JPWO2010137160A1 - 肺線維症の予防もしくは治療薬 - Google Patents

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Abstract

プラスミノーゲン・アクチベーター・インヒビター−1(PAI−1)阻害活性を有し、下記式(1)〔式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基を意味し、R3は、シクロヘキシル基、又はフェニル基(ここでフェニル基は、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基、及びハロゲン原子から選ばれる置換基で置換されていてもよい。)を意味し、R4は、炭素数1から6個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基(ここでフェニル基は、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基、及びハロゲン原子から選ばれる置換基で置換されていてもよい。)を意味し、nは、1から8の整数を意味する。〕で表わされるプロパン二酸構造を有する化合物は、肺線維症の予防薬もしくは治療薬として有用である。

Description

本発明は、プラスミノーゲン・アクチベーター・インヒビター−1(PAI−1)阻害活性を有するプロパン二酸誘導体を有効成分として含有する肺線維症の予防薬もしくは治療薬に関する。
「肺線維症」とは、一般的に、炎症反応により肺胞組織が破壊され、その結果、線維芽細胞の増殖とコラーゲンを主とする細胞外マトリックスの過剰な増生による肺胞領域の再構築病変のために肺が硬化し、肺の機能が失われる疾患群を言う。肺線維症は進行すると、血液中の酸素濃度の低下によるチアノーゼ、呼吸困難や呼吸不全、心不全を引き起こし、更に肺がん等を合併する頻度が高いことも知られている。肺線維症の発症原因として、無機塵埃や有機塵埃の吸引、薬物の副作用、放射線治療、感染、関節リウマチや結合組織疾患等の膠原病等が挙げられる。また、発症原因の特定されない肺線維症は「特発性肺線維症」と呼ばれ、発症からの平均生存期間が4〜5年と極めて予後不良の疾患であり、本邦においては、難病(特定疾患)に指定されている。
現在、肺線維症の治療方法として、ステロイド等の抗炎症剤や免疫抑制剤を投与する方法があるが、奏効しない場合が多い。また、本邦においては、特発性肺線維症の治療薬として、「ピレスパ錠200mg(一般名:ピルフェニドン)」が認可されているが、副作用として光線過敏症が高頻度で現れることが知られている。したがって、より安全で有効性の高い薬剤の開発が待たれている。
近年、肺線維症を治療する方法の1つとして、プラスミノーゲン・アクチベーター・インヒビター−1(PAI−1)阻害剤を使用する方法が研究されている。PAI−1は、組織プラスミノーゲン・アクチベーター(t−PA)及びウロキナーゼ型プラスミノーゲン・アクチベーター(u−PA)を阻害し、プラスミンの生成を抑制することにより、フィブリン(線維素)の分解を阻害する。更に、PAI−1は、細胞外マトリックスの沈着、蓄積を促進し、線維化をはじめとした組織病変や血管壁硬化病変の進展に深く関与している。そのため、PAI−1阻害剤は、血栓症等の血管疾患や肺線維症等の線維化疾患の治療に有効な薬剤として期待されている。
肺線維症とPAI−1との関連については、例えば非特許文献1及び2には、ブレオマイシン誘発肺線維症モデルマウスを用いた試験において、PAI−1遺伝子欠損マウスは通常マウス(wild-type mice)に比べてブレオマイシン誘導肺線維症の進行が防がれていることが報告されている。
また、非特許文献2では、PAI−1遺伝子欠損マウスと通常マウスの皮下にポリビニルアルコールのスポンジを移植し、線維組織の蓄積を比較している。その結果、PAI−1遺伝子欠損マウスの方が線維組織の侵襲を遅らせることが報告されている。
一方で、非特許文献1及び3には、フィブリノーゲンのノックアウトマウスにおいて、ブレオマイシン処置後、コントロールマウスと同程度に肺線維症が進行することが示され、フィブリンが肺線維症の進行に必須ではないことが報告されている。
特許文献1及び2には、それぞれ下記式(3)及び(4)で表されるPAI−1阻害剤が、肺線維症の予防または治療に有用であることが開示されている。
Figure 2010137160

Figure 2010137160

特に特許文献2にはブレオマイシン誘発肺線維症モデルマウスを使った、上記式(4)で表されるPAI−1阻害剤の一日2回の強制経口投与(200mg/kg)で、ブレオマイシン投与日から全期間に亘って投与した場合、肺線維症の予防または治療に有用であることが開示されているが、さらに効果の高い肺線維症の予防または治療に有用なPAI−1阻害剤が望まれている。
特許文献3及び4、そして非特許文献4には、プロパン二酸誘導体が、プラスミノーゲン・アクチベーター(PA)活性促進作用及びPAI−1阻害活性を有し、血栓溶解剤又は抗血栓剤に有用であることが記載され、また、特許文献4及び非特許文献4には、プロパン二酸誘導体が抗悪性腫瘍剤としても有用であることが記載されている。しかしながら、これらのプロパン二酸誘導体の肺線維症に対する有効性については、全く検討されていない。
特表2004−534817号公報 国際公開第2007/083689号パンフレット 国際公開第2004/011442号パンフレット 国際公開第2007/138705号パンフレット
The Journal of Clinical Investigation, Vol.106, No.11, Page.1341-1350 (2000) American Journal of Pathology, Vol.163, No.2, Page.445-452 (2003) American Journal of Pathology, Vol.157, No.3, Page.703-708 (2000) Carcinogenesis, Vol.29, No.4, Page.824-829 (2008)
本発明の課題は、PAI−1阻害活性を有するプロパン二酸誘導体を用いた肺線維症の予防薬もしくは治療薬を提供する事にある。
特許文献3及び4、そして非特許文献4には、プロパン二酸誘導体が、PA活性促進作用及びPAI−1阻害活性を有し、また、特許文献4及び非特許文献4には、プロパン二酸誘導体が抗悪性腫瘍剤としても有用であることが記載されているものの、これらのプロパン二酸誘導体の肺線維症に対する有効性については、全く検討されていない。
そこで、本発明者らは、PAI−1と肺線維症の関連性に着目し、PAI−1阻害活性を有するプロパン二酸誘導体を用いた新たな肺線維症の予防薬もしくは治療薬の開発を鋭意研究し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、下記式(1)
Figure 2010137160

〔式(1)において、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基を意味し、
は、シクロヘキシル基、又はフェニル基(ここでフェニル基は、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基、及びハロゲン原子から選ばれる置換基で置換されていてもよい。)を意味し、
は、炭素数1から6個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基(ここでフェニル基は、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基、及びハロゲン原子から選ばれる置換基で置換されていてもよい。)を意味し、
nは、1から8の整数を意味する。〕
で表されるプロパン二酸誘導体、又は薬学的に許容されるその塩を有効成分として含有する、肺線維症の予防もしくは治療するための医薬組成物に関する。
更に、本発明は、肺線維症の予防薬もしくは治療薬を製造するための式(1)で表されるプロパン二酸誘導体、又は薬学的に許容されるその塩の使用に関する。
更に、本発明は、式(1)で表されるプロパン二酸誘導体、又は薬学的に許容されるその塩をヒト又は非ヒト哺乳動物に投与することを含む、肺線維症の予防もしくは治療方法に関する。
本発明のプロパン二酸誘導体は、ブレオマイシン誘発肺線維症モデルマウスを用いた試験において、投与後数日間の炎症期とそれに続く肺の線維化期の過程で特に肺の線維化過程を有意に抑制した。従って、本発明の化合物は、肺線維症の予防薬もしくは治療薬として特に優れた効果を奏する。更には、本発明のプロパン二酸誘導体は、1000ppm程度で溶解した水溶液を飲水として、ブレオマイシン誘発肺線維症モデルマウスに投与した場合に、特に肺の線維化過程を有意に抑制したことから、低投与量でも効果を発揮することができ、肺線維症の予防薬もしくは治療薬として特に優れた効果を奏する。また、本発明のプロパン二酸誘導体は、水に対する溶解度が高く、耐光性も高く、製剤化が容易で、安定した製剤とすることができ、各種の点において優れたものである。
図1は、実施例4における投与スケジュールである。ブレオマイシン投与後7日間を前期(炎症が惹起される期間:炎症期)、ブレオマイシン投与後8日後から20日後を後期(線維化が惹起される期間:線維化期)とし、化合物(1)の2Na塩を1000ppmで溶解した水溶液を飲水として投与した。 図2は、実施例4における気管支肺胞洗浄液(BALF)中のPAI−1濃度(ng/mL)を示したグラフである。 図3は、実施例4におけるヒドロキシプロリン量を示したグラフである。第2群(後期)において、コントロール群と比較して、有意にヒドロキシプロリン量が減少した。(*:p<0.05)
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明において、「炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基」としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
「炭素数1から6個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基」としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、へキシル基、イソヘキシル基、ネオヘキシル基等が挙げられる。
「炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基」としては、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。
「ハロゲン原子」としては、具体的には塩素原子、臭素原子、フッ素原子等が挙げられる。
本発明の式(1)で表されるプロパン二酸誘導体において、Rがフェニル基、Rがフェニル基を表す場合には、下記式(2)
Figure 2010137160

[式(2)において、R、R及びnは、前記定義と同じであり、Rは、水素原子、又はハロゲン原子を意味し、Rは、水素原子、又は炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基を意味する。]
で表されるプロパン二酸誘導体が好ましい。
本発明の式(1)で表されるプロパン二酸誘導体において、好ましい具体的な化合物として、以下の化合物が挙げられる。
(1).[5−[[6−[4−フェニル−6−(フェニルメトキシ)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸
(2).[3−[[6−[4−[(2−フルオロフェニル)メトキシ]−6−フェニル−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]プロピル]プロパン二酸
(3).[3−[[6−[4−[(2−フルオロフェニル)メトキシ]−6−(4−メトキシフェニル)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]プロピル]プロパン二酸
(4).[5−[[6−[4−(シクロヘキシルメトキシ)−6−(1,1−ジメチルエチル)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸
(5).[5−[[6−[4−(1,1−ジメチルエチル)−6−[(4−フルオロフェニル)メトキシ]−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸
(6).[5−[[6−[4−[(2−クロロフェニル)メトキシ]−6−(1,1−ジメチルエチル)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸。
前記した化合物の構造を表1に示す。
Figure 2010137160
本発明のプロパン二酸誘導体は、いずれも公知化合物であり、これらは特許文献3に記載の方法に従って製造することができるが製造方法はこれに限定されず、当業者に周知の製造法により製造することもできる。
本発明のプロパン二酸誘導体は、薬学的に許容される塩であってもよい。ここで、「薬学的に許容される塩」とは、医薬として許容される非毒性の塩基又は酸から調製される塩を表す。本発明で好ましく使用される前記式(1)で表されるプロパン二酸誘導体の塩は、無機塩基及び有機塩基を含む医薬として許容される非毒性の塩基から調製する事ができる。無機塩基に由来する塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが含まれる。特に好ましくはカリウム塩及びナトリウム塩である。
医薬として許容される有機の非毒性塩基に由来する塩には、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩及び環状アミン塩などが含まれる。
また、前記式(1)で表されるプロパン二酸誘導体は、無機酸及び有機酸を含む医薬として許容される非毒性の酸から塩を調製する事ができる。非毒性の酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、リン酸などが挙げられる。
本発明のプロパン二酸誘導体を投与する際には、単独で投与してもよいが、一般的には、医薬として許容される担体および/又は添加剤と共に、通常使用される製剤の形態で投与される。
「医薬として許容される担体」としては、固体、液体、又は気体が可能であり、固体担体としては、アラビアゴム、寒天、ゼラチン、タルク、ラクトース等が挙げられる。液体担体としては、水、オリーブ油、糖シロップ等が挙げられ、気体担体としては窒素等が挙げられる。
本発明のプロパン二酸誘導体は、通常、ヒトを含む哺乳動物に対して、経口的に、非経口的に、経皮的に、注射により、吸入又はスプレーにより、舌下的に、経直腸的に、又は経膣的に投与することができる。
経口投与のための製剤は、上記した医薬として許容される担体と共に、必要に応じて、薬理学的、製剤学的に許容し得る添加剤等を加え、常法により錠剤又はカプセル剤として製造することができる。
経口剤には、例えばメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、各種デンプン、デキストリン等の賦形剤、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン等の結合剤、マンニトール、クエン酸、クエン酸ナトリウム、砂糖等の矯味剤、その他、崩壊剤、湿潤剤、コーティング剤等の添加剤を用いることができる。
経口用液剤は、水性または油性懸濁液、溶液、乳濁液、シロップ等の形態であってもよく、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、プロピレングリコール等の懸濁剤、ショ糖もしくはサッカリンのような甘味剤、あるいはゼラチン、マクロゴール(PEG)、プロピレングリコール脂肪酸エステルのような乳化剤を含有できる。
注射による投与は、静脈内、動脈内、筋肉内及び皮下注射等を意味する。本発明のプロパン二酸誘導体の注射剤は、無菌の水溶液として調製することができる。更に、注射可能な溶液に調製するための無菌粉末の形態にすることができる。
注射剤用の担体としては、例えば溶解剤としては水が、溶解補助剤としてはエタノール、グリセロール、プロピレングリコール等が使用できる。その他、pH調節剤、等張化剤、安定化剤等の製剤成分も使用することができる。
また、直腸投与のために坐剤にすることができる。坐剤は、カカオ脂、ラウリン脂、マクロゴール、グリセロゼラチン、ステアリン酸ナトリウム又はそれらの混合物など、適当な物質を基剤とし、必要に応じて乳化剤、懸濁化剤、保存剤等を加えることができる。
吸入剤としては、エアゾール剤、吸入用粉末剤、吸入用液剤(例えば、吸入用溶液、吸入用懸濁剤等)、またはカプセル状吸入剤が挙げられる。吸入用液剤は、用事に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁させて使用してもよい。これらの吸入剤は、適当な吸入容器を用いて適用することができ、例えば、吸入用液剤を投与する際には、噴霧器等を、吸入用粉末剤を投与する際には粉末薬剤用吸入投与器等と使用することができる。また、これらの吸入剤には、必要に応じて添加剤を適宣配合してもよい。添加剤としては、賦形剤、結合剤、滑沢剤、保存剤、安定化剤等を使用することができる。
本発明のプロパン二酸誘導体は、前記したいずれかの投与経路によっても投与することができ、投与量は、0.1〜300mg/kgの範囲で患者に投与することができる。更に、本発明のプロパン二酸誘導体は、1日1回以上投与することができる。なお、これらの数値はあくまでも例示であり、投与量は患者の症状等、種々の条件によって適宣増減される。
本発明のプロパン二酸誘導体は、溶解性試験において、水への溶解性が優れていた。更に、安定性試験において、その水溶液は安定であった。したがって、前述した製剤の原料として容易に利用することができ、例えば、経口剤、注射剤、吸入剤等の製剤化に非常に有利である。
以下、本発明を、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって何ら限定されるものではない。
本発明のプロパン二酸誘導体の溶解性
本発明に用いられる代表的な化合物(1)の2Na塩:[5−[[6−[4−フェニル−6−(フェニルメトキシ)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸・二ナトリウム塩の水への溶解性試験を以下に示す。
1.試験方法
化合物(1)の2Na塩に、20±2℃の水を加え30秒間強く振り混ぜ、5分間静置した。この操作を化合物(1)の2Na塩が完全に溶解するまで繰り返し、最終的に溶解に要した水の量を求めた。同様の操作で、化合物(1)の2Na塩の45±5℃の水への溶解度を求めた。
2.結果
表2に、化合物(1)の2Na塩の水への溶解度を示した。化合物(1)の2Na塩は、水への溶解性が優れていた。
Figure 2010137160
本発明のプロパン二酸誘導体の水溶液中での安定性
本発明に用いられる化合物(1)の2Na塩の水溶液中での安定性試験を以下に示す。
1.試験方法
化合物(1)の2Na塩1gに注射用蒸留水を加え100mLとし試料溶液とした。試料溶液を二等分し、一方を遮光し、もう一方を非遮光とした。それぞれ35℃で11日間保存し、その間、高速液体クロマトグラフィーを用いて経時的に測定し、安定性を調査した。
高速液体クロマトグラフィー測定条件
カラムにはYMC-Pack ODS-A A-302(株式会社ワイエムシィ)を用い、カラム温度は40℃付近の一定温度に保持した。移動相としてテトラヒドロフラン/0.1%リン酸(54:46)混合液を用いた。流量は化合物(1)の保持時間が約7分になるように調整した。検出器には紫外吸光光度計(測定波長:265nm)を用いた。
2.結果
表3及び表4に、測定結果を示した。化合物(1)の2Na塩の水溶液は、35℃で11日間、遮光下もしくは非遮光下で安定であった。
Figure 2010137160
Figure 2010137160
本発明に用いられる代表的な製剤例を以下に示す。
製剤例1
錠剤の製造
本発明のプロパン二酸誘導体 10.0g
乳糖 9.0g
ヒドロキシプロピルセルロース 2.0g
結晶セルロース 7.7g
ステアリン酸マグネシウム 0.3g
タルク 1.0g
以上を、常法により、本発明のプロパン二酸誘導体100mgを含有する錠剤とする。
製剤例2
注射剤の製造
本発明のプロパン二酸誘導体2.8gを蒸留水4000mLに溶解し、濾塵フィルターで除塵後、溶液を0.2μm除菌フィルターにて滅菌し、1mLずつバイアル瓶に充填し、常法により凍結乾燥し、1アンプル中本発明化合物0.7mgを含有する注射用剤4000本を得た。本製剤は、1アンプルにつき1mLの注射用蒸留水を加えて使用する。
製剤例3
吸入用粉末剤の製造
本発明のプロパン二酸誘導体5.6g及びマルトース400gを蒸留水4000mLに溶解後、常法により凍結乾燥し、粉砕して、吸入用粉末剤を得た。
本発明のプロパン二酸誘導体の肺線維症に対する予防もしくは治療効果
本発明者らは、本発明のプロパン二酸誘導体について、生体内における抗線維化作用を検討するため、ブレオマイシンを経気管的に投与することで肺線維症を誘導したモデルマウスを用いて試験を実施した。この肺線維症実験モデルは、病理学的所見において、炎症性細胞の増加、線維化の指標となる細胞外マトリックス構成コラーゲン成分のヒドロキシプロリン量の増加等、臨床における特発性肺線維症と類似しており、広く用いられている。
ブレオマイシン投与後8日目までに急性炎症反応が発生し、続いて線維素生成の変化により細胞外マトリックスが蓄積し、肺構造の歪みが生じる。ブレオマイシン投与後9日目頃に炎症と線維症の入れ替わり(switch)が起きるとされている(The International Journal of Biochemistry & Cell Biology Vol.40, No.3, Page.362-382 (2008))。
ブレオマイシン誘発肺線維症モデルの炎症期への投与または炎症期からの投与により、抗線維化効果があったとされる薬剤は多く報告されている。しかしながら、線維化期からの投与により、抗線維化効果があったとされる報告は非常に少ない(The International Journal of Biochemistry & Cell Biology Vol.40, No.3, Page.362-382 (2008))。
試験例1
ブレオマイシンにより誘発される肺線維症に対するインビボ効果
1.被験物質
被験物質として、本発明の化合物(1)の2Na塩:[5−[[6−[4−フェニル−6−(フェニルメトキシ)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸・二ナトリウム塩を用いた。
2.試験方法
C57BL/6マウス(雌、12週齢、体重20〜23g)をペントバルビタールの腹腔内投与による麻酔をかけ、気管を切開し、生理食塩水に溶解したブレオマイシン(日本化薬)(1.5mg/kg)を経気管的に投与した。
被験物質投与群は、2群に分類し、各群6匹ずつのマウスを使用した。第1群へは、ブレオマイシン投与後7日間(すなわちブレオマイシン投与によって炎症が惹起される期間:炎症期)に亘って化合物(1)の2Na塩を1000ppmで溶解した水溶液を飲水として投与した。第2群へは、ブレオマイシン投与後8日後から20日後(すなわちブレオマイシン投与によって線維化が惹起される期間:線維化期)に亘って化合物(1)の2Na塩を1000ppmで溶解した水溶液を飲水として投与した。各群1日平均3〜4gの水溶液を内服し、化合物(1)の2Na塩の内服量は平均約20mg/体重kg/日/マウスとなった。図1に、投与スケジュールを示した。
一方、コントロール群は6匹のマウスを使用し、ブレオマイシンの投与のみ行い、被験物質の投与を行わなかった。また、正常群は3匹のマウスを使用し、ブレオマイシン及び被験物質の投与を行わなかった。尚、マウスからの検体採取は全て、炭酸ガスを用いた安楽死後実施した。
ブレオマイシン投与から20日後、気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取し、液中のPAI−1濃度(ng/mL)を、ELISAキット(Mouse PAI−1 ELISA kit ,innovative research Inc.)で測定した。次いで、肺線維化評価のため、ヒドロキシプロリン量を測定した。なお、肺組織のヒドロキシプロリン量は、Kivirikkoらの方法(Anal. Biochem. 19, 249-255 (1967))に従って、肺組織の加水分解物中の量として測定した。統計学的解析には、マン・ホイットニーのU検定を用いた。
3.結果
図2に、各群の気管支肺胞洗浄液(BALF)中のPAI−1濃度(ng/mL)のグラフを示した。
図3に、各群のヒドロキシプロリン量のグラフを示した。線維化期のみに化合物(1)の2Na塩を投与した第2群(後期)で、コントロール群と比較して、有意にヒドロキシプロリン量が減少することが示された。この結果から、PAI−1阻害作用を有する化合物(1)の2Na塩が、ブレオマイシンによって惹起された肺の線維化過程を抑制することが示された。
なお、化合物(1)の2Na塩は、飲水に混ぜ、定期的な強制経口投与でなく、自由摂取により経口投与したが、一回の飲水量及び飲水回数に左右されることなく、ブレオマイシンによって惹起された肺の線維化過程を抑制する顕著な有効性を示した。かかる効果は、本発明のプロパン二酸誘導体の特異的な生体内における薬物動態に起因しうる。
以上により、ブレオマイシン投与後7日間を肺の炎症が惹起される炎症期、8日後以降を線維化が惹起される線維化期とし、本発明のプロパン二酸誘導体を炎症期及び線維化期で投与し、ヒドロキシプロリン量を測定し評価した。その結果、線維化期で有意にヒドロキシプロリン量が減少することが確認され、本発明のプロパン二酸誘導体は、肺の線維化過程を顕著に抑制することが示された。
臨床上、肺線維症で問題になるのは線維化過程が持続的に進行していくことであり、ブレオマイシン誘発肺線維症モデルの肺線維化期からの投与で抗線維化作用を示したということは、この持続的に進行する線維化を抑制、少なくとも遷延させる可能性が高いことを意味するもので臨床的な有用性が高い可能性を示唆するものである。
以上の試験結果から、本発明のプロパン二酸誘導体が肺線維症の予防薬もしくは治療薬として極めて有効であることを新たに見出した。
本発明のPAI−1阻害活性を有するプロパン二酸誘導体は、肺線維症の予防もしくは治療に使用することが可能であり、肺線維症の予防薬もしくは治療薬として有用である。
以上により、ブレオマイシン投与後7日間を肺の炎症が惹起される炎症期、8日後以降を線維化が惹起される線維化期とし、本発明のプロパン二酸誘導体を炎症期及び線維化期で投与し、ヒドロキシプロリン量を測定し評価した。その結果、本発明のプロパン二酸誘導体を線維化期で投与することで有意にヒドロキシプロリン量が減少することが確認され、本発明のプロパン二酸誘導体は、肺の線維化過程を顕著に抑制することが示された。

Claims (7)

  1. 下記式(1)
    Figure 2010137160

    [式(1)において、
    及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基を意味し、
    は、シクロヘキシル基、又はフェニル基(ここでフェニル基は、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基、及びハロゲン原子から選ばれる置換基で置換されていてもよい。)を意味し、
    は、炭素数1から6個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基(ここでフェニル基は、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基、及びハロゲン原子から選ばれる置換基で置換されていてもよい。)を意味し、
    nは、1から8の整数を意味する。]
    で表されるプロパン二酸誘導体又は薬学的に許容されるその塩を有効成分として含有する、肺線維症を予防もしくは治療するための医薬組成物。
  2. プロパン二酸誘導体又は薬学的に許容されるその塩が、下記式(2)
    Figure 2010137160

    [式(2)において、
    、R及びnは、前記定義と同じであり、
    は、水素原子、又はハロゲン原子を意味し、Rは、水素原子、又は炭素数1から4個の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基を意味する。]
    で表されるプロパン二酸誘導体又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
  3. プロパン二酸誘導体又は薬学的に許容されるその塩が、下記の化合物群から選ばれるプロパン二酸誘導体又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
    [5−[[6−[4−フェニル−6−(フェニルメトキシ)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸、
    [3−[[6−[4−[(2−フルオロフェニル)メトキシ]−6−フェニル−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]プロピル]プロパン二酸、
    [3−[[6−[4−[(2−フルオロフェニル)メトキシ]−6−(4−メトキシフェニル)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]プロピル]プロパン二酸、
    [5−[[6−[4−(シクロヘキシルメトキシ)−6−(1,1−ジメチルエチル)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸、
    [5−[[6−[4−(1,1−ジメチルエチル)−6−[(4−フルオロフェニル)メトキシ]−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸、及び
    [5−[[6−[4−[(2−クロロフェニル)メトキシ]−6−(1,1−ジメチルエチル)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸。
  4. プロパン二酸誘導体又は薬学的に許容されるその塩が、[5−[[6−[4−フェニル−6−(フェニルメトキシ)−2−ピリミジニル]−2−ナフタレニル]オキシ]ペンチル]プロパン二酸、又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  5. プロパン二酸誘導体又は薬学的に許容されるその塩と共に、医薬として許容される担体及び/又は添加剤を含有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  6. 肺線維症の予防薬もしくは治療薬を製造するための、請求項1から4のいずれか1項に記載のプロパン二酸誘導体又は薬学的に許容されるその塩の使用。
  7. 請求項1から4のいずれか1項に記載のプロパン二酸誘導体又は薬学的に許容されるその塩をヒト又は非ヒト哺乳動物に投与することを含む、肺線維症の予防もしくは治療方法。
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