添加する高分子圧電材料を溶解すればよい。あるいは、上記加熱溶融した粘弾性材料に、添加する高分子圧電材料を添加して加熱溶融すればよい。
下部保護層18の上に下部電極14を有し、下部電極14の上に圧電体層12を形成してなる積層体11bを作製したら、好ましくは、圧電体層12の分極処理(ポーリング)を行う。
圧電体層12の分極処理の方法には、特に限定はなく、公知の方法が利用可能である。好ましい分極処理の方法として、図9(C)および図9(D)に示す方法が例示される。
この方法では、図9(C)および図9(D)に示すように、積層体11bの圧電体層12の上面12aの上に、間隔gを例えば1mm開けて、この上面12aに沿って移動可能な棒状あるいはワイヤー状のコロナ電極30を設ける。そして、このコロナ電極30と下部電極14とを直流電源32に接続する。
さらに、積層体11bを加熱保持する加熱手段、例えば、ホットプレートを用意する。
その上で、圧電体層12を、加熱手段によって、例えば、温度100℃に加熱保持した状態で、直流電源32から下部電極14とコロナ電極30との間に、数kV、例えば、6kVの直流電圧を印加してコロナ放電を生じさせる。さらに、間隔gを維持した状態で、圧電体層12の上面12aに沿って、コロナ電極30を移動(走査)して、圧電体層12の分極処理を行う。
このようなコロナ放電を利用する分極処理(以下、便宜的に、コロナポーリング処理とも言う)において、コロナ電極30の移動は、公知の棒状物の移動手段を用いればよい。
また、コロナポーリング処理では、コロナ電極30を移動する方法にも、限定はされない。すなわち、コロナ電極30を固定し、積層体11bを移動させる移動機構を設け、この積層体11bを移動させて分極処理をしてもよい。この積層体11bの移動も、公知のシート状物の移動手段を用いればよい。
さらに、コロナ電極30の数は、1本に限定はされず、複数本のコロナ電極30を用いて、コロナポーリング処理を行ってもよい。
また、分極処理は、コロナポーリング処理に限定はされず、分極処理を行う対象に、直接、直流電界を印加する、通常の電界ポーリングも利用可能である。但し、この通常の電界ポーリングを行う場合には、分極処理の前に、上部電極16を形成する必要が有る。
なお、この分極処理の前に、圧電体層12の表面を加熱ローラ等を用いて平滑化する、カレンダー処理を施してもよい。このカレンダー処理を施すことで、後述する熱圧着工程がスムーズに行える。
このようにして積層体11bの圧電体層12の分極処理を行う一方で、上部保護層20の上に上部電極16が形成されたシート状物11cを、準備する。このシート状物11cは、上部保護層20の表面に、真空蒸着、スパッタリング、めっき等によって上部電極16として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。
次いで、図9(E)に示すように、上部電極16を圧電体層12に向けて、シート状物11cを、圧電体層12の分極処理を終了した積層体11bに積層する。
さらに、この積層体11bとシート状物11cとの積層体を、上部保護層20と下部保護層18とを挟持するようにして、加熱プレス装置や加熱ローラ対等で熱圧着して、変換フィルムを作製する。
次に、作製した変換フィルムを加工して、図1(A)に示すような凸部10aを形成する。凸部の形成方法としては特に限定はなく、種々の公知の樹脂フィルムの加工方法が利用可能である。例えば、真空加圧成型法、エンボス加工等の形成方法により、凸部10aを形成することができる。
このようにして、凸部10aを有する本発明の変換フィルム10を作製する。
次に、変換フィルム10を用いる本発明の電気音響変換器について説明する。
図2(A)は、本発明の電気音響変換器の一例を示す上面図であり、図2(B)は、図2(A)のB−B線断面図である。
図2(A)および図2(B)に示すように、電気音響変換器80は、変換フィルム10と、ケース82と、枠体84と、粘弾性支持体86とを有する。
ケース82は、プラスチック等で形成される、一面が開放する薄い正四角筒状の筐体である。なお、本発明の変換フィルムを利用する電気音響変換器において、ケース82は、四角筒状に限定はされず、円筒状や底面が長方形の四角筒状等の各種の形状の筐体が利用可能である。
また、枠体84は、中央に開口部を有する、ケース82の上端面(開放面側)と同様の形状を有する板材である。
さらに、粘弾性支持体86は、適度な粘性と弾性を有し、変換フィルム10を支持すると共に、圧電フィルムのどの場所でも一定の機械的バイアスを与えることによって、変換フィルムの伸縮運動を無駄なく前後運動(フィルムの面に垂直な方向の運動)に変換させるためのものである。一例として、羊毛のフェルト、レーヨンやPETを含んだ羊毛のフェルトなどの不織布、グラスウール、或いはポリウレタンなどの発泡材料(発泡プラスチック)、紙を複数枚重ねたもの、塗料等が例示される。
図示例において、粘弾性支持体86は、ケース82の底面とほぼ同等の底面形状を有する四角柱状である。なお、粘弾性支持体86は、変換フィルム10の凸部10aに対応する位置に、凸部10aよりも一回り大きい凸部を有する形状とし、凸部10a内にも粘弾性支持体86を配置する構成としてもよい。あるいは、図2(C)に示す電気音響変換器80bのように、凸部10a内は空洞となる構成としてもよい。
粘弾性支持体86の比重には、特に限定はなく、粘弾性支持体の種類に応じて、適宜、選択すればよい。一例として、粘弾性支持体としてフェルトを用いた場合には、比重は、50〜500kg/m3が好ましく、100〜300kg/m3がより好ましい。また、粘弾性支持体としてグラスウールを用いた場合には、比重は、10〜100kg/m3が好ましい。
電気音響変換器80においては、このケース82の中に粘弾性支持体86を収容して、変換フィルム10によってケース82および粘弾性支持体86を覆い、変換フィルム10の周辺を枠体84によってケース82の上端面に接した状態で、枠体84をケース82に固定して、構成される。
なお、ケース82への枠体の固定方法には、特に限定はなく、ビスやボルトナットを用いる方法、固定用の治具を用いる方法等、公知の方法が、各種、利用可能である。
ここで、この電気音響変換器80においては、粘弾性支持体86は、高さ(厚さ)がケース82の内面の高さよりも厚い。すなわち、変換フィルム10および枠体84が固定される前の状態では、粘弾性支持体86は、ケース82の上面よりも突出した状態となっている。
そのため、電気音響変換器80では、粘弾性支持体86の周辺部に近くなるほど、粘弾性支持体86が変換フィルム10によって下方に押圧されて厚さが薄くなった状態で、保持される。すなわち、変換フィルム10の主面が湾曲した状態で保持される。
この際、変換フィルム10の面方向において、粘弾性支持体86の全面を押圧して、全面的に厚さが薄くなるようにするのが好ましい。すなわち、変換フィルム10の全面が粘弾性支持体86により押圧されて支持されるのが好ましい。
なお、電気音響変換器80において、変換フィルム10による粘弾性支持体86の押圧力には、特に限定はないが面圧が低い位置における面圧で0.005〜1.0MPa、特に0.02〜0.2MPa程度とするのが好ましい。
電気音響変換器80に組み込んだ変換フィルム10の高低差、図示例では、枠体84の底面に対して最も近い所と最も遠い所との距離にも、特に限定はないが、薄型の平面スピーカが得られる、変換フィルム10の十分な上下運動が可能になる等の点で、1〜50mm、特に5〜20mm程度とするのが好ましい。
加えて、粘弾性支持体86の厚さにも、特に限定は無いが、押圧される前の厚さが、1〜100mm、特に10〜50mmであるのが好ましい。
このような電気音響変換器80において、圧電体層12への電圧印加によって、変換フィルム10が面内方向に伸長すると、この伸長分を吸収するために、変換フィルム10は、上方(音の放射方向)に移動する。
逆に、圧電体層12への電圧印加によって、変換フィルム10が面内方向に収縮すると、この収縮分を吸収するために、変換フィルム10は、下方(ケース82側)に移動する。
電気音響変換器80をスピーカとして利用する場合は、この変換フィルム10の伸縮の繰り返しによる振動によって、音を発生する。
電気音響変換器80において、粘弾性支持体86は枠体84に近づくほど厚さ方向に圧縮された状態になるが、静的粘弾性効果(応力緩和)によって、圧電フィルム10のどの場所でも機械的バイアスを一定に保つことができる。これにより、圧電フィルム10の伸縮運動が無駄なく前後運動へと変換されるため、薄型、かつ、十分な音量が得られ、音響特性に優れる平面状の電気音響変換器80を得ることができる。
ここで、前述のとおり、振動板として用いられる変換フィルム10は、凸部10aを形成されてなるものである。そのため、電気音響変換器80に組み込まれた変換フィルム10は、主面全体を湾曲されてなる第2の領域と、第2の領域よりも表面積が小さく、第2の領域とは異なる曲率半径で湾曲した凸部10aからなる第1の領域とを有する状態で支持される。そのため、変換フィルム10主面(第2の領域)における共振周波数と、第1の領域における共振周波数は異なる周波数となり、第1の領域と第2の領域とで異なる振動特性となる。
すなわち、第1の領域と第2の領域とで、音(振動)と電気信号との変換効率が高い周波数帯域が異なるものとなり、十分な音量で再生可能な周波数帯域が異なるものとなる。従って、1つの振動板として、広い周波数帯域の音を、十分な音量で再生することができる。
また、電気音響変換器80に組み込まれた変換フィルム10は、第1の領域と第2の領域とが、変換フィルムの主面に垂直な方向に重なった状態で保持される。
ここで、一般的に、複数の振動板(スピーカ)を有する場合、各スピーカから視聴者までの距離が同じであれば、各スピーカから再生される音の位相が合い、音像が良くなるが、各スピーカから視聴者までの距離が異なると、各スピーカから再生される音の位相がずれて、重複する周波数の音が互いに打ち消しあい、その周波数の音が抜けてつながりの悪い音になったり、音が痩せたり、ぼやけたりして、音像が悪くなる場合がある。
これに対して、電気音響変換器80では、異なる振動特性を有する領域が、主面に垂直な方向に重なった構成を有することで、第1の領域から主に発生する周波数帯域の音と、第2の領域から主に発生する周波数帯域の音とが同じ位置から再生される。これにより、優れた音像を実現できる。
なお、本発明において、変換フィルムを電気音響変換器に組み込んだ際の、変換フィルムの主面に垂直な方向とは、変換フィルムが振動する領域と固定される領域との境界を結んだ直線に囲まれる面に垂直な方向である。例えば、変換フィルムの周囲を枠体で固定する構成とする場合には、枠体で固定された領域と枠体よりも内側の振動する領域との境界線に囲まれる面に垂直な方向である。
ここで、図示例の電気音響変換器80は、枠体84によって、変換フィルム10の周辺全域をケース82、すなわち、粘弾性支持体86に押し付けているが、本発明は、これに限定されない。
すなわち、変換フィルム10を利用する電気音響変換器は、枠体84を有さずに、例えばケース82の4箇所の角において、ビスやボルトナット、治具などによって、変換フィルム10を粘弾性支持体86の上面に押圧/固定してなる構成も利用可能である。
また、ケース82と変換フィルム10との間には、Oリング等を介在させてもよい。このような構成を有することにより、ダンパ効果を持たせることができ、変換フィルム10の振動がケース82に伝達されることを防止して、より優れた音響特性を得ることができる。
また、変換フィルム10を利用する電気音響変換器は、粘弾性支持体86を収容するケース82に代えて、粘弾性支持体86を載置する支持板を有する構成としてもよい。
すなわち、剛性を有する支持板の上に粘弾性支持体86を載置し、粘弾性支持体86を覆って変換フィルム10を載せ、先と同様の枠体84を変換フィルム10の周辺部に載置して、ビス等によって枠体84を支持板に固定することにより、枠体84と一緒に変換フィルム10で粘弾性支持体86を押圧して、変換フィルム10を湾曲させる構成も、利用可能である。
また、このようなケース82を有さない構成でも、枠体84を用いずに、ビス等によって粘弾性支持体86を押圧して薄くした状態として、変換フィルム10を保持してもよい。
なお、支持板の材質として、ポリスチレンや発泡PET、或いはカーボンファイバーなどの各種振動板を用いることで、変換フィルム10の振動を更に増幅する構成としてもよい。
さらに、変換フィルム10を利用する電気音響変換器は、周辺を押圧する構成にも限定はされず、例えば、粘弾性支持体86と変換フィルム10の積層体の周辺以外の箇所を、何らかの手段によって押圧して、変換フィルム10の少なくとも一部を湾曲させた状態で保持してなる構成も利用可能である。
あるいは、変換フィルム10に樹脂フィルムを貼り付けて張力を付与する(保持する)構成としてもよい。樹脂フィルムで保持する構成とし、湾曲させた状態で保持できるようにすることでフレキシブルなスピーカとすることができる。
あるいは、変換フィルム10を湾曲したフレームに張り上げた構成としてもよい。
また、本発明の電気音響変換器は、粘弾性支持体86を利用する構成にも限定はされない。
例えば、ケースとして、ケース82と同様の形状で気密性を有する物を用い、ケースの開放端を変換フィルム10で覆って閉塞し、ケース内に気体を導入して変換フィルム10に圧力を掛けて、凸状に膨らました状態で、保持する構成としてもよい。
なお、内部に圧力を掛ける構成とすると、空気ばねの影響で歪み成分が増大し、音質が低下するおそれがある。一方、グラスウールやフェルト等の粘弾性支持体で変換フィルム10を支持する構成の場合は、粘性を付与することになるため、歪み成分が増大することなく好適である。
また、ケース内に充填するのは気体以外でも良く、磁性流体や塗料でも適度な粘性を付与できれば使用可能である。
また、粘弾性支持体86を利用する構成と内部に圧力をかける構成とを組み合わせてもよい。
また、領域ごとに、粘弾性支持体86や内部の圧力を変えて、変換フィルム10にかかる面圧を異ならせる構成としてもよい。これにより、変換フィルム10のスチフネスを制御して、領域ごとの共振周波数を制御することができ、より好適に広帯域化することができる。
次に、主面に垂直な方向に重なる複数の凸部を有する変換フィルムを用いる電気音響変換器について、図10(A)〜図10(C)を用いて説明する。なお、図10(A)〜図10(C)に示す電気音響変換器100は、変換フィルム10に代えて、図8(A)に示す変換フィルム102を用いた以外は、電気音響変換器80と同様の構成を有するので、同じ部位には同じ符号を付し、以下の説明では異なる部位を主に行う。
図10(A)は、本発明の電気音響変換器の他の一例を概念的に示す上面図であり、図10(B)は、図10(A)のB−B線断面図であり、図10(C)は、図10(A)のC−C線断面図である。
図10(A)に示すように、電気音響変換器100は、変換フィルム102と、ケース82と、枠体84と、粘弾性支持体86とを有する。
図に示すように、変換フィルム102は、主面を湾曲された状態で支持される。ここで、図8(B)に示すように、変換フィルム102は、変換フィルムの主面に垂直な方向に重なる、曲率半径が異なる2つの凸部を有している。
そのため、変換フィルム102を用いる電気音響変換器100においては、変換フィルム102は、凸部102aからなる第1の領域と、凸部102bからなる第2の領域と、主面の凸部102aおよび凸部102b以外の領域からなる第3の領域とが主面に垂直な方向に重なり、かつ、それぞれが異なる表面積を有し、かつ、それぞれ異なる曲率半径で湾曲した状態で支持される。
従って、各領域は異なる振動特性を有するので、1つの振動板で、より広い周波数帯域の音を、十分な音量で再生することができ、また、良好な音像を実現できる。
また、図10(A)に示す電気音響変換器100においては、各領域を、変換フィルムの主面に垂直な所定の一方向の断面、および、この一方向に直交する他方向の断面において湾曲させる構成としたが、本発明はこれに限定はされない。
図11(A)は、本発明の電気音響変換器の他の一例を概念的に示す上面図であり、図11(B)は、図11(A)のB−B線断面図であり、図11(C)は、図11(A)のC−C線断面図である。
図11(A)〜図11(C)に示すように、電気音響変換器110は、変換フィルム112と、ケース82と、フレーム116と、粘弾性支持体86とを有する。
フレーム116は、断面が矩形状の、図11(A)中、上下方向に長尺な棒状部材であり、ケース82の開口面の縁部に固定されて変換フィルム112の左右方向の両端部を固定する。
一方、変換フィルム112の図中、上下方向の両端部は固定されていない。すなわち、変換フィルム112は、図11(A)中、上下方向において、ケース82の内側と略同等の幅を有し、左右方向の両端部を、フレーム116でケース82に固定して支持されている。従って、変換フィルム112は、図11(A)中、左右方向においては、図11(B)に示すように、主面を湾曲された状態で支持される。一方、上下方向においては、図11(C)に示すように、湾曲されず平坦な状態で支持される。
また、図11(B)に示すように、変換フィルム112は、左右方向において、異なる表面積を有し、異なる曲率半径で湾曲する3つの領域を有する。第1の領域112aは、略中央部で最も小さい曲率半径で湾曲する領域である。第2の領域112bは、第1の領域112aよりも大きな曲率半径で湾曲する、第1の領域112aと中心が一致する、第1の領域112aよりも一回り大きな領域である。第3の領域112cは、第2の領域112bよりも大きな曲率半径で湾曲する、第1の領域112aおよび第2の領域112b以外の領域である。この3つの領域は、変換フィルムの主面に垂直な方向に重なって形成されている。
このように、変換フィルムの主面に垂直な一方向の断面においてのみ、変換フィルムを湾曲させる構成としてもよい。
このような構成は、変換フィルム112に、第1の領域112aに対応する凸部と、第2の領域112bに対応する凸部とを予め形成しておき、変換フィルム112の主面を湾曲させて電気音響変換器110に組み込むことで形成することができる。
なお、本発明においては、圧電体層12は、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体である。このような圧電体層12は、圧電特性に面内異方性がないので、変換フィルム10を、どの方向に湾曲させても振動板として機能させることができる。従って、広帯域化、高音質化、高効率化等の観点から、変換フィルムの主面に垂直な一方向の断面、および、この一方向に直交する他方向の断面において湾曲させることが好適であり、全方向において湾曲させるのがより好適である。
また、図2(B)等に示す例では、異なる曲率半径で湾曲する領域を主面に垂直な方向に重なるように配置する構成としたが、本発明はこれに限定はされず、異なる曲率半径で湾曲する領域を主面の面方向の異なる位置に配置する構成としてもよい。
図12(A)は、本発明の電気音響変換器の他の一例を概念的に示す上面図であり、図12(B)は、図12(A)のB−B線断面図であり、図12(C)は、図12(A)のC−C線断面図である。
図12(A)〜図12(C)に示すように、電気音響変換器120は、変換フィルム122と、ケース82と、枠体124と、粘弾性支持体86とを有する。図に示すように、電気音響変換器120において、変換フィルム122は、表面積が異なり、異なる曲率半径で湾曲される3つの領域を面方向の異なる位置に形成される。なお、以下の説明では、領域が面方向の異なる位置に形成されることを、並列に形成される、ともいう。
枠体124は、ケース82の開口面の縁部に対応する外枠部124aと、変換フィルム122の各領域の境界線に対応する位置に配置される2つのフレーム部124bとを有する。言い換えると、枠体124は、変換フィルム122の各領域に対応する、3つの開口部を有する部材である。
枠体124は、ケース82の開口面の縁部に固定されて変換フィルム122の周辺部分と、各領域の境界部分を固定する。
変換フィルム122は、ケース82内に配置された粘弾性支持体86を覆って、枠体124によって、粘弾性支持体86を押圧した状態で支持される。従って、変換フィルム122は、枠体124の外枠部124aに対応する周縁部と、2つのフレーム部124bに対応する部分が固定され、図12(A)に示すように、図中左右方向に並列に、3つの領域が形成される。
図12(B)に示すように、図12(A)の左右方向において、この3つの領域は、それぞれ、表面積が異なり、異なる曲率半径で湾曲されている。すなわち、変換フィルム122は、最も大きな領域であり、最も大きな曲率半径で湾曲される第1の領域122aと、第1の領域122aよりも小さな曲率半径で湾曲される第2の領域122bと、最も小さな領域であり、最も小さな曲率半径で湾曲される第3の領域122cとを形成された状態で支持される。なお、図12(C)に示すように、図12(A)の上下方向においても、変換フィルム122は湾曲している。
このように、異なる曲率半径で湾曲する領域を、並列に形成する場合にも、各領域の振動特性が異なるので、1つの振動板で、より広い周波数帯域の音を、十分な音量で再生することができる。
また、異なる曲率半径で湾曲する領域を並列に形成する構成の場合にも、各領域の湾曲方向を、変換フィルムの主面に垂直な所定の一方向の断面、および、この一方向に直交する他方向の断面において湾曲する構成に限定はされず、主面に垂直な一方向の断面においてのみ、変換フィルムを湾曲させる構成としてもよい。
図13(A)は、本発明の電気音響変換器の他の一例を概念的に示す上面図であり、図13(B)は、図13(A)のB−B線断面図であり、図13(C)は、図13(A)のC−C線断面図である。
図13(A)〜図13(C)に示すように、電気音響変換器130は、変換フィルム132と、ケース82と、2つフレーム134aと、2つのフレーム134bと、粘弾性支持体86とを有する。図に示すように、電気音響変換器130は、表面積が異なり、異なる曲率半径で湾曲される3つの領域を並列に形成されるものである。
フレーム134aは、断面が矩形状の、図13(A)中、上下方向に長尺な棒状部材であり、ケース82の開口面の縁部に固定されて変換フィルム132の左右方向の両端部を固定する。また、フレーム134bは、フレーム134aと同様の形状で、変換フィルム132の各領域の境界線に対応する位置に配置されてケース82に固定される。
一方、変換フィルム132の、図中、上下方向の両端部は固定されていない。すなわち、変換フィルム132は、図13(A)中、上下方向において、ケース82の内側と略同等の幅を有し、左右方向の両端部を、フレーム134aでケース82に固定して支持されている。
従って、変換フィルム132は、図13(A)中、左右方向においては、図13(B)に示すように、変換フィルム132の各領域を湾曲された状態で支持される。一方、上下方向においては、図13(C)に示すように、湾曲されず平坦な状態で支持される。
また、図13(B)に示すように、変換フィルム132は、2つのフレーム134bにより、左右方向において、並列に3つの領域が形成される。すなわち、変換フィルム132は、最も大きな領域であり、最も大きな曲率半径で湾曲される第1の領域132aと、第1の領域132aよりも小さな曲率半径で湾曲される第2の領域132bと、最も小さい領域であり、最も小さな曲率半径で湾曲される第3の領域132cとを形成された状態で支持される。
このように、表面積が異なり、異なる曲率半径で湾曲する領域を、並列に形成する場合にも、主面に垂直な一方向の断面においてのみ、変換フィルムを湾曲させる構成としてもよい。
また、図2(B)に示す例では、変換フィルム10に形成された凸部10aを外側に向けて配置する構成としたが、本発明はこれに限定はされず、凸部10aを内側に向けて配置する構成としてもよい。すなわち、電気音響変換器において、変換フィルムが凹面状に湾曲する領域を有するように構成してもよい。
なお、凹面状に湾曲する領域から発生する音は、主面から発生する音と、位相が180°ずれるので、この凹面状に湾曲する領域から主に発生する周波数帯域の音の入力信号の位相を、他の周波数帯域の入力信号とはずらして、発生する音の位相が合うように入力信号を調整するのが好ましい。
また、図2(B)に示す例では、変換フィルム10は、1つの電極対で圧電体層を挾持する構成としたが、本発明は、これに限定はされず、異なる曲率半径で湾曲される領域ごとに、この領域に対応する大きさの電極対で挾持する構成としてもよい。その際、一方の電極を共通電極としてもよい。すなわち、他方の電極のみを、各領域に対応する大きさの電極としてもよい。また、このように領域ごとに電極対を分けた場合には、各電極対に同じ信号を入力してもよく、あるいは、領域ごとに、好適に再生できる周波数帯域の信号を入力するようにしてもよい。
なお、本発明においては、圧電体層12は、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体である。そのため、周波数が0Hz近辺では内部損失(損失正接Tanδ)が大きく、また、貯蔵弾性率E’が小さいため音速が小さくなるので、領域間で振動が伝搬することを防止できる。従って、各領域に互いに異なる信号を入力して再生した場合でも、各領域の振動が互いに干渉することなく、それぞれの領域で好適に音を再生することができる。
また、本発明の電気音響変換器をスピーカとして駆動する際には、変換フィルムの周波数特性に応じて、入力する信号レベルを周波数帯域ごとに補正してもよい。
本発明の電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器は、有機ELディスプレイ等のフレキシブルディスプレイと組み合わせてスピーカとして好適に利用することができる。また、本発明の電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器は、プロジェクター用のスクリーンと組み合わせてもよい。
このような構成により、変換フィルムの意匠性や娯楽性を向上できる。また、スピーカとしての変換フィルムと、スクリーンやフレキシブルディスプレイとを一体化することにより、画像が表示される方向から音を再生することができ、臨場感を向上させることができる。
また、プロジェクター用スクリーンは、フレキシブルであるので曲率を持たせることができる。画像表示面に曲率を持たせることで、観察者から画面までの距離を、画面の中央と端部とで略一様にすることができ、臨場感を向上させることができる。
なお、このように画像表示面に曲率を持たせた場合には、投射した画像に歪みが生じる。従って、画像表示面の曲率に合わせて歪みを低減するように、投射する画像のデータに画像処理を施すのが好ましい。
以上、本発明の電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明についてより詳細に説明する。
[実施例1]
前述の図9(A)〜図9(E)に示す方法によって、図1に示す本発明の変換フィルム10を作製した。
まず、下記の組成比で、シアノエチル化PVA(CR−V 信越化学工業社製)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。その後、この溶液に、PZT粒子を下記の組成比で添加して、プロペラミキサー(回転数2000rpm)で分散させて、圧電体層12を形成するための塗料を調製した。
・PZT粒子・・・・・・・・・・・300質量部
・シアノエチル化PVA・・・・・・・30質量部
・DMF・・・・・・・・・・・・・・70質量部
なお、PZT粒子は、市販のPZT原料粉を1000〜1200℃で焼結した後、これを平均粒径5μmになるように解砕および分級処理したものを用いた。
一方、厚さ4μmのPETフィルムに、厚さ0.1μmの銅薄膜を真空蒸着してなるシート状物11aおよび11cを用意した。すなわち、本例においては、上部電極16および下部電極14は、厚さ0.1mの銅蒸着薄膜であり、上部保護層20および下部保護層18は厚さ4μmのPETフィルムとなる。
なお、プロセス中、良好なハンドリングを得るために、PETフィルムには厚さ50μmのセパレータ(仮支持体 PET)付きのものを用い、薄膜電極および保護層の熱圧着後に、各保護層のセパレータを取り除いた。
このシート状物11aの下部電極14(銅蒸着薄膜)の上に、スライドコータを用いて、先に調製した圧電体層12を形成するための塗料を塗布した。なお、塗料は、乾燥後の塗膜の膜厚が40μmになるように、塗布した。
次いで、シート状物11aの上に塗料を塗布した物を、120℃のホットプレート上で加熱乾燥することでDMFを蒸発させた。これにより、PET製の下部保護層18の上に銅製の下部電極14を有し、その上に、厚さが40μmの圧電体層12(圧電層)を形成してなる積層体11bを作製した。
この積層体11bの圧電体層12を、図9(C)および図9(D)に示す前述のコロナポーリングによって、分極処理した。なお、分極処理は、圧電体層12の温度を100℃として、下部電極14とコロナ電極30との間に6kVの直流電圧を印加してコロナ放電を生じさせて、行った。
分極処理を行った積層体11bの上に、上部電極16(銅薄膜側)を圧電体層12に向けてシート状物11cを積層した。
次いで、積層体11bとシート状物11cとの積層体を、ラミネータ装置を用いて120℃で熱圧着することで、圧電体層12と上部電極16および下部電極14とを接着して平坦な変換フィルムを作製した。
次に、作製した平坦な変換フィルムに凸部10aを形成した。
凸部10aは、直径(弦長)60mmで、曲率半径30mmとし、真空加圧成型法によって形成し、変換フィルム10を作製した。
図2(C)に示すように、作製した変換フィルム10を、ケース82に組み込んでスピーカとしての電気音響変換器80を作製した。ケース82は、一面が開放した箱型の容器で、開口部の大きさ200×290mm、深さ9mmのプラスチック製の矩形容器を用いた。
また、ケース82内には、粘弾性支持体86を配置した。粘弾性支持体86は、組立前の高さ25mm、密度32kg/m3のグラスウールとした。
変換フィルム10を粘弾性支持体86およびケース82の開口部を覆うように配置して枠体84により周辺部を固定し、粘弾性支持体86により変換フィルム10に適度な張力と曲率を付与した。なお、凸部10a内は空洞とし、大気圧とした。
[実施例2]
実施例2として、2つの領域が並列に形成された電気音響変換器、すなわち、図12(A)において、異なる曲率半径で湾曲する領域を2つ有する電気音響変換器を作製した。
実施例2は、第1の領域の大きさを200mm×200mm、曲率半径を600mmとし、第2の領域の大きさを200mm×60mm、曲率半径を30mmとした以外は、実施例1と同様とした。
[比較例1]
平坦な変換フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして電気音響変換器を作製した。すなわち、変換フィルムの主面全体を一様に湾曲させた電気音響変換器とした。
[比較例2]
市販の厚さ50μmのPVDFをスピーカ用振動板として用いて、上部電極、下部電極をそれぞれ、真空蒸着にて形成して作製した変換フィルムを用いて変換フィルムの主面全体を一様に湾曲させた以外は、実施例1と同様にして、電気音響変換器を作製した。
[比較例3]
比較例2と同様の変換フィルムを用いた以外は、実施例2と同様にして、電気音響変換器を作製した。
[評価]
<周波数帯域>
作製したスピーカの音圧レベル−周波数特性を、定電流型パワーアンプを用いたサイン波スイープ測定によって測定した。なお、計測用マイクロフォンは、スピーカの中心の真上50cmの位置に配置した。
この音圧レベル−周波数特性の測定結果から周波数帯域の広さを求めた。具体的には、スピーカの周波数レスポンスが、定格周波数範囲の平均音圧レベルより10dB以上低下しない周波数の範囲を求めた。
<歪み>
次に、スピーカに、1kHzのサイン波(電圧10Vo-p)を印加した時の2次高調波または3次高調波成分の大きさ、すなわち、1kHzの音圧レベルに対する2次高調波または3次高調波成分の音圧レベルの比率を測定した。
<音像>
スピーカを用いて、市販の音楽CDを5枚、再生し、音像を評価した。
2つのスピーカを左右1m離して配置し、2つのスピーカの中央から0.87m離れた位置で、すなわち、左右のスピーカを結ぶ線分を一辺とする正三角形の頂点の位置で視聴して評価した。
評価は、一般人20人による官能評価で行い、通常の2ウェイのコーン型スピーカ(オーディオ・フィジック社製 Brilon2)と比較して音像が同等以上と評価した人数が15人以上の場合を評価Aとし、10人以上、15人未満の場合を評価Bとし、10未満の場合を評価Cとした。
評価結果を表1に示す。
また、図14に、測定した音圧レベル−周波数特性の測定結果の一例を示す。図14において、実施例1の結果を実線で示し、比較例1の結果を破線で示す。
表1より、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、高分子複合圧電体の両面に積層された一対の電極対とを有する変換フィルムが、表面積および曲率半径の少なくとも1方が異なる2以上の領域を形成されて支持される実施例1および実施例2は、比較例1〜3に比較して、十分な音圧レベルを有する周波数帯域が広く、また、歪みも少ないことがわかる。特に、実施例1と比較例1との対比および図14から、変換フィルムに曲率半径の異なる2以上の領域を形成することで、十分な音圧レベルを有する周波数帯域が広帯域化することがわかる。
また、実施例1と実施例2との対比から、曲率半径の異なる2以上の領域を主面に垂直な方向に重ねて配置することにより、音像が良好となることがわかる。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
10、90、92、94、102、112、122、132 電気音響変換フィルム
10a、90a、92a、92b、94a、102a、102b、 凸部
11a、11c シート状物
11b 積層体
12 圧電体層
14 下部電極
16 上部電極
18 下部保護層
20 上部保護層
24 粘弾性マトリックス
26 圧電体粒子
30 コロナ電極
32 直流電源
80、80b、100、110、120、130 電気音響変換器
82 ケース
84、124 枠体
86、86b 粘弾性支持体
112a、122a、132a 第1の領域
112b、122b、132b 第2の領域
112c、122c、132c 第3の領域
116、134a、134b フレーム
124a 外枠部
124b フレーム部

Claims (20)

  1. 常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、前記高分子複合圧電体の両面に積層された一対の電極対とを有し、
    一方の主面側に突出するように凸面状に成形されてなる凸部を1以上有することを特徴とする電気音響変換フィルム。
  2. 前記凸部の主面に対する最大高さdと、前記主面に垂直な方向から見た際の、前記凸部の最大長さLとが、d≦0.5×Lの関係を満たす請求項1に記載の電気音響変換フィルム。
  3. 前記凸部は、少なくとも1方向に湾曲されてなる請求項1または2に記載の電気音響変換フィルム。
  4. 前記凸部は、主面に垂直な一方向の断面、および、前記一方向と直交する他方向の断面において、湾曲している請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  5. 2以上の前記凸部を有し、前記2以上の凸部のうち、少なくとも2つは互いに表面積および曲率半径の少なくとも一方が異なる請求項2〜4のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  6. 前記凸部の形成領域に応じて積層された、複数の電極対を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  7. 前記電気音響変換フィルムの動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において10〜30GPa、50℃において1〜10GPaである請求項1〜6のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  8. 前記高分子材料の周波数1Hzでのガラス転移温度が0〜50℃である請求項1〜7のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  9. 前記高分子材料の動的粘弾性測定による周波数1Hzでの損失正接(Tanδ)が0.5以上となる極大値が0〜50℃の温度範囲に存在する請求項1〜8のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  10. 前記高分子材料が、シアノエチル基を有するものである請求項1〜9のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  11. 前記高分子材料が、シアノエチル化ポリビニルアルコールである請求項1〜10のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  12. 請求項1〜11のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルムと、前記電気音響変換フィルムを支持する支持部材とを有する電気音響変換器であって、
    前記支持部材は、前記電気音響変換フィルムの主面を湾曲した状態で前記電気音響変換フィルムを支持する電気音響変換器。
  13. 前記電気音響変換フィルムの前記1以上の凸部は、主面の湾曲の突出方向と同じ方向に突出する請求項12に記載の電気音響変換器。
  14. 前記電気音響変換フィルムの前記1以上の凸部は、主面の湾曲の突出方向の反対方向に突出する請求項12に記載の電気音響変換器。
  15. 常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、前記高分子複合圧電体の両面に積層された一対の電極対とを有する電気音響変換フィルムと、前記電気音響変換フィルムを支持する支持部材とを有する電気音響変換器であって、
    前記電気音響変換フィルムは、面積および曲率半径の少なくとも一方が異なる2以上の領域を形成されて支持されることを特徴とする電気音響変換器。
  16. 前記2以上の領域のうち、少なくとも2つの領域は、前記電気音響変換フィルムの主面に垂直な方向に重なっている請求項15に記載の電気音響変換器。
  17. 前記2以上の領域のうちの1つの領域は、前記電気音響変換フィルムの主面を湾曲してなるものである請求項16に記載の電気音響変換器。
  18. 3以上の領域を有し、少なくとも2つは互いに面積および曲率半径の少なくとも一方が異なる請求項15〜17のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
  19. 前記領域は、少なくとも1方向に湾曲されてなる請求項15〜18のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
  20. 前記領域は、圧電フィルムの主面に垂直な一方向の断面、および、前記一方向と直交する他方向の断面において、湾曲している請求項15〜19のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
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