本発明は、ソフトタイプおよびハードタイプを含むコンタクトレンズに係り、特に装用状態での周方向の位置決め機能を備えたコンタクトレンズの関連技術に関する。
コンタクトレンズにおいては、乱視矯正用の光学部や、老視を矯正する遠近両用の光学部を有する場合など、装用時に周方向の位置決めが必要とされる場合がある。例えば乱視矯正に用いられるトーリックレンズは、眼球の乱視軸とレンズの円柱軸の相対位置に関して高度で且つ安定した合致性が要求される。また、例えば老視矯正に用いられる遠近両用の多焦点レンズ等において、光学中心回りの周方向のレンズ度数分布が一様でないレンズデザインが採用されているレンズ等も、周方向の位置決めが必要とされる。
ところで、コンタクトレンズを装用状態下で周方向に位置決めする手法としては、従来から、実開昭48−13048号公報(特許文献1)に記載の「トランケーション法」や、特開平11−258553号公報(特許文献2)に記載の「プリズムバラスト法」、特開平8−304745号公報(特許文献3)に記載の「ダブルシン法」が、良く知られている。更に、近年では、米国特許第5100225号明細書(特許文献4)において「ペリバラスト法」も、提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の「トランケーション法」は、レンズ下端外周を弦方向に直線形状として下眼瞼で支持させることでコンタクトレンズを周方向に位置決めするものであって、下眼瞼に当接するレンズ下端外周の直線部分の両端エッジが下眼瞼を刺激するために装用感が良くないという問題があり、現実には採用され難い。
また、特許文献2に記載の「プリズムバラスト法」は、レンズ全体にプリズムを設定して下方に向かって厚肉とさせることで重力作用を利用してコンタクトレンズを周方向に位置決めするものであるが、プリズムによってレンズ下端が厚肉となって装用感が悪いことに加えて、プリズムが光学部に悪影響を及ぼして見え方を低下させるおそれもあった。
そこで、近年では、特許文献3に記載の「スラブオフ法」や特許文献4に記載の「ペリバラスト法」を採用する傾向がある。ところが、これら「スラブオフ法」や「ペリバラスト法」でも、コンタクトレンズにおける周方向位置決め性能と装用感とを、要求されるレベルで両立して満足させることが、未だ現実的には難しかった。
すなわち、特許文献3に記載の「スラブオフ法」は、レンズ上下部に向けて薄肉部を設けて、レンズ上下部への眼瞼による食わえ込み作用やレンズ上下部の傾斜面への眼瞼圧作用を利用してコンタクトレンズを周方向に位置決めするものである。また、特許文献4に記載の「ペリバラスト法」は、レンズ周辺部の左右両側で下方に偏倚した位置に一対の厚肉部を形成して、これら一対の厚肉部による重量バランスを利用してコンタクトレンズを周方向に位置決めするものである。
そして、前者の「スラブオフ法」において眼瞼圧による周方向位置決め効果を有効に得るためには、レンズ上下部の肉厚変化の勾配を大きくする必要がある。また、後者の「ペリバラスト法」において重量バランスによる周方向位置決め効果を有効に得るためには、左右両側で下方に偏倚して設けられる一対の厚肉部を、大きな肉厚勾配をもって厚肉にして重量を大きくする必要がある。
それ故、これら「スラブオフ法」と「ペリバラスト法」の何れであっても、充分な周方向位置決め効果を得るためには、周辺部に設定される肉厚変化の勾配が大きくなってしまい、装用感が悪化し易いという問題があった。
しかも、型加工と切削加工との何れでコンタクトレンズを製造するに際しても、成形型やレンズ素材をツールバイトで切削する際に、切削面の勾配が大きくなることによりツールバイトの切刃の後方側が切削加工面に干渉したり、NCのサーボモータの追従が困難になって、加工面精度が低下してしまうおそれがあったのである。さらに、ツールバイトの前逃げ角を大きくしたり、シャンク形状を逃がしたりすることにより干渉を回避しても、ツールバイトの剛性が低下して、ツールバイトの耐久性が極端に悪化してしまうという問題があった。
実開昭48−13048号公報
特開平11−258553号公報
特開平8−304745号公報
米国特許第5100225号明細書
本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであり、その解決課題とするところは、良好な装用感と、優れた周方向の位置決め効果とを、一層高度に両立して達成することの出来る、新規な構造のコンタクトレンズおよびコンタクトレンズの製造方法を提供することにある。
かかる課題を解決するためになされた、コンタクトレンズに関する本発明の特徴とするところは、凸状のレンズ前面と凹状のレンズ後面を有しており、中央部分の光学部の周りに周辺部が設けられたコンタクトレンズにおいて、前記周辺部には装用状態で周方向位置決め作用を発揮する厚肉部と薄肉部が周方向で互いに離れた位置に設けられており、該周辺部における該厚肉部と該薄肉部との間に設けられて厚さ寸法が周方向で変化せしめられた変化領域には、前記レンズ前面において該厚肉部から該薄肉部に向かって周方向で前記レンズ後面に近づく前面厚さ変化が付されていると共に、前記レンズ後面において該厚肉部から該薄肉部に向かって周方向で前記レンズ前面に近づく後面厚さ変化が付されているものである。
本発明に従う構造とされたコンタクトレンズでは、コンタクトレンズの周辺部においてレンズ前面とレンズ後面とのそれぞれに対して厚さ変化が付されており、それら前後面の協働により、周辺部における薄肉部と厚肉部とが形成されている。これにより、レンズ前面とレンズ後面とのそれぞれに付すべき厚さ変化の勾配を小さく抑えつつ、レンズ厚さの変化率を大きくすることが可能になる。それ故、ツールバイトの加工表面への干渉を回避しつつ、充分に大きなレンズ厚さの変化率を設定して、優れた周方向位置決め性能を得ることが可能になる。しかも、一方の面だけに厚さ勾配を付した場合に比して、眼球側と眼瞼側とに圧力を分配することが可能になることから、装用感の向上も図られ得る。
また、コンタクトレンズに関する本発明では、以下の各態様が必要に応じて適宜に組み合わされて採用され得る。
すなわち、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記周辺部における前記厚肉部および前記薄肉部が、何れも、レンズ前面における周方向厚さ変化とレンズ後面における周方向厚さ変化とが何れも付されていない一定厚さ領域として周方向の所定長さに亘って形成されている態様が、採用され得る。
本態様のコンタクトレンズでは、厚肉部および薄肉部が、それぞれ周方向の所定長さに亘って一定厚さ寸法をもって形成されることにより、厚肉部と薄肉部との相対的なマスや質量等の差を一層大きく設定することが可能になる。
また、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記周辺部の前記変化領域における前記前面厚さ変化と前記後面厚さ変化とが、何れも、前記レンズ前面および前記レンズ後面において周方向で段差のない滑らかな面をもって設定されている態様が、採用され得る。
本態様のコンタクトレンズでは、装用時において、レンズ前後面における厚さ変化領域での角膜や眼瞼等への刺激の更なる軽減が図られ得る。なお、本態様において好適には、周辺部の前面厚さ変化や後面厚さ変化が、傾斜角度を不連続とするような折れ点も有しない滑らかな面をもって設定される。
例えば、前記変化領域における前記レンズ前面および前記レンズ後面が、周方向において連続関数式で表される表面形状をもって設定された態様が、より好適に採用され得る。このように連続関数式で表される表面形状を採用することにより、周方向で厚さ方向に変化するレンズ前面やレンズ後面の形状設計が容易になると共に、成形型やレンズ面のNC制御による切削加工等の製造も容易に行うことが可能になる。具体的な連続関数式としては、一次関数や二次以上の多次関数の他、円錐曲線、三角関数なども採用可能である。
さらに、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記変化領域における前記レンズ前面および前記レンズ後面において、それぞれ周方向長さに対する厚さ方向変化量の比で表される前面厚さ変化率および後面厚さ変化率の最大値が、何れも、下式で表される変化領域の全体厚さ変化率を超えない値に設定されている態様が、採用され得る。ただし、Taは薄肉部の厚さ寸法、Tbは厚肉部の厚さ寸法、θa-b は変化領域の周方向長さとしての変化領域の中心角である。
変化領域の全体厚さ変化率=(Tb−Ta)/θa-b
本態様のコンタクトレンズでは、変化領域におけるレンズ前面の変化率およびレンズ後面の変化率が、変化領域全体の変化率を超えることがないように設定されている。即ち、変化領域における周方向の厚さ変化が、レンズ前面における厚さ変化とレンズ後面における厚さ変化とに分配される。従って、厚肉部と薄肉部との間における急激な厚さ変化が抑制されて、コンタクトレンズ使用者の装用感の向上が図られ得る。
また、本態様のコンタクトレンズでは、前記レンズ前面における前記前面厚さ変化率および前記レンズ後面における前記後面厚さ変化率が、互いに一定の割合に設定されることにより、前記変化領域における周方向の厚さ変化が、該レンズ前面と該レンズ後面とに対して全体に亘って一定の割合で分配されている態様が、好適に採用され得る。
本態様のコンタクトレンズでは、周方向単位距離あたりにおけるレンズ前面の厚さ方向変化量とレンズ後面の厚さ方向変化量との割合が、厚さ変化部分である変化領域の全体に亘って一定とされることから、レンズ前面やレンズ後面における眼瞼や角膜への作用圧力の均一化による装用感の更なる向上が図られ得る。
なお、本態様において好適には、レンズ前面およびレンズ後面において、それぞれ周方向長さに対する厚さ方向変化量の比で表される前面厚さ変化率および後面厚さ変化率が、変化領域における全ての対応する領域で互いに一定の割合に設定される。また、本態様においては、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率との差が0.50×10-2mm/角度以下の範囲内または何れか一方が他方に対して5倍の範囲内となるように設定されることが好ましい。
また、本態様において更に好適には、前記レンズ前面における前記前面厚さ変化率と、前記レンズ後面における前記後面厚さ変化率との差が0とされて、前記変化領域における周方向の厚さ変化が、前記レンズ前面と前記レンズ後面とに対して同じ割合で分配される。これにより、レンズ前後面における厚さ変化領域の設計や製造の容易化と、眼瞼や角膜への圧力分担による装用感の向上とが、一層容易に且つ効果的に達成可能となる。
さらに、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記光学部がプリズム設定による重心偏倚を有しない前後面で形成されている態様が、採用され得る。本態様のコンタクトレンズでは、本発明による周方向の位置決め機能が周辺部において充分に発揮されることにより、光学部での優れた光学特性を併せて得ることが可能になる。
また、本発明に係るコンタクトレンズにおいて、厚肉部および薄肉部における各厚さ寸法や両者の厚さ寸法差、周方向の厚さ変化率などの具体的な値は、レンズのDIAやCTといった寸法や、ハードコンタクトレンズとソフトコンタクトレンズの別およびレンズ材質等の物理的情報だけでなく、装用者の眼瞼圧や角膜形状、涙液量、角膜上でのレンズ安定性などを個人的にも考慮しつつ設定されることが望ましい。ここにおいて、一般的には、装用状態での周方向安定性や装用感を有利に得る等の観点から、以下の設計値が好適に採用され得る。
すなわち、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記厚肉部における厚さ寸法と前記薄肉部における厚さ寸法との差が0.10mm〜0.40mmの範囲内で設定されている態様が、採用され得る。なお、各部位における厚さ寸法は、レンズ後面の法線方向における厚さ寸法として定義される。
また、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記厚肉部における厚さ寸法が0.20mm〜0.50mmの範囲内で設定されている態様が、採用され得る。
更にまた、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記薄肉部における厚さ寸法が0.04mm〜0.20mmの範囲内で設定されている態様が、採用され得る。
また、本発明に係るコンタクトレンズでは、レンズ中心軸回りにおいて、前記変化領域における厚さ寸法の周方向変化率の最大値が0.40×10-2mm/角度以上に設定されている態様が、採用され得る。
また、本発明に係るコンタクトレンズでは、厚肉部および薄肉部における装用状態での周方向位置決め作用をより効果的に得るために、例えば、前記厚肉部が、装用状態で左右両側に位置する部分に一対設けられていると共に、前記薄肉部が、装用状態で上下両側に位置する部分に一対設けられている態様が、採用され得る。或いはまた、前記厚肉部が、装用状態で下端に位置する部分に設けられていると共に、前記薄肉部が、装用状態で上端に位置する部分に設けられている態様を、本発明において採用することも可能である。
一方、コンタクトレンズの製造方法に関する本発明の特徴とするところは、凸状のレンズ前面と凹状のレンズ後面を有しており、中央部分の光学部の周りに周辺部が設けられている一方、該周辺部には装用状態で周方向位置決め作用を発揮する厚肉部と薄肉部が周方向で互いに離れた位置に設けられていると共に、該周辺部における該厚肉部と該薄肉部との間には厚さ寸法が周方向で変化せしめられた変化領域が設けられているコンタクトレンズを製造するに際して、前記レンズ前面における前記変化領域の周方向傾斜形状と、前記レンズ後面における前記変化領域の周方向傾斜形状とを、それぞれ特定し、それらレンズ前面およびレンズ後面の周方向傾斜形状を併せて考慮して前記厚肉部および前記薄肉部の各厚さ寸法を設定することにより、該周辺部の前後面形状を決定した後、かかる前後面形状を付した周辺部をもってコンタクトレンズを製造するコンタクトレンズの製造方法にある。
このような本発明方法に従えば、コンタクトレンズの周辺部においてレンズ前面とレンズ後面とのそれぞれに対して厚さ変化が付されて、それら前後面の協働により周辺部における薄肉部と厚肉部とが形成された、良好な装用感と優れた周方向の位置決め効果とを高度に両立して達成し得る、新規な構造のコンタクトレンズを有利に製造することが可能になる。
本発明に従えば、コンタクトレンズの周辺部においてレンズ前後面にそれぞれ付された厚さ変化の協働により周辺部における薄肉部と厚肉部とが形成された、新規な構造のコンタクトレンズが実現され得る。
そして、かかる構造のコンタクトレンズでは、周辺部における厚さ寸法差をレンズ前面とレンズ後面とに分担させたことにより、レンズ前面およびレンズ後面における厚さ変化率を抑えて急峻な傾斜面角度を回避しつつ、薄肉部と厚肉部との厚さ寸法差を大きく設定することができる。その結果、レンズ成形型やレンズ素材に対する切削等の加工精度や製造容易さを確保すると共に、装用時の眼瞼や角膜への圧迫感等に起因する異物感を抑えて良好な装用感を実現しつつ、薄肉部および厚肉部による重量バランスやレンズ周辺部への眼瞼圧作用などを利用して高度な周方向位置の安定性を得ることが可能になる。
本発明の第一の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面図。
図1におけるII−II断面図。
図1におけるIII−III断面図。
(a)は図2に示された薄肉部と図3に示された厚肉部とをレンズ幾何中心軸を共通にして重ね合わせて示す説明図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。
図1に示されたコンタクトレンズの周辺部の径方向中央部分における厚み変化を説明するための説明図。
図1に示されたコンタクトレンズを製造するための成形型を示す断面図。
図1に示されたコンタクトレンズの装用状態を説明するための説明図。
本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図2に対応する断面図。
本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図3に対応する断面図。
本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図4に対応する説明図。
本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズの周辺部の厚み変化を説明するための説明図。
本発明の第三の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面図。
図12におけるXIII−XIII断面図。
図12におけるXIV−XIV断面図。
図13に示された薄肉部および厚肉部と図14に示された変化領域の周方向中央部分とをレンズ幾何中心軸を共通にして重ね合わせて示す説明図。
図12に示されたコンタクトレンズの周辺部の径方向中央部分における厚み変化を説明するための説明図。
本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図13に対応する断面図。
本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図14に対応する断面図。
本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図15に対応する説明図。
本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズの周辺部の径方向中央部分における厚み変化を説明するための説明図。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1乃至3に、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ10を示す。コンタクトレンズ10は、全体として部分的な略球殻形状を有しており、良く知られているように、眼球における角膜の表面に重ねて装用されることによって使用されるようになっている。なお、本発明は、ソフトタイプおよびハードタイプの何れのコンタクトレンズにも適用可能である。その材質も限定されるものでなく、例えばソフトタイプのコンタクトレンズとしては、従来から公知のPHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)やPVP(ポリビニルピロリドン)等の含水性材料の他、アクリルゴムやシリコーン等の非含水性材料等も採用可能である。特に、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)やSiMA/MMAポリマー等のガス透過性レンズ(RGPレンズ)などからなるハードコンタクトレンズへの適用も可能である。
より詳細には、本実施形態のコンタクトレンズ10は、レンズ外形の中心軸であるレンズ幾何中心軸12を通る一つの鉛直径方向線14に関して周辺部が線対称形状とされており、装用状態下で、この鉛直径方向線14が略鉛直方向となるようにされている。そして、レンズ幾何中心軸12を通り鉛直径方向線14と直交する径方向線である水平径方向線16が、装用状態下で、略水平方向となるようにされている。なお、径方向断面形状を示す図2および図3は、対称軸となる水平径方向線16上で、図1中の右方を基準(θ=0度)として、レンズ幾何中心軸12回りの周方向でθ=90度(図3)および180度(図2)の二つを示すものである。
さらに、本実施形態のコンタクトレンズ10は、図1に示された正面視において円形状とされており、図2〜3に示されているように、略凸状球面とされたレンズ前面18と、略凹状球面とされたレンズ後面20を有している。
また、かかるコンタクトレンズ10は、構造上、中央部分において正面視で略円形に広がる光学部22と、光学部22の周囲を取り囲むようにして正面視で略円環形状に広がる周辺部24と、周辺部24の周囲でレンズ最外周縁部に位置してレンズ前後面を接続するエッジ部26とによって構成されている。
光学部22は、要求される視力矯正機能等の光学特性として、例えば単一焦点や二以上の多焦点のレンズ度数を実現するように、レンズ前面18とレンズ後面20に対して適当な曲率半径の球面や非球面をベースとした光学面形状が与えられる。特に、本発明が有利に適用される乱視矯正用コンタクトレンズでは、要求される乱視矯正用の光学特性を光学部22に付与するために、光学部22のレンズ前面18とレンズ後面20の少なくとも一方において、適宜の円柱度数が、適宜の円柱軸角度をもって発現されるように、円柱レンズ面が組み合わされる。
具体的に例示すると、光学部22のレンズ前面18とレンズ後面20の一方の面が角膜曲率半径等を考慮した曲率半径の球面形状とされると共に、他方の面が必要とされる球面レンズ度数を与える曲率半径の球面形状とされる。更に、それらレンズ前後面18,20の一方において、特定の径方向軸をもつトーリック面が付加される。そして、これらレンズ前面18とレンズ後面20が同じレンズ幾何中心軸12上で形成されることによって、光学部22が必要な球面レンズ度数と円柱レンズ度数を併せ備えたトーリックレンズとされる。尤も、本発明において光学部22は、例えば二焦点を与えるバイフォーカルレンズや、三焦点以上の多焦点を与えるマルチフォーカルレンズ、または焦点が連続的に変化するようなプログレッシブレンズ等とすることも可能である。
なお、本実施形態における光学部22は、光学部22の幾何中心軸がレンズ幾何中心軸12と等しくされていると共に、光学部22の厚さ寸法がレンズ幾何中心軸12に関する対称位置において略等しくされていることによって、光学部22の重心位置が光学部22の幾何中心軸上に位置せしめられるようにされている。即ち、本実施形態では、コンタクトレンズ10の光学部22には、重心を下方に偏倚させて周方向位置を安定させる目的でのプリズムが設定されていない。
一方、周辺部24は、好適には、コンタクトレンズ10の径方向でレンズ外周端縁部から0.1mm〜2.0mmの範囲内、より好適には、レンズ外周端縁部から0.3mm〜1.7mmの範囲内に形成される。蓋し、周辺部24がレンズ径方向でレンズ外周縁部から0.1mmよりも小さい範囲に形成されると、後述する周辺部24による周方向位置決め効果が低下するおそれがある一方、周辺部24がレンズ径方向でレンズ外周縁部から2.0mmよりも大きい範囲に形成されると、光学部22の形成領域を充分に確保し難くなるおそれがある。
なお、光学部22の外周縁部と周辺部24の内周縁部とは、直接に接して形成されていても良いが、本実施形態では、それら両者の間に正面視で所定幅の円環形状で広がる移行領域28が設けられている。この移行領域28により、レンズ前面18およびレンズ後面20において、光学部22と周辺部24とがレンズ径方向で折れ点をもたないで滑らかに繋がる表面形状をもって接続されている。
ところで、周辺部24は、コンタクトレンズ10の光学特性に影響を与えるものではないことから、その形状を、要求される光学特性による拘束を受けることなく設定することが出来る。そして、周辺部24のレンズ前面18およびレンズ後面20は、コンタクトレンズ10に対して装用時の位置安定性や装用感が良好に発揮されるように、形状設定されている。
先ず、レンズ径方向断面における周辺部24のレンズ前後面18,20の形状としては、装用時の角膜へのフィッティングや涙液交換性能等の他、設計および製作の作業性等を考慮すると、例えば円弧形状の他、二次曲線形状や円錐曲線形状等が、好適に採用される。なお、一層良好な装用感を実現するために、周辺部24は、その内周側における移行領域28から光学部22に対して、且つその外周側におけるエッジ部26に対して、それぞれ、レンズ前後面18,20が、何れも、折れ点のない滑らかな形状で接続されることが望ましい。
次に、レンズ周方向断面における周辺部24のレンズ前後面18,20の形状は、周辺部24の肉厚寸法が周方向で変化せしめられるように傾斜面をもって形状設定されている。
具体的には、周辺部24には、鉛直径方向線14上で対向位置する上側領域および下側領域に一対の薄肉部30,30が形成されていると共に、水平径方向線16上で対向位置する左側領域および右側領域に一対の厚肉部32,32が形成されている。一対の薄肉部30,30に対して、一対の厚肉部32,32は、相対的に厚肉形状とされている。また、レンズの左右に位置する一対の厚肉部32,32は互いに鉛直径方向線14を挟んで対称形状とされており、水平径方向線16を跨いで周方向の上下両側に延び出す所定寸法に亘って形成されている。
さらに、本実施形態では、レンズの上下に位置する一対の薄肉部30,30も、互いに水平径方向線16を挟んで対称形状とされており、鉛直径方向線14を跨いで周方向左右両側に延び出す所定寸法に亘って形成されている。特に本実施形態では、一対の薄肉部30,30が鉛直径方向線14から左右両側に同じ寸法だけ延び出しており、鉛直径方向線14に関して左右対称形状とされていると共に、一対の厚肉部32,32も同様に、水平径方向線16から上下両側に同じ寸法だけ延び出しており、水平径方向線16に関して上下対称形状とされている。そして、各薄肉部30と各厚肉部32との間には、周方向において相互に所定の間隔が設けられている。
また、図2及び図3に示されているように、本実施形態では、薄肉部30と厚肉部32の何れにおいても、径方向断面形状では、レンズ前面18が全体として円弧状の略湾曲凸面とされていると共に、レンズ後面20が全体として円弧状の略湾曲凹面とされている。なお、周辺部24のレンズ前面18やレンズ後面20では、径方向の曲率変化によって、周辺部24のレンズ前面18には部分的に凹部が、レンズ後面20には部分的に凸部が設けられていても良い。特に、図4(a),(b)に示されているように、レンズ幾何中心軸12上で薄肉部30と厚肉部32とを重ね合わせると、薄肉部30と厚肉部32は、レンズ前面18とレンズ後面20の両面においてレンズ厚さ方向で異なっている。即ち、レンズ前面18では、厚肉部32に比して薄肉部30の方がレンズ後面20側に偏倚していると共に、レンズ後面20では、厚肉部32に比して薄肉部30の方がレンズ前面18側に偏倚している。その結果、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差が、レンズ前面18とレンズ後面20とで協働して付与されている。
なお、本実施形態では、薄肉部30と厚肉部32の何れにおいても、レンズ前面18において、光学部22を延長した湾曲面に比べて全体として外方に膨らむように偏倚した径方向断面形状とされていると共に、レンズ後面20において、光学部22を延長した湾曲面に比べて全体として内方に凹んだように偏倚した径方向断面形状とされている。また、薄肉部30は、厚肉部32に比して、レンズ前後面18,20の両側からそれぞれ薄肉化された形状となっている。なお、エッジ部26は、薄肉部30および厚肉部32の外周部分を含む全周に亘って、レンズ幾何中心軸12の直交平面上で延びる円環形状とされている。
更にまた、本実施形態では、薄肉部30と厚肉部32の何れもが、内周縁部において移行領域28を介して光学部22の外周縁部と同じ厚さ寸法とされていると共に、外周縁部においてエッジ部26の内周縁部と同じ厚さ寸法とされている。また、薄肉部30の厚さ寸法は、内周部分において最も厚肉とされており、その厚さ寸法が、光学部22の外周縁部の厚さ寸法と略同じかそれより小さくされている。一方、厚肉部32の厚さ寸法は、径方向中間部分において最も厚肉とされており、その厚さ寸法は光学部22の外周縁部の厚さ寸法よりも大きくされている。
さらに、本実施形態では、薄肉部30と厚肉部32のそれぞれは、周方向において、レンズ前面18およびレンズ後面20に厚さ変化は付されていない。即ち、薄肉部30と厚肉部32はそれぞれ、周方向の所定長さに亘って、一定の厚さ領域として形成されている。なお、薄肉部30と厚肉部32はこの形状に限定されず、周方向において厚さが変化していても良い。
さらに、周辺部24において、各一対の薄肉部30と厚肉部32との間に位置する領域は、何れも、薄肉部30と厚肉部32との周方向間で次第に厚さ寸法が変化する変化領域34とされている。
この変化領域34では、レンズ前面18とレンズ後面20の何れもが周方向において次第にレンズ厚さ方向に傾斜した傾斜面とされている。さらに、これらの傾斜面における厚さ変化は周方向において段差が設けられておらず、変化領域34のレンズ前後面18,20は、全面に亘って滑らかな面とされている。これにより、レンズ厚さ方向で相対的に位置が異なる薄肉部30と厚肉部32の各レンズ前面18が、変化領域34のレンズ前面18で滑らかに接続されていると共に、レンズ厚さ方向で相対的に位置が異なる薄肉部30と厚肉部32の各レンズ後面20も、変化領域34のレンズ後面20で滑らかに接続されている。
ここにおいて、変化領域34におけるレンズ前後面18,20は、厚肉部32から薄肉部30に向かって周方向で相互に漸次接近する方向に傾斜している。具体的な傾斜角度や形状は、限定されるものでないが、変化領域34における周方向での傾斜角度の態様は適切な関数で表されることが望ましい。具体的には、一次関数で一定の傾斜角度をもって形成される他、例えば薄肉部30や厚肉部32に対して滑らかに接続されるスプライン関数や、sin、sin2 等の三角関数などをもって形成されていても良い。
例えば、周辺部24におけるレンズ前面18およびレンズ後面20の周方向での表面形状、即ち厚さ変化を、連続関数式の一つである一次関数で設定した場合の一例を、図5に示す。ここで、周辺部24の厚さ寸法:tとは、周辺部24の径方向中間部分における法線方向においての、レンズ前面18とレンズ後面20の対向面間距離を表している。特に、図5は、水平径方向線16を原点とし、レンズ幾何中心軸12まわりで鉛直径方向線14に至るまでの中心角θ=90度の領域を表したものであり、周辺部24の径方向中央部分における厚さ寸法:tの周方向変化が表されている。
なお、薄肉部30の厚さ寸法:Ta(図4(b)参照)や、厚肉部32の厚さ寸法:Tb(図4(b)参照)は、コンタクトレンズ10の材質や光学部22のレンズ度数などに応じて設定されることとなり、具体的に限定されるものでない。
例えば、薄肉部30の厚さ寸法:Taの最大値は、0.04mm≦Ta≦0.20mmの範囲内で設定されることが望ましく、より好適には0.06mm≦Ta≦0.15mmの範囲内で設定される。これにより、薄肉部30の損傷等によるレンズ破損を防止しつつ、薄肉部30の眼瞼への食い込みに際する異物感の軽減や強度向上が有利に図られ得ると共に、良好な酸素透過性が実現され得る。
また、厚肉部32の厚さ寸法:Tbの最大値は、0.20mm≦Tb≦0.50mmの範囲内で設定されることが望ましく、より好適には0.25mm≦Tb≦0.40mmの範囲内で設定される。これにより、瞬目に際する上眼瞼の押し出し作用や厚肉部32,32に作用する重力の釣り合い作用を一層有効に確保して、装用時におけるレンズ周方向位置の安定性の向上が図られ得ると共に、眼瞼の厚肉部32への過渡の接触を抑えて装用感の向上が図られ得る。更に、同様な趣旨から、薄肉部30の厚さ寸法:Taと厚肉部32の厚さ寸法:Tbとの差は、0.10mm≦(Tb−Ta)≦0.40mmの範囲内とされることが望ましく、より好適には0.15mm≦(Tb−Ta)≦0.30mmの範囲内に設定される。
また、薄肉部30や厚肉部32は、レンズ幾何中心軸12回りの角度θa 、θb (図1参照)が、0度≦θa ≦80度、および0度≦θb ≦80度の範囲内で一定の断面形状をもって延びていることが望ましく、より好適には、30度≦θa ≦60度、および30度≦θb ≦60度の範囲内で設定される。これにより、装用時における周方向位置の安定性の向上や装用感の更なる向上が図られ得る。なお、同様な理由から、薄肉部30と厚肉部32との間に設けられた変化領域34は、変化領域34の周方向長さに対しての中心角、即ちレンズ幾何中心軸12回りの角度θa-b (図1参照)が、20度≦θa-b ≦90度の範囲内とされることが望ましく、より好適には30度≦θa-b ≦60度の範囲内で設定される。
さらに、変化領域34において、周方向長さに対する厚さ寸法変化量の比で表される厚さ変化率:(Tb−Ta)/θa-b は、好適には0.30×10-2mm/角度≦(Tb−Ta)/θa-b ≦1.0×10-2mm/角度の範囲内に設定されることとなる。また、厚さ変化率が周上で変化する場合には、その最大値が0.40×10-2mm/角度以上とされることが望ましい。このようにすれば、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差を大きく確保して、重力バランスや眼瞼圧によるレンズ押出し作用等による周方向位置決め作用を一層効果的に得ることが可能になる。
ここにおいて、かかる薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差は、変化領域34においてレンズ前面18およびレンズ後面20に周方向の傾斜が付されていることにより、レンズ前後面18,20によって分担されている。即ち、変化領域34のレンズ前面18には、厚肉部32から薄肉部30に向かって周方向でレンズ後面20に近づく前面厚さ変化が付されていると共に、変化領域34のレンズ後面20には、厚肉部32から薄肉部30に向かって周方向でレンズ前面18に近づく後面厚さ変化が付されている。換言すれば、変化領域34において、レンズ前面18に付された周方向の傾斜角度とレンズ後面20に付された周方向の傾斜角度とを適切に設定することにより、上述の変化領域における厚さ変化率((Tb−Ta)/θa-b )が実現されている。
具体的には、レンズ前面18には、周方向長さに対する厚さ方向変化量(図5中の「前面寄与」)の比で表される前面厚さ変化率が設定されていると共に、レンズ後面20には、周方向長さに対する厚さ方向変化量(図5中の「後面寄与」)の比で表される後面厚さ変化率が設定されている。そして、これら前面厚さ変化率と後面厚さ変化率との合計値が、変化領域34に設定される厚さ変化率((Tb−Ta)/θa-b )となるようにされている。換言すれば、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率のそれぞれの最大値が、何れも、変化領域34の全体厚さ変化率((Tb−Ta)/θa-b )を超えない値に設定されている。
そして、変化領域34に設定される厚さ変化率における、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率への分担割合は、角膜および眼瞼へのフィッテング度合いや厚さ変化量の大きさ、レンズ材質等を考慮して適宜に設定することが可能である。因みに、本実施形態では、図4及び図5に示されているように、変化領域34の全体に亘って、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率が一定の割合で周辺部24の厚さ変化を分担しており、しかも、それら前面厚さ変化率と後面厚さ変化率とが同じ、即ち差が0とされている。これにより、変化領域34における周方向の厚さ変化量が、レンズ前面18側とレンズ後面20側において、全体に亘って一定の割合で分配され得て、特に本実施形態のように、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率とが等しい場合は、レンズ前面18側とレンズ後面20側に分配される周方向の厚さ変化量を等しくすることができる。
なお、変化領域34のレンズ前後面18,20は、薄肉部30および厚肉部32に対して接続される周方向両端縁部において、前面厚さ変化率および後面厚さ変化率が漸次に0とされて、それら薄肉部30および厚肉部32のレンズ前後面18,20に対してエッジ等の屈曲点をもたないで滑らかに接続されることが望ましい。
上述の如き構造とされたコンタクトレンズ10は、適当な材料で予め重合成形されたブロックを直接に切削加工することで形成することも可能であるが、良好な量産性と優れた品質安定性の実現には、モールド成形によって製造することが望ましい。
具体的には、一般に、図6に示すように、レンズ後面20に対応した略球状凸面形状の成形面40を有する雄型42と、レンズ前面18に対応した略球状凹面形状の成形面44を有する雌型46とを用い、それら雌雄両型46,42を相互に型合わせすることによって両型の成形面40,44間に画成された略密閉状の成形キャビティ48内で、所定の重合用モノマーを重合成形することによって、目的とするレンズ前後面18,20を備えたコンタクトレンズ10を製造する成形方法が、好適に採用される。
ここにおいて、雌雄両型46,42の成形面40,44は、目的とする形状の光学部22と周辺部24を与える成形面を備えており、それによって、製造されるコンタクトレンズ10において、所定の球面レンズ特性と円柱レンズ特性とを併せ備えた光学部22が形成されると共に、前述の如き所定の厚さ寸法の周方向変化が付された周辺部24が形成されるようになっている。その際、先ず、レンズ前面18における変化領域34の周方向傾斜形状と、レンズ後面20における変化領域34の周方向傾斜形状とをそれぞれ特定する。同時に、レンズ前面18およびレンズ後面20の周方向傾斜形状を併せて考慮して、厚肉部32および薄肉部30の各厚さ寸法を設定する。これにより、周辺部24のレンズ前後面18,20の形状が決定される。なお、周辺部24のレンズ前後面18,20には、互いに対応する位置に所定の傾斜面等が付されていることから、雌雄両型46,42には相互に係止等される周方向の相対位置合わせ手段が設けられる。
このような構造とされたコンタクトレンズ10は、図7に示すように、眼50の角膜表面に装用される。かかる装用状態では、左右両側に一対の厚肉部32,32が位置していると共に、上下両側に一対の薄肉部30,30が位置している。そして、これら左右両側に位置する一対の厚肉部32,32のマス釣り合い作用によって、コンタクトレンズ10における周方向の位置決めが実現される。また、瞬目や眼瞼下への食い込みに伴って、コンタクトレンズ10の変化領域34や厚肉部32,32に及ぼされる眼瞼圧や眼瞼からの押出し作用(レンズの滑り出し作用)も、コンタクトレンズ10に対して、所期の周方向位置(水平径方向線16が水平状態に位置せしめられた、図7に示す位置)への安定化作用が発揮される。特に本実施形態では、一対の厚肉部32,32がコンタクトレンズ10の左右に形成されていることから、瞬目に際して及ぼされる下方への押し出し力を、コンタクトレンズ10のレンズ幾何中心軸12から離れた左右それぞれに及ぼすことが出来て、左右の押し出し力の釣り合いによっても優れた周方向安定性が発揮され得る。
しかも、上述の如き構造のコンタクトレンズ10では、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差が、変化領域34においてレンズ前後面18,20の両方に付された傾斜面によって分担されていることから、レンズ前面18およびレンズ後面20におけるそれぞれの傾斜角度が過度に急峻になるのを抑えつつ、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差を大きく設定することが可能になる。それ故、変化領域34のレンズ前後面18,20に付された傾斜角度によって角膜や眼瞼に及ぼされる圧力や違和感を軽減しつつ、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差の設定によって発揮されるレンズ周方向位置決め性能を効果的に享受することが可能になる。
また、変化領域34における周方向の厚さ変化がレンズ前後面18,20で分担されて、レンズ前面18の傾斜角度が抑えられることから、瞬目に際して上眼瞼がレンズ前面18に引っ掛かって、レンズを不要に回転させたり、装用感を損なうおそれも軽減される。また一方、下方の薄肉部30と左右一対の厚肉部32,32との厚さ寸法差は、レンズ前後面18,20の傾斜面によって協働して大きく設定されることから、コンタクトレンズ10が過度に(例えば30度又は60度を超えて)回転した場合には、水平径方向線より下方に位置する変化領域34や厚肉部32,32が下眼瞼の上端縁に当接することによって、それ以上の回転を一層確実に抑えることが出来る。
さらに、本実施形態における光学部22は、プリズムのような局所的な厚肉部がレンズ前面18およびレンズ後面20の何れにも形成されておらず、その重心位置は偏倚することなくレンズ幾何中心軸12上に位置せしめられている。このことから、プリズムによる光学上の悪影響などの問題も有利に回避され得る。
以上、本発明の第一の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
例えば、変化領域34に設定される厚さ変化率における、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率への分担割合は、前述のように適宜に設定可能であり、第一の実施形態に例示されているように前面厚さ変化率と後面厚さ変化率を同じにして変化領域34の厚さ変化量(Tb−Ta)に対する前面厚さ変化量(前面寄与)と後面厚さ変化量(後面寄与)とを等しく設定する態様に限定されるものでない。前面寄与と後面寄与を相対的に異ならせて設定することが可能であり、後面寄与に比して前面寄与を2倍以上に大きく設定した具体的態様を、図8〜11において第二の実施形態として示す。
なお、第二の実施形態としてのコンタクトレンズ52の正面図は、第一の実施形態のコンタクトレンズ10の正面図と実質的に同一であることから図示を省略する。また、第二の実施形態における図8〜11は、第一の実施形態における図2〜5に、それぞれ対応するものであり、各対応する部位に対してそれぞれ同一の符号を付することにより詳細な説明を省略する。
また、周辺部24に設定される厚さ変化は、コンタクトレンズ10(52)の装用状態で重量バランスに基づく周方向位置決め作用を発揮する厚肉部32と薄肉部30が周方向で互いに離れた位置に設けられたものであれば良く、厚肉部32や薄肉部30の具体的な大きさや厚さ寸法だけでなく、周方向位置や数等についても、前記第一の実施形態の態様に限定されるものでない。例えば、第一の実施形態のコンタクトレンズ10において、左右両側に設定された一対の厚肉部32,32を、それぞれ下方に偏倚させて、それら一対の厚肉部32,32の重心位置を、鉛直径方向線よりも斜め下方に位置させることによって重心位置をレンズ幾何中心軸12よりも下方に設定して周方向安定性の向上を図ったり、上側の薄肉部30に比して下側の薄肉部30を僅かに厚肉としたり周方向長さを大きくしたりすることで重心位置を下側に設定して周方向安定性の向上を図ったりすることなども可能である。なお、周辺部24において薄肉部30と厚肉部32との周方向間距離を異ならせて設定した場合には、それらの間に設けられる各変化領域34におけるレンズ前後面18,20の傾斜角度も、薄肉部30と厚肉部32との周方向間距離の相違に応じて互いに異なることとなる。
因みに、各一つずつの薄肉部と厚肉部を、周辺部24に設けた態様のコンタクトレンズ54を、本発明の第三の実施形態として図12〜16に示す。なお、これら図12〜16は、第一の実施形態における図1〜5に、それぞれ対応するものであり、各対応する部位に対してそれぞれ同一の符号を付する。即ち、本実施形態のコンタクトレンズ54では、鉛直径方向線14上で装用状態において上端に位置する部分に一つの薄肉部56が設けられていると共に、下端に位置する部分に一つの厚肉部58が設けられている。これら薄肉部56と厚肉部58は、鉛直径方向線14を挟んだ両側に跨がるようにして周方向に所定長さで広がっていることが望ましい。本実施形態では、薄肉部56と変化領域60,60(後述)の境界、および厚肉部58と変化領域60,60(後述)の境界は、何れも左右方向(装用状態で水平方向)に延び出している。これにより、薄肉部56および厚肉部58は、何れもセグメント形状とされている。なお、図15は、図13に示された薄肉部56と厚肉部58の各断面に加えて、図14に示された変化領域60(後述)の周方向中央部分の断面も併せて重ね合わせることで、薄肉部56から厚肉部58にまで至る周辺部24の厚さ変化を表したものである。また、図16は周辺部24の径方向中央部分において、θ=−90度(装用状態における鉛直方向下方)からθ=90度(装用状態における鉛直方向上方)までの範囲の厚さ変化を表している。
また、周辺部24における左右両側部分には、一対の変化領域60,60が設けられている。かかる変化領域60は、周方向で半周以下の長さで延びており、第一の実施形態と同様に、変化領域60におけるレンズ前面18およびレンズ後面20には、厚肉部58の周方向端部から薄肉部56の周方向端部に向かって次第にレンズ厚さ方向に傾斜するように、それぞれ前面厚さ変化率および後面厚さ変化率が設定されている。
なお、本実施形態において、薄肉部56と厚肉部58は、互いに異なる周方向長さに亘って一定の断面形状で広がっていても良い。ここにおいて、レンズ幾何中心軸12を中心として、周辺部24の径方向中央部分における薄肉部56および厚肉部58の周方向長さに対するそれぞれの中心角をθa ’、θb ’(図12参照)とする。これらの中心角θa ’、θb ’は、好適には、0度≦θa ’≦120度、および20度≦θb ’≦120度の範囲内に設定される。また、第一の実施形態と同様に、薄肉部56の厚さ寸法:Ta’の最大値が好適には0.10mm≦Ta’≦0.20mmの範囲内で設定されると共に、厚肉部58の厚さ寸法:Tb’の最大値が好適には0.20mm≦Tb’≦0.50mmの範囲内で設定される。そして、それら薄肉部56と厚肉部58を、レンズ前後面18,20においてそれぞれ周方向で滑らかに繋ぐようにして、変化領域60,60が、好適には0.30×10-2mm/角度〜1.0×10-2mm/角度の範囲内の傾斜をもって設けられる。
本実施形態のコンタクトレンズ54においても、装用状態下で薄肉部56と厚肉部58との重量バランスに基づいて周方向の位置決め作用が発揮されるのであり、それら薄肉部56と厚肉部58との厚さ寸法差が、変化領域60,60におけるレンズ前後面18,20における傾斜面によって分担されることから、良好な装用感と周方向位置決め性能との両立が達成され得る。
ところで、このように周辺部24において各一つの薄肉部56と厚肉部58を設けたコンタクトレンズにおいても、変化領域60,60における前面厚さ変化率と後面厚さ変化率への分担割合は、適宜に設定可能である。即ち、上述の第三の実施形態では、変化領域60の厚さ変化量(Tb’−Ta’)に対する前面寄与と後面寄与が等しく設定されていたが、例えば図17〜20に示されているように、後面寄与に比して前面寄与を2倍以上に大きく設定する等して、前面寄与と後面寄与を異ならせることも可能である。なお、図17〜20に示された第四の実施形態としてのコンタクトレンズ62では、その正面図について、第三の実施形態と実質的に同一であることから図示を省略する。また、第四の実施形態のコンタクトレンズ62を示す図17〜20は、第三の実施形態における図13〜16に、それぞれ対応するものであることから、各対応する部位に対してそれぞれ同一の符号を付することにより詳細な説明を省略する。
[実施例]
本発明の実施例として、前記第一の実施形態の構造に従うコンタクトレンズを作製して、コンタクトレンズの装用感向上の効果および周方向安定性向上の効果を確認するための試験を行った。かかる実施例のコンタクトレンズは、変化領域34におけるレンズ前面18の周方向厚さ方向変化量(前面寄与)と、変化領域34におけるレンズ後面20の周方向厚さ方向変化量(後面寄与)とを等しくしたものである。
また、比較例として2種類のコンタクトレンズを用意した。かかる比較例のコンタクトレンズは、変化領域34における周方向厚さ方向変化量がレンズ前面18のみに設けられているもの(比較例1)と、変化領域34における周方向厚さ方向変化量がレンズ後面20のみに設けられているもの(比較例2)とした。
実施例、比較例1、比較例2の各コンタクトレンズにおける各寸法は以下の通りである。曲率半径(BC)を8.60mm、レンズ外径(DIA)を14.5mm、中央厚さ(CT)を0.08mm、度数(Power)を−3.00D、加入度(ADD)を+2.50Dとした。また、一対の薄肉部30,30のレンズ幾何中心軸12回りの角度θa をそれぞれ40度、一対の厚肉部32,32のレンズ幾何中心軸12回りの角度θb をそれぞれ40度、各変化領域34のレンズ幾何中心軸12回りの角度θa-b をそれぞれ50度とした。さらに、一対の薄肉部30,30の厚さ寸法:Taの最大値をそれぞれ0.14mm、一対の厚肉部32,32の厚さ寸法:Tbの最大値をそれぞれ0.34mmとした。
以下の表1に、実施例と比較例1および実施例と比較例2における、コンタクトレンズの装用感向上と周方向安定性向上の確認試験結果を示す。本実施例での確認試験は、実施例のコンタクトレンズを、比較例1および比較例2のコンタクトレンズとそれぞれ同一眼で対比して評価することにより実施した。
具体的には、コンタクトレンズの装用感向上の確認試験では、先ず、比較例1のコンタクトレンズで異物感があった10眼を対象として、比較例1のコンタクトレンズと実施例のコンタクトレンズについて、それぞれの装用感の官能評価結果を比較した。また、比較例2のコンタクトレンズで異物感があった13眼も、同様に、比較例2のコンタクトレンズと実施例のコンタクトレンズについて、それぞれの装用感の官能評価結果を比較した。
一方、コンタクトレンズの周方向安定性向上の確認試験では、先ず、比較例1のコンタクトレンズでレンズで不安定さが看取された8眼を対象として、比較例1のコンタクトレンズと実施例のコンタクトレンズについて、それぞれの周方向安定性の測定結果を比較した。また、比較例2のコンタクトレンズで不安定さが看取された9眼も、同様に、比較例2のコンタクトレンズと実施例のコンタクトレンズについて、それぞれの周方向安定性の測定結果を比較した。なお、コンタクトレンズの周方向安定性は、装用状態で瞬目を行った後の周方向位置の変化を実測することによって評価し、5回の瞬目に際して15度以上の回転が一度でも認められた場合には周方向位置が不安定であると判定した。
上記[表1]の試験結果から、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズは、優れた装用感を実現しつつ、装用状態で優れた回転方向安定性を発揮し得ることがわかる。
以上、本発明について詳述してきたが、本発明は、上述の実施形態および実施例の記載によって、限定的に解釈されるものでない。一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものである。
また、本発明に従う構造のコンタクトレンズは、外径寸法(DIA)や中央厚さ(CT)、曲率半径(BC)、光学部22の光学特性、周辺部24の内外径寸法などの各値が適宜に変更設定されることにより、多数のコンタクトレンズ装用者において要求される多様な光学特性や幾何形状等に対応することが出来るようにされるものであり、多くの場合には、各種設定値を適当な間隔で変更設定した複数種類を組み合わせてシリーズとして市場に提供されることとなる。例えば、光学部22の形状は、必ずしも鉛直径方向線14に関して左右対称である必要はなく、バイフォーカルレンズ等において遠用領域に対する近用領域をレンズ装用時における鼻側に偏倚させて設定すること等も可能であり、そのようなコンタクトレンズに対しても、本発明が適用され得る。
さらに、薄肉部30(56)や厚肉部32(58)、移行領域34(60)が設けられる周辺部24の径方向幅寸法は、必ずしも全周に亘って一定とされる必要はなく、周方向で変化する径方向幅寸法をもって形成されていても良い。
また、前記実施形態においては、コンタクトレンズとして真円のものが示されているが、これに限定されず、楕円形であっても良い。更にまた、レンズの外周の一部を弦方向に直線形状とした、トランケーション法によるレンズについても、本発明は実施可能である。
10,52,54,62:コンタクトレンズ、18:レンズ前面、20:レンズ後面、22:光学部、24:周辺部、30,56:薄肉部、32,58:厚肉部、34,60:変化領域
本発明は、ソフトタイプおよびハードタイプを含むコンタクトレンズに係り、特に装用状態での周方向の位置決め機能を備えたコンタクトレンズの関連技術に関する。
コンタクトレンズにおいては、乱視矯正用の光学部や、老視を矯正する遠近両用の光学部を有する場合など、装用時に周方向の位置決めが必要とされる場合がある。例えば乱視矯正に用いられるトーリックレンズは、眼球の乱視軸とレンズの円柱軸の相対位置に関して高度で且つ安定した合致性が要求される。また、例えば老視矯正に用いられる遠近両用の多焦点レンズ等において、光学中心回りの周方向のレンズ度数分布が一様でないレンズデザインが採用されているレンズ等も、周方向の位置決めが必要とされる。
ところで、コンタクトレンズを装用状態下で周方向に位置決めする手法としては、従来から、実開昭48−13048号公報(特許文献1)に記載の「トランケーション法」や、特開平11−258553号公報(特許文献2)に記載の「プリズムバラスト法」、特開平8−304745号公報(特許文献3)に記載の「ダブルシン法」が、良く知られている。更に、近年では、米国特許第5100225号明細書(特許文献4)において「ペリバラスト法」も、提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の「トランケーション法」は、レンズ下端外周を弦方向に直線形状として下眼瞼で支持させることでコンタクトレンズを周方向に位置決めするものであって、下眼瞼に当接するレンズ下端外周の直線部分の両端エッジが下眼瞼を刺激するために装用感が良くないという問題があり、現実には採用され難い。
また、特許文献2に記載の「プリズムバラスト法」は、レンズ全体にプリズムを設定して下方に向かって厚肉とさせることで重力作用を利用してコンタクトレンズを周方向に位置決めするものであるが、プリズムによってレンズ下端が厚肉となって装用感が悪いことに加えて、プリズムが光学部に悪影響を及ぼして見え方を低下させるおそれもあった。
そこで、近年では、特許文献3に記載の「スラブオフ法」や特許文献4に記載の「ペリバラスト法」を採用する傾向がある。ところが、これら「スラブオフ法」や「ペリバラスト法」でも、コンタクトレンズにおける周方向位置決め性能と装用感とを、要求されるレベルで両立して満足させることが、未だ現実的には難しかった。
すなわち、特許文献3に記載の「スラブオフ法」は、レンズ上下部に向けて薄肉部を設けて、レンズ上下部への眼瞼による食わえ込み作用やレンズ上下部の傾斜面への眼瞼圧作用を利用してコンタクトレンズを周方向に位置決めするものである。また、特許文献4に記載の「ペリバラスト法」は、レンズ周辺部の左右両側で下方に偏倚した位置に一対の厚肉部を形成して、これら一対の厚肉部による重量バランスを利用してコンタクトレンズを周方向に位置決めするものである。
そして、前者の「スラブオフ法」において眼瞼圧による周方向位置決め効果を有効に得るためには、レンズ上下部の肉厚変化の勾配を大きくする必要がある。また、後者の「ペリバラスト法」において重量バランスによる周方向位置決め効果を有効に得るためには、左右両側で下方に偏倚して設けられる一対の厚肉部を、大きな肉厚勾配をもって厚肉にして重量を大きくする必要がある。
それ故、これら「スラブオフ法」と「ペリバラスト法」の何れであっても、充分な周方向位置決め効果を得るためには、周辺部に設定される肉厚変化の勾配が大きくなってしまい、装用感が悪化し易いという問題があった。
しかも、型加工と切削加工との何れでコンタクトレンズを製造するに際しても、成形型やレンズ素材をツールバイトで切削する際に、切削面の勾配が大きくなることによりツールバイトの切刃の後方側が切削加工面に干渉したり、NCのサーボモータの追従が困難になって、加工面精度が低下してしまうおそれがあったのである。さらに、ツールバイトの前逃げ角を大きくしたり、シャンク形状を逃がしたりすることにより干渉を回避しても、ツールバイトの剛性が低下して、ツールバイトの耐久性が極端に悪化してしまうという問題があった。
実開昭48−13048号公報
特開平11−258553号公報
特開平8−304745号公報
米国特許第5100225号明細書
本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであり、その解決課題とするところは、良好な装用感と、優れた周方向の位置決め効果とを、一層高度に両立して達成することの出来る、新規な構造のコンタクトレンズおよびコンタクトレンズの製造方法を提供することにある。
かかる課題を解決するためになされた、コンタクトレンズに関する本発明の特徴とするところは、凸状のレンズ前面と凹状のレンズ後面を有しており、中央部分の光学部の周りに周辺部が設けられたコンタクトレンズにおいて、前記周辺部には装用状態で周方向位置決め作用を発揮する厚肉部と薄肉部が周方向で互いに離れた位置に設けられており、該周辺部における該厚肉部と該薄肉部との間に設けられて厚さ寸法が周方向で変化せしめられた変化領域には、前記レンズ前面において該厚肉部から該薄肉部に向かって周方向で前記レンズ後面に近づく前面厚さ変化が付されていると共に、前記レンズ後面において該厚肉部から該薄肉部に向かって周方向で前記レンズ前面に近づく後面厚さ変化が付されており、前記厚肉部から前記薄肉部に向かう前記レンズの前後面の同じ部位において互いにレンズ前後方向で対向する方向の厚さ変化が付されていることにより、前記厚肉部から前記薄肉部に向かう前記変化領域においてレンズ前後両面に厚さ変化が分担設定されているものである。
本発明に従う構造とされたコンタクトレンズでは、コンタクトレンズの周辺部においてレンズ前面とレンズ後面とのそれぞれに対して厚さ変化が付されており、それら前後面の協働により、周辺部における薄肉部と厚肉部とが形成されている。これにより、レンズ前面とレンズ後面とのそれぞれに付すべき厚さ変化の勾配を小さく抑えつつ、レンズ厚さの変化率を大きくすることが可能になる。それ故、ツールバイトの加工表面への干渉を回避しつつ、充分に大きなレンズ厚さの変化率を設定して、優れた周方向位置決め性能を得ることが可能になる。しかも、一方の面だけに厚さ勾配を付した場合に比して、眼球側と眼瞼側とに圧力を分配することが可能になることから、装用感の向上も図られ得る。
また、コンタクトレンズに関する本発明では、以下の各態様が必要に応じて適宜に組み合わされて採用され得る。
すなわち、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記周辺部における前記厚肉部および前記薄肉部が、何れも、レンズ前面における周方向厚さ変化とレンズ後面における周方向厚さ変化とが何れも付されていない一定厚さ領域として周方向の所定長さに亘って形成されている態様が、採用され得る。
本態様のコンタクトレンズでは、厚肉部および薄肉部が、それぞれ周方向の所定長さに亘って一定厚さ寸法をもって形成されることにより、厚肉部と薄肉部との相対的なマスや質量等の差を一層大きく設定することが可能になる。
また、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記周辺部の前記変化領域における前記前面厚さ変化と前記後面厚さ変化とが、何れも、前記レンズ前面および前記レンズ後面において周方向で段差のない滑らかな面をもって設定されている態様が、採用され得る。
本態様のコンタクトレンズでは、装用時において、レンズ前後面における厚さ変化領域での角膜や眼瞼等への刺激の更なる軽減が図られ得る。なお、本態様において好適には、周辺部の前面厚さ変化や後面厚さ変化が、傾斜角度を不連続とするような折れ点も有しない滑らかな面をもって設定される。
例えば、前記変化領域における前記レンズ前面および前記レンズ後面が、周方向において連続関数式で表される表面形状をもって設定された態様が、より好適に採用され得る。このように連続関数式で表される表面形状を採用することにより、周方向で厚さ方向に変化するレンズ前面やレンズ後面の形状設計が容易になると共に、成形型やレンズ面のNC制御による切削加工等の製造も容易に行うことが可能になる。具体的な連続関数式としては、一次関数や二次以上の多次関数の他、円錐曲線、三角関数なども採用可能である。
さらに、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記変化領域における前記レンズ前面および前記レンズ後面において、それぞれ周方向長さに対する厚さ方向変化量の比で表される前面厚さ変化率および後面厚さ変化率の最大値が、何れも、下式で表される変化領域の全体厚さ変化率を超えない値に設定されている態様が、採用され得る。ただし、Taは薄肉部の厚さ寸法、Tbは厚肉部の厚さ寸法、θa-b は変化領域の周方向長さとしての変化領域の中心角である。
変化領域の全体厚さ変化率=(Tb−Ta)/θa-b
本態様のコンタクトレンズでは、変化領域におけるレンズ前面の変化率およびレンズ後面の変化率が、変化領域全体の変化率を超えることがないように設定されている。即ち、変化領域における周方向の厚さ変化が、レンズ前面における厚さ変化とレンズ後面における厚さ変化とに分配される。従って、厚肉部と薄肉部との間における急激な厚さ変化が抑制されて、コンタクトレンズ使用者の装用感の向上が図られ得る。
また、本態様のコンタクトレンズでは、前記レンズ前面における前記前面厚さ変化率および前記レンズ後面における前記後面厚さ変化率が、互いに一定の割合に設定されることにより、前記変化領域における周方向の厚さ変化が、該レンズ前面と該レンズ後面とに対して全体に亘って一定の割合で分配されている態様が、好適に採用され得る。
本態様のコンタクトレンズでは、周方向単位距離あたりにおけるレンズ前面の厚さ方向変化量とレンズ後面の厚さ方向変化量との割合が、厚さ変化部分である変化領域の全体に亘って一定とされることから、レンズ前面やレンズ後面における眼瞼や角膜への作用圧力の均一化による装用感の更なる向上が図られ得る。
なお、本態様において好適には、レンズ前面およびレンズ後面において、それぞれ周方向長さに対する厚さ方向変化量の比で表される前面厚さ変化率および後面厚さ変化率が、変化領域における全ての対応する領域で互いに一定の割合に設定される。また、本態様においては、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率との差が0.50×10-2mm/角度以下の範囲内または何れか一方が他方に対して5倍の範囲内となるように設定されることが好ましい。
また、本態様において更に好適には、前記レンズ前面における前記前面厚さ変化率と、前記レンズ後面における前記後面厚さ変化率との差が0とされて、前記変化領域における周方向の厚さ変化が、前記レンズ前面と前記レンズ後面とに対して同じ割合で分配される。これにより、レンズ前後面における厚さ変化領域の設計や製造の容易化と、眼瞼や角膜への圧力分担による装用感の向上とが、一層容易に且つ効果的に達成可能となる。
さらに、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記光学部がプリズム設定による重心偏倚を有しない前後面で形成されている態様が、採用され得る。本態様のコンタクトレンズでは、本発明による周方向の位置決め機能が周辺部において充分に発揮されることにより、光学部での優れた光学特性を併せて得ることが可能になる。
また、本発明に係るコンタクトレンズにおいて、厚肉部および薄肉部における各厚さ寸法や両者の厚さ寸法差、周方向の厚さ変化率などの具体的な値は、レンズのDIAやCTといった寸法や、ハードコンタクトレンズとソフトコンタクトレンズの別およびレンズ材質等の物理的情報だけでなく、装用者の眼瞼圧や角膜形状、涙液量、角膜上でのレンズ安定性などを個人的にも考慮しつつ設定されることが望ましい。ここにおいて、一般的には、装用状態での周方向安定性や装用感を有利に得る等の観点から、以下の設計値が好適に採用され得る。
すなわち、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記厚肉部における厚さ寸法と前記薄肉部における厚さ寸法との差が0.10mm〜0.40mmの範囲内で設定されている態様が、採用され得る。なお、各部位における厚さ寸法は、レンズ後面の法線方向における厚さ寸法として定義される。
また、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記厚肉部における厚さ寸法が0.20mm〜0.50mmの範囲内で設定されている態様が、採用され得る。
更にまた、本発明に係るコンタクトレンズでは、前記薄肉部における厚さ寸法が0.04mm〜0.20mmの範囲内で設定されている態様が、採用され得る。
また、本発明に係るコンタクトレンズでは、レンズ中心軸回りにおいて、前記変化領域における厚さ寸法の周方向変化率の最大値が0.40×10-2mm/角度以上に設定されている態様が、採用され得る。
また、本発明に係るコンタクトレンズでは、厚肉部および薄肉部における装用状態での周方向位置決め作用をより効果的に得るために、例えば、前記厚肉部が、装用状態で左右両側に位置する部分に一対設けられていると共に、前記薄肉部が、装用状態で上下両側に位置する部分に一対設けられている態様が、採用され得る。或いはまた、前記厚肉部が、装用状態で下端に位置する部分に設けられていると共に、前記薄肉部が、装用状態で上端に位置する部分に設けられている態様を、本発明において採用することも可能である。
一方、コンタクトレンズの製造方法に関する本発明の特徴とするところは、凸状のレンズ前面と凹状のレンズ後面を有しており、中央部分の光学部の周りに周辺部が設けられている一方、該周辺部には装用状態で周方向位置決め作用を発揮する厚肉部と薄肉部が周方向で互いに離れた位置に設けられていると共に、該周辺部における該厚肉部と該薄肉部との間には厚さ寸法が周方向で変化せしめられた変化領域が設けられているコンタクトレンズを製造するに際して、前記レンズ前面における前記変化領域の周方向傾斜形状と、前記レンズ後面における前記変化領域の周方向傾斜形状とを、それぞれ特定し、それらレンズ前面およびレンズ後面の周方向傾斜形状を併せて考慮して前記厚肉部および前記薄肉部の各厚さ寸法を設定することにより、該周辺部の前後面形状を決定した後、かかる前後面形状を付した周辺部をもってコンタクトレンズを製造するコンタクトレンズの製造方法にある。
このような本発明方法に従えば、コンタクトレンズの周辺部においてレンズ前面とレンズ後面とのそれぞれに対して厚さ変化が付されて、それら前後面の協働により周辺部における薄肉部と厚肉部とが形成された、良好な装用感と優れた周方向の位置決め効果とを高度に両立して達成し得る、新規な構造のコンタクトレンズを有利に製造することが可能になる。
本発明に従えば、コンタクトレンズの周辺部においてレンズ前後面にそれぞれ付された厚さ変化の協働により周辺部における薄肉部と厚肉部とが形成された、新規な構造のコンタクトレンズが実現され得る。
そして、かかる構造のコンタクトレンズでは、周辺部における厚さ寸法差をレンズ前面とレンズ後面とに分担させたことにより、レンズ前面およびレンズ後面における厚さ変化率を抑えて急峻な傾斜面角度を回避しつつ、薄肉部と厚肉部との厚さ寸法差を大きく設定することができる。その結果、レンズ成形型やレンズ素材に対する切削等の加工精度や製造容易さを確保すると共に、装用時の眼瞼や角膜への圧迫感等に起因する異物感を抑えて良好な装用感を実現しつつ、薄肉部および厚肉部による重量バランスやレンズ周辺部への眼瞼圧作用などを利用して高度な周方向位置の安定性を得ることが可能になる。
本発明の第一の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面図。
図1におけるII−II断面図。
図1におけるIII−III断面図。
(a)は図2に示された薄肉部と図3に示された厚肉部とをレンズ幾何中心軸を共通にして重ね合わせて示す説明図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。
図1に示されたコンタクトレンズの周辺部の径方向中央部分における厚み変化を説明するための説明図。
図1に示されたコンタクトレンズを製造するための成形型を示す断面図。
図1に示されたコンタクトレンズの装用状態を説明するための説明図。
本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図2に対応する断面図。
本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図3に対応する断面図。
本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図4に対応する説明図。
本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズの周辺部の厚み変化を説明するための説明図。
本発明の第三の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面図。
図12におけるXIII−XIII断面図。
図12におけるXIV−XIV断面図。
図13に示された薄肉部および厚肉部と図14に示された変化領域の周方向中央部分とをレンズ幾何中心軸を共通にして重ね合わせて示す説明図。
図12に示されたコンタクトレンズの周辺部の径方向中央部分における厚み変化を説明するための説明図。
本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図13に対応する断面図。
本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図14に対応する断面図。
本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズにおける、図15に対応する説明図。
本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズの周辺部の径方向中央部分における厚み変化を説明するための説明図。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1乃至3に、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ10を示す。コンタクトレンズ10は、全体として部分的な略球殻形状を有しており、良く知られているように、眼球における角膜の表面に重ねて装用されることによって使用されるようになっている。なお、本発明は、ソフトタイプおよびハードタイプの何れのコンタクトレンズにも適用可能である。その材質も限定されるものでなく、例えばソフトタイプのコンタクトレンズとしては、従来から公知のPHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)やPVP(ポリビニルピロリドン)等の含水性材料の他、アクリルゴムやシリコーン等の非含水性材料等も採用可能である。特に、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)やSiMA/MMAポリマー等のガス透過性レンズ(RGPレンズ)などからなるハードコンタクトレンズへの適用も可能である。
より詳細には、本実施形態のコンタクトレンズ10は、レンズ外形の中心軸であるレンズ幾何中心軸12を通る一つの鉛直径方向線14に関して周辺部が線対称形状とされており、装用状態下で、この鉛直径方向線14が略鉛直方向となるようにされている。そして、レンズ幾何中心軸12を通り鉛直径方向線14と直交する径方向線である水平径方向線16が、装用状態下で、略水平方向となるようにされている。なお、径方向断面形状を示す図2および図3は、対称軸となる水平径方向線16上で、図1中の右方を基準(θ=0度)として、レンズ幾何中心軸12回りの周方向でθ=90度(図3)および180度(図2)の二つを示すものである。
さらに、本実施形態のコンタクトレンズ10は、図1に示された正面視において円形状とされており、図2〜3に示されているように、略凸状球面とされたレンズ前面18と、略凹状球面とされたレンズ後面20を有している。
また、かかるコンタクトレンズ10は、構造上、中央部分において正面視で略円形に広がる光学部22と、光学部22の周囲を取り囲むようにして正面視で略円環形状に広がる周辺部24と、周辺部24の周囲でレンズ最外周縁部に位置してレンズ前後面を接続するエッジ部26とによって構成されている。
光学部22は、要求される視力矯正機能等の光学特性として、例えば単一焦点や二以上の多焦点のレンズ度数を実現するように、レンズ前面18とレンズ後面20に対して適当な曲率半径の球面や非球面をベースとした光学面形状が与えられる。特に、本発明が有利に適用される乱視矯正用コンタクトレンズでは、要求される乱視矯正用の光学特性を光学部22に付与するために、光学部22のレンズ前面18とレンズ後面20の少なくとも一方において、適宜の円柱度数が、適宜の円柱軸角度をもって発現されるように、円柱レンズ面が組み合わされる。
具体的に例示すると、光学部22のレンズ前面18とレンズ後面20の一方の面が角膜曲率半径等を考慮した曲率半径の球面形状とされると共に、他方の面が必要とされる球面レンズ度数を与える曲率半径の球面形状とされる。更に、それらレンズ前後面18,20の一方において、特定の径方向軸をもつトーリック面が付加される。そして、これらレンズ前面18とレンズ後面20が同じレンズ幾何中心軸12上で形成されることによって、光学部22が必要な球面レンズ度数と円柱レンズ度数を併せ備えたトーリックレンズとされる。尤も、本発明において光学部22は、例えば二焦点を与えるバイフォーカルレンズや、三焦点以上の多焦点を与えるマルチフォーカルレンズ、または焦点が連続的に変化するようなプログレッシブレンズ等とすることも可能である。
なお、本実施形態における光学部22は、光学部22の幾何中心軸がレンズ幾何中心軸12と等しくされていると共に、光学部22の厚さ寸法がレンズ幾何中心軸12に関する対称位置において略等しくされていることによって、光学部22の重心位置が光学部22の幾何中心軸上に位置せしめられるようにされている。即ち、本実施形態では、コンタクトレンズ10の光学部22には、重心を下方に偏倚させて周方向位置を安定させる目的でのプリズムが設定されていない。
一方、周辺部24は、好適には、コンタクトレンズ10の径方向でレンズ外周端縁部から0.1mm〜2.0mmの範囲内、より好適には、レンズ外周端縁部から0.3mm〜1.7mmの範囲内に形成される。蓋し、周辺部24がレンズ径方向でレンズ外周縁部から0.1mmよりも小さい範囲に形成されると、後述する周辺部24による周方向位置決め効果が低下するおそれがある一方、周辺部24がレンズ径方向でレンズ外周縁部から2.0mmよりも大きい範囲に形成されると、光学部22の形成領域を充分に確保し難くなるおそれがある。
なお、光学部22の外周縁部と周辺部24の内周縁部とは、直接に接して形成されていても良いが、本実施形態では、それら両者の間に正面視で所定幅の円環形状で広がる移行領域28が設けられている。この移行領域28により、レンズ前面18およびレンズ後面20において、光学部22と周辺部24とがレンズ径方向で折れ点をもたないで滑らかに繋がる表面形状をもって接続されている。
ところで、周辺部24は、コンタクトレンズ10の光学特性に影響を与えるものではないことから、その形状を、要求される光学特性による拘束を受けることなく設定することが出来る。そして、周辺部24のレンズ前面18およびレンズ後面20は、コンタクトレンズ10に対して装用時の位置安定性や装用感が良好に発揮されるように、形状設定されている。
先ず、レンズ径方向断面における周辺部24のレンズ前後面18,20の形状としては、装用時の角膜へのフィッティングや涙液交換性能等の他、設計および製作の作業性等を考慮すると、例えば円弧形状の他、二次曲線形状や円錐曲線形状等が、好適に採用される。なお、一層良好な装用感を実現するために、周辺部24は、その内周側における移行領域28から光学部22に対して、且つその外周側におけるエッジ部26に対して、それぞれ、レンズ前後面18,20が、何れも、折れ点のない滑らかな形状で接続されることが望ましい。
次に、レンズ周方向断面における周辺部24のレンズ前後面18,20の形状は、周辺部24の肉厚寸法が周方向で変化せしめられるように傾斜面をもって形状設定されている。
具体的には、周辺部24には、鉛直径方向線14上で対向位置する上側領域および下側領域に一対の薄肉部30,30が形成されていると共に、水平径方向線16上で対向位置する左側領域および右側領域に一対の厚肉部32,32が形成されている。一対の薄肉部30,30に対して、一対の厚肉部32,32は、相対的に厚肉形状とされている。また、レンズの左右に位置する一対の厚肉部32,32は互いに鉛直径方向線14を挟んで対称形状とされており、水平径方向線16を跨いで周方向の上下両側に延び出す所定寸法に亘って形成されている。
さらに、本実施形態では、レンズの上下に位置する一対の薄肉部30,30も、互いに水平径方向線16を挟んで対称形状とされており、鉛直径方向線14を跨いで周方向左右両側に延び出す所定寸法に亘って形成されている。特に本実施形態では、一対の薄肉部30,30が鉛直径方向線14から左右両側に同じ寸法だけ延び出しており、鉛直径方向線14に関して左右対称形状とされていると共に、一対の厚肉部32,32も同様に、水平径方向線16から上下両側に同じ寸法だけ延び出しており、水平径方向線16に関して上下対称形状とされている。そして、各薄肉部30と各厚肉部32との間には、周方向において相互に所定の間隔が設けられている。
また、図2及び図3に示されているように、本実施形態では、薄肉部30と厚肉部32の何れにおいても、径方向断面形状では、レンズ前面18が全体として円弧状の略湾曲凸面とされていると共に、レンズ後面20が全体として円弧状の略湾曲凹面とされている。なお、周辺部24のレンズ前面18やレンズ後面20では、径方向の曲率変化によって、周辺部24のレンズ前面18には部分的に凹部が、レンズ後面20には部分的に凸部が設けられていても良い。特に、図4(a),(b)に示されているように、レンズ幾何中心軸12上で薄肉部30と厚肉部32とを重ね合わせると、薄肉部30と厚肉部32は、レンズ前面18とレンズ後面20の両面においてレンズ厚さ方向で異なっている。即ち、レンズ前面18では、厚肉部32に比して薄肉部30の方がレンズ後面20側に偏倚していると共に、レンズ後面20では、厚肉部32に比して薄肉部30の方がレンズ前面18側に偏倚している。その結果、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差が、レンズ前面18とレンズ後面20とで協働して付与されている。
なお、本実施形態では、薄肉部30と厚肉部32の何れにおいても、レンズ前面18において、光学部22を延長した湾曲面に比べて全体として外方に膨らむように偏倚した径方向断面形状とされていると共に、レンズ後面20において、光学部22を延長した湾曲面に比べて全体として内方に凹んだように偏倚した径方向断面形状とされている。また、薄肉部30は、厚肉部32に比して、レンズ前後面18,20の両側からそれぞれ薄肉化された形状となっている。なお、エッジ部26は、薄肉部30および厚肉部32の外周部分を含む全周に亘って、レンズ幾何中心軸12の直交平面上で延びる円環形状とされている。
更にまた、本実施形態では、薄肉部30と厚肉部32の何れもが、内周縁部において移行領域28を介して光学部22の外周縁部と同じ厚さ寸法とされていると共に、外周縁部においてエッジ部26の内周縁部と同じ厚さ寸法とされている。また、薄肉部30の厚さ寸法は、内周部分において最も厚肉とされており、その厚さ寸法が、光学部22の外周縁部の厚さ寸法と略同じかそれより小さくされている。一方、厚肉部32の厚さ寸法は、径方向中間部分において最も厚肉とされており、その厚さ寸法は光学部22の外周縁部の厚さ寸法よりも大きくされている。
さらに、本実施形態では、薄肉部30と厚肉部32のそれぞれは、周方向において、レンズ前面18およびレンズ後面20に厚さ変化は付されていない。即ち、薄肉部30と厚肉部32はそれぞれ、周方向の所定長さに亘って、一定の厚さ領域として形成されている。なお、薄肉部30と厚肉部32はこの形状に限定されず、周方向において厚さが変化していても良い。
さらに、周辺部24において、各一対の薄肉部30と厚肉部32との間に位置する領域は、何れも、薄肉部30と厚肉部32との周方向間で次第に厚さ寸法が変化する変化領域34とされている。
この変化領域34では、レンズ前面18とレンズ後面20の何れもが周方向において次第にレンズ厚さ方向に傾斜した傾斜面とされている。さらに、これらの傾斜面における厚さ変化は周方向において段差が設けられておらず、変化領域34のレンズ前後面18,20は、全面に亘って滑らかな面とされている。これにより、レンズ厚さ方向で相対的に位置が異なる薄肉部30と厚肉部32の各レンズ前面18が、変化領域34のレンズ前面18で滑らかに接続されていると共に、レンズ厚さ方向で相対的に位置が異なる薄肉部30と厚肉部32の各レンズ後面20も、変化領域34のレンズ後面20で滑らかに接続されている。
ここにおいて、変化領域34におけるレンズ前後面18,20は、厚肉部32から薄肉部30に向かって周方向で相互に漸次接近する方向に傾斜している。具体的な傾斜角度や形状は、限定されるものでないが、変化領域34における周方向での傾斜角度の態様は適切な関数で表されることが望ましい。具体的には、一次関数で一定の傾斜角度をもって形成される他、例えば薄肉部30や厚肉部32に対して滑らかに接続されるスプライン関数や、sin、sin2 等の三角関数などをもって形成されていても良い。
例えば、周辺部24におけるレンズ前面18およびレンズ後面20の周方向での表面形状、即ち厚さ変化を、連続関数式の一つである一次関数で設定した場合の一例を、図5に示す。ここで、周辺部24の厚さ寸法:tとは、周辺部24の径方向中間部分における法線方向においての、レンズ前面18とレンズ後面20の対向面間距離を表している。特に、図5は、水平径方向線16を原点とし、レンズ幾何中心軸12まわりで鉛直径方向線14に至るまでの中心角θ=90度の領域を表したものであり、周辺部24の径方向中央部分における厚さ寸法:tの周方向変化が表されている。
なお、薄肉部30の厚さ寸法:Ta(図4(b)参照)や、厚肉部32の厚さ寸法:Tb(図4(b)参照)は、コンタクトレンズ10の材質や光学部22のレンズ度数などに応じて設定されることとなり、具体的に限定されるものでない。
例えば、薄肉部30の厚さ寸法:Taの最大値は、0.04mm≦Ta≦0.20mmの範囲内で設定されることが望ましく、より好適には0.06mm≦Ta≦0.15mmの範囲内で設定される。これにより、薄肉部30の損傷等によるレンズ破損を防止しつつ、薄肉部30の眼瞼への食い込みに際する異物感の軽減や強度向上が有利に図られ得ると共に、良好な酸素透過性が実現され得る。
また、厚肉部32の厚さ寸法:Tbの最大値は、0.20mm≦Tb≦0.50mmの範囲内で設定されることが望ましく、より好適には0.25mm≦Tb≦0.40mmの範囲内で設定される。これにより、瞬目に際する上眼瞼の押し出し作用や厚肉部32,32に作用する重力の釣り合い作用を一層有効に確保して、装用時におけるレンズ周方向位置の安定性の向上が図られ得ると共に、眼瞼の厚肉部32への過渡の接触を抑えて装用感の向上が図られ得る。更に、同様な趣旨から、薄肉部30の厚さ寸法:Taと厚肉部32の厚さ寸法:Tbとの差は、0.10mm≦(Tb−Ta)≦0.40mmの範囲内とされることが望ましく、より好適には0.15mm≦(Tb−Ta)≦0.30mmの範囲内に設定される。
また、薄肉部30や厚肉部32は、レンズ幾何中心軸12回りの角度θa 、θb (図1参照)が、0度≦θa ≦80度、および0度≦θb ≦80度の範囲内で一定の断面形状をもって延びていることが望ましく、より好適には、30度≦θa ≦60度、および30度≦θb ≦60度の範囲内で設定される。これにより、装用時における周方向位置の安定性の向上や装用感の更なる向上が図られ得る。なお、同様な理由から、薄肉部30と厚肉部32との間に設けられた変化領域34は、変化領域34の周方向長さに対しての中心角、即ちレンズ幾何中心軸12回りの角度θa-b (図1参照)が、20度≦θa-b ≦90度の範囲内とされることが望ましく、より好適には30度≦θa-b ≦60度の範囲内で設定される。
さらに、変化領域34において、周方向長さに対する厚さ寸法変化量の比で表される厚さ変化率:(Tb−Ta)/θa-b は、好適には0.30×10-2mm/角度≦(Tb−Ta)/θa-b ≦1.0×10-2mm/角度の範囲内に設定されることとなる。また、厚さ変化率が周上で変化する場合には、その最大値が0.40×10-2mm/角度以上とされることが望ましい。このようにすれば、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差を大きく確保して、重力バランスや眼瞼圧によるレンズ押出し作用等による周方向位置決め作用を一層効果的に得ることが可能になる。
ここにおいて、かかる薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差は、変化領域34においてレンズ前面18およびレンズ後面20に周方向の傾斜が付されていることにより、レンズ前後面18,20によって分担されている。即ち、変化領域34のレンズ前面18には、厚肉部32から薄肉部30に向かって周方向でレンズ後面20に近づく前面厚さ変化が付されていると共に、変化領域34のレンズ後面20には、厚肉部32から薄肉部30に向かって周方向でレンズ前面18に近づく後面厚さ変化が付されている。換言すれば、変化領域34において、レンズ前面18に付された周方向の傾斜角度とレンズ後面20に付された周方向の傾斜角度とを適切に設定することにより、上述の変化領域における厚さ変化率((Tb−Ta)/θa-b )が実現されている。
具体的には、レンズ前面18には、周方向長さに対する厚さ方向変化量(図5中の「前面寄与」)の比で表される前面厚さ変化率が設定されていると共に、レンズ後面20には、周方向長さに対する厚さ方向変化量(図5中の「後面寄与」)の比で表される後面厚さ変化率が設定されている。そして、これら前面厚さ変化率と後面厚さ変化率との合計値が、変化領域34に設定される厚さ変化率((Tb−Ta)/θa-b )となるようにされている。換言すれば、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率のそれぞれの最大値が、何れも、変化領域34の全体厚さ変化率((Tb−Ta)/θa-b )を超えない値に設定されている。
そして、変化領域34に設定される厚さ変化率における、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率への分担割合は、角膜および眼瞼へのフィッテング度合いや厚さ変化量の大きさ、レンズ材質等を考慮して適宜に設定することが可能である。因みに、本実施形態では、図4及び図5に示されているように、変化領域34の全体に亘って、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率が一定の割合で周辺部24の厚さ変化を分担しており、しかも、それら前面厚さ変化率と後面厚さ変化率とが同じ、即ち差が0とされている。これにより、変化領域34における周方向の厚さ変化量が、レンズ前面18側とレンズ後面20側において、全体に亘って一定の割合で分配され得て、特に本実施形態のように、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率とが等しい場合は、レンズ前面18側とレンズ後面20側に分配される周方向の厚さ変化量を等しくすることができる。
なお、変化領域34のレンズ前後面18,20は、薄肉部30および厚肉部32に対して接続される周方向両端縁部において、前面厚さ変化率および後面厚さ変化率が漸次に0とされて、それら薄肉部30および厚肉部32のレンズ前後面18,20に対してエッジ等の屈曲点をもたないで滑らかに接続されることが望ましい。
上述の如き構造とされたコンタクトレンズ10は、適当な材料で予め重合成形されたブロックを直接に切削加工することで形成することも可能であるが、良好な量産性と優れた品質安定性の実現には、モールド成形によって製造することが望ましい。
具体的には、一般に、図6に示すように、レンズ後面20に対応した略球状凸面形状の成形面40を有する雄型42と、レンズ前面18に対応した略球状凹面形状の成形面44を有する雌型46とを用い、それら雌雄両型46,42を相互に型合わせすることによって両型の成形面40,44間に画成された略密閉状の成形キャビティ48内で、所定の重合用モノマーを重合成形することによって、目的とするレンズ前後面18,20を備えたコンタクトレンズ10を製造する成形方法が、好適に採用される。
ここにおいて、雌雄両型46,42の成形面40,44は、目的とする形状の光学部22と周辺部24を与える成形面を備えており、それによって、製造されるコンタクトレンズ10において、所定の球面レンズ特性と円柱レンズ特性とを併せ備えた光学部22が形成されると共に、前述の如き所定の厚さ寸法の周方向変化が付された周辺部24が形成されるようになっている。その際、先ず、レンズ前面18における変化領域34の周方向傾斜形状と、レンズ後面20における変化領域34の周方向傾斜形状とをそれぞれ特定する。同時に、レンズ前面18およびレンズ後面20の周方向傾斜形状を併せて考慮して、厚肉部32および薄肉部30の各厚さ寸法を設定する。これにより、周辺部24のレンズ前後面18,20の形状が決定される。なお、周辺部24のレンズ前後面18,20には、互いに対応する位置に所定の傾斜面等が付されていることから、雌雄両型46,42には相互に係止等される周方向の相対位置合わせ手段が設けられる。
このような構造とされたコンタクトレンズ10は、図7に示すように、眼50の角膜表面に装用される。かかる装用状態では、左右両側に一対の厚肉部32,32が位置していると共に、上下両側に一対の薄肉部30,30が位置している。そして、これら左右両側に位置する一対の厚肉部32,32のマス釣り合い作用によって、コンタクトレンズ10における周方向の位置決めが実現される。また、瞬目や眼瞼下への食い込みに伴って、コンタクトレンズ10の変化領域34や厚肉部32,32に及ぼされる眼瞼圧や眼瞼からの押出し作用(レンズの滑り出し作用)も、コンタクトレンズ10に対して、所期の周方向位置(水平径方向線16が水平状態に位置せしめられた、図7に示す位置)への安定化作用が発揮される。特に本実施形態では、一対の厚肉部32,32がコンタクトレンズ10の左右に形成されていることから、瞬目に際して及ぼされる下方への押し出し力を、コンタクトレンズ10のレンズ幾何中心軸12から離れた左右それぞれに及ぼすことが出来て、左右の押し出し力の釣り合いによっても優れた周方向安定性が発揮され得る。
しかも、上述の如き構造のコンタクトレンズ10では、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差が、変化領域34においてレンズ前後面18,20の両方に付された傾斜面によって分担されていることから、レンズ前面18およびレンズ後面20におけるそれぞれの傾斜角度が過度に急峻になるのを抑えつつ、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差を大きく設定することが可能になる。それ故、変化領域34のレンズ前後面18,20に付された傾斜角度によって角膜や眼瞼に及ぼされる圧力や違和感を軽減しつつ、薄肉部30と厚肉部32との厚さ寸法差の設定によって発揮されるレンズ周方向位置決め性能を効果的に享受することが可能になる。
また、変化領域34における周方向の厚さ変化がレンズ前後面18,20で分担されて、レンズ前面18の傾斜角度が抑えられることから、瞬目に際して上眼瞼がレンズ前面18に引っ掛かって、レンズを不要に回転させたり、装用感を損なうおそれも軽減される。また一方、下方の薄肉部30と左右一対の厚肉部32,32との厚さ寸法差は、レンズ前後面18,20の傾斜面によって協働して大きく設定されることから、コンタクトレンズ10が過度に(例えば30度又は60度を超えて)回転した場合には、水平径方向線より下方に位置する変化領域34や厚肉部32,32が下眼瞼の上端縁に当接することによって、それ以上の回転を一層確実に抑えることが出来る。
さらに、本実施形態における光学部22は、プリズムのような局所的な厚肉部がレンズ前面18およびレンズ後面20の何れにも形成されておらず、その重心位置は偏倚することなくレンズ幾何中心軸12上に位置せしめられている。このことから、プリズムによる光学上の悪影響などの問題も有利に回避され得る。
以上、本発明の第一の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
例えば、変化領域34に設定される厚さ変化率における、前面厚さ変化率と後面厚さ変化率への分担割合は、前述のように適宜に設定可能であり、第一の実施形態に例示されているように前面厚さ変化率と後面厚さ変化率を同じにして変化領域34の厚さ変化量(Tb−Ta)に対する前面厚さ変化量(前面寄与)と後面厚さ変化量(後面寄与)とを等しく設定する態様に限定されるものでない。前面寄与と後面寄与を相対的に異ならせて設定することが可能であり、後面寄与に比して前面寄与を2倍以上に大きく設定した具体的態様を、図8〜11において第二の実施形態として示す。
なお、第二の実施形態としてのコンタクトレンズ52の正面図は、第一の実施形態のコンタクトレンズ10の正面図と実質的に同一であることから図示を省略する。また、第二の実施形態における図8〜11は、第一の実施形態における図2〜5に、それぞれ対応するものであり、各対応する部位に対してそれぞれ同一の符号を付することにより詳細な説明を省略する。
また、周辺部24に設定される厚さ変化は、コンタクトレンズ10(52)の装用状態で重量バランスに基づく周方向位置決め作用を発揮する厚肉部32と薄肉部30が周方向で互いに離れた位置に設けられたものであれば良く、厚肉部32や薄肉部30の具体的な大きさや厚さ寸法だけでなく、周方向位置や数等についても、前記第一の実施形態の態様に限定されるものでない。例えば、第一の実施形態のコンタクトレンズ10において、左右両側に設定された一対の厚肉部32,32を、それぞれ下方に偏倚させて、それら一対の厚肉部32,32の重心位置を、鉛直径方向線よりも斜め下方に位置させることによって重心位置をレンズ幾何中心軸12よりも下方に設定して周方向安定性の向上を図ったり、上側の薄肉部30に比して下側の薄肉部30を僅かに厚肉としたり周方向長さを大きくしたりすることで重心位置を下側に設定して周方向安定性の向上を図ったりすることなども可能である。なお、周辺部24において薄肉部30と厚肉部32との周方向間距離を異ならせて設定した場合には、それらの間に設けられる各変化領域34におけるレンズ前後面18,20の傾斜角度も、薄肉部30と厚肉部32との周方向間距離の相違に応じて互いに異なることとなる。
因みに、各一つずつの薄肉部と厚肉部を、周辺部24に設けた態様のコンタクトレンズ54を、本発明の第三の実施形態として図12〜16に示す。なお、これら図12〜16は、第一の実施形態における図1〜5に、それぞれ対応するものであり、各対応する部位に対してそれぞれ同一の符号を付する。即ち、本実施形態のコンタクトレンズ54では、鉛直径方向線14上で装用状態において上端に位置する部分に一つの薄肉部56が設けられていると共に、下端に位置する部分に一つの厚肉部58が設けられている。これら薄肉部56と厚肉部58は、鉛直径方向線14を挟んだ両側に跨がるようにして周方向に所定長さで広がっていることが望ましい。本実施形態では、薄肉部56と変化領域60,60(後述)の境界、および厚肉部58と変化領域60,60(後述)の境界は、何れも左右方向(装用状態で水平方向)に延び出している。これにより、薄肉部56および厚肉部58は、何れもセグメント形状とされている。なお、図15は、図13に示された薄肉部56と厚肉部58の各断面に加えて、図14に示された変化領域60(後述)の周方向中央部分の断面も併せて重ね合わせることで、薄肉部56から厚肉部58にまで至る周辺部24の厚さ変化を表したものである。また、図16は周辺部24の径方向中央部分において、θ=−90度(装用状態における鉛直方向下方)からθ=90度(装用状態における鉛直方向上方)までの範囲の厚さ変化を表している。
また、周辺部24における左右両側部分には、一対の変化領域60,60が設けられている。かかる変化領域60は、周方向で半周以下の長さで延びており、第一の実施形態と同様に、変化領域60におけるレンズ前面18およびレンズ後面20には、厚肉部58の周方向端部から薄肉部56の周方向端部に向かって次第にレンズ厚さ方向に傾斜するように、それぞれ前面厚さ変化率および後面厚さ変化率が設定されている。
なお、本実施形態において、薄肉部56と厚肉部58は、互いに異なる周方向長さに亘って一定の断面形状で広がっていても良い。ここにおいて、レンズ幾何中心軸12を中心として、周辺部24の径方向中央部分における薄肉部56および厚肉部58の周方向長さに対するそれぞれの中心角をθa ’、θb ’(図12参照)とする。これらの中心角θa ’、θb ’は、好適には、0度≦θa ’≦120度、および20度≦θb ’≦120度の範囲内に設定される。また、第一の実施形態と同様に、薄肉部56の厚さ寸法:Ta’の最大値が好適には0.10mm≦Ta’≦0.20mmの範囲内で設定されると共に、厚肉部58の厚さ寸法:Tb’の最大値が好適には0.20mm≦Tb’≦0.50mmの範囲内で設定される。そして、それら薄肉部56と厚肉部58を、レンズ前後面18,20においてそれぞれ周方向で滑らかに繋ぐようにして、変化領域60,60が、好適には0.30×10-2mm/角度〜1.0×10-2mm/角度の範囲内の傾斜をもって設けられる。
本実施形態のコンタクトレンズ54においても、装用状態下で薄肉部56と厚肉部58との重量バランスに基づいて周方向の位置決め作用が発揮されるのであり、それら薄肉部56と厚肉部58との厚さ寸法差が、変化領域60,60におけるレンズ前後面18,20における傾斜面によって分担されることから、良好な装用感と周方向位置決め性能との両立が達成され得る。
ところで、このように周辺部24において各一つの薄肉部56と厚肉部58を設けたコンタクトレンズにおいても、変化領域60,60における前面厚さ変化率と後面厚さ変化率への分担割合は、適宜に設定可能である。即ち、上述の第三の実施形態では、変化領域60の厚さ変化量(Tb’−Ta’)に対する前面寄与と後面寄与が等しく設定されていたが、例えば図17〜20に示されているように、後面寄与に比して前面寄与を2倍以上に大きく設定する等して、前面寄与と後面寄与を異ならせることも可能である。なお、図17〜20に示された第四の実施形態としてのコンタクトレンズ62では、その正面図について、第三の実施形態と実質的に同一であることから図示を省略する。また、第四の実施形態のコンタクトレンズ62を示す図17〜20は、第三の実施形態における図13〜16に、それぞれ対応するものであることから、各対応する部位に対してそれぞれ同一の符号を付することにより詳細な説明を省略する。
[実施例]
本発明の実施例として、前記第一の実施形態の構造に従うコンタクトレンズを作製して、コンタクトレンズの装用感向上の効果および周方向安定性向上の効果を確認するための試験を行った。かかる実施例のコンタクトレンズは、変化領域34におけるレンズ前面18の周方向厚さ方向変化量(前面寄与)と、変化領域34におけるレンズ後面20の周方向厚さ方向変化量(後面寄与)とを等しくしたものである。
また、比較例として2種類のコンタクトレンズを用意した。かかる比較例のコンタクトレンズは、変化領域34における周方向厚さ方向変化量がレンズ前面18のみに設けられているもの(比較例1)と、変化領域34における周方向厚さ方向変化量がレンズ後面20のみに設けられているもの(比較例2)とした。
実施例、比較例1、比較例2の各コンタクトレンズにおける各寸法は以下の通りである。曲率半径(BC)を8.60mm、レンズ外径(DIA)を14.5mm、中央厚さ(CT)を0.08mm、度数(Power)を−3.00D、加入度(ADD)を+2.50Dとした。また、一対の薄肉部30,30のレンズ幾何中心軸12回りの角度θa をそれぞれ40度、一対の厚肉部32,32のレンズ幾何中心軸12回りの角度θb をそれぞれ40度、各変化領域34のレンズ幾何中心軸12回りの角度θa-b をそれぞれ50度とした。さらに、一対の薄肉部30,30の厚さ寸法:Taの最大値をそれぞれ0.14mm、一対の厚肉部32,32の厚さ寸法:Tbの最大値をそれぞれ0.34mmとした。
以下の表1に、実施例と比較例1および実施例と比較例2における、コンタクトレンズの装用感向上と周方向安定性向上の確認試験結果を示す。本実施例での確認試験は、実施例のコンタクトレンズを、比較例1および比較例2のコンタクトレンズとそれぞれ同一眼で対比して評価することにより実施した。
具体的には、コンタクトレンズの装用感向上の確認試験では、先ず、比較例1のコンタクトレンズで異物感があった10眼を対象として、比較例1のコンタクトレンズと実施例のコンタクトレンズについて、それぞれの装用感の官能評価結果を比較した。また、比較例2のコンタクトレンズで異物感があった13眼も、同様に、比較例2のコンタクトレンズと実施例のコンタクトレンズについて、それぞれの装用感の官能評価結果を比較した。
一方、コンタクトレンズの周方向安定性向上の確認試験では、先ず、比較例1のコンタクトレンズでレンズで不安定さが看取された8眼を対象として、比較例1のコンタクトレンズと実施例のコンタクトレンズについて、それぞれの周方向安定性の測定結果を比較した。また、比較例2のコンタクトレンズで不安定さが看取された9眼も、同様に、比較例2のコンタクトレンズと実施例のコンタクトレンズについて、それぞれの周方向安定性の測定結果を比較した。なお、コンタクトレンズの周方向安定性は、装用状態で瞬目を行った後の周方向位置の変化を実測することによって評価し、5回の瞬目に際して15度以上の回転が一度でも認められた場合には周方向位置が不安定であると判定した。
上記[表1]の試験結果から、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズは、優れた装用感を実現しつつ、装用状態で優れた回転方向安定性を発揮し得ることがわかる。
以上、本発明について詳述してきたが、本発明は、上述の実施形態および実施例の記載によって、限定的に解釈されるものでない。一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものである。
また、本発明に従う構造のコンタクトレンズは、外径寸法(DIA)や中央厚さ(CT)、曲率半径(BC)、光学部22の光学特性、周辺部24の内外径寸法などの各値が適宜に変更設定されることにより、多数のコンタクトレンズ装用者において要求される多様な光学特性や幾何形状等に対応することが出来るようにされるものであり、多くの場合には、各種設定値を適当な間隔で変更設定した複数種類を組み合わせてシリーズとして市場に提供されることとなる。例えば、光学部22の形状は、必ずしも鉛直径方向線14に関して左右対称である必要はなく、バイフォーカルレンズ等において遠用領域に対する近用領域をレンズ装用時における鼻側に偏倚させて設定すること等も可能であり、そのようなコンタクトレンズに対しても、本発明が適用され得る。
さらに、薄肉部30(56)や厚肉部32(58)、移行領域34(60)が設けられる周辺部24の径方向幅寸法は、必ずしも全周に亘って一定とされる必要はなく、周方向で変化する径方向幅寸法をもって形成されていても良い。
また、前記実施形態においては、コンタクトレンズとして真円のものが示されているが、これに限定されず、楕円形であっても良い。更にまた、レンズの外周の一部を弦方向に直線形状とした、トランケーション法によるレンズについても、本発明は実施可能である。
10,52,54,62:コンタクトレンズ、18:レンズ前面、20:レンズ後面、22:光学部、24:周辺部、30,56:薄肉部、32,58:厚肉部、34,60:変化領域
一方、コンタクトレンズの製造方法に関する本発明の特徴とするところは、凸状のレンズ前面と凹状のレンズ後面を有しており、中央部分の光学部の周りに周辺部が設けられている一方、該周辺部には装用状態で周方向位置決め作用を発揮する厚肉部と薄肉部が周方向で互いに離れた位置に設けられていると共に、該周辺部における該厚肉部と該薄肉部との間には厚さ寸法が周方向で変化せしめられた変化領域が設けられているコンタクトレンズを製造するに際して、前記厚肉部から前記薄肉部に向かう前記レンズの前後面の同じ部位において互いにレンズ前後方向で対向する方向の厚さ変化を付すことにより、前記厚肉部から前記薄肉部に向かう前記変化領域においてレンズ前後両面に厚さ変化が分担設定されるように、前記レンズ前面における前記変化領域の周方向傾斜形状と、前記レンズ後面における前記変化領域の周方向傾斜形状とを、それぞれ特定し、それらレンズ前面およびレンズ後面の周方向傾斜形状を併せて考慮して前記厚肉部および前記薄肉部の各厚さ寸法を設定することにより、該周辺部の前後面形状を決定した後、かかる前後面形状を付した周辺部をもってコンタクトレンズを製造するコンタクトレンズの製造方法にある。