JPWO2010116555A1 - 冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
浸炭部品を製造する際には、浸炭焼入れに起因する熱処理歪みによって、部品形状精度が劣化することがある。特に、歯車や等速ジョイントなどの部品では、熱処理歪みが騒音や振動の原因となり、さらには、接触面での疲労特性の低下を引き起こすことがある。
また、シャフトなどでは、熱処理歪みによる曲がりが大きくなると、動力伝達効率や疲労特性が損なわれる。この熱処理歪みの最大の原因は、浸炭焼入れ時の加熱によって、不均一に生じる粗大粒である。
従来は、鍛造後、浸炭焼入れの前に、焼鈍を行って粗大粒の発生を抑制していた。しかし、焼鈍を行うと製造コストの増加が問題になる。
また、歯車、軸受等の転動部品には高面圧が負荷されるため、高深度浸炭が行われている。高深度浸炭では、浸炭時間を短縮するために、通常は930℃程度である浸炭温度を、990〜1090℃の温度域まで高める。そのため、高深度浸炭では、粗大粒が発生しやすくなる。
浸炭焼入れ時の粗大粒の発生を抑制するためには、肌焼鋼、すなわち、塑性加工前の素材の材質が重要である。
高温での結晶粒の粗大化の抑制には、微細な析出物が有効であり、Nb、Tiの析出物、AlNなどを利用した肌焼鋼が提案されている(例えば、特許文献1〜5)。
特に切削は、最終形状に近い高精度が要求される加工であり、わずかな硬度の上昇が精度に大きく影響する。したがって、肌焼鋼を使用する際には、粗大粒の発生の防止のみならず、被削性(材料の削られやすさ)を考慮することが極めて重要である。
従来、被削性を改善するには、Pb、Sなどの被削性向上元素の添加が有効であることが知られている。
しかし、Pbは環境負荷物質であり、環境対応技術の重要性から、鋼材へのPbの添加が制限されつつある。
また、Sは、鋼中でMnSなどを形成して被削性を向上させるものの、熱間加工によって延伸した粗大なMnSは破壊の起点となる。そのため、多量のSの添加は、冷間での鍛造性や、転動疲労などの機械的性質を低下させる原因となりやすい。
本発明は、このような実情に鑑み、疲労特性が要求される浸炭部品、特に転動疲労特性が要求される軸受部品、転動部品などのように、鍛造や転造などの冷間加工、切削、浸炭焼入れが施される肌焼鋼の粗大粒の発生を防止し、冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼及びその製造方法を提供するものである。
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)質量%で、
C:0.1〜0.5%、
Si:0.01〜1.5%、
Mn:0.3〜1.8%、
S:0.001〜0.15%、
Cr:0.4〜2.0%、
Ti:0.05〜0.2%
を含有し、
Al:0.04%以下、
N:0.0050%以下、
P:0.025%以下、
O:0.0025%以下
に制限し、さらに、
Mg:0.003%以下、
Zr:0.01%以下、
Ca:0.005%以下
の1種又は2種以上を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、AlNの析出量を0.01%以下に制限し、円相当径が20μm超、アスペクト比が3超である硫化物の密度d(個/mm2)と、Sの含有量[S](質量%)とが
d≦1700[S]+20
を満足することを特徴とする冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。
(2)さらに、質量%で、
Nb:0.04%未満
を含有することを特徴とする上記(1)に記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。
(3)さらに、質量%で、
Mo:1.5%以下、
Ni:3.5%以下、
V:0.5%以下、
B:0.005%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。
(4)ベイナイトの組織分率を30%以下に制限したことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。
(5)フェライトの粒度番号がJIS G 0551で規定される8〜11であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。
(6)Ti系析出物の最大直径が40μm以下であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。
(7)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の成分からなる鋼材を、1150℃以上に加熱し、仕上温度を840〜1000℃として熱間加工し、800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下で冷却することを特徴とする冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼の製造方法。
また、本発明の肌焼鋼によれば、従来、粗大粒の発生を防止するために切削性が低下するという問題が解決され、部品形状の高精度化が達成され、さらには工具の寿命も長くなる。
また、本発明の肌焼鋼を素材とする部品は、高温浸炭においても粗大粒の発生が防止され、転動疲労特性等の十分な強度特性を得ることができるなど、産業上の貢献が極めて顕著である。
図2は、凝固時の冷却速度を測定する位置を示す図である。
図3は、据え込み試験に用いた試験片を示す図である。
しかし、鋼中に含まれるN量が多いと、鋳造時に生じた粗大なTiNが熱間圧延や熱間鍛造の加熱では溶体化されず、多量に残存することがある。粗大なTiNが残存すると、浸炭焼入れ時には、TiNを析出核としてTiC、TiCS、さらにはNbCが析出し、析出物の微細分散が妨げられる。したがって、微細なTi系析出物、Nb系析出物によって浸炭焼入れ時の粗大粒の発生を防止するには、N量を低減し、熱間加工の加熱時にTi系析出物やNb系析出物を溶体化することが重要である。
また、熱間加工の加熱時に粗大なAlNが残留すると、TiNと同様、ピン止め粒子として作用する微細な析出物の生成を阻害する。
しかし、AlNが固溶する温度は、TiNよりも低いため、TiNに比べて熱間圧延の加熱時に溶体化させることが容易である。さらに、熱間加工中や、その後の冷却時、AlNの析出、成長は、Ti系析出物、Nb系析出物に比べて遅い。そのため、熱間加工の加熱時にAlNの残留を防止することにより、肌焼鋼に含まれるAlNの析出量を制限することできる。
したがって、AlNの析出量が制限された本発明の肌焼鋼によれば、微細なTi系析出物、Nb系析出物を利用して、浸炭焼入れ時の粗大粒の発生を防止することができる。
さらに、Ti系析出物及びNb系析出物のピン止め効果を安定して発揮させるには、熱間加工後の冷却過程で、オーステナイトからの拡散変態時にTi系析出物、Nb系析出物を相界面析出させることが有効である。しかし、熱間圧延後の冷却過程でベイナイトが生成すると、析出物の相界面析出が困難になる。
したがって、熱間圧延後の鋼の組織を制御し、ベイナイトの生成を抑制することが好ましく、ベイナイトを実質的に含まない組織とすることが更に好ましい。
製造方法では、初めに、Al、Ti、Nbの析出物が固溶するように鋼材を加熱することが必要である。特に、熱間圧延や熱間鍛造などの熱間加工の加熱温度を高め、Ti系析出物及びNb系析出物を固溶させることが重要である。
次に、熱間加工後、すなわち、熱間圧延後や熱間鍛造後、Ti系析出物及びNb系析出物の析出温度域を徐冷することが必要である。その結果、Ti系析出物及びNb系析出物を肌焼鋼に微細に分散させることができる。
また、浸炭焼入れ前の鋼材のフェライト粒は、過度に微細であると、浸炭加熱時に粗大粒が発生しやすくなる。そのため、微細なフェライトを生成しないように、熱間圧延や熱間鍛造の仕上温度を制御することが必要である。
また、本発明の肌焼鋼を歯車などに加工する場合、浸炭焼入れ前に鍛造及び歯切り切削による歯型成形が行われる。その際、MnSなどの硫化物は、冷間鍛造性を低下させるものの、歯切り切削には極めて有効である。すなわち、硫化物は、切削工具の摩耗による工具形状変化を抑制し、いわゆる工具寿命を延ばす効果を発現する。
特に、歯車のような精密形状の場合、切削工具寿命が短いと、安定して歯型形状を成形することができない。そのため、切削工具寿命は、単に製造能率やコストだけでなく、部品の形状精度にも影響する。
したがって、切削性を高めるには、鋼中に硫化物を生じさせることが望ましい。
一方、熱間圧延や熱間鍛造では、特に粗大なMnSなどの硫化物は延伸することが多い。さらに、硫化物の長さが増すと、部品中の欠陥として露見する確率も高くなり、部品性能を低下させることになる。そのため、硫化物の大きさだけでなく、延伸しないように、形状を制御することが重要である。
なお、硫化物の粗大化を抑制するために、鋳造時の凝固速度を制御することが好ましい。
MnSなどの軟質な硫化物を低減するためには、Tiを添加し、TiCSなどTi系硫化物を生成させることも有効である。しかし、軟質なMnSが減少すると、添加したSが被削性の向上に寄与しなくなる。
したがって、被削性を向上させるためにはSの添加に加え、Tiを添加した溶鋼中で軟質な硫化物を制御することが重要である。
そこで、粗大粒を抑制するために必要なAlNの制御、Ti添加、S量の制御、さらには、Zr、Mg、Caの添加により、硫化物の形状を制御することが好ましい。
被削性及び冷間加工性について、更に説明する。
冷間加工時にはMnSを中心とする硫化物は変形し、破壊の起点となる。特に、粗大なMnSは限界圧縮率など、冷間鍛造性を低下させる。また、鋼中のMnSが粗大であると、MnSの形状によっては、材質特性の異方性を生じる。
肌焼鋼を、多種多様な複雑な部品に適用するためには、いずれの方向にも安定した機械的性質が要求される。そのため、本発明の肌焼鋼では、MnSを中心とする硫化物を微細にし、形状を略球状にすることが好ましい。また、鍛造などの冷間加工後も形状の変化が小さいことが更に好ましい。
Zr、Mg、Caの添加は、微細な硫化物を分散させるために有効である。さらに、MnSにZr、Mg、Caなどが固溶すると、変形抵抗が高くなり、硫化物が容易に変形しなくなる。したがって、Zr、Mg、Caの添加は、延伸化の抑制にも極めて有効である。
一方、被削性の観点からは、S量の増加が重要である。Sの添加により、切削時の工具寿命が向上し、この効果はS量の総量で決まり、硫化物の形状の影響は小さい。そのため、Sの添加量を増加させ、硫化物の形状を制御することにより、冷間鍛造性と被削性(工具寿命)を両立させることができる。
肌焼鋼では、浸炭焼入れ時の粗大粒の発生防止だけでなく、冷間加工性と被削性の確保も重要である。Sを増量すると被削性は向上するものの、冷間加工性の低下を招く。そこで、同一のS量で比較した場合に良好な冷間加工性を確保することも重要である。
図1は、浸炭焼入れ時の粗大粒の発生を抑制した粗大粒特性の良好な肌焼鋼について、被削性と冷間加工性との関係を比較したものである。本発明では、良好な粗大粒特性(粗大粒発生温度>970℃)を維持しつつ、冷間加工性(限界圧縮率)と被削性(ドリル被削性VL1000)を両立させることができる。図1では、右上方にあるほど被削性と冷間加工性のバランスに優れた良好な素材といえる。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、成分組成について説明する。以下、質量%は、単に%と記載する。
Cは、鋼の強度を上昇させる元素である。本発明では、引張強さを確保するため、0.1%以上のCを添加する。C量は0.15%以上が好ましい。一方、Cの含有量が0.5%を超えると、著しく硬化して冷間加工性が劣化するため、上限を0.5%とする。また、浸炭後の芯部の靭性を確保するためには、C量を0.4%以下にすることが好ましい。C量は0.3%以下が更に好ましい。
Siは、鋼の脱酸に有効な元素であり、本発明では、0.01%以上を添加する。また、Siは、鋼を強化し、焼入れ性を向上させる元素であり、0.02%以上の添加が好ましい。さらに、Siは、粒界強度の増加に有効な元素であり、さらに軸受部品、転動部品においては、転動疲労過程での組織変化、材質劣化の抑制による高寿命化に有効な元素である。そのため、高強度化を指向する場合には、0.1%以上の添加が更に好ましい。特に転動疲労強度を高めるには、0.2%以上のSiの添加が好ましい。
一方、Si量が1.5%を超えると、硬化によって冷間鍛造などの冷間加工性が劣化するため、上限を1.5%とする。また、冷間加工性を高めるには、Si量を0.5%以下にすることが好ましい。特に、冷間鍛造性を重視する場合は、Si量は0.25%以下が好ましい。
Mnは、鋼の脱酸に有効であり、さらに鋼の強度、焼入れ性を高める元素であり、本発明では、0.3%以上を添加する。一方、Mn量が、1.8%を超えると、硬さの上昇によって冷間鍛造性が劣化するため、1.8%を上限とする。Mn量の好適範囲は、0.5〜1.2%である。なお、冷間鍛造性を重視する場合は、Mn量の上限を0.75%にすることが好ましい。
Sは、鋼中でMnSを形成し、被削性を向上させる元素である。本発明では、被削性を高めるため、Sの含有量を0.001%以上とする。S量の好ましい下限は0.1%である。一方、S量が0.15%を超えると粒界偏析によって粒界脆化を招くため、上限を0.15%とする。また、高強度部品であることを考慮すると、S量は0.05%以下が好ましい。さらに、強度や冷間加工性、さらにはそれらの安定性を考慮する場合は、S量を0.03%以下にすることが好ましい。
なお、従来、軸受部品、転動部品では、MnSが転動疲労寿命を劣化させるため、Sを低減する必要があるとされていた。しかし、本発明者らは、切削性の向上にはSの含有量が大きく影響し、冷間加工性の向上には硫化物の形状が大きく影響すること見出した。本発明では、Mg、Zr、Caの1種又は2種以上の添加によって硫化物の形状を制御するため、S量を0.01%以上とすることが可能である。被削性を重視する場合にはS量を0.02%以上にすることが好ましい。
Crは、鋼の強度、焼入れ性を向上させる有効な元素であり、本発明では、0.4%以上を添加する。さらに、軸受部品、転動部品においては、浸炭後の表層の残留γ量を増大させ、転動疲労過程での組織変化、材質劣化の抑制による高寿命化に有効であるため、0.7%以上の添加が好ましい。更に好ましいCr量は1.0%以上である。一方、2.0%を超えてCrを添加すると、硬さの上昇によって冷間加工性が劣化するため、上限を2.0%とする。冷間鍛造性を高めるには、Cr量を1.5%以下にすることが好ましい。
Tiは、鋼中で炭化物、炭硫化物、窒化物などの析出物を生成する元素である。本発明では、微細なTiC、TiCSを利用して浸炭焼入れ時の粗大粒の発生を防止するため、0.05%以上のTiを添加する。Ti量の好ましい下限は0.1%である。一方、0.2%超のTiを添加すると、析出硬化によって冷間加工性が著しく劣化するため、Ti量の上限を0.2%とする。また、TiNの析出を抑制して転動疲労特性を向上させるには、Ti量を0.15%以下にすることが好ましい。
Alは脱酸剤であり、0.005%以上を添加することが好ましいが、これに限定されるものではない。一方、Al量が0.04%を超えると、AlNが熱間加工の加熱によって溶体化せず、残存する。そのため、粗大なAlNが、TiやNbの析出物の析出核となり、微細な析出物の生成が阻害される。したがって、浸炭焼入れ時の結晶粒の粗大化を防止するには、Al量を0.04%以下にすることが必要である。
Nは、窒化物を生成する元素である。本発明では、粗大なTiNやAlNの生成を抑制するため、N量の上限を0.0050%にする。これは、粗大なTiNやAlNが、TiC、TiCSを主体とするTi系析出物、NbCを主体とするNb系炭窒化物などの析出核になり、微細な析出物の分散を阻害するためである。
Pは、不純物であり、冷間加工時の変形抵抗を高め、靭性を劣化させる元素である。過剰に含有すると冷間鍛造性が劣化するため、Pの含有量を0.025%以下に制限することが必要である。また、結晶粒界の脆化を抑制し、疲労強度を向上させるには、Pの含有量を0.015%以下にすることが好ましい。
Oは、不純物であり、鋼中で酸化物系介在物を形成し、加工性を損なうため、含有量を0.0025%以下に制限する。また、本発明の肌焼鋼はTiを含有するため、Tiを含む酸化物系介在物が生成し、これを析出核としてTiCが析出する。酸化物系介在物が増加すると、熱間加工時に微細なTiCの生成が抑制されることがある。
したがって、TiC、TiCSを主体とするTi系析出物を微細に分散させ、浸炭焼入れ時に結晶粒の粗大化を抑制するには、O量の上限を0.0020%にすることが好ましい。
さらに、軸受部品、転動部品は、酸化物系介在物を起点として転動疲労破壊が生じることがある。そのため、軸受部品、転動部品に適用する場合、転動寿命を向上させるために、O含有量を0.0012%以下に制限することが好ましい。
さらに、本発明の肌焼鋼は、硫化物の形態を制御するため、Mg、Zr、Caの1種又は2種以上を添加することが必要である。Mg、Zr、Caは、略球状の硫化物を生成し、また、MnSの変形能を高めて熱間加工による延伸を抑制する。特に、Mg、Zrは、微量に含有させても著しい効果を発現するため、副原料などにも注意を払うことが好ましい。さらに、Mg、Zrの添加量を安定させるためには、Mg、Zrを含む耐火物を用いることにより含有量を制御することが好ましい。
Mgは、酸化物及び硫化物を生成する元素である。Mgの含有によって、MgSや、MnSとの複合硫化物(Mn,Mg)Sなどが生成し、MnSの延伸を抑制することができる。微量のMgはMnSの形態の制御に有効であり、加工性を高めるために、0.0002%以上のMgを添加することが好ましい。
また、Mgの酸化物は微細に分散し、MnSなどの硫化物の生成核となる。Mgの酸化物を利用して、粗大な硫化物の生成を抑制するには、0.0003%以上のMgの添加が好ましい。さらに、Mgを添加すると、硫化物は若干硬質になり、熱間加工によって延伸されにくくなる。
切削性の向上に寄与し、冷間加工性を損なわないように、硫化物の形状を制御するには、0.0005%以上のMgを添加することが好ましい。なお、熱間鍛造は、微細な硫化物を均一に分散させる効果があり、冷間加工性の向上に有効である。
一方、Mgの酸化物は、溶鋼上に浮上しやすいため、歩留まりが低く、製造コストの観点から、Mgの含有量の上限は0.003%が好ましい。また、Mgを過剰に添加すると、溶鋼中に多量の酸化物が生成し、耐火物への付着やノズルつまりなどの製鋼上のトラブルを引き起こすことがある。したがって、Mgの添加量を0.001%以下にすることが更に好ましい。
Zrは、酸化物、硫化物、窒化物を生成する元素である。微量のZrを添加すると溶鋼中でTiと複合して、微細な酸化物、硫化物及び窒化物を生成する。したがって、本発明では、Zrの添加は、介在物及び析出物の制御には極めて有効である。介在物の形態を制御し、加工性を高めるには、0.0002%以上のZrを添加することが好ましいが、これに限定されるものではない。
Zr及びTiを含む酸化物、硫化物、窒化物は、凝固時にMnSの析出核となる。これらのZr及びTiを含む酸化物、硫化物、窒化物の周囲に析出したMnSには、Zr、Tiが溶け込み、変形能が低下する。したがって、MnSの変形を抑制し、熱間加工による延伸を防止するには、0.0003%以上のZrを添加することが好ましい。
一方、Zrは高価な元素であるため、製造コストの観点から、Zr量の上限を0.01%にすることが好ましい。更に好ましいZr量は、0.005%以下、より好ましくは0.003%以下である。
Caは、酸化物、硫化物を生成する元素である。介在物の形態を制御し、加工性を高めるには、0.0002%以上のCaを添加することが好ましい。Caの添加によって生成する、CaS、(Mn,Ca)Sや、Tiとの複合硫化物は、凝固時にMnSの析出核となる。
特に、Ca及びTiを含む酸化物、硫化物の周囲に析出したMnSには、Ca、Tiが溶け込み、変形能が低下する。したがって、MnSの変形を抑制し、熱間加工による延伸を防止するには、0.0003%以上のCaの添加が好ましい。
一方、Mgと同様、Caを過剰に添加すると、酸化物の耐火物への付着やノズルつまりなどの製鋼上のトラブルを引き起こすことがある。したがって、Ca量は0.005%以下にすることが好ましい。
また、Mg、Zr、Caのうち、2種以上を添加することが更に好ましく、略球状の硫化物を微細に分散させることができる。Mg、Zr、Caの2種以上を添加する場合は、含有量の合計を、0.0005%以上にすることが好ましい。また、Mg、Zr、Caの2種以上を添加する場合にも、耐火物への付着などを防止するために、含有量の合計を0.006%以下にすることが好ましく、さらには0.003%以下にすることが好ましい。
さらに、浸炭焼入れ時の粗大粒の発生を抑制するため、Tiと同様に炭窒化物を生成するNbを添加することが好ましい。Nbは、Tiと同様、鋼中のC、Nと結びついて炭窒化物を生成する元素である。Nbの添加により、Ti系析出物による粗大粒の発生を抑制する効果が更に顕著になる。Nbの添加量が微量であっても、Nbを添加しない場合に比べて、粗大粒の防止には極めて有効である。
これは、Ti系析出物にNbが固溶し、Ti系析出物の粗大化を抑制するためである。浸炭焼入れの加熱の際に粗大粒の発生を抑制するには、0.01%以上のNbの添加が好ましいが、これに限定されるものではない。一方、Nbを0.04%以上添加にすると鋼が硬化し、冷間加工性、特に冷間鍛造性や、切削性、さらには、浸炭特性が劣化することがある。したがって、Nbの添加量は、0.04%未満にすることが好ましい。冷間鍛造性等の冷間加工性、切削性を重視する場合、Nb量の好適な上限は0.03%未満である。また、加工性に加えて、浸炭性を重視する場合、Nb量の好適な上限は0.02%未満である。
また、粗大粒防止特性と加工性との両立を図るために、Nbの添加量とTiの添加量の合計を調整することが好ましく、Ti+Nbの好適範囲は、0.07%以上、0.17%未満である。特に、高温浸炭や、冷鍛部品において、Ti+Nbの好ましい範囲は0.09%超、0.17%未満である。
さらに、鋼の強度、焼入れ性を向上させるために、Mo、Ni、V、B、Nbの1種又は2種以上を添加してもよい。
Moは、鋼の強度及び焼入れ性を高める元素である。本発明では、浸炭部品の表層の残留γの量を増大させ、さらには、転動疲労過程での組織変化、材質劣化の抑制による高寿命化を図るためにも有効である。しかし、1.5%を超えるMoを添加すると、硬さの上昇によって、切削性、冷間鍛造性が劣化することがある。
したがって、Moの含有量を、1.5%以下にすることが好ましい。Mo量は高価な元素であり、製造コストの観点から、0.5%以下にすることが更に好ましい。
Niは、Moと同様、鋼の強度及び焼入れ性の向上に有効な元素である。しかし、3.5%を超えてNiを添加すると、硬さの上昇によって切削性、冷間鍛造性が劣化することがあるため、Niの含有量を3.5%以下にすることが好ましい。Niも高価な元素であり、製造コストの観点から、好適な上限は2.0%である。Ni量の更に好適な上限は1.0%である。
Vは、鋼中に固溶すると、強度及び焼入れ性を向上させる元素である。V量が、0.5%を超えると、硬さの上昇によって切削性、冷間鍛造性が劣化することがあるため、含有量の上限を0.5%にすることが好ましい。V量の好適な上限は、0.2%である。
Bは、微量の添加で、鋼の焼入れ性を高める有効な元素である。また、Bは、熱間圧延後の冷却過程でボロン鉄炭化物を生成し、フェライトの成長速度を増加させ、軟質化を促進する。さらに、浸炭部品の粒界強度を向上させ、疲労強度、衝撃強度の向上にも有効である。しかし、0.005%を超えてBを添加すると、効果が飽和し、衝撃強度を劣化させることがあるため、含有量の上限は0.005%が好ましい。B量の好適な上限は、0.003%である。
なお、Si、Crの添加、さらにはMoの添加による軸受部品、転動部品の転動疲労過程での組織変化、材質劣化の抑制の効果は、浸炭後の表層における残留オーステナイト(残留γ)が30〜40%の時に特に大きい。表層の残留γ量を30〜40%の範囲に制御するには、浸炭浸窒処理を行うことが有効である。浸炭浸窒処理は、浸炭後の拡散処理の過程で浸窒を行う処理である。
表層の残留γ量を30〜40%にするには、表層の窒素濃度が0.2〜0.6%の範囲になるように浸炭浸窒処理を行うことが好ましい。なお、この場合、浸炭時の炭素ポテンシャルを0.9〜1.3%の範囲とすることが望ましい。
また、本発明の肌焼鋼は、浸炭焼入れの際に表層に侵入する炭素及び窒素と固溶Tiとが反応し、浸炭層に微細なTi(C,N)が多量に析出する。特に、軸受部品、転動部品では、表層のTi(C,N)によって転動疲労寿命が向上する。
したがって、転動疲労寿命を高めるには、浸炭時の炭素ポテンシャルを0.9〜1.3%とすることが好ましい。また、浸炭後の拡散処理の過程で浸窒を行う浸炭浸窒処理では、表面の窒素濃度が0.2〜0.6%の範囲になるように条件を設定することが好ましい。
次に、本発明の肌焼鋼に含まれる析出物のうち、AlN、硫化物について説明する。
AlNは、Ti系析出物、Nb系析出物の析出核となり、微細な析出物の生成を阻害する。したがって、本発明では、肌焼鋼に含まれるAlNの析出量を制限することが必要である。AlNの析出量が過剰であると、浸炭焼入れ時に粗大粒の発生が懸念されるため、肌焼鋼のAlNの析出量を0.01%以下に制限する。AlNの析出量の好適な上限は、0.005%である。
肌焼鋼のAlNの析出量を抑制するには、熱間加工の加熱温度を高め、溶体化を促進することが必要である。本発明の肌焼鋼はN量を制限しているため、AlNが溶体化する温度に加熱すると、Ti系析出物、Nb系析出物も溶体化することができる。
なお、AlNの析出量は、抽出残渣を化学分析することによって測定することができる。抽出残渣は、臭素メタノール溶液で鋼を溶解し、0.2μmのフィルターで濾過して、採取する。なお、0.2μmのフィルターを用いても、濾過の過程で析出物によってフィルターが目詰まりを起こすため、0.2μm以下の微細な析出物の抽出も可能である。
MnSは、切削性の向上には有用であるため、密度を確保することが必要である。一方、延伸した粗大なMnSは冷間加工性を損なうため、サイズ及び形状を制御することが必要である。
本発明者らは、Sの含有量、MnSのサイズ及び形状と、切削性及び冷間加工性との関係について検討を行った。
その結果、光学顕微鏡で観察されるMnSの円相当径が20μmを超え、アスペクト比が3を超えると、冷間加工の際に割れが発生する起点になることがわかった。
MnSの円相当径は、MnSの面積と等しい円面積を有する円の直径であり、画像解析によって求めることができる。アスペクト比は、MnSの長さをMnSの厚さで除した比である。
次に、本発明者らは、硫化物の分布の影響について検討を行った。直径が30mmの熱間圧延材のMnSを走査型電子顕微鏡で観察し、サイズ、アスペクト比及び密度と、冷間加工性及び切削性との関係について整理した。MnSの観察は、圧延方向と平行な断面の表面から、1/2半径部で行った。1mm×1mmの面積を10視野観察し、存在する硫化物系介在物の円相当径、アスペクト比、個数を求めた。なお、介在物が硫化物であることは、走査電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線解析によって確認した。
円相当径で20μmを超え、かつアスペクト比が3を超えるMnSの個数を計測し、面積で除して密度dを求めた。この硫化物の密度dは、S量の影響を受けるため、切削性と冷間加工性とを両立させるために、下記式を満たすことが必要であることがわかった。
d≦1700[S]+20(個/mm2)
ここで、[S]は、Sの含有量(質量%)を示している。さらに、粗大なTi系析出物が鋼中に存在すると接触疲労破壊の起点となり、疲労特性が劣化することがある。
接触疲労強度は、浸炭部品の要求特性であり、転動疲労特性や面疲労強度である。接触疲労強度を高めるには、Ti系析出物の最大直径を40μm未満とすることが好ましい。
Ti系析出物の最大直径は、肌焼鋼の長手方向の断面において、検査基準面積を100mm2、検査回数を16視野、予測を行う面積を30000mm2とし、測定された極値統計によって求める。
極値統計による析出物の最大直径の測定方法は、例えば、村上敬宜、「金属疲労 微小欠陥と介在物の影響」、養賢堂、pp.233〜239(1993年)に記載されているように、一定面積内、すなわち、予測を行う面積(30000mm2)で観察される最大析出物を推定するという二次元的検査方法である。
極値確率用紙にプロットし、最大析出物直径と極値統計基準化変数の一次関数を求め、最大析出物分布直線を外挿することにより、予測を行う面積における最大析出物の直径を予測する。
次に、本発明の肌焼鋼の組織について説明する。
肌焼鋼のベイナイトの組織分率は30%以下に制限することが好ましい。これは、浸炭焼入れ時の粗大粒の発生を防止するには、粒界に微細な析出物を生成させることが好ましいためである。すなわち、熱間加工後の冷却時に生成するベイナイトの組織分率が30%を超えると、Ti系析出物、Nb系析出物を相界面析出させることが難しくなる。
ベイナイトの組織分率を30%以下に抑制することは、冷間加工性を改善するためにも有効である。
高温浸炭など、粗大粒防止に対して条件が厳しい場合、ベイナイトの組織分率の上限を20%にすることが好ましく、10%以下が更に好ましい。さらに、冷間鍛造後、高温浸炭を行う場合などは、ベイナイトの組織分率の上限は5%以下が好ましい。
本発明の肌焼鋼のフェライト粒は、過度に微細であると、粗大粒が発生しやすくなる。これは、浸炭焼入れ時にオーステナイト粒が過度に微細化するためである。特に、フェライトの粒度番号がJIS G 0551で規定される11を超えると粗大粒が発生しやすくなる。一方、肌焼鋼のフェライトの粒度番号が、JIS G 0551で規定される8未満になると、延性が低下し、冷間加工性を損なうことがある。したがって、肌焼鋼のフェライトの粒度番号は、JIS G 0551で規定される8〜11の範囲内にすることが好ましい。
次に、本発明の肌焼鋼の製造方法について説明する。
鋼を、転炉、電気炉等の通常の方法によって溶製し、成分調整を行い、鋳造工程、必要に応じて分塊圧延工程を経て、鋼材を得る。鋼材に、熱間加工、すなわち、熱間圧延や熱間鍛造を施し、線材又は棒鋼を製造する。
鋼材の硫化物は、溶鋼中又は凝固時に晶出することが多く、硫化物の大きさは凝固時の冷却速度に大きく影響を受ける。したがって、硫化物の粗大化を防止するためには、凝固時の冷却速度を制御することが重要である。
凝固時の冷却速度は、図2に示す鋳片断面上で鋳片幅Wの中心線上で、表面から厚さ方向中心線までの距離の1/2部(表面から鋳片厚さTに対して表面からT/4の位置)における冷却速度と定義する。硫化物の粗大化を抑制するには、凝固時の冷却速度を3℃/分以上にすることが好ましい。好ましくは5℃/分以上、更に好ましくは10℃/分以上である。なお、凝固時の冷却速度は、デンドライト2次アーム間隔によって確認することができる。
鋳片は、そのまま再加熱し、熱間加工を行って肌焼鋼を製造するか、又は、分塊工程によって得られた素材を再加熱し、熱間加工を行って、肌焼鋼を製造する。一般に、鋳片を分塊圧延によってビレットに成形し、室温に冷却した後、再加熱し、肌焼鋼を製造する。さらに、歯車などの部品製造では熱間鍛造が加わる場合もある。その際、分塊圧延では1150℃以上の高温で10分以上保持し、Ti、Nb系の析出物を固溶させることが好ましい。
肌焼鋼を製造するため、鋼材を加熱する。加熱温度が1150℃未満であると、Ti系析出物、Nb系析出物及びAlNを鋼中に固溶させることができず、粗大なTi系析出物、Nb系析出物、AlNが残存する。
熱間加工後の肌焼鋼に、微細なTi系析出物や、Nb系析出物を分散させ、浸炭焼入れ時の粗大粒の発生を抑制するためには、加熱温度を1150℃以上にすることが必要である。好適な加熱温度の下限は、1180℃以上である。
加熱温度の上限は規定しないが、加熱炉の負荷を考慮すると、1300℃以下が好ましい。鋼材の温度を均一にし、析出物を固溶させるために、保持時間は10分以上が好ましい。保持時間は、生産性の観点から、60分以下が好ましい。
熱間加工の仕上温度は、840℃未満では、フェライトの結晶粒が微細になり、浸炭焼入れ時に粗大粒が発生しやすくなる。一方、仕上温度が1000℃を超えると、硬化して冷間加工性が劣化する。したがって、熱間加工の仕上温度を840〜1000℃とする。なお、仕上温度の好ましい範囲は、900〜970℃であり、更に好ましい範囲は920〜950℃である。
熱間加工後の冷却条件は、Ti系析出物、Nb系析出物を微細に分散させるために、重要である。Ti系析出物、Nb系析出物の析出が促進される温度範囲は、500〜800℃である。したがって、800℃から500℃までの温度範囲を1℃/秒以下で徐冷し、Ti系析出物、Nb系析出物の生成を促進する。
冷却速度が1℃/秒を超えると、Ti系析出物、Nb系析出物の析出温度域を通過する時間が短くなり、微細な析出物の生成が不十分となる。また、冷却速度が速くなると、ベイナイトの組織分率が大きくなる。また、冷却速度が大きいと肌焼鋼が硬化し、冷間加工性が劣化するため、冷却速度は0.7℃/秒以下が好ましい。
なお、冷却速度を小さくする方法としては、圧延ラインの後方に保温カバー又は熱源付き保温カバーを設置し、これにより、徐冷を行う方法が挙げられる。
本発明の肌焼鋼は、冷間鍛造工程で製造される部品、熱間鍛造で製造される部品いずれにも適用可能である。熱間鍛造工程は、例えば、棒鋼−熱間鍛造−必要により焼準等の熱処理−切削−浸炭焼入れ−必要により研削又は研磨という工程が挙げられる。
本発明の肌焼鋼を用いて、例えば1150℃以上の加熱温度で熱間鍛造を行い、その後必要に応じて焼準処理を行うことにより、950〜1090℃の温度域での高温浸炭を施しても、粗大粒の発生を抑制することができる。例えば、軸受部品、転動部品の場合、高温浸炭を行っても、優れた転動疲労特性が得られる。
浸炭焼入れは、特に限定しないが、軸受部品、転動部品において、高い転動疲労寿命を指向する場合には、炭素ポテンシャルを0.9〜1.3%に設定することが好ましい。また、浸炭後の拡散処理の過程で浸窒を行う浸炭浸窒処理も有効で、表面の窒素濃度が0.2〜0.6%の範囲になるような条件が適切である。これらの条件を選択することにより、浸炭層に微細なTi(C,N)が多量に析出し、転動寿命が向上する。
凝固冷速は、あらかじめ、種々のサイズの鋳片を鋳造する際の冷却条件と凝固冷速の関係を整理したデータに基づいて調整した。一部の鋳片の凝固冷速は、デンドライト2次アーム間隔によって10〜11℃/分の範囲内であることを確認した。一部の鋳片には、必要に応じて、分塊圧延を施した。
また、極値統計法によるTi系析出物の最大直径の予測を行った。表4〜6に、熱間加工の加熱温度、仕上温度、冷却速度、ベイナイト分率、フェライトの粒度番号、AlNの析出量、Ti系析出物の最大直径、ビッカース硬さを示す。なお、冷却速度は500〜800℃の範囲の冷却速度であり、800℃から500℃までの冷却に要した時間から求めた。
Ti系析出物の最大直径は、次のようにして求めた。光学顕微鏡によって金属組織を観察し、コントラストによって析出物の判別を行った。なお、析出物のコントラストは、走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光分析装置を用いて確認した。
試験片の長手方向の断面において、検査基準面積100mm2(10mm×10mmの領域)の領域を、あらかじめ16視野分準備した。そして各検査基準面積100平方mmにおけるTi系の最大析出物を検出し、これを光学顕微鏡にて1000倍で写真撮影した。
これを、各々の各検査基準面積100mm2の16視野について、16回繰り返し行った。このように、検査回数を16視野として、得られた写真から、各検査基準面積における最大析出物の直径を計測した。なお、楕円形の場合は長径と短径の相乗平均を求めその析出物の直径とした。
得られた最大析出物直径の16個のデータを、村上敬宜、「金属疲労 微小欠陥と介在物の影響」、養賢堂、pp.233〜239(1993年)に記載の方法により、極値確率用紙にプロットし、最大析出物分布直線、すなわち、最大析出物直径と極値統計基準化変数の一次関数を求め、最大析出物分布直線を外挿し、予測を行う面積(30000mm2)における最大析出物の直径を求めた。
また、冷間鍛造による冷間加工性を評価するため、焼鈍を施した後、据え込み試験を行った。図3に示す溝入れ試験片を採取し、割れ発生までの限界圧縮率を測定した。圧縮率を変更して10個の試験片を用いて割れ発生の確率を求め、確率が50%となった際の圧縮率を限界圧縮率とした。
この限界圧縮率が高いほど鍛造性が良好であると評価する。本試験法は冷間鍛造に近い評価方法であるが、熱間鍛造での鍛造性に対する硫化物の影響を示す指標とも考えられた。
被削性は、ドリルの折損までの寿命を求める試験を行って評価した。なお、穿孔は、直径が3mmのハイスストレートドリルを用い、送り0.25mm、穴深さ9mm、ドリル突き出し量35mmとし、水溶性切削油を使用して行った。
ドリルの周速は、10〜70m/分の範囲内で一定にして、穿孔しながら折損までの累積穴深さを測定した。ここで、累積穴深さは、1個の穴深さと穿孔穴個数との積である。
ドリルの周速を変化させて同様の測定を行い。累積穴深さが1000mmを超えるドリルの周速のうち、最大値をVL1000として求めた。VL1000が大きいほど工具寿命が良好で、被削性に優れた材料と評価される。
また、粗大粒特性の評価は、球状化焼鈍後の棒鋼から試験片を採取し、冷間で圧下率50%の据え込み鍛造を行った後、浸炭焼入れを模擬した熱処理(浸炭シミュレーションという。)を施し、旧オーステナイト粒径を測定して評価した。
浸炭シミュレーションは、910〜1010℃に加熱し、5時間保持し、水冷する熱処理である。旧オーステナイト粒度の測定は、JIS G 0551に準じて行った。
旧オーステナイト粒径を測定し、粗大粒が発生した温度(粗大化温度)を求めた。なお、旧オーステナイト粒径は、400倍で10視野程度観察を行って測定し、粒度番号が5以下の粗粒が1つでも存在すれば粗粒発生と判定した。
浸炭焼入れ処理の加熱温度は、通常、930〜950℃であるため、粗粒化温度が950℃以下のものは結晶粒粗大化特性に劣ると判定した。
次に、圧下率を50%とし、冷間鍛造を行い、直径12.2mmの円柱状の転動疲労試験片を採取し、浸炭焼入れを行った。浸炭焼入れは、炭素ポテンシャルが0.8%の雰囲気中で、950℃に加熱し、5時間保持し、温度が130℃の油に焼入れて行った。さらに、180℃で2時間保持し、焼戻しを行った。これらの浸炭焼入れ材について、浸炭層のγ粒度(浸炭層オーステナイト粒度番号)をJIS G 0551に準じて調査した。
さらに、点接触型転動疲労試験機(ヘルツ最大接触応力5884MPa)を用いて転動疲労特性を評価した。疲労寿命の尺度として、「試験結果をワイブル確率紙にプロットして得られる累積破損確率10%における疲労破壊までの応力繰り返し数」として定義されるL10寿命を用いた。ただし、圧下率50%で割れが多発した材料はその後の疲労試験は行わなかった。
これらの調査結果をまとめて、表4〜6に示す。転動疲労寿命はNo.55(比較例)のL10寿命を1とし、各材料のL10寿命の相対値を示した。
一方、比較例であるNo.55は、JISに規定されるSCr420に相当し、Ti、Mg、Zr、Caを含有しないため、粗大化温度が低く、γ粒が粗大化している。
また、No.56〜58は、Tiによる粗大粒防止効果は認められたものの、Ti、Mg、Zr、Caを含有しないため、被削性に劣り、さらに冷間鍛造性も十分ではない。
No.59及び60は、Sを増量して被削性の改善を図った例であるが、Ti、Mg、Zr、Caを含有しないため、硫化物が延伸し、冷間鍛造性が劣っている。
No.84〜89は、MoやNbを添加し、焼入れ性を向上させた例であり、No.87は、JISに規定されるSCM420に相当する。しかし、No.87は、Ti、Mg、Zr、Caを含有しないため、粗大化温度が低く、γ粒が粗大化している。また、No.84〜86、88及び89は、Tiによる粗大粒防止効果は認められたものの、Ti、Mg、Zr、Caを含有しないため、被削性に劣り、さらに冷間鍛造性も十分ではない。
No.71〜76は、Nの含有量が多く、Ti系析出物が粗大になり、粗大粒の生成が顕著に見られる。また、No.71〜73は、浸炭部品の転動疲労特性が低下し、No.74〜76は、冷間鍛造性に劣り、転動疲労試験を行わなかった例である。
No.80は、O含有量が多く、粗大粒が生成し、転動疲労特性も良くない。
No.77は、Ti含有量が少なく、Tiのピン止め効果が小さいため、粗大化温度が低下している。
No.78は、Ti含有量が多く、Ti系析出物が粗大化し、粗大化温度が低下し、TiCの析出硬化によって冷間加工性が劣化している。また、No.78は、Ti系析出物の溶体化が不十分になり、浸炭部品の転動疲労特性も低下している。
No.79は、Nb含有量が多く、析出硬化によって冷間加工性が劣化し、粗大粒防止特性も劣っている。
No.61〜70は、加熱温度が低く、Ti系析出物やNb系析出物の固溶が不十分になり、粗大粒防止効果に劣る。
No.81は、熱間圧延後の冷却速度が速く、熱間加工後のベイナイト組織分率が増加し、粗大粒が生成している。
No.82は、熱間加工の仕上温度が高く、フェライト結晶粒度が粗大になり、粗大粒防止特性が劣化している。
No.83は、熱間加工の仕上温度が低く、フェライト結晶粒度が微細になり、粗大粒防止特性は劣る。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.1〜0.5%、
Si:0.01〜1.5%、
Mn:0.3〜1.8%、
S:0.001〜0.15%、
Cr:0.4〜2.0%、
Ti:0.05〜0.2%
を含有し、
Al:0.04%以下、
N:0.0050%以下、
P:0.025%以下、
O:0.0025%以下
に制限し、さらに、
Mg:0.003%以下、
Zr:0.01%以下、
Ca:0.005%以下
の1種又は2種以上を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、AlNの析出量を0.01%以下に制限し、円相当径が20μm超、アスペクト比が3超で硫化物の密度d(個/mm2)と、Sの含有量[S](質量%)とが
d≦1700[S]+20
を満足することを特徴とする冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。 - さらに、質量%で、
Nb:0.04%未満
を含有することを特徴とする請求項1に記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。 - さらに、質量%で、
Mo:1.5%以下、
Ni:3.5%以下、
V:0.5%以下、
B:0.005%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。 - ベイナイトの組織分率を30%以下に制限したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。
- フェライトの粒度番号がJIS G 0551で規定される8〜11であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。
- Ti系析出物の最大直径が40μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の成分からなる鋼材を、1150℃以上に加熱し、仕上温度を840〜1000℃として熱間加工し、800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下で冷却することを特徴とする冷間加工性、切削性、浸炭焼入れ後の疲労特性に優れた肌焼鋼の製造方法。
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