JPWO2008081858A1 - 熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法 - Google Patents
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Abstract
鋼の熱間又は温間鍛造に用いられる金型の寿命向上方法である。熱間又は温間鍛造を実施した後の金型の表面に対してピーニング処理を実施し、少なくとも金型の鍛造時の最弱部位における金型表面から深さ0.4mmの位置のピーニング処理後の圧縮残留応力を150MPa以上とする。硬度の高い金型に対するピーニング処理は、金型焼き戻し処理の温度以下に加熱して行うことが望ましく、特に150〜400℃の温度での処理が好ましい。
Description
本発明は、クランクシャフト、コンロッドといった自動車部品等を熱間又は温間鍛造で製造する際に用いられる金型の寿命を向上させる方法に関する。
クランクシャフト、コンロッドといった比較的大きな部品は、全てではないが、かなりの割合が熱間鍛造により製造されている。これは、このような大きな部品は加工により必要な力を低くしないと必要なプレスが極めて大きなものになってしまうため、被加工素材の変形抵抗が小さく抑えられる熱間での鍛造が最も適していると考えられているからである。
しかし、その一方で、使用する金型は、1200℃程度の高温に加工された被加工素材と繰り返し大荷重が負荷された状態で接触することとなるため、その使用条件は過酷なものとなる。その結果、使用の進行と共に生じる型の摩耗や、表面に発生するヒートクラック等の発生を十分に防止することができず、結果として型寿命は比較的短いものとなり、その改善が強く望まれていた。すなわち、金型は非常に高価であるため、その交換回数が多いということは、製造する鍛造部品の製造コストが高くなることを意味し、逆に寿命を改善することができる効果的な方法が見つかれば、大幅なコスト低減が期待できるからである。
そして、熱間鍛造用金型の寿命向上対策として、従来は、化学成分の最適化により、耐摩耗性、ヒートチェック性を高めた新規な工具鋼を開発したり、例えば、特許文献1、2に示されるように金型として使用する前に表面にショットピーニングを施して型寿命を向上するという試みが行われてきた。
このうち、特許文献1に記載の発明には、表面の脱炭などを原因とする軟化層をショットピーニングにより取り除くことにより、表面硬さを高め、これによりヒートチェック性の改善等により金型寿命が改善できることについて記載されている。
また、特許文献2には、ショットピーニングにより効果的に寿命を改善するためには、表面を荒らさずにショットピーニングを行うことが必要であること、そのためには、高硬度の投射材を用いるのが効果的であり、低ヤング率のアモルファス投射材を用いることが効果的であることが記載されている。
しかしながら、従来提案されていた熱間鍛造用金型の寿命向上対策には以下の問題がある。
型の寿命を決めるのは、金型として使用を開始する前の状態に依存することは勿論であるが、使用開始後の表面状態の変化も考慮する必要がある。しかしながら、前記した特許文献に記載の発明は、使用開始前の状態を改善する点について記載されているのみであり、使用開始後の型寿命改善方策について何ら記載されていない。
型の寿命を決めるのは、金型として使用を開始する前の状態に依存することは勿論であるが、使用開始後の表面状態の変化も考慮する必要がある。しかしながら、前記した特許文献に記載の発明は、使用開始前の状態を改善する点について記載されているのみであり、使用開始後の型寿命改善方策について何ら記載されていない。
また、実際には熱間鍛造用金型は、高温、高負荷という過酷な条件の中で使用されるものであり、使用中の表面に起きる圧縮残留応力の低下、表面硬度の低下等が避けられず、これが金型の耐久性低下の大きな原因となっており、従来の提案内容では、寿命の改善効果に限界があり、その点に対する対策が十分にされていないのが現状であった。
また、このような問題は、温間鍛造用金型においても同様に発生するおそれがある。
また、このような問題は、温間鍛造用金型においても同様に発生するおそれがある。
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、熱間又は温間鍛造用金型の寿命を大幅に改善し、型費の大幅な低減を可能とする熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法を提供しようとするものである。
本発明は、鋼の熱間又は温間鍛造に用いられる金型の寿命向上方法であって、
熱間又は温間鍛造を実施した後の上記金型の表面に対してピーニング処理を実施し、少なくとも上記金型の鍛造時の最弱部位における金型表面から深さ0.4mmの位置の上記ピーニング処理後の圧縮残留応力を150MPa以上とすることを特徴とする熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法にある。
熱間又は温間鍛造を実施した後の上記金型の表面に対してピーニング処理を実施し、少なくとも上記金型の鍛造時の最弱部位における金型表面から深さ0.4mmの位置の上記ピーニング処理後の圧縮残留応力を150MPa以上とすることを特徴とする熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法にある。
熱間又は温間鍛造用の金型は、熱間又は温間鍛造において使用した際に、その性能が急激に変化するわけではなく、金型の材料内部が少しずつ変化して寿命に到る。そして、具体的には、使用前に付与した表面の圧縮残留応力及び硬さが少しずつ低下して、ある水準以下になると、ヒートクラック等の発生を防止できなくなり、寿命となってその後の使用が不可となる。
上述したように、熱間鍛造時に用いられる金型の新材料の開発は、従来より活発に行われている。しかし、いかに材料を最適化してもある程度寿命を改善することは可能であるが、前記したような過酷な環境で使用された場合には、型の性能を長期に亘って維持することは不可能であり、使用とともに表面が徐々に劣化して寿命に到ることは避けることができない。
そこで、本発明者等は、この問題を改善するために、寿命には到っていないが、使用によりある程度劣化してしまった状態から若干でも回復させることによる寿命の改善ができないかどうかについて、詳細に検討した。
そこで、本発明者等は、この問題を改善するために、寿命には到っていないが、使用によりある程度劣化してしまった状態から若干でも回復させることによる寿命の改善ができないかどうかについて、詳細に検討した。
その結果、従来から提案されているように熱間又は温間鍛造に使用する前の段階で浸炭及び窒化処理、ショットピーニング等の寿命向上のための処理を十分に行っておくことが望ましいが、さらに、熱間又は温間鍛造用の金型として使用を開始した後の金型表面に対してピーニング処理を行うと、繰返しの熱負荷で劣化した性能(表面硬さ、圧縮の残留応力等)を改善することができ、表面状態をある程度回復させて新品の状態に近づけることができ、まったくその処理を行わなかった場合に比較して大幅に型寿命を改善できることを確認し、本発明の完成に至ったものである。
また、ピーニング処理により表面状態を回復する処理は、繰返し実施することが望ましく、定期的にピーニング処理を実施することにより、金型の寿命を大幅に向上させることができる。例えば、金型が新品の状態で使用(熱間又は温間鍛造)を開始し、所定の個数の熱間又は温間鍛造部品を製造した後、最初のピーニング処理を実施する。そして、さらに、設定した個数の熱間又は温間鍛造部品を製造したら、2回目のピーニング処理を実施する。以下、3回目、4回目と同じようにピーニングによる表面状態回復処理を繰返し実施しながら使用することにより、金型の寿命を大幅に延長させることができる。そして、金型の寿命を大幅に改善することによって、自動車等に多数採用されている熱間又は温間鍛造部品の製造コストを大きく低減できるという顕著な効果を有するものである。なお、熱間又は温間鍛造前は、従来から提案されている通りピーニング処理を実施してもよいし、実施しなくても良いが、前記した通り実施した方が寿命向上の点でより望ましい。
このように、本発明によれば、熱間又は温間鍛造用金型の寿命を大幅に改善し、型費の大幅な低減を可能とする熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法を提供することができる。
なお、本発明の熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法は、1000℃以上で行われる熱間鍛造に用いられる金型、及び若干温度の低い温間温度域(700〜1000℃)で行われる温間鍛造に用いられる金型に対して有効である。
なお、本発明の熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法は、1000℃以上で行われる熱間鍛造に用いられる金型、及び若干温度の低い温間温度域(700〜1000℃)で行われる温間鍛造に用いられる金型に対して有効である。
(金型の準備)
本発明は、上述したように、鋼の熱間又は温間鍛造に用いられる金型の寿命向上方法である。
本発明は、従来から熱間又は温間鍛造用として使用されている鋼材からなる金型であれば、SKD61、SKT4等を含め、鋼種に関係なくその効果を得ることができる。従って、鋼種選択は従来通りで変更する必要はない。
また、上記金型を作製する際に、所定の形状に型彫りを行い、必要な熱処理を行った後に、従来から提案されている使用前の金型に対するショットピーニング等の処理による表面への圧縮の残留応力付与、窒化処理といった寿命向上対策は、同様に実施してあることが好ましい。
本発明は、上述したように、鋼の熱間又は温間鍛造に用いられる金型の寿命向上方法である。
本発明は、従来から熱間又は温間鍛造用として使用されている鋼材からなる金型であれば、SKD61、SKT4等を含め、鋼種に関係なくその効果を得ることができる。従って、鋼種選択は従来通りで変更する必要はない。
また、上記金型を作製する際に、所定の形状に型彫りを行い、必要な熱処理を行った後に、従来から提案されている使用前の金型に対するショットピーニング等の処理による表面への圧縮の残留応力付与、窒化処理といった寿命向上対策は、同様に実施してあることが好ましい。
また、製造する部品によっては、金型において特に摩耗が激しくなる部位が発生する場合がある。このような摩耗が激しい部位には、ピーニング処理による表面硬さ向上や窒化処理等による効果のみでは、十分に摩耗を抑制できない場合がある。そのため、従来から知られているように、Ni合金やCo合金等の耐摩耗性に優れた合金を予め肉盛溶接しておいても良い。
肉盛溶接用の合金としては、上述のNi合金やCo合金等は高価であり、また、被削性が極端に悪いため、Fe系の肉盛合金を用いることもできる。例えば、質量%で、C:0.30〜0.55%、Si:0.2〜1.5%、Mn:0.4〜2.0%、Cr:4.0〜9.0%、V:0.1〜1.0%、Mo:2.0〜5.0%、W:2.0〜11.0%、Ni:0.3〜2.0%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる肉盛溶接材料を用いることが好ましい。この合金は、Fe合金でありながら、耐摩耗性に優れ、被削性も前記Ni合金やCo合金に比べて優れているので、耐摩耗性の優れた部分に肉盛溶接して使用すると、非常に効果的である。
(熱間又は温間鍛造用金型として使用を開始してから、寿命改善処理まで)
次に、熱間又は温間鍛造用金型として使用を開始してから、寿命改善処理までを説明する。
準備した金型を用いて熱間又は温間鍛造により部品製造を開始すると、熱間又は温間鍛造によるショット数の増加とともに、表面の摩耗、劣化が進み、ヒートクラック等の表面欠陥が少しずつ発生しやすくなっていく。具体的には、表面に生成させた圧縮残留応力の低下、表面の硬さの低下が起きる。
次に、熱間又は温間鍛造用金型として使用を開始してから、寿命改善処理までを説明する。
準備した金型を用いて熱間又は温間鍛造により部品製造を開始すると、熱間又は温間鍛造によるショット数の増加とともに、表面の摩耗、劣化が進み、ヒートクラック等の表面欠陥が少しずつ発生しやすくなっていく。具体的には、表面に生成させた圧縮残留応力の低下、表面の硬さの低下が起きる。
そこで、詳細に実験を繰返した結果、ヒートクラックの発生は使用開始当初はほとんど生じないが、ショット数が増加して表面の劣化が進み、従来金型の寿命と言われていたショット数に近づいてくると、急にヒートクラック等の表面欠陥が発生しやすくなること、この急に欠陥が発生しやすくなるショット数に至る前の所定のショット数に達した際に鍛造を一時中断し、ピーニング処理による表面の回復処理を行うと、表面状態を大きく回復させることができ、型寿命を大幅に向上させることができることを見出したのである。
なお、この鍛造を中断してピーニング処理を行うタイミングについては、製造する部品形状、加工の厳しさの程度、鍛造温度等、様々な条件によって変化するため、固定した数値等で表現するのは難しいが、製造する部品毎に判断基準とする限界圧縮応力値を設定することが可能である。例えば、後述する実施例1の場合では、この数値を30MPaとし、回復のピーニング処理を繰り返し実施することにより、大幅に寿命を向上させることができる。
この基準となる応力値の設定は、適切に行う必要がある。すなわち、高めに設定しすぎると、寿命の改善は期待できるものの、頻繁にピーニング処理を行わなければならなくなり、ピーニングによる処理費用が高くなり、型寿命向上による効果を考慮しても、コストメリットがなくなる可能性がある。低めに設定しすぎると、ピーニング処理を行う前にヒートクラック等の欠陥が発生し、そのまま型が寿命に至ってしまうという可能性があるからである。
また、金型の位置によって鍛造時の負荷の程度には差異があるため、当然の結果として、金型の使用による表面の劣化の程度も相違する。しかしながら、通常、どのような形状の部品を熱間又は温間鍛造で製造する場合であっても、使用する金型の損傷の程度は、部位によって異なる。そして、過去の経験から最も損傷を受ける部位(最弱部位)は、予想することができ、かつ数千ショットの試打を行うことにより、その位置を特定することが可能である。過去の実績から、金型の最弱部位は、圧力が高く材料流れも激しいため最も弱い部分、例えば、コーナー凸R部のうち鍛造時の材料流れの特に激しい部分や、型彫面の最深部(鍛造時に素材が接触する部位のうちの最深部)であることが多いが、正確な位置は、試打により容易に把握できる。また、CAEによる金型の熱応力解析からも予測が可能である。そして、金型は最弱部位において、ヒートクラック等の欠陥が生じることにより寿命に到るものである。
そこで、本発明では、金型の最弱部位において、圧縮の残留応力が前記応力値となる前に、ピーニング処理による表面状態を回復させる処理をすることによって、型寿命の向上を図ることとしたものである。なお、ピーニング処理を実施するタイミングの判断は、最弱部位における圧縮の残留応力値を基準としているが、ピーニング処理自体は、最弱部位に限定されることなく、範囲を広げて実施することが必要である。
そして、熱間又は温間鍛造を実施した後の上記金型の表面に対してピーニング処理を実施して熱間又は温間鍛造によって劣化した金型表面を回復させる。この処理により、高温の被加工素材と繰返し接触した影響により低下した表面の圧縮の残留応力を回復させることができる。
そして、ピーニング処理は、少なくとも上記金型の鍛造時の最弱部位における金型表面(使用により摩耗している場合は、摩耗後の表面からの深さ)から深さ0.4mmの位置の上記ピーニング処理後の圧縮残留応力が150MPa以上となるまで処理を継続する。なお、残留応力の測定位置については、前記と同様金型の最弱部位である。
ここで、基準となる圧縮残留応力を150MPaとしたのは、これより残留応力が低いと、ピーニング処理による寿命改善効果が十分に得られたとは言えないためである。しかしながら、この基準値は最低の値を意味しているので、製造する部品によっては、基準値を200MPaや300MPa等、高めに設定しても何ら問題はない。特に加工が厳しく、型への負担が厳しい場合には、強力なピーニング処理を行い、400MPa以上の残留応力を付与することが望ましい。
また、基準値を高め、強力なピーニング処理を行った場合は、ピーニングの処理時間が若干長くなるというデメリットは生じるが寿命向上効果が高まる。そのため、熱間又は温間鍛造を再開してから、次のピーニング処理が必要となるまでの可能なプレス回数が増加するので、必ずしも不利にはならない。従って、条件を設定する際には、実際に製造した際の金型表面の残留応力を測定し、型寿命に関するデータを収集した上で、適宜最適の条件を決定して実行することが好ましい。
また、本発明では、ピーニング処理後の圧縮残留応力で限定しているが、実際に操業する場合には、毎回残留応力を測定することは困難を伴う場合が多い。従って、実際には、新しい部品製造を開始した際に処理条件を決定するために残留応力を測定し、ピーニングによる回復処理が必要なタイミングとピーニング条件の設定を行い、以後は毎回応力測定を行う必要はなく、時々所定の応力が得られているかの確認をしながら、設定した条件通りに鍛造と回復処理を行うことによって、従来に比べはるかに寿命を高めた熱間又は温間鍛造部品の製造が可能になる。
ただし、実際にはピーニング処理と次のピーニング処理の間の鍛造品の製造個数をピーニングの処理回数によって変更することは、製造管理を難しくするため好ましくない。そこで、ピーニング処理と次のピーニング処理との間の鍛造品製造個数や、ピーニング処理の条件は、最後まで一定として実施した方が、製造管理も楽である。
この場合、ピーニング処理により得た圧縮の残留応力は、金型の使用が進み、ピーニング処理回数が増加し、金型へのダメージの蓄積が進んでいくと、より少ないショット数で付与した圧縮の残留応力が解放される傾向となり、ヒートクラック等の発生の危険性が高まる傾向となるので、注意が必要である。(なお、後述する実施例1における図2、表3、表4、実施例2における図3、及び実施例3における図4では、圧縮の残留応力を引張と区別するためにマイナス記号(−)をつけて表示しているので、ここで言う150MPaとは、後述の詳細な説明文中に記載する応力値も含め、上記図2、図3、図4、表3、及び表4では−150MPaとなる)。
ここで、上記ピーニング処理は、表面の圧縮残留応力を改善できれば良いので、一般的によく知られているショットピーニング処理には限定されない。例えば、空気圧を動力源とするジェットタガネと呼ばれる工具(レバーを握るとニードル(先の針状の棒で、太さは3mm程度)が細かく振動するようになっていることを特徴とする工具で、そのニードルの先端を型表面に繰返し衝突させることによって、表面に残留応力を付与させることが可能)でもピーニング処理は可能である。
また、ショットピーニング処理によりピーニング処理する場合において使用できる投射材については、金属系(鉄系、非鉄系)の投射材のほか、アモルファス系、セラミック系の投射材を用いることが可能であるが、本発明の場合、ヒートクラック防止のためには、表面粗さを悪化させずに高い圧縮応力を付与することがポイントとなることから、高硬度の投射材を用いた方が有利である。また、投射材の粒子サイズは小さくした方が表面粗さを悪化させずにすむが、粒子が小さいと目的とする深さ(本発明では、0.4mmの深さで所定の応力を付与する必要がある)まで残留応力を付与できなくなるため、投射材の粒子サイズは0.4〜2.0mm程度の大きさの粒子を用いるのが望ましい。
また、投射材を最も広く用いられているエアー式や遠心投射式によるのではなく、超音波で投射材に運動エネルギーを伝達する超音波ピーニングによりピーニング処理を行った場合には、エアー式や遠心投射式によるショットピーニングに比べ、コンパクトな装置で処理が可能であり、表面粗さの悪化を抑えた処理が可能となるので有利である。特に超音波ピーニングの場合には、投射材として鋼球を用いるのではなく、ジェットタガネと同様に太さ3mm程度の針状の棒を超音波により型表面に繰返し衝突させて残留応力を付与する方法が効果的である。さらに、複雑形状部品へのピーニングが容易なレーザーピーニングも金型の形状によっては有効な手段である。
また、上記ピーニング処理は、金型表面全体に行うことが好ましいが、劣化の少ない部位へのピーニング処理を適宜省略することも可能である。
また、上記ピーニング処理は、金型表面全体に行うことが好ましいが、劣化の少ない部位へのピーニング処理を適宜省略することも可能である。
(寿命改善処理の繰り返し実施)
また、ピーニング処理により表面状態を回復する処理は、上述したように、繰返し実施することができる。ただし、ピーニング処理は完全に新品の状態まで回復させることはできないため、処理回数の増加とともに、劣化の程度が大きくなり、ピーニングによる回復処理後に可能な部品製造個数が減少していく。従って、処理回数が増加するにつれ、処理によるコストメリットが低下するため、部品毎に何回処理するかを決めて、本発明を適用するのが望ましい。但し、その点を考慮しても、本発明による寿命改善効果は大きく、優れた寿命改善効果と型費用低減効果が得られるものである。
また、ピーニング処理により表面状態を回復する処理は、上述したように、繰返し実施することができる。ただし、ピーニング処理は完全に新品の状態まで回復させることはできないため、処理回数の増加とともに、劣化の程度が大きくなり、ピーニングによる回復処理後に可能な部品製造個数が減少していく。従って、処理回数が増加するにつれ、処理によるコストメリットが低下するため、部品毎に何回処理するかを決めて、本発明を適用するのが望ましい。但し、その点を考慮しても、本発明による寿命改善効果は大きく、優れた寿命改善効果と型費用低減効果が得られるものである。
また、上記熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法において、上記ピーニング処理は、上記金型の製造工程において該金型に対して行う焼き戻し処理の処理温度以下での加熱温度域で加熱した状態で実施することが好ましい。
この場合には、高硬度で使用される熱間又は温間鍛造用金型についても、高い寿命向上効果を得ることができ、ピーニングによる寿命向上効果を確実に得ることができる。
この場合には、高硬度で使用される熱間又は温間鍛造用金型についても、高い寿命向上効果を得ることができ、ピーニングによる寿命向上効果を確実に得ることができる。
熱間又は温間鍛造用金型は、使用目的によって使用される硬さが異なる。硬さがHRC40〜45程度の比較的低い硬さで使用される場合には、室温でもピーニングによる効果が得られやすく問題はないが、硬さが上昇し、HRC50を超える硬さになると、ピーニングによって圧縮の残留応力を付与しにくくなる。この場合、ピーニングによる寿命向上効果が小さくなる。しかしながら、高い硬さの金型であっても、加熱すると室温に比べ硬さが低下するため、ピーニングによる寿命向上効果を得られやすくなる。
また、ピーニング処理時の金型温度が金型の製造工程において該金型に対して行う焼き戻し処理時の温度以下での加熱温度であって室温よりも十分に高い温度であれば、その温度に加熱後に室温まで冷却すれば、元の硬さに復帰する。しかしながら、上記金型を焼もどし温度を超える温度に加熱するとピーニング処理後に室温に冷却しても硬さが元に戻らなくなり、耐摩耗性が低下し、型の寿命がかえって低下することになる。従って、上記焼もどし処理温度以下の温度でピーニング処理を行う必要がある。
このため、ピーニング処理を、上記金型の製造工程において該金型に対して行う焼き戻し処理の処理温度以下での加熱温度域で加熱した状態で実施する場合には、高硬度で使用される熱間又は温間鍛造用金型についても、高い寿命向上効果を得ることができ、ピーニングによる寿命向上効果を確実に得ることができる。
このため、ピーニング処理を、上記金型の製造工程において該金型に対して行う焼き戻し処理の処理温度以下での加熱温度域で加熱した状態で実施する場合には、高硬度で使用される熱間又は温間鍛造用金型についても、高い寿命向上効果を得ることができ、ピーニングによる寿命向上効果を確実に得ることができる。
なお、上記焼き戻し処理の処理温度以下での加熱温度域は、150〜400℃であることが望ましい。温間でピーニング処理をする場合には、型の変形抵抗が低下して、塑性変形を与え易くなるが、温度を上げすぎると、回復現象が生じて、得られる残留応力が減少してしまう。上記加熱温度域が150℃未満の場合には、金型の変形抵抗があまり低下せず、加熱の効果が十分に得られないおそれがある。そして、400℃以下の温度でピーニング処理すれば、残留応力の低下は小さく抑えられるため、ピーニングの効果を確実に得ることができる。
また、上記焼もどし処理温度以下の温度でピーニング処理を行う場合には、熱間又は温間鍛造後の余熱を利用したり、鍛造開始前の型余熱を利用したり、肉盛溶接後の余熱を利用したり、バーナー等により型表面を簡易加熱することにより、上記焼き戻し処理の処理温度以下での加熱温度域で加熱した状態とすることができる。
また、上記ピーニング処理を実施する際に、上記金型のうち耐摩耗性が要求される部位への肉盛溶接をピーニング処理と併用して実施することが好ましい。
ピーニング処理は、金型の表面硬度、圧縮の残留応力を高めることができ、ヒートクラックの発生防止には大きな効果を有する。ところが、耐摩耗性に対しては、表面硬度を高めることによって、若干有利とすることはできるが、製品形状によっては、部分的に激しい材料流れが生じる箇所等があると、型の一部分において局部的に摩耗量が大きくなる部位が生じる場合がある。
ピーニング処理は、金型の表面硬度、圧縮の残留応力を高めることができ、ヒートクラックの発生防止には大きな効果を有する。ところが、耐摩耗性に対しては、表面硬度を高めることによって、若干有利とすることはできるが、製品形状によっては、部分的に激しい材料流れが生じる箇所等があると、型の一部分において局部的に摩耗量が大きくなる部位が生じる場合がある。
このような部位の耐摩耗性を向上するのに肉盛溶接が効果的であることは、前記した通りであるが、金型を使用開始後、ピーニングによる表面状態の回復処理を行う段階においても、必要に応じ、ピーニング処理と併用して実施し、その段階までの摩耗を修正する肉盛溶接を施しておくと、さらに効果的に型寿命を向上させることができる。
上記肉盛溶接には、上述した肉盛合金と同様の合金を用いることができる。
また、上記肉盛溶接は、ピーニング処理と併用して実施するものであり、肉盛溶接を行う場合には、熱間又は温間鍛造後ピーニング処理前に肉盛溶接を行う必要がある。この場合、前記した通り、肉盛溶接の際の余熱を利用してピーニング処理することにより、効率よく残留応力を付与させることができる。
また、上記肉盛溶接は、ピーニング処理と併用して実施するものであり、肉盛溶接を行う場合には、熱間又は温間鍛造後ピーニング処理前に肉盛溶接を行う必要がある。この場合、前記した通り、肉盛溶接の際の余熱を利用してピーニング処理することにより、効率よく残留応力を付与させることができる。
(実施例1)
本例では、本発明の熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法により得られる効果を明らかにする。
本例では、実際に製造中のクランクシャフトの金型を製造して、鍛造品の製造テストを行い、本発明による効果の確認を行った。
本例では、本発明の熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法により得られる効果を明らかにする。
本例では、実際に製造中のクランクシャフトの金型を製造して、鍛造品の製造テストを行い、本発明による効果の確認を行った。
まず、金型の材料として、表1に示す化学成分を有する3種類の鋼(鋼1〜鋼3)を準備し、また、肉盛溶接材料として、表2に示す化学成分を有する2種類の肉盛合金(合金1及び合金2)を準備した。このうち、表1に示す鋼1はSKT4、鋼2は市販の開発鋼、鋼3はSKD61であり、鋼1〜鋼3の硬さは共にHRC41である。また、表2に示す合金1は、前記したFe系の肉盛溶接材料(硬さはHRC56)、合金2は従来から肉盛合金として最も多く使われているステライト系のCo合金(硬さはHRC43)である。
次に、準備した鋼(鋼1〜鋼3)に対して機械加工と所定の熱処理を施すことにより、図1に示す熱間鍛造用金型1を製造した。
そして、作製した熱間鍛造用金型1を用いて、表3に示す条件でピーニング処理を行うピーニング処理工程と、表3に示す1ロット当たりの鍛造数(=ショット数)のクランクシャフトの型鍛造を1200〜1250℃の温度下で行う熱間鍛造工程とを行う一連の工程を、表3のロット数の欄に示す通り1〜6回繰り返し実施した(実験例1〜実験例5、実験例8〜実験例17)。
そして、作製した熱間鍛造用金型1を用いて、表3に示す条件でピーニング処理を行うピーニング処理工程と、表3に示す1ロット当たりの鍛造数(=ショット数)のクランクシャフトの型鍛造を1200〜1250℃の温度下で行う熱間鍛造工程とを行う一連の工程を、表3のロット数の欄に示す通り1〜6回繰り返し実施した(実験例1〜実験例5、実験例8〜実験例17)。
上記ロット数とは、ピーニング処理工程開始から熱間鍛造工程終了までが1ロットであり、その繰り返しの回数である。
また、肉盛溶接を同時に行った場合の効果も把握するため、上記型鍛造開始前に負荷の厳しい箇所(最弱部位2)に肉盛溶接し、さらに2ロット終了毎(2回目と4回目の型鍛造終了後)にピーニング処理を行う前に追加の肉盛補修を継続実施した場合(実験例6及び実験例7)についても評価した。
上記ピーニング処理は、表3に示すように、0.8mmの鋼球を用い、空気式ピーニング機械を用いた方法で処理した場合と、超音波ピーニング又はジェットタガネにより太さ3mmの鋼ピンを用いて処理した方法の3通りの方法で実施した。
また、上記ピーニング処理の投射条件は、以下の4種類とした。
条件1:投射材硬さHRC55、投射圧0.3MPa、被覆率150%。
条件2:鋼ピン硬さHRC49、投射圧0.6MPa、被覆率200%、400回/min。
条件3:投射材硬さHRC49、被覆率150%、周波数20kHz。
条件4:投射材硬さHRC55、投射圧0.1MPa、被覆率150%。
また、上記ピーニング処理の投射条件は、以下の4種類とした。
条件1:投射材硬さHRC55、投射圧0.3MPa、被覆率150%。
条件2:鋼ピン硬さHRC49、投射圧0.6MPa、被覆率200%、400回/min。
条件3:投射材硬さHRC49、被覆率150%、周波数20kHz。
条件4:投射材硬さHRC55、投射圧0.1MPa、被覆率150%。
また、ピーニング処理工程によって付与した残留応力の値と、実際に得られる効果との関係を正確に把握するため、ピーニング処理直後の圧縮残留応力と、その後1ロット分の型鍛造を実施し次のピーニング処理を実施する直前の圧縮残留応力の両方について、X線応力測定装置により測定した。なお、応力測定は表面を研磨しないと測定できないため、測定後にその位置は肉盛溶接して元の形状の状態に補修し、次回の測定は、その近傍で位置を変更して行った。なお残留応力の測定は、繰返しの試打によって、最もヒートクラックの発生頻度が高く最弱部位であることがわかっている型彫面の最深部2の位置で測定した。表3には、最終ピーニング処理直前及び直後の圧縮残留応力、及び最終ピーニング処理後に1ロット分の型鍛造を実施した後(最終のロット終了後)の圧縮残留応力を示す。
また、実験例8は、実験例2(ロット数4)と同一条件でさらにロット数が6になるまで継続してピーニング処理及び型鍛造を行った例である。処理後における表面の圧縮残留応力の変化を説明するため、図2に、所定個数の鍛造とピーニング処理を繰返し実施した場合のピーニング処理直後の表面から深さ0.4mmの位置における圧縮残留応力の変化を示す。図2は、横軸にロット数(回)をとり、縦軸に圧縮残留応力(MPa)をとった。
図2より知られるように、ピーニング処理は完全に新品の状態に回復させるまでの効果はなく、ピーニング処理後に得られる圧縮の残留応力もわずかずつ小さくなっていく傾向となると共に、ロット数が増加すると型の劣化の影響から、残留応力がより少ないショット数で限界圧縮残留応力値に近づいていく傾向となる。そして、実験例2と同一条件でさらに継続実施して15000個まで製造を継続した場合(実験例8)には、最終ロット後の圧縮残留応力が30MPaを下回るとともに、後述の表4に示す通り、型に欠陥が生じ始め、この結果により、本実施例の場合では、限界圧縮残留応力値を30MPaとし、30MPaを下回らないうちにピーニング処理して型の表面状態を回復させることにより、寿命を適切に改善することが可能となることが分かる。
次に、上記実験例1〜実験例17について、上述の実験を実施した後に金型表面にヒートクラックが生じていないか、また、試験終了直前の50個(1ロットが2500個の場合は、2451ショットから2500ショットの間で製造した製品)の鍛造品について寸法不良はないか、型表面の剥離によって大幅な寸法異常が生じていないかなどにチェックした。結果を表4に示す。
<ヒートクラック状況>
ヒートクラック状況については、ヒートクラックの確認がされなかったものを○、浅いクラックがわずかに確認されたものを△、深いクラックが多数確認されたものを×で評価した。評価が○の場合を合格、評価が△及び×の場合を不合格とした。
ヒートクラック状況については、ヒートクラックの確認がされなかったものを○、浅いクラックがわずかに確認されたものを△、深いクラックが多数確認されたものを×で評価した。評価が○の場合を合格、評価が△及び×の場合を不合格とした。
<製品寸法>
また、製品寸法のチェックについては、過去の実績から、最も型の摩耗が大きいことがわかっている箇所に限定し、その箇所に該当する位置の製品寸法が正常であるものを○、わずかに交差をはずれているものを△、複数箇所のヒートクラックが互いにつながる等の理由によって型の剥離が発生する等により大幅な寸法はずれが生じているものを×で評価した。評価が○の場合を合格、評価が△及び×の場合を不合格とした。
また、製品寸法のチェックについては、過去の実績から、最も型の摩耗が大きいことがわかっている箇所に限定し、その箇所に該当する位置の製品寸法が正常であるものを○、わずかに交差をはずれているものを△、複数箇所のヒートクラックが互いにつながる等の理由によって型の剥離が発生する等により大幅な寸法はずれが生じているものを×で評価した。評価が○の場合を合格、評価が△及び×の場合を不合格とした。
表3及び表4より知られるごとく、途中でピーニングによる表面の回復処理を行わずに製品鍛造を継続実施する場合(実験例12〜実験例17)には、クランクシャフトのような大型部品を熱間鍛造で製造する場合、5000ショット程度が限界であり、この程度のショット数で寸法公差を満足できなくなり始めるとともに、ヒートクラックも発生する。
また、実験例15〜実験例17の結果から明らかなように、6000ショットまで表面の回復処理を行うことなく鍛造品の製造を継続してしまうと、ヒートクラックの進展がさらに進行し、型の剥離が生じて寸法を大きくはずれた製品が生じることになる。
また、実験例15〜実験例17の結果から明らかなように、6000ショットまで表面の回復処理を行うことなく鍛造品の製造を継続してしまうと、ヒートクラックの進展がさらに進行し、型の剥離が生じて寸法を大きくはずれた製品が生じることになる。
これは、表面の回復処理を行うことなく1200〜1250℃程度に加熱された鍛造素材を鍛造すると、5000ショット程度で型表面の圧縮の残留応力がほぼ0に近い値となって、ヒートクラック等型欠陥の発生に対する型材の抵抗力がほとんど消失してしまうことが大きな原因である。なお、残留応力の測定は、型が室温まで低下した状態で測定しているが、実際のヒートクラックの発生は、加熱、冷却という厳しい熱負荷を繰返し受けた結果として生じており、それに鍛造時の荷重が負荷されるため、鍛造中は、さらに厳しい応力状態となっていることが予想される。
これに対し、本発明の実施例では、実験例1〜実験例5の結果から明らかなように、1ロットの鍛造における製造個数を2000〜3000個程度(SKT4、市販の開発鋼、SKD61の間には材料の持つ耐熱性に若干差異があるため、ロット数を若干変化させている。)と従来の製造個数(実験例12〜実験例17)の半分程度に抑え、限界圧縮残留応力値である30MPaを下回る前の段階で鍛造を一時中断し、表面回復のためのピーニング処理を施すことにより、型寿命を従来の倍に相当する10000個程度まで延長することが可能なことが確認できた。
ただし、上述しているように、ピーニング処理は完全に新品の状態に回復させるまでの効果はなく、前記した図2に示すように、ピーニング処理後に得られる圧縮の残留応力もわずかずつ小さくなり、少ないショット数で限界圧縮残留応力値に近づいていく傾向となる。そのため、実験例1〜実験例5と同一条件でさらに継続実施して15000個まで製造を継続した場合には、最終ロット後の圧縮残留応力が本例における限界圧縮残留応力値である30MPaを確保することが難しくなり、実験例8のように、製品寸法に若干の交差外れが生じ始める。
しかしながら、この場合でも、実験例6、7のように、型材の負担の厳しい箇所に肉盛溶接を施すことを同時に実施すれば、型寿命はさらに延長させることができ、従来例の約3倍の15000個までヒートクラックも無く、寸法はずれもない状態で鍛造できることが確認できた。
しかしながら、この場合でも、実験例6、7のように、型材の負担の厳しい箇所に肉盛溶接を施すことを同時に実施すれば、型寿命はさらに延長させることができ、従来例の約3倍の15000個までヒートクラックも無く、寸法はずれもない状態で鍛造できることが確認できた。
また、実験例9は、実験例1〜実験例3に比較して弱い投射圧で処理した場合の結果である。投射圧が小さく、ショットピーニングの効果が小さいため、最終ピーニング処理後の圧縮の残留応力が本発明の条件である150MPaに到達しておらず、当然の結果として最終ロット後の圧縮の残留応力も低いものとなっている。このように、本発明のように、表面状態回復のピーニング処理を繰返し実施する場合であっても、採用するピーニング処理条件が適切でない場合には、十分な効果が得られないので注意を要する。
また、実験例10、11は、実験例1、3に比較して1ロット当たりの鍛造数を増加した場合の例である。このようにそれぞれの鋼種が持っている耐熱性の性能を超えたロット数で製造した場合には、回復処理を行っても手遅れとなって、期待するほどの寿命改善効果を得ることができないので注意を有する。従って、本発明による効果を十分に得るためには、ピーニング処理条件を適切に選択し、かつその処理のタイミングを適切に判断することが重要となる。
以上、説明したように、本発明では、熱間又は温間鍛造用金型1を熱間又は温間鍛造に使用開始後においても、適当なタイミングかつ処理条件で繰返し表面状態回復のためのピーニング処理を行うことを特徴としているので、高温に加熱された鍛造素材との接触によって生じる型表面の圧縮残留応力の低下を抑制することができ、従来のように使用開始後に表面状態の回復処理を行わない場合と比較して、金型の寿命を大幅に改善することができる。従って、自動車等に多数採用されている熱間鍛造部品の製造コストを大きく低減できるという顕著な効果を有するものである。なお、以上説明した実施例は、鍛造温度の高い熱間鍛造に適用したものであるが、若干温度の低い温間鍛造の場合に適用しても同様に効果を有することが確認できた。
このように、本発明によれば、熱間又は温間鍛造用金型1の寿命を大幅に改善し、型費の大幅な低減を可能とする熱間又は温間鍛造用金型1の寿命向上方法を提供することができることが分かる。
このように、本発明によれば、熱間又は温間鍛造用金型1の寿命を大幅に改善し、型費の大幅な低減を可能とする熱間又は温間鍛造用金型1の寿命向上方法を提供することができることが分かる。
(実施例2)
次に、加熱してピーニング処理することによる効果を示す別の実施例について説明する。
まず、鋼材としてSKD61を使用し、φ90×60Hの寸法の試験片を準備した。そして、上記試験片に対し、通常の焼入焼き戻しによる熱処理を行い、焼き戻し温度を変化させて試験片の硬さを調整し、硬さがHRC40(焼き戻し温度610℃)、硬さがHRC45(焼き戻し温度580℃)、硬さがHRC52(焼き戻し温度540℃)の3水準の試験片を用意した。
次に、加熱してピーニング処理することによる効果を示す別の実施例について説明する。
まず、鋼材としてSKD61を使用し、φ90×60Hの寸法の試験片を準備した。そして、上記試験片に対し、通常の焼入焼き戻しによる熱処理を行い、焼き戻し温度を変化させて試験片の硬さを調整し、硬さがHRC40(焼き戻し温度610℃)、硬さがHRC45(焼き戻し温度580℃)、硬さがHRC52(焼き戻し温度540℃)の3水準の試験片を用意した。
そして、上記3種類の試験片に対して、処理温度を室温から600℃の間で変化させ、それぞれの温度においてジェットタガネで5分間ピーニング処理を行った。
結果を図3に示す。図3は、横軸にピーニング処理の処理温度(℃)をとり、縦軸に圧縮残留応力(MPa)をとった。図3における○は硬さがHRC40である試験片の結果を示し、▲は硬さがHRC45である試験片の結果を示し、×は硬さがHRC52である試験片の結果を示す。
結果を図3に示す。図3は、横軸にピーニング処理の処理温度(℃)をとり、縦軸に圧縮残留応力(MPa)をとった。図3における○は硬さがHRC40である試験片の結果を示し、▲は硬さがHRC45である試験片の結果を示し、×は硬さがHRC52である試験片の結果を示す。
図3より知られるように、硬さがHRC40である試験片、及び硬さがHRC45である試験片は、室温においても400MPa以上の圧縮残留応力を付与させることができた。ところが、硬さがHRC52である試験片は、室温では200MPa以下の圧縮残留応力しか付与させることができなかった。しかしながら、HRC52の試験片についても、300℃程度に加熱してピーニング処理すれば、500MPa程度の圧縮残留応力を付与させることができることが確認できた。
しかしながら、300℃を超えると、ピーニング処理により表面に導入した歪の影響が回復現象によって残存しにくくなり、かえって残留応力を付与しにくくなることが分かった。具体的に説明すると、400℃程度までは極端な圧縮残留応力の低下はないものの、400℃を超える温度では、図3に示すように、温度上昇とともに処理後の圧縮残留応力が急激に減少し、焼き戻し温度に近い温度での処理の場合、最低の応力値としている150MPaを確実に得ることができない可能性もある。従って、温間でピーニング処理する場合であっても、150〜400℃の範囲内の処理温度で行うことが望ましく、適用する部品の加工の厳しさの程度、目標とする金型の寿命等を考慮した上で、必要とする残留応力が得られる処理温度を判断し、ピーニング処理を行う必要がある。
(実施例3)
実施例2により、試験片での実施で硬さの高いHRC52の場合についても、温間でピーニングすることにより十分な残留応力を付与できることが確認できたので、本例では、さらに、温間ピーニングの技術を実金型に適用した場合の実施例について説明する。
実施例2により、試験片での実施で硬さの高いHRC52の場合についても、温間でピーニングすることにより十分な残留応力を付与できることが確認できたので、本例では、さらに、温間ピーニングの技術を実金型に適用した場合の実施例について説明する。
まず、鋼材としてSKD61を準備し、通常の焼入焼き戻しによる熱処理を行い、焼き戻し温度を変化させて試験片の硬さを調整し、硬さがHRC41(焼き戻し温度605℃)、硬さがHRC52(焼き戻し温度540℃)の2種類の熱間鍛造用金型を用意した。このうち、HRC41の金型は、前記した実施例1と同一形状の金型1を準備し、HRC52の金型は、図4に示す形状の丸型の金型102を準備した。
そして、硬さがHRC41、HRC52の金型に対して、室温において、ジェットタガネにより太さ3mmの鋼ピンを用いて5分間ピーニング処理(鋼ピン硬さHRC49、投射圧0.6MPa、被覆率200%、400回/min)を実施し、最弱部位2の位置の表面から0.4mmの位置での残留応力を測定した(ピーニング処理工程)。
次に、1200℃の温度に加熱された素材を用いて、ショット数2500個の型鍛造を実施した(熱間鍛造工程)。
その後、上記ピーニング処理工程の開始から上記熱間鍛造工程の終了までを1ロットとして、さらに5ロット実施した(上記ピーニング処理工程と上記熱間鍛造工程とを交互に5回ずつ繰り返し実施した(合計ショット数15000個))。
残留応力は表面を電解研磨しないと測定できないため、2回目以後の残留応力測定は場所を変更して実施した。
残留応力は表面を電解研磨しないと測定できないため、2回目以後の残留応力測定は場所を変更して実施した。
ロット数とピーニング処理後の圧縮残留応力の関係を図5に示す。図5は、横軸にロット数(回)をとり、縦軸に各ロットにおけるピーニング処理後の圧縮残留応力(MPa)をとった。図5における×は硬さがHRC41である金型の結果を示し、◇は硬さがHRC52である金型の結果を示す。
次に、硬さがHRC52である金型に対して、上記熱間鍛造工程前のピーニング処理、及びピーニング処理工程におけるピーニング処理を、室温から300℃に変更して、同様の試験を行った。この場合のロット数とピーニング処理後の圧縮残留応力の関係を、図5に◆で示す。
図5より知られるごとく、硬さが比較的低いHRC41の金型に対して室温でピーニング処理を行った場合は、最初のピーニング処理直後において600MPa近くの圧縮の残留応力を付与することができ、また、6ロット目においても約400MPaの残留応力を付与することができた。ところが、硬さがHRC52の金型に対して同じピーニング処理条件を適用したところ、図に示すとおり、同様の残留応力を付与させることができず、実験をロット数2までで試験を中断した。しかし、硬さがHRC52の金型に対して300℃の温度下でピーニング処理を行った場合には、HRC41の金型に対し、室温でピーニング処理を行った場合とほぼ同等の残留応力を付与させることができ、実金型に対しても同等の効果を得られることが確認できた。なお、同時に実施例1と同様に型の欠陥、製品寸法についてチェックしたが、室温でピーニングした場合と同等の効果が得られることが確認できた。
Claims (3)
- 鋼の熱間又は温間鍛造に用いられる金型の寿命向上方法であって、
熱間又は温間鍛造を実施した後の上記金型の表面に対してピーニング処理を実施し、少なくとも上記金型の鍛造時の最弱部位における金型表面から深さ0.4mmの位置の上記ピーニング処理後の圧縮残留応力を150MPa以上とすることを特徴とする熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法。 - 請求項1において、上記ピーニング処理は、上記金型の製造工程において該金型に対して行う焼き戻し処理の処理温度以下での加熱温度域で加熱した状態で実施することを特徴とする熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法。
- 請求項1又は請求項2において、上記ピーニング処理を実施する際に、上記金型のうち耐摩耗性が要求される部位への肉盛溶接をピーニング処理と併用して実施することを特徴とする熱間又は温間鍛造用金型の寿命向上方法。
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