本発明は、給電素子間のアイソレーションを十分に確保するとともに、複数の周波数で動作することが可能なアレーアンテナ装置と、それを用いた無線通信装置とに関する。
近年、携帯電話機等の携帯無線通信装置の小型化、薄型化が急速に進んでいる。また、携帯無線通信装置は、従来の電話機として使用されるのみならず、電子メールの送受信やwww(ワールドワイドウェブ)によるウェブページの閲覧などを行うデータ端末機に変貌を遂げている。取り扱う情報も従来の音声や文字情報から写真や動画像へと大容量化を遂げており、通信品質のさらなる向上が求められている。このような状況の中、複数のアンテナ素子を備えたアレーアンテナ装置で複数のチャンネルの無線信号を同時に送受信するMIMO(Multi-Input Multi-Output)技術を用いたアンテナ装置が提案されている。
アレーアンテナの結合劣化を改善する技術の1つとして、移相回路を設けた構成が開示されている(特許文献1参照)。特許文献1によると、2つの周波数の電波を送信あるいは受信するアンテナ装置において、異なる共振周波数を有する2つのアンテナ素子の給電点がそれぞれ、位相を変化させる2つの移相回路を介して無線回路と接続されることを特徴とする。このようなアンテナ装置では、アンテナ素子が移相回路を介し給電点に接続されることで隣接する他のアンテナ素子の共振周波数でのインピーダンス特性を高く調整することができる。そのためアンテナ間の影響が取り除かれ、単純な構成で比較的近接した異なる周波数での使用が可能になる。
アレーアンテナの結合劣化を改善する技術の1つとして、各アンテナの電流経路を異なるようにする構成が開示されている(特許文献2参照)。特許文献2においては、長方形形状の導電性の基板と、上記基板上に誘電体を介して設けられた平板状のアンテナとを備えたアンテナ装置が開示されている。このアンテナ装置は、アンテナを所定方向に励振させることにより基板上の一方の対角線方向に電流を流れさせるとともに、アンテナを異なる方向に励振させることにより基板上の他方の対角線方向に電流を流すことを特徴とする。このように、特許文献2のアンテナ装置では、基板上を流れる電流の方向を変えることによって、アンテナ装置の2つのアンテナが電磁的に結合するという問題の発生を防止できる。
特開2001−267841号公報。
国際公開WO2002/039544。
しかしながら、上述の特許文献1に開示された方式によると、2つの素子の共振周波数が異なり、一方のアンテナ素子において他方のアンテナ素子の共振周波数で使用されたときに高インピーダンスとなる。そのため位相を変化させるため2つの素子を同周波数で同時に駆動させる最大比合成法(MRC(Maximum Ratio Combining))やMIMOアンテナ装置には使用することができない。また特許文献2に開示された方式によると、各アンテナの電流経路を変えることでアンテナが電磁的に結合する問題を抑制することが可能である。しかし、スイッチ切り替えを行うため特許文献1と同様に同時に動作することができないため、MRCやMIMOアンテナ装置には使用することができない。
また、携帯電話機のような小型の無線通信装置にアレーアンテナを設ける場合、給電素子間の距離が短くなることを余儀なくされ、そのため、給電素子間のアイソレーションが不十分になるという問題点があった。さらに、例えば複数のアプリケーションに係る通信を行うために、MIMO通信を実行可能であることに加えて、複数の周波数帯で動作することが可能なアンテナ装置を提供することが望ましい。特許文献1及び2には、このようなアンテナ装置は開示されていなかった。
図29は非特許文献1において開示された従来技術に係るアレーアンテナ装置の平面図である。図29において、誘電体基板70上にパッチアンテナ71,72が形成され、それぞれマイクロストリップ線路73,74を介して給電されている。ここで、矢印76に示すように、パッチアンテナ71から空間を伝搬してパッチアンテナ72に入る高周波信号を打ち消すために、マイクロストリップ線路75を各給電点前のマイクロストリップ線路73,74の間に接続されている。しかしながら、パッチアンテナ71からパッチアンテナ72に入る高周波信号を打ち消すために、空間的な結合を逆相とする設計が極めて難しいという問題点があった。
本発明の目的は以上の問題点を解決し、例えばMIMO通信などに使用可能なアレーアンテナ装置であって、簡単な構成でありながら給電素子間のアイソレーションを十分に確保できる複数の周波数帯で動作することが可能なアレーアンテナ装置、及びそのようなアレーアンテナ装置を備えた無線通信装置を提供することにある。
第1の発明に係るアレーアンテナ装置は、
第1の給電点と接続され、第1の周波数で共振する第1のアンテナ素子と、
第2の給電点と接続され、上記第1の周波数で共振する第2のアンテナ素子とを備えたアレーアンテナ装置において、
上記第1のアンテナ素子内の第1の接続点と、上記第2のアンテナ素子内の第3の接続点とを電気的に接続する第1の接続線と、
上記第1のアンテナ素子内の第2の接続点と、上記第2のアンテナ素子内の第4の接続点とを電気的に接続する第2の接続線とを備え、
上記第2の給電点から上記第3の接続点と上記第1の接続線と上記第1の接続点とを介して上記第1の給電点に至る第1の信号経路を伝搬する高周波信号と、上記第2の給電点から上記第4の接続点と上記第2の接続線と上記第2の接続点とを介して上記第1の給電点に至る第1の信号経路を伝搬する高周波信号との位相差が上記第1の給電点において実質的に180度となるように、上記第1及び第2のアンテナ素子の各電気長、並びに上記第1及び第2の接続線の各電気長を設定することにより、上記第1の周波数と、上記第1の周波数よりも高い第2の周波数とを含む複数の周波数で共振することを特徴とする。
上記アレーアンテナ装置において、上記位相差は、上記第1の周波数と上記第2の周波数との平均周波数において実質的に180度となるように設定されたことを特徴とする。
また、上記アレーアンテナ装置において、上記第1の接続点と上記第2の接続点との間に接続された第1の移相器と、上記第1の接続点と上記第3の接続点との間に接続された第2の移相器と、上記第3の接続点と上記第4の接続点との間に接続された第3の移相器と、上記第2の接続点と上記第4の接続点との間に接続された第4の移相器とをさらに備えたことを特徴とする。
さらに、上記アレーアンテナ装置において、上記各移相器は入力される高周波信号を実質的に90度だけ移相して出力する90度移相器であることを特徴とする。
またさらに、上記アレーアンテナ装置において、上記移相器は、上記第2の周波数を有する高周波信号を遮断する低域通過フィルタであって、上記低域通過フィルタはインダクタとキャパシタとを含むように構成されたことを特徴とする。
また、上記アレーアンテナ装置において、上記各移相器は、上記第2の周波数の共振周波数を有し、上記第2の周波数を有する高周波信号を遮断する並列共振回路であり、上記並列共振回路はインダクタとキャパシタとを含むように構成されたことを特徴とする。
さらに、上記アレーアンテナ装置において、上記各移相器は、並列共振回路と直列共振回路とを含み、
上記並列共振回路は、上記第2の周波数の共振周波数を有し、上記第2の周波数を有する高周波信号を遮断し、インダクタとキャパシタとを含むように構成され、
上記直列共振回路は、上記第1の周波数の共振周波数を有し、上記第1の周波数を有する高周波信号を通過させ、インダクタとキャパシタとを含むように構成されたことを特徴とする。
またさらに、上記アレーアンテナ装置において、上記第1のアンテナ素子と上記第2のアンテナ素子は互いに非対称な回路となるように構成されたことを特徴とする。
またさらに、上記アレーアンテナ装置において、上記第1の移相器が接続された上記第1の接続点と上記第2の接続点との間の位置と、上記第2の移相器が接続された上記第1の接続点と上記第3の接続点との間の位置と、上記第3の移相器が接続された上記第3の接続点と上記第4の接続点との間の位置と、上記第4の移相器が接続された上記第2の接続点と上記第4の接続点との間の位置とを除いた、上記第1のアンテナ素子と上記第2のアンテナ素子の少なくとも一方に、上記第1の周波数及び上記第2の周波数以外の共振周波数を有する並列共振回路を挿入することにより、上記第1の周波数及び上記第2の周波数以外の共振周波数で共振するように構成されたことを特徴とする。
第2の発明に係る無線通信装置は、上記アレーアンテナ装置と、上記アレーアンテナ装置を用いて無線通信を行う無線通信回路とを備えたことを特徴とする。
従って、本発明に係るアレーアンテナ装置によれば、例えばMIMO通信などに使用可能なアレーアンテナ装置であって給電素子間のアイソレーションを十分に確保するとともに、複数の周波数帯で動作することが可能なアレーアンテナ装置、及びそのようなアレーアンテナ装置を備えた無線通信装置を提供することができる。従って、本発明によれば、高域側の周波数帯においてMIMO通信を行うときに、給電素子間の十分なアイソレーションを確保することができる。さらに、給電素子数を増大させることなく、低域側の周波数帯において他のアプリケーションのための通信を行うことができる。
本発明による最大の効果としては、アンテナ素子内に例えば4個の90度移相器を直列に接続されてなる移相回路を備えることで、1つのアンテナ素子に2給電する。また、同時に駆動した際でもアンテナ間のアイソレーションを低くすることができる。90度移相回路を集中定数素子であるインダクタとキャパシタで構成し、低域側の周波数帯において90度の移相回転を与え、高域側の周波数で開放となるような定数を選ぶことで複数の周波数帯で共振することが可能となる。
本発明の一実施形態における携帯電話機用アレーアンテナ装置101の外観を示す斜視図である。
図1の移相回路20の内部構成を示す回路図である。
図2の移相回路20の電流経路を示す回路図である。
図1の90度移相器21,22,23,24の構成を示す回路図である。
図4Aの回路の第1の変形例の構成を示す回路図である。
図4Aの回路の第2の変形例の構成を示す回路図である。
図4Aの90度移相器21,22,23,24の反射係数S11の一例を示すスミスチャートである。
図4Aの90度移相器21,22,23,24の通過係数S21の一例を示すグラフである。
周波数f1における図1のアレーアンテナ装置101の電流経路を示す回路図である。
周波数f2(f1<f2)における図1のアレーアンテナ装置の電流経路を示す回路図である。
図4Aの90度移相器21,22,23,24の移相誤差とアイソレーションとの関係を示すグラフである。
本発明の変形例1に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置102の外観を示す斜視図である。
図8Aの並列共振回路の一例を示す回路図である。
周波数f1における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図である。
周波数f2(f1<f2)における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図である。
周波数f3(f2<f3)における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図である。
本発明の変形例2に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置103の外観を示す斜視図である。
本発明の変形例3に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置104の外観を示す斜視図である。
本発明の変形例4に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置105の外観を示す斜視図である。
本発明の変形例5に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置106の外観を示す斜視図である。
本発明に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例1に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例2に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例3に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例4に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例5に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例6に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例7に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例8に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例9に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例10に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例11に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の試作例に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
図26の携帯電話機用アレーアンテナ装置の通過係数S21及び反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
図26の携帯電話機用アレーアンテナ装置の反射係数S11のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
従来技術に係るアレーアンテナ装置の平面図である。
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
図1は本発明の一実施形態における携帯電話機用アレーアンテナ装置101の外観を示す斜視図である。本実施形態のアレーアンテナ装置101は、裏面が金属接地導体11にてなる誘電体回路基板10上の2つの2つの給電点Q1,Q2に1本の線状アンテナ素子1の両端が接続され、給電点Q1,Q2の間のアンテナ素子1内に、4個の90度移相器21〜24を直列に接続して構成された移相回路20を備えたことを特徴としている。ここで、給電点Q1,Q2には無線通信回路3が接続され(図1において図示するが、以降の図面においては図示を省略する。)、アンテナ素子1は2本の線状のアンテナ素子部分1a,1bに2分割されてその分割点に移相回路20が挿入されている。
図2は図1の移相回路20の内部構成を示す回路図である。図2において、移相回路20は格子状に互いに直列に接続された4個の90度移相器21〜24で構成されている。ここで、90度移相器21〜24は入力される高周波信号を実質的に90度だけ移相して出力する。高域側の周波数帯において動作するときは、移相回路20により高域側の周波数帯の高周波信号を遮断して、給電点Q1,Q2からそれぞれアンテナ素子部分1a,1bを互いに独立に励振させてMIMO通信を行う一方、低域側の周波数帯において動作するときは、給電点Q1,Q2間に接続された線状アンテナとして励振させて2周波動作で無線通信することを特徴とする。ここで、アレーアンテナ装置101は、図1に示すように、回路基板10上に給電点Q1,Q2を備え、給電点Q1,Q2は例えば同一平面内にあって、互いに所定距離だけ離隔するように設けられる。
図3は図2の移相回路20の電流経路を示す回路図である。すなわち、図3は給電点Q2からアンテナ素子1に流れる電流を示した図である。給電点Q2からの電流IはA点にて90度移相器22側の電流I1と、90度移相器23側の電流I2に分岐する。A点を位相の基準とするとB点に到達した電流I1はA点に対して位相が90度進んでいる。これに対して、電流I2は90度移相器23,24,21を通過するため、A点に対して位相が270度進んだものがB点に到達する。そのため、B点における電流I1と電流I2は位相差が180度であるため、双方が打ち消しあい給電点Q2からの電流が給電点Q1に入り込まない。そのため、1つのアンテナ素子1に給電点を2つ備えた状態でもその双方のアイソレーションを非常に高くすることができる。逆に給電点Q1からの電流も同様なことが言える。
図4Aは図1の90度移相器21,22,23,24の構成の一例を示す回路図である。図4Aにおいて、90度移相器21,22,23,24はインダクタ31とキャパシタ32とをL型回路で構成されており、この回路構成は低域側の周波数成分を通過させ、高域側の周波数を遮断する低域通過フィルタとして働く。なお、キャパシタ32は、インダクタ31と接地導体11との間の浮遊容量で構成してもよい。
図4Bは図4Aの回路の第1の変形例の構成を示す回路図である。図4Bにおいて、図4Aの90度移相器21,22,23,24に代えて、移相器25を備えてもよい。ここで、移相器25は、高域側の周波数帯の高周波信号を遮断する、インダクタ31及びキャパシタ32を備えて構成された並列共振回路である。すなわち、移相器25において、高域側の周波数帯の高周波信号を遮断してトラップ回路として動作し、携帯電話機用アレーアンテナ装置を2周波動作させることができる。
図4Cは図4Aの回路の第2の変形例の構成を示す回路図である。図4Cにおいて、図4Aの90度移相器21,22,23,24に代えて、移相器26を備えてもよい。ここで、移相器26は、高域側の周波数帯の高周波信号を遮断するインダクタ31及びキャパシタ32を備えて構成された並列共振回路と、インダクタ33及びキャパシタ34を備えて構成された直列共振回路とが直列に接続されて構成される。ここで、後者の直列共振回路は、高域側の周波数帯の高周波信号を通過させかつ2つの電流経路K1,K2(図14参照)で一方の給電点Q1において2つの電流経路K1,K2を通過した2つの高周波信号が互いに相殺するように、給電点Q1において2つの高周波信号の位相差が180度となるように調整するために設けられる。なお、電流の方向が上記の場合と逆になるときは、給電点Q2において2つの電流経路K1,K2(図14参照)を通過した2つの高周波信号が互いに相殺するように、給電点Q2において2つの高周波信号の位相差が180度となるように調整するために設けられる。これにより、移相器25において、高域側の周波数帯の高周波信号を遮断し、かつ2つの電流経路K1,K2を通過した2つの高周波信号が給電点Q1又はQ2において互いに相殺し、携帯電話機用アレーアンテナ装置を2周波動作させることができる。
図5Aは図4Aの90度移相器21,22,23,24の反射係数S11の一例を示すスミスチャートであり、図5Bは図4Aの90度移相器21,22,23,24の通過係数S21の一例を示すグラフである。図5A及び図5Bにおいて、f1とf2は周波数を示しており、大小関係はf1<f2の関係にある。図5Aから明らかなように、低域側の周波数f1で50Ωにインピーダンス整合が取れており、高域側の周波数f2で50Ωよりも高いインピーダンスとなっていることがわかる。図5Bから明らかなように、周波数f1にてA−B点間の位相差が90度になっており、図4Aのインダクタ31とキャパシタ32を用いた回路構成で90度移相器として動作しているといえる。
図6Aは周波数f1における図1のアレーアンテナ装置101の電流経路を示す回路図であり、図6Bは周波数f2(f1<f2)における図1のアレーアンテナ装置の電流経路を示す回路図である。すなわち、図6A及び図6Bはアンテナ素子1が2共振状態となる状態を示した図である。図6Aは低域側の周波数f1の電流経路を示しており、図6Bは高域側の周波数f2の電流経路を示している。図6A及び図6Bから明らかなように、低域側の周波数f1は移相回路20を通過し、高域側の周波数f2は移相回路20の前で遮断されている。このように、アンテナ素子に電気長が異なる電流経路を複数設けると、その電気長に応じた複数の周波数で共振状態が得られる。ここで、共振状態とは、モノポールアンテナの電気長を例えばnλ/4(nは自然数であり、λは波長である。)に設定した場合である。
無線システムでは通信品質を向上させるために、例えばMIMO通信システムにおいて、複数のチャンネルを設けている。各チャンネルも無線システムに応じた帯域幅を持っている。図5Bで示したように位相の大きさは周波数で変化するため、帯域内で必ず移相器の位相が90度から外れてしまう。図3において給電点からのアンテナ素子1に流れる電流の振幅をIa、位相差の誤差をΔθとするとアイソレーションIsoは次式で表される。
図7は図4Aの90度移相器21,22,23,24の移相誤差ΔθとアイソレーションIsoとの関係を示すグラフである。すなわち、図7は式(1)を用いて90度移相器21,22,23,24の移相誤差と給電点間のアイソレーションIsoの関係を示した図である。必要な帯域幅とアイソレーションより、90度移相器21,22,23,24の設計に役立てることができる。例えば、2周波動作の場合において、アイソレーションIsoを10dB以上確保するためには、移相誤差Δθが18度程度であってもよい。すなわち、移相器21,22,23,24の位相差は90度に限定されず、好ましくは70〜110度、より好ましくは72〜108度、最も好ましくは80〜100度に設定してもよく、実質的に90度又は90度近傍の位相差に設定してもよい。また、2周波動作の2つの周波数f1,f2の中間周波数又は平均周波数で移相器21,22,23,24の位相差が実質的に90度となるように設定すればよい。
次いで、図1の実施形態に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置101に代わる種々の変形例について以下に説明する。
図8Aは本発明の変形例1に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置102の外観を示す斜視図であり、図8Bは図8Aの並列共振回路の一例を示す回路図である。図8Aにおいて、アレーアンテナ装置102は、回路基板10上に1つのアンテナ素子1の2つの給電点Q1,Q2が設けられ、その2つの給電点Q1,Q2間のアンテナ素子1内に移相回路20を備えている。さらに、移相回路20と給電点Q1,Q2のそれぞれの間に並列共振回路41,42を備えたことを特徴とする。この並列共振回路41,42は、図8Bに示すように、インダクタ35とキャパシタ36の並列共振回路(トラップ回路)で構成され、特定の周波数成分を遮断し、それ以外の周波数を通過させることができる。
図9Aは周波数f1における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図であり、図9Bは周波数f2(f1<f2)における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図であり、図9Cは周波数f3(f2<f3)における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図である。すなわち、図9A〜図9Cはアンテナ素子1が3共振となる状態を示した図である。図9A〜図9Cから明らかなように、低域側の周波数f1は並列共振回路41,42と移相回路20を通過し、周波数f2は移相回路20の前で遮断されており、周波数f3は並列共振回路41,42で遮断されている。このように、アンテナ素子1に電気長が異なる電流経路を複数設けると、その電気長に応じた3周波数などの複数の周波数で共振が得られる。
以上説明したように、本実施形態のアレーアンテナ装置によれば、簡単な構成でありながら給電素子間のアイソレーションを十分に確保するとともに、複数の周波数帯で動作することができる。
以上の本実施形態及び変形例1では、図1又は図8Aのように回路基板10の面上にアンテナ素子1を備えたが、これに限定されるものではない。図10は本発明の変形例2に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置103の外観を示す斜視図である。図10に示すように、回路基板10の面の外側にアンテナ素子2を備えても良いことは言うまでない。図10において、アンテナ素子2はアンテナ素子部分2a,2bに2分割され、その分割点に移相回路20が挿入されている。
以上の実施形態及び変形例では、線状のアンテナ素子1又は2を備えたが、これに限定されるものではない。図11は本発明の変形例3に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置104の外観を示す斜視図である。図11に示すように、アンテナ素子2の一部又はすべて(すなわち、少なくとも一部)を板状アンテナ素子にしてもよい。図11においては、移相回路20の2端子にアンテナ素子部分2a,2bが接続され、他の2端子にそれぞれ板形状のアンテナ素子51,52が接続されている。
以上の実施形態及び変形例では給電点Q1,Q2を挟んだ面(アンテナ素子1又は2の略中央部)でアンテナ素子1又は2が対称回路構成になっていたが、本発明はこれに限らず、非対称の回路構成でもよい。図12は本発明の変形例4に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置105の外観を示す斜視図である。図12に示すように、給電点Q1,Q2から見て移相回路20より外側のアンテナ素子2は、対称回路構成でなくてもよい。図12においては、移相回路20の2端子にアンテナ素子部分2a,2bが接続され、他の2端子にそれぞれ板形状のアンテナ素子51及びインダクタ(延長コイル)53が接続されている。
以上の実施形態及び変形例では、給電点Q1,Q2を挟んだ面(アンテナ素子1又は2の略中央部)でアンテナ素子1又は2が対称の回路構成になっていたが、本発明はこれに限らず、非対称の回路構成でもあってもよい。図13は本発明の変形例5に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置106の外観を示す斜視図である。図13に示すように、給電点Q1,Q2から見て移相回路20より内側のアンテナ素子2は、アンテナ素子部分2a,2bの電気長が等しければ、対称の回路構成でなくてもよい。図13において、アンテナ素子部分2aはインダクタ54を含むように構成され、アンテナ素子部分2bはアンテナ素子部分55を含むように構成される。
以上詳述したように、本発明の実施形態及び変形例に係るアレーアンテナ装置によれば、例えばMIMO通信などに使用可能なアレーアンテナ装置であって給電素子間のアイソレーションを十分に確保するとともに、複数の周波数帯で動作することが可能なアレーアンテナ装置、及びそのようなアレーアンテナ装置を備えた無線通信装置を提供することができる。従って、本発明によれば、高域側の周波数帯においてMIMO通信を行うときに、給電素子間の十分なアイソレーションを確保することができる。さらに、給電素子数を増大させることなく、低域側の周波数帯において他のアプリケーションのための通信を行うことができる。
本発明の実施形態による最大の効果としては、アンテナ素子1内に移相回路20(4個の90度移相回路21〜24を直列に接続されてなる)を構成することで、1つのアンテナ素子1に2個の給電点Q1,Q2を介して給電する。また、同時に駆動した際でもアンテナ素子部分間のアイソレーションを低くすることができる。90度移相器21〜24を集中定数素子であるインダクタ31とキャパシタ32で構成し、低域側の周波数帯において90度の移相回転を与え、高域側の周波数で開放となるような定数を選ぶことで複数の周波数帯で共振することが可能となる。
図14は本発明に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。すなわち、図14は本発明の装置の技術的思想の要旨を示す回路図であって、図14において、アンテナ素子A1とアンテナ素子A2との間において、アンテナ素子A1の接続点P1と、アンテナ素子A2の接続点P3とが電気長L31を有する接続線M1を介して電気的に接続されるとともに、アンテナ素子A1の接続点P2と、アンテナ素子A2の接続点P4とが電気長L32を有する接続線M2を介して電気的に接続される。ここで、アンテナ素子A1は、電気長L11を有するアンテナ素子部分E11と、電気長L12を有するアンテナ素子部分E12と、電気長L13を有するアンテナ素子部分E13とを備えて構成される。また、アンテナ素子A2は、電気長L21を有するアンテナ素子部分E21と、電気長L22を有するアンテナ素子部分E22と、電気長L23を有するアンテナ素子部分E23とを備えて構成される。
以上のように構成されたアレーアンテナ装置において、低域側の周波数f1の高周波信号を給電点Q1に入力したときに、電気長(=L11+L12+L13)を有するアンテナ素子A1が低域側の周波数f1で共振状態となり、低域側の周波数f1の高周波信号を給電点Q2に入力したときに、電気長(=L21+L22+L23)を有するアンテナ素子A2が低域側の周波数f1で共振状態となるように設定される。また、高域側の周波数f2の高周波信号を給電点Q1に入力したときに、第1の電気長(=L11+M1+L22+L23)又は第2の電気長(=L11+L12+M2+L23)を有するアンテナ素子装置が高域側の周波数f2で共振状態となり、第3の電気長(=L21+M1+L12+L13)又は第2の電気長(=L21+L22+M2+L13)を有するアンテナ素子装置が高域側の周波数f2で共振状態となるように設定される。ここで、例えば、給電点Q2で給電された低域側の周波数f1の高周波信号の電流が、アンテナ素子部分E21と、接続線M1と、アンテナ素子部分E11とを介して電流経路K1で給電点Q1に流れる一方、給電点Q2で給電された低域側の周波数f1の高周波信号の電流が、アンテナ素子部分E21と、アンテナ素子部分E22と、接続線M2と、アンテナ素子部分E12と、アンテナ素子部分E11とを介して電流経路K2で給電点Q1に流れたときに、これら2つの電流経路K1,K2を介して流れた高周波信号が給電点Q1において互いに逆相となるように、各電気長を調整する。なお、給電点Q1で給電された低域側の周波数f1の高周波信号の電流についても同様である。以上のように調整することにより、当該アレーアンテナ装置は2つの周波数f1,f2で動作させることができ、しかも2つのアンテナ素子A1,A2間で所定のアイソレーションを得ることができる。
図15は本発明の実施例1に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図15において、アンテナ素子部分E12に90度移相器21が挿入され、接続線M1に90度移相器22が挿入され、アンテナ素子部分E22に90度移相器23が挿入され、接続線M2に90度移相器24が挿入されている。図15の実施例1においては、アンテナ素子A1,A2はともに高域側の周波数f2で共振状態となるように各電気長が調整される。ここで、例えば、接続点P3から接続線M1を介して接続点P1に至る電流経路と、接続点P3からアンテナ素子部分E22、接続線M2及びアンテナ素子部分E12を介して接続点P1に至る電流経路とは180度の位相差を有しており、また同様に、接続点P1から接続点P3に至る2つの電流経路についても同様であるので、低域側の周波数f1の高周波信号を接続点P1又はP2で相殺することができ、当該アレーアンテナ装置は2つの周波数f1,f2で共振状態となり、しかも2つのアンテナ素子A1,A2間で所定のアイソレーションを得ることができる。
図16は本発明の実施例2に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図16の実施例2は、図15の実施例1に比較して、アンテナ素子部分E13及びE23を無くした(L13=L23=0)ことを特徴としている。以上のように構成しても、図15の実施例1と同様の作用効果を有する。
図17は本発明の実施例3に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図17の実施例3は、図15の実施例1と同様の場合であって、各アンテナ素子1,2の電気長が実施例1と3で互いに同じで1/4波長の整数倍となる場合である。以上のように構成しても、図15の実施例1と同様の作用効果を有する。
図18は本発明の実施例4に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図18の実施例4は、図17の実施例2に比較して、アンテナ素子部分E11,E21を
無くした(L11=L21=0)ことを特徴としている。以上のように構成しても、図17の実施例2と同様の作用効果を有する。
図19は本発明の実施例5に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図19の実施例5は、図17の実施例2に比較して、アンテナ素子部分E21を無くし、その代わりに、その電気長分をアンテナ素子部分E13に付加したことを特徴としている。以上のように構成しても、図17の実施例2と同様の作用効果を有する。
図20は本発明の実施例6に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図20の実施例6は、図17の実施例3と同様の場合であって、各アンテナ素子1,2の電気長が実施例1と3で異なるが1/4波長の整数倍となる場合である。以上のように構成しても、図17の実施例3と同様の作用効果を有する。
以下の実施例7〜11では、例えば並列共振回路を挿入して3周波共振となるように構成したものである。
図21は本発明の実施例7に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図21の実施例7は、図16の実施例2において、アンテナ素子部分E11及びE21にそれぞれ、周波数f3(f1<f2<f3)での共振周波数を有する並列共振回路61,62を挿入することにより、図16の実施例2の2周波数f1,f2に加えて、周波数f3で共振することができる。なお、周波数f3は各給電点Q1,Q2からそれぞれ並列共振回路61,62までの電気長で共振する共振周波数である。
以下の実施例8〜11では、各アンテナ素子A1,A2の共振周波数をf0(f0<f1<f2<f3)と設定した場合の各実施例について以下に説明する。
図22は本発明の実施例8に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図22の実施例8は、図17の実施例3において、アンテナ素子部分E11及びE21にそれぞれ、周波数f3(f1<f2<f3)での共振周波数を有する並列共振回路61,62を挿入するとともに、アンテナ素子部分E13及びE23にそれぞれ、周波数f1での共振周波数を有する並列共振回路63,64を挿入することにより、図17の実施例3の2周波数f1,f2に加えて、周波数f0,f3で共振することができる。
図23は本発明の実施例9に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図23の実施例9は、図22の実施例8において、アンテナ素子部分E11及びE21を無くしことを特徴としており、これにより、周波数f0,f1,f2で共振することができる。
図24は本発明の実施例10に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図24の実施例10は、図19の実施例5において、アンテナ素子部分E13及びE23にそれぞれ、周波数f1での共振周波数を有する並列共振回路63,64を挿入することにより、図17の実施例3の2周波数f0,f2に加えて、周波数f1で共振することができる。
図25は本発明の実施例11に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図25の実施例11は、図20の実施例6において、アンテナ素子部分E11及びE21にそれぞれ、周波数f3(f1<f2<f3)での共振周波数を有する並列共振回路61,62を挿入するとともに、アンテナ素子部分E13及びE23にそれぞれ、周波数f1での共振周波数を有する並列共振回路63,64を挿入することにより、図17の実施例3の2周波数f0,f2に加えて、周波数f1,f3で共振することができる。
なお、図21〜図25の並列共振回路61〜64は例えば図4Bに示すように、インダクタ31及びキャパシタ32からなる並列共振回路である。
図26は本発明の試作例に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。また、図27は図26の携帯電話機用アレーアンテナ装置の通過係数S21及び反射係数S11の周波数特性を示すグラフであり、図28は図26の携帯電話機用アレーアンテナ装置の反射係数S11のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。当該試作例に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置は本発明者らにより試作されたものであって、図14の携帯電話機用アレーアンテナ装置に対応する。ここで、本発明者らは、線路高及び線路幅を特性インピーダンス50Ωで設計して試作した。図27及び図28から明らかなように、2GHzでインピーダンス整合しており、しかもより低い周波数1.8GHz付近でアイソレーションが最大となっていることがわかる。
以上の実施形態においては、電流経路K1,K2としているが、本発明はこれに限らず、電流経路を含む信号経路であってもよい。また、給電点Q1,Q2を互いに入れ替えて構成してもよい。
本発明のアンテナ装置及び無線通信装置によれば、例えば携帯電話機として実装することができ、あるいは無線LAN用の装置として実装することもできる。このアンテナ装置は、例えばMIMO通信を行うための無線通信装置に搭載することができるが、MIMOに限らず、給電素子間のアイソレーションが大きいことを必要とする他の任意の通信のための無線通信装置に搭載することも可能である。
1,2…アンテナ素子、
1a,1b,2a,2b,E11,E12,E13,E21,E22,E23…アンテナ素子部分、
3…無線通信回路、
10…回路基板、
11…接地導体、
20…移相回路、
21〜24…90度移相器、
25,26…移相器、
31,33,35…インダクタ、
32,34,36…キャパシタ、
41,42…並列共振回路、
51,52…板状アンテナ素子、
53,54…インダクタ、
55…延長アンテナ素子部分、
61〜64…並列共振回路、
101〜106…携帯電話機用アレーアンテナ装置、
A1,A2…アンテナ素子、
K1,K2…電流経路、
M1,M2…接続線、
P1,P2,P3,P4…接続点、
Q1,Q2…給電点。
本発明は、給電素子間のアイソレーションを十分に確保するとともに、複数の周波数で動作することが可能なアレーアンテナ装置と、それを用いた無線通信装置とに関する。
近年、携帯電話機等の携帯無線通信装置の小型化、薄型化が急速に進んでいる。また、携帯無線通信装置は、従来の電話機として使用されるのみならず、電子メールの送受信やwww(ワールドワイドウェブ)によるウェブページの閲覧などを行うデータ端末機に変貌を遂げている。取り扱う情報も従来の音声や文字情報から写真や動画像へと大容量化を遂げており、通信品質のさらなる向上が求められている。このような状況の中、複数のアンテナ素子を備えたアレーアンテナ装置で複数のチャンネルの無線信号を同時に送受信するMIMO(Multi-Input Multi-Output)技術を用いたアンテナ装置が提案されている。
アレーアンテナの結合劣化を改善する技術の1つとして、移相回路を設けた構成が開示されている(特許文献1参照)。特許文献1によると、2つの周波数の電波を送信あるいは受信するアンテナ装置において、異なる共振周波数を有する2つのアンテナ素子の給電点がそれぞれ、位相を変化させる2つの移相回路を介して無線回路と接続されることを特徴とする。このようなアンテナ装置では、アンテナ素子が移相回路を介し給電点に接続されることで隣接する他のアンテナ素子の共振周波数でのインピーダンス特性を高く調整することができる。そのためアンテナ間の影響が取り除かれ、単純な構成で比較的近接した異なる周波数での使用が可能になる。
アレーアンテナの結合劣化を改善する技術の1つとして、各アンテナの電流経路を異なるようにする構成が開示されている(特許文献2参照)。特許文献2においては、長方形形状の導電性の基板と、上記基板上に誘電体を介して設けられた平板状のアンテナとを備えたアンテナ装置が開示されている。このアンテナ装置は、アンテナを所定方向に励振させることにより基板上の一方の対角線方向に電流を流れさせるとともに、アンテナを異なる方向に励振させることにより基板上の他方の対角線方向に電流を流すことを特徴とする。このように、特許文献2のアンテナ装置では、基板上を流れる電流の方向を変えることによって、アンテナ装置の2つのアンテナが電磁的に結合するという問題の発生を防止できる。
特開2001−267841号公報。
国際公開WO2002/039544。
しかしながら、上述の特許文献1に開示された方式によると、2つの素子の共振周波数が異なり、一方のアンテナ素子において他方のアンテナ素子の共振周波数で使用されたときに高インピーダンスとなる。そのため位相を変化させるため2つの素子を同周波数で同時に駆動させる最大比合成法(MRC(Maximum Ratio Combining))やMIMOアンテナ装置には使用することができない。また特許文献2に開示された方式によると、各アンテナの電流経路を変えることでアンテナが電磁的に結合する問題を抑制することが可能である。しかし、スイッチ切り替えを行うため特許文献1と同様に同時に動作することができないため、MRCやMIMOアンテナ装置には使用することができない。
また、携帯電話機のような小型の無線通信装置にアレーアンテナを設ける場合、給電素子間の距離が短くなることを余儀なくされ、そのため、給電素子間のアイソレーションが不十分になるという問題点があった。さらに、例えば複数のアプリケーションに係る通信を行うために、MIMO通信を実行可能であることに加えて、複数の周波数帯で動作することが可能なアンテナ装置を提供することが望ましい。特許文献1及び2には、このようなアンテナ装置は開示されていなかった。
図29は非特許文献1において開示された従来技術に係るアレーアンテナ装置の平面図である。図29において、誘電体基板70上にパッチアンテナ71,72が形成され、それぞれマイクロストリップ線路73,74を介して給電されている。ここで、矢印76に示すように、パッチアンテナ71から空間を伝搬してパッチアンテナ72に入る高周波信号を打ち消すために、マイクロストリップ線路75を各給電点前のマイクロストリップ線路73,74の間に接続されている。しかしながら、パッチアンテナ71からパッチアンテナ72に入る高周波信号を打ち消すために、空間的な結合を逆相とする設計が極めて難しいという問題点があった。
本発明の目的は以上の問題点を解決し、例えばMIMO通信などに使用可能なアレーアンテナ装置であって、簡単な構成でありながら給電素子間のアイソレーションを十分に確保できる複数の周波数帯で動作することが可能なアレーアンテナ装置、及びそのようなアレーアンテナ装置を備えた無線通信装置を提供することにある。
第1の発明に係るアレーアンテナ装置は、
第1の給電点と接続され、第1の周波数で共振する第1のアンテナ素子と、
第2の給電点と接続され、上記第1の周波数で共振する第2のアンテナ素子とを備えたアレーアンテナ装置において、
上記第1のアンテナ素子内の第1の接続点と、上記第2のアンテナ素子内の第3の接続点とを電気的に接続する第1の接続線と、
上記第1のアンテナ素子内の第2の接続点と、上記第2のアンテナ素子内の第4の接続点とを電気的に接続する第2の接続線とを備え、
上記第2の給電点から上記第3の接続点と上記第1の接続線と上記第1の接続点とを介して上記第1の給電点に至る第1の信号経路を伝搬する第1の高周波信号と、上記第2の給電点から上記第4の接続点と上記第2の接続線と上記第2の接続点とを介して上記第1の給電点に至る第2の信号経路を伝搬する第2の高周波信号との位相差が上記第1の給電点において実質的に180度となるように、上記第1及び第2のアンテナ素子の各電気長、並びに上記第1及び第2の接続線の各電気長を設定することにより、上記第1の周波数と、上記第1の周波数よりも高い第2の周波数とを含む複数の周波数で共振することを特徴とする。
上記アレーアンテナ装置において、上記位相差は、上記第1の周波数と上記第2の周波数との平均周波数において実質的に180度となるように設定されたことを特徴とする。
また、上記アレーアンテナ装置において、上記第1の接続点と上記第2の接続点との間に接続された第1の移相器と、上記第1の接続点と上記第3の接続点との間に接続された第2の移相器と、上記第3の接続点と上記第4の接続点との間に接続された第3の移相器と、上記第2の接続点と上記第4の接続点との間に接続された第4の移相器とをさらに備えたことを特徴とする。
さらに、上記アレーアンテナ装置において、上記各移相器は入力される高周波信号を実質的に90度だけ移相して出力する90度移相器であることを特徴とする。
またさらに、上記アレーアンテナ装置において、上記各移相器は、上記第2の周波数を有する高周波信号を遮断する低域通過フィルタであって、上記低域通過フィルタはインダクタとキャパシタとを含むように構成されたことを特徴とする。
また、上記アレーアンテナ装置において、上記各移相器は、上記第2の周波数の共振周波数を有し、上記第2の周波数を有する高周波信号を遮断する並列共振回路であり、上記並列共振回路はインダクタとキャパシタとを含むように構成されたことを特徴とする。
さらに、上記アレーアンテナ装置において、上記各移相器は、並列共振回路と直列共振回路とを含み、
上記並列共振回路は、上記第2の周波数の共振周波数を有し、上記第2の周波数を有する高周波信号を遮断し、インダクタとキャパシタとを含むように構成され、
上記直列共振回路は、上記第1の周波数の共振周波数を有し、上記第1の周波数を有する高周波信号を通過させ、インダクタとキャパシタとを含むように構成されたことを特徴とする。
またさらに、上記アレーアンテナ装置において、上記第1のアンテナ素子と上記第2のアンテナ素子は互いに非対称な回路となるように構成されたことを特徴とする。
またさらに、上記アレーアンテナ装置において、上記第1の移相器が接続された上記第1の接続点と上記第2の接続点との間の位置と、上記第2の移相器が接続された上記第1の接続点と上記第3の接続点との間の位置と、上記第3の移相器が接続された上記第3の接続点と上記第4の接続点との間の位置と、上記第4の移相器が接続された上記第2の接続点と上記第4の接続点との間の位置とを除いた、上記第1のアンテナ素子と上記第2のアンテナ素子の少なくとも一方に、上記第1の周波数及び上記第2の周波数以外の共振周波数を有する並列共振回路を挿入することにより、上記第1の周波数及び上記第2の周波数以外の共振周波数で共振するように構成されたことを特徴とする。
第2の発明に係る無線通信装置は、上記アレーアンテナ装置と、上記アレーアンテナ装置を用いて無線通信を行う無線通信回路とを備えたことを特徴とする。
従って、本発明に係るアレーアンテナ装置によれば、例えばMIMO通信などに使用可能なアレーアンテナ装置であって給電素子間のアイソレーションを十分に確保するとともに、複数の周波数帯で動作することが可能なアレーアンテナ装置、及びそのようなアレーアンテナ装置を備えた無線通信装置を提供することができる。従って、本発明によれば、高域側の周波数帯においてMIMO通信を行うときに、給電素子間の十分なアイソレーションを確保することができる。さらに、給電素子数を増大させることなく、低域側の周波数帯において他のアプリケーションのための通信を行うことができる。
本発明による最大の効果としては、アンテナ素子内に例えば4個の90度移相器を直列に接続されてなる移相回路を備えることで、1つのアンテナ素子に2給電する。また、同時に駆動した際でもアンテナ間のアイソレーションを低くすることができる。90度移相回路を集中定数素子であるインダクタとキャパシタで構成し、低域側の周波数帯において90度の移相回転を与え、高域側の周波数で開放となるような定数を選ぶことで複数の周波数帯で共振することが可能となる。
本発明の一実施形態における携帯電話機用アレーアンテナ装置101の外観を示す斜視図である。
図1の移相回路20の内部構成を示す回路図である。
図2の移相回路20の電流経路を示す回路図である。
図1の90度移相器21,22,23,24の構成を示す回路図である。
図4Aの回路の第1の変形例の構成を示す回路図である。
図4Aの回路の第2の変形例の構成を示す回路図である。
図4Aの90度移相器21,22,23,24の反射係数S11の一例を示すスミスチャートである。
図4Aの90度移相器21,22,23,24の通過係数S21の一例を示すグラフである。
周波数f1における図1のアレーアンテナ装置101の電流経路を示す回路図である。
周波数f2(f1<f2)における図1のアレーアンテナ装置の電流経路を示す回路図である。
図4Aの90度移相器21,22,23,24の移相誤差とアイソレーションとの関係を示すグラフである。
本発明の変形例1に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置102の外観を示す斜視図である。
図8Aの並列共振回路の一例を示す回路図である。
周波数f1における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図である。
周波数f2(f1<f2)における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図である。
周波数f3(f2<f3)における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図である。
本発明の変形例2に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置103の外観を示す斜視図である。
本発明の変形例3に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置104の外観を示す斜視図である。
本発明の変形例4に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置105の外観を示す斜視図である。
本発明の変形例5に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置106の外観を示す斜視図である。
本発明に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例1に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例2に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例3に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例4に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例5に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例6に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例7に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例8に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例9に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例10に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の実施例11に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
本発明の試作例に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。
図26の携帯電話機用アレーアンテナ装置の通過係数S21及び反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
図26の携帯電話機用アレーアンテナ装置の反射係数S11のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
従来技術に係るアレーアンテナ装置の平面図である。
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
図1は本発明の一実施形態における携帯電話機用アレーアンテナ装置101の外観を示す斜視図である。本実施形態のアレーアンテナ装置101は、裏面が金属接地導体11にてなる誘電体回路基板10上の2つの給電点Q1,Q2に1本の線状アンテナ素子1の両端が接続され、給電点Q1,Q2の間のアンテナ素子1内に、4個の90度移相器21〜24を直列に接続して構成された移相回路20を備えたことを特徴としている。ここで、給電点Q1,Q2には無線通信回路3が接続され(図1において図示するが、以降の図面においては図示を省略する。)、アンテナ素子1は2本の線状のアンテナ素子部分1a,1bに2分割されてその分割点に移相回路20が挿入されている。
図2は図1の移相回路20の内部構成を示す回路図である。図2において、移相回路20は格子状に互いに直列に接続された4個の90度移相器21〜24で構成されている。ここで、90度移相器21〜24は入力される高周波信号を実質的に90度だけ移相して出力する。高域側の周波数帯において動作するときは、移相回路20により高域側の周波数帯の高周波信号を遮断して、給電点Q1,Q2からそれぞれアンテナ素子部分1a,1bを互いに独立に励振させてMIMO通信を行う一方、低域側の周波数帯において動作するときは、給電点Q1,Q2間に接続された線状アンテナとして励振させて2周波動作で無線通信することを特徴とする。ここで、アレーアンテナ装置101は、図1に示すように、回路基板10上に給電点Q1,Q2を備え、給電点Q1,Q2は例えば同一平面内にあって、互いに所定距離だけ離隔するように設けられる。
図3は図2の移相回路20の電流経路を示す回路図である。すなわち、図3は給電点Q2からアンテナ素子1に流れる電流を示した図である。給電点Q2からの電流IはA点にて90度移相器22側の電流I1と、90度移相器23側の電流I2に分岐する。A点を位相の基準とするとB点に到達した電流I1はA点に対して位相が90度進んでいる。これに対して、電流I2は90度移相器23,24,21を通過するため、A点に対して位相が270度進んだものがB点に到達する。そのため、B点における電流I1と電流I2は位相差が180度であるため、双方が打ち消しあい給電点Q2からの電流が給電点Q1に入り込まない。そのため、1つのアンテナ素子1に給電点を2つ備えた状態でもその双方のアイソレーションを非常に高くすることができる。逆に給電点Q1からの電流も同様なことが言える。
図4Aは図1の90度移相器21,22,23,24の構成の一例を示す回路図である。図4Aにおいて、90度移相器21,22,23,24はインダクタ31とキャパシタ32とをL型回路で構成されており、この回路構成は低域側の周波数成分を通過させ、高域側の周波数を遮断する低域通過フィルタとして働く。なお、キャパシタ32は、インダクタ31と接地導体11との間の浮遊容量で構成してもよい。
図4Bは図4Aの回路の第1の変形例の構成を示す回路図である。図4Bにおいて、図4Aの90度移相器21,22,23,24に代えて、移相器25を備えてもよい。ここで、移相器25は、高域側の周波数帯の高周波信号を遮断する、インダクタ31及びキャパシタ32を備えて構成された並列共振回路である。すなわち、移相器25において、高域側の周波数帯の高周波信号を遮断してトラップ回路として動作し、携帯電話機用アレーアンテナ装置を2周波動作させることができる。
図4Cは図4Aの回路の第2の変形例の構成を示す回路図である。図4Cにおいて、図4Aの90度移相器21,22,23,24に代えて、移相器26を備えてもよい。ここで、移相器26は、高域側の周波数帯の高周波信号を遮断するインダクタ31及びキャパシタ32を備えて構成された並列共振回路と、インダクタ33及びキャパシタ34を備えて構成された直列共振回路とが直列に接続されて構成される。ここで、後者の直列共振回路は、高域側の周波数帯の高周波信号を通過させかつ2つの電流経路K1,K2(図14参照)で一方の給電点Q1において2つの電流経路K1,K2を通過した2つの高周波信号が互いに相殺するように、給電点Q1において2つの高周波信号の位相差が180度となるように調整するために設けられる。なお、電流の方向が上記の場合と逆になるときは、給電点Q2において2つの電流経路K1,K2(図14参照)を通過した2つの高周波信号が互いに相殺するように、給電点Q2において2つの高周波信号の位相差が180度となるように調整するために設けられる。これにより、移相器26において、高域側の周波数帯の高周波信号を遮断し、かつ2つの電流経路K1,K2を通過した2つの高周波信号が給電点Q1又はQ2において互いに相殺し、携帯電話機用アレーアンテナ装置を2周波動作させることができる。
図5Aは図4Aの90度移相器21,22,23,24の反射係数S11の一例を示すスミスチャートであり、図5Bは図4Aの90度移相器21,22,23,24の通過係数S21の一例を示すグラフである。図5A及び図5Bにおいて、f1とf2は周波数を示しており、大小関係はf1<f2の関係にある。図5Aから明らかなように、低域側の周波数f1で50Ωにインピーダンス整合が取れており、高域側の周波数f2で50Ωよりも高いインピーダンスとなっていることがわかる。図5Bから明らかなように、周波数f1にてA−B点間の位相差が90度になっており、図4Aのインダクタ31とキャパシタ32を用いた回路構成で90度移相器として動作しているといえる。
図6Aは周波数f1における図1のアレーアンテナ装置101の電流経路を示す回路図であり、図6Bは周波数f2(f1<f2)における図1のアレーアンテナ装置の電流経路を示す回路図である。すなわち、図6A及び図6Bはアンテナ素子1が2共振状態となる状態を示した図である。図6Aは低域側の周波数f1の電流経路を示しており、図6Bは高域側の周波数f2の電流経路を示している。図6A及び図6Bから明らかなように、低域側の周波数f1は移相回路20を通過し、高域側の周波数f2は移相回路20の前で遮断されている。このように、アンテナ素子に電気長が異なる電流経路を複数設けると、その電気長に応じた複数の周波数で共振状態が得られる。ここで、共振状態とは、モノポールアンテナの電気長を例えばnλ/4(nは自然数であり、λは波長である。)に設定した場合である。
無線システムでは通信品質を向上させるために、例えばMIMO通信システムにおいて、複数のチャンネルを設けている。各チャンネルも無線システムに応じた帯域幅を持っている。図5Bで示したように位相の大きさは周波数で変化するため、帯域内で必ず移相器の位相が90度から外れてしまう。図3において給電点からのアンテナ素子1に流れる電流の振幅をIa、位相差の誤差をΔθとするとアイソレーションIsoは次式で表される。
図7は図4Aの90度移相器21,22,23,24の移相誤差ΔθとアイソレーションIsoとの関係を示すグラフである。すなわち、図7は式(1)を用いて90度移相器21,22,23,24の移相誤差と給電点間のアイソレーションIsoの関係を示した図である。必要な帯域幅とアイソレーションより、90度移相器21,22,23,24の設計に役立てることができる。例えば、2周波動作の場合において、アイソレーションIsoを10dB以上確保するためには、移相誤差Δθが18度程度であってもよい。すなわち、移相器21,22,23,24の位相差は90度に限定されず、好ましくは70〜110度、より好ましくは72〜108度、最も好ましくは80〜100度に設定してもよく、実質的に90度又は90度近傍の位相差に設定してもよい。また、2周波動作の2つの周波数f1,f2の中間周波数又は平均周波数で移相器21,22,23,24の位相差が実質的に90度となるように設定すればよい。
次いで、図1の実施形態に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置101に代わる種々の変形例について以下に説明する。
図8Aは本発明の変形例1に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置102の外観を示す斜視図であり、図8Bは図8Aの並列共振回路の一例を示す回路図である。図8Aにおいて、アレーアンテナ装置102は、回路基板10上に1つのアンテナ素子1の2つの給電点Q1,Q2が設けられ、その2つの給電点Q1,Q2間のアンテナ素子1内に移相回路20を備えている。さらに、移相回路20と給電点Q1,Q2のそれぞれの間に並列共振回路41,42を備えたことを特徴とする。この並列共振回路41,42は、図8Bに示すように、インダクタ35とキャパシタ36の並列共振回路(トラップ回路)で構成され、特定の周波数成分を遮断し、それ以外の周波数を通過させることができる。
図9Aは周波数f1における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図であり、図9Bは周波数f2(f1<f2)における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図であり、図9Cは周波数f3(f2<f3)における図8Aのアレーアンテナ装置102の電流経路を示す回路図である。すなわち、図9A〜図9Cはアンテナ素子1が3共振となる状態を示した図である。図9A〜図9Cから明らかなように、低域側の周波数f1は並列共振回路41,42と移相回路20を通過し、周波数f2は移相回路20の前で遮断されており、周波数f3は並列共振回路41,42で遮断されている。このように、アンテナ素子1に電気長が異なる電流経路を複数設けると、その電気長に応じた3周波数などの複数の周波数で共振が得られる。
以上説明したように、本実施形態のアレーアンテナ装置によれば、簡単な構成でありながら給電素子間のアイソレーションを十分に確保するとともに、複数の周波数帯で動作することができる。
以上の本実施形態及び変形例1では、図1又は図8Aのように回路基板10の面上にアンテナ素子1を備えたが、これに限定されるものではない。図10は本発明の変形例2に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置103の外観を示す斜視図である。図10に示すように、回路基板10の面の外側にアンテナ素子2を備えても良いことは言うまでない。図10において、アンテナ素子2はアンテナ素子部分2a,2bに2分割され、その分割点に移相回路20が挿入されている。
以上の実施形態及び変形例では、線状のアンテナ素子1又は2を備えたが、これに限定されるものではない。図11は本発明の変形例3に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置104の外観を示す斜視図である。図11に示すように、アンテナ素子2の一部又はすべて(すなわち、少なくとも一部)を板状アンテナ素子にしてもよい。図11においては、移相回路20の2端子にアンテナ素子部分2a,2bが接続され、他の2端子にそれぞれ板形状のアンテナ素子51,52が接続されている。
以上の実施形態及び変形例では給電点Q1,Q2を挟んだ面(アンテナ素子1又は2の略中央部)でアンテナ素子1又は2が対称回路構成になっていたが、本発明はこれに限らず、非対称の回路構成でもよい。図12は本発明の変形例4に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置105の外観を示す斜視図である。図12に示すように、給電点Q1,Q2から見て移相回路20より外側のアンテナ素子2は、対称回路構成でなくてもよい。図12においては、移相回路20の2端子にアンテナ素子部分2a,2bが接続され、他の2端子にそれぞれ板形状のアンテナ素子51及びインダクタ(延長コイル)53が接続されている。
以上の実施形態及び変形例では、給電点Q1,Q2を挟んだ面(アンテナ素子1又は2の略中央部)でアンテナ素子1又は2が対称の回路構成になっていたが、本発明はこれに限らず、非対称の回路構成でもあってもよい。図13は本発明の変形例5に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置106の外観を示す斜視図である。図13に示すように、給電点Q1,Q2から見て移相回路20より内側のアンテナ素子2は、アンテナ素子部分2a,2bの電気長が等しければ、対称の回路構成でなくてもよい。図13において、アンテナ素子部分2aはインダクタ54を含むように構成され、アンテナ素子部分2bはアンテナ素子部分55を含むように構成される。
以上詳述したように、本発明の実施形態及び変形例に係るアレーアンテナ装置によれば、例えばMIMO通信などに使用可能なアレーアンテナ装置であって給電素子間のアイソレーションを十分に確保するとともに、複数の周波数帯で動作することが可能なアレーアンテナ装置、及びそのようなアレーアンテナ装置を備えた無線通信装置を提供することができる。従って、本発明によれば、高域側の周波数帯においてMIMO通信を行うときに、給電素子間の十分なアイソレーションを確保することができる。さらに、給電素子数を増大させることなく、低域側の周波数帯において他のアプリケーションのための通信を行うことができる。
本発明の実施形態による最大の効果としては、アンテナ素子1内に移相回路20(4個の90度移相回路21〜24を直列に接続されてなる)を構成することで、1つのアンテナ素子1に2個の給電点Q1,Q2を介して給電する。また、同時に駆動した際でもアンテナ素子部分間のアイソレーションを低くすることができる。90度移相器21〜24を集中定数素子であるインダクタ31とキャパシタ32で構成し、低域側の周波数帯において90度の移相回転を与え、高域側の周波数で開放となるような定数を選ぶことで複数の周波数帯で共振することが可能となる。
図14は本発明に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。すなわち、図14は本発明の装置の技術的思想の要旨を示す回路図であって、図14において、アンテナ素子A1とアンテナ素子A2との間において、アンテナ素子A1の接続点P1と、アンテナ素子A2の接続点P3とが電気長L31を有する接続線M1を介して電気的に接続されるとともに、アンテナ素子A1の接続点P2と、アンテナ素子A2の接続点P4とが電気長L32を有する接続線M2を介して電気的に接続される。ここで、アンテナ素子A1は、電気長L11を有するアンテナ素子部分E11と、電気長L12を有するアンテナ素子部分E12と、電気長L13を有するアンテナ素子部分E13とを備えて構成される。また、アンテナ素子A2は、電気長L21を有するアンテナ素子部分E21と、電気長L22を有するアンテナ素子部分E22と、電気長L23を有するアンテナ素子部分E23とを備えて構成される。
以上のように構成されたアレーアンテナ装置において、低域側の周波数f1の高周波信号を給電点Q1に入力したときに、電気長(=L11+L12+L13)を有するアンテナ素子A1が低域側の周波数f1で共振状態となり、低域側の周波数f1の高周波信号を給電点Q2に入力したときに、電気長(=L21+L22+L23)を有するアンテナ素子A2が低域側の周波数f1で共振状態となるように設定される。また、高域側の周波数f2の高周波信号を給電点Q1に入力したときに、第1の電気長(=L11+M1+L22+L23)又は第2の電気長(=L11+L12+M2+L23)を有するアンテナ素子装置が高域側の周波数f2で共振状態となり、第3の電気長(=L21+M1+L12+L13)又は第2の電気長(=L21+L22+M2+L13)を有するアンテナ素子装置が高域側の周波数f2で共振状態となるように設定される。ここで、例えば、給電点Q2で給電された低域側の周波数f1の高周波信号の電流が、アンテナ素子部分E21と、接続線M1と、アンテナ素子部分E11とを介して電流経路K1で給電点Q1に流れる一方、給電点Q2で給電された低域側の周波数f1の高周波信号の電流が、アンテナ素子部分E21と、アンテナ素子部分E22と、接続線M2と、アンテナ素子部分E12と、アンテナ素子部分E11とを介して電流経路K2で給電点Q1に流れたときに、これら2つの電流経路K1,K2を介して流れた高周波信号が給電点Q1において互いに逆相となるように、各電気長を調整する。なお、給電点Q1で給電された低域側の周波数f1の高周波信号の電流についても同様である。以上のように調整することにより、当該アレーアンテナ装置は2つの周波数f1,f2で動作させることができ、しかも2つのアンテナ素子A1,A2間で所定のアイソレーションを得ることができる。
図15は本発明の実施例1に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図15において、アンテナ素子部分E12に90度移相器21が挿入され、接続線M1に90度移相器22が挿入され、アンテナ素子部分E22に90度移相器23が挿入され、接続線M2に90度移相器24が挿入されている。図15の実施例1においては、アンテナ素子A1,A2はともに高域側の周波数f2で共振状態となるように各電気長が調整される。ここで、例えば、接続点P3から接続線M1を介して接続点P1に至る電流経路と、接続点P3からアンテナ素子部分E22、接続線M2及びアンテナ素子部分E12を介して接続点P1に至る電流経路とは180度の位相差を有しており、また同様に、接続点P1から接続点P3に至る2つの電流経路についても同様であるので、低域側の周波数f1の高周波信号を接続点P1又はP2で相殺することができ、当該アレーアンテナ装置は2つの周波数f1,f2で共振状態となり、しかも2つのアンテナ素子A1,A2間で所定のアイソレーションを得ることができる。
図16は本発明の実施例2に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図16の実施例2は、図15の実施例1に比較して、アンテナ素子部分E13及びE23を無くした(L13=L23=0)ことを特徴としている。以上のように構成しても、図15の実施例1と同様の作用効果を有する。
図17は本発明の実施例3に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図17の実施例3は、図15の実施例1と同様の場合であって、各アンテナ素子1,2の電気長が実施例1と3で互いに同じで1/4波長の整数倍となる場合である。以上のように構成しても、図15の実施例1と同様の作用効果を有する。
図18は本発明の実施例4に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図18の実施例4は、図17の実施例3に比較して、アンテナ素子部分E11,E21を
無くした(L11=L21=0)ことを特徴としている。以上のように構成しても、図17の実施例3と同様の作用効果を有する。
図19は本発明の実施例5に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図19の実施例5は、図17の実施例3に比較して、アンテナ素子部分E21を無くし、その代わりに、その電気長分をアンテナ素子部分E13に付加したことを特徴としている。以上のように構成しても、図17の実施例3と同様の作用効果を有する。
図20は本発明の実施例6に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図20の実施例6は、図17の実施例3と同様の場合であって、各アンテナ素子1,2の電気長が実施例1と3で異なるが1/4波長の整数倍となる場合である。以上のように構成しても、図17の実施例3と同様の作用効果を有する。
以下の実施例7〜11では、例えば並列共振回路を挿入して3周波共振となるように構成したものである。
図21は本発明の実施例7に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図21の実施例7は、図16の実施例2において、アンテナ素子部分E11及びE21にそれぞれ、周波数f3(f1<f2<f3)での共振周波数を有する並列共振回路61,62を挿入することにより、図16の実施例2の2周波数f1,f2に加えて、周波数f3で共振することができる。なお、周波数f3は各給電点Q1,Q2からそれぞれ並列共振回路61,62までの電気長で共振する共振周波数である。
以下の実施例8〜11では、各アンテナ素子A1,A2の共振周波数をf0(f0<f1<f2<f3)と設定した場合の各実施例について以下に説明する。
図22は本発明の実施例8に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図22の実施例8は、図17の実施例3において、アンテナ素子部分E11及びE21にそれぞれ、周波数f3(f1<f2<f3)での共振周波数を有する並列共振回路61,62を挿入するとともに、アンテナ素子部分E13及びE23にそれぞれ、周波数f1での共振周波数を有する並列共振回路63,64を挿入することにより、図17の実施例3の2周波数f1,f2に加えて、周波数f0,f3で共振することができる。
図23は本発明の実施例9に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図23の実施例9は、図22の実施例8において、アンテナ素子部分E11及びE21を無くしことを特徴としており、これにより、周波数f0,f1,f2で共振することができる。
図24は本発明の実施例10に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図24の実施例10は、図19の実施例5において、アンテナ素子部分E13及びE23にそれぞれ、周波数f1での共振周波数を有する並列共振回路63,64を挿入することにより、図17の実施例3の2周波数f0,f2に加えて、周波数f1で共振することができる。
図25は本発明の実施例11に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。図25の実施例11は、図20の実施例6において、アンテナ素子部分E11及びE21にそれぞれ、周波数f3(f1<f2<f3)での共振周波数を有する並列共振回路61,62を挿入するとともに、アンテナ素子部分E13及びE23にそれぞれ、周波数f1での共振周波数を有する並列共振回路63,64を挿入することにより、図17の実施例3の2周波数f0,f2に加えて、周波数f1,f3で共振することができる。
なお、図21〜図25の並列共振回路61〜64は例えば図4Bに示すように、インダクタ31及びキャパシタ32からなる並列共振回路である。
図26は本発明の試作例に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置の回路図である。また、図27は図26の携帯電話機用アレーアンテナ装置の通過係数S21及び反射係数S11の周波数特性を示すグラフであり、図28は図26の携帯電話機用アレーアンテナ装置の反射係数S11のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。当該試作例に係る携帯電話機用アレーアンテナ装置は本発明者らにより試作されたものであって、図14の携帯電話機用アレーアンテナ装置に対応する。ここで、本発明者らは、線路高及び線路幅を特性インピーダンス50Ωで設計して試作した。図27及び図28から明らかなように、2GHzでインピーダンス整合しており、しかもより低い周波数1.8GHz付近でアイソレーションが最大となっていることがわかる。
以上の実施形態においては、電流経路K1,K2としているが、本発明はこれに限らず、電流経路を含む信号経路であってもよい。また、給電点Q1,Q2を互いに入れ替えて構成してもよい。
本発明のアンテナ装置及び無線通信装置によれば、例えば携帯電話機として実装することができ、あるいは無線LAN用の装置として実装することもできる。このアンテナ装置は、例えばMIMO通信を行うための無線通信装置に搭載することができるが、MIMOに限らず、給電素子間のアイソレーションが大きいことを必要とする他の任意の通信のための無線通信装置に搭載することも可能である。
1,2…アンテナ素子、
1a,1b,2a,2b,E11,E12,E13,E21,E22,E23…アンテナ素子部分、
3…無線通信回路、
10…回路基板、
11…接地導体、
20…移相回路、
21〜24…90度移相器、
25,26…移相器、
31,33,35…インダクタ、
32,34,36…キャパシタ、
41,42…並列共振回路、
51,52…板状アンテナ素子、
53,54…インダクタ、
55…延長アンテナ素子部分、
61〜64…並列共振回路、
101〜106…携帯電話機用アレーアンテナ装置、
A1,A2…アンテナ素子、
K1,K2…電流経路、
M1,M2…接続線、
P1,P2,P3,P4…接続点、
Q1,Q2…給電点。