JPWO2014061804A1 - L−アミノ酸の製造法 - Google Patents
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Abstract
リノール酸を炭素源として用いるL−アミノ酸の製造法を提供する。2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変されたL−アミノ酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌を、リノール酸を含有する培地中で培養し、該培地からL−アミノ酸を採取することにより、L−アミノ酸を製造する。
Description
本発明は、細菌を用いたL−リジン等のL−アミノ酸の製造法に関する。L−アミノ酸は、調味料、食品添加物、飼料添加物、化学製品、医薬品などの様々な分野に利用される。
L−リジン等のL−アミノ酸は、L−アミノ酸生産能を有するエシェリヒア属細菌等のL−アミノ酸生産菌を用いて発酵法により工業生産されている。L−アミノ酸生産菌としては、自然界から分離した菌株やその改変株が用いられている。L−リジンの製造法としては、例えば、特許文献1〜4に記載された方法が挙げられる。
L−アミノ酸の発酵生産においては、炭素源として、一般的に、グルコース、フラクトース、スクロース、廃糖蜜、澱粉加水分解物等の糖類が使用されている。
一方、脂肪酸を炭素源としてL−アミノ酸を発酵生産する方法も知られている。そのような方法としては、例えば、変異型rpsA遺伝子を有する腸内細菌科に属するL−アミノ酸生産菌を用いる方法(特許文献5)、UspAタンパク質の活性が低下するように改変された腸内細菌科に属するL−アミノ酸生産菌を用いる方法(特許文献6)、脂肪酸資化能が高まるように改変された腸内細菌科に属するL−アミノ酸生産菌を用いる方法(特許文献7)が挙げられる。
脂肪酸は、β酸化と呼ばれる資化経路を経て資化される(非特許文献1)。β酸化を触媒する酵素群は、fadL、fadD、fadE、fadB、fadAからなるfadレギュロンにコードされており、fadレギュロンの発現は、fadRにコードされる転写因子により抑制される(非特許文献1)。よって、例えば、fadR遺伝子の発現を弱化させることや、fadL、fadE、fadD、fadB、及びfadA遺伝子からなる群より選択される1またはそれ以上の遺伝子の発現を増強させることにより、細菌の脂肪酸資化能を高めることができる(特許文献7)。
fadH遺伝子は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ(2,4-dienoyl-CoA reductase)をコードする。2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼは、2,4−ジエノイル−CoAをNADPH依存的に還元して、3−トランス−エノイル−CoAまたは2−トランス−エノイル−CoAを生成する反応を触媒する酵素(EC 1.3.1.34)である。2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼは、偶数番目の炭素に二重結合を有する不飽和脂肪酸のβ酸化に必須である(非特許文献2)。そのような不飽和脂肪酸としては、例えば、リノール酸が挙げられる。リノール酸(C17H31COOH)は、9位と12位にシス型二重結合を含む炭素数18の多価不飽和脂肪酸である。
しかしながら、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性の増強が、リノール酸を炭素源とするL−アミノ酸生産に与える影響については知られていない。
Clark, D. P. and Cronan, J. E. Jr. 1996. p. 343-357. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C
Xue-Ying HE et al. Eur. J. Biochem. 248,516-520 (1997)
本発明者らは、脂肪酸の内、例えばリノール酸は、腸内細菌科に属するL−アミノ酸生産菌に利用されづらいことを見出した。本発明は、リノール酸を炭素源として用いる場合の細菌のL−アミノ酸生産能を向上させる新規な技術を開発し、リノール酸を炭素源として用いるL−アミノ酸の製造法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ(2,4-dienoyl-CoA reductase)活性が増大するように細菌を改変することによって、リノール酸を炭素源として用いる場合の細菌のL−アミノ酸生産能を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
L−アミノ酸の製造方法であって、
L−アミノ酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌を、リノール酸を含有する培地中で培養すること、および該培地からL−アミノ酸を採取すること、を含み、
前記細菌が、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変されていることを特徴とする、方法。
[2]
2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼをコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大した、前記方法。
[3]
前記遺伝子のコピー数を高めること、または、前記遺伝子の発現調節配列を改変することにより、前記遺伝子の発現が上昇した、前記方法。
[4]
前記遺伝子が、下記(A)〜(D)からなる群より選択されるDNAである、前記方法:
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA;
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(C)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA;
(D)配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列又は該塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[5]
前記培地が、さらに、リノール酸以外の炭素源を含有する、前記方法。
[6]
前記リノール酸以外の炭素源がグルコースである、前記方法。
[7]
前記L−アミノ酸がL−リジンである、前記方法。
[8]
前記細菌がエシェリヒア属細菌である、前記方法。
[9]
前記細菌がエシェリヒア・コリである、前記方法。
[1]
L−アミノ酸の製造方法であって、
L−アミノ酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌を、リノール酸を含有する培地中で培養すること、および該培地からL−アミノ酸を採取すること、を含み、
前記細菌が、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変されていることを特徴とする、方法。
[2]
2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼをコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大した、前記方法。
[3]
前記遺伝子のコピー数を高めること、または、前記遺伝子の発現調節配列を改変することにより、前記遺伝子の発現が上昇した、前記方法。
[4]
前記遺伝子が、下記(A)〜(D)からなる群より選択されるDNAである、前記方法:
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA;
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(C)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA;
(D)配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列又は該塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[5]
前記培地が、さらに、リノール酸以外の炭素源を含有する、前記方法。
[6]
前記リノール酸以外の炭素源がグルコースである、前記方法。
[7]
前記L−アミノ酸がL−リジンである、前記方法。
[8]
前記細菌がエシェリヒア属細菌である、前記方法。
[9]
前記細菌がエシェリヒア・コリである、前記方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>本発明の方法に用いられる細菌
本発明の方法に用いられる細菌(以下、「本発明の細菌」ともいう)は、L−アミノ酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌であって、且つ、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変された細菌である。本発明の細菌は、リノール酸を炭素源として利用する能力を有する。
本発明の方法に用いられる細菌(以下、「本発明の細菌」ともいう)は、L−アミノ酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌であって、且つ、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変された細菌である。本発明の細菌は、リノール酸を炭素源として利用する能力を有する。
<1−1>L−アミノ酸生産能を有する細菌
本発明において、「L−アミノ酸生産能を有する細菌」とは、リノール酸を含有する培地で培養したときに、目的とするL−アミノ酸を生成し、回収できる程度に培地中または菌体内に蓄積する能力を有する細菌をいう。L−アミノ酸生産能を有する細菌は、非改変株よりも多い量の目的とするL−アミノ酸を培地に蓄積することができる細菌であってよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。また、L−アミノ酸生産能を有する細菌は、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1.0g/L以上の量の目的とするL−アミノ酸を培地に蓄積することができる細菌であってもよい。
本発明において、「L−アミノ酸生産能を有する細菌」とは、リノール酸を含有する培地で培養したときに、目的とするL−アミノ酸を生成し、回収できる程度に培地中または菌体内に蓄積する能力を有する細菌をいう。L−アミノ酸生産能を有する細菌は、非改変株よりも多い量の目的とするL−アミノ酸を培地に蓄積することができる細菌であってよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。また、L−アミノ酸生産能を有する細菌は、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1.0g/L以上の量の目的とするL−アミノ酸を培地に蓄積することができる細菌であってもよい。
L−アミノ酸としては、L−リジン、L−オルニチン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−シトルリン等の塩基性アミノ酸、L−イソロイシン、L−アラニン、L−バリン、L−ロイシン、グリシン等の脂肪族アミノ酸、L−スレオニン、L−セリン等のヒドロキシモノアミノカルボン酸であるアミノ酸、L−プロリン等の環式アミノ酸、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−トリプトファン等の芳香族アミノ酸、L−システイン、L−シスチン、L−メチオニン等の含硫アミノ酸、L−グルタミン酸、L−アスパラギン酸等の酸性アミノ酸、L−グルタミン、L−アスパラギン等の側鎖にアミド基を持つアミノ酸が挙げられる。本発明の細菌は、2またはそれ以上のアミノ酸の生産能を有していてもよい。
本発明において、L−アミノ酸は、フリー体、その塩、またはそれらの混合物であってよい。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
なお、本発明において、アミノ酸は、特記しない限りL−アミノ酸である。
腸内細菌科に属する細菌としては、エシェリヒア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、エルビニア(Erwinia)属、フォトラブダス(Photorhabdus)属、プロビデンシア(Providencia)属、サルモネラ(Salmonella)属、モルガネラ(Morganella)等の属に属する細菌が挙げられる。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されている細菌を用いることができる。
エシェリヒア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている細菌が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、Neidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に記載されたものが挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。エシェリヒア・コリとして、具体的には、例えば、プロトタイプの野生株K12由来のエシェリヒア・コリW3110(ATCC 27325)やエシェリヒア・コリMG1655(ATCC 47076)が挙げられる。
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることができる。すなわち、各菌株には登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
エンテロバクター属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエンテロバクター属に分類されている細菌が挙げられる。エンテロバクター属細菌としては、例えば、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)やエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランスとして、具体的には、例えば、エンテロバクター・アグロメランスATCC12287株が挙げられる。エンテロバクター・アエロゲネスとして、具体的には、例えば、エンテロバクター・アエロゲネスATCC13048株、NBRC12010株(Biotechonol Bioeng.2007 Mar 27; 98(2) 340-348)、AJ110637(FERM BP-10955)株が挙げられる。また、エンテロバクター属細菌としては、例えば、欧州特許出願公開EP0952221号明細書に記載されたものが挙げられる。
パントエア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりパントエア属に分類されている細菌が挙げられる。パントエア属細菌としては、例えば、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)が挙げられる。パントエア・アナナティスとして、具体的には、例えば、パントエア・アナナティスAJ13355株(FERM BP-6614)、AJ13356株(FERM BP-6615)、AJ13601株(FERM BP-7207)、SC17株(FERM BP-11091)、及びSC17(0)株(VKPM B-9246)が挙げられる。なお、エンテロバクター・アグロメランスのある種のものは、最近、16S rRNAの塩基配列分析等に基づき、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、パントエア・ステワルティイ等に再分類された(Int. J. Syst. Bacteriol., 43, 162-173 (1993))。本発明において、パントエア属細菌には、このようにパントエア属に再分類された細菌も含まれる。
エルビニア属細菌としては、エルビニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、エルビニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)が挙げられる。クレブシエラ属細菌としては、クレブシエラ・プランティコーラ(Klebsiella planticola)が挙げられる。
腸内細菌科に属するL−アミノ酸生産菌は、例えば、上記のような腸内細菌科に属する細菌にL−アミノ酸生産能を付与することにより、または、上記のような腸内細菌科に属する細菌のL−アミノ酸生産能を増強することにより、取得できる。
L−アミノ酸生産能の付与または増強は、従来、コリネ型細菌又はエシェリヒア属細菌等のアミノ酸生産菌の育種に採用されてきた方法により行うことができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77〜100頁参照)。そのような方法としては、例えば、栄養要求性変異株の取得、L−アミノ酸のアナログ耐性株の取得、代謝制御変異株の取得、L−アミノ酸の生合成系酵素の活性が増強された組換え株の創製が挙げられる。L−アミノ酸生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、L−アミノ酸生産菌の育種において、活性が増強されるL−アミノ酸生合成系酵素も、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の活性の増強が組み合わされてもよい。
L−アミノ酸生産能を有する栄養要求性変異株、アナログ耐性株、又は代謝制御変異株は、親株又は野生株を通常の変異処理に供し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、且つL−アミノ酸生産能を有するものを選択することによって取得できる。通常の変異処理としては、X線や紫外線の照射、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の変異剤処理が挙げられる。
また、L−アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL−アミノ酸の生合成に関与する酵素の活性を増強することによっても行うことができる。酵素活性の増強は、例えば、同酵素をコードする遺伝子の発現が増強するように細菌を改変することにより行うことができる。遺伝子の発現を増強する方法は、WO00/18935号パンフレット、欧州特許出願公開1010755号明細書等に記載されている。酵素活性を増強する詳細な手法については後述する。
また、L−アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL−アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL−アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性を低下させることによっても行うことができる。なお、ここでいう「目的のL−アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL−アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素」には、目的のアミノ酸の分解に関与する酵素も含まれる。酵素活性を低下させる手法については後述する。
以下、L−アミノ酸生産菌、およびL−アミノ酸生産能を付与または増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するようなL−アミノ酸生産菌が有する性質およびL−アミノ酸生産能を付与または増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
<L−リジン生産菌>
L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−リジン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)(dapA)、アスパルトキナーゼIII(aspartokinase III)(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)(dapB)、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(diaminopimelate decarboxylase)(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase)(ddh)(米国特許第6,040,160号)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyrvate carboxylase)(ppc)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aspartate semialdehyde dehydrogenease)(asd)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase)(アスパラギン酸トランスアミナーゼ(aspartate transaminase))(aspC)、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ(diaminopimelate epimerase)(dapF)、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ(tetrahydrodipicolinate succinylase)(dapD)、スクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼ(succinyl-diaminopimelate deacylase)(dapE)及びアスパルターゼ(aspartase)(aspA)(EP 1253195 A)が挙げられる。なお、カッコ内は、その遺伝子の略記号である(以下の記載においても同様)。これらの酵素の中では、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ、及びスクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼから選択される1またはそれ以上の酵素の活性を増強するのが好ましい。また、L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株では、エネルギー効率に関与する遺伝子(cyo)(EP 1170376 A)、ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼ(nicotinamide nucleotide transhydrogenase)をコードする遺伝子(pntAB)(米国特許第5,830,716号)、ybjE遺伝子(WO2005/073390)、またはこれらの組み合わせの発現レベルが増大していてもよい。アスパルトキナーゼIII(lysC)はL−リジンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子を利用してもよい(米国特許5,932,453号明細書)。また、ジヒドロジピコリン酸合成酵素(dapA)L−リジンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapA遺伝子を利用してもよい。
L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−リジン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)(dapA)、アスパルトキナーゼIII(aspartokinase III)(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)(dapB)、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(diaminopimelate decarboxylase)(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase)(ddh)(米国特許第6,040,160号)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyrvate carboxylase)(ppc)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aspartate semialdehyde dehydrogenease)(asd)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase)(アスパラギン酸トランスアミナーゼ(aspartate transaminase))(aspC)、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ(diaminopimelate epimerase)(dapF)、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ(tetrahydrodipicolinate succinylase)(dapD)、スクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼ(succinyl-diaminopimelate deacylase)(dapE)及びアスパルターゼ(aspartase)(aspA)(EP 1253195 A)が挙げられる。なお、カッコ内は、その遺伝子の略記号である(以下の記載においても同様)。これらの酵素の中では、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ、及びスクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼから選択される1またはそれ以上の酵素の活性を増強するのが好ましい。また、L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株では、エネルギー効率に関与する遺伝子(cyo)(EP 1170376 A)、ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼ(nicotinamide nucleotide transhydrogenase)をコードする遺伝子(pntAB)(米国特許第5,830,716号)、ybjE遺伝子(WO2005/073390)、またはこれらの組み合わせの発現レベルが増大していてもよい。アスパルトキナーゼIII(lysC)はL−リジンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子を利用してもよい(米国特許5,932,453号明細書)。また、ジヒドロジピコリン酸合成酵素(dapA)L−リジンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、L−リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapA遺伝子を利用してもよい。
また、L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−リジンの生合成経路から分岐してL−リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が低下または欠損している株も挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)、リジンデカルボキシラーゼ(lysine decarboxylase)(米国特許第5,827,698号)、及びリンゴ酸酵素(malic enzyme)(WO2005/010175)が挙げられる。
また、L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−リジンアナログに耐性を有する変異株も挙げられる。L−リジンアナログはエシェリヒア属細菌等の腸内細菌科に属する細菌の生育を阻害するが、この阻害は、L−リジンが培地に共存するときには完全にまたは部分的に解除される。L−リジンアナログとしては、特に制限されないが、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)、γ−メチルリジン、α−クロロカプロラクタムが挙げられる。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、腸内細菌科に属する細菌を通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。
L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、E. coli AJ11442(FERM BP-1543, NRRL B-12185; 米国特許第4,346,170号参照)及びE. coli VL611が挙げられる。これらの株では、アスパルトキナーゼのL−リジンによるフィードバック阻害が解除されている。
L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、E. coli WC196株も挙げられる。WC196株は、E. coli K-12に由来するW3110株にAEC耐性を付与することにより育種された(米国特許第5,827,698号)。WC196株は、E. coli AJ13069と命名され、1994年12月6日、工業技術院生命工学工業技術研究所(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-14690として寄託され、1995年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(米国特許第5,827,698号)。
好ましいL−リジン生産菌としては、E. coli WC196ΔcadAΔldcやE. coli WC196ΔcadAΔldc/pCABD2が挙げられる(WO2006/078039)。WC196ΔcadAΔldcは、WC196株より、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA及びldcC遺伝子が破壊することにより構築した株である。WC196ΔcadAΔldc/pCABD2は、WC196ΔcadAΔldc株に、リジン生合成系遺伝子を含むプラスミドpCABD2(米国特許第6,040,160号)を導入することにより得られた株である。WC196ΔcadAΔldcは、AJ110692と命名され、2008年10月7日、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM BP-11027として寄託された。pCABD2は、L−リジンによるフィードバック阻害が解除された変異を有するE. coli由来のジヒドロジピコリン酸合成酵素(DDPS)をコードする変異型dapA遺伝子と、L−リジンによるフィードバック阻害が解除された変異を有するE. coli由来のアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子と、E. coli由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードするdapB遺伝子と、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードするddh遺伝子を含む。
<L−スレオニン生産菌>
L−スレオニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−スレオニン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、アスパルトキナーゼIII(lysC)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)、アスパルトキナーゼI(thrA)、ホモセリンキナーゼ(homoserine kinase)(thrB)、スレオニンシンターゼ(threonine synthase)(thrC)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(アスパラギン酸トランスアミナーゼ)(aspC)が挙げられる。これらの酵素の中では、アスパルトキナーゼIII、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アスパルトキナーゼI、ホモセリンキナーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、及びスレオニンシンターゼから選択される1またはそれ以上の酵素の活性を増強するのが好ましい。L−スレオニン生合成系遺伝子は、スレオニン分解が抑制された株に導入してもよい。スレオニン分解が抑制された株としては、例えば、スレオニンデヒドロゲナーゼ活性が欠損したE. coli TDH6株(特開2001-346578号)が挙げられる。
L−スレオニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−スレオニン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、アスパルトキナーゼIII(lysC)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)、アスパルトキナーゼI(thrA)、ホモセリンキナーゼ(homoserine kinase)(thrB)、スレオニンシンターゼ(threonine synthase)(thrC)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(アスパラギン酸トランスアミナーゼ)(aspC)が挙げられる。これらの酵素の中では、アスパルトキナーゼIII、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アスパルトキナーゼI、ホモセリンキナーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、及びスレオニンシンターゼから選択される1またはそれ以上の酵素の活性を増強するのが好ましい。L−スレオニン生合成系遺伝子は、スレオニン分解が抑制された株に導入してもよい。スレオニン分解が抑制された株としては、例えば、スレオニンデヒドロゲナーゼ活性が欠損したE. coli TDH6株(特開2001-346578号)が挙げられる。
L−スレオニン生合成系酵素の活性は、最終産物のL−スレオニンによって阻害される。従って、L−スレオニン生産菌を構築するためには、L−スレオニンによるフィードバック阻害を受けないようにL−スレオニン生合成系遺伝子を改変するのが好ましい。上記thrA、thrB、thrC遺伝子は、スレオニンオペロンを構成しており、スレオニンオペロンは、アテニュエーター構造を形成している。スレオニンオペロンの発現は、培養液中のイソロイシン、スレオニンに阻害を受け、アテニュエーションにより抑制される。スレオニンオペロンの発現の増強は、アテニュエーション領域のリーダー配列あるいはアテニュエーターを除去することにより達成できる(Lynn, S. P., Burton, W. S., Donohue, T. J., Gould, R. M., Gumport, R. I., and Gardner, J. F. J. Mol. Biol. 194:59-69 (1987); WO02/26993; WO 2005/049808; WO2005/049808; WO2003/097839参照)。
スレオニンオペロンの上流には固有のプロモーターが存在するが、同プロモーターを非天然のプロモーターに置換してもよい(WO98/04715号パンフレット参照)。また、スレオニン生合成関与遺伝子がラムダファ−ジのリプレッサーおよびプロモーターの制御下で発現するようにスレオニンオペロンを構築してもよい(欧州特許第0593792号明細書参照)。また、L−スレオニンによるフィードバック阻害を受けないように改変された細菌は、L−スレオニンアナログであるα-amino-β-hydroxyvaleric acid(AHV)に耐性な菌株を選抜することによっても取得できる。
このようにL−スレオニンによるフィードバック阻害を受けないように改変されたスレオニンオペロンは、コピー数の上昇により、あるいは強力なプロモーターに連結されることにより、宿主内での発現量が向上しているのが好ましい。コピー数の上昇は、スレオニンオペロンを含むプラスミドを宿主に導入することにより達成できる。また、コピー数の上昇は、トランスポゾン、Muファ−ジ等を利用して、宿主のゲノム上にスレオニンオペロンを転移させることによっても達成できる。
また、L−スレオニン生産能を付与または増強する方法としては、宿主にL−スレオニン耐性を付与する方法やL−ホモセリン耐性を付与する方法も挙げられる。耐性の付与は、例えば、L−スレオニンに耐性を付与する遺伝子やL−ホモセリンに耐性を付与する遺伝子の発現を強化することにより達成できる。耐性を付与する遺伝子としては、rhtA遺伝子(Res. Microbiol. 154:123−135 (2003))、rhtB遺伝子(欧州特許出願公開第0994190号明細書)、rhtC遺伝子(欧州特許出願公開第1013765号明細書)、yfiK遺伝子、yeaS遺伝子(欧州特許出願公開第1016710号明細書)が挙げられる。また、宿主にL−スレオニン耐性を付与する方法は、欧州特許出願公開第0994190号明細書や国際公開第90/04636号パンフレットに記載の方法を参照出来る。
L−スレオニン生産菌又はそれを誘導するための親株の例として、具体的には、特に制限されないが、E. coli TDH-6/pVIC40 (VKPM B-3996) (米国特許第5,175,107号、米国特許第5,705,371号)、E. coli 472T23/pYN7 (ATCC 98081) (米国特許第5,631,157号)、E. coli NRRL−21593 (米国特許第5,939,307号)、E. coli FERM BP-3756 (米国特許第5,474,918号)、E. coli FERM BP-3519及びFERM BP-3520 (米国特許第5,376,538号)、E. coli MG442 (Gusyatiner et al., Genetika (in Russian), 14, 947-956 (1978))、E. coli VL643及びVL2055 (EP 1149911 A)、ならびにE. coli VKPM B-5318 (EP 0593792 B)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。
VKPM B-3996株は、TDH-6株に、プラスミドpVIC40を導入した株である。TDH-6株は、スクロース資化性であり、thrC遺伝子を欠損し、ilvA遺伝子にリーキー(leaky)変異を有する。また、B-3996株は、rhtA遺伝子に、高濃度のスレオニンまたはホモセリンに対する耐性を付与する変異を有する。プラスミドpVIC40は、RSF1010由来ベクターに、スレオニンによるフィードバック阻害に耐性のアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異型thrA遺伝子と野生型thrBC遺伝子を含むthrA*BCオペロンが挿入されたプラスミドである(米国特許第5,705,371号)。この変異型thrA遺伝子は、スレオニンによるフィードバック阻害が実質的に解除されたアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする。B-3996株は、1987年11月19日、オールユニオン・サイエンティフィック・センター・オブ・アンチビオティクス(Nagatinskaya Street 3-A, 117105 Moscow, Russia)に、受託番号RIA 1867で寄託されている。この株は、また、1987年4月7日、ルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM) (1 Dorozhny proezd., 1 Moscow 117545, Russia) に、受託番号B-3996で寄託されている。
VKPM B-5318株は、イソロイシン非要求性であり、プラスミドpVIC40中のスレオニンオペロンの制御領域を温度感受性ラムダファージC1リプレッサー及びPRプロモーターにより置換したプラスミドpPRT614を保持する。VKPM B-5318は、1990年5月3日、ルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM)(1 Dorozhny proezd., 1 Moscow 117545, Russia)に、受託番号VKPM B-5318で国際寄託されている。
E. coliのアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードするthrA遺伝子は明らかにされている(ヌクレオチド番号337〜2799, GenBank accession NC_000913.2, gi: 49175990)。thrA遺伝子は、E. coli K-12の染色体において、thrL遺伝子とthrB遺伝子との間に位置する。Escherichia coliのホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子は明らかにされている(ヌクレオチド番号2801〜3733, GenBank accession NC_000913.2, gi: 49175990)。thrB遺伝子は、E. coli K-12の染色体において、thrA遺伝子とthrC遺伝子との間に位置する。E. coliのスレオニンシンターゼをコードするthrC遺伝子は明らかにされている(ヌクレオチド番号3734〜5020, GenBank accession NC_000913.2, gi: 49175990)。thrC遺伝子は、E. coli K-12の染色体において、thrB遺伝子とyaaXオープンリーディングフレームとの間に位置する。また、スレオニンによるフィードバック阻害に耐性のアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異型thrA遺伝子と野生型thrBC遺伝子を含むthrA*BCオペロンは、スレオニン生産株E. coli VKPM B-3996に存在する周知のプラスミドpVIC40(米国特許第5,705,371号)から取得できる。
E. coliのrhtA遺伝子は、グルタミン輸送系の要素をコードするglnHPQ オペロンに近いE. coli染色体の18分に存在する。rhtA遺伝子は、ORF1 (ybiF遺伝子, ヌクレオチド番号764〜1651, GenBank accession number AAA218541, gi:440181)と同一であり、pexB遺伝子とompX遺伝子との間に位置する。ORF1によりコードされるタンパク質を発現するユニットは、rhtA遺伝子と呼ばれている(rht: resistant to homoserine and threonine(ホモセリン及びスレオニンに耐性))。また、高濃度のスレオニン又はホモセリンへの耐性を付与するrhtA23変異が、ATG開始コドンに対して-1位のG→A置換であることが判明している(ABSTRACTS of the 17th International Congress of Biochemistry and Molecular Biology in conjugation with Annual Meeting of the American Society for Biochemistry and Molecular Biology, San Francisco, California August 24-29, 1997, abstract No. 457, EP 1013765 A)。
E. coliのasd遺伝子は既に明らかにされており(ヌクレオチド番号3572511〜3571408, GenBank accession NC_000913.1, gi:16131307)、その遺伝子の塩基配列に基づいて作製されたプライマーを用いるPCRにより取得できる(White, T.J. et al., Trends Genet., 5, 185 (1989)参照)。他の微生物のasd遺伝子も同様に得ることができる。
また、E. coliのaspC遺伝子も既に明らかにされており(ヌクレオチド番号983742〜984932, GenBank accession NC_000913.1, gi:16128895)、その遺伝子の塩基配列に基づいて作製されたプライマーを用いるPCRにより得ることができる。他の微生物のaspC遺伝子も同様に得ることができる。
<L−アルギニン生産菌>
L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−アルギニン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、N−アセチルグルタミルフォスフェートレダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N−アセチルグルタメートキナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argF)、アルギノコハク酸シンテターゼ(argG)、アルギノコハク酸リアーゼ(argH)、カルバモイルフォスフェートシンテターゼ(carAB)が挙げられる。N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)遺伝子としては、例えば、野生型の15位〜19位に相当するアミノ酸残基が置換され、L−アルギニンによるフィードバック阻害が解除された変異型N−アセチルグルタミン酸シンターゼをコードする遺伝子を用いると好適である(欧州出願公開1170361号明細書)。
L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−アルギニン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、N−アセチルグルタミルフォスフェートレダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N−アセチルグルタメートキナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argF)、アルギノコハク酸シンテターゼ(argG)、アルギノコハク酸リアーゼ(argH)、カルバモイルフォスフェートシンテターゼ(carAB)が挙げられる。N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)遺伝子としては、例えば、野生型の15位〜19位に相当するアミノ酸残基が置換され、L−アルギニンによるフィードバック阻害が解除された変異型N−アセチルグルタミン酸シンターゼをコードする遺伝子を用いると好適である(欧州出願公開1170361号明細書)。
L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、E. coli 237株 (VKPM B-7925) (米国特許出願公開2002/058315 A1)、変異型N−アセチルグルタメートシンターゼを保持するその誘導株(ロシア特許出願第2001112869号)、237株由来の酢酸資化能が向上した株であるE. coli 382株 (VKPM B-7926) (EP1170358A1)、及びN−アセチルグルタメートシンテターゼをコードするargA遺伝子が導入されたE. coliアルギニン生産株(EP1170361A1)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。E. coli 237株は、2000年4月10日にルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ (VKPM) (1 Dorozhny proezd., 1 Moscow 117545, Russia) にVKPM B-7925の受託番号で寄託され、2001年5月18日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。E. coli 382株は、2000年4月10日にルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ (VKPM) (1 Dorozhny proezd., 1 Moscow 117545, Russia) にVKPM B-7926の受託番号で寄託されている。
また、L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、アミノ酸アナログ等への耐性を有する株も挙げられる。そのような株としては、例えば、α−メチルメチオニン、p−フルオロフェニルアラニン、D−アルギニン、アルギニンヒドロキサム酸、S−(2−アミノエチル)−システイン、α−メチルセリン、β−2−チエニルアラニン、またはスルファグアニジンに耐性を有するエシェリヒア・コリ変異株(特開昭56-106598号公報参照)が挙げられる。
<L−シトルリン生産菌およびL−オルニチン生産菌>
L−シトルリンおよびL−オルニチンは、L−アルギニンと生合成経路が共通している。よって、N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、および/またはアセチルオルニチンデアセチラーゼ(argE)の酵素活性を上昇させることによって、L−シトルリンおよび/またはL−オルニチンの生産能を付与または増強することができる(国際公開2006-35831号パンフレット)。
L−シトルリンおよびL−オルニチンは、L−アルギニンと生合成経路が共通している。よって、N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、および/またはアセチルオルニチンデアセチラーゼ(argE)の酵素活性を上昇させることによって、L−シトルリンおよび/またはL−オルニチンの生産能を付与または増強することができる(国際公開2006-35831号パンフレット)。
<L−ヒスチジン生産菌>
L−ヒスチジン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−ヒスチジン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(hisG)、ホスホリボシルAMPサイクロヒドロラーゼ(hisI)、ホスホリボシル-ATPピロホスホヒドロラーゼ(hisI)、ホスホリボシルフォルミミノ-5-アミノイミダゾールカルボキサミドリボタイドイソメラーゼ(hisA)、アミドトランスフェラーゼ(hisH)、ヒスチジノールフォスフェイトアミノトランスフェラーゼ(hisC)、ヒスチジノールフォスファターゼ(hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(hisD)が挙げられる。
L−ヒスチジン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−ヒスチジン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(hisG)、ホスホリボシルAMPサイクロヒドロラーゼ(hisI)、ホスホリボシル-ATPピロホスホヒドロラーゼ(hisI)、ホスホリボシルフォルミミノ-5-アミノイミダゾールカルボキサミドリボタイドイソメラーゼ(hisA)、アミドトランスフェラーゼ(hisH)、ヒスチジノールフォスフェイトアミノトランスフェラーゼ(hisC)、ヒスチジノールフォスファターゼ(hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(hisD)が挙げられる。
hisG及びhisBHAFIにコードされるL−ヒスチジン生合成系酵素は、L−ヒスチジンにより阻害されることが知られている。従って、L−ヒスチジン生産能は、例えば、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(hisG)にフィードバック阻害への耐性を付与する変異を導入することにより、 付与または増強させることができる(ロシア特許第2003677号及び第2119536号)。
L−ヒスチジン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、E. coli 24株 (VKPM B-5945, RU2003677)、E. coli 80株 (VKPM B-7270, RU2119536)、E. coli NRRL B-12116〜B-12121 (米国特許第4,388,405号)、E. coli H-9342 (FERM BP-6675)及びH-9343 (FERM BP-6676) (米国特許第6,344,347号)、E. coli H-9341 (FERM BP-6674) (EP1085087)、E. coli AI80/pFM201 (米国特許第6,258,554号)、L−ヒスチジン生合成系酵素をコードするDNAを保持するベクターを導入したE. coli FERM-P 5038及び5048 (特開昭56-005099号)、アミノ酸輸送の遺伝子を導入したE. coli株(EP1016710A)、スルファグアニジン、DL−1,2,4-トリアゾール-3-アラニン、及びストレプトマイシンに対する耐性を付与したE. coli 80株(VKPM B-7270, ロシア特許第2119536号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。
<L−システイン生産菌>
L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−システイン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、セリンアセチルトランスフェラーゼや3−ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼが挙げられる。セリンアセチルトランスフェラーゼ活性は、例えば、システインによるフィードバック阻害に耐性の変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする変異型cysE遺伝子を細菌に導入することにより増強できる。変異型セリンアセチルトランスフェラーゼは、例えば、特開平11-155571や米国特許公開第20050112731に開示されている。また、3−ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ活性は、例えば、セリンによるフィードバック阻害に耐性の変異型3−ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードする変異型serA遺伝子を細菌に導入することにより増強できる。変異型3−ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼは、例えば、米国特許第6,180,373号に開示されている。
L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−システイン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、セリンアセチルトランスフェラーゼや3−ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼが挙げられる。セリンアセチルトランスフェラーゼ活性は、例えば、システインによるフィードバック阻害に耐性の変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする変異型cysE遺伝子を細菌に導入することにより増強できる。変異型セリンアセチルトランスフェラーゼは、例えば、特開平11-155571や米国特許公開第20050112731に開示されている。また、3−ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ活性は、例えば、セリンによるフィードバック阻害に耐性の変異型3−ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードする変異型serA遺伝子を細菌に導入することにより増強できる。変異型3−ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼは、例えば、米国特許第6,180,373号に開示されている。
また、L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−システインの生合成経路から分岐してL−システイン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が低下するように細菌を改変する方法も挙げられる。そのような酵素としては、例えば、L−システインの分解に関与する酵素が挙げられる。L−システインの分解に関与する酵素としては、特に制限されないが、シスタチオニン−β−リアーゼ(metC)(特開平11-155571号、Chandra et. al., Biochemistry, 21 (1982) 3064-3069))、トリプトファナーゼ(tnaA)(特開2003-169668、Austin Newton et. al., J. Biol. Chem. 240 (1965) 1211-1218)、O−アセチルセリンスルフヒドリラーゼB(cysM)(特開2005-245311)、malY遺伝子産物(特開2005-245311)、Pantoea ananatisのd0191遺伝子産物(特開2009-232844)が挙げられる。
また、L−システイン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−システイン排出系を増強することや硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系を増強することも挙げられる。L−システイン排出系のタンパク質としては、ydeD遺伝子にコードされるタンパク質(特開2002-233384)、yfiK遺伝子にコードされるタンパク質(特開2004-49237)、emrAB、emrKY、yojIH、acrEF、bcr、およびcusAの各遺伝子にコードされる各タンパク質(特開2005-287333)、yeaS遺伝子にコードされるタンパク質(特開2010-187552)が挙げられる。硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系のタンパク質としては、cysPTWAM遺伝子クラスターにコードされるタンパク質が挙げられる。
L−システイン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、フィードバック阻害耐性のセリンアセチルトランスフェラーゼをコードする種々のcysEアレルで形質転換されたE. coli JM15(米国特許第6,218,168号、ロシア特許出願第2003121601号)、細胞に毒性の物質を排出するのに適したタンパク質をコードする過剰発現遺伝子を有するE. coli W3110 (米国特許第5,972,663号)、システインデスルフォヒドラーゼ活性が低下したE. coli株 (JP11155571A2)、cysB遺伝子によりコードされる正のシステインレギュロンの転写制御因子の活性が上昇したE. coli W3110 (WO0127307A1)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。
<L−メチオニン生産菌>
また、L−メチオニン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、L−スレオニン要求株や、ノルロイシンに耐性を有する変異株が挙げられる(特開2000-139471号)。また、L−メチオニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−メチオニンによるフィードバック阻害に対して耐性をもつ変異型ホモセリントランスサクシニラーゼを保持する株も挙げられる(特開2000-139471、US20090029424)。なお、L−メチオニンはL−システインを中間体として生合成されるため、L−システインの生産能の向上によりL−メチオニンの生産能も向上させることができる(特開2000-139471、US20080311632)。
また、L−メチオニン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、L−スレオニン要求株や、ノルロイシンに耐性を有する変異株が挙げられる(特開2000-139471号)。また、L−メチオニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−メチオニンによるフィードバック阻害に対して耐性をもつ変異型ホモセリントランスサクシニラーゼを保持する株も挙げられる(特開2000-139471、US20090029424)。なお、L−メチオニンはL−システインを中間体として生合成されるため、L−システインの生産能の向上によりL−メチオニンの生産能も向上させることができる(特開2000-139471、US20080311632)。
L−メチオニン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、例えば、E. coli AJ11539 (NRRL B-12399)、E. coli AJ11540 (NRRL B-12400)、E. coli AJ11541 (NRRL B-12401)、E. coli AJ11542 (NRRL B-12402) (英国特許第2075055号)、L−メチオニンのアナログであるノルロイシン耐性を有するE. coli 218株 (VKPM B-8125)(ロシア特許第2209248号)や73株 (VKPM B-8126) (ロシア特許第2215782号)、E. coli AJ13425 (FERM P-16808)(特開2000-139471)が挙げられる。AJ13425株は、メチオニンリプレッサーを欠損し、細胞内のS−アデノシルメチオニンシンセターゼ活性が弱化し、細胞内のホモセリントランスサクシニラーゼ活性、シスタチオニンγ−シンターゼ活性、及びアスパルトキナーゼ−ホモセリンデヒドロゲナーゼII活性が増強された、E. coli W3110由来のL−スレオニン要求株である。
<L−ロイシン生産菌>
L−ロイシン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−ロイシン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、leuABCDオペロンの遺伝子にコードされる酵素が挙げられる。また、酵素活性の増強には、例えば、L−ロイシンによるフィードバック阻害が解除されたイソプロピルマレートシンターゼをコードする変異leuA遺伝子(米国特許第6,403,342号)が好適に利用できる。
L−ロイシン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−ロイシン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、leuABCDオペロンの遺伝子にコードされる酵素が挙げられる。また、酵素活性の増強には、例えば、L−ロイシンによるフィードバック阻害が解除されたイソプロピルマレートシンターゼをコードする変異leuA遺伝子(米国特許第6,403,342号)が好適に利用できる。
L−ロイシン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、ロイシン耐性のE. coli株 (例えば、57株 (VKPM B-7386, 米国特許第6,124,121号))、β−2−チエニルアラニン、3−ヒドロキシロイシン、4−アザロイシン、5,5,5-トリフルオロロイシンなどのロイシンアナログ耐性のE. coli株(特公昭62-34397号及び特開平8-70879号)、WO96/06926に記載された遺伝子工学的方法で得られたE. coli株、E. coli H-9068 (特開平8-70879号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。
<L−イソロイシン生産菌>
L−イソロイシン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−イソロイシン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、スレオニンデアミナーゼやアセトヒドロキシ酸シンターゼが挙げられる(特開平2-458号, FR 0356739, 及び米国特許第5,998,178号)。
L−イソロイシン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−イソロイシン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、スレオニンデアミナーゼやアセトヒドロキシ酸シンターゼが挙げられる(特開平2-458号, FR 0356739, 及び米国特許第5,998,178号)。
L−イソロイシン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、6−ジメチルアミノプリンに耐性を有する変異株(特開平5-304969号)、チアイソロイシン、イソロイシンヒドロキサメートなどのイソロイシンアナログに耐性を有する変異株、さらにDL−エチオニン及び/またはアルギニンヒドロキサメートに耐性を有する変異株(特開平5-130882号).が挙げられるが、これらに限定されない。
<L−バリン生産菌>
L−バリン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−バリン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ilvGMEDAオペロンやilvBNCオペロンの遺伝子にコードされる酵素が挙げられる。ilvBNはアセトヒドロキシ酸シンターゼを、ilvCはイソメロリダクターゼ(国際公開00/50624号)を、それぞれコードする。なお、ilvGMEDAオペロンおよびilvBNCオペロンは、L−バリン、L−イソロイシン、および/またはL−ロイシンによる発現抑制(アテニュエーション)を受ける。よって、酵素活性の増強のためには、アテニュエーションに必要な領域を除去または改変し、生成するL−バリンによる発現抑制を解除するのが好ましい。また、ilvA遺伝子がコードするスレオニンデアミナーゼは、L−イソロイシン生合成系の律速段階であるL−スレオニンから2−ケト酪酸への脱アミノ化反応を触媒する酵素である。よって、L−バリン生産のためには、ilvA遺伝子が破壊等され、スレオニンデアミナーゼ活性が減少しているのが好ましい。
L−バリン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−バリン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、ilvGMEDAオペロンやilvBNCオペロンの遺伝子にコードされる酵素が挙げられる。ilvBNはアセトヒドロキシ酸シンターゼを、ilvCはイソメロリダクターゼ(国際公開00/50624号)を、それぞれコードする。なお、ilvGMEDAオペロンおよびilvBNCオペロンは、L−バリン、L−イソロイシン、および/またはL−ロイシンによる発現抑制(アテニュエーション)を受ける。よって、酵素活性の増強のためには、アテニュエーションに必要な領域を除去または改変し、生成するL−バリンによる発現抑制を解除するのが好ましい。また、ilvA遺伝子がコードするスレオニンデアミナーゼは、L−イソロイシン生合成系の律速段階であるL−スレオニンから2−ケト酪酸への脱アミノ化反応を触媒する酵素である。よって、L−バリン生産のためには、ilvA遺伝子が破壊等され、スレオニンデアミナーゼ活性が減少しているのが好ましい。
また、L−バリン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−バリンの生合成経路から分岐してL−バリン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が低下した株も挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、L−ロイシン合成に関与するスレオニンデヒドラターゼやD−パントテン酸合成に関与する酵素が挙げられる(国際公開00/50624号)。
L−バリン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、ilvGMEDAオペロンを過剰発現するように改変されたE. coli株(米国特許第5,998,178号) などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。
また、L−バリン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、アミノアシルt-RNAシンテターゼに変異を有する株(米国特許第5,658,766号)も挙げられる。そのような株としては、例えば、イソロイシンtRNAシンテターゼをコードするileS遺伝子に変異を有するE. coli VL1970が挙げられる。E. coli VL1970は、1988年6月24日、ルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM) (1 Dorozhny proezd., 1 Moscow 117545, Russia)に、受託番号VKPM B-4411で寄託されている。また、L−バリン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、生育にリポ酸を要求する、および/または、H+-ATPaseを欠失している変異株(WO96/06926)も挙げられる。
<L−グルタミン酸生産菌>
L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−グルタミン酸生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、グルタメートデヒドロゲナーゼ(gdhA)、グルタミンシンテターゼ(glnA)、グルタメートシンテターゼ(gltBD)、イソシトレートデヒドロゲナーゼ(icdA)、アコニテートヒドラターゼ(acnA, acnB)、クエン酸シンターゼ(gltA)、メチルクエン酸シンターゼ(prpC)、ホスホエノールピルベートカルボシラーゼ(ppc)、ピルベートデヒドロゲナーゼ(aceEF, lpdA)、ピルベートキナーゼ(pykA, pykF)、ホスホエノールピルベートシンターゼ(ppsA)、エノラーゼ(eno)、ホスホグリセロムターゼ(pgmA, pgmI)、ホスホグリセレートキナーゼ(pgk)、グリセルアルデヒド-3-フォスフェートデヒドロゲナーゼ(gapA)、トリオースフォスフェートイソメラーゼ(tpiA)、フルクトースビスフォスフェートアルドラーゼ(fbp)、ホスホフルクトキナーゼ(pfkA, pfkB)、グルコースフォスフェートイソメラーゼ(pgi)、6−ホスホグルコン酸デヒドラターゼ(edd)、2−ケト−3−デオキシ−6−ホスホグルコン酸アルドラーゼ(eda)、トランスヒドロゲナーゼが挙げられる。これらの酵素の中では、グルタメートデヒドロゲナーゼ、クエン酸シンターゼ、ホスホエノールピルベートカルボキシラーゼ、及びメチルクエン酸シンターゼから選択される1またはそれ以上の酵素の活性を増強するのが好ましい。
シトレートシンテターゼ遺伝子、ホスホエノールピルベートカルボキシラーゼ遺伝子、および/またはグルタメートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が増大するように改変された腸内細菌科に属する株としては、EP1078989A、EP955368A、及びEP952221Aに開示されたものが挙げられる。また、エントナー・ドゥドロフ経路の遺伝子(edd, eda)の発現が増大するように改変された腸内細菌科に属する株としては、EP1352966Bに開示されたものが挙げられる。
また、L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下または欠損している株も挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、イソシトレートリアーゼ(aceA)、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ(sucA)、ホスホトランスアセチラーゼ(pta)、アセテートキナーゼ(ack)、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(ilvG)、アセトラクテートシンターゼ(ilvI)、フォルメートアセチルトランスフェラーゼ(pfl)、ラクテートデヒドロゲナーゼ(ldh)、グルタメートデカルボキシラーゼ(gadAB)、コハク酸デヒドロゲナーゼ(sdhABCD)、1−ピロリン−5−カルボキシレートデヒドロゲナーゼ(putA)が挙げられる。
α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ(αKGDH)活性が低下または欠損したエシェリヒア属細菌、及びそれらの取得方法は、米国特許第5,378,616号及び第5,573,945号に記載されている。また、パントエア属細菌、エンテロバクター属細菌、クレブシエラ属細菌、エルビニア属細菌等の腸内細菌においてα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を低下または欠損させる方法は、米国特許6,197,559号公報、米国特許6,682,912号公報、米国特許6,331,419号公報、米国特許8,129,151号公報、およびWO2008/075483に開示されている。α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が低下または欠損したエシェリヒア属細菌として、具体的には、下記のものが挙げられる。
E. coli W3110sucA::Kmr
E. coli AJ12624 (FERM BP-3853)
E. coli AJ12628 (FERM BP-3854)
E. coli AJ12949 (FERM BP-4881)
E. coli W3110sucA::Kmr
E. coli AJ12624 (FERM BP-3853)
E. coli AJ12628 (FERM BP-3854)
E. coli AJ12949 (FERM BP-4881)
E. coli W3110sucA::Kmr は、E. coli W3110のα-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ遺伝子(以下、「sucA遺伝子」ともいう)を破壊することにより得られた株である。この株は、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性を完全に欠損している。
また、L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、パントエア・アナナティスAJ13355株(FERM BP-6614)、SC17株(FERM BP-11091)、SC17(0)株(VKPM B-9246)等のパントエア属細菌も挙げられる。AJ13355株は、静岡県磐田市の土壌から、低pHでL−グルタミン酸及び炭素源を含む培地で増殖できる株として分離された株である。SC17株は、AJ13355株から、粘液質低生産変異株として選択された株である(米国特許第6,596,517号)。SC17株は、平成21年2月4日に、産業技術総合研究所特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に寄託され、受託番号FERM BP-11091が付与されている。AJ13355株は、1998年2月19日に、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に、受託番号FERM P-16644として寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6614が付与されている。
また、L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が低下または欠損したパントエア属細菌も挙げられる。そのような株としては、AJ13355株のαKGDH-E1サブユニット遺伝子(sucA)欠損株であるAJ13356(米国特許第6,331,419号)、及びSC17株のsucA遺伝子欠損株であるSC17sucA(米国特許第6,596,517号)が挙げられる。AJ13356は、1998年2月19日、工業技術院生命工学工業技術研究所(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-16645として寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6616が付与されている。また、SC17sucA株は、ブライベートナンバーAJ417株が付与され、2004年2月26日に産業技術総合研究所特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM BP-08646として寄託されている。
尚、AJ13355は、分離された当時はエンテロバクター・アグロメランスと同定されたが、近年、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティスに再分類されている。よって、AJ13355及びAJ13356は、上記寄託機関にEnterobacter agglomeransとして寄託されているが、本明細書ではPantoea ananatisとして記載する。
また、L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、パントエア・アナナティスSC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株、AJ13601株、NP106株、及びNA1株も挙げられる。SC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株は、SC17sucA株に、エシェリヒア・コリ由来のクエン酸シンターゼ遺伝子(gltA)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc)、およびグルタメートデヒドロゲナーゼ遺伝子(gdhA)を含むプラスミドRSFCPG、並びに、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のクエン酸シンターゼ遺伝子(gltA)を含むプラスミドpSTVCBを導入して得た株である。AJ13601株は、このSC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株から低pH下で高濃度のL−グルタミン酸に耐性を示す株として選択された株である。また、NP106株は、AJ13601株からプラスミドRSFCPG+pSTVCBを脱落させた株である。AJ13601株は、1999年8月18日に、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-17516として寄託され、2000年7月6日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-7207が付与されている。
また、L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(sucA)活性およびコハク酸デヒドロゲナーゼ(sdh)活性の両方が低下または欠損した株も挙げられる(特開2010-041920号)。そのような株として、具体的には、例えば、Pantoea ananatis NA1のsucAsdhA二重欠損株が挙げられる(特開2010-041920号)
L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、栄養要求性変異株も挙げられる。栄養要求性変異株として、具体的には、特に制限されないが、E. coli VL334thrC+ (VKPM B-8961) (EP 1172433)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。E. coli VL334 (VKPM B-1641)は、thrC遺伝子及びilvA遺伝子に変異を有するL−イソロイシン及びL−スレオニン要求性株である(米国特許第4,278,765号)。VL334thrC+は、thrC遺伝子の野生型アレルをVL334に導入することにより得られた、L−イソロイシン要求性のL−グルタミン酸生産菌である。thrC遺伝子の野生型アレルは、野生型E. coli K12株 (VKPM B-7)の細胞で増殖したバクテリオファージP1を用いる一般的形質導入法により導入された。
また、L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、アスパラギン酸アナログに耐性を有する株も挙げられる。これらの株は、例えば、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性を欠損していてもよい。アスパラギン酸アナログに耐性を有し、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性を欠損した株としては、例えば、E. coli AJ13199 (FERM BP-5807) (米国特許第5.908,768号)、さらにL−グルタミン酸分解能が低下したFFRM P-12379(米国特許第5,393,671号)、AJ13138 (FERM BP-5565) (米国特許第6,110,714号)が挙げられる。
また、L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、D−キシロース−5−リン酸−ホスホケトラーゼ及び/又はフルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼ活性を増強するように改変された株も挙げられる(特表2008-509661)。D−キシロース−5−リン酸−ホスホケトラーゼ活性及びフルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼ活性はいずれか一方を増強してもよいし、両方を増強してもよい。なお、本明細書ではD−キシロース−5−リン酸−ホスホケトラーゼとフルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼをまとめてホスホケトラーゼと呼ぶことがある。
D−キシロース−5−リン酸−ホスホケトラーゼ活性とは、リン酸を消費して、キシルロース−5−リン酸をグリセルアルデヒド−3−リン酸とアセチルリン酸に変換し、一分子のH2Oを放出する活性を意味する。この活性は、Goldberg, M.らの文献 (Methods Enzymol., 9,515-520 (1966)) またはL.Meileの文献 (J.Bacteriol. (2001) 183; 2929-2936) に記載の方法によって測定することができる。
また、フルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼ活性とは、リン酸を消費して、フルクトース6−リン酸をエリスロース−4−リン酸とアセチルリン酸に変換し、一分子のH2Oを放出する活性を意味する。この活性は、Racker, Eの文献 (Methods Enzymol., 5, 276-280 (1962)) またはL.Meileの文献 (J.Bacteriol. (2001) 183; 2929-2936) に記載の方法によって測定することができる。
<L−グルタミン生産菌>
L−グルタミン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−グルタミン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(gdhA)やグルタミンシンセターゼ(glnA)が挙げられる。
L−グルタミン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−グルタミン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(gdhA)やグルタミンシンセターゼ(glnA)が挙げられる。
また、L−グルタミン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−グルタミンの生合成経路から分岐してL−グルタミン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が低下するように細菌を改変する方法も挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、グルタミナーゼが挙げられる。
L−グルタミン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、グルタミンシンセターゼの397位のチロシン残基が他のアミノ酸残基に置換された変異型グルタミンシンセターゼを有するエシェリヒア属に属する株が挙げられる(米国特許出願公開第2003-0148474号明細書)。
<L−プロリン生産菌>
L−プロリン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−プロリン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。L−プロリン生合成に関与する酵素としては、グルタミン酸5−キナーゼ、γ‐グルタミル−リン酸レダクターゼ、ピロリン−5−カルボキシレートレダクターゼが挙げられる。酵素活性の増強には、例えば、L−プロリンによるフィードバック阻害が解除されたグルタメートキナーゼをコードするproB遺伝子(ドイツ特許第3127361号)が好適に利用できる。
L−プロリン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−プロリン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増強された株が挙げられる。L−プロリン生合成に関与する酵素としては、グルタミン酸5−キナーゼ、γ‐グルタミル−リン酸レダクターゼ、ピロリン−5−カルボキシレートレダクターゼが挙げられる。酵素活性の増強には、例えば、L−プロリンによるフィードバック阻害が解除されたグルタメートキナーゼをコードするproB遺伝子(ドイツ特許第3127361号)が好適に利用できる。
また、L−プロリン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、L−プロリン分解に関与する酵素の活性が低下した株も挙げられる。そのような酵素としては、プロリンデヒドロゲナーゼやオルニチンアミノトランスフェラーゼが挙げられる。
L−プロリン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、E. coli NRRL B-12403及びNRRL B-12404 (英国特許第2075056号)、E. coli VKPM B-8012 (ロシア特許出願2000124295)、ドイツ特許第3127361号に記載のE. coliプラスミド変異体、Bloom F.R. et al (The 15th Miami winter symposium, 1983, p.34)に記載のE. coliプラスミド変異体、ilvA遺伝子が欠損しL−プロリンを生産できるE. coli 702ilvA (VKPM B-8012) (EP 1172433)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。
<L−トリプトファン生産菌、L−フェニルアラニン生産菌、L−チロシン生産菌>
L−トリプトファン生産能、L−フェニルアラニン生産能、および/またはL−チロシン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−トリプトファン、L−フェニルアラニン、および/またはL−チロシンの生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。
L−トリプトファン生産能、L−フェニルアラニン生産能、および/またはL−チロシン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−トリプトファン、L−フェニルアラニン、および/またはL−チロシンの生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。
これらの芳香族アミノ酸に共通する生合成系酵素としては、特に制限されないが、3−デオキシ−D−アラビノヘプツロン酸−7−リン酸シンターゼ(aroG)、3−デヒドロキネートシンターゼ(aroB)、シキミ酸デヒドロゲナーゼ(aroE)、シキミ酸キナーゼ(aroL)、5−エノール酸ピルビルシキミ酸3−リン酸シンターゼ(aroA)、コリスミ酸シンターゼ(aroC)が挙げられる(欧州特許763127号)。これらの酵素をコードする遺伝子の発現はチロシンリプレッサー(tyrR)によって制御されており、tyrR遺伝子を欠損させることによって、これらの酵素の活性を増強してもよい(欧州特許763127号)。
L−トリプトファン生合成系酵素としては、特に制限されないが、アントラニル酸シンターゼ(trpE)、トリプトファンシンターゼ(trpAB)、及びホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(serA)が挙げられる。例えば、トリプトファンオペロンを含むDNAを導入することにより、L−トリプトファン生産能を付与又は増強できる。トリプトファンシンターゼは、それぞれtrpA及びtrpB遺伝子によりコードされるα及びβサブユニットからなる。アントラニル酸シンターゼはL−トリプトファンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、フィードバック阻害を解除する変異を導入した同酵素をコードする遺伝子を利用してもよい。ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼはL−セリンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、フィードバック阻害を解除する変異を導入した同酵素をコードする遺伝子を利用してもよい。さらに、マレートシンターゼ(aceB)、イソクエン酸リアーゼ(aceA)、およびイソクエン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ/フォスファターゼ(aceK)からなるオペロン(aceオペロン)の発現を増大させることによりL−トリプトファン生産能を付与または増強してもよい(WO2005/103275)。
L−フェニルアラニン生合成系酵素としては、特に制限されないが、コリスミ酸ムターゼ及びプレフェン酸デヒドラターゼが挙げられる。コリスミ酸ムターゼ及びプレフェン酸デヒドラターゼは、2機能酵素としてpheA遺伝子によってコードされている。コリスミ酸ムターゼ−プレフェン酸デヒドラターゼはL−フェニルアラニンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、フィードバック阻害を解除する変異を導入した同酵素をコードする遺伝子を利用してもよい。
L−チロシン生合成系酵素としては、特に制限されないが、コリスミ酸ムターゼ及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼが挙げられる。コリスミ酸ムターゼ及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼは、2機能酵素としてtyrA遺伝子によってコードされている。コリスミ酸ムターゼ−プレフェン酸デヒドロゲナーゼはL−チロシンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、フィードバック阻害を解除する変異を導入した同酵素をコードする遺伝子を利用してもよい。
L−トリプトファン、L−フェニルアラニン、および/またはL−チロシンの生産菌は、目的の芳香族アミノ酸以外の芳香族アミノ酸の生合成が低下するように改変されていてもよい。また、L−トリプトファン、L−フェニルアラニン、および/またはL−チロシンの生産菌は、副生物の取り込み系が増強されるように改変されていてもよい。副生物としては、目的の芳香族アミノ酸以外の芳香族アミノ酸が挙げられる。副生物の取り込み系をコードする遺伝子としては、例えば、L−トリプトファンの取り込み系をコードする遺伝子であるtnaBやmtr、L−フェニルアラニンの取り込み系をコードする遺伝子であるpheP、L−チロシンの取り込み系をコードする遺伝子であるtyrPが挙げられる(EP1484410)。
L−トリプトファン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、部分的に不活化されたトリプトファニル-tRNAシンテターゼをコードする変異型trpS遺伝子を保持するE. coli JP4735/pMU3028 (DSM10122)及びJP6015/pMU91 (DSM10123) (米国特許第5,756,345号)、トリプトファンによるフィードバック阻害を受けないアントラニル酸シンターゼをコードするtrpEアレルを有するE. coli SV164、セリンによるフィードバック阻害を受けないフォスフォグリセリレートデヒドロゲナーゼをコードするserAアレル及びトリプトファンによるフィードバック阻害を受けないアントラニレートシンターゼをコードするtrpEアレルを有するE. coli SV164 (pGH5) (米国特許第6,180,373号)、トリプトファンによるフィードバック阻害を受けないアントラニル酸シンターゼをコードするtrpEアレルを含むトリプトファンオペロンが導入された株 (特開昭57-71397号, 特開昭62-244382号, 米国特許第4,371,614号)、トリプトファナーゼが欠損したE. coli AGX17 (pGX44) (NRRL B-12263)及びAGX6(pGX50)aroP (NRRL B-12264) (米国特許第4,371,614号)、ホスホエノールピルビン酸生産能が増大したE. coli AGX17/pGX50,pACKG4-pps (WO9708333, 米国特許第6,319,696号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。また、L−トリプトファン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、yedA遺伝子またはyddG遺伝子にコードされるタンパク質の活性が増大したエシェリヒア属に属する株も挙げられる(米国特許出願公開2003/0148473 A1及び2003/0157667 A1)。
L−フェニルアラニン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、特に制限されないが、コリスミ酸ムターゼ−プレフェン酸デヒドロゲナーゼ及びチロシンリプレッサーを欠損したE. coli AJ12739 (tyrA::Tn10, tyrR) (VKPM B-8197)(WO03/044191)、フィードバック阻害が解除されたコリスミ酸ムターゼ−プレフェン酸デヒドラターゼをコードする変異型pheA34遺伝子を保持するE. coli HW1089 (ATCC 55371) (米国特許第 5,354,672号)、E. coli MWEC101-b (KR8903681)、E. coli NRRL B-12141, NRRL B-12145, NRRL B-12146及びNRRL B-12147 (米国特許第4,407,952号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられる。また、L−フェニルアラニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、フィードバック阻害が解除されたコリスミ酸ムターゼ−プレフェン酸デヒドラターゼをコードする遺伝子を保持するE. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHAB] (FERM BP-3566)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHAD] (FERM BP-12659)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHATerm] (FERM BP-12662)、及びE. coli K-12 AJ 12604 [W3110 (tyrA)/pBR-aroG4, pACMAB] (FERM BP-3579)も 挙げられる(EP 488424 B1)。また、L−フェニルアラニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、yedA遺伝子またはyddG遺伝子にコードされるタンパク質の活性が増大したエシェリヒア属に属する株も挙げられる(米国特許出願公開2003/0148473 A1及び2003/0157667 A1、WO03/044192)。
また、L−アミノ酸生産能を付与または増強する方法としては、例えば、細菌の細胞からL−アミノ酸を排出する活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。L−アミノ酸を排出する活性は、例えば、L−アミノ酸を排出するタンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、増大させることができる。各種アミノ酸を排出するタンパク質をコードする遺伝子としては、例えば、b2682遺伝子(ygaZ)、b2683遺伝子(ygaH)、b1242遺伝子(ychE)、b3434遺伝子(yhgN)が挙げられる(特開2002-300874号公報)。
また、L−アミノ酸生産能を付与または増強する方法としては、例えば、糖代謝に関与するタンパク質やエネルギー代謝に関与するタンパク質の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。
糖代謝に関与するタンパク質としては、糖の取り込みに関与するタンパク質や解糖系酵素が挙げられる。糖代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子としては、グルコース6−リン酸イソメラーゼ遺伝子(pgi;国際公開第01/02542号パンフレット)、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ遺伝子(pps;欧州出願公開877090号明細書)、ホスホエノ−ルピルビン酸カルボキシラ−ゼ遺伝子(ppc;国際公開95/06114号パンフレット)、ピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(pyc;国際公開99/18228号パンフレット、欧州出願公開1092776号明細書)、ホスホグルコムターゼ遺伝子(pgm;国際公開03/04598号パンフレット)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ遺伝子(pfkB, fbp;国際公開03/04664号パンフレット)、ピルビン酸キナーゼ遺伝子(pykF;国際公開03/008609号パンフレット)、トランスアルドラーゼ遺伝子(talB;国際公開03/008611号パンフレット)、フマラーゼ遺伝子(fum;国際公開01/02545号パンフレット)、non-PTSスクロース取り込み遺伝子遺伝子(csc;欧州出願公開149911号パンフレット)、スクロース資化性遺伝子(scrABオペロン;国際公開第90/04636号パンフレット)が挙げられる。
エネルギー代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子としては、トランスヒドロゲナーゼ遺伝子(pntAB;米国特許 5,830,716号明細書)、チトクロムbo型オキシダーゼ(cytochromoe bo type oxidase)遺伝子(cyoB;欧州特許出願公開1070376号明細書)が挙げられる。
なお、上記のL−アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子は、コードされるタンパク質の機能が損なわれない限り、上述した遺伝子情報を持つ遺伝子や公知の塩基配列を有する遺伝子に限られず、そのバリアントであってもよい。例えば、L−アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子は、公知のタンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。遺伝子やタンパク質のバリアントについては、後述する2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ遺伝子および2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼのバリアントに関する記載を準用できる。
<1−2>2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性の増強
本発明の細菌は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ(2,4-dienoyl-CoA reductase)活性が増大するように改変されている。本発明の細菌は、上述のようなL−アミノ酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌を、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変することにより取得できる。また、本発明の細菌は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように腸内細菌科に属する細菌を改変した後に、L−アミノ酸生産能を付与または増強することによっても得ることができる。なお、本発明の細菌は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変されたことにより、L−アミノ酸生産能を獲得したものであってもよい。本発明において、本発明の細菌を構築するための改変は、任意の順番で行うことができる。
本発明の細菌は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ(2,4-dienoyl-CoA reductase)活性が増大するように改変されている。本発明の細菌は、上述のようなL−アミノ酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌を、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変することにより取得できる。また、本発明の細菌は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように腸内細菌科に属する細菌を改変した後に、L−アミノ酸生産能を付与または増強することによっても得ることができる。なお、本発明の細菌は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変されたことにより、L−アミノ酸生産能を獲得したものであってもよい。本発明において、本発明の細菌を構築するための改変は、任意の順番で行うことができる。
以下に、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼおよびそれをコードする遺伝子について説明する。
本発明において、「2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ」とは、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をいう。本発明において、「2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性」とは、2,4−ジエノイル−CoAをNADPH依存的に還元して、3−トランス−エノイル−CoAまたは2−トランス−エノイル−CoAを生成する反応を触媒する活性(EC 1.3.1.34)をいう。
2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼをコードする遺伝子(2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ遺伝子ともいう)としては、fadH遺伝子が挙げられる。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のfadH遺伝子は、NCBIデータベースに、GenBank accession NC_000913(VERSION NC_000913.2 GI:49175990)として登録されているゲノム配列中、3229687〜3231705位の配列に相当する。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のfadH遺伝子は、ECK3071、JW3052と同義である。また、エシェリヒア・コリK12 MG1655株のFadHタンパク質は、GenBank accession NP_417552(version NP_417552.1 GI:16130976、locus_tag=“b3081”)として登録されている。MG1655株のfadH遺伝子の塩基配列、及び同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号3及び4に示す。
2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼは、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有する限り、上記FadHタンパク質のバリアントであってもよい。なお、そのようなバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。保存的バリアントとしては、例えば、上記FadHタンパク質のホモログや人為的な改変体が挙げられる。
上記FadHタンパク質のホモログをコードする遺伝子は、例えば、上記fadH遺伝子の塩基配列(配列番号3)を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、上記FadHタンパク質のホモログをコードする遺伝子は、例えば、細菌や酵母の染色体を鋳型にして、これら公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼの保存的バリアントをコードする遺伝子は、例えば、以下のような遺伝子であってよい。すなわち、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ遺伝子は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする限りにおいて、上記アミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。この場合、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性は、1又は数個の置換、欠失、挿入又は付加される前のタンパク質に対して、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上が維持され得る。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する細菌の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
さらに、上記のような保存的変異を有する遺伝子は、上記アミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有し、かつ、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を指すことがある。
また、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ遺伝子は、公知の遺伝子配列から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、これらの塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
また、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ遺伝子は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする限り、任意のコドンがそれと等価のコドンに置換されたものであってもよい。例えば、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されたものであってもよい。
なお、上記の遺伝子やタンパク質のバリアントに関する記載は、L−アミノ酸生合成系酵素やトランスポーター等の任意のタンパク質、およびそれらをコードする遺伝子にも準用できる。
<1−3>その他の改変
また、本発明の細菌は、さらに、脂肪酸資化能が高まるように改変されていてもよい。そのような改変としては、fadR遺伝子の発現を弱化すること、fadL、fadE、fadD、fadB、及びfadA遺伝子からなる群より選択される1またはそれ以上の遺伝子の発現を増強すること、cyoABCDEオペロンの発現を増強すること、およびそれらの組み合わせが挙げられる(特開2011-167071)。
また、本発明の細菌は、さらに、脂肪酸資化能が高まるように改変されていてもよい。そのような改変としては、fadR遺伝子の発現を弱化すること、fadL、fadE、fadD、fadB、及びfadA遺伝子からなる群より選択される1またはそれ以上の遺伝子の発現を増強すること、cyoABCDEオペロンの発現を増強すること、およびそれらの組み合わせが挙げられる(特開2011-167071)。
fadR遺伝子は、fadレギュロンの負の転写因子をコードする(DiRusso, C. C. et al. 1992. J. Biol. Chem. 267: 8685-8691; DiRusso, C. C. et al. 1993. Mol. Microbiol. 7: 311-322)。fadレギュロンには、fadL、fadE、fadD、fadB、及びfadA遺伝子が含まれ、これらの遺伝子は脂肪酸代謝に関与するタンパク質をコードする。fadR遺伝子およびfadレギュロンは、例えば、腸内細菌科に属する細菌に見出される。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のfadR遺伝子は、同株のゲノム配列(GenBank accession No. NC_000913)における1234161〜1234880位の配列に相当する。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のFadRタンパク質は、GenBank accession No. NP_415705で登録されている。
fadL遺伝子は、長鎖脂肪酸の取り込み能を有する外膜のトランスポーターをコードする(Kumar, G. B. and Black, P. N. 1993. J. Biol. Chem. 268: 15469-15476; Stenberg, F. et al. 2005. J. Biol. Chem. 280: 34409-34419)。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のfadL遺伝子は、同株のゲノム配列(GenBank accession No. NC_000913)における2459328〜2460668位の配列に相当する。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のFadLタンパク質は、GenBank accession No. NP_416846で登録されている。
fadD遺伝子は、長鎖脂肪酸から脂肪酸アシルCoA(fatty acyl-CoA)を生成する反応を触媒するとともに(脂肪酸アシルCoA合成酵素(fatty acyl-CoA synthetase)活性)、内膜を通して取り込むタンパク質をコードする(Dirusso, C. C. and Black, P. N. 2004. J. Biol. Chem. 279: 49563-49566; Schmelter, T. et al. 2004. J. Biol. Chem. 279: 24163-24170)。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のfadD遺伝子は、同株のゲノム配列(GenBank accession No. NC_000913)における1886085〜1887770位の配列の相補配列に相当する。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のFadDタンパク質は、GenBank accession No. NP_416319で登録されている。
fadE遺伝子は、脂肪酸アシルCoAを酸化する反応を触媒するアシルCoAデヒドロゲナーゼ(acyl-CoA dehydrogenase)活性を有するタンパク質をコードする(O'Brien, W. J. and Frerman, F. E. 1977. J. Bacteriol. 132: 532-540; Campbell, J. W. and Cronan, J. E. 2002. J. Bacteriol. 184: 3759-3764)。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のfadE遺伝子は、同株のゲノム配列(GenBank accession No. NC_000913)における240859〜243303位の配列の相補配列に相当する。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のFadEタンパク質は、GenBank accession No. NP_414756で登録されている。
fadB遺伝子は、脂肪酸酸化複合体(fatty acid oxidation complex)のαサブユニットをコードする。αサブユニットは、エノイルCoAヒドラターゼ(enoyl-CoA hydratase)、3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase)、3−ヒドロキシアシルCoAエピメラーゼ(3-hydroxyacyl-CoA epimerase)、Δ3−シス−Δ2−トランス−エノイルCoAイソメラーゼ(Δ3-cis-Δ2-trans-enoyl-CoA isomerase)の4つの活性を有する(Pramanik, A. et al. 1979. J. Bacteriol. 137: 469-473; Yang, S. Y. and Schulz, H. 1983. J. Biol. Chem. 258: 9780-9785)。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のfadB遺伝子は、同株のゲノム配列(GenBank accession No. NC_000913)における4026805〜4028994位の配列の相補配列に相当する。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のFadBタンパク質は、GenBank accession No. NP_418288で登録されている。
fadA遺伝子は、脂肪酸酸化複合体(fatty acid oxidation complex)のβサブユニットをコードする。βサブユニットは、3−ケトアシルCoAチオラーゼ(3-ketoacyl-CoA thiolase)活性を有する(Pramanik, A. et al. 1979. J. Bacteriol. 137: 469-473)。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のfadA遺伝子は、同株のゲノム配列(GenBank accession No. NC_000913)における4025632〜4026795位の配列の相補配列に相当する。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のFadAタンパク質は、GenBank accession No. YP_026272で登録されている。
fadAおよびfadB遺伝子は、fadBAオペロンを形成している(Yang, S. Y. et al. 1990. J. Biol. Chem. 265: 10424-10429)。よって、例えば、fadBAオペロン全体の発現を増強してもよい。
cyoABCDEオペロン(cyoオペロン)は、末端酸化酵素の一つであるシトクロムbo型酸化酵素複合体(cytochrome bo terminal oxidase complex)をコードする。具体的には、cyoB遺伝子がサブユニットIを、cyoA遺伝子がサブユニットIIを、cyoC遺伝子がサブユニットIIIを、cyoC遺伝子がサブユニットIVを、cyoE遺伝子がヘムOシンターゼ(heme O synthase)活性を有するタンパク質をコードする(Gennis, R. B. and Stewart, V. 1996. p. 217-261. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C; Chepuri et al. 1990. J. Biol. Chem. 265: 11185-11192)。cyoオペロンは、例えば、腸内細菌科に属する細菌に見出される。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のcyoABCDE遺伝子は、それぞれ、同株のゲノム配列(GenBank accession No. NC_000913)における449887〜450834、447874〜449865、447270〜447884、446941〜447270、446039〜446929位の配列の相補配列に相当する。エシェリヒア・コリK12 MG1655株のCyoABCDEタンパク質は、それぞれ、GenBank accession No. NP_414966、NP_414965、NP_414964、NP_414963、NP_414962で登録されている。
また、本発明の細菌は、ピルビン酸シンターゼ(「PS」ともいう)、および/または、ピルビン酸:NADP+オキシドレダクターゼ(「PNO」ともいう)の活性が増大するように改変されていてもよい(WO2009/031565)。
「ピルビン酸シンターゼ」とは、還元型フェレドキシンまたは還元型フラボドキシンを電子供与体として、アセチル-CoAとCO2からピルビン酸を生成する反応を可逆的に触媒する酵素(EC 1.2.7.1)をいう。PSは、ピルビン酸オキシドレダクターゼ、ピルビン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼ、またはピルビン酸フラボドキシンオキシドレダクターゼともいう。PSの活性は、例えば、Yoonらの方法(Yoon, K. S. et al. 1997. Arch. Microbiol. 167: 275-279)に従って測定できる。
PSをコードする遺伝子(PS遺伝子)としては、クロロビウム・テピダム(Chlorobium tepidum)、ハイドロジェノバクター・サーモフィラス(Hydrogenobacter thermophilus)等の還元的TCAサイクルを有する細菌のPS遺伝子、エシェリヒア・コリ等の腸内細菌科に属する細菌のPS遺伝子、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)、メタノカルドコッカス・ジャナスチ(Methanocaldococcus jannaschii)、メタノサーモバクター・サーモオートトロフィカス(Methanothermobacter thermautotrophicus)等の独立栄養性メタン生成古細菌(autotrophic methanogens)のPS遺伝子が挙げられる。
「ピルビン酸:NADP+オキシドレダクターゼ」とは、NADPHあるいはNADHを電子供与体として、アセチル-CoAとCO2からピルビン酸を生成する反応を可逆的に触媒する酵素(EC 1.2.1.15)をいう。ピルビン酸:NADP+オキシドレダクターゼは、ピルビン酸デヒドロゲナーゼともいう。PNOの活性は、例えば、Inuiらの方法(Inui, H. et al. 1987. J. Biol. Chem. 262: 9130-9135)に従って測定できる。
PNOをコードする遺伝子(PNO遺伝子)としては、光合成真核微生物で原生動物にも分類されるユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)のPNO遺伝子(Nakazawa, M. et al. 2000. FEBS Lett. 479: 155-156;GenBank Accession No. AB021127)、原生動物クリプトスポリジウム・パルバム(Cryptosporidium parvum)のPNO遺伝子(Rotte, C. et al. 2001. Mol. Biol. Evol. 18: 710-720)、珪藻タラシオシラ・シュードナナ(Tharassiosira pseudonana)のPNO相同遺伝子(Ctrnacta, V. et al. 2006. J. Eukaryot. Microbiol. 53: 225-231)が挙げられる。
PS活性の増強は、後述するようなタンパク質の活性を増大する手法に加えて、PS活性に要求される電子供与体の供給を向上させることによっても達成できる。例えば、フェレドキシンまたはフラボドキシンの酸化型を還元型にリサイクルする活性を増強すること、フェレドキシンまたはフラボドキシンの生合成能を増強すること、またはそれらの組み合わせにより、PS活性を増強することができる(WO2009/031565)。
フェレドキシンまたはフラボドキシンの酸化型を還元型にリサイクルする活性を有するタンパク質としては、フェレドキシン-NADP+レダクターゼが挙げられる。「フェレドキシン-NADP+レダクターゼ」とは、NADPHを電子供与体として、フェレドキシンまたはフラボドキシンの酸化型を還元型に変換する反応を可逆的に触媒する酵素(EC 1.18.1.2)をいう。フェレドキシン-NADP+レダクターゼは、フラボドキシン-NADP+レダクターゼともいう。フェレドキシン-NADP+レダクターゼの活性は、例えば、Blaschkowskiらの方法(Blaschkowski, H. P. et al. 1982. Eur. J. Biochem. 123: 563-569)に従って測定できる。
フェレドキシン-NADP+レダクターゼをコードする遺伝子(フェレドキシン-NADP+レダクターゼ遺伝子)としては、エシェリヒア・コリのfpr遺伝子、コリネバクテリウム・グルタミカムのフェレドキシン-NADP+レダクターゼ遺伝子、シュードモナス・プチダ(Psuedomonas putida)のNADPH-プチダレドキシンレダクターゼ(Putidaredoxin reductase)遺伝子(Koga, H. et al. 1989. J. Biochem. (Tokyo) 106: 831-836)が挙げられる。
フェレドキシンまたはフラボドキシンの生合成能は、フェレドキシンをコードする遺伝子(フェレドキシン遺伝子)またはフラボドキシンをコードする遺伝子(フラボドキシン遺伝子)の発現を増強することにより、増強することができる。フェレドキシン遺伝子またはフラボドキシン遺伝子としては、PSおよび電子供与体再生系が利用可能なフェレドキシンまたはフラボドキシンをコードするものであれば、特に制限されない。
フェレドキシン遺伝子としては、エシェリヒア・コリのfdx遺伝子やyfhL遺伝子、コリネバクテリウム・グルタミカムのfer遺伝子、クロロビウム・テピダムやハイドロジェノバクター・サーモフィラス等の還元的TCAサイクルを有する細菌のフェレドキシン遺伝子が挙げられる。フラボドキシン遺伝子としては、エシェリヒア・コリのfldA遺伝子やfldB遺伝子、還元的TCAサイクルを有する細菌のフラボドキシン遺伝子が挙げられる。
なお、上記の遺伝子、例えば、fadR遺伝子、fadレギュロン、cyoABCDEオペロン、PS遺伝子、PNO遺伝子、フェレドキシン-NADP+レダクターゼ遺伝子、フェレドキシン遺伝子、フラボドキシン遺伝子は、コードされるタンパク質の機能が損なわれない限り、上述した遺伝子情報を持つ遺伝子や公知の塩基配列を有する遺伝子に限られず、そのバリアントであってもよい。例えば、同遺伝子は、公知のタンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。遺伝子やタンパク質のバリアントについては、上記した2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ遺伝子および2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼのバリアントに関する記載を準用できる。
<1−4>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、タンパク質の活性を増大させる手法について説明する。
以下に、タンパク質の活性を増大させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が野生株や親株等の非改変株に対して増大していることを意味する。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることをいう。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。タンパク質の活性は、非改変株と比較して増大していれば特に制限されないが、例えば、非改変株と比較して、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「タンパク質の活性が増大する」とは、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することを含む。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、細菌が本来有する標的のタンパク質の活性を弱化および/または欠損させた上で、好適な同タンパク質を導入してもよい。
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成される。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株と比較して、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」とは、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることを含む。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを含む。
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
遺伝子のコピー数の増加は、宿主微生物の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(MillerI, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、L−アミノ酸生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。相同組み換えは、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、またはファージを用いたtransduction法により行うことができる。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
また、遺伝子のコピー数の増加は、標的遺伝子を含むベクターを宿主細菌に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主細菌で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主細菌を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主細菌の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリ細胞内において自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pACYC184、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pMW219(ニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233‐2(クロンテック社製)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、発現可能に本発明の細菌に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、本発明の細菌で機能するプロモーター配列による制御を受けて発現するように導入されていればよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。
また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に本発明の細菌に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。より強力なプロモーターとしては、例えば、公知の高発現プロモーターであるT7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)やpnlp8プロモーター(WO2010/027045)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味する。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene, 1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5'-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
本発明においては、プロモーター、SD配列、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の遺伝子の発現に影響する部位を総称して「発現調節領域」ともいう。発現調節領域は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節領域の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)により行うことができる。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子の異種発現を行う場合等には、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
また、酵素活性が増大するような改変は、例えば、酵素の比活性を増強することによっても達成できる。比活性が増強された酵素は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来の酵素に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強させる手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。例えば、エシェリヒア・コリ K-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A.,J. Mol. Biol. 1970, 53, 159-162)や、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E.., 1997. Gene 1: 153-167)を用いることができる。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類、及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S.and Choen, S.N., 1979.Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978.Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl.Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性は、例えば、2,4−ジエノイル−CoAの分解活性として測定できる。2,4−ジエノイル−CoAの分解活性は、例えば、2,4−ジエノイル−CoAの分解に伴うNADPHの減少を追うことにより、公知の手法により測定できる(Xue-Ying HE et al. Eur. J. Biochem. 248,516-520 (1997)。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition, Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量は、非改変株と比較して、例えば、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular cloning(Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、非改変株と比較して、例えば、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼの活性増強に加えて、任意のタンパク質、例えば、L−アミノ酸生合成系酵素やトランスポーター、の活性増強や、任意の遺伝子、例えば、それら任意のタンパク質をコードする遺伝子、fadレギュロン、cyoABCDEオペロン、PS遺伝子、PNO遺伝子、の発現増強に利用できる。
<1−5>タンパク質の活性を低下させる手法
以下に、タンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
以下に、タンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が野性株や親株等の非改変株と比較して減少していることを意味し、活性が完全に消失している場合を含む。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることをいう。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合が含まれる。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合が含まれる。タンパク質の活性は、非改変株と比較して低下していれば特に制限されないが、例えば、非改変株と比較して、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成される。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合が含まれる。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株と比較して、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーターやシャインダルガノ(SD)配列等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠損させることにより達成できる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは1〜2塩基を付加または欠失するフレームシフト変異を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997) Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や異種タンパク質生産に有用な遺伝子が挙げられる。
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、遺伝子の部分配列を欠失し、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含む組換えDNAで細菌を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。欠失型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組み合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線もしくは紫外線の照射、またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、メチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による通常の変異処理が挙げられる。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCR等が挙げられる(Molecular cloning(Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001))。mRNAの量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular cloning(Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、任意のタンパク質、例えば、目的のL−アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL−アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素やL−アミノ酸生合成系酵素のリプレッサー、の活性低下や、任意の遺伝子、例えば、それら任意のタンパク質をコードする遺伝子やfadR遺伝子、の発現低下に利用できる。
<2>本発明のL−アミノ酸の製造方法
本発明の方法は、リノール酸を含有する培地中で本発明の細菌を培養すること、および該培地からL−アミノ酸を採取することを含む、L−アミノ酸の製造方法である。すなわち、本発明の方法においては、リノール酸を炭素源として利用して、L−アミノ酸を発酵生産することができる。
本発明の方法は、リノール酸を含有する培地中で本発明の細菌を培養すること、および該培地からL−アミノ酸を採取することを含む、L−アミノ酸の製造方法である。すなわち、本発明の方法においては、リノール酸を炭素源として利用して、L−アミノ酸を発酵生産することができる。
リノール酸(C17H31COOH)は、9位と12位にシス型二重結合を含む炭素数18の多価不飽和脂肪酸である。
リノール酸としては、精製されたリノール酸等の純粋なリノール酸を用いてもよく、リノール酸とリノール酸以外の成分を含有する混合物を用いてもよい。そのような混合物としては、油脂の加水分解物が挙げられる。
油脂は、脂肪酸とグリセロールのエステルであり、トリグリセリド(triglyceride)とも呼ばれる。油脂の種類によって油脂を構成する脂肪酸の組成は異なることが知られている。油脂は、リノール酸を構成成分として含み、且つ、加水分解が可能な油脂であれば、特に制限されない。油脂は、リノール酸を、高い比率で、構成成分として含むものが好ましい。油脂としては、常温で液体のものを指す脂肪油(oil)や常温で固体のものを指す脂肪(fat)など、いずれの形態のものを使用してもよい。また、油脂としては、動物由来(魚類を含む)油脂や植物由来油脂など、いずれの由来のものを使用してもよい。また、油脂としては、1種の油脂を用いてもよく、2種またはそれ以上の油脂を組み合わせて用いてもよい。油脂としては、精製された油脂等の純粋な油脂を用いてもよく、油脂と油脂以外の成分を含有する混合物を用いてもよい。例えば、油脂が植物由来のものである場合は、そのような混合物としては、油脂を含有する植物抽出物や、油脂を含有するその分画物,、例えば油滓、が挙げられる。油滓は、主に植物油の精製工程における遊離脂肪酸を除去するための脱酸処理工程から生じるものであって、植物油の製造工程の副生成物であり、一般的に水分を40〜70%、油脂を20〜50%含むものである。また、バイオディーゼルの製造過程で生じる粗グリセロールは、バイオディーゼルである脂肪酸メチルエステルや遊離の脂肪酸を数パーセント含んでいることがあり、これを分画して用いることも出来る。
リノール酸を構成成分として含む油脂としては、例えば、ベニバナ油、大豆油、コーン油やひまわり油等の植物性油が挙げられる。
油脂の加水分解物は、油脂を加水分解することにより得られる。加水分解は、例えば、化学的に行われてもよく、酵素的に行われてもよい。工業的には、例えば、高温(250-260℃)、高圧(5-6MPa)下で油脂と水を向流接触させる連続高温加水分解法が一般的に行われている。また、酵素を用いて低温(30℃前後)で加水分解反応を行うことも工業的に行われている(Jaeger, K. E. et al. 1994. FEMS Microbiol. Rev. 15: 29-63)。酵素としては、油脂の加水分解反応を触媒する酵素リパーゼを用いることができる。リパーゼは工業的に重要な酵素であり、様々な産業的利用がなされている(Hasan, F. et al. 2006. Enzyme and Microbiol. Technol. 39: 235-251)。油脂の加水分解物は、脂肪酸およびグリセロールを含有する混合物として得られる。パーム油等の一般的な油脂の加水分解物において、脂肪酸に対するグリセロールの重量比は10%程度であることが知られている。油脂の加水分解物は、リノール酸を含む限り、特に制限されない。油脂の加水分解物は、そのまま用いてもよく、所望の成分を添加して、あるいは除去して、用いてもよい。例えば、油脂の加水分解物からグリセロールを除去して得られるリノール酸を含む脂肪酸の混合物を炭素源として用いてもよい。また、例えば、油脂の加水分解物からリノール酸を取得して炭素源として用いてもよい。
リノール酸は、フリー体もしくはその塩、またはそれらの混合物であってよい。塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。脂肪酸のアルカリ金属塩は、水溶性が高く、また、ミセル化して水中に保持されるため、本発明の細菌により効率的に利用され得る。
また、本発明の細菌がリノール酸をより効率的に利用できるよう、リノール酸の均一化を促進する処理を行い、リノール酸の溶解度を高めるのが好ましい。
均一化を促進する処理としては、例えば、乳化が挙げられる。乳化は、例えば、乳化促進剤や界面活性剤を添加することにより実施できる。乳化促進剤としては、例えば、リン脂質やステロールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、一般的に生物学の分野で用いられる界面活性剤が利用できる。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤では、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80)などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、n-オクチルβ-D-グルコシドなどのアルキルグルコシド、ショ糖ステアリン酸エステルなどのショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステルなどのポリグリセリン脂肪酸エステル、トライトンX-100(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij-58)、ノニルフェノールエトキシレート(Tergitol NP-40)が挙げられる。また、界面活性剤としては、両性イオン界面活性剤では、例えば、N,N-ジメチル-N-ドデシルグリシンベタインなどのアルキルベタインが挙げられる。
また、均一化を促進する処理としては、例えば、ホモジナイザー処理、ホモミキサー処理、超音波処理、高圧処理、高温処理が挙げられる。これらの中では、ホモジナイザー処理および/または超音波処理が好ましい。また、ホモジナイザー処理および/または超音波処理と、界面活性剤による処理を、組み合わせて用いるのがより好ましい。
均一化を促進する処理は、脂肪酸が安定に存在できるアルカリ条件下で行われるのが好ましい。アルカリ条件とは、好ましくはpH9以上、より好ましくはpH10以上であってよい。
本発明の方法においては、リノール酸は、唯一炭素源(sole carbon source)として利用されてもよく、そうでなくてもよい。すなわち、本発明の方法においては、リノール酸に加えて、他の炭素源を併用してもよい。他の炭素源としては、特に制限されないが、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、フマル酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類、エタノール、グリセロール、粗グリセロール等のアルコール類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸類、これら脂肪酸類の1またはそれ以上を構成成分として含む油脂の加水分解物が挙げられる。他の炭素源を用いる場合には、総炭素源中のリノール酸の比率は、例えば、10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上であってよい。具体的には、リノール酸とグルコースを炭素源として用いる場合、リノール酸とグルコースの総量に対するリノール酸の比率は、例えば、2.5重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%と使用する原料に応じて適宜選択してもよい。他の炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
なお、上述したリノール酸を構成成分として含む油脂、リノール酸の塩、リノール酸の均一化を促進する処理等のリノール酸に関する記載は、リノール酸に加えて、リノール酸以外の脂肪酸を併用する場合にも準用できる。例えば、リノール酸以外の脂肪酸は、フリー体もしくはその塩、またはそれらの混合物であってよい。また、例えば、リノール酸以外の脂肪酸は、均一化を促進する処理を行ってから用いてもよい。
本発明の方法において、培地成分としては、炭素源に加えて、他の成分を適宜用いることができる。炭素源以外の成分としては、例えば、窒素源、硫黄源、リン酸源、増殖促進因子(増殖促進効果を有する成分)が挙げられる。
窒素源としては、アンモニア、アンモニウム塩、硝酸塩、ウレアが挙げられる。アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウムが挙げられる。また、pH調整に用いられるアンモニアガス、アンモニア水も窒素源として利用できる。また、窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、大豆加水分解物等の有機窒素源も挙げられる。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
リン酸源としては、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマー等が挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
硫黄源としては、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。これらの中では、硫酸アンモニウムが好ましい。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
増殖促進因子としては、微量金属類、アミノ酸、ビタミン、核酸、これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物が挙げられる。微量金属類としては、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウムが挙げられる。ビタミンとしては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12が挙げられる。増殖促進因子としては、1種の増殖促進因子を用いてもよく、2種またはそれ以上の増殖促進因子を組み合わせて用いてもよい。
また、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。例えば、L−リジン生産菌は、L−リジン生合成経路が強化され、L−リジン分解能が弱化されている場合が多い。よって、そのようなL−リジン生産菌を培養する場合には、例えば、L−スレオニン、L−ホモセリン、L−イソロイシン、L−メチオニンから選ばれる1またはそれ以上の成分を培地に補添するのが好ましい。
培養条件は、本発明の細菌が増殖でき、目的のL−アミノ酸が生産される限り、特に制限されない。培養は、例えば、エシェリヒア・コリ等の細菌の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用する細菌の種類や製造するL−アミノ酸の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(発酵槽)に供給する培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を供給することを、「流加」ともいう。
本発明において、各培地成分、例えば、リノール酸等の炭素源、窒素源、硫黄源、リン酸源、増殖促進因子は、初発培地、流加培地、またはその両方に含有されていてよい。初発培地に含有される成分の種類は、流加培地に含有される成分の種類と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、初発培地に含有される各成分の濃度は、流加培地に含有される各成分の濃度と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、含有する成分の種類および/または濃度の異なる2種またはそれ以上の流加培地を用いてもよい。例えば、複数回の流加が間欠的に行われる場合、各流加培地に含有される成分の種類および/または濃度は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。
本発明の方法において、培地中のリノール酸濃度は、本発明の細菌がリノール酸を炭素源として利用できる限り、特に制限されない。培地中のリノール酸濃度は、例えば、10w/v%以下、好ましくは5w/v%以下、より好ましくは2w/v%以下であってよい。また、培地中のリノール酸濃度は、例えば、0.2w/v%以上、好ましくは0.5w/v%以上、より好ましくは1.0w/v%以上であってよい。リノール酸は、初発培地、流加培地、またはその両方に、上記例示した濃度範囲で含有されていてよい。
また、リノール酸が流加培地に含有される場合、リノール酸は、流加後の培地中のリノール酸濃度が、例えば、5w/v%以下、好ましくは2w/v%以下、より好ましくは1w/v%以下となるように、流加培地に含有されてもよい。また、リノール酸が流加培地に含有される場合、リノール酸は、流加後の培地中のリノール酸濃度が、例えば、0.01w/v%以上、好ましくは0.02w/v%以上、より好ましくは0.05w/v%以上となるように、流加培地に含有されてもよい。
リノール酸は、唯一炭素源として利用される場合に、上記例示した濃度範囲で含有されていてよい。また、リノール酸は、他の炭素源を併用する場合に、上記例示した濃度範囲で含有されてもよい。また、リノール酸は、他の炭素源を併用する場合に、例えば、総炭素源中のリノール酸の比率等に応じて、上記例示した濃度範囲を適宜修正した濃度範囲で含有されてもよい。
リノール酸は、培養の全期間において一定の濃度範囲で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。例えば、一定期間、リノール酸が不足していてもよい。「不足する」とは、要求量を満たさないことをいい、例えば、培地中の濃度がゼロとなることであってよい。「一定期間」とは、例えば、培養の全期間の内の、10%以下の期間、20%以下の期間、または30%以下の期間であってよい。リノール酸が不足する期間には、他の炭素源が充足されているのが好ましい。このように、一定期間、リノール酸が不足していても、リノール酸を含有する培地での培養期間が存在する限り、「リノール酸を含有する培地中で細菌を培養する」ことに含まれる。
リノール酸等の脂肪酸の濃度は、ガスクロマトグラフィー(Hashimoto, K. et al. 1996. Biosci. Biotechnol. Biochem. 70:22-30)やHPLC(Lin, J. T. et al. 1998. J. Chromatogr. A. 808: 43-49)により測定することができる。
培養は、例えば、好気的に行うことができる。例えば、培養は、通気培養または振盪培養で行うことができる。酸素濃度は、例えば、飽和酸素濃度の5〜50%、好ましくは10%程度に制御されてよい。温度は、例えば、20〜45℃、好ましくは33〜42℃に制御されてよい。pHは、例えば、5〜9に制御されてよい。培養中にpHが下がる場合には、例えば、あらかじめ炭酸カルシウムを加えて培養を行うか、アンモニアガス、アンモニア水等のアルカリで中和することができる。このような条件下で、例えば10時間〜120時間程度培養することにより、培養液中に著量のL−アミノ酸が蓄積される。
本発明において、細菌の培養は、種培養と本培養とに分けて行われてもよい。その場合、種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。例えば、種培養と本培養を、共に回分培養で行ってもよい。また、例えば、種培養を回分培養で行い、本培養を流加培養または連続培養で行ってもよい。
流加培養または連続培養においては、流加は、培養の全期間を通じて継続されてもよく、培養の一部の期間においてのみ継続されてもよい。また、流加培養または連続培養においては、複数回の流加が間欠的に行われてもよい。
複数回の流加が間欠的に行われる場合、1回当たりの流加の継続時間が、複数回の流加の合計時間の、例えば30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下となるように、流加の開始と停止を繰り返してもよい。
また、複数回の流加が間欠的に行われる場合、2回目以降の流加を、その直前の流加停止期において発酵培地中の炭素源が枯渇したときに開始されるように制御することにより、発酵培地中の炭素源濃度を自動的に低レベルに維持することもできる(米国特許5,912,113号明細書)。炭素源の枯渇は、例えば、pHの上昇または溶存酸素濃度の上昇により検出できる。
連続培養においては、培養液の引き抜きは、培養の全期間を通じて継続されてもよく、培養の一部の期間においてのみ継続されてもよい。また、連続培養においては、複数回の培養液の引き抜きが間欠的に行われてもよい。培養液の引き抜きと流加は、同時に行われてもよく、そうでなくてもよい。例えば、培養液の引き抜きを行った後で流加を行ってもよく、流加を行った後で培養液の引き抜きを行ってもよい。引き抜く培養液量は、流加させる培地量と同量であるのが好ましい。ここで、「同量」とは、例えば、流加させる培地量に対して93〜107%の量であってよい。
培養液を連続的に引き抜く場合には、流加と同時に、または流加の開始後に、引き抜きを開始するのが好ましい。例えば、流加の開始後5時間以内、好ましくは3時間以内、より好ましくは1時間以内に、引き抜きを開始してよい。
培養液を間欠的に引き抜く場合には、予定したL−アミノ酸濃度に到達したときに、培養液を一部引き抜いてL−アミノ酸を回収し、新たに培地を流加して培養を継続するのが好ましい。
また、引き抜かれた培養液から、L−アミノ酸を回収し、菌体を含むろ過残留物を発酵槽中に再循環させることにより、菌体を再利用することもできる(フランス特許2669935号明細書)。
また、L−リジン等の塩基性アミノ酸を製造する方法として、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを塩基性アミノ酸の主なカウンタイオンとして利用して塩基性アミノ酸を発酵生産する方法が知られている(特開2002-65287、US2002-0025564A、EP1813677A)。
同方法においては、培養中の培地のpHを6.5〜9.0、好ましくは6.5〜8.0、培養終了時の培地のpHを7.2〜9.0となるように制御し、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが培地中に20mM以上、好ましくは30mM以上、より好ましくは40mM以上存在する培養期があるようにする。塩基性アミノ酸のカウンタイオンとして必要な量の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを培地中に存在させるためには、発酵中の発酵槽内圧力を正となるように制御すること、炭酸ガスを培養液に供給すること、またはその両方を行うのが好ましい。
発酵中の発酵槽内圧力を正となるように制御するには、例えば、給気圧を排気圧より高くすればよい。発酵槽内圧力を正にすることによって、発酵により生成する炭酸ガスが培養液に溶解して重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを生じ、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンが塩基性アミノ酸のカウンタイオンとなり得る。発酵槽内圧力として、具体的には、ゲージ圧(大気圧に対する差圧)で、0.03〜0.2MPa、好ましくは0.05〜0.15MPa、より好ましくは0.1〜0.3MPaが挙げられる。また、炭酸ガスを培養液に供給する場合は、例えば、純炭酸ガス又は炭酸ガスを5体積%以上含む混合ガスを培養液に吹き込めばよい。発酵槽内圧力、炭酸ガスの供給量、および制限された給気量は、例えば、培地のpH、培地中の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオン濃度、または培地中のアンモニア濃度を測定することにより決定できる。
従来の塩基性アミノ酸の製造方法においては、硫酸イオン及び/又は塩化物イオンを塩基牲アミノ酸のカウンタイオンとして利用するため、十分量の硫酸アンモニウム及び/又は塩化アンモニウム、あるいは、栄養成分として蛋白等の硫酸分解物及び/又は塩酸分解物が培地に添加されていた。そのため、培地中には、硫酸イオン及び/又は塩化物イオンが多量に存在し、弱酸性である炭酸イオン濃度はppmオーダーと極めて低かった。
一方、上記方法(特開2002-65287、US2002-0025564A、EP1813677A)は、これら硫酸イオンおよび塩化物イオンの使用量を減じ、微生物が発酵時に放出する炭酸ガスを培地中に溶解せしめ、カウンタイオンとして利用することに特徴がある。
すなわち、同方法においては、硫酸イオン及び/又は塩化物イオンの使用量を削減することが目的の一つであるため、培地に含まれる硫酸イオンおよび塩化物イオンのモル濃度の合計は、通常、700mM以下、好ましくは500mM以下、より好ましくは300mM以下、さらに好ましくは200mM以下、特に好ましくは100mM以下である。硫酸イオン及び/又は塩化物イオン濃度を低減することで、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンをより容易に培地中に存在させることができる。すなわち、同方法においては、従来法に比べて、塩基性アミノ酸のカウンタイオンとして必要な量の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを培地中に存在させるための培地のpHを低く抑えることが可能となる。
また、同方法においては、培地中の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオン以外のアニオン(他のアニオンともいう)の濃度は、塩基性アミノ酸生産菌の生育に必要な量が含まれてさえいれば、低いことが好ましい。他のアニオンとしては、塩化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、イオン化した有機酸、水酸化物イオンが挙げられる。培地に含まれる他のアニオンのモル濃度の合計は、通常900mM以下、好ましくは700mM以下、より好ましくは500mM以下、さらに好ましくは300mM以下、特に好ましくは200mM以下である。
同方法においては、硫酸イオンや塩化物イオンを塩基性アミノ酸生産菌の生育に必要な量以上に培地に添加する必要はない。好ましくは、培養当初は硫酸アンモニウム等を培地に適当量フィードし、培養途中でフィードを止める。あるいは、培地中の炭酸イオン及び/又は重炭酸イオンの溶存量とのバランスを保ちつつ、硫酸アンモニウム等をフィードしてもよい。また、塩基性アミノ酸の窒素源として、アンモニアを培地にフィードしてもよい。例えば、アンモニアでpHを制御する場合、pHを高めるために供給されたアンモニアが、塩基性アミノ酸の窒素源として利用され得る。アンモニアは、単独で、又は他の気体とともに培地に供給することができる。
また、同方法においては、培地中の総アンモニア濃度を、塩基性アミノ酸の生産を阻害しない濃度に制御するのが好ましい。「塩基性アミノ酸の生産を阻害しない」総アンモニア濃度としては、例えば、最適な条件において塩基性アミノ酸を生産する場合の収率及び/又は生産性に比べて、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上の収率及び/又は生産性が得られる総アンモニア濃度が挙げられる。培地中の総アンモニア濃度として、具体的には、好ましくは300mM以下、より好ましくは250mM、特に好ましくは200mM以下の濃度が挙げられる。アンモニアの解離度はpHが高くなると低下する。解離していないアンモニアは、アンモニウムイオンよりも菌に対して毒性が強い。そのため、総アンモニア濃度の上限は、培養液のpHにも依存する。すなわち、培養液のpHが高いほど、許容される総アンモニア濃度は低くなる。したがって、「塩基性アミノ酸の生産を阻害しない」総アンモニア濃度は、pH毎に設定することが好ましい。しかし、培養中の最も高いpHにおいて許容される総アンモニア濃度範囲を、培養期間を通じての総アンモニア濃度範囲として用いてもよい。
一方、塩基性アミノ酸生産菌の生育及び塩基性アミノ酸の生産に必要な窒素源としての総アンモニア濃度は、培養中にアンモニアが枯渇した状態が継続せず、且つ、窒素源が不足することによる微生物による目的物質の生産性の低下が起こらない限り、特に制限されず、適宜設定することができる。例えば、培養中にアンモニア濃度を経時的に測定し、培地中のアンモニアが枯渇したら少量のアンモニアを培地に添加してもよい。アンモニアを添加したときのアンモニア濃度としては、特に制限されないが、例えば、総アンモニア濃度として好ましくは1mM以上、より好ましくは10mM以上、特に好ましくは20mM以上の濃度が挙げられる。
また、同方法において、培地には、塩基性アミノ酸以外のカチオンが含まれ得る。塩基性アミノ酸以外のカチオンとしては、培地成分由来のK、Na、Mg、Caが挙げられる。塩基性アミノ酸以外のカチオンのモル濃度の合計は、好ましくは、総カチオンのモル濃度の50%以下である。
発酵液からのL−アミノ酸の回収は、通常、イオン交換樹脂法(Nagai,H.et al., Separation Science and Technology, 39(16),3691-3710)、沈殿法、膜分離法(特開平9-164323号、特開平9-173792号)、晶析法(WO2008/078448、WO2008/078646)、その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。なお、菌体内にL−アミノ酸が蓄積する場合には、例えば、菌体を超音波などにより破砕し、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清から、イオン交換樹脂法などによってL−アミノ酸を回収することができる。
尚、回収されるL−アミノ酸は、L−アミノ酸以外に、細菌菌体、培地成分、水分、及び細菌の代謝副産物を含んでいてもよい。採取されたL−アミノ酸の純度は、例えば50%以上、好ましくは85%以上、特に好ましくは95%以上である (JP1214636B, USP 5,431,933, 4,956,471, 4,777,051, 4946654, 5,840,358, 6,238,714, US2005/0025878))。
また、L−アミノ酸が培地中に析出する場合は、遠心分離又は濾過等により回収することができる。また、培地中に析出したL−アミノ酸は、培地中に溶解しているL−アミノ酸を晶析した後に、併せて単離してもよい。
本発明は以下の実施例によって、更に具体的に説明されるが、これらはいかなる意味でも本発明を限定するものと解してはならない。
〔実施例1〕fadH遺伝子の発現を増強したエシェリヒア・コリL-リジン生産株の構築
<1-1>fadH遺伝子発現増強株の構築の概要
本実施例では、fadH遺伝子の発現を増強したエシェリヒア・コリL-リジン生産株を構築した。fadH遺伝子は、2,4-ジエノイルCoAリダクターゼをコードする。2,4-ジエノイルCoAリダクターゼは、エシェリヒア・コリの脂肪酸のβ酸化経路において、偶数番目の炭素に二重結合を有する不飽和脂肪酸の分解に必須である(Eur. J. Biochem. 248,516-520 (1997))。
<1-1>fadH遺伝子発現増強株の構築の概要
本実施例では、fadH遺伝子の発現を増強したエシェリヒア・コリL-リジン生産株を構築した。fadH遺伝子は、2,4-ジエノイルCoAリダクターゼをコードする。2,4-ジエノイルCoAリダクターゼは、エシェリヒア・コリの脂肪酸のβ酸化経路において、偶数番目の炭素に二重結合を有する不飽和脂肪酸の分解に必須である(Eur. J. Biochem. 248,516-520 (1997))。
fadH遺伝子発現増強株の親株としては、国際特許公報WO2006/078039に記載のエシェリヒア・コリL-リジン生産株WC196ΔcadAΔldcC株(AJ110692:以下では本株をWC196LCともいう)を用いた。この株は、WC196株(FERM BP-5252)において、cadA遺伝子とldcC遺伝子を破壊した株である。WC196LC株は、2008年10月7日に、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)にブダペスト条約に基づく国際寄託され、受託番号FERM BP-11027が付与されている。
fadH遺伝子の発現増強は、WC196LCの染色体上のfadH遺伝子の上流に、tacプロモーター(Gene 25 (1983) 167-364)およびT7ファージ10遺伝子上流配列由来のリボソーム結合部位(RBS) (Gene 73 (1988) 227-235)を挿入することにより行った。
プロモーター配列とRBS配列は、まず、エシェリヒア・コリ K-12 MG1655株の染色体上のfadH遺伝子の上流に、DatsenkoとWannerによって最初に開発された「Red-driven integration」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A. and Wanner, B. L. 2000. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 97: 6640-6645)によって挿入した。次いで、得られた株をドナーとするP1トランスダクションにより、WC196LCの染色体上のfadH遺伝子の上流に、プロモーター配列とRBS配列を挿入した。さらに、構築した株に組み込まれた抗生物質耐性遺伝子を、λファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., and Gardner, J. F. 2002. J. Bacteriol. 184: 5200-5203)により除去した。具体的な構築手順を以下に示す。
<1−2>fadH遺伝子発現増強株の構築
配列番号1及び2に示すプライマーを用いて、ラムダファージのアタッチメントサイトとクロラムフェニコール耐性遺伝子を連結したDNA断片(att-cat)とtacプロモーター配列(Ptac)を連結したatt-cat-Ptac断片を鋳型としたPCRを行い、att-cat-PtacfadH断片を得た。なお、att-cat-Ptac断片はpMW118-attL-Cm-attR(WO2005/010175)を参考に構築することが可能である。
配列番号1及び2に示すプライマーを用いて、ラムダファージのアタッチメントサイトとクロラムフェニコール耐性遺伝子を連結したDNA断片(att-cat)とtacプロモーター配列(Ptac)を連結したatt-cat-Ptac断片を鋳型としたPCRを行い、att-cat-PtacfadH断片を得た。なお、att-cat-Ptac断片はpMW118-attL-Cm-attR(WO2005/010175)を参考に構築することが可能である。
得られたatt-cat-PtacfadH断片を、Red-driven integration法によって、エシェリヒア・コリ K-12 MG1655株のfadH遺伝子の上流部位に挿入した。目的の遺伝子置換が生じた株の候補を、クロラムフェニコール耐性を指標として選択した。候補株において目的の遺伝子置換が起きていることをPCRによって確認した。得られた株をMG1655att-cat-PtacfadHと名づけた。
得られたMG1655att-cat-PtacfadHをドナーとして、WC196LC株にP1トランスダクションを行い、WC196LCの染色体上のfadH遺伝子の上流にatt-cat-PtacfadH断片が挿入された株の構築を行った。目的の遺伝子置換が生じた株の候補を、クロラムフェニコール耐性を指標として選択した。候補株において目的の遺伝子置換が起きていることをPCRによって確認した。得られた株をWC196LCatt-cat-PtacfadHと名づけた。
次に、att-cat遺伝子を除去するために、ヘルパープラスミドpMW-intxis-ts(特開2005-058227)を使用した。pMW-intxis-tsは、λファージのインテグラーゼ(Int)をコードする遺伝子およびエクシジョナーゼ(Xis)をコードする遺伝子を搭載し、温度感受性の複製能を有するプラスミドである。
上記で得られたWC196LCatt-cat-PtacfadH株のコンピテントセルを常法に従って作製し、ヘルパープラスミドpMW-intxis-tsにて形質転換し、30℃で100 mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地上にて平板培養し、アンピシリン耐性株を選択した。次に、pMW-intxis-tsプラスミドを除去するために、LB寒天培地上、42℃で継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性、及びクロラムフェニコール耐性を試験し、att-cat及びpMW-intxis-tsが脱落している株を取得した。この株をWC196LC PtacfadH株と名づけた。
<1−3>WC196LCPtacfadH株へのリジン生産用プラスミド導入
WC196LCPtacfadH株を、dapA、dapB、lysC、及びddh遺伝子を搭載したリジン生産用プラスミドpCABD2(WO95/16042)で常法に従い形質転換し、WC196LCPtacfadH/pCABD2株を得た。
WC196LCPtacfadH株を、dapA、dapB、lysC、及びddh遺伝子を搭載したリジン生産用プラスミドpCABD2(WO95/16042)で常法に従い形質転換し、WC196LCPtacfadH/pCABD2株を得た。
得られたWC196LCPtacfadH/pCABD2株を、20 mg/Lのストレプトマイシンを含むLB培地にてOD600が約0.3となるまで37℃にて培養した。次いで、培養液と等量の40%グリセロール溶液を加えて攪拌した後、適当量ずつ分注、-80℃に保存し、グリセロールストックとした。
〔実施例2〕fadH遺伝子発現増強株によるL-リジン生産
WC196LCPtacfadH/pCABD2株と対照株WC196LC/pCABD2株(WO2006/078039)のグリセロールストックを融解し、各100 μLを、20 mg/Lのストレプトマイシンを含むLB寒天培地プレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。次いで、プレートのおよそ1/8量の菌体を、500 mL容三角フラスコの、60 mg/Lのストレプトマイシンを含む以下に記載の発酵培地40 mLに接種し、往復振とう培養装置で37℃において42時間培養した。本培養は、それぞれの株について3連で行った。本培養における炭素源としては、グルコース30g/Lとリノール酸4g/Lを用いた。また、乳化促進剤として、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80:ナカライテスク社製)を終濃度0.5%(w/v)となるように添加した。これらの株がTween80を資化できないことは、別途確認した。培養に用いた培地組成を以下に示す。
WC196LCPtacfadH/pCABD2株と対照株WC196LC/pCABD2株(WO2006/078039)のグリセロールストックを融解し、各100 μLを、20 mg/Lのストレプトマイシンを含むLB寒天培地プレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。次いで、プレートのおよそ1/8量の菌体を、500 mL容三角フラスコの、60 mg/Lのストレプトマイシンを含む以下に記載の発酵培地40 mLに接種し、往復振とう培養装置で37℃において42時間培養した。本培養は、それぞれの株について3連で行った。本培養における炭素源としては、グルコース30g/Lとリノール酸4g/Lを用いた。また、乳化促進剤として、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80:ナカライテスク社製)を終濃度0.5%(w/v)となるように添加した。これらの株がTween80を資化できないことは、別途確認した。培養に用いた培地組成を以下に示す。
[エシェリヒア属細菌 L-リジン生産培地]
<炭素源>
グルコース 30 g/L
リノール酸 4 g/L
<その他の成分>
(NH4)2SO4 24 g/L
KH2PO4 1 g/L
MgSO4・7H2O 1 g/L
FeSO4・7H2O 0.01 g/L
MnSO4・7H2O 0.008 g/L
Yeast Extract 2 g/L
Tween 80 5 g/L
CaCO3(日本薬局方) 22.5 g/L
KOHでpH7.0に調整し、120℃で20分オートクレーブを行なった。但し、炭素源とMgSO4・7H2Oは別滅菌した後、混合した。CaCO3は乾熱滅菌後に添加した。
<炭素源>
グルコース 30 g/L
リノール酸 4 g/L
<その他の成分>
(NH4)2SO4 24 g/L
KH2PO4 1 g/L
MgSO4・7H2O 1 g/L
FeSO4・7H2O 0.01 g/L
MnSO4・7H2O 0.008 g/L
Yeast Extract 2 g/L
Tween 80 5 g/L
CaCO3(日本薬局方) 22.5 g/L
KOHでpH7.0に調整し、120℃で20分オートクレーブを行なった。但し、炭素源とMgSO4・7H2Oは別滅菌した後、混合した。CaCO3は乾熱滅菌後に添加した。
42時間培養後に、培養上清のL-リジンの量をバイオセンサーBF-5(王子計測機器)により測定した。生育度は、Tween0.5%溶液で培地を希釈後、濁度(OD)にて測定した。
結果の平均値を表1に示す。fadH遺伝子の発現を増強したL-リジン生産株(WC196LCPtacfadH/pCABD2)は、対照株(WC196LC/pCABD2)と比して、有意に高いL-リジン生産を示した。
本発明によれば、リノール酸を炭素源として用いる場合の細菌のL−アミノ酸生産能を向上させることができ、リノール酸を炭素源として用いてL−アミノ酸を効率よく製造することができる。
〔配列表の説明〕
配列番号1、2:att-cat-PtacfadH断片増幅用PCRプライマー
配列番号3:E.coli MG1655のfadH遺伝子の塩基配列
配列番号4:E.coli MG1655のFadHタンパク質のアミノ酸配列
配列番号1、2:att-cat-PtacfadH断片増幅用PCRプライマー
配列番号3:E.coli MG1655のfadH遺伝子の塩基配列
配列番号4:E.coli MG1655のFadHタンパク質のアミノ酸配列
Claims (9)
- L−アミノ酸の製造方法であって、
L−アミノ酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌を、リノール酸を含有する培地中で培養すること、および該培地からL−アミノ酸を採取すること、を含み、
前記細菌が、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大するように改変されていることを特徴とする、方法。 - 2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼをコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性が増大した、請求項1に記載の方法。
- 前記遺伝子のコピー数を高めること、または、前記遺伝子の発現調節配列を改変することにより、前記遺伝子の発現が上昇した、請求項2に記載の方法。
- 前記遺伝子が、下記(A)〜(D)からなる群より選択されるDNAである、請求項2または3に記載の方法:
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA;
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(C)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA;
(D)配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列又は該塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - 前記培地が、さらに、リノール酸以外の炭素源を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 前記リノール酸以外の炭素源がグルコースである、請求項5に記載の方法。
- 前記L−アミノ酸がL−リジンである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 前記細菌がエシェリヒア属細菌である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記細菌がエシェリヒア・コリである、請求項8に記載の方法。
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