JPWO2011064950A1 - 補聴システム、補聴方法、プログラムおよび集積回路 - Google Patents

補聴システム、補聴方法、プログラムおよび集積回路 Download PDF

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Abstract

両耳分離補聴による音声の明瞭度向上と空間性の知覚を両立する補聴システム(1000)を提供する。第1および第2の補聴装置(1100,1200)のそれぞれは、収音部(1110,1210)と、抑圧音響信号が示す音を出力する出力部(1120,1220)とを備え、補聴システム(1000)は、収音部(1110)から出力される音響信号のうち、第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、出力部(1120)から出力される音を示す抑圧音響信号を生成する第1の帯域抑圧部(1300)と、収音部(1210)から出力される音響信号のうち、第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、出力部(1220)から出力される音を示す抑圧音響信号を生成する第2の帯域抑圧部(1400)とを備え、出力部(1120,1220)から出力される音を示す抑圧音響信号はそれぞれ、音響信号に含まれる共通の非音声帯域の信号を含む。

Description

本発明は、2つの補聴装置を備えて補聴する補聴システムに関する。
はじめに、音声の音響的特徴について説明する。
図1Aは、音声の周波数スペクトルを示す図である。なお、図1Aに示す横軸は周波数を示し、縦軸は振幅を示している。図1Aにおける実線501は、周波数スペクトルで表現された音声の一例である。音声の周波数スペクトルは周波数軸上においていくつかのピークを持つ。最も低い周波数のピークは、ピッチと呼ばれる音声の基本周波数であり、声の高さによって異なるが、一般的に125Hzから300Hzに位置する。また、音声は、声帯の振動によって生成された音波が、咽頭から唇までの経路である声道において共鳴(共振)することにより生成される。その共振周波数はホルマントと呼ばれ、周波数の1番低いものから順に第1ホルマント、第2ホルマントというように呼ばれている。つまり図1Aにおいて最も低い周波数のピークがピッチ(ピッチ周波数)を示し、2番目のピークが第1ホルマント(第1ホルマント周波数)を示し、3番目のピークが第2ホルマント(第2ホルマント周波数)を示している。発話者の性別や発話する語音によって異なるが、一般に第1ホルマント周波数は200Hzから1200Hzの範囲に存在し、第2ホルマント周波数は800Hzから3000Hzの範囲に存在している。
人は、母音の識別を主に第1ホルマント周波数と第2ホルマント周波数の組み合わせから行っていると言われている。一方、子音の識別は、主に音声の先頭部分における第1ホルマント周波数と第2ホルマント周波数の時間軸上での変化パターンから行われるが、一部の子音の識別は、第2ホルマント周波数より高い周波数におけるスペクトル形状のパターンから行われると言われている。
また、聴覚心理において、特定の音が他の音を妨害して聞き取りにくくなる聴覚マスキングという現象がある。聴覚マスキングとして、特定の周波数成分の大きな音が近傍の周波数成分の音をマスクして聞き取りづらくなる周波数マスキングと、先行する音が後続する音をマスクして後続音が聞き取りづらくなる時間マスキングがある。
周波数マスキングについて、図1Aを用いて説明する。図1Aにおける破線502は、音声の第1ホルマント成分によるマスキング曲線を示している。この破線502より振幅の小さな音は存在していても、受聴者はその音を聞き取ることができない。マスキング曲線は個人差があり、そのマスキング曲線によって影響を受ける周波数の幅は様々である。図1Aの例では、第1ホルマント成分によって、第2ホルマント成分がマスクされている。一般的な音声ではピッチ成分と第1ホルマント成分のパワが大きく、他の成分のパワは相対的に小さい傾向がある。そのため、図1Aの例のように、第1ホルマント成分によって周辺の周波数帯域の音声がマスクされてしまった場合には、母音を聞き間違える可能性がある。
また、時間マスキングについて、図1Bを用いて説明する。
図1Bは、音声の時間波形を示す図である。なお、図1Bに示す横軸は時間を示し、縦軸は振幅を示している。実線は「ウサ(usa)」と発声した音声の時間波形を示しており、図1Bの左から母音「u」、子音「s」、母音「a」の部分(音声の一部)が時間的に順に並んでいる。図1Bの例では、図中の破線は、先行母音「u」による時間マスキングの時間領域を示しており、先行母音「u」によって後続子音「s」がマスクされる。時間マスキングには個人差があり、その時間マスキングによって影響を受ける時間領域の幅は様々である。一般的な音声では、母音のパワが大きく、子音のパワは相対的に小さい傾向がある。そのため、図1Bの例のように先行母音によって後続子音がマスクされてしまった場合には子音を聞き間違える、もしくは子音が聞こえないという現象が発生する可能性がある。
ところで、高齢社会の到来に伴って、音声が聞き取りにくいと感じる難聴者が増加している。難聴者の難聴の症状として、聴力の低下、周波数分解能(周波数選択性)の低下、時間分解能の低下が知られている。聴力が低下すると、健常な聴覚を持つ人に比べて特に小さい音が聞こえにくくなる。周波数分解能が低下すると、健常な聴覚を持つ人に比べて周波数マスキングの影響を受ける周波数帯域が広がり、母音を誤認識しやすくなる。また、時間分解能が劣化すると、健常な聴覚を持つ人に比べて時間マスキングの影響を受ける時間が長くなり、後続子音がより聞き取りにくくなる。
従来、聴力の低下に対しては、単に音量を増幅するような補聴処理をしてきた。周波数分解能の低下、及び時間分解能の低下に対しては、聴覚マスキングの影響を低減させるために、音響信号(音声を含む音響を示す信号)を周波数軸上で分割し、分割された音響信号を左右それぞれの耳に異なる信号特性で提示して、脳内で一つの音として知覚させる両耳分離補聴という補聴処理が提案されている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。この両耳分離補聴により、音声の明瞭度が高くなることが報告されている。
両耳分離補聴により音声の明瞭度が向上するのは、マスクする周波数帯域の音響信号(又は時間領域の音響信号)と、マスクされる周波数帯域の音響信号(又は時間領域の音響信号)とをそれぞれ別の耳に提示することで、マスクされていた音声を知覚しやすくなるためだと考えられる。
図2Aおよび図2Bは、両耳分離補聴された音声の周波数スペクトルを示す図である。なお、図2Aおよび図2Bに示す横軸および縦軸はそれぞれ、図1Aと同様、周波数および振幅を示している。
両耳分離補聴によって一方の耳に聞こえる音声は、図2Aに示すように、低い周波数帯域の音声だけとなる。また、両耳分離補聴によって他方の耳に聞こえる音声は、図2Bに示すように、高い周波数帯域の音声だけとなる。その結果、第2ホルマントの周波数帯域の音声が、第1ホルマントの周波数帯域の音声によってマスキング(周波数マスキング)されることを防ぐことができる。
図3Aおよび図3Bは、両耳分離補聴された音声の時間波形を示す図である。なお、図3Aおよび図3Bに示す横軸および縦軸はそれぞれ、図1Bと同様、時間および振幅を示している。
両耳分離補聴によって一方の耳に聞こえる音声は、図3Aに示すように、低い周波数帯域の音声、つまり母音「u」および「a」だけとなる。また、両耳分離補聴によって他方の耳に聞こえる音声は、図3Bに示すように、高い周波数帯域の音声、つまり子音「s」だけとなる。その結果、子音「s」が母音「u」によってマスキング(時間マスキング)されることを防ぐことができる。
しかしながら、上記従来の両耳分離補聴では音の空間的な知覚を妨げるという問題がある。つまり、上記従来の両耳分離補聴では、一つの音声を両耳で分担して受聴することによってその音声の明瞭度を高めることができるが、その反面、左右の耳で受聴することによるステレオ感を提供することはできない。そのため、両耳分離補聴の利用者は、全ての音が正面方向から聞こえるように感じるなど、音を空間的に知覚できないという問題が生じる。このように音の空間性が知覚できないという問題は、利用者が、その不自然さゆえに疲労したり、自転車など報知音の接近方向を誤って知覚したりすることにつながる可能性もある。
上述の問題について、図4、図5A〜図5Cおよび図6を用いてより詳細に説明する。
図4は、受聴者に対する音の配置を示す図である。
例えば、図4に示すように、上記従来の両耳分離補聴を利用した補聴システムを装着した受聴者601の周囲には、音源602〜605が存在する。具体的には、受聴者601の正面前方に聞きたい音声の音源602が存在し、左側に周囲騒音Lの音源603が存在し、右側に周囲騒音Rの音源604が存在し、さらに報知音の音源605が受聴者601に近接している。
図5A〜図5Cは、音源602〜605のそれぞれの音の周波数スペクトルを示す図である。
具体的には、図5Aは、音源602の聞きたい音声「ア」の周波数スペクトルを示す図である。ピッチは一般に125Hzから300Hzの周波数帯域に存在しているが、図5Aに示す例では200Hz付近に音声のピッチが存在している。また、700Hz付近に第1ホルマント、1600Hz付近に第2ホルマントがあり、総じて200Hzから1600Hzの範囲内に音声の主要な成分が含まれている。図5Bは、音源603および音源604の周囲騒音Lおよび周囲騒音Rの周波数スペクトルを示す図である。周囲騒音Lおよび周囲騒音Rの周波数スペクトルは、一般的な交通騒音の長時間平均スペクトルと同じものであり、低域から高域に向かって徐々にレベルが小さくなる傾向がある。図5Cは、音源605の報知音である自転車のベル音の周波数スペクトルを示す図である。2500Hzを基本周波数として高域になるほど倍音成分のレベルが上昇し、高い周波数の成分が支配的である。
図6は、上記従来の両耳分離補聴によって生じる問題を説明するための図である。
図4に示す周囲環境の場合、両耳分離補聴において音を高域及び低域に分割する際の境界となる分割周波数は、音源602の聞きたい音声の第1ホルマントより高く、第2ホルマントより低い周波数、例えば1250Hzであることが望ましい。
しかしながら、このように両耳分離補聴を行うと、図6に示すように、聞きたい音声の音源602と、周囲騒音Lおよび周囲騒音Rの音源603,604とは、全て受聴者601の正面前方もしくは頭内に位置するように知覚されてしまう。その結果、従来の両耳分離補聴を利用する補聴システムのユーザは、全ての音が同じ方向から聞こえてくるように感じる。また、音源605の報知音に関しては、高域の音が提示される方向からのみ、その報知音が聞こえるため、元々の音源の方向を間違える可能性がある。よって、ユーザの周囲音の空間性を維持しながら、音声の明瞭度を向上させる工夫が必要となる。
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、両耳分離補聴による音声の明瞭度向上と空間性の知覚を両立するための補聴システムおよび補聴方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る補聴システムは、第1および第2の補聴装置を備える補聴システムであって、前記第1および第2の補聴装置のそれぞれは、収音し、収音された音を示す音響信号を出力する収音部と、前記音響信号の一部の周波数帯域の信号が抑圧されて生成された抑圧音響信号が示す音を出力する出力部とを備え、前記音響信号が示す音の周波数帯域は、音声成分を含む周波数帯域である音声帯域と、前記音声帯域以外の非音声帯域とからなり、前記音声帯域は、互いに異なる周波数帯域である第1および第2の抑圧対象帯域を含み、前記補聴システムは、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第1の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第1の帯域抑圧部と、前記第2の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第2の帯域抑圧部とを備え、前記第1および第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号はそれぞれ、前記音響信号に含まれる共通の前記非音声帯域の信号を含む。
これにより、第1の補聴装置では、音響信号のうち、音声帯域に含まれる第1の抑圧対象帯域の信号が抑圧されるため、音声帯域に含まれる第2の抑圧対象帯域の音と非音声帯域の音とが出力される。一方、第2の補聴装置では、音響信号のうち、音声帯域に含まれる第2の抑圧対象帯域の信号が抑圧されるため、音声帯域に含まれる第1の抑圧対象帯域の音と非音声帯域の音とが出力される。したがって、音声成分が多く含まれる音声帯域では、第1および第2の補聴装置から互いに異なる周波数帯域の音が出力されるため、つまり、両耳分離補聴が行われるため、音声の明瞭度を向上することができる。また、音声帯域以外の非音声帯域では、第1および第2の補聴装置から共通の周波数帯域の音が出力されるため、例えば騒音などの音を利用者に対してステレオ受聴させることができる。これにより、両耳分離補聴による音声の明瞭度向上と空間性の知覚を両立することができる。
また、前記第1の帯域抑圧部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とに分割する第1の分割部と、前記第1の分割部による分割によって生成された前記音声帯域の信号のうち、前記第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧する第1の抑圧部と、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とを混合することにより、前記第1の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第1の混合部とを備え、前記第2の帯域抑圧部は、前記第2の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とに分割する第2の分割部と、前記第2の分割部による分割によって生成された前記音声帯域の信号のうち、前記第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧する第2の抑圧部と、前記第2の抑圧部によって抑圧された前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とを混合することにより、前記第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第2の混合部とを備える。
これにより、音響信号が音声帯域の信号と非音声帯域の信号とに分割されるため、音声帯域の信号に対する処理を、非音声帯域の信号から独立して行うことができ、補聴を容易に且つ適切に行うことができる。
また、前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域よりも低い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である低非音声帯域の信号と、前記音声帯域の信号と、前記音声帯域よりも高い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である高非音声帯域の信号とに分割し、前記第1の混合部は、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記音声帯域の信号と、前記低非音声帯域の信号と、前記高非音声帯域の信号とを混合する。
これにより、非音声帯域の信号が、音声帯域よりも低域の低非音声帯域と、音声帯域よりも高域の高非音声帯域とに分割されるため、音声帯域よりも低域および高域にある騒音や報知音などを利用者に対してステレオ受聴させることができる。
また、前記低非音声帯域における上限の周波数は、200Hz以上2500Hz未満であり、前記高非音声帯域における下限の周波数は、2500Hz以上であり、前記第1および第2の抑圧対象帯域の境界にある境界周波数は、前記上限の周波数と前記下限の周波数の間にある。
これにより、音声帯域と非音声帯域とを適切に区別することができ、音声成分の多い音を適切に両耳分離補聴し、音声成分が少ない低周波数帯域および高周波数帯域の音を利用者に適切にステレオ受聴させることができる。
また、前記境界周波数は、前記収音部から出力される音響信号によって示される音声の第1ホルマントの周波数よりも高く、前記音声の第2ホルマントの周波数よりも低く、前記上限の周波数は、前記第1ホルマントの周波数よりも低く、前記下限の周波数は、前記第2ホルマントの周波数よりも高い。
これにより、音声帯域に含まれる第1および第2の抑圧対象帯域のうちの一方に第1ホルマントの周波数があり、他方に第2ホルマントの周波数があるため、第1ホルマントの音と第2のホルマントの音とを別々に左右の異なる耳に提示することができ、周波数分解能および時間分解能などが劣化した利用者に対して、聴覚マスキングの影響を抑え、音声の明瞭度を向上することができる。また、音声の明瞭度への影響が少ない周波数帯域をステレオ受聴させることができる。
また、前記第1の補聴装置は、さらに、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号に基づいて前記第1ホルマントおよび第2ホルマントのそれぞれの周波数を算出するホルマント算出部と、前記ホルマント算出部によって算出された前記第1ホルマントおよび第2ホルマントのそれぞれの周波数に基づいて、前記上限の周波数、下限の周波数および境界周波数をそれぞれ前記第1の分割部および前記第1の抑圧部に設定する抑圧制御部とを備える。
これにより、音響信号に基づいて第1ホルマントおよび第2ホルマントの周波数が算出され、それらの周波数に応じて、低非音声帯域と、第1および第2の抑圧対象帯域と、高非音声帯域とが設定されるため、実際に収音される音声に応じて上述の各周波数帯域を動的に適切な帯域に設定することができ、どのような音声に対しても明瞭度を向上することができる。
また、前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記音声帯域の信号のみを通過させることによって、前記音響信号から前記音声帯域の信号を分離する帯域通過フィルタと、前記音響信号から前記音声帯域の信号を減算することによって、前記音響信号から前記非音声帯域の信号を分離する減算部とを備える。
これにより、非音声帯域の信号は、音響信号から音声帯域の信号を減算することによって分離されるため、音声帯域だけを第1の分割部に設定すれば、非音声帯域を第1の分割部に設定する必要が無く、周波数帯域の設定の手間を省くことができる。
また、前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域よりも低い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である低非音声帯域の信号と、前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記音声帯域よりも高い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である高非音声帯域の信号とに分割し、前記第1の混合部は、前記低非音声帯域の信号と、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記高非音声帯域の信号とを混合する。
これにより、音響信号が、低非音声帯域の信号と、第1の抑圧対象帯域の信号と、第2の抑圧対象帯域の信号と、高非音声帯域の信号とに分割されるため、それらの周波数帯域ごとに信号処理を行うことができ、信号処理の利便性を図ることができる。
また、前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記音声帯域よりも高い周波数帯域である前記非音声帯域の信号とに分割し、前記第1の混合部は、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記非音声帯域の信号とを混合する。
これにより、音声帯域よりも高い周波数帯域の音を利用者にステレオ受聴させることができ、報知音などの音源の空間的な所在を利用者に適切に知覚させることができる。
また、前記補聴システムは、さらに、視聴モードを第1の視聴モードと第2の視聴モードに切り替えるための操作を受け付ける操作受付部を備え、前記第1の視聴モードに切り替えるための操作が前記操作受付部に受け付けられた場合には、前記第1および第2の帯域抑圧部は、前記第1および第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成し、前記第2の視聴モードに切り替えるための操作が前記操作受付部に受け付けられた場合には、前記第1および第2の帯域抑圧部は、前記音響信号を抑圧せず、前記第1および第2の補聴装置の出力部は、前記第1および第2の帯域抑圧部によって抑圧されていない前記音響信号が示す音を出力する。
これにより、利用者は、音声を聞くときには、第1の視聴モード(両耳分離補聴モード)に切り替えるための操作を行うことによって、両耳分離補聴による音声の明瞭度向上と空間性の知覚を両立することができ、音声を聞かないときには、第2の補聴モード(通常補聴モード)に切り替えるための操作を行うことによって、全ての周波数帯域においてステレオ受聴することができる。その結果、利用者に対する利便性を向上することができる。
また、前記操作受付部は、前記操作を受け付けた場合には、前記操作の内容を示すモード切替コマンドを前記第1および第2の補聴装置に送信し、前記第1の補聴装置は、前記第1の帯域抑圧部と、前記モード切替コマンドを受信する第1のコマンド送受信部と、前記第1のコマンド送受信部に受信された前記モード切替コマンドに応じて前記第1の帯域抑圧部を制御する第1の抑圧制御部とを備え、前記第2の補聴装置は、前記第2の帯域抑圧部と、前記モード切替コマンドを受信する第2のコマンド送受信部と、前記第2のコマンド送受信部に受信された前記モード切替コマンドに応じて前記第2の帯域抑圧部を制御する第2の抑圧制御部とを備える。
これにより、操作受付部と第1および第2の補聴装置とが通信を行なうことによって補聴モードが第1の補聴モードと第2の補聴モードとに切り替えられるため、利用者は操作受付部をリモコンとして利用し、第1および第2の補聴装置の補聴モードを遠隔操作で切り替えることができる。
また、前記操作受付部は、前記操作を受け付けた場合には、モード切替確認コマンドを第1および第2の補聴装置に送信し、前記モード切替確認コマンドに対する応答である確認通知信号を第1および第2の補聴装置から受信した場合にのみ、前記モード切替コマンドを送信し、前記第1および第2のコマンド送受信部は、前記モード切替確認コマンドを受信した場合には、前記確認通知信号を送信する。
これにより、操作受付部が第1および第2の補聴装置と無線通信を行なう場合には、モード切替確認コマンドおよび確認通知信号の送受信によって、操作受付部はコマンドが第1および第2の補聴装置に正常に受信されるかを確認し、その後、モード切替コマンドを送信することができる。その結果、補聴モードの切り替えによって、第1および第2の補聴装置の一方だけに対して補聴モードが切り替えられ、第1および第2の補聴装置の補聴モードが互いに異なってしまうことを防止することができる。
なお、本発明は、このような補聴システムとして実現することができるだけでなく、その補聴システムにおける補聴方法、その補聴システムによる補聴処理をコンピュータに実行させるプログラム、そのプログラムを格納する記録媒体、その補聴処理を実行する集積回路としても実現することができる。
本発明の補聴システムおよび補聴方法は、利用者に環境音(周囲音)を空間的に知覚させながら、音声の明瞭度を向上させることができる。
図1Aは、音声の周波数スペクトルを示す図である。 図1Bは、音声の時間波形を示す図である。 図2Aは、両耳分離補聴された一方の音声の周波数スペクトルを示す図である。 図2Bは、両耳分離補聴された他方の音声の周波数スペクトルを示す図である。 図3Aは、両耳分離補聴された一方の音声の時間波形を示す図である。 図3Bは、両耳分離補聴された他方の音声の時間波形を示す図である。 図4は、受聴者に対する音の配置を示す図である。 図5Aは、音声の周波数スペクトルを示す図である。 図5Bは、周囲騒音Lおよび周囲騒音Rの周波数スペクトルを示す図である。 図5Cは、報知音の周波数スペクトルを示す図である。 図6は、従来の両耳分離補聴によって生じる問題を説明するための図である。 図7は、本発明の実施の形態における補聴システムの概略構成を示すブロック図である。 図8は、本発明の実施の形態1における補聴システムの外観図である。 図9は、本発明の実施の形態1における補聴システムの機能ブロック図である。 図10は、本発明の実施の形態1における分割部の構成および接続関係を示す図である。 図11は、本発明の実施の形態1における分割部における各フィルタの利得の周波数特性を示す図である。 図12Aは、本発明の実施の形態1におけるHPFとして構成された抑圧部の利得の周波数特性を示す図である。 図12Bは、本発明の実施の形態1におけるLPFとして構成された抑圧部の利得の周波数特性を示す図である。 図13は、本発明の実施の形態1における聴覚補償部の利得の周波数特性を示す図である。 図14は、本発明の実施の形態1における補聴システムの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。 図15は、本発明の実施の形態1における補聴システムの第1の補聴装置による両耳分離補聴を示すフローチャートである。 図16は、本発明の実施の形態1における第1および第2の補聴装置がリモコンからモード切替確認コマンドを受信して補聴モードを切り替える動作を示すフローチャートである。 図17は、本発明の実施の形態1における変形例1に係る補聴システムの機能ブロック図である。 図18は、本発明の実施の形態1における変形例2に係る補聴システムの分割部の構成および接続関係を示す図である。 図19は、本発明の実施の形態1における変形例3に係る補聴システムの機能ブロック図である。 図20は、本発明の実施の形態2における補聴システムの機能ブロック図である。 図21は、本発明の実施の形態2における第1〜第4の帯域分割部の利得の周波数特性を示す図である。 図22は、本発明の実施の形態2における補聴システムの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。 図23は、本発明の実施の形態2における補聴システムの第1の補聴装置700による両耳分離補聴を示すフローチャートである。 図24は、本発明の実施の形態2における変形例に係る補聴システムの機能ブロック図である。 図25は、本発明の実施の形態2における変形例に係る第2〜第4の帯域分割部の利得の周波数特性を示す図である。 図26は、本発明の実施の形態2における変形例に係る補聴システムの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。
以下、本発明の実施の形態における補聴システムについて、図面を参照しながら説明する。
図7は、本発明の実施の形態における補聴システムの概略構成を示すブロック図である。
補聴システム1000は、第1および第2の補聴装置1100,1200を備える補聴システムである。第1および第2の補聴装置1100,1200のそれぞれは、収音し、収音された音を示す音響信号を出力する収音部1110,1210と、その音響信号の一部の周波数帯域の信号が抑圧されて生成された抑圧音響信号が示す音を出力する出力部1120,1220とを備える。ここで、音響信号が示す音の周波数帯域は、音声成分を含む周波数帯域である音声帯域と、その音声帯域以外の非音声帯域とからなる。また、音声帯域は、互いに異なる周波数帯域である第1および第2の抑圧対象帯域を含む。
補聴システム1000は、第1および第2の帯域抑圧部1300,1400を備える。第1の帯域抑圧部1300は、第1の補聴装置1100の収音部1110から出力される音響信号のうち、第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、第1の補聴装置1100の出力部1120から出力される音を示す抑圧音響信号を生成する。第2の帯域抑圧部1400は、第2の補聴装置1200の収音部1210から出力される音響信号のうち、第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、第2の補聴装置1200の出力部1220から出力される音を示す抑圧音響信号を生成する。ここで、第1および第2の補聴装置1100,1200の出力部1120,1220から出力される音を示す抑圧音響信号はそれぞれ、音響信号に含まれる共通の非音声帯域の信号を含む。なお、第1の抑圧対象帯域には、音声の第1ホルマントが含まれ、第2の抑圧対象帯域には、音声の第2ホルマントが含まれることが望ましい。
これにより、第1の補聴装置1100では、音響信号のうち、音声帯域に含まれる第1の抑圧対象帯域の信号が抑圧されるため、音声帯域に含まれる第2の抑圧対象帯域の音と非音声帯域の音とが出力される。一方、第2の補聴装置1200では、音響信号のうち、音声帯域に含まれる第2の抑圧対象帯域の信号が抑圧されるため、音声帯域に含まれる第1の抑圧対象帯域の音と非音声帯域の音とが出力される。したがって、音声成分が多く含まれる音声帯域では、第1および第2の補聴装置1100,1200から互いに異なる周波数帯域の音が出力されるため、つまり、両耳分離補聴が行われるため、音声の明瞭度を向上することができる。また、音声帯域以外の非音声帯域では、第1および第2の補聴装置1100,1200から共通の周波数帯域の音が出力されるため、例えば騒音などの音を利用者に対してステレオ受聴させることができる。これにより、両耳分離補聴による音声の明瞭度向上と空間性の知覚を両立することができる。
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
図8は、本発明の実施の形態1における補聴システムの外観図である。
本実施の形態における補聴システム1000aは、左右の耳のそれぞれに装用される第1および第2の補聴装置100,110と、リモコン120とを備える。なお、補聴システム1000aは、図7に示す補聴システム1000に相当し、第1および第2の補聴装置100,110はそれぞれ、図7に示す第1および第2の補聴装置1100,1200に相当する。
第1の補聴装置100は、例えば左耳に装用され、聴力低下を補償するための増幅を行う本体と、その本体に搭載された収音部101、出力部106およびスイッチ109とを備えている。第2の補聴装置110は、第1の補聴装置100と同一の構成を有し、例えば右耳に装用される。具体的には、第2の補聴装置110は、聴力低下を補償するための増幅を行う本体と、その本体に搭載された収音部111、出力部116およびスイッチ119とを備えている。
収音部101,111は、図7の収音部1110,1210に相当し、例えばマイクロホンなどからなる。出力部106,116は、図7の出力部1120,1220に相当し、例えばイヤホン(レシーバ)からなる。
スイッチ109,119は、補聴モードの切り替えを行う。補聴モードには、少なくとも、本発明の実施の形態における両耳分離補聴モードと、通常補聴モードとがある。通常補聴モードに切り替えられると、補聴システム1000aは、両耳分離補聴を行わず、この補聴システム1000aの利用者(受聴者)に対して周囲の音をステレオ受聴させる。つまり、左耳に装用された第1の補聴装置100は、そこに搭載された収音部101によって収音された音を補聴処理(増幅)して出力部106から左耳に提示する。さらに、右耳に装用された補聴装置110は、そこに搭載された収音部111によって収音された音を補聴処理(増幅)して出力部116から右耳に提示する。これにより、利用者は周囲の音をステレオ受聴する。ステレオ受聴する場合、利用者はどの方向から音が聞こえてくるかを知覚できる。一方、両耳分離補聴モードに切り替えられると、補聴システム1000aは、後述する本発明に係る両耳分離補聴を行う。
リモコン120は、操作ボタンを備え、利用者からの操作を受け付け、その操作に応じて第1の補聴装置100および第2の補聴装置110の補聴処理を制御する。本実施の形態では、リモコン120は第1および第2の補聴装置100,110と無線通信を行なうことによってそれらの装置を制御する。例えば、リモコン120は、第1および第2の補聴装置100,110の増幅率を調整したり、上述の補聴モードの切り替えを行う。会話などで相手の声を特に明瞭に聴きたい場合には、利用者がこの切り替えを行い、第1および第2の補聴装置100,110を両耳分離補聴モードとして動作させることで、より明瞭な音声を聴くことができる。
なお、補聴モードの切り替えは、スイッチ109,119およびリモコン120の何れによっても可能である。つまり、本実施の形態では、スイッチ109,119およびリモコン120の少なくとも1つから操作受付部が構成されている。また、本発明の補聴システムでは、リモコン120は必須の構成ではなく、第1および第2の補聴装置100,110のみを備えていてもよい。
次に、実施の形態1の補聴システム1000aの詳細な構成について説明する。
図9は、本発明の実施の形態1における補聴システム1000aの機能ブロック図である。
第1の補聴装置100は、収音部101、分割部102、抑圧部103、混合部104、聴覚補償部105、出力部106、コマンド送受信部107、および抑圧制御部108を備える。収音部101は、収音し、その収音によって生成される音響信号を出力する。
分割部102は、音響信号を3つの周波数帯域の信号に分割する。3つの周波数帯域は、主成分として音声成分を多く含む周波数帯域である音声帯域と、その音声帯域以外の2つの非音声帯域である。2つの非音声帯域は、音声帯域よりも低域にある低非音声帯域と、音声帯域よりも高域にある高非音声帯域である。具体的には、分割部102は、音響信号を分割することによって、その音響信号から音声帯域の信号を抽出する。そして、分割部102は、その音声帯域の信号を抑圧部103に出力し、残りの低非音声帯域および高非音声帯域の信号を混合部104に出力する。
抑圧部103は、抑圧制御部108からモード切替信号を取得する。抑圧部103は、そのモード切替信号が両耳分離補聴モードへの切り替えを示している場合には、音声帯域の信号のうちの一部の帯域(第1の抑圧対象帯域)の信号のみを抑圧し、抑圧された音声帯域の信号を混合部104に出力する。一方、抑圧部103は、そのモード切替信号が通常補聴モードへの切り替えを示している場合には、音声帯域の信号を抑圧することなく、その音声帯域の信号を混合部104に出力する。
混合部104は、分割部102から2つの非音声帯域の信号を取得し、抑圧部103から音声帯域の信号を取得し、それらの3つの信号を混合する。ここで、音声帯域の信号が抑圧部103によって抑圧されていれば、混合部104はその混合によって抑圧音響信号を生成して出力する。また、音声帯域の信号が抑圧部103によって抑圧されていなければ、混合部104は、分割部102によって分割された音響信号を、混合によって元に戻すような処理を行い、その音響信号を出力する。
聴覚補償部105は、コマンド送受信部107からのコマンドに応じて、混合部104から出力される音響信号または抑圧音響信号に対する聴覚補償を行う。例えば、聴覚補償部105は、音響信号または抑圧音響信号の増幅率の調整(非線形増幅処理)を聴覚補償として行う。
出力部106は、聴覚補償部105によって聴覚補償された音響信号または抑圧音響信号によって示される音を出力する。
コマンド送受信部107は、リモコン120と双方向通信を行なうことによって、リモコン120からのコマンドを受信し、そのコマンドを抑圧制御部108または聴覚補償部105に出力する。例えば、コマンド送受信部107は、受信したコマンドが補聴モードの切り替えに関するコマンドであれば、そのコマンドを抑圧制御部108に出力し、受信したコマンドが聴覚補償に関するコマンドであれば、そのコマンドを聴覚補償部105に出力する。
抑圧制御部108は、コマンド送受信部107から補聴モードの切り替えに関するコマンドを取得し、そのコマンドに応じたモード切替信号を抑圧部103に出力する。
第2の補聴装置110は、第1の補聴装置100と同様の構成を有し、収音部111、分割部112、抑圧部113、混合部114、聴覚補償部115、出力部116、コマンド送受信部117および抑圧制御部118を備える。つまり、これらの各構成要素はそれぞれ、第1の補聴装置100の収音部101、分割部102、抑圧部103、混合部104、聴覚補償部105、出力部106、コマンド送受信部107、および抑圧制御部108と同様に構成されている。
ただし、第1および第2の補聴装置100,110の抑圧部103,113は、それぞれ音声帯域の信号のうちの一部の帯域の信号を抑圧する場合には、それぞれ異なる帯域の信号を抑圧する。つまり、抑圧部103,113は、モード切替信号が両耳分離補聴モードを示している場合には、両耳分離補聴(ダイコテック補聴)の処理を行う。例えば、抑圧部103は、音声帯域にある周波数fDよりも低い周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)の信号を抑圧し、抑圧部113は、音声帯域にある周波数fDよりも高い周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)の信号を抑圧する。
ここで、本実施の形態の両耳分離補聴は、音響信号のうちの音声帯域の信号を二つの周波数帯域に分割して左右それぞれの耳に提示する方法として説明を行う。つまり本実施の形態の両耳分離補聴では、例えば、音声帯域の信号のうち、第1ホルマント周波数又は時間マスキングによって聞こえにくくなっていた高周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)の信号を、左耳の第1の補聴装置100から出力し、第1ホルマント周波数を含む低周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)の信号を右耳の第2の補聴装置110から出力する。もちろん、高周波数帯域の信号と低周波数帯域の信号を、左右どちらの耳に提示するかはこれに限ったものではなく、右耳に高周波数帯域の信号を提示し、左耳に低周波数帯域の信号を提示してもよい。
また、本実施の形態では、第1の補聴装置100の分割部102、抑圧部103および混合部104を含む構成要素群が、図7に示す第1の帯域抑圧部1300に相当する。同様に、第2の補聴装置110の分割部112、抑圧部113および混合部114を含む構成要素群が、図7に示す第2の帯域抑圧部1400に相当する。
以下、上述の補聴システム1000aに備えられている各構成要素の処理について詳細に説明する。まず、分割部102の詳細な構成と、分割部102、抑圧部103及び混合部104の間の接続関係とを説明する。
図10は、分割部102の構成および接続関係を示す図である。
本実施の形態では、分割部102は、低域通過フィルタ(LPF)201、帯域通過フィルタ(BPF)202および高域通過フィルタ(HPF)203を備える。収音部101から出力された音響信号は、低域通過フィルタ(LPF)201、帯域通過フィルタ(BPF)202および高域通過フィルタ(HPF)203に入力されて濾波される。BPF202から出力される信号は、音声帯域の信号として抑圧部103に入力される。LPF201とHPF203から出力される信号は、それぞれ非音声帯域の信号として混合部104に入力され、抑圧部103から出力される信号と混合され、聴覚補償部105へ入力される。なお、分割部112も図10に示す分割部102と同様の構成を有し、分割部112と、抑圧部113及び混合部114との間の接続関係も、図10に示す接続関係と同様である。
このように、分割部102および分割部112は、LPF201、BPF202およびHPF203によって音響信号を3つの周波数帯域の信号に分割している。
次に、分割部102における音響信号の分割について図11を用いて詳細に説明する。なお、分割部112においても同様である。
図11は、分割部102における各フィルタの利得の周波数特性を示す図である。図11において実線301はLPF201の利得の例を示し、実線302はBPF202の利得の例を示し、実線303はHPF203の利得の例を示す。それぞれのフィルタの利得は、抑圧制御部108からの制御信号に基づいて、音響信号を不足なく分割するように設定される。以下、例えば、人の音声と、車などが発する低い周波数帯域の騒音と、ベル音などの高い周波数帯域の音とが混じった環境で、両耳分離補聴を行い、音声の明瞭度を向上させる場合について説明する。
まず、抑圧制御部108は、LPF201とBPF202による分割周波数fLを音声の第1ホルマント周波数f1より低い周波数に設定する。一般に第1ホルマント周波数f1は200Hzから1200Hzの範囲に存在しているため、抑圧制御部108は、分割部102に制御信号を送ることによって、分割周波数fLを例えば200Hzに設定する。同様に、BPF202とHPF203による分割周波数fHを、音声の第2ホルマント周波数f2より高い周波数に設定する。一般に第2ホルマント周波数f2は800Hzから3000Hzの範囲に存在しており、また、第2ホルマント周波数f2より高い周波数帯域のスペクトル形状で識別される子音も存在する。したがって、抑圧制御部108は、分割部102に制御信号を送ることによって、分割周波数fHを第2ホルマント周波数の上限値から離れた周波数、例えば4kHzに設定する。このように分割周波数fL,fHが設定されると、BPF202から出力される信号には、音声を識別するために必要な第1ホルマントと第2ホルマントが含まれる。一方、LPF201から出力される信号には、交通騒音など低い周波数の非音声成分が主に含まれ、HPF203から出力される信号には、自転車のベル音などの報知音の成分や、音声のうち第1ホルマントによるマスキングの影響が比較的小さな低域成分が含まれる。分割部102は、BPF202から出力される信号を抑圧部103へ出力し、LPF201およびHPF203から出力される信号を混合部104へ出力する。
抑圧部103は、周波数マスキング及び時間マスキングの影響によって聞こえにくくなる音声の高域成分を第1の補聴装置100から出力させるため、HPFで構成され、BPF202から出力される信号の低域周波数成分を抑圧する。
図12Aは、HPFとして構成された抑圧部103の利得の周波数特性を示す図である。抑圧部103のカットオフ周波数fDは、周波数マスキングおよび時間マスキングの影響を受けにくくするため、第1ホルマント周波数f1より高い周波数であり、かつ第2ホルマント周波数f2より低い周波数である、例えば1250Hzに設定される。
カットオフ周波数fDは、補聴システム1000aの利用者の聴覚特性に応じて予め設定されたものであってもよいし、抑圧制御部108からの制御信号に基づいて設定されるものであってもよい。
以上をまとめると、第1の補聴装置100における音声のホルマント周波数f1,f2と、分割部102の分割周波数fL,fHと、抑圧部103におけるカットオフ周波数fDは(式1)の関係にある。
fL<f1<fD<f2<fH ・・・(式1)
一方、第2の補聴装置110では、分割部112の帯域通過フィルタ(BPF)から出力される信号の高域周波数成分を抑圧するように、抑圧部113はLPFで構成される。
図12Bは、LPFとして構成された抑圧部113の利得の周波数特性を示す図である。抑圧部113のカットオフ周波数fDは、第1の補聴装置100の抑圧部103のカットオフ周波数fDと同様に、(式2)を満たすように設定される。
fL<f1<fD<f2<fH ・・・(式2)
なお、もちろん、本発明は、左側(第1の補聴装置100)から高域の音を提示し、右側(第2の補聴装置110)から低域の音を提示することに限定したものではなく、逆の関係にあってもよい。また、抑圧部103,113におけるカットオフ周波数fDはそれぞれ異なっていてもよい。
抑圧部103または113によって処理された信号と、分割部102または112から出力される信号とは、混合部104または114に入力される。混合部104,114は、入力された信号を加算する。混合部104,114による加算によって生成される信号は、周波数バンド毎のレベル補正による聴覚補償を行う聴覚補償部105,115にそれぞれ入力される。聴覚補償部105,115による聴覚補償によって生成された信号は、レシーバなどの出力部106,116によって音波として利用者の左右の耳にそれぞれ入力される。
図13は、聴覚補償部105,115の利得の周波数特性を示す図である。
聴覚補償部105,115は、図13に示すように、周波数が高いほど利得が大きくなるように、混合部104,114から出力される信号(音響信号または抑圧音響信号)を増幅することにより、上述の聴覚補償を行う。
図14は、補聴システム1000aの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。
第1の帯域抑圧部における利得は、上述の分割部102、抑圧部103および混合部104による利得制御によって、図14の(a)に示すように、分割周波数fLからカットオフ周波数fDまでの周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)において小さく設定される。一方、第2の帯域抑圧部における利得は、上述の分割部112、抑圧部113および混合部114による利得制御によって、図14の(b)に示すように、カットオフ周波数fDから分割周波数fHまでの周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
次に、本実施の形態における補聴システム1000aが両耳分離補聴を行う場合(両耳分離補聴モード)の一連の動作について説明する。
図15は、補聴システム1000aの第1の補聴装置100による両耳分離補聴を示すフローチャートである。なお、第2の補聴装置110も、図15に示す両耳分離補聴と同様の動作を行う。
まず、第1の補聴装置100の収音部101は、周囲の音を収音し、その収音によって生成される音響信号を分割部102に出力する(ステップS130)。分割部102は、収音部101から出力された音響信号を周波数帯域に応じて分割する(ステップS131)。このとき、分割部102は、音響信号の1サンプル毎にフィルタ処理を行ってもよいし、複数サンプル(例えば128サンプル)単位でフーリエ変換を行い、周波数領域で分割してもよい。また、ステップS131における分割によって、音響信号は、LPF201から出力される信号(低非音声帯域の信号)と、BPF202から出力される信号(音声帯域の信号)と、HPF203から出力される信号(高非音声帯域の信号)とに分割される。その結果、3つの信号が生成される。
次に、分割部102は、分割によって生成された信号ごとに、その信号がBPF202から出力された信号(音声帯域の信号)であるか否かを判定する(ステップS132)。ここで、分割部102は、BPF202から出力された信号であると判定すると(ステップS132のYES)、その信号を抑圧部103に出力する。
抑圧部103は、両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を抑圧制御部108から受信している場合、事前の設定に基づいてその信号(音声帯域の信号)のうちの高域又は低域の信号を抑圧する(ステップS133)。このとき、抑圧部103は、ステップS131の処理と同様に、音声帯域の信号の1サンプル毎にフィルタ処理を行ってもよいし、複数サンプル単位で周波数領域において抑圧してもよい。混合部104は、この抑圧された信号と、BPF202以外から出力された残り2つの信号とを混合する(ステップS134)。混合された信号は、抑圧音響信号として聴覚補償部105へ出力される。聴覚補償部105は、その抑圧音響信号に対して聴覚補償を行い、その聴覚補償された抑圧音響信号の示す音を出力部106に出力させる(ステップS135)。
なお、本実施の形態における補聴システム1000aが通常補聴を行う場合(通常補聴モード)には、第1の補聴装置100では、抑圧部103は、分割部102から出力された音声帯域の信号を敢えて抑圧せずに混合部104に出力する。第2の補聴装置110でも、第1の補聴装置110と同様、抑圧部113は、分割部112から出力された音声帯域の信号を敢えて抑圧せずに混合部114に出力する。
次に、補聴モードの切り替え制御について説明する。利用者は、会話などで相手の声をより明瞭に聴きたいときに、補聴システム1000aが両耳分離補聴を行うように、リモコン120を操作する。リモコン120は、その操作に応じた信号をコマンド(モード切替コマンド)として第1および第2の補聴装置100,110に送信し、第1および第2の補聴装置100,110のコマンド送受信部107,117はそれぞれ、そのコマンドを受信する。コマンド送受信部107,117はそれぞれ、そのコマンドを抑圧制御部108,118に出力する。そのコマンドを受信した抑圧制御部108,118はそれぞれ、抑圧部103,113に、両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を出力することによって、抑圧部103,113の動作を制御する。以上の動作によって補聴モードが通常補聴モードから両耳分離補聴モードに切り替わる。
ここで、補聴モードが通常補聴モードから両耳分離補聴モードに切り替わる際には、両耳の第1および第2の補聴装置100,110が両方とも両耳分離補聴モードに切り替わる方が望ましい。例えば、第1および第2の補聴装置100,110のうちの一方の補聴装置だけがリモコン120からの無線通信により送信されるコマンドを受信することができる場合には、一方の補聴装置と他方の補聴装置とで補聴モードが異なる場合が生じ得る。
そこで、第1および第2の補聴装置100,110が異なる補聴モードで動作することを防ぐためには、リモコン120が、補聴モードを切り替えるためのコマンド(モード切替コマンド)を送信するに先立って、第1および第2の補聴装置100,110において補聴モードの切り替えが可能か否かを確認するとよい。これは、例えば、補聴モードの切り替えが可能か否かを確認するためのモード切替確認コマンドと、モード切替確認コマンドを受信したことを通知する確認通知信号とを、リモコン120と第1および第2の補聴装置100,110との間で通信することによって実現できる。
図16は、第1および第2の補聴装置100,110がリモコン120からモード切替確認コマンドを受信して補聴モードを切り替える動作を示すフローチャートである。
まず、第1および第2の補聴装置100,110は、ユーザによる操作に基づいてリモコン120から送信されたモード切替確認コマンドを、コマンド送受信部107,117によって受信する(ステップS121)。第1および第2の補聴装置100,110は、ステップS121において受信が正常に行われれば、確認通知信号をコマンド送受信部107,117からリモコン120に送る(ステップS122)。リモコン120は、左右の第1および第2の補聴装置100,110の両方から確認通知信号を受信すると、モード切替コマンドを第1および第2の補聴装置100,110のコマンド送受信部107,117に送信する。コマンド送受信部107,117はモード切替コマンドを受信し(ステップS123)、抑圧制御部108,118は、そのモード切替コマンドが示す補聴モード(両耳分離補聴モードまたは通常補聴モード)を判定する(ステップS124)。ここで、そのモード切替コマンドが両耳分離補聴モードを示す場合には、第1および第2の補聴装置100,110は補聴モードを両耳分離補聴モードに切り替え、両耳分離補聴を行う(ステップS125)。一方、そのモード切替コマンドが通常補聴モードを示す場合には、第1および第2の補聴装置100,110は補聴モードを通常補聴モードに切り替え、通常補聴を行う(ステップS126)。
また、利用者は、リモコン120を操作する代わりに、第1および第2の補聴装置100,110の本体に搭載されているスイッチ109,119を操作してもよい。その場合、利用者は、相手の声をより明瞭に聴きたいときに、補聴システム1000aが両耳分離補聴を行うように、スイッチ109,119を操作する。コマンド送受信部107,117は、その操作に応じた信号を受信する。その結果、リモコン120による補聴モードの切り替え制御と同様の処理が行われる。
このとき、片側の補聴装置100または110に設けられたスイッチ109または119を操作するだけで、両耳の補聴装置100,110の補聴モードがともに同一の補聴モードに変更されてもよい。例えば、第1および第2の補聴装置100,110の間を無線通信媒体等によって接続する。そして、一方の補聴装置でスイッチによる補聴モードの切り替えが行われると、他方の補聴装置の補聴モードも同時に切り替るように、一方の補聴装置のコマンド送受信部107または117は、他方のコマンド送受信部117または107に、補聴モードの切り替えを促す制御信号を出力する。
スイッチ109,119の一方の操作のみにより補聴モードを切り替える場合についても、上述のリモコン120の操作により補聴モードを切り替える場合と同様、第1および第2の補聴装置100,110が両方とも同一の補聴モードに切り替わる方が望ましい。そこで、以下、第1の補聴装置100のスイッチ109を操作することで、第1および第2の補聴装置100,110の補聴モードが切り替わる例を説明する。なお、第2の補聴装置110のスイッチ119を操作する場合でも、スイッチ109を操作する場合と同様の処理が行われる。
まず、第1の補聴装置100のスイッチ109が操作されると、第1の補聴装置100のコマンド送受信部107は、その操作に応じてモード切替確認コマンドを送信する。第2の補聴装置110のコマンド送受信部117は、そのモード切替確認コマンドを受信し、その受信が正常に行われれば、確認通知信号を第1の補聴装置100に送る。第1の補聴装置100のコマンド送受信部107は、第2の補聴装置110から確認通知信号を受信し、その後、モード切替コマンドを第2の補聴装置110のコマンド送受信部117に送信する。第2の補聴装置110は、モード切替コマンドを受信した後に、補聴モードをそのモード切替コマンドに応じた補聴モードに切り替える。さらに、第1の補聴装置100は、モード切替コマンドを発信した後に、補聴モードをそのモード切替コマンドに応じた補聴モードに切り替える。また、第1の補聴装置100は、補聴装置間でコマンドまたは信号を送信及び受信することに要する時間を考慮し、スイッチ109が操作されてから一定の時間(例えば、1msec)が経過した後に補聴モードの切り替えを行ってもよい。
また、補聴モードの切り替えが行われた場合、出力部106,116から出力される音は変化するが、利用者にとってその切り替わりがわかりにくい可能性がある。そこで、補聴モードが切り替わったことを利用者に通知した方がよい。
つまり、本実施の形態におけるリモコン120は、補聴モードの切り替えが行われた場合には、記号、図形、または切り替えた旨の単語を表示することによって、補聴モードが切り替えられたこと、または、現在設定されている補聴モードを利用者に通知する。また、LED等による光及び光の点滅によって通知を行ってもよい。また、リモコン120がスピーカを装備している場合は、スピーカから補聴モードの切り替えを通知する音を出してもよい。また、リモコン120がバイブレータを装備している場合は、振動することで通知してもよい。また、リモコン120が通信手段を持っている場合には、リモコン120は他の機器に対し、補聴モードを切り替えた旨の信号を発信し、その信号を受信した他の機器に上述と同様の表示をさせてもよい。
また、リモコン120が補聴モードの切り替えを通知する代わりに、第1および第2の補聴装置100,110が通知してもよい。この場合、リモコン120のような光や表示による通知では、利用者はその通知に気づきにくい。したがって、音で通知するとよい。ただし、音で通知する場合、周囲の音と、補聴モードの切り替えを通知する音とを利用者が誤認識しないような工夫が必要になる。さらに、どちらの耳に、低域もしくは高域において強い音が出力されるかを、利用者に通知することが望ましい。例えば、二つの信号を第1および第2の補聴装置100,110からそれぞれ順番に提示して通知するとよい。低域と高域に帯域分割して、それぞれの耳に異なる周波数特性を提示する両耳分離補聴においては、補聴システム1000aは、まず、低域成分を聞く耳側に、ユーザが知覚できるカットオフ周波数fDより低い周波数(例えば500Hz)成分を含む、ユーザが知覚できる長さの短い通知音を提示する。次に、補聴システム1000aは、高域成分を聞く耳側に、ユーザが知覚できるカットオフ周波数fDより高い周波数(例えば1.5kHz)成分を含む、ユーザが知覚できる長さの短い通知音を提示する。通知音の出力中及び出力の前後において、補聴システム1000aは外部からの音のボリュームを下げる処理もしくは外部の音の消音を行ってもよい。さらに、それぞれの通知音は、空間的に定位しにくい、正弦波中心の信号とすることが望ましい。これにより、利用者は、両耳分離補聴モードの開始を、周囲音がある環境下でも知覚でき、さらにどちらの耳に低域が強調された音が出力されるか知ることができる。通知音を左右異なるタイミングで通知する手法を示したが、通知音が完全に重ならない時間範囲で左右同時に出力する瞬間があってもよい。しかし、左右同時に出力される時間割合が多いと、左右どちらから低域もしくは高域が強い信号が出力されるか、ユーザにはわかりにくくなるため、左右同時に出力される時間は通知音全体の50%以下の長さで提示することが望ましい。
また、本実施の形態における補聴システム1000aは、補聴モードを通常補聴モードから両耳分離補聴モードへ切り替える場合だけでなく、両耳分離補聴モードから通常補聴モードに切り替える際も、上記と同様の制御及び補聴モードの切り替えの通知を行う。通常補聴モードへの切り替えの際は、両耳分離補聴モードへの切り替えとは逆の順番で通知音を提示することがわかりやすい。しかし、どちらの耳側に低域又は高域が提示されるか通知する必要がないので、切り替えがわかればどのような音でもよい。
なお、第1および第2の補聴装置100,110は、バイブレータを装備している場合には、振動等によって補聴モードの切り替えを利用者に知らせてもよい。
以上のように、本実施の形態では、主要な音声成分を含む信号(音声帯域の信号)のうち、第1ホルマントを含む低域成分を片耳に提示し、第1ホルマント成分による周波数マスキング又は時間マスキングの影響で聞こえにくくなっていた第2ホルマント周波数の成分、及び子音成分を含む高域成分を他方の耳に提示する。これにより、音声成分を含む信号において発生する周波数マスキングまたは時間マスキングによる明瞭度低下を両耳分離補聴によって軽減することができる。
さらに、本実施の形態では、分割部102は、HPF203およびLPF201によって抽出された信号を、抑圧部103に通さず、混合部104に出力し、その信号をステレオ信号として音声帯域の信号に混合する。分割部112も、分割部102と同様、HPF203およびLPF201によって抽出された信号を、抑圧部113に通さず、混合部114に出力し、その信号をステレオ信号として音声帯域の信号に混合する。これにより、利用者は、主要な音声成分以外の周囲音をステレオ受聴することができる。
以上により、本実施の形態では、非音声帯域の音をステレオ受聴させながら両耳分離補聴を行うことで、図6に示すように、音源603〜605からの周囲騒音L、周囲騒音Rおよび報知音が、音源602の聞きたい音声と同じ方向から聞こえるという課題を解決することができる。つまり、本実施の形態では、主要な音声成分を含む信号は両耳分離補聴されるため、音源602からの聞きたい音声の明瞭度を向上させることができる。さらに、音源603〜605からの周囲騒音L、周囲騒音Rおよび報知音のそれぞれの成分は、ステレオ受聴されるため、音源603〜605がある方向から聞こえてくる。また、図5Cに示すような周波数特性を有する音源605からの報知音もステレオ受聴されるため、その報知音は、両耳分離補聴において高域を提示される側の耳の方向からではなく、実際に発生している方向から聞こえてくる。実際に発生している方向から音が聞こえることで、利用者は車のクラクション等の危険音の到来も知覚することができる。
このように、本実施の形態によると、音声の明瞭度を向上させながら環境音を空間的に分離して知覚できる。単に音声成分が多く含まれる帯域のみに両耳分離補聴(ダイコテック補聴)をするというのではなく、非音声成分が多く含まれる帯域を敢えてステレオ音声として提示する構成は、音声成分が多く含まれる帯域内の雑音を分離しやすくし、音声の明瞭性(雑音耐性)を強化させる。
また、従来の両耳分離補聴は、図4の環境に生じている音の全帯域のうち、大きなパワを持つ低域成分の音の全てを片耳にのみ提示するため、難聴者に圧迫感を与える恐れがある。一方、本実施の形態では、主要な音声成分より低い周波数成分を片方の耳だけではなく両方の耳で自然なステレオ感を持って受聴することできるため、利用者の違和感および疲労感を低減できる。
以上のように、本実施の形態では、環境に生じている音の自然な空間性を維持しながら、音声の明瞭度を向上させることができる。
(変形例1)
ここで、本実施の形態における第1の変形例について説明する。本変形例に係る補聴システムの第1および第2の補聴装置では、上記実施の形態の補聴システム1000aの第1および第2の補聴装置100,110と比べて、聴覚補償部の配置が異なる。
図17は、本変形例に係る補聴システムの機能ブロック図である。
本変形例に係る補聴システム1000bは、第1および第2の補聴装置100b,110bとリモコン120とを備える。
本変形例に係る第1および第2の補聴装置100b,110bは、上記実施の形態の第1および第2の補聴装置100,110と同様の構成要素を備えるが、聴覚補償部105,115のそれぞれが分割部102,112の前段に配置されている。つまり、聴覚補償部105,115はそれぞれ、収音部101,111から出力される音響信号に対して聴覚補償を行う。また、本変形例に係る第1および第2の補聴装置100b,110bでは、分割部102,112は、聴覚補償部105,115から出力される聴覚補償された音響信号を周波数帯域に応じて分割する。
このように、本変形例では、聴覚補償部105,115が分割部102,112の前段に配置されていても、上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
(変形例2)
ここで、本実施の形態における第2の変形例について説明する。本変形例に係る補聴システムでは、上記実施の形態の補聴システム1000aと比べて、分割部の構成が異なる。
図18は、本変形例に係る補聴システムの分割部の構成および接続関係を示す図である。
本変形例に係る分割部102aは、図18に示すように、全域通過フィルタ(APF)901と、BPF902と、減算部903とを備える。APF901は、収音部101から出力される音響信号を受信し、その音響信号に含まれる全ての周波数帯域の信号(全帯域の信号)を出力する。BPF902は、主要な音声成分を含む信号(音声帯域の信号)を抽出するフィルタであり、上記実施の形態の図10に示すBPF202と同様の特性を持っている。つまり、BPF902は、収音部101から出力される音響信号を受信し、その音響信号に含まれる音声帯域の信号を出力する。減算部903は、APF901から出力される全帯域の信号から音声帯域の信号を減算する、または取り除くことにより、非音声帯域の信号を生成する。
抑圧部103は、BPF902から出力される音声帯域の信号のうち、低域または高域の周波数帯域の信号を抑圧し、その抑圧された音声帯域の信号を出力する。混合部104は、減算部903によって生成された非音声帯域の信号と、抑圧部103から出力される抑圧された音声帯域の信号とを混合する。なお、このような分割部102aは、第1および第2の補聴装置100,110のそれぞれの分割部102,112の代わりに備えられていてもよく、何れか一方の代わりに備えられていてもよい。
このように、本変形例では、分割部102aの構成が分割部102,112と異なっていても、上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
(変形例3)
ここで、本実施の形態における第3の変形例について説明する。本変形例に係る補聴システムでは、上述の分割周波数fL,fHおよびカットオフ周波数fDを音響信号に応じて動的に変更する点に特徴がある。
図19は、本変形例に係る補聴システムの機能ブロック図である。
本変形例に係る補聴システム1000cは、第1および第2の補聴装置100c,110cとリモコン120とを備える。
本変形例に係る第1の補聴装置100cは、上記実施の形態の第1の補聴装置100と比べて、ホルマント算出部11をさらに備えるとともに、抑圧制御部108の代わりに抑圧制御部108cを備える。また、本変形例に係る第2の補聴装置110cも、第1の補聴装置100cと同様、上記実施の形態の第2の補聴装置110と比べて、ホルマント算出部21をさらに備えるとともに、抑圧制御部118の代わりに抑圧制御部118cを備える。
ホルマント算出部11,21はそれぞれ、収音部101,111から出力される音響信号に基づいて第1ホルマント周波数f1および第2ホルマント周波数f2を算出する。抑圧制御部108c,118cはそれぞれ、ホルマント算出部11,21によって算出された第1ホルマント周波数f1および第2ホルマント周波数f2を用いて、上述の(式1)および(式2)を満たす分割周波数fL,fHおよびカットオフ周波数fDを導出する。そして、抑圧制御部108c,118cはそれぞれ、その導出された分割周波数fL,fHで周波数帯域が分割されるように、分割部102,112を制御する。さらに、抑圧制御部108c,118cはそれぞれ、その導出されたカットオフ周波数fDよりも高いまたは低い周波数帯域の信号が抑圧されるように、抑圧部103,113を制御する。
このように、本変形例では、音響信号に応じて分割周波数fL,fHおよびカットオフ周波数fDを動的に変更するため、音声をより明瞭にし、より正確な空間性の知覚を実現することができる。
なお、本実施の形態および変形例1〜3では、抑圧部103,113を制御することによって、つまり抑圧部103,113に抑圧をさせるか否かによって、補聴モードの切り替えを行ったが、分割部102,112,102aを制御することによって補聴モードを切り替えてもよい。具体的には、抑圧制御部108,118はモード切替信号を抑圧部103,113ではなく分割部102,112,102aに出力する。例えば、分割部102は、そのモード切替信号を受信し、そのモード切替信号が両耳分離補聴モードへの切り替えを示す場合には、上述のように、音響信号を3つの周波数帯域の信号に分割し、音声帯域の信号のみを抑圧部103に出力し、他の非音声帯域の2つの信号を混合部104に出力する。一方、分割部102は、モード切替信号が通常補聴モードへの切り替えを示す場合には、音響信号を分割せず、その音響信号を混合部104に出力する。分割部112も、分割部102と同様の動作を行う。分割部102aは、モード切替信号を受信し、そのモード切替信号が両耳分離補聴モードへの切り替えを示す場合には、上述のように、音響信号を2つの周波数帯域の信号に分割し、音声帯域の信号のみを抑圧部103に出力し、他の非音声帯域の信号を混合部104に出力する。一方、分割部102aは、モード切替信号が通常補聴モードへの切り替えを示す場合には、音響信号を分割せず、その音響信号を混合部104に出力する。これにより、抑圧部103,113における処理の切り替えを省くことができ、両耳分離補聴モードと通常補聴とで処理系の共用化を図ることができる。
(実施の形態2)
本実施の形態における補聴システムは、実施の形態1と同様に、補聴モードを通常補聴モードと両耳分離補聴モードとに切り替え可能な補聴システムである。利用者は会話などで相手の声を特に明瞭に聴きたい場合には、本実施の形態における補聴システムのスイッチ等のインタフェースにより、その補聴モードを切り替える。両耳分離補聴モードに切り替えられた際には、本実施の形態における補聴システムは両耳分離補聴を行い、その結果、利用者はより明瞭な音声を聴くことができる。また、本実施の形態における補聴システムは、実施の形態1と比べて、第1および第2の帯域抑圧部の構成が異なる点に特徴がある。
図20は、本実施の形態における補聴システムの機能ブロック図である。
本実施の形態における補聴システム2000は、第1および第2の補聴装置700,710と、リモコン120とを備える。なお、第1の補聴装置700は例えば左耳に装用され、第2の補聴装置710は例えば右耳に装用される。また、本実施の形態では、実施の形態1の各構成要素と同一の構成要素については、実施の形態1と同一の符号を付して示し、詳細な説明を省略する。
第1の補聴装置700は、実施の形態1の第1の補聴装置100と同様に、収音部101、聴覚補償部105、出力部106、コマンド送受信部107、および抑圧制御部108を備える。また、第1の補聴装置700は、実施の形態1の第1の補聴装置100と異なり、分割部102、抑圧部103、および混合部104の代わりに、第1〜第4の帯域分割部701〜704、抑圧部705、および混合部706を備える。
第2の補聴装置710は、実施の形態1の第2の補聴装置110と同様に、収音部111、聴覚補償部115、出力部116、コマンド送受信部117、および抑圧制御部118を備える。また、第2の補聴装置710は、実施の形態1の第2の補聴装置110と異なり、分割部112、抑圧部113、および混合部114の代わりに、第1〜第4の帯域分割部711〜714、抑圧部715、および混合部716を備える。このように、本実施の形態における補聴システム2000では、実施の形態1と比べて、第1および第2の帯域抑圧部の構成が異なっている。
第1〜第4の帯域分割部701〜704はそれぞれ、収音部101から音響信号を取得し、その音響信号をそれぞれに設定された周波数帯域に応じて分割する。つまり、第1〜第4の帯域分割部701〜704はそれぞれ、その音響信号から、それぞれに設定された周波数帯域の信号を抽出して出力する。ここで、分割周波数fL,fHおよびカットオフ周波数fDが、fL<fD<fHの関係を満たす場合、第1の帯域分割部701は、分割周波数fLよりも低い周波数帯域または分割周波数fL以下の周波数帯域の信号を抽出し、第2の帯域分割部702は、分割周波数fL〜カットオフ周波数fDの周波数帯域の信号を抽出する。さらに、第3の帯域分割部703は、カットオフ周波数fD〜分割周波数fHの周波数帯域の信号を抽出し、第4の帯域分割部704は、分割周波数fHよりも高い周波数帯域または分割周波数fH以上の周波数帯域の信号を抽出する。
また、第2の補聴装置710の第1〜第4の帯域分割部711〜714もそれぞれ、上述の第1の補聴装置700の第1〜第4の帯域分割部701〜704と同様に構成されている。
第1の補聴装置700の抑圧部705は、抑圧制御部108から両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を受信している際には、第2の帯域分割部702によって抽出されて出力される信号を抑圧する。一方、抑圧部705は、抑圧制御部108から通常補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を受信している際には、第2の帯域分割部702によって抽出されて出力される信号を抑圧することなく、その信号を混合部706に出力する。
また、第2の補聴装置710の抑圧部715は、抑圧制御部118から両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を受信している際には、第3の帯域分割部713によって抽出されて出力される信号を抑圧する。一方、抑圧部715は、抑圧制御部118から通常補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を受信している際には、第3の帯域分割部713によって抽出されて出力される信号を抑圧することなく、その信号を混合部716に出力する。
つまり、補聴システム2000が通常動作モードで補聴処理を行う場合、第1の補聴装置700の第2の帯域分割部702から出力されて抑圧部705に入力された信号は、利得を1倍に設定するなどにより利得制御されずに混合部706に出力される。同様に、第2の補聴装置710の第3の帯域分割部713から出力されて抑圧部715に入力された信号は、利得制御されずに混合部716に出力される。
一方、補聴システム2000が両耳分離補聴モードで補聴処理を行う場合、第1の補聴装置700の抑圧部705は、抑圧制御部108からの制御信号に基づいて、第2の帯域分割部702から出力された信号を減衰させる。同様に、第2の補聴装置710の抑圧部715は、抑圧制御部118からの制御信号に基づいて、第3の帯域分割部713から出力された信号を減衰させる。
第1の補聴装置700の混合部706は、第1の帯域分割部701、第3の帯域分割部703および第4の帯域分割部704から出力される信号と、抑圧部705から出力される信号とを混合し、その混合によって生成される信号を音響信号または抑圧音響信号として出力する。また、第2の補聴装置710の混合部716は、第1の帯域分割部711、第2の帯域分割部712および第4の帯域分割部714から出力される信号と、抑圧部715から出力される信号とを混合し、その混合によって生成される信号を音響信号または抑圧音響信号として出力する。
図21は、第1〜第4の帯域分割部701〜704の利得の周波数特性を示す図である。
第1の帯域分割部701では、図21の実線304に示すように、分割周波数fLよりも低い周波数帯域または分割周波数fL以下の周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第2の帯域分割部702では、図21の実線305に示すように、分割周波数fL〜カットオフ周波数fDの周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第3の帯域分割部703では、図21の実線306に示すように、カットオフ周波数fD〜分割周波数fHの周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第4の帯域分割部704では、図21の実線307に示すように、分割周波数fHよりも高い周波数帯域または分割周波数fH以上の周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
このように、第1〜第4の帯域分割部701〜704では、音響信号を不足なく分割するように利得が設定されている。第1の帯域分割部701と第2の帯域分割部702による分割周波数fLは、音声の第1ホルマントより低い周波数、例えば200Hzに設定される。第2の帯域分割部702と第3の帯域分割部703によるカットオフ周波数fDは、音声の第1ホルマント周波数より高く第2ホルマントより低い周波数、例えば1250Hzに設定される。第3の帯域分割部703と第4の帯域分割部704による分割周波数fHは、音声の第2ホルマントより高い周波数、例えば4kHzに設定される。したがって、第1〜第4の帯域分割部701〜704は、音響信号を、低域の非音声成分を多く含む信号と、音声の第1ホルマント成分を含む信号と、音声の第2ホルマント成分を多く含む信号と、高域の非音声成分や、第1ホルマントによるマスキングの影響が比較的小さな音声成分を含む信号とに分割する。なお、第1〜第4の帯域分割部711〜714の利得の周波数特性も、図21に示す第1〜第4の帯域分割部701〜704の利得の周波数特性と同様に設定されている。
図22は、補聴システム2000の第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。
第1の補聴装置700の抑圧部705は、両耳分離補聴モードの場合、第2の帯域分割部702から出力される信号を抑圧する。したがって、第1の帯域抑圧部における利得は、上述の第1〜第4の帯域分割部701〜704、抑圧部705および混合部706による利得制御によって、図22の(a)に示すように、分割周波数fLからカットオフ周波数fDまでの周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
第2の補聴装置710の抑圧部705は、両耳分離補聴モードの場合、第3の帯域分割部713から出力される信号を抑圧する。したがって、第2の帯域抑圧部における利得は、上述の第1〜第4の帯域分割部711〜714、抑圧部715および混合部716による利得制御によって、図22の(b)に示すように、カットオフ周波数fDから分割周波数fHまでの周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
ここで、実施の形態1における抑圧部103,113から出力される信号に対して適用されたゲインは、図11の実線302によって示される利得と、図12A又は図12Bによって示される利得を乗算した利得となる。したがって、実施の形態1における抑圧部103,113から出力される信号に対して適用されたゲインは、それぞれ本実施の形態における第3の帯域分割部703および第2の帯域分割部712から出力される信号に対して適用されたゲインである、図22の実線306,305によって示される利得と一致する。また、実施の形態1における図11の実線301,303によって示される利得は、それぞれ本実施の形態における図22の実線304,307によって示される利得と等しい。すなわち、実施の形態1における抑圧部103,113を通過しない信号に対して適用された図11の実線301,303によって示される利得は、それぞれ本実施の形態における図22の実線304,307によって示される利得を加算した特性を持っている。よって、実施の形態1における高域提示側の第1の補聴装置100の特性は、図22の(a)に示すように、本実施の形態における実線304の利得と実線306の利得と実線307の利得とを加算した特性となる。一方、実施の形態1における低域提示側の第2の補聴装置110の特性は、図22の(b)に示すように、本実施の形態における実線304の利得と実線305の利得と実線307の利得とを加算した特性となる。
以下、本実施の形態における補聴システム2000が両耳分離補聴を行う場合(両耳分離補聴モード)の一連の動作について説明する。
図23は、補聴システム2000の第1の補聴装置700による両耳分離補聴を示すフローチャートである。なお、第2の補聴装置710も、図23に示す両耳分離補聴と同様の動作を行う。
まず、コマンド送受信部107によって受信されたモード切替コマンドが両耳分離補聴モードを示している場合、抑圧制御部108は、音響信号のうち、第2の帯域分割部702に対応する周波数帯域の信号を抑圧するように、抑圧部705の利得(例えば略0倍)を設定する(ステップS140)。
次に、第1の補聴装置700の収音部101は、周囲の音を収音し、その収音によって生成される音響信号を第1〜第4の帯域分割部701〜704に出力する(ステップS141)。第1〜第4の帯域分割部701〜704は、その音響信号を周波数帯域に応じて分離する(ステップS142)。このとき、第1〜第4の帯域分割部701〜704は、音響信号の1サンプル毎にフィルタ処理を行ってもよいし、複数サンプル(例えば128サンプル)単位でフーリエ変換を行い、周波数領域で分割してもよい。次に、抑圧部705は、第2の帯域分割部702から出力される信号(音声帯域のうちの高域または低域の信号)を、ステップS140で抑圧制御部108によって設定された利得を用いて、抑圧する(ステップS143)。混合部706は、この抑圧された信号と、第1の帯域分割部701、第3の帯域分割部703および第4の帯域分割部704から出力された信号とを混合する(ステップS144)。混合された信号は、抑圧音響信号として聴覚補償部105へ出力される。聴覚補償部105は、その抑圧音響信号に対して聴覚補償を行い、その聴覚補償された抑圧音響信号の示す音を出力部106に出力させる(ステップS145)。
次に、補聴モードの切り替え制御について説明する。利用者は、会話などで相手の声をより明瞭に聴きたいときに、補聴システム2000が両耳分離補聴を行うように、リモコン120を操作する。リモコン120は、その操作に応じた信号をコマンド(モード切替コマンド)として第1および第2の補聴装置700,710に送信し、第1および第2の補聴装置700,710のコマンド送受信部107,117はそれぞれ、そのコマンドを受信する。コマンド送受信部107,117はそれぞれ、そのコマンドを抑圧制御部108,118に出力する。そのコマンドを受信した抑圧制御部108,118はそれぞれ、抑圧部705,715に、両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を出力し、抑圧部103,113の動作を制御する。このように、本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、視聴モードが通常視聴モードから両耳分離補聴モードに切り替わる。
なお、実施の形態1と同様に本実施の形態においても、利用者は、リモコン120を操作する代わりに、第1および第2の補聴装置700,710の本体に搭載されているスイッチ109,119を操作してもよい。その場合、利用者は、相手の声をより明瞭に聴きたいときに、補聴システム2000が両耳分離補聴を行うように、スイッチ109,119を操作する。コマンド送受信部107,117は、その操作に応じた信号を受信する。その結果、リモコン120による補聴モードの切り替え制御と同様の処理が行われる。このとき、片側の補聴装置700または710に設けられたスイッチ109または119を操作するだけで、その片側の補聴装置の補聴モードが変更されるだけでなく、両方の補聴装置700,710の補聴モードがともに同一の補聴モードに変更されてもよい。例えば、第1および第2の補聴装置700,710の間を無線通信媒体等によって接続する。そして、一方の補聴装置でスイッチによる補聴モードの切り替えが行われると、他方の補聴装置の補聴モードも同時に切り替るように、一方の補聴装置のコマンド送受信部107または117は、他方のコマンド送受信部117または107に、補聴モードの切り替えを促す制御信号を出力する。また、補聴モードを両耳分離補聴モードから通常動作モードに切り替える際も、上記と同様に、リモコン120またはスイッチ109,119の操作を介した制御が行われる。
以上のように、本実施の形態の補聴システムでは、実施形態1と同様の周波数応答を有する音を第1および第2の補聴装置700,710から出力することができる。その結果、第1の実施形態と同様に、図4に示す音源602の聞きたい音声と、音源603,604の周囲騒音L及び周囲騒音Rとを、空間的に分離して利用者に知覚させることができ、音声の明瞭性(雑音耐性)を強化することができる。また、音声より低い周波数帯域にある周囲騒音を片方の耳だけではなく両方の耳で自然なステレオ感を持って利用者は受聴することでき、片方の耳だけに低域を提示する従来方式より難聴者の疲労感を抑えることができる。さらに、音声より高い周波数帯域にあるベルなどの報知音を両方の耳で利用者はステレオ受聴するため、その報知音の方向または報知音の音源605の位置が知覚でき、報知音の到来方向を察知することができる。
なお、本実施の形態では、聴覚補償部105から独立して、第1〜第4の帯域分割部701〜704と、抑圧部705と、混合部706とからなる第1の帯域抑圧部を用い、さらに、聴覚補償部115から独立して、第1〜第4の帯域分割部711〜714と、抑圧部715と、混合部716とからなる第2の帯域抑圧部を用いることによって、両耳分離補聴を行ったが、両耳分離補聴に聴覚補償部105,115を利用してもよい。近年の補聴システムでは音響信号を複数の周波数帯域に分割して補聴処理をものが多くある。このような補聴システムにおいて、聴覚補償部が内部処理機能として第1〜第4の帯域分割部701〜704に相当する機能を有する場合がある。聴覚補償部105,115がこのような機能を有する場合には、第1および第2の帯域抑圧部の代わりに、その聴覚補償部105,115に周波数帯域毎の利得を制御させることによって、本実施の形態と同様の両耳分離補聴の機能を実現してもよい。
また、聴覚補償部105が、混合部706の前にあり、かつ内部処理機能として周波数帯域毎の利得を制御する機能を有する場合には、その聴覚補償部105に抑圧部705としての機能を持たせてもよい。つまり、聴覚補償部105は、第1〜第4の帯域分割部701〜704から出力された周波数帯域ごとの信号を受信し、その周波数帯域ごとの信号に対して内部パラメータを用いて聴覚補償を行い、聴覚補償された周波数帯域ごとの信号を混合部706に出力する。このとき、聴覚補償部105は、第2の帯域分割部701から出力された信号に対する内部パラメータを変更し、その信号を抑圧する。聴覚補償部115も、聴覚補償部105による上述の処理と同様の処理を実行する。
(変形例)
ここで、本実施の形態における変形例を説明する。本変形例に係る補聴システムの第1および第2の補聴システムでは、上記実施の形態のように音響信号を4つの周波数帯域の信号に分割することなく、3つの周波数帯域の信号に分割する点に特徴がある。
図24は、本変形例に係る補聴システムの機能ブロック図である。
本変形例に係る補聴システム2000aは、第1および第2の補聴装置700a,710aとリモコン120とを備える。
補聴装置700aは、収音部101、第2〜第4の帯域分割部702〜704、抑圧部705、混合部706、聴覚補償部105、出力部106、コマンド送受信部107、および抑圧制御部108を備える。第2の補聴装置710aは、収音部111、第2〜第4の帯域分割部712〜714、抑圧部715、混合部716、聴覚補償部115、出力部116、コマンド送受信部117、および抑圧制御部118を備える。つまり、本変形例に係る第1および第2の補聴装置700a,710aは、上記実施の形態の第1および第2の補聴装置700,710のように第1の帯域分割部701,711を備えていない。
図25は、第2〜第4の帯域分割部702〜704の利得の周波数特性を示す図である。
第2の帯域分割部702では、図25の実線305に示すように、カットオフ周波数fDよりも低い周波数帯域またはカットオフ周波数fD以下の周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第3の帯域分割部703では、図25の実線306に示すように、カットオフ周波数fD〜分割周波数fHの周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第4の帯域分割部704では、図25の実線307に示すように、分割周波数fHよりも高い周波数帯域または分割周波数fH以上の周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
なお、カットオフ周波数fDおよび分割周波数fHと、第1ホルマント周波数f1および第2ホルマント周波数f2との関係は、上記実施の形態での関係と同じである。また、第2〜第4帯域分割部712〜714の利得の周波数特性も、第2〜第4の帯域分割部702〜704の利得の周波数特性と同様に設定されている。
図26は、補聴システム2000aの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。
第1の補聴装置700aの抑圧部705は、両耳分離補聴モードの場合、第2の帯域分割部702から出力される信号を抑圧する。したがって、第1の帯域抑圧部における利得は、上述の第2〜第4の帯域分割部702〜704、抑圧部705および混合部706による利得制御によって、図26の(a)に示すように、カットオフ周波数fDよりも低い周波数帯域、またはカットオフ周波数fD以下の周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
第2の補聴装置710aの抑圧部715は、両耳分離補聴モードの場合、第3の帯域分割部713から出力される信号を抑圧する。したがって、第2の帯域抑圧部における利得は、上述の第2〜第4の帯域分割部712〜714、抑圧部715および混合部716による利得制御によって、図26の(b)に示すように、カットオフ周波数fDから分割周波数fHまでの周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
このように、本変形例では、カットオフ周波数fDよりも低い周波数帯域、またはカットオフ周波数fD以下の周波数帯域を第1の抑圧対象帯域として扱い、第1の補聴装置700aは、両耳分離補聴モードでは、その周波数帯域の信号を抑圧する。つまり、第1の補聴装置700aによって抑圧される第1の抑圧対象帯域は、上記実施の形態の第1の補聴装置700によって抑圧される第1の抑圧対象帯域よりも低域側に広い。したがって、本変形例の両耳分離補聴では、音声帯域よりも高い周波数帯域にある非音声帯域(高非音声帯域)の音だけが利用者にステレオ受聴される。ここで、図22の(a)に示す音声帯域よりも低い周波数帯域にある非音声帯域および音声帯域の中でも低域の音は、健常者にとっても比較的ステレオ受聴しにくいため、本変形例のように、低域側に広い第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧し、その帯域の音をステレオ受聴できないようにしても利用者に対するデメリットは比較的少ない。したがって、本変形例においても、上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。また、本変形例では、上記実施の形態と比べて、第1の帯域分割部701,711を省くことができるため、上記実施の形態よりも構成および処理を簡単にすることができる。
なお、本変形例においても上記実施の形態と同様に、両耳分離補聴に聴覚補償部105,115の機能を利用してもよい。
なお、本発明を実施の形態1および2とそれらの変形例に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の各実施の形態および変形例に限定されない。
例えば、実施の形態1および2とそれらの変形例における補聴システムは、例えばマイクロホンからなる収音部を備えたが、それらの代わりに、外部からの電気信号を取得する端子、または、その外部からの電気信号を無線で受信する受信機を備えていてもよい。あるいは、外部からの電気信号を有線および無線で取得してそれぞれの信号を混合する構成を備えていてもよい。また、出力部は、イヤホン、スピーカ、ヘッドフォン、骨導振動子のような振動子、または内耳用の電極等であってもよい。また、リモコンと第1および第2の補聴装置との通信には、無線通信媒体の代わりに有線通信媒体を用いてもよい。
さらに、以下のような場合も本発明に含まれる。
(1)上記の各装置の全部、もしくは一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成される。この場合、RAM又はハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するためのコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
(2)上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するためのコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
(3)上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、各装置に脱着可能なICカード又は単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカード又は前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカード又は前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカード又は前記モジュールは、その機能を達成する。このICカード又はこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
(4)本発明は、上記に示すコンピュータの処理で実現する方法であるとしてもよい。また、本発明は、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
また、本発明は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録したものとしてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray Disc)、半導体メモリなどである。また、本発明は、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
また、本発明は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号を、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
また本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
また前記プログラム又は前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、又は前記プログラム又は前記デジタル信号を、前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
(5)上記各実施の形態及び上記各変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
本発明に係る補聴システム及び補聴方法は、利用者に環境音(周囲音)を空間的に知覚させながら、音声の明瞭度を向上させることができるという効果を有し、例えば、補聴器、音響機器、携帯電話、あるいは、公共拡声などの音声再生または音声通話を行う装置全般に有用である。
100,100b,100c,700,700a 第1の補聴装置
110,110b,110c,710,710a 第2の補聴装置
101,111 収音部
102,112 分割部
103,113 抑圧部
104,114 混合部
105,115 聴覚補償部
106,116 出力部
107,117 コマンド送受信部
108,108c,118,118c 抑圧制御部
120 リモコン
201 LPF
202 BPF
203 HPF
901 APF
902 BPF
903 減算部
701,711 第1の帯域分割部
702,712 第2の帯域分割部
703,713 第3の帯域分割部
704,714 第4の帯域分割部
705,715 抑圧部
706,716 混合部
1000,1000a〜1000c,2000,2000a 補聴システム
1100 第1の補聴装置
1110 収音部
1120 出力部
1200 第2の補聴装置
1210 収音部
1220 出力部
1300 第1の帯域抑圧部
1400 第2の帯域抑圧部
本発明は、2つの補聴装置を備えて補聴する補聴システムに関する。
はじめに、音声の音響的特徴について説明する。
図1Aは、音声の周波数スペクトルを示す図である。なお、図1Aに示す横軸は周波数を示し、縦軸は振幅を示している。図1Aにおける実線501は、周波数スペクトルで表現された音声の一例である。音声の周波数スペクトルは周波数軸上においていくつかのピークを持つ。最も低い周波数のピークは、ピッチと呼ばれる音声の基本周波数であり、声の高さによって異なるが、一般的に125Hzから300Hzに位置する。また、音声は、声帯の振動によって生成された音波が、咽頭から唇までの経路である声道において共鳴(共振)することにより生成される。その共振周波数はホルマントと呼ばれ、周波数の1番低いものから順に第1ホルマント、第2ホルマントというように呼ばれている。つまり図1Aにおいて最も低い周波数のピークがピッチ(ピッチ周波数)を示し、2番目のピークが第1ホルマント(第1ホルマント周波数)を示し、3番目のピークが第2ホルマント(第2ホルマント周波数)を示している。発話者の性別や発話する語音によって異なるが、一般に第1ホルマント周波数は200Hzから1200Hzの範囲に存在し、第2ホルマント周波数は800Hzから3000Hzの範囲に存在している。
人は、母音の識別を主に第1ホルマント周波数と第2ホルマント周波数の組み合わせから行っていると言われている。一方、子音の識別は、主に音声の先頭部分における第1ホルマント周波数と第2ホルマント周波数の時間軸上での変化パターンから行われるが、一部の子音の識別は、第2ホルマント周波数より高い周波数におけるスペクトル形状のパターンから行われると言われている。
また、聴覚心理において、特定の音が他の音を妨害して聞き取りにくくなる聴覚マスキングという現象がある。聴覚マスキングとして、特定の周波数成分の大きな音が近傍の周波数成分の音をマスクして聞き取りづらくなる周波数マスキングと、先行する音が後続する音をマスクして後続音が聞き取りづらくなる時間マスキングがある。
周波数マスキングについて、図1Aを用いて説明する。図1Aにおける破線502は、音声の第1ホルマント成分によるマスキング曲線を示している。この破線502より振幅の小さな音は存在していても、受聴者はその音を聞き取ることができない。マスキング曲線は個人差があり、そのマスキング曲線によって影響を受ける周波数の幅は様々である。図1Aの例では、第1ホルマント成分によって、第2ホルマント成分がマスクされている。一般的な音声ではピッチ成分と第1ホルマント成分のパワが大きく、他の成分のパワは相対的に小さい傾向がある。そのため、図1Aの例のように、第1ホルマント成分によって周辺の周波数帯域の音声がマスクされてしまった場合には、母音を聞き間違える可能性がある。
また、時間マスキングについて、図1Bを用いて説明する。
図1Bは、音声の時間波形を示す図である。なお、図1Bに示す横軸は時間を示し、縦軸は振幅を示している。実線は「ウサ(usa)」と発声した音声の時間波形を示しており、図1Bの左から母音「u」、子音「s」、母音「a」の部分(音声の一部)が時間的に順に並んでいる。図1Bの例では、図中の破線は、先行母音「u」による時間マスキングの時間領域を示しており、先行母音「u」によって後続子音「s」がマスクされる。時間マスキングには個人差があり、その時間マスキングによって影響を受ける時間領域の幅は様々である。一般的な音声では、母音のパワが大きく、子音のパワは相対的に小さい傾向がある。そのため、図1Bの例のように先行母音によって後続子音がマスクされてしまった場合には子音を聞き間違える、もしくは子音が聞こえないという現象が発生する可能性がある。
ところで、高齢社会の到来に伴って、音声が聞き取りにくいと感じる難聴者が増加している。難聴者の難聴の症状として、聴力の低下、周波数分解能(周波数選択性)の低下、時間分解能の低下が知られている。聴力が低下すると、健常な聴覚を持つ人に比べて特に小さい音が聞こえにくくなる。周波数分解能が低下すると、健常な聴覚を持つ人に比べて周波数マスキングの影響を受ける周波数帯域が広がり、母音を誤認識しやすくなる。また、時間分解能が劣化すると、健常な聴覚を持つ人に比べて時間マスキングの影響を受ける時間が長くなり、後続子音がより聞き取りにくくなる。
従来、聴力の低下に対しては、単に音量を増幅するような補聴処理をしてきた。周波数分解能の低下、及び時間分解能の低下に対しては、聴覚マスキングの影響を低減させるために、音響信号(音声を含む音響を示す信号)を周波数軸上で分割し、分割された音響信号を左右それぞれの耳に異なる信号特性で提示して、脳内で一つの音として知覚させる両耳分離補聴という補聴処理が提案されている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。この両耳分離補聴により、音声の明瞭度が高くなることが報告されている。
両耳分離補聴により音声の明瞭度が向上するのは、マスクする周波数帯域の音響信号(又は時間領域の音響信号)と、マスクされる周波数帯域の音響信号(又は時間領域の音響信号)とをそれぞれ別の耳に提示することで、マスクされていた音声を知覚しやすくなるためだと考えられる。
図2Aおよび図2Bは、両耳分離補聴された音声の周波数スペクトルを示す図である。なお、図2Aおよび図2Bに示す横軸および縦軸はそれぞれ、図1Aと同様、周波数および振幅を示している。
両耳分離補聴によって一方の耳に聞こえる音声は、図2Aに示すように、低い周波数帯域の音声だけとなる。また、両耳分離補聴によって他方の耳に聞こえる音声は、図2Bに示すように、高い周波数帯域の音声だけとなる。その結果、第2ホルマントの周波数帯域の音声が、第1ホルマントの周波数帯域の音声によってマスキング(周波数マスキング)されることを防ぐことができる。
図3Aおよび図3Bは、両耳分離補聴された音声の時間波形を示す図である。なお、図3Aおよび図3Bに示す横軸および縦軸はそれぞれ、図1Bと同様、時間および振幅を示している。
両耳分離補聴によって一方の耳に聞こえる音声は、図3Aに示すように、低い周波数帯域の音声、つまり母音「u」および「a」だけとなる。また、両耳分離補聴によって他方の耳に聞こえる音声は、図3Bに示すように、高い周波数帯域の音声、つまり子音「s」だけとなる。その結果、子音「s」が母音「u」によってマスキング(時間マスキング)されることを防ぐことができる。
しかしながら、上記従来の両耳分離補聴では音の空間的な知覚を妨げるという問題がある。つまり、上記従来の両耳分離補聴では、一つの音声を両耳で分担して受聴することによってその音声の明瞭度を高めることができるが、その反面、左右の耳で受聴することによるステレオ感を提供することはできない。そのため、両耳分離補聴の利用者は、全ての音が正面方向から聞こえるように感じるなど、音を空間的に知覚できないという問題が生じる。このように音の空間性が知覚できないという問題は、利用者が、その不自然さゆえに疲労したり、自転車など報知音の接近方向を誤って知覚したりすることにつながる可能性もある。
上述の問題について、図4、図5A〜図5Cおよび図6を用いてより詳細に説明する。
図4は、受聴者に対する音の配置を示す図である。
例えば、図4に示すように、上記従来の両耳分離補聴を利用した補聴システムを装着した受聴者601の周囲には、音源602〜605が存在する。具体的には、受聴者601の正面前方に聞きたい音声の音源602が存在し、左側に周囲騒音Lの音源603が存在し、右側に周囲騒音Rの音源604が存在し、さらに報知音の音源605が受聴者601に近接している。
図5A〜図5Cは、音源602〜605のそれぞれの音の周波数スペクトルを示す図である。
具体的には、図5Aは、音源602の聞きたい音声「ア」の周波数スペクトルを示す図である。ピッチは一般に125Hzから300Hzの周波数帯域に存在しているが、図5Aに示す例では200Hz付近に音声のピッチが存在している。また、700Hz付近に第1ホルマント、1600Hz付近に第2ホルマントがあり、総じて200Hzから1600Hzの範囲内に音声の主要な成分が含まれている。図5Bは、音源603および音源604の周囲騒音Lおよび周囲騒音Rの周波数スペクトルを示す図である。周囲騒音Lおよび周囲騒音Rの周波数スペクトルは、一般的な交通騒音の長時間平均スペクトルと同じものであり、低域から高域に向かって徐々にレベルが小さくなる傾向がある。図5Cは、音源605の報知音である自転車のベル音の周波数スペクトルを示す図である。2500Hzを基本周波数として高域になるほど倍音成分のレベルが上昇し、高い周波数の成分が支配的である。
図6は、上記従来の両耳分離補聴によって生じる問題を説明するための図である。
図4に示す周囲環境の場合、両耳分離補聴において音を高域及び低域に分割する際の境界となる分割周波数は、音源602の聞きたい音声の第1ホルマントより高く、第2ホルマントより低い周波数、例えば1250Hzであることが望ましい。
しかしながら、このように両耳分離補聴を行うと、図6に示すように、聞きたい音声の音源602と、周囲騒音Lおよび周囲騒音Rの音源603,604とは、全て受聴者601の正面前方もしくは頭内に位置するように知覚されてしまう。その結果、従来の両耳分離補聴を利用する補聴システムのユーザは、全ての音が同じ方向から聞こえてくるように感じる。また、音源605の報知音に関しては、高域の音が提示される方向からのみ、その報知音が聞こえるため、元々の音源の方向を間違える可能性がある。よって、ユーザの周囲音の空間性を維持しながら、音声の明瞭度を向上させる工夫が必要となる。
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、両耳分離補聴による音声の明瞭度向上と空間性の知覚を両立するための補聴システムおよび補聴方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る補聴システムは、第1および第2の補聴装置を備える補聴システムであって、前記第1および第2の補聴装置のそれぞれは、収音し、収音された音を示す音響信号を出力する収音部と、前記音響信号の一部の周波数帯域の信号が抑圧されて生成された抑圧音響信号が示す音を出力する出力部とを備え、前記音響信号が示す音の周波数帯域は、音声成分を含む周波数帯域である音声帯域と、前記音声帯域以外の非音声帯域とからなり、前記音声帯域は、互いに異なる周波数帯域である第1および第2の抑圧対象帯域を含み、前記補聴システムは、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第1の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第1の帯域抑圧部と、前記第2の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第2の帯域抑圧部とを備え、前記第1および第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号はそれぞれ、前記音響信号に含まれる共通の前記非音声帯域の信号を含む。
これにより、第1の補聴装置では、音響信号のうち、音声帯域に含まれる第1の抑圧対象帯域の信号が抑圧されるため、音声帯域に含まれる第2の抑圧対象帯域の音と非音声帯域の音とが出力される。一方、第2の補聴装置では、音響信号のうち、音声帯域に含まれる第2の抑圧対象帯域の信号が抑圧されるため、音声帯域に含まれる第1の抑圧対象帯域の音と非音声帯域の音とが出力される。したがって、音声成分が多く含まれる音声帯域では、第1および第2の補聴装置から互いに異なる周波数帯域の音が出力されるため、つまり、両耳分離補聴が行われるため、音声の明瞭度を向上することができる。また、音声帯域以外の非音声帯域では、第1および第2の補聴装置から共通の周波数帯域の音が出力されるため、例えば騒音などの音を利用者に対してステレオ受聴させることができる。これにより、両耳分離補聴による音声の明瞭度向上と空間性の知覚を両立することができる。
また、前記第1の帯域抑圧部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とに分割する第1の分割部と、前記第1の分割部による分割によって生成された前記音声帯域の信号のうち、前記第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧する第1の抑圧部と、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とを混合することにより、前記第1の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第1の混合部とを備え、前記第2の帯域抑圧部は、前記第2の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とに分割する第2の分割部と、前記第2の分割部による分割によって生成された前記音声帯域の信号のうち、前記第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧する第2の抑圧部と、前記第2の抑圧部によって抑圧された前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とを混合することにより、前記第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第2の混合部とを備える。
これにより、音響信号が音声帯域の信号と非音声帯域の信号とに分割されるため、音声帯域の信号に対する処理を、非音声帯域の信号から独立して行うことができ、補聴を容易に且つ適切に行うことができる。
また、前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域よりも低い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である低非音声帯域の信号と、前記音声帯域の信号と、前記音声帯域よりも高い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である高非音声帯域の信号とに分割し、前記第1の混合部は、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記音声帯域の信号と、前記低非音声帯域の信号と、前記高非音声帯域の信号とを混合する。
これにより、非音声帯域の信号が、音声帯域よりも低域の低非音声帯域と、音声帯域よりも高域の高非音声帯域とに分割されるため、音声帯域よりも低域および高域にある騒音や報知音などを利用者に対してステレオ受聴させることができる。
また、前記低非音声帯域における上限の周波数は、200Hz以上2500Hz未満であり、前記高非音声帯域における下限の周波数は、2500Hz以上であり、前記第1および第2の抑圧対象帯域の境界にある境界周波数は、前記上限の周波数と前記下限の周波数の間にある。
これにより、音声帯域と非音声帯域とを適切に区別することができ、音声成分の多い音を適切に両耳分離補聴し、音声成分が少ない低周波数帯域および高周波数帯域の音を利用者に適切にステレオ受聴させることができる。
また、前記境界周波数は、前記収音部から出力される音響信号によって示される音声の第1ホルマントの周波数よりも高く、前記音声の第2ホルマントの周波数よりも低く、前記上限の周波数は、前記第1ホルマントの周波数よりも低く、前記下限の周波数は、前記第2ホルマントの周波数よりも高い。
これにより、音声帯域に含まれる第1および第2の抑圧対象帯域のうちの一方に第1ホルマントの周波数があり、他方に第2ホルマントの周波数があるため、第1ホルマントの音と第2のホルマントの音とを別々に左右の異なる耳に提示することができ、周波数分解能および時間分解能などが劣化した利用者に対して、聴覚マスキングの影響を抑え、音声の明瞭度を向上することができる。また、音声の明瞭度への影響が少ない周波数帯域をステレオ受聴させることができる。
また、前記第1の補聴装置は、さらに、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号に基づいて前記第1ホルマントおよび第2ホルマントのそれぞれの周波数を算出するホルマント算出部と、前記ホルマント算出部によって算出された前記第1ホルマントおよび第2ホルマントのそれぞれの周波数に基づいて、前記上限の周波数、下限の周波数および境界周波数をそれぞれ前記第1の分割部および前記第1の抑圧部に設定する抑圧制御部とを備える。
これにより、音響信号に基づいて第1ホルマントおよび第2ホルマントの周波数が算出され、それらの周波数に応じて、低非音声帯域と、第1および第2の抑圧対象帯域と、高非音声帯域とが設定されるため、実際に収音される音声に応じて上述の各周波数帯域を動的に適切な帯域に設定することができ、どのような音声に対しても明瞭度を向上することができる。
また、前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記音声帯域の信号のみを通過させることによって、前記音響信号から前記音声帯域の信号を分離する帯域通過フィルタと、前記音響信号から前記音声帯域の信号を減算することによって、前記音響信号から前記非音声帯域の信号を分離する減算部とを備える。
これにより、非音声帯域の信号は、音響信号から音声帯域の信号を減算することによって分離されるため、音声帯域だけを第1の分割部に設定すれば、非音声帯域を第1の分割部に設定する必要が無く、周波数帯域の設定の手間を省くことができる。
また、前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域よりも低い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である低非音声帯域の信号と、前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記音声帯域よりも高い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である高非音声帯域の信号とに分割し、前記第1の混合部は、前記低非音声帯域の信号と、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記高非音声帯域の信号とを混合する。
これにより、音響信号が、低非音声帯域の信号と、第1の抑圧対象帯域の信号と、第2の抑圧対象帯域の信号と、高非音声帯域の信号とに分割されるため、それらの周波数帯域ごとに信号処理を行うことができ、信号処理の利便性を図ることができる。
また、前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記音声帯域よりも高い周波数帯域である前記非音声帯域の信号とに分割し、前記第1の混合部は、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記非音声帯域の信号とを混合する。
これにより、音声帯域よりも高い周波数帯域の音を利用者にステレオ受聴させることができ、報知音などの音源の空間的な所在を利用者に適切に知覚させることができる。
また、前記補聴システムは、さらに、視聴モードを第1の視聴モードと第2の視聴モードに切り替えるための操作を受け付ける操作受付部を備え、前記第1の視聴モードに切り替えるための操作が前記操作受付部に受け付けられた場合には、前記第1および第2の帯域抑圧部は、前記第1および第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成し、前記第2の視聴モードに切り替えるための操作が前記操作受付部に受け付けられた場合には、前記第1および第2の帯域抑圧部は、前記音響信号を抑圧せず、前記第1および第2の補聴装置の出力部は、前記第1および第2の帯域抑圧部によって抑圧されていない前記音響信号が示す音を出力する。
これにより、利用者は、音声を聞くときには、第1の視聴モード(両耳分離補聴モード)に切り替えるための操作を行うことによって、両耳分離補聴による音声の明瞭度向上と空間性の知覚を両立することができ、音声を聞かないときには、第2の補聴モード(通常補聴モード)に切り替えるための操作を行うことによって、全ての周波数帯域においてステレオ受聴することができる。その結果、利用者に対する利便性を向上することができる。
また、前記操作受付部は、前記操作を受け付けた場合には、前記操作の内容を示すモード切替コマンドを前記第1および第2の補聴装置に送信し、前記第1の補聴装置は、前記第1の帯域抑圧部と、前記モード切替コマンドを受信する第1のコマンド送受信部と、前記第1のコマンド送受信部に受信された前記モード切替コマンドに応じて前記第1の帯域抑圧部を制御する第1の抑圧制御部とを備え、前記第2の補聴装置は、前記第2の帯域抑圧部と、前記モード切替コマンドを受信する第2のコマンド送受信部と、前記第2のコマンド送受信部に受信された前記モード切替コマンドに応じて前記第2の帯域抑圧部を制御する第2の抑圧制御部とを備える。
これにより、操作受付部と第1および第2の補聴装置とが通信を行なうことによって補聴モードが第1の補聴モードと第2の補聴モードとに切り替えられるため、利用者は操作受付部をリモコンとして利用し、第1および第2の補聴装置の補聴モードを遠隔操作で切り替えることができる。
また、前記操作受付部は、前記操作を受け付けた場合には、モード切替確認コマンドを第1および第2の補聴装置に送信し、前記モード切替確認コマンドに対する応答である確認通知信号を第1および第2の補聴装置から受信した場合にのみ、前記モード切替コマンドを送信し、前記第1および第2のコマンド送受信部は、前記モード切替確認コマンドを受信した場合には、前記確認通知信号を送信する。
これにより、操作受付部が第1および第2の補聴装置と無線通信を行なう場合には、モード切替確認コマンドおよび確認通知信号の送受信によって、操作受付部はコマンドが第1および第2の補聴装置に正常に受信されるかを確認し、その後、モード切替コマンドを送信することができる。その結果、補聴モードの切り替えによって、第1および第2の補聴装置の一方だけに対して補聴モードが切り替えられ、第1および第2の補聴装置の補聴モードが互いに異なってしまうことを防止することができる。
なお、本発明は、このような補聴システムとして実現することができるだけでなく、その補聴システムにおける補聴方法、その補聴システムによる補聴処理をコンピュータに実行させるプログラム、そのプログラムを格納する記録媒体、その補聴処理を実行する集積回路としても実現することができる。
本発明の補聴システムおよび補聴方法は、利用者に環境音(周囲音)を空間的に知覚させながら、音声の明瞭度を向上させることができる。
図1Aは、音声の周波数スペクトルを示す図である。 図1Bは、音声の時間波形を示す図である。 図2Aは、両耳分離補聴された一方の音声の周波数スペクトルを示す図である。 図2Bは、両耳分離補聴された他方の音声の周波数スペクトルを示す図である。 図3Aは、両耳分離補聴された一方の音声の時間波形を示す図である。 図3Bは、両耳分離補聴された他方の音声の時間波形を示す図である。 図4は、受聴者に対する音の配置を示す図である。 図5Aは、音声の周波数スペクトルを示す図である。 図5Bは、周囲騒音Lおよび周囲騒音Rの周波数スペクトルを示す図である。 図5Cは、報知音の周波数スペクトルを示す図である。 図6は、従来の両耳分離補聴によって生じる問題を説明するための図である。 図7は、本発明の実施の形態における補聴システムの概略構成を示すブロック図である。 図8は、本発明の実施の形態1における補聴システムの外観図である。 図9は、本発明の実施の形態1における補聴システムの機能ブロック図である。 図10は、本発明の実施の形態1における分割部の構成および接続関係を示す図である。 図11は、本発明の実施の形態1における分割部における各フィルタの利得の周波数特性を示す図である。 図12Aは、本発明の実施の形態1におけるHPFとして構成された抑圧部の利得の周波数特性を示す図である。 図12Bは、本発明の実施の形態1におけるLPFとして構成された抑圧部の利得の周波数特性を示す図である。 図13は、本発明の実施の形態1における聴覚補償部の利得の周波数特性を示す図である。 図14は、本発明の実施の形態1における補聴システムの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。 図15は、本発明の実施の形態1における補聴システムの第1の補聴装置による両耳分離補聴を示すフローチャートである。 図16は、本発明の実施の形態1における第1および第2の補聴装置がリモコンからモード切替確認コマンドを受信して補聴モードを切り替える動作を示すフローチャートである。 図17は、本発明の実施の形態1における変形例1に係る補聴システムの機能ブロック図である。 図18は、本発明の実施の形態1における変形例2に係る補聴システムの分割部の構成および接続関係を示す図である。 図19は、本発明の実施の形態1における変形例3に係る補聴システムの機能ブロック図である。 図20は、本発明の実施の形態2における補聴システムの機能ブロック図である。 図21は、本発明の実施の形態2における第1〜第4の帯域分割部の利得の周波数特性を示す図である。 図22は、本発明の実施の形態2における補聴システムの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。 図23は、本発明の実施の形態2における補聴システムの第1の補聴装置700による両耳分離補聴を示すフローチャートである。 図24は、本発明の実施の形態2における変形例に係る補聴システムの機能ブロック図である。 図25は、本発明の実施の形態2における変形例に係る第2〜第4の帯域分割部の利得の周波数特性を示す図である。 図26は、本発明の実施の形態2における変形例に係る補聴システムの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。
以下、本発明の実施の形態における補聴システムについて、図面を参照しながら説明する。
図7は、本発明の実施の形態における補聴システムの概略構成を示すブロック図である。
補聴システム1000は、第1および第2の補聴装置1100,1200を備える補聴システムである。第1および第2の補聴装置1100,1200のそれぞれは、収音し、収音された音を示す音響信号を出力する収音部1110,1210と、その音響信号の一部の周波数帯域の信号が抑圧されて生成された抑圧音響信号が示す音を出力する出力部1120,1220とを備える。ここで、音響信号が示す音の周波数帯域は、音声成分を含む周波数帯域である音声帯域と、その音声帯域以外の非音声帯域とからなる。また、音声帯域は、互いに異なる周波数帯域である第1および第2の抑圧対象帯域を含む。
補聴システム1000は、第1および第2の帯域抑圧部1300,1400を備える。第1の帯域抑圧部1300は、第1の補聴装置1100の収音部1110から出力される音響信号のうち、第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、第1の補聴装置1100の出力部1120から出力される音を示す抑圧音響信号を生成する。第2の帯域抑圧部1400は、第2の補聴装置1200の収音部1210から出力される音響信号のうち、第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、第2の補聴装置1200の出力部1220から出力される音を示す抑圧音響信号を生成する。ここで、第1および第2の補聴装置1100,1200の出力部1120,1220から出力される音を示す抑圧音響信号はそれぞれ、音響信号に含まれる共通の非音声帯域の信号を含む。なお、第1の抑圧対象帯域には、音声の第1ホルマントが含まれ、第2の抑圧対象帯域には、音声の第2ホルマントが含まれることが望ましい。
これにより、第1の補聴装置1100では、音響信号のうち、音声帯域に含まれる第1の抑圧対象帯域の信号が抑圧されるため、音声帯域に含まれる第2の抑圧対象帯域の音と非音声帯域の音とが出力される。一方、第2の補聴装置1200では、音響信号のうち、音声帯域に含まれる第2の抑圧対象帯域の信号が抑圧されるため、音声帯域に含まれる第1の抑圧対象帯域の音と非音声帯域の音とが出力される。したがって、音声成分が多く含まれる音声帯域では、第1および第2の補聴装置1100,1200から互いに異なる周波数帯域の音が出力されるため、つまり、両耳分離補聴が行われるため、音声の明瞭度を向上することができる。また、音声帯域以外の非音声帯域では、第1および第2の補聴装置1100,1200から共通の周波数帯域の音が出力されるため、例えば騒音などの音を利用者に対してステレオ受聴させることができる。これにより、両耳分離補聴による音声の明瞭度向上と空間性の知覚を両立することができる。
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
図8は、本発明の実施の形態1における補聴システムの外観図である。
本実施の形態における補聴システム1000aは、左右の耳のそれぞれに装用される第1および第2の補聴装置100,110と、リモコン120とを備える。なお、補聴システム1000aは、図7に示す補聴システム1000に相当し、第1および第2の補聴装置100,110はそれぞれ、図7に示す第1および第2の補聴装置1100,1200に相当する。
第1の補聴装置100は、例えば左耳に装用され、聴力低下を補償するための増幅を行う本体と、その本体に搭載された収音部101、出力部106およびスイッチ109とを備えている。第2の補聴装置110は、第1の補聴装置100と同一の構成を有し、例えば右耳に装用される。具体的には、第2の補聴装置110は、聴力低下を補償するための増幅を行う本体と、その本体に搭載された収音部111、出力部116およびスイッチ119とを備えている。
収音部101,111は、図7の収音部1110,1210に相当し、例えばマイクロホンなどからなる。出力部106,116は、図7の出力部1120,1220に相当し、例えばイヤホン(レシーバ)からなる。
スイッチ109,119は、補聴モードの切り替えを行う。補聴モードには、少なくとも、本発明の実施の形態における両耳分離補聴モードと、通常補聴モードとがある。通常補聴モードに切り替えられると、補聴システム1000aは、両耳分離補聴を行わず、この補聴システム1000aの利用者(受聴者)に対して周囲の音をステレオ受聴させる。つまり、左耳に装用された第1の補聴装置100は、そこに搭載された収音部101によって収音された音を補聴処理(増幅)して出力部106から左耳に提示する。さらに、右耳に装用された補聴装置110は、そこに搭載された収音部111によって収音された音を補聴処理(増幅)して出力部116から右耳に提示する。これにより、利用者は周囲の音をステレオ受聴する。ステレオ受聴する場合、利用者はどの方向から音が聞こえてくるかを知覚できる。一方、両耳分離補聴モードに切り替えられると、補聴システム1000aは、後述する本発明に係る両耳分離補聴を行う。
リモコン120は、操作ボタンを備え、利用者からの操作を受け付け、その操作に応じて第1の補聴装置100および第2の補聴装置110の補聴処理を制御する。本実施の形態では、リモコン120は第1および第2の補聴装置100,110と無線通信を行なうことによってそれらの装置を制御する。例えば、リモコン120は、第1および第2の補聴装置100,110の増幅率を調整したり、上述の補聴モードの切り替えを行う。会話などで相手の声を特に明瞭に聴きたい場合には、利用者がこの切り替えを行い、第1および第2の補聴装置100,110を両耳分離補聴モードとして動作させることで、より明瞭な音声を聴くことができる。
なお、補聴モードの切り替えは、スイッチ109,119およびリモコン120の何れによっても可能である。つまり、本実施の形態では、スイッチ109,119およびリモコン120の少なくとも1つから操作受付部が構成されている。また、本発明の補聴システムでは、リモコン120は必須の構成ではなく、第1および第2の補聴装置100,110のみを備えていてもよい。
次に、実施の形態1の補聴システム1000aの詳細な構成について説明する。
図9は、本発明の実施の形態1における補聴システム1000aの機能ブロック図である。
第1の補聴装置100は、収音部101、分割部102、抑圧部103、混合部104、聴覚補償部105、出力部106、コマンド送受信部107、および抑圧制御部108を備える。収音部101は、収音し、その収音によって生成される音響信号を出力する。
分割部102は、音響信号を3つの周波数帯域の信号に分割する。3つの周波数帯域は、主成分として音声成分を多く含む周波数帯域である音声帯域と、その音声帯域以外の2つの非音声帯域である。2つの非音声帯域は、音声帯域よりも低域にある低非音声帯域と、音声帯域よりも高域にある高非音声帯域である。具体的には、分割部102は、音響信号を分割することによって、その音響信号から音声帯域の信号を抽出する。そして、分割部102は、その音声帯域の信号を抑圧部103に出力し、残りの低非音声帯域および高非音声帯域の信号を混合部104に出力する。
抑圧部103は、抑圧制御部108からモード切替信号を取得する。抑圧部103は、そのモード切替信号が両耳分離補聴モードへの切り替えを示している場合には、音声帯域の信号のうちの一部の帯域(第1の抑圧対象帯域)の信号のみを抑圧し、抑圧された音声帯域の信号を混合部104に出力する。一方、抑圧部103は、そのモード切替信号が通常補聴モードへの切り替えを示している場合には、音声帯域の信号を抑圧することなく、その音声帯域の信号を混合部104に出力する。
混合部104は、分割部102から2つの非音声帯域の信号を取得し、抑圧部103から音声帯域の信号を取得し、それらの3つの信号を混合する。ここで、音声帯域の信号が抑圧部103によって抑圧されていれば、混合部104はその混合によって抑圧音響信号を生成して出力する。また、音声帯域の信号が抑圧部103によって抑圧されていなければ、混合部104は、分割部102によって分割された音響信号を、混合によって元に戻すような処理を行い、その音響信号を出力する。
聴覚補償部105は、コマンド送受信部107からのコマンドに応じて、混合部104から出力される音響信号または抑圧音響信号に対する聴覚補償を行う。例えば、聴覚補償部105は、音響信号または抑圧音響信号の増幅率の調整(非線形増幅処理)を聴覚補償として行う。
出力部106は、聴覚補償部105によって聴覚補償された音響信号または抑圧音響信号によって示される音を出力する。
コマンド送受信部107は、リモコン120と双方向通信を行なうことによって、リモコン120からのコマンドを受信し、そのコマンドを抑圧制御部108または聴覚補償部105に出力する。例えば、コマンド送受信部107は、受信したコマンドが補聴モードの切り替えに関するコマンドであれば、そのコマンドを抑圧制御部108に出力し、受信したコマンドが聴覚補償に関するコマンドであれば、そのコマンドを聴覚補償部105に出力する。
抑圧制御部108は、コマンド送受信部107から補聴モードの切り替えに関するコマンドを取得し、そのコマンドに応じたモード切替信号を抑圧部103に出力する。
第2の補聴装置110は、第1の補聴装置100と同様の構成を有し、収音部111、分割部112、抑圧部113、混合部114、聴覚補償部115、出力部116、コマンド送受信部117および抑圧制御部118を備える。つまり、これらの各構成要素はそれぞれ、第1の補聴装置100の収音部101、分割部102、抑圧部103、混合部104、聴覚補償部105、出力部106、コマンド送受信部107、および抑圧制御部108と同様に構成されている。
ただし、第1および第2の補聴装置100,110の抑圧部103,113は、それぞれ音声帯域の信号のうちの一部の帯域の信号を抑圧する場合には、それぞれ異なる帯域の信号を抑圧する。つまり、抑圧部103,113は、モード切替信号が両耳分離補聴モードを示している場合には、両耳分離補聴(ダイコテック補聴)の処理を行う。例えば、抑圧部103は、音声帯域にある周波数fDよりも低い周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)の信号を抑圧し、抑圧部113は、音声帯域にある周波数fDよりも高い周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)の信号を抑圧する。
ここで、本実施の形態の両耳分離補聴は、音響信号のうちの音声帯域の信号を二つの周波数帯域に分割して左右それぞれの耳に提示する方法として説明を行う。つまり本実施の形態の両耳分離補聴では、例えば、音声帯域の信号のうち、第1ホルマント周波数又は時間マスキングによって聞こえにくくなっていた高周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)の信号を、左耳の第1の補聴装置100から出力し、第1ホルマント周波数を含む低周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)の信号を右耳の第2の補聴装置110から出力する。もちろん、高周波数帯域の信号と低周波数帯域の信号を、左右どちらの耳に提示するかはこれに限ったものではなく、右耳に高周波数帯域の信号を提示し、左耳に低周波数帯域の信号を提示してもよい。
また、本実施の形態では、第1の補聴装置100の分割部102、抑圧部103および混合部104を含む構成要素群が、図7に示す第1の帯域抑圧部1300に相当する。同様に、第2の補聴装置110の分割部112、抑圧部113および混合部114を含む構成要素群が、図7に示す第2の帯域抑圧部1400に相当する。
以下、上述の補聴システム1000aに備えられている各構成要素の処理について詳細に説明する。まず、分割部102の詳細な構成と、分割部102、抑圧部103及び混合部104の間の接続関係とを説明する。
図10は、分割部102の構成および接続関係を示す図である。
本実施の形態では、分割部102は、低域通過フィルタ(LPF)201、帯域通過フィルタ(BPF)202および高域通過フィルタ(HPF)203を備える。収音部101から出力された音響信号は、低域通過フィルタ(LPF)201、帯域通過フィルタ(BPF)202および高域通過フィルタ(HPF)203に入力されて濾波される。BPF202から出力される信号は、音声帯域の信号として抑圧部103に入力される。LPF201とHPF203から出力される信号は、それぞれ非音声帯域の信号として混合部104に入力され、抑圧部103から出力される信号と混合され、聴覚補償部105へ入力される。なお、分割部112も図10に示す分割部102と同様の構成を有し、分割部112と、抑圧部113及び混合部114との間の接続関係も、図10に示す接続関係と同様である。
このように、分割部102および分割部112は、LPF201、BPF202およびHPF203によって音響信号を3つの周波数帯域の信号に分割している。
次に、分割部102における音響信号の分割について図11を用いて詳細に説明する。なお、分割部112においても同様である。
図11は、分割部102における各フィルタの利得の周波数特性を示す図である。図11において実線301はLPF201の利得の例を示し、実線302はBPF202の利得の例を示し、実線303はHPF203の利得の例を示す。それぞれのフィルタの利得は、抑圧制御部108からの制御信号に基づいて、音響信号を不足なく分割するように設定される。以下、例えば、人の音声と、車などが発する低い周波数帯域の騒音と、ベル音などの高い周波数帯域の音とが混じった環境で、両耳分離補聴を行い、音声の明瞭度を向上させる場合について説明する。
まず、抑圧制御部108は、LPF201とBPF202による分割周波数fLを音声の第1ホルマント周波数f1より低い周波数に設定する。一般に第1ホルマント周波数f1は200Hzから1200Hzの範囲に存在しているため、抑圧制御部108は、分割部102に制御信号を送ることによって、分割周波数fLを例えば200Hzに設定する。同様に、BPF202とHPF203による分割周波数fHを、音声の第2ホルマント周波数f2より高い周波数に設定する。一般に第2ホルマント周波数f2は800Hzから3000Hzの範囲に存在しており、また、第2ホルマント周波数f2より高い周波数帯域のスペクトル形状で識別される子音も存在する。したがって、抑圧制御部108は、分割部102に制御信号を送ることによって、分割周波数fHを第2ホルマント周波数の上限値から離れた周波数、例えば4kHzに設定する。このように分割周波数fL,fHが設定されると、BPF202から出力される信号には、音声を識別するために必要な第1ホルマントと第2ホルマントが含まれる。一方、LPF201から出力される信号には、交通騒音など低い周波数の非音声成分が主に含まれ、HPF203から出力される信号には、自転車のベル音などの報知音の成分や、音声のうち第1ホルマントによるマスキングの影響が比較的小さな低域成分が含まれる。分割部102は、BPF202から出力される信号を抑圧部103へ出力し、LPF201およびHPF203から出力される信号を混合部104へ出力する。
抑圧部103は、周波数マスキング及び時間マスキングの影響によって聞こえにくくなる音声の高域成分を第1の補聴装置100から出力させるため、HPFで構成され、BPF202から出力される信号の低域周波数成分を抑圧する。
図12Aは、HPFとして構成された抑圧部103の利得の周波数特性を示す図である。抑圧部103のカットオフ周波数fDは、周波数マスキングおよび時間マスキングの影響を受けにくくするため、第1ホルマント周波数f1より高い周波数であり、かつ第2ホルマント周波数f2より低い周波数である、例えば1250Hzに設定される。
カットオフ周波数fDは、補聴システム1000aの利用者の聴覚特性に応じて予め設定されたものであってもよいし、抑圧制御部108からの制御信号に基づいて設定されるものであってもよい。
以上をまとめると、第1の補聴装置100における音声のホルマント周波数f1,f2と、分割部102の分割周波数fL,fHと、抑圧部103におけるカットオフ周波数fDは(式1)の関係にある。
fL<f1<fD<f2<fH ・・・(式1)
一方、第2の補聴装置110では、分割部112の帯域通過フィルタ(BPF)から出力される信号の高域周波数成分を抑圧するように、抑圧部113はLPFで構成される。
図12Bは、LPFとして構成された抑圧部113の利得の周波数特性を示す図である。抑圧部113のカットオフ周波数fDは、第1の補聴装置100の抑圧部103のカットオフ周波数fDと同様に、(式2)を満たすように設定される。
fL<f1<fD<f2<fH ・・・(式2)
なお、もちろん、本発明は、左側(第1の補聴装置100)から高域の音を提示し、右側(第2の補聴装置110)から低域の音を提示することに限定したものではなく、逆の関係にあってもよい。また、抑圧部103,113におけるカットオフ周波数fDはそれぞれ異なっていてもよい。
抑圧部103または113によって処理された信号と、分割部102または112から出力される信号とは、混合部104または114に入力される。混合部104,114は、入力された信号を加算する。混合部104,114による加算によって生成される信号は、周波数バンド毎のレベル補正による聴覚補償を行う聴覚補償部105,115にそれぞれ入力される。聴覚補償部105,115による聴覚補償によって生成された信号は、レシーバなどの出力部106,116によって音波として利用者の左右の耳にそれぞれ入力される。
図13は、聴覚補償部105,115の利得の周波数特性を示す図である。
聴覚補償部105,115は、図13に示すように、周波数が高いほど利得が大きくなるように、混合部104,114から出力される信号(音響信号または抑圧音響信号)を増幅することにより、上述の聴覚補償を行う。
図14は、補聴システム1000aの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。
第1の帯域抑圧部における利得は、上述の分割部102、抑圧部103および混合部104による利得制御によって、図14の(a)に示すように、分割周波数fLからカットオフ周波数fDまでの周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)において小さく設定される。一方、第2の帯域抑圧部における利得は、上述の分割部112、抑圧部113および混合部114による利得制御によって、図14の(b)に示すように、カットオフ周波数fDから分割周波数fHまでの周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
次に、本実施の形態における補聴システム1000aが両耳分離補聴を行う場合(両耳分離補聴モード)の一連の動作について説明する。
図15は、補聴システム1000aの第1の補聴装置100による両耳分離補聴を示すフローチャートである。なお、第2の補聴装置110も、図15に示す両耳分離補聴と同様の動作を行う。
まず、第1の補聴装置100の収音部101は、周囲の音を収音し、その収音によって生成される音響信号を分割部102に出力する(ステップS130)。分割部102は、収音部101から出力された音響信号を周波数帯域に応じて分割する(ステップS131)。このとき、分割部102は、音響信号の1サンプル毎にフィルタ処理を行ってもよいし、複数サンプル(例えば128サンプル)単位でフーリエ変換を行い、周波数領域で分割してもよい。また、ステップS131における分割によって、音響信号は、LPF201から出力される信号(低非音声帯域の信号)と、BPF202から出力される信号(音声帯域の信号)と、HPF203から出力される信号(高非音声帯域の信号)とに分割される。その結果、3つの信号が生成される。
次に、分割部102は、分割によって生成された信号ごとに、その信号がBPF202から出力された信号(音声帯域の信号)であるか否かを判定する(ステップS132)。ここで、分割部102は、BPF202から出力された信号であると判定すると(ステップS132のYES)、その信号を抑圧部103に出力する。
抑圧部103は、両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を抑圧制御部108から受信している場合、事前の設定に基づいてその信号(音声帯域の信号)のうちの高域又は低域の信号を抑圧する(ステップS133)。このとき、抑圧部103は、ステップS131の処理と同様に、音声帯域の信号の1サンプル毎にフィルタ処理を行ってもよいし、複数サンプル単位で周波数領域において抑圧してもよい。混合部104は、この抑圧された信号と、BPF202以外から出力された残り2つの信号とを混合する(ステップS134)。混合された信号は、抑圧音響信号として聴覚補償部105へ出力される。聴覚補償部105は、その抑圧音響信号に対して聴覚補償を行い、その聴覚補償された抑圧音響信号の示す音を出力部106に出力させる(ステップS135)。
なお、本実施の形態における補聴システム1000aが通常補聴を行う場合(通常補聴モード)には、第1の補聴装置100では、抑圧部103は、分割部102から出力された音声帯域の信号を敢えて抑圧せずに混合部104に出力する。第2の補聴装置110でも、第1の補聴装置110と同様、抑圧部113は、分割部112から出力された音声帯域の信号を敢えて抑圧せずに混合部114に出力する。
次に、補聴モードの切り替え制御について説明する。利用者は、会話などで相手の声をより明瞭に聴きたいときに、補聴システム1000aが両耳分離補聴を行うように、リモコン120を操作する。リモコン120は、その操作に応じた信号をコマンド(モード切替コマンド)として第1および第2の補聴装置100,110に送信し、第1および第2の補聴装置100,110のコマンド送受信部107,117はそれぞれ、そのコマンドを受信する。コマンド送受信部107,117はそれぞれ、そのコマンドを抑圧制御部108,118に出力する。そのコマンドを受信した抑圧制御部108,118はそれぞれ、抑圧部103,113に、両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を出力することによって、抑圧部103,113の動作を制御する。以上の動作によって補聴モードが通常補聴モードから両耳分離補聴モードに切り替わる。
ここで、補聴モードが通常補聴モードから両耳分離補聴モードに切り替わる際には、両耳の第1および第2の補聴装置100,110が両方とも両耳分離補聴モードに切り替わる方が望ましい。例えば、第1および第2の補聴装置100,110のうちの一方の補聴装置だけがリモコン120からの無線通信により送信されるコマンドを受信することができる場合には、一方の補聴装置と他方の補聴装置とで補聴モードが異なる場合が生じ得る。
そこで、第1および第2の補聴装置100,110が異なる補聴モードで動作することを防ぐためには、リモコン120が、補聴モードを切り替えるためのコマンド(モード切替コマンド)を送信するに先立って、第1および第2の補聴装置100,110において補聴モードの切り替えが可能か否かを確認するとよい。これは、例えば、補聴モードの切り替えが可能か否かを確認するためのモード切替確認コマンドと、モード切替確認コマンドを受信したことを通知する確認通知信号とを、リモコン120と第1および第2の補聴装置100,110との間で通信することによって実現できる。
図16は、第1および第2の補聴装置100,110がリモコン120からモード切替確認コマンドを受信して補聴モードを切り替える動作を示すフローチャートである。
まず、第1および第2の補聴装置100,110は、ユーザによる操作に基づいてリモコン120から送信されたモード切替確認コマンドを、コマンド送受信部107,117によって受信する(ステップS121)。第1および第2の補聴装置100,110は、ステップS121において受信が正常に行われれば、確認通知信号をコマンド送受信部107,117からリモコン120に送る(ステップS122)。リモコン120は、左右の第1および第2の補聴装置100,110の両方から確認通知信号を受信すると、モード切替コマンドを第1および第2の補聴装置100,110のコマンド送受信部107,117に送信する。コマンド送受信部107,117はモード切替コマンドを受信し(ステップS123)、抑圧制御部108,118は、そのモード切替コマンドが示す補聴モード(両耳分離補聴モードまたは通常補聴モード)を判定する(ステップS124)。ここで、そのモード切替コマンドが両耳分離補聴モードを示す場合には、第1および第2の補聴装置100,110は補聴モードを両耳分離補聴モードに切り替え、両耳分離補聴を行う(ステップS125)。一方、そのモード切替コマンドが通常補聴モードを示す場合には、第1および第2の補聴装置100,110は補聴モードを通常補聴モードに切り替え、通常補聴を行う(ステップS126)。
また、利用者は、リモコン120を操作する代わりに、第1および第2の補聴装置100,110の本体に搭載されているスイッチ109,119を操作してもよい。その場合、利用者は、相手の声をより明瞭に聴きたいときに、補聴システム1000aが両耳分離補聴を行うように、スイッチ109,119を操作する。コマンド送受信部107,117は、その操作に応じた信号を受信する。その結果、リモコン120による補聴モードの切り替え制御と同様の処理が行われる。
このとき、片側の補聴装置100または110に設けられたスイッチ109または119を操作するだけで、両耳の補聴装置100,110の補聴モードがともに同一の補聴モードに変更されてもよい。例えば、第1および第2の補聴装置100,110の間を無線通信媒体等によって接続する。そして、一方の補聴装置でスイッチによる補聴モードの切り替えが行われると、他方の補聴装置の補聴モードも同時に切り替るように、一方の補聴装置のコマンド送受信部107または117は、他方のコマンド送受信部117または107に、補聴モードの切り替えを促す制御信号を出力する。
スイッチ109,119の一方の操作のみにより補聴モードを切り替える場合についても、上述のリモコン120の操作により補聴モードを切り替える場合と同様、第1および第2の補聴装置100,110が両方とも同一の補聴モードに切り替わる方が望ましい。そこで、以下、第1の補聴装置100のスイッチ109を操作することで、第1および第2の補聴装置100,110の補聴モードが切り替わる例を説明する。なお、第2の補聴装置110のスイッチ119を操作する場合でも、スイッチ109を操作する場合と同様の処理が行われる。
まず、第1の補聴装置100のスイッチ109が操作されると、第1の補聴装置100のコマンド送受信部107は、その操作に応じてモード切替確認コマンドを送信する。第2の補聴装置110のコマンド送受信部117は、そのモード切替確認コマンドを受信し、その受信が正常に行われれば、確認通知信号を第1の補聴装置100に送る。第1の補聴装置100のコマンド送受信部107は、第2の補聴装置110から確認通知信号を受信し、その後、モード切替コマンドを第2の補聴装置110のコマンド送受信部117に送信する。第2の補聴装置110は、モード切替コマンドを受信した後に、補聴モードをそのモード切替コマンドに応じた補聴モードに切り替える。さらに、第1の補聴装置100は、モード切替コマンドを発信した後に、補聴モードをそのモード切替コマンドに応じた補聴モードに切り替える。また、第1の補聴装置100は、補聴装置間でコマンドまたは信号を送信及び受信することに要する時間を考慮し、スイッチ109が操作されてから一定の時間(例えば、1msec)が経過した後に補聴モードの切り替えを行ってもよい。
また、補聴モードの切り替えが行われた場合、出力部106,116から出力される音は変化するが、利用者にとってその切り替わりがわかりにくい可能性がある。そこで、補聴モードが切り替わったことを利用者に通知した方がよい。
つまり、本実施の形態におけるリモコン120は、補聴モードの切り替えが行われた場合には、記号、図形、または切り替えた旨の単語を表示することによって、補聴モードが切り替えられたこと、または、現在設定されている補聴モードを利用者に通知する。また、LED等による光及び光の点滅によって通知を行ってもよい。また、リモコン120がスピーカを装備している場合は、スピーカから補聴モードの切り替えを通知する音を出してもよい。また、リモコン120がバイブレータを装備している場合は、振動することで通知してもよい。また、リモコン120が通信手段を持っている場合には、リモコン120は他の機器に対し、補聴モードを切り替えた旨の信号を発信し、その信号を受信した他の機器に上述と同様の表示をさせてもよい。
また、リモコン120が補聴モードの切り替えを通知する代わりに、第1および第2の補聴装置100,110が通知してもよい。この場合、リモコン120のような光や表示による通知では、利用者はその通知に気づきにくい。したがって、音で通知するとよい。ただし、音で通知する場合、周囲の音と、補聴モードの切り替えを通知する音とを利用者が誤認識しないような工夫が必要になる。さらに、どちらの耳に、低域もしくは高域において強い音が出力されるかを、利用者に通知することが望ましい。例えば、二つの信号を第1および第2の補聴装置100,110からそれぞれ順番に提示して通知するとよい。低域と高域に帯域分割して、それぞれの耳に異なる周波数特性を提示する両耳分離補聴においては、補聴システム1000aは、まず、低域成分を聞く耳側に、ユーザが知覚できるカットオフ周波数fDより低い周波数(例えば500Hz)成分を含む、ユーザが知覚できる長さの短い通知音を提示する。次に、補聴システム1000aは、高域成分を聞く耳側に、ユーザが知覚できるカットオフ周波数fDより高い周波数(例えば1.5kHz)成分を含む、ユーザが知覚できる長さの短い通知音を提示する。通知音の出力中及び出力の前後において、補聴システム1000aは外部からの音のボリュームを下げる処理もしくは外部の音の消音を行ってもよい。さらに、それぞれの通知音は、空間的に定位しにくい、正弦波中心の信号とすることが望ましい。これにより、利用者は、両耳分離補聴モードの開始を、周囲音がある環境下でも知覚でき、さらにどちらの耳に低域が強調された音が出力されるか知ることができる。通知音を左右異なるタイミングで通知する手法を示したが、通知音が完全に重ならない時間範囲で左右同時に出力する瞬間があってもよい。しかし、左右同時に出力される時間割合が多いと、左右どちらから低域もしくは高域が強い信号が出力されるか、ユーザにはわかりにくくなるため、左右同時に出力される時間は通知音全体の50%以下の長さで提示することが望ましい。
また、本実施の形態における補聴システム1000aは、補聴モードを通常補聴モードから両耳分離補聴モードへ切り替える場合だけでなく、両耳分離補聴モードから通常補聴モードに切り替える際も、上記と同様の制御及び補聴モードの切り替えの通知を行う。通常補聴モードへの切り替えの際は、両耳分離補聴モードへの切り替えとは逆の順番で通知音を提示することがわかりやすい。しかし、どちらの耳側に低域又は高域が提示されるか通知する必要がないので、切り替えがわかればどのような音でもよい。
なお、第1および第2の補聴装置100,110は、バイブレータを装備している場合には、振動等によって補聴モードの切り替えを利用者に知らせてもよい。
以上のように、本実施の形態では、主要な音声成分を含む信号(音声帯域の信号)のうち、第1ホルマントを含む低域成分を片耳に提示し、第1ホルマント成分による周波数マスキング又は時間マスキングの影響で聞こえにくくなっていた第2ホルマント周波数の成分、及び子音成分を含む高域成分を他方の耳に提示する。これにより、音声成分を含む信号において発生する周波数マスキングまたは時間マスキングによる明瞭度低下を両耳分離補聴によって軽減することができる。
さらに、本実施の形態では、分割部102は、HPF203およびLPF201によって抽出された信号を、抑圧部103に通さず、混合部104に出力し、その信号をステレオ信号として音声帯域の信号に混合する。分割部112も、分割部102と同様、HPF203およびLPF201によって抽出された信号を、抑圧部113に通さず、混合部114に出力し、その信号をステレオ信号として音声帯域の信号に混合する。これにより、利用者は、主要な音声成分以外の周囲音をステレオ受聴することができる。
以上により、本実施の形態では、非音声帯域の音をステレオ受聴させながら両耳分離補聴を行うことで、図6に示すように、音源603〜605からの周囲騒音L、周囲騒音Rおよび報知音が、音源602の聞きたい音声と同じ方向から聞こえるという課題を解決することができる。つまり、本実施の形態では、主要な音声成分を含む信号は両耳分離補聴されるため、音源602からの聞きたい音声の明瞭度を向上させることができる。さらに、音源603〜605からの周囲騒音L、周囲騒音Rおよび報知音のそれぞれの成分は、ステレオ受聴されるため、音源603〜605がある方向から聞こえてくる。また、図5Cに示すような周波数特性を有する音源605からの報知音もステレオ受聴されるため、その報知音は、両耳分離補聴において高域を提示される側の耳の方向からではなく、実際に発生している方向から聞こえてくる。実際に発生している方向から音が聞こえることで、利用者は車のクラクション等の危険音の到来も知覚することができる。
このように、本実施の形態によると、音声の明瞭度を向上させながら環境音を空間的に分離して知覚できる。単に音声成分が多く含まれる帯域のみに両耳分離補聴(ダイコテック補聴)をするというのではなく、非音声成分が多く含まれる帯域を敢えてステレオ音声として提示する構成は、音声成分が多く含まれる帯域内の雑音を分離しやすくし、音声の明瞭性(雑音耐性)を強化させる。
また、従来の両耳分離補聴は、図4の環境に生じている音の全帯域のうち、大きなパワを持つ低域成分の音の全てを片耳にのみ提示するため、難聴者に圧迫感を与える恐れがある。一方、本実施の形態では、主要な音声成分より低い周波数成分を片方の耳だけではなく両方の耳で自然なステレオ感を持って受聴することできるため、利用者の違和感および疲労感を低減できる。
以上のように、本実施の形態では、環境に生じている音の自然な空間性を維持しながら、音声の明瞭度を向上させることができる。
(変形例1)
ここで、本実施の形態における第1の変形例について説明する。本変形例に係る補聴システムの第1および第2の補聴装置では、上記実施の形態の補聴システム1000aの第1および第2の補聴装置100,110と比べて、聴覚補償部の配置が異なる。
図17は、本変形例に係る補聴システムの機能ブロック図である。
本変形例に係る補聴システム1000bは、第1および第2の補聴装置100b,110bとリモコン120とを備える。
本変形例に係る第1および第2の補聴装置100b,110bは、上記実施の形態の第1および第2の補聴装置100,110と同様の構成要素を備えるが、聴覚補償部105,115のそれぞれが分割部102,112の前段に配置されている。つまり、聴覚補償部105,115はそれぞれ、収音部101,111から出力される音響信号に対して聴覚補償を行う。また、本変形例に係る第1および第2の補聴装置100b,110bでは、分割部102,112は、聴覚補償部105,115から出力される聴覚補償された音響信号を周波数帯域に応じて分割する。
このように、本変形例では、聴覚補償部105,115が分割部102,112の前段に配置されていても、上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
(変形例2)
ここで、本実施の形態における第2の変形例について説明する。本変形例に係る補聴システムでは、上記実施の形態の補聴システム1000aと比べて、分割部の構成が異なる。
図18は、本変形例に係る補聴システムの分割部の構成および接続関係を示す図である。
本変形例に係る分割部102aは、図18に示すように、全域通過フィルタ(APF)901と、BPF902と、減算部903とを備える。APF901は、収音部101から出力される音響信号を受信し、その音響信号に含まれる全ての周波数帯域の信号(全帯域の信号)を出力する。BPF902は、主要な音声成分を含む信号(音声帯域の信号)を抽出するフィルタであり、上記実施の形態の図10に示すBPF202と同様の特性を持っている。つまり、BPF902は、収音部101から出力される音響信号を受信し、その音響信号に含まれる音声帯域の信号を出力する。減算部903は、APF901から出力される全帯域の信号から音声帯域の信号を減算する、または取り除くことにより、非音声帯域の信号を生成する。
抑圧部103は、BPF902から出力される音声帯域の信号のうち、低域または高域の周波数帯域の信号を抑圧し、その抑圧された音声帯域の信号を出力する。混合部104は、減算部903によって生成された非音声帯域の信号と、抑圧部103から出力される抑圧された音声帯域の信号とを混合する。なお、このような分割部102aは、第1および第2の補聴装置100,110のそれぞれの分割部102,112の代わりに備えられていてもよく、何れか一方の代わりに備えられていてもよい。
このように、本変形例では、分割部102aの構成が分割部102,112と異なっていても、上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
(変形例3)
ここで、本実施の形態における第3の変形例について説明する。本変形例に係る補聴システムでは、上述の分割周波数fL,fHおよびカットオフ周波数fDを音響信号に応じて動的に変更する点に特徴がある。
図19は、本変形例に係る補聴システムの機能ブロック図である。
本変形例に係る補聴システム1000cは、第1および第2の補聴装置100c,110cとリモコン120とを備える。
本変形例に係る第1の補聴装置100cは、上記実施の形態の第1の補聴装置100と比べて、ホルマント算出部11をさらに備えるとともに、抑圧制御部108の代わりに抑圧制御部108cを備える。また、本変形例に係る第2の補聴装置110cも、第1の補聴装置100cと同様、上記実施の形態の第2の補聴装置110と比べて、ホルマント算出部21をさらに備えるとともに、抑圧制御部118の代わりに抑圧制御部118cを備える。
ホルマント算出部11,21はそれぞれ、収音部101,111から出力される音響信号に基づいて第1ホルマント周波数f1および第2ホルマント周波数f2を算出する。抑圧制御部108c,118cはそれぞれ、ホルマント算出部11,21によって算出された第1ホルマント周波数f1および第2ホルマント周波数f2を用いて、上述の(式1)および(式2)を満たす分割周波数fL,fHおよびカットオフ周波数fDを導出する。そして、抑圧制御部108c,118cはそれぞれ、その導出された分割周波数fL,fHで周波数帯域が分割されるように、分割部102,112を制御する。さらに、抑圧制御部108c,118cはそれぞれ、その導出されたカットオフ周波数fDよりも高いまたは低い周波数帯域の信号が抑圧されるように、抑圧部103,113を制御する。
このように、本変形例では、音響信号に応じて分割周波数fL,fHおよびカットオフ周波数fDを動的に変更するため、音声をより明瞭にし、より正確な空間性の知覚を実現することができる。
なお、本実施の形態および変形例1〜3では、抑圧部103,113を制御することによって、つまり抑圧部103,113に抑圧をさせるか否かによって、補聴モードの切り替えを行ったが、分割部102,112,102aを制御することによって補聴モードを切り替えてもよい。具体的には、抑圧制御部108,118はモード切替信号を抑圧部103,113ではなく分割部102,112,102aに出力する。例えば、分割部102は、そのモード切替信号を受信し、そのモード切替信号が両耳分離補聴モードへの切り替えを示す場合には、上述のように、音響信号を3つの周波数帯域の信号に分割し、音声帯域の信号のみを抑圧部103に出力し、他の非音声帯域の2つの信号を混合部104に出力する。一方、分割部102は、モード切替信号が通常補聴モードへの切り替えを示す場合には、音響信号を分割せず、その音響信号を混合部104に出力する。分割部112も、分割部102と同様の動作を行う。分割部102aは、モード切替信号を受信し、そのモード切替信号が両耳分離補聴モードへの切り替えを示す場合には、上述のように、音響信号を2つの周波数帯域の信号に分割し、音声帯域の信号のみを抑圧部103に出力し、他の非音声帯域の信号を混合部104に出力する。一方、分割部102aは、モード切替信号が通常補聴モードへの切り替えを示す場合には、音響信号を分割せず、その音響信号を混合部104に出力する。これにより、抑圧部103,113における処理の切り替えを省くことができ、両耳分離補聴モードと通常補聴とで処理系の共用化を図ることができる。
(実施の形態2)
本実施の形態における補聴システムは、実施の形態1と同様に、補聴モードを通常補聴モードと両耳分離補聴モードとに切り替え可能な補聴システムである。利用者は会話などで相手の声を特に明瞭に聴きたい場合には、本実施の形態における補聴システムのスイッチ等のインタフェースにより、その補聴モードを切り替える。両耳分離補聴モードに切り替えられた際には、本実施の形態における補聴システムは両耳分離補聴を行い、その結果、利用者はより明瞭な音声を聴くことができる。また、本実施の形態における補聴システムは、実施の形態1と比べて、第1および第2の帯域抑圧部の構成が異なる点に特徴がある。
図20は、本実施の形態における補聴システムの機能ブロック図である。
本実施の形態における補聴システム2000は、第1および第2の補聴装置700,710と、リモコン120とを備える。なお、第1の補聴装置700は例えば左耳に装用され、第2の補聴装置710は例えば右耳に装用される。また、本実施の形態では、実施の形態1の各構成要素と同一の構成要素については、実施の形態1と同一の符号を付して示し、詳細な説明を省略する。
第1の補聴装置700は、実施の形態1の第1の補聴装置100と同様に、収音部101、聴覚補償部105、出力部106、コマンド送受信部107、および抑圧制御部108を備える。また、第1の補聴装置700は、実施の形態1の第1の補聴装置100と異なり、分割部102、抑圧部103、および混合部104の代わりに、第1〜第4の帯域分割部701〜704、抑圧部705、および混合部706を備える。
第2の補聴装置710は、実施の形態1の第2の補聴装置110と同様に、収音部111、聴覚補償部115、出力部116、コマンド送受信部117、および抑圧制御部118を備える。また、第2の補聴装置710は、実施の形態1の第2の補聴装置110と異なり、分割部112、抑圧部113、および混合部114の代わりに、第1〜第4の帯域分割部711〜714、抑圧部715、および混合部716を備える。このように、本実施の形態における補聴システム2000では、実施の形態1と比べて、第1および第2の帯域抑圧部の構成が異なっている。
第1〜第4の帯域分割部701〜704はそれぞれ、収音部101から音響信号を取得し、その音響信号をそれぞれに設定された周波数帯域に応じて分割する。つまり、第1〜第4の帯域分割部701〜704はそれぞれ、その音響信号から、それぞれに設定された周波数帯域の信号を抽出して出力する。ここで、分割周波数fL,fHおよびカットオフ周波数fDが、fL<fD<fHの関係を満たす場合、第1の帯域分割部701は、分割周波数fLよりも低い周波数帯域または分割周波数fL以下の周波数帯域の信号を抽出し、第2の帯域分割部702は、分割周波数fL〜カットオフ周波数fDの周波数帯域の信号を抽出する。さらに、第3の帯域分割部703は、カットオフ周波数fD〜分割周波数fHの周波数帯域の信号を抽出し、第4の帯域分割部704は、分割周波数fHよりも高い周波数帯域または分割周波数fH以上の周波数帯域の信号を抽出する。
また、第2の補聴装置710の第1〜第4の帯域分割部711〜714もそれぞれ、上述の第1の補聴装置700の第1〜第4の帯域分割部701〜704と同様に構成されている。
第1の補聴装置700の抑圧部705は、抑圧制御部108から両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を受信している際には、第2の帯域分割部702によって抽出されて出力される信号を抑圧する。一方、抑圧部705は、抑圧制御部108から通常補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を受信している際には、第2の帯域分割部702によって抽出されて出力される信号を抑圧することなく、その信号を混合部706に出力する。
また、第2の補聴装置710の抑圧部715は、抑圧制御部118から両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を受信している際には、第3の帯域分割部713によって抽出されて出力される信号を抑圧する。一方、抑圧部715は、抑圧制御部118から通常補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を受信している際には、第3の帯域分割部713によって抽出されて出力される信号を抑圧することなく、その信号を混合部716に出力する。
つまり、補聴システム2000が通常動作モードで補聴処理を行う場合、第1の補聴装置700の第2の帯域分割部702から出力されて抑圧部705に入力された信号は、利得を1倍に設定するなどにより利得制御されずに混合部706に出力される。同様に、第2の補聴装置710の第3の帯域分割部713から出力されて抑圧部715に入力された信号は、利得制御されずに混合部716に出力される。
一方、補聴システム2000が両耳分離補聴モードで補聴処理を行う場合、第1の補聴装置700の抑圧部705は、抑圧制御部108からの制御信号に基づいて、第2の帯域分割部702から出力された信号を減衰させる。同様に、第2の補聴装置710の抑圧部715は、抑圧制御部118からの制御信号に基づいて、第3の帯域分割部713から出力された信号を減衰させる。
第1の補聴装置700の混合部706は、第1の帯域分割部701、第3の帯域分割部703および第4の帯域分割部704から出力される信号と、抑圧部705から出力される信号とを混合し、その混合によって生成される信号を音響信号または抑圧音響信号として出力する。また、第2の補聴装置710の混合部716は、第1の帯域分割部711、第2の帯域分割部712および第4の帯域分割部714から出力される信号と、抑圧部715から出力される信号とを混合し、その混合によって生成される信号を音響信号または抑圧音響信号として出力する。
図21は、第1〜第4の帯域分割部701〜704の利得の周波数特性を示す図である。
第1の帯域分割部701では、図21の実線304に示すように、分割周波数fLよりも低い周波数帯域または分割周波数fL以下の周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第2の帯域分割部702では、図21の実線305に示すように、分割周波数fL〜カットオフ周波数fDの周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第3の帯域分割部703では、図21の実線306に示すように、カットオフ周波数fD〜分割周波数fHの周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第4の帯域分割部704では、図21の実線307に示すように、分割周波数fHよりも高い周波数帯域または分割周波数fH以上の周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
このように、第1〜第4の帯域分割部701〜704では、音響信号を不足なく分割するように利得が設定されている。第1の帯域分割部701と第2の帯域分割部702による分割周波数fLは、音声の第1ホルマントより低い周波数、例えば200Hzに設定される。第2の帯域分割部702と第3の帯域分割部703によるカットオフ周波数fDは、音声の第1ホルマント周波数より高く第2ホルマントより低い周波数、例えば1250Hzに設定される。第3の帯域分割部703と第4の帯域分割部704による分割周波数fHは、音声の第2ホルマントより高い周波数、例えば4kHzに設定される。したがって、第1〜第4の帯域分割部701〜704は、音響信号を、低域の非音声成分を多く含む信号と、音声の第1ホルマント成分を含む信号と、音声の第2ホルマント成分を多く含む信号と、高域の非音声成分や、第1ホルマントによるマスキングの影響が比較的小さな音声成分を含む信号とに分割する。なお、第1〜第4の帯域分割部711〜714の利得の周波数特性も、図21に示す第1〜第4の帯域分割部701〜704の利得の周波数特性と同様に設定されている。
図22は、補聴システム2000の第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。
第1の補聴装置700の抑圧部705は、両耳分離補聴モードの場合、第2の帯域分割部702から出力される信号を抑圧する。したがって、第1の帯域抑圧部における利得は、上述の第1〜第4の帯域分割部701〜704、抑圧部705および混合部706による利得制御によって、図22の(a)に示すように、分割周波数fLからカットオフ周波数fDまでの周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
第2の補聴装置710の抑圧部705は、両耳分離補聴モードの場合、第3の帯域分割部713から出力される信号を抑圧する。したがって、第2の帯域抑圧部における利得は、上述の第1〜第4の帯域分割部711〜714、抑圧部715および混合部716による利得制御によって、図22の(b)に示すように、カットオフ周波数fDから分割周波数fHまでの周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
ここで、実施の形態1における抑圧部103,113から出力される信号に対して適用されたゲインは、図11の実線302によって示される利得と、図12A又は図12Bによって示される利得を乗算した利得となる。したがって、実施の形態1における抑圧部103,113から出力される信号に対して適用されたゲインは、それぞれ本実施の形態における第3の帯域分割部703および第2の帯域分割部712から出力される信号に対して適用されたゲインである、図22の実線306,305によって示される利得と一致する。また、実施の形態1における図11の実線301,303によって示される利得は、それぞれ本実施の形態における図22の実線304,307によって示される利得と等しい。すなわち、実施の形態1における抑圧部103,113を通過しない信号に対して適用された図11の実線301,303によって示される利得は、それぞれ本実施の形態における図22の実線304,307によって示される利得を加算した特性を持っている。よって、実施の形態1における高域提示側の第1の補聴装置100の特性は、図22の(a)に示すように、本実施の形態における実線304の利得と実線306の利得と実線307の利得とを加算した特性となる。一方、実施の形態1における低域提示側の第2の補聴装置110の特性は、図22の(b)に示すように、本実施の形態における実線304の利得と実線305の利得と実線307の利得とを加算した特性となる。
以下、本実施の形態における補聴システム2000が両耳分離補聴を行う場合(両耳分離補聴モード)の一連の動作について説明する。
図23は、補聴システム2000の第1の補聴装置700による両耳分離補聴を示すフローチャートである。なお、第2の補聴装置710も、図23に示す両耳分離補聴と同様の動作を行う。
まず、コマンド送受信部107によって受信されたモード切替コマンドが両耳分離補聴モードを示している場合、抑圧制御部108は、音響信号のうち、第2の帯域分割部702に対応する周波数帯域の信号を抑圧するように、抑圧部705の利得(例えば略0倍)を設定する(ステップS140)。
次に、第1の補聴装置700の収音部101は、周囲の音を収音し、その収音によって生成される音響信号を第1〜第4の帯域分割部701〜704に出力する(ステップS141)。第1〜第4の帯域分割部701〜704は、その音響信号を周波数帯域に応じて分離する(ステップS142)。このとき、第1〜第4の帯域分割部701〜704は、音響信号の1サンプル毎にフィルタ処理を行ってもよいし、複数サンプル(例えば128サンプル)単位でフーリエ変換を行い、周波数領域で分割してもよい。次に、抑圧部705は、第2の帯域分割部702から出力される信号(音声帯域のうちの高域または低域の信号)を、ステップS140で抑圧制御部108によって設定された利得を用いて、抑圧する(ステップS143)。混合部706は、この抑圧された信号と、第1の帯域分割部701、第3の帯域分割部703および第4の帯域分割部704から出力された信号とを混合する(ステップS144)。混合された信号は、抑圧音響信号として聴覚補償部105へ出力される。聴覚補償部105は、その抑圧音響信号に対して聴覚補償を行い、その聴覚補償された抑圧音響信号の示す音を出力部106に出力させる(ステップS145)。
次に、補聴モードの切り替え制御について説明する。利用者は、会話などで相手の声をより明瞭に聴きたいときに、補聴システム2000が両耳分離補聴を行うように、リモコン120を操作する。リモコン120は、その操作に応じた信号をコマンド(モード切替コマンド)として第1および第2の補聴装置700,710に送信し、第1および第2の補聴装置700,710のコマンド送受信部107,117はそれぞれ、そのコマンドを受信する。コマンド送受信部107,117はそれぞれ、そのコマンドを抑圧制御部108,118に出力する。そのコマンドを受信した抑圧制御部108,118はそれぞれ、抑圧部705,715に、両耳分離補聴モードへの切り替えを示すモード切替信号を出力し、抑圧部103,113の動作を制御する。このように、本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、視聴モードが通常視聴モードから両耳分離補聴モードに切り替わる。
なお、実施の形態1と同様に本実施の形態においても、利用者は、リモコン120を操作する代わりに、第1および第2の補聴装置700,710の本体に搭載されているスイッチ109,119を操作してもよい。その場合、利用者は、相手の声をより明瞭に聴きたいときに、補聴システム2000が両耳分離補聴を行うように、スイッチ109,119を操作する。コマンド送受信部107,117は、その操作に応じた信号を受信する。その結果、リモコン120による補聴モードの切り替え制御と同様の処理が行われる。このとき、片側の補聴装置700または710に設けられたスイッチ109または119を操作するだけで、その片側の補聴装置の補聴モードが変更されるだけでなく、両方の補聴装置700,710の補聴モードがともに同一の補聴モードに変更されてもよい。例えば、第1および第2の補聴装置700,710の間を無線通信媒体等によって接続する。そして、一方の補聴装置でスイッチによる補聴モードの切り替えが行われると、他方の補聴装置の補聴モードも同時に切り替るように、一方の補聴装置のコマンド送受信部107または117は、他方のコマンド送受信部117または107に、補聴モードの切り替えを促す制御信号を出力する。また、補聴モードを両耳分離補聴モードから通常動作モードに切り替える際も、上記と同様に、リモコン120またはスイッチ109,119の操作を介した制御が行われる。
以上のように、本実施の形態の補聴システムでは、実施形態1と同様の周波数応答を有する音を第1および第2の補聴装置700,710から出力することができる。その結果、第1の実施形態と同様に、図4に示す音源602の聞きたい音声と、音源603,604の周囲騒音L及び周囲騒音Rとを、空間的に分離して利用者に知覚させることができ、音声の明瞭性(雑音耐性)を強化することができる。また、音声より低い周波数帯域にある周囲騒音を片方の耳だけではなく両方の耳で自然なステレオ感を持って利用者は受聴することでき、片方の耳だけに低域を提示する従来方式より難聴者の疲労感を抑えることができる。さらに、音声より高い周波数帯域にあるベルなどの報知音を両方の耳で利用者はステレオ受聴するため、その報知音の方向または報知音の音源605の位置が知覚でき、報知音の到来方向を察知することができる。
なお、本実施の形態では、聴覚補償部105から独立して、第1〜第4の帯域分割部701〜704と、抑圧部705と、混合部706とからなる第1の帯域抑圧部を用い、さらに、聴覚補償部115から独立して、第1〜第4の帯域分割部711〜714と、抑圧部715と、混合部716とからなる第2の帯域抑圧部を用いることによって、両耳分離補聴を行ったが、両耳分離補聴に聴覚補償部105,115を利用してもよい。近年の補聴システムでは音響信号を複数の周波数帯域に分割して補聴処理をものが多くある。このような補聴システムにおいて、聴覚補償部が内部処理機能として第1〜第4の帯域分割部701〜704に相当する機能を有する場合がある。聴覚補償部105,115がこのような機能を有する場合には、第1および第2の帯域抑圧部の代わりに、その聴覚補償部105,115に周波数帯域毎の利得を制御させることによって、本実施の形態と同様の両耳分離補聴の機能を実現してもよい。
また、聴覚補償部105が、混合部706の前にあり、かつ内部処理機能として周波数帯域毎の利得を制御する機能を有する場合には、その聴覚補償部105に抑圧部705としての機能を持たせてもよい。つまり、聴覚補償部105は、第1〜第4の帯域分割部701〜704から出力された周波数帯域ごとの信号を受信し、その周波数帯域ごとの信号に対して内部パラメータを用いて聴覚補償を行い、聴覚補償された周波数帯域ごとの信号を混合部706に出力する。このとき、聴覚補償部105は、第2の帯域分割部701から出力された信号に対する内部パラメータを変更し、その信号を抑圧する。聴覚補償部115も、聴覚補償部105による上述の処理と同様の処理を実行する。
(変形例)
ここで、本実施の形態における変形例を説明する。本変形例に係る補聴システムの第1および第2の補聴システムでは、上記実施の形態のように音響信号を4つの周波数帯域の信号に分割することなく、3つの周波数帯域の信号に分割する点に特徴がある。
図24は、本変形例に係る補聴システムの機能ブロック図である。
本変形例に係る補聴システム2000aは、第1および第2の補聴装置700a,710aとリモコン120とを備える。
補聴装置700aは、収音部101、第2〜第4の帯域分割部702〜704、抑圧部705、混合部706、聴覚補償部105、出力部106、コマンド送受信部107、および抑圧制御部108を備える。第2の補聴装置710aは、収音部111、第2〜第4の帯域分割部712〜714、抑圧部715、混合部716、聴覚補償部115、出力部116、コマンド送受信部117、および抑圧制御部118を備える。つまり、本変形例に係る第1および第2の補聴装置700a,710aは、上記実施の形態の第1および第2の補聴装置700,710のように第1の帯域分割部701,711を備えていない。
図25は、第2〜第4の帯域分割部702〜704の利得の周波数特性を示す図である。
第2の帯域分割部702では、図25の実線305に示すように、カットオフ周波数fDよりも低い周波数帯域またはカットオフ周波数fD以下の周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第3の帯域分割部703では、図25の実線306に示すように、カットオフ周波数fD〜分割周波数fHの周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
第4の帯域分割部704では、図25の実線307に示すように、分割周波数fHよりも高い周波数帯域または分割周波数fH以上の周波数帯域に対して大きい利得(例えば1倍)が設定され、その他の周波数帯域に対しては小さい利得(例えば略0倍)が設定されている。
なお、カットオフ周波数fDおよび分割周波数fHと、第1ホルマント周波数f1および第2ホルマント周波数f2との関係は、上記実施の形態での関係と同じである。また、第2〜第4帯域分割部712〜714の利得の周波数特性も、第2〜第4の帯域分割部702〜704の利得の周波数特性と同様に設定されている。
図26は、補聴システム2000aの第1および第2の帯域抑圧部における利得の周波数特性の概念を示す図である。
第1の補聴装置700aの抑圧部705は、両耳分離補聴モードの場合、第2の帯域分割部702から出力される信号を抑圧する。したがって、第1の帯域抑圧部における利得は、上述の第2〜第4の帯域分割部702〜704、抑圧部705および混合部706による利得制御によって、図26の(a)に示すように、カットオフ周波数fDよりも低い周波数帯域、またはカットオフ周波数fD以下の周波数帯域(第1の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
第2の補聴装置710aの抑圧部715は、両耳分離補聴モードの場合、第3の帯域分割部713から出力される信号を抑圧する。したがって、第2の帯域抑圧部における利得は、上述の第2〜第4の帯域分割部712〜714、抑圧部715および混合部716による利得制御によって、図26の(b)に示すように、カットオフ周波数fDから分割周波数fHまでの周波数帯域(第2の抑圧対象帯域)において小さく設定される。
このように、本変形例では、カットオフ周波数fDよりも低い周波数帯域、またはカットオフ周波数fD以下の周波数帯域を第1の抑圧対象帯域として扱い、第1の補聴装置700aは、両耳分離補聴モードでは、その周波数帯域の信号を抑圧する。つまり、第1の補聴装置700aによって抑圧される第1の抑圧対象帯域は、上記実施の形態の第1の補聴装置700によって抑圧される第1の抑圧対象帯域よりも低域側に広い。したがって、本変形例の両耳分離補聴では、音声帯域よりも高い周波数帯域にある非音声帯域(高非音声帯域)の音だけが利用者にステレオ受聴される。ここで、図22の(a)に示す音声帯域よりも低い周波数帯域にある非音声帯域および音声帯域の中でも低域の音は、健常者にとっても比較的ステレオ受聴しにくいため、本変形例のように、低域側に広い第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧し、その帯域の音をステレオ受聴できないようにしても利用者に対するデメリットは比較的少ない。したがって、本変形例においても、上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。また、本変形例では、上記実施の形態と比べて、第1の帯域分割部701,711を省くことができるため、上記実施の形態よりも構成および処理を簡単にすることができる。
なお、本変形例においても上記実施の形態と同様に、両耳分離補聴に聴覚補償部105,115の機能を利用してもよい。
なお、本発明を実施の形態1および2とそれらの変形例に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の各実施の形態および変形例に限定されない。
例えば、実施の形態1および2とそれらの変形例における補聴システムは、例えばマイクロホンからなる収音部を備えたが、それらの代わりに、外部からの電気信号を取得する端子、または、その外部からの電気信号を無線で受信する受信機を備えていてもよい。あるいは、外部からの電気信号を有線および無線で取得してそれぞれの信号を混合する構成を備えていてもよい。また、出力部は、イヤホン、スピーカ、ヘッドフォン、骨導振動子のような振動子、または内耳用の電極等であってもよい。また、リモコンと第1および第2の補聴装置との通信には、無線通信媒体の代わりに有線通信媒体を用いてもよい。
さらに、以下のような場合も本発明に含まれる。
(1)上記の各装置の全部、もしくは一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成される。この場合、RAM又はハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するためのコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
(2)上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するためのコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
(3)上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、各装置に脱着可能なICカード又は単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカード又は前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカード又は前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカード又は前記モジュールは、その機能を達成する。このICカード又はこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
(4)本発明は、上記に示すコンピュータの処理で実現する方法であるとしてもよい。また、本発明は、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
また、本発明は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録したものとしてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray Disc)、半導体メモリなどである。また、本発明は、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
また、本発明は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号を、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
また本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
また前記プログラム又は前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、又は前記プログラム又は前記デジタル信号を、前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
(5)上記各実施の形態及び上記各変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
本発明に係る補聴システム及び補聴方法は、利用者に環境音(周囲音)を空間的に知覚させながら、音声の明瞭度を向上させることができるという効果を有し、例えば、補聴器、音響機器、携帯電話、あるいは、公共拡声などの音声再生または音声通話を行う装置全般に有用である。
100,100b,100c,700,700a 第1の補聴装置
110,110b,110c,710,710a 第2の補聴装置
101,111 収音部
102,112 分割部
103,113 抑圧部
104,114 混合部
105,115 聴覚補償部
106,116 出力部
107,117 コマンド送受信部
108,108c,118,118c 抑圧制御部
120 リモコン
201 LPF
202 BPF
203 HPF
901 APF
902 BPF
903 減算部
701,711 第1の帯域分割部
702,712 第2の帯域分割部
703,713 第3の帯域分割部
704,714 第4の帯域分割部
705,715 抑圧部
706,716 混合部
1000,1000a〜1000c,2000,2000a 補聴システム
1100 第1の補聴装置
1110 収音部
1120 出力部
1200 第2の補聴装置
1210 収音部
1220 出力部
1300 第1の帯域抑圧部
1400 第2の帯域抑圧部

Claims (15)

  1. 第1および第2の補聴装置を備える補聴システムであって、
    前記第1および第2の補聴装置のそれぞれは、
    収音し、収音された音を示す音響信号を出力する収音部と、
    前記音響信号の一部の周波数帯域の信号が抑圧されて生成された抑圧音響信号が示す音を出力する出力部とを備え、
    前記音響信号が示す音の周波数帯域は、音声成分を含む周波数帯域である音声帯域と、前記音声帯域以外の非音声帯域とからなり、前記音声帯域は、互いに異なる周波数帯域である第1および第2の抑圧対象帯域を含み、
    前記補聴システムは、
    前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第1の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第1の帯域抑圧部と、
    前記第2の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第2の帯域抑圧部とを備え、
    前記第1および第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号はそれぞれ、前記音響信号に含まれる共通の前記非音声帯域の信号を含む、
    補聴システム。
  2. 前記第1の帯域抑圧部は、
    前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とに分割する第1の分割部と、
    前記第1の分割部による分割によって生成された前記音声帯域の信号のうち、前記第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧する第1の抑圧部と、
    前記第1の抑圧部によって抑圧された前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とを混合することにより、前記第1の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第1の混合部とを備え、
    前記第2の帯域抑圧部は、
    前記第2の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とに分割する第2の分割部と、
    前記第2の分割部による分割によって生成された前記音声帯域の信号のうち、前記第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧する第2の抑圧部と、
    前記第2の抑圧部によって抑圧された前記音声帯域の信号と前記非音声帯域の信号とを混合することにより、前記第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第2の混合部とを備える
    請求項1記載の補聴システム。
  3. 前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域よりも低い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である低非音声帯域の信号と、前記音声帯域の信号と、前記音声帯域よりも高い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である高非音声帯域の信号とに分割し、
    前記第1の混合部は、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記音声帯域の信号と、前記低非音声帯域の信号と、前記高非音声帯域の信号とを混合する
    請求項2記載の補聴システム。
  4. 前記低非音声帯域における上限の周波数は、200Hz以上2500Hz未満であり、
    前記高非音声帯域における下限の周波数は、2500Hz以上であり、
    前記第1および第2の抑圧対象帯域の境界にある境界周波数は、前記上限の周波数と前記下限の周波数の間にある
    請求項3記載の補聴システム。
  5. 前記境界周波数は、前記収音部から出力される音響信号によって示される音声の第1ホルマントの周波数よりも高く、前記音声の第2ホルマントの周波数よりも低く、
    前記上限の周波数は、前記第1ホルマントの周波数よりも低く、
    前記下限の周波数は、前記第2ホルマントの周波数よりも高い
    請求項4記載の補聴システム。
  6. 前記第1の補聴装置は、さらに、
    前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号に基づいて前記第1ホルマントおよび第2ホルマントのそれぞれの周波数を算出するホルマント算出部と、
    前記ホルマント算出部によって算出された前記第1ホルマントおよび第2ホルマントのそれぞれの周波数に基づいて、前記上限の周波数、下限の周波数および境界周波数をそれぞれ前記第1の分割部および前記第1の抑圧部に設定する抑圧制御部とを備える
    請求項5記載の補聴システム。
  7. 前記第1の分割部は、
    前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記音声帯域の信号のみを通過させることによって、前記音響信号から前記音声帯域の信号を分離する帯域通過フィルタと、
    前記音響信号から前記音声帯域の信号を減算することによって、前記音響信号から前記非音声帯域の信号を分離する減算部とを備える
    請求項2記載の補聴システム。
  8. 前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記音声帯域よりも低い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である低非音声帯域の信号と、前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記音声帯域よりも高い周波数帯域であって前記非音声帯域の一部である高非音声帯域の信号とに分割し、
    前記第1の混合部は、前記低非音声帯域の信号と、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記高非音声帯域の信号とを混合する
    請求項2記載の補聴システム。
  9. 前記第1の分割部は、前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号を、前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記音声帯域よりも高い周波数帯域である前記非音声帯域の信号とに分割し、
    前記第1の混合部は、前記第1の抑圧部によって抑圧された前記第1の抑圧対象帯域の信号と、前記第2の抑圧対象帯域の信号と、前記非音声帯域の信号とを混合する
    請求項2記載の補聴システム。
  10. 前記補聴システムは、さらに、
    視聴モードを第1の視聴モードと第2の視聴モードに切り替えるための操作を受け付ける操作受付部を備え、
    前記第1の視聴モードに切り替えるための操作が前記操作受付部に受け付けられた場合には、
    前記第1および第2の帯域抑圧部は、前記第1および第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成し、
    前記第2の視聴モードに切り替えるための操作が前記操作受付部に受け付けられた場合には、
    前記第1および第2の帯域抑圧部は、前記音響信号を抑圧せず、
    前記第1および第2の補聴装置の出力部は、前記第1および第2の帯域抑圧部によって抑圧されていない前記音響信号が示す音を出力する
    請求項1記載の補聴システム。
  11. 前記操作受付部は、前記操作を受け付けた場合には、前記操作の内容を示すモード切替コマンドを前記第1および第2の補聴装置に送信し、
    前記第1の補聴装置は、
    前記第1の帯域抑圧部と、
    前記モード切替コマンドを受信する第1のコマンド送受信部と、
    前記第1のコマンド送受信部に受信された前記モード切替コマンドに応じて前記第1の帯域抑圧部を制御する第1の抑圧制御部とを備え、
    前記第2の補聴装置は、
    前記第2の帯域抑圧部と、
    前記モード切替コマンドを受信する第2のコマンド送受信部と、
    前記第2のコマンド送受信部に受信された前記モード切替コマンドに応じて前記第2の帯域抑圧部を制御する第2の抑圧制御部とを備える
    請求項10記載の補聴システム。
  12. 前記操作受付部は、
    前記操作を受け付けた場合には、モード切替確認コマンドを第1および第2の補聴装置に送信し、前記モード切替確認コマンドに対する応答である確認通知信号を第1および第2の補聴装置から受信した場合にのみ、前記モード切替コマンドを送信し、
    前記第1および第2のコマンド送受信部は、前記モード切替確認コマンドを受信した場合には、前記確認通知信号を送信する
    請求項11記載の補聴システム。
  13. 第1および第2の補聴装置のそれぞれによって収音された音に対して補聴を行う補聴方法であって、
    前記音の周波数帯域は、音声成分を含む周波数帯域である音声帯域と、前記音声帯域以外の非音声帯域とからなり、前記音声帯域は、互いに異なる周波数帯域である第1および第2の抑圧対象帯域を含み、
    前記補聴方法は、
    前記第1および第2の補聴装置のそれぞれが収音し、収音された音を示す音響信号を出力する収音ステップと、
    前記収音ステップで前記第1の補聴装置から出力される音響信号のうち、前記第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第1の補聴装置から出力される音を示す抑圧音響信号を生成する第1の帯域抑圧ステップと、
    前記収音ステップで前記第2の補聴装置から出力される音響信号のうち、前記第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第2の補聴装置から出力される音を示す抑圧音響信号を生成する第2の帯域抑圧ステップと、
    前記第1および第2の補聴装置のそれぞれが、前記第1および第2の帯域抑圧ステップで生成された抑圧音響信号によって示される音を出力する出力ステップとを含み、
    前記第1および第2の補聴装置から出力される音を示す前記抑圧音響信号はそれぞれ、前記音響信号に含まれる共通の前記非音声帯域の信号を含む
    補聴方法。
  14. 第1および第2の補聴装置を備える補聴システムのためのプログラムであって、
    前記第1および第2の補聴装置のそれぞれは、
    収音し、収音された音を示す音響信号を出力する収音部と、
    前記音響信号の一部の周波数帯域の信号が抑圧されて生成された抑圧音響信号が示す音を出力する出力部とを備え、
    前記音響信号が示す音の周波数帯域は、音声成分を含む周波数帯域である音声帯域と、前記音声帯域以外の非音声帯域とからなり、前記音声帯域は、互いに異なる周波数帯域である第1および第2の抑圧対象帯域を含み、
    前記プログラムは、
    前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第1の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第1の帯域抑圧ステップと、
    前記第2の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第2の帯域抑圧ステップとをコンピュータに実行させ、
    前記第1および第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号はそれぞれ、前記音響信号に含まれる共通の前記非音声帯域の信号を含む、
    プログラム。
  15. 第1および第2の補聴装置を備える補聴システムに用いられる集積回路であって、
    前記第1および第2の補聴装置のそれぞれは、
    収音し、収音された音を示す音響信号を出力する収音部と、
    前記音響信号の一部の周波数帯域の信号が抑圧されて生成された抑圧音響信号が示す音を出力する出力部とを備え、
    前記音響信号が示す音の周波数帯域は、音声成分を含む周波数帯域である音声帯域と、前記音声帯域以外の非音声帯域とからなり、前記音声帯域は、互いに異なる周波数帯域である第1および第2の抑圧対象帯域を含み、
    前記集積回路は、
    前記第1の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第1の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第1の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第1の帯域抑圧部と、
    前記第2の補聴装置の収音部から出力される音響信号のうち、前記第2の抑圧対象帯域の信号を抑圧することによって、前記第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号を生成する第2の帯域抑圧部とを備え、
    前記第1および第2の補聴装置の出力部から出力される音を示す前記抑圧音響信号はそれぞれ、前記音響信号に含まれる共通の前記非音声帯域の信号を含む、
    集積回路。
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