JPWO2006137377A1 - 神経再生促進剤 - Google Patents

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Abstract

本発明の目的は、新規な神経再生促進剤、特に、グリア瘢痕形成の阻害作用を有する神経再生促進剤を提供することである。本発明によれば、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の阻害剤を有効成分として含む、神経再生促進剤が提供される。

Description

本発明は、神経再生促進剤に関する。具体的には、本発明は、BMP受容体の機能の抑制剤を用いた神経再生促進剤に関する。
神経細胞は、生体において分裂能を持たない組織であるため、障害を受けると長期にわたってその障害が持続する。特に、脳や脊髄等の中枢神経系では再生能がない。そのため、脊髄損傷等の外因性傷害、並びにアルツハイマー病又はパーキンソン病等の神経変性疾患に対する有効な治療方法は未だ存在しない。一方、末梢神経は再生能を有しているが、再生には数ヶ月から1年以上の時間を要し、更に再生に長期間を要するために、その間に神経細胞が死滅し、機能回復に至らない場合がある。この回復期にアストロサイトと呼ばれる神経系細胞が反応性アストロサイトという増殖盛んな細胞に変化し、組織内にグリア瘢痕を形成する。これが、障害となって再生神経軸索の再投射を妨げる。従って、グリア瘢痕形成を阻害できる新規な薬剤の開発が望まれている。
グリア瘢痕形成の阻害は、神経組織再生技術の確立に必須である。現在、X線照射による細胞増殖の抑制、並びに幹細胞移植などの技術がある。X線照射は、その照射量に限界があり、人への応用は技術的問題がある。また、幹細胞移植は、動物実験までは有効であるが、人への応用は様々な問題がある。胚性幹(ES)細胞は、受精卵のクローニングによって得られるが、受精卵の入手の困難性が問題となる。さらに、ES細胞の使用に関しては、特にヒトでは倫理上の問題がある。また、ES細胞に代わる成体幹細胞としては、骨髄の未分化間葉系幹細胞(MSC)がある。MSCは、骨、軟骨、筋肉、脂肪、血管、さらには神経にも分化することが判明しており、また患者本人からの採取が可能であることから、MSCの臨床上の価値は、ES細胞よりも高いと考えられている。しかし、MSCには、成体内に微量しか存在しないこと、特に、加齢に伴いこの傾向が激しくなることなどの問題点がある。
一方、骨形成因子(Bone Morphogenetic Protein)は、異所性の骨形成を引き起こす骨基質に存在する蛋白質として命名されたものであり、その遺伝子配列も解明され、TGF−βファミリーのメンバーであることが明らかになっている。また、骨形成因子の受容体についてもこれまで幾つかの報告がある(Mishina Y.(2003)Function of bone morphogenetic protein signaling during mouse development.Front Biosci.8,855−869)。骨形成因子の受容体の遺伝子はクローニングされており、その塩基配列は、データベースに登録されている(Mouse BMPR1A:NM#009758;Rat BMPR1A:NM#030849;及び、Human BMPR1A:NM#004329)。
本発明は、新規な神経再生促進剤、特に、グリア瘢痕形成の阻害作用を有する神経再生促進剤を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、骨形成因子1A型受容体を特異的に抑制することによって、グリア瘢痕の形成を阻害できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の阻害剤を有効成分として含む、神経再生促進剤が提供される。
好ましくは、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の阻害剤は、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の発現を阻害する物質である。
さらに好ましくは、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の発現を阻害する物質は、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の発現をRNAiにより阻害する物質である。
特に好ましくは、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の発現をRNAiにより阻害する物質は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有するsiRNAである。
好ましくは、本発明の神経再生促進剤は、グリア瘢痕形成を阻害することによって神経再生を促進する。
本発明の別の側面によれば、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の阻害剤の治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、神経再生を促進する方法が提供される、
本発明のさらに別の側面によれば、神経再生促進剤の製造のための、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の阻害剤の使用が提供される。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
神経系組織において、グリア瘢痕の形成に顕著の阻害効果を示し、神経細胞へ細胞死などの副作用の影響が無いことが望まれていた。骨形成因子(BMP)には神経突起を伸長させる効果があると報告されていることから、神経細胞への影響が少なく、グリア細胞の増殖を抑制する効果の高い物質の開発が望まれていた。Bone Morphogenetic Protein type IA receptor(BMPR1A)遺伝子を神経細胞とグリア細胞で破壊することが可能なマウスの作製から、BMPR1A遺伝子がこの効果があることが分かった。そこで、本発明者らは、siRNAなどBMPR1A遺伝子を特異的に制御する物質やBMPR1A特異的な拮抗剤がグリア瘢痕形成に阻害効果を持つ可能性を見出し、siRNAを用いた実施例を示した。
また、BMPR1A遺伝子発現を抑制するsiRNAは、本発明者らが開発した「エンベロープ型ナノ構造リポソーム」(Journal of Controlled Release,Volume 98,Issue 2,11 August 2004,Pages 317−323,″Development of a non−viral multifunctional envelope−type nano device by a novel lipid film hydration method″;及び特願2005−61687号明細書を参照)中に封入することも可能である。この「エンベロープ型ナノ構造リポソーム」による遺伝子導入法は従来の方法に比べ、細胞毒性が少なく、さらに高効率の遺伝子導入が可能である。増殖細胞にのみ遺伝子を導入できることから、遺伝子導入の目標細胞を限定することが可能となった。従って、増殖するグリア細胞の核へ遺伝子導入されて、グリア瘢痕形成を阻害することが可能である。
ウイルス遺伝子ベクターは、病原性・免疫原性等、生体に用いるには危険性が大きすぎる。そのため非ウイルス性の遺伝子ベクターが望まれている。従来の非ウイルス性遺伝子ベクター(主にリポプレックス)は、1)カチオン脂質のために毒性が高い、2)エンドサイトーシス経路で取り込まれるため分解されやすい、3)導入細胞が不均一である、等の問題があった。しかし、本発明で用いるベクター(エンベロープ型ナノ構造リポソーム)は、エンベロープ型ウイルスを模倣した構造を有しており、表面に多機能性ペプチドであるアルギニン8重合体が配置されており、このような特殊な構造によって、1)カチオン脂質を用いていないため毒性が低い、2)非エンドサイトーシス経路で取り込まれるため分解されにくく効率よく細胞質・核に送達される、3)他の実験から70%以上の細胞に遺伝子導入が可能、等の利点を有しており、従来のものと大きく異なる。
本発明による神経再生促進剤を適用できる神経疾患の具体例としては、脊髄損傷等の外因性傷害、並びにアルツハイマー病又はパーキンソン病等の神経変性疾患などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)は、骨形成因子の受容体の1種であり、その遺伝子の塩基配列はすでに報告されている(Mouse BMPR1A:NM#009758;Rat BMPR1A:NM#030849;及び、Human BMPR1A:NM#004329)。ヒト、マウス及びラットのBMP受容体BMPR1A遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号2〜4に示す。
本発明で用いる骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の阻害剤としては、BMPR1Aの発現を阻害する物質、BMPR1Aに作用してBMPR1Aの活性及び機能を阻害する物質、又はBMPR1AとBMPとの会合を阻害する物質等が含まれる。本明細書において、「阻害」との用語は、抑制又は低減との意味を含む。
BMPR1Aの発現を阻害する物質としては、RNAi、アンチセンス法又はリボザイム法を利用した物質等が挙げられ、特に限定されないが、RNAiを利用したsiRNAsが好ましい。BMPR1Aに作用してBMPR1Aの活性及び機能を阻害する物質としては、低分子化合物及び抗体等が挙げられる。BMPR1AとBMPとの会合を阻害する物質としては、低分子化合物、抗体、又はペプチドなどを用いることができる。
抗体としては、例えば、BMPR1Aの全長又は部分配列を有するペプチドを免疫源として作製した抗体を用いることができる。全長のBMPR1Aとしては、例えば組み換えBMPR1A等を用いることができる。抗体の作製は慣用の方法に従って行えばよい。抗体はモノクローナル抗体が好ましい。ペプチドとしては、例えば、BMPR1Aの部分配列を有するペプチド等が挙げられる。
RNAi(RNA interference)は、細胞に導入された2本鎖RNAが、同じ配列を持つ遺伝子の発現を抑制する現象を言う。RNAiによりBMPR1Aの発現を阻害する物質の具体例としては、下記に説明するようなsiRNA又はshRNA等が挙げられる。
siRNAとはshort interfering RNAの略称であり、約21〜23塩基程度の長さの二本鎖RNAをいう。siRNAはRNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態のものでもよく、例えば、化学合成もしくは生化学的合成、又は生物体内の合成で得られたsiRNA、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNA等であればよい。siRNAの配列と、BMPR1AのmRNAの部分配列とは100%一致することが好ましいが、必ずしも100%一致していなくてもよい。
siRNAの塩基配列と、BMPR1A遺伝子の塩基配列との間で相同性のある領域は、BMPR1A遺伝子の翻訳開始領域を含まないことが好ましい。相同性を有する配列は、BMPR1A遺伝子の翻訳開始領域から20塩基離れていることが好ましく、70塩基離れていることがより好ましい。相同性を有する配列としては、例えば、BMPR1A遺伝子の3’末端付近の配列でもよい。
RNAiによりBMPR1Aの発現を阻害する物質としては、siRNAを生成する約40塩基以上のdsRNA等を用いてもよい。例えば、BMPR1A遺伝子の核酸配列の一部に対して約70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の相同性を有する配列を含む、二本鎖部分を含むRNA又はその改変体を使用することができる。相同性を有する配列部分は、通常は、少なくとも15ヌクレオチド以上であり、好ましくは約19ヌクレオチド以上であり、より好ましくは少なくとも20ヌクレオチド以上であり、さらに好ましくは21ヌクレオチド以上である。
RNAiによりBMPR1Aの発現を阻害する物質としては、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造から成るshRNA(short hairpin RNA)を使用することもできる。shRNAとは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子のことである。また、shRNAとしては3’突出末端を有するのが好ましい。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは10ヌクレオチド以上であり、より好ましくは20ヌクレオチド以上である。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド以上のDNAであり、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチドのDNAである。
RNAiによりBMPR1Aの発現を阻害する物質は、人工的に化学合成してもよいし、センス鎖及びアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7RNAポリメラーゼによってインビトロでRNAを合成することによって作製してもよい。インビトロで合成する場合は、T7 RNAポリメラーゼ及びT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンス及びセンスのRNAを合成することができる。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、RNAiが引き起こされ、BMPR1Aの発現が抑制される。細胞への導入は、例えば、リン酸カルシウム法、又は各種のトランスフェクション試薬(例えば、oligofectamine、Lipofectamine及びlipofection等)を用いた方法等により行うことができる。
RNAiによりBMPR1Aの発現を阻害する物質としては上述のsiRNA又はshRNAをコードする核酸配列を含む発現ベクターを用いてもよい。さらに該発現ベクターを含む細胞を用いてもよい。上記した発現ベクターや細胞の種類は特に限定されないが、既に医薬として用いられている発現ベクターや細胞が好ましい。
本発明の神経再生促進剤の投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与等)のいずれの投与経路により投与してもよい。経口投与に適する製剤形態としては、固形又は液体の形態が挙げられ、非経口投与に適する製剤形態としては、注射剤、点滴剤、坐剤、外用剤、点眼剤、点鼻剤等の形態が挙げられる。本発明の神経再生促進剤は徐放剤の製剤形態であってもよい。本発明の神経再生促進剤は、その製剤形態により必要に応じて薬学的に許容可能な添加剤が加えられていてもよい。薬学的に許容可能な添加剤の具体例としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、保存剤、安定化剤、等張化剤、着色剤、矯味剤、希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、キャリア、賦形剤及び/又は薬学的アジュバント等が挙げられる。
経口用の固形製剤形態の本発明の神経再生促進剤は、例えば、有効成分であるBMPR1A阻害剤に賦形剤を加え、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、又は矯味剤などの製剤用添加物を加えた後、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤として調製することができる。経口用の液体製剤形態の本発明の神経再生促進剤は、有効成分であるBMPR1A阻害剤に矯味剤、安定化剤、又は保存剤など製剤用添加物の1種又は2種以上を加え、常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等として調製することができる。
本発明の神経再生促進剤を液体製剤として処方するために使用される溶媒は、水性又は非水性のいずれでもよい。液体製剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、注射剤は、生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水等の溶剤に溶解した後、フィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプル等)に充填することにより調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。また、非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法を用いてもよい。本発明で用いることができるキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、又は血清アルブミンを含む生理食塩水等が挙げられる。
1型骨形成タンパク質受容体のsiRNAまたはsiRNA発現ベクターなど遺伝子送達の種類に関しては、グリア瘢痕阻害剤が適用される動物の神経組織内で1型骨形成タンパク質受容体のsiRNAをコードするRNAまたはsiRNA発現ベクターの発現を得る限り特に方法は限定されるものではなく、例えば、ウイルスベクター、リポソームを用いた遺伝子導入を用いる事が可能である。ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、シンリンセムリキウイルス等の動物ウイルスが挙げられる。
毒性が少なくウイルス並に高い遺伝子導入効率を有する非ウイルス性遺伝子ベクターとして「エンベロープ型ナノ構造リポソーム」(Journal of Controlled Release,Volume 98,Issue 2,11 August 2004,Pages 317−323,″Development of a non−viral multifunctional envelope−type nano device by a novel lipid film hydration method″;及び特願2005−61687号明細書を参照)を用いることが望ましい。この方法は、安全で簡便・安価に神経損傷部位のグリア瘢痕への遺伝子導入を行うことが可能と考えられる。
以下、エンベロープ型ナノ構造リポソームについて説明する。エンベロープ型ナノ構造リポソームは、連続した複数個のアルギニン残基を含むペプチドを表面に有していることが好ましい。
エンベロープ型ナノ構造リポソームは、脂質二重層膜構造を有する閉鎖小胞である限り、脂質二重層膜の数は特に限定されるものではなく、多重膜リポソーム(MLV)であってもよいし、SUV(small unilamella vehicle)、LUV(large unilamella vesicle)、GUV(giant unilamella vehicle)等の一枚膜リポソームであってもよい。
一枚膜リポソームについてはリポソーム膜の外表面がリポソームの表面であり、多重膜リポソームについては最外層のリポソーム膜の外表面がリポソームの表面である。リポソームは、表面以外の部分(例えば、リポソーム膜の内表面)にペプチドを有していてもよい。
リポソームのサイズは特に限定されるものではないが、直径50〜800nmであることが好ましく、直径250〜400nmであることがさらに好ましい。
リポソーム膜を構成する脂質の種類は特に限定されるものではなく、その具体例としては、ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン等のリン脂質又はこれらの水素添加物;スフィンゴミエリン、ガングリオシド等の糖脂質が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。リン脂質は、卵黄、大豆その他の動植物に由来する天然脂質(例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン等)、合成脂質又は半合成脂質のいずれであってもよい。なお、リポソーム膜に含有される脂質量は、リポソーム膜を構成する総物質量の通常70〜100%(モル比)、好ましくは75〜100%(モル比)、さらに好ましくは80〜100%(モル比)である。
リポソーム膜には、リポソーム膜を物理的又は化学的に安定させたり、リポソーム膜の流動性を調節したりするために、例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール等の動物由来のステロール;スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等の植物由来のステロール(フィトステロール);チモステロール、エルゴステロール等の微生物由来のステロール;グリセロール、シュクロース等の糖類;トリオレイン、トリオクタノイン等のグリセリン脂肪酸エステルのうち、1種又は2種以上を含有させることができる。その含有量は特に限定されるものではないが、リポソーム膜を構成する総脂質に対して5〜40%(モル比)であることが好ましく、10〜30%(モル比)であることがさらに好ましい。
リポソームの表面に存在するペプチドに含まれる連続したアルギニン残基の個数は複数個である限り特に限定されるものではないが、通常4〜20個であり、好ましくは6〜12個、さらに好ましくは7〜10個である。上記ペプチドを構成するアミノ酸残基の個数は複数個である限り特に限定されるものではないが、通常4〜35個であり、好ましくは6〜30個、さらに好ましくは8〜23個である。上記ペプチドは、連続した複数個のアルギニン残基のC末端及び/又はN末端の任意のアミノ酸配列を含むことができるが、ペプチドを構成する全てのアミノ酸残基がアルギニン残基であることが好ましい。
連続した複数個のアルギニン残基のC末端又はN末端に付加されるアミノ酸配列は、剛直性を有するアミノ酸配列(例えば、ポリプロリン)であることが好ましい。ポリプロリンは、柔らかくて不規則な形をとっているポリエチレングリコールと異なり、直線的で、ある程度の堅さを保持している。また、連続した複数個のアルギニン残基のC末端又はN末端に付加されるアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基は酸性アミノ酸以外のアミノ酸残基であることが好ましい。負電荷を有する酸性アミノ酸残基が、正電荷を有するアルギニン残基と静電的に相互作用し、アルギニン残基の効果を減弱させる可能性があるためである。
リポソームの表面に存在するペプチドの量は、リポソーム膜を構成する総脂質に対して通常0.1〜30%(モル比)、好ましくは1〜25%(モル比)、さらに好ましくは2〜20%(モル比)である。
本発明で用いるリポソームにおいては、リポソーム膜はカチオン性脂質及び非カチオン性脂質のいずれか一方で構成されていてもよいし、両方で構成されていてもよい。但し、カチオン性脂質は細胞毒性を有するので、本発明のリポソームの細胞毒性を低減させる点からは、リポソーム膜に含まれるカチオン性脂質の量をできる限り少なくすることが好ましく、リポソーム膜を構成する総脂質に対するカチオン性脂質の割合は0〜40%(モル比)であることが好ましく、0〜20%(モル比)であることがさらに好ましい。
カチオン性脂質としては、例えば、DODAC(dioctadecyldimethylammonium chloride)、DOTMA(N−(2,3−dioleyloxy)propyl−N,N,N−trimethylammonium)、DDAB(didodecylammonium bromide)、DOTAP(1,2−dioleyloxy−3−trimethylammonio propane)、DC−Chol(3β−N−(N’,N’−dimethyl−aminoethane)−carbamol cholesterol)、DMRIA(1,2−dimyristoyloxypropyl−3−dimethylhydroxyethyl ammonium)、DOSPA(2,3−dioleyloxy−N−[2(sperminecarboxamido)ethyl]−N,N−dimethyl−1−propanaminum trifluoroacetate)等が挙げられる。
非カチオン性脂質とは、中性脂質又はアニオン性脂質を意味し、中性脂質としては、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、セレブロシド等が挙げられ、アニオン性脂質としては、例えば、カルジオリピン、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジン酸、N−スクシニルホスファチジルエタノールアミン(N−スクシニルPE)、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエチレングリコール、コレステロールコハク酸等が挙げられる。
リポソームの好ましい態様としては、ペプチドが疎水性基で修飾されており、疎水性基が脂質二重層に挿入され、ペプチドが脂質二重層から露出しているリポソームを例示することができる。なお、本態様において、「ペプチドが脂質二重層から露出している」には、ペプチドが脂質二重層の外表面又は内表面のいずれか一方から露出している場合、両方から露出している場合が含まれる。
疎水性基は、脂質二重層に挿入され得る限り特に限定されるものでない。疎水性基としては、例えば、ステアリル基等の飽和又は不飽和の脂肪酸基、コレステロール残基等のステロール残基、リン脂質残基、糖脂質残基、長鎖脂肪族アルコール残基(例えば、ホスファチジルエタノールアミン残基等)、ポリオキシプロピレンアルキル基、グリセリン脂肪酸エステル残基等が挙げられるが、これらのうち特に炭素数10〜20の脂肪酸基(例えば、パルミトイル基、オレイル基、ステアリル基、アラキドイル基等)が好ましい。
リポソームは、例えば、水和法、超音波処理法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、界面活性剤法、凍結・融解法等の公知の方法を用いて作製することができる。
水和法によるリポソームの製造例を以下に示す。
リポソーム膜の構成成分である脂質と、疎水性基で修飾されたペプチドとを有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより脂質膜を得る。この際、有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール等の低級アルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン等のケトン類等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。次いで、脂質膜を水和させ、攪拌又は超音波処理することにより、ペプチドを表面に有するリポソームを製造する。
また、水和法による別の製造例を以下に示す。
脂質二重層の構成成分である脂質を有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより脂質膜を得、この脂質膜を水和させ、攪拌又は超音波処理することによりリポソームを製造する。次いで、このリポソームの外液に、疎水性基で修飾されたペプチドを添加することにより、リポソームの表面にペプチドを導入することができる。
リポソームを所定のポアサイズのフィルターで通過させることにより、一定の粒度分布を持ったリポソームを得ることができる。また、公知の方法に従って、多重膜リポソームから一枚膜リポソームへの転換、一枚膜リポソームから多重膜リポソームへの転換を行うことができる。
RNAiによりBMPR1Aの発現を阻害する物質は、生体の器官や組織等に直接注入してもよい。
本発明の神経再生促進剤の投与量は、使用目的、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、又は有効成分であるRNAiによりBMPR1Aの発現を阻害する物質の種類等を考慮して、当業者が決定することができる。本発明の神経再生促進剤の投与量は、有効成分がRNAiによりBMPR1Aの発現を阻害する物質である場合、例えば、有効成分量として、成人一人当たり、約0.1ng〜約100mg/kg、好ましくは約1ng〜約10mgであり、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターとして投与される場合は、通常、0.0001〜100mg、好ましくは0.001〜10mg、より好ましくは0.01〜1mgである。
本発明の神経再生促進剤の投与頻度は、例えば、一日一回〜数ヶ月に1回であればよい。RNAiによりBMPR1Aの発現を阻害する物質を用いる場合は一般に投与後1〜3日間効果が見られるので、毎日〜3日に1回の頻度で投与することが好ましい。発現ベクターを用いる場合には1週間に1回程度の投与が適する場合もある。
実施例1
<実験方法>
全部で2X10個のマウス初代培養アストロサイトをコラーゲンで被覆した6穴プレート上にプレートし、その翌日、細胞をLipofectaminTM2000 Reagent(Invitrogen)を用いて添付の説明書に従ってトランスフェクションした。簡単に言うと、80pmolのBMPR1A siRNA(AAGGGCAGAAUCUAGAUAGUA:配列番号1)(配列番号3の塩基配列の65〜85番目に相当)又はLamin A/C siRNA(Qiagen)を100μlのOpti−MEM(GIBCO)と混合し、4μlのLipofectaminTM2000 Reagentを添加した。20分間インキュベート後、siRNA−lifectamine複合体を、800μlのOpti−MEMと一緒に各ウェルに適用した。
トランスフェクションの3日後、6穴プレート上のコンフルエントに培養された細胞から、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いてtotal RNAを抽出した。その後、total RNA 2μgを用いて、Taq Man real time RT−PCRを行った。表1は、4サンプルの平均値を示す。
Figure 2006137377
表1の結果から、マウスアストロサイト初代培養系において、BMPR1A siRNAによりBMPR1A mRNAの発現量が約16%まで抑えられていることが示された。
実施例2:
<実験方法>
BMPR1A受容体の遺伝子発現を抑制する効果をもつsiRNAをコンフルエントに培養されたアストロサイトにリポフェクションにより遺伝子導入を行った。3日後、針でアストロサイトをスクラッチして、グリア瘢痕形成実験をおこなった。細胞の核染色(青)と増殖細胞を示すBromo−2−deoxyuridine(BrdU;赤)、およびGFP標識されたsiRNA(緑)の蛍光染色により、アストロサイト増殖の阻害活性を測定した。実験方法を以下の(1)〜(4)に示す。
(1)初代マウスグリア細胞の培養
分離した大脳皮質細胞の初代アストログリア細胞培養物を、E17マウス(ICR:日本SLC)の脳より調製した。大脳皮質由来の組織片を、0.25%のトリプシン(GIBCO)及びDNase I(100units;ベーリンガーマンハイム)を含むCa2+及びMg2+フリーのPBS(5ml)中において37℃で15分間インキュベーションした。ピペッティングにより機械的に分離した後、細胞を10%FBSを含むDMEM中に再懸濁した。分離した細胞をポリエチレンイミンで被覆したフラスコ上に置いて、7日間培養した後、細胞をポリエチレンイミンで被覆したディッシュ上に3×10細胞/cmの最終細胞密度で再度プレーティングし、20%FBSを含むDMEM中でさらに6日間培養した。
(2)siRNAのトランスフェクション
全部で5×10個の細胞をコラーゲンで被覆した48穴プレート上にプレートし、その翌日、細胞を、LipofectamineTM2000 Reagent(Invitrogen)を用いて添付の説明書に従ってトランスフェクションェンした。簡単に言うと、20pmolのBMPR1A siRNA(AAGGGCAGAAUCUAGAUAGUA:配列番号1)又はLamin A/C siRNA(Qiagen)及び10pmolのBLOCK−iTTMFluorescent Oligo(Invitrogen)を25μlのOpti−MEM(GIBCO)と混合し、0.5μlのLipofectamineTM2000 Reagentを添加し、20分間インキュベートした。siRNA−lipofectamine複合体を、200μlのOpti−MEMと一緒に各ウエルに適用した。
(3)細胞増殖アッセイ
トランスフェクションの3日後、48穴プレート上のコンフルエントに培養された細胞を、2.5%FBSを含むDMEM中で0.1%(V/V)の標識試薬(Labelling reagent)(cell proliferation KIT,Amersham Biosciences)によりスクラッチングすることにより損傷させた。翌日、細胞を固定し、免疫染色を行った。
(4)免疫染色
免疫細胞化学分析のために、細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、90%エタノール、5%酢酸で30分間処理し、それから2%H(メタノール中)中で30分間インキュートした。5%正常ヤギ血清(Vector Laboratories Inc.)及び0.01% Tritonを含むPBSでブロッキングした後、細胞を抗ブロモデオキシウリジン抗体(マウスモノクローナル抗体、RPN202,Amersham Biosciences)と一緒にインキュベートした。本実験では、Alexa 546を結合させた抗マウス抗体(Molecular Probes)を二次抗体として使用した。洗浄後、細胞をHoechst 33258に露出し、非共焦点の蛍光顕微鏡(IX71,Olympus)を用いて分析した。
<実験結果>
実験結果を図1に示す。図1の結果から、BMPR1Aに特異的なsiRNAをトランスフェクションした場合は、ブロモデオキシウリジン陽性細胞の比率が低下したことから、アストロサイト増殖が阻害されることが示された。上記の実験結果から、BMPR1A遺伝子の発現を抑制するsiRNAは、in vitroにおけるグリア瘢痕形成を有意に阻害することが実証された。
図1は、非特異的なsiRNA又はBMPR1Aに特異的なsiRNAをトランスフェクションした場合におけるアストロサイト増殖の阻害活性を測定した結果を示す。
本発明により、グリア瘢痕形成の阻害作用を有する新規な神経再生促進剤が提供される。

Claims (5)

  1. 骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の阻害剤を有効成分として含む、神経再生促進剤。
  2. 骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の阻害剤が、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の発現を阻害する物質である、請求項1に記載の神経再生促進剤。
  3. 骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の発現を阻害する物質が、骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の発現をRNAiにより阻害する物質である、請求項2に記載の神経再生促進剤。
  4. 骨形成因子1A型受容体(BMPR1A)の発現をRNAiにより阻害する物質が、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有するsiRNAである、請求項3に記載の神経再生促進剤。
  5. グリア瘢痕形成を阻害することによって神経再生を促進する、請求項1から4の何れかに記載の神経再生促進剤。
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