JPWO2008072781A1 - 哺乳動物における記憶障害の抑制又は治療方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)又はそれをコードする遺伝子を含む、哺乳動物の記憶障害の抑制又は治療用医薬組成物を提供する。また、本発明は、当該医薬組成物を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物の記憶障害の抑制又は治療方法を提供する。

Description

本発明は、ミトコンドリア転写因子A(Mitochondrial Transcription Factor A:TFAM)を含む哺乳動物の記憶障害の抑制又は治療用医薬組成物、及び当該医薬組成物を用いた哺乳動物の記憶障害の抑制又は治療方法等に関する。
ミトコンドリアは、その内膜に存在する呼吸鎖において酸素と水素を反応させ、ATPを合成し、生物のエネルギーを産生する細胞内小器官である。同時に、その電子伝達系では、電子のリークが生じる結果、数%の酸素からスーパーオキサイド(superoxide)が産生される。したがって、何らかの理由により電子伝達系の機能が障害された場合は、エネルギー産生が低下するのみならず、より多くのsuperoxideが産生され、組織障害、ミトコンドリア内に存在するミトコンドリアDNA(mtDNA)の障害をもたらし、さらにその結果として、さらなるsuperoxideを産生するという悪循環を生じることになる。したがって、mtDNAを質的及び量的に保つことが、ミトコンドリア由来の酸化ストレスが関与しているとされる種々の慢性疾患の、新たな治療ターゲットとなる可能性が示唆されている。
mtDNAは、電子伝達系に必要なサブユニットの一部をコードしている、16.5kbpの環状二本鎖DNAである。近年、ミトコンドリアに豊富に存在するタンパク質であるミトコンドリア転写因子A(Mitochondrial Transcription Factor A:TFAM)が、そのmtDNAの転写酵素であると同時に、その維持に不可欠であることが明らかとなり、ミトコンドリアの機能維持に極めて重要な役割を果たしていることが分かってきた。しかしながら、その詳細については明らかではない。
生体内のレドックス(酸化還元)制御には、その余剰な活性酸素産生源へのアプローチが不可欠である。そのなかで、TFAMは、mtDNAの維持に重要であり、ミトコンドリア由来の酸化ストレスを制御するkey moleculeである可能性がある。しかしながら、その制御機構に関しては、未だ不明な点が多く、また、今後、TFAMの役割もその全貌が明らかになることで、多くの慢性疾患の治療への発展が期待される。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、生体内におけるTFAMの新規役割を明らかにし、これを利用して、哺乳動物の酸化ストレスに起因する疾患若しくは障害の抑制又は治療方法、及び哺乳動物の生態組織内の酸化ストレスの抑制方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、TFAMを生体内で過剰発現することにより、哺乳動物の加齢による記憶能力低下を抑制し得ることや、生体組織内の酸化ストレスを抑制し得ることを見出した。そして、これを、哺乳動物の記憶障害の抑制又は治療方法、あるいは生体組織内の酸化ストレスの抑制方法に利用することに想到し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはTFAMの発現を誘導し得る化合物を含む、記憶障害の抑制用医薬組成物。
(2)TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはTFAMの発現を誘導し得る化合物を含む、記憶障害の治療用医薬組成物。
(3)TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはTFAMの発現を誘導し得る化合物を含む、生体組織内の酸化ストレスの抑制用医薬組成物。
本発明においては、記憶障害の抑制用又は治療用、あるいは生体組織内の酸化ストレスの抑制用の、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはTFAMの発現を誘導し得る化合物も提供され得る。
(4)上記(1)の組成物を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物の記憶障害抑制方法。
(5)上記(2)の組成物を、記憶障害を有する哺乳動物に投与することを特徴とする、記憶障害の治療方法。
上記(4)及び(5)の方法において、前記哺乳動物としては、例えば記憶障害患者が挙げられる。
上記(4)及び(5)の方法は、例えば、前記哺乳動物の脳細胞内のミトコンドリアにおいて、TFAM又はその変異体を過剰導入する又は過剰発現させる方法であることが望ましい。
本発明においては、哺乳動物の記憶障害抑制用の薬剤を製造するための上記(1)の組成物(特に、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子)の使用、及び、記憶障害治療用の薬剤を製造するための上記(2)の組成物(特に、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子)の使用も提供され得る。
(6)上記(3)の組成物を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物の生体組織内の酸化ストレス抑制方法。
本発明においては、哺乳動物の生体組織内の酸化ストレス抑制用の薬剤を製造するための上記(3)の組成物(特に、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子)の使用も提供され得る。
(7)被験対象となる哺乳動物から採取された組織又は体液中に含まれるTFAMを検出し、得られた検出結果を指標として、哺乳動物の記憶障害を診断する方法。
(8)被験対象となる哺乳動物から採取された組織又は体液中に含まれるTFAMを検出し、得られた検出結果を指標として、哺乳動物の生体組織内の酸化ストレスを診断する方法。
上記(7)及び(8)の方法において、TFAMの検出は、例えばTFAMに対する抗体(特に、抗TFAMモノクローナル抗体)を用いて行うことができ、具体的には、ELISAにより行うことができる。
本発明においては、哺乳動物の記憶障害の診断用の薬剤、又は哺乳動物の生体組織内の酸化ストレスの診断用の薬剤を製造するための、TFAMに対する抗体の使用も提供され得る。
(9)上記(2)の組成物を含むことを特徴とする、記憶障害の治療用キット
(10)TFAMに対する抗体を含む、記憶障害の診断用キット。
(11)TFAMに対する抗体を含む、生体組織内の酸化ストレスの診断用キット。
(12)TFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子が導入されたトランスジェニック非ヒト動物。
本発明の非ヒト動物は、例えば、齧歯類動物(特にマウス)であり、記憶力改善モデル動物として用いることができる。
上述した本発明において、記憶障害としては、例えば記憶力低下が挙げられ、記憶力低下としては、例えば加齢に伴う記憶力低下が挙げられる。また、生体組織内の酸化ストレスとしては、例えば、ミトコンドリア内で産生された活性酸素に由来するものが挙げられ、生体組織としては、例えば脳組織又は心筋組織(特に脳組織)が挙げられる。
このように、TFAMを、生体内、特に脳組織において過剰投与する又は過剰発現させることにより、ミトコンドリア由来の活性酸素を制御することで、脳組織の酸化ストレスを抑制することができる。そして、哺乳動物の記憶障害、特に加齢に伴う記憶能力低下を抑制することができ、抗加齢効果を得ることができる。
図1において、aは、ヒトTFAMトランスジェニックマウスの脳組織におけるヒトTFAM及び内因性TFAMの発現の様子を示すウエスタンブロッティング結果であり(TG:TFAMトランスジェニックマウス、WT:野生型マウス)、
bは、脳組織におけるTBARS(thiobarbituric acid reactive substance;チオバルビツール酸反応性物質)の測定結果を示すグラフである(Young:若齢、Old:老齢(加齢)、TG:TFAMトランスジェニックマウス、WT:野生型マウス)。
図2は、脳組織におけるミトコンドリア呼吸鎖複合体(複合体I〜IV)の活性の測定結果を示すグラフである(Young:若齢、Old:老齢、TG:TFAMトランスジェニックマウス、WT:野生型マウス)。
図3は、水迷路における空間記憶力の測定結果を示すグラフである(Young:若齢、Old:老齢、TG:TFAMトランスジェニックマウス、WT:野生型マウス)。
図4において、aは、高頻度刺激(25,50,100ヘルツ(Hz))に伴うpEPSPの増大率を示すグラフであり(*は両群間に有意差(P<0.05,t−検定)があることを示している。WT:野生型マウス,TG:TFAMトランスジェニックマウス,Young:若齢,Old:老齢)、
bは、老齢の野生型(WT)及びTFAMトランスジェニックマウス(TG)から作成した海馬スライス標本下CA1野より記録されるpEPSPの高頻度(25,50,100Hz)刺激前及び刺激後の波形であり、
cは、老齢の野生型(白丸)ならびにTFAMトランスジェニックマウス(黒丸)から作成した海馬スライス標本下CA1野より記録されるpEPSPのスロープの高頻度刺激前(25,50,100Hz)に伴う変化を示すグラフ(高頻度刺激前のpEPSPのスロープを100とした相対値で表示)である。
図5は、老齢の野生型(WT)及びTFAMトランスジェニックマウス(TG)から作成した海馬スライス標本における、リポフスチン顆粒の沈着の様子を示す写真である。
図6は、加齢に伴う脳の酸化ストレス低下に対するTFAMの効果を示す図である。
a:ヒトTFAMトランスジェニックマウスの脳組織におけるヒトTFAM(h−TFAM)及び内因性TFAM(m−TFAM)の発現の様子を示すウエスタンブロッティングの結果(若齢の野生型マウス及びトランスジェニックマウスの脳抽出可溶性成分を用いた。TG:TFAMトランスジェニックマウス、WT:野生型マウス)。
b:h−TFAMの海馬CA1領域における組織免疫染色の結果(スケール=50μm)。
c:脳における脂質過酸化の指標であるTBARSの測定結果(:p<0.05)。
d:脳組織におけるミトコンドリア呼吸鎖複合体(複合体I〜IV)の活性の測定結果(:p<0.05vs老齢野生型マウス、†:p<0.05vs老齢トランスジェニックマウス)。
図7は、TFAM過剰発現マウスにおける、加齢による記憶力低下の抑制効果に関する図である。
a,b:若齢(a)及び老齢(b)マウスにおける水迷路でのエラー数を示す図(Young:若齢、Aged:老齢、TG:TFAMトランスジェニックマウス、WT:野生型マウス)。4回のテストの後に、30分間の休憩をはさみ、その後5回目のテストを行い、6匹のマウスで比較した結果である(:p<0.05)。
c,d:Schaffer側枝CA−1経路における加齢依存性長期増強に対するTFAM過剰発現の効果を示す図(EPSPスロープ(c)、頻度刺激(25,50,100Hz)に伴うEPSPの増大率(d))。*は両群間に有意差(P<0.05,t−検定)があることを示している。
図8は、海馬のシナプス伝達におけるTFAMの過剰発現の効果を示す図である。
a:老齢の野生型及び過剰発現マウスから作成した海馬スライス標本下CA1野において、種々の刺激強度(5〜40V)によって誘発された興奮性シナプス後電位(field EPSP:fEPSP)を積算トレースした図。
b〜d:老齢の野生型及び過剰発現マウスのSchaffer側枝−CA1シナプスの入出力関係を示す図であり、bはfEPSPの傾きと刺激強度の関係、cは刺激強度に対する線維斉射(fiber volley)の関係、dは平均化したfEPSP傾きと繊維斉射強度の関係を示す。
図9は、TFAM過剰発現による、海馬領域におけるPaired−Pulse Facilitationへの効果を示す図である。
a:老齢の野生型及び過剰発現マウスから作成した海馬スライス標本に、放線状層(Stratum radiatum)のPaired−Pulse刺激を加えた場合のfEPSPトレースの図。
b:種々の異なった間隔での刺激時における、1回目の反応に対する2回目の反応の相対値を表した図(CA1野より記録されるfEPSPの高頻度(25,50,100Hz)刺激前及び刺激後の波形)。
図10は、TFAM過剰発現による、老化マウスの海馬のROS由来の細胞障害及び炎症の改善効果を示す図である。
a:老化マウスの海馬CA1領域における8−oxo−dG及びHNE免疫染色(スケール=50μm)。
b:老化野生型マウスの海馬CA1サブフィールドで酸化ストレスマーカーとしての8−oxo−dG(赤)、HNE(緑)、及びグリア細胞(Iba1,F4/80;ミクログリア、GFAP;星状細胞)の蛍光免疫組織染色(スケール=30μm)。
c:老化野生型及び過剰発現マウスの海馬CA1サブフィールドでIL−1β(赤)お及びIba1(緑)の局在化を示す蛍光免疫組織染色(老齢マウス及びLPS投与された老化トランスジェニックマウスの海馬CA1サブフィールドのIba1(緑:ミクログリア)は、IL−1β陽性細胞と共染色を示す。スケール=50μm(左コラム),10μm(右コラム))。
d:若齢及び老齢の野生型及びトランスジェニックマウス、及びLPS投与したトランスジェニックマウスの、海馬CA1サブフィールドにおけるIL−1βの平均蛍光強度(†:P<0.05vs老齢野生型マウス、‡:P<0.05vs老齢トランスジェニックマウス)。
図11は、LPS注入後のマウス海馬におけるIL−1β発現を示す図である。
a:IL−1β発現の解析結果(老齢マウスにLPS(0.33mg/kg)を腹腔内投与し、4時間後に免疫組織染色を行った)。
b:IL−1βの発現レベルの平均(:P<0.05)。
図12は、テトラサイクリンシステムによるTFAM過剰発現Hela細胞における、ロテノン惹起性細胞内ROSの生成及びNF−κBの核移行(translocation)を示す図である。
a:ロテノンによる細胞内ROSの生成(デオキシサイクリン(doxycycline:DC)(DC+;TFAM1倍、DC−;TFAM2倍)によりTFAMが発現調節されたHela細胞に、ROS感受性蛍光色素であるDHEを使用することで、蛍光免疫染色を行い評価した。スケール=20μm)。
b:エタノール又はロテノンによる処置後のDHEの酸化(:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001)。
c:NF−κBの蛍光免疫染色(NF−κB(緑)及び核を示すプロピウムイオダイド(propium iodide:PI)。矢印はNF−κBがtranslocationを生じたHela細胞を指す。スケール=50μm)。
d:NF−κBの核移行陽性細胞の平均値(:P<0.05、***:P<0.001)。
図13は、テトラサイクリンシステムによりヒトTFAMのタンパク質発現が制御されたHela細胞に関する図である。
a:ヒトTFAMのウエスタンブロット。
b:ヒトTFAMの発現レベルの比較(アクチンの発現レベルとの比較)。
図14は、GST−TFAM欠失変異タンパク質の調製:GST−TFAM欠失変異タンパク質(43−106,71−160,136−222,192−246)はGSHセファロースを用いてE.coli溶解液より精製した。精製産物は12.5%のSDS−PAGEで分離し、CBB染色により確認した。
図15は、抗TFAMモノクローナル抗体エピトープの評価の結果を示す図である。
図16は、抗TFAMポリクローナル抗体エピトープの評価の結果を示す図である。
図17は、抗TFAMモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンの培養上清を用いた免疫沈降反応:3種のハイブリドーマクローンの培養上清をプロテインGセファロースで固定化した。洗浄後、固定化した抗体をリコンビナントTFAMタンパク質(0.5,1.5μg/mL,200μL)を用いて免疫沈降反応した。Aは、ウサギ抗TFAMポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット像、Bは、当該ウエスタンブロット像のCBB染色像を示す図である。
図18は、抗TFAMモノクローナル抗体を産生する14種のハイブリドーマクローンの培養上清を用いた免疫沈降反応:Aは、ウサギ抗TFAMポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット像、Bは、当該ウエスタンブロット像のCBB染色像を示す図である。
図19は、抗TFAMモノクローナル抗体を産生する14種のハイブリドーマクローンの培養上清を用いた免疫沈降反応:Aは、ウサギ抗TFAMポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット像、Bは、当該ウエスタンブロット像のCBB染色像を示す図である。
図20は、Immature TFAM発現ベクターの構成を示す概略図である。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる米国仮出願第60/869,603号明細書、及び米国仮出願第60/999,432号明細書の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
1.本発明の概要
ミトコンドリア転写因子A(Mitochondrial Transcription Factor A:TFAM)は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の維持及びコピー数の調節に重要な役割を果たしているものである。TFAMは、核でコードされたタンパク質であり、mtDNAのLSP及びHSPの上流に結合して、mtDNAの転写を促進する(Parisi,M.A.& Clayton,D.A.Similarity of human mitochondrial transcription factor 1 to high mobility group proteins.Science 252,965−9(1991).)。本発明者らは、βアクチンをプロモーターとして、ヒトTFAMを過剰発現したマウスにおいて、mtDNAのコピー数が増加し、ミトコンドリア電子伝達系異常が抑制されることをすでに示してきた(Ikeuchi,M.et al.Overexpression of mitochondrial transcription factor A ameliorates mitochondrial deficiencies and cardiac failure after myocardial infarction.Circulation 112,683−90(2005).)。ミトコンドリア電子伝達系の改善は、通常のミトコンドリア電子伝達系から副産物として発生する活性酸素を減少させることで、慢性リモデリング過程を抑制すると考えられる。脳は、多くの酸素を必要とし、酸化ストレスが増大し、mtDNAの変異や脂質過酸化の増大を生じることが予想される。加齢による運動及び認知能力の低下には、酸化ストレスと炎症が原因であることが示唆されていることから(Shukitt−Hale,B.The effects of aging and oxidative stress on psychomotor and cognitive behavior.AGE 22,9−17(1999).)、本発明においては、脳の機能障害(例えば記憶力低下、特に加齢による記憶力低下)に対するTFAMの効果に着目した。
mtDNAは、活性酸素(Reactive oxygen species:ROS)による障害に対して脆弱である。加齢に伴って、脳を含めた多くの組織において、mtDNAの変異が蓄積し、ミトコンドリア呼吸鎖の異常を招き、その結果、さらなるROSの産生が引き起こされる。従って、加齢による記憶力の低下は、ミトコンドリア呼吸鎖由来の酸化ストレスによってひきおこされることが示唆されている(Lin,M.T.,Simon,D.K.,Ahn,C.H.,Kim,L.M.& Beal,M.F.High aggregate burden of somatic mtDNA point mutations in aging and Alzheimer’s disease brain.
Hum Mol Genet 11,133−45(2002).;Corral−Debrinski,M.et al.Mitochondrial DNA deletions in human brain:regional variability and increase with advanced age.Nat Genet 2,324−9(1992).)。TFAMは、もともとmtDNAの転写因子として同定されたが、近年、mtDNAの複製だけでなく、その維持においても、重要な役割を果たしていることが示されている。
本発明者は、マウスにヒトTFAMを過剰発現させると、加齢に伴うミトコンドリア呼吸鎖の複合体I及びIVの活性低下、ならびに記憶力低下、海馬領域での長期増強作用(LTP)を抑制することを明らかにした。さらに、リポ多糖(Lipopolysaccaride:LPS)の全身投与によって、IL−1βが活性化されるが、このTFAM過剰発現マウスにおいては、海馬、特にマイクログリアにおけるIL−1βの発現が抑制されていることが明らかとなった。
さらに、Hela細胞において、ミトコンドリア複合体I(mitocondorial complex I)の阻害剤であるロテノン(Rotenone)で処理すると、ROSの産生とそれに引き続くNF−κBの核内への移行が観察されるが、TFAMを過剰発現させたHela細胞では、それらが抑制された。以上のことから、TFAMは、加齢に伴うミトコンドリアの機能低下及びマイクログリアにおける酸化ストレスを抑制することが明らかとなった。TFAMはミトコンドリア機能の維持において重要な役割を果たすものであり、脳の機能低下、特に加齢による脳の機能低下を抑制又は治療する新たなターゲットになる可能性があると考えられた。
2.ミトコンドリア転写因子A(TFAM)
(1)転写因子(transcription factor)としてのTFAM
TFAMは、mtDNAの転写因子としてFisherらによって最初にクローニングされたタンパク質である(Fisher,R.P.and Clayton,D.A.Purification and characterization of human mitochondrial transcription factor 1.Mol Cell Biol,8:3496−3509,1988.)。TFAMは、transcription factor B(TFB1M,TFB2M)及びmitochondrial RNA polymerase(POLRMT)と共に、mtDNAの転写に働くことが知られている。3種類の転写因子は、いずれも核DNAでコードされ、特に、TFAM(以前はmtTF−1又はmtTFAとも称されていた)は、ミトコンドリアの転写及び複製だけでなく、mtDNAの維持にも重要であることが明らかとなってきた。
(2)核様体(Nucleoid)としてのTFAM
mtDNAはこれまで、核DNAとは異なり、ヒストン構造を有さず、そのため時として“裸の遺伝子”とも考えられ、それが、ストレスに対して脆弱である理由とも理解されていた。しかし、TFAMは、2つのHMG boxを有するHMG(high mobility group)タンパク質であり、DNAの配列によらずDNAに結合する特性を有する。しかも、mtDNAあたり、約900分子のTFAMが存在すると考えられている。TFAMは、mtDNAのプロモーター領域には、より強い親和性を有することが明らかとなっているが、正常の状態では、その量的関係からmtDNAは、TFAMに全体が包まれていると考えられる。
siRNAにより、Hela細胞を用いてTFAMの発現を減少させると、TFAMタンパク質の減少に比例してmtDNA量も減少する。また、その後、数日以内にTFAMは増加に転じるが、これもmtDNAはTFAM同様の増加を示す(Kanki,T.,Ohgaki,K.,Gaspari,M.,Gustafsson,C.M.,Fukuoh,A.,Sasaki,N.,Hamasaki,N.,and Kang,D.Architectural role of mitochondrial transcription factor A in maintenance of human mitochondrial DNA.Mol Cell Biol,24:9823−9834,2004.)。つまり、mtDNAは、TFAMのHMGドメインと結合することで安定化し、維持されていると考えられる。
(3)TFAM欠損マウス及びTFAM過剰発現マウス
TFAMそのものの機能を調べるために、遺伝子改変マウスを用いた研究が報告されている。Larssonらは、TFAMloxPを使い、TFAMノックアウトマウスをそれぞれ作製した(Larsson,N.G.,Wang,J.,Wilhelmsson,H.,Oldfors,A.,Rustin,P.,Lewandoski,M.,Barsh,G.S.,and Clayton,D.A.Mitochondrial transcription factor A is necessary for mtDNA maintenance and embryogenesis in mice.Nat Genet,18:231−236,1998.)。TFAM(−/−)では、mtDNAの完全な消失が生じ、胎生8.5〜10.5日で死亡し、それらのミトコンドリアは、サイズの拡大、異常クリスタを有し、サブユニットの全てが核でコードされたコハク酸脱水素酵素(succinate dehydrogenase(SDH))活性は保たれていたが、mtDNAでコードされたチトクローム c酸化酵素(cytochrome c oxidase(COX))活性は消失していた。
また、骨格筋及び心筋特異的にTFAM遺伝子をノックアウトしたマウスでは、拡張型心筋症様の病態を呈して、20日ほどで死に至る。このマウスは、QT延長及び房室伝導障害を伴い、心臓でのmtDNAのコピー数は26%まで低下していることが報告されている。電子伝達系複合体のI及びIVは低下を示すが、IIは保たれており、COXで心筋組織を免疫染色すると、一部の心筋ではCOXの欠落が生じ、モザイク用のパターンを示すことから、TFAMは心不全の形成及び進展過程において何らかの役割を持つと考えられる。マウスを用いた心筋梗塞後の不全心筋モデルでは、サザンブロットによる心筋mtDNAのコピー数の減少、TFAMの減少、及びミトコンドリア電子伝達系酵素活性の低下を認めることが知られている(Ide,T.,Tsutsui,H.,Kinugawa,S.,Utsumi,H.,Kang,D.,Hattori,N.,Uchida,K.,Arimura,K.,Egashira,K.,and Takeshita,A.Mitochondrial electron transport complex I is a potential source of oxygen free radicals in the failing myocardium.Circ Res,85:357−363,1999.)。そこで、アクチンをプロモーターにTFAMを過剰発現させたマウスを作製すると、TFAMの発現とともに、約40%のmtDNAの増加を認めるが、このトランスジェニックマウスに心筋梗塞を引き起こし、心筋リモデリングを観察すると、心筋梗塞後もmtDNAコピー数及びミトコンドリア電子伝達系酵素活性が維持され、心筋リモデリングを改善、さらにはその生存率を増加させることが明らかとなった。つまり、心筋リモデリングの過程でmtDNAの低下、ミトコンドリア機能の低下が関与しているのに対し、TFAMは、mtDNAを維持し、心筋リモデリングを抑制する上で重要な働きをするものであると言える。
そのほか、膵臓におけるTFAMの役割も注目されており、膵臓β細胞特異的にTFAM遺伝子を欠損させたマウスでは、生後7日目でほとんどのβ細胞のTFAMが消失し、5週齢では、高血糖となって糖尿病を呈し、その後はβ細胞そのものの減少をも伴い、いずれも、糖尿病を呈することが明らかとなっている(Silva,J.P.,Kohler,M.,Graff,C.,Oldfors,A.,Magnuson,M.A.,Berggren,P.O.,and Larsson,N.G.Impaired insulin secretion and beta−cell loss in tissue−specific knockout mice with mitochondrial diabetes.Nat Genet,26:336−340,2000.)。
(4)TFAMの発現及び制御と核−ミトコンドリア間の相互作用
ヒトのTFAMは25kDの核ゲノムにコードされたタンパク質であり、204アミノ酸で構成される。
アミノ末端に第1のhigh mobility group(HMG)ドメイン、リンカー領域、そして第2のHMGドメイン、転写に不可欠な25アミノ酸を有するカルボキシ末端領域を有する。TFAMの発現は、トランス作動性タンパク質である主要な2つの転写因子、並びに、Nuclear Respiratory Factor(NRF)−1及び2によって調節されている。さらに、TFAMプロモーターのNRF−1転写機能は、peroxisome proliferators−activated receptor−γ coactivator−1a(PGC−1)によって活性化される。
以前より、ミトコンドリアと核におけるコミュニケーションは、エネルギーのホメオスターシスを維持するために必要不可欠であることが示唆されていた(Scarpulla,R.C.Nuclear control of respiratory chain expression in mammalian cells.J Bioenerg Biomembr,29:109−119,1997.)。過剰な活性酸素によって、mtDNAが減少し、電子伝達系の機能障害が生じる可能性があるが、その刺激によってどのような機構で核DNAへ情報が伝わり、ストレスに対抗するための転写が開始されるのかは長い間不明であったが、Wuらは、細胞内に増加したcAMPがPCG−1の発現を増加させ、それによってからNRF−1及び2の発現が誘導され、それらに制御されたミトコンドリア電子伝達系酵素及びTFAMの発現が促進されるメカニズムを明らかにした(Wu,Z.,Puigserver,P.,Andersson,U.,Zhang,C.,Adelmant,G.,Mootha,V.,Troy,A.,Cinti,S.,Lowell,B.,Scarpulla,R.C.,and Spiegelman,B.M.Mechanisms controlling mitochondrial biogenesis and respiration through the thermogenic coactivator PGC−1.Cell,98:115−124,1999.)。また、Piantadosiらは、H4IIEラットhepatoma細胞に、t−BOOHを用いた酸化ストレス刺激を与えると、NRF−1のリン酸化を生じ、TFAMが増加することを示している。さらに、その反応には、PI3K/Aktの活性化を介してNRFの核へのtranslocationが引き金になっていることが示され、比較的穏やかな酸化ストレスに際しての核からミトコンドリアへの制御機構が次第に明らかとなりつつある(Piantadosi,C.A.and Suliman,H.B.Mitochondrial transcription factor A induction by redox activation of nuclear respiratory factor 1.J Biol Chem,281:324−333,2006.)。
NRF−1は、電子伝達系の各複合体のサブユニットの大部分を制御し、さらには、TFAMだけでなく、TFB1M、TFB2M及びPOLRMTといったmtDNAの転写制御因子の調節も行っていることが明らかとなり、最近のクロマチン免疫沈降(ChIP)を用いた研究では、これらの遺伝子のプロモーターは、in vivoにおいてNRF−1に占拠されていることも報告されている(Cam,H.,Balciunaite,E.,Blais,A.,Spektor,A.,Scarpulla,R.C.,Young,R.,Kluger,Y.,and Dynlacht,B.D.A common set of gene regulatory networks links metabolism and growth inhibition.Mol Cell,16:399−411,2004.)。
しかしながら、PGC−1がcoactivatorとしてターゲットとされているNRFは、電子伝達系複合体サブユニットやTFAM以外に、数百の他の全くミトコンドリア呼吸鎖に関係していない遺伝子発現にも関与していることから、TFAMを特異的に増加させる機構は、未だ不明である。TFAM欠損マウスは、胎生8.5日〜10.5日までは生存するのに対し、NRF−1欠損マウスは、胎生初期3.5日〜6.5日しか生き延びることはできない。その理由として、NRF−1がmtDNAだけではなく、細胞の成長や発達に不可欠である遺伝子をターゲットとしているからであると考えられる。
(5)本発明において使用されるTFAM
本発明において使用されるTFAMは、TFAMタンパク質(成熟タンパク質)そのもののほか、TFAMタンパク質前駆体(例えば、シグナルペプチド、特にミトコンドリアへの移行用シグナルペプチドが付いたもの等)やTFAMタンパク質の一部(例えば、トランケート体、その他各種ペプチド断片等)等も全て含む意味である。
本発明において使用されるTFAMとしては、例えばAccession No.CAG28581、AAI04483、NP_003192で示されるアミノ酸配列を含むものが挙げられる。これらのTFAMの塩基配列及びアミノ酸配列を以下の表に示す。
ここで、配列番号2、4及び6に示される各アミノ酸配列からなるタンパク質は、ミトコンドリアへの移行シグナルペプチドを含む、TFAMタンパク質前駆体に相当するものである。これら各アミノ酸配列においては、第1番目〜第42番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列が、ミトコンドリアへの移行シグナルペプチドに相当する部分であり、第43番目以降のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列が、TFAMの成熟タンパク質に相当する部分である。なお、当該シグナルペプチドとしては、配列番号2、4及び6に示される各アミノ酸配列中の第7番目〜第42番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるものであってもよい(特にヒト由来のTFAMの場合)。
また、本発明において使用されるTFAMとしては、上記アミノ酸配列を含むタンパク質のほか、当該アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつミトコンドリア転写活性を有するタンパク質変異体も含まれるものとする。具体的には、
(i)TFAMのアミノ酸配列のうち1個又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii)TFAMのアミノ酸配列のうち1個又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換したアミノ酸配列、
(iii)TFAMのアミノ酸配列のうち1個又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))の他のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列、又は
(iv)上記(i)〜(iii)を組み合わせたアミノ酸配列からなり、かつ上記TFAMと同様の作用を有する変異型TFAMを使用することもできる。
さらに、本発明において使用されるTFAMとしては、TFAM活性を有する限り、上記アミノ酸配列とホモロジーを有するペプチドでもよい。上記TFAMのペプチドのアミノ酸配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。
このようなTFAMのアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列をコードするDNAは、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))、Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−92、Kunkel(1988)Method.Enzymol.85:2763−6等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製することができる。
また、DNAに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Mutan−K、Mutan−Super Express Km等;タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。
ここで、TFAM活性とは、ミトコンドリアゲノム上にコードされる遺伝子のプロモーターに結合してミトコンドリア遺伝子の発現を制御する活性を意味する。
TFAMをコードするDNAの塩基配列は上記の通り知られている。TFAMをコードするDNAとしては、上記Accession No.に示す塩基配列(配列番号1、3又は5)からなるDNAのほか、上記塩基配列からなるDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記TFAM活性を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。
上記ハイブリダイゼーションにおけるストリンジェントな条件としては、たとえば、ハイブリダイゼーションにおいて洗浄時の塩濃度が100〜900mM、好ましくは150〜300mMであり、温度が50〜70℃、好ましくは55〜65℃の条件が挙げられる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987−1997))等を参照することができる。ハイブリダイズするDNAとしては、TFAMのコード領域の塩基配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは70%、さらに好ましくは80%、より一層好ましくは90%(例えば、95%以上、さらには99%)の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。
3.医薬組成物
(1)記憶障害の抑制又は治療用の医薬組成物
本発明は、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはTFAMの発現を誘導し得る化合物(TFAM発現誘導化合物)を含む、哺乳動物の記憶障害の抑制又は治療用の医薬組成物を含むものである。また本発明は、哺乳動物の記憶障害の抑制又は治療用の、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはTFAMの発現を誘導し得る化合物も含む。なお、TFAMの発現を誘導し得る化合物としては、特に限定はされないが、例えば、レスベラトロール様物質や、プロモーターに結合する転写因子であるNRF−1、PGC−1等が挙げられる。
本発明の医薬組成物を哺乳動物の生体内に投与することにより、記憶障害の抑制又は治療のために使用することができる。
記憶障害を抑制又は治療するための適用部位は、記憶中枢に関与する組織であれば特に限定されないが、例えば脳組織における海馬等が挙げられる。上記記憶障害としては、記憶力の低下、特に加齢に伴う記憶力の低下が好ましく挙げられるが、限定はされず、交通事故、スポーツによる傷害、アルツハイマー性痴呆症等による記憶障害も含まれ、本発明の医薬組成物の適用対象となる。
当該医薬組成物において有効成分となるTFAM若しくはその変異体、又はTFAM発現誘導化合物は、必要に応じて各種塩や水和物等の状態で用いられてもよいし、また、医薬組成物としての保存安定性(特に活性維持)を考慮し適当な化学的修飾がなされた状態で用いられてもよく、限定はされない。当該医薬組成物は、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM発現誘導化合物以外にも他の成分を含むことができる。他の成分としては、当該医薬組成物の用法(使用形態)に応じて必要とされる製薬上の各種成分(後述する各種担体等)が挙げられる。他の成分は、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM発現誘導化合物により発揮される効果が損なわれない範囲で適宜含有することができる。
本発明の医薬組成物は、経口投与及び非経口投与のいずれの剤形をも採用することができる。非経口投与の場合は、上記障害部位に直接投与することも可能である。
これらの剤形は常法にしたがって製剤化することができ、医薬的に許容される担体や添加物を含むものであってもよい。このような担体及び添加物として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
上記添加物は、本発明の医薬組成物の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれる。剤形としては、経口投与の場合は、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等として、または適当な剤型により投与が可能である。非経口投与の場合は、注射剤型等が挙げられる。注射剤型の場合は、例えば点滴等の静脈内注射、脳内注射、皮下注射、点鼻、筋肉内注射等により全身又は局部的に投与することができる。
例えば、注射用製剤として使用する場合、本発明の医薬組成物を溶剤(例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等)に溶解し、これに適当な添加剤(ヒト血清アルブミン等)を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥用賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なる。投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択する。
本発明の医薬組成物を記憶障害の遺伝子治療剤として使用する場合、すなわち、当該医薬組成物の有効成分としてTFAM又はその変異体をコードする遺伝子を含む場合、当該医薬組成物の適用部位は特に限定されない。
本発明の医薬組成物を遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の医薬組成物を注射により直接投与する方法のほか、核酸(TFAM又はその変異体をコードする遺伝子)が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。遺伝子治療により、生体内においてTFAM又はその変異体を過剰発現させることができ、記憶障害を改善することが可能となる。
上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。
また、本発明の医薬組成物をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。TFAMを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内、動脈内等に全身投与する。脳内に局所投与することもできる。
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えばアデノウイルスの場合の投与量は1日1回あたり10〜1013個程度であり、1週〜8週間隔で投与される。
記憶障害が改善(抑制又は治療)されたことの確認は、公知の各種手法を用いることができる。例えば、動物実験の場合は、水迷路による空間記憶能力の測定法、興奮生シナプス後電位の計測などが挙げられ、臨床では、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)、ミニメンタルステート検査(MMSE)などが挙げられる。
(2)生体組織内の酸化ストレスの抑制用医薬組成物
本発明は、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはTFAM発現誘導化合物を含む、生体組織内の酸化ストレスの抑制用医薬組成物を含むものである。また本発明は、哺乳動物の生体組織内の酸化ストレスの抑制用の、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはTFAM発現誘導化合物も含む。
本発明の医薬組成物を哺乳動物の生体内に投与することにより、当該哺乳動物の生体組織内の酸化ストレスの抑制のために使用することができる。
ここで、生体組織内の酸化ストレスとしては、当該組織細胞内のミトコンドリア内で産生された活性酸素に由来する酸化ストレスが好ましく挙げられる。また、生体組織としては、限定はされないが、脳組織あるいは心筋組織が好ましく挙げられ、中でも脳組織がより好ましい。
生体組織内の酸化ストレスが抑制されたことの確認は、公知の各種手法を用いることができる。例えば、脂質過酸化の指標であるTBARS(チオバルビツール酸反応性物質)の測定などが挙げられる。
その他、本発明の医薬組成物に関する説明については、上述した3.(1)項の医薬組成物に関する記載を同様に適用することができる。
4.記憶障害の抑制又は治療方法
本発明は、前述した記憶障害の抑制又は治療用の医薬組成物を、哺乳動物に投与することを特徴とする、記憶障害の抑制又は治療方法を含むものである。また本発明は、哺乳動物の記憶障害を抑制又は治療するための当該医薬組成物の使用も含む。さらに本発明は、哺乳動物の記憶障害の抑制若しくは治療のための薬剤を製造するための、当該医薬組成物の使用、あるいは、TFAM若しくはその変異体、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子、又はTFAM発現誘導化合物の使用も含む。ここで、上記哺乳動物としては、ヒトを含む全ての哺乳動物が挙げられ、特に記憶障害を有する哺乳動物(例えば、記憶障害患者)が挙げられる。
本発明の方法に使用する医薬組成物は、TFAM若しくはその変異体を含む医薬組成物、又はTFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子を含む医薬組成物、又はTFAM発現誘導化合物、あるいはこれら両医薬組成物の併用であってもよく、限定はされず、投与対象となる哺乳動物(患者)の病状や副作用の有無、あるいは投与効果などを考慮して、適宜選択することができる。特に、上記併用の場合は、それぞれの医薬組成物の投与量の割合、投与回数及び投与期間などを、個々の患者に合わせて適宜設定することができる。なお、各医薬組成物の好ましい投与方法及び投与量等については、前述した通りである。
本発明の方法は、投与対象となる哺乳動物の脳細胞内のミトコンドリアにおいて、TFAM又はその変異体若しくはTFAM発現誘導化合物を過剰導入する、又は(TFAM若しくはその変異体をコードする遺伝子を)過剰発現させる方法であることが好ましい。
5.哺乳動物の記憶障害、又は生体組織内の酸化ストレスの診断方法
本発明は、被験対象となる哺乳動物から採取された組織又は体液(血液等)中に含まれるTFAMを検出し、得られた検出結果を指標として、哺乳動物の記憶障害(例えば、記憶力低下、特に加齢に伴う記憶力低下)を診断する方法を含むものである。
また、本発明は、被験対象となる哺乳動物から採取された組織又は体液(血液等)中に含まれるTFAMを検出し、得られた検出結果を指標として、哺乳動物の生体組織(例えば、脳組織又は心筋組織)内の酸化ストレスを診断する方法を含むものである。ここで、当該酸化ストレスとしては、特にミトコンドリア内で産生された活性酸素に由来するものであることが好ましい。
上記本発明の診断方法は、具体的には、記憶障害や生体組織内の酸化ストレスの有無又は程度を診断する(評価する)方法ということもできる。
本発明の診断方法において、被験対象となる哺乳動物は、ヒトを含む全ての哺乳動物が挙げられ、特に限定はされないが、例えば、記憶障害を有する哺乳動物(例えば、記憶障害患者)や、生体組織内の酸化ストレスの増大が見込まれる哺乳動物が挙げられる。
本発明の診断方法におけるTFAMの検出手法は、採取された組織又は体液中におけるTFAMの量を評価できる手法であればよく、限定はされないが、例えば、ミトコンドリア転写因子Aに対する抗体(特にモノクローナル抗体、又はその抗体断片)を用いる手法、例えばELISA法やイムノブロット法(特にELASA法)が好ましい。
本発明の診断方法は、例えば、被験対象となる哺乳動物についてTFAMの量を検出し、既にある検量線データ等と比較することにより、TFAMの量が健常な哺乳動物に比べて低下していれば、記憶障害や生体組織内の酸化ストレスがあるか又はそれらの程度が大きいと判断することができる。また、被験対象となる哺乳動物について現在及び過去のTFAMの検出量を比較することにより、過去に比べて現在の検出量が低下していれば、記憶障害や生体組織内の酸化ストレスがあるか又はそれらの程度が大きいと判断することができる。
なお、本発明の診断方法は、前述した本発明の抑制又は治療方法の適用後における、記憶障害の病態の予後観察を目的として使用することもできる。
6.キット
(1)記憶障害の治療用キット
本発明は、前述した記憶障害の治療用の医薬組成物を含む、哺乳動物の記憶障害の治療用キットを含むものである。
本発明のキットには、当該医薬組成物のほかに、任意の構成要素、例えば、各種緩衝液、pH調整剤、細胞保護液などを、単独で、又は適宜組み合わせて含めることができる。また、本発明のキットには、必要に応じて、例えばDEAEデキストラン等のトランスフェクション増強試薬、及び他の添加剤を含めることが可能である。さらに、本発明のキットには、細胞へのTFAMタンパク質又は遺伝子あるいはTFAM発現誘導化合物を導入するための使用説明書を含めることができる。キットに含まれる各成分は、例えば、各成分を容器中に封入した包装形態としてもよい。
(2)記憶障害の診断用キット、生体組織内の酸化ストレスの診断用キット
本発明は、TFAMに対する抗体(特にモノクローナル抗体、又はその抗体断片)を含む、記憶障害の診断用キット、及び生体組織内の酸化ストレスの診断用キットを含むものである。
本発明のキットはTFAMに対する抗体を含むが、その他に、標識物質、あるいは抗体又はその標識物を固定した固相化試薬などを含めることができる。抗体の標識物質とは、酵素、放射性同位体、蛍光化合物及び化学発光化合物等によって標識されたものを意味する。本発明のキットは、上記の構成要素のほか、前述した本発明の診断方法を実施するための他の試薬、例えば標識物が酵素標識物の場合は、酵素基質(発色性基質等)、酵素基質溶解液、酵素反応停止液、あるいは検体用希釈液等を含んでいてもよい。また、各種バッファー、滅菌水、各種細胞培養容器、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、ブロッキング剤(Bovine Serum Albumin(BSA),Skim milk,Goat血清等の血清成分)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、アジ化ナトリウム等の防腐剤、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよい。当該キットに含まれる各成分は、例えば、各成分を容器中に封入した包装形態としてもよい。
本発明のキットは、前述した本発明の診断方法を行うために有効に用いることができ、極めて有用性が高いものである。
7.トランスジェニック非ヒト動物
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、TFAM又はその変異体をコードする遺伝子が導入された動物である(以下、「TFAMトランスジェニック非ヒト動物」と言うことがある)。
TFAMトランスジェニック非ヒト動物において、TFAM又はその変異体をコードする遺伝子を発現(特に過剰発現)させる部位は、特に限定されるものではないが、例えば、生体組織の中でも脳組織や心筋組織、特に脳組織が好ましい。脳組織としては、例えば、大脳、間脳、中脳、小脳の各種神経細胞組織が挙げられる。所望の組織でTFAM又はその変異体を発現させる場合は、公知の組織特異的プロモーターを利用して所定の遺伝子を目的とする組織に特異的に発現させればよい(J.Immunol.,2001 Jan 1,vol.166(1),p.304−312;J.Neurosci.Res.,2001 Aug 1,vol.65(3),p.220−227等)。脳組織特異的プロモーターとしては、例えば、プリオンプロモーター(脳特異的)、Neuron−Specific Enolaseプロモーター(脳特異的)、Tα1プロモーター(脳特異的)等が挙げられる。
本発明に用い得る非ヒト動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ及びウマ等のヒトを除く哺乳類動物が挙げられ、中でも、マウス、ラット及びモルモット等の齧歯類(ネズミ目)動物が好ましく、より好ましくはマウスである。
本発明のTFAMトランスジェニック非ヒト動物は、記憶障害(例えば、記憶力低下、特に加齢に伴う記憶力低下)の改善モデル動物(すなわち、例えば記憶力改善モデル動物)として、極めて有用なものである。
以下に、本発明の非ヒト動物の作出方法について説明する。ここでは、非ヒト動物としてマウスを用いた場合を例に挙げて説明するが、他の非ヒト動物を用いる場合についても同様の方法を適用することができる。
TFAMトランスジェニックマウスは、公知の作出方法、すなわち受精卵前核へのDNAマイクロインジェクションによる方法、胚性幹細胞(ES細胞)にDNAを導入した後キメラを作製する方法、及びレトロウイルスベクターを初期発生胚に感染させて導入する方法等のいずれの方法を用いることができる。これらの方法については、例えば、「Manipulating the Mouse Embryo−A Laboratory Manual,2nd Ed.(1994)Hogan B et al.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor」、「発生工学実験マニュアル(1987)勝木元也(編)講談社サイエンティフィク,東京」、「マウス胚の操作マニュアル第2版(1997)Hogan B et al.(著),山内一也ら(訳)近代出版,東京」、「Gordon,J.W.(1993)Guide to Techniques in Mouse Development(Wassarman,P.M.,and DePamphilis,M.L.,Eds.),Academic Press,San Diego」等に記載されており、これらの記載を適宜参照してトランスジェニックマウスを作出することができる。
公知の作出方法の中でも、最も一般的である受精卵前核へのDNAマイクロインジェクション法を用いる場合について、以下に概略を説明する。
(i)導入する目的のDNA構築物を調製する。具体的には、まず、マウスの遺伝子ライブラリーからPCR等の方法によりTFAM遺伝子断片を得て、この遺伝子断片を用いてTFAM遺伝子をスクリーニングする。TFAM遺伝子には、必要により、エピトープタグ等をコードするDNAを連結しておいてもよい。次いで、所望のプロモーターの制御下で導入遺伝子が発現制御されるように設計されたベクターに、組換えDNA技術を用いて、TFAM遺伝子を挿入する。上記挿入後のベクターを制限酵素処理等して、目的のDNA構築物、すなわち所望のプロモーター及びその制御下にあるTFAM遺伝子を含むDNA断片を得る。
(ii)雌のマウスにホルモンを注射して強制的に過剰排卵させ、受精を行い、交尾後1日目の卵管から受精卵を摘出する。
(iii)核が融合する前の時期の受精卵に、顕微鏡下で目的のDNA構築物を雄性全核中にマイクロインジェクションにより注入する。
(iv)マイクロインジェクション後の受精卵を約20個程度、仮親となる偽妊娠雌マウスの子宮又は卵管内に移植する。
(v)移植後の雌マウスを通常の飼育条件下で飼育し、仔マウスを出産させる。
(vi)仔マウスの一部(尾の先端や耳介片など)からゲノムDNAを抽出し、PCR法又はサザンブロット法等により、プロモーターの制御下にあるTFAM遺伝子の導入の成否を確認する。
以上のようにして作出されたTFAMトランスジェニックマウスは、野生型のマウスと交配させることにより、TFAMヘテロ遺伝子型マウス(+/−)を得ることができる。さらに、このヘテロ遺伝子型のマウス同士を交配させることにより、TFAMホモ遺伝子型マウス(+/+)を得ることができる。また、メンデルの法則に従い、TFAMトランスジェニックマウスと共に、同腹の対照マウス(−/−)を得ることもできる。
TFAMトランスジェニックマウスにおいて、TFAMが発現していることの確認は、例えば、当該マウスの血液や所定の部位からRNAを抽出してRT−PCR法及びノーザンブロット法等により確認する方法、あるいは、当該マウスにおけるTFAMの発現をウエスタンブロット法等により確認する方法が挙げられる。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<方法>
1.マウスの作製
TFAM過剰発現マウスは、以前の報告(Ikeuchi M,Matsusaka H,Kang D,et al.Overexpression of mitochondrial transcription factor a ameliorates mitochondrial deficiencies and cardiac failure after myocardial infarction.Circulation.Aug 2 2005;112(5):683−690.)に従い、C57BL/6マウスをバックグラウンドとしてβアクチンをプロモーターとしてヒトTFAM遺伝子を過剰発現させるモデル動物として作製した。本研究は「九州大学動物実験に関する指針」「九州大学動物実験規則」に従って行った。動物は、TFAM過剰発現マウス(TG)及び野生型マウス(WT)のそれぞれについて、若齢マウス(生後2ヶ月齢)及び老齢マウス(生後24ヶ月齢)を用いた。
2.脳におけるWTの発現の確認
ヒトTFAM及び内因性のマウスTFAMの発現を脳組織によるウエスタンブロッティングによって確認した。
3.脳組織TBARSの測定
脂質過酸化の指標であるTBMS(チオバルビツール酸反応性物質)は、以前の報告(Ide T,Tsutsui H,Kinugawa S,et al.Mitochondrial electron transport complex I is a potential source of oxygen free radicals in the failing myocardium.Circ Res.Aug 20 1999;85(4):357−363.)に従い、脳組織を1.15%KClにてhomogenateし、チオバルビツールを含む試薬と反応させ、100℃で60分間加熱したのちに蛍光光度計(励起光532nm,蛍光553nm)にて測定した。
4.ミトコンドリア分画の単離とミトコンドリア呼吸鎖複合体活性測定
HESバッファー(10mM Hepes−NaOH及び0.25M Sucrose,1mM EDTA−2Na)を用いて遠心分離法によりミトコンドリア分画を単離する。単離したミトコンドリアを用いて、公知の方法(Methods Enzymology 264:491.)に従い、複合体I〜IVの活性を測定した。
5.水迷路による空間記憶能力の測定
アクリル板で作成した、直径1mのプールに、6本の放射状水迷路を作製し(Morgan D,Diamond DM,Gottschall PE,et al.A beta peptide vaccination prevents memory loss in an animal model of Alzheimer’s disease.Nature.Dec 21−28 2000;408(6815):982−985.)、そのうちの1腕(アーム)に径10cmのプラットホームを設置した水迷路にて実験を行った。マウスは、プラットホームを除く5本のアームのうちから、ランダムにスタートさせ、プラットホームにたどり着くまでのエラーの回数をカウントした。4回目のトライアルの後に30分間休憩し、5回目は4回目と同じ場所からスタートし、5回目のエラー回数を、短期空間記憶の指標とした。9日間、連日午後同じ時間に、このトレーニングを行い、10日目に、本試験を行った。
6.長期増強作用(LTP)の測定
海馬スライスを用いて、テタヌス刺激を行ったときのCA1錐体細胞層における興奮生シナプス後電位(fEPSP)を計測した。具体的には、次のようにして計測した。
実験にはYoung(若齢、4ケ月)ならびにOld(老齢、24ケ月)の野生型(WT)ならびにTFAMトランスジェニックマウス(TG)を用いた。マウスをエーテル麻酔下に断頭し、脳を摘出した。海馬を含む脳ブロックよりマイクロスライサーを用いて厚さ400ミクロンの海馬スライス標本を作製した。海馬スライス標本は95%酸素ならびに5%二酸化炭素を含む混合ガスで通気した人工脳脊髄液(32℃、pH7.4)を流速1ml/分で灌流しているインターフェース型の記録用チェンバー内に入れた。灌流開始から約30分後のインキューベーション後、海馬スライス標本のシャンーファー側枝上に設置した双極電極を用いた刺激により誘発されるポピュレーション後シナプス電位(pEPSP)を海馬CA1野の放線層上に設置したガラス電極を介して記録した。パルス幅0.1ミリ秒、頻度0.1ヘルツ、刺激強度3〜8ボルトとし、pEPSPの立ち上がりのスロープが最大値の50%の反応が得られる刺激強度でテスト刺激を行った。長期増強(LTP)を誘発させるための高頻度刺激(テタヌス刺激)は、25ヘルツ1秒、50ヘルツ1秒、及び100ヘルツ1秒の条件で行った。pEPSPスロープの計測は、各々の高頻度刺激20〜30後に行った。電気生理学実験に用いた人工脳脊髄液の化学組成は124mM NaCl、2.5mM KCl、2.4mM CaCl、1.3mM MgSO・7HO、1.24mM KHPO、26mM NaHCO及び10mM D−グルコースからなる。
<実験結果>
1.脳におけるWTの発現の確認
脳組織ホモジネートを用いて、ヒトTFAMならびに内因性マウスTFAMの発現を検討したところ、ヒトTFAMはTGマウス脳組織に発現しており、内因性マウスTFAMはWTマウスとTGマウスにおいては不変であった(図1a)。
2.脳組織TBARSの測定
老齢マウス脳内では脂質過酸化が亢進していることが、数多く報告されている。若齢及び老齢マウスの脳ホモジネートを用いてTBMSを測定したところ、これまでの報告どおり、老齢WTマウスでは若齢WTマウスに比べて脂質過酸化の亢進が認められたが、TGマウスでは、若齢マウスと老齢マウスとで同等レベルであった(図1b)。
3.ミトコンドリア呼吸鎖複合体活性測定
TFAM過剰発現により、ミトコンドリア機能が保持されていることが予想されるため、脳組織ミトコンドリア機能を調べた。複合体(Complex)I〜IVの活性を測定したところ、複合体I及びIVにおいて、老齢WTマウスでは活性が有意に低下していたが、老齢TGマウスは若齢TGマウスと同様であった。複合体II及びIIIでは、4群間に有意差は認められなかった(図2)。
4.水迷路による空間記憶能力の測定
さらに、脳内の活性酸素の産生抑制によりミトコンドリア機能が保持された結果、脳機能にどのような影響をおよぼしているのか検討するために、水迷路による空間記憶能力を測定した。若齢マウスでは、学習能力に差はなく、30分休憩後のtrial 5での記憶力に、WTマウスとTGマウスで有意差は認めなかったが、老齢マウスにおいては、WTマウスにおいて、Trial 5でのエラー数は、有意に増加するのに比し、TGマウスでは、エラー数は増加しなかった。すなわち、TGマウスは加齢でも記憶力が保持されていることが明らかとなった(図3)。
5.長期増強作用(LTP)の測定
水迷路において、老化に伴う記憶力の低下がTFAM過剰発現によって抑制された事実から、どのようなメカニズムが考えられるのであろうか。脳記憶学習の中枢は、海馬CA1領域である。脳の学習・記憶の素過程はシナプスの伝達効率の変化(シナプス可塑性)にあると考えられている。特に、シナプス前線維とシナプス後細胞が同時に頻回発火した時にシナプス伝達効率が増加する長期増強(LTP)の現象は、記憶形成に関与するとされる。若齢及び老齢のWT及びTGマウスにおいて、高頻度刺激(テタヌス刺激)後の海馬スライスの長期増強を比較した。若齢マウスでは、LTPに有意な差を認めなかったが、老齢マウスでは、TGマウスにおいて有意に長期増強の増加現象が認められた(図4a〜4c)。
すなわち、若齢の野生型ならびにTFAMトランスジェニックマウスいずれの群においても、100ヘルツ1秒による高頻度刺激後pEPSPスロープは、コントロールの2〜2.5倍にまで増大し、LTPが形成された。またLTPの増強率にも両者間には有意な差は認められなかった(図4a)。一方、老齢の野生型マウスでは高頻度刺激後pEPSPスロープは、コントロールのせいぜい1.3倍くらいまでの増大しか示さず、顕著なLTP形成は認められなかった。ところが、老齢のTFAMトランスジェニックマウスでは高頻度刺激後pEPSPスロープはコントロールの2倍にまで増大し、LTP形成が認められた(図4b,4c)。老齢のTFAMトランスジェニックマウスにおいて認められたLTPの増強率は老齢の野生型マウスのものと比較して有意に大きな値であった(P<0.05,t−検定)(図4a)。
6.リポフスチン顆粒の観察
リポフスチン顆粒は、加齢とともに脳内に沈着することが知られているが、蛍光顕微鏡での観察の際に自家発光を発することが知られている。海馬スライスにおいて、WT老齢マウスでは、この自家発光が強く認められ、TGマウスでは、抑制されていたことから、リポフスチン顆粒の沈着が少ないことが示された(図5)。
<考察>
以上の結果より、TFAMはその脳内への発現により酸化ストレスを抑制し、加齢による記憶能力低下(すなわち記憶障害)を抑制する作用があることが明らかとなった。
<方法>
1.トランスジェニックマウスの作製
実施例1と同様に、動物は、TFAM過剰発現マウス(TG)及び野生型マウス(WT)のそれぞれについて、若齢マウス(生後2ヶ月齢)及び老齢マウス(生後24ヶ月齢)を用いた。
2.ウエスタンブロッティング
ヒトTFAM及びマウス内因性TFAMのタンパク質のレベルは脳組織のホモジュネートで分析した(Ikeuchi,M.et al.Overexpression of mitochondrial transcription factor A ameliorates mitochondrial deficiencies and cardiac failure after myocardial infarction.Circulation 112,683−90(2005).)。12.5%のSDSポリアクリルアミドゲルによる電気泳動によって硝酸セルロースの膜(Millipore)を用いてトランスファーを行い、ヒトTFAM及びマウスTFAMの特異的抗体によって検出した。検出は、ECLキット(Amersham Pharmacia)を用いて行った。
3.TBARS
脳のホモジュネートを用い、脂質過酸化の指標としてTBARS(チオバルビツール酸反応性物質)を測定した。脳のホモジュネートと、0.4%ナトリウムドデシル硫酸塩、7.5%酢酸(pH3.5)、0.3%チオバルビツール酸混合物は、5℃で60分、さらに100℃で60分間反応させた。冷却後、混合物は蒸留水とn−ブタノール:ピリジン(15:1)とを加え、1600×gで10分間遠心し、上清を蛍光光度計によって測定した(GENios ProTM(Tecan Group Ltd.);励起光510nm,発光550nm)。
4.ミトコンドリア分画の単離
脳は6倍量のHEPESバッファー(10mmol/L HEPES−NaOH(pH7.4),250mmol/L sucrose)を用いて、ポリトロン(Polytron)のホモジェナイザーを用いてホモジェナイズした。4℃、700×gで10分間遠心し、核分画と繊維組織を除外し、さらに上清を7000×gで10分間遠心した。得られたペレットを、10mmol/L HEPES−NaOH(pH7.4)、1mmol/L EDTA、及び250mmol/L スクロース(HES)に懸濁し、3回繰り返し、ペレットを得た。
5.ミトコンドリア酵素活性
ミトコンドリア電子伝達系酵素活性は、脳から単離したミトコンドリアを用いて、複合体I、II、III、及びIVを測定した。NADHユビキノン酸化環元酵素(複合体I)の活性は、ユビキノンのアナログであるdecylubiquinoneの減少により測定された。コハク酸塩ユビキノン酸化環元酵素(複合体II)活性測定は、decylubiquinoneの複合体II触媒型還元と共役したときの2,6−dichlorophenolindophenolの減少によって測定された。ユビキノール/チトクロームc酸化環元酵素(複合体III)の酵素活性は、還元型decylubiquinoneの存在下に、チトクロームcの減少によって測定された。チトクロームcオキシダーゼ(複合体IV)の酵素活性は、亜ジチオン酸塩の存在下におけるチトクロームcの酸化によって測定された。
6.水迷路
本発明者らは、以前に記述されているように6方向放射迷路のための器具を作製した(Morgan,D.et al.A beta peptide vaccination prevents memory loss in an animal model of Alzheimer’s disease.Nature 408,982−5(2000).)。6方向放射迷路は直径1mの円状のプールの中で、6本の放射状のアームが設置されている。アームのうち、1本の終末には、水中に沈められた形で、プラットホーム(径19cm)を設けた。ライトスタンドを空間的な手掛りとして、テスト部屋の壁に設置した。マウスは、プラットホームとは別のアームに置かれ、各試験を行われた。マウスは、1本のアームにおかれ、プラットホームを見つけるまでプールの中を1分間泳ぎ、マウスがプラットホームに達するまでのエラー数を記録した。4回まで、異なるアームでトレーニングされた後、マウスは記憶保持をみるために30分間の休憩をとったあと、4回目のテストと同じアームから、5回目の試験を行った。最終的なエラースコアは7日間訓練として繰り返され、その後の2日間に行われた平均スコアによって定められた。
7.電気生理学検査
28匹のオスC57BL/6マウス(WT及びTG;若齢2〜4か月(WT;n=6、TG;n=5)、老齢19〜22ヶ月(WT;n=10、TG;n=7))を、電気生理学的検査のために用いた。脳海馬切片は、400μmの厚さにスライスされた(Microslicer VT1000S,Leica、Nussloch、ドイツ)(Hayashi,Y.et al.The intra−arterial injection of microglia protects hippocampal CA1 neurons against global ischemia−induced functional deficits in rats.Neuroscience 142,87−96(2006).)。一部のマウスには、記録測定4時間前に腹腔内にエンドトキシン(LPS,Lipopolysaccharide;0.33mg/kg)を注射した。Schaffer側枝の刺激によって惹起されたfEPSPsはCA1サブフィールドにおいて記録された。長期増強作用(LTP)はテタヌス刺激によるもので、25、50、100Hzで1秒の連続したパルス刺激によって引き起こされた。データはPowerLabを使用して、デジタル化した。
8.テトラサイクリン制御によるHela細胞のTFAM過剰発現
テトラサイクリン調整されたTFAM−過剰発現の細胞株は以前に報告された方法に従って作製した(Kanki,T.et al.Architectural role of mitochondrial transcription factor A in maintenance of human mitochondrial DNA.Mol Cell Biol 24,9823−34(2004).;Ohgaki,K.et al.The C−terminal tail of mitochondrial transcription factor a markedly strengthens its general binding to DNA.J Biochem(Tokyo)141,201−11(2007).)。
9.ROSの測定
細胞内ROSは、ROS感受性蛍光色素であるDHEによって測定した。細胞は96−well培養皿で、37℃で24時間、5% COのインキュベータ内で培養した。細胞は、1μmol/Lロテノンで5.5時間処理し、次いで、2μmol/L DHEによって30分間処理して、励起光485nm、発光530nmの蛍光強度を測定した。DHEの酸化のための細胞イメージングは、CLSMを使用して観察した。
10.NF−κB核移行の検討
テトラサイクリンによって制御されたTFAM−過剰発現Hela細胞は、10%の牛胎児血清、400mg/mL G418、1mg/mL DC、及び200mg/mL hygromycin Bを含んだDMEMで培養した。24時間後に、細胞を0.001%(最終濃度)ロテノン(エタノールに溶解)に6時間刺激し、その後4%のパラホルムアルデヒドに固定した。抗p65 monoclonal抗体(Santa Cruz)によって免疫染色し、核でp65陽性細胞が、NF−κB核移行としてカウントし、細胞の総数あたりで補正した。
<結果>
若齢TGのマウスでは、ヒトTFAMタンパク質はマウスの内因性マウスTFAMタンパク質に影響を認めなかった(図6a)。ヒトTFAMは老齢TGのマウスの海馬を含む脳実質において組織免疫染色から、その発現が認められた(図6b)。TBMSによって示される脂質過酸化反応は、野生型老化マウスで高値を示した。一方、老齢TGのマウスの頭脳におけるTBMSのレベルは老齢野生型マウスの頭脳より有意に低く、若齢マウスと同等レベルであった(図6c)。
これまでの多くの研究は、mtDNAの突然変異、ミトコンドリア呼吸鎖の機能損失、及びミトコンドリアからのROSの生成との関連を示している。動物実験においては、老化にともない、ミトコンドリア呼吸鎖において電子伝達機能が低下していることは、広く知られている。老齢マウス脳から単離したミトコンドリアにおける呼吸鎖の活性は、若齢マウスと比較し、複合体II及びIIIでは変化がなかったものの、複合体I及びIVにおいては、有意に低下を示した(図6d)。これらの結果は以前の報告とも合致する(Navarro,A.et al.Vitamin E at high doses improves survival,neurological performance,and brain mitochondrial function in aging male mice.Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 289,R1392−9(2005).;Mao,L.et al.Estimation of the mtDNA mutation rate in aging mice by proteome analysis and mathematical modeling.Exp Gerontol 41,11−24(2006).)。しかしながら、TGのマウス脳から単離されたミトコンドリアではすべての複合体において、加齢に伴う減少が認められなかった(図6d)。これらのデータはTFAMの過剰発現が通常の老化におけるROSの増加及びミトコンドリア呼吸鎖酵素活性の減少を防いだことを示すものであった。
次に、ROSが加齢に伴う認知機能の低下のための主要な原因となる要素であると考えられることから、TFAMの過剰発現が、学習及び記憶にどのような効果をもたらすかを検討した。発明者らは放射状水迷路(Morgan,D.et al.A beta peptide vaccination prevents memory loss in an animal model of Alzheimer’s disease.Nature 408,982−5(2000).)を使用してマウスの空間記憶力について検討した。若齢マウスでは、最初の試験において、平均4〜6のエラーを示したが、5回目の試験(記憶保持をみる検査)では、野生型及びTFAM過剰発現の両方において、1エラーを示した(図7a)。老齢マウスでは、ともに1回目の試験では、平均4〜6の間違いを示したが、5回目の試験(記憶保持をみる検査)では、過剰発現マウスの間違いの平均は野生型マウスより有意に低く、若齢群と同等だった(図7b)。
そこで、本発明者らは、加齢による脳の学習及び記憶の低下に、TFAM過剰発現がどのような細胞内メカニズムで効果を示すのかを明らかにするために、長期増強作用(Long term potentiation:LTP)に関する実験を行った。LTPの実験には、海馬レベルの脳切片を用いた(Tomimatsu,Y.,Idemoto,S.,Moriguchi,S.,Watanabe,S.& Nakanishi,H.Proteases involved in long−term potentiation.Life Sci 72,355−61(2002).;Hayashi,Y.et al.The intra−arterial injection of microglia protects hippocampal CA1 neurons against global ischemia−induced functional deficits in rats.Neuroscience 142,87−96(2006).)。Excitatory postsynaptic(EPSP)スロープは、25、50及び100Hzの連続したテタヌス刺激の後に測定した。EPSPスロープが100Hzのテタヌス刺激の30分後に測定した場合には、若齢マウスでは野生型と過剰発現マウスに有意差は認められなかった(図7c)。しかし、老齢の過剰発現マウスの100Hzのテタヌス刺激では、LTPは、若齢マウスと対等であり、老齢野生型マウスより有意に高値であった。
一方で、ベースのシナプス伝達及び2発刺激(paired pulse)による促進反応では、両群に有意な相違はなかった(図8、9)。これらの結果はTFAMの過剰発現が、加齢による、記憶及び海馬における長期増強作用の低下を改善することを強く示すものであった。
ROSは、老化及び老化に伴う神経変性と関連している。本発明者らは、海馬及び他の脳領域における酸化障害の局在を検討した。脂質におけるROSの作用を示す4−hydroxy−2−nonenal(HNE)及び核酸における作用を示す8−oxo−deoxyguanosine(8−oxo−dG)の免疫組織染色では、老齢マウスの脳で増加を示した。特に、海馬及び脳室周囲において顕著であった(図10a)。一方、これらのマーカーは老齢の過剰発現マウスの脳ではほとんど認められなかった。また、8−oxo−gGは、主に細胞質において陽性であり、核酸の酸化障害が、核DNAよりも、ミトコンドリアDNAに主に生じていることを示していた。さらに、老齢マウスで、8−oxo−dGは、ミクログリアを示すIba−1陽性細胞と共染色を示し、星状細胞を示すGFAP陽性細胞とは、共染色を示さなかった(図10b)。
また、近年、ミクログリアを含む種々の細胞において、細胞内ROSが、酸化還元依存性の細胞内情報伝達カスケード及びNF−κBやMAPキナーゼを含む転写因子を活性化させることが示されている(Pawate,S.,Shen,Q.,Fan,F.& Bhat,N.R.Redox regulation of glial inflammatory response to lipopolysaccharide and interferongamma.J Neurosci Res 77,540−51(2004).;Yamasaki,R.et al.Involvement of lysosomal storage−induced p38 MAP kinase activation in the overproduction of nitric oxide by microglia in cathepsin D−deficient mice.Mol Cell Neurosci 35,573−84(2007).)。ミクログリアにおいては、NF−κB及びMAPキナーゼはIL−1βの発現と密接に関連付けられる。さらに、ミクログリアから産生される炎症惹起性サイトカインであるIL−1βは、記憶力の低下(Gemma,C.,I,I.,C,C.& T,T.Improvement of memory for context by inhibition of caspase−1 in aged rats.Eur J Neurosci 22,1751−6(2005).)、及びLTPの低下(Griffin,R.et al.The age−related attenuation in long−term potentiation is associated with microglial activation.J Neurochem 99,1263−72(2006).)を来すことが示されている。そこで、LTPの程度とIL−1βの発現レベルとの関連を検討するために、二重免疫染色を行った。野生型老齢マウスでは、海馬領域において、IL−1βは、Iba1陽性細胞と、よい共染色性を示したが、過剰発現マウスでは、IL−1βは、ほとんど染色されなかった(図10c)。平均蛍光免疫強度は、過剰発現マウスにおいて、有意に低かった(図10d)。グラム陰性の細菌の細胞壁の構成要素であるリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)を腹腔内投与して4時間後の老齢マウス脳の海馬領域において、IL−1βの発現を検討した。LPSによって、野生型マウスにおいては、IL−1βの発現が誘導されたが、過剰発現マウスにおいては、その平均値は、有意に低値であった(図11)。さらに、過剰発現マウスにおいて、IL−1βの発現量はLPS投与によって有意に増加したが、それは、野生型の非LPS投与と同等であった(図10d)。過剰発現老齢マウス脳の海馬CA1領域におけるLTPは、LTP投与によって有意に低下した(143.86±10.17%,15スライス,P<0.01)。これらの結果は、CA1領域におけるLTPの大きさが、ミクログリアにおいて発現されるIL−1のレベルと逆相関することを示すものであった。
テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリン(DC)によりTFAMを発現調節させたHela細胞では、TFAMタンパク量が約2倍に増加した(図13)。ミトコンドリア複合体Iの抑制剤であるロテノンは、一般的に用いられるROS感受性の蛍光色素である2,7−diamino−10−ethyl−9−phenyl−9,10−dihydrophenanthridine(DHE)の顕著な増加を生じさせた(図12a,12b)。ロテノンで処理したHela細胞の酸化レベルは、DC欠乏によってTFAMが過剰発現された細胞においては有意に低値であった。さらに、ヒトTFAMの過剰発現による、酸化ストレスと、それに続くNF−κBの活発化とを検討した。NF−κBの活発化は、細胞質から核への移行(translocation)によって評価した。ロテノンで処理したHela細胞は、TFAM過剰発現によって有意にNF−κBの活性化が抑制された(図12c,12d)。以上の結果は、明確にTFAMの過剰発現がROSの生産過剰を防ぎ、細胞内のレドックス感受性を有するNF−κBのシグナリング抑制することを示すものであった。
加齢におけるミトコンドリア仮説は、mtDNA損傷が、ROSの連続的な生成によって引き起こされることを示すものであり、本実施例において最も重要なことは、TFAMの過剰発現が、ROSの生産を減らし、加齢によるマウスの記憶力低下(記憶障害)を抑制することであった。1)TFAMはミトコンドリア内にて大量に存在すること、2)TFAMは構造上、HMGタンパク質であること、及び3)mtDNAタンパク質は、mtDNAと量的連関を示す(Kang,D.& Hamasaki,N.Mitochondrial transcription factor A in the maintenance of mitochondrial DNA:overview of its multiple roles.Ann N Y Acad Sci 1042,101−8(2005).)ことから、TFAMはmtDNAを取り囲むことで、酸化障害からmtDNAを防御すると考えられた(Kanki,T.et al.Mitochondrial nucleoid and transcription factor A.Ann N Y Acad Sci 1011,61−8(2004).;Alam,T.I.et al.Human mitochondrial DNA is packaged with TFAM.Nucleic Acids Res 31,1640−5(2003).)。この現象は、おそらくmtDNAにおいて、核DNAより頻繁に生じていると考えられた。本実施例では、老化の過程において、ミトコンドリア由来のROSと、ミトコンドリア機能障害及び記憶力の減少との間に、明確な因果関係が示された。
驚くべきことに、これらの結果は、加齢によるROSの産生が、長期生存している有糸分裂後細胞であるニューロンに起こっているであろうという、これまでの一般的な考えに反して、ミクログリアがROSの主たる産生源であることを示すものであった。今後、加齢に伴うミクログリア由来のROS産生と、ミトコンドリア機能との関連が、さらに明らかにされる必要性があると考えられた。
抗TFAMモノクローナル抗体を作製し、ELISAによる定量系を構築する。
<方法>
1.TFAMの欠失変異体の調製
pGEX/TFAM(43−106)、pGEX/TFAM(71−160)、pGEX/TFAM(136−222)、pGEX/TFAM(192−246)を大腸菌(BL21)に導入して発現させ、GSH−セファロースレジンにより精製した。精製した画分(各1mL)を1LのPBSに対して透析した。透析した試料中のタンパク質を10% SDS−PAGEにより分離し、CBB染色した(図14)。
2.ELISAによる抗原測定系
GST,GST−TFAM(43−246)、GST−TFAM(43−106)、GST−TFAM(71−160)、GST−TFAM(136−222)あるいはGST−TFAM(192−246)のPBS溶液50μL(1μg/mL)をELISA用96穴プレートのウェルに添加し、4℃で終夜静置した。廃液後、200μLのPBS/0.1% Tween20で3回洗浄し、100μLのBlocking One(ナカライ)を添加し、室温で2時間振とうした。廃液後、50μLの抗体溶液(ハイブリドーマ培養上清、クローン1A,1B,1C,1E,3Ba,3Bb,3Bc,3Bd,3Be,14A,14B,14C,14D,14E、ウサギ抗TFAMポリクローナル抗体あるいはヤギ抗GST抗体)を添加し、室温で1時間振とうした。廃液後、200μLのPBS/0.1% Tween20で3回洗浄し、50μLの二次抗体溶液(1/2000)を添加し、室温で1時間振とうした。廃液後、200μLのPBS/0.1% Tween20で3回洗浄し、100μLのo−Phenylenediamine dihydrochloride(OPD)溶液(100mM リン酸ナトリウム,40mMクエン酸,0.4mg/mL OPD,0.014%過酸化水素)を添加し発色させた。50μLの1M HClにより発色反応を停止後、492nmにおける吸光度を測定した(図15、16)。
3.ハイブリドーマ培養上清中の抗体を用いた免疫沈降法
プロテインGセファロース(5μL)に抗TFAMモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ培養上清(30μL)あるいはNormal rabbit IgG(2.5μg)を添加し(PBS/0.1% NP−40により最終容量200μL)、4℃で60分間ローテーターにより混和した。混和後、回収したレジンを500μLの洗浄用緩衝液(PBS/0.1% NP−40)で3回洗浄した。レジンにTFAMタンパク質溶液(0.5,1.5μg/mL,200μL)を添加し、4℃で60分間ローテーターにより混和した。混和後、回収したレジンを500μLの洗浄用緩衝液(PBS/0.1% NP−40)で3回洗浄し、レジンに吸着したタンパク質を7.5% SDS−PAGEにより分離後、ウサギ抗TFAM抗体を用いたウエスタンブロットを行った(図17、18)。
<結果>
1.これまでに、蛋白精製工業において、GST−TFAM(43−246)をマウスに免疫し、14種類のハイブリドーマ(1A,1B,1C,1E,3Ba,3Bb,3Bc,3Bd,3Be,14A,14B,14C,14D,14E)が得られている。そこで、それらが産生するモノクローナル抗体のエピトープを推測するために、TFAMの欠失変異体を調製した。GSTタンパク質として、GST−TFAM(43−106)、GST−TFAM(71−160)、GST−TFAM(136−222)およびGST−TFAM(192−246)を大腸菌発現系により発現させ、GSH−セファロースレジンによって精製し、精製画分をSDS−PAGEにより解析したところ、それぞれのGST−融合タンパク質泳動位置は、計算上の分子量のそれと一致することが確認された(図14)。
2.精製したGST−TFAM(43−106)、GST−TFAM(71−160)、GST−TFAM(136−222)およびGST−TFAM(192−246)を、ELISA用96穴プレートにコートし、ハイブリドーマ培養上清中に存在する抗体のGST−TFAM変異体に対する反応性をELISA法により調べた。その結果、1A,1B,1C,1EはGST−TFAM(192−246)のみに反応し、3Ba,3Bb,3Bc,3Bd,3Be,14A,14B,14C,14D,14EはGST−TFAM(71−160)のみに反応した(図15)。従って、1A,1B,1C,1E中に存在する抗体のエピトープは223−246にあり、3Ba,3Bb,3Bc,3Bd,3Be,14A,14B,14C,14D,14Eのそれは107−135にあることが推測された。同様に、ウサギ抗TFAM抗体が認識するエピトープについて調べたところ、N末端を認識する抗体が多く含まれていることが明らかとなった(図16)。
3.抗体のエピトープおよびそれらのSDS−PAGEの泳動像から、14種類のクローンを3つのグループ、すなわち「1A,1B,1C,1E」、「3Ba,3Bb,3Bc,3Bd,3Be」、「14A,14B,14C,14D,14E」に分類した。そのうちの「1A,3Ba,14E」の培養上清を用いて、TFAMタンパク質の免疫沈降を試みた(図17)。ウエスタンブロット法により沈降したTFAMタンパク質を検出したところ、TFAMタンパク質の泳動位置と同じ位置に非特異的なシグナル(で示した)が検出され、明確な判定ができなかった(図17A)。しかしながら、TFAMタンパク質精製画分中に含まれるトランケート体が、3Baおよび14Eを用いた場合に,濃度依存的に沈降することから、少なくとも3Baおよび14Eは免疫沈降に使用できることが確認された。一方、1Aを用いた場合にトランケート体の沈降が確認できなかった。以前に示したように、3Baおよび14EがN末端側を認識するのに対して、1AはC末端を認識することから、C末端を欠失したトランケート体が沈降しなかったのではないかと考えられた。
次に、全14種類のクローンを用いて、TFAMタンパク質の濃度を変化させて(0.5,1.5μg/mL,200μL)免疫沈降を試みた。低濃度である0.5μg/mL(200μL)で行った場合には、図2Aと同様に、「14A,14B,14C,14D,14E」によりTFAMタンパク質の沈降が確認された(図18A)。一方、TFAMタンパク質の濃度が1.5μg/mL(200μL)で行った場合には、「3Ba,3Bb,3Bc,3Bd,3Be」によってもTFAMタンパク質の沈降が確認され、「3Ba,3Bb,3Bc,3Bd,3Be」、「14A,14B,14C,14D,14E」は免疫沈降に使用できることが確認された(図19A)。
Immature TFAMタンパク質の作製
<背景>
Mature TFAMタンパク質は、ミトコンドリア移行シグナルを有するImmmature TFAMがミトコンドリア内でシグナルペプチドが切断されることにより活性を有する。すなわち、Mature TFAMは、Immature TFAMのミトコンドリア内での成熟過程により、ミトコンドリアにおける活性酸素の過剰産生を抑制するものと考えられる。
本実施例は、該仮説に基づき、Immature TFAMの細胞内での機能を検証することを目的ちして、以下の検討を進めた。
<方法>
Immature TFAM発現ベクターの構築:
Immature TFAMタンパク質の大腸菌発現系を構築する為に、図20に示す4種の発現ベクターを構築した。すなわち、C末端にHisタグを付加したImmature又はMature TFAM(Immature TFAM−His;pET 22b(+)/immature TFAM−His、Mature TFAM−His;pET 22b(+)/mature TFAM−His)及びN末端にGSTを付加したImmature又はMature TFAM(GST−immature TFAM;pGEX−6P/immature TFAM、GST−mature TFAM;pGEX−6P/mature TFAM)の発現ベクターを構築した。
本発明によれば、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)又はそれをコードする遺伝子、あるいはTFAMの発現を誘導し得る化合物を含む、哺乳動物の記憶障害の抑制又は治療用医薬組成物を提供することができる。本発明は、当該医薬組成物を哺乳動物(例えば、記憶障害を有する哺乳動物)に投与することにより、当該哺乳動物の記憶障害の抑制又は治療方法を提供することができる点で、極めて有用なものである。
また、本発明によれば、TFAM又はそれをコードする遺伝子、あるいはTFAMの発現を誘導し得る化合物を含む、生体組織内の酸化ストレスの抑制用医薬組成物を提供することができる。さらには、被験対象となる哺乳動物から採取された組織又は体液中に含まれるTFAMを検出し、得られた検出結果を指標として、哺乳動物の記憶障害や生体組織内の酸化ストレスを診断する方法を提供することができる。
[配列表]

Claims (35)

  1. ミトコンドリア転写因子A若しくはその変異体、又はミトコンドリア転写因子A若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはミトコンドリア転写因子Aの発現を誘導し得る化合物を含む、記憶障害の抑制用医薬組成物。
  2. ミトコンドリア転写因子A若しくはその変異体、又はミトコンドリア転写因子A若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはミトコンドリア転写因子Aの発現を誘導し得る化合物を含む、記憶障害の治療用医薬組成物。
  3. 記憶障害が記憶力低下である、請求項1又は2記載の組成物。
  4. 記憶力低下が加齢に伴うものである、請求項3記載の組成物。
  5. ミトコンドリア転写因子A若しくはその変異体、又はミトコンドリア転写因子A若しくはその変異体をコードする遺伝子、あるいはミトコンドリア転写因子Aの発現を誘導し得る化合物を含む、生体組織内の酸化ストレスの抑制用医薬組成物。
  6. 酸化ストレスが、ミトコンドリア内で産生された活性酸素に由来するものである、請求項5記載の組成物。
  7. 生体組織が脳組織又は心筋組織である、請求項5又は6記載の組成物。
  8. 請求項1記載の組成物を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物の記憶障害抑制方法。
  9. 請求項2記載の組成物を、記憶障害を有する哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物の記憶障害の治療方法。
  10. 前記哺乳動物が記憶障害患者である、請求項8又は9記載の方法。
  11. 前記哺乳動物の脳細胞内のミトコンドリアにおいて、ミトコンドリア転写因子A又はその変異体を過剰導入する又は過剰発現させる、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 記憶障害が記憶力低下である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 記憶力低下が加齢に伴うものである、請求項12記載の方法。
  14. 請求項5記載の組成物を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物の生体組織内の酸化ストレス抑制方法。
  15. 酸化ストレスが、ミトコンドリア内で産生された活性酸素に由来するものである、請求項14記載の方法。
  16. 生体組織が脳組織又は心筋組織である、請求項14又は15記載の方法。
  17. 被験対象となる哺乳動物から採取された組織又は体液中に含まれるミトコンドリア転写因子Aを検出し、得られた検出結果を指標として、哺乳動物の記憶障害を診断する方法。
  18. 記憶障害が記憶力低下である、請求項17記載の方法。
  19. 記憶力低下が加齢に伴うものである、請求項18記載の方法。
  20. 被験対象となる哺乳動物から採取された組織又は体液中に含まれるミトコンドリア転写因子Aを検出し、得られた検出結果を指標として、哺乳動物の生体組織内の酸化ストレスを診断する方法。
  21. 酸化ストレスが、ミトコンドリア内で産生された活性酸素に由来するものである、請求項20記載の方法。
  22. 生体組織が脳組織又は心筋組織である、請求項20又は21記載の方法。
  23. 検出が、ミトコンドリア転写因子Aに対する抗体を用いて行われるものである、請求項17〜22のいずれか1項に記載の方法。
  24. 検出が、ELISAにより行われるものである、請求項23記載の方法。
  25. 請求項2記載の組成物を含むことを特徴とする、記憶障害の治療用キット。
  26. ミトコンドリア転写因子Aに対する抗体を含む、記憶障害の診断用キット。
  27. 記憶障害が記憶力低下である、請求項25又は26記載のキット。
  28. 記憶力低下が加齢に伴うものである、請求項27記載のキット。
  29. ミトコンドリア転写因子Aに対する抗体を含む、生体組織内の酸化ストレスの診断用キット
  30. 酸化ストレスが、ミトコンドリア内で産生された活性酸素に由来するものである、請求項29記載のキット。
  31. 生体組織が脳組織又は心筋組織である、請求項29又は30記載のキット。
  32. ミトコンドリア転写因子A若しくはその変異体をコードする遺伝子が導入されたトランスジェニック非ヒト動物。
  33. 記憶力改善モデル動物となるものである、請求項32記載の非ヒト動物。
  34. 非ヒト動物が齧歯類動物である、請求項32又は33記載の非ヒト動物。
  35. 齧歯類動物がマウスである、請求項34記載の非ヒト動物。
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